(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127871
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】スリットナットの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 39/18 20060101AFI20220825BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20220825BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20220825BHJP
B21K 1/56 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
F16B39/18
F16B37/00 Z
B21J5/02 Z
B21K1/56
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026092
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】513124204
【氏名又は名称】芋田 嘉彦
(74)【代理人】
【識別番号】100178102
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100145425
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和由
(72)【発明者】
【氏名】芋田 嘉彦
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087CA19
4E087HA56
(57)【要約】
【課題】ダブルナットによるナットのゆるみ止め効果を最大限に発揮する極小のスリットを有するスリットナットを簡易な方法で作成する製造方法を提供する。
【解決手段】第1及び第2のナット素材1、2は同径の下穴1b、2bを有しており、当接部の端面1aに下穴1bを共有する円筒状の凸部1cを具備し、当接部の端面2aに、第1のナット素材1の凸部1cが嵌合する円周状の凹部2cであって、嵌合時に凸部1cの先端面1dが凹部2cの底面2dに当接する凹部2cを具備し、第1及び第2のナット素材1、2は当接部1a、2aにおいて凸部1cおよび凹部2cを嵌合させ第1及び第2のナット素材1、2の各端面1a、2aを当接させた状態で圧造により連続したねじ3を形成する。下穴1b、2bには予めスリットナット100のねじ完成時の谷径D未満の寸法D’までねじを作成しておき、最終的に圧造により第1及び第2のナット素材1、2に連続したねじ3を製造する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のナット素材と第2のナット素材の各端面を当接させて圧造により上記第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造する方法であって、
上記第1及び第2のナット素材は同径の下穴を有しており、
上記第1のナット素材は上記当接部の端面に上記下穴を共有する円筒状の凸部を具備し、
上記第2のナット素材は上記当接部の端面に、上記第1のナット素材の上記凸部が嵌合する円周状の凹部であって、嵌合時に上記凸部の先端面が上記凹部の底面に当接する凹部を具備し、
上記第1及び第2のナット素材は上記当接部において上記凸部および凹部を嵌合させ上記第1及び第2のナット素材の各端面を当接させた状態で圧造により連続したねじを形成する、
ことを特徴とするスリットナットの製造方法。
【請求項2】
上記第1及び第2のナット素材の同径の下穴に、予め上記スリットナットのねじ完成時の谷径未満の寸法までねじを作成しておき、最終的に圧造により上記第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造することを特徴とする、請求項1に記載のスリットナットの製造方法。
【請求項3】
上記請求項1または2に記載の製造方法で製造されたスリットナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスリットナットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナットにより部材を締結する際のナットのゆるみ止め対策として多くの方式が提案されている。
その一つの方法としてダブルナットによる方式がある。これはナットを2つ重ねてボルトに締め込んだ後、ナット同士の当接面においていわゆるかしめ操作(下ナットを固定状にして上ナットを締め付ける)を行うことによりナットとボルトの間のゆるみを防止しようとする方式である。
【0003】
従来からこの方式によるナットのゆるみ止めは行われており、それなりに効果は発揮されている。しかしながら、この方式でゆるみ止めを施していてもゆるみが発生してしまうことはある。その原因としてダブルナット構造の上下2つのナットをかしめた摩擦力よりも振動等による戻し回転力が勝るためにゆるみが生じるためである。 ダブルナット構造で上部ナットの回転緩みを防止する構造は今も開発されていない。
【0004】
特許文献1には、ダブルナットによるゆるみ止めの技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のダブルナットでは製造に精密な寸法管理が必要であり、また、特許文献1はナット中心を偏心させた構造であり、締結後ボルト・ナットそれぞれの片面に大きな応力が発生する。ゆるみ止めのメカニズムは本発明とは大きく異なっている。
本発明は、圧造によりねじ部が一体化したスリットナットとすることで、かしめ操作により第1・第2ナットのスリット部においてねじ山ピッチが変化する。その結果として、両ナットとボルトとの間に大きな摩擦力を生じさせるというダブルナットの効果を有するとともに、かしめ操作を行ってもなおねじ部が分離することなく連結していることにより振動等による戻し回転力で緩むことのないスリットナットを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1のナット素材と第2のナット素材の各端面を当接させて圧造により第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造する方法であって、第1及び第2のナット素材は同径の下穴を有しており、第1のナット素材は当接部の端面に下穴を共有する円筒状の凸部を具備し、第2のナット素材は当接部の端面に、第1のナット素材の凸部が嵌合する円周状の凹部であって、嵌合時に凸部の先端面が凹部の底面に当接する凹部を具備し、第1及び第2のナット素材は当接部において凸部および凹部を嵌合させ第1及び第2のナット素材の各端面を当接させた状態で圧造により連続したねじを形成することを特徴とする。
請求項2の発明は、さらに、第1及び第2のナット素材の同径の下穴に、予めスリットナットのねじ完成時の谷径未満の寸法までねじを作成しておき、最終的に圧造により第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2の発明の製造方法で製造されたスリットナットである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は極小のスリットを有し、かつねじ部が連結していることにより、ダブルナットによるナットのゆるみ止め機能に加えて振動等による戻し回転力によってゆるむことのないスリットナットを圧造による簡易な製造方法で提供することを可能とする。
また、この製造方法により製造された本発明のスリットナットは、第1ナットのみの締め付け操作によりこのゆるみ止め効果を発揮することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のスリットナットの製造方法の手順を示す模式図である。
【
図2】本実施形態のスリットナットの断面図である。
【
図3】本実施形態のスリットナットによるゆるみ止め機能の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の第1の実施形態について図を用いて説明する。まず、本実施形態の手順について説明する。
【0011】
図1、
図2に示すように、第1のナット素材1と第2のナット素材2の各端面1a、2aを当接させて圧造により第1及び第2のナット素材1、2に連続したねじ3を製造する方法であって、第1及び第2のナット素材1、2は同径の下穴1b、2bを有しており、第1のナット素材1は当接部の端面1aに下穴1bを共有する円筒状の凸部1cを具備し、第2のナット素材2は当接部の端面2aに、第1のナット素材1の凸部1cが嵌合する円周状の凹部2cであって、嵌合時に凸部1cの先端面1dが凹部2cの底面2dに当接する凹部2cを具備し、第1及び第2のナット素材1、2は当接部1a、2aにおいて凸部1cおよび凹部2cを嵌合させ第1及び第2のナット素材1、2の各端面1a、2aを当接させた状態で圧造により連続したねじ3を形成する。
本実施形態では、さらに、第1及び第2のナット素材1、2の同径の下穴1b、2bに、予めスリットナット100のねじ完成時の谷径D未満の寸法D’までねじを作成しておき、最終的に圧造により第1及び第2のナット素材1、2に連続したねじ3を製造する。
【0012】
次に、本実施形態の更に具体的な手順の一例について説明する。
図1(a)~(f)に示すように、第1及び第2のナット素材1、2の各端面1a、2aを当接させて隙間なく組み合わせ、圧造ねじタップ4を回転させながら圧入することによりねじ山を作成し、ねじ山完成後圧造ねじタップ4を逆回転させて抜き取る。
本実施形態では
図1(a)の前段階として、第1及び第2のナット素材1、2を
図1(b)の様に組み合わせて、各下穴1c、2cに完成時のねじ山の谷径の例えば95%の谷径まで切削により下ねじを作成しておく。これは、圧造によるねじ山造成の負荷を軽減するためであり、大型(例えばM20以上)のスリットナットの作成時に適用される。
【0013】
本実施形態の製造方法により製造されたスリットナット100は
図2に示すように、第1及び第2のナット素材が当接面1a、2aにおいて極めて小さなスリットを有しているといえる。
第1及び第2のナット素材1、2は連続したねじ3が圧造されたことにより、当接面1a、2aでねじ部が連続して一体化された状態となり、力を加えて分割されない限り一体物のスリットナット100となっている。
しかしながら、ねじ部の外側の
図3のP部、Q部においては、当接面10aでスリットナット100は第1のナット10と第2のナット20とに分離したままで極小のスリットを有している状態であり、これにより後述のように第1のナット10のみを第2のナット20に対して回転させることが可能となる。
【0014】
このスリットナット100にゆるみ止めの効果を発揮させるためには以下の手法を用いる。
すなわち、
図3に示すように、まず、締め付けるべき部材30、40に対し、一体化したスリットナット100を、部材30、40の貫通穴60で貫通させたボルト50に、スリットナット100の下面20aが部材30の上面30aに当接し、軽く固定されるまでねじ込む。
次に、スリットナット100の上部を構成している第1のナット10のみを、レンチ等により締め付け回転させる。すると、スリットナット下部を構成している第2のナット20は下面20aと、被締結体30の上面30aの摩擦抵抗等により回転が止まる。さらにその状態で締め付けると、スリットナット100の第1のナット10と第2のナット20の間にはお互いの当接面10aにおいてねじ山ピッチに差が生じ、いわゆるかしめ状態になり緩み止め効果を発揮する。
【0015】
上述のように、いわゆるダブルナットでのゆるみ防止機能と同様のメカニズムにより、スリットナット100は上部の第1のナット10と下部の第2のナット20との当接面10a(極小のスリット部)においてわずかにねじ30が変形してかしめられ、第1のナット10、第2のナット20のゆるみ止めが実現する。この両ナットのかしめによるゆるみ止めは、両ナットに連続したねじが切られており、ナットのねじ山の谷部(Q部)で相当な力で破断させられた場合でも、あるいは破断に近い状態に塑性変形した場合でも、ゆるみの原因となる回転ゆるみを防止する、という究極の好条件を有したものであり、さらに、ナットのねじ山の山部(P部)においてはボルト50のねじ山と変形、密着して極めて良好なゆるみ止め効果を発揮する。
【0016】
本実施形態のスリットナットは例えばM20以上の大型のナットに対しての製造方法である。本実施形態のスリットナットの製造方法を小型のナットに適用する場合は、上述したねじの圧造の前段階において、各ナット素材の下穴に予めスリットナットのねじ完成時の谷径未満の寸法までねじを作成しておく必要はなく、直接下穴に対して圧造によるねじの製造を行うことができる。小型のナットでは圧造における
製造時の負荷がそれほどないと考えられるからである。
【符号の説明】
【0017】
1 第1のナット素材
1a 端面
1b 下穴
1c 凸部
1d 先端面
2 第2のナット素材
2a 端面
2b 下穴
2c 凹部
2d 底面
3 ねじ
4 圧造ねじタップ
10 第1のナット
10a 当接面
20 第2のナット
20a 下面
30、40 被締結材料
50 ボルト
60 貫通穴
100 スリットナット
D 谷径寸法
D’ 谷径未満の寸法
P ナットのねじの山部
Q ナットのねじの谷部
【手続補正書】
【提出日】2022-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のナット素材と第2のナット素材の各端面を当接させて圧造により上記第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造する方法であって、
上記第1及び第2のナット素材は同径の下穴を有しており、
上記第1のナット素材は上記当接部の端面に上記下穴を共有する円筒状の凸部を具備し、
上記第2のナット素材は上記当接部の端面に、上記第1のナット素材の上記凸部が嵌合する円周状の凹部であって、嵌合時に上記凸部の先端面が上記凹部の底面に当接する凹部を具備し、
上記第1及び第2のナット素材は上記当接部において上記凸部および凹部を嵌合させ上記第1及び第2のナット素材の各端面を当接させた状態で圧造により連続したねじを形成する、
ことを特徴とするスリットナットの製造方法。
【請求項2】
上記第1及び第2のナット素材の同径の下穴に、予め上記スリットナットのねじ完成時の谷径未満の寸法までねじを作成しておき、最終的に圧造により上記第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造することを特徴とする、請求項1に記載のスリットナットの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1のナット素材と第2のナット素材の各端面を当接させて圧造により第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造する方法であって、第1及び第2のナット素材は同径の下穴を有しており、第1のナット素材は当接部の端面に下穴を共有する円筒状の凸部を具備し、第2のナット素材は当接部の端面に、第1のナット素材の凸部が嵌合する円周状の凹部であって、嵌合時に凸部の先端面が凹部の底面に当接する凹部を具備し、第1及び第2のナット素材は当接部において凸部および凹部を嵌合させ第1及び第2のナット素材の各端面を当接させた状態で圧造により連続したねじを形成することを特徴とする。
請求項2の発明は、さらに、第1及び第2のナット素材の同径の下穴に、予めスリットナットのねじ完成時の谷径未満の寸法までねじを作成しておき、最終的に圧造により第1及び第2のナット素材に連続したねじを製造することを特徴とする。