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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127848
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】巻胴式エレベータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/30 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
B66B1/30 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026054
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】301020536
【氏名又は名称】三菱日立ホームエレベーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103067
【弁理士】
【氏名又は名称】神戸 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高部 克則
(72)【発明者】
【氏名】山内 厚志
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502HB01
3F502HC01
3F502JB18
3F502JB19
3F502KA33
3F502LA02
3F502LA04
3F502LA18
3F502LA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】かご内負荷にかかわらずエレベータの定格速度を一律に速くすると、モータ、電力変換器などの駆動能力が増加して、装置が大型化することを抑制する。
【解決手段】速度パターン生成部303は、上昇方向行先指令信号が発生すると、第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成し、この暫定速度走行パターンを成す暫定速度指令信号を発生すると共に、定格負荷判断部240から軽負荷推定信号が発生すると、暫定速度走行パターンから移行して、トルク電流検出部230からのトルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、この最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号を発生する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記可変電圧可変周波数手段は、前記モータをトルク指令電流と磁束指令電流に基づいて速度制御するように形成されており、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記かごが上昇方向へ加速している時の前記モータに流れる三相電流を検出すると共に、三相から座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出手段と、
前記トルク電流検出信号に基づいて前記かご内の荷重値を推定して前記かご内の荷重値が前記かごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断し、越えていないと軽負荷推定信号を発生する定格負荷判断手段と、
前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記上昇方向行先指令信号が発生すると、前記第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成し、この暫定速度走行パターンを成す暫定速度指令信号を発生すると共に、前記軽負荷推定信号が発生すると、前記暫定速度走行パターンから移行して、前記トルク電流検出信号に基づいて前記第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、この最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項2】
前記トルク電流検出手段は、前記位置指令信号に基づいて前記かごが起動を開始してからカウントして予め定められた一定時間を経過するとカウント終了信号を発生するカウント手段と、
前記カウント終了信号に基づいて前記三相電流からトルク電流値を複数回演算すると共に、複数の前記トルク電流値を平均した平均トルク電流値を求めて、この平均トルク電流値に基づいて前記トルク電流検出信号を発生するトルク電流演算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項3】
前記定格負荷判断手段は、前記荷重閾値を越えたか否かを判断し、越えると定格負荷推定信号を発生するように形成されており、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記定格負荷推定信号に基づいて前記暫定速度走行パターンから移行して、前記第2の定格速度により前記かごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする請求項1に記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項4】
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記暫定速度指令信号に基づく前記かごの第1の加速度は、前記第1の定格速度指令信号に基づく前記かごの第2の加速度よりも緩やかである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項5】
オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生する最高速度中断手段と、
前記速度パターン生成手段は、前記最高速度中断オン信号に基づいて定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項6】
前記モータの回転に基づいて速度検出して速度検出信号を発生する速度検出手段と、
前記最高速度指令信号と前記速度検出信号との差となる速度偏差値を求める速度偏差手段と、
前記速度偏差値が予め定められた速度偏差閾値を越えると、最高速度制限信号を発生する最高速度制限手段と、を備え
前記速度パターン生成手段は、前記最高速度制限信号の発生した時の前周期となる前記最高速度指令信号に基づいて、前記かごを一定走行させる、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項7】
前記かごが前記定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、前記かごが前記定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断手段と、
前記表示オン信号に基づいて定格速度を越えてかごが走行していることを文字、図形、音声のいずれか一つで表現すると共に、前記表示オフ信号に基づいて前記表現を消滅する表示手段を、
備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻胴式エレベータの制御装置に関し、特に、かごの最高速度を定格速度よりも速く上昇方向へ走行し得るものである。より詳しくは、モータに流れるトルク電流を検知して、かご内の荷重を検出することなく、検知したトルク電流に応じて、かご内の負荷に応じて上昇方向へ定格速度よりも速くかごを走行できるものである。
【背景技術】
【0002】
ホームエレベータでは、昇降路スペースを狭くする等のために、下記特許文献1に記載のように、釣合い重りが存在せず、かごをロープによりドラムに巻き取る巻胴式エレベータが一般に採用されている。このホームエレベータの制御装置は、エレベータの運転速度を変更するもので、基本の構成要素には、かごの昇降を駆動する駆動手段と、必要に応じて指定速度を切換える速度切換え手段と、この速度切換え手段の切換え操作に応じて駆動手段によるかごの速度を制御する速度制御手段とを備えたものが記載されている。
【0003】
制御装置に設けられた速度切換手段の切換操作によりエレベータの運転速度を、必要に応じて定格速度より低い所定速度の間で切換えられるようになっている。これにより、特に深夜においては、エレベータの運転速度を定格速度より低い所定速度に切換え、静粛なエレベータの運転が可能になるので、家族を始め近隣住宅への騒音による迷惑を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-182677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のエレベータの制御装置では、切換え操作に基づいてエレベータの定格速度より低い所定速度で、かごを走行するので、輸送効率を阻害する。一方、輸送効率を上げるために、かご内負荷に拘らずエレベータの定格速度を一律に速くすると、モータ、電力変換器などの駆動能力が増加して、装置が大型化する。
ここで、ホームエレベータ等に採用される巻胴式エレベータでは、下降方向では、かごがかご側の自重で下降するので、モータからの回生制動力を発生する回生運転となる。 これに対して、上昇方向の運転では、かご側の荷重を巻上機の巻胴に巻き取りしなければならない。したがって、巻胴式エレベータでは、上昇方向のかご内の定格負荷に基づいて上記駆動能力が決定される。このように決定された駆動能力を有効に活用するために、かごの下降方向よりも上昇方向が定格速度を遅く設定されているのが一般である。
このような状況下、発明者は、かごが上昇方向への走行であっても、かご内の乗員の有無、数によっては上記駆動能力に余裕を有することがあり、かかる点において駆動能力を十分に活用しておらず、かご内の荷重値に応じて、かごの定格速度よりも速い走行で、より一層駆動能力を有効に活用して、輸送効率の向上を図り得ることに気付くと共に、かご内の荷重値を荷重検出装置により検出することなく、かご内の荷重値に基づいて変動するモータに流れるトルク電流を検知して、この検知したトルク電流に応じてかごの上昇方向へ定格速度よりも速くすることを見出したものである。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、エレベータの上昇方向の輸送効率を上げるために、かご内の荷重値を荷重検出装置により検出することなく、モータに流れるトルク電流を検知し、この検知したトルク電流に応じて、かごを上昇方向へエレベータの定格速度よりも速い走行速度を実現し得る巻胴式エレベータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記可変電圧可変周波数手段は、前記モータをトルク指令電流と磁束指令電流に基づいて速度制御するように形成されており、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記かごが上昇方向へ加速している時の前記モータに流れる三相電流を検出すると共に、三相から座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出手段と、
前記トルク電流検出信号に基づいて前記かご内の荷重値を推定して前記かご内の荷重値が前記かごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断し、越えていないと軽負荷推定信号を発生する定格負荷判断手段と、
前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記上昇方向行先指令信号が発生すると、前記第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成し、この暫定速度走行パターンを成す暫定速度指令信号を発生すると共に、前記軽負荷推定信号が発生すると、前記暫定速度走行パターンから移行して、前記トルク電流検出信号に基づいて前記第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する、
ことを特徴とするものである。
【0008】
このような巻胴式エレベータの制御装置によれば、可変電圧可変周波数手段は、モータをトルク指令電流と磁束指令電流に基づいて速度制御するように形成されており、
行先指令信号発生手段は、かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する。
トルク電流検出手段は、かごが上昇方向へ加速している時のモータに流れるトルク電流値を検出してトルク電流検出信号を発生する。かごが上昇方向へ走行する際には、かご内の荷重値が高くなると、モータからの発生トルクが大きくなるに従いトルク電流検出信号もかご側の総荷重値に比例して大きくなる。定格負荷判断手段は、トルク電流検出信号に基づいてかご内の荷重値を推定してかご内の荷重値がかごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断し、越えていないと軽負荷推定信号を発生する。
速度パターン生成手段は、下降方向行先指令信号の発生に基づいてかごを第1の定格速度により走行する第1の速度走行パターンを生成し、この第1の速度走行パターンを成す第1の速度指令信号を発生する。そして、速度パターン生成手段は、上昇方向行先指令信号が発生すると、第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成し、この暫定速度走行パターンを成す暫定速度指令信号を発生すると共に、軽負荷推定信号が発生すると、暫定速度走行パターンから移行して、トルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、この最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号を発生する。
これにより、無負荷を含む軽負荷でのかごの上昇方向の走行では、暫定速度走行パターンにより、かごが加速している際に、モータに流れるトルク電流値が低くなり、トルク電流検出信号も低くなる。このため、定格負荷判断手段から軽負荷推定信号が発生すると、速度パターン生成手段は、暫定速度走行パターンから移行して、トルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し最高速度指令信号を発生する。よって、速やかに、かごを加速して最高速度にできる。ここで、暫定速度走行パターンと最高速度走行パターンは、加速度を同一にすることが好ましい。暫定速度走行パターンから最高速度走行パターンに移行する際にかごを滑らかに加速できるからである。
したがって、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、エレベータの上昇方向の輸送効率を上げるために、荷重検出装置を設けることなく、常に駆動能力を過不足ない範囲で、かごの最高速度を第2の定格速度よりも速くできる。
【0009】
ここで、定格負荷判断手段の荷重閾値は、検出精度などから定格負荷の90%以下が好ましい。かご側の総荷重値は、かごの自重値とかご内の負荷に対応した荷重値との和により定まる荷重値であるから、かごの自重値を予め測定しておくと、トルク電流検出信号からかご内の荷重値を検知し得る。なお、かご側の総荷重値は、かごの自重値とかご内の負荷に対応した荷重値との和により定まる荷重値であるから、かごの自重値を予め測定しておくと、トルク電流検出信号からかご内の荷重値を検知し得る。
【0010】
ここに、定格速度とは、かご内が定格負荷の状態で、かごが一定速度により走行する速度をいう。最高速度は、かごの定格速度よりも速くかごを走行させれば良く、かごが最高速度に達する加速度は問わない。但し、加速度を一定にすれば、速度生成パターンが簡易に形成できる。殊に、ホームエレベータのように定格速度が低い用途では加速度を上げても輸送効率向上の寄与度が低いので、加速度を一定にする利点がある。
【0011】
第2の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置における前記トルク電流検出手段は、前記位置指令信号に基づいて前記かごが起動を開始してからカウントして予め定められた一定時間を経過するとカウント終了信号を発生するカウント手段と、
前記カウント終了信号に基づいて前記三相電流からトルク電流値を複数回演算すると共に、複数の前記トルク電流値を平均した平均トルク電流値を求めて、この平均トルク電流値に基づいて前記トルク電流検出信号を発生するトルク電流演算手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
このような制御装置によれば、カウント手段は、かごが起動を開始してからカウントして予め定められた一定時間を経過するとカウント終了信号を発生する。トルク電流演算手段は、カウント終了信号の発生に基づいてトルク電流値を複数回演算すると共に、複数のトルク電流値を平均した平均トルク電流値を求めて、この平均トルク電流値に基づいてトルク電流検出信号を発生する。
これにより、単に、一回での演算で求めたトルク電流値に基づいてトルク電流検出信号を得るよりも、複数のトルク電流値に基づいて得た平均トルク電流値によりトルク電流検出信号を発生するので、トルク電流検出信号の検出精度が向上する。したがって、速度パターン生成手段は、トルク電流検出信号に基づいて、精度の良い最高速度走行パターンを生成できる。
【0012】
第3の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置における前記定格負荷判断手段は、前記荷重閾値を越えたか否かを判断し、越えると定格負荷推定信号を発生するように形成されており、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記定格負荷推定信号に基づいて前記暫定速度走行パターンから移行して、前記第2の定格速度により前記かごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とするものである。
これにより、定格負荷判断手段は、トルク電流検出信号に基づいてかご内の荷重値を推定してかご内の荷重値がかごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断すると共に、越えると定格負荷推定信号を発生する。速度パターン生成手段は、定格負荷推定信号に基づいて第2の速度によりかごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、第2の定格速度指令信号を発生する。これにより、上記荷重閾値を定格負荷よりも僅かに軽い値となる荷重閾値を設定することにより、かご内の定格負荷よりも僅かに軽い状態から定格負荷とみなして、確実にかごを上昇方向へ第2の定格速度により走行できる。
【0013】
第4の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置における前記速度パターン生成手段は、さらに、前記暫定速度指令信号に基づく前記かごの第1の加速度は、前記第1の定格速度指令信号に基づく前記かごの第2の加速度よりも緩やかである、
ことを特徴とするものである。
これにより、上昇側のかごの加速度が下降側よりも緩やかになるため、トルク電流検出手段及び定格負荷判断手段の演算に時間的な余裕ができる。したがって、より精度良く、トルク電流検出手段からトルク電流検出信号を発生できると共に、定格負荷判断手段から定格負荷推定信号等を発生できる。
【0014】
第5の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生する最高速度中断手段と、
前記第1及び第2の速度切換え判断手段は、さらに、前記最高速度中断オン信号に基づいて前記速度切換えオフ信号を発生する、ことを特徴とするものである。
ここで、スイッチをオン(オフ)にしてオン信号(オフ信号)発生すると、最高速度中断手段は、最高速度中断オン信号を発生する。時計装置により、設定された時間帯で、オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生するものを例示できる。さらに、外部システムからオン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生しても良い。ここに、外部システムとは、巻胴式エレベータ以外の電気機器を含めて全体で省エネルギーを図るエネルギーマネジメントシステムを例示できる。これにより、深夜の時間帯の騒音減少、省エネルギーなどで、かごを定格速度以上で運転することを利用者が望まない場合にも簡易に対応できる。
【0015】
第6の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、前記モータの回転に基づいて速度検出して速度検出信号を発生する速度検出手段と、
前記最高速度指令信号と前記速度検出信号との差となる速度偏差値を求める速度偏差手段と、
前記速度偏差値が予め定められた速度偏差閾値を越えると、最高速度制限信号を発生する最高速度制限手段と、を備え
前記速度パターン生成手段は、前記最高速度制限信号の発生した時の前周期となる前記最高速度指令信号に基づいて、前記かごを一定走行させる、
ことを特徴とするものである。
【0016】
これにより、最高速度走行パターンにより、かごが加速している時に速度偏差値が速度偏差閾値を越えると、最高速度制限手段から最高速度制限信号を発生して、前周期の最高速度指令信号によりモータを制御して、かごを制限された最高速度により一定速走行する。これにより、最高速度指令信号にモータの回転が追従しやすくなる。したがって、速度偏差も減少して、モータの速度制御系が適切にフィードバック制御を維持できるので、かごを安定走行できる。
上記最高速度制限手段は、かごの上昇走行において、速度検出信号が定格速度を越えるとオフからオンに切換る速度スイッチ手段のオンに基づいて動作するようにしても良い。かごが定格速度を越えて最高速度により走行する際の最高速度指令信号に基づくモータの追従性の安全性を担保するためである。
【0017】
第7の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、前記かごが前記定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、前記かごが前記定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断手段と、
前記表示オン信号に基づいて定格速度を越えてかごが走行していることを文字、図形、音声のいずれか一つで表現すると共に、前記表示オフ信号に基づいて前記表現を消滅する表示手段を、備えることが好ましい。
これにより、かごが定格速度を越えて走行していることを表示手段に表現することにより、エレベータの利用者が視覚などで確認でき、利便性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、エレベータの上昇方向の輸送効率を上げるために、かご内の荷重を検出する荷重検出装置を設けることなく、モータに流れるトルク分電流を検知し、このトルク電流に応じて、かごを上昇方向へエレベータの定格速度よりも速い走行速度を実現し得る巻胴式エレベータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施の形態による巻胴式エレベータの全体図である。
図2図1による巻胴式エレベータの制御装置によるかごの定格速度、最高速度と時間との関係を示す走行曲線図である。
図3図1による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
図4図3によるトルク電流検出部の詳細を説明するブロック図である。
図5図1による巻胴式エレベータの制御装置用いて、暫定速度走行パターンから最高速度走行パターン又は定格速度走行パターンに移行を示すかごの上昇方向への走行速度と時間との関係を示す走行曲線図とトルク電流検出信号及び負荷推定信号の発生を示すタイムチャートである。
図6図1による巻胴式エレベータの制御装置において、最高速度制限信号が発生した場合のかごの上昇方向への走行速度と時間との関係を示す走行曲線図(a)、最高速度制限信号が発生の前後の最高速度指令信号と時間との関係を示すタイムチャート(b)である。
図7図2による巻胴式エレベータのかごが上昇方向に走行する際の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図8図7における結合子Aの続きとなる巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
図9図8における結合子Bの続きとなる巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
図10図9におけるステップS203のトルク電流の検出動作となるサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1から図5によって説明する。図1は、本発明の一実施の形態による巻胴式エレベータである。図1において、個人住宅などに施設される巻胴式エレベータ1は、3停止で、かご3の上端部にロープ5の一端部が連結固定され、昇降路の上部に設けられた吊り車7を介して、ロープ5の他端部が昇降路の下部に設けられた巻上機9の巻胴9dに連結固定されている。加えて、巻胴式エレベータ1は、巻胴9dの軸に回転軸が連結固定された三相交流誘導モータ11を有しており、巻上機9には、巻胴9dを拘束開放可能なブレーキ9bを設けている。
【0021】
かご3内には、行先階を指定すると共に、押されることによりかご呼び信号を発生するかご呼び釦23が設けられている。加えて、かご3内には、かご3が定格速度よりも速い最高 速度で走行していることを表示したり、音声を発したりする音声発声機能付きの表示器400を有している。そして、乗り場の各階には、かご3を目的の乗場階に呼ぶ乗り場呼び釦31~33が設けられており、乗り場呼び釦31~33が押されると、乗り場呼び信号を発生するように形成されている。なお、乗り場呼び信号とかご呼び信号とを併せて呼び信号という。
【0022】
巻胴式エレベータ1は、モータ11を駆動制御する巻胴式エレベータの制御装置100を有している。制御装置100は、モータ制御器300からの速度指令信号に基づいて電力変換器500から三相交流の可変電圧Eと可変周波数fとを発生して三相誘導モータ11を駆動制御している。加えて、モータ11の回転位置を検出して位置検出信号を発生するエンコーダ13が設けられており、位置検出信号がモータ制御器300に入力されている。モータ制御器300は、電力変換器500を介してモータ11をベクトル制御により、トルク電流指令と磁束電流指令に基づいて制御すると共に、磁束電流指令が一定で、モータ11の磁気飽和を防止するために、E/fを一定として制御している。
【0023】
モータ制御器300には、かご3が上昇方向に走行する際に、定格速度を越えて走行することを中断させ得る最高速度中断信号が入力されており、かご3の行先階を指令する行先指令信号が入力され、モータ11に流れるトルク電流を検出して発生したトルク電流検出信号も入力され、トルク電流検出信号に基づいて、発生する負荷推定信号も入力されており、さらに、かご3を最高速度走行への加速を停止する最高速度制限信号も入力されている。
【0024】
図1及び図2おいて、速度パターン生成部303は、下降方向への走行では、かご3内の負荷に拘らず第1の定格速度Vn1により走行する第1の定格速度走行パターンを発生すると共に、上昇方向への走行では、かご3を第2の定格速度Vn2を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンと、かご3を第2の定格速度により走行する第2の速度走行パターとを生成するように形成されている。ここで、上昇方向のかご3の最高速度は、第2の定格速度を越えて最も速い最高速度Vmの範囲となっており、最も速い最高速度Vmは、第1の定格速度Vn1と等しくなっていることが好ましい。すなわち、上昇方向のかご3の最高速度は、第2の定格速度を越えて最も速い第1の定格速度Vn1の範囲となっていることが好ましい。エレベータ輸送効率の向上と安全性を確保するためである。
【0025】
図3において、制御装置100には、モータ制御器300を有し、モータ制御器300には、最高速度中断部205から発生した最高速度中断信号、行先指令発生部210から発生した行先指令信号、定格負荷推定部220から発生した定格負荷推定信号が入力され、エンコーダ13の位置検出信号により生成された速度検出信号が入力され、この速度検出信号が表示器400にも入力されている。
【0026】
最高速度中断部205は、かご3が上昇方向に走行する際に、定格速度を越えて走行することを中断させ得る最高速度中断信号を発生するもので、中断スイッチ205sがオフからオンにしてオン信号により最高速度中断オン信号を発生して、モータ制御器300に入力すると、かご3を第2の定格速度により走行させる。加えて、最高速度中断信号部205は、暦により指定された日の時間帯を設定して、この時間帯にオン信号を発生するパルス時計205tを有し、この時間帯に限り最高速度中断オン信号を発生してモータ制御器300に入力すると、かご3を第2の定格速度により走行させる。設定された時間帯が深夜であれば、巻胴式エレベータ1の駆動源等から発生する騒音を減少でき、静粛性を得ることができる。なお、パルス時計205tは、設定された時間帯以外はオフ信号を発生している。
【0027】
さらに、中断スイッチ205s、パルス時計205tは、外部システムからのオン信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生できる。ここで、外部システムとは、巻胴式エレベータ1以外の電気機器を含めたホーム全体で、省エネルギーを図るエネルギーマネジメントシステムを例示でき、HEMSがある。最高速度中断オン信号は、中断スイッチ205s、パルス時計205tのいずれから発生しても、かご3が最高速度になることを中断して定格速度でかご3を走行できる。ここで、最高速度中断オン信号と、最高速度中断オフ信号とを併せて、最高速度中断信号という。
【0028】
行先指令発生部210は、呼び信号と、かご3の停止階を示す停止階信号と、が入力されると、かご3の行先階と行先方向となる上昇方向行先指令信号又は下降方向行先指令信号を発生するもので、かご3が停止していて、かご3が上昇しようとすると、上昇方向行先信号を発生すると共に、かご3が停止していて、かご3が下降しようとすると、下降方向行先指令信号を発生するように形成されている。ここで、停止階信号は、かご3のドアが開放可能なドアゾーンに位置すると共に、停止していると発生するように形成されている。停止は速度検出信号により判断できる。
かご3が上昇又は下降しようとすることは、呼び信号と、停止階信号とから判断できる。なお、上昇方向行先指令信号と下降方向行先指令信号を併せて行先指令信号という。
【0029】
図4において、定格負荷推定部220は、かご3が上昇方向へ加速している時のモータ11に流れる三相電流を検出すると共に、三相から磁束とトルクとの直交座標に座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出部230を有している。トルク電流検出部230には、エンコーダ13から発生した位置指令信号により生成された速度検出信号により、図5に示すように、かご3が起動を開始してからカウントして予め定められた一定時間t1を経過するとカウント終了信号を発生するカウント部232と、トルク電流演算部234とを有している。トルク電流演算部234は、カウント終了信号に基づいて、かご3が加速している際の時間t1から時間t2までの間に上記三相電流から電流トルク電流値を複数回としてのN回を演算して、一回度にトルク電流値を記憶部236に記憶し、N回に達すると、記憶部236から読み出したN回のトルク電流値を平均した平均トルク電流値を求めて、この平均トルク電流値に基づいて第1のトルク電流検出信号Iqaを発生するように形成されている。
【0030】
定格負荷推定部220は、第1のトルク電流検出信号に基づいてかご3内の荷重値を推定してかご3内の荷重値がかご3の定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断して、越えると定格負荷推定信号を発生すると共に、越えないと軽負荷推定信号を発生する定格負荷判断部240を備えている。ここで、荷重閾値は、検出精度などからかご3の定格負荷の90%が好ましい。なお、かご3側の総荷重値は、かご3の自重値とかご3内の負荷に対応した荷重値との和により定まる荷重値であるから、かご3の自重値を予め測定しておくと、第1のトルク電流検出信号からかご3内の荷重値を検知し得る。また、定格負荷推定信号と軽負荷推定信号とを併せて、負荷推定信号という。
【0031】
表示器400には、かご3が定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、かご3が定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断部402を有しており、表示部404には、表示オン信号の発生に基づいて定格速度を越えてかご5が走行していることを文字、図形で表示したり、音声を発したりすると共に、表示オフ信号に基づいて文字などの表現を消滅するものである。
【0032】
モータ制御器300は、かご3の現在位置から目的階の位置まで走行するための位置指令信号を生成する位置指令部301を有しており、エンコーダ13からの位置検出信号と位置指令信号との差を求める位置減算器epにより位置偏差信号を得ている。速度パターン生成部303は、位置偏差信号の入力を受けて、下降方向行先指令信号の発生に基づいてかご3を第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生するように形成されている。
【0033】
図2及び図5において、速度パターン生成部303は、上昇方向行先指令信号が発生すると、第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成し、この暫定速度走行パターンを成す暫定速度指令信号を発生すると共に、軽負荷推定信号が発生すると、暫定速度走行パターンから移行して、第1のトルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、この最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号を発生するように形成されている。さらに、速度パターン生成部303は、定格負荷推定信号に基づいて暫定速度走行パターンから移行して、第2の定格速度によりかご3を上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生するように形成されている。ここで、暫定速度走行パターンと最高速度走行パターンは、加速度を同一になっている。暫定速度走行パターンから最高速度走行パターンに移行する際にかご3を滑らかに加速できるからである。
【0034】
図5に示すように、速度パターン生成部303は、上昇方向行先指令信号が発生すると、第2の定格速度以上により走行する暫定速度走行パターンを生成して、暫定速度指令信号により、かご3を加速すると、トルク電流検出部230は、時間t2で、トルク電流検出信号を発生する。定格負荷判断部240から時間t2で、軽負荷推定信号が発生すると、暫定速度走行パターンから移行して、第1のトルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成する。一方、定格負荷判断部240から時間t2で、定格負荷推定信号が発生すると、暫定速度走行パターンから第2の定格速度走行パターンに移行して、第1のトルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度によりかご3を上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成するように形成されている。なお、図5に示すように、かご3の加速における暫定走行パターンから最高速走行パターン又は第2の定格速度走行パターンへの移行点を示している。
【0035】
モータ制御器300は、エンコーダ13の位置検出信号を微分器321により速度検出信号を得て、この速度検出信号と、速度パターン生成部303からの速度指令信号との差を求める速度減算器evにより速度偏差信号を得ている。速度制御部305は、速度偏差信号の入力を受けて、トルク指令信号(電流指令信号)を生成するように形成されている。
電流検出器331は、モータ11に流れる三相電流を検出して、この三相電流を電流検出座標変換部333に入力され、電流検出座標変換部333は、三相から磁束とトルクとの直交座標に座標変換してトルク電流値を推定して第2のトルク電流検出信号Iqsを発生するように形成されている。トルク制御部307は、第2のトルク電流検出信号Iqsと、電流指令信号との差を求める電流減算器eiにより電流偏差信号を入力していて、出力から発生したトルク指令信号により電力変換器500を介してモータ11を駆動制御している。
【0036】
最高速度制限部335は、かご3の上昇走行において、速度偏差信号が定格スイッチ333を介して入力され、速度偏差値が予め定めた速度偏差閾値を越えると、図6(a)に示すように、最高速度制限信号を速度パターン生成部303に入力する。これにより、速度パターン生成部303は、かご3を最高速度走行への加速をやめて、前周期の最高速度指令信号に切換えて、前周期の最高速度指令信号により制限された最高速度Vemとなる一定速度によりかご3を走行する最高速度制限パターンを生成し、最高速度制限パターンを成す最高速度指令信号を発生するように形成されている。ここで、定格スイッチ333は、第2の定格速度を越えると、オフからオンするように形成されている。また、図6(b)に示すようにデジタル処理では、速度偏差値が速度閾値を越える現在周期の最高速度指令信号から前周期の最高速度指令信号となる。
【0037】
上記のように構成された巻胴式エレベータの制御装置の動作を図1から図10によって説明する。図7から図10図2による巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
<かごが軽負荷で最高速度により走行する場合>
図7において、行先指令発生部210は、乗り場呼び釦31~33又はかご呼び釦21が押されたか否かを呼び信号の発生により判断し(ステップS101)、呼び信号及び停止階信号が発生すると、かご3の到着する目的階を定めて、行先指令信号を位置指令部301に入力する(ステップS103)。位置指令部301は、かご3が停止階から走行して到着する目的階までの位置(距離)を設定する(ステップS105)。これにより、位置指令部301は、設定された位置に基づいて位置指令信号を生成する。
【0038】
行先指令発生部210から上昇方向行先指令信号が発生すると(ステップS107)、速度パターン生成部303は、最高速度中断部205から最高速度中断オン信号が入力されていないと判断すると(ステップS109)、暫定速度走行速度パターンを生成して暫定速度指令信号を発生する(ステップS111)。制御装置100は、モータ11のブレーキ9bを開放する(ステップS113)。
【0039】
次に、図3において、最高速度指令信号と速度検出信号との差を速度減算器evに求めた速度偏差信号を速度制御部305に入力すると、速度制御部305は電流指令信号を生成して、第2のトルク電流検出信号との差を電流減算器eiに求めた電流偏差信号をトルク制御部307に入力する。図8において、トルク制御部307は、電力変換器500を介してモータ11を駆動制御してかご3を加速する(ステップS201)。トルク電流検出部230は、上昇方向へ加速している時のモータ11に流れるトルク電流値を検出して第1のトルク電流検出信号を発生する(ステップS203)。定格負荷判断部240は、第1のトルク電流検出信号に基づいてかご3内の荷重値を推定して、その荷重値がかご3の定格負荷の90%未満のため、軽負荷推定信号が発生して速度パターン生成部303に入力する(ステップS207)。
【0040】
速度パターン生成部303は、図2に示すように軽負荷推定信号と第1のトルク電流検出信号により、かご3内の荷重値が低ければ低いほど、かご3の最高速度値を連続的に速くする最高速度走行パターンを生成する(ステップS209)。速度パターン生成部303は、暫定速度走行パターンから移行して、トルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、最高速度指令信号を発生して、速度制御部305等を介してモータ11を駆動制御して、かご3を加速する。
【0041】
次に、最高速度制限部335は、速度偏差値が予め定められた速度偏差閾値を越えた否かを判断して越えなければ(ステップS211)、表示器400の表示判断部402は、かご3が定格速度を越えたか否かを速度検出信号によって判断する(ステップS213)。定格速度を越えると、表示器400の表示部404に、かご3が「最高速度」になっていることを文字で表示する(ステップS215)。速度制御部305は、速度指令信号から定められた最高速度にかご3が達するか否かを判断する(ステップS217)。
【0042】
図9において、かご3が定められた最高速度に達すると、かご3を最高速度により一定速走行する(ステップS301)。やがて、かご3が減速位置に達すると(ステップS303)、速度パターン生成部303から最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号により、速度制御部305等を介してモータ11を駆動制御し、かご3が目的階までの距離に合わせて減速し(ステップS305)、表示器400の表示判断部402は、速度検出信号からかご3が定格速度よりも低下したか否かを判断し(ステップS307)、定格速度よりも低下すると、表示部404に表示されていた「最高速度」の表示を消滅する(ステップS309)。やがて、かご3が目的階に到着すると(ステップS311)、制御装置100は、ブレーキ9bを拘束して巻上機9を制動してかご3を制止する(ステップS313)。
【0043】
<ステップS203におけるサブルーチンによるトルク電流検出>
上記ステップS203について図4及び図5図10を参照して説明する。図10図9におけるステップS203のトルク電流の検出動作となるサブルーチンを示すフローチャートである。
トルク電流検出部230のカウント部232は、速度検出信号により、かご3が起動を開始すると、時間のカウントを開始し(ステップS501)、予め定められた一定時間t1を経過すると、カウント終了信号を発生する(ステップS503)。トルク電流演算部234は、カウント終了信号が発生すると、時間t1から時間t2までの間にモータ11に流れる検出された三相電流からトルク電流値をN回演算して、一回度にトルク電流値を記憶部236に記憶し(ステップS505)、N回演算すると(ステップS507)、記憶部236から読み出したN回のトルク電流値を平均した平均トルク電流値を求めて、この平均トルク電流値に基づいてトルク電流検出信号Iqaを発生する(ステップS509)。
【0044】
<かごを定格速度により走行する場合>
図7に示す上記ステップS107において、行先指令発生部210から下降方向行先指令信号が発生すると、かご3を第1の定格速度により、かご3を下降方向へ走行する(ステップS115)。ここで、かご3の下降方向への走行は、上昇方向よりも走行速度が速く設定されているので、かご3を最高速度にする必要がないからである。
また、図7に示す上記ステップS109において、最高速度中断部205から最高速度中断オン信号が速度パターン生成部303に入力されると、かご3を第2の定格速度により、かご3下降方向へ走行する(ステップS115)。最高速度中断オン信号を優先してかご3を走行させるからである。
【0045】
図8に示すステップS207において、定格負荷判断部240からの定格負荷推定信号が発生すると、速度パターン生成部303は、定格負荷推定信号に基づいて暫定速度走行パターンから移行して、第2の定格速度によりかごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、第2の定格速度指令信号を発生する(ステップS221)。この第2の定格速度指令信号により、速度制御部305等を介してモータ11を駆動制御し、かご3を第2の定格速度により走行する(ステップS223)。
【0046】
<かごを目標の最高速度により走行を試みたが目標よりも低い速度に切換える場合>
図8に示すステップS211おいて、最高速度制限部335は、速度偏差値が予め定めた速度偏差閾値を越えると、最高速度制限信号を速度パターン生成部303に入力する。これにより、速度パターン生成部303は、かご3を最高速度走行への加速をやめて、速度偏差値を越える前周期(前回)の最高速度指令信号に切換えて、前周期の最高速度指令信号により一定速度となる制限された最高速度によりかご3を走行する(ステップS231)。何らかの原因により最高速度指令信号にモータ11が追随できていなからである。そして、速度パターン生成部303は、最高速度から制限された最高制限速度で走行するため、図6(a)に示すように、新たに最高速度制限走行パターンを生成する。(ステップS233)。速度制御部305は、この走行パターンに基づいて速度指令信号を発生しながらモータ11を駆動してかご3を制限された最高速度Vemにより一定走行する(ステップS235)。
【0047】
本実施の形態によれば、速度パターン生成部303は、軽負荷推定信号と第1のトルク電流検出信号とに基づいてかご3の定格速度よりも速い最高速度でかご3を走行するための最高速度走行パターンを生成して、最高速度指令信号を発生する。よって、軽負荷推定信号と第1のトルク電流検出信号とにより、かご3内の荷重値が低ければ低いほど、かご3の最高速度値を連続的に速くすることができる。これにより、かご内の荷重を荷重検出装置により検出することなく、モータ11、電力変換器500などの定格容量の範囲で、かご3の最高速度値をより速くできるので、効率的であると共に、輸送効率もより向上できる。
【0048】
本発明は、上記発明の実施の形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本実施の形態では、三相誘導モータ11としたが、三相同期モータでも同様の作用効果を奏する。
【0049】
また、速度パターン生成部303は、上昇側の暫定速度指令信号に基づいて、かご3の第1の加速度は、下降側の第1の定格速度指令信号に基づくかご3の第2の加速度よりも緩やかであることが好ましい。上昇側のかごの加速度が下降側よりも緩やかになるため、トルク電流検出部230、定格負荷判断部240の演算に時間的な余裕ができるので、より精度の良いトルク電流検出信号、負荷推定信号を発生できる。
【0050】
速度パターン生成部303は、第1のトルク電流検出信号に基づいて第2の定格速度を越えて最高速度により走行する最高速度走行パターンを生成し、この最高速度走行パターンを成す最高速度指令信号を発生したが、上記最高速度は、第1の定格速度までにすることが好ましい。安全上の観点である。
【0051】
例えば、図3において、定格速度スイッチ333を省き、最高速度制限部335には、速度偏差信号を直接入力しても良い。この構成によれば、かご3の加速開始から最高速度制限部335は、速度偏差値が速度偏差閾値を越えると最高速度制限信号を発生するので、かご3が定格速度よりも遅くなることがある。この場合には、明らかに異常であるので、表示判断部402が速度検出信号に基づいてかご3が定格速度に達していないことを判断して、表示器400にその旨を表示することが好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 巻胴式エレベータ、3 かご、5 ロープ、9 巻上機、9d 巻胴、11 モータ、13 エンコーダ、100 エレベータの制御装置、205 最高速度中断部(最高速度中断手段)、210 行先指令発生部(行先指令信号発生手段)、230 トルク電流検出部(トルク電流検出手段)、232 カウント部(カウント手段)、234 トルク電流演算部(トルク電流演算手段)、240 定格負荷判断部(定格負荷判断手段)、303 速度パターン生成部(速度パターン生成手段)、335 最高速度制限部(最高速度制限手段)、400 表示器、402 表示判断部(表示判断手段)、404 表示部(表示手段)、500 電力変換器(可変電圧可変周波数手段)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10