(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127855
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】フライホイール蓄電装置のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータとその設計方法
(51)【国際特許分類】
F16C 15/00 20060101AFI20220825BHJP
H02K 7/02 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
F16C15/00
H02K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026068
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】521344607
【氏名又は名称】ネクスファイ・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝
【テーマコード(参考)】
3J103
5H607
【Fターム(参考)】
3J103AA09
3J103BA46
3J103FA20
3J103GA05
3J103GA52
3J103HA06
3J103HA31
3J103HA41
3J103HA51
5H607EE42
(57)【要約】
【課題】与えられた条件に応じて最適な構造を有するフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ、及びそのロータを容易に得ることができる設計方法を提供する。
【解決手段】面対称な上面と下面とを有し、外周半径をb、回転中心の厚みをh
0とする外形を有し、回転中心から接続半径aまで厚みが単調減少する減厚領域と、その外縁であって接続半径aから外径bまで厚みh
a一定となる定厚領域とを備える。外周半径b、回転中心厚h
0、接続半径a、及び外縁厚h
aとからなる形状パラメータが、次式を満足する。
【数1】
ここでνはロータ材料のポアソン比である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に垂直な1中心回転面に対して面対称な上面と下面とを有し、外周半径をb、回転中心の厚みをh
0とする外形を有し、回転中心から接続半径aまで厚みが単調減少する減厚領域と、その外縁であって接続半径aから外径bまで厚みh
a一定となる定厚領域とを備えた形状のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、
外周半径b、回転中心厚h
0、接続半径a、及び外縁厚h
aとからなる形状パラメータが、次式を満足することを特徴とするフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【数1】
ここでνはロータ材料のポアソン比である。
【請求項2】
前記接続半径a及び外縁厚haは、回転角速度に依存することなく設定されていることを特徴とする請求項1記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【請求項3】
前記減厚領域は、その面内応力が該減厚領域全域において常に不変となる形状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【請求項4】
前記定厚領域は、その面内応力が、回転中心から外周半径bに近づくに従い前記減厚領域の面内不変の応力値から単調減少する形状に形成されていることを特徴とする請求項3記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【請求項5】
前記減厚領域の厚みhは次式で表されることを特徴とする請求項1~4の何れか1項記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【数2】
【請求項6】
前記減厚領域が面内応力σ
aを発生させて回転しているとき、回転角速度ωは次式で表されることを特徴とする請求項1~5の何れか1項記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【数3】
ここでρはロータ材料の密度である。
【請求項7】
ロータ材料の降伏強度をσ
yとするとき、限界エネルギー密度D
FRが、次式で表されることを特徴とする請求項1~6の何れか1項記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータ。
【数4】
【請求項8】
請求項1記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータを設計する方法であって、
前記外周半径b、前記回転中心厚h0、前記接続半径a、前記外縁厚haの4つのパラメータのうち、何れか3つのパラメータが与えられ、残りの1つのパラメータを決定することを特徴とするフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの設計方法。
【請求項9】
請求項7記載のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータを設計する方法であって、
フライホイール外向減厚型中実円盤ロータの前記限界エネルギー密度DFR、質量、前記外周半径b、前記回転中心厚h0、前記接続半径a、及び前記外縁厚haの6つのパラメータうち、何れか3つのパラメータが与えられ、残りの3つのパラメータを決定することを特徴とするフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を回転体の運動エネルギーとして蓄積するフライホイール蓄電装置の主要要素、フライホイールロータの限界質量エネルギー密度向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フライホイール蓄電装置は、電力と回転運動エネルギーとを相互に変換する手段を介して、外部の電力をフライホイールに蓄電したり、逆に、フライホイールの電力を外部に給電したりする機能を備えた装置である。
【0003】
今日、普及している電気化学蓄電装置(所謂二次電池)と比較すると、低温環境でも高温環境でも安定して機能する、充放電を繰り返しても特性や寿命の劣化がほとんど起こらない、入出力密度を自在に設計変更できる、内部抵抗が小さい、など優れた特長を有している。
【0004】
フライホイール蓄電装置を用いれば、旧来の二次電池を利用した電気機器やシステムの耐環境性や省エネルギー、メンテナンス性の向上を図ることが可能である。こうした理由を背景にフライホイール蓄電装置の一層の普及と適用領域の拡大が強く嘱望されている。
【0005】
周知のように、フライホイールロータは、回転質量円盤中央に貫通円孔を有する中空円盤(または円輪)ロータと、回転質量円盤中央に貫通円孔を有していない中実円盤ロータとに大別される。
【0006】
本発明はこのうち、後者の中実円盤ロータに関するものであって、特に、単一の等方性バルク材料または弱異方性バルク材料から構成される中実円盤ロータの限界エネルギー密度DFRの向上に関わる発明である。同じ外径のロータを同じ角速度で回転させたとき、中実円盤ロータには回転応力(最大値)が中空円盤ロータの約半分になる、という優れた特徴がある。
【0007】
一般に、フライホイール蓄電装置の性能を高めるための重要課題のひとつは、フライホイールロータの限界エネルギー密度、即ち、ロータ単位質量当たりに蓄電できる限界エネルギー密度DFRを増大させることである。この「限界」の意味は、フライホイールロータ内部全体に生じる回転応力σ(半径応力σrか周応力σθ)の最大値σMAXがロータ材の降伏強度σyに達っした時の状態を指している。最も単純な中実平板円盤ロータでは、回転応力は回転中心に最大値σMAXがあって、半径とともに単調減少する分布を示す。
【0008】
中実平板円盤ロータの厚みが外周に向かって薄くなるよう減厚させたロータを作成すると、回転応力の分布が全体に平坦化されて、最大回転応力σMAXが軽減される。この効果により、破壊角速度ωが増大し、限界エネルギー密度DFRを向上できることが知られている。ただし、この外向減厚型円盤の上面と下面の形状はロータの水平中心面に対して面対称であるものとする。
【0009】
従来より、下記特許文献1に記載されているフライホイール外向減厚型円盤ロータが知られている。このロータは、非特許文献1の中で討論された無限半径を有する外向減厚型中実円盤ロータ(所謂Stodolaロータ)を、有限半径Rで適用できるように成した変形であって、中心から或る半径RCまで関数t(r)=t0exp(-Cr2)に従って厚みtを減少させる「減厚領域」と、半径RCから外周(外径R)までは厚みをT=t0exp(-CRC
2)=一定とする「定厚領域」と、からなる構成をしている。この式中の記号rは円盤内の任意の半径、t0は円盤の中心の厚み、Cは減厚領域の厚みの減少度を決める係数で、C=ρω2/2S0、ρはロータ材料の密度、ωはロータの破壊回転角速度、S0はロータ材料の降伏強度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A. Stodola, “Steam and Gas Turbines,” The McGraw-Hill Book Company, Inc., New York, N.Y., 1927
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の特許文献1記載の中実円盤ロータにおいては、定数Cの成分に未知数である破壊回転角速度ωが含まれているため、ロータの構造(具体的には、関数t(r)やR)が定まらない。更に、外径RとRCとの関係が不定であるため、応力分布や限界エネルギー密度DFRを解析的に予見することが困難である。したがって、最適な構造の中実円盤ロータを得るのが容易でないという問題があった。
【0013】
上記の問題点に鑑み、本発明は、与えられた条件に応じて最適な構造を有するフライホイール外向減厚型中実円盤ロータと、当該フライホイール外向減厚型中実円盤ロータを容易に得ることができる設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、回転軸に垂直な1中心回転面に対して面対称な上面と下面とを有し、外周半径をb、回転中心の厚みをh0とする外形を有し、回転中心から接続半径aまで厚みが単調減少する減厚領域と、その外縁であって接続半径aから外径bまで厚みha一定となる定厚領域とを備えた形状のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、外周半径b、回転中心厚h0、接続半径a、及び外縁厚haとからなる形状パラメータが、次式を満足することを特徴とする。
【0015】
【数1】
ここでνはロータ材料のポアソン比である。
【0016】
また、本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、前記接続半径a及び外縁厚haは、回転角速度に依存することなく設定されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、前記減厚領域は、その面内応力が該減厚領域全域において常に不変となる形状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、前記定厚領域は、その面内応力が、回転中心から外周半径bに近づくに従い前記減厚領域の面内不変の応力値から単調減少する形状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、前記減厚領域の厚みhは次式で表されることを特徴とする。
【0020】
【0021】
また、本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータにおいて、前記減厚領域が面内応力σaを発生させて回転しているとき、回転角速度ωは次式で表されることを特徴とする。
【0022】
【0023】
ロータ材料の降伏強度をσyとするとき、限界エネルギー密度DFRが、次式で表されることを特徴とする。
【0024】
【0025】
また、本発明は、上記構成のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの設計方法であって、前記外周半径b、前記回転中心厚h0、前記接続半径a、前記外縁厚haの4つのパラメータのうち、何れか3つのパラメータが与えられ、残りの1つのパラメータを決定することを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、上記構成のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの設計方法であって、フライホイール外向減厚型中実円盤ロータの前記限界エネルギー密度DFR、質量、前記外周半径b、前記回転中心厚h0、前記接続半径a、及び前記外縁厚haの6つのパラメータうち、何れか3つのパラメータが与えられ、残りの3つのパラメータを決定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの構成を示す説明的断面図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの外形プロファイルを示すグラフ。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの半径方向限界(破壊)応力分布を示すグラフ。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの形状基礎方程式とエネルギー密度(D
FR)方程式をa/bとh
a/h
0の関数としてプロットしたグラフ。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係るフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの形状基礎方程式とロータ質量(m
ab)方程式をa/bとh
a/h
0の関数としてプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの実施形態を図面を参照して説明する。ただし、これら図面では、理解を容易にするために、厚さと平面寸法との関係や各層の厚さの比率などは誇張して描いている。また、同一部材には同一符号を付して再度の説明は省略する。
【0029】
まず、
図1の断面図を使って本発明のフライホイール外向減厚型中実円盤ロータの構造や、同構造で成立する関係式、得られる効果などについて説明する。
【0030】
図1は、フライホイール外向減厚型中実円盤ロータ1(以下、単にロータ1という)を任意の回転角で回転軸11に沿って切断したときの断面図である。ロータ1をどの回転角で切断しても形は
図1と同じである。直線12はロータ1の水平中心面を表しており、回転軸11に対して垂直である。
【0031】
図1に示したように、ロータ1は、回転軸11を中心に置いて、外周の半径がb(直径は2b)の円盤である。ロータ1は、3つの表面、即ち、上面13A、下面13B、側面14を備えている。上面13Aと下面13Bとは前記水平中心面12に対して面対称(断面図上では線対称)である。
【0032】
ロータ1の材料は、等方性または弱異方性を呈する固体材料であって、例えば、金属、セラミクス、ポリマー(固体樹脂)などが該当するが、これらに限らない。
【0033】
以降、ロータ1に使用する材料の密度ρ、降伏強度σy、ポアソン比νとし、これらを材料パラメータと総称することにする。
【0034】
回転軸11から半径rの距離の上面13Aと下面13Bの厚みをh(r)とすると、ロータ1は、外周に向かって厚みhが薄くなって行く減厚領域15Aと、減厚領域15Aの外縁にあって、厚みhが一定である定厚領域15Bとに区分される。減厚領域15Aと定厚領域15Bの境界を与える半径が接続半径a(直径2a)である。
【0035】
ロータ1の中心11の厚み(回転中心厚)はh0、定厚領域25Bの厚み(外縁厚)はhaで表す。これら厚みh0、haと前記外周半径b、接続半径aと併せて、以下、形状パラメータと総称することにする。
【0036】
ロータ1において、減厚領域15A(0≦r≦a)の厚みhは下記の関数式(1)で表される。
【0037】
【数5】
図1から、h
a<h
0であることは明らかであるから上記式(1)におけるr
2の係数
【0038】
【数6】
は、正ではなく負の定数である。よって、hはrが大きくなるに従ってゼロに漸近する減少関数である。
【0039】
上記関数式(1)には回転角速度ωが含まれていないから、ロータ1の減厚領域15Aの形状は、回転角速度に依存しないことがわかる。
【0040】
上記式(1)にr=aを代入するとh(a)=h
aとなり、この値は定厚領域25Bの厚みと一致する。つまり、減厚領域15Aと定厚領域15Bの接続半径a地点の上下面(13A、13B)表面には段差がなく、
図1のように、連続していることがわかる。
【0041】
ロータ1においては、形状パラメータh0、ha、b、aは次の形状基礎方程式(2)で関連付けられている。この点も本発明ロータの際立った特徴の1つである。
【0042】
【数7】
ただし、0<a/b<1、0<h
a/h
0<1、νはロータ材料のポアソン比である。
【0043】
上記形状基礎方程式(2)は式(2)’のように表すこともできる。
【0044】
【0045】
ロータ1は形状基礎方程式(2)を満たす結果、減厚領域15A(0≦r≦a)で発生する回転面応力σa(=周応力σaθ=半径応力σar)は、面内位置(半径r)に依存せず、どこでもσa=一定である、即ち、理想的に平均化されている、という効果が得られる。
【0046】
減厚領域15Aの回転面応力σaとロータの回転角速度ωとは次式(3)で関連付けられている。
【0047】
【数9】
この関係はロータ1が破壊する瞬間まで、言い換えれば、減厚領域15Aの回転応力σ
aがロータ材料の降伏強度σ
yに到達するまで成立する。即ち、ロータが降伏するときの破壊回転角速度ω
yとすると次式(3)’が成立する。
【0048】
【0049】
一方、ロータ1の定厚領域15B(a≦r≦b)で発生する回転面応力σbは、周応力σbrが次式(4)で表され、
【0050】
【数11】
半径応力σ
bθが次式(5)で表される。
【0051】
【数12】
上式(4)(5)中のσ
aは減厚領域15Aの回転面応力である。
【0052】
上記σ
br、σ
bθの式は、後出の
図3で示すように、r=aでσ
aを与え、外周r=bに向かって値が単調減少する関数であることから、ロータ1が示す最大応力は、如何なる回転角速度にあっても、減厚領域15Aの面応力の値σ
aである。従って、減厚領域15Aの面応力がロータ材料の降伏強度になったとき、即ちσ
a=σ
yのときに、ロータ1は破壊する。
【0053】
この知見をもとに演算すると、ロータ1の限界エネルギー密度DFRは最終的に形状パラメータと材料パラメータ(σy、ρ)だけを用いて次の式(6)で記述される。
【0054】
【数13】
ただし、式(6)中のK
SFは次式で表される。
【0055】
【数14】
以降、上式(6)を限界エネルギー密度方程式と呼称することにする。
【0056】
最後に、ロータ1の質量mABは次式(7)のように記述される。
【0057】
【数15】
式(7)の右辺第1項が減厚領域15Aの質量、第2項が定厚領域の質量15Bの質量に該当する。以降、式(7)をロータ質量方程式と呼ぶことにする。
【0058】
以上の構成によるロータ1の効果を説明する。前記式(1)を参照すれば明らかなように、本発明実施形態ロータの減厚領域の厚みh(r)(特許文献1のt(r)に該当)は破壊回転角速度ωyを含む回転角速度ωに対して不変であって、形状パラメータだけで決定される。よって、本実施形態によるロータ1は、従来技術(特許文献1、以下同じ)の第1の問題であった「ロータの構造が定まらない」という問題を解決している、と言うことができる。
【0059】
また形状基礎方程式(2)を参照すれば明らかなように、本実施形態のロータ1においては、外周半径bと接続半径aは式(2)で明確に関連付けられており、特許文献1のR(本発明のbに該当)のように不定ではない。よって、従来技術の第2の問題であった「応力分布や限界エネルギー密度DFRを解析的に予見することが困難」という問題を解決していると言える。
【0060】
こうして、本実施形態のロータ1においては、上記2つの効果に加え、減厚領域の回転応力分布が完全フラットにする状態を達成していることから、回転応力のピークが理想的に低減され、この結果、構造パラメータの最適化とエネルギー密度の最大化が実現される。言い換えると、本実施形態のロータ1は従来技術の第3の問題であった「最適な構造を得るのが容易でない」という問題を解決していると言うことができる。
【0061】
以下、ロータ1とその関係式を用いて、実際の設計に則した具体例を説明する。本発明に係るロータ1は等方性または弱異方性を呈する材料であれば、材料を選ばないが、ここでは具体的材料として、高強度SK105鋼の流れをくむQCM8鋼(山陽特殊製鋼株式会社(兵庫県姫路市))を用いた場合を例に挙げて説明する。これは飽くまで一例であって、他の材料を使った場合でもここで説明する手続きと全く同じ手続きを踏めば、誰でも、本発明に係るロータ構造を決定することができる。
【0062】
QCM8鋼の材料パラメータの典型値は以下のとおりである:密度ρ=7734 kg/m3、ポアソン比ν=0.34、降伏強度σy=1.36×109 Pa。
【0063】
[第1実施例]
第1実施例はロータ1の体格を決定する形状パラメータのいくつかを要求仕様として与えて、本発明ロータの最適構造を決める例である。上述したようにロータ1は必ず形状基礎方程式(2)を満足する必要があるから、4つの形状パラメータ(h0、ha、b、a)のうち、任意の3つを(要求仕様として)指定すれば、残りの1つが自動的に決定される。
【0064】
フライホイール蓄電装置のロータの製作するという視点から、現実的にあり得る3パラメータの組合せは、(h0、ha、b)である。これらがロータ1の体格をほぼ決めるからである。この点を鑑み、ここではこれら(h0、ha、b)が要求仕様として与えられたとして説明する。
【0065】
3パラメータ(h0、ha、b)の値が与えられたことにより、これらを形状基礎方程式(2)に代入すると、接続半径aの値が決まる。
【0066】
接続半径aの値が決まると、式(1)から減厚領域15Aの表面形状を決める関数h(r)が決まり、これによりロータ1の構造がすべて確定する。
【0067】
ロータ1の構造がすべて確定すると、関係式(6)に形状パラメータと材料パラメータの値を代入することにより、限界エネルギー密度DFRが求まる。
破壊回転角速度ωyは式(3)’から得られる。
また、ロータ1の質量mABば、式(7)によって求めることができる。
【0068】
いま、仮にロータ1の形状パラメータ(h0、ha、b)の数値を、h0=0.05m(5cm)、ha=0.01m(1cm)、b=0.15m(15cm)とすると、次の値や式が得られる。
a=0.116 m(11.6 cm)
h(r)=0.01exp(-119.1r2) (m)
DFR=45 Wh/kg
ωy=6472 rad/s
mAB=10.34 kg
【0069】
図2は上記プロセスで決定した本発明第1実施形態ロータ1断面の半径方向表面形状である。各形状パラメータが正確に反映されていることが分る。
【0070】
図3は本発明第1実施形態ロータ1が限界エネルギー密度に達したときの、回転応力σの半径方向分布を示している。減厚領域15Aでは回転応力がσ
a(=σ
br=σ
bθ)=σ
y=一定、であること、定厚領域15Bでは回転応力σ
br、σ
bθの値がσ
aから単調減少する様子が明瞭に認められる。
【0071】
[第2実施例]
実際のフライホイール蓄電装置のロータの要求仕様に盛り込まれる可能性が最も高い特性パラメータのひとつ、は限界エネルギー密度DFRであると考えられる。そこで、第2実施例においては、目標値として特性パラメータDFRが要求仕様に組み込まれた例を挙げる。
【0072】
前出の限界エネルギー密度方程式(6)を条件0<a/b<1、0<ha/h0<1のもと、式変形すると次式(6)’となる。
【0073】
【数16】
となる。ここで式(6)’におけるA,B,Cは次式の通りである。
【0074】
【0075】
第2実施例のケースでは、形状パラメータ(h0、ha、b、a)は形状基礎方程式(2)と限界エネルギー密度方程式(6)’を同時に満たす必要があるので、要求仕様として、限界エネルギー密度DFRと任意形状パラメータ2つを指定すれば最適解が得られることが理解される。
【0076】
フライホイール蓄電装置のロータ製作という視点から、形状パラメータの中で要求仕様として選ばれやすい2パラメータの組合せを勘案すると、結果は(h0、b)である。なぜなら、これらがロータ1の体格を最も強く規定するからである。この点を鑑み、DFR、h0、bが要求仕様として与えられたものとして説明を行うが、形状パラメータの組み合わせは(h0、b)に限定されるものではなく、任意の2つを選ぶことができる。
【0077】
未知の形状パラメータha、aを決定する手順はつぎのとおりである。目標値としてDFRが与えられると、限界エネルギー密度方程式(6)’が確定する。つぎに形状基礎方程式(2)と限界エネルギー密度方程式(6)’ を連立させて、数値解a/bとha/h0を得る。この解に要求値h0、bを代入すると、ha、aが得られる。
【0078】
第1実施例と同様に、ロータ1の破壊回転角速度ωyは式(3)’から、質量mABは式(7)から求まる。
【0079】
ここで、DFR、h0、bの各要求値を、DFR=40Wh/kg(=40×3600J/kg)、h0=0.03m(3cm)、b=0.15m(15cm)として、最適設計を試みることにする。
【0080】
図4は形状基礎方程式(2)と前記D
FR値の限界エネルギー密度方程式(6)’をa/b対h
a/h
0との曲線としてプロットしたグラフである。2曲線が交差するという事実から解a/b、h
a/h
0が得られることは明白である。実際に二分法を用いて解を求めると、a/b=0.641、h
a/h
0=0.463である。この関係式にh
0、bの要求値(上記数値)を代入するとh
a、aの値が求まる。
【0081】
最終的に次の値や式が得られる。
a=0.096 m(9.6 cm)
ha=0.014 m(1.4 cm)
h(r)=0.03exp(-83.5r2) (m)
ωy=5419 rad/s
mAB=9.16 kg
【0082】
[第3実施例]
ロータ1の要求仕様に盛り込まれる可能性が高い他の特性パラメータは、ロータの質量mABであると考えられる。そこで、第3実施例として、目標値としてmABが要求仕様に組み込まれた例を挙げる。
【0083】
前出のロータ質量方程式(7)を条件0<a/b<1、0<ha/h0<1のもと、式変形すると次式(7)’又は、(7)” と書き換えられ、式(7)の替りに適宜代用することができる。
【0084】
【0085】
第3実施例のケースでは、形状パラメータ(h0、ha、b、a)は形状基礎方程式(2)とロータ質量方程式(7)(又は(7)’又は(7)”)を同時に満たす必要があるので、要求仕様としては、ロータ質量mABと形状パラメータ2つを指定すれば最適構造が得られることになる。
【0086】
フライホイール蓄電装置のロータ製作という視点から、要求仕様として選ばれやすい形状パラメータ2つは、第2実施例と同様、h0、bであると考えられる。第3実施例においても、この点を鑑み、mAB、h0、bが要求仕様として与えられることを想定して説明を行う。なお、形状パラメータの組み合わせは(h0、b)だけに限定されるものではなく、任意の2つの組み合わせを選ぶことができる。
【0087】
未知の形状パラメータha、aを決定する手順は次の通りである。目標値としてmAB、h0、bが与えられると、ロータ質量方程式(7)’が確定する。h0、bが既知数であることに注意してロータ質量方程式(7)’と限界エネルギー密度方程式(6)’を連立させて方程式を解くと、数値解a/bとha/h0を得る。h0、bが既知数であるから、ha、aが得られる。
【0088】
前記第1実施例と同様に、ロータ1の減厚領域15Aの関数h(r)は式(1)から、限界エネルギー密度DFRは式(6)から、破壊回転角速度ωyは式(3)’から、質量mABは式(7)から求めることができる。
【0089】
ここで、mAB、h0、bの各要求値を、mAB=12kg、h0=0.04m(4cm)、b=0.15m(15cm)として、最適設計を試みることにする。
【0090】
図5は形状基礎方程式(2)と前記D
FR値のロータ質量方程式(7)’をa/b対h
a/h
0の曲線としてプロットしたグラフ(ただしh
0、bは既知数)である。2曲線が交差するという事実から解a/b、h
a/h
0が得られることは明白である。実際に二分法を用いて解を求めると、a/b=0.649、h
a/h
0=0.448が得られる。この関係式に既知数h
0、bの値を代入するとh
a、aの値が求まる。
【0091】
最終的に次のロータ諸元が得られる。
a=0.097 m(9.7 cm)
ha=0.018 m(1.8 cm)
h(r)=0.04exp(-84.8r2) (m)
ωy=5462 rad/s
DFR=40Wh/kg(=40×3600J/kg)
【0092】
[その他の実施例]
本発明に係るフライホール外向減厚型中実円盤ロータは、特性パラメータである限界エネルギー密度DFRと質量mABと、形状パラメータの1つ(例えば外半径b)を要求仕様として指定し、残りの3つの形状パラメータの最適値を決定することもできる。この場合、形状基礎方程式と限界エネルギー密度方程式とロータ質量方程式の3つを連立させて、残りの3つの形状パラメータを求める。
【0093】
形状パラメータとして外半径bを指定する例でこの手順を簡単に説明すると、まず形状基礎方程式(2)と限界エネルギー密度方程式(6)’を連立させて、未知数a/bと未知数ha/h0の数値解を求め、前者にb値を代入してa値を確定する。
【0094】
つぎに、求まったha/h0値、a値、b値をロータ質量方程式(7)に代入してha値を確定し、ha/h0値とこのha値からh0値を求める。こうして、未知であった構造パラメータa、ha、h0の最適値がすべて確定する。
【符号の説明】
【0095】
1…本発明フライホイール外向減厚型中実円盤ロータ
11…回転軸
12…水平中心面
13A…上面
13B…下面
14…側面
15A…減厚領域
15B…定厚領域
b…ロータ半径(外半径)
a…接続半径(減厚領域/定厚領域境界の半径)
ha…定厚領域の厚さ
h0…中心の厚さ
r…任意の地点の半径
h(r)…半径r地点の厚みを表す関数