(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127593
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】多孔質二次粒子の開口部の評価方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/22 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016812
(22)【出願日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021025097
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA12
5C101FF01
5C101FF23
5C101GG03
5C101HH35
5C101HH37
5C101HH38
5C101KK02
(57)【要約】
【課題】多孔質二次粒子の開口部を評価する手法を提供する。
【解決手段】複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の表面の開口部を評価する方法であって、多孔質二次粒子の観察像を二値化して得られる多孔質二次粒子内の空間部分から、該空間部分に対して浸食処理を行った後の空間部分を減算して得られる空間部分を開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程を有する、多孔質二次粒子の開口部の評価方法を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の表面の開口部を評価する方法であって、
多孔質二次粒子の観察像を二値化して得られる多孔質二次粒子内の空間部分から、該空間部分に対して浸食処理を行った後の空間部分を減算して得られる空間部分を開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程を有する、多孔質二次粒子の開口部の評価方法。
【請求項2】
多孔質二次粒子の観察像である領域1を得る工程と、
領域1を二値化して粒子部分をa色として抽出した領域2を得る工程と、
領域2に対してClosing処理を行った後、a色に包囲されたb色を埋めるFill Hole処理を行って領域3を得る工程と、
領域3のa色を所定の画素数X分浸食して領域4を得る工程と、
領域4のa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が除外された空間部分を抽出して領域5を得る工程と、
領域3のa色を所定の画素数(X+1)分浸食して領域4エを得る工程と、
領域4エのa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が更に除外された空間部分を抽出して領域5エを得る工程と、
領域5のa色から領域5エのa色を減算して領域6を得る工程と、
領域6において、画素同士が互いに接しているa色の箇所全体を一つのクラスターと認定し、各クラスターを特定するクラスタリング工程と、
特定された各クラスターを開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程と、
を有する、請求項1に記載の多孔質二次粒子の開口部の評価方法。
【請求項3】
前記観察像は、多孔質二次粒子に対する集束イオンビーム加工観察装置(FIB)を用いた断面加工および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた像観察で得られる2次元観察像を深さ方向ごとに取得することにより得られる3次元観察像、または、多孔質二次粒子に対する透過型電子顕微鏡(TEM)のトモグラフィー法により得られる3次元観察像である、請求項1または2に記載の多孔質二次粒子における多孔質二次粒子の開口部の評価方法。
【請求項4】
観察像の二値化の前に、多孔質二次粒子の観察像に対し、観察像を得るために使用された電子顕微鏡の電子線の多孔質二次粒子に対する入射角を加味してX軸、Y軸またはX軸、Y軸、Z軸の画素サイズを等価にする画素サイズ等価化工程を更に有する、請求項1~3のいずれか一つに記載の多孔質二次粒子における多孔質二次粒子の開口部の評価方法。
【請求項5】
複数の多孔質二次粒子が連結して形成された三次粒子の観察像に対し、三次粒子の観察像を得るために使用された電子顕微鏡の電子線の三次粒子に対する入射角を加味してX軸、Y軸またはX軸、Y軸、Z軸の画素サイズを等価にする三次粒子の観察像の画素サイズ等価化工程と、
前記サイズ等価化工程後の三次粒子の観察像を二値化した二値化像を得る三次粒子の観察像の二値化工程と、
三次粒子二値化像に対してモフォロジー処理を行う二値化画像平滑化工程と、
分水嶺アルゴリズムを使用し、前記二値化画像平滑化工程後の三次粒子二値化像内において、二次粒子間の連結部を規定する連結部規定工程と、
を更に有し、
前記三次粒子二値化像内において前記連結部を境に分離された多孔質二次粒子を、開口部の評価対象とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の多孔質二次粒子の開口部の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質二次粒子の開口部の評価方法に属する。
【背景技術】
【0002】
粒子の連結態様の評価方法として、例えば、特許文献1に記載のように、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真の画像処理が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器などに用いられる粒子材料においては、反応面積を大きくするなどの目的から、粒子を多孔質化するなどの材料設計が実施される場合がある。
【0005】
多孔質粒子は、一次粒子を複雑なネットワーク状に連結させて内部に空隙を多数含む二次粒子を形成することで作製される。
【0006】
本明細書における一次粒子は、単一の結晶核の成長によって生成した粒子とし、二次粒子は、一次粒子の合体成長、凝集、固結などによって生成した粒子とする。また、多孔質二次粒子は、その名の通り多数の孔が形成された(例えば空隙率1%以上の)二次粒子とする。
【0007】
大きな反応面積を有する多孔質二次粒子の材料設計において、反応場の面積の多寡に関しては、従来では、例えば、水銀圧入法などを活用し、BET比表面積、細孔径分布を基に評価されていた。
【0008】
その一方、本発明者の調べにより、これらの物性値が同等の複数の試料であっても、該試料を原料に作製したデバイスでは性能に差が出る場合があることが判明した。本発明者は、上記新たな知見に関し、鋭意検討を加えた。その結果、以下の内容を知見した。
【0009】
実際のデバイスにおける反応においては、二次粒子表面領域から内部領域に通じる空孔の二次粒子表面における開口部の数やその面積も重要となる。つまり、開口部の数が多く、開口部が大きいほど、二次粒子内部への元素の拡散がしやすくなり、反応活性が高くなる。
【0010】
本発明の課題は、多孔質二次粒子の開口部を評価する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の表面の開口部を評価する方法であって、
多孔質二次粒子の観察像を二値化して得られる多孔質二次粒子内の空間部分から、該空間部分に対して浸食処理を行った後の空間部分を減算して得られる空間部分を開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程を有する、多孔質二次粒子の開口部の評価方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
多孔質二次粒子の観察像である領域1を得る工程と、
領域1を二値化して粒子部分をa色として抽出した領域2を得る工程と、
領域2に対してClosing処理を行った後、a色に包囲されたb色を埋めるFill Hole処理を行って領域3を得る工程と、
領域3のa色を所定の画素数X分浸食して領域4を得る工程と、
領域4のa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が除外された空間部分を抽出して領域5を得る工程と、
領域3のa色を所定の画素数(X+1)分浸食して領域4エを得る工程と、
領域4エのa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が更に除外された空間部分を抽出して領域5エを得る工程と、
領域5のa色から領域5エのa色を減算して領域6を得る工程と、
領域6において、画素同士が互いに接しているa色の箇所全体を一つのクラスターと認定し、各クラスターを特定するクラスタリング工程と、
特定された各クラスターを開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程と、
を有する、第1の態様に記載の多孔質二次粒子の開口部の評価方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、
前記観察像は、多孔質二次粒子に対する集束イオンビーム加工観察装置(FIB)を用いた断面加工および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた像観察で得られる2次元観察像を深さ方向ごとに取得することにより得られる3次元観察像、または、多孔質二次粒子に対する透過型電子顕微鏡(TEM)のトモグラフィー法により得られる3次元観察像である、第1または第2に記載の多孔質二次粒子における多孔質二次粒子の開口部の評価方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、
観察像の二値化の前に、多孔質二次粒子の観察像に対し、観察像を得るために使用された電子顕微鏡の電子線の多孔質二次粒子に対する入射角を加味してX軸、Y軸またはX軸、Y軸、Z軸の画素サイズを等価にする画素サイズ等価化工程を更に有する、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の多孔質二次粒子における多孔質二次粒子の開口部の評価方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、
複数の多孔質二次粒子が連結して形成された三次粒子の観察像に対し、三次粒子の観察像を得るために使用された電子顕微鏡の電子線の三次粒子に対する入射角を加味してX軸、Y軸またはX軸、Y軸、Z軸の画素サイズを等価にする三次粒子の観察像の画素サイズ等価化工程と、
前記サイズ等価化工程後の三次粒子の観察像を二値化した二値化像を得る三次粒子の観察像の二値化工程と、
三次粒子二値化像に対してモフォロジー処理を行う二値化画像平滑化工程と、
分水嶺アルゴリズムを使用し、前記二値化画像平滑化工程後の三次粒子二値化像内において、二次粒子間の連結部を規定する連結部規定工程と、
を更に有し、
前記三次粒子二値化像内において前記連結部を境に分離された多孔質二次粒子を、開口部の評価対象とする、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の多孔質二次粒子の開口部の評価方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多孔質二次粒子の開口部を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、二値化工程の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施例に係る画像処理の結果を段階ごとに示す図(その1)である。
【
図3】
図3は、本実施例に係る画像処理の結果を段階ごとに示す図(その2)である。
【
図4】
図4は、クラスタリング工程の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本実施例の試料Aに係る画像処理の結果を段階ごとに示す図である。
【
図6】
図6は、本実施例の試料Bに係る画像処理の結果を段階ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態は、複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の表面の開口部の評価方法に係る。粒子は一種の組成からなってもよいし、複数種類の組成からなってもよい。以下、本実施形態について説明する。「~」は所定数値以上且つ所定数値以下を指す。
【0019】
[観察像の取得]
まず、解析に用いる観察像を取得する。本実施形態においては、最初に取得する観察像として、複数の多孔質二次粒子が連結して形成された三次粒子に対する電子顕微鏡での観察像を例示する。三次粒子は複数の多孔質二次粒子が連結してなるため、本来ならば三次粒子のことを多孔質三次粒子と記載すべきところではあるが、説明の便宜上、単に三次粒子と記載する。この三次粒子、多孔質二次粒子、一次粒子はいずれも導電粒子または導電性が付与された粒子である。三次粒子を単に「試料」とも称する。試料が三次粒子を指す以上、試料には多孔質二次粒子、一次粒子も含まれる。
【0020】
一次粒子の平均粒子径(例えばSEM観察像から算出)としては例えば数nm~数100nmであってもよいし、多孔質二次粒子の平均粒子径としては例えば数100nm~数100μmであってもよい。
【0021】
観察は、目的とする試料のサイズや予想されるプローブとの接触面積を鑑み、適切な空間分解能を有する評価装置・観察条件を選択して実施する。例えば、数10nm~数100μmの試料に対しては走査型電子顕微鏡(以下SEMと略す)、数nm~数100nmの粒子に対しては透過型電子顕微鏡(以下TEMと略す)などを用いた像観察が可能である。なお、走査透過型電子顕微鏡(STEM)は両タイプに属するものとする。
【0022】
観察像は3次元観察像を用いる。3次元観察像は、SEMの場合は、集束イオンビーム加工観察装置(FIB)が付属したSEM装置にて、一定の加工幅での断面加工とSEM観察を繰り返すことにより得た(すなわち深さ方向ごとに得た)2次元観察像のセットを、画像解析ソフトを用いて3次元構築像化することができる。
【0023】
また、TEMトモグラフィー法により、傾斜角度を変えて撮影した2次元観察像を3次元構築することで3次元観察像を得ることも可能である。
【0024】
前処理後の試料として、SEMの場合は、FIBあるいはクロスセクションポリッシャー、研磨などによって断面加工した試料を用いてもよい。TEMの場合は、分散法、転写法やFIB加工などによって作製した試料を用いてもよい。
【0025】
観察対象となる粒子のサイズ等に応じて画像取得条件を適時変更してもよい。例えば、SEM観察においては一般に以下のような考え方で各測定パラメーターを変更してもよい。
【0026】
<加速電圧>
加速電圧が高いほど、試料の最表面から深い部分の情報が観察像に混在する。つまり、観察像が2次元画像であるにもかかわらず、奥行き方向の情報(断面に埋もれている粒子の情報など)も観察像に混在してしまう。そのため、必要な空間分解能が担保できる範囲内でなるべく低加速電圧の条件を用いるのが好ましい。
【0027】
<電流>
一般に、低い電流値(小さなアパーチャーサイズ)の方が、空間分解能が高くなる。その一方、輝度が下がり、信号量が低下してノイズが多くなり画質が劣化する。そのため、空間分解能と画質のバランスがとれる条件を選択するのが好ましい。
【0028】
<作動距離>
SEM観察において作動距離が短くなるとレンズの収差が小さくなり、解像度が高くなる。特に、低加速電圧条件での観察時は作動距離を短くする方が、空間分解能が高くなり、好ましい。
【0029】
<観察像における倍率、画素数>
倍率は高いほど空間分解能が高くなるが一方で、観察できる範囲・粒子数は減るので、観察に必要とされる粒子のn数と空間分解能を鑑み、バランスの取れる条件を選択する。
【0030】
画素数は多いほど画像の解像度が高くなるが、一方で画像取得時間が長くなるなどの背反もあるので、必要とする画像解像度に応じて適切な値を選択する。
【0031】
1画素(以後2次元の場合はPixel(ピクセル)、3次元の場合はVoxel(ボクセル)と表記する)のサイズは後程画像解析する際の各種処理の最小単位となる。画像解析において、どの程度の分解能での処理が必要かを念頭に置いて、倍率および画素数(ひいては1画素がどの程度の実空間での寸法を有するか)を決定する。
【0032】
<1掃引あたりのビーム滞留時間(Dwell Time)>
滞留時間は長いほど、信号量が多くなりノイズが減って画質が良くなるが一方で観察時間が長くなる背反があるので、必要な範囲で適切な条件を選択する。
【0033】
<検出器>
試料への電子線入射によって発生する電子には大きく分けて二次電子(非弾性散乱電子)と反射電子(弾性散乱電子)が存在する。SEMでは一般に様々な検出器・検出条件を調整することで、観察像における二次電子と反射電子の信号割合を調整して、目的とする観察像を得ている。画像解析を実施する場合、多くの場合は組成によるコントラストによって物質を切り分ける。また、画像解析においては試料の断面加工時などに生じる試料の凹凸由来のコントラストは障害となるので、エッジ効果によって凹凸由来のコントラストが強く出る二次電子像は望ましくない。したがって、画像解析を実施する際の観察像は反射電子から構成される反射電子像であることが望ましい。
【0034】
なお、TEMの場合は高加速電圧であるほど空間分解能が増加するが、試料によっては電子線照射によってダメージが入ることがあるので、そのような試料を扱う場合、加速電圧や電流値を小さくするなどの変更を加えてもよい。
【0035】
[画像解析]
<3次元構築>
上記[観察像の取得]にて述べた手法にて3次元像を構築する。一般に、3次元構築像の軸は、2次元観察像の水平方向をX軸、垂直方向をY軸、そして、SEMを採用する場合はFIB断面加工方向をZ軸として規定する。
【0036】
2次元観察像は観察時のステージドリフトなどの影響を受けて、X、Y位置がわずかにずれている場合が多いので、重ねあわせる際は隣り合う画像間で最小二乗フィッティングを実施して、X、Y位置合わせを実施してもよい。
【0037】
また、TEMの場合は、トモグラフィー法により3次元像を構築してもよい。具体的には、傾斜角度を変えて撮影した2次元観察像を得ておく。その際、Auナノパウダーなどを事前に試料に添加しておく。そして、試料中にマーキングの位置情報を仕込む。この試料中の位置情報元に、SEMと同じく最小二乗フィッティングによって位置合わせを実施して3次元像を構築してもよい。
【0038】
<画素サイズ等価化工程>
後述の二値化工程の前に、試料の観察像に対し、観察像を得るために使用された電子顕微鏡の電子線の、多孔質二次粒子に対する入射角を加味して、(X,Y)または(X,Y,Z)の画素サイズを等価にする画素サイズ等価化工程を行ってもよい。
【0039】
<ノイズ除去工程>
画素サイズが等価化された観察像(以降、「画像」とも称する。)に含まれるノイズは後の二値化処理において、障害となることがある。そのため、必要に応じてノイズ除去工程を行ってもよい。ノイズ除去工程の具体的な手法としては、一般的な画像処理技術において採用される公知のノイズ除去技術を採用しても構わない。
【0040】
<二値化工程>
図1は、二値化工程の一例を示す模式図である。
本工程においては、サイズ等価化工程後の試料の観察像を二値化した二値化像を得る。具体的には、二値化処理により解析対象とする物質とそれ以外の物質を切り分ける。二値化処理とは、例えば、モノクロ画像の各画素に対して白黒の強弱(Glay Scale)の値の範囲を設定して、物質を切り分ける処理である。二値化できれば、色の種類としては白色と黒色に限定されない。強調部分をa色(例えば白色)、それ以外の部分をb色(例えば黒色)とも記載する。b色はa色とは異なる色である。
【0041】
二値化処理の代わりに三値化処理、四値化処理等を行っても構わない。その場合であっても、三値化処理後の画像に対し、解析対象とする物質と認識した領域と、それ以外の領域との二種類に分け、後の工程を行うのがよい。最初から二値化処理を行うことも、三値化処理等を行った後にこのように領域を二種類に分けることも、本発明の二値化工程に含まれる。
【0042】
本工程により、複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の観察像を得る。この観察像を領域1とする。
【0043】
以降に挙げる「領域n(nは自然数)」は、画像としてディスプレイに表示しても構わないし、ディスプレイには表示せず画像としてHDD等に記録し、この画像に対して画像処理を行っても構わない。この場合、領域1を画像1と呼び変えても構わない。また、画像として出力するのではなく、画像の基となるデータのまま、以降に述べる情報処理を行っても構わない。これらを包括する表現として、本明細書では「領域n(nは自然数)」を使用する。本実施形態では、説明を簡略化すべく、前者の場合、すなわち各領域として各画像を作製する場合を例示する。
【0044】
<本実施形態に係る画像処理>
以降、後掲の実施例に係る
図2、
図3を基に説明する。
図2は、本実施例に係る画像処理の結果を段階ごとに示す図(その1)である。
図3は、本実施例に係る画像処理の結果を段階ごとに示す図(その2)である。
【0045】
まず、観察像を二値化して多孔質二次粒子の粒子部分を白色として抽出した領域2を得る。
【0046】
次に、領域2に対してClosing処理を行う。Closing処理とは、粒子部分(領域2の白色)を島、粒子部分以外の部分であって空間部分を含む像(領域2の黒色)を海としたときの海島構造における島の部分の画素を一旦膨張した後収縮させることで、孤立点の除去(穴埋め)を意図する処理である。
【0047】
上記「孤立点」とは、
図1で説明すると、一つの画素から見て全ての方向(上下左右およびそれらの斜めである8方向)に別の色の画素が存在するときの該一つの画素を指す。この基準で考えると、
図1の二値化像には孤立点は示されていない。なお、ここでは2次元のClosing処理を例示するが、3次元のClosing処理の場合、天地方向およびその斜め方向でも別の色の画素が存在するときの該一つの画素を孤立点とする。
【0048】
Closing処理により、粒子部分内の微細な空隙が埋まった領域を得る。Closing処理は、モフォロジー処理の一つである。モフォロジー処理は、孤立点の除去且つ白色の周縁の平滑化を狙って行われる処理である。
【0049】
Closing処理の一具体例は以下の通りである。まず、島の部分を1画素だけ膨張させた後に同画素数分収縮させ、像を確認し、全ての孤立点(或いはその大半)が穴埋めされていればここでClosing処理を終了する。孤立点が残っている(或いは大半が穴埋めされていない)場合は、先ほどの1回目のClosing処理前の像に対し、島の部分を2画素だけ膨張させた後に同画素数分収縮させ、像を確認し、全ての孤立点(或いはその大半)が穴埋めされているかどうか確認する。孤立点が残っている(或いは大半が穴埋めされていない)場合は、この作業を繰り返す。
【0050】
なお、多孔質二次粒子の組成、形状等(即ち種類)により、孤立点がどの程度の数、大きさなのかが変わる。多孔質二次粒子の種類によっては、1、2画素程度の孤立点が大半である場合も考えられるし、それを超える画素数の大きさの孤立点が点在する場合も考えられる。そのため、Closing処理の具体的な条件は、多孔質二次粒子の種類に応じて適宜設定すればよい。また、全ての孤立点を埋めることを条件にするのか、或いはその大半を埋めることを条件にするのかは、多孔質二次粒子の種類に応じて決定すればよい。但し、最初から大きい画素数で膨張・収縮させると、多孔質二次粒子のオリジナルの輪郭形状が失われる可能性があるため、小さい画素数から上段落に記載の作業を開始するのが好ましい。
【0051】
更に、白色に包囲された黒色を埋める(白色で塗りつぶす)。この作業はFill Hole処理とも呼ばれる。本明細書では、Fill Hole処理は、Closing処理の孤立点の除去(穴埋め)とは区別される。白色に包囲された全ての黒色を白色で塗りつぶす。当該処理によって粒子部分および空間部分をすべて含んだ領域3であって、複数の一次粒子が連結して形成された多孔質二次粒子の輪郭を示す領域3を抽出できる。
【0052】
以上の手順に従い、領域2から領域3を得る。
【0053】
領域3のa色を所定の画素数X分浸食して領域4(不図示)を得る(浸食処理(Erosion))。そして、領域4のa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が除外された空間部分を抽出して領域5を得る。
【0054】
それと並行し、領域3のa色を所定の画素数(X+1)分浸食して領域4エ(不図示)を得る(浸食処理(Erosion))。そして、領域4エのa色から領域2のa色を減算し、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が更に除外された空間部分を抽出して領域5エを得る。
【0055】
領域5のa色から領域5エのa色を減算して領域6を得る。領域6では、開口部の表層のみが白色として抽出される。
【0056】
領域6において、画素同士が互いに接しているa色の箇所全体を一つのクラスターと認定し、各クラスターを特定するクラスタリング工程を行う。
【0057】
図4は、クラスタリング工程の一例を示す模式図である。
【0058】
本工程においては、浸食工程後の各二値化像において粒子像以外の部分により包囲されたクラスターを一つのクラスターと認定する。クラスタリング工程の具体的な手法には限定は無く、例えば
図4に示すように、画素同士が互いに接しているものは、一つのクラスターとする。「画素同士が互いに接する」は、
図4に示すように画素の隅で接している場合も含む。言い方を変えると、画素同士が互いに接していない部分で囲まれたものを一つのクラスターとするクラスタリングを行う。各クラスターの特定は、例えば各クラスターに対してナンバリングし、各クラスターに対するラベリング処理を行ってもよい。
【0059】
そして、領域6から、特定された各クラスターを開口部とし、開口部の数および大きさの少なくともいずれかを評価する評価工程を行う。
【0060】
開口部の数は、クラスタリング工程で行ったラベリング処理により具体的な数値を把握可能である。開口部の大きさとしては、例えば、開口部のボクセル数にボクセルの単位体積を掛け合わせることによってその体積(例えば総体積)を評価できる。本実施形態では画素としてボクセルを使用したため体積の評価の例を挙げたが、体積以外でも、開口部を面積で評価してもよい。この「評価」は「定量」と言い換えても差し支えない。
【0061】
開口部にはラベリング処理がされており、粒子の内部まで連通している開口部なのか、粒子の途中までしか穴が開いていない開口部なのか、或いは最表面の窪み程度の開口部なのか、を像として確認可能である。つまり、粒子の内部まで連通している開口部が、開口部全体の何%(数、体積)なのかを、本実施形態を用いれば把握可能となる。
【0062】
上記[観察像の取得]にて述べたように、本実施形態においては、最初に取得する観察像として、複数の多孔質二次粒子が連結して形成された三次粒子に対する電子顕微鏡での観察像を例示する。つまり、本実施形態においては、複数の多孔質二次粒子が連結して形成された三次粒子の観察像に対し、上記画素サイズ等価化工程、上記ノイズ除去工程、上記二値化工程、上記モフォロジー処理の順で行うのがよい。但し、本段落でのモフォロジー処理は、あくまで、下段落に記載の連結部規定工程によって三次粒子二値化像内にて連結部を境に分離された多孔質二次粒子を抽出するための下準備の一つである。そのため、本段落でのモフォロジー処理のことを、三次粒子モフォロジー処理或いは二値化画像平滑化工程と呼んでも差し支えない。もちろん、三次粒子モフォロジー処理において、これまでに説明した各種モフォロジー処理を行ってもよいし、それ以外の公知のモフォロジー処理を行っても構わない。このいずれの場合も包含可能な表現として「モフォロジー処理」という表現を使用する。いずれにせよ、連結部を境に分離された多孔質二次粒子に対しては、これまでに詳述した本実施形態に係るモフォロジー処理(上記Closing処理)を含めた各工程を行う。
【0063】
これらの処理に加え、上記モフォロジー処理(および三次粒子モフォロジー処理)後、連結部規定工程を行うのがよい。連結部規定工程は以下の通りである。
【0064】
連結部規定工程においては、分水嶺アルゴリズムを使用し、前記二値化像内において、一次粒子間の連結部を規定する。分水嶺(Watershed)アルゴリズムとは、画像処理においては周知の技術であり、境界があいまいな箇所を有する画像領域の分割手法である。具体的に言うと、海島構造となった二値化像内において、海の部分からの島の部分の距離が大きい部分(すなわち島の中心またはその近傍部分)を高輝度とした場合、各輝度に応じ、高輝度箇所間の妥当な位置に境界を設定する手法である。
【0065】
本実施形態では、上記輝度を有する部分が1画素(1ピクセルまたは1ボクセル)でも存在すれば、その部分を高輝度箇所として認定する例を挙げる。但し、本発明はこの例に限定されず、対象となる試料の種類、観察像の取得条件、その他の理由に応じ、上記輝度を有する部分が複数画素存在する場合にはじめてその部分を高輝度箇所として認定してもよい。
【0066】
これらの工程により、三次粒子二値化像内において、連結部を境に分離された多孔質二次粒子を抽出できる。そしてこの多孔質二次粒子を評価対象とすればよい。
【0067】
本明細書にてこれまで説明してきた各工程における画像処理は公知のソフトウェアを使用することにより実現可能である。その一例が以下の実施例の項目にて記載するAVIZO(日本エフイー・アイ株式会社製の画像解析ソフト)である。但し、本発明はこのソフトウェアを使用する場合に限定されず、例えば上記[画像解析]に係る各工程を複数の別のソフトウェアに担当させてもよい。
【0068】
なお、本発明の技術的範囲は本実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0069】
例えば、上記画素数Xは、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が除外されれば値に限定は無い。多孔質二次粒子の形状によりXは変化するが、一例としてはXは1~5画素(ピクセル、ボクセル)の範囲の値が挙げられる。
【0070】
領域4エを得る際に領域3のa色を所定の画素数(X+1)分浸食するが、X+1以外の数値(例えばX+2、X+3)を採用しても構わない。ただ、X+1の方が、開口部の最表面のみを抽出でき、好ましい。
【0071】
上記画素数Xは、多孔質二次粒子の種類により変えてもよい。多孔質二次粒子の種類によっては、画素数Xを1に設定しても十分に開口部の最表面のみを抽出できることもあれば、画素数Xを5に設定してもその抽出が行えないこともあり得る。上記画素数Xの決定の一つの目安としては、多孔質二次粒子を構成する一次粒子の大体の粒径を像から得ておき、その粒径の数分の1の大きさに対応する画素数を画素数Xに設定すれば、多孔質二次粒子の表面の凹凸情報が、開口部の最表面もろとも過度に除外されずに済み、好ましい。
【0072】
領域3のa色から領域2のa色を減算して領域7を得るのが好ましい。領域7は全ての空間部分が白色で表示されており、空間部分の総体積(ひいては多孔質二次粒子の空隙率)や空間部分の数を得るのに役立つ。
【実施例0073】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
まず、試料として、2種類の金属酸化物粒子を用意した。
試料Aは、空隙率が比較的高い多孔質二次粒子(空隙率35%)を含有する金属酸化物粒子であり、反応性が比較的低かった金属酸化物粒子である。
試料Bは、空隙率が比較的低い中実二次粒子(空隙率4%)を含有する金属酸化物粒子であり、反応性が比較的高かった金属酸化物粒子である。
【0075】
各試料に対し、本実施形態で述べた手法を基に開口部面積を対比したとき、試料Bよりも試料Aの開口部面積が大きければ、実際の反応性の傾向と一致する。その場合、この実施例により開口部面積を求められる証となり、この実施例は、本発明の妥当性を示す資料となる。
【0076】
試料A、Bを各々熱硬化性樹脂に包埋した後、以下の条件にて3次元SEM観察を実施した。
【0077】
[3次元SEM測定条件]
・Dual Beam SEM-FIB装置 日本エフイー・アイ株式会社製 Scios
【0078】
<SEM観察条件>
・加速電圧:2kV
・電流値:0.1nA
・作動距離:7mm
・倍率:10k(HFW:20.7μm)
・画素数:X:1536×Y:1024(ピクセルサイズ:X:4.56nm×Y:4.56nm)
・Tilt Angle:52゜
・Dwell Time:30μs(1Scan)
・検出器:反射電子検出器
【0079】
<FIB加工条件>
・加速電圧:30kV
・電流値:100pA
・作動距離:19mm
・加工ピッチ:30nm
【0080】
得られた2次元画像のセットに対して、上記AVIZOを用い、3次元構築(具体的には、Y軸傾斜角補正、XY位置合わせ、不要領域のトリミング、および上下の輝度調整)を実施して3次元構築像を得た。
【0081】
なお、得られた3次元構築像のボクセルサイズはX:13.49nm、Y:17.12nm、Z:30nmである。
【0082】
得られた3次元構築像に対し、以下の解析を実施し、連結度の評価を実施した。以下に記載の無い内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0083】
<二値化工程>
多孔質粒子領域とそれ以外(包埋に用いた樹脂領域)を輝度差を利用して二値化し、分離した。
【0084】
<空間部分の抽出>
本実施形態で述べた手法により、全ての空間部分の抽出を行った(領域7)。
【0085】
<クラスタリング工程>
本実施形態で述べた手法により、一つのクラスターとみなされた空間部分の個数把握を行った。
【0086】
<開口部の抽出>
本実施形態で述べた手法により、二次粒子表面領域の表面の開口部の抽出を行った。浸食する画素数に関し、X=3とした。領域4エを得る際は、X+1画素数分、白色を浸食した。
【0087】
試料Aの解析結果を表1、試料Bの解析結果を表2に示す。各試料について多孔質二次粒子3個を解析した。
図5は、本実施例の試料Aに係る画像処理の結果を段階ごとに示す図である。
図6は、本実施例の試料Bに係る画像処理の結果を段階ごとに示す図である。
【表1】
【表2】
【0088】
試料Aにおいては、いずれの粒子も、空孔部の99%以上が二次粒子表面から内部までつながる一つの連結したクラスターを形成していることが確認された。空孔部は二次粒子表面に開口部を有していることが確認された。
【0089】
一方、試料Bにおいては、いずれの粒子も、空孔部は細かく分散しており、空孔部は二次粒子表面に開口部を有していないことが確認された。
【0090】
つまり、試料Bよりも試料Aの空孔開口部面積が大きく、反応性と整合する物性データを求められることがわかった。