(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127578
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】発泡粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208462
(22)【出願日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2021024744
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂村 拓映
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA24
4F074AB03
4F074AB05
4F074BA32
4F074BA37
4F074BA38
4F074BA39
4F074CA35
4F074CA39
4F074CA42
4F074CA49
4F074CC04X
4F074CC04Y
4F074CC10X
4F074CC22X
4F074CC28Z
4F074CC32X
4F074CC32Y
4F074CC47Z
4F074DA02
4F074DA24
4F074DA33
4F074DA35
4F074DA57
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】前処理加圧及び養生工程を省略しても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を低温から高温までの広範な成形加熱温度範囲で製造することができる発泡粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔11を有する筒形状の発泡粒子1及びその製造方法である。発泡粒子1は、発泡芯層2と被覆層3とを有する。被覆層3を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsが発泡芯層2を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低い。発泡粒子1の貫通孔11の平均孔径dが1mm未満であるとともに、発泡粒子1の平均外径Dに対する平均孔径dの比d/Dが0.4以下である。発泡芯層2を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmcが158℃以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する筒形状の発泡粒子であって、
上記発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層と、該発泡芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有し、該被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsが上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低く、
上記発泡粒子の上記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であるとともに、上記発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比d/Dが0.4以下であり、
上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmcが158℃以下である、発泡粒子。
【請求項2】
上記発泡粒子の平均外径Dが2mm以上5mm以下である、請求項1に記載の発泡粒子。
【請求項3】
上記発泡粒子の平均肉厚tが1.2mm以上2mm以下である、請求項1又は2に記載の発泡粒子。
【請求項4】
上記発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比d/Dが0.25以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項5】
上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂がエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、共重合体中のエチレン成分の含有量が0.5質量%以上2質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項6】
上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点が145℃以上155℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項7】
上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレートが6g/10分以上10g/10分以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項8】
上記発泡粒子の見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項9】
貫通孔を有する筒形状の多層樹脂粒子を発泡させて、見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である発泡粒子を製造する方法であって、
上記多層樹脂粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成された芯層と、該芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有し、該被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmrsが上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmrcよりも低く、
上記多層樹脂粒子の上記貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であるとともに、上記多層樹脂粒子の平均外径Drに対する上記平均孔径drの比dr/Drが0.4以下であり、
上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmrcが158℃以下である、発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有する筒形状の発泡粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、種々の用途に用いられている。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、発泡粒子成形体の製造に使用される。具体的には、発泡粒子を成形型内に充填し、スチームを供給して発泡粒子を二次発泡させると共にその表面を溶融させて発泡粒子を相互に融着させて、所望の形状に成形することにより、発泡粒子成形体が得られる。成形直後の発泡粒子成形体は、二次発泡により膨らみやすいため、所望形状の発泡粒子成形体を得るために成形型内で発泡粒子成形体を水や空気等で冷却させた後成形型から離型される。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、その二次発泡性を補うために、成形型への充填前に圧縮空気等により加圧され、発泡粒子に予め所定の内圧を付与してから成形型内に充填させて成形されることがある。成形型への充填前に発泡粒子を加圧する方法は、前処理加圧と呼ばれ、特別な成形機を必要としないため、発泡粒子に二次発泡性を付与するためによく用いられる。
【0004】
型内成形後の発泡粒子成形体を常温で保管すると、型内成形時に発泡粒子成形体の気泡内へ流入していたスチームが気泡中で凝縮し、気泡内が負圧となり、発泡粒子成形体に体積収縮が生じて成形体が大きく変形することがある。特に、成形加熱温度が高い場合には、発泡粒子成形体が著しく収縮、変形して所望の形状を得られないことがある。そのため、発泡粒子成形体を離型した後に、たとえば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させて発泡粒子成形体の形状を回復させる養生工程が通常は必要である。
【0005】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形において、前処理加圧や養生工程は、設備投資が必要であることやその工程に長時間を要することから、これらを短縮あるいは省略することが発泡粒子成形体の生産性の大幅な向上に繋がる。たとえば、特許文献1には、発泡芯層と被覆層とからなる発泡粒子を粒子間に空隙を維持したまま融着させる技術が開示されており、特許文献1によれば、養生工程を省略できるとしている。また、特許文献2には、融点、メルトフローインデックス、及びZ平均分子量等が特定の範囲に調製されたポリプロピレン系樹脂を用いた発泡粒子を型内成形する技術が開示されており、特許文献2によれば、前処理加圧を省略することができ、また、養生時間を短縮できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-39565号公報
【特許文献2】特開2000-129028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、養生工程を省略できるものの、成形体の発泡粒子間に空隙が形成されるため、発泡粒子成形体の外観が著しく悪く、その用途によっては剛性が不十分であった。また、特許文献1に記載された発泡粒子は、養生工程を省略した場合には、所望の形状を有する発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度の範囲が狭いものであった。特許文献2の技術に記載された技術では、養生工程を短縮できるものの、依然として養生工程が必要であり、養生工程を省略した場合には、発泡粒子成形体が著しく収縮、変形してしまい、所望形状を有する発泡粒子成形体を得ることが困難であった。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、前処理加圧及び養生工程を省略しても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を低温から高温までの広範な成形加熱温度範囲で製造することができる発泡粒子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、貫通孔を有する筒形状の発泡粒子であって、
上記発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層と、該発泡芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有し、該被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsが上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低く、
上記発泡粒子の上記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であるとともに、上記発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比d/Dが0.4以下であり、
上記発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmcが158℃以下である、発泡粒子にある。
【0010】
本発明の他の態様は、貫通孔を有する筒形状の多層樹脂粒子を発泡させて、見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である発泡粒子を製造する方法であって、
上記多層樹脂粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成された芯層と、該芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有し、該被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmrsが上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmrcよりも低く、
上記多層樹脂粒子の上記貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であるとともに、上記多層樹脂粒子の平均外径Drに対する上記平均孔径drの比dr/Drが0.4以下であり、
上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmrcが158℃以下である、発泡粒子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
上記発泡粒子によれば、前処理加圧及び養生工程を省略しても、低温から高温までの広範な成形加熱温度範囲で、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を製造することができる。また、上記発泡粒子によれば、成形後の発泡粒子成形体の乾燥時間を短くすることができる。したがって、本開示によれば、剛性や外観に優れた発泡粒子成形体の製造効率を著しく向上させることが可能な発泡粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】
図3は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「X~Y」のように、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、「X以上Y以下」と同義であり、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。また、「重量%」と「質量%」、「重量部」と「質量部」は、それぞれ実質的に同義である。また、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のことを適宜「発泡粒子」といい、発泡粒子成形体のことを適宜「成形体」という。なお、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡芯層を有する発泡粒子は、一般に、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子と呼ばれる。
【0014】
本明細書において、「無加圧」とは、成形型に充填する前に、圧縮空気等により発泡粒子を加圧し、発泡粒子に予め所定の内圧を付与する前処理加圧を行わない(つまり、前処理加圧を省略する)ことを意味する。この場合、成形型に充填される発泡粒子の内圧は通常0MPa(G)である。また、「無養生」とは、離型後の発泡粒子成形体を高温雰囲気下で静置させて発泡粒子成形体の形状を回復させる養生工程を行わない(つまり、養生工程を省略する)ことを意味する。また、無加圧、かつ無養生により発泡粒子成形体を製造する発泡粒子の型内成形方法を適宜「無加圧・無養生成形」という。
【0015】
図1及び
図2には、発泡粒子を例示するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。
図1及び
図2に示されるように、発泡粒子1は、筒形状であり、貫通孔11を有する。貫通孔11の平均孔径dは1mm未満であるとともに、発泡粒子1の平均外径Dに対する平均孔径dの比[d/D]は0.4以下である。また、発泡粒子1は、ポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層2と、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層3とを有する。被覆層3を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは発泡芯層2を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低い。さらに、発泡芯層2を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上であり、融点Tmcが158℃以下である。発泡粒子1が上記構成を備えることにより、無加圧・無養生成形であっても、所望の形状を有する、外観や剛性に優れた発泡粒子成形体を低温から高温までの広範な成形加熱温度で製造することができる。さらに、上記発泡粒子により得られる発泡粒子成形体は乾燥時間が短い。したがって、剛性や外観に優れた発泡粒子成形体を生産性良く製造することができる。なお、上記発泡粒子は、前処理加圧及び養生工程の両方、又はいずれかを行って成形することも可能である。
【0016】
発泡粒子の発泡芯層は、ポリプロピレン系樹脂から構成される。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンと他のモノマーとが共重合したプロピレン系共重合体であることが好ましい。具体的には、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、ヘキセン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましく例示される。これらの共重合体は、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であり、ランダム共重合体であることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂は、複数の種類のポリプロピレン系樹脂を含有していてもよい。
【0017】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂は、本開示の目的、効果を阻害しない範囲でポリプロピレン系樹脂以外の他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等のポリプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等が例示される。発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂中の他の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、つまり、発泡芯層は、重合体として実質的にポリプロピレン系樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0018】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂は、エチレン-プロピレンランダム共重合体であり、共重合体中のエチレン成分の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であることが好ましい。なお、エチレン-プロピレンランダム共重合体中のエチレン成分とプロピレン成分との合計が100質量%である。この場合には、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲がより広くなる。より高い成形加熱温度であっても無加圧・無養生成形が可能となるという観点から、共重合体中のエチレン成分の含有量は1.8質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましく、1.4質量%以下であることが特に好ましい。一方、成形加熱温度の過度の上昇を抑制するという観点から、共重合体中のエチレン成分の含有量は0.8質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。なお、IRスペクトル測定により共重合体中のモノマー成分の含有量を求めることができる。エチレン-プロピレン共重合体のエチレン成分、プロピレン成分は、エチレン-プロピレン共重合体におけるエチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位をそれぞれ意味する。また、共重合体中の各モノマー成分の含有量は、共重合体中の各モノマー由来の構成単位の含有量を意味するものとする。
【0019】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、158℃以下である。融点Tmcが158℃を超える場合には、外観や剛性に優れる良好な発泡粒子成形体を成形するためにはより高い成形加熱温度(つまり、高い成形圧)が必要となる。この場合には無加圧・無養生成形において、成形体の著しい収縮、変形を抑制することが難しくなる。したがって、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲が狭くなるおそれがある。より低圧で無加圧・無養生成形が可能になり、成形加熱温度の範囲がより広くなるという観点から、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは155℃以下であることが好ましく、153℃以下であることがより好ましい。一方、得られる発泡粒子成形体の耐熱性や機械的強度等をより高めるという観点からは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、145℃以上であることが好ましく、148℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、状態調節としては「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、該融解ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0021】
また、発泡芯層は、融点の異なる少なくとも2種類のポリプロピレン系樹脂を含む、曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点が158℃以下のポリプロピレン系樹脂組成物から構成されていてもよい。具体的には、融点145℃を超え160℃以下の第1ポリプロピレン系樹脂70~97重量%と、融点が135℃を超え145℃以下の第2ポリプロピレン系樹脂3~30重量%とを含む(ただし、第1ポリプロピレン系樹脂と第2ポリプロピレン系樹脂との合計が100重量%である)ポリプロピレン系樹脂組成物から構成されることが好ましい。この場合には、得られる発泡粒子成形体の剛性をほとんど低下させることなく型内成形時の発泡粒子の二次発泡性を向上させることができ、例えば厚みの厚い肉厚部と厚みの小さな薄肉部とを有する、厚みに厚薄のある成形体であっても本発明の目的効果を発揮させやすいという効果が得られる。この効果が向上するという観点から、第1ポリプロピレン系樹脂の含有量が75~95重量%であり、第2ポリプロピレン系樹脂の含有量が5~25重量%である(ただし、第1ポリプロピレン系樹脂と第2ポリプロピレン系樹脂との合計が100重量%である)ことがより好ましく、第1ポリプロピレン系樹脂の含有量が80~90重量%であり、第2ポリプロピレン系樹脂の含有量が10~20重量%である(ただし、第1ポリプロピレン系樹脂と第2ポリプロピレン系樹脂との合計が100重量%である)ことがさらに好ましい。また、同様の観点から、第1ポリプロピレン系樹脂の融点が150℃を超え155℃以下であるとともに、第2ポリプロピレン系樹脂の融点が140℃を超え145℃以下であることがより好ましい。
なお、ポリプロピレン系樹脂組成物の融点の測定方法は、上記のポリプロピレン系樹脂の融点と同様である。また、ポリプロピレン系樹脂組成物の曲げ弾性率の測定方法は、後述のポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率と同様である。
【0022】
また、上記の効果をより向上させる観点からは、第1ポリプロピレン系樹脂の融点Tmc1と第2ポリプロピレン系樹脂の融点Tmc2との差(つまり、Tmc1-Tmc2)が5℃以上15℃未満であることが好ましく、8℃以上13℃以下であることがより好ましい。
【0023】
発泡性や成形性をより高める観点から、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレート(つまり、MFR)は5g/10分以上であることが好ましく、6g/10分以上であることがより好ましい。一方、成形体の剛性をより高めるという観点から、MFRは10g/10分以下であることが好ましく、8g/10分以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0024】
発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1200MPa以上である。発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa未満であると、特に成形加熱温度が高い条件において、成形体の収縮抑制が困難になり、養生工程を省略した場合には所望形状の成形体を得ることができないおそれがある。つまり、無養生成形により所望の形状を有し、外観が良好な成形体を得るために必要な成形加熱温度の範囲が狭くなる。養生工程を省略した場合の成形体の収縮、変形をより抑制しやすくするという観点から、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1300MPa以上であることが好ましく、1350MPa以上であることがより好ましく、1400MPa以上であることがさらに好ましい。一方、成形加熱温度の過度の上昇を抑制するという観点から、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1800MPa以下であることが好ましく、1600MPa以下であることがより好ましく、1500MPa以下であることがさらに好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に基づき、求めることができる。
【0025】
無加圧・無養生成形における成形性をより向上させるという観点から、発泡粒子の発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の結晶化温度は、105℃以上115℃以下であることが好ましく、110℃以上115℃以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の結晶化温度は、JIS K7121:2012に基づき、熱流束示差走査熱量計を用いて測定される。なお、DSC曲線に複数の結晶化ピークが表れる場合は、ピーク高さの最も高い結晶化ピークのピーク温度を結晶化温度とする。
【0026】
発泡粒子の成形性と成形体の剛性等を向上させるという観点から、発泡粒子の独立気泡率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。
【0027】
発泡粒子は、発泡芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層を有する。発泡粒子が被覆層を有していない場合には、外観や剛性に優れる良好な発泡粒子成形体を成形するためにはより高い成形加熱温度(つまり、高い成形圧)が必要となる。この場合には無加圧・無養生成形において、成形体の著しい収縮、変形を抑制することが難しくなるため、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度範囲が狭くなるおそれがある。被覆層は、ポリオレフィン系樹脂から構成される。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。発泡芯層との接着性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。ポリプロピレン系樹脂としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられ、中でもエチレン-プロピレン共重合体又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体が好ましい。
【0028】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低い。つまり、Tms<Tmcである。被覆層のポリオレフィン系樹脂の融点Tmsが発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmc以上の場合(つまり、Tms≧Tmcの場合)には、成形時の発泡粒子同士の融着性が低下し、低温での成形が困難になり、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度範囲が狭くなるおそれがある。無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度範囲がより広くなるという観点から、Tmc-Tms≧5であることが好ましく、Tmc-Tms≧10であることがより好ましく、Tmc-Tms≧15であることがさらに好ましい。発泡芯層と被覆層との剥離や、発泡粒子間の互着等を抑制する観点からは、Tmc-Tms≦35であることが好ましく、Tmc-Tms≦25であることがより好ましい。
【0029】
成形時の発泡粒子の融着性をより高めるという観点から、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、120℃以上145℃以下であることが好ましく、125℃以上140℃以下であることがより好ましい。被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、上述の発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂と同様の条件、方法により求められる。
【0030】
発泡芯層と被覆層との剥離を確実に抑制するという観点から、被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のMFRは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のMFRと同程度であることが好ましく、具体的には2~15g/10分であることが好ましく、3~12g/10分であることがより好ましく、4~10g/10分であることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値であり、ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0031】
発泡粒子は、発泡芯層と、発泡芯層を被覆する被覆層とを有する多層構造の粒子である。発泡芯層は、発泡状態のポリプロピレン系樹脂から構成されており、被覆層は、発泡状態又は非発泡状態のポリオレフィン系樹脂から構成されている。被覆層は、実質的に非発泡状態であることが好ましい。「実質的に非発泡」とは、ほとんど気泡構造がないことを意味する。被覆層の厚みは、例えば0.5~100μmである。また、発泡芯層と被覆層との間にさらに中間層を設けてもよい。
なお、発泡芯層は被覆層により完全に覆われていても、一部の発泡芯層が露出していても構わない。発泡芯層が露出した構造とは、例えば、円筒状の発泡芯層の側面が被覆層で覆われており、円筒の上面や底面に発泡芯層が露出している構造などが挙げられる。
【0032】
発泡芯層を構成する樹脂と被覆層を構成する樹脂との質量比(質量%の比)は、成形体の剛性を維持しつつ、成形性を高める観点から、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。質量比は、発泡芯層を構成する樹脂:被覆層を構成する樹脂で表される。
【0033】
発泡粒子は、発泡粒子を加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、ポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピーク(つまり、樹脂固有ピーク)と、その高温側に1以上の融解ピーク(つまり、高温ピーク)とが現れる結晶構造を有することが好ましい。DSC曲線は、発泡粒子1~3mgを試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により得られる。
樹脂固有ピークとは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピークであり、ポリプロピレン系樹脂が本来有する結晶の融解時の吸熱によるものであると考えられる。一方、樹脂固有ピークの高温側の吸熱ピーク(つまり、高温ピーク)とは、DSC曲線で上記樹脂固有ピークよりも高温側に現れる吸熱ピークである。この高温ピークが現れる場合、樹脂中に二次結晶が存在するものと推定される。なお、上記のように10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第1回目の加熱)を行った後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線においては、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂に固有の融解による吸熱ピークのみが見られるため、樹脂固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。この樹脂固有ピークの頂点の温度は、第1回目の加熱と第2回目の加熱とで多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃以内である。
【0034】
発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、好ましくは5~40J/g、より好ましくは7~30J/g、更に好ましくは10~20J/gである。
また、上記高温ピークの融解熱量と、DSC曲線の全融解ピークの融解熱量の比(高温ピークの融解熱量/全融解ピークの融解熱量)は、好ましくは0.05~0.3、より好ましくは0.1~0.25、更に好ましくは0.15~0.2である。
高温ピークの融解熱量及び全融解ピークの融解熱量との比をこのような範囲にすることで、高温ピークとして表れる二次結晶の存在により、発泡粒子は特に機械的強度に優れると共に、型内成形性に優れるものになると考えられる。
ここで、全融解ピークの融解熱量とは、DSC曲線の全ての融解ピークの面積から求められる融解熱量の合計をいう。
【0035】
発泡粒子は、上記のように貫通孔を有する。そのため、低圧での成形が可能になる。これは、成形工程において供給されるスチーム等の加熱媒体が貫通孔を通り発泡粒子群の内部まで行きわたることにより、型内に充填された発泡粒子全体が十分に加熱され、発泡粒子の二次発泡性や融着性が向上するためと考えられる。さらに、発泡粒子は、発泡芯層よりも融点の低い樹脂から構成された被覆層を有するため、成形時に発泡粒子同士が融着し易い。このような観点からも、発泡粒子は低圧での成形が可能であり、低圧から高圧までの幅広い成形圧範囲で外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体の製造が可能になる。
【0036】
貫通孔を有する筒形状の発泡粒子は、円柱、角柱等の柱状の発泡粒子の軸方向を貫通する筒孔を少なくとも1つ有することが好ましい。発泡粒子は、円柱状であり、その軸方向を貫通する筒孔を有することがより好ましい。
【0037】
発泡粒子が貫通孔を有していない場合には、無加圧、無養生での成形では、低い成形加熱温度(つまり、低圧)では二次発泡性や融着性が不十分となり、良好な発泡粒子成形体を成形することが困難になるおそれがある。また、高い成形加熱温度(つまり、高圧)では成形体の収縮、変形を抑制することが難しくなるおそれがある。一方、発泡粒子が貫通孔を有している場合であっても、平均孔径dが大きすぎる場合には、成形体の外観が低下するおそれがあるとともに、剛性が低下するおそれがある。また、低い成形加熱温度(つまり、低圧)では型内成形時の発泡粒子の二次発泡性が低下して無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲が狭くなるおそれがある。さらに成形後の乾燥時間が長くなるおそれがある。かかる観点から、発泡粒子の平均孔径dは上記のごとく1mm未満である。成形体の外観、剛性がより向上するという観点、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲をより広くするという観点から、発泡粒子の平均孔径dは、0.95mm以下であることが好ましく、0.92mm以下であることがより好ましく、0.90mm以下であることがさらに好ましい。なお、発泡粒子を型内に充填する際に貫通孔が潰れて閉塞することを抑制する観点、及び製造容易性の観点から、発泡粒子の平均孔径dの下限は、0.2mmであることが好ましく、0.4mmであることがより好ましい。
【0038】
発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、以下のように求められる。発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真を撮影し、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求める。その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径dとする。なお、各発泡粒子の貫通孔の大きさが、貫通孔径が貫通方向に一様でない場合であっても、各発泡粒子の貫通孔径は、上記のように発泡粒子の切断面の面積が最大となる位置での孔径によって定められる。
【0039】
筒形状の発泡粒子の肉厚が増加して発泡粒子の二次発泡性や成形体の剛性が向上するという観点から、発泡粒子の平均外径Dは、好ましくは2mm以上、より好ましくは2.5mm以上、更に好ましくは3mm以上である。一方、成形時の成形型内への充填性を向上させるという観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4.3mm以下である。また、同様の理由から発泡粒子のアスペクト比(L/D)は2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が更に好ましく、また、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。
【0040】
発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比d/Dは0.4以下である。比d/Dが0.4を超える場合には、成形体の外観が低下するおそれがあるとともに、剛性が低下するおそれがある。また、この場合には、型内成形時の発泡粒子の二次発泡性が低下するおそれがある。成形体の外観がより良好になるという観点、剛性がより向上するという観点、二次発泡性がより向上するという観点から、d/Dは、0.35以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。なお、比d/Dは、無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲を拡大するという効果をより安定して発現する観点、及び製造容易性の観点から、0.1以上であることが好ましい。
【0041】
発泡粒子の平均外径Dは、以下のように求められる。発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真を撮影し、発泡粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求める。その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらの算術平均した値を、発泡粒子の平均外径Dとする。なお、各発泡粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合であっても、各発泡粒子の外径は上記のように貫通方向と垂直方向での発泡粒子の切断面の面積が最大となる位置での外径によって定められる。
【0042】
筒形状の発泡粒子の肉厚tの平均値は1.2mm以上2mm以下であることが好ましい。肉厚tの平均値がこの範囲内であれば、発泡粒子の肉厚が十分に厚いため、型内成形時の二次発泡性がより向上するため、より低い成形加熱温度で無加圧・無養生成形が可能となる。また、外力に対して発泡粒子がより潰れにくくなり、成形体の剛性がより向上する。これらの観点から、発泡粒子の平均肉厚tは、より好ましくは1.3mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上である。
【0043】
発泡粒子の平均肉厚tは、発泡粒子の表面(つまり、外表面)から貫通孔の外縁(つまり、発泡粒子の内表面)までの距離であり、下記式(1)により求められる値である。
t=(D-d)/2 ・・・(1)
d:貫通孔の平均孔径(mm)
D:発泡粒子の平均外径(mm)
【0044】
また、発泡粒子の平均外径Dに対する平均肉厚tの比t/Dは0.35以上0.5以下であることが好ましい。t/Dが上記範囲内であれば、発泡粒子の型内成形において、発泡粒子の充填性がよく、二次発泡性がより向上する。したがって、剛性に優れる成形体をより低い成形加熱温度で製造することができる。
【0045】
成形体の軽量性と剛性とのバランスの観点から、発泡粒子の見掛け密度は、10kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは15kg/m3以上80kg/m3以下、さらに好ましくは20kg/m3以上50kg/m3以下であり、特に好ましくは25kg/m3以上45kg/m3以下である。従来、特に見掛け密度の小さい成形体を製造する場合には、成形体が離型後に著しく変形しやすく、養生工程を省略することは困難であった。これに対し、本開示における発泡粒子は、見掛け密度が小さい場合であっても、養生工程を省略することが可能であり、無養生でも外観の良好な成形体を製造することができる。
【0046】
発泡粒子の見掛け密度は、23℃のアルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて1日放置した発泡粒子群(発泡粒子群の重量W(g))を、金網などを使用して沈め、水位の上昇分から発泡粒子群の体積V(L)を求め、発泡粒子群の重量を発泡粒子群の体積で除し(W/V)、単位を[kg/m3]に換算することにより求めることができる。
【0047】
無加圧・無養生成形が可能な成形加熱温度の範囲をより拡大するという観点、成形体の剛性をより高める観点、外観をより良好なものとする観点から、発泡粒子の嵩密度に対する発泡粒子の見掛け密度の比(つまり、見掛け密度/嵩密度)は、好ましくは1.7以上であり、そして、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.1以下、さらに好ましくは1.9以下である。
【0048】
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求められる。発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1L])で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度が求められる。
【0049】
発泡粒子は、型内成形性に優れ、低温から高温までの広い範囲の成形加熱温度で外観が良好で剛性の高い成形体を製造することができる。また、前処理加圧、養生工程を省略しても成形体が著しく収縮、変形することなく、外観が良好で、剛性の高い成形体を製造することができる。発泡粒子がこのような効果を奏する理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
【0050】
発泡粒子の発泡芯層は、曲げ弾性率が特定以上のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂としている。したがって、離型後に成形体が収縮することを抑制しやすく、高温の成形加熱温度条件であっても、寸法変化が抑制されると考えられる。
また、発泡粒子が発泡芯層と被覆層とを有する多層構造を有し、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点が所定以下であるとともに、発泡粒子が所定の形状の貫通孔を有する。したがって、発泡粒子が融着性及び二次発泡性に優れるため、より低い成形加熱温度で成形することが可能である。そして、低い成形加熱温度での成形により、型内成形においてスチーム等の加熱媒体により発泡粒子が受ける熱量を低く抑えることができる。また、離型後の成形体の内部温度が過度に高くなることが抑制される。これらの結果、成形体の寸法変化が抑制されると考えられる。
さらに、成形体が発泡粒子の貫通孔に由来する連通した微小な空隙を有する。そのため、離型後速やかに成形体内部の気泡まで空気が流入し、成形体全体の内圧が高められる結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなると考えられる。
以上の理由により、発泡粒子が、無加圧・無養生成形であっても、発泡性が良好であり、かつ成形体の寸法が安定しやすいため、低温から高温までの幅広い成形加熱温度範囲で良好な成形体を製造することができるものとなると考えられる。
【0051】
発泡粒子は、たとえば、ポリプロピレン系樹脂から構成された芯層と、芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有する多層樹脂粒子を分散媒(例えば、液体)に分散させ、多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、発泡剤を含む多層樹脂粒子を低圧下に放出する方法(つまり、分散媒放出発泡方法)により製造することができる。具体的には、多層樹脂粒子を、密閉容器内で分散媒に分散させ、加熱後、発泡剤を圧入して多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させることが好ましい。その後、一定温度にて二次結晶を成長させる保持工程を経た後、密閉容器内の内容物を低圧下に放出することにより発泡剤を含む多層樹脂粒子における少なくとも芯層を発泡させて発泡粒子を得ることが好ましい。このように、分散媒放出発泡方法により一度の発泡工程で発泡粒子を製造することを一段発泡ともいう。
【0052】
本開示の発泡粒子は、好ましくは次の製造方法により製造される。
その製造方法は、貫通孔を有する筒形状の多層樹脂粒子を発泡させて見掛け密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である発泡粒子を製造する方法であって、
上記多層樹脂粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成された芯層と、該芯層を被覆する、ポリオレフィン系樹脂から構成された被覆層とを有し、該被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmrsが上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmrcよりも低く、
上記多層樹脂粒子の上記貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であるとともに、上記多層樹脂粒子の平均外径Drに対する上記平均孔径drの比dr/Drが0.4以下であり、
上記芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が1200MPa以上、かつ融点Tmrcが158℃以下である、発泡粒子の製造方法にある。
この方法によれば、後述する二段発泡を行うことなく、低密度の発泡粒子を容易に製造することができる。
また、多層樹脂粒子の発泡にあたっては、密閉容器内で水性媒体に分散させた多層樹脂粒子に加熱下で発泡剤を含浸させ、発泡剤を含む多層樹脂粒子を水性媒体と共に密閉容器から放出して発泡させることが好ましい。水性媒体は、具体的には、水等の液体である。
多層樹脂粒子の平均孔径drが0.25mm未満であっても、製造しようとする発泡粒子の発泡倍率によっては(つまり、発泡粒子の見掛け密度によっては)発泡粒子の平均孔径dが1mm以上にまで大きくなるおそれがある。上記製造方法では、平均孔径dr0.25mm未満の多層樹脂粒子を発泡させて、見掛け密度10kg/m3以上100kg/m3以下の発泡粒子を製造している。そのため、発泡粒子の平均孔径dを例えば1mm未満にすることができる。
また、上記製造方法によれば、例えば一段発泡により高倍率(つまり、低密度)の発泡粒子を製造することができ、具体的には、後述する二段発泡を行うことなく、一段発泡により見掛け密度が45kg/m3以下の発泡粒子を製造することが可能になる。
【0053】
多層樹脂粒子は、例えば、次のようなストランドカット法により製造される。芯層形成用押出機と被覆層形成用押出機の2台の押出機を共押出ダイに連結し、芯層形成用押出機では、芯層形成用のポリプロピレン系樹脂と、必要に応じて供給される添加剤とを溶融混練し、被覆層形成用押出機では被覆層形成用のポリオレフィン系樹脂と、必要に応じて供給される添加剤とを溶融混練する。次いで、各溶融混練物を押出し、ダイ内で合流させて、非発泡状態の筒状の芯層と、該筒状の芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる鞘芯型の複合体を形成させ、押出機先端に付設された口金の細孔から複合体をストランド状に押し出しながら水を入れた水槽を通して冷却する。冷却後の押出物は例えばペレタイザーで所望の大きさに切断される。このようにして、貫通孔を有する筒状の芯層と該芯層を被覆する被覆層とからなる多層樹脂粒子を得ることができる。多層樹脂粒子は、上記ストランドカット法のほか、ホットカット法、水中カット法等を採用することができる。
【0054】
多層樹脂粒子の粒子径は、好ましくは0.1~3.0mm、より好ましくは0.3~1.5mmである。また、樹脂粒子の長さ/外径比は、好ましくは0.5~5.0、より好ましくは1.0~3.0である。また、1個当たりの平均質量(無作為に選んだ200個の粒子の質量から求める)は、0.1~20mgとなるように調製されることが好ましく、より好ましくは0.2~10mg、更に好ましくは0.3~5mg、特に好ましくは0.4~2mgである。多層樹脂粒子における芯層と被覆層の質量比率は、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。
【0055】
多層樹脂粒子における芯層の貫通孔の孔径drを調整することにより、発泡粒子における発泡芯層の貫通孔の平均孔径dを上記所望の範囲に調整することができる。多層樹脂粒子の芯層の貫通孔の孔径drは、たとえば貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(つまり、ダイスの内径)により調整することができる。また、多層樹脂粒子の粒子径、平均質量を調整することにより、発泡粒子の平均外径、平均肉厚を上記所望の範囲に調整することができる。
貫通孔の平均孔径dが1mm未満であるとともに、平均外径Dに対する平均孔径dの比d/Dが0.4以下である発泡粒子をより確実に製造する観点から、多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drが0.24mm未満であることがより好ましく、0.22mm以下であることが更に好ましい。貫通孔を有する多層樹脂粒子の製造安定性の観点からは、多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは0.1mm以上であることが好ましい。
また、同様の観点から、多層樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることが更に好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。貫通孔を有する多層樹脂粒子の製造安定性の観点からは、多層樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.1以上であることが好ましい。
【0056】
多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは、以下のように求められる。多層樹脂粒子群から無作為に選択した50個以上の多層樹脂粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各多層樹脂粒子の切断面の写真を撮影し、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求める。その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drとする。なお、各多層樹脂粒子の貫通孔の大きさが、貫通孔径が貫通方向に一様でない場合であっても、各多層樹脂粒子の貫通孔径は、上記のように多層樹脂粒子の切断面の面積が最大となる位置での孔径によって定められる。
【0057】
多層樹脂粒子の平均外径Drは、以下のように求められる。多層樹脂粒子群から無作為に選択した50個以上の多層樹脂粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各多層樹脂粒子の切断面の写真を撮影し、多層樹脂粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求める。その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらの算術平均した値を、多層樹脂粒子の平均外径Drとする。なお、各多層樹脂粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合であっても、各多層樹脂粒子の外径は上記のように貫通方向と垂直方向での多層樹脂粒子の切断面の面積が最大となる位置での外径によって定められる。
【0058】
なお、ストランドカット法における、多層樹脂粒子の粒子径、長さ/外径比や平均質量の調製は、樹脂溶融物を押出す際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより行うことができる。
【0059】
上記のようにして得られた多層樹脂粒子を密閉容器内で分散させるための分散媒(具体的には液体)としては水性分散媒が用いられる。水性分散媒は、水を主成分とする分散媒(具体的には液体)である。水性分散媒における水の割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。水性分散媒中の水以外の分散媒としては、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0060】
多層樹脂粒子の芯層には、必要に応じて、気泡調製剤、結晶核剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤を添加できる。気泡調製剤としては、タルク、マイカ、ホウ酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、カーボン等の無機粉体;リン酸系核剤、フェノール系核剤、アミン系核剤、ポリフッ化エチレン系樹脂粉末等の有機粉体が挙げられる。気泡調製剤を添加する場合、気泡調製剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~1質量部である。
【0061】
上記分散媒放出発泡方法においては、容器内で加熱された多層樹脂粒子同士が互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、多層樹脂粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物が好ましい。分散剤としては、例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。また、分散剤としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等が挙げられる。分散剤は、1種または2種以上が使用される。これらの中でも分散剤としては粘土鉱物を用いることが好ましい。分散剤は、多層樹脂粒子100質量部当たり0.001~5質量部程度添加することが好ましい。
【0062】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。上記分散助剤の添加量は、上記多層樹脂粒子100質量部当たり、0.001~1質量部とすることが好ましい。
【0063】
多層樹脂粒子を発泡させるための発泡剤としては、物理発泡剤を用いることが好ましい。物理発泡剤は、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤が挙げられ、無機物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。また、有機物理発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。なお、物理発泡剤は単独で用いても、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。また、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤とを混合して用いることもできる。環境に対する負荷や取扱い性の観点から、好ましくは無機物理発泡剤、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。有機物理発泡剤を用いる場合には、ポリプロピレン系樹脂への溶解性、発泡性の観点から、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタンを使用することが好ましい。
【0064】
多層樹脂粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~15質量部である。
【0065】
発泡粒子の製造工程において、多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、多層樹脂粒子を密閉容器内の水性分散媒中に分散させ、加熱しながら、発泡剤を圧入し、多層樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法が好ましく用いられる。
【0066】
発泡時の密閉容器内圧は0.5MPa(G:ゲージ圧)以上であることが好ましい。一方、密閉容器内圧は4.0MPa(G)以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、密閉容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0067】
発泡粒子製造工程における水性分散媒の昇温を、1~5℃/分で行うことで、発泡時の温度も適切な範囲とすることができる。
【0068】
示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線に、樹脂固有の融解ピーク(樹脂固有ピーク)とその高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有する発泡粒子は、例えば、次のようにして得られる。
【0069】
発泡粒子製造工程における加熱時に、(ポリプロピレン系樹脂の融点-20℃)以上、(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度)未満の温度で十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する一段保持工程を行う。その後、(ポリプロピレン系樹脂の融点-15℃)から(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度+10℃)の温度に調節する。そして、必要により、その温度でさらに十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する二段保持工程を行う。次いで、発泡剤を含む発泡性樹脂粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させることにより、上述の結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。発泡は、密閉容器内を(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以上で行われることが好ましく、(ポリプロピレン系樹脂の融点)以上(ポリプロピレン系樹脂の融点+20℃)以下で行われることがより好ましい。
【0070】
また、特に見掛け密度の低い発泡粒子の製造にあたっては、加圧可能な密閉容器に発泡粒子を投入し、空気等の加圧気体を該容器内に圧入することにより加圧処理をして発泡粒子の内圧を高め、発泡粒子を容器内でスチーム等の加熱媒体を用いて所定の時間加熱することにより特に見掛け密度の低い発泡粒子を得る、二段発泡を行うことができる。
【0071】
(成形体の製造)
成形体は、発泡粒子を型内成形すること(つまり、型内成形法)により得ることができる。型内成形法は、発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を用いて加熱成形することにより行われる。具体的には、発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチーム等の加熱媒体を導入することにより、発泡粒子を加熱して二次発泡させると共に、相互に融着させて成形空間の形状が賦形された成形体を得ることができる。
【0072】
(成形体)
成形体は、例えば、発泡粒子を型内成形してなり、相互に融着した多数の発泡粒子から構成されている。成形体は、連通した空隙を有する。成形体の連通した空隙は、複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙や、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間に形成される空隙と連通して形成される空隙や、発泡粒子間の空隙が連通して形成される空隙などが、複雑につながって形成される。
【0073】
成形体の空隙率は、外観と機械的物性とを向上させる観点から、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、養生工程を省略したときの成形体の著しい収縮、変形をより抑制し易くするという観点から、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0074】
成形体の空隙率は、以下のように求めることができる。まず、成形体の中心部分から直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mmの試験片を切り出す。ついで、この試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求める。また、該試験片の外形寸法から見掛けの体積Vd[L]を求める。求められる真の体積Vcと見掛けの体積Vdから下記式(2)により成形体の空隙率を求めることができる。
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(2)
【0075】
成形体の密度は、軽量性と剛性とのバランスの観点から、10kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、15kg/m3以上80kg/m3以下がより好ましく、20kg/m3以上50kg/m3以下がさらに好ましく、25kg/m3以上45kg/m3以下であることが特に好ましい。従来の成形体は、見掛け密度が小さい場合には離型後に著しく収縮、変形しやすいため、養生工程を設けることにより成形体の寸法を回復させる必要があった。本開示における成形体は、見掛け密度が小さい場合であっても、養生工程を設けることなく寸法が安定したものとなる。
成形体の密度は、成形体の重量(g)を成形体の外形寸法から求められる体積(L)で除し、単位換算することにより算出される。なお、成形体の外形寸法から体積を求めることが容易でない場合には、水没法により成形体の体積を求めることができる。
【0076】
上記発泡粒子は、低い成形加熱温度(つまり、低い成形圧)から高い成形加熱温度(つまり、高い成形圧)での成形性に優れ、外観や剛性に優れた成形体が得られるため、良好な成形体を得るための成形可能温度範囲(つまり、成形圧範囲)が広くなる。さらに、発泡粒子の前処理加圧や成形後の養生工程を省略した場合、つまり、無加圧、無養生で成形を行った場合であっても、上記のごとく広い成形圧範囲での成形が可能であり、外観が良好で、剛性などの機械的強度が優れた成形体が得られることから、発泡粒子成形体の生産性を著しく向上させることができる。
【0077】
成形体は、自動車などの車両分野、建築分野等の種々の分野における吸音材、衝撃吸収材、緩衝材等にも用いられる。
【実施例0078】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0079】
実施例、比較例に使用した樹脂、発泡粒子、成形体について、以下の測定及び評価を実施した。なお、発泡粒子の評価は、発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後に行った。
【0080】
<ポリプロピレン系樹脂>
表1に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂の性状等を示す。なお、本例において使用したエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体は、いずれもランダム共重合体である。また、本例において使用したポリプロピレン系樹脂の密度は900kg/m3である。
【0081】
【0082】
(ポリプロピレン系樹脂のモノマー成分含有量)
ポリプロピレン系樹脂(具体的には、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体)のモノマー成分含有量は、IRスペクトルにより決定する公知の方法により求めた。具体的には、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、出版年月:1995年1月、出版社:紀伊国屋書店、ページ番号と項目名:615~616「II.2.3 2.3.4 プロピレン/エチレン共重合体」、618~619「II.2.3 2.3.5 プロピレン/ブテン共重合体」)に記載されている方法、つまり、エチレン及びブテンの吸光度を所定の係数で補正した値とフィルム状の試験片の厚み等との関係から定量する方法により求めた。より具体的には、まず、ポリプロピレン系樹脂を180℃環境下でホットプレスしてフィルム状に成形し、厚みの異なる複数の試験片を作製した。次いで、各試験片のIRスペクトルを測定することにより、エチレン由来の722cm-1及び733cm-1における吸光度(A722、A733)と、ブテン由来の766cm-1における吸光度(A766)とを読み取った。次いで、各試験片について、以下の式(3)~(5)を用いてポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量を算出した。各試験片について得られたエチレン成分含有量を算術平均した値をポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量(単位:wt%)とした。
(K´733)c=1/0.96{(K´733)a-0.268(K´722)a}・・・(3)
(K´722)c=1/0.96{(K´722)a-0.268(K´722)a}・・・(4)
エチレン成分含有量(%)=0.575{(K´722)c+(K´733)c}・・・(5)
ただし、式(3)~(5)において、K´a:各波数における見かけの吸光係数(K´a=A/ρt)、K´c:補正後の吸光係数、A:吸光度、ρ:樹脂の密度(単位:g/cm3)、t:フィルム状の試験片の厚み(単位:cm)を意味する。なお、上記式(3)~(5)はランダム共重合体に適用することができる。
また、各試験片について、以下の式(6)を用いてポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量を算出した。各試験片について得られたブテン成分含有量を算術平均した値をポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量(%)とした。
ブテン成分含有量(%)=12.3(A766/L)・・・(6)
ただし、式(6)において、A:吸光度、L:フィルム状の試験片の厚み(mm)を意味する。
【0083】
(ポリプロピレン系樹脂の融点)
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、該融解ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置は、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0084】
(ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト)
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(つまり、MFR)は、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0085】
(ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率)
ポリプロピレン系樹脂を230℃でヒートプレスして4mmのシートを作製し、このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出した。この試験片の曲げ弾性率を、JIS K7171:2008に準拠して求めた。なお、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mmであり、支点間距離は64mmであり、試験速度は2mm/minである。
【0086】
(ポリプロピレン系樹脂の結晶化温度)
JIS K7121:2012に基づき、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いて、ポリプロピレン系樹脂を10℃/minの加熱速度で23℃から200℃まで昇温させた後、10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却させることによりDSC曲線を得る。このDSC曲線における結晶化ピークのピーク温度を結晶化温度とした。また、DSC曲線に複数の結晶化ピークが表れた場合には、ピーク高さの最も高い結晶化ピークのピーク温度を結晶化温度とした。
【0087】
<多層樹脂粒子、発泡粒子>
表2~表5に、多層樹脂粒子、発泡粒子の性状等を示す。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
(多層樹脂粒子の長さ)
多層樹脂粒子の長さは、以下のように求めた。多層樹脂粒子群から無作為に選択した100個の多層樹脂粒子について、その最大長さをノギスで測定し、これらを算術平均した値を、多層樹脂粒子の長さとした。
【0093】
(多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径dr)
多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径は、以下のように求めた。多層樹脂粒子群から無作為に選択した100個の多層樹脂粒子について、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各多層樹脂粒子の切断面の写真を撮影し、断面写真における貫通孔部分の断面積(開口面積)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、多層樹脂粒子の貫通孔の平均孔径(dr)とした。
【0094】
(多層樹脂粒子の平均外径Dr)
多層樹脂粒子の平均外径は、以下のように求めた。多層樹脂粒子群から無作為に選択した100個の多層樹脂粒子について、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各多層樹脂粒子の切断面の写真を撮影し、多層樹脂粒子の断面積(貫通孔の開口部も含む)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、多層樹脂粒子の平均外径(Dr)とした。
【0095】
(発泡粒子の貫通孔の平均孔径d)
発泡粒子の貫通孔の平均孔径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真を撮影し、断面写真における貫通孔部分の断面積(開口面積)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径(d)とした。
【0096】
(発泡粒子の平均外径D)
発泡粒子の平均外径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真を撮影し、発泡粒子の断面積(貫通孔の開口部も含む)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の平均外径(D)とした。
【0097】
(平均肉厚t)
発泡粒子の平均肉厚は、下記式(7)により求めた。
平均肉厚t=(平均外径D-平均孔径d)/2・・・(7)
【0098】
(アスペクト比L/D)
発泡粒子の平均外径D及び貫通孔の平均孔径dを測定する前の、100個の発泡粒子について、貫通孔の貫通方向における最大長をノギスで測定し、これらを算術平均することにより発泡粒子の平均長さLを求め、平均長さLを平均外径Dで除することにより、発泡粒子の平均アスペクト比L/Dを求めた。
【0099】
(見掛け密度)
発泡粒子の見掛け密度は、以下のように求めた。まず、温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダーを用意し、状態調節後の任意の量の発泡粒子群(発泡粒子群の質量W1[g])をメスシリンダー内のエタノール中に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積V1[L]を測定した。メスシリンダーに入れた発泡粒子群の質量W1[g]を容積V1[L]で除して(W1/V1)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求めた。
【0100】
(嵩密度)
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1[L])で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度を求めた。
【0101】
(嵩倍率)
発泡粒子の嵩倍率[倍]は、以下のようにして求めた。発泡芯層を構成する樹脂の密度[kg/m3]を上記嵩密度[kg/m3]で除すことにより求めた。
【0102】
(発泡粒子のDSC曲線の各ピークの融解熱量)
状態調節を行った後の発泡粒子群から1個の発泡粒子を採取した。この発泡粒子を試験片として用い、試験片を示差熱走査熱量計(具体的には、ティー・エイ・インスツルメント社製DSC.Q1000)によって23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温させたときのDSC曲線を得た。
図3にDSC曲線の一例を示す。
図3に例示されるように、DSC曲線には、樹脂固有ピークΔH1と、樹脂固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
次いで、DSC曲線上における温度80℃での点αと、発泡粒子の融解終了温度Tでの点βとを結び直線L1を得た。次に、上記の樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線L2を引き、直線L1と直線L2との交わる点をδとした。なお、点γは、樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点ということもできる。
樹脂固有ピークΔH1の面積は、DSC曲線の樹脂固有ピークΔH1部分の曲線と、線分α-δと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを樹脂固有ピークの融解熱量とした。
高温ピークΔH2の面積は、DSC曲線の高温ピークΔH2部分の曲線と、線分δ-βと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを高温ピークの融解熱量とした。
全融解ピークの面積は、DSC曲線の樹脂固有ピークΔH1部分の曲線と高温ピークΔH2部分の曲線と、線分α-β(つまり、直線L1)とによって囲まれる部分の面積であり、これを全融解ピークの融解熱量とした。
上記測定を5個の発泡粒子について行い、算術平均した値を表3、表5に示した。
【0103】
(発泡粒子の独立気泡率)
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70に基づき空気比較式比重計を用いて測定した。具体的には、次のようにして求めた。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により正確に見掛けの体積Vaを測定した。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、東芝・ベックマン株式会社製「空気比較式比重計930」により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定した。そして、これらの体積値Va及びVxを基に、下記の式(8)により独立気泡率を計算し、サンプル5個(N=5)の平均値を発泡粒子の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(8)
ただし、
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(cm3)
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される発泡粒子の見掛けの体積(cm3)
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0104】
(無加圧・無養生成形可能範囲)
無加圧・無養生成形可能範囲は、前処理加圧及び養生工程を行わずに、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形圧範囲を調べることにより評価した。具体的には、まず、後述の<成形体の製造>の方法で、成形スチーム圧を0.20~0.36MPa(G)の間で0.02MPaずつ変化させて成形体を成形した。離型後の成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置した後、後述の融着性、回復性、表面性(つまり、外観)の評価を行い、融着性及び回復性の評価結果がいずれも「A」である成形体が得られる成形スチーム圧の範囲を測定した。成形可能なスチーム圧の下限値から上限値までの幅が広いものほど、成形可能な成形加熱温度範囲が広いことを意味する。
【0105】
<成形体>
表6、表7に、成形体の成形条件、性状等を示す。また、表8、表9に、上記(無加圧・無養生成形可能範囲)の評価における、各成形スチーム圧で成形したときの成形体の融着性、回復性、表面性(つまり、外観)の評価結果を示す。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
(融着性)
成形体を折り曲げて破断させ、破断面に存在する発泡粒子の総数C1と発泡粒子自体が破断(材料破壊)した発泡粒子の数C2とを求め、上記発泡粒子の総数C1に対する材料破壊した発泡粒子の数C2の比率(つまり、材料破壊率)を算出した。材料破壊率は、C2/C1×100という式から算出される。異なる試験片を用いて上記測定を5回行い、材料破壊率をそれぞれ求めた。材料破壊率の算術平均値が90%以上である場合を「A」と評価し、70%以上かつ90%未満である場合を「B」と評価し、70%未満の場合を「C」と評価した。
【0111】
(回復性)
縦300mm、横250mm、厚み60mmの平板形状の金型を用いて得られた成形体における四隅部付近(具体的には、角より中心方向に10mm内側)の厚みと、中心部(縦方向、横方向とも2等分する部分)の厚みをそれぞれ計測した。次いで、四隅部付近のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する中心部の厚みの比(単位:%)を算出し、比が95%以上である場合を「A」と評価し、90%以上かつ95%未満である場合を「B」と評価し、90%未満である場合を「C」と評価した。
【0112】
(表面性(つまり、外観))
外観は、成形体の表面性を評価することにより行った。具体的には、下記基準に基づいて評価した。
A:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙がほとんどなく、かつ貫通孔等に起因する凹凸が目立たない良好な表面状態を示す。
B:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔等に起因する凹凸がやや認
められる。
C:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔等に起因する凹凸が著しく
認められる。
【0113】
上記無加圧・無養生成形可能範囲のうち、最も低い成形圧(MPa(G))で得られた成形体を用いて成形体の空隙率、成形体密度、50%圧縮応力の測定を行った。具体的には、離型後の成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて12時間静置した成形体を各測定に用いた。なお、実施例2及び比較例2においては0.34MPa(G)の成形圧で得られた成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて12時間静置したものを各測定に用いた。
【0114】
(成形体の空隙率)
成形体の空隙率は、以下のように求めた。成形体の中心部分から切り出した直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mmの試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求めた。また、該試験片の外形寸法から見掛けの体積Vd[L]を求めた。求められた真の体積Vcと見掛けの体積Vdから下記式(2)により成形体の空隙率を求めた。
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(2)
【0115】
(成形体密度)
成形体密度(kg/m3)は、成形体の重量(g)を成形体の外形寸法から求められる体積(L)で除し、単位換算することにより算出される。
【0116】
(剛性)
剛性の評価は、50%圧縮応力を測定することにより評価した。具体的には、まず、成形体の表面にあるスキン層が試験片に含まれないように、成形体の中心部から縦50mm×横50mm×厚み25mmの試験片を切り出した。JIS K6767:1999に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行い成形体の50%圧縮応力を求めた。なお、50%圧縮応力の測定に用いた試験片の密度を上記成形体密度の測定と同様の方法により求め、「切り出し成形体密度」として表6、表7に表示した。
【0117】
(水冷時間)
後述の<成形体の製造>において、加熱終了後、放圧し、成形型内面に取付けられた面圧計の値が0.04MPa(G)に低下するまで水冷する際に要した時間(つまり、水冷時間)を測定した。
【0118】
(乾燥サイクル)
乾燥サイクルの評価は次のようにして行った。後述の<成形体の製造>において、無加圧・無養生成形可能範囲のうち、最も低いMPa(G)の成形圧(MPa(G))で得られた成形体を相対湿度50%、80℃、1atmの条件にて2時間乾燥した成形体について、その含水率を測定し、以下の基準により評価した。なお、成形体の含水率(%)は、乾燥前の成形体の質量Ww(g)と乾燥後の成形体の質量Wd(g)から下記式(9)により算出した。
Good:含水率が3%以下
Poor:含水率が3%超
含水率(%)=[(Ww-Wd)/Ww]×100・・・(9)
【0119】
以下、実施例1~5、比較例1~6における、発泡粒子の製造方法及び成形体の製造方法を説明する。
【0120】
(実施例1)
<ポリプロピレン系発泡粒子の製造>
多層樹脂粒子をストランドカット法により製造した。まず、ポリプロピレン系樹脂1(略称PP1)を芯層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して樹脂溶融物を得た。PP1の特性を表1に示す。また、ポリプロピレン系樹脂6(略称PP6)を被覆層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して樹脂溶融物を得た。次いで、芯層形成用押出機及び被覆層形成用押出機から各樹脂溶融物を、貫通孔を形成するための孔径を備えた共押出ダイの小孔から押出した。このとき、ダイ内で各樹脂溶融物を合流させて、非発泡状態の筒状の芯層と、該筒状の芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる鞘芯型の複合体を形成させた。押出機先端に付設された口金の細孔から複合体を、貫通孔を有す筒形状を有するストランド状に押し出し、ストランド状物を引取ながら水冷した後、ペレタイザーで質量が約1.5mgとなるように切断した。このようにして、貫通孔を有する円筒状の芯層と該芯層を被覆する被覆層とからなる多層樹脂粒子を得た。なお、多層樹脂粒子の製造に際し、芯層形成用押出機に気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛を供給し、ポリプロピレン系樹脂中にホウ酸亜鉛500質量ppmを含有させた。
【0121】
多層樹脂粒子1kgを、分散媒としての水3Lともに5Lの密閉容器内に仕込み、更に多層樹脂粒子100質量部に対し、分散剤としてカオリン0.3質量部、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.004質量部を密閉容器内に添加した。発泡剤としてドライアイス70gを密閉容器内に添加した後、密閉容器を密閉し、密閉容器内を攪拌しながら発泡温度157.2℃まで加熱した。このときの容器内圧力(含浸圧力)は3.7MPa(G)であった。同温度(つまり、157.2℃)で15分保持した後、容器内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。この発泡粒子を23℃で24時間乾燥させた。このようにして嵩倍率40.0倍の発泡粒子を得た。これを発泡粒子Aという。
【0122】
<成形体の製造>
成形体の製造には、発泡粒子を23℃で24時間乾燥させたものを用いた。次いで、クラッキング量を20%(つまり、12mm)に調節した、縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形型に発泡粒子を充填し、型締めして金型両面からスチームを5秒供給して予備加熱する排気工程を行った。その後、所定の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、金型の一方の面側からスチームを供給して一方加熱を行った。次いで、成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで金型の他方の面側よりスチームを供給して一方加熱を行った後、所定の成形圧に達するまで加熱(つまり、本加熱)を行った。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで水冷した後、型から離型して成形体を得た。
【0123】
(実施例2)
発泡粒子Aを用いて、成形条件を表6に示すように変更して成形体を製造した。
【0124】
(実施例3)
発泡粒子Aを、密閉容器内に入れ、圧縮空気により発泡粒子を加圧し、発泡粒子に予め表6に示す内圧を付与する前処理加圧を行なった後、成形型へ充填し、表6に示す成形条件で成形して成形体を製造した。
【0125】
(実施例4)
発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、表2及び表3に示す、嵩倍率37.5倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子B」とする。また、発泡粒子Bを用い、成形条件を表6に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0126】
(実施例5)
ポリプロピレン系樹脂1を第1ポリプロピレン系樹脂としてのPP1と第2ポリプロピレン系樹脂としてのPP2との混合樹脂(略称PP4)に変更し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、表2及び表3に示す、嵩倍率40.0倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子D」とする。なお、PP1とPP2との混合比(但し、質量比)は、80:20(ただし、PP1:PP2)である。PP4の特性を表1に示す。また、発泡粒子Dを用い、成形条件を表6に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0127】
(実施例6)
ポリプロピレン系樹脂1を第1ポリプロピレン系樹脂としてのPP1と第2ポリプロピレン系樹脂としてのPP2との混合樹脂(略称PP5)に変更し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、表2及び表3に示す、嵩倍率39.1倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子J」とする。なお、PP1とPP2との混合比(但し、質量比)は、95:5(ただし、PP1:PP2)である。PP5の特性を表1に示す。また、発泡粒子Jを用い、成形条件を表6に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0128】
(実施例7)
発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、表2及び表3に示す、嵩倍率17.7倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子K」とする。また、発泡粒子Kを用い、成形条件を表6に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0129】
(実施例8)
多層樹脂粒子の製造において、芯層及び被覆層にそれぞれカーボンブラックの配合量が2.7質量%となるよう添加したこと、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、表2及び表3に示す、嵩倍率35.7倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子L」とする。また、発泡粒子Lを用い、成形条件を表6に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0130】
(比較例1、比較例2)
本例は、大きな貫通孔を有する発泡粒子の例である。本例では、貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(つまり、ダイス内径)を変更して貫通孔を大きくし、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして、表4、表5に示す、嵩倍率36.0倍の発泡粒子を得た。本例の発泡粒子を「発泡粒子E」とする。また、発泡粒子Eを用い、成形条件を表7に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。発泡粒子Eは、無加圧・無養生成形可能な成形圧の範囲がやや狭かった。また、得られる成形体の剛性や外観が著しく劣っていた。さらに、乾燥サイクルの点でも不十分であった。
【0131】
(比較例3)
本例は、貫通孔を有さない発泡粒子の例である。本例では、多層樹脂粒子の製造時に、貫通孔を有さない樹脂粒子を製造した。また、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表4に示す値に変更した。その他は、実施例1と同様にして、嵩倍率17.8倍の発泡粒子(具体的には、一段発泡粒子)を得た。次いで、耐圧容器内に一段発泡粒子を入れ、耐圧容器内に空気を圧入することにより、容器内の圧力を高め、空気を気泡内に含浸させて一段発泡粒子の気泡内の内圧を高めた。このときの一段発泡粒子における気泡内の圧力(ただし、ゲージ圧)は表2に示す値であった。次いで、内圧を高めた一段発泡粒子を耐圧容器から取り出し、金属製のドラム内に入れ、ドラム内の圧力が表2に示す加熱時のスチーム圧力となるようスチームを供給し、大気圧下で加熱した。以上により、一段発泡粒子の見掛け密度を低下させ、嵩倍率37.5倍の発泡粒子(二段発泡粒子)を得た。このようにして得られた発泡粒子を「発泡粒子F」とする。発泡粒子Fは、貫通孔を有さない略球形の発泡粒子であった。また、発泡粒子Fを用い、成形条件を表7に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。発泡粒子Fは、無加圧・無養生成形可能な成形圧の範囲が狭かった。
【0132】
(比較例4)
本例は、曲げ弾性率が小さなポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層を有する発泡粒子の例である。本例では、ポリプロピレン系樹脂1をポリプロピレン系樹脂2(略称PP2)に変更し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表4に示す値に変更した。また、比較例3と同様に、一段発泡粒子を得た後、一段発泡粒子の見掛け密度を低下させ、嵩倍率37.5倍の二段発泡粒子を作製した。PP2の特性を表1に示す。本例の発泡粒子(つまり、二段発泡粒子)を「発泡粒子G」とする。また、発泡粒子Gを用い、成形条件を表7に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。発泡粒子Gは、無加圧・無養生成形可能な成形圧の範囲が狭かった。
【0133】
(比較例5)
本例は、融点が高いポリプロピレン系樹脂から構成された発泡芯層を有する発泡粒子の例である。本例では、ポリプロピレン系樹脂1をポリプロピレン系樹脂3(略称PP3)に変更し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして嵩倍率34.6倍の発泡粒子を作製した。PP3の特性を表1に示す。本例の発泡粒子を「発泡粒子H」とする。また、発泡粒子Hを用い、成形条件を表7に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。発泡粒子Hは、成形性に劣っていた。また、無加圧・無養生成形可能な成形圧の範囲が狭かった。
【0134】
(比較例6)
本例は、被覆層を有さない発泡粒子の例である。本例では、被覆層形成用押出機を用いずに、ポリプロピレン系樹脂1を1つの押出機から押出した以外は、実施例1と同様にして嵩倍率41.5倍の発泡粒子を作製した。本例の発泡粒子を「発泡粒子I」とする。また、発泡粒子Iを用い、成形条件を表7に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして成形体を製造した。発泡粒子Iは、成形性に劣っていた。また、無加圧・無養生成形可能な成形圧の範囲が狭かった。
【0135】
表1~表3、表6、表8より理解されるように、実施例1~8の発泡粒子によれば、無加圧、無養生での成形が可能であり、無加圧、無養生による成形でも、低圧から高圧までの幅広い成形圧範囲で、外観や剛性に優れた発泡粒子成形体が得られている。また、実施例1~5の発泡粒子により得られる発泡粒子成形体は乾燥時間が短い。したがって、剛性や外観に優れた発泡粒子成形体を生産性良く製造することができる。