(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127748
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法
(51)【国際特許分類】
C13K 1/00 20060101AFI20220825BHJP
C12P 19/00 20060101ALI20220825BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20220825BHJP
C07H 3/02 20060101ALI20220825BHJP
C07H 3/04 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C13K1/00
C12P19/00
C07H3/06
C07H3/02
C07H3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025901
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】天野 達
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CB28
4B064DA20
4C057BB02
4C057BB03
4C057BB04
(57)【要約】
【課題】糖液に含まれる糖質の酸化を抑制する。
【解決手段】窒素バブリングが行われる工程を含むことを特徴とする糖液の製造方法、糖質の溶解方法、及び糖液の充填方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素バブリングが行われることを特徴とする糖液の製造方法。
【請求項2】
窒素バブリングが行われることを特徴とする糖質の溶解方法。
【請求項3】
窒素バブリングが行われることを特徴とする糖液の充填方法。
【請求項4】
さらに窒素パージが行われることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素バブリングを行うことにより系内の溶存酵素量を0.08mg/L以下にすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素バブリングを行う際の窒素流量が0.1~5L/minであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記窒素バブリングが10~100℃の温度で行われることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記窒素バブリングが行われる対象の粘度が10000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記糖液に含まれる糖質が、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、または異性化糖であることを特徴とする請求項1または3に記載の方法。
【請求項10】
前記糖質が、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、または異性化糖であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質は、空気および温度により酸化や分解が起こり、これにより生成されるカルボン酸によってpHが低下してしまう。pHの低下は、さらなる分解を助長し、糖質の保存安定性を低下したり、粉末糖質の水への溶解に大きな制限(温度、時間等)が生じたりする。例えば、粉末糖質の溶解の際に温度を高く設定することができなかったり、そして、低温度で溶解を行うとダマが発生しやすくなるため、時間が非常にかかったりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、糖液に含まれる糖質の酸化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、窒素バブリングを行うことで、糖液に含まれる糖質の酸化を抑制できることを見出した。なお、糖液の製造や糖質の溶解における窒素バブリングの適用については知られていない。
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、窒素バブリングが行われることを特徴とする糖液の製造方法である。
【0006】
また、本発明の第2の態様は、窒素バブリングが行われることを特徴とする糖質の溶解方法である。
【0007】
また、本発明の第3の態様は、窒素バブリングが行われることを特徴とする糖液の充填方法である。
【0008】
本発明の糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法の好適例においては、さらに窒素パージが行われる。
【0009】
本発明の糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法の他の好適例においては、前記窒素バブリングを行うことにより系内の溶存酵素量を0.08mg/L以下にする。
【0010】
本発明の糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法の他の好適例においては、前記窒素バブリングを行う際の窒素流量が0.1~5L/minである。
【0011】
本発明の糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法の他の好適例においては、前記窒素バブリングが10~100℃の温度で行われる。
【0012】
本発明の糖液の製造方法、糖質の溶解方法および糖液の充填方法の他の好適例においては、前記窒素バブリングが行われる対象の粘度が10000mPa・s以下である。
【0013】
本発明の糖液の製造方法および糖液の充填方法の他の好適例においては、前記糖液に含まれる糖質が、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、または異性化糖である。
【0014】
本発明の糖質の溶解方法の他の好適例においては、前記糖質が、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、または異性化糖である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1、第2および第3の態様によれば、糖液に含まれる糖質の酸化を抑制することができる。これにより、糖液ないし糖質の保存安定性を向上させることが可能となる。また、本発明の第2の態様によれば、糖質を溶解させる際の温度を高く設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】比較例1及び実施例1の高温安定性試験結果を示す。
【
図2】比較例2及び実施例2の高温安定性試験結果を示す。
【
図3】比較例3及び実施例3の高温安定性試験結果(pH)を示す。
【
図4】比較例3及び実施例3の高温安定性試験結果(フラクトオリゴ糖分)を示す。
【
図5】比較例4及び実施例4の高温安定性試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の1つの態様は、糖液の製造方法である。本明細書において「糖液」とは、糖質を含む液体であり、一般には糖質と水の混合物である。糖液は、通常、デンプン等の炭水化物の糖化を経て得られる液が使用されることから、糖化液とも称される。なお、本明細書においては、一般的に糖化液と分類されないような、単に糖質(特に粉末糖質)を水に溶解して得られる溶液なども「糖液」に含まれる。
【0019】
本明細書において「糖質」とは、糖を構成単位とする物質であり、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、マルトース、スクロース、ラクトース等の二糖類、フラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖等のオリゴ糖類、デキストリン類(例えばデキストリン、フルクタンなど)等の多糖類等が挙げられる。また、本明細書において「糖質」には、食物繊維も含まれるため、炭水化物と同義であるともいえる。糖液に含まれる糖質は、単一物質でもよいし、複数の物質の組み合わせであってもよい。例えば、糖質は、オリゴ糖を中心とする液糖や異性化糖の形態であってもよい。
【0020】
本明細書において「オリゴ糖を中心とする液糖」とは、オリゴ糖を主成分とする液糖を指す。ここで、主成分とは、糖質の中でも最も割合の高い成分を指す。本明細書においては、単糖構造が2~10個程度の糖をオリゴ糖と称する。
【0021】
本発明の糖液の製造方法には、窒素バブリングが含まれる。本明細書において「窒素バブリング」とは、対象に窒素ガスを送り込むことを意味する。糖質を含む液体に対して窒素バブリングを行うことで、液体中の酸素を除去し、糖質の酸化を抑制することができる。これにより、糖液の保存安定性を向上させることが可能となる。なお、糖質が液体であれば、糖質に対して窒素バブリングを直接行うことも可能である。ここで、窒素バブリングには、好ましくは純度が95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、最も好ましくは100体積%の窒素ガスが使用できる。
【0022】
本発明の糖液の製造方法においては、窒素バブリングを行うことにより系内の溶存酵素量を0.08mg/L以下にすることが好ましく、0.05mg/L以下にすることが更に好ましく、0.01mg/L以下にすることが特に好ましい。系内の溶存酸素量を上記特定した範囲内にまで下げることで、糖質の酸化抑制の効果を高めることができる。
【0023】
本明細書において「系内の溶存酸素量」は、窒素バブリングが行われる対象(例えば、糖液、液体の糖質等)の溶存酸素量を意味する。溶存酸素量は、公知の測定法を適宜用いて測定される。一例としては、市販の溶存酸素計(例えば、飯島電子工業社製「DOメーター B-506」(商品名)等)を用いて測定することができる。
【0024】
本発明の糖液の製造方法において、窒素バブリングを行う際の窒素流量は、0.1~5L/minであることが好ましく、0.2~1L/minであることが更に好ましい。窒素流量が低すぎると、例えば系内の溶存酵素量を上記の好ましい範囲に調整するのに時間がかかることとなる。一方、窒素流量が高すぎると、系内の水分が蒸発し、粘度上昇が起こることから、望ましくない。
【0025】
本発明の糖液の製造方法において、窒素バブリングは、10~100℃の温度で行われることが好ましく、20~80℃の温度で行われることが更に好ましい。窒素バブリングが行われる対象(例えば、糖液、液体の糖質等)の温度が低すぎると、例えば系内の溶存酵素量を上記の好ましい範囲に調整するのに時間がかかることとなる。一方、窒素バブリングが行われる対象の温度が高すぎると、系内の水分が蒸発し、粘度上昇が起こることから、望ましくない。
【0026】
本発明の糖液の製造方法において、窒素バブリングが行われる対象(例えば、糖液、液体の糖質等)の粘度は、10000mPa・s以下であることが好ましく、5000mPa・s以下であることがより好ましい。窒素バブリングが行われる対象(例えば、糖液、液体の糖質等)の粘度が高すぎると、窒素バブリングを行っても、対象から酸素を十分に除去できない場合もある。なお、ここでの粘度は、窒素バブリング時の温度での粘度である。
【0027】
本明細書において、粘度は、窒素バブリングが行われる対象に対して、粘度計(例えば、商品名「VISCOMETER BM」(東機産業製))を用いて分析することで、測定される。
【0028】
本発明の糖液の製造方法において、窒素バブリングが行われるタイミングは特に限定されず、任意のタイミングで窒素バブリングを行うことができる。また、糖化液を製造する際には、液化工程、糖化工程等において酵素反応が行われた後窒素バブリングを行うことが好ましい。
【0029】
本発明の糖液の製造方法は、さらに窒素パージを行うことが好ましい。本明細書において「窒素パージ」とは、糖液の製造方法に使用される容器などを窒素でパージすることを指す。これにより、容器内の気体を窒素で置換することができ、糖質の酸化抑制の効果を高めることができる。糖化液を製造する際には、液化工程、糖化工程等に用いる装置に対して窒素パージを行うことが好ましく、糖液を容器に充填する場合には、該容器に対して窒素パージを行うことが好ましい。特に、本発明の糖液の製造方法においては、窒素バブリングが行われる工程に使用される容器に対して窒素パージを行うことが好ましい。ここで、窒素パージには、好ましくは純度が95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、最も好ましくは100体積%の窒素ガスが使用できる。
【0030】
本発明の糖液の製造方法の一実施態様は、糖液に窒素バブリングが行われる工程を含み、好ましくはさらに窒素パージも行われる。これにより、糖質の酸化を抑制可能な糖液を製造することができ、糖液の保存安定性を向上させることが可能となる。ここで、窒素バブリングが行われる糖液は、後述の方法により製造される糖化液であってもよいし、市販のものを用いることも可能である。また、糖液を水で希釈してもよい。これにより、糖液の粘度を調整することができる。
【0031】
本発明の糖液の製造方法の別の実施態様は、糖質を水に溶解して糖液を製造する方法であり、ここで、窒素バブリングが行われる工程を含み、好ましくはさらに窒素パージも行われる。これにより、糖質の酸化を抑制可能な糖液を製造することができ、糖液の保存安定性を向上させることが可能となる。また、この実施態様によれば、糖質を水に溶解させる際の温度を高く設定することが可能となる。
【0032】
本発明の糖液の製造方法の別の実施態様は、デンプンを含む材料から糖化液を製造する方法であり、ここで、窒素バブリングが行われる工程を含み、好ましくはさらに窒素パージも行われる。これにより、糖質の酸化を抑制可能な糖化液を製造することができ、糖化液の保存安定性を向上させることが可能となる。以下では、この実施態様を「糖化液の製造方法」とも称する。
【0033】
糖化液の製造方法は、典型的には、仕込み工程、液化工程、および糖化工程を含み、これらの工程を経て、デンプンを含む材料から糖化液を製造することができる。ここで、窒素バブリングは、任意のタイミングで行うことができるが、好ましくは液化工程および/または糖化工程において酵素反応が行われた後、特に好ましくは糖化工程において酵素反応が行われた後に窒素バブリングが行われる。
【0034】
糖質が異性化糖である場合の糖化液の製造方法においては、仕込み工程、液化工程および糖化工程に加えて、通常、異性化・濾過・脱色・イオン交換精製・クロマト分離・濃縮といった工程が行われる。ここで、窒素バブリングは、任意のタイミングで行うことができるが、好ましくは、液化工程および/または糖化工程において酵素反応が行われた後や、濃縮工程などが行われた後に窒素バブリングが行われる。
【0035】
糖液がオリゴ糖液である場合の糖化液の製造方法においては、仕込み工程、液化工程および糖化工程に加えて、通常、濾過・脱色・イオン交換精製・濃縮といった工程が行われる。ここで、窒素バブリングは、任意のタイミングで行うことができるが、好ましくは、液化工程および/または糖化工程において酵素反応が行われた後や、濃縮工程などが行われた後に窒素バブリングが行われる。
【0036】
糖化液の主な原料は、デンプンを含む材料および水である。デンプンを含む材料としては、例えば、例えば、米、小麦、トウモロコシ、モロコシ、ヒエ、アワ、キビ、大麦、オーツ麦、ライ麦等の穀物、ばれいしょ等のイモ類等が挙げられる。デンプンを含む材料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
以下では、仕込み工程、液化工程、糖化工程、活性炭処理工程、濃縮工程、異性化工程、イオン交換精製工程およびクロマト分離工程、濾過工程の例示的な実施形態について説明する。
【0038】
1.仕込み工程
デンプンを含む材料を粉砕処理したものを原材料として用い、当該粉砕物を純水等の水媒体と混合して仕込み液を得る。その際の粉砕物と水媒体の割合は、所望する糖質の割合に応じて適宜選択することが可能である。一例としては、デンプンを含む材料と水の合計に対するデンプンを含む材料の割合が10~50wt%、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%となるように純水等の水媒体の量が調整される。
【0039】
2.液化工程
上記仕込み液中に含まれるデンプンの糖鎖を切断して、低分子化された糖質を含む液化液を得るために、液化工程を実施する。当該工程は、仕込み液に液化酵素を添加することで行われる。液化工程時において、仕込み液中におけるデンプンを含む材料の濃度は、歩留まり等を考慮して、5~35wt%であることが好ましく、15~25wt%であることが特に好ましい。
【0040】
液化工程においては、液化酵素の至適pHの範囲から、仕込み液のpHは、3.5~7.0であることが好ましく、4.5~6.5であることが特に好ましい。なお、一般的な仕込み液であれば3.5~7.0の範囲内のpHを示すので、当該仕込み液のpHを敢えて調整しなくても液化反応を進行させることができる。また、糖化液の製造方法の一実施形態では、後述の糖化工程の前に液化液のpH調整を行わなくてもよい。すなわち、糖化工程で用いる糖化酵素の多くもpH3.5~7.0の範囲内に至適pHを有するので、液化工程と糖化工程のpH条件を同等の範囲に設定し得る。よって、得られた液化液のpHを糖化工程のために改めて調整し直さなくてもよい。したがって、糖化液の製造方法の特に好適な実施形態では、仕込み工程から糖化工程までpHの調整を全く行わなくてもよいので、糖化液の製造を更に簡素化ができる。
【0041】
液化酵素としては、至適pHが3.5~7.0、特には4.5~6.5であり且つデンプン等の糖鎖を切断して低分子の糖類に分解することができるものであれば、いずれのものも好適に利用でき、中でもα-アミラーゼ(EC3.2.1.1)が好ましい。また、耐熱性が高い酵素が好ましく、その具体例として、商品名「クライスターゼSD8」、商品名「クライスターゼT10S」(以上、天野エンザイム社製)、商品名「ターマミルSC」(ノボザイムズジャパン社製)、商品名「スピターゼHK」(長瀬産業社製)等が挙げられる。
【0042】
液化酵素の添加量は、JIS K7001:1990により測定した1液化力単位(JLU)を1unitとした場合に、原料であるデンプンを含む材料1gに対して、例えば1unit~150unit、好ましくは10unit~100unit、より好ましくは20unit~70unitである。1unit以上であれば、液化反応は十分に進み、150unit以下であれば経済的である。
【0043】
液化工程における反応温度および反応時間は、添加する液化酵素の種類によって適宜調整することが可能である。一例として、65℃~120℃の反応温度、好ましくは80℃~110℃の反応温度であって、0.01時間~24時間の反応時間、好ましくは0.1時間~12時間の反応時間、より好ましくは0.1時間~2時間の反応時間とすることが可能である。
【0044】
デンプンを含む材料中には、デンプンに働いて液化するα-アミラーゼ、デキストリンに働いてオリゴ糖を生成するデキストリナーゼ、β-グルカン等の多糖類に作用する酵素等の内在性酵素が存在する。これら内在性酵素が働くと、場合により、所望の糖質の全てまたはいずれかの損失につながり得る。したがって、液化工程においては内在性酵素を働かせないことが好ましい一態様であり得る。
【0045】
この目的のために、糖化液の製造方法の好適な一実施形態では、仕込み液を前記反応温度範囲に昇温した後に液化酵素を加え、反応中も前記反応温度範囲内に維持し、そのような温度域で液化反応を行うことである。
【0046】
また、糖化液の製造方法の一実施形態においては、仕込み液をできるだけ速やかに前記反応温度範囲に昇温することで、前記内在性酵素を失活させて、その働きを可能な限り抑制することが好ましい。例えば、仕込み液を速やかに昇温して、少なくとも5分以内、好ましくは1分以内、より好ましくは10秒以内に、前記内在性酵素が働く温度域を通過させることが好ましい。このような急速な昇温が可能な装置として、仕込み液に直接スチームジェットを当て、瞬時に加熱・ミキシングすることが可能なジェットクッカーを用いることができる。そのようなジェットクッカーとして、商品名「ノリタケクッカー・スチームミキサー」(ノリタケ社製)、商品名「ジェットクッカー」(ハイドロサーマル社)等が市販されており、本実施形態でも使用することができる。また、高圧下でミキシングにより、添加した液化酵素を十分に作用させることもできる。
【0047】
なお、糖化液の製造方法の別の実施形態においては、上記ジェットクッカーによる液化反応後の液化液を、例えばバッチタンク内で、液化酵素に最適な温度域に維持して、更に液化反応を熟成させることも可能である。
【0048】
また、液化反応後の液化液は、適宜必要に応じて、珪藻土等を助剤とする濾過を行い、適宜不純物を除去してもよい。
【0049】
3.糖化工程
上記液化液中の低分子化された糖質を更に分解して、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類等を含む糖化液を得るために、糖化工程を実施する。当該工程は、液化液に糖化酵素を添加することで行われる。
【0050】
糖化酵素の例として、β-アミラーゼ(EC3.2.1.2)や糖化型α-アミラーゼ(EC3.2.1.1)、グルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)、プルラナーゼ(ECEC3.2.1.41)、トランスグルコシダーゼ(EC3.2.1.20)、グルカナーゼ(EC3.2.1.6)等を挙げることができる。これらの酵素は単独でも使用できるが、複数の酵素を組み合わせて使用することも好ましい。糖化酵素は、市販のものでもよく、具体例としては、β-アミラーゼとして、商品名「β-アミラーゼL/R」(ナガセケムテックス社製)、商品名「β-アミラーゼFアマノ」(天野エンザイム社製)、商品名「ハイマルトシンGL」(エイチビィアイ社製)等が挙げられ、糖化型α-アミラーゼとして、商品名「ファンガミル」(ノボザイムズ社製)等が挙げられ、グルコアミラーゼとして、商品名「グルコチーム#20000」、商品名「デナチームGSA/R」(以上、長瀬産業社製);商品名「グルクザイムAF6」(天野エンザイム社製);商品名「スミチーム」(新日本化学工業社製);商品名「グルターゼAN」(エイチビィアイ社製);商品名「AMG」(ノボザイムズジャパン社製);商品名「AMG300L」(ノボザイムズジャパン社製);商品名「GODO-ANGH」(合同酒精社製);および商品名「ユニアーゼ30」(ヤクルト薬品工業社製)等が挙げられる。また、市販のプルラナーゼとしては、商品名「プルラナーゼ「アマノ」3」(天野エンザイム社製)等が挙げられ、トランスグルコシダーゼとしては、商品名「トランスグルコシダーゼL「アマノ」」(天野エンザイム社製)、商品名「トランスグルコシダーゼL-500」(ジェネンコア社製)等が挙げられ、グルカナーゼとして商品名「Finizym250L」(ノボザイムズジャパン社製)等が挙げられる。これらの酵素は、概ね、pH3.5~7.0で活性を示し、pH4.5~6.5の至適pHを有している。
【0051】
糖化酵素の添加量は、pH4.5で40℃、30分間、アミロースに添加して反応させた結果グルコースを1mg生産する酵素量を1unitとした場合に、原料であるデンプンを含む材料1gに対して、例えば10unit~1000unit、好ましくは20unit~900unit、より好ましくは500unit~700unitである。1000unit以下であれば不快な風味を抑制でき、10unit以上であれば、糖化反応は十分に進む。
【0052】
糖化工程における反応温度および反応時間は、添加する糖化酵素の種類によって適宜調整することが可能である。一例として、30℃~65℃の反応温度、好ましくは40℃~65℃の反応温度、より好ましくは45℃~65℃の反応温度であって、1時間~24時間の反応時間、好ましくは1.5時間~10時間の反応時間、より好ましくは2時間~4時間とすることが可能である。
【0053】
なお、糖化液の製造方法においては、糖化工程の際に、所望に応じてプロテアーゼやリパーゼ等の他の酵素を一緒に添加してもよい。
【0054】
上記糖化液は、適宜必要に応じて、珪藻土等を助剤とする濾過を行い、適宜不純物を除去してもよい。
【0055】
4.活性炭処理工程
糖化液の製造方法は、糖化工程の後に、活性炭処理工程を含むことができる。糖化工程によって得られた糖化液に、所定量の活性炭を添加して、脱色および不純物の除去をするための活性炭処理工程を行うことができる。具体的には、上記糖化液に活性炭を添加して、所定の処理温度で所定期間撹拌・振盪により混和させる。
【0056】
添加される活性炭は、粉末状の木質系原料由来の活性炭であれば、市販の活性炭を適宜利用することが可能であるが、一例としては、商品名「太閤Sタイプ」(フタムラ化学社製)を用いることが可能である。
【0057】
活性炭処理の処理温度および処理時間は、添加する活性炭の種類や濃度によって適宜調整することが可能である。一例として、50℃~95℃の処理温度、好ましくは60℃~90℃の処理温度、より好ましくは70℃~80℃の処理温度であって、0.1時間~12時間の処理時間、好ましくは0.5時間~6時間の処理時間、より好ましくは1時間~4時間の処理時間とすることが可能である。
【0058】
また、活性炭処理後の溶液は、適宜必要に応じて、珪藻土等を助剤とする濾過を行い、適宜不純物を除去してもよい。
【0059】
糖化液の製造方法においては、活性炭処理工程後に窒素バブリングが行われてもよい。
【0060】
5.濃縮工程
糖化液の製造方法は、糖化工程または活性炭処理工程の後に、濃縮工程を含むことができる。糖化工程または活性炭処理工程によって得られた糖化液に対して減圧濃縮および常圧加熱による濃縮を行い、所望のBrixとなるように調整することも可能である。糖化液の製造方法においては、濃縮工程後に窒素バブリングが行われてもよい。
【0061】
6.異性化工程
異性化工程は、典型的に、異性化酵素(キシロースイソメラーゼ)を加えて、ブドウ糖(グルコース)の一部を果糖(フルクトース)に変える工程である。異性化工程により得られる糖液は、異性化液糖とも呼ばれる。異性化液糖は、果糖の含まれる割合によって、ブドウ糖果糖液糖(果糖含有率:50質量%未満)、果糖ブドウ糖液糖(果糖含有率:50質量%以上から90質量%未満)、高果糖液糖(果糖含有率:90質量%以上)に分類される。果糖含有率は、精製・濃縮・分離などにより調整可能である。
【0062】
異性化酵素としては、キシロースイソメラーゼまたはグルコースイソメラーゼ,EC5.3.1.5等がある。異性化酵素生産菌によって酵素作用条件が決まるが、例えば、糖化工程を経て得られた糖化液を、必要に応じて脱色・脱イオン精製した後に、濃度40~45質量%に減圧濃縮し、pH7.5~8.2、温度55~60℃の反応条件下で、固定化された異性化酵素を充填したカラムに通液して連続的に異性化反応を行う。
【0063】
糖液のブドウ糖純度は高いほど異性化糖の生産性が向上する。異性化工程に供される糖液のブドウ糖純度は、通常、95~96質量%である。また、Caイオンがグルコースイソメラーゼに阻害的に作用するため、糖液中のCaイオンは、1質量ppm未満に抑えることが望ましい。通常は、異性化反応を行う前に、キレート樹脂を充填したカラムに糖液を通液してCaイオンが除去される。さらに、固定化グルコースイソメラーゼの安定化のために、糖液中にMgイオンを添加する方法が知られている。
【0064】
糖化液の製造方法においては、異性化工程、さらには必要に応じて行われる精製・濃縮・分離のいずれか工程の後に窒素バブリングが行われてもよい。
【0065】
7.イオン交換精製工程およびクロマト分離工程
イオン交換精製工程およびクロマト分離工程は、典型的に、イオン交換体を充填したカラムに糖液を通液する工程であり、果糖分離、ブドウ糖分離、オリゴ糖分離、糖アルコール分離等が可能である。イオン交換体としては、例えば、各種の陽イオン交換体、例えばCa型の陽イオン交換樹脂、Na型の陽イオン交換樹脂またはゼオライトを用いることができる。
【0066】
イオン交換精製は、イオンと電荷を持つ不純物を取り除く手段である。クロマト分離は、糖質同士を分離して、果糖とブドウ糖(オリゴ糖を含む)を分ける手段であり、回分式のクロマト分離と疑似移動床式のクロマト分離に大別される。
【0067】
糖化液の製造方法においては、イオン交換精製工程またはクロマト分離工程の後に窒素バブリングが行われてもよい。
【0068】
8.濾過工程
濾過工程は、典型的に、珪藻土等を助剤とする濾過が行われる工程である。上述の各工程の後に、適宜必要に応じて行われ、これにより、不純物を除去することが可能である。
【0069】
糖化液の製造方法においては、濾過工程の後に窒素バブリングが行われてもよい。
【0070】
本発明の製造方法により得られる糖液は、溶存酵素量が0.08mg/L以下であることが好ましく、0.05mg/L以下であることが更に好ましく、0.01mg/L以下であることが特に好ましい。以下、本発明の製造方法により得られる糖液を「本発明の糖液」とも称する。
【0071】
本発明の糖液は、Brixが、例えば73.8~77.8である。Brixとは、可溶性固形分濃度(%)のことであり、本明細書においては、糖液の20℃における屈折率を測定し、ICUMSA(International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis)提供の換算表に基づいて、純蔗糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値のことである。本発明の糖液の一実施形態では、糖液を濃縮や希釈するときの濃度を調整するためにBrixが測定される。Brixは、既に知られている公知の測定法を適宜用いて測定することができ、一般的には市販の糖度計(例えば、デジタル屈折計 商品名「RX-5000α」(アタゴ社製))を用いて測定することができる。
【0072】
本発明の糖液は、25℃におけるpHが、例えば3.5~7.0であり、好ましくは4.5~6.5である。本明細書において、糖液のpHは、公知の測定法を適宜用いて測定される。一例としては、市販のpH測定器(例えば、卓上型pHメータ 型式:F-74(HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0073】
本発明の糖液には、例えば、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類以上の各種糖類が含まれる。本発明の糖液中の固形分中に含まれる糖類全体の含有量は、例えば30~95wt%である。ここで、本発明の糖液中に含まれる糖類全体に対する三糖類以上の糖類の割合は、30wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、50wt%以上であることが更に好ましい。一方、本発明の糖液中に含まれる糖類全体に対する三糖類以上の糖類の割合は、例えば70.0wt%以下であり、60.0wt%以下が好ましい。また、単糖類および二糖類については、例えば、本発明の糖液中に含まれる糖類全体に対する割合がそれぞれ15~30wt%の範囲内にある。
【0074】
本明細書において、糖液中に含まれる糖類の組成は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。一例としては、活性炭、イオン交換樹脂、固層抽出、メンブレンフィルター等により穀物糖化液を精製したのち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:例えば、商品名「Alliance(登録商標)HPLCシステム」(日本ウォーターズ社製))によって測定することができる。分析条件の一例としては、以下のとおりである。
(分析条件)
カラム:ULTRON PS80-N(島津ジーエルシー社製)
溶媒:純水
温度:60℃
流速:0.6ml/min
検出:RI(示差屈折率)
【0075】
本発明の糖液は、甘味料として好適に使用できる。例えば、本発明の糖液を甘味料として用いた飲料には、例えば、清涼飲料(炭酸飲料、果実飲料、スポーツ飲料、茶系飲料など)、アルコール飲料、シロップ等がある。また、本発明の糖液を甘味料として用いた甘未物には、例えば、ゼリー、プリン、アイスクリーム、キャンディ、ソフトキャンディ、ガムなどの菓子等がある。
【0076】
本発明の別の態様は、糖質の溶解方法である。本発明の糖質の溶解方法は、窒素バブリングが行われる。また、本発明の糖質の溶解方法は、さらに窒素パージを行うことが好ましい。これにより、糖質の酸化を抑制し、糖質の保存安定性を向上させることが可能となる。また、本発明の糖質の溶解方法によれば、糖質を溶解させる際の温度を高くすることが可能となる。
【0077】
本発明の糖質の溶解方法の一実施態様は、糖質(特に粉末糖質)を水に溶解する方法であり、ここで、窒素バブリングが行われる工程を含み、好ましくはさらに窒素パージも行われる。
【0078】
なお、「糖質」、「窒素バブリング」、「窒素パージ」等の、本発明の糖液の製造方法の説明において記載した内容については、本発明の糖質の溶解方法にも当てはまることである。例えば、本発明の糖質の溶解方法においては、窒素バブリングを行うことにより系内の溶存酵素量を0.08mg/L以下にすることが好ましく、窒素バブリングを行う際の窒素流量は0.1~5L/minであることが好ましく、窒素バブリングは10~100℃の温度で行われることが好ましく、窒素バブリングが行われる対象の粘度は、10000mPa・s以下であることが好ましく、また、糖質の具体例として、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、異性化糖等が挙げられる。
【0079】
本発明の別の態様は、糖液の充填方法である。本発明の糖液の充填方法は、窒素バブリングが行われる。また、本発明の糖液の充填方法は、さらに窒素パージを行うことが好ましい。これにより、糖質の酸化を抑制し、糖液の保存安定性を向上させることが可能となる。
【0080】
本発明の糖液の充填方法の一実施態様は、糖液を容器に充填する方法であり、ここで、容器に充填すべき糖液(例えば糖化液の製造方法により製造された糖液)に対して窒素バブリングが行われる工程を含み、好ましくはさらに糖液が充填される容器に対して窒素パージも行われる。なお、窒素バブリングは、充填用の容器に糖液を入れ、該容器中で行われてもよいし、充填用の容器に投入する前に別の容器にて糖液に対して行われてもよい。
【0081】
また、本発明の糖液の充填方法では、糖液を容器に充填後、容器を密封することが好ましい。容器の具体例としては、瓶(好ましくは褐色のびん)、缶(好ましくはアルミ缶)、ペットボトル等のプラスチック製の容器や紙製の容器等も挙げられる。なお、運搬などのためにタンクローリーなどのタンクに充填される場合もある。
【0082】
なお、「糖液」、「窒素バブリング」、「窒素パージ」等の、本発明の糖液の製造方法の説明において記載した内容については、本発明の糖液の充填方法にも当てはまることである。例えば、本発明の糖液の充填方法においては、窒素バブリングを行うことにより系内の溶存酵素量を0.08mg/L以下にすることが好ましく、窒素バブリングを行う際の窒素流量は0.1~5L/minであることが好ましく、窒素バブリングは10~100℃の温度で行われることが好ましく、窒素バブリングが行われる対象の粘度は、10000mPa・s以下であることが好ましく、また、糖液に含まれる糖質の具体例として、食物繊維、フラクトオリゴ糖、オリゴ糖を中心とする液糖、異性化糖等が挙げられる。
【実施例0083】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
<糖鎖安定性試験>
糖鎖安定性試験の加速試験として、以下の実施例1~4および比較例1~4を行った。
【0085】
(比較例1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に群栄化学工業社製「75FG」(異性化糖、Brix74、20℃での粘度360mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、バブリングを行わず、200rpmで攪拌しながら70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.12mg/Lであった。次いで、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。異性化糖(75FG)の高温保存安定性試験の結果を
図1(コントロール)と表1に示す。
【0086】
【0087】
(実施例1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に群栄化学工業社製「75FG」(異性化糖、Brix74、20℃での粘度360mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、N
2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで攪拌しつつ70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.03mg/Lであった。なお、窒素バブリング時の内容物の粘度(70℃)は、19mPa・sであった。次いで、N
2バブリングを継続しつつ、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。異性化糖(75FG)の高温保存安定性試験の結果を
図1(N2バブリング)と表2に示す。
【0088】
【0089】
(比較例2)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に群栄化学工業社製「KM55」(液糖、Brix78、20℃での粘度8733mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、バブリングを行わず、200rpmで攪拌しながら70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.15mg/Lであった。次いで、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。液糖(KM55)の高温保存安定性試験の結果を
図2(コントロール)と表3に示す。
【0090】
【0091】
(実施例2)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に群栄化学工業社製「KM55」(液糖、Brix78、20℃での粘度8733mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、N
2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで攪拌しつつ70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.04mg/Lであった。なお、窒素バブリング時の内容物の粘度(70℃)は、269mPa・sであった。次いで、N
2バブリングを継続しつつ、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。液糖(KM55)の高温保存安定性試験の結果を
図2(N2バブリング)と表4に示す。
【0092】
【0093】
(比較例3)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に明治社製「メイオリゴ」(フラクトオリゴ糖、Brix76、20℃での粘度7000mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、バブリングを行わず、200rpmで攪拌しながら70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.17mg/Lであった。次いで、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。フラクトオリゴ糖(メイオリゴ)の高温保存安定性試験の結果を
図3(pH、コントロール)、
図4(フラクトオリゴ糖分、コントロール)および表5に示す。
【0094】
【0095】
(実施例3-1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に明治社製「メイオリゴ」(フラクトオリゴ糖、Brix76、20℃での粘度7000mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、N
2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで攪拌しつつ70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.01mg/Lであった。なお、窒素バブリング時の内容物の粘度(70℃)は、70mPa・sであった。次いで、N
2バブリングを継続しつつ、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。フラクトオリゴ糖(メイオリゴ)の高温保存安定性試験の結果を
図3(pH、70℃)、
図4(フラクトオリゴ糖分、70℃)および表6に示す。
【0096】
【0097】
(実施例3-2)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に明治社製「メイオリゴ」(フラクトオリゴ糖、Brix76、20℃での粘度7000mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、N
2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで攪拌しつつ60℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.04mg/Lであった。なお、窒素バブリング時の内容物の粘度(60℃)は、100mPa・sであった。次いで、N
2バブリングを継続しつつ、60℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHと糖組成の確認を行った。フラクトオリゴ糖(メイオリゴ)の高温保存安定性試験の結果を
図3(pH、60℃)、
図4(フラクトオリゴ糖分、60℃)および表7に示す。
【0098】
【0099】
(比較例4)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器にテート&ライル社製「プロミター90L」(難消化性デキストリン、Brix74、20℃での粘度53000mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、バブリングを行わず、200rpmで攪拌しながら70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.18mg/Lであった。次いで、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHの確認を行った。難消化性デキストリン(プロミター90L)の高温保存安定性試験の結果を
図5(コントロール)と表8に示す。
【0100】
【0101】
(実施例4)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの反応容器にテート&ライル社製「プロミター90L」(難消化性デキストリン、Brix74、20℃での粘度53000mPa・s)を750g仕込んだ。次いで、N
2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで攪拌しつつ70℃まで内容物を昇温させた。昇温後の系内の溶存酸素量(すなわち内容物の溶存酸素量)は0.01mg/Lであった。なお、窒素バブリング時の内容物の粘度(70℃)は、508mPa・sであった。次いで、N
2バブリングを継続しつつ、70℃を保持しながら経時的にサンプリングを行い、pHの確認を行った。難消化性デキストリン(プロミター90L)の高温保存安定性試験の結果を
図5(N2バブリング)と表9に示す。
【0102】
【0103】
<測定方法>
pH、糖組成、オリゴ糖組成、溶存酸素量、粘度、Brixは、以下の方法で測定した。
【0104】
[pH]
サンプリングした糖液をBrix30に調整し、室温(25℃)にてpH計 商品名「卓上型pH計 LAQUA F-74」(堀場製作所製)を用いて測定した。
【0105】
[糖組成]
サンプリングした糖液の糖組成については、商品名「Alliance(登録商標)HPLCシステム」(日本ウォーターズ社製)を用いて分析した。
(測定条件)
カラム:商品名「ULTRON PS-80N」(島津ジーエルシー社製)
溶媒:純水
温度:60℃
流速:0.6mL/min
検出:RI(示差屈折率)[5%熱分解温度]
【0106】
[オリゴ糖組成]
サンプリングした糖液のオリゴ糖組成については、商品名「高速液体クロマトグラフProminnce」(島津製作所 社製)を用いて分析した。
(測定条件)
カラム:商品名「TSKgel Amide-80 5μm」(東ソー社製)
溶媒:70%アセニトリル水溶液
温度:80℃
流速:0.6mL/min
検出:RI(示差屈折率)[5%熱分解温度]
【0107】
[溶存酸素量]
商品名「DOメーター B-506」(飯島電子工業社製)を用いて糖液の溶存酸素量を分析した。
【0108】
[粘度]
糖液の原液を、商品名「VISCOMETER BM」(東機産業製)を用いて分析することで、糖液の粘度を測定した。
【0109】
[Brix]
デジタル屈折計 商品名「RX-5000α」(アタゴ社製)を用いて、糖液のBrixを測定した。測定温度は20℃であった。
【0110】
実施例と比較例の高温保存安定性試験の結果から分かるように、実施例では窒素バブリングを行うことで、比較例よりもpHの低下を抑え、糖組成の変化も小さいことから、糖質の保存安定性を向上させることができる。このことから、窒素バブリングを行うことにより糖液に含まれる糖質の酸化を抑制できることが確認できる。
【0111】
また、比較例3に示されるように、フラクトオリゴ糖は、系内の溶存酸素量が高いと、分解しやすい糖質である。しかし、実施例3に示されるように、窒素バブリングを行うことで、酸化によるフラクトオリゴ糖の分解を抑えることができる。
【0112】
「溶存酸素量による評価」
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に、糖液を仕込んだ。次いで、N2バブリング(窒素流量:0.5L/min)をしながら200rpmで撹拌しつつ、70℃まで内容物を昇温し、目標とする溶存酸素量(0.10,0.09,0.08,0.05,0.01mg/L)に達するまでバブリングを継続した。目標となる溶存酸素量に達した後、窒素バブリングを停止し、経時的なpH変化を一時間置きに確認した。溶存酸素量0.09mg/L以上においては、経時的な糖液の酸化によるpH低下を確認した。以上より溶存酸素量を0.08mg/L以下にできれば、pH低下を抑制できることが分かった。表10では、pHの低下が起きなかった場合を「〇」と評価し、pHの低下が起きた場合を「×」と評価した。
【0113】
【0114】
「窒素流量による評価」
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量1Lの容器に、糖液を仕込んだ。次いで、所定の流量(7.0,6.0,5.0,1.0,0.1L/min)にてN2バブリングしながら、200rpmで撹拌しつつ70℃まで内容物を昇温した。70℃に達温後もバブリングは継続的に行い、経時的な糖液の状態を確認した。6.0L/min以上の窒素流量においては、水分蒸発が活発に起こり、系内の粘度上昇が確認され、均一な撹拌が困難であることを確認した。以上より、窒素流量は5.0L/min以下が好ましいと判断した。表11では、均一な撹拌を継続できた場合を「〇」と評価し、粘度上昇により均一な撹拌が困難となった場合を「×」と評価した。
【0115】