(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127751
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】複合粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20220825BHJP
C04B 35/628 20060101ALI20220825BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C04B35/628 130
C04B35/465
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025905
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
(72)【発明者】
【氏名】谷川 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 晴信
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA05
4G047CA07
4G047CB09
4G047CC02
4G047CD03
(57)【要約】
【課題】有機溶媒及び水溶媒と親和性が高く誘電率が高い複合粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】開示される方法は、組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子とその表面のアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子の製造方法であり、複合酸化物粒子を含むスラリーを調製する工程(i)とアルミニウムを含有する水溶性化合物と酸とをスラリーに添加する工程(ii)と得られた粒子を乾燥させる工程(iii)とを含む。工程(ii)はスラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持しスラリーの温度を50~90℃の範囲の温度に維持した状態で行われる。スラリー中の複合酸化物粒子の質量Wpに対する上記水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量Waの割合X1(質量%)と複合酸化物粒子の比表面積Z(m2/g)とは1/30≦X1/Z≦1/3を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子と、前記複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子の製造方法であって、
前記複合酸化物粒子を水性液体に分散させることによって前記複合酸化物粒子を含むスラリーを調製する工程(i)と、
アルミニウムを含有する水溶性化合物と酸とを前記スラリーに添加する工程(ii)と、
前記工程(ii)によって得られた粒子を乾燥させる工程(iii)とを含み、
前記工程(ii)は、前記スラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持し、且つ、前記スラリーの温度を50~90℃の範囲の温度に維持した状態で行われ、
前記工程(ii)において、前記スラリー中の前記複合酸化物粒子の質量Wpに対する、前記スラリーに添加される前記水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量Waの割合をX1(質量%)とし、前記複合酸化物粒子の比表面積をZ(m2/g)としたときに、前記X1(質量%)と前記Z(m2/g)とが、1/30≦X1/Z≦1/3を満たす、複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(ii)において、前記酸を前記スラリーに添加することによって前記スラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持しながら、前記スラリーに前記水溶性化合物を添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性化合物がアルミン酸ナトリウムであり、前記酸が硝酸である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子と、前記複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子であって、
透過型電子顕微鏡で撮影された前記複合粒子の断面における前記複合酸化物粒子の前記表面の周囲長Lp(μm)と、前記断面において前記表面のうち前記層で被覆されている部分の周囲長La(μm)との比La/Lpの平均値が0.30以上であり、
前記層の平均厚さが1.5nm~4.5nmの範囲にある、複合粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には様々な回路基板が用いられている。基板材料の誘電率が大きくなるほど信号の伝播波長は小さくなる。そのため、アンテナやパワーアンプに用いられる回路基板の小型化には、高誘電率の基板材料を用いることが望ましい。また、周波数が高くなるほど信号の伝送損失が大きくなるため、基板材料の誘電正接は低いことが望まれる。そのため、基板材料は、無機フィラーとして、チタン酸アルカリ土類金属塩(チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウムなど)の粒子を高い含有率で含むことが好ましい。
【0003】
チタン酸アルカリ土類金属塩の粒子の表面を処理することによって、溶媒や樹脂に対する当該粒子の親和性を高める方法が、従来から提案されている。溶媒や樹脂に対する当該粒子の親和性を高めることによって、基板材料における無機フィラーの含有率を高めることが可能である。
【0004】
特許文献1(特開2010-24094号公報)は、「ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面を少なくともAl2O3を含む被覆層で1次被覆し、SiO2、TiO2、ZrO2及びNd2O3からなる群から選択される少なくとも1種で2次被覆した改質ペロブスカイト型複合酸化物であって、前記1次被覆が、加水分解性Al2O3前駆体の加水分解生成物を焼成することにより形成されたものであり、且つ前記2次被覆が、加水分解性SiO2前駆体、加水分解性TiO2前駆体、加水分解性ZrO2前駆体及び加水分解性Nd2O3前駆体の群から選択される少なくとも1種の加水分解生成物を焼成することにより形成されたものであることを特徴とする改質ペロブスカイト型複合酸化物。」を開示している。
【0005】
特許文献2(国際公開第2016/140305号)は、「一次粒子の平均粒径が10nm以上60nm以下であって、粒子の変動係数(粒度分布の標準偏差を平均粒径で除した値)が0.35以下かつ粉体から水溶媒に溶出するBaイオンの量が1000ppm以下であることを特徴とするチタン酸バリウム粒子粉末。」を開示している。
【0006】
特許文献3(特開2003-342077号公報)は、「ペロブスカイト(ABO3)系セラミック原料粉末を水媒体に分散させてスラリーとする第一工程、第一工程終了後のスラリーに副成分元素を含有する化合物群から選ばれる1種または2種以上の化合物を添加する第二工程、第二工程終了後のスラリーを噴霧乾燥して誘電体セラミック原料粉末を得る第三工程、を有し、前記セラミック原料粉末の粒子表面に副成分元素を含有する化合物が付着した誘電体セラミック原料粉末を得る方法であって、前記第三工程における噴霧乾燥が、前記第二工程後のスラリーを耐熱性多孔質製の袋状又は筒状の乾燥室内に噴霧させ、該乾燥室内に供給される熱風で乾燥排ガスと誘電体セラミック原料粉末に分離させる方法であることを特徴とする誘電体セラミック原料粉末の製造方法。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-24094号公報
【特許文献2】国際公開第2016/140305号
【特許文献3】特開2003-342077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の表面処理では、溶媒や樹脂との親和性が充分に高い粒子を得ることは難しかった。さらに、上記の粒子の表面に付着した化合物の割合が増加するのに伴って、誘電率が低下するという弊害もある。
【0009】
一方で、有機溶媒の使用は、製造コストや環境への負荷が高いことから有機溶媒の使用を抑制することが求められている。水溶媒を使用することができれば、製造コストや環境面で有利になる。そのため、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高い粒子が求められている。
【0010】
このような状況において、本発明の目的の1つは、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高く且つ誘電率が高い複合粒子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、複合粒子の製造方法に関する。当該製造方法は、組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子と、前記複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子の製造方法であって、前記複合酸化物粒子を水性液体に分散させることによって前記複合酸化物粒子を含むスラリーを調製する工程(i)と、アルミニウムを含有する水溶性化合物と酸とを前記スラリーに添加する工程(ii)と、前記工程(ii)によって得られた粒子を乾燥させる工程(iii)とを含み、前記工程(ii)は、前記スラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持し、且つ、前記スラリーの温度を50~90℃の範囲の温度に維持した状態で行われ、前記工程(ii)において、前記スラリー中の前記複合酸化物粒子の質量Wpに対する、前記スラリーに添加される前記水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量Waの割合をX1(質量%)とし、前記複合酸化物粒子の比表面積をZ(m2/g)としたときに、前記X1(質量%)と前記Z(m2/g)とが、1/30≦X1/Z≦1/3を満たす。
【0012】
本発明の他の一側面は、複合粒子に関する。当該複合粒子は、本発明の組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子と、前記複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子であって、透過型電子顕微鏡で撮影された前記複合粒子の断面における前記複合酸化物粒子の前記表面の周囲長Lp(μm)と、前記断面において前記表面のうち前記層で被覆されている部分の周囲長La(μm)との比La/Lpの平均値が0.30以上であり、前記層の平均厚さが1.5nm~4.5nmの範囲にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高く且つ誘電率が高い複合粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例で製造した一例の粒子A2(発明例)の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例で製造した他の一例の粒子A3(発明例)の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、実施例で製造した他の一例の粒子CA6(比較例)の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、実施例で製造した他の一例の粒子CA7(比較例)の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。この明細書において、「粒子」を「粉末」と読み替えることが可能である。
【0016】
(複合粒子の製造方法)
本実施形態の製造方法は、組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層とを含む複合粒子の製造方法である。当該複合酸化物粒子および複合粒子をそれぞれ、以下では、「粒子(T)」および「複合粒子(P)」と称する場合がある。また、上記アルミニウム化合物の層を、「層(L)」と称する場合がある。また、本実施形態の製造方法を、以下では、「製造方法(M)」と称する場合がある。この明細書において、1つの粒子のみを対象としている記載以外の記載において、粒子を粉末(多数の粒子によって構成された粉末)と読み替えてもよい。
【0017】
粒子(T)は、ペロブスカイト型の結晶構造を有し、好ましくは、ペロブスカイト型単相の結晶構造を有する。粒子(T)は、不可避不純物を含んでもよいが、不可避不純物の含有率は、例えば、1質量%以下である。
【0018】
製造方法(M)は、工程(i)、工程(ii)、および工程(iii)をこの順に含む。それらの工程について以下に説明する。
【0019】
(工程(i))
工程(i)は、複合酸化物粒子(粒子(T))を水性液体に分散させることによって粒子(T)を含むスラリーを調製する工程である。粒子(T)の組成は、式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される。粒子(T)の例には、チタン酸バリウム粒子(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム粒子(SrTiO3)、およびチタン酸カルシウム粒子(CaTiO3)が含まれる。式ATiO3における元素Aは、1種の元素であってもよいし、2種の元素または3種の元素であってもよい。元素Aは、少なくともBaを含んでもよい。
【0020】
粒子(T)には、市販の粒子を用いてもよいし、公知の方法によって粒子(T)を合成してもよい。粒子(T)の比表面積Z(m2/g)は、2.0~80m2/gの範囲(例えば4.0~15m2/gの範囲)にあってもよい。比表面積Z(m2/g)を、4.0~15m2/gの範囲(例えば4.0~14m2/gの範囲)とすることによって、誘電率が大きく、また凝集し難い粒子が得られる。
【0021】
粒子(T)の平均粒径は、10nm~500nmの範囲(例えば70nm~350nmの範囲)にあってもよい。当該平均粒径を70nm~350nmの範囲とすることによって、誘電率が大きく、また凝集し難い粒子が得られる。ここで、粒子(T)の平均粒径は、比表面積から算出できる。まず、粒子(T)の比表面積を測定する。そして、粒子(T)が真球の粒子であると仮定し、粒子(T)の密度と比表面積とを用いて求められる。粒子(T)の密度には、粒子の組成に基づいて公知の密度を適用してもよい。
【0022】
水性液体は、液体成分に占める水の割合が50質量%以上である液体である。水性液体の液体成分に占める水の割合は、60質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよく、100%であってもよい。水性液体の液体成分は、水以外の有機溶媒を含んでもよい。ただし、製造コストや環境負荷を低減する観点から、水性液体の液体成分に占める水の割合は高いことが好ましく、90質量%以上(95質量%以上や100質量%)であることが好ましい。水性液体の好ましい一例は、有機溶媒を含まない水である。水性液体に用いられる水は、イオン交換水(脱イオン水)であってもよい。水性液体に含まれる有機溶媒の例には、アルコールなどが含まれる。
【0023】
水性液体は、水溶液であってもよいし、粒子(T)以外の添加剤が添加されていてもよい。例えば、水性液体には、分散剤などの添加剤が溶解していてもよい。分散剤に特に限定はなく、公知の分散剤を用いてもよい。分散剤の例には、ポリアクリル酸アンモニウムなどが含まれる。
【0024】
工程(i)で調製されるスラリーにおける粒子(T)の含有率に特に限定はない。当該含有率は、3~70質量%の範囲(例えば5~60質量%の範囲)にあってもよい。スラリーは、例えば、水性液体に粒子(T)を添加して攪拌することによって調製してもよい。攪拌方法に特に限定はなく、公知の攪拌方法を用いることができる。
【0025】
粒子(T)を水性液体に分散させることによって得られたスラリーのpHが工程(ii)で制御される範囲(例えば8.0~10.0の範囲)にない場合、工程(i)は、当該スラリーのpHを工程(ii)で制御される範囲(例えば8.0~10.0の範囲)に調整する工程を含んでもよい。例えば、酸やアルカリをスラリーに添加することによってpHを調整できる。別の観点では、工程(i)は、複合酸化物粒子が水性液体に分散されたスラリーであってpHが所定の範囲にあるスラリーを調製する工程(i)である。所定の範囲は、工程(ii)で制御される範囲(例えば8.0~10.0の範囲)である。
【0026】
(工程(ii))
工程(ii)は、アルミニウムを含有する水溶性化合物と酸とを上記スラリーに添加する工程である。工程(ii)は、スラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持し、且つ、スラリーの温度を50~90℃の範囲の温度に維持した状態で行われる。工程(ii)において、スラリー中の複合酸化物粒子(粒子(T))の質量Wpに対する、スラリーに添加される水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量Waの割合をX1(質量%)とし、複合酸化物粒子の比表面積をZ(m2/g)としたときに、X1(質量%)とZ(m2/g)とは、1/30≦X1/Z≦1/3を満たす。
【0027】
アルミニウムを含有する水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量とは、アルミニウムを含有する水溶性化合物に含まれるアルミニウムの原子数と同じ原子数のアルミニウムを含む酸化アルミニウムの質量を意味する。X1は、X1(質量%)=100×Wa/Wpの式で求められる。
【0028】
工程(ii)によって、粒子(T)の表面に、アルミニウム化合物の層(L)が配置される。後述する実施例で示すように、工程(ii)によれば、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高く且つ誘電率が高い複合粒子(P)が得られる。層(L)を構成するアルミニウム化合物は、スラリーに添加する水性化合物の種類などによって変わりうるが、その例には、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどが含まれる。層(L)を構成するアルミニウム化合物は、一種のアルミニウム化合物であってもよいし、二種以上のアルミニウム化合物を含んでもよい。
【0029】
工程(ii)において、スラリーのpHは8.0以上であり、8.1以上であってもよい。当該pHは、10.0以下であり、9.8以下であってもよい。例えば、当該pHは、8.1~9.8の範囲に維持されてもよい。
【0030】
工程(ii)は、通常、スラリーを攪拌しながら行われる。すなわち、工程(ii)は、通常、上記スラリーに、アルミニウムを含有する水溶性化合物と酸とを添加して混合する工程である。スラリーを攪拌する方法に限定はなく、公知の攪拌方法を用いてもよい。
【0031】
工程(ii)において、スラリーのpHの変動は、1.0以内であることが好ましく、0.4以内であることがより好ましい。例えば、工程(ii)において、スラリーのpHは、8.5~9.5の範囲にある所定の値から±0.5の範囲にあってもよい。あるいは、工程(ii)において、スラリーのpHは、8.2~9.8の範囲にある所定の値から、±0.2の範囲にあってもよい。工程(ii)におけるpHの変動を1.0以内とすることによって、生成するアルミニウム化合物層の厚さをより均一にすることが可能である。
【0032】
好ましい一例では、工程(ii)において、酸をスラリーに添加することによってスラリーのpHを8.0~10.0の範囲に維持しながら、スラリーに上記水溶性化合物を添加する。例えば、スラリーのpHをモニタしながら加える酸の量を調節することによって、スラリーのpHを所定の範囲に維持してもよい。この一例の工程(ii)は、通常、酸と水溶性化合物とを同時に添加する時間を含む。酸は、連続的にスラリーに添加してもよいし、断続的にスラリーに添加してもよい。
【0033】
工程(ii)において、スラリーの温度は50~90℃の範囲に維持される。スラリーの温度を50~90℃の範囲とすることによって、形成されるアルミニウム化合物の層(L)を緻密にすることができると考えられる。そのため、スラリーの温度を50~90℃に維持することは、有機溶媒および水溶媒の両者に対する複合粒子の親和性を高めると考えられる。
【0034】
工程(ii)において、スラリーの温度は70~90℃の範囲に維持されることが好ましい。スラリーの温度を70~90℃の範囲とすることによって、層(L)をより緻密にすることができ、有機溶媒および水溶媒の両者に対する複合粒子の親和性をさらに高めることが可能である。
【0035】
スラリーに添加される水溶性化合物(アルミニウムを含有する水溶性化合物)の例には、アルミン酸ナトリウム(NaAlO2)、アルミン酸カリウム(KAlO2)、塩基性ポリ水酸化アルミニウムなどが含まれる。水溶性化合物は、液体に溶解した状態(例えば水溶液の状態)でスラリーに添加されてもよい。
【0036】
水溶性化合物は、その水溶液がアルカリ性になる化合物であってもよい。そのような水溶性化合物の例には、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが含まれる。
【0037】
なお、アルミニウムを含有する水溶性化合物は、別の観点では、水溶性のアルミニウム化合物である。このアルミニウム化合物は、層(L)を構成するアルミニウム化合物とは異なる。そのため、層(L)を構成するアルミニウム化合物を第1のアルミニウム化合物と読み替え、スラリーに添加される水溶性化合物を第2のアルミニウム化合物と読み替えることができる。
【0038】
スラリーに添加される酸の例には、硝酸(硝酸水溶液)、塩酸、硫酸、シュウ酸、酢酸、リン酸、乳酸、クエン酸、ギ酸、ホウ酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸などが含まれる。スラリーに添加される酸の量は、スラリーのpHに応じて調整される。好ましい一例では、水溶性化合物がアルミン酸ナトリウムであり、酸が硝酸である。
【0039】
X1(質量%)とZ(m2/g)とは、1/30≦X1/Z≦1/3を満たす。換言すれば、X1(質量%)とZ(m2/g)とは、0.033≦X1/Z≦0.333を満たす。X1/Zの値は、0.033以上であり、0.050以上、または0.073以上であってもよい。X1/Zの値は、0.333以下であり、0.219以下であってもよい。これらの下限と上限とは任意に組み合わせることができる。例えば、X1/Zの値は、0.033~0.333の範囲、0.033~0.219の範囲、または0.073~0.219の範囲にあってもよい。
【0040】
(工程(iii))
工程(iii)は、工程(ii)によって得られた粒子を乾燥させる工程である。工程(iii)は、工程(ii)を経たスラリーを乾燥させる工程を含んでもよい。その場合、スラリーを洗浄してから乾燥させてもよい。例えば、スラリーをろ紙を設置した漏斗上に配置して洗浄した後、残った固形物(ケーキ)を濾別して乾燥させもよい。乾燥の条件に特に限定はなく、加熱および/または減圧によって乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、100℃~150℃の範囲(例えば110~140℃の範囲)にあってもよい。ただし、乾燥温度が高すぎると、粒子の物性が変化する場合がある。乾燥時間は、1~100時間の範囲(例えば10~80時間の範囲)にあってもよい。
【0041】
工程(ii)で得られた粒子は、工程(iii)における処理(例えば乾燥時の熱処理)によって変化してもよいし、工程(iii)における処理によって変化しなくてもよい。工程(i)~工程(iii)を含む製造方法によって、複合粒子(P)が製造される。
【0042】
複合粒子(P)の表面の少なくとも一部には、層(L)が存在する。層(L)は、粒子(T)と接触するように、粒子(T)の表面に形成される。本実施形態の製造方法では、通常、層(L)の上にさらに他の層を形成する工程は行われない。すなわち、粒子(T)上に形成される層は、通常、層(L)のみである。表面に層(L)が露出していることによって、本発明の効果が得られる。ただし、層(L)の効果が得られる範囲で、層(L)の表面の一部に他の層を形成してもよい。また、層(L)の効果が得られる範囲で、複合粒子(P)に対して表面処理を行ってもよい。表面処理の例には、シランカップリング剤による処理が含まれる。シランカップリング剤による表面処理を行うことによって、有機溶媒への親和性を高めることができる。シランカップリング剤およびそれを用いた処理方法に特に限定はなく、粒子の表面処理に用いられている公知のシランカップリング剤および処理方法を適用してもよい。
【0043】
1つの観点では、本発明は、有機溶媒に対する親和性と水溶媒に対する親和性とが所望のバランスで制御されており且つ誘電率が高い複合粒子およびその製造方法を提供する。例えば、複合粒子(P)に対して表面処理を行うことによって、有機溶媒に対する親和性と水溶媒に対する親和性とのバランスを容易に変化させることが可能である。上述したように、本発明の製造方法によれば、有機溶媒および水溶媒の両方に対する高い親和性を実現できる。
【0044】
(複合粒子)
本実施形態の複合粒子は、組成が式ATiO3(式中、Aは、Ba、SrおよびCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表される複合酸化物粒子(粒子(T))と、当該複合酸化物粒子の表面に配置されたアルミニウム化合物の層(層(L))とを含む複合粒子(複合粒子(P))である。透過型電子顕微鏡で撮影された複合粒子(P)の断面における粒子(T)の表面の周囲長Lp(μm)と、前記断面において前記表面のうち層(L)で被覆されている部分の周囲長La(μm)との比La/Lpの平均値は0.30以上である。層(L)の平均厚さは、1.5nm~4.5nmの範囲にある。本実施形態の複合粒子は、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高く且つ誘電率が高い。以下では、比La/Lpの平均値を、「平均値Ave(La/Lp)」または「被覆率」と称する場合がある。
【0045】
本実施形態の複合粒子は、本実施形態の製造方法(M)で製造することが可能である。そのため、製造方法(M)で説明した事項は、本実施形態の複合粒子に適用できる。また、この実施形態の複合粒子について説明した事項を、製造方法(M)に適用してもよい。本実施形態の複合粒子の一例は、製造方法(M)で製造された複合粒子(P)である。ただし、本実施形態の複合粒子は、製造方法(M)以外の製造方法で製造してもよい。
【0046】
平均値Ave(La/Lp)は、0.30以上であり、0.31以上、0.33以上であってもよい。平均値Ave(La/Lp)の上限に特に限定はなく、1.0以下、0.80以下、0.70以下、または0.60以下であってもよい。これらの下限と上限とは任意に組み合わせることができる。例えば、平均値Ave(La/Lp)は、0.30~1.0の範囲、0.30~0.70の範囲、または0.30~0.60の範囲にあってもよく、これらの範囲の下限を0.31としてもよい。なお、粒子(T)の表面のすべてが層(L)で被覆されている場合には、平均値Ave(La/Lp)=1である。
【0047】
平均値Ave(La/Lp)の値は、以下の方法で求めることが可能である。まず、透過型電子顕微鏡で撮影された1つの複合粒子の断面における複合酸化物粒子の表面の周囲長をLp(μm)とし、前記断面において前記表面のうち層(L)で被覆されている部分の周囲長をLa(μm)とし、比La/Lpを求める。そして、所定の数(例えば10個)の複合粒子を任意に選択してそれぞれの粒子について比La/Lpを求め、その算術平均を算出することによって、平均値Ave(La/Lp)が得られる。
【0048】
層(L)の平均厚さは、1.5nm以上であり、1.7nm以上または2.2nm以上であってもよい。層(L)の平均厚さは、4.5nm以下であり、4.0nm以下または3.3nm以下であってもよい。これらの下限と上限とは任意に組み合わせることができる。例えば、層(L)の平均厚さは、1.7nm~4.0nmの範囲にあってもよい。層(L)の平均厚さは、実施例で説明する方法で求められる。
【0049】
上記工程(ii)のスラリー中の複合酸化物粒子(粒子(T))の質量Wpに対する、スラリーに添加される水溶性化合物の酸化アルミニウム換算の質量Waの割合をX1(質量%)とする。また、複合粒子(P)中の複合酸化物粒子(粒子(T))の質量WPに対する、層(L)を構成するアルミニウム化合物の酸化アルミニウム換算の質量WAの割合をX2(質量%)とする。X2(質量%)と粒子(T)の比表面積Z(m2/g)とは、1/30≦X2/Z≦1/3を満たしてもよい。好ましい一例において、製造方法(M)で製造された複合粒子(P)では、工程(ii)でスラリーに添加された水溶性化合物(アルミニウムを含有する水溶性化合物)のすべてが層(L)を構成するとみなすことが可能である。そのため、好ましい一例では、X2は、上述したX1と同じとみなすことが可能である。X2/Zの値は、X1/Zの値について例示した範囲(上述の範囲)にあってもよい。
【実施例0050】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。この実施例では、複数の粒子を製造して評価した。粒子A1~A11は、上述した製造方法(M)によって製造した。
【0051】
(粒子A1)
粒子A1は以下の方法で製造した。まず、20Lの容器にイオン交換水15Lを加えた。そのイオン交換水に、ポリアクリル酸アンモニウムの水溶液32g(濃度:44質量%)と、チタン化合物の粒子8kgとを投入して混合物を得た。チタン化合物の粒子には、チタン酸バリウム粒子(堺化学工業株式会社製BT-03、比表面積換算粒子径0.25μm)を用いた。
【0052】
分散機であるホモミクサーMARKII(プライミクス株式会社製)を用いて9,000rpmで20分間、上記の混合物を分散させることによってスラリーを得た。なお、分散後のスラリーのpHは10.7であった。
【0053】
次に、得られたスラリー中の粒子に対して表面処理(上述した工程(ii))を行うことによって、粒子上にアルミニウム化合物の層(被覆層)を形成した。具体的には、まず、攪拌機(羽根サイズ:130mm、回転速度:110rpm)を用いてスラリーを攪拌しながら、イオン交換水をスラリーに添加してチタン酸バリウムの濃度を250g/Lとした。そして、スラリーを70℃に昇温した。次に、スラリーのpHが8.2となるまでスラリーに希硝酸(濃度:5質量%)を添加した。
【0054】
次に、pHが8.2のスラリーに、アルミン酸ナトリウム(NaAlO2)の水溶液3.9Lと、希硝酸(濃度:5質量%)とを同時に添加した。このとき、pHコントローラを用いて希硝酸の添加量を制御することによって、スラリーのpHが8.1~8.4の範囲からはずれないようにした。また、スラリーの温度は70℃に維持した。アルミン酸ナトリウム水溶液は、50mL/分の速度で連続的に添加した。アルミン酸ナトリウムの水溶液は、アルミン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)64.3gをイオン交換水に溶解して全量を3.9Lとすることによって調製した。アルミン酸ナトリウム64.3gは、酸化アルミニウムに換算すると、64.3×0.5×102.0/82.0=40.0gである。そのため、スラリー中のチタン酸バリウム粒子の質量Wp(8000g)に対する、アルミン酸ナトリウム水溶液に含まれるアルミン酸ナトリウムの酸化アルミニウム換算の質量Wa(40g)の割合X1は、0.5質量%であった。
【0055】
上記の工程によって、複合酸化物粒子上にアルミニウム化合物の被覆層を形成した。次に、上記の工程によって得られたスラリーを室温まで冷却した後、スラリーをろ紙を設置した漏斗に配置して水洗した。水洗は、洗浄後の水の導電率が80μS/cmとなるまで行った。次に、洗浄によって得られたケーキを、110℃で12時間乾燥して、乾燥された固形物を得た。次に、得られた固形物を、アトマイザー粉砕機(株式会社ダルトン製AIIW)を用いて粉砕することによって、粒子A1を得た。
【0056】
(粒子A2)
ポリアクリル酸アンモニウム水溶液の量、チタン酸バリウムの種類を変化させて混合物を調製したこと、および、スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を変化させたことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A2を製造した。具体的には、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液120gを用いて混合物を調製した。チタン酸バリウムに粒子には、堺化学工業株式会社製BT-01(比表面積換算粒子径0.07μm)を用いた。スラリーに添加されるアルミン酸ナトリウムの量が128.6gとなるように、スラリーにアルミン酸ナトリウム水溶液を添加した。スラリー中のチタン酸バリウム粒子の質量Wp(8000g)に対する、アルミン酸ナトリウム水溶液に含まれるアルミン酸ナトリウムの酸化アルミニウム換算の質量Wa(80.0g)の割合X1は1.0質量%であった。
【0057】
(粒子A3)
スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を192.9g(X1=1.5質量%)としたことを除いて、粒子A2の製造方法と同様の方法で粒子A3を製造した。
【0058】
(粒子A4)
スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を257.2g(X1=2.0質量%)としたことを除いて、粒子A2の製造方法と同様の方法で粒子A4を製造した。
【0059】
(粒子A5)
スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を385.8g(X1=3.0質量%)としたことを除いて、粒子A2の製造方法と同様の方法で粒子A5を製造した。
【0060】
(粒子A6)
ポリアクリル酸アンモニウム水溶液の量、チタン酸バリウムの種類を変化させて混合物を調製したこと、および、スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を変化させたことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A6を製造した。具体的には、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液495gを用いて混合物を調製した。チタン酸バリウム粒子には、水熱合成で製造された粒子(比表面積換算粒子径0.02μm)を用いた。スラリーに添加されるアルミン酸ナトリウムの量が643g(X1=5.0質量%)となるように、スラリーにアルミン酸ナトリウム水溶液を添加した。
【0061】
(粒子A7)
複合酸化物粒子としてチタン酸ストロンチウムの粒子(堺化学工業株式会社製ST-03、比表面積換算粒子径0.23μm)を用いたことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A7を製造した。
【0062】
(粒子A8)
複合酸化物粒子としてチタン酸カルシウム(堺化学工業株式会社製CT-03、比表面積換算粒子径0.31μm)を用いたことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A8を製造した。
【0063】
(粒子A9)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際のスラリーの温度を50℃に変更したことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A9を製造した。
【0064】
(粒子A10)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際のスラリーのpHを、pHコントローラによって9.5~9.8の範囲となるように制御しながらアルミン酸ナトリウム水溶液をスラリーに添加したことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A10を製造した。
【0065】
(粒子A11)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際のスラリーの温度を90℃に変更したことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子A11を製造した。
【0066】
(粒子CA1)
表面処理を行っていないチタン酸バリウム粒子(堺化学工業株式会社製BT-03、比表面積換算粒子径0.25μm)を粒子CA1とした。
【0067】
(粒子CA2)
表面処理を行っていないチタン酸バリウム粒子(堺化学工業株式会社製BT-01、比表面積換算粒子径0.07μm)を粒子CA2とした。
【0068】
(粒子CA3)
表面処理を行っていないチタン酸バリウム粒子(水熱合成で製造された粒子、比表面積換算粒子径0.02μm)を粒子CA3とした。
【0069】
(粒子CA4)
表面処理を行っていないチタン酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製ST-03、比表面積換算粒子径0.23μm)を粒子CA4とした。
【0070】
(粒子CA5)
表面処理を行っていないチタン酸カルシウム(堺化学工業株式会社製CT-03、比表面積換算粒子径0.31μm)を粒子CA5とした。
【0071】
(粒子CA6)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際のスラリーの温度を25℃に変更したことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子CA6を製造した。
【0072】
(粒子CA7)
まず、粒子A1の製造方法と同じ方法で、ポリアクリル酸アンモニウムとチタン酸バリウム粒子とを含むスラリーを調製した。次に、70℃にしたスラリーに、粒子A1の製造で用いたものと同じアルミン酸ナトリウム水溶液3.9Lを添加した。アルミン酸ナトリウム水溶液の添加が終了した後、希硝酸(濃度5質量%)1.2Lを50mL/分の添加速度でスラリーに添加した。なお、アルミン酸ナトリウム水溶液を添加した後のスラリーのpHは10.7であった。希硝酸を添加した後のスラリーのpHは8.0であった。このようにしてチタン酸バリウム粒子の表面処理を行った。その後は粒子A1の製造方法と同じ方法で粒子を処理することによって、粒子CA7を得た。
【0073】
(粒子CA8)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際のスラリーの温度を40℃に変更したことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子CA8を製造した。
【0074】
(粒子CA9)
スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を51.4g(X1=0.4質量%)としたことを除いて、粒子A2の製造方法と同様の方法で粒子CA9を製造した。
【0075】
(粒子CA10)
スラリーに添加するアルミン酸ナトリウムの量を643g(X1=5.0質量%)としたことを除いて、粒子A2の製造方法と同様の方法で粒子CA10を製造した。
【0076】
(粒子CA11)
スラリー中の粒子の表面処理を行う際の条件を変えたことを除いて、粒子A1の製造方法と同様の方法で粒子CA11を製造した。具体的には、表面処理を行っている間のスラリーの温度を50℃に変更した。また、表面処理を行っている間のスラリーのpHを、pHコントローラで5.1~5.4の範囲に制御した。
【0077】
以上のようにして製造された粒子を、以下の方法で評価した。
【0078】
(A)比表面積Zおよび比表面積換算粒子径DSSAの測定
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb HM-1220)を用いて、BET流動法によって粒子(詳細には多数の粒子を含む粉末)の比表面積Zを測定した。前処理は、230℃で30分間、純窒素ガス気流下に粒子を配置することによって前処理を行った。キャリアガスには、窒素30体積%とヘリウム70体積%との混合ガスを使用した。
【0079】
次に、測定された比表面積Zから、次の換算式を用いて比表面積換算粒子径DSSAを算出した。
DSSA(nm)=6×1000/(S×ρ)
ただし、Sは比表面積(m2/g)であり、ρは粒子の密度(g/cm3)である。粒子の密度ρには、BaTiO3が6.02g/cm3、SrTiO3が4.81g/cm3、CaTiO3が3.98g/cm3を用いた。このように、比表面積換算粒子径は、対象とする粒子について測定された比表面積と同じ比表面積を有する真球の粒子の直径である。
【0080】
(B)平均値Ave(La/Lp)(被覆率)の算出
表面処理を行った粒子について、上述した平均値Ave(La/Lp)を以下の方法で算出した。上述したように、Lp(μm)は、透過型電子顕微鏡で撮影された複合粒子の断面における複合酸化物粒子の表面の周囲長の平均である。La(μm)は、上記断面において上記表面のうちアルミニウム化合物の層で被覆されている部分の周囲長の平均である。
【0081】
まず、粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-2100F)で撮影した。具体的には、最大10万倍に拡大した視野において、ランダムに10個の粒子を選択して撮影した。撮影された画像から、複合酸化物粒子の周囲長Lpを測定した。また、上記断面において上記周囲長Lpのうちアルミニウム化合物の層で被覆されている部分の周囲長Laを測定した。そして、10個の粒子それぞれについて、La/Lpの値を求めた。そして、得られたLa/Lpの値の算術平均を平均値Ave(La/Lp)とした。
【0082】
複合粒子を構成する粒子がスラリーに添加した複合酸化物粒子であること、および、複合酸化物粒子の表面に形成された被覆層がアルミニウム化合物であることは、分析によって確認した。具体的には、それらは、透過型電子顕微鏡観察で取得できるエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピング像と、透過型電子顕微鏡画像とを重ね合わせることによって確認した。
【0083】
(C)液体に対する親和性の評価
上記の粒子0.5gと所定の液体9.5gとを試験管に入れた後、試験管を振って粒子を含む懸濁液(S0)を得た。その懸濁液(S0)を25℃で24時間静置した。その結果、懸濁液は、懸濁している層(S1)と懸濁していない層(主に溶媒の層)とに分離した。両者の層の境界から、懸濁液(S0)の体積に占める懸濁している層(S1)の体積の割合(%)を求めた。この割合が高いほど、粒子の沈降性が低く、溶媒との親和性が高いことを示す。液体には、シクロヘキサノン(有機溶媒)およびイオン交換水(水溶媒)を用いた。
【0084】
(D)粒子の誘電率および誘電正接の測定
1GHz空洞共振器(株式会社エーイーティー製)の石英管に上記粒子を充填し、ネットワークアナライザーP9373A(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて粒子の高周波誘電率を測定した。この測定によって、粒子の誘電率および誘電正接(tanδ)を得た。なお、この測定方法は、JIS-C2565「マイクロ波用フェライト磁心試験方法」に準じる。
【0085】
誘電正接とは、誘電体に交流電場が印加された時に誘電体中の電気エネルギーの一部が熱として損失する割合を表したものである。高周波を扱う電気・電子部品(コンデンサなど)では特に重要な特性である。誘電正接が大きい場合、温度上昇によって絶縁性の低下や内蔵している電子回路の不具合などを引き起こす原因となる。そのため、誘電正接の値は低い方が好ましい。一方で、誘電率は高い方が好ましい。
【0086】
(E)アルミニウム化合物の層(被覆層)の厚さの測定
アルミニウム化合物の層の厚さは、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-2100F)を用いて測定した。具体的には、まず、最大10万倍に拡大した視野において、任意の粒子10個を選択して撮影した。そして、粒子の最長径となる直線を引いた。また、当該最長径の中央において当該最長径と直交する直線を引いた。それら2本の直線が、アルミニウム化合物の層(被覆層)と交差する箇所における線の長さ(アルミニウム化合物層の厚さ)を測定する。粒子の全体が被覆層で覆われている場合には、2本の直線と被覆層とは4箇所で交差する。そして、4箇所におけるアルミニウム化合物の厚さの算術平均を、その粒子における被覆層の平均厚さとした。なお、被覆層が形成されていない部分を直線が通る場合には、その部分の被覆層の厚さはゼロとして計算した。そして、10個の粒子のそれぞれについて求められた被覆層の平均厚さの算術平均を、被覆層の平均厚さとした。
【0087】
製造条件の一部と評価結果の一部とを表1および表2に示す。以下の表において、DSSAは、比表面積換算粒子径を意味する。添加方法の同時添加とは、酸をスラリーに添加することによってスラリーのpHを所定の範囲に維持しながら、スラリーに水溶性化合物を添加することを意味する。
【0088】
【0089】
【0090】
シクロヘキサノンおよび水の両方について、粒子の沈降性を示す割合(%)は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。誘電率は、複合酸化物粒子がチタン酸バリウムの場合、好ましくは12以上であり、より好ましくは17以上である。誘電正接は、好ましくは0.05以下である。なお、誘電率は、複合酸化物粒子の種類によっても変化する。
【0091】
粒子A1~A11について透過型電子顕微鏡などを用いた観察および分析を行った。粒子A1~A11では、アルミニウム化合物のみで形成された粒子やアルミニウム化合物が塊状に偏析した部分は見つからず、アルミニウム化合物は、複合酸化物粒子上に層状に配置されていた。
【0092】
上記の表に示すように、本発明の製造方法によって製造された本発明の複合粒子(粒子A1~A11)は、有機溶媒および水溶媒の両者と親和性が高く且つ誘電率が高かった。被覆層が厚いと誘電率が低下する傾向が見られたが、粒子A1~A11では被覆層が充分に薄いため、高い誘電率を示した。X1/Zの値が大きいCA10の誘電率は低く、誘電正接は大きかった。X1/Zの値が小さいCA9では、溶媒に対する親和性が低かった。
【0093】
粒子A1~A11では、有機溶媒(シクロヘキサノン)および水溶媒(水)に対する親和性が70%以上と高かった。有機溶媒に対する親和性および水溶媒に対する親和性がそれぞれ70%以上である複合粒子は、トナーの添加剤や、樹脂組成物(回路基板用の樹脂組成物など)のフィラーとして好適に使用できる。
【0094】
粒子A2、粒子A3、粒子CA6、および粒子CA7の透過型電子顕微鏡の画像をそれぞれ、
図1~
図4に示す。
図1は粒子A2を示し、
図2は粒子A3を示し、
図3は粒子CA6を示し、
図4は粒子CA7を示す。
図1では、被覆層の部分を点線で囲んでいる。図に示すように、粒子A2および粒子A3では、被覆層の厚さのばらつきが小さく、薄い被覆層が複合酸化物粒子の表面を覆っていた。一方、粒子CA6およびCA7では、被覆層は塊状に凝集しており、層とはいえない状態であった。