(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127556
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】細胞の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220824BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220824BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220824BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220824BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
C12N5/0735
C12N5/10
C12M1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075395
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2021025619の分割
【原出願日】2021-02-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】517289767
【氏名又は名称】株式会社マイオリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】南 一成
(72)【発明者】
【氏名】庄司 和磨
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BC26
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞の優れた生産方法を提供する。
【解決手段】細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の生産方法を用いる。又は、細胞培養装置であって、培地収容部と、培地収容部を水平回転させる回転部を含み、培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、細胞培養装置を用いてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、前記容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の生産方法。
【請求項2】
前記細胞は、浮遊細胞である、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
前記細胞は、細胞塊、又はプラスチック素材と接着した細胞である、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項4】
前記細胞は、幹細胞である、請求項1~3いずれかに記載の生産方法。
【請求項5】
前記幹細胞は、iPS細胞又は間葉系幹細胞である、請求項4に記載の生産方法。
【請求項6】
前記細胞を浮遊培養する工程を含む、請求項1~5のいずれかに記載の生産方法。
【請求項7】
細胞培養装置であって、
培地収容部と、前記培地収容部を水平回転させる回転部を含み、
前記培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、
細胞培養装置。
【請求項8】
水平回転細胞培養容器であって、底面、上面、及び側面を備え、前記底面は正方形型の形状であり、前記上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞培養容器。
【請求項9】
細胞及び酵素液を収容する容器を水平回転させる工程を含み、前記容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の酵素処理方法。
【請求項10】
前記細胞は、細胞塊又はプラスチック素材と接着した細胞である、請求項9に記載の酵素処理方法。
【請求項11】
前記酵素液は、細胞塊又は接着細胞を単一細胞に分散処理するための蛋白質分解酵素を含む溶液である、請求項9又は10に記載の酵素処理方法。
【請求項12】
前記細胞は、幹細胞である、請求項9~11いずれかに記載の酵素処理方法。
【請求項13】
前記幹細胞は、iPS細胞又は間葉系幹細胞である、請求項12に記載の酵素処理方法。
【請求項14】
前記細胞を浮遊培養する工程を含む、請求項9~13のいずれかに記載の酵素処理方法。
【請求項15】
細胞酵素処理装置であって、
培地収容部と、前記培地収容部を水平回転させる回転部を含み、
前記培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、
細胞酵素処理装置。
【請求項16】
水平回転細胞酵素処理容器であって、底面、上面、及び側面を備え、前記底面は正方形型の形状であり、前記上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞酵素処理容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、細胞の生産方法、培養容器、培養装置、酵素処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の浮遊培養に関する技術が報告されている。例えば、特許文献1の
図1には、培養液を攪拌するための撹拌翼を備える細胞培養装置が記載されている。また、特許文献2の
図1には、環状の流路を備える二重円型ディッシュが記載されており、実施例1にはそのディッシュを用いて細胞を旋回培養したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/187359号
【特許文献2】特開2017-148001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、培養に攪拌翼を使用するため、細胞と攪拌翼の物理的衝突による細胞ダメージが発生しやすい。特許文献2は、容器が環状の形態をしているため、中心部にデッドスペースが生じている。そのため、培養容量が制限されていた。
【0005】
本発明は、例えば、細胞の優れた生産方法を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、その容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の生産方法が提供される。この生産方法によれば、優れた細胞培養を実施できる。
【0007】
また本発明の一態様によれば、細胞培養装置であって、培地収容部と、培地収容部を水平回転させる回転部を含み、その培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、細胞培養装置が提供される。この装置を用いれば、優れた細胞培養を実施できる。
【0008】
また本発明の一態様によれば、水平回転細胞培養容器であって、底面、上面、及び側面を備え、底面は正方形型の形状であり、上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞培養容器が提供される。この容器を用いれば、優れた細胞培養を実施できる。
【0009】
また本発明の一態様によれば、細胞及び酵素液を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の酵素処理方法が提供される。この処理方法によれば、優れた酵素処理を実施できる。
【0010】
また本発明の一態様によれば、細胞酵素処理装置であって、培地収容部と、培地収容部を水平回転させる回転部を含み、その培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、細胞酵素処理装置が提供される。この装置を用いれば、優れた酵素処理を実施できる。
【0011】
また本発明の一態様によれば、水平回転細胞酵素処理容器であって、底面、上面、及び側面を備え、底面は正方形型の形状であり、上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞酵素処理容器が提供される。この容器を用いれば、優れた細胞培養を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例に示した各容器及び旋回条件における、単位面積あたりのiPS細胞の増殖倍率を表した棒グラフである。
【
図2】
図2は、実施例に示した各容器及び旋回条件における、トータルのiPS細胞収量を表した棒グラフである。
【
図3】
図3は、実施例に示した50rpm旋回培養したiPS細胞の心筋分化能の比較結果を表した棒グラフである。
【
図4】
図4は、実施例に示した間葉系幹細胞を接着させたビーズの写真である。
【
図5】
図5は、実施例に示した直径15cm円型容器を旋回培養したときの間葉系幹細胞を接着させたビーズ分布を表した図である。
【
図6】
図6は、実施例に示した1辺22cm正方形型容器を旋回培養したときの間葉系幹細胞を接着させたビーズ分布を表した図である。
【
図7】
図7は、実施例に示した直径15cm円型容器を旋回培養して生じた浮遊iPS細胞塊の写真である。
【
図8】
図8は、実施例に示した1辺22cm正方形型容器を旋回培養して生じた浮遊iPS細胞塊の写真である。
【
図9】
図9は、実施例に示した各容器及び50rpm旋回条件における、単位面積あたりの間葉系幹細胞の増殖倍率を表した棒グラフである。
【
図10】
図10は、実施例に示した各容器及び50rpm条件における、トータルの間葉系幹細胞収量を表した棒グラフである。
【
図11】
図11は、実施例に示した旋回酵素処理を行う際の、各容器条件における間葉系幹細胞の生細胞率を表した棒グラフである。
【
図12】
図12は、実施例に示した旋回酵素処理を行う際の、各容器条件における間葉系幹細胞の酵素液量当たりの細胞数を表した棒グラフである。
【
図13】
図13は、一実施形態の第一の容器を示した図である。
【
図14】
図14は、一実施形態の第一の容器の正面図等である。
【
図15】
図15は、一実施形態の第一の容器のスクリューキャップを外した状態の正面図等である。
【
図16】
図16は、一実施形態の第一の容器を4つ重ねた状態の図である。
【
図17】
図17は、一実施形態の第一の容器を4つ重ねた状態の正面図である。
【
図18】
図18は、一実施形態の第一の容器を4つ重ねた状態のイメージ写真である。
【
図19】
図19は、一実施形態の第二の容器を示した図である。
【
図20】
図20は、一実施形態の第二の容器を2つ重ねた状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0014】
本発明の一実施形態は、新規の細胞の生産方法である。この生産方法は、例えば、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の生産方法を含む。この生産方法によれば、例えば、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、細胞分散の向上、細胞形状の均一性、細胞サイズの均一性、又はシェアストレス低下の少なくとも1つの観点から、優れた細胞培養を実現し得る。後述の実施例では、実施例の四角型の形状のディッシュを使用した細胞培養方法が、丸い形状のディッシュを使用した細胞培養方法に比べて、これらの少なくとも1つの効果が優れていることが実証されている。特に、iPS細胞やMSC(間葉系幹細胞)等はシェアストレスに弱いため、培養時の回転は低速にすることが好ましいが、底面形状が円型の容器で低速回転にすると細胞が中央に集まりすぎる問題がある。一方で、底面形状が四角型の容器を用いることによって、細胞へのシェアストレスが少ない低速回転にしても、細胞が中央に集まり難い(即ち、分散した)状態を保てることが明らかになった。また、低速回転の場合、培地の液面を低くすることが好ましく、さらには、容器の高さを低く設定することが大量培養などの観点から好ましいことが明らかになった。
【0015】
本発明の一実施形態において細胞の生産方法は、例えば、容器に培地を供給する工程、細胞及び培地を含む細胞懸濁液を調整する工程、容器に細胞懸濁液を供給する工程、容器を密閉する工程、容器を回転装置に設置する工程、容器を回転させる工程、細胞を回転揺動培養する工程、細胞を浮遊培養する工程、又は細胞を容器から回収する工程を含んでいてもよい。また本発明の一実施形態において細胞の生産方法は、例えば、容器内の培地を酵素(例えば、蛋白質分解酵素)液で置換する工程、細胞を酵素処理する工程、細胞を分散処理する工程、細胞塊を単一細胞へ変換させる工程、又は酵素処理もしくは分散処理済みの細胞を含む細胞懸濁液を含む容器を回転させる工程を含んでいてもよい。細胞を容器から回収する工程は、例えば、培地又は細胞をピペットで吸い上げる工程を含んでいてもよい。回転装置は、例えば、水平旋回装置であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において細胞の生産方法は、底面形状が四角型の容器を水平回転させる工程を含むことにより、細胞培養中に培地に波の跳ね返りが見られてもよい。このとき、波の跳ね返りは、向かい合う2つの側面間の培地の動きによって生じ、2つの側面間で波が行き来を繰り返す。一方で、底面形状が円型の容器の場合は、このような波の跳ね返りが生じない。このような波の跳ね返りを、培養中に細胞が分散しやすい環境にあることの指標としてもよい。
【0017】
本発明の一実施形態において細胞は、例えば、浮遊細胞、又は細胞塊(スフェロイド)、単一細胞であってもよい。上記の生産方法は細胞が分散した状態を保ちやすいため、融合しやすいスフェロイドの培養において特に有用である。また上記の生産方法は、シェアストレスが少ないため、特に、iPS細胞やMSCの培養において特に有用である。また細胞は、哺乳動物の細胞であってもよい。哺乳動物は、例えば、ヒト、サル、ネズミ目の動物(マウス、ハムスター等)等を含む。細胞は、例えば、幹細胞又は体細胞を含む。幹細胞は、例えば、自己複製能と、別の種類の細胞に分化する能力とを有する細胞を含む。幹細胞は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、単能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、例えば、iPS細胞又はES細胞等を含む。多能性幹細胞は、例えば、ヒト人工多能性幹細胞である253G1株(HPS0002)に比べて、いずれかの未分化マーカーを同程度かそれ以上発現していてもよい。複能性幹細胞は、例えば、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等を含む。単能性幹細胞は、例えば、筋幹細胞、色素幹細胞等を含む。体細胞は、例えば、皮膚、心臓、肝臓、肺、胃、腸、腎臓、子宮、脳、血液、又は間葉系組織由来の細胞を含む。また細胞は、例えば、T細胞、CHO細胞を含む。細胞は、担体又は素材(例えば、プラスチック素材(例えば、プラスチックビーズ))と接着していてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態において培地は、液体培地であってもよい。培地には、例えば、幹細胞用の培地(例えば、Essential 8 Medium等)、哺乳類細胞用の培地(例えば、GIBCO Advanced培地(サーモフィッシャー))等を使用してもよい。培地には、例えば、血清培地(例えば10%FBS等)、平衡塩溶液(例えば、PBS等)、基礎培地(MEM等)、複合培地(例えば、RPMI 1640等)、無血清培地等を使用してもよい。
【0019】
本発明の一実施形態において容器は、細胞培養用の容器を含む。容器の型は、例えば、ディッシュ型、シャーレ型、又はフラスコ型であってもよい。容器は、底面、側面、及び上面を有していてもよい。容器の底面、側面、又は上面の形状は、四角型の形状であってもよい。四角型の形状は、4つの辺を有している点で、円型の形状と区別できる。例えば、品番MS-12450(住友ベークライト)のディッシュ(1辺22.4cm(内寸)、面積500cm2、高さ2.4cm(内寸)、培地200mlの液面高さ0.4cm)は、底面が四角型の形状の容器の1種である。四角型の形状は、例えば、正方形型又は長方形型の形状を含む。正方形型の形状は、4つの辺の長さが実質的に同じ場合の形状を含む。長方形型の形状は、実質的に同じ長さの2つの辺を2組有する場合の形状(但し、正方形型の形状を除く)を含む。底面形状は、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、正方形型の形状であることが特に好ましい。底面及び上面の数は各1つ、側面の数は4つであってもよい。底面は、培養時に培地と常時接している最も下の面であってもよい。側面は、側面は、底面に対して上方に起立する面を形成していてもよい。もしくは、側面は、底面に対して略直角に位置していてもよい。側面は、培養時に面の一部が培地に接しており、面の残りの部分は培地に接していなくてもよい。側面は、下端で底面と接触し、上端で上面と接していてもよい。側面は、平行関係にある2組の側面を有していてもよい。上面は底面に対して平行に位置していてもよい。上面は、培養時に培地と常時接していない最も上の面であってもよい。上面は、側面に対して略直角に位置していてもよい。容器は、内部に閉鎖系の空間を有してもよい。底面、側面、及び上面は平らな面で構成されていてもよい。面は平らな壁で構成されていてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において四角型の形状は、2組の平行する辺を有していてもよい。四角型の形状が正方形型の形状の場合、任意の辺を縦、縦に接する辺(又は縦と非平行な辺)を横と称してもよい。四角型の形状が長方形型の形状の場合、最も短い辺を縦、最も長い辺を横と称してもよい。四角型の形状の縦と横の長さの比は、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、縦を1とした場合、横は1~1.05が好ましく、1~1.01が特に好ましい。四角型の形状の縦と横の長さの比は、縦を1とした場合、例えば、横は1、1.01、1.02、1.03、1.04、1.05、1.1、1.2、1.3、1.4、又1.5であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。四角型の形状の一辺の長さは、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、20~40cmが特に好ましい。四角型の形状の一辺の長さは、例えば、1、2、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、又は100cmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。特に大量培養に有利な観点からは、底面の四角形の形状の1辺は、大きい方が好ましく、例えば、20cm以上が好ましい。辺は、直線からなるものを含む。四角型の形状の縦は、横に対して略直角に位置していてもよい。四角型の形状の4辺は、隣接する辺同士が略直角に位置していてもよい。本発明の一実施形態において略直角は、実質的に直角を含む。容器の底面に対する側面、上面に対する側面、及び底面形状の縦に対する横が位置する角度、又は略直角は、例えば、90度プラスマイナス15、10、5、3、2、1、0.5、又は0度であってもよい。特に底面に対して側面が位置する角度がこの範囲のとき、水平回転培養中に培地の跳ね返りが発生しやすく、その結果、より細胞分散が生じる。四角型の形状は、全体として四角型と認識できるものであればよく、例えば、4つの辺は直接繋がって角を形成してもよく、又は接合部(例えば、直線状又は弧形状)を介して繋がってもよい。四角型の形状の4つの辺の長さの合計は、接合部の長さの合計の40、50、75、100、150、200、300、又は500倍であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。四角型の形状の直線部分の長さの合計は、非直線部分の合計の40、50、75、100、150、200、300、又は500倍であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において回転は、水平回転であってもよい。回転は、旋回を含む。本発明の一実施形態において水平面は、地球の重力が働く方向に垂直な面を含んでもよい。培養に用いる場合の水平回転は、重力が働く方向に実質的に垂直な又は略垂直な面上で回転する様態を含む。実質的に垂直な又は略垂直な面は、回転装置の設計上又は回転装置を載せる台の微細な傾きに伴って生じる僅かな傾きを含んでいてもよい。この傾きは、例えば、垂直な面に対して3、2、1、0.5、0.2、又は0.1度上又は下であってもよい。回転装置の回転の回転軸の位置は、容器の回転の回転軸と一致しなくてもよい。容器の回転の回転軸又は回転中心の位置は、容器内にあってもよい。
【0022】
上記の通り、本発明の一実施形態の生産方法によれば、培養時の回転を低速で行うことが可能である。この回転速度は、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、60rpm以下のような低速が好ましい。60rpm以下は、30~60rpmが好ましく、40~55pmが特に好ましい。回転速度は、例えば、1、10、20、30、35、40、45、50、55、56、57、58、59、60、70、80、90、100、120、140、160、180、又は200rpmであってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。本発明の一実施形態において回転の周波数は、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、0.5~1.0Hzが好ましく、0.666~0.917Hzが特に好ましい。周波数は、例えば、0.02、0.15、0.3、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.3、1.5、1.6、1.67、2、2.33、2.67、3、又は3.33Hzであってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。本発明の一実施形態において回転の旋回径(回転振幅)は、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、1~5cmが好ましく、2~3cmが特に好ましい。旋回径は、例えば、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、10、20、30、40、又は50cmであってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0023】
低速で回転培養する場合、細胞が沈むことによる酸素環境の悪化を防ぐために、容器中の培地の液面の高さは低い方が好ましい。培地の液面の高さが低いと、培地体積に対する、培地と酸素との接触面積の比率が大きくなり、酸素供給の悪化を防げる。この観点から、容器中の培地の液面の高さは、3cm以下が好ましく、1.5cm以下がより好ましく、1.2cm以下が特に好ましい。液面の高さは、容器の大きさ等に応じて、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.3、1.5、2、3、4、5、10、又は20cmであってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、上記の観点から、容器の高さを1とした場合の、容器中の培地の液面の高さの比率は、0.5以下が好ましく、0.4以下が特に好ましい。この比率は、例えば、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、又は0.5であってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、上記の観点から、容器の底面形状の一辺(例えば、縦又は横)の長さを1とした場合の、容器中の培地の液面の高さの比率は、0.2以下が好ましく、0.06以下が特に好ましい。この比率は、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.1、0.15、0.2、0.25、又は0.3であってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0024】
容器中の培地の液面の高さを低く設定する場合、それに併せて、容器の高さも低く設定できる。また、容器の高さを低く設定することによって、複数枚の容器を重ねたときの安定性が向上する。また、容器の高さを低く設定することによって、培養設備(例えば、インキュベーター)内において、より多くの容器を設置でき、大量培養が可能となる。容器を重ねたときの安定性の観点からは、容器の高さは、底面形状の一辺の長さ以下であることが好ましい。また、大量培養のための培地の提供、細胞増殖率の向上、培養後細胞数の向上、又は細胞分散の向上等の観点からは、底面形状の一辺の長さを1とした場合の、高さの比率は0.07~0.35が好ましく、0.08~0.3が特に好ましい。この比率は、例えば、高さは0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.12、0.15、0.18、0.2、0.25、0.26、0.3、0.35、0.4、0.5、0.6又は1であってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。ここで、底面形状の一辺は、長辺(最も長い辺)又は短辺(最も短い辺)を含むが、好ましくは短辺である。容器の高さは、例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、20、30、50、80、又は100 cmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。容器の高さは、例えば、側面の最下部と最上部の間の最短距離で表されてもよい。最下部は、側面と底面が接触する位置であってもよく、最上部は、側面と上面が接触する位置であってもよい。もしくは、高さは、底面と上面の間の最短距離で表されてもよい。もしくは、高さは、容器を側面側から見たときの、容器の最上部から最下部までの長さで表されてもよい。高さは、上面にキャップがある場合は、底面とキャップの最下端の間の最短距離で表されてもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において容器中の培地の液量は、例えば、4、5、8、10、20、50、60、100、200、300、400、600、800、1000、1500、又は2000mLであってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の液量であってもよい。本発明の一実施形態において容器中の培地の液量は、例えば、底面積1cm2あたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、1、1.5、2、4、6、8、又は10mLであってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の液量であってもよい。本発明の一実施形態において容器中の培地の充填率は、例えば、20、30、40、50、60、70、80、90、又は95%であってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の液量であってもよい。充填率は、容器の容積に対する培地の体積の割合で表すことができる。本発明の一実施形態において細胞培養は、例えば、1、5、10、20、24、48、72、96、120、又は150時間実施してもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内実施してもよい。細胞培養は、例えば、細胞培養インキュベーター内(例えば、37℃、5%CO2)で実施してもよい。もしくは、従来の細胞培養に使用されている培養条件を適宜選択できる。本発明の一実施形態において培地中の細胞濃度は、例えば、5×107、10×107、30×107、50×107、80×107、100×107、又は150×107個/Lであってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の液量であってもよい。本発明の一実施形態において培養時間は、例えば、0.25、0.5、1、5、12、24、48、72、96、168、又は240時間であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において容器は、開口部を備えていてもよい。開口部は、容器の上面、側面、又は底面にあってもよい。開口部を通じて、生体試料(細胞等)又は培地を、容器外の空間から容器内の空間へ注入することができる。開口部は、円筒型の構造又は水平断面が円型の構造を有していてもよい。開口部は、ポート又はキャップを備えていてもよい。ポートは、容器内の空間と、容器外の空間を連通する構造(例えば、円筒型の構造)を有していてもよい。キャップは、ポートを覆うことによって、容器内の空間と、容器外の空間を遮断する構造を有していてもよい。キャップは、開口部を封止することで、容器内部を密封することができる。キャップは、例えば、円筒型の構造であって、上端面又は下端面の一方が閉じた構造をしていてもよい。キャップは、例えば、スクリューキャップであってもよい。開口部は、例えば、上面又は側面の外側の四角型の形状の四隅に位置していてもよい。開口部は、例えば、上面又は側面の外側の四角型の形状の対角線上に位置してもよい。開口部が円筒型の構造又は水平断面が円型の構造を有している場合、その円の中心軸は、例えば、上面又は側面の外側の四角型の形状の対角線上に位置してもよい。開口部を上面に設置する場合、その数は、特に4個が好ましい。この場合、後述の
図16に示すように複数の容器を安定して重ねることが可能になる、又は回転揺動するときに重心の偏りが出にくい。開口部を側面に設置する場合、その数は、特に1個又は2個が好ましい。この場合、後述の
図20に示すように容器をそのまま重ねることが可能であり、且つ培養面積を多く確保できる。開口部の数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、又は8個であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の数であってもよい。開口部を複数設置することで、一方の開口部から培地を入れ、他方の開口部から培地を抜くことが可能になる。開口部の高さは、例えば、1、2、2.5、3、3.5、4、5、又は10cmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。開口部の高さは、開口部が接触している面側を下端として測定してもよい。開口部が円筒型の構造の場合、その直径は、例えば、1、2、2.5、3、3.5、4、5、又は10cmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。開口部の直径と、底面形状の一辺(例えば、縦又は横)の長さの比は、底面形状の一辺を1とした場合、例えば、直径は0.05、0.1、0.11、0.115、0.12、0.125、0.13、0.135、0.14、0.145、又は0.15であってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。以上又は以下に記載の容器の底面、側面、又は上面の形状、長さ又は比率は、容器の内側(容器内の空間に接する側、又は容器内の培地を収容する側)の形状、長さ又は比率に適用してもよい。例えば、容器の底面が四角型の形状であるという記載は、容器の内側底面が四角型の形状をしていることを含む。
【0027】
本発明の一実施形態において容器の底面の面積は、例えば、1、4、9、25、50、100、500、1000、2500、5000、又は10000cm2であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の数であってもよい。本発明の一実施形態において容器の底面と側面は、略直角に位置していてもよい。底面と側面は、直接繋がって角を形成してもよく、又は接続部(例えば、直線状又は弧形状)を介して繋がってもよい。接続部は、容器を側面側からみたときに、底面の直線部及び側面の直線部の間にある部分であって、底面の直線部の延長線上に存在せず、底面の直線部の延長線上にも存在しない部分を含む。接続部は、容器を側面側からみたときに2つ視認できる。容器を側面側からみたときの底面の直線部の長さは、2つの接続部の長さの合計の20、30、40、50、75、100、150、200、300、又は500倍であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。側面側は、いずれかの側面側、又は4つの側面側を含む。接続部が弧形状の場合、曲線半径Rは、細胞分散の向上の観点からは小さいことが好ましく、例えば、0.5cm以下が好ましく、0.3cm以下が特に好ましい。曲線半径は、例えば、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9cmであってもよく、それらいずれか値以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。曲線半径は、容器を側面側から見たときに、底面と側面が繋がる曲線部の曲線半径であってもよい。曲線半径は、例えば、曲線部内で曲線半径が最も小さい位置における曲線半径である。上面と側面は、直接繋がって角を形成してもよく、又は接続部(例えば、直線状又は弧形状)を介して繋がってもよい。側面と別の側面は、直接繋がって角を形成してもよく、又は接続部(例えば、直線状又は弧形状)を介して繋がってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において容器の構成材料は、例えば、合成樹脂、天然樹脂、又はガラス等を含む。合成樹脂は、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等を含む。透明の材質を使用することで、培養状況を外部から観察できる。容器の材質は、従来の培養容器に使用されている材質を適宜使用できる。本発明の一実施形態において容器の内面は、細胞非接着性樹脂で構成されている、又は細胞の接着防止剤でコーティングされていてもよい。本発明の一実施形態において容器は、金型成形技術、3Dプリントなどによって製造してもよい。
【0029】
容器の一例として、第一の容器を
図13に示す。この容器は、底面1及び上面2が正方形型の形状をしている。側面3は、長方形型の形状をしている。上面2には、4つの開口部4が付いている。開口部4が上面2に設置されているため、培地がこぼれにくく、培地交換や細胞回収の操作性に優れる。開口部4は、内部にポート6が存在し、それを覆うようにスクリューキャップ5が設置されている。開口部4は、上面2の四隅に位置する。容器の内部には、底面1、上面2及び側面3に囲まれ、培地を収容可能な内部空間を有する。底面1の一辺の長さL1は、23~28cmが特に好ましい。容器の高さL2は、2.5~3cmが特に好ましい。開口部4の高さL3は、2.5~3cmが特に好ましい。開口部4の直径L4は、3cmが特に好ましい。
【0030】
図14及び15に第一の容器の正面図(14A)、背面図(14B)、平面図(14C)、底面図(14D)、右側面図(14E)、左側面図(14F)、A-A断面図(14G)、斜視図(14H)、スクリューキャップを外した状態の正面図(15A)、スクリューキャップを外した状態の背面図(15B)、スクリューキャップを外した状態の平面図(15C)、スクリューキャップを外した状態の底面図(15D)、スクリューキャップを外した状態の右側面図(15E)、スクリューキャップを外した状態の左側面図(15F)、スクリューキャップを外した状態のA-A断面図(15H)、スクリューキャップを外した状態の斜視図(15I)、及びスクリューキャップを外した状態の透明状態を示す参考斜視図(15J)を示す。
【0031】
第一の容器は、複数枚を重ねて使用できる。一例として、第一の容器を4つ重ねた状態を
図16に示す。各容器は互いに45度の角度でずれた状態で重なっている。容器を互いに45度の角度でずらして重ねることで、容器を重ねる際の開口部4の高さの分の嵩張りを無くして省スペース化することができる。例えば、側面3が2.5cm、開口部4が2.5cm(即ち、側面3及び開口部4を合わせた高さが5cm)の容器2枚を45度ずらさずに重ね合わせると、2枚で10cmの高さになるが、45度ずらすと、7.5センチになる。この場合、2.5cm分の省スペース化が可能となる。さらに、容器10枚を重ね合わせた場合、そのままでは5x10=50cmの高さになるが、45度ずらして重ね合わせると、2.5x10+2.5=27.5cmになる。この場合、22.5cmの省スペース化が可能となる。従って、多くの容器を積み重ねることで、省スペース化の効果がより大きくなる。重ねる容器の数が増えても、重ねた容器の長さL5は変化しないため、重ねた容器の奥行き及び幅に依存する占有面積を最小限に抑えつつ、省スペース化を実現できる。重ねた容器の長さL5は、容器の底面1の一辺の長さL1×√2で求めてもよい。さらに、上側の容器の四隅を下側の容器の開口部4の間にはめ込むことができ、重ねた容器が培養時の揺動によってずれて崩れるのを防止することができる。即ち、開口部4がストッパーとして機能することで、培養時の容器の安定性が向上する。容器を重ねる場合、容器の数は、例えば、2、3、4、5、6、8、10、20、30、40、又は50枚であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。多くの容器を積み重ねることによって、大規模の培養を行うことができる。
図17に第一の容器を4つ重ねた状態の正面図を示す。
図18に第一の容器を2つ重ねた状態のイメージ写真を示す。
【0032】
容器の一例として、第二の容器を
図19に示す。この容器は、底面101及び上面102が正方形型の形状をしている。側面103は、長方形型の形状をしている。側面には、1つの開口部104が付いている。開口部104は、内部にポートが存在し、それを覆うようにスクリューキャップ105が設置されている。開口部104は、側面103上であって、上面102側の一つの隅に位置する。これにより、デカントがしやすくなる。容器の内部には、底面101、上面102及び側面103に囲まれ、培地を収容可能な内部空間を有する。第二の容器はクリーンベンチの培地交換時に横向きに立てられるため、同時複数枚の作業がしやすい。底面101の一辺の長さL101は、23~40cmが特に好ましい。容器の高さL102は、5~6cmが特に好ましい。開口部104の高さL103は、2.5~3cmが特に好ましい。開口部104の直径L104は、3cmが特に好ましい。容器の側面103における、開口部104の下端から底面101までの距離L105は、2.5~3cmが特に好ましい。もしくは、距離L105は、容器の高さL102から開口部104の直径の長さ104を引くことで求めてもよい。
【0033】
第二の容器は、複数枚を重ねて使用できる。一例として、第二の容器を4つ重ねた状態を
図20に示す。第二の容器は、開口部104が側面103に設置されているため、容器を重ねる場合に、容器をそのまま重ねることが可能となり、培養面積を多く確保できる。容器を重ねる場合、容器の数は、例えば、2、3、4、5、6、8、10、20、30、40、又は50枚であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。多くの容器を積み重ねることによって、大規模の培養を行うことができる。
【0034】
本発明の一実施形態は、培養容器であって、底面、上面、及び側面を備え、底面は、正方形型の形状であり、上面は開口部を備える、培養容器である。上面は、正方形型の形状であり、開口部は、上面の隅(例えば、一~四隅)に位置してもよい。開口部は、凸部を形成してもよい。他の実施形態は、培養容器であって、底面、上面、及び側面を備え、底面は、四角型の形状であり、側面は、上面側に開口部を備える、培養容器である。上面は、正方形型の形状であってもよい。開口部は、側面の上面側の隅(例えば、一~二隅)に位置してもよい。開口部は、面上で凸部を形成してもよい。他の実施形態は、培養容器であって、培地収容部、蓋部を備え、培地収容部の底面は、四角型の形状である、浮遊培養容器である。培地収容部は、底面及び側面を備えてもよい。培地収容部の側面は4つであってもよい。蓋部は、四角型の形状であってもよい。他の実施形態は、複数個の培養容器が積み重なった形態を有する、多重容器である。多重容器は、容器毎に培地注入、培地交換等の作業を行えるため操作性に優れ、且つ大量培養に適している。容器の数は、例えば、2、3、4、5、6、8、10、20、30、40、又は50個であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。各培養容器は、容器毎の中心軸は同じ位置に存在する一方で、容器全体は互いに45度の角度でずれた状態で重なってもよい。ここで、中心軸は、底面の四角型の形状における対角線が交わる点を中心とし、その中心から水平面に垂直な方向へ伸ばした線であってもよい。互いに45度の角度でずれた状態は、複数の容器を角度をずらさずに重ねた状態から、一番下から偶数番目の容器を中心軸を軸にして45度回し、一番下から奇数番目の容器の上面と、一番下から偶数番目の容器の底面を接触させたときに形成される状態を意味してもよい。他の実施形態は、第一の容器の上に、第二の容器が位置する、多重容器である。他の実施形態は、複数個の培養容器が積み重なった多重容器であって、最下段の培養容器の上面と、他の培養容器の底面が接触している、多重容器である。本発明の一実施形態において、培養容器は、細胞の水平回転培養に使用する容器(水平回転細胞培養容器)であることが好ましい。以上の培養容器及び多重容器の実施形態は、上述の容器の実施形態に列挙した数値及び構成をいずれも採用できる。
【0035】
本発明の一実施形態は、培地収容部と、回転部を備える、細胞培養装置である。この装置は、培地収容部と、培地収容部を水平回転させる回転部を含み、培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、細胞培養装置であってもよい。培地収容部は、培地及び細胞を収容していてもよい。培地収容部は、底面、側面、及び上面を有していてもよく、内部に閉鎖系の空間を有してもよい。培地収容部は、開口部を備えていてもよい。開口部は、培地収容部内の空間と、容器外の空間を連通する構造(例えば、筒状構造)を有していてもよい。開口部を通じて、生体試料(細胞等)又は培地を、容器外の空間から容器内の空間へ注入することができる。培地収容部は、培養容器であってもよい。以上の培地収容部及び開口部のサイズ、形状等は、上述の容器の実施形態に列挙した数値及び構成をいずれも採用できる(このとき、培地収容部は容器に読み替えてもよい)。回転部は、培地収容部を回転するように構成されていてもよい。回転部は、培地収容部を載せることが可能な台部を有していてもよい。台部は、水平面に対して平行に位置していてもよい。水平面に対して垂直な方向で、台部と培養容器が接触してもよい。台部は、容器を載せた状態で旋回してもよい。培地収容部は、台部の上に1個又は複数個設置されてもよい。複数個は、例えば、2、4、6、8、10、20、30、40、50、又は100個であってもよく、それらいずれか値以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。台部上の複数個の培地収容部は、積み重ならずに配置されてもよく、積み重なって配置されてもよい。回転部の回転の速度、旋回径等は、上述の実施形態に列挙した数値及び構成をいずれも採用できる。
【0036】
本発明の一実施形態は、容器と回転装置を備える、細胞培養装置である。容器は、底面形状が四角型の形状であってもよい。回転装置は、水平回転装置又は旋回装置であってもよい。回転装置は、容器を載せるための台部を備えていてもよい。
【0037】
本発明の一実施形態は、細胞培養容器であって、浮遊培養用培地(例えば、液体培地)を収容し、底面形状が四角型の形状である、細胞培養容器である。他の実施形態は、細胞培養容器であって、底面形状が四角型の形状であり、浮遊細胞を収容し、浮遊細胞は容器の水平回転揺動に伴って揺動している、細胞培養容器である。他の実施形態は、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の培養方法である。他の実施形態は、底面形状が四角型の形状である容器の、細胞培養(例えば、水平回転培養)における使用である。他の実施形態は、細胞及び培地を収容する容器を回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の生産方法である。他の実施形態は、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含む、細胞の生産方法である。他の実施形態は、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞懸濁液の生産方法である。四角型の形状の容器を水平回転することによる細胞培養方法は、中央に細胞が集まらず接着しにくい特性がある。そのため、例えば、容器中で細胞培養しながら細胞シートを作製する方法はこの培養方法から除外されてもよい。
【0038】
本発明の一実施形態は、底面、側面、上面を有する容器であって、4つの側面(第一~第四の側面)を備え、第一の側面及び第三の側面は平行関係にあり、第二の側面及び第四の側面は平行関係にある、容器。第一の側面及び第二の側面は接していてもよく、第一の側面及び第四の側面は接していてもよい。第二の側面及び第三の側面は接していてもよく、第三の側面及び第四の側面は接していてもよい。4つの側面は、下端で底面と接し、上端で上面と接していてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態は、細胞及び培地を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の分散方法である。細胞が分散すると、細胞に栄養が行き渡りやすくなる。また、シェアストレスが小さくなり、細胞生存率が向上する。
【0040】
本発明の一実施形態は、細胞及び酵素液を収容する容器を水平回転させる工程を含み、容器の底面形状は四角型の形状である、細胞の酵素処理方法である。この方法によれば、処理後生細胞率の向上、処理後細胞数の向上、又は処理中シェアストレスの低下の少なくとも1つの観点から、優れた酵素処理を実現し得る。上記酵素液は、例えば、蛋白質分解酵素を含む溶液であってもよい。この溶液は、例えば、細胞塊又は接着細胞を単一細胞に分散させる溶液を含む。この溶液は、例えば、TrypLE Select(ギブコ12563-011)、トリプシン溶液、アキュターゼ溶液、コラゲナーゼ溶液を含む。酵素液とともに収容される細胞は、例えば、細胞塊、又はプラスチック素材と接着した細胞であってもよい。この方法は、例えば、細胞を浮遊培養する工程、細胞と酵素液を接触させる工程、細胞と酵素液を含む懸濁液を調製する工程、又は容器内の培地を酵素液で置換する工程を含んでもよい。懸濁液中の酵素の含有量は、細胞分散における有効量であってもよい。上記の酵素処理は、例えば、細胞の分散処理を含む。以上の酵素処理方法の実施形態は、上述の細胞の生産方法の実施形態に列挙した数値、構成(例えば、細胞等)、及び工程をいずれも採用できる。例えば、細胞は、幹細胞(例えば、iPS細胞又は間葉系幹細胞)を含む。
【0041】
本発明の一実施形態は、細胞酵素処理装置であって、培地収容部と、培地収容部を水平回転させる回転部を含み、その培地収容部は、底面形状が四角型の形状である、細胞酵素処理装置が提供される。この装置を用いれば、処理後生細胞率の向上、処理後細胞数の向上、又は処理中シェアストレスの低下の少なくとも1つの観点から、優れた酵素処理を実現し得る。この細胞酵素処理装置の実施形態は、上述の細胞培養装置の実施形態、又は酵素処理方法の実施形態に列挙した数値及び構成をいずれも採用できる。
【0042】
本発明の一実施形態は、水平回転細胞酵素処理容器であって、底面、上面、及び側面を備え、底面は正方形型の形状であり、上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞酵素処理容器が提供される。この容器は、容器を水平回転させた状態で細胞を酵素処理するために使用される。この容器を用いれば、処理後生細胞率の向上、処理後細胞数の向上、又は処理中シェアストレスの低下の少なくとも1つの観点から、優れた酵素処理を実現し得る。この水平回転細胞酵素処理容器の実施形態は、上述の容器の実施形態、又は酵素処理方法の実施形態に列挙した数値及び構成をいずれも採用できる。
【0043】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。本明細書において「A~B」は、A及びBを含む。
【0044】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。即ち、本発明の実施形態は、上述の列挙された数値や化合物等に限定されない。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例0045】
以下、実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
実験手順
iPS細胞(253G1株)について、iMatrix-511(ニッピ)でコーティングした10cmディッシュを用いて、Essential 8培地(サーモフィッシャー)中で接着培養して増殖継代を行った後、0.5mM EDTA溶液で10分間処理し、剥離したiPS細胞を実験に用いた。剥離したiPS細胞を7x10e4/mlの細胞濃度になるようにEssential 8培地に懸濁し、直径6cm(面積20cm2)円型ディッシュ(ファルコン)、直径10cm(面積50cm2)円型ディッシュ(ファルコン)、直径15cm(面積150cm2)円型ディッシュ(ファルコン)、1辺22cm(面積500cm2)正方形型ディッシュ(住友ベークライト、品番MS-12450)に、0.4ml/cm2の液量になるように、それぞれ8ml、20ml、60ml、200mlの細胞懸濁液を添加して、37℃、5%CO2のインキュベーター内で静置培養あるいは旋回培養を行った。旋回培養については、インキュベーター内用シェイカー(オプティマ、OS-762RC)を用いて、30、50、60rpmで旋回培養(旋回径25mm)を行った。計4日間培養した後、浮遊しているiPS細胞塊をトリプシン溶液で分散させてセルカウントを行い、総細胞数(各ディッシュあたり)と細胞増殖率(4日後の細胞数/播種時の細胞数)を計算した。
【0047】
旋回培養したiPS細胞の心筋分化能を調べるために、上記と同様の直径10cm円型ディッシュ、直径15cm円型ディッシュ、1辺22cm正方形型ディッシュにおいて、上記と同じ播種細胞数と旋回培養(50rpm)で4日間培養した後、浮遊しているiPS細胞塊について心筋分化誘導を行った。まず2uMのCHIR99021(富士フイルム和光純薬034-23103)と1uMのProstratin(富士フイルム和光純薬161-28561)の2種類の化合物をマイオリッジ心筋分化培地(コージンバイオ)に添加して3日間培養することで中胚葉誘導を行い、その後、4uM KY03-I(富士フイルム和光純薬036-24724)、2uM XAV939(富士フイルム和光純薬243-00953)、8uM AG1478(富士フイルム和光純薬017-20151)、0.3uM A419259(富士フイルム和光純薬038-24804)の4種類の化合物を同培地に添加して4日間培養し、その後、化合物無しの同培地で14日間培養することで心筋細胞の分化誘導を行った。分化誘導後の細胞について、心筋細胞マーカーであるcardiac troponin Tの抗体(サンタクルツsc-20025)で染色した後、フローサイトメーター(BD AccuriTM C6 Plus)で解析し、分化後の細胞集団における心筋細胞の割合(cTnT陽性細胞率)を測定し、心筋分化能を評価した。
【0048】
培養中の細胞の動きを調べるために、プラスチックビーズと間葉系幹細胞(UE6E7T-3細胞 JCRB1136)を使用して培養状況を再現した。プラスチックのビーズ(直径125~212μm、コーニング3772、iPSスフェロイドと同様のサイズと密度)を1グラム/50mlの量で、間葉系幹細胞を2x10e6細胞/50mlの量で、培地に添加した。ビーズ及び間葉系幹細胞入り培地を円型ディッシュ(直径15cm)に60ml、正方形型ディッシュ(1辺22cm)に200ml添加して、2日間37℃インキュベーターで培養した。ビーズと間葉系幹細胞が接着した後に、シェイカー(オプティマ、OS-762RC)で30rpmで旋回培養しながら撮影した。
【0049】
さらに、旋回培養した間葉系幹細胞の増殖を調べるために、上記と同じプラスチックビーズと間葉系幹細胞を10%FBSを含むDMEM培地中において培養を行った。ビーズ1.7グラムと間葉系幹細胞3x10e6細胞を含む培地を円型ディッシュ(直径15cm)と正方形型ディッシュ(1辺22cm)にそれぞれ60mlと200ml添加して、シェイカーで50rpm旋回培養しながら7日間培養した。その後、それぞれのディッシュの培地をタンパク質分解酵素を含む酵素液であるTrypLE Select(ギブコ12563-011)100mlで置換し、正方形型ディッシュ(1辺22cm)に移して80rpmで30分間旋回培養処理することで間葉系幹細胞塊を単一細胞に分散させてセルカウントを行い、総細胞数(各ディッシュあたり)と細胞増殖率(7日後の細胞数/播種時の細胞数)を計算した。
【0050】
プラスチックビーズに接着した間葉系幹細胞塊を単一細胞に分散させるための、酵素処理時における容器の形状を比較するために、まず上記と同じプラスチックビーズと間葉系幹細胞を10%FBSを含むDMEM培地中において培養を行った。ビーズ1.7グラムと間葉系幹細胞3x10e6細胞を含む培地を正方形型ディッシュ(1辺22cm)に200ml添加して、シェイカーで50rpm旋回培養しながら7日間培養し細胞を増殖させた。その後、ディッシュに含まれるプラスチックビーズに接着した間葉系幹細胞塊を培地ごと全量回収し、上清培地を全て除去して、130mlのTrypLE Select(ギブコ12563-011)で置換した。このビーズに接着した間葉系幹細胞塊を懸濁したTrypLE Select懸濁液を攪拌しながら、底面積あたりの液量が0.2ml/cm2になるように、円型ディッシュ(直径15cm)に30ml、正方形型ディッシュ(1辺22cm)に100ml移した。その後、それぞれの間葉系幹細胞塊を含むディッシュを80rpmで30分間旋回培養し、間葉系幹細胞塊を単一細胞に分散させてセルカウントを行い、生細胞率と酵素液1ml当たりの細胞数を計算した。酵素液はトリプシンやアキュターゼ溶液でもよい。
【0051】
結果
各ディッシュについて、静置培養を行った場合、全てのiPS細胞がディッシュに接着し、浮遊しているiPS細胞は得られなかった(
図1、2)。30、50、60rpmで旋回培養を行ったところ、各ディッシュで浮遊しているiPS細胞塊が得られた。全ての条件で円型のディッシュに比べ正方形型ディッシュの方が細胞増殖率が高く(最大40倍)、トータルの細胞数も多い(最大3x10e8/ディッシュ)傾向が見られた(
図1、2)。さらに、円型ディッシュと正方形型ディッシュで50rpm旋回培養したiPS細胞の心筋分化能を評価したところ、正方形型ディッシュの方が心筋細胞マーカーであるトロポニンTの陽性細胞の割合が高い、つまり心筋細胞の純度が高いことがわかった(
図3)。
【0052】
旋回培養時の細胞の動きを観察するため、まずビーズに間葉系幹細胞を接着させて2日間培養したところ、細胞が接着したビーズが得られた(
図4)。円型ディッシュの旋回培養では、特に直径が大きくなると間葉系幹細胞と接着したビーズがディッシュ中央の1点に凝集した(
図5)。このことから、円型ディッシュの旋回培養では、細胞がディッシュ中央の1点に凝集しやすいことがわかった。また、円型ディッシュの旋回培養では、細胞塊が融合することによって形状や大きさが不均一になり死細胞が増えていた(
図7)。一方で、正方形型ディッシュの旋回培養では、間葉系幹細胞と接着したビーズがディッシュ中央に凝集せずに分散した状態を維持していた(
図6)。このことから、正方形型ディッシュの旋回培養では、細胞がディッシュ中央に凝集せずに分散した状態を維持しやすいことがわかった。また、正方形型ディッシュの旋回培養では、均一な形状と大きさの細胞塊が得られており(
図8)、細胞収量も増加する傾向が見られた。正方形型ディッシュでは、細胞のシェアストレスが小さいと考えられる。さらに、ビーズと接着した間葉系幹細胞塊を50rpm旋回培養で7日間培養したところ、円型ディッシュよりも正方形型ディッシュの方が細胞の増殖率と収量が高い傾向が見られた(
図9、10)。また、この間葉系幹細胞塊を酵素処理によって単一細胞に分散する際に、円型ディッシュで旋回培養しながら酵素処理するよりも、正方形型ディッシュで旋回培養しながら酵素処理する方が、生細胞率が高く、細胞の収率も良い傾向が見られた(
図11、12)。細胞培養と同様に、酵素処理においても正方形型ディッシュでは細胞のシェアストレスが小さいためと考えられる。即ち、これらの結果の少なくとも1つの観点から、正方形型ディッシュを用いた培養方法は、円型ディッシュを用いた培養方法に比べて優れていた。
【0053】
従来、培養容器を水平回転させる場合、丸い形状の容器を使用するという先入観があり、四角型の形状のディッシュを水平回転させて浮遊培養することは、従来の常識にはなかった試みであった。しかし、結果として、驚くべきことに、四角型の形状のディッシュを用いることにより、優れた浮遊培養が実現できることが明らかになった。
【0054】
また、細胞塊を酵素処理によって単一細胞に分散する場合においても、四角型の形状のディッシュを用いて水平回転させて酵素処理することにより、生細胞率が高い優れた単一細胞分散処理が実現できることが明らかになった。
【0055】
以上、実施例を説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
水平回転細胞酵素処理容器であって、底面、上面、及び側面を備え、前記底面は正方形型の形状であり、前記上面は1~4個の開口部を備える、水平回転細胞酵素処理容器。