(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127802
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】導電性ベルト、それを有する画像形成装置、及び導電性ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 5/02 20060101AFI20220825BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20220825BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220825BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20220825BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220825BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B65H5/02 C
G03G15/00 552
B41J2/01 305
B32B27/08
B32B27/30 D
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025993
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【テーマコード(参考)】
2C056
2H171
3F049
4F100
【Fターム(参考)】
2C056HA29
2H171FA22
2H171FA27
2H171FA30
2H171GA40
2H171SA06
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2H171TB14
2H171UA03
2H171UA07
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2H171UA29
2H171VA01
2H171VA05
2H171XA03
3F049AA10
3F049BA11
3F049LA07
3F049LB03
4F100AA37A
4F100AK01A
4F100AK17B
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4F100AL05A
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4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】基材層は中抵抗領域(105~108Ω/□)の半導電性を示し、表面抵抗率のバラツキが小さく、表面層は絶縁性を示す画像形成装置用ベルトを提供することを目的とする。そして、このようなベルトを紙搬送ベルトとして使用すると、表面層が絶縁性に優れているため、記録媒体(紙)の吸着力が強く、記録媒体を確実に搬送することができる。
【解決手段】熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有した組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有した組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の導電性ベルト。
【請求項3】
前記導電剤が電子伝導性材料であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項4】
前記電子伝導性材料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項3記載の導電性ベルト。
【請求項5】
前記基材層の温度23℃、相対湿度50%RHにおける表面抵抗率は、1×105以上1×108Ω/□以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項6】
前記表面層の温度23℃、相対湿度50%RHにおける表面抵抗率は、1×1013Ω/□以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の導電性ベルトが画像形成装置用導電性ベルトであることを特徴とする導電性ベルト。
【請求項8】
前記画像形成装置用導電性ベルトがインクジェット方式紙搬送用であることを特徴とする請求項7記載の導電性ベルト。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の導電性ベルトを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の導電性ベルトの製造方法において、熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した基材層を形成する組成物と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有した表面層を形成する組成物をそれぞれ別々の押出機に供給し、環状ダイスより基材層が内層、表面層が外層となるように共押出することを特徴とする導電性ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式や電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる導電性ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式やインクジェット方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置はローラで用紙を搬送する方法が採用されてきたが、画像形成が高速化するとローラでは用紙搬送のトラブルが発生しやすくなるため、ベルトで紙を搬送する方法が採用されている。具体的には、(1)吸引口を有するベルトを用いて減圧吸引して用紙をベルトに吸引搬送する方式や(2)導電性を有する基材層と絶縁性を有する表面層からなるベルトを用いて、当該ベルトに電圧を印加することにより発生する静電吸着力を利用して用紙をベルトに吸着し搬送させる方式が知られている。
【0003】
これらのうち、(1)減圧で用紙をベルトに吸引する方式は、特許文献1や特許文献2に記載されているような減圧室と当該減圧室を減圧にする減圧装置が必要であり、さらに駆動するベルトと減圧室との間を常に密閉状態に保持しなければならないため画像形成装置の構造が複雑になる。一方、(2)静電吸引力を利用する方法は当該ベルトに電圧を印加する部材と電源があれば印加する電圧を調整するだけで吸引力を制御でき簡便である。
【0004】
静電吸着力を利用して紙などの記録媒体を吸引・搬送するベルト(紙搬送ベルト)としては、特許文献3には、内層と外層がともにポリイミド樹脂からなり、内層の体積抵抗率が108~1014Ω・cm、外層の体積抵抗率が1014~1016Ω・cmである紙搬送ベルトが記載されている。しかしながら、特許文献3記載の紙搬送ベルトは遠心成形(金型表面または裏面に内層用または外層のポリアミック酸の溶液を吹付け、高温で溶剤を揮散させた後、高温・無酸素下でイミド化する。二層の場合はこれを2回繰り返す)しなければならず、製造工程が非常に煩雑になる。
【0005】
また、特許文献4には、内層が導電性ポリイミド樹脂からなりその表面抵抗率が1×104~1×109Ω/□、外層がエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)からなるインクジェット用紙搬送ベルトが記載されている。この紙搬送ベルトも遠心成形で内層を形成し、その上に予め成形したETFEを被せ溶融接着する工程が必要であるため、製造工程が非常に煩雑である。
【0006】
一方、高速度で印刷が可能なインクジェット方式のプリンターなどに用いられているインクは有機溶剤が用いられているものがあり、インクがベルトに付着すると、ベルトに使用されている樹脂の種類によってはその部分が膨潤しベルト表面に凹凸が発生するという問題があった。耐溶剤性に鑑み、表層にフッ素系樹脂を用いることが望まれているが、フッ素系樹脂は接着性が悪い。また、中には表面抵抗率が1014Ω/□未満のものもあり、吸引力が弱くなるという問題もある。なお、特許文献5には含フッ素共重合体を含有する第一の層と、該第一の層に直接積層したポリアミド樹脂を含有する第二の層とを有する積層体が記載されているが、積層体の具体的な用途としては、積層シートや積層ホースが例示されているだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-131389号公報
【特許文献2】特開2019-127364号公報
【特許文献3】特開2008-94605号公報
【特許文献4】特開2011-73804号公報
【特許文献5】WO2016/195042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリイミド樹脂を使用した多層ベルトは、遠心成形を2回繰り返したり、もしくは遠心成形法で予め製作されたベルト状のポリイミド樹脂層へ予めベルト状に成型したフッ素系樹脂を被せて溶融接着するなどの煩雑な工程を経て製造するため高価である。
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、基材層は中抵抗領域(105~108Ω/□)の半導電性を示し、表面抵抗率のバラツキが小さく、表面層は絶縁性を示す導電性ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
(1)熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有した組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト;
(2)前記熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂であることを特徴とする(1)記載の導電性ベルト;
(3)前記導電剤が電子伝導性材料であることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(4)前記電子伝導性材料がカーボンブラックであることを特徴とする(3)記載の導電性ベルト;
(5)前記基材層の温度23℃、相対湿度50%RHにおける表面抵抗率は、1×105以上1×108Ω/□以下であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(6)前記表面層の温度23℃、相対湿度50%RHにおける表面抵抗率は、1×1013Ω/□以上であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(7)(1)乃至(6)のいずれかに記載の導電性ベルトが画像形成装置用導電性ベルトであることを特徴とする導電性ベルト;
(8)前記画像形成装置用導電性ベルトがインクジェット方式紙搬送用であることを特徴とする(7)記載の導電性ベルト;
(9)(1)乃至(8)のいずれかに記載の導電性ベルトを有することを特徴とする画像形成装置;
(10)(1)乃至(8)のいずれかに記載の導電性ベルトの製造方法において、熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した基材層を形成する組成物と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有した表面層を形成する組成物をそれぞれ別々の押出機に供給し、環状ダイスより基材層が内層、表面層が外層となるように共押出することを特徴とする導電性ベルトの製造方法;
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性ベルトは、熱可塑性樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体を含有した組成物からなる表面層とを積層したものであり、表面層側の表面抵抗率が1×1014Ω/□以上(絶縁領域)であり、基材層側(表面層が形成されていない側)の表面抵抗率が1×105~1×108Ω/□の範囲(中抵抗領域)であるベルトが得られる。このようなベルトを紙搬送ベルトとして使用すると、表面層が絶縁性に優れているため、記録媒体(紙)の吸着力が強く、記録媒体を確実に搬送することができる。
また、本発明の導電性ベルトは、従来品のポリイミド樹脂を使用した多層構成のベルトより安価に製造することができる。本発明の導電性ベルトは、溶剤タイプのインクが付着したとしてもベルト表面が膨潤しないため、特にインクジェット方式の紙搬送ベルトに好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[基材層]
本発明の基材層は、熱可塑性樹脂と導電剤とを含有していることが必須である。成形性を考慮すると、熱可塑性樹脂としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを、単独で、または2種以上をブレンドして、或いは多層化して用いることができる。これらの中でも、フッ素系樹脂は、他の樹脂とは異なりそれ自身が難燃性を有し、また押出成形が容易で、防汚性、離型性をも有しているので、画像形成装置用ベルトには好適である。このようなフッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン、エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を採用することができる。
【0012】
ポリアミド系樹脂は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、α,ω-アミノカルボン酸の重縮合、ラクタム類の開環重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm-キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、カーボンブラックの分散性に優れるとともに、高湿度環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは、単独或は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0013】
また、近年、プリンター等の高速化に伴い画像形成装置用ベルトには高い弾性率が求められる。弾性率が低いと、駆動時にベルトが伸びて、転写位置がずれる恐れがある。基材層の引張弾性率は500MPa以上であることが好ましく、更には800MPa以上が好ましい。ベルトの引張弾性率を上げるためには、上述した熱可塑性樹脂に、平板状フィラー、ウィスカー等の補強材を添加することもできる。また、基材層の厚みは、上記性能を満たすように50~300μmが好ましく、75~200μmがより好ましい。厚さが50μm未満では十分な引張強度を得ることが難しく、厚さが300μmを超えると屈曲性が悪化する。
【0014】
本発明の導電性ベルトは、基材層に導電剤を含有することにより、基材層の表面抵抗率が調整される。基材層の表面抵抗率は、105~1012Ω/□であることが好ましく、特には中抵抗領域である105~108Ω/□であることが好ましい。導電剤には電子伝導性材料とイオン伝導性材料がある。また、基材層が中抵抗領域のなかでもより低い抵抗領域(例えば105~106Ω/□)が必要な場合には、少ない添加量で低い抵抗領域を得ることが可能な電子伝導性材料を使用することが好ましい。
【0015】
電子伝導性材料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、アルミニウム・亜鉛酸化物、アンチモン・スズ酸化物、インジウム・スズ酸化物、カーボンブラック等で表面処理を行った無機粒子等の導電性無機粒子を挙げることができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等の導電性カーボンブラックを挙げることができ、特に、平均粒子径50nm以下のカーボンブラックが少量の配合で電気抵抗を下げることができるので好ましい。また、カーボンブラックのストラクチャー構造が発達し、導電パスを形成する観点からDBP(Dibutyl phthalate)吸油量が100~500ml/100gが好ましく、100~300ml/100gであることが好ましく、150~250ml/100gであることがより好ましい。また導電性の観点から30~1500m2/gの範囲のBET表面積であるカーボンブラックが好ましい。また、本発明においては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーがグラフト付加されたグラフト化カーボンブラック、或いは低分子量化合物で表面処理したカーボンブラックも用いることができる。
【0016】
導電剤に電子導電性材料を使用する場合、導電剤の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましい。その配合量は5~35重量部が好ましく、15~30重量部がより好ましい。電子導電性材料の配合量が1重量部未満であると所定の導電性を示す組成物が得られないので好ましくなく、50重量部を超えると組成物の溶融粘度が高くなり押出成形が困難となる。
【0017】
イオン伝導性材料としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド共重合体、部分架橋ポリエチレンオキサイド共重合体、イオン電解質等があげられ、これらを単独で、あるいは二種類以上併用することができる。尚、イオン電解質としては、アルカリ金属のチオシアン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン含有酸素酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩を単独、あるいは、複数種組合せて用いることができる。これらの中でも、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウムが好ましい。
【0018】
導電剤にイオン電導性材料を使用する場合、導電剤の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましい。その配合量は1~30重量部が好ましく、2~25重量部が好ましく、15~25重量部がより好ましい。イオン導電性材料の配合量が1重量部未満であると所定の導電性を示す組成物が得られないので好ましくなく、50重量部を超えると吸湿性が高くなり、引張弾性率が低くなるので好ましくない。
【0019】
本発明の基材層に使用する樹脂組成物には、必要に応じてその特性を損なわない範囲で添加剤を配合しても良い。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。これらの樹脂や添加剤は、目的に応じて適量を使用することができる。
【0020】
[表面層]
本発明の表面層は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含有していることが必須である。酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体は、エチレンに基づく重合単位とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位と酸構造を有する重合単位とを少なくとも含有する共重合体である。
酸構造を有する構成する重合単位としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物、ウンデシレン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸等が挙げられる。酸構造を有する重合単位の含有量は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体中の全重合単位に対して0.01~10モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましい。
【0021】
表面層に酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体を含有することにより、基材層を形成する樹脂組成物との層間接着強度が高まるため、共押出成形が可能となる。
また、本発明で使用する表面層は絶縁性に優れており、表面抵抗率は1×1013Ω/□以上が好ましく、1×1014Ω/□以上がより好ましい。そして、フッ素系樹脂の中でも特にエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体や酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体は、表面抵抗率が1×1014Ω/□以上であり絶縁性が高いことが分かった。さらに、本発明で使用する表面層は、フッ素系樹脂を使用しているため溶剤インクが付着したとしてもその表面が膨潤しないことが分かった。また、本発明の表面層を形成するための組成物は、必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を配合してもよい。
【0022】
[画像形成装置用ベルトの製造方法]
本発明の基材層を形成するための組成物の製造方法は特に制限はないが、例えば熱可塑性樹脂、導電剤、必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドした後、溶融混練する方法、熱可塑性樹脂に導電剤を予め溶融混練してマスターバッチを作製し、これに必要に応じて熱可塑性樹脂や必要に応じて用いられる添加剤を溶融混練する方法等が上げられる。
【0023】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の混練機が挙げられる。これらの中でも、混練能力や生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0024】
溶融混練時の温度は、使用する熱可塑性樹脂の種類や溶融粘度等により適宜選択できるが、通常、150~300℃の範囲であり、樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは170~280℃である。
【0025】
本発明の導電性ベルトは、押出成形法、遠心成形法、ディッピング法などで製造することができる。押出成形法、特に環状ダイスを用いた押出成形法は、継ぎ目のないベルトが得られるので好ましい。環状ダイスを用いた押出成形法としては、例えば押出機を2台と、該押出機の下方に該押出機に連通して環状ダイスが配置され、該環状ダイスの下方には、該環状ダイスから下向きに押し出される溶融樹脂をその外周に担持させて冷却固化するマンドレルが配設された押出成形装置を用いることができる。基材層を形成する組成物と表面層を形成する組成物をそれぞれの押出機に供給して、一つの環状ダイスからチューブ状に共押出し、マンドレルの外周に沿わせて冷却固化することによりチューブ状の成形体を得て、チューブ状の該成形体を所望の幅に切断することでベルトとすることができる。なお、これらの説明は2層の場合であったが、3層以上の時は、層数に応じた押出機及びダイスを準備すればよい。
【0026】
本発明の導電性ベルトは、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等の画像形成装置用部品や、自動車関連部品、電子・電気部品、機械部品、半導体包装用フィルム等として好適に用いることができる。特に本発明の導電性ベルトは、ベルト表面に溶剤インクが付着してもベルト表面が膨潤しないため、特に溶剤インクを使用するインクジェット方式の紙搬送ベルトとして好適に使用できる。
【実施例0027】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
溶融粘度は、長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用いて測定した。
(2)表面抵抗率
表面抵抗率は、URSプローブ(荷重2kg)を取り付けたハイレスタUX(MCP-HT800、ダイヤインスツルメンツ社製)を用いて測定(基材層は印加電圧10V、表面層は印加電圧1000V)した。
また、表面抵抗率の均一性(バラつき)は以下の式で求めた。
表面抵抗率の均一性[桁]=log10(表面抵抗率の最大値/表面抵抗率の最小値)
(3)耐溶剤インク性
各実施例・比較例により得られたベルトの表面層に、溶剤インク(高沸点石油系溶剤)を滴下して60℃中に24時間放置後、その表面を観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
〇:フィルム表面は膨潤せず、変形しなかった。
△:フィルム表面がわずかに膨潤し、若干変形した。
×:フィルム表面が膨潤し明らかに変形した。
【0028】
原料としては、下記のものを用いた。
<熱可塑性樹脂(A)>
・ポリアミド12(A-1)[融点:178℃、溶融粘度:1100poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・ポリアミド12(A-2)[融点:178℃、溶融粘度:5440poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・高密度ポリエチレン(A-3)[融点:132℃、溶融粘度:7500poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体(A-4)[融点:190℃、溶融粘度:6750poise(測定温度220℃、荷重100kg)]
・ポリフッ化ビニリデン(A-5)[融点:168℃、溶融粘度:4500poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
<導電剤(B)>
・カーボンブラック(B-1)[DBP吸油量:190ml/100g、BET表面積:70m2/g]
・カーボンナノチューブ(B-2)[平均直径:10~15nm、長さ:10μm以下、比表面積:180~250m2/g]
【0029】
[基材層]
表1に示した配合比となるように、ポリアミド樹脂または高密度ポリエチレンと導電剤とをスクリュー径38Φmmの二軸混練押出機を用いて溶融混練し、コンパウンドを得た。次いで、得られたコンパウンドを環状ダイスを備えた単軸押出機(押出径:50Φmm)に供給し、溶融状態でチューブ状に押出すことでチューブ状のフィルムを得た。得られたフィルムについて押出し方向に50mm毎に20点の表面抵抗値を測定しその均一性を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1に示すように、ポリアミド樹脂と導電剤としてカーボンブラックを配合した基材層1乃至3、高密度ポリエチレンとポリアミド樹脂と導電剤としてカーボンブラックを配合した基材層6は、表面抵抗率は105~107Ω/□の値を示し、表面抵抗率の均一性(0.5桁以内)及び製膜性も優れていた。ポリアミド樹脂と導電剤としてカーボンナノチューブを配合した基材層4及び基材層5は、表面抵抗率が基材層1乃至3よりも若干高く106~108Ω/□の値を示し、表面抵抗率をさげるためにカーボンナノチューブの配合割合を増やした基材層5は押出し方向の厚みムラが大きく、表面抵抗率の均一性も悪かった。
【0032】
[実施例・比較例]
シリンダー径50mmの押出機2台の先端に2層の環状ダイを装着した装置を用い、表2に示す基材層を形成する樹脂組成物と表面層を形成する樹脂組成物とを共押出してチューブ状に成形後、長さ400mmにカットし、基材層を内層とし、表面層を外層とする周長800mm、幅350mmのシームレスベルトを得た。
実施例、及び比較例で作製したシームレスベルトは、以下の項目について評価し、その結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
表2に示すように、基材層1と表面層が酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体(A-4)からなるベルトの実施例1乃至3は、基材層側の表面抵抗率が106~107Ω/□の値を示し、表面抵抗率の均一性(1ケタ未満)も優れていた。表面層の表面抵抗率も1014Ω/□以上の値を示し、絶縁性に優れていた。また、表面層の耐溶剤インク性も良好であった。
それに対し、ポリアミド樹脂または高密度ポリエチレンを表面層とした比較例1及び比較例2は基材層の表面抵抗率の均一性に優れているものの、表面層に溶剤インクを滴下し60℃中に24時間放置すると膨潤が見られた。この結果より、比較例1及び比較例2のベルトは、特に溶剤インクを使用したインクジェット方式の紙搬送ベルトとして不適であった。一方、ポリフッ化ビニリデンを表面層とした比較例3は表面層の耐溶剤インク性は良好なものの、基材層1との接着性が悪く層間剥離し、表面層側の表面抵抗率も1013~1014Ω/□の範囲を示し絶縁性に劣った。