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特開2022-127591パルボウイルスの構造タンパク質およびウイルス様粒子ワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127591
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】パルボウイルスの構造タンパク質およびウイルス様粒子ワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220824BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20220824BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220824BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220824BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/35
C07K19/00
C07K14/015
C12N7/01
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K35/76
A61P37/04
A61P43/00 111
A61K48/00
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016204
(22)【出願日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2021025307
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173692
【氏名又は名称】一般財団法人阪大微生物病研究会
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明日香
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 博貴
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA31
4B065CA44
4B065CA45
4B065CA46
4C084AA13
4C084MA02
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA31
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZC022
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZC02
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA86
4H045DA89
4H045EA29
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】パルボウイルスの免疫原性が良好である新たな構造タンパク質およびウイルス様粒子を提供する。
【解決手段】受容体結合ドメイン(RBD)とホスホリパーゼA(PLA)活性領域とを有するパルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に、1個以上5個以下のRBDがさらに付加された構造タンパク質およびこれを含むウイルス様粒子(VLP)が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受容体結合ドメインとホスホリパーゼA活性領域とを有するパルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に、1個以上5個以下の前記受容体結合ドメインがさらに付加された構造タンパク質。
【請求項2】
1個以上3個以下の前記受容体結合ドメインが付加された、請求項1に記載の構造タンパク質。
【請求項3】
前記ホスホリパーゼA活性領域において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加された、請求項1または2に記載の構造タンパク質。
【請求項4】
前記パルボウイルスは、ヒトパルボウイルスB19である、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造タンパク質。
【請求項5】
ウイルス様粒子形成能を有し、(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むパルボウイルスの構造タンパク質;
(a)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列、
(b)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の構造タンパク質とパルボウイルスの構造タンパク質VP2とを含む、ウイルス様粒子。
【請求項7】
野生型ウイルス様粒子よりもホスホリパーゼA活性が減弱した、請求項6に記載のウイルス様粒子。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の構造タンパク質をコードする核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸または請求項9に記載のベクターが導入された細胞。
【請求項11】
請求項6もしくは7に記載のウイルス様粒子、請求項8に記載の核酸、または請求項9に記載のベクターを含む免疫原性組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の細胞を培養する工程および前記細胞から産生されたウイルス様粒子を回収する工程を含む、ウイルス様粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルボウイルスの構造タンパク質およびウイルス様粒子ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパルボウイルスB19は、小児伝染性紅斑(リンゴ病)の原因ウイルスとして知られており、患者の90%は9歳までの小児である。ヒトパルボウイルスB19は、成人にも感染し、発熱、皮疹、関節炎など様々な症状を引き起こす。ヒトパルボウイルスB19感染症の予後は一般的には良好である。しかしながら、妊娠初期の女性がヒトパルボウイルスB19に感染すると、母子感染により高い確率で流産や胎児水腫を引き起こす。
【0003】
ヒトパルボウイルスB19は、パルボウイルス科エリスロウイルス属に属し、約5500塩基からなる一本鎖の直鎖DNAゲノムを有する。ゲノムには、構造タンパク質(VP1およびVP2)、非構造タンパク質(NS1)およびいくつかの小タンパク質がコードされている。ヒトパルボウイルスB19は、ウイルスゲノムおよび2つの構造タンパク質から、直径約23nmの正二十面体構造を有するウイルス粒子を形成する。パルボウイルスのウイルス粒子はエンベロープをもたないため、エタノール、有機溶媒および石鹸に抵抗性を有し、熱処理(例えば60℃30分)にも安定である。
【0004】
これまで、ヒトパルボウイルスB19のワクチンおよび二次感染予防策は実用化されていない。ヒトパルボウイルスB19は、培養細胞での増殖が難しく、ウイルスの培養系や動物感染モデルも存在しないため、弱毒生ウイルスワクチンまたは不活化ウイルスワクチンを生産することが困難である。このため、ワクチン候補として、ウイルス粒子に類似した構造を有するウイルス様粒子(VLP)が挙げられる。VLPは体内で増殖しないため、安全性の観点からワクチンに適する。一方でVLPは、組み換えタンパク質を抗原とするワクチンまたは核酸ワクチンと比較すると高い免疫原性が期待できるものの、弱毒生ウイルスワクチンまたは不活化ウイルスワクチンと比べると、免疫原性は十分とは言い難い。特許文献1~3および非特許文献1には、ヒトパルボウイルスB19のVLPを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/127316号
【特許文献2】国際公開第90/05538号
【特許文献3】国際公開第2014/125053号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bernstein et al,Vaccine.2011,October 6;29(43):7357-7363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パルボウイルスに対するワクチンの開発のためには、免疫原性が良好な抗原が必要である。本発明は、パルボウイルスの免疫原性が良好である新たな構造タンパク質およびVLPを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、受容体結合ドメイン(RBD)とホスホリパーゼA(PLA)活性領域とを有するパルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に、1個以上5個以下の前記受容体結合ドメインがさらに付加された構造タンパク質に関する。また、本発明の一例に係る構造タンパク質は、PLA活性領域に変異を含むことにより、好ましくは野生型のVLPよりもPLA活性が減弱、より好ましくはPLA活性が欠失したVLPを形成することができる。
【0009】
本発明は、以下に例示される項目に関する。
[1] 受容体結合ドメインとホスホリパーゼA活性領域とを有するパルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に、1個以上5個以下の前記受容体結合ドメインがさらに付加された構造タンパク質。
[2] 1個以上3個以下の前記受容体結合ドメインが付加された、[1]に記載の構造タンパク質。
[3] 前記ホスホリパーゼA活性領域において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加された、[1]または[2]に記載の構造タンパク質。
[4] 前記パルボウイルスは、ヒトパルボウイルスB19である、[1]~[3]のいずれかに記載の構造タンパク質。
[5] ウイルス様粒子形成能を有し、(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むパルボウイルスの構造タンパク質;
(a)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列、
(b)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の構造タンパク質とパルボウイルスの構造タンパク質VP2とを含む、ウイルス様粒子。
[7] 野生型ウイルス様粒子よりもホスホリパーゼA活性が減弱した、[6]に記載のウイルス様粒子。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の構造タンパク質をコードする核酸。
[9] [8]に記載の核酸を含むベクター。
[10] [8]に記載の核酸または[9]に記載のベクターが導入された細胞。
[11] [6]もしくは[7]に記載のウイルス様粒子、[8]に記載の核酸、または[9]に記載のベクターを含む免疫原性組成物。
[12] [10]に記載の細胞を培養する工程および前記細胞から産生されたウイルス様粒子を回収する工程を含む、ウイルス様粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パルボウイルスの免疫原性が良好である新たな構造タンパク質およびVLPを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】パルボウイルスの構造タンパク質VP1およびVP2、ならびにRBDが付加されたVP1およびVP2の構造を示す様式図である。
図2】実験1において作製された、ヒトパルボウイルスB19のVP1 wtおよびVP2 wt、ならびにRBDが付加されたVP1およびVP2(「RBD付加タンパク質」ともいう。)の発現プラスミドの構造を示す様式図である。
図3】実験2において、VP1 wtまたはRBD付加タンパク質を含むVLPについてSDS-PAGEを行った後のCBB染色図である。
図4】実験2において、VLP中に含まれるVP1 wtまたはRBD付加タンパク質の割合を示すグラフである。
図5】実験3において、VP1 wtまたは2RBD-VP1を含むVLPを投与したマウスから採取した血清中の抗体価を示すグラフである。
図6】実験4において、VP1 wtまたはRBD付加タンパク質を含むVLPを投与したマウスから採取した血清のパルボウイルス中和活性を感染率の低下によって評価するグラフである。
図7】実験5において、VP1のPLA活性領域の欠失部位を示す様式図である。
図8】実験5において、VP1 wt、2RBD-VP1または2RBD-VP1 delPLAを含むVLPについてSDS-PAGEを行った後のCBB染色図である。
図9】実験5において、VLP中に含まれるVP1 wt、2RBD-VP1または2RBD-VP1 delPLAの割合を示すグラフである。
図10】実験6において、2RBD-VP1または2RBD-VP1 delPLAを含むVLPを投与したマウス血清中の抗体価を示すグラフである。
図11】実験7において、VP1 wt、2RBD-VP1または2RBD-VP1 delPLAを含むVLPのPLA活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<構造タンパク質>
パルボウイルスの構造タンパク質には、VP1およびVP2が存在する。VP1は、図1のVP1 wtに示すように受容体結合ドメインとホスホリパーゼA活性領域とを有する。本発明に係る構造タンパク質は、パルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に、1個以上5個以下のRBDがさらに付加された構造タンパク質である。本発明者らは、RBD付加箇所としてVP1のN末端を選択し、当該箇所に1個以上5個以下のRBDを付加することで、優れた免疫原性を示すことを見出した。すなわち、本発明に係る構造タンパク質は、図1の1RBD-VP1に例示されるように、N末端に2個以上のRBDを有する。本明細書においてRBDが付加されたVP1を「RBD付加VP1」ということがある。
【0013】
本発明に係る構造タンパク質は、良好な免疫原性を有するVLPを形成することができる。本発明に係る構造タンパク質は、単独でも有意な免疫応答を起こし得る。VLPの免疫原性は当業者に周知な方法で評価できるが、例えばマウスにVLPを投与し、回収した血清が目的の抗体を有するか否かで評価できる。目的の抗体を有するか否かを評価するために、免疫抗原全長もしくはその一部の領域をコーティングしたプレートを用いたIgG ELISAを用いることができる。目的の抗体としては、例えば中和抗体が挙げられ、中和エピトープ領域に対するIgG ELISAを行うことで、当該抗体の有無を評価することができる。パルボウイルスがヒトパルボウイルスB19であるとき、VP1の中和エピトープ領域は当業者に公知のいずれの箇所であってよく、例えば配列番号1の1-90アミノ酸領域であってよい。
【0014】
付加されるRBD(本明細書において「付加領域」ということがある。)は、好ましくは1個以上5個以下であり、4個以下または3個以下であってもよく、2個であってもよい。パルボウイルスのVP1にRBDが多く付加された構造タンパク質を含むVLPは、RBDが付加されていない野生型のパルボウイルスVP1を含むVLP(本明細書において、「野生型のVLP」ということがある。)より免疫原性が高くなる傾向がある。しかしながら、付加されるRBDの個数が多すぎると、VLPを構成しにくくなるおそれがある。本発明に係る構造タンパク質は、パルボウイルスの構造タンパク質VP1のN末端に1個以上5個以下のRBD、好ましくは1個以上3個以下のRBDを付加することで、RBDを付加しても良好なウイルス様粒子形成能を有する。ウイルス様粒子形成能とは、ウイルス様粒子を形成し得る能力をいう。例えば、パルボウイルスの構造タンパク質VP2と組み合わせることでVLPを形成し得るRBD付加VP1は、ウイルス様粒子形成能を有する。VLPの形成の有無は、後述の<VLP>の段落に記載の方法で確認できる。
【0015】
付加されたRBDとVP1との間、および複数のRBDが付加されている場合は付加されたRBD同士は、適切な長さのリンカーペプチドによって接続されていてもよい。リンカー配列は、例えば1アミノ酸残基以上20アミノ酸残基以下であってよく、10アミノ酸残基以下であってもよい。リンカー配列はグリシンリッチな配列でもよく、例えばGGGGGG配列を含んでもよい。本明細書において、アミノ酸残基を一文字表記で表すことがある。
【0016】
ヒトパルボウイルスB19のゲノムは、ウイルス粒子を構成する構造タンパク質であるVP1およびVP2をコードする。VP1とVP2のオープンリーディングフレーム(ORF)は重なっており、VP1はVP2をコードする配列の上流にRBDおよびPLA活性領域がコードされている。VP1は、図1に示すようにN末端側から順にRBDおよびPLA活性領域を含むVP1ユニーク領域、ならびにVP2との共通領域から構成される。パルボウイルスB19-J35(Accession No.AY386330)のVP1およびVP2のアミノ酸配列を配列番号1および配列番号2にそれぞれ示す。上記パルボウイルスB19のRBDは、VP1の5番目~80番目の76アミノ酸残基(配列番号3)からなる。上記パルボウイルスB19のPLA活性領域は、VP1の130番目~195番目の66個のアミノ酸残基(配列番号4)からなる。本明細書において、単に「VLP」、「VP1」、「VP2」、「RBD」および「PLA活性領域」というときは、それぞれパルボウイルスのVLP、VP1、VP2、RBDおよびPLA活性領域をさす。
【0017】
ヒトパルボウイルスB19の受容体は、赤血球膜表面にあるP抗原であり、ヒトパルボウイルスB19は、P抗原保有細胞、特に赤芽球前駆細胞に感染し、増殖する。パルボウイルスを抗原として誘導される抗体のうち、VP1ユニーク領域に含まれるRBDに対する抗体が感染防御に重要であるが、RBD単独では免疫原性を有さない。
【0018】
本発明に係る構造タンパク質は、PLA活性領域において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されることにより、PLA活性領域に変異を含むことが好ましい。パルボウイルスの粒子はPLA活性領域を粒子の内側に有するためPLA活性を示さない。一方、ウイルス粒子とは一部異なる構造を有するVLPは、PLA活性領域を粒子の外側に有するためPLA活性を示す(Ros et al,JOURNAL OF VIROLOGY,Dec.2006,p.12017-12024)。PLA活性領域に変異を含む構造タンパク質は、好ましくはPLA活性が減弱、より好ましくは欠失したVLPを形成することができ、炎症反応が低減されやすくなるため、ワクチンとしての安全性を向上させることができる。
【0019】
ヒトパルボウイルスB19のPLA活性領域は、一般的な分泌型PLAに存在するHDXXYモチーフを有する。ヒトパルボウイルスB19のPLA活性中心は、VP1の153番目から164番目のアミノ酸(HDFRYSQLAKLG)であると報告されている(Bonsch et al,JOURNAL OF VIROLOGY,Dec.2008,p.11784-11791)。PLA活性領域において、VP1の130(Y)、132(G)、153(H)、154(D)、157(Y)、162(K)、168(Y)、175(D)、195(D)番目のアミノ酸が特にPLA活性に関与すると報告されている(Deng et al,PLOS ONE,April 2013,Volume 8,Issue 4,e61440)。本発明に係る構造タンパク質は、これらのアミノ酸のうち少なくとも1つが欠失もしくは置換またはPLA活性領域に任意のアミノ酸が挿入もしくは付加されていることが好ましい。PLA活性領域におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入または付加は、VLP形成能に影響を与えないことが好ましい。また、PLA活性領域におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入または付加は、VLPの免疫原性を低下させないことが好ましい。本発明では、PLA活性領域の一部に変異を挿入することで、VLP形成能及び免疫原性を保った状態で、PLA活性を減弱または欠失し得ることを見出した。変異を挿入する箇所としては、VLP形成能及び免疫原性を保った状態で、PLA活性を減弱または欠失し得る箇所であれば問わないが、PLA活性領域の一部を含む141番目から159番目のアミノ酸が好ましい。VP1の141番目から159番目において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されていることが好ましく、VP1の141番目から159番目のアミノ酸の少なくとも1個が欠失していることがより好ましく、141番目から159番目のアミノ酸が全て欠失していてもよい。PLA活性領域の一部を欠失させた領域は、適切な長さのリンカーペプチドによって接続されていてもよい。リンカー配列は、例えば1アミノ酸残基以上20アミノ酸残基以下であってよく、10アミノ酸残基以下であってもよい。リンカー配列は、グリシンリッチな配列でもよく、例えばGGGGGG配列を含んでもよい。
【0020】
本明細書において、パルボウイルスは、哺乳動物種(例えば、ヒト、イヌ、ニワトリ、ネコ、マウス、ブタ、アライグマ、ミンク、キルハムラット、ウサギ)に関連する全てのパルボウイルスを含んでよい。パルボウイルスは、広範には、パルボウイルス科ファミリーの全ての属、例えばパルボウイルス属、ディペンドウイルス属、エリスロウイルス属、ボカウイルス属を含んでよい。パルボウイルス属は、例えばイヌパルボウイルス、ネコパルボウイルスを含む。ディペンドウイルス属は、アデノ随伴ウイルスを含む。エリスロウイルスは、ヒトパルボウイルスB19を含む。ボカウイルス属はウシパルボウイルス、イヌ微小ウイルスを含む。パルボウイルスは、好ましくはヒトに感染するディペンドウイルス属、エリスロウイルス属またはボカウイルス属であり、より好ましくはヒトパルボウイルスB19である。いくつかの実施形態において、パルボウイルスは、パルボウイルス属由来である。パルボウイルスは、出願時には特徴づけられていない分離株も包含し得る。
【0021】
ヒトパルボウイルスB19は、3つの別個の遺伝子型に細分され得ることが知られている。これらの遺伝子型間のヌクレオチドの相違は、およそ10%であり、プロモーター領域においては20%超である。以前よりヒトパルボウイルスB19として公知であったウイルスは全て遺伝子型1として分類された。遺伝子型2は、比較的まれに見いだされる。遺伝子型2が見いだされる場合、およそ40歳よりも高齢の個体においてはるかに高い頻度で同定される。遺伝子型3のウイルスは、原型(protype)株V9(GenBank受託番号AX003421)および原型株D91.1(GenBank受託番号AY083234)によって代表される2つのサブタイプに分類される。遺伝子型3のウイルスは、西アフリカのガーナに特有であることが示されており、ブラジルの特定の地域に存在する可能性もある。
【0022】
本明細書において、パルボウイルスの構造タンパク質VP1は、ヒトパルボウイルスB19のVP1に相当する構造タンパク質であってよく、配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。パルボウイルスの構造タンパク質VP1は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有してもよい。本明細書において数個とは、例えば2~20個、2~10個、2~5個、または2~3個であってよい。
【0023】
本明細書において、パルボウイルスの構造タンパク質VP2は、ヒトパルボウイルスB19のVP2に相当する構造タンパク質であってよく、配列番号2に記載のアミノ酸配列と80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。パルボウイルスの構造タンパク質VP2は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有してもよい。
【0024】
本明細書において、パルボウイルスのRBDは、ヒトパルボウイルスB19のVP1のRBDに相当する領域であってよく、配列番号3に記載のアミノ酸配列と80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。パルボウイルスのRBDは、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有してもよい。
【0025】
本明細書において、パルボウイルスのPLA活性領域は、ヒトパルボウイルスB19のVP1のPLA活性領域に相当する領域であってよく、配列番号4に記載のアミノ酸配列と80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。パルボウイルスのPLA活性領域は、配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有してもよい。
【0026】
本発明に係る構造タンパク質は、ウイルス様粒子形成能を有し、(a)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列を含むパルボウイルスの構造タンパク質であってよい。配列番号5~7に記載されたアミノ酸配列は、それぞれヒトパルボウイルスB19のVP1のN末端に1個、2個または3個のRBDが付加されたアミノ酸配列である。配列番号8~10に記載されたアミノ酸配列は、それぞれ配列番号5~7のアミノ酸配列からPLA活性領域の一部が欠失したアミノ酸配列である。本発明に係る構造タンパク質は、配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列からなってもよい。
【0027】
本発明に係る構造タンパク質は、ウイルス様粒子形成能を有し、(b)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むパルボウイルスの構造タンパク質であってよい。本発明に係る構造タンパク質は、配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列と好ましくは92%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または99.5%以上の同一性を有する。
【0028】
本発明に係る構造タンパク質は、ウイルス様粒子形成能を有し、(c)配列番号5~10のいずれかに記載されたアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むパルボウイルスの構造タンパク質であってよい。
【0029】
<核酸>
本発明に係る核酸は、本発明に係る構造タンパク質をコードする。本発明に係る核酸からは、上述の構造タンパク質を製造できる。核酸は、好ましくはDNAまたはRNAであり、一本鎖または二本鎖であってよい。本発明に係る核酸は、本発明に係る構造タンパク質に対応する塩基配列の5’末端側に他のペプチドをコードする塩基配列を含んでいてもよく、塩基配列の3’末端に終止コドンを含んでいてもよく、イントロン配列を含んでもよい。
【0030】
本発明に係る核酸は、野生型のパルボウイルスが有する核酸配列に限定されず、コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他のコドンに置換した塩基配列を含む核酸が含まれる。タンパク質の発現を向上させる観点から、本発明に係る核酸は、核酸が導入される細胞種、好ましくはヒト細胞に適するようにコドン出現頻度(codon usage)を変更した塩基配列を含む核酸であってもよい。
【0031】
本実施形態に係る核酸は、化学合成またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによって得ることができる。
【0032】
本発明に係る核酸の例は、ヒトパルボウイルスB19のVP1をコードする核酸にRBDの核酸配列が1~3個付加された核酸配列(配列番号11~13)および配列番号12の核酸配列からPLA活性領域の一部が欠失した核酸配列(配列番号14)が挙げられる。配列番号11~14に示した核酸配列は、ヒトのコドンに最適化させた配列である。
【0033】
<ベクター>
本発明に係るベクターは、上述の核酸を含む。ベクターは、DNAを増幅、維持できる核酸分子であり、例えば発現ベクターおよびクローニングベクターが挙げられる。一例において、上述の核酸は、発現ベクターに挿入された形で宿主細胞などに導入され、本発明に係る構造タンパク質を発現できる。本発明に係るベクターは,通常の遺伝子工学的手法に準じて上述の核酸を適当な基本ベクター中に挿入して得ることができる。
【0034】
本発明に係るベクターは、VP2をコードする核酸をさらに含んでいてもよい。RBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とは、異なるベクターに含まれていてもよいし、同一ベクター上に含まれていてもよい。同一ベクター上に、RBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とを含むとき、1つのベクターの導入によりRBD付加VP1とVP2との両方を宿主細胞内で発現することができる。
【0035】
ベクターは、例えば細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、ファージミドベクター、人工染色体ベクターなどであってよい。ベクターとしては、pBR322、pUCプラスミドベクター、pET系プラスミドベクターなどが挙げられる。具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合にはpUC19、pUC18、pUC119、pBluescriptII、pET28a(+)、pET32などを挙げることができる。哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えばpA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、EBウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどを挙げることができる。
【0036】
発現ベクターは、組み込まれた遺伝子を発現するためのプロモーター配列を有してもよい。ベクターに組み込まれる核酸は、プロモーターが機能可能な状態でプロモーターの下流に挿入される。プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主が大腸菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、Gal1/10プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。宿主が植物細胞である場合、CaMV35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、NOSプロモーターなどが好ましい。
【0037】
発現ベクターとしては、上記の他に、目的によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ターミネーター、ポリA付加シグナル、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子などの選択マーカー、複製起点などを含有しているものを用いることができる。
【0038】
例えば自律複製起点(ori)を有するベクターは宿主細胞に導入された際にエピソームとして細胞内に保持される。SV40のoriが組み込まれたベクターは、例えばoriを欠失したSV40ゲノムで形質転換されたCOS細胞などに導入されると、細胞内でベクターのコピー数を非常に増大させることができる。
【0039】
<細胞>
本実施形態に係る細胞は、上述の核酸が導入された細胞である。核酸は、ベクターに含まれた形態で細胞に導入されてもよい。核酸が導入された細胞は、本発明に係る構造タンパク質を発現できる。核酸は細胞内で染色体外に保持されていてもよいし、宿主細胞の染色体に組み込まれていてもよい。本発明に係る核酸または本発明に係るベクターは、好ましくは宿主細胞内で機能するプロモーターの制御下で遺伝子が発現可能な状態で保持されている。
【0040】
細胞に核酸を導入する方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、カチオニックリポソーム法などの化学的手法;アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、HVJリポソームなどの生物学的手法;エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、遺伝子銃などの物理的手法などが例示される。導入する細胞に応じて、適切な導入方法を選択することができる。
【0041】
核酸が導入される細胞としては、真核生物または原核生物の細胞を用いることができ、細菌、真菌、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞が挙げられる。細胞は、酵母、大腸菌、哺乳動物、鳥類または魚類の細胞であってよく、哺乳動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌなどが含まれる。核酸が導入される細胞としては当業者に周知な細胞を利用できるが、例えば、HEK 293T細胞、CHO細胞などが用いられる。
【0042】
<VLP>
本発明に係るVLPは、本発明に係る構造タンパク質およびパルボウイルスの構造タンパク質VP2を含む。本発明に係るパルボウイルスのVLPは、ウイルスゲノムを含まない、非複製的かつ非感染性のウイルスの殻である。一般に、ウイルスの構造タンパク質であるVP1にタンパク質またはペプチドが付加されるとVLPが形成されにくくなるおそれがあるが、本発明に係るVLPは、上述のRBD付加VP1およびパルボウイルスのVP2を適切な細胞で発現させると自動的に形成され得る。本発明に係るVLPは、任意のパルボウイルスのRBD付加VP1および任意のパルボウイルスのVP2の組み合わせから形成されてよい。VLPの存在は、透過型電子顕微鏡(TEM)により粒子を直接観察する方法、密度勾配遠心分離により特徴的な密度のバンドの存在を確認する方法などの当業者に既知の方法で確認できる。VLPの粒子サイズおよび形状はばらつきが大きいため、ある対象について複数の手段でVLPか否かを確認することもできる。本発明に係るVLPは、免疫原性を有する。
【0043】
本発明に係るVLPは、好ましくは野生型のVLPよりもPLA活性が減弱しており、より好ましくはPLA活性を有していない。PLA活性が減弱したVLPは、対象に投与したときの安全性を向上させることができる。PLA活性の減弱とは、例えば天然(野生型)のVP1を含むVLPが有するPLA活性の半分以下であり、好ましくは1/3以下、1/5以下または1/10以下であってよい。PLA活性は、例えば後述の実施例において使用されるキットによって測定できる。PLA活性が減弱または欠失したVLPは、上述の構造タンパク質において、VP1のPLA活性領域の少なくとも一部に変異を有し、好ましくはVP1の141番目から159番目において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加され、より好ましくはVP1の141番目から159番目のアミノ酸の少なくとも1個が欠失し、例えば141番目から159番目のアミノ酸が全て欠失している構造タンパク質をVLPの構成要素として使用することで得ることができる。PLA活性領域の一部を欠失させた領域は、適切な長さのリンカーペプチドによって接続されていてもよい。リンカー配列は、例えば1アミノ酸残基以上20アミノ酸残基以下であってよく、10アミノ酸残基以下であってもよい。リンカー配列は、グリシンリッチな配列でもよく、例えばGGGGGG配列を含んでもよい。
【0044】
VLPには、RBD付加VP1がVP2と等量程度含まれていてもよいが、VP2よりも少ない量が含まれていてもよい。VLP中のRBD付加VP1とVP2との量比は、例えば5:95~40:60であり、30:70、20:80または10:90であってもよい。VLP中のRBD付加VP1とVP2との量比は、例えば細胞に導入されるRBD付加VP1発現ベクターとVP2発現ベクターの量、これらのベクター導入のタイミング、ベクターに含まれるプロモーターの種類、その他の転写調製因子などによって調製することができる。タンパク質の量比は、吸光度、蛍光度、ポリアクリルアミドゲル電気泳動などによって測定できる。
【0045】
<VLPの製造方法>
VLPを製造するための方法は当技術分野で公知である。一態様では、本発明に係る構造タンパク質をコードする核酸または当該核酸を含むベクターが導入された細胞を培養する工程および細胞から産生されたVLPを回収する工程を含む。
【0046】
細胞は、本発明に係る構造タンパク質を発現できる細胞である。細胞には、パルボウイルスのVP2をコードする核酸または核酸を含むベクターが導入されている。同一細胞内でRBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とを含む細胞を培養することで、同一細胞内でRBD付加VP1とVP2とが発現し、VLPが形成される。RBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とは、同一ベクター内に含まれていてもよいし、異なるベクターに含まれていてもよい。RBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とは、異なるプロモーターまたは異なる転写調節を受けることが好ましい。RBD付加VP1遺伝子とVP2遺伝子とは、同じタイミングまたは異なるタイミングで細胞に導入されてよい。
【0047】
細胞の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。例えば大腸菌またはバチルス属菌を培養する場合、培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、細胞の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えばグルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など;窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質;無機物としては、例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5~約8である。大腸菌の培養は、通常約15~約43℃で行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。バチルス属菌の培養は、通常約30~約40℃で行なわれる。必要により、通気または撹拌を行ってもよい。
酵母を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地、0.5%カザミノ酸を含有するSD培地などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5~約8である。培養は、通常約20℃~約35℃で行なわれる。必要に応じて、通気または撹拌を行ってもよい。
昆虫細胞を培養する場合の培地としては、例えばGrace’s Insect Mediumに非働化した10%ウシ胎児血清などの添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2~約6.4である。培養は、通常約27℃で行なわれる。必要に応じて通気または撹拌を行ってもよい。
動物細胞を培養する場合の培地としては、例えば、約5~約20%のウシ胎児血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI 1640培地、199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6~約8である。培養は、通常約30℃~約40℃で行なわれる。必要に応じて通気または撹拌を行ってもよい。
植物細胞を培養する培地としては、MS培地、LS培地、B5培地などが用いられる。培地のpHは好ましくは約5~約8である。培養は、通常約20℃~約30℃で行なわれる。必要に応じて通気または撹拌を行ってもよい。
【0048】
VLPを回収する工程においては、宿主細胞の培養上清、宿主細胞の溶解物、宿主細胞のホモジネート、またはそれらの組み合わせからVLPを回収すればよい。回収されたVLPは、密度勾配遠心分離(例えばスクロースクッション、スクロース勾配、PEG沈殿、ペレット形成など)、クロマトグラフィー法(イオン交換クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィなど)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される精製方法を用いて精製することができる。
【0049】
<免疫原性組成物>
本発明は、上述のVLPを含む免疫原性組成物を提供する。免疫原性組成物は、単一の型のVLP、または2種以上の異なるVLP、および目的に応じて1または複数の追加的なポリペプチド、タンパク質、他のウイルスのVLP等を含んでよい。本発明に係る構造タンパク質またはそれを含むVLPは、抗原として、例えば、予防的なまたは治療的な免疫原性組成物中で、個別にまたは組み合わせて投与することができる。免疫原性組成物は、目的の効果を実現するために、2回以上追加投与してもよい(例えば、「初回刺激(prime)」投与、その後の1または複数の「追加刺激(boost)」)。同じ組成物を、1または複数の初回刺激ステップおよび1または複数の追加刺激ステップで投与してよい。初回刺激および追加刺激のために異なる組成物を用いてよい。
【0050】
本発明は、本発明に係る構造タンパク質をコードする核酸およびパルボウイルスVP2をコードする核酸を含有する免疫原性組成物も提供し得る。RBD付加VP1およびVP2をコードする核酸を含有する免疫原性組成物において、核酸は、本明細書に記載の任意の核酸、例えば直鎖DNAまたはRNA、プラスミドDNA、mRNA、自己複製するRNAなどであってよい。目的に応じて、核酸は、ヌクレアーゼ分解に対する安定性および/または抵抗性を改善するために1または複数の修飾塩基を含有してよい。目的に応じて、核酸は、細胞による核酸の取り込みを容易にするため、および/またはヌクレアーゼ分解を低下させるために、1または複数の成分、例えばカチオン性の微小粒子またはナノ粒子、カチオン性脂質なども含んでよい。
【0051】
免疫原性組成物は、一般に、1または複数の薬学的に許容される賦形剤またはビヒクル、例えば、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどを、単独で、または組み合わせて含んでよい。免疫原性組成物は、典型的に、上記の成分に加えて、1または複数の薬学的に許容されるキャリアを含んでよい。このようなキャリアとしては、それ自体は、組成物を受容する個体に有害な抗体の生成を誘導しない任意のキャリアが挙げられる。適切なキャリアは、典型的に、大型のゆっくりと代謝される高分子、例えば、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸共重合体、および脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソームなど)などである。そのようなキャリアは、当業者に周知である。さらに、補助的な物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などを含んでよい。薬学的に許容される成分の考察は、Gennaro(2000年)Remington:The Science and Practice of Pharmacy.第20版、ISBN:0683306472において入手可能である。
【0052】
薬学的に許容される塩も、本発明の免疫原性組成物において用いることができる。塩としては、例えば無機塩類または有機酸の塩が挙げられ、無機塩類としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが、有機酸の塩としては酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが挙げられる。
【0053】
目的に応じて、抗原は、リポソームおよび粒子キャリア、例えば、ポリ(D,L-ラクチドco-グリコリド)(PLG)の微小粒子またはナノ粒子などに吸着させる、その中に閉じ込める、またはその他の方法でそれと結びつけることができる。抗原は、免疫原性を増強するために、キャリアタンパク質に結合体化することができる。Ramsayら(2001年)Lancet 357巻(9251号):195~196頁;Lindberg(1999年)Vaccine 17 Suppl 2巻:S28~36頁;Buttery&Moxon(2000年)J R Coll Physicians Lond 34巻:163~168頁;Ahmad&Chapnick(1999年)Infect Dis Clin North Am 13巻:113~133頁、vii;Goldblatt(1998年)J.Med.Microbiol.47巻:563~567頁;欧州特許第0477508号;米国特許第5,306,492;WO98/42721;Conjugate Vaccines(Cruseら編)ISBN 3805549326、特に10巻:48~114頁;Hermanson(1996年)Bioconjugate TechniquesISBN:0123423368または012342335Xを参照されたい。
【0054】
本発明の免疫原性組成物は、他の免疫調節剤と併せて投与することができる。例えば本発明の免疫原性組成物は、アジュバントを含んでよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩またはその組み合わせ、フロイントアジュバント、レチノイン酸、水中油エマルジョン、無機塩、サポニン、他のVLP、微生物誘導体(例えば、腸内細菌のリポ多糖(LPS)の無毒性の誘導体、リピドA誘導体、免疫賦活性オリゴヌクレオチド、ADP-リボシル化毒素およびその解毒された誘導体)、サイトカイン(インターロイキンを含む)、生体接着剤および粘膜接着剤(エステル化されたヒアルロン酸ミクロスフェア、ポリ(アクリル酸)を含む)、微小粒子(例えば、ポリ(α-ヒドロキシ酸)から形成された直径約100nm~約150μmの粒子)、リポソーム、ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル処方物、ポリホスファゼン、ムラミルペプチド、イミダゾキノロン化合物等の公知のアジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。これらのアジュバントは単独または組み合わせて含んでよい。本発明の免疫原性組成物は、投与する前にアジュバントと予め混合することもできる。本発明の一態様は、免疫原性組成物の製造における上記構造タンパク質またはそれを含むVLPの使用である。
【0055】
<免疫原性組成物の投与>
本発明の免疫原性組成物の投与方法としては、特に限定されず、直腸内、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内、静脈内等の非経口投与や経口投与等のいずれであってもよい。本発明の免疫原性組成物の剤型としては特に限定されず、注射剤、乳剤、座剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。なお、投与回数および投与間隔については、適宜決定することができる。
【0056】
本発明の免疫原性組成物は、哺乳動物、例えば、マウス、ヒヒ、チンパンジー、またはヒトなどに投与する。また、本発明の組成物は、使用される特定の組成物と適合する様式で、かつ免疫応答を誘導するために有効な量で投与できる。
【0057】
免疫原性組成物中のタンパク質の詳細な投与量は、特に限定されないが、免疫原性組成物を投与する哺乳動物の種、年齢、および全身状態、ならびに組成物の投与形式を含めた多くの因子に左右され得る。本発明の免疫原性組成物の有効量は、常套的な実験のみを用いて容易に決定することができる。適切な用量を同定するためにin vitroモデルおよびin vivoモデルを用いることができる。一般に、0.5mg、0.75mg、1.0mg、1.5mg、2.0mg、2.5mg、5mg、10mg、20mgまたは50mgのパルボウイルスポリペプチドまたはVLPを、大型の哺乳動物、例えば、ヒヒ、チンパンジー、またはヒトなどに投与できる。目的に応じて、共起刺激分子またはアジュバントも、組成物の投与前、投与後、または同時に投与することができる。
【0058】
本発明の組成物を投与することによって生じる、パルボウイルスに特異的な免疫応答は、投与量、投与経路、または投与回数などを変動させることによって増強することができる。
【0059】
<免疫応答の効力を決定するための試験>
免疫応答の効力を評価する1つの方式は、組成物を投与した後に、本発明の組成物中の抗原に対する免疫応答をモニターすることを伴う。
【0060】
免疫応答の効力を調査する1つの方式は、組成物を投与した後に、本発明の組成物中の抗原に対する免疫応答をモニターすること(例えば、IgG1生成レベルおよびIgG2a生成レベルをモニターすることなど)および/または粘膜免疫応答をモニターすること(例えば、IgA生成レベルをモニターすることなど)を伴う。
【0061】
現在、パルボウイルス(例えば、ヒトパルボウイルスB19)免疫原性組成物によって誘導される防御免疫を評価するための、承認された動物モデルはない。しかし、免疫原性組成物の免疫応答を誘導する能力は、適切な動物において評価することができる。
【0062】
<医薬品としての免疫原性組成物の使用>
本発明は、医薬品として使用するための本発明の組成物も提供する。医薬品は、哺乳動物における免疫応答を生じさせることができること(すなわち、免疫原性組成物である)が好ましく、ワクチンであることがより好ましい。本発明は、上述のVLPを含むワクチンを哺乳動物に投与し、パルボウイルスの免疫応答を誘導する方法も提供する。本発明は、哺乳動物における免疫応答を上昇させるための医薬品の製造における本発明の組成物の使用も提供する。医薬品は、ワクチンであることが好ましい。ワクチンを使用して、小児における伝染性紅斑、妊娠中の女性における胎児水腫または流産を予防および/または処置することが好ましい。
【0063】
本発明は、本明細書に記載の組成物を用いて免疫応答を誘導、または増大させるための方法を提供する。免疫応答は、防御的であることが好ましく、液性免疫および/または細胞性免疫を含んでよい(全身免疫および粘膜免疫を含む)。免疫応答は、追加刺激応答を含む。
【0064】
本発明は、有効量の本発明の組成物を投与するステップを含む、哺乳動物における免疫応答を上昇させるための方法も提供する。免疫応答は、防御的であることが好ましく、液性免疫および/または細胞性免疫を伴うことが好ましい。免疫応答は、TH1免疫応答およびTH2免疫応答の一方または両方を含むことが好ましい。
【0065】
哺乳動物は、ヒトであることが好ましい。ヒトは、小児、青年または成人であってよく、好ましくは就学前の小児または青年であり、より好ましくは乳幼児または妊娠前の女性である。
【0066】
<キット>
本発明に係るキットは、本発明に係るパルボウイルスVLPを含む。キットは、本発明に係るVLP、核酸またはベクターを含む免疫原性組成物を含んでもよい。免疫原性組成物は、液体の形態であってもよく、凍結乾燥されていてもよい。キットは、1または複数の容器を含んでよい。組成物用の適切な容器としては、例えば、ビン、バイアル、シリンジ、および試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスティックを含めた種々の材料から形成されていてよい。容器は、滅菌アクセスポートを有してよい。容器は、例えば静脈内溶液バッグまたは注射針で穴をあけることができる止め栓を有するバイアルであってよい。
【0067】
キットは、薬剤的に許容できる緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)、リンゲル液、またはブドウ糖溶液などを含む第2の容器をさらに含んでよい。これは、他の薬学的に許容される処方用溶液、例えば、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジまたは他の送達デバイスなどを含めた、最終使用者にとって有用な他の材料も含有してよい。キットは、アジュバントを含む第3の成分をさらに含んでよい。
【0068】
キットは、免疫誘導する方法のため、または感染を処置するための使用説明書を含有する添付文書も含んでよい。キットは、本発明の免疫原性組成物を予め満たした送達デバイス、例えば、注射針を有する、または有さないシリンジを含んでもよい。
【0069】
本発明は、上記の方法によって生成される構造タンパク質またはVLPを、パルボウイルスについて血清陽性を決定するための抗原として用いる診断用キットも提供し得る。診断用キットは、本明細書に記載の構造タンパク質またはVLPの他に、個体がパルボウイルスに結合する抗体について血清陽性であるかどうかを決定するための1または複数の補助的な試薬を含有してよい。適切な補助的な試薬としては、例えば、緩衝液、二次抗体または検出抗体(例えば、標識された抗ヒト抗体、標識された抗イヌ抗体)、検出剤などが挙げられる。キットは、診断アッセイを実施するための説明書をさらに含んでよい。
【実施例0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
実験1:RBD付加VP1発現プラスミドのクローニング
パルボウイルスB19-J35(Accession No.AY386330)のVP1およびVP2について、ヒトのコドンに最適化された核酸(hVP1:配列番号15)および(hVP2:配列番号16)を、pAAV-IRES-Puro真核細胞発現ベクターに挿入し、図2のpAAV-IRES-Puro-hVP1およびpAAV-IRES-Puro-hVP2を得た。制限酵素サイトとして、BamH1およびEcoR1を用いた。hVP1遺伝子のN末端にRBD(配列番号17)を1つ、2つまたは3つ付加し、図2のpAAV-IRES-Puro-1RBD-hVP1、pAAV-IRES-Puro-2RBD-hVP1およびpAAV-IRES-Puro-3RBD-hVP1を作製した。1RBD-hVP1、2RBD-hVP1および3RBD-hVP1の核酸配列を配列番号11~13に示す。以上により、パルボウイルスのVP1のN末端に1~3個のRBDがさらに付加された構造タンパク質、具体的には図1に示す1RBD-VP1:配列番号5、2RBD-VP1:配列番号6、3RBD-VP1:配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む発現プラスミドを得た。
【0072】
比較例として、hVP2遺伝子のN末端にRBDを1つまたは2つ付加し、図2のpAAV-IRES-Puro-1RBD-hVP2およびpAAV-IRES-Puro-2RBD-hVP2を作製した。1RBD-hVP2および2RBD-hVP2の核酸配列を配列番号18および配列番号19にそれぞれ示す。また、比較例として、hVP1遺伝子のC末端にRBDを1つ付加し、図2のpAAV-IRES-Puro-hVP1-1RBDを作製した。hVP1-1RBDの核酸配列を配列番号20に示す。RBD同士、RBDとhVP1、またはRBDとhVP2とは、配列番号21に記載のリンカー配列(アミノ酸配列:GGGGGG、配列番号22)を含む核酸配列によって接続した。すべてのプラスミドはサンガーシークエンス法にて遺伝子配列を決定した。以上により、図1に示す1RBD-VP2:配列番号23、2RBD-VP2:配列番号24およびVP1-1RBD:配列番号25に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む発現プラスミドを得た。
【0073】
実験2:パルボウイルスVLPの作製
VP1(VP1 wt)、1RBD-VP1、2RBD-VP1、3RBD-VP1、VP1-1RBD、1RBD-VP2または2RBD-VP2と、VP2(VP2 wt)を、Lenti-X 293T細胞に等質量ずつ同時に導入し、発現させた。遺伝子の導入にはPolyethylenimine(Polyscuebces,Inc.、Cat#24765-2、1mg/ml、pH8.0)を、プラスミド1μgに対して9μl用いた。遺伝子導入後、細胞は5%CO下、37℃で48時間培養した。
【0074】
培養後のLenti-X 293T細胞を、ピペッティング操作により培地と共に回収し、遠心(1,750g、4℃、3分)により細胞と上清を分離した。上清を除き、細胞ペレットを得た。細胞にペニシリン・ストレプトマイシン添加DMEM(SIGMA、Cat#D6429-500ML)もしくはPBSを加え、よく懸濁し、遠心(1,750g、4℃、3分)により細胞と上清を分離した後、上清を除き、細胞ペレットを得た。この細胞ペレットに、0.1%TritonX-100(Alfa Aesar、Cat#A16046)を含むペニシリン・ストレプトマイシン添加DMEM(もしくはPBS)を、10cmdish 1枚当たり500μl加え、ボルテックスを使用して十分に混合した後、室温で10分間、震盪させながら混和した。遠心(32,300g、4℃、60分)により細胞残屑と上清を分離し、パルボウイルスのVLPが含まれる上清(タンパク質抽出液)を得た。
【0075】
以下の手順で、パルボウイルスVLPの精製を行った。35.6mlのポリプロピレンチューブ(himac)中に10%スクロースから50%スクロースの連続勾配溶液を調製した。スクロースの連続勾配溶液の最上部にタンパク質抽出液を穏やかに加えた。4時間の超遠心(hitachi P32STローター、100,000g、4℃)に供して、タンパク質抽出液をスクロースの連続密度勾配溶液に入れた。下部からスクロースの連続勾配溶液を分画し、1.5mlごとの画分にした。
【0076】
VLPが含まれる画分を確認するため、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットを行った。電気泳動後にゲル中のタンパク質をCoomassie Brilliant Blue(CBB)を用いて染色した。また、電気泳動後のゲル中のタンパク質をフッ化ポリビニリデン(PVDF)膜に転写し、VP1およびVP2を認識するanti-parvovirus VP2抗体(アブカム社、ab64295)を用いてVLPの検出を行った。
【0077】
VLPを含む画分をSlide-A-Lyzer Dialysis Cassette G2 20000 MWCO(Thermo Fisher Scientific社)内に入れ、およそ70倍の体積のPBS溶液(140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM PO 3-、pH7.4)に浸し、4℃下でVLPを含む画分溶液のPBS置換を行った。透析後のVLP溶液を回収し、ポアサイズ0.45μmのシリンジフィルター(メルクミリポア社、Cat#SLHVR33RS)を用いて限外ろ過を行った。
【0078】
VLP含有溶液を、予め洗浄し、かつ平衡化したQ Sepharoseビーズが1ml充填されたカラム(HiTrap Q HP column、GE Healthcare、Cat#29-0513-25)に流量1ml/minで結合させた。NaCl勾配を用いて、結合したタンパク質を溶出した。クロマトグラフィーは、以下の様に実行した。
緩衝液A:PBS(140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM PO 3-、pH7.4)
緩衝液B:1M NaClを含むPBS(140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM PO 3-、pH7.4)
(1)カラム容量の3倍量の緩衝液Aを用いて、流速1ml/minにてカラム内を洗浄した。
(2)カラム容量の20倍量の緩衝液を、流速1ml/minかつ0-100%の緩衝液Bの勾配にてカラム内を通し、タンパク質の溶出を行った。
(3)カラム容量の5倍量の緩衝液Bを用いて、流速1min/mlにてカラム内を洗浄した。
(4)溶出の間、1mlで分画を行い、画分を保存した。
【0079】
VP1およびVP2タンパク質のバンドと同等、もしくはそれを超えるバンド強度を示すタンパク質が検出されないことを確認するため、SDS-PAGE後、CBB染色を行った(図3)。また、各VLP中(RBD付加タンパク質とVP2の合計)のRBD付加タンパク質の割合をバンド強度より算出した結果を図4に示す。以上の結果より、目的とするVLPが作製できていることを確認した。また、VLPの形成は電子顕微鏡でも確認した。
【0080】
実験3:VLPの免疫原性の評価
BALB/cマウスを用いて、VP1 wt VLP(n=5)および2RBD-VP1 VLP(n=6)の免疫原性を評価した。免疫はアルミニウムアジュバント10μgとVLP5μgの筋肉内注射により行った。7週齢で初回免疫を行い、その14日後に9週齢で第2回の免疫を行った。第2回の免疫から14日後に11週齢で第3回の免疫を行った。第3回の免疫から14日後に13週齢でマウスから採血を行い、血清試料を取得した。
【0081】
各投与群について、中和エピトープ領域であるVP1(配列番号1)の1-90アミノ酸領域でコーティングしたプレートを用いて、IgG ELISAを実施した。一次抗体としてマウス免疫血清、二次抗体としてAnti-Mouse IgG(whole molecule)-Peroxidase antibody produced in goat affinity isolated antibody(Sigma-Aldrich社、カタログ番号:A4416-1ML)を使用し、BioFX(登録商標) TMB One Component HRP Microwell Substrate(Surmodics社、カタログ番号:TMBW-1000-01)によって検出した。結果を図5に示す。VP1のN末端にRBDが付加されたVP1を含むVLP(2RBD-VP1 VLP)を投与したマウスでは、VP1 wtを含むVLP(VP1 wt VLP)を投与したマウスより高い抗体価が検出された。また、VP1のN末端にRBDが付加されたVP1を含むVLPでは、マウスの個体ごとのバラツキが小さかった。VP1のN末端にRBDを付加することで、VLPの免疫原性が上昇することがわかった。
【0082】
実験4:VLPにより誘導された抗体の中和活性の評価
実験2で得た各種VLPをBALB/cマウス(n=3~6)に投与し、免疫を行った。免疫は実験3と同じ手順で行い、血清試料を得た。マウス血清中に含まれる中和抗体の中和活性を評価するため、以下の中和試験を実施した。
【0083】
血清を力価8×10 IUのウイルスと等しい容量で混合し、室温で1時間反応させた。CD36発現陽性である臍帯血由来赤血球前駆細胞8×10個と反応液とを混合し、4℃で2時間静置した。その後、5%CO、37℃で細胞を培養し、培養開始から70時間後(感染から72時間後)に細胞を培養液ごと回収し、遠心(300g、5分)により細胞ペレットを得た。4%パラホルムアルデヒドに細胞を懸濁し、室温で15分反応させた後、PBSにて洗浄後、遠心(300g、5分)により細胞ペレットを得た。0.1%Triton-X、Human Fc Block(Becton Dickinson社、Cat#564220)を含むPBSに細胞を懸濁し、室温で30分反応させた後、PBSを加えてよく細胞を混合し、遠心(300g、5分)により、細胞ペレットを得た。VP2に対するウサギポリクローナル抗体(自家製)、0.1% Triton-Xを含む、10%BSA/PBS溶液に細胞を懸濁し、室温で1時間反応させた。PBSを加えてよく細胞を混合し、遠心(300g、5分)により細胞ペレットを得た。Alexa Fluor 488修飾抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社、#A-11008)、0.1%Triton-Xを含む10%BSA/PBS溶液に細胞ペレットを懸濁し、遮光下、室温で1時間反応させた。PBSを加えてよく細胞を懸濁し、遠心(300g、5分)により細胞ペレットを得た。細胞をPBS溶液に懸濁しCytoFLEX(Beckman Coulter社)にてVP2陽性細胞数を測定した。計測した全細胞数に対するVP2陽性細胞の割合を算出し、その値を感染率として中和活性を評価した。
【0084】
結果を図6に示す。VP1のN末端側にRBDが付加された1RBD-VP2、2RBD-VP1および3RBD-VP1を含むVLPにより誘導された抗体は、ウイルス感染率を大きく低下させた。VP2のN末端にRBDが付加された1RBD-VP1または2RBD-VP2を含むVLPにより誘導された抗体はウイルス感染率をほとんど下げることができなかった。VP1のC末端にRBDが付加されたVP1-RBDを含むVLPにより誘導された抗体は、ウイルス感染率を少し低下させた。VP1のN末端側にRBDを付加することで、このタンパク質を含むVLPが高い中和活性を有する抗体を誘導できることがわかった。
【0085】
実験5:PLA活性領域欠失VP1を含むVLPの作製
2RBD-VP1からPLA活性領域の一部(VP1:配列番号1の141番目~159番目、図7において下線部)が欠失した構造タンパク質(2RBD-VP1 delPLA)の発現プラスミドを実験1で作製した2RBD-VP1を元に作製した。欠失箇所には、グリシンリンカー(GGGGGG)を導入した。2RBD-VP1 delPLAのアミノ酸配列を配列番号9に、核酸配列を配列番号14に示す。
【0086】
実験2と同じ方法で、2RBD-VP1 delPLAとVP2とを細胞内で共発現させ、得られたVLPを精製した。実験2と同じ方法で精製後のVLPをCBB染色した結果を図8に示す。また、実験2と同じ方法でVLP(VP1とVP2との合計)中のVP1の割合を図9に示す。これより、目的のVLPの作製が確認できた。
【0087】
実験6:PLA活性領域欠失VLPの免疫原性の評価
実験5で得た2RBD-VP1 delPLAを含むVLPの免疫原性を評価した。実験3と同じ手順で、BALB/cマウス(n=5)に免疫を行い、得られた血清試料について、中和エピトープ領域であるVP1タンパク質の1-90アミノ酸領域でコーティングしたプレートを用いて、IgG ELISAを実施した。結果を図10に示す。炎症惹起作用に関与するとされるPLA活性領域の一部欠失は、免疫原性に影響を与えないことがわかった。
【0088】
実験7:PLA活性領域欠失VLPのPLA活性の評価
実験5で得た2RBD-VP1 delPLAを含むVLPに対して、PLA活性の評価を行った。PLA活性の評価にはsPLA Assay Kit(Cayman Chemical社、#765001)を使用し、次の手順で試験を行った。sPLA DTNB (#765010)10μlと、サンプル10μlと、sPLAAssay Buffer(#765010)5μlとを混合し、200μlのsPLA Diheptanoyl Thio-PC(#765015)を添加した。プレートを攪拌後、プレートリーダーを用いて吸光度(414nm)を測定し、吸光度の値をもとにPLA活性を算出した。結果を図11に示す。PLA領域の一部欠失により、VLPのPLA活性は有意に減弱することが確認された。
図1
図2
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【配列表】
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