(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127780
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】電波反射漁業用浮力体およびSAR画像漁具見守りシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20220825BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
G01S7/03 200
G08B25/10 C
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025968
(22)【出願日】2021-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515177653
【氏名又は名称】株式会社グリーン&ライフ・イノベーション
(71)【出願人】
【識別番号】591018877
【氏名又は名称】日東製網株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【弁理士】
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 文宏
(72)【発明者】
【氏名】細川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊之
【テーマコード(参考)】
5C087
5J070
【Fターム(参考)】
5C087BB20
5C087DD02
5C087DD03
5C087DD33
5C087EE08
5C087FF01
5C087FF04
5C087FF16
5C087GG09
5C087GG10
5C087GG14
5J070AC01
5J070AE20
5J070AF08
5J070AK40
5J070BE04
(57)【要約】
【課題】 漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持すると共にSAR衛星から検知可能な対空標識としての機能を有する電波反射漁業用浮力体を提供する。
【解決手段】 電波反射漁業用浮力体10は、漁具51や水中測定機器などの水中用機器類50を水中に保持する。電波反射漁業用浮力体10は、中空の浮力体外殻部11と、前記浮力体外殻部11の内部に、合成開口レーダ61から発信する電磁波に対して全方向性をもって再帰反射(再帰性反射)し、この再帰反射した電磁波を前記合成開口レーダ61で検知可能に形成した再帰反射部20と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持する電波反射漁業用浮力体であって、
中空の浮力体外殻部と、
前記浮力体外殻部の内部に、合成開口レーダから発信する電磁波に対して全方向性をもって再帰反射し、この再帰反射した電磁波を前記合成開口レーダで検知可能に形成した再帰反射部と、
を備えていることを特徴とする電波反射漁業用浮力体。
【請求項2】
前記浮力体外殻部の頂上付近に、当該浮力体外殻部の位置情報を生成するために備えた全地球測位システム波受信機と、
前記浮力体外殻部の底部に、海水温度を計測するよう形成した温度計測部と、
前記全地球測位システム波受信機で生成した位置情報、および前記温度計測部で計測した海水温度を含む計測データを、外部に送信するデータ送信部と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電波反射漁業用浮力体。
【請求項3】
前記再帰反射部は、前記浮力体外殻部を焦点とする全方向性の球形誘電体レンズを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電波反射漁業用浮力体。
【請求項4】
前記再帰反射部は、互いに直交する三面からなる分割コーナリフレクタの複数個を互いに隣り合うよう配列して前記電磁波に対して全方向性を有する構成であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電波反射漁業用浮力体。
【請求項5】
前記浮力体外殻部は、当該浮力体外殻部の底部に、前記水中用機器類を保持可能に形成した保持用係合部を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のうち、何れか1項に記載の電波反射漁業用浮力体。
【請求項6】
浮力体によって、漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持し、この水中用機器類の状況を監視するSAR画像漁具見守りシステムであって、
前記浮力体は、請求項1から請求項5のうち、何れか1項に記載の電波反射漁業用浮力体で形成し、
飛翔体に搭載した合成開口レーダから発信した電磁波が、前記電波反射漁業用浮力体で再帰反射し、この反射した電磁波で得られる電波反射漁業用浮力体の計測データを処理する情報処理装置を有する地上局を備え、
前記情報処理装置は、
前記合成開口レーダから得られるSAR観測データと、前記電波反射漁業用浮力体の計測データとに基づいて前記電波反射漁業用浮力体が移動した変位情報を算出する変位情報算出手段と、
前記変位情報から、前記電波反射漁業用浮力体によって保持された水中用機器類の移動による破損と漂流の少なくとも一方の危険性を示す危険予測値を算出する監視情報処理手段と、
を備えることを特徴とするSAR画像漁具見守りシステム。
【請求項7】
前記飛翔体は、合成開口レーダを搭載したSAR衛星であることを特徴とする請求項6に記載のSAR画像漁具見守りシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持するために海面に浮遊、或いは係留して配置される電波反射型の漁業用浮力体、並びに、当該電波反射型の漁業用浮力体を利用して水中用機器類の移動状態を監視する水中用機器類のSAR画像漁具見守りシステムを提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚介類の養殖や漁獲に用いる生簀、はえ縄、刺し網、定置網などの漁具は、水中に保持するために浮力体(フロートやブイなど)を用いて利用されるが、このような浮力体は海面に浮遊、若しくは海底や海岸に係留して配置され、漁具は例えばロープによって浮力体に連結して保持されている。
【0003】
特許文献1には海洋上に設置される外洋型潜降浮上式生簀に関する発明が記載されており、波浪や潮流の厳しい大水深海域でも養殖生簀の使用が可能なよう、その構造に工夫が施されている。この養殖生簀は、海面に常時浮上する浮体構造物に、生簀体が潜降浮上可能に形成されているが、この浮体構造物はいくつかの浮力ンクによって浮いた状態が保持され、海流の上流側に配置されるブイ(浮力体)により係留されるようになっている。ブイ(浮力体)は海底に設置されたアンカーに連結した係留索に繋がれている。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、沖合等において使用可能な浮沈式生簀であり、生簀用網体を具備する基本フレームが水平に浮かぶように、複数の浮力体が基本フレームに沿って設置されている。具体的には、基本フレームに沿って複数個所にワイヤ巻取機を設け、各ワイヤ巻取機に対応する水底に複数のアンカーを設置し、各ワイヤ巻取機と各アンカーとをワイヤにて接続する。各ワイヤ巻取機を正方向に同時に回転駆動し、各ワイヤを同時に巻取ることで、基本フレームは、水平状態に維持されながら、浮力体の浮力に抗して水中に沈下するようになっている。一方、各ワイヤ巻取機を逆方向に同時に回転駆動することで、基本フレームは水平状態に維持したまま浮上する。
【0005】
漁具のうち、例えば定置網のサイズは数百m(メートル)から4kmという大きさである。したがって、陸上から目視で観察することはさることながら、UAV(無人航空機)などを使用しても漁具の状況を把握することが難しい。しかも航空機による状況把握は大幅なコスト高を招く。
漁具を配置した漁場は、天候の影響を受けやすく、例えば台風等の嵐によって漁具が流出することがあるが、上記の理由で、漁具の状況を把握したり捜索することが難しい。さらに、漁具を配置した漁場は、航行する船舶から見えにくいために船舶が漁場に浸入して漁具に乗り上げたり衝突したりすることを未然に防止することが難しい。
実際に、船舶が定置網の漁場に浸入した例が数多くある。また。低気圧や台風による日本海中部海域における大型定置網の漁具被害は319件(2004~2008年)発生している。
【0006】
発明者は、上記の問題を解決するために、漁具を保持する浮力体の状況を監視して把握することに着目した。しかし、一般的に、従来の浮力体(フロート、ブイ)はマイクロ波などの電波を反射しないので識別することができない。
【0007】
これに関連する文献として、特許文献3のレーダ反射器を付けたブイが開発されている。このブイは、漁具の展張線、港内に設置する刺し網などの所在発見と航法援助装置、捜索救難装置などに使用するものである。このブイは、通気口や開口部がない無継目、且つ中空の構造を有しており、その内部に三面の立体コーナレーダ反射器を備え、この反射器は水平面上のいずれの方向からのレーダ信号も最も有効に反射するとされている。
このブイは、海上において航空機や船舶から照射されるレーダのマイクロ波を反射して、航空機や船舶による発見を容易にする技術である。
【0008】
さらに、発明者は、漁具の状況を監視するシステムという観点から、従来において種々の分野の監視システムに地球観測衛星が利用されていることに着目した。
地球観測衛星には、可視光で撮影を行う光学衛星と、マイクロ波を地表に向けて発信し、その反射波を分析する合成開口レーダ(SAR)を搭載したSAR衛星とが存在する。
【0009】
合成開口レーダは、マイクロ波を地表面に斜めに照射し、地表面から反射する後方散乱波を受信する能動型センサである。マイクロ波は雲を透過することができ、観測に太陽光を必要とせず、全天候で観測できるので夜間の観測も可能である。
【0010】
上記のような合成開口レーダの特徴を生かし、SAR衛星データは、陸上においては地滑り発生地域や森林伐採のモニタリングに利用可能であり、海洋においては海面に浮遊する海氷の分布のモニタリング、違法操業取り締まりのための船舶モニタリング、海底油田開発や廃油投棄発見のための海面油膜分布モニタリングに利用可能である。
また、近年では、地球上をいつでも、どこでも常時観測が可能な小型SAR衛星の多数機コンステレーションが実現されつつあり、時系列に沿った大量のデータが蓄積・活用可能となっている。
【0011】
上記のSAR衛星の合成開口レーダを利用した例としては、特許文献4記載の地上基準点装置がある。この地上基準点装置は、SAR衛星からのマイクロ波を効率的に反射させるためのコーナリフレクタを備えており、反射波をSAR衛星にて観測する。この地上基準点装置は、地盤の安定性や地盤の崩壊・崩落について危険性評価の確度向上に寄与する。
【0012】
特許文献5の対空標識は、大規模災害発生時に、被災者の存在や救護要求を伝える手段として、上空を通過するSAR衛星にて観測するよう構成され、この対空標識は、地表に立設される柱部と、柱部の周囲の地表に敷設される平面部とを有する。柱部及び平面部は、合成開口レーダが発信する電磁波を反射する材料からなり、柱部は平面部に垂直に立設され、SAR衛星から到来する電波を柱部の側面と平面部の上面とで反射して到来方向へ返す。柱部は柱の軸に垂直な断面形状が円、または円に比較的近い等方性を有する回転対称な形を有し、SAR衛星がいずれの方位に位置しても、到来する電波を反射可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001-321011号公報
【特許文献2】特開2014-82997号公報
【特許文献3】米国特許3806927号公報
【特許文献4】特開2018-179604号公報
【特許文献5】特開2014-48163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献3記載のブイは、海上でレーダのマイクロ波を反射させる装置として、金属板もしくは金属膜をコーティングした板を互いに直角に組み合わせたコーナリフレクタを用いている。このため、コーナリフレクタの開口面がレーダのマイクロ波の到来方向と一致した場合はレーダシステムに強い信号として記録されるが、一致しない場合は十分な反射が得られないという課題があった。
【0015】
つまり、海洋上に係留または浮遊させたブイは、波浪・風浪によって揺動するため、ブイの内部に設けたコーナリフレクタの開口面の方向は一定とならず、必ずしも前記開口面が常にレーダのマイクロ波の到来方向に向いていない。しかし、船舶や航空機のレーダは、ブイが揺動している間に、対象となるブイに対して何度もマイクロ波を発信し、前記開口面がマイクロ波の到来方向と一致した時の反射波を受信することで、実用上はブイの検出が可能となる。
【0016】
しかしながら、SAR衛星の合成開口レーダを利用して特許文献3のブイを検出することは難しい。その理由は、軌道上を上空通過するSAR衛星の合成開口時間は0.5秒から2.5秒であり、その間にコーナリフレクタの開口面がSAR衛星のマイクロ波の到来方向と一致していないと、十分な検出ができない。実際、ブイが海洋上で常に揺動している環境下では、SAR衛星から海洋上に発信されたマイクロ波をコーナリフレクタで有効に反射させることは難しい。
【0017】
特許文献4の地上基準点装置で用いられたコーナリフレクタは、特許文献3のブイと同じ理由で、海洋上で常に揺動している浮力体に利用することができない。
【0018】
特許文献5の対空標識で用いられた構造であっても、特許文献3のブイと同じ理由で、海洋上で常に揺動している浮力体に利用することができない。すなわち、SAR衛星から発信するマイクロ波の到来方向へ反射することが難しい。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持するために海面に配置され、しかも海上において飛翔体、特にSAR衛星から検知可能な対空標識としての機能を有する電波反射漁業用浮力体、および前記電波反射漁業用浮力体を用いた水中用機器類のSAR画像漁具見守りシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1記載の発明は、漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持する電波反射漁業用浮力体である。この電波反射漁業用浮力体は、中空の浮力体外殻部と、前記浮力体外殻部の内部に、合成開口レーダから発信する電磁波に対して全方向性をもって再帰反射し、この再帰反射した電磁波を前記合成開口レーダで検知可能に形成した再帰反射部と、を備えていることを特徴としている。
【0021】
請求項2記載の発明は、前記浮力体外殻部の頂上付近に、当該浮力体外殻部の位置情報を生成するために備えた全地球測位システム波受信機と、 前記浮力体外殻部の底部に、海水温度を計測するよう形成した温度計測部と、 前記全地球測位システム波受信機で生成した位置情報、および前記温度計測部で計測した海水温度を含む計測データを、外部に送信するデータ送信部と、を備えていることを特徴としている。
【0022】
請求項3記載の発明は、前記再帰反射部は、前記浮力体外殻部を焦点とする全方向性の球形誘電体レンズを備えていることを特徴としている。
【0023】
請求項4記載の発明は、前記再帰反射部は、互いに直交する三面からなる分割コーナリフレクタの複数個を互いに隣り合うよう配列して前記電磁波に対して全方向性を有する構成であることを特徴としている。
【0024】
請求項5記載の発明は、前記浮力体外殻部は、当該浮力体外殻部の底部に、前記水中用機器類を保持可能に形成した保持用係合部を備えていることを特徴としている。
【0025】
請求項6記載の発明は、漁具や水中測定機器などの水中用機器類を水中に保持し、この水中用機器類の状況を監視するSAR画像漁具見守りシステムである。
前記浮力体は、請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の電波反射漁業用浮力体で形成し、 飛翔体に搭載した合成開口レーダから発信した電磁波が、前記電波反射漁業用浮力体で再帰反射し、この反射した電磁波で得られる電波反射漁業用浮力体の計測データを処理する情報処理装置を有する地上局を備え、
前記情報処理装置は、 前記合成開口レーダから得られるSAR観測データと、前記電波反射漁業用浮力体の計測データとに基づいて前記電波反射漁業用浮力体が移動した変位情報を算出する変位情報算出手段と、 前記変位情報から、前記電波反射漁業用浮力体によって保持された水中用機器類の移動による破損と漂流の少なくとも一方の危険性を示す危険予測値を算出する監視情報処理手段と、を備えることを特徴としている。
【0026】
請求項7記載の発明は、前記飛翔体は、合成開口レーダを搭載したSAR衛星であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電波反射漁業用浮力体によれば、漁具や水中測定機器などの水中用機器類に対して水中に保持するための位置決め用フロートの機能を有する。これに加えて、合成開口レーダから発信する電磁波に対して全方向性をもって再帰反射(再帰性反射)できるので、合成開口レーダを搭載した飛翔体の軌道に左右されない。また、電波反射漁業用浮力体が海面の波浪や風浪で揺動しても、合成開口レーダで検知可能であるので、海上において飛翔体の特にSAR衛星から検知可能な対空標識としての機能を有する。
【0028】
また、全地球測位システム波受信機、温度計測部、計測データを外部に送信するデータ送信部を搭載することで、物標の乏しい海洋において飛翔体の特にSAR衛星の観測データを活用して精密幾何補正に必要な基準点として利用できる。
【0029】
また、再帰反射部が全方向性の球形誘電体レンズである場合、合成開口レーダから発信した電磁波は、浮力体外殻部を経て球形誘電体レンズを屈折して通過し、浮力体外殻部の焦点で再帰反射できる。再帰反射した電磁波は球形誘電体レンズおよび浮力体外殻部を透過して戻って行くことから、合成開口レーダで検知できる。
【0030】
また、再帰反射部が複数の分割コーナリフレクタで全方向性を有する場合、合成開口レーダから発信した電磁波は、浮力体外殻部を経ていずれか一つの分割コーナリフレクタで再帰反射できる。再帰反射した電磁波は浮力体外殻部を透過して戻って行き、合成開口レーダで検知できる。
【0031】
本発明の水中用機器類のSAR画像漁具見守りシステムによれば、電波反射漁業用浮力体の種々の情報を、飛翔体の特に上空を通過するSAR衛星によってリアルタイムに得ることができ、海上で利用可能な水中用機器類の対空標識を実現できる。その結果、例えば水中用機器類が漁具である場合、台風などの災害時に漁具が流出した際の捜索発見や、漁業権行使状況の広域一括把握、船舶による漁場への乗り上げや衝突防止など、幅広い分野に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る電波反射漁業用浮力体を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る電波反射漁業用浮力体の他の例を示す断面図である。
【
図3】電波反射漁業用浮力体を利用して漁具を監視する状況を示す斜視図である。
【
図4】電波反射漁業用浮力体の別の例を示す斜視図である。
【
図5】水中用機器類のSAR画像漁具見守りシステムの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)について添付図面を参照して説明する。
本実施形態の電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)10は、漁具51や水中測定機器などの水中用機器類50を水中に保持するためのフロートやブイなどの浮力体である。漁具51としては、生簀、はえ縄、刺し網、定置網などがある。水中測定機器としては、魚群探知機、水深測定機、その他の各種測定用の機器がある。
なお、「水中用機器類」とは、本実施形態では漁具51や水中測定機器などのように、水中・海中に沈めた状態で種々の作業を実施するための機械、器具、機具、およびこれに類する物を示している。
【0034】
電波反射漁業用浮力体10は、本実施形態では
図1に示すように、ほぼ球形の中空の浮力体外殻部11であるが、球形に限定されず種々の外形形状でよい。浮力体外殻部11は、水密構造で耐圧性のある樹脂製外殻である。本実施形態では高密度ポリエチレン(HDPE)などの樹脂材料で形成されているが、樹脂以外の他の材質であってもよく、特に限定されない。
【0035】
また、浮力体外殻部11は、その底部の外側に、水中用機器類50をロープ52などで保持するための保持用係合部12が形成されている。保持用係合部12としては、例えば、浮力体外殻部11の底部付近に複数の板状突起を突出させて、この板状突起にロープ52を係合させるための係合孔12aを形成している。なお、保持用係合部12の外形形状や大きさなどの形態は、特に限定されない。
【0036】
さらに、電波反射漁業用浮力体10には、その浮力体外殻部11の内部に再帰反射部20が形成されている。この再帰反射部20は、例えば
図3に示すように、SAR衛星60に搭載した合成開口レーダ61(SAR)から発信されるマイクロ波62(電磁波)に対して全方向性をもって再帰反射(再帰性反射)するようになっている。つまり、電波反射漁業用浮力体10が海面の波浪や風浪などで揺動したとしても、前記のマイクロ波62に対し確実に再帰反射(再帰性反射)することができ、この再帰反射したマイクロ波62aを合成開口レーダ61で検知することが可能になっている。
【0037】
再帰反射部20としては例えば、浮力体外殻部11を焦点Fとする全方向性の球形誘電体レンズ21とすることができる。球形誘電体レンズ21は、比誘電率の異なる素材の多層構造で形成することができる。あるいは、球体の外周から中心部に向かって樹脂等、単一誘電率の粗密構造を連続的、段階的に変化させることで実現することができる。
【0038】
したがって、例えば
図3に示すように、SAR衛星60に搭載した合成開口レーダ61から発信したマイクロ波62は、
図1に示される浮力体外殻部11を透過してから再帰反射部20である球形誘電体レンズ21を通過する。この時、マイクロ波62が球形誘電体レンズ21で複数回の屈折を経て浮力体外殻部11の焦点Fに到達し、この焦点Fで再帰反射(再帰性反射)する。マイクロ波62は到来方向と平行な焦点Fを通過する線を中心として対称的に反射する。この再帰反射したマイクロ波62aは、
図1の点線で示すように球形誘電体レンズ21で複数回の屈折を経て、浮力体外殻部11を透過して戻って行き、
図3の点線で示すように合成開口レーダ61で検知される。
【0039】
マイクロ波62が浮力体外殻部11の頂点から入射した場合は、
図1に示すように球形誘電体レンズ21で屈折することなく、浮力体外殻部11の焦点Fに到達する。この焦点Fで再帰反射したマイクロ波62aは入射した軌跡を戻っていくことになる。
【0040】
以上のように、電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)10は、海面の波浪や風浪などで揺動しても、マイクロ波62に対して全方向性をもっているので確実に再帰反射させることができ、再帰反射したマイクロ波62aを合成開口レーダ61で検知することが可能となる。
【0041】
他の実施形態の再帰反射部20aとしては、互いに直交する三面22a,22b,22cからなる分割コーナリフレクタの複数個22,・・・,22を互いに隣り合うよう配列してマイクロ波62に対して全方向性を有する構成とすることができる。
詳しく説明すると、例えば
図2に示すように、分割コーナリフレクタ22は、互いに直交する三面22a,22b,22cで三角錐形状のへこみが形成されている。複数の分割コーナリフレクタ22,・・・,22は、例えば球体形状の全表面にわたって互いに隣り合って配列され、各へこみの三角錐の頂点Vが球体形状の中心に向かっている状態で配列されている。
【0042】
したがって、例えば、
図3に示すSAR衛星60に搭載した合成開口レーダ61から発信されたマイクロ波62は、
図2に示される浮力体外殻部11を透過してから、いずれか一つの分割コーナリフレクタ22の一面22aに到達して反射する。次いで他の面22b,22cに連続して反射してから再帰反射したマイクロ波62aが、浮力体外殻部11を透過して戻って行き、
図3に示すように合成開口レーダ61で検知される。
【0043】
さらに加えて、本実施形態の電波反射漁業用浮力体10は、
図4に示すように浮力体外殻部11の頂上付近に、全地球測位システム(GNSS)波受信機13を備えている。全地球測位システム波受信機13は浮力体外殻部11の位置情報を生成することを目的としている。
さらに、電波反射漁業用浮力体10には、
図4に示すように浮力体外殻部11の底部に、海水温度を計測する温度計測部14が設けられている。
【0044】
加えて、電波反射漁業用浮力体10は、
図4に示すように当該浮力体10において計測した計測データを外部に送信するデータ送信部15が備えられている。計測データには、全地球測位システム波受信機13で生成した位置情報、温度計測部14で計測した海水温度、その他の種々の測定機器の計測データを含むものである。データ送信部15では、例えば、魚群探知機、水深測定機などの水中測定機器から得た計測データを外部に送信することも可能である。
【0045】
以上のように、本実施形態の電波反射漁業用浮力体10は、魚介類等の養殖に用いる生簀の浮力体としての機能、又、はえ縄漁具51、刺し網、定置網などの漁具51に対して水中に保持するための位置決め用フロートとしての機能を有する。
さらに加えて、電波反射漁業用浮力体10は、SAR衛星60の合成開口レーダ61から発信されるマイクロ波62に対し、全方向性をもって再帰反射(再帰性反射)させることができるので、飛翔体、特にSAR衛星60の軌道を考慮せずに設置することができる。また、電波反射漁業用浮力体10が海面の波浪や風浪で揺動しても、SAR衛星60の合成開口レーダ61で検知可能であるので、海上において飛翔体、特にSAR衛星60から検知可能な対空標識としての機能を有する。
【0046】
次に、本発明の実施形態に係るSAR画像漁具見守りシステムについて図面を参照して説明する。
SAR画像漁具見守りシステム30は、本実施形態の電波反射漁業用浮力体10によって、漁具51や水中測定機器などの水中用機器類50を水中に保持し、この水中用機器類50の状況を監視するシステムである。なお、水中用機器類50としては、本実施形態では漁具51を例にとって説明する。
【0047】
このSAR画像漁具見守りシステム30は、
図3および
図5に示すように飛翔体に搭載した合成開口レーダ61から発信するマイクロ波62を用いる。飛翔体としては、本実施形態ではSAR衛星60を用いているが、これに限定されず、他の航空機でもよい。
【0048】
SAR衛星60の合成開口レーダ61から発信したマイクロ波62は、電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)10で再帰反射し、この反射したマイクロ波62aで得られる電波反射漁業用浮力体10の計測データや種々の情報は、SAR衛星60の送信手段によってリアルタイムに地上局31の情報処理装置32に送信される。
電波反射漁業用浮力体10の計測データとしては、例えば全地球測位システム(GNSS)による位置情報、海水温度の計測データなどがある。
【0049】
地上局31には、電波反射漁業用浮力体10の計測データを処理して漁具51の状況を監視するための情報処理装置32が設けられている。
情報処理装置32は、電波反射漁業用浮力体10が移動した変位情報を算出する変位情報算出手段33、変位情報から漁具51の破損や漂流の危険性を予測するための監視情報処理手段34を備えている。
さらに、電波反射漁業用浮力体10の位置情報、海象海況データ、その他の情報や計測データが、蓄積データ36として記憶装置35に記憶される。
【0050】
変位情報算出手段33は、合成開口レーダ61から得られるSAR観測データ37と、電波反射漁業用浮力体10の計測データとに基づいて電波反射漁業用浮力体10の変位情報を算出する。
この変位情報は、蓄積データ36から過去の日付のGNSSによる位置情報と、リアルタイムで得た電波反射漁業用浮力体10の位置情報とを比較することで、変化した位置を計算することができる。この変位情報は電波反射漁業用浮力体10によって保持された漁具51の変位情報となる。
【0051】
監視情報処理手段34は、変位情報算出手段33で算出した変位情報、蓄積データ36から、過去の海象海況データによる海象海況の予測情報、SAR観測データ37によるリアルタイムな海象海況などに基づいて、漁具51の移動による破損と漂流の少なくとも一方の危険性を示す危険予測値を算出する。
なお、漁具51の敷設状況の情報や、漁具51の破損や漂流の危険予測情報は、ユーザへ「漁具監視情報」として提供することができる。
【0052】
以上のことから、飛翔体、特に上空を通過するSAR衛星60によってリアルタイムで得られる電波反射漁業用浮力体10に関する種々の情報は、海中で利用される水中用機器類50などの対空標識として活用することが可能となる。その結果、このSAR画像漁具見守りシステム30を用いた衛星データの利用拡大が見込まれる。
例えば、前述のように、電波反射漁業用浮力体10に漁具51を取り付けた場合、台風などの災害時に漁具51が流出した際の捜索発見や、漁業権行使状況の広域的な一括把握、船舶の漁場への侵入防止や衝突防止など、幅広い分野に活用することが可能となる。
【0053】
さらに、電波反射漁業用浮力体10において、全地球測位システム(GNSS)波受信機13や、計測データを外部に送信するデータ送信部15を搭載することで、物標の乏しい海洋において、SAR衛星60の観測データを活用して精密幾何補正に必要な基準点として利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、浮力体を含む漁具や、水中測定機器などの水中用機器類の製造および販売の関連事業、海洋環境保全分野、漁業資源管理分野、海上交通安全分野、衛星データの利用拡大など、幅広い分野において、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0055】
10 電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)
11 浮力体外殻部
12 保持用係合部 12a 係合孔
13 全地球測位システム波受信機 14 温度計測部
15 データ送信部
20,20a 再帰反射部 21 球形誘電体レンズ
22 分割コーナリフレクタ 22a,22b,22c 三面
30 SAR画像漁具見守りシステム
31 地上局
32 情報処理装置 33 変位情報算出手段
34 監視情報処理手段 35 記憶装置
36 蓄積データ 37 SAR観測データ
50 水中用機器類 51 漁具
52 ロープ
60 SAR衛星 61 合成開口レーダ
62,62a マイクロ波
F 焦点
【手続補正書】
【提出日】2022-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁具や水中用機器類を水中に保持する電波反射漁業用浮力体であって、
水に対し浮力を備え、球形で、中空の浮力体外殻部を有し、
該浮力体外殻部の内部には、電磁波が照射された際に、該電磁波は該浮力体外殻部を透過した後、該電磁波を再帰反射させる再帰反射部が形成され、該再帰反射部は球形誘電体レンズであるとともに、
前記浮力体外殻部及び再帰反射部は、一部が水中に没している一方、その他の部分は水上に突出した状態で浮遊していることを特徴とする電波反射漁業用浮力体。
【請求項2】
前記浮力体外殻部は、位置情報を生成する全地球測位システム波受信機、海水温度を計測する温度計測部、水中用測定機器から得られた計測データを外部に送信するデータ送信部を具備していることを特徴とする請求項1に記載の電波反射漁業用浮力体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記電波反射漁業用浮力体によって、漁具や水中用機器類を水中に保持し、飛翔体に搭載された合成開口レーダにより、水中用機器類の状況を監視するSAR画像漁具見守りシステムであって、
前記電波反射漁業用浮力体の前記データ送信部から送信される計測データを処理する情報処理装置を有する地上局を備え、
前記情報処理装置は、
飛翔体に搭載された前記合成開口レーダから得られるSAR観測データと、前記電波反射漁業用浮力体の計測データとに基づいて前記電波反射漁業用浮力体が移動した変位情報を算出する変位情報算出手段と、
前記変位情報から、前記電波反射漁業用浮力体によって保持された水中用機器類の移動による破損と漂流の少なくとも一方の危険性を示す危険予測値を算出する監視情報処理手段と、
を備えることを特徴とするSAR画像漁具見守りシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
請求項1記載の発明は、漁具(51)や水中用機器類(50)を水中に保持する電波反射漁業用浮力体(10)であって、
水に対し浮力を備え、球形で、中空の浮力体外殻部(11)を有し、該浮力体外殻部(11)の内部には、電磁波が照射された際に、該電磁波は該浮力体外殻部(11)を透過した後、該電磁波を再帰反射させる再帰反射部(20)が形成され、該再帰反射部(20)は球形誘電体レンズ(21)であるとともに、
前記浮力体外殻部(11)及び再帰反射部(20)は、一部が水中に没している一方、その他の部分は水上に突出した状態で浮遊していることを特徴としている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記浮力体外殻部(11)は、位置情報を生成する全地球測位システム波受信機(13)、海水温度を計測する温度計測部(14)、水中用測定機器から得られた計測データを外部に送信するデータ送信部(15)を具備していることを特徴としている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
請求項3記載の発明は、上記1項又は2項に記載の前記電波反射漁業用浮力体(10)によって、漁具や水中用機器類を水中に保持し、飛翔体に搭載された合成開口レーダ(61)により、水中用機器類の状況を監視するSAR画像漁具見守りシステム(30)である。
前記電波反射漁業用浮力体(10)の前記データ送信部(15)から送信される計測データを処理する情報処理装置(32)を有する地上局(31)を備え、
前記情報処理装置(32)は、飛翔体に搭載された前記合成開口レーダ(61)から得られるSAR観測データ(37)と、前記電波反射漁業用浮力体(10)の計測データとに基づいて前記電波反射漁業用浮力体(10)が移動した変位情報を算出する変位情報算出手段(33)と、前記変位情報から、前記電波反射漁業用浮力体(10)によって保持された水中用機器類の移動による破損と漂流の少なくとも一方の危険性を示す危険予測値を算出する監視情報処理手段(34)と、を備えることを特徴としている。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
SAR衛星60の合成開口レーダ61から発信したマイクロ波62は、電波反射漁業用浮力体(電波反射型の浮力体)10で再帰反射される一方、電波反射漁業用浮力体10に設けられているデータ送信部15は、全地球測位システム波受信機13で生成した位置情報、温度計測部14で計測した海水温度、その他の種々の測定機器の計測データを外部に送信することも可能である。これらのうち、再帰反射したマイクロ波62aで得られる電波反射漁業用浮力体10のデータはSAR衛星60の送信手段によってリアルタイムに地上局31の情報処理装置32に送信される。