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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127628
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】缶
(51)【国際特許分類】
   B65D 8/20 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
B65D8/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024689
(22)【出願日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021025142
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】假屋 房亮
(72)【発明者】
【氏名】▲斎▼藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善継
【テーマコード(参考)】
3E061
【Fターム(参考)】
3E061AA16
3E061AB04
3E061AB08
3E061AC02
3E061AC05
3E061AD01
3E061AD02
3E061AD03
3E061BA01
3E061BB02
3E061BB12
3E061DB09
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で人工乳首を直接取り付けることができる缶を提供する。
【解決手段】
缶蓋と、缶胴と、缶胴と缶蓋とを接合する接合部と、を有する缶であって、接合部は、前記缶胴から延在する外壁部と、缶蓋の縁から連続して立ち上がる内壁部と、内壁部と前記外壁部とを接合することで形成される凸部と、を有し、凸部を含む接合部の少なくとも一部は、缶胴の周面に対して外側に傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶蓋と、缶胴と、前記缶胴と前記缶蓋とを接合する接合部と、を有する缶であって、
前記接合部は、前記缶胴から延在する外壁部と、前記缶蓋の縁から連続して立ち上がる内壁部と、前記内壁部と前記外壁部とを接合することで形成される凸部と、を有し、
前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部は、前記缶胴の周面に対して外側に傾斜している、缶。
【請求項2】
前記凸部は、前記缶胴と前記缶蓋とを二重巻締することで形成される、請求項1に記載の缶。
【請求項3】
前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部は、前記缶胴に対して25°以上45°以下の範囲内の角度で傾斜している、請求項1または請求項2に記載の缶。
【請求項4】
前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部の長さは5mm以上7mm以下である、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の缶。
【請求項5】
前記缶胴および前記缶蓋は、それぞれ板厚0.050mm以上0.40mm以下の金属板からなる、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工乳首等が装着される缶に関する。
【背景技術】
【0002】
乳幼児および病弱者に飲用される乳製品として、牛乳や調整粉乳(乳幼児向け粉ミルク)が流通している。近年、乳等省令の改正により調整液状乳(乳幼児向け液体ミルク)が認可されたことに伴い、利便性の向上や災害時の備蓄を目的に、紙容器や金属容器に充填された乳幼児向け液体ミルクが販売されている。液体ミルクは乳幼児を対象としていることから、その内容物には高度な安全性が求められており、安全性確保の手法の一つとして殺菌処理(レトルト処理)が液体ミルク充填後の容器に施される。
【0003】
レトルト処理は高温、高圧下の処理となるので、高温、高圧下においても容器が変形しないように、剛性の高い金属容器が用いられる。液体ミルク用として用いられる金属容器の開缶では、従来の飲料用金属容器と同じ構造が利用されている。すなわち、上蓋の開缶構造は、開缶時に指を掛けて動作させるタブが缶蓋に留まるステイオンタブである。液体ミルクを乳幼児に与える場合には、開缶後、金属容器から哺乳瓶等に液体ミルクを移し替え、哺乳瓶等から液体ミルクを乳幼児に与える必要がある。
【0004】
また、開缶後に人工乳首を金属容器の開口部に装着し、液体ミルクを移し替えることなく乳幼児に液体ミルクを与えることができる液体ミルク容器もある。このような液体ミルク容器として、特許文献1には、ミルクの授乳用缶詰めの上部に筒状の雄ネジ部を設け、乳幼児にミルクを与える際には、人工乳首の乳首固定部の内側に設けられた雌ネジ部を雄ネジ部に固定することで、人工乳首を缶の上部に取付けることができるミルクの授乳用缶詰めが開示されている。この缶は、液体ミルクの移し替えの手間が省け、利便性に優れるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-238180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、乳首固定部を介して人工乳首をミルクの授乳用缶詰めの上部に取付けることが必要になる。このため、使用時に準備する部材が多くなり、コストおよび手間がかかるといった課題があった。本発明はこのような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構造で人工乳首を直接取り付けることができる缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)缶蓋と、缶胴と、前記缶胴と前記缶蓋とを接合する接合部と、を有する缶であって、
前記接合部は、前記缶胴から延在する外壁部と、前記缶蓋の縁から連続して立ち上がる内壁部と、前記内壁部と前記外壁部とを接合することで形成される凸部と、を有し、
前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部は、前記缶胴の周面に対して外側に傾斜している、缶。
(2)前記凸部は、前記缶胴と前記缶蓋とを二重巻締することで形成される、(1)に記載の缶。
(3)前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部は、前記缶胴に対して25°以上45°以下の範囲内の角度で傾斜している、(1)または(2)に記載の缶。
(4)前記凸部を含む前記接合部の少なくとも一部の長さは5mm以上7mm以下である、(1)から(3)の何れか1つに記載の缶。
(5)前記缶胴および前記缶蓋は、それぞれ板厚0.050mm以上0.40mm以下の金属板からなる、(1)から(4)の何れか1つに記載の缶。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る缶には、凸部を含む接合部の一部が缶胴の周面に対して外側に傾斜して設けられている。このように外側に傾斜させることで、缶と人工乳首との脱着強度を向上させることができ、これにより、簡易な構造で人工乳首等を缶に直接取付けることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る缶10の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る缶10の接合部16の一例を示す断面図である。
図3】人工乳首40の部分断面図である。
図4】缶10と人工乳首40との取付け状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を発明の実施形態を通じて説明する。図1は、本実施形態に係る缶10の一例を示す断面図である。缶10は、有底の円筒形状であって、一端側が開放された缶胴12と、当該缶胴12の一端側を封止する缶蓋14とを有する。缶胴12と缶蓋14とは接合部16で接合されている。また、缶蓋14のパネル部18には、不図示のステイオンタブが設けられており、当該ステイオンタブのタブを持ち上げることで缶10は開缶される。
【0011】
接合部16は、缶胴12から延在する外壁部と、缶10の一端面を形成する缶蓋14のパネル部18の縁から連続して立ち上がる内壁部と、内壁部と外壁部とを接合して形成される凸部とを有する。
【0012】
図2は、本実施形態に係る缶10の接合部16の一例を示す断面図である。例えば、缶胴12と缶蓋14とが二重巻締されて缶10が製造される場合、接合部16における外壁部はボディウォール部20に相当し、内壁部はチャックウォール部24に相当する。さらに、凸部30は、シーミングウォール部26、ボディフック部22およびカバーフック部28に相当する。以下の実施形態では、缶胴12と缶蓋14とが二重巻締され、凸部30が当該二重巻締によって形成される例を用いて説明する。
【0013】
接合部16は、缶胴12から上方向に延在するボディウォール部20と、当該ボディウォール部20から連続し、下方に曲げられることで形成されるボディフック部22とを有する。さらに、接合部16は、缶蓋14のパネル部18の周縁から連続して立ち上がるチャックウォール部24と、チャックウォール部24から連続し、ボディウォール部20およびボディフック部22を挟んで下方に曲げられることで形成されるシーミングウォール部26と、シーミングウォール部26から連続し、ボディフック部22を挟んで立ち上げられることで形成されるカバーフック部28とを有する。
【0014】
このように、缶胴12と缶蓋14とが二重巻締されることで、缶胴12と缶蓋14とが接合されるとともに、当該接合部16には、ボディウォール部20よりも外側に突出する凸部30が形成される。図2に示した例において、凸部30は、シーミングウォール部26、ボディフック部22およびカバーフック部28により形成される。
【0015】
また、接合部16のボディウォール部20およびチャックウォール部24は、それぞれ屈曲部32、34を有し、ボディウォール部20およびチャックウォール部24は当該屈曲部32、34を境に缶胴12の周面に対して外側に傾斜している。なお、屈曲部32、34は、湾曲状に屈曲してもよい。図2では、凸部30を含む接合部16の一部が缶胴12の周面に対して外側に傾斜している例を示したが、これに限らず、凸部30を含む接合部16の全部が缶胴12の周面に対して外側に傾斜してもよい。
【0016】
図3は、本実施形態に係る缶10に取付けられる人工乳首40の一例を示す断面図である。人工乳首40は、上部の乳首本体42と、下部の開口部44とから構成され、ゴム等の弾性を有する材料で一体成形される。また、人工乳首40の開口部44の内面には環状の溝46が形成されている。人工乳首40は、開口部44が缶10の接合部16に装着されることで缶10に取付けられる。
【0017】
図4は、缶10と人工乳首40との取付け状態を示す部分断面図である。缶10に人工乳首40を取付ける際には、接合部16の上方から開口部44を嵌め込み、凸部30を溝46に嵌合させて装着する。
【0018】
本実施形態に係る缶10は、ボディウォール部20およびチャックウォール部24が缶胴12の周面に対して外側に傾斜している。このため、凸部30も上方に向けて広がるように缶胴12の周面に対して外側に傾斜する。このように、凸部30を外側に傾斜させることで、凸部30の突出方向が斜め下方となり、当該凸部30と溝46との嵌合が人工乳首40を上方に引っ張る力に対してより対抗できる構造となる。したがって、本実施形態に係る缶10は、凸部30を外側に傾斜させていない構成と比較して人工乳首40との脱着強度が向上する。さらに、凸部30を缶胴12の周面に対して外側に傾斜させることで付勢力が加わり、凸部30を溝46に密着させることができる。
【0019】
また、傾斜したボディウォール部20およびチャックウォール部24の缶胴12に対する角度θ(図2参照)が25°以上45°以下の範囲内となるように傾斜することが好ましい。角度θを25°以上にすることで、缶10と人工乳首40との脱着強度および密着性を高めることができる。また、角度θを45°以下にすることで、人工乳首40の開口部44の変形量が過度に大きくなること防止できる。なお、角度θは30°以上40°以下であることがより好ましい。
【0020】
また、缶胴12の半径方向外側に傾斜したボディウォール部20およびチャックウォール部24の長さa(図2参照)は5mm以上7mm以下であることが好ましい。長さaを5mm以上にすることで、缶10と人工乳首40との脱着強度が高まる。また、ボディウォール部20およびチャックウォール部24の長さaを7mm以下にすることで、人工乳首40の開口部44の変形量が過度に大きくなること防止できる。
【0021】
缶胴12および缶蓋14は、板厚0.050mm以上0.40mm以下の金属板からなることが好ましい。缶胴12および缶蓋14が板厚0.050mm以上の金属板からなることで、接合部16の強度が確保でき、缶10と人工乳首40との脱着強度および密着性が高まる。また、缶胴12および缶蓋14が板厚0.40mm以下の金属板からなることで、缶胴12および缶蓋14の製造コストが過大となることを抑制できる。缶胴12および缶蓋14は板厚0.15mm以上0.35mm以下の金属板からなることがより好ましい。
【0022】
缶胴12および缶蓋14の金属板は、鋼板またはアルミ合金板であることが好ましい。さらに、鋼板はアルミ合金板よりも高強度であり、板厚低減による材料コスト削減の可能性があることから、缶胴12および缶蓋14の金属板は鋼板であることがより好ましい。
【0023】
缶胴12および缶蓋14の金属板には、耐食性向上等の観点から、金属めっき、化成処理、塗装やフィルムラミネートなどの有機樹脂被覆、およびこれらの組合せからなる表面処理が施されてもよい。これら表面処理は、人工乳首40と缶10との脱着強度や密着性に影響を及ぼさない一方で、金属板表面の潤滑性に影響を及ぼし、金属板の加工性に影響を及ぼす。したがって、加工性の観点から、金属板に施される表面処理を選択してもよい。金属板に施される種々の表面処理のうち、加工性、耐食性、内容物の保存性、環境ホルモン対策および潤滑性を考慮すると金属板に施す表面処理としてはフィルムラミネートを用いることが好ましい。
【0024】
缶蓋14は、パンチおよびダイを有するプレス成形金型を用いて金属板をプレス加工することで製造される。また、プレス加工時に、缶蓋14のパネル部18にエンボス加工、ビード加工またはディンプル加工を施してもよい。缶胴12としては、金属板を絞り加工して成形したもの(例えば、DI缶、DRD缶、絞りしごき缶、絞り缶等)や、金属板を各種方法で接合したもの(例えば、溶接缶、接着缶、半田缶等)を用いてよい。ボディウォール部20およびチャックウォール部24の曲げ加工は、二重巻締工程内で実施されてもよく、二重巻締工程終了後に別工程で実施されてもよい。
【0025】
以上、説明したように、本実施形態に係る缶10では、凸部30を含む接合部の少なくとも一部が缶胴12の周面に対して外側に傾斜して設けられている。このように外側に傾斜させることで凸部30の突出方向を斜め下方に向けることができるので、当該凸部30に溝46を係止させて、人工乳首40を取付けることで、缶10と人工乳首40との脱着強度を向上させることができる。これにより、簡易な構造で乳首固定部を用いることなく缶に人工乳首を直接取付けることができるようになるので、その分のコストアップを抑制できるとともに乳首固定部の取付けに要する手間も軽減できる。一方、外側に傾斜した凸部30を有さない場合、溝46を有する人工乳首40を用いたとしても脱着強度を向上させることができず、缶に人工乳首40を直接取り付けることができない。
【0026】
なお、本実施形態では、缶胴12と缶蓋14とを二重巻締にて接合する例を示したがこれに限らない。缶胴12と缶蓋14との接合方法は、接合部16に凸部30が形成される接合方法であればよい。例えば、缶胴12と缶蓋14とが溶接で接合される場合には、外壁部を挟んで外側から下方に曲げられた内壁部と外壁部とを溶接すればよく、これにより、外壁部と溶接された内壁部によって凸部30が形成される。
【0027】
さらに、本実施形態では、ステイオンタブのタブを持ち上げることで開封される缶の例を示したがこれに限らない。例えば、パネル部周縁にスコアを形設し、タブを操作して当該タブごと開封されるフルオープン型の缶であってもよく、予めパネル部に開口を設けておき、当該開口を剥離可能なフィルム等で封止したイージーピール蓋付きの缶であってもよい。
【実施例0028】
次に、本発明の実施例について説明する。以下の実施例は、本発明の効果を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。
【0029】
実施例では、缶10に対する人工乳首40の篏合性(脱着強度)を調べるため、引張試験を実施した。具体的に、缶蓋14を缶胴12に接合して缶10を作成した後、缶10に人工乳首40を取り付けて実施した。缶胴12の直径は52mm、チャックウォール部24の長さaは6mmとした。そして、人工乳首40が装着されてない缶胴12の底側をプレス機で平板状に潰し、潰した缶底と人工乳首40とを引張試験機の平型チャックで挟み、引張試験を実施した。引張試験はクロスヘッド速度2mm/minでクロスヘッド移動距離が30mmとなるまで実施し、人工乳首40が缶10から外れる荷重(N)を記録した。
【0030】
評価は、人工乳首40が缶10から外れなかった場合に、脱着強度および密着性が優良「◎」とした。また、人工乳首40が缶10から外れた場合であって、荷重が40N以上を記録した場合を良好「○」とし、荷重が40N未満を記録した場合を劣位「×」とした。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に引張試験の結果を示す。表1に示す通り、「ボディウォール部およびチャックウォール部の缶胴に対する角度θ(°)」に傾斜を設けない比較例1は、「人工乳首が缶胴から外れる荷重(N)」が小さいこと、つまり、人工乳首40の脱着強度および密着性が小さいことが確認できた。この比較例1に対し、「ボディウォール部およびチャックウォール部の缶胴に対する角度θ(°)」に傾斜を設けた発明例1~5は、「人工乳首が缶から外れない」こと、又は「人工乳首が缶胴から外れる荷重(N)」が大きいことが確認できた。つまり、発明例1~5は、人工乳首40の脱着強度および密着性が向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0033】
10 缶
12 缶胴
14 缶蓋
16 接合部
18 パネル部
20 ボディウォール部
22 ボディフック部
24 チャックウォール部
26 シーミングウォール部
28 カバーフック部
30 凸部
32 屈曲部
34 屈曲部
40 人工乳首
42 乳首本体
44 開口部
46 溝
図1
図2
図3
図4