(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127785
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】メタン発酵ガスの処理方法、およびバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/62 20060101AFI20220825BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20220825BHJP
C10L 3/10 20060101ALI20220825BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220825BHJP
【FI】
B01D53/62
C04B7/38
C10L3/10 ZAB
B09B3/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025973
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊吉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】田村 和樹
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AA40
4D002AB01
4D002BA03
4D002CA07
4D002CA09
4D002DA05
4D002DA66
4D002EA06
4D002FA02
4D002FA10
4D002GA01
4D002GA03
4D002GB08
4D002GB12
4D004AA16
4D004BA02
4D004CA22
(57)【要約】
【課題】メタン発酵ガスを有効に資源利用して、CO
2の環境中への排出も抑えることができる、メタン発酵ガスの処理方法等を提供する。
【解決手段】バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムは、メタン発酵装置10と、ガス接触処理装置11と、セメントクリンカ焼成装置12と、を備えている。メタン発酵装置10は、バイオマス原料M0が投入され、当該バイオマス原料M0をメタン発酵させてメタン発酵ガスG1(1次メタン発酵ガス)を生成するように構成されている。ガス接触処理装置11は、メタン発酵装置10で生成されたメタン発酵ガスG1と、ケイ酸カルシウム含有材料M1(1次ケイ酸カルシウム含有材料)と、を乾式で接触させるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に接触させ、メタン発酵ガス中の二酸化炭素濃度を低減させるガス接触工程を含むメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項2】
前記ガス接触工程は、メタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に乾式で接触させる工程を含む請求項1または2記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項3】
前記ケイ酸カルシウム含有材料は、その含水率が15質量%以上60質量%以下である、請求項1記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項4】
前記ガス接触工程は、メタン発酵ガスを前記ケイ酸カルシウム含有材料に接触させる1次ガス接触工程と、前記1次ガス接触工程において前記ケイ酸カルシウム含有材料と接触させた後のメタン発酵ガスを、前記メタン発酵ガスと接触させる前のケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより当該メタン発酵ガスの水分を低減させる2次ガス接触工程と、を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項5】
前記ケイ酸カルシウム含有材料を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程後の処理物を粒度により分級する分級工程と、をさらに含み、
前記分級工程により得られた前記ケイ酸カルシウム含有材料の粗粒を、前記ケイ酸カルシウム含有材料として前記メタン発酵ガスとの接触に用いる、請求項1~4のうちいずれか1項に記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項6】
前記分級工程により得られた前記ケイ酸カルシウム含有材料の細粒を、セメントクリンカ原料として資源化する、請求項5記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項7】
前記メタン発酵ガスとの接触によって当該メタン発酵ガス中の二酸化炭素濃度を低減させた後の前記ケイ酸カルシウム含有材料を、セメント混合材として資源化する工程を含む請求項1~6のうちいずれか1項に記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項8】
前記ケイ酸カルシウム含有材料は、生コンスラッジおよび/または軽量気泡コンクリートである、請求項1~7のうちいずれか1項に記載のメタン発酵ガスの処理方法。
【請求項9】
バイオマス原料を投入してメタン発酵させるためのメタン発酵装置と、
セメントクリンカ原料を投入してセメントクリンカを焼成するためのセメントクリンカ焼成装置と、
前記メタン発酵装置で生成したメタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に接触させるためのガス接触処理装置と、を備え、
前記ガス接触処理装置で処理した後の前記メタン発酵ガスを、前記セメントクリンカ焼成装置の燃料に用いるように構成されている、バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項10】
前記ガス接触処理装置は、該装置に導入された前記ケイ酸カルシウム含有材料に水分を供給する水分供給装置をさらに備える、請求項9記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項11】
前記ケイ酸カルシウム含有材料を乾燥するための乾燥装置を、さらに備え、前記乾燥装置により乾燥された前記ケイ酸カルシウム含有材料の乾燥処理物を、前記ガス接触処理装置に導入して前記メタン発酵ガスとの接触に用いるように構成されている、請求項8または9に記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項12】
前記ガス接触処理装置は、
メタン発酵ガスを前記ケイ酸カルシウム含有材料に接触させる1次ガス接触処理装置と、
前記1次ガス接触処理装置において前記ケイ酸カルシウム含有材料と接触させた後のメタン発酵ガスを、前記メタン発酵ガスと接触させる前のケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより当該メタン発酵ガスの水分を低減させる2次ガス接触処理装置と、を備えている請求項8~10のうちいずれか1項に記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項13】
前記ケイ酸カルシウム含有材料を粉砕するための粉砕装置と、
前記粉砕装置による粉砕処理物を粒度により分級するための分級装置と、をさらに備え、
前記ケイ酸カルシウム含有材料の粗粒を前記ガス接触処理装置に導入して、前記ケイ酸カルシウム含有材料として前記メタン発酵ガスとの乾式接触に用いるように構成されている、請求項9~12のいずれか1項に記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項14】
前記ケイ酸カルシウム含有材料の細粒を前記セメントクリンカ焼成装置に導入して、前記セメントクリンカ原料として前記セメントクリンカの焼成に用いるように構成されている、請求項13記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項15】
前記メタン発酵ガスに接触させた後のケイ酸カルシウム含有材料を新たなメタン発酵ガスに接触させるための該ケイ酸カルシウム含有材料として再利用するように前記ガス接触処理装置に循環する経路を備えている請求項9~14のいずれか1項に記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【請求項16】
前記メタン発酵ガスに接触させた後の前記ケイ酸カルシウム含有材料をセメント混合材として、前記セメントクリンカ焼成装置により生成したセメントクリンカに添加するように構成されている、請求項9~15のいずれか一項に記載のバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵ガスの処理方法、並びに、バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵は各種の有機性廃棄物を原料としてバイオガスを生み出す技術である。メタン発酵ガス中に含まれるメタン濃度は約6割であり、そのほかは約4割の二酸化炭素に加え、硫化水素、水分も含まれている。バイオガスを、例えば発電施設に供して発電エネルギーに利用する場合には、有毒で金属腐食の原因にもなる硫化水素の除去が必須であり、また効率的な発電のためには、一定量の二酸化炭素(以下「CO2」という場合がある。)を除去することで、メタン濃度に高めることも必要となる。
【0003】
このような問題に関連して、例えば、特許文献1には、バイオガスを中空チューブ状の分離膜に供給し、該中空チューブ状分離膜の膜にバイオガス中の炭酸ガスを選択的に透過させて分離し、メタン発酵ガスを回収する方法が開示されている。
【0004】
一方、CO2の固定化技術に関連して、例えば、特許文献2には、珪酸カルシウムおよび珪酸マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む粉末を水に懸濁させ、懸濁水にCO2またはCO2含有ガスを吹き込み流動状態で反応させることでCO2を固定化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-23211号公報
【特許文献2】特開平10-249153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、バイオガスから除いたCO2が環境中に放散してしまうという問題があった。一方、特許文献2では、懸濁水にCO2またはCO2含有ガスを吹き込む方法であるので、使用後に残る廃水の処理の問題があった。
【0007】
本発明の目的は、メタン発酵ガスを有効に資源利用して、CO2の環境中への排出も抑えることができる、メタン発酵ガスの処理方法を提供することにある。また、別の観点では、メタン発酵ガスを有効に資源利用して、CO2の環境中への排出も抑えることができる、バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、その第1の観点では、メタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に接触させ、メタン発酵ガス中の二酸化炭素濃度を低減させるガス接触工程を含むメタン発酵ガスの処理方法を提供する。
【0009】
本発明に係るメタン発酵ガスの処理方法によれば、メタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより、そのケイ酸カルシウム含有材料にメタン発酵ガス中に含まれるCO2を固定化することができる。これにより、メタン発酵ガス中のメタン濃度を相対的に増加させることができ、エネルギー効率の良い燃料となすことができる。それとともに、CO2の環境中への排出も抑えることができる。処理して得られたメタン発酵ガスは、例えばセメント製造設備における焼成キルン窯前の仮焼炉用バーナーおよび/または窯尻のメインバーナーに他の燃料とともに供給するようにして、セメント製造時の熱エネルギー源などとして利用することができる。
【0010】
前記メタン発酵ガスの処理方法において、前記ガス接触工程は、メタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に乾式で接触させる工程を含んでいてもよい。これによれば、メタン発酵ガス中に含まれるCO2をより効率的に固定化することができる。また、ガス接触工程を乾式で行うので、使用後に残る廃水の処理の煩わしさがない。
上記メタン発酵ガスの処理方法においては、前記ケイ酸カルシウム含有材料は、その含水率が15質量%以上60質量%以下であってもよい。これによれば、特定の含水率のケイ酸カルシウム含有材料を用いることにより、メタン発酵ガス中に含まれるCO2をより効率的に固定化することができる。
【0011】
前記メタン発酵ガスの処理方法において、前記ガス接触工程は、メタン発酵ガスを前記ケイ酸カルシウム含有材料に接触させる1次ガス接触工程と、前記1次ガス接触工程において前記ケイ酸カルシウム含有材料と接触させた後のメタン発酵ガスを、前記メタン発酵ガスと接触させる前のケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより当該メタン発酵ガスの水分を低減させる2次ガス接触工程と、を含んでいてもよい。
【0012】
メタン発酵ガスはすでに多くの水分を有しており、ガス接触処理装置において接触するケイ酸カルシウム含有材料もいくらか含水しているため、接触処理装置で接触した後のメタン発酵ガスも多くの水分を有している。そこで、メタン発酵ガスのCO2低減に用いるケイ酸カルシウム含有材料は水分吸着能を有するので、これをさらに活用してメタン発酵ガスの水分を除去してエネルギー効率の良い燃料とすることができる。メタン発酵ガスの水分除去に用いるケイ酸カルシウム含有材料は、吸湿するように事前にケイ酸カルシウム含有材料を乾燥し、あるいは、乾燥したケイ酸カルシウム含有材料を選択すればよい。
【0013】
前記メタン発酵ガスの処理方法において、前記ケイ酸カルシウム含有材料を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の処理物を粒度により分級する分級工程と、をさらに含み、前記分級工程により得られた前記ケイ酸カルシウム含有材料の粗粒を、前記ケイ酸カルシウム含有材料として前記メタン発酵ガスとの接触に用いるようにしてもよい。これによれば、ケイ酸カルシウム含有材料を粉砕することで表面積が大きくなり、CO2の固定化効率が高められるとともに、粉砕後に分級して粗粒分を用いるので、細粒分による配管等への目詰まりや固結等のおそれがない。
【0014】
前記メタン発酵ガスの処理方法においては、前記粉砕工程と前記分級工程を有する場合に、前記分級工程により得られた前記ケイ酸カルシウム含有材料の細粒を、セメントクリンカ原料として資源化してもよい。これによれば、ケイ酸カルシウム含有材料として廃材等を利用した場合、前記粉砕工程および前記分級工程を経て得られた細粒分には、廃材等に含まれる骨材分の混入が少ないので、粗粒分に比べて、カルシウムを多く含む一方、アルカリ金属が少なくなる。よって、セメントクリンカ原料として利用しやすく、また、CO2の含有量も石灰石より少ないので、セメント製造におけるCO2発生量を抑制することができる。
【0015】
前記メタン発酵ガスの処理方法において、前記メタン発酵ガスに接触させた後のケイ酸カルシウム含有材料を、セメント混合材として資源化するようにしてもよい。これによれば、ケイ酸カルシウム含有材料に固定化したCO2を環境中に放出せずに、セメント原料にして処理することができる。これによれば、ケイ酸カルシウム含有材料に固定化したCO2を環境中に放出せずに、セメント混合材にして処理することができる。
【0016】
前記メタン発酵ガスの処理方法において、前記ケイ酸カルシウム含有材料は、生コンスラッジおよび/または軽量気泡コンクリートであってもよい。これによれば、これらは、廃コンクリートと異なり骨材分がないか少なく、カルシウムを多く含むので、より多くのCO2を固定化することができる。また、粗粒分を用いた場合は、内部までCO2の固定化が飽和していないケイ酸カルシウム含有材料が排出されるので、これを回収し、再度メタン発酵ガスの処理に利用することができる。さらに、最終的に排出される使用済みのケイ酸カルシウム含有材料のほとんどを、セメント混合材等として資源化することができる。
【0017】
一方、本発明は、その第2の観点では、バイオマス原料を投入してメタン発酵させるためのメタン発酵装置と、セメントクリンカ原料を投入してセメントクリンカを焼成するためのセメントクリンカ焼成装置と、前記メタン発酵装置で生成したメタン発酵ガスをケイ酸カルシウム含有材料に接触させるためのガス接触処理装置と、を備え、前記ガス接触処理装置で処理した後の前記メタン発酵ガスを、前記セメントクリンカ焼成装置の燃料に用いるように構成されている、バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムを提供するものである。
【0018】
本発明に係るバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムによれば、メタン発酵装置で生成したメタン発酵ガスを、ガス接触処理装置でケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより、そのケイ酸カルシウム含有材料にメタン発酵ガス中に含まれるCO2を固定化することができる。メタン発酵ガス中のメタン濃度を相対的に増加させることができ、エネルギー効率の良い燃料となすことができる。それとともに、CO2の環境中への排出も抑えることができる。また、処理を乾式で行えば、使用後に残る廃水の処理の煩わしさがない。さらに、CO2の固定化の処理をして得られたメタン発酵ガスを、セメントクリンカ焼成装置の燃料に用いるようにしたので、効率的なエネルギー利用が可能となる。
【0019】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記ガス接触処理装置は、該装置に導入された前記ケイ酸カルシウム含有材料に水分を供給する水分供給装置をさらに備えていてもよい。
【0020】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、より効率的なCO2固定化のためには、ケイ酸カルシウム含有材料が特定範囲の含水率であることが望ましいところ、水分供給装置により水分調整が容易となる。
【0021】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記ケイ酸カルシウム含有材料を乾燥するための乾燥装置を、さらに備え、前記乾燥装置により乾燥された前記ケイ酸カルシウム含有材料の乾燥処理物を、前記ガス接触処理装置に導入して前記メタン発酵ガスとの乾式接触に用いるように構成されていてもよい。
【0022】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、乾燥装置でケイ酸カルシウム含有材料の含水率を一旦低下させることにより、メタン発酵ガスの水分を除去したり、その後に適度な水分を供給することができ、より効率的なCO2固定化のための含水率であるケイ酸カルシウム含有材料に調整することができる。
【0023】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記ガス接触処理装置は、メタン発酵ガスを前記ケイ酸カルシウム含有材料に接触させる1次ガス接触処理装置と、前記1次ガス接触処理装置において前記ケイ酸カルシウム含有材料と接触させた後のメタン発酵ガスを、前記メタン発酵ガスと接触させる前のケイ酸カルシウム含有材料に接触させることにより当該メタン発酵ガスの水分を低減させる2次ガス接触処理装置と、を備えていてもよい。
【0024】
メタン発酵ガスはすでに多くの水分を有しており、ガス接触処理装置において接触するケイ酸カルシウム含有材料もいくらか含水しているため、接触処理装置で接触した後のメタン発酵ガスも多くの水分を有している。そこで、メタン発酵ガスのCO2低減に用いるケイ酸カルシウム含有材料は水分吸着能を有するので、これをさらに活用してメタン発酵ガスの水分を除去してエネルギー効率の良い燃料とすることができる。メタン発酵ガスの水分除去に用いるケイ酸カルシウム含有材料は、吸湿するように事前にケイ酸カルシウム含有材料を乾燥し、あるいは、乾燥したケイ酸カルシウム含有材料を選択すればよい。
【0025】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記ケイ酸カルシウム含有材料を粉砕するための粉砕装置と、前記粉砕装置による粉砕処理物を粒度により分級するための分級装置と、をさらに備え、前記ケイ酸カルシウム含有材料の粗粒を前記ガス接触処理装置に導入して、前記ケイ酸カルシウム含有材料として前記メタン発酵ガスとの接触に用いるように構成されていてもよい。
【0026】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、粉砕後に分級装置で分級して粗粒分を用いるので、細粒分による配管等への目詰まりや固結等のおそれがない。
【0027】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記ケイ酸カルシウム含有材料の細粒を前記セメントクリンカ焼成装置に導入して、前記セメントクリンカ原料として前記セメントクリンカの焼成に用いるように構成されていてもよい。
【0028】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、ケイ酸カルシウム含有材料として廃材等を利用した場合、前記粉砕装置および前記分級装置を経て得られた細粒分には、廃材等に含まれる骨材分の混入が少ないので、粗粒分に比べて、カルシウムを多く含む一方、アルカリ金属が少なくなる。よって、セメントクリンカ原料として利用しやすく、また、CO2の含有量も石灰石より少ないので、セメント製造におけるCO2発生量を抑制することができる。
【0029】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記メタン発酵ガスに接触させた後のケイ酸カルシウム含有材料を新たなメタン発酵ガスに接触させるための該ケイ酸カルシウム含有材料として再利用するように前記ガス接触処理装置に循環する経路を備えていてもよい。
【0030】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、CO2の固定化が飽和していないケイ酸カルシウム含有材料を、更なるCO2の固定化のために有効活用することができる。特に生コンスラッジおよび/または軽量気泡コンクリートであれば、CO2の固定化が飽和するまで循環し、より細粒になったものとしてセメント混合材として利用しやすくなる。
【0031】
前記バイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムにおいて、前記メタン発酵ガスに接触させた後の前記ケイ酸カルシウム含有材料をセメント混合材として、前記セメントクリンカ焼成装置により生成したセメントクリンカに添加するように構成されていてもよい。
【0032】
当該構成のハイブリッドシステムによれば、メタン発酵ガスの処理に使用した後に残るケイ酸カルシウム含有材料を有効に資源化することができる。また、セメントクリンカに添加することにより、固定化したCO2を環境中に放散させずに、セメント原料にして処理することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るメタン発酵ガスの処理方法によれば、メタン発酵ガス中に含まれるCO2を有効に固定化して、エネルギー効率の良い燃料となすことができるとともに、CO2の環境中への排出も抑えることができる。
【0034】
また、本発明に係るバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムによれば、バイオマス処理により生成させたメタン発酵ガス中に含まれるCO2を有効に固定化して、エネルギー効率の良い燃料となすことができるとともに、CO2の環境中への排出も抑えることができる。また、処理して得られたメタン発酵ガスを、セメントクリンカ焼成の燃料に用いるようにしたので、効率的なエネルギー利用が可能となる。さらに廃棄物であるケイ酸カルシウム含有材料をCO2の固定化材として有効に活用しつつ、路盤材やセメント原料として資源化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施形態としてのハイブリッドシステムの構成説明図。
【
図2A】ケイ酸カルシウム含有材料に対するメタン発酵ガスの接触様式の第1実施形態に関する説明図。
【
図2B】ケイ酸カルシウム含有材料に対するメタン発酵ガスの接触様式の第2実施形態に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1に示されている本発明の第1実施形態としてのバイオマス処理およびセメント製造のハイブリッドシステムは、メタン発酵装置10と、ガス接触処理装置11と、セメントクリンカ焼成装置12と、微細藻の培養装置16と、を備えている。
【0037】
メタン発酵装置10は、バイオマス原料M0が投入され、当該バイオマス原料M0をメタン発酵させてメタン発酵ガスG1(1次メタン発酵ガス)を生成するように構成されている。バイオマス原料M0の残渣Rが、固液分離器13により固体残渣R1および液体残渣R2に分離される。固体残渣R1が、燃料としてセメントクリンカ装置12に供給されてもよい。液体残渣R2が、微細藻の培養装置16に対して供給されてもよい。
【0038】
ガス接触処理装置11は、メタン発酵装置10で生成されたメタン発酵ガスG1と、ケイ酸カルシウム含有材料M1(1次ケイ酸カルシウム含有材料)と、を接触させるように構成されている。メタン発酵ガスG1と、ケイ酸カルシウム含有材料M1が接触する方法であれば、湿式方式や乾式方式は問わないが、乾式方式が好ましい。「乾式」とは、処理に供するケイ酸カルシウム含有材料M1が処理前後で粉体状、粉粒状、粒状等の固体物としての取り扱いが可能である形態を保つ条件であることをいい、あるいは、例えば、液体状、泥状、ペースト状、表面湿潤状等の形態とならない条件であることをいう。ケイ酸カルシウム含有材料M1からしみ出す水処理が不要で、ケイ酸カルシウム含有材料M1の表面が濡れていたり、団粒化(大径化)して、メタン発酵ガスG1との接触量が減少したり、水分による配管等の目詰まりおよび/または固結のおそれがないような条件であることが望ましい。
【0039】
接触の様式としては、例えば、ケイ酸カルシウム含有材料M1を充填容器にカラム状に充填して、形成された充填空隙にメタン発酵ガスG1を通す様式のほか、粒状物および/または半固形物等を乾燥するために利用されている回転式乾燥機(ロータリードライヤー)、などを利用して、その回転槽にケイ酸カルシウム含有材料M1が導入され、乾燥のための雰囲気の替わりにメタン発酵ガスG1が導入される様式が採用されてもよい。そのほか、例えば、粒状物によるガス処理装置、雰囲気調整キルンなどの他の様式が採用されてもよい。温度条件は、室温でもよく、例えば、5℃~300℃の範囲であれば問題ない。ケイ酸カルシウム含有材料M1の微小表面に接したメタン発酵ガスG1に含まれているCO2は、比較的速やかに反応して固定化が起こる。よって、空間速度(SV)としては、例えば3000(1/時間)以下であれば問題なく、より典型的には、1000(1/時間)以下であれば問題ない。
【0040】
ケイ酸カルシウム含有材料M1は、そのままガス接触処理装置11に対して供給されてもよい。ケイ酸カルシウム含有材料M1は、第1粉砕機CM1により粉砕されたうえで、第1分級機RM1により粗粒物M11および細粒物M12に分級され、当該粗粒物M11が乾燥機DMにおいて乾燥されたうえでガス接触処理装置11に対して供給されてもよい。第1粉砕機CM1としては、例えば、竪型ミル、ジョークラッシャー、ハンマーミルが使用される。第1分級機RM1としては、例えば、振動ふるいが使用される。乾燥機DMは省略されてもよい。乾燥機DMに加えて、水分供給機をも備えて、ケイ酸カルシウム含有材料M1を所望の含水量に調整できるようにしてもよい。
【0041】
ケイ酸カルシウム含有材料M1の細粒物M12が、第1混合粉砕機141により粉砕され、当該粉砕物がセメントクリンカ原料として用いられてもよい。ケイ酸カルシウム含有材料M1として廃材等が利用された場合、ケイ酸カルシウム含有材料M1の細粒物M12において、当該廃材等に含まれる骨材分の混入が少なくなるので、粗粒物M11に比べて、カルシウム含有量が多い一方、アルカリ金属含有量が少ない。よって、セメントクリンカ原料として利用しやすく、また、CO2の含有量も石灰石より少ないので、セメント製造におけるCO2発生量を抑制することができる。
【0042】
ケイ酸カルシウム含有材料M1の粗粒物M11がガス接触処理装置11に対して供給される場合、細粒物による配管等の目詰まりおよび/または固結のおそれがない。
【0043】
ケイ酸カルシウム含有材料M1の粗粒物M11の粒度としては、1次メタン発酵ガスとG1の接触表面を増大させる観点から、その粒度が、好ましくは40mm以下の範囲に含まれ、より好ましくは20mm以下の範囲に含まれ、特に好ましくは5mm以下の範囲に含まれることが好ましい。また、粉砕に要するエネルギー削減の観点および/または細粒分による配管の目詰まりおよび/または固結等を防ぐ観点から、その粒度が、好ましくは0.1mm以上の範囲に含まれ、より好ましくは0.6mm以上の範囲に含まれ、特に好ましくは1mm以上の範囲に含まれている。また、粒度分布としては、1~4mm範囲内の粒度を有する粒体を50質量%以上の割合で含むことが好ましく、望ましくは60質量%以上、より望ましくは70質量%以上、さらに望ましくは80質量%以上、特に望ましくは90質量%以上の割合で含むものであることが好ましい。また、ケイ酸カルシウム含有材料M1の細粒物M12の粒度としては、カルシウム含有量の多いセメントクリンカ原料を得る観点から、その粒度が、好ましくは2mm以下の範囲に含まれ、より好ましくは1mm以下の範囲に含まれ、特に0.6mm以下の範囲に含まれることが好ましい。なお、粒度の値は、ふるい試験により粒度を求めるときのその篩の目開き寸法に対応する値であり、より具体的には、JIS Z 8801「試験用ふるい」に規定される篩の公称目開きに対応する値を意味する。
【0044】
メタン発酵ガスG1と接触した後のケイ酸カルシウム含有材料M2(2次ケイ酸カルシウム含有材料)が、第2分級機RM2により粗粒物M21および細粒物M22に分級され、当該粗粒物M21が骨材および/または路盤材に用いられてもよい。第2分級機RM2としては、例えば、振動ふるい、風力選別機などが使用される。メタン発酵ガスG1と接触した後のケイ酸カルシウム含有材料M2の粗粒物M21が、メタン発酵ガスG1と接触する前のケイ酸カルシウム含有材料M1の粗粒物M11に混合されてもよい。
【0045】
メタン発酵ガスG1と接触した後のケイ酸カルシウム含有材料M2が、第2粉砕機CM2により粉砕されたうえで、第2分級機RM2に対して供給されてもよい。第2粉砕機CM2としては、例えば、自生式破砕機(ボールのチューブミル)、ジョークラッシャーおよび/またはハンマクラッシャーなどが使用される。また、路盤材など用途によっては、第2分級機RM2は省略されてもよい。粗粒物M21は、液体残渣R2の脱リン用水処理に用いたり、微細藻の培養装置16にケイ酸供給源やpH調整剤として供給されたりしてもよい。また、生コンスラッジおよび/または軽量気泡コンクリートのように骨材が少ないか含まないものであれば、CO2の固定化が多くなるように、粗粒物M21をガス接触処理装置11に戻す循環ルートを設けてもよい。
【0046】
ケイ酸カルシウム含有材料M2の粗粒物M21の粒度としては、骨材および/または路盤材としての強度を確保する観点から、その粒度が、その粒度が、好ましくは0.1mm以上の範囲に含まれ、より好ましくは0.6mm以上の範囲に含まれ、特に好ましくは1mm以上の範囲に含まれことが好ましい。また、ケイ酸カルシウム含有材料M2の細粒物M22の粒度としては、炭酸カルシウム分の多いセメント混合材として使用する観点から、その粒度が、好ましくは2mm以下の範囲に含まれ、より好ましくは1mm以下の範囲に含まれ、特に好ましくは0.6mm以下の範囲に含まれことが好ましい。
【0047】
セメントクリンカ焼成装置12は、セメントクリンカ原料投入部120、バーナ121、ロータリーキルン122およびセメントクリンカ粉砕機124を備えている。セメントクリンカ焼成装置12は、セメントクリンカ原料投入部120に投入されたセメントクリンカ原料M21が、ロータリーキルン122においてバーナ121を用いて焼成されてセメントクリンカが生成されるように構成されている。セメントクリンカは、ロータリーキルン122から排出されたうえで冷却され、セメントクリンカ粉砕機124により粉砕される。1次メタン発酵ガスG1と接触した後のケイ酸カルシウム含有材料M2の細粒物M22が、セメントクリンカとともにセメントクリンカ粉砕機124により粉砕されてもよい。
【0048】
接触処理装置11で処理された後の2次メタン発酵ガスG2が、セメントクリンカ焼成装置12を構成するバーナ121に対して燃料として供給される。バイオマス原料M0の固体残渣R1が、第2混合粉砕機142により粉砕されたうえで、バーナ121に対して燃料として供給されてもよい。
【0049】
バイオマス原料M0としては、例えば、下水汚泥、し尿汚泥、浄化槽汚泥、食品残渣、食品工場等から発生する工場排水の処理汚泥、畜糞、生ごみ、および/または、草木等が挙げられる。一般に、これらのバイオマス原料M0をメタン発酵させて生成したメタン発酵ガスG1には、濃縮および/または精製処理が施されない場合、メタン(CH4)が55~70体積%程度含まれており、二酸化炭素(CO2)が30~45体積%程度含まれており、水(H2O)が飽和濃度相当量含まれており、硫化水素(H2S)が0.1~0.4体積%程度含まれており、その他にも微量成分を複合的に含む組成となっている。メタン発酵ガスG1は、CO2を30体積%以上含むメタン発酵ガス、より典型的にはCO2を35体積%以上含んでいる。また、例えば、メタン発酵ガスの全体積に占めるCO2の体積百分率にして、40%体積分以下まで削減されることが望ましい。
【0050】
ケイ酸カルシウム含有材料M1としては、例えば、トバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト、および/または、ウォラストナイト等を含む材料が挙げられる。トバモライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca5・(Si6O18H2)・4H2O(板状の形態)、Ca5・(Si6O18H2)(板状の形態)、Ca5・(Si6O18H2)・8H2O(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。ゾノトライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca6・(Si6O17)・(OH)2(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。CSHゲルとは、αCaO・βSiO2・γH2O(ただし、α/β=0.7~2.3、γ/β=1.2~2.7である。)の化学組成を有するものである。具体的には、3CaO・2SiO2・3H2Oの化学組成を有するケイ酸カルシウム水和物等が挙げられる。フォシャジャイトとは、Ca4(SiO3)3(OH)2等の化学組成を有するものである。ジャイロライトとは、(NaCa2)Ca14(Si23Al)O60(OH)8・14H2O等の化学組成を有するものである。ヒレブランダイトとは、Ca2SiO3(OH)2等の化学組成を有するものである。ウォラストナイトとは、CaO・SiO2(繊維状または柱状の形態)等の化学組成を有するものである。
【0051】
ケイ酸カルシウム含有材料M1は、多孔質材料であることが好ましい。多孔質であるとメタン発酵ガス中のCO2および/または水分がその細孔に捕捉されやすい。例えば、ケイ酸カルシウム含有材料M1(またはその粗粒物M11)のBET比表面積としては、好ましくは5m2/g以上であり、より好ましくは6m2/g以上であり、特に好ましくは7m2/g以上である。BET比表面積の上限値としては、特に制限されないが、典型的に、例えば40m2/g以下である。なお、BET比表面積とは、窒素吸着法で得られたケイ酸カルシウム含有材料M1の吸着等温線にBETの式を適用して得られる値を意味する。また、ケイ酸カルシウム含有材料の空隙率としては、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、特に好ましくは30体積%以上の範囲に含まれている。空隙率の上限値としては、特に制限されないが、典型的に、例えば70体積%以下である。なお、空隙率は、水銀圧入式ポロシメータによる測定値を意味する。さらに、ケイ酸カルシウム含有材料は、水銀圧入式ポロシメータによる細孔径3nm~2000nmの総細孔容積Vt(cm3/g)と、細孔径50nm~2000nmにおける細孔容積Va(cm3/g)の比Va/Vtが、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.8以下、さらにより好ましくは0.75以下である。
【0052】
ケイ酸カルシウム含有材料M1として、建築材料(特に、端材および/または廃材等)が用いられてもよい。建築材料に含まれる骨材、鉄筋および/または木屑等の夾雑物は、CO2の固定化にほとんど寄与しないので、それらの粒径が小さいか、含有量が少ないか、適宜適当な手段により取り除かれていることが好ましい。第1粉砕機CM1、第1分級機RM1と、その他分離装置を用いて除去してもよい。したがって、骨材分が少なく前記ケイ酸カルシウムを多く含有し、BET比表面積が大きい、軽量気泡コンクリート(ALC)および/または生コンスラッジが用いられることが好ましい。
【0053】
軽量気泡コンクリートとは、トバモライトおよび未反応の珪石からなるものであり、かつ、80体積%程度の空隙率を有するものである。軽量気泡コンクリート中のトバモライトの割合は、軽量気泡コンクリートの内部の空隙部分を除く固相の全体を100体積%として、65~80体積%である。軽量気泡コンクリートは、例えば、珪石粉末、セメント、生石灰粉末、発泡剤(例えば、アルミニウム粉末)および水等を含む原料(例えば、これらの混合物からなる硬化体)が、オートクレーブ養生されることによって得られる。
【0054】
本発明者らの知見によれば、ケイ酸カルシウム含有材料M1は、特定の含水率のものを用いることにより、メタン発酵ガス中に含まれるCO2をより効率的に固定化することができる(後述する試験結果も参照のこと)。よって、CO2の固定化効率を高める観点から、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率としては、好ましくは15~60質量%の範囲に含まれ、より好ましくは20~40質量%の範囲に含まれ、特に好ましくは30~40質量%の範囲に含まれている。前記範囲の含水率であると、ケイ酸カルシウム含有材料M1の微小表面の広い範囲が適度な湿潤状となるので、形成された液相において、例えば下記反応などによりCO2の化学反応が促進されると考えられる。一方、水分が多すぎると、液相において反応に必要な成分の濃度が薄まったり、CO2のアクセスが阻害されたりするために、固定化効率が悪くなると考えられる。
【0055】
(化1)
5CaO・6SiO2・5H2O+5CO2
→5CaCO3+6SiO2・nH2O+(5-n)H2O。
【0056】
ケイ酸カルシウム含有材料M1は、前記範囲の含水率のものを仕入れて使用するか、あるいは、その範囲を満たさない場合、含水率が調整されてもよい。ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率の調整は、ケイ酸カルシウム含有材料M1に散水し、かつ/または、ケイ酸カルシウム含有材料M1を水に浸漬したうえで、必要に応じてその散水および/または浸漬の後にトロンメルやふるいにより水切りすることなどにより行うことができる。ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率が高かったり、バラツキが大きかったりする場合は、一旦乾燥処理によりケイ酸カルシウム含有材料M1から水分を除いたうえ、前記のようにして水分Wを添加して調整を行ってもよい。乾燥処理は、限定されるものではないが、一般的に用いられる対流伝熱方式(たとえば回転式乾燥機:ロータリードライヤー)の乾燥装置を使用して行えばよい。
【0057】
なお、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率は、乾燥温度105℃で恒量となった場合の、質量減少率により求めることにより行うことができる。
【0058】
CO2を栄養源とする微細藻の培養装置16における培養液に、(1)セメントクリンカ焼成装置12より排出されるCO2含有ガス、および/またはメタン発酵ガス、(2)メタン発酵ガスG1に接触させた後のケイ酸カルシウム含有材料M2、および、(3)メタン発酵装置10におけるバイオマス原料M0の残渣Rを固液分離して得られる液体残渣R2からなる群から選ばれた1種または2種以上が供給される。微細藻の培養装置16は省略されてもよい。システムが排出するCO2および/またはメタン発酵残渣に含まれる窒素、リン酸および/またはカリウム等、ケイ酸カルシウム含有材料のケイ酸を微細藻培養の栄養成分として、メタン発酵残渣に含まれる塩分、およびケイ酸カルシウム含有材料のアルカリ分を培養環境の調整剤として有効に活用することができ、カーボンニュートラルな燃料となる微細藻を多く培養することができる。
【0059】
図2Aには、メタン発酵ガスG1をケイ酸カルシウム含有材料M1に乾式で接触させる様式についての一実施形態が示されている。
【0060】
この実施形態では、乾式接触処理の場として、所定容量を有する充填槽にケイ酸カルシウム含有材料M1を充填することにより形成した処理領域Tが設けられている。このとき充填槽に充填されるケイ酸カルシウム含有材料M1が所定粒度を有する粒状物であるために、粒状物同士の間に気体が流通可能な充填空隙が形成される。この処理領域Tに、図中の下方からメタン発酵ガスG1を導入して図中の上方に処理後のメタン発酵ガスG2を排出させるようにすれば、その充填空隙にメタン発酵ガスを滞留させることができるとともに、メタン発酵ガスが上方へ移動する間に、ケイ酸カルシウム含有材料との乾式接触がなされる。
【0061】
ここで、ケイ酸カルシウム含有材料M1として生コンスラッジおよび/または軽量気泡コンクリートが用いられる場合、その材質が、乾式(乾燥状態)では比較的良好な吸湿性を示す。一方で、後述する試験結果でも明らかにされるとおり、効果的なCO2固定化のためには、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率は特定範囲の含水率であることが好ましく、吸湿が進んで含水率が高くなりすぎると、CO2の固定化能が低下する。
【0062】
このため、例えば、
図2Aでは処理領域Tの背景の濃淡で示すように、メタン発酵ガスG1が導入される側にある処理領域Bにあるケイ酸カルシウム含有材料には、吸湿が進んだ粒状物によりCO
2固定され(図中では、濃く背景を付した領域において吸湿が進んだことを示す。)、ついでメタン発酵ガスG1が排出される側にある処理領域Aにおけるケイ酸カルシウム含有材料の吸湿とメタン発酵ガスの乾燥が進む。ケイ酸カルシウム含有材料M1のより効率的な利用のためには、適宜、使用済みのケイ酸カルシウム含有材料M1を充填槽から取り出して、乾燥させてから再充填してCO
2吸収量を高めたりするか、含水率の適当な新しいケイ酸カルシウム含有材料に入れ替えてCO
2吸収率を高めるようにすることが好ましい。
【0063】
図2Bには、メタン発酵ガスG1をケイ酸カルシウム含有材料M1に乾式で接触させる様式の他の実施形態が示されている。
【0064】
この実施形態では、乾式接触処理の場として、回転式乾燥機(ロータリードライヤー)などを利用した回転槽よりなる処理領域Rが設けられている。この回転槽よりなる処理領域Rに、ケイ酸カルシウム含有材料M1を図中では左方から導入し、メタン発酵ガスG1が図中では右方から導入するようにしている。すなわち、ケイ酸カルシウム含有材料M1とメタン発酵ガスG1の乾式接触が向流で行われるようにしている。このときケイ酸カルシウム含有材料M1が所定粒度を有する粒状物であるため、回転槽の回転動作によって粒状物同士が上下左右に揺動させられるとともに、回転式乾燥機(ロータリードライヤー)に備わるパドル、回転槽の傾斜等の機構により、処理領域Rを図中の左方から右方に移動させ、かつ、それに対向するようにして、メタン発酵ガスG1が処理領域Rを図中の左方から右方に移動する(向流方式)ので、そのような処理領域Rでの滞留・移動の間に、ケイ酸カルシウム含有材料M1とメタン発酵ガスG1との乾式接触がなされる。
【0065】
ここで、上述したように、ケイ酸カルシウム含有材料M1は、乾式(乾燥状態)では比較的良好な吸湿性を示し、一定の含水量では比較的良好なCO2の固定能を示す。この実施形態によれば、例えば、限定されないが、ケイ酸カルシウム含有材料M1が導入される側の処理領域Cにおいては、メタン発酵ガスG1は含水率が低く吸湿性の良好なケイ酸カルシウム含有材料M1に乾式接触して乾燥され、ケイ酸カルシウム含有材料M1は一定程度に吸湿が進む。メタン発酵ガスG1が導入される側の処理領域Dにおいては、一定程度に吸湿が進んだケイ酸カルシウム含有材料M1の微小表面上でメタン発酵ガスG1中のCO2の固定化が起こる。そして、ケイ酸カルシウム含有材料は、過度に吸湿が進まないうちに処理領域Rから排出させることができる(図中では、処理領域Rの全体にわたって淡く背景を付して、処理領域CからDにわたる均一な領域で一定程度に吸湿が進むことを示す。)。なお、処理領域Cにおいて所望の含水量までに至らない場合は、ガス接触処理装置11内部で散水してもよい。ガス接触処理装置11の回転しない部分から送水管を挿入し、所望の位置で散水すればよい。メタン発酵ガスG1をケイ酸カルシウム含有材料M1との接触効率を高めるために、ケイ酸カルシウム含有材料M1の充填率を高めたり、回転槽にリフターを設置してもよい。
【0066】
上記のように
図2Aおよび
図2Bに示すガス接触処理装置11は、1次ガス接触工程と2次ガス接触工程の機能を有しており、1次ガス接触処理装置と2次ガス接触処理装置を含む装置の一例である。
【0067】
処理領域AまたはCとBまたはDの機能をより確実に行うために、1次ガス接触処理装置と2次ガス接触処理装置を別に2つ設けてもよい。
【0068】
このように、ケイ酸カルシウム含有材料M1が良好なCO2固定化能を示す特定の含水率の範囲にある状態と、空間的に処理領域RまたはTに滞留する時間とを整合させることにより、CO2の固定化効率をより安定に保つことができる。また、処理領域RまたはTから排出させたものについては、必要に応じて乾燥処理の後、再び処理領域RまたはTに導入して、CO2の固定化の処理に有効に利用することができる。このとき、上述したとおり化学反応によりケイ酸カルシウム含有材料M1の微小表面上に固定化されたCO2は、ガス接触処理装置内での衝撃や摩耗により、または簡便な粉砕および/または摩耗処理により細粒分として取り除くことができ、粗粒分は更なるメタン発酵ガスG1に含まれているCO2の固定化のために有効に利用することができる。
【0069】
(評価試験)
図3および表1には、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率が0質量%(試験例1)、15質量%(試験例2)、30質量%(試験例3)、40質量%(試験例4)および60質量%(試験例5)のそれぞれである場合について、1次メタン発酵ガスG1の積算流量と、2次メタン発酵ガスG2におけるCO
2濃度と、の関係が示されている。
【0070】
メタン発酵ガスG1をケイ酸カルシウム含有材料M1と乾式接触させる様式としては、
図2Bに示されている様式にしたがってバッチ式で乾式接触が行われた。メタン発酵ガスG1のCO
2濃度は定常的に45体積%に調節され、当該メタン発酵ガスG1の流量は200mL/minに調節された。1次メタン発酵ガスG1の積算流量が1L、3L、6L、12L、24Lおよび36Lのそれぞれに達した時点において、2次メタン発酵ガスG2におけるCO2濃度が測定された。接触に用いた容器は、内容積450mL、直径50mmとした。ケイ酸カルシウム含有材料M1として、軽量気泡コンクリートを破砕し、粒径1~4mmのものを採取して用いた。含水率は、105℃で恒量となった場合の質量減少率により求めた。
【0071】
【0072】
表1から、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率が0質量%である試験例1によれば、2次メタン発酵ガスG2におけるCO2濃度は、1次メタン発酵ガスG1の積算流量が比較的少ない初期段階で、当該1次メタン発酵ガスG1のCO2濃度よりも若干低下しているだけであることがわかる。これに対して、ケイ酸カルシウム含有材料M1の含水率が15質量%~60質量%の範囲に含まれている試験例2~4によれば、2次メタン発酵ガスG2におけるCO2濃度は、試験例1よりも1次メタン発酵ガスG1のCO2濃度の低下量が多く、ケイ酸カルシウム含有材料M1の表面に固定化されたCO2が多いことがわかる。
【符号の説明】
【0073】
10‥メタン発酵装置、11‥ガス接触処理装置、12‥セメントクリンカ焼成装置、16‥微細藻の培養装置、121‥バーナ、122‥ロータリーキルン、CM1‥第1粉砕機、CM2‥第2粉砕機、DM‥乾燥機、G1‥1次メタン発酵ガス、G2‥2次メタン発酵ガス、M0‥バイオマス原料、M1‥ケイ酸カルシウム含有材料、M2‥メタン発酵ガス接触後のケイ酸カルシウム含有材料、RM1‥第1分級機、RM2‥第2分級機。