(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127582
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】帯鋸刃
(51)【国際特許分類】
B23D 61/12 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
B23D61/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003842
(22)【出願日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2021024858
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】伊勢田 淳
(72)【発明者】
【氏名】高先 純也
(57)【要約】
【課題】切断加工でバリが生じにくく安価な帯鋸刃を提供する。
【解決手段】帯鋸刃(91,91A,91B)は、厚さ1.6mmの胴部(911)の側面(Sa,Sb)に対し側逃げ角αで、かつ振り出し量Aで振り出されたアサリ歯(Lw,Rw,LwA,RwA)を有している。帯鋸刃(91,91A,91B)は、アサリ歯(Lw,Rw,LwA,RwA)の外コーナ部(P2,P4)と、その外コーナ部(P2)よりも歯高方向で高い位置にある内コーナ部(P3,P5)との高低差をコーナ部高低差Bとしたときに、0.80mm≦A≦1.10mm、0.14mm≦B≦0.38mm、5°≦α≦13.7°となっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1.6mmの胴部の側面に対し側逃げ角αで、かつ振り出し量Aで振り出されたアサリ歯を有し、
前記アサリ歯の外コーナ部と前記外コーナ部よりも歯高方向で高い位置にある内コーナ部との高低差をコーナ部高低差Bとしたときに、
0.80mm≦A≦1.10mm
0.14mm≦B≦0.38mm
5°≦α≦13.7°
である帯鋸刃。
【請求項2】
前記アサリ歯は、少なくとも、第1屈曲位置で前記振り出し方向に屈曲され、前記第1屈曲位置よりも前記アサリ歯の先端部側に位置する第2屈曲位置で前記振り出し方向とは反対の方向に屈曲されている、請求項1記載の帯鋸刃。
【請求項3】
前記胴部から延伸する第1直歯と、前記第1直歯の後方に隣接配置された前記アサリ歯と、を有する第1歯組と、
前記第1歯組の後方に隣接配置され、かつ、前記胴部から延伸する第2直歯と、前記第2直歯の後方に隣接配置された前記アサリ歯と、を有する第2歯組と、
を備え、
前記第1直歯の後方に隣接配置された前記アサリ歯の振り出し方向と、前記第2直歯の後方に隣接配置された前記アサリ歯の振り出し方向とは反対方向である、請求項1又は請求項2に記載の帯鋸刃。
【請求項4】
前記アサリ歯よりも前記振り出し量Aが小さい第2のアサリ歯を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の帯鋸刃。
【請求項5】
前記アサリ歯は、逃げ面に二段以上の逃げ角を有し、
前記逃げ角のうち、歯底側の逃げ角は、歯先側の逃げ角よりも大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載の帯鋸刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋸刃に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、金属製のワークの切断時におけるバリの発生を抑制できる帯鋸刃が記載されている。特許文献1に記載された帯鋸刃は、直歯と左アサリ歯及び右アサリ歯とを有し、左アサリ歯及び右アサリ歯は、外側コーナ部の歯高が内側コーナ部の歯高よりも高く、直歯は、歯高が左アサリ歯及び右アサリ歯の外側コーナ部の歯高と同じに、又は小さく構成されている。
【0003】
そのため、この帯鋸刃は、切断終了時のワークの切り落としが、歯高の最も高い部分となる左アサリ歯及び右アサリ歯それぞれの外側コーナ部で行われる。これにより、特許文献1に記載された帯鋸刃は、金属製のワークの切断においてバリが発生しにくい。
【0004】
バリは、切断面の最後に切断されるべき切断縁の一方に切断されずに連結して残る残存片である。このバリは、長さの大小に応じ、長さが大きいものを大バリ、小さいものを小バリと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された帯鋸刃を製造するには、左右のアサリ歯の内側コーナ部の歯高を外側コーナ部の歯高よりも低くするため、砥石などによる研磨が必要であり、製造コストの低減に限界がある。そのため、帯鋸刃は、切断加工でバリが生じにくく安価であることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る帯鋸刃の一態様は、厚さ1.6mmの胴部の側面に対し側逃げ角αで、かつ振り出し量Aで振り出されたアサリ歯を有し、前記アサリ歯の外コーナ部と前記外コーナ部よりも歯高方向で高い位置にある内コーナ部との高低差をコーナ部高低差Bとしたときに、
0.80mm≦A≦1.10mm
0.14mm≦B≦0.38mm
5°≦α≦13.7°
である。本発明の一態様の帯鋸刃は、アサリ歯の振り出し量Aが0.80mm≦A≦1.10mm、コーナ部高低差Bが0.14mm≦B≦0.38mm、側逃げ角が5°≦α≦13.7°なので、切断加工でのバリの発生が抑制されると共に切削騒音が抑制される。この帯鋸刃は、内コーナ部が外コーナ部よりも歯高方向で高い位置にあって研磨工程が不要なので、安価に製造できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、切断加工でバリが生じにくく安価な帯鋸刃が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る帯鋸刃の実施例である帯鋸刃91を示す図であり、
図1(a)は部分側面図、
図1(b)は部分下面図である。
【
図2】
図2は、
図1(a)におけるS2-S2位置での部分断面図であって、帯鋸刃91の歯部912におけるアサリ歯Lwの曲げ形状を示す図である。
【
図3】
図3は、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせとバリの発生程度との関係を示した表である。
【
図4】
図4は、帯鋸刃91の変形例1である帯鋸刃91Aにおける、アサリ歯LwAの二段曲げ形状を示す断面図である。
【
図5】
図5は、帯鋸刃91Aにおける、アサリ歯LwA,RwAの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を示した表である。
【
図6】
図6は、4種類の歯パターンとバリの発生状況との関係を示す表である。
【
図7】
図7は、8枚交互歯パターンTPLRを有する帯鋸刃91Bにおける、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を示した表である。
【
図8】
図8は、アサリ歯Lwの側逃げ角αと切削騒音Nsとの関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、帯鋸刃91における、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
【
図10】
図10は、帯鋸刃91Aにおける、アサリ歯LwA,RwAの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
【
図11】
図11は、帯鋸刃91Bにおける、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
【
図17】
図17は、実施形態に係る帯鋸刃の側逃げ角α、振り出し量A、及びコーナ部高低差Bを測定するために用いられる試験片95を示す側面図である。
【
図19】
図19は、帯鋸刃91でワークピースWを切断する際の、バリの発生の態様を示す模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明において、帯鋸刃の走行方向とは逆の方向を単に後方という。帯鋸刃を走行方向に循環走行させながら、ワークピースWに対して切断方向に移動させることで、ワークピースWを切断することができる。
図1(a)に示す例では、帯鋸刃の走行方向は
図1(a)の上方である。また、
図6の表中に示された歯組のパターンでは、表における左方が走行方向に相当する。
【0011】
また、以下の説明において、走行方向を上方とし、かつ帯鋸刃を歯部側から見た場合における左方向のことを単に左方という。
図1(b)に示す例では、帯鋸刃の左方は
図1(b)の左方向である。また、走行方向を上方とし、かつ帯鋸刃を歯部側から見た場合における右方向のことを単に右方という。
図1(b)に示す例では、帯鋸刃の右方は
図1(b)の右方向である。また、
図6の表中に示された歯組のパターンの各々では、表における上方が左方に相当し、表における下方が右方に相当する。
【0012】
また、以下の説明において、高さ方向とは、帯鋸刃の走行方向に垂直、かつ胴部の厚さ方向に垂直な方向である。
図1(a)に示す例では、帯鋸刃91の走行方向に垂直、かつ胴部911の厚さ方向に垂直な方向である。
【0013】
また、以下の説明において、歯高方向とは、高さ方向のうち、帯鋸刃の胴部から直歯が延伸する方向をいう。
図2、及び
図4に示す例における歯高方向は、
図2、及び
図4の下方に相当する。また、
図2、及び
図4の下方に向かうほど歯高方向において高い位置であり、上方に向かうほど歯高方向において低い位置である。例えば、直歯S又はアサリ歯Lwの先端に向かうほど、歯高方向における位置は高くなる。
【0014】
なお、以下の説明において、同一の機能を有する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
(実施例)
図1は、実施形態に係る帯鋸刃の実施例である帯鋸刃91を示す図であり、
図1(a)は部分側面図、
図1(b)は部分下面図である。帯鋸刃91は、厚さtの帯状の胴部911を有する。胴部911は、帯鋸刃91の走行方向における端部と、後方における端部とが接合されており、無端状の形状を有する。胴部911の一方の縁部には、歯部912が形成されている。
【0016】
歯部912には、P01~P05の歯先間ピッチをピッチパターンとして形成された複数の歯の組である歯組Tsが、連続して繰り返し形成されている。歯組Tsに含まれる歯は、帯鋸刃91の走行方向先頭側から順に、直歯S,アサリ歯Lw,アサリ歯Rw,アサリ歯Ln,アサリ歯Rnの計5つである。直歯Sは胴部911から歯高方向に延伸している。アサリ歯Lw及びアサリ歯Lnは、歯部912の歯を胴部911に近い位置で胴部911に対し左方に折り曲げて振り出したアサリ歯であり、振り出し量はアサリ歯Lnよりもアサリ歯Lwの方が大きい。アサリ歯Rw及びアサリ歯Rnは、歯部912の歯を胴部911に近い位置で胴部911に対し右方に折り曲げて振り出したアサリ歯であり、振り出し量はアサリ歯Rnよりもアサリ歯Rwの方が大きい。
図1(b)に示される歯組Tsのパターンは、直歯Sの次に左方に振り出すアサリ歯Lwを有するので、基本歯パターンL先TPLとも称する。走行方向先頭側から見た、歯組Tsのパターンにおけるアサリ歯Lw及びアサリ歯Rwの形状は左右対称である。歯組Tsは、少なくとも、振り出し量が0(ゼロ)の直歯Sと、左方に振り出した第1のアサリ歯Lw及び第2のアサリ歯Lnと、右方に振り出した第1のアサリ歯Rw及び第2のアサリ歯Rnとを含んで構成されている。このように振り出し量が異なる第1のアサリ歯Lw,Rwと第2のアサリ歯Ln,Rnを有することで、ワークピースWを切削する際に発生する切粉を細分化することができる。また、例えば歯組を走行方向に先頭側から直歯S、アサリ歯Ln、アサリ歯Rn、アサリ歯Lw、アサリ歯Rwの順となるように構成してもよい。これにより、当該歯組において走行方向先頭側から後方に向かうほど振り出し量が大きくなる。そのため、ワークピースWを切削する際に、切削溝の幅が段階的に拡幅される。これにより、切削時に帯鋸刃に入力される負荷を抑制することができる。
【0017】
次に、アサリ歯Lwの振り出し形状などを
図2により説明する。
図2は、
図1(a)におけるS2-S2位置での部分断面図であって、帯鋸刃91の歯部912におけるアサリ歯Lwの曲げ形状を示す図である。
図2には、歯組Tsにおける直歯S及びその次のアサリ歯Lwの2つの歯が示されている。
図2に示されるアサリ歯Lwの振り出し形状を基本振り出し形状と称する。
【0018】
アサリ歯Lwは、折り曲げ前において直歯Sと同じ形状及び寸法の歯であって、胴部911に近い位置で左方に曲げて振り出させることで形成される。詳しくは、アサリ歯Lwは、歯厚が厚さtであり、先端側の部位が屈曲位置P1を起点として角度αで左方に曲げられ、直歯Sの左の側面Saに対し左方に張り出している。直歯Sの左の側面Saは、胴部911の左方側の側面914を含む平面と同じ平面に延在している。アサリ歯Lwの外コーナ部P2は、左の側面Saに対し左方へ距離Aだけ突出している。外コーナ部P2は、アサリ歯Lwの先端部Lwbにおける振り出し方向側に形成された角部である。図示した例では、外コーナ部P2は、先端部Lwbのうち左方側を構成している。
【0019】
角度αは、直歯Sの左の側面Saとアサリ歯Lwの左の側面Lwaとのなす角度である。以下、角度αを側逃げ角αと称し、距離Aを振り出し量Aと称する。なお、
図2では表示を省略したが、直歯Sの右の側面Sbとアサリ歯Rwの右の側面Rwa(
図19参照)とのなす角度は側逃げ角αである。また、アサリ歯Rwの外コーナ部P4(
図19参照)は、側面Sbに対し右方へ振り出し量A突出している。
【0020】
アサリ歯Lwの内コーナ部P3は、外コーナ部P2よりも距離Bだけ
図2の下方に突出している。換言すれば、外コーナ部P2は、内コーナ部P3よりも歯高方向で高い位置に位置している。以下、距離Bをコーナ部高低差Bと称する。即ち、アサリ歯Lwのコーナ部高低差Bとは、高さ方向における内コーナ部P3と外コーナ部P2との間の距離である。なお、内コーナ部P3は、アサリ歯Lwの先端部Lwbにおける振り出し方向とは反対側に形成された角部である。図示した例では、内コーナ部P3は、先端部Lwbのうち右方側を構成している。アサリ歯Lwの先端部Lwbと、直歯Sの左の側面Saとのなす角度は、側逃げ角αとなる。なお、アサリ歯Rwの外コーナ部P4は、内コーナ部P5よりも歯高方向で高い位置に位置している。アサリ歯Rwの、高さ方向における内コーナ部P3と外コーナ部P2との間の距離はコーナ部高低差Bである。
【0021】
図2から明らかなように、コーナ部高低差B(単位:mm)は、厚さt(単位:mm)及び側逃げ角α°によって次の(式1)で算出される。
B(mm)=t(mm)×sinα(°) ・・・ (式1)
【0022】
帯鋸刃によるワークピースWの切断加工において、バリの発生は、ワークピースWがH形鋼などの形鋼の場合、外形サイズが例えば概ね400mm以上の大型のもので発生し易い。一般に、大型のH形鋼の切断において、切削長はH形鋼のウェブ部で長くフランジ部で短い。そのため、帯鋸刃は、ウェブ部の長い切削長に対応するため厚さtが1.6mmの比較的厚いものが選択され、フランジ部の短い切削長にも対応するため汎用性の高い歯先間ピッチが3/4Pの不等ピッチのものが選択される。すなわち、厚さtが1.6mmで歯先間ピッチが3/4Pの帯鋸刃でバリの発生が抑制できれば効果的である。いわゆる3/4Pの歯先間ピッチの歯部912において、歯先間ピッチの実寸は、通常約6mm~10mmの範囲内にある。ここで不等ピッチとは、歯先間ピッチが互いに一致せず不均等であることを指し、場合によっては歯組Tsのパターンの先頭歯先間ピッチが互いに不均等であることを指す。また、3/4Pとは、1インチ当たりの歯先の数であって、この場合、1インチ当たり3/4歯あることを示している。
【0023】
なお、以下の説明では、胴部911の厚さtが1.6mmであるものとして、実施形態に係る帯鋸刃について説明するが、胴部911の厚さtは所定の許容差を含んでもよい。また、胴部911の厚さtの許容差は、日本工業規格の「みがき特殊帯鋼(Cold rolled special steel strip)」(JIS G3311:2010)に規定される厚さの許容差であってもよい。即ち、胴部911の厚さtは、1.6mmを基準値として、±0.055mmの許容差を含んでもよい。従って、胴部911の厚さtは、1.545mm~1.655mmの範囲であってもよい。
【0024】
大型のH形鋼は、その製造過程に起因し、内部に少なからず残留応力を有する。従って、H形鋼を帯鋸刃で切削すると、切削部位近傍の残留応力は開放される。しかしながら、切削部位近傍の残留応力が大きい場合には、切削によって解放されたワークピースWの切断溝が切削幅を狭める方向に大きな変形を生じさせて帯鋸刃を挟む、狭窄現象が懸念される。狭窄現象の発生は、経験上、アサリ歯の振り出し量Aと関係があり、振り出し量Aが0.80mm以上の場合に、良好に抑制できることが知られている。振り出し量Aは、側逃げ角αとアサリ歯Lwの屈曲位置P1(
図2参照)の曲げ高さMで決まる。すなわち、
図2に示されるように、A(mm)=M(mm)×sinα(°) である。
【0025】
一方で振り出し量Aは、1.10mmを超えると切削抵抗が大きくなり、いわゆる切れ曲がりが生じ易くなることも知られている。そのため、振り出し量Aが0.8mm≦A≦1.10mmの範囲で、バリの発生を抑制できることが強く望まれる。
【0026】
そこで、厚さtが1.6mmで歯先間ピッチ3/4Pの帯鋸刃を用い、バリ抑制の傾向を簡易的に把握するため、振り出し量Aを0.80mm以上1.00mm以下の0.2mmの範囲とし、振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせにおいてバリの発生を抑制できる範囲を検討した。
【0027】
従来、コーナ部高低差Bが正値、すなわち、アサリ歯の外コーナ部P2の突出高さが内コーナ部P3の突出高さよりも低いことがバリの発生要因とされていた。そのため、バリの発生を抑制すべく外コーナ部P2と内コーナ部P3との突出高さを逆転させることが検討されていた。しかし、外コーナ部P2と内コーナ部P3との歯高方向における高低差については検討されていなかった。そこで、コーナ部高低差Bと振り出し量Aとを組み合わせることで、バリの発生を抑制する好適な範囲が存在する可能性があるのではないか、という推論から検討を開始した。
【0028】
具体的には、まず次のように予備試験1を行った。すなわち、アサリ歯Lw,Rwにおいて、振り出し量Aの値と、コーナ部高低差Bの値との組み合わせが異なるテスト用帯鋸刃を複数種類作製し、それぞれ同じ形状のH形鋼を同じ条件で切断してバリの発生程度の違いを調べた。
【0029】
バリは、長さが0.50mm以上を大バリとし、0.50mm未満を小バリとした。そして、バリの発生程度を好ましい方から、
非常に良い(Very Good):大バリ及び小バリ共に無し
良い(Good):大バリ無し、かつ小バリ有り
普通(Average):大バリ有り
の3段階に分類して評価した。なお、以下の説明、並びに、
図3、
図5、及び
図7では、「非常に良い」を「VG」、「良い」を「G」、「普通」を「Av」と略して示す。
【0030】
(予備試験1)
予備試験1は、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aを0.80mm~1.00mmの範囲の0.05mmピッチの5種とし、コーナ部高低差Bを0.34mm~0.42mmの範囲の0.02mmピッチの5種とした。従って、組み合わせの異なる25種類の帯鋸刃を製作した。歯パターンは基本歯パターンL先TPLとした。そして、製作した25種類の帯鋸刃それぞれについて、同じH形鋼を同じ切削条件で切断してバリの発生程度を調べた。切断に供したH形鋼は、高さ×辺が400mm×200mm、ウェブ厚さ8mm、フランジ厚さ13mmである。
【0031】
図3はその結果を示した表である。すなわち、
図3は、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせとバリの発生程度との関係を示した表である。
図3から、振り出し量Aが0.80mm~1.00mmの範囲において、コーナ部高低差Bが0.38mmを超えるとバリの発生程度の評価はAvである。また、コーナ部高低差Bが0.38mm以下であれば、バリの発生程度の評価はVG又はGであり、バリ発生が良好に抑制されることが明らかとなった。
【0032】
(予備試験2)
次に、予備試験2について
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、帯鋸刃91の変形例1である帯鋸刃91Aにおける、アサリ歯LwAの二段曲げ形状を示す断面図である。
図5は、帯鋸刃91Aにおけるアサリ歯LwA,RwAの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を示した表である。
【0033】
アサリ歯Lwの屈曲位置P1の曲げ高さMについて着目すると、振り出し量A及び側逃げ角αの設定によっては、曲げ高さMが、歯先間ピッチが3/4Pの汎用の帯鋸刃における一般的な歯高(例えば3.0mm)を超える可能性がある。なお、曲げ高さMは、
図2の上下方向における、直歯Sの先端からアサリ歯Lwの屈曲位置P1までの距離である。換言すれば、曲げ高さMは、高さ方向における直歯Sの先端からアサリ歯Lwの屈曲位置P1までの距離である。
【0034】
そこで、
図4に示される帯鋸刃91Aを作製した。帯鋸刃91Aでは、アサリ歯Lwを複数段(図示した例において2段)の段曲げ形状のアサリ歯LwAとして形成した。アサリ歯LwAの先端部は、
図2に示される1段曲げのアサリ歯Lwの先端部Lwbと同じ形状である。アサリ歯Rw(
図1(a),
図1(b)参照)に相当するアサリ歯は、アサリ歯LwAと左右対称の形状のアサリ歯RwAとした。また、アサリ歯RwAの先端部は、1段曲げのアサリ歯Rwの先端部Rwbと同じ形状である。アサリ歯LwAの二段曲げの屈曲位置P1Aは加工の容易さにより設定し、屈曲位置P1Aの曲げ高さが曲げ高さMの2/3程度となるようにした。なお、屈曲位置P1Aの曲げ高さとは、高さ方向における直歯Sの先端からアサリ歯LwAの屈曲位置P1Aまでの距離である。
図4において、一段曲げのアサリ歯Lwの形状が一点鎖線で示されている。なお、二段曲げとは、二段階に曲げることを意味する。図示したアサリ歯LwAでは、屈曲位置P1Bでアサリ歯LwAの振り出し方向と逆向きに曲げ、屈曲位置P1Aでアサリ歯LwAの振り出し方向に曲げることで、二段階に曲げている。また、アサリ歯RwAでは、屈曲位置P1Dでアサリ歯RwAの振り出し方向と逆向きに曲げ、屈曲位置P1Cでアサリ歯RwAの振り出し方向に曲げることで、二段階に曲げている。
【0035】
すなわち、二段曲げにより、アサリ歯LwAの屈曲位置P1Aは、一段曲げのアサリ歯Lwの屈曲位置P1よりも
図4の上下方向(高さ方向)において、距離Mb下方に位置する。換言すれば、アサリ歯LwAが振り出される屈曲位置P1Aの高さ方向における位置を、より直歯Sの先端部に近づけることができる。これにより、汎用の3/4Pの帯鋸刃に対しても、より広い範囲で振り出し量A及び側逃げ角αの値を設定することができる。
【0036】
図5は、この帯鋸刃91Aを用いて、上述の帯鋸刃91を用いたH形鋼の切断と同じ切断を行ってバリの発生程度を確認した結果を示す表である。
図5に示されるように、帯鋸刃91Aでは、二段曲げのアサリ歯LwA,RwAを有することで、次のバリ発生抑制効果が得られる。すなわち、振り出し量Aが0.80mm~1.00mmの場合であって、コーナ部高低差Bが0.38mmを超える場合はバリの発生程度の評価はAvである。コーナ部高低差Bが0.38mm以下の場合は、振り出し量Aが0.90mmかつコーナ部高低差Bが0.38mmの組み合わせを除いて、バリの発生程度はVG又はGと評価され、良好なバリ発生抑制効果が得られることが示された。
【0037】
(予備試験3)
次に、予備試験3について
図6及び
図7を参照して説明する。
図6は、4種類の歯パターンとバリの発生状況との関係を示す表である。
図7は、8枚交互歯パターンTPLRを有する帯鋸刃91Bでのアサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を示した表である。
【0038】
予備試験3では、帯鋸刃91について更に検討した。
図6に示されるように、上述の基本歯パターンL先TPLに、3種類の歯パターン加えた4種類の歯パターンの帯鋸刃を製作し、切断試験を行った。振り出し量Aは0.80mm、コーナ部高低差Bは0.40mmとした。
【0039】
4種類の歯パターンは、次の通りである。
1:基本歯パターンL先TPLである。上述のように、基本歯パターンL先TPLは、直歯Sの次に左側(L側)に振り出したアサリ歯Lwを有する。
2:基本歯パターンR先TPRである。基本歯パターンR先TPRは、基本歯パターンL先TPLの形状を左右方向において反転させた形状を備える歯パターンであり、直歯Sの次に右側(R側)に振り出したアサリ歯Rwを有する。
3:10枚歯パターンTPXである。10枚歯パターンTPXは、10枚の歯により歯パターンが構成されており、直歯Sの次に左側(L側)に振り出したアサリ歯Lwを有する。
4:8枚交互歯パターンTPLR(帯鋸刃91B)である。8枚交互歯パターンTPLRは、8枚の歯により歯パターンが構成されており、直歯Sの次の歯としてアサリ歯Lw及びアサリ歯Rwの一方が、直歯S毎に交互となるように配置されている。換言すれば、帯鋸刃91Bの歯組は、第1歯組と第2歯組とを含む。第2歯組は第1歯組の後方に配置されている。第1歯組における走行方向先頭側には直歯Sが配置され、その後方にはアサリ歯Rwが隣接配置されている。また、第2歯組における走行方向先頭側には直歯Sが配置され、その後方にはアサリ歯Lwが隣接配置されている。そのため、第1歯組と第2歯組とでは、直歯Sの後方に隣接配置されたアサリ歯が反対方向に振り出されている。
【0040】
予備試験3の結果は次の通りである(
図6参照)。1の基本歯パターンL先TPLでは、10回のカット数のうち3回、大バリが発生した。大バリはすべてR側で発生した。2の基本歯パターンR先TPRでは、10回のカット数のうち4回、大バリが発生した。大バリはすべてL側で発生した。3の10枚歯パターンTPXでは、10回のカット数のうち3回、大バリが発生した。大バリはすべてR側で発生した。4の8枚交互歯パターンTPLRでは、10回のカット数のすべてで大バリは発生しなかった。
【0041】
この結果から、直歯Sの次に配置されたアサリ歯の振り出し側とは反対の側に大バリが発生すること、4種の歯パターンの中では8枚交互歯パターンTPLRに、大バリの発生を抑制する効果があることがわかった。8枚交互歯パターンTPLRは、他の3つの歯パターンと異なり、直歯Sの次のアサリ歯の振り出し方向が、直歯S毎に左、右と交互に設定されているため、左右の切断縁それぞれにバリが残りにくかったことが推察される。
【0042】
そこで、歯パターンのみを基本歯パターンL先TPLから8枚交互歯パターンTPLRに変えた帯鋸刃91Bを製作し、予備試験1と同じ条件で切断試験を行った。当該切断試験の結果を
図7に示す。
図7は、8枚交互歯パターンTPLRを有する帯鋸刃91Bにおける、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を示した表である。
【0043】
図7に示されるように、帯鋸刃91Bでは、コーナ部高低差Bが0.40mmの場合には、振り出し量Aが0.90mmの場合を除き、バリの発生程度はG又はVGと評価された。また、コーナ部高低差Bが0.40mmであって、振り出し量Aが0.90mmの場合には、バリの発生程度はAvと評価された。また、コーナ部高低差Bが0.38mm以下の場合には、振り出し量Aが0.80mm~1.00mmの範囲でバリの発生程度はVGと評価され、バリ発生の抑制がより良好であることが確認された。
【0044】
このように、バリ発生を抑制できる振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせの範囲が把握された。そこで、振り出し量A及びコーナ部高低差Bの設定に関係する側逃げ角αについて、好適な範囲を検討した。その結果、
図8に示されるように、側逃げ角αと切削騒音Ns(単位:dB)との関係が明らかとなった。
【0045】
図8は、アサリ歯Lwの側逃げ角αと切削騒音Nsとの関係を示すグラフである。まず、基本歯パターンL先TPLの歯パターンを有する帯鋸刃において、アサリ歯Lwの側逃げ角αを1°ピッチで変えた、複数種類の帯鋸刃を製作した。そして、当該複数種類の帯鋸刃の各々を用いて、予備試験1と同じ条件で同じH形鋼を切断した際に生じた切削騒音Nsを測定した。なお、側逃げ角αの範囲は3°~14°とした。
【0046】
側逃げ角αが4°以下のとき切削騒音Nsは81dB以上であった。側逃げ角αが5°以上のとき切削騒音Nsは76dB以下であった。すなわち、側逃げ角αが4°の場合の切削騒音Nsと、側逃げ角αが5°の場合の切削騒音Nsとの間には、5dBの差がある。従って、側逃げ角αは5°以上であってもよい。なお、側逃げ角αが5°のとき、式1よりコーナ部高低差Bは0.14mmである。従って、コーナ部高低差Bは0.14mm以上であってもよい。
【0047】
上述の各予備試験などに基づき、振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせについて、より詳細に把握するための本試験を行った。本試験の条件は次に示す通りである。
[本試験条件]
[固定条件]
・ピッチパターン:P01~P05の5歯 (
図1(a)参照)
(P01~P05は、6.0mm~10.0mmの範囲内で設定)
・アサリ歯パターン:基本歯パターンL先TPL
(基本歯パターンL先TPLの各歯の各々のすくい角及び逃げ角は等しく、歯高も一定である)
・アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aに対し、アサリ歯Ln,Rnの振り出し量はA/2である。
・厚さt:1.6mm
[可変条件]
・振り出し量A:0.80mm≦A≦1.10mm (ピッチ0.05mm)
・コーナ部高低差B:0.27mm≦B≦0.53mm
・側逃げ角α:9.7°≦α≦19.3°
(側逃げ角αの下限値9.7°は、式1においてB=0.27mm、t=1.6mmとしたときの値である。側逃げ角αの上限値19.3°は、式1においてB=0.53mm、t=1.6mmとしたときの値である。)
[被切断材]
・H形鋼:高さ×辺=600mm×200mm、ウェブ厚さ17mm、フランジ厚さ11mm
【0048】
(本試験1)
本試験1として以上の条件で切断を行い、バリの発生程度を予備試験と同様の3段階で評価した。その結果を
図9に示す。
図9は、帯鋸刃91における、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
図9の各セルについて、バリの発生程度がVGと評価された場合にはハッチングを行わず、Gと評価された場合には点ハッチングで示し、Avと評価された場合には線ハッチングで示した。また、各セルには、コーナ部高低差B(mm)の数値が記載されている。縦軸には曲げ高さM(mm)が記載されている。
【0049】
図9に示されるように、振り出し量Aが0.80mm~1.10mmの範囲で、コーナ部高低差Bが0.38mmを超えるとバリの発生程度はAvと評価され、0.38mm以下の場合にはバリの発生程度はVG又はGと評価された。このように、アサリ歯Lw,Rwについて、振り出し量Aを0.80mm~1.10mmとしコーナ部高低差Bを0.38mm以下とした帯鋸刃91は、バリの発生を良好に抑制することできる。
【0050】
(本試験2)
本試験2では、本試験1で用いた帯鋸刃91を、予備試験2で用いたアサリ歯Lw,Rwを二段曲げとした帯鋸刃91A(
図4参照)に換えて、同じ条件で同じ被切断材を切断した。その結果を
図10に示す。
図10は、帯鋸刃91Aにおける、アサリ歯LwA,RwAの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
図10において、曲げ高さMは、二段曲げをしなかった場合の曲げ高さとして記載されている。
【0051】
図10に示される本試験2の結果は、
図9に示される本試験1の結果と実質的に同等である。すなわち、アサリ歯Lw,Rwを二段曲げ形状とした場合も、振り出し量Aを0.80mm~1.10mm、コーナ部高低差Bを0.38mm以下に設定することにより、帯鋸刃91Aは、バリの発生を良好に抑制する。
【0052】
(本試験3)
本試験3では、本試験1で用いた帯鋸刃91を、予備試験3で用いた8枚交互歯パターンTPLRとした帯鋸刃91Bに換えて、同じ条件で同じ被切断材を切断した。その結果を
図11に示す。
図11は、帯鋸刃91Bにおける、アサリ歯Lw,Rwの振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせと、バリの発生程度との関係を詳細に示した表である。
【0053】
図11に示される本試験3の結果では、
図9及び
図10にそれぞれ示される本試験1及び本試験2の結果よりもバリの発生がより抑制されている。詳しくは、コーナ部高低差Bが0.38mm以下の場合にはバリの発生程度はVGと評価された。コーナ部高低差Bが0.39mmの場合には、振り出し量Aが0.90mmの場合を除き、バリの発生程度はGと評価された。このように、帯鋸刃91Bでは、バリの発生を抑制可能な振り出し量Aとコーナ部高低差Bとの組み合わせが増加している。
【0054】
以上の本試験の結果のように、コーナ部高低差Bを0.38mm以下に設定することにより、バリの発生を良好に抑制することができる。なお、コーナ部高低差Bが0.38mm、厚さt=1.6mmのとき、式1により側逃げ角α=13.7°である。従って、側逃げ角αは13.7°以下であってもよい。また、アサリ歯Lw,Rwの配置に関し、直歯Sの次のアサリ歯の振り出し方向を左右交互にすることで、より良好にバリの発生を抑制できる。
【0055】
以上詳述したように、帯鋸刃91,91A,91Bは、厚さ1.6mmの胴部911の側面Sa,Sbに対し側逃げ角αで、かつ振り出し量Aで振り出されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAを有し、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAの外コーナ部P2,P4と外コーナ部P2,P4よりも歯高方向で高い位置にある内コーナ部P3,P5との高低差をコーナ部高低差Bとしたときに、
0.80mm≦A≦1.10mm
0.14mm≦B≦0.38mm
5°≦α≦13.7°
となっている。これにより、帯鋸刃91,91A,91Bは、切断加工でバリが生じにくく、製造時にアサリ歯を研磨する工程が不要なため安価であり、切削騒音も抑制される。また、製造時に研磨工程がないことから、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAは、外コーナ部P2のコーナ角度が90°未満にならないので、高い強度が維持され、研磨工程により形成されたアサリ歯よりも歯欠けする可能性が小さい。
【0056】
本発明の実施例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0057】
図12は、曲げ高さMが大きい場合に振り出しのための屈曲位置が胴部911にかからないようにするため、歯部912の歯形を第二歯形Lf2に変更した変形例を示す。すなわち、
図12は、第二歯形Lf2の歯部912の側面図である。詳しくは、
図12は、基本的な歯形を示す一点鎖線の歯形ラインLbと、逃げ角を二段とした第二歯形Lf2の二段逃げ形状の歯形ラインLaとを示した図である。図示した第二歯形Lf2が含む歯の逃げ面を形成するための逃げ角は、逃げ角θ1と、逃げ角θ2とを含む。逃げ角θ1は歯先側の逃げ角であり、逃げ角θ2は逃げ角θ1よりも歯底側に位置する逃げ角である。
【0058】
歯形ラインLaの歯底の曲率半径であるRaを、歯形ラインLbの歯底の曲率半径であるRbよりも大きくして歯高を大きくできるので、帯鋸刃91,91A,91Bの歯の形状として好ましい。
図13~
図16に他の変形例として、それぞれ第三歯形Lf3~第六歯形Lf6を示す。
図13は、第三歯形Lf3のアサリ歯Lwの側面図である。
図14は、第四歯形Lf4のアサリ歯Lwの側面図である。
図15は、第五歯形Lf5のアサリ歯Lwの側面図である。
図16は、第六歯形Lf6のアサリ歯Lwの側面図である。
【0059】
逃げ角の段数は二段に限定されず、二段以上であってもよい。第三歯形Lf3は、逃げ角を例えば三段にした三段逃げ形状の歯形である。第四歯形Lf4は、いわゆるプロファイル形状と称される、逃げ部に突起を有する歯形である。第五歯形Lf5は、第四歯形Lf4に切削チップを湾曲させる突出したチップカーラを設けた歯形である。第六歯形Lf6は、歯の根本を内側に窪ませることで歯元とガレットとをつなぐ湾曲部を拡張した歯形である。
【0060】
第二歯形Lf2~第六歯形Lf6は、帯鋸刃91,91A,91Bのいずれのアサリ歯Lw,Rwにも適用可能で、歯高を大きくできる。
【0061】
次に、
図17及び
図18を参照しながら、帯鋸刃91を例にとって、側逃げ角α、振り出し量A、及びコーナ部高低差Bの測定方法について説明する。
図17は、実施形態に係る帯鋸刃の側逃げ角α、振り出し量A、及びコーナ部高低差Bを測定するために用いられる試験片95を示す側面図である。
図18は、
図17に示した試験片95を矢印D方向から見た模式的部分矢視図である。
【0062】
帯鋸刃91の側逃げ角α、振り出し量A、及びコーナ部高低差Bは、試験片95を矢印D方向から光学観察し、その結果得られた撮像の各部の寸法、角度を測定することにより得られる。
【0063】
試験片95は、例えば、
図1(a)に示す帯鋸刃91の一部と同じ形状を備える。
図17に示す試験片95は、帯鋸刃91の一部を、背部913から歯部912にかけて切断することにより得られてもよい。背部913は、胴部911の歯部912とは反対側の端部であり、走行方向と略平行に延在している。例えば、
図1(a)に示す帯鋸刃91をS17a-S17a線、及びS17b-S17b線に沿って切断することにより、試験片95を得てもよい。
図17に示した試験片95は、胴部911、アサリ歯Lw、アサリ歯Rw、アサリ歯Ln、及びアサリ歯Rnを有する。
【0064】
試験片95は縁部95aと縁部95bとを備える。
図17に示す例では、縁部95aは帯鋸刃91をS17a-S17a線に沿って切断することにより形成された断面を含んでおり、試験片95の胴部911の走行方向前方側の端部を構成する。縁部95aと背部913とは、胴部911の厚さ方向と平行な軸方向視において略直角に交わる。また、縁部95bは帯鋸刃91をS17b-S17b線に沿って切断することにより形成された断面を含んでおり、試験片95の胴部911の後方側の端部を構成する。
【0065】
次に、
図17に示す矢印D方向から試験片95を光学観察し、
図18に示す撮像を得る。矢印D方向は走行方向と略平行である。また、矢印D方向は胴部911の厚さ方向に垂直かつ高さ方向に垂直な方向である。試験片95の光学観察には、3D形状測定機(商品名ワンショット3D形状測定機VR-3000、株式会社キーエンス製)を用いた。撮像の倍率は例えば25倍である。なお、
図18に示した模式的部分断面図には、胴部911と、直歯Sと、アサリ歯Lwとを示した。
【0066】
次に、撮像の各部を、3D形状測定機が備える角度測定機能、又は距離測定機能を用いて測定することにより、アサリ歯Lwの側逃げ角α、振り出し量A、又はコーナ部高低差Bを測定する。
【0067】
側逃げ角αは、仮想線96と側面Lwaとのなす角のうち小さい方の角度を、角度測定機能を用いて測定することにより得られる。仮想線96は、高さ方向と平行かつ外コーナ部P2を通る仮想的な直線である。振り出し量Aは胴部911の左方側の側面914と、仮想線96との間の距離を、距離測定機能を用いて測定することにより得られる。コーナ部高低差Bは、仮想線97と仮想線98との間の距離を距離測定機能を用いて測定することにより得られる。仮想線97は、胴部911の厚さ方向と平行かつ外コーナ部P2を通る仮想的な直線である。仮想線98は、胴部911の厚さ方向と平行かつ内コーナ部P3を通る仮想的な直線である。なお、胴部911の厚さtの値についても、同様の光学観察、及び撮像に基づき、距離測定機能を用いて測定してもよい。
【0068】
次に、実施形態に係る帯鋸刃の作用効果について説明する。
【0069】
図19は、帯鋸刃91でワークピースWを切断する際の、バリの発生の態様を示す模式的部分断面図である。なお、
図19に示された帯鋸刃91の断面は、
図1のS2-S2線に沿った帯鋸刃91の断面に相当する。
【0070】
帯鋸刃91を走行方向に向けて循環走行させながら、切断方向に移動させることにより、ワークピースWを切断することができる。
図19に示される状態は、循環走行中の帯鋸刃91を矢印Eに示す切断方向に移動させることにより、
図19の上方から下方に向けてワークピースWを切断した状態である。
【0071】
図示された状態では、ワークピースWは、アサリ歯Lw,Rwによって、内コーナ部P3と内コーナ部P5との間で切断されている。なお、内コーナ部P5は、アサリ歯Rwの先端部Rwbにおける振り出し方向とは反対側に形成された角部である。図示した例では、内コーナ部P5は、先端部Rwbのうち左方側を構成する角部である。また、アサリ歯Rwの先端部Rwbにおける振り出し方向側には外コーナ部P4が形成されている。図示した例では、外コーナ部P4は、先端部Rwbのうち右方側を構成する角部である。
【0072】
図示された状態では、ワークピースWには残存部99が形成されている。残存部99は、ワークピースWのうち、ワークピースWが切断された状態においてアサリ歯Rwの先端部Rwbの切断方向側に残存している部分である。さらに、図示された状態から帯鋸刃91が切断方向に移動される。これにより、残存部99は、矢印Fで示すように切断方向かつ右方に押し出されるように変形する。このようにして変形した残存部99が切断縁に連結した状態で残存することで、バリ100が形成される。そのため、アサリ歯Rwのコーナ部高低差Bをより小さく設定することで、残存部99の高さ方向の寸法をより低減し、残存部99の、走行方向に垂直な断面における断面積をより小さくすることができる。これにより、バリ100をより小さくすることができる。なお、アサリ歯Rwのコーナ部高低差Bは、高さ方向における外コーナ部P4と内コーナ部P5との間の距離である。
【0073】
また、例えばアサリ歯Lwのコーナ部高低差Bの値をより小さく設定することで、アサリ歯Lwの側逃げ角αの値をより小さくすることができる。これにより、アサリ歯Lwの内コーナ部P3はより右方に配置されることとなる。そのため、胴部911の幅方向における、残存部99の長さをより短くすることができる。よって、バリ100の高さ方向における長さをより短くすることができる。即ち、バリ100をより小さくすることができる。
【0074】
(1)実施形態に係る帯鋸刃では、厚さ1.6mmの胴部911の側面Sa,Sbに対し側逃げ角αで、かつ振り出し量Aで振り出されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAを有し、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAの外コーナ部P2,P4と外コーナ部P2,P4よりも歯高方向で高い位置にある内コーナ部P3,P5との高低差をコーナ部高低差Bとしたときに、
0.80mm≦A≦1.10mm
0.14mm≦B≦0.38mm
5°≦α≦13.7°
となっている。
【0075】
実施形態に係る帯鋸刃によれば、帯鋸刃91,91A,91Bは、切断加工でバリが生じにくく、製造時にアサリ歯を研磨する工程が不要なため安価であり、切削騒音も抑制される。また、製造時に研磨工程がないことから、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAは、外コーナ部P2,P4のコーナ角度が90°未満にならないので、高い強度が維持され、研磨工程により形成されたアサリ歯よりも歯欠けする可能性が小さい。
【0076】
(2)実施形態に係る帯鋸刃では、アサリ歯LwA,RwAは、少なくとも、第1屈曲位置P1Aで振り出し方向に屈曲され、第1屈曲位置P1A,P1Cよりもアサリ歯LwA,RwAの先端部側に位置する第2屈曲位置P1B,P1Dで振り出し方向とは反対の方向に屈曲されている。
【0077】
実施形態に係る帯鋸刃によれば、例えば、アサリ歯LwA,RwAが振り出される屈曲位置P1A,P1Cの高さ方向における位置を、より直歯Sの先端部に近づけることができる。これにより、汎用の3/4Pの帯鋸刃に対しても、振り出し量A及び側逃げ角αの値をより広い範囲で設定することができる。
【0078】
(3)実施形態に係る帯鋸刃は、胴部911から延伸する第1直歯Sと、第1直歯Sの後方に隣接配置されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAと、を有する第1歯組と、第1歯組の後方に隣接配置され、かつ、胴部911から延伸する第2直歯Sと、第2直歯Sの後方に隣接配置されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAと、を有する第2歯組と、を備え、第1直歯Sの後方に隣接配置されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAの振り出し方向と、第2直歯の後方に隣接配置されたアサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAの振り出し方向とは反対方向である。
【0079】
実施形態に係る帯鋸刃によれば、ワークピースWを切断加工する際に、バリの発生をより確実に抑制することができる。
【0080】
(4)実施形態に係る帯鋸刃は、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAよりも振り出し量Aが小さい第2のアサリ歯Ln,Rnを有する。
【0081】
実施形態に係る帯鋸刃によれば、帯鋸刃91,91A,91BでワークピースWを切削する際に発生する切粉を細分化することができる。
【0082】
(5)実施形態に係る帯鋸刃では、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAは、逃げ面に二段以上の逃げ角θ1,θ2を有し、逃げ角θ1,θ2のうち、歯底側の逃げ角θ2は、歯先側の逃げ角θ1よりも大きい。
【0083】
実施形態に係る帯鋸刃によれば、アサリ歯Lw,Rw,LwA,RwAのガレットをより大きく構成することができる。そのため、ワークピースWを切断する際に発生する切粉をより容易に排出することができ、切断加工をより容易に行うことができる。
【0084】
2021年2月19日に出願された特願2021-024858の全内容は、ここに援用される。
【符号の説明】
【0085】
91,91A,91B 帯鋸刃
911 胴部
912 歯部
913 背部
914 側面
A 振り出し量(距離)
B コーナ部高低差(距離)
Lf2~Lf6 第二歯形~第六歯形
Lw,Rw,Ln,Rn,LwA,RwA アサリ歯
Lwa 側面
Lwb 先端部
Rwa 側面
Rwb 先端部
M 曲げ高さ(距離)
Mb 距離
Ns 切削騒音
P1,P1A,P1B,P1C,P1D 屈曲位置
P2 外コーナ部
P3 内コーナ部
P4 外コーナ部
P5 内コーナ部
Ra,Rb 歯底R
S 直歯
Sa 側面
Sb 側面
t 厚さ
Ts 歯組
TPL 基本歯パターンL先
TPR 基本歯パターンR先
TPX 10枚歯パターン
TPLR 8枚交互歯パターン
α 側逃げ角(角度)
W ワークピース
95 試験片
95a 縁部
95b 縁部
96 仮想線
97 仮想線
98 仮想線
99 残存部
100 バリ
θ1,θ2 逃げ角