(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127858
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220825BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20220825BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220825BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20220825BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20220825BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20220825BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20220825BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/40
H01J49/00 040
H01J49/02 500
H01J49/06 700
H01J49/00 950
H01J49/16 400
H01J49/14 700
G01N1/28 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026072
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】平尾 健
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康秀
(72)【発明者】
【氏名】小杉 典正
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041DA16
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD42
2G052EB01
2G052EB02
2G052EC18
2G052FD07
2G052GA15
2G052GA24
2G052JA07
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる質量分析装置及び質量分析方法を提供する。
【解決手段】質量分析装置1は、試料台2と、試料Sに対してエネルギー線L1を照射し、エネルギー線L1が照射される領域における試料Sの位置情報を維持したまま試料Sの成分S1をイオン化する照射部3と、イオン化試料S2を、試料台2との電位差によって試料Sの表面から引き出す引出電極11と、イオン化試料S2に応じた電子Eを放出するMCP41と、MCP41により放出された電子Eに基づく画像を取得する撮像部43と、照射部3、引出電極11、及び撮像部43の動作を制御する制御部5と、を備える。制御部5は、照射部3によるエネルギー線L1の照射後、検出対象成分に応じたタイミングで引出電極11の電位を変化させると共に、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を撮像部43に取得させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が載置される試料台と、
前記試料に対してエネルギー線を照射し、前記エネルギー線が照射される領域における前記試料の位置情報を維持したまま前記試料の成分をイオン化する照射部と、
前記照射部によりイオン化された前記試料の成分であるイオン化試料を、前記試料台との電位差によって前記試料の表面から引き出す第1電極と、
前記イオン化試料の飛行経路において前記第1電極よりも下流に配置され、前記イオン化試料に応じた電子を放出する電子放出部と、
前記電子放出部の後段に配置され、前記電子放出部により放出された電子に基づく画像を取得する撮像部と、
前記照射部、前記第1電極、及び前記撮像部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記照射部による前記エネルギー線の照射後、前記試料に含まれる一以上の成分のうちの所定の検出対象成分に応じたタイミングで前記第1電極の電位を変化させると共に、前記検出対象成分に応じた期間に分析対象としての前記画像を前記撮像部に取得させ、
前記制御部は、前記タイミングにおいて、前記検出対象成分に対応する前記イオン化試料が正イオンの場合には前記第1電極の電位を所定量上げ、前記検出対象成分に対応する前記イオン化試料が負イオンの場合には前記引出電極の電位を所定量下げる、質量分析装置。
【請求項2】
前記第1電極と前記電子放出部との間に配置され、前記第1電極との電位差によって、前記第1電極により引き出された前記イオン化試料を加速させる第2電極を更に備え、
前記検出対象成分に応じた前記タイミングは、前記検出対象成分に対応する前記イオン化試料が前記第1電極と前記第2電極との間に位置するタイミングである、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記電子放出部と前記撮像部との間に配置され、前記電子放出部により放出された前記電子に応じた光を発する蛍光体を更に備え、
前記撮像部は、前記蛍光体からの前記光に基づく画像を取得する、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記蛍光体の蛍光材料は、GaN、ZnO又はプラスチックシンチレータである、請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記撮像部は、前記蛍光体からの前記光に基づく画像を撮像する開状態と前記蛍光体からの前記光に基づく画像を撮像しない閉状態とを切替可能に構成されたゲート機構を有し、
前記制御部は、前記検出対象成分に応じた前記期間に開状態となり前記期間以外の期間に閉状態となるように、前記ゲート機構の動作を制御する、請求項3又は4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記撮像部は、前記ゲート機構を有するイメージインテンシファイアと、前記イメージインテンシファイアの後段に配置される固体撮像素子と、を有する、請求項5に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記エネルギー線は、レーザ光、電子ビーム又はイオンビームである、請求項1~6のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記照射部による前記エネルギー線の1回の照射に対応する処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に前記検出対象成分を変更しながら、複数のイベントを実行する、請求項1~7のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項9】
エネルギー線を照射する照射部によって、試料に対して前記エネルギー線を照射することで、前記エネルギー線が照射される領域における前記試料の位置情報を維持したまま前記試料の成分をイオン化する第1ステップと、
前記試料が載置される試料台と第1電極との電位差によって、前記照射部によりイオン化された前記試料の成分であるイオン化試料を前記試料の表面から引き出す第2ステップと、
前記照射部による前記エネルギー線の照射後、前記試料に含まれる一以上の成分のうちの所定の検出対象成分に応じたタイミングで前記第1電極の電位を変化させる第3ステップと、
前記イオン化試料の飛行経路において前記第1電極よりも下流に配置された電子放出部に、前記イオン化試料に応じた電子を放出させる第4ステップと、
前記電子放出部の後段に配置された撮像部に、前記電子放出部により放出された電子に基づく画像を取得させる第5ステップと、を含み、
前記第3ステップにおいて、前記検出対象成分に対応する前記イオン化試料が正イオンの場合には前記第1電極の電位を所定量上げ、前記検出対象成分に対応する前記イオン化試料が負イオンの場合には前記引出電極の電位を所定量下げ、
前記第5ステップにおいて、前記検出対象成分に応じた期間に、分析対象としての前記画像を前記撮像部に取得させる、質量分析方法。
【請求項10】
前記第1ステップから前記第5ステップまでの処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に前記検出対象成分を変更しながら、複数の前記イベントを実行する、請求項9に記載の質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析装置及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージング質量分析を行う装置として、位置情報及び質量情報を同時に測定することが可能な投影型質量分析装置が知られている。特許文献1には、投影型質量分析装置において、同じ質量のイオンが検出装置に到達するタイミングをなるべく揃えて質量分解能(時間分解能)を向上させるために、引出電極の電位を検出対象のイオンの成分に応じて可変にする仕組みが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような質量分析装置を用いた質量分析では、処理速度の向上及びデータ記憶領域の節約の観点から、1回の測定において分析対象として得られるデータ量をなるべく少なくすることが求められる。上記特許文献1に開示された仕組みには、上記観点において改善の余地がある。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる質量分析装置及び質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る質量分析装置は、試料が載置される試料台と、試料に対してエネルギー線を照射し、エネルギー線が照射される領域における試料の位置情報を維持したまま試料の成分をイオン化する照射部と、照射部によりイオン化された試料の成分であるイオン化試料を、試料台との電位差によって試料の表面から引き出す第1電極と、イオン化試料の飛行経路において第1電極よりも下流に配置され、イオン化試料に応じた電子を放出する電子放出部と、電子放出部の後段に配置され、電子放出部により放出された電子に基づく画像を取得する撮像部と、照射部、第1電極、及び撮像部の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、照射部によるエネルギー線の照射後、試料に含まれる一以上の成分のうちの所定の検出対象成分に応じたタイミングで第1電極の電位を変化させると共に、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を撮像部に取得させ、制御部は、上記タイミングにおいて、検出対象成分に対応するイオン化試料が正イオンの場合には第1電極の電位を所定量上げ、検出対象成分に対応するイオン化試料が負イオンの場合には引出電極の電位を所定量下げる。
【0007】
上記質量分析装置によれば、試料に対するエネルギー線の照射後、検出対象成分に応じたタイミングで第1電極の電位を変化させることで、検出対象成分の質量分解能を向上させることができる。さらに、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を取得することにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。以上により、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる。
【0008】
上記質量分析装置は、第1電極と電子放出部との間に配置され、第1電極との電位差によって、第1電極により引き出されたイオン化試料を加速させる第2電極を更に備えてもよく、検出対象成分に応じたタイミングは、検出対象成分に対応するイオン化試料が第1電極と第2電極との間に位置するタイミングであってもよい。上記構成によれば、検出対象成分の質量分解能を確実に向上させることができる。
【0009】
上記質量分析装置は、電子放出部と撮像部との間に配置され、電子放出部により放出された電子に応じた光を発する蛍光体を更に備えてもよく、撮像部は、蛍光体からの光に基づく画像を取得してもよい。上記構成によれば、光を検出するセンサ等を撮像部として用いることが可能となる。
【0010】
蛍光体の蛍光材料は、GaN、ZnO又はプラスチックシンチレータであってもよい。上記構成によれば、蛍光材料の残光時間を短くすることができる。そのため、一の成分が撮像部に到達するタイミングと他の成分が撮像部に到達するタイミングとの間隔が短い場合においても、蛍光体は、一の成分に対応する残光の影響を受けずに、他の成分に対応する光を発することができる。これにより、各成分に対応する光を精度良く発することができ、質量分析の精度を向上させることができる。
【0011】
撮像部は、蛍光体からの光に基づく画像を撮像する開状態と蛍光体からの光に基づく画像を撮像しない閉状態とを切替可能に構成されたゲート機構を有してもよく、制御部は、検出対象成分に応じた期間に開状態となり当該期間以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構の動作を制御してもよい。上記構成によれば、ゲート機構の開閉動作によって、検出対象成分に応じた期間のみ撮像処理を行うことで、1回の撮像において取得及び保存される情報量を的確に抑制することができる。
【0012】
撮像部は、ゲート機構を有するイメージインテンシファイアと、イメージインテンシファイアの後段に配置される固体撮像素子と、を有してもよい。上記構成によれば、イメージインテンシファイアによって蛍光体からの光を増幅させて、固体撮像素子に撮像させることができる。そのため、蛍光体からの光がごく微弱である場合においても、当該光を撮像することができる。また、一般に、イメージインテンシファイアのゲート機構の切替速度は、機械式のゲート機構よりも速い。そのため、イメージインテンシファイアのゲート機構を用いることにより、一の成分が撮像部に到達するタイミングと他の成分が撮像部に到達するタイミングとの間隔が短い場合においても、それぞれの成分に対応する画像を好適に分離して撮像することができる。
【0013】
エネルギー線は、レーザ光、電子ビーム又はイオンビームであってもよい。上記構成によれば、必要に応じて適切なエネルギー線の種類を選択することができる。
【0014】
制御部は、照射部によるエネルギー線の1回の照射に対応する処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に検出対象成分を変更しながら、複数のイベントを実行してもよい。上記構成によれば、1回のイベントにおける情報量を抑制しつつ、複数の成分のそれぞれに対応する画像の取得(イメージング質量分析)を行うことができる。
【0015】
本開示の他の側面に係る質量分析方法は、エネルギー線を照射する照射部によって、試料に対してエネルギー線を照射することで、前記エネルギー線が照射される領域における試料の位置情報を維持したまま試料の成分をイオン化する第1ステップと、試料が載置される試料台と第1電極との電位差によって、照射部によりイオン化された試料の成分であるイオン化試料を試料の表面から引き出す第2ステップと、照射部によるエネルギー線の照射後、試料に含まれる一以上の成分のうちの所定の検出対象成分に応じたタイミングで第1電極の電位を変化させる第3ステップと、イオン化試料の飛行経路において第1電極よりも下流に配置された電子放出部に、イオン化試料に応じた電子を放出させる第4ステップと、電子放出部の後段に配置された撮像部に、電子放出部により放出された電子に基づく画像を取得させる第5ステップと、を含み、第3ステップにおいて、検出対象成分に対応するイオン化試料が正イオンの場合には第1電極の電位を所定量上げ、検出対象成分に対応するイオン化試料が負イオンの場合には引出電極の電位を所定量下げ、第5ステップにおいて、検出対象成分に応じた期間に、分析対象としての画像を撮像部に取得させる。
【0016】
上記質量分析方法によれば、試料に対するエネルギー線の照射後、検出対象成分に応じたタイミングで第1電極の電位を変化させることで、検出対象成分の質量分解能を向上させることができる。さらに、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を取得することにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。以上により、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる。
【0017】
上記質量分析方法は、第1ステップから第5ステップまでの処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に検出対象成分を変更しながら、複数のイベントを実行してもよい。上記構成によれば、1回のイベントにおける情報量を抑制しつつ、複数の成分のそれぞれに対応する画像の取得(イメージング質量分析)を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一側面によれば、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる質量分析装置及び質量分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態の質量分析装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、引き出し後差動加速の説明図である。
【
図3】
図3は、ゲート機構の開閉制御を示す図である。
【
図4】
図4は、引出電極及びゲート機構の制御の組み合わせの例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例に係るゲート機構の開閉制御及び引出電極の電位制御のパターンを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る複数のイベント動作を示す図である。
【
図7】
図7は、撮像ユニットの第1変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、撮像ユニットの第1変形例におけるゲート機構の開閉制御を示す図である。
【
図9】
図9は、撮像ユニットの第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0021】
[質量分析装置]
図1に示されるように、質量分析装置1は、試料台2と、照射部3と、撮像ユニット4と、制御部5と、データ処理部6と、引出電極11(第1電極)と、グランド(GND)電極12(第2電極)と、を備えている。質量分析装置1は、レーザ脱離イオン化(Laser Desorption/Ionization、LDI)法、表面支援レーザ脱離イオン化(SALDI:Surface-Assisted Laser Desorption/Ionization)法、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI:Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)法、2次イオン質量分析(SIMS)法等の質量分析法に用いられる。また、質量分析装置1は、浜松ホトニクス社製のイオン化支援基板DIUTHAME(ジュテーム)を用いた質量分析法に用いられてもよい。
【0022】
試料台2には、試料Sが載置される。試料Sを支持する支持基板(例えば上述したイオン化支援基板)が用いられる場合には、試料台2には、試料Sと共に上記支持基板が載置される。試料台2は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面となっている。試料台2には、電圧が印加される。なお、試料台2は、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)であればよい。試料Sは、例えば生体試料である。照射部3は、試料台2における試料Sが載置される面側に配置されている。
【0023】
照射部3は、試料Sのうち所定の面積を有する所定範囲に対してエネルギー線L1を一括に照射する。本実施形態では、照射部3は、上記所定範囲を含む大きさのスポット径を有するフラットビームであるエネルギー線L1を試料Sに対して照射する。なお、エネルギー線L1のスポット径の大きさは、測定対象の試料Sの全体を含む大きさであってもよいし、試料Sの一部のみを含む大きさであってもよい。後者の場合には、エネルギー線L1の照射領域(試料S上においてエネルギー線L1が照射される領域)を移動させながらエネルギー線L1を試料Sに対して複数回照射することにより、試料S全体の画像を得ることができる。エネルギー線L1が照射されると、上記所定範囲内における試料Sの複数の成分S1が一括でイオン化される。
【0024】
照射部3は、エネルギー線L1が照射される領域における試料Sの位置情報を維持したまま複数の成分S1をイオン化する。すなわち、試料Sの成分S1は、エネルギー線L1の照射によってイオン化される。その結果、イオン化された試料Sの成分S1であるイオン化試料S2が発生する。なお、試料台2は、試料台2の両端部(両脇)を金属等で挟むことによって固定されてもよい。この場合、照射部3は、試料台2における試料Sが載置される面とは反対側(裏面側)に配置されてもよい。すなわち、照射部3は、試料台2の裏面側から試料Sに対してエネルギー線L1を照射してもよい。
【0025】
本実施形態では、質量分析装置1は、投影型質量分析装置として構成されている。例えば、走査型質量分析装置では、1回のエネルギー線の照射毎に、エネルギー線のスポット径に対応する大きさの1ピクセルの信号が取得される。すなわち、走査型質量分析装置では、得られる画像の解像度はエネルギー線L1のスポット径に依存する。これに対して、投影型の質量分析装置1では、1回のエネルギー線L1の照射毎に、エネルギー線L1のスポット径に対応する画像(複数のピクセル)の信号が取得される。すなわち、投影型質量分析装置では、得られる画像の解像度はエネルギー線L1のスポット径に依存しない。したがって、質量分析装置1によれば、走査型質量分析装置よりも高い解像度(空間分解能)の画像を得ることができる。
【0026】
エネルギー線L1は、例えばレーザ光である。エネルギー線L1は、例えばN2レーザ又はYAGレーザ等である。エネルギー線L1の強度分布(軸線に垂直な断面における強度分布)は、略均一である。エネルギー線L1のスポット径は、例えば100μm~300μm程度である。エネルギー線L1は、電子ビーム又はイオンビームであってもよい。照射部3は、エネルギー線L1をパルス的に照射する。照射部3は、イベント毎にエネルギー線L1を照射する。照射部3は、1回のイベントにおいてエネルギー線L1を1回照射する。つまり、エネルギー線L1の1回の照射が、1イベントに対応している。
【0027】
引出電極11は、試料台2における試料Sが載置される側の面と対向する位置に配置されている。すなわち、引出電極11は、試料台2から撮像ユニット4までのイオン化試料S2の飛行経路上に配置されている。引出電極11は、例えば、板状電極であり、イオン化試料S2を通過させるための通過孔11aを有している。ここで、上述した試料台2は、引出電極11に対向する板状の電極として機能する。
【0028】
イオン化試料S2が正イオンである場合、照射部3によってエネルギー線L1が照射される時点において、引出電極11の電位は、試料台2の電位よりも低くなるように設定される。これにより、イオン化試料S2が試料Sの表面から引出電極11側へと引き出される。このように、引出電極11は、イオン化試料S2を、引出電極11と試料台2との電位差によって試料Sの表面から引き出す。なお、イオン化試料S2が負イオンである場合、照射部3によってエネルギー線L1が照射される時点において、引出電極11の電位は、試料台2の電位よりも高くなるように設定される。これにより、イオン化試料S2が試料Sの表面から引出電極11側へと引き出される。以下では、イオン化試料S2が正イオンであることを前提として説明を行う。イオン化試料S2が負イオンである場合には、電極間の電位の高低及び引出電極の電位を変化させる方向は、以下の説明とは逆となる。
【0029】
グランド電極12は、イオン化試料S2の飛行経路において、引出電極11よりも下流に配置されている。具体的には、グランド電極12は、引出電極11と撮像ユニット4が有するマイクロチャンネルプレート(Micro-Channel Plate、以下、「MCP」という)41(電子放出部)との間に配置されている。グランド電極12は、例えば、板状電極であり、イオン化試料S2を通過させるための通過孔12aを有している。グランド電極12は、グランド電極12と引出電極11との電位差によって、引出電極11により引き出されたイオン化試料S2を加速させる。具体的には、グランド電極12の電位が引出電極11の電位よりも低く設定されることにより、イオン化試料S2が引出電極11側からグランド電極12側へと加速する。グランド電極12の電位は、例えば0Vに設定される。
【0030】
撮像ユニット4は、MCP41と、蛍光体42と、撮像部43と、光学レンズ(接続部)44と、を有している。MCP41は、イオン化試料S2の飛行経路において引出電極11及びグランド電極12よりも下流に配置されている。なお、
図1では、イオン化試料S2の飛行経路は試料台2からMCP41に向かう略直線状であり、MCP41は試料台2に対向する位置に配置されている。ただし、イオン化試料S2の飛行経路は、このような略直線状の経路に限られない。すなわち、MCP41は、必ずしも試料台2に対向する位置に配置されるとは限らない。例えば、イオン化試料S2を試料台2からMCP41まで導く方式として、イオン化試料S2の軌道を3回曲げて飛行させるトリフト(TRIFT:triple focusing time-of-flight)、イオン化試料S2をV字状に飛行させるリフレクトロン、イオン化試料S2を8の字状に飛行させるマルタム(MULTUM)等が利用される場合には、MCP41は、試料台2とは対向しない。試料台2から撮像部43(電子又は光の検出面)までの経路の長さは、例えば80cm程度である。
【0031】
上述した試料台2、引出電極11、及びグランド電極12によって加速されたイオン化試料S2は、MCP41に向かって飛行し、MCP41に衝突する。複数のイオン化試料S2は、位置情報を維持したまま飛行し、質量差によって生じた時間差情報を持った状態でMCP41に衝突する。つまり、イオン化試料S2は、その種類毎に、質量差に応じた異なるタイミングでMCP41に到達する。
【0032】
MCP41は、イオン化試料S2に応じた電子E(光電子)を放出する。具体的には、MCP41は、試料台2に対向する入力面41aと、入力面41aとは反対側の出力面41bと、を有している。MCP41は、入力面41aへのイオン(荷電粒子)の入射に応じて、出力面41bから電子Eを出力する。すなわち、MCP41は、イオンの空間分布を電子の空間分布(電子像)に変換する。
【0033】
MCP41は、例えば、内径が数μm~数十μmのガラスキャピラリ(チャンネル)を複数束ねた板状構造を有している。MCP41のそれぞれのチャンネルは、独立した2次電子増倍器として機能する。すなわち、MCP41では、チャンネルの表面に達したイオンが2次電子に変換され、当該2次電子がチャンネル内で衝突を繰り返しながら電子増倍される。イオン衝突から2次電子が取り出されるまでの時間は、数ナノ秒以下である。なお、撮像ユニット4は、複数段のMCP41を有していてもよい。
【0034】
蛍光体42は、MCP41の後段に配置されている。つまり、蛍光体42は、MCP41に対して試料台2とは反対側において、MCP41と撮像部43との間に配置されている。蛍光体42は、MCP41に対向する入力面42aと、入力面42aとは反対側の出力面42bと、を有している。入力面42aは、電子検出面として機能する。
【0035】
蛍光体42は、基板421と、蛍光層422と、を有している。蛍光体42は、蛍光層422がMCP41に対向するように配置されている。上述した入力面42aは、蛍光層422のMCP41側の面であり、出力面42bは、基板421のMCP41側とは反対側の面である。基板421の材料は、例えば透明なガラス等である。基板421の材料は、例えばサファイアである。蛍光層422は、基板421の出力面42bとは反対側の面に塗布されている。蛍光層422は、電子が衝突すると蛍光を発する蛍光材料からなる。蛍光層422の蛍光材料は、例えばGaNである。蛍光層422の蛍光材料は、例えばZnO又はプラスチックシンチレータであってもよい。
【0036】
蛍光層422は、MCP41から放出された電子Eに応じた蛍光L2を発する。蛍光層422は、電子Eの衝突による蛍光L2を蛍光パターン(光学画像)に変換する。蛍光材料は、電子励起が無くなった後も発光しており徐々に弱くなっていく残光特性を有している。蛍光層422の残光時間は、例えば12ns以下である。蛍光層422の残光時間は、例えば3ns程度である。つまり、蛍光体42は、いわゆる高速蛍光体である。質量分析装置1では、MCP41及び蛍光層422が、放電しない範囲で近接しており、それぞれに高電圧が印加されている。質量分析装置1では、イオン及び電子をそれぞれMCP41及び蛍光層422に高速で衝突させることで、信号増幅率(ゲイン)及び位置情報の両立を図っている。
【0037】
蛍光層422の蛍光材料がGaN又はZnOである場合には、蛍光層422は、例えば、蛍光材料を基板421(例えばサファイア基板)上にエピタキシャル成長させることによって形成することができる。この場合、蛍光層422の厚さは、例えば1μm~5μm程度である。或いは、蛍光層422は、例えば、ZnOからなる粉体の蛍光材料を基板421(例えばサファイア基板)上に塗布することによって形成されてもよい。この場合、蛍光層422の厚さは、例えば2μm~8μm程度である。
【0038】
撮像部43は、蛍光体42の後段に配置されている。つまり、撮像部43は、蛍光体42に対してMCP41とは反対側に配置されている。撮像部43は、固体撮像素子431を有している。固体撮像素子431は、MCP41から放出された電子Eに基づく画像を取得(撮像)する。本実施形態では、電子Eは蛍光体42によって蛍光L2に変換されるため、固体撮像素子431は、蛍光体42からの蛍光L2に基づく画像を取得(撮像)する。固体撮像素子431は、例えばCMOSイメージセンサである。固体撮像素子431は、例えばCCDイメージセンサ、高速イメージセンサ等であってもよい。
【0039】
固体撮像素子431は、ゲート機構432を有している。ゲート機構432は、蛍光体42からの蛍光L2に基づく画像を撮像する開状態と、蛍光体42からの蛍光L2に基づく画像を撮像しない閉状態と、を切替可能に構成されている。ゲート機構432の開状態の最小期間(すなわち、閉状態から開状態にしてから再度閉状態にするまでの最小間隔)は、蛍光層422の残光時間と同程度である。ゲート機構432の開状態の最小期間は、例えば3ns程度である。ゲート機構432の開閉のタイミングは、可変とされている。
【0040】
光学レンズ44は、蛍光体42と撮像部43との間に配置されている。光学レンズ44は、蛍光体42と撮像部43とを光学的に接続している。光学レンズ44は、撮像部43に接続されている。光学レンズ44は、蛍光体42からの蛍光L2を撮像部43に導く。
【0041】
制御部5は、照射部3、引出電極11、及び撮像部43の動作を制御する。制御部5は、エネルギー線L1をパルス的に照射するように照射部3を制御する。また、制御部5は、引出電極11の電位を制御する。すなわち、制御部5は、引出電極11に印加する電圧の大きさを制御する。また、制御部5は、ゲート機構432の開閉動作を制御する。また、制御部5は、撮像処理を実行するように撮像部43を制御する。制御部5は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
【0042】
データ処理部6は、撮像部43によって撮像された画像のデータを処理する。データ処理部6は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
図1の例では、制御部5とデータ処理部6とを分けて記載しているが、制御部5とデータ処理部6とは同じコンピュータ装置によって構成されてもよい。
【0043】
制御部5による制御の詳細について説明する。エネルギー線L1の照射によって生成されたイオン化試料S2の初期速度及び飛び出し方向にはばらつきがある。このため、同一の質量を有する複数のイオン化試料S2間において、撮像部43に到達する到達時刻にはばらつきがある。言い換えれば、同一の質量を有するイオン化試料S2群が撮像部43に到達するまでの飛行時間には、一定のばらつき(時間幅)がある。質量分析の精度を高めるためには、このような時間幅をなるべく小さくすることで、質量分解能(時間分解能)を向上させることが求められる。すなわち、同一の質量を有するイオン化試料S2群が撮像部43に到達するタイミングをなるべく近づけることが求められる。そこで、制御部5は、試料Sに含まれる一以上の成分S1のうちの所定の検出対象成分の質量分解能を向上させるために、引き出し後差動加速(PEDA:Post Extraction Differential Acceleration)を実行する。
【0044】
より具体的には、制御部5は、照射部3によるエネルギー線L1の照射後、検出対象成分(すなわち、特定の質量を有するイオン化試料S2)に応じたタイミングで、引出電極11の電位を変化させる。
図2は、上記制御(PEDA)を模式的に示す図である。
図2に示されるグラフにおいて、横軸はイオン化試料S2の位置を示し、縦軸は各電極(試料台2、引出電極11、及びグランド電極12)に印加される電位を示している。
図2に模式的に示される2つのイオン化試料21,22は、互いに同一の質量を有するイオン(同一の成分S1に対応するイオン)である。
【0045】
制御部5は、検出対象成分に対応するイオン化試料21,22が引出電極11とグランド電極12との間に位置するタイミングで、引出電極11の電位を所定量上げる。すなわち、制御部5は、引出電極11の電位を、
図2の(A)に示される状態から
図2の(B)に示される状態へと変化させる。これにより、初期速度の大きいイオン化試料21(すなわち、グランド電極12に近い位置を飛行中のイオン)よりも、初期速度の小さいイオン化試料22(すなわち、グランド電極12から遠い位置を飛行中のイオン)に対して、より大きい加速エネルギーが与えられる。
図2の(B)に示される各イオン化試料21,22の高さ位置の変化量が、各イオン化試料21,22に与えられる加速エネルギーに相当する。これにより、イオン化試料21,22間の初期速度の差に起因する飛行時間の差を吸収することができる。すなわち、イオン化試料21,22が撮像部43に到達するタイミングを近づけることができ、イオン化試料21,22に対応する成分S1の質量分解能を向上させることができる。
【0046】
ここで、検出対象成分に対応するイオン化試料S2が引出電極11とグランド電極12との間に位置するタイミングは、実験又はシミュレーション等によって事前に決定され得る。或いは、上記タイミングは、検出対象成分のイオンの質量電荷比(m/z)、イオンの加速電圧(すなわち、試料台2、引出電極11、及びグランド電極12に設定される電位)、並びに、試料台2から引出電極11及びグランド電極12までの距離等の各種パラメータに基づく所定の計算を実行することによって決定されてもよい。上記タイミングは、例えば、エネルギー線L1の照射時点から数μ秒後である。
【0047】
また、制御部5は、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を撮像部43に取得させる。ここで、検出対象成分に応じた期間とは、検出対象成分に対応する蛍光L2が撮像部43に到達するタイミングを含む一部の期間である。例えば、制御部5は、検出対象成分に応じた特定の期間に開状態となり、当該特定期間以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構432の動作を制御する。
【0048】
図3を参照して、ゲート機構432の開閉制御について説明する。ここでは、固体撮像素子431が、筐体431aと、光電面431bと、CMOSイメージセンサ431cと、を有する場合を例として説明する。光電面431bは、筐体431aにおける蛍光L2の入射面(すなわち、光学レンズ44に対向する面)に設けられている。CMOSイメージセンサ431cは、真空にされた筐体431a内において、光電面431bと対向する位置に設けられている。光電面431bは、光電面431bに入射した蛍光L2に応じた電子E1(光電子)を、筐体431a内のCMOSイメージセンサ431cへと放出する。CMOSイメージセンサ431cは、電子E1を検出する。
図3の構成例では、ゲート機構432は、光電面431bとCMOSイメージセンサ431cとによって実現される。具体的には、ゲート機構432の開閉制御は、光電面431bの電位とCMOSイメージセンサ431cの電位との大小関係を制御することによって実現される。
【0049】
図3の(A)は閉状態を示している。制御部5は、光電面431bの電位をCMOSイメージセンサ431cの電位よりも大きくすることにより、光電面431bから放出された電子E1がCMOSイメージセンサ431cへと向かわないように制御する。これにより、閉状態が実現される。
【0050】
図3の(B)は開状態を示している。制御部5は、光電面431bの電位をCMOSイメージセンサ431cの電位よりも小さくすることにより、光電面431bから放出された電子E1がCMOSイメージセンサ431cへと向かうように制御する。これにより、開状態が実現される。
【0051】
ここで、検出対象成分に応じた期間(本実施形態では、ゲート機構432を開状態にする期間)は、上述した引出電極11の電位を変化させるタイミングと同様に、実験又はシミュレーション等によって事前に決定され得る。或いは、上記期間は、検出対象成分のイオンの質量電荷比(m/z)、イオンの加速電圧(すなわち、試料台2、引出電極11、及びグランド電極12に設定される電位)、並びに、試料台2から引出電極11及びグランド電極12までの距離等の各種パラメータに基づく所定の計算を実行することによって決定されてもよい。
【0052】
次に、
図4を参照して、引出電極11及びゲート機構432の制御の組み合わせの例について説明する。
図4の(A)~(C)の各々において、上側のグラフは、引出電極11の電位を示している。上側のグラフにおいて、横軸は照射部3によりエネルギー線L1が試料Sに照射された時点を基準(原点)とした時間を示し、縦軸は引出電極11の電位を示している。また、下側のグラフは、試料Sに含まれる3つの成分S10,S20,S30(すなわち、それぞれ異なる質量を有する成分)に対応する蛍光L2が撮像部43に到達することによって検出されるイオン信号強度を示している。下側のグラフにおいて、横軸は照射部3によりエネルギー線L1が試料Sに照射された時点を基準(原点)とした時間を示し、縦軸はイオン信号強度を示している。
【0053】
図4の(A)は、試料Sに含まれる3つの成分S10,S20,S30のうち飛行時間が最も短い(すなわち、撮像部43への到達時刻が最も早い)成分S10が検出対象成分に設定された場合の制御例を示している。この例では、上側のグラフに示されるように、制御部5は、成分S10に応じたタイミングt1で引出電極11の電位を所定量上げる。タイミングt1は、成分S10に対応するイオン化試料S2が引出電極11とグランド電極12との間に位置する任意のタイミングである。これにより、下側のグラフに示されるように、成分S10に対応するイオン化試料S2が撮像部43に到達する時間幅を、上記の引出電極11の電位の制御を行わない場合(例えば、
図4の(B)、(C)の場合)と比較して小さくすることができる。すなわち、成分S10の質量分解能を向上させることができる。
【0054】
また、制御部5は、成分S10に応じた期間p1に開状態となり、当該期間p1以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構432の動作を制御する。下側のグラフにおける一点鎖線は、ゲート機構432の閉状態(一点鎖線が低い位置にある状態)と開状態(一点鎖線が高い位置にある状態)とを表している。このように、照射部3によりエネルギー線L1が照射されてからの全期間を分析対象とするのではなく、成分S10に応じた期間p1のみを分析対象とすることで、1回の撮像において取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。期間p1は、例えば、成分S10に対応する蛍光L2のみを撮像することが可能な期間である。なお、「成分S10に対応する蛍光L2のみを撮像する」とは、成分S10に対応する蛍光L2以外の蛍光が全く撮像されない場合だけでなく、成分S10と共に測定上無視できる程度の他の成分に対応する蛍光(ノイズ)が撮像される場合も含む。
【0055】
図4の(B)は、飛行時間が成分S10の次に短い成分S20が検出対象成分に設定された場合の制御例を示している。この例では、上側のグラフに示されるように、制御部5は、成分S20に応じたタイミングt2で引出電極11の電位を所定量上げる。タイミングt2は、タイミングt1よりも遅いタイミングであり、成分S20に対応するイオン化試料S2が引出電極11とグランド電極12との間に位置する任意のタイミングである。これにより、下側のグラフに示されるように、成分S20に対応するイオン化試料S2が撮像部43に到達する時間幅を、上記の引出電極11の電位の制御を行わない場合(例えば、
図4の(A)、(C)の場合)と比較して小さくすることができる。また、制御部5は、成分S20に応じた期間p2に開状態となり、当該期間p2以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構432の動作を制御する。以上の制御によれば、成分S20について、
図4の(A)を用いて説明した成分S10についての効果と同様の効果が奏される。
【0056】
図4の(C)は、飛行時間が最も長い成分S30が検出対象成分に設定された場合の制御例を示している。この例では、上側のグラフに示されるように、制御部5は、成分S30に応じたタイミングt3で引出電極11の電位を所定量上げる。タイミングt3は、タイミングt2よりも遅いタイミングであり、成分S30に対応するイオン化試料S2が引出電極11とグランド電極12との間に位置する任意のタイミングである。これにより、下側のグラフに示されるように、成分S30に対応するイオン化試料S2が撮像部43に到達する時間幅を、上記の引出電極11の電位の制御を行わない場合(例えば、
図4の(A)、(B)の場合)と比較して小さくすることができる。また、制御部5は、成分S30に応じた期間p3に開状態となり、当該期間p3以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構432の動作を制御する。以上の制御によれば、成分S30について、
図4の(A)を用いて説明した成分S10についての効果と同様の効果が奏される。
【0057】
制御部5は、照射部3によるエネルギー線L1の1回の照射に対応する処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に検出対象成分を変更しながら、複数のイベントを実行してもよい。
図5は、そのような実施例に係るゲート機構432の開閉制御及び引出電極11の電位制御のパターンを示す図である。
図6は、実施例に係る複数のイベント動作を示す図である。
図5及び
図6に示される実施例では、質量分析装置1は、上述した成分S10,S20,S30のうち2種類の成分S10,S20を交互に検出対象として、質量分析を行う。
【0058】
図5に示されるように、制御部5は、ゲート機構432の制御パターンを予め記憶しておく。ゲート機構432の制御パターンとは、例えば、エネルギー線L1が試料Sに照射された時点を基準としてゲート機構432を開状態にする期間を定めたパターンである。この実施例では、制御部5は、ゲート機構432の制御パターンとして、成分S10に対応する第1ゲートパターンと、成分S20に対応する第2ゲートパターンと、を予め記憶しておく。第1ゲートパターンは、成分S10に応じた期間p1にゲート機構432を開状態にし、期間p1以外の期間にゲート機構432を閉状態にすることを定めたパターンである。第2ゲートパターンは、成分S20に応じた期間p2にゲート機構432を開状態にし、期間p2以外の期間にゲート機構432を閉状態にすることを定めたパターンである。
【0059】
また、制御部5は、引出電極11の電位制御パターンを予め記憶しておく。引出電極11の電位制御パターンとは、例えば、エネルギー線L1が試料Sに照射された時点を基準として引出電極11の電位を所定量上げるタイミングを定めたパターンである。この実施例では、制御部5は、引出電極11の電位制御パターンとして、成分S10に対応する第1電位パターンと、成分S20に対応する第2電位パターンと、を予め記憶しておく。第1電位パターンは、成分S10に応じたタイミングt1で引出電極11の電位を所定量上げることを定めたパターンである。第2電位パターンは、成分S20に応じたタイミングt2で引出電極11の電位を所定量上げることを定めたパターンである。
【0060】
上述したようなゲート機構432の開閉動作は、例えば、ファンクションジェネレータにより生成された電圧信号に基づいて開閉を切り替える(すなわち、
図3に示したように、光電面431bとCMOSイメージセンサ431cとの間の電位の高低の関係を切り替える)ことによって実現され得る。また、
図6に示されるように、この実施例では、制御部5は、エネルギー線L1の照射をトリガとして、H(high)信号を出力する期間とL(low)信号を出力する期間とが切り替わるように構成されたカウンタを有する。制御部5は、照射部3にエネルギー線L1をパルス的に照射させると共に、カウンタに当該エネルギー線L1の照射をカウントさせることにより、エネルギー線L1の照射が行われる毎に、カウンタからの出力を「H→L」又は「L→H」に切り替える。また、制御部5は、カウンタからの出力に応じて、第1ゲートパターン及び第2ゲートパターンを切り替える。例えば、制御部5は、カウンタからの出力がH信号に切り替わった時点を基準として、第1ゲートパターンでゲート機構432を動作させ、カウンタからの出力がL信号に切り替わった時点を基準として、第2ゲートパターンでゲート機構432を動作させる。また、制御部5は、カウンタからの出力に応じて、第1電位パターン及び第2電位パターンを切り替える。例えば、制御部5は、カウンタからの出力がH信号に切り替わった時点を基準として、第1電位パターンで引出電極11の電位を制御し、カウンタからの出力がL信号に切り替わった時点を基準として、第1電位パターンで引出電極11の電位を制御する。
【0061】
図6は、4つのイベントEV1~EV4を連続的に実施する場合を示している。
図6に示されるように、上記制御によれば、カウンタ出力がH信号である1回目及び3回目のイベントEV1,EV3において、成分S10に応じたタイミングt1で引出電極11の電位が上げられ、成分S10に応じた期間p1にゲート機構432が開状態とされる。すなわち、イベントEV1,EV3において、成分S10に適したイメージング質量分析が実現される。より具体的には、イベントEV1,EV3において、成分S10の質量分解能を向上させることができると共に、成分S10の分析に必要なデータ(期間p1に対応するデータ)のみを取得することで、1回の撮像において取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。同様に、イベントEV2,EV4において、成分S20に適したイメージング質量分析が実現される。より具体的には、イベントEV2,EV4において、成分S20の質量分解能を向上させることができると共に、成分S20の分析に必要なデータ(期間p2に対応するデータ)のみを取得することで、1回の撮像において取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。
【0062】
データ処理部6は、撮像部43によって撮像された複数の画像を重ねる処理を行う。例えば、データ処理部6は、上述したイベントEV1,EV2において撮像された各画像を重ねて一の画像を生成してもよい。これにより、当該一の画像において各成分S10,S20に対応する画像を観察することが可能となる。すなわち、各成分S10,S20の位置を1枚の画像で確認することが可能となる。また、撮像部43は、同一の成分について撮像された複数の画像を重ねる(積算する)ことで、当該成分についての明瞭な画像を生成してもよい。例えば、成分S10のみを分析(観察)したい場合、データ処理部6は、イベントEV1で撮像された画像とイベントEV3で撮像された画像とを重ねることで、成分S10に関する明瞭な画像を得ることができる。同様に、データ処理部6は、イベントEV2で撮像された画像とイベントEV4で撮像された画像とを重ねることで、成分S20に関する明瞭な画像を得ることができる。
【0063】
以上説明した質量分析装置1によれば、試料Sに対するエネルギー線L1の照射後、検出対象成分に応じたタイミング(例えば、
図4に示されるような各成分S10,S20,S30に応じたタイミングt1,t2,t3)で引出電極11の電位を変化させることで、検出対象成分の質量分解能を向上させることができる。さらに、検出対象成分に応じた期間(例えば、
図4に示されるような各成分S10,S20,S30に応じた期間p1,p2,p3)に分析対象としての画像を取得することにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。以上により、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる。
【0064】
質量分析装置1は、引出電極11とMCP41との間に配置され、引出電極11との電位差によって、引出電極11により引き出されたイオン化試料S2を加速させるグランド電極12を備えている。また、検出対象成分に応じたタイミングは、検出対象成分に対応するイオン化試料S2が引出電極11とグランド電極12との間に位置するタイミングであってもよい。上記構成によれば、検出対象成分の質量分解能を確実に向上させることができる。
【0065】
質量分析装置1は、MCP41と撮像部43との間に配置され、MCP41により放出された電子Eに応じた蛍光L2(光)を発する蛍光体42を備えている。また、撮像部43は、蛍光体42からの光に基づく画像を取得してもよい。上記構成によれば、光を検出するセンサ等を撮像部43として用いることが可能となる。
【0066】
蛍光体42の蛍光材料は、GaN、ZnO又はプラスチックシンチレータであってもよい。上記構成によれば、蛍光材料の残光時間を短くすることができる。そのため、一の成分(例えば、
図4の成分S10)が撮像部43に到達するタイミングと他の成分(例えば、
図4の成分S20)が撮像部43に到達するタイミングとの間隔が短い場合においても、蛍光体42は、一の成分に対応する残光の影響を受けずに、他の成分に対応する光を発することができる。これにより、各成分に対応する光を精度良く発することができ、質量分析の精度を向上させることができる。
【0067】
撮像部43は、蛍光体42からの蛍光L2に基づく画像を撮像する開状態と蛍光体42からの蛍光L2に基づく画像を撮像しない閉状態とを切替可能に構成されたゲート機構432を有している。また、制御部5は、検出対象成分に応じた期間(例えば、
図4に示されるような各成分S10,S20,S30に応じた期間p1,p2,p3)に開状態となり期間以外の期間に閉状態となるように、ゲート機構432の動作を制御してもよい。本実施形態では、
図3を用いて説明した通り、制御部5は、光電面431bとCMOSイメージセンサ431cとの電位の大小関係を切り替えることにより、上記のゲート機構432の動作を制御する。上記構成によれば、ゲート機構432の開閉動作によって、検出対象成分に応じた期間のみ撮像処理を行うことで、1回の撮像において取得及び保存される情報量を的確に抑制することができる。
【0068】
エネルギー線L1は、レーザ光、電子ビーム又はイオンビームであってもよい。上記構成によれば、必要に応じて適切なエネルギー線の種類を選択することができる。
【0069】
制御部5は、照射部3によるエネルギー線L1の1回の照射に対応する処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に検出対象成分を変更しながら、複数のイベント(例えば、
図6に示されるイベントEV1~EV4)を実行してもよい。上記構成によれば、1回のイベントにおける情報量を抑制しつつ、複数の成分のそれぞれに対応する画像の取得(イメージング質量分析)を行うことができる。
図6の例では、1回目及び3回目のイベントEV1,EV3において成分S10に対応する画像が取得され、2回目及び4回目のイベントEV2,EV4において成分S20に対応する画像が取得される。
【0070】
[質量分析方法]
次に、質量分析装置1を用いた質量分析方法について説明する。まず、
図1に示されるように、試料Sを試料台2に載置する。続いて、照射部3によって、試料Sに対してエネルギー線L1を照射する(第1ステップ)。これにより、エネルギー線L1の照射領域における試料Sの位置情報を維持したまま複数の成分S1をイオン化する。その結果、イオン化された試料Sの成分S1であるイオン化試料S2が発生する。
【0071】
続いて、試料台2と引出電極11との電位差によって、イオン化試料S2を試料Sの表面から引き出す(第2ステップ)。続いて、
図4に示されるように、照射部3によるエネルギー線L1の照射後、試料Sに含まれる一以上の成分S1のうちの所定の検出対象成分(ここでは一例として、成分S10)に応じたタイミングt1で引出電極11の電位を変化させる(第3ステップ)。ここで、制御部5は、検出対象成分に対応するイオン化試料S2が正イオンの場合には引出電極11の電位を所定量上げ、検出対象成分に対応するイオン化試料S2が負イオンの場合には引出電極11の電位を所定量下げる。これにより、検出対象成分に係るイオン化試料S2群が撮像部43に到達するタイミングのばらつきを低減し、検出対象成分の質量分解能を向上させることができる。
【0072】
続いて、イオン化試料S2の飛行経路において引出電極11よりも下流に配置されたMCP41に、イオン化試料S2に応じた電子Eを放出させる(第4ステップ)。続いて、MC41の後段に配置された撮像部43に、MCP41により放出された電子E1に基づく画像(本実施形態では、蛍光体42によって電子E1から変換された蛍光L2に基づく画像)を取得させる(第5ステップ)。ここで、制御部5は、検出対象成分(ここでは一例として、成分S10)に応じた期間p1に、分析対象としての画像を撮像部43に取得させる。本実施形態では、制御部5は、期間p1にのみゲート機構432を開状態とすることにより、期間p1に対応する画像のみを撮像部43に取得させる。
【0073】
以上述べた質量分析装置1による質量分析方法によれば、試料Sに対するエネルギー線L1の照射後、検出対象成分に応じたタイミングで引出電極11の電位を変化させることで、検出対象成分の質量分解能を向上させることができる。さらに、検出対象成分に応じた期間に分析対象としての画像を取得することにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。以上により、質量分解能の向上を図りつつ処理速度の向上を図ることができる。
【0074】
また、
図6を用いて説明したように、質量分析装置1は、上述した第1ステップから第5ステップまでの処理単位を1イベントとした場合に、1イベント毎に検出対象成分を変更しながら(
図6の例では、検出対象成分を成分S10,S20間で交互に変更しながら)、複数のイベントEV1~EV4を実行してもよい。上記構成によれば、1回のイベントにおける情報量を抑制しつつ、複数の成分のそれぞれに対応する画像の取得(イメージング質量分析)を行うことができる。
【0075】
[変形例]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0076】
上記実施形態では、2種類の成分S10,S20の分析(イベント)を交互に繰り返す実施例を例示したが、制御部5は、3種類以上の成分に対応する制御パターン(ゲート機構の開閉制御及び引出電極の電位制御のパターン)を予め記憶しておき、各成分に応じた制御パターンをイベント毎に切り替えることによって複数のイベントを実行してもよい。
【0077】
また、複数のイベントの実行制御に関する上記実施例では、カウンタを用いるアナログ回路による制御を例示したが、イベント毎に制御パターン(ゲート機構の開閉制御及び引出電極の電位制御のパターン)を切り替える処理は、マイコン制御、PC制御等によって行われてもよい。
【0078】
また、撮像ユニット4の構成は、上述した実施形態に限られない。以下、撮像ユニット4の変形例について説明する。
【0079】
(撮像ユニットの第1変形例)
図7は、撮像ユニットの第1変形例(撮像ユニット4A)を示す図である。撮像ユニット4Aは、光学リレーレンズ(接続部)45と、イメージインテンシファイア433を更に有している点で撮像ユニット4と相違している。撮像ユニット4Aでは、撮像部43は、固体撮像素子431とイメージインテンシファイア433と、を有している。固体撮像素子431は、イメージインテンシファイア433の後段に配置されている。つまり、固体撮像素子431は、イメージインテンシファイア433に対して蛍光体42とは反対側に配置されている。イメージインテンシファイア433は、ゲート機構434を有している。光学リレーレンズ45は、イメージインテンシファイア433と固体撮像素子431との間に配置されている。光学リレーレンズ45は、イメージインテンシファイア433及び固体撮像素子431を光学的に接続している。
【0080】
図8に示されるように、一例として、イメージインテンシファイア433は、筐体433aと、光電面433bと、MCP433cと、蛍光面433dと、を有する。光電面433bは、筐体433aにおける蛍光L2の入射面(すなわち、光学レンズ44に対向する面)に設けられている。MCP433cは真空にされた筐体431a内に、光電面433bと対向する位置に設けられている。蛍光面433dは、筐体433aにおける光電面433bが設けられる側とは反対側の面(すなわち、光学リレーレンズ45に対向する面)に設けられている。光電面433bは、光電面433bに入射した蛍光L2に応じた電子E2(光電子)を筐体433a内のMCP433cへと放出する。MCP433cは、当該電子E2を増倍させる。蛍光面433dは、MCP433cにより増倍された電子E3を蛍光L3に変換し、当該蛍光L3を固体撮像素子431側に出射する。イメージインテンシファイア433のゲート機構434は、光電面433bとMCP433cとによって実現される。具体的には、ゲート機構434の開閉制御は、光電面433bの電位とMCP433cの電位との大小関係を制御することによって実現される。
【0081】
図8の(A)は閉状態を示している。制御部5は、光電面433bの電位をMCP433cの電位よりも大きくすることにより、光電面433bから放出された電子E2がMCP433cへと向かわないように制御する。一例として、制御部5は、MCP433cの電位を0Vに設定し、光電面433bの電位を30Vに設定する。これにより、閉状態が実現される。
【0082】
図8の(B)は開状態を示している。制御部5は、光電面433bの電位をMCP433cの電位よりも小さくすることにより、光電面433bから放出された電子E2がMCP433cへと向かうように制御する。一例として、制御部5は、MCP433cの電位を0Vに設定し、光電面433bの電位を-200Vに設定する。これにより、開状態が実現される。
【0083】
撮像ユニット4Aにおいては、固体撮像素子431が有するゲート機構432の代わりにイメージインテンシファイア433が有するゲート機構434によって、
図3に示したような開閉制御を行ってもよい。撮像ユニット4Aによれば、イメージインテンシファイア433によって蛍光体42からの蛍光L2を増幅させて、固体撮像素子431に撮像させることができる。そのため、蛍光体42からの蛍光L2がごく微弱である場合においても、当該蛍光L2を撮像することができる。また、一般に、イメージインテンシファイア433のゲート機構434の切替速度は、機械式のゲート機構よりも速い。そのため、イメージインテンシファイア433のゲート機構434を用いることにより、一の成分(例えば、
図4に示される成分S10)が撮像部43に到達するタイミングと他の成分(例えば、
図4に示される成分S20)が撮像部43に到達するタイミングとの間隔が短い場合においても、それぞれの成分に対応する像を好適に分離して撮像することができる。
【0084】
(撮像ユニットの第2変形例)
図9は、撮像ユニットの第2変形例(撮像ユニット4B)を示す図である。撮像ユニット4Bは、蛍光体42、光学レンズ44、及び固体撮像素子431の代わりに、撮像部43としての電子センサ435を有している点で撮像ユニット4と相違している。電子センサ435は、電子のエネルギーを検出する機能を有する検出器である。撮像ユニット4Bでは、MCP41により放出された電子Eを、電子センサ435によって直接検出することができるため、蛍光体42を省略することができる。この場合、制御部5は、電子センサ435によって取得される画像のうち、検出対象成分に応じた期間(例えば、
図4に示されるような各成分S10,S20,S30に応じた期間p1,p2,p3)に取得された画像に関するデータを分析対象として取得及び保存すればよい。これにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。
【0085】
(撮像ユニットのその他の変形例)
また、撮像ユニット4において、固体撮像素子431は、ゲート機構432を備えないカメラ(例えば、イベント駆動カメラ、高速度ビデオカメラ等)であってもよい。この場合、制御部5は、固体撮像素子431によって取得される画像のうち、検出対象成分に応じた期間(例えば、
図4に示されるような各成分S10,S20,S30に応じた期間p1,p2,p3)に取得された画像に関するデータを分析対象として取得及び保存すればよい。これにより、1回の撮像において分析対象として取得及び保存される情報量(データ量)を低減できる。
【0086】
また、撮像ユニット4及び撮像ユニット4Aにおいて、光学レンズ44の代わりにFOP(ファイバオプティカルプレート)が用いられてもよい。この場合、FOPは、蛍光体42の基板421の出力面42bに直接的に接続されてもよい。同様に、撮像ユニット4Aにおいて、光学リレーレンズ45の代わりにFOPが用いられてもよい。
【0087】
上述した一の実施形態又は変形例における一部の構成は、他の実施形態または変形例における構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…質量分析装置、2…試料台、3…照射部、5…制御部、11…引出電極(第1電極)、42…蛍光体、43…撮像部、431…固体撮像素子、432,434…ゲート機構、433…イメージインテンシファイア、E,E1…電子、EV1,EV2,EV3,EV4…イベント、L1…エネルギー線、L2,L3…蛍光(光)、p1,p2,p3…期間、S…試料、S1,S10,S20,S30…成分、S2…イオン化試料、t1,t2,t3…タイミング。