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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127912
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/10 20060101AFI20220825BHJP
   B29C 39/42 20060101ALI20220825BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220825BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20220825BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220825BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
B29C39/10
B29C39/42
B29C70/06
B29C70/48
B29K105:08
B29K101:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026147
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅村 康太
(72)【発明者】
【氏名】平岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】赤池 文敏
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AA39
4F204AC05
4F204AD16
4F204AM28
4F204EA03
4F204EB01
4F204EF30
4F204EK09
4F204EK13
4F204EK17
4F205AA36
4F205AA39
4F205AC05
4F205AD16
4F205AM28
4F205HA06
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA33
4F205HA37
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF30
4F205HK04
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】RTM工法による繊維強化樹脂成形品の製造において、型締め状態で強化繊維体を所定形状に切断するとともに減圧状態のキャビティ内に樹脂の注入が可能な製造方法を提供する。
【解決手段】下型20と上型30との間に強化繊維体2を配置して型締めする第1工程と、上型30の貫通孔31と下型20の溝部21の中に、押圧部材40の壁状部42を挿入して切断刃43によって強化繊維体2の端部を切断するとともに下シール部材23と上シール部材33によってキャビティCと型外との間をシールする第2工程と、キャビティC内の空気を吸引して減圧状態とする第3工程と、キャビティC内に液体状態の樹脂3を注入して強化繊維体2に含浸固化させる第4工程と、下型20と上型30を開いてクッションパン1を取出す第5工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締め時に製品形状のキャビティを形成する第1型及び第2型と、型締めされた前記第1型及び前記第2型に対して型締め方向に移動する押圧部材と、を有する成形装置を用いた、面状の強化繊維体に樹脂を含浸固化させた繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記第1型には前記キャビティの面の外周縁に沿って延び前記第2型と反対側に向かって凹む横断面が略U字状の溝部が形成されており、
前記第2型には型締め時に前記溝部に対応して延びるとともに型締め方向に貫通する貫通孔が形成されており、
前記押圧部材は、前記第1型及び前記第2型を型締めした状態の前記貫通孔及び前記溝部に対応した形状で前記貫通孔及び前記溝部に外部から挿入されて遊嵌する壁状部が形成されており、
該壁状部には前記溝部の前記キャビティの側の壁面に沿って延び前記溝部の側に刃先を有する切断刃が設けられており、
前記壁状部が前記貫通孔及び前記溝部に挿入された状態で前記押圧部材と前記第2型との間及び前記押圧部材と前記第1型との間には前記キャビティから型外への空気の流通を阻害するシール部材が介在するように構成されており、
前記第1型と前記第2型の間に前記強化繊維体を配置して型締めする第1工程と、
前記貫通孔と前記溝部の中に前記壁状部を挿入して前記切断刃によって前記強化繊維体の端部を切断するとともに前記シール部材によって前記キャビティと型外との間をシールする第2工程と、
前記キャビティ内の空気を吸引して減圧状態とする第3工程と、
前記キャビティ内に液体状態の樹脂を注入して前記強化繊維体に含浸固化させる第4工程と、
前記第1型と前記第2型を開いて繊維強化樹脂成形品を取出す第5工程と、を有する繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記押圧部材は、板状部から前記壁状部が垂直方向に延びるように形成されており、
前記シール部材は、前記壁状部と前記溝部の壁面との間に配置されて延びる第1シール部材と、前記板状部と前記第2型との間に配置されて延びる第2シール部材と、で構成され、該第2シール部材は圧縮変形可能な弾性体により形成されており、
前記第2工程において前記第2シール部材が前記押圧部材によって押圧されて圧縮変形することによりシールを行う繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記第1シール部材が圧縮変形可能な弾性体により形成されており、前記第2工程において前記第1シール部材及び前記第2シール部材が前記押圧部材によって押圧されて圧縮変形することによりシールを行う繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記第1シール部材は、中空の管状体とされており、前記第2工程において前記管状体の中に空気を注入された状態で圧縮変形させられるものである繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項2において、前記第1シール部材は、前記強化繊維体に予め未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグであり、前記第1工程において前記溝部の中に配置され、前記第2工程において圧縮された状態で固化されるものである繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項2において、前記第1シール部材は、加熱によって軟化し冷却によって固化するワックス体であり、前記第1工程において加熱により軟化した状態で前記溝部の中に配置され、前記第2工程において圧縮された状態で固化されるものである繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RTM(Resin Transfer Molding)工法を用いて繊維強化樹脂成形品を成形するに当たって、強化繊維体に樹脂を含浸固化させた成形品を製品形状より大きく成形し成形後に端末部分を切断して製品形状としていた。特許文献1には、このような工法で繊維強化樹脂成形品を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、射出成形工法で面状の表皮材が樹脂の表面に一体成形された成形品を得る技術が開示されている。これによれば、一対の成形型により形成されるキャビティの外周縁部分にシャーエッジ部を設け、シャーエッジ部によって一対の成形型間に配置された表皮材の端末部を薄肉化又は切断したのち溶融樹脂材料を射出して表皮材と一体成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-84788号公報
【特許文献2】特開2006-334808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された繊維強化樹脂成形品の製造方法においては、樹脂が含浸固化した強化繊維体は切断が容易でなく時間がかかるとともに切断するツールにおける刃の摩耗が大きいという問題がある。また、特許文献2に記載された射出成形工法におけるように、一対の成形型の型締め時に型間に配置された面状の強化繊維体をシャーエッジ部によって切断してそののち樹脂を注入するという工法が考えられる。しかし、これによると、RTM工法では型締め後にキャビティ内の空気を吸引してキャビティ内を減圧状態とする必要があるが、この空気吸引時にシャーエッジ部の隙間から空気が漏れてしまいキャビティ内を減圧状態にしにくいという問題がある。
【0005】
このような問題に鑑み本発明の課題は、RTM工法による繊維強化樹脂成形品の製造において、型締め状態で強化繊維体を所定形状に切断するとともに減圧状態のキャビティ内に樹脂の注入が可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、型締め時に製品形状のキャビティを形成する第1型及び第2型と、型締めされた前記第1型及び前記第2型に対して型締め方向に移動する押圧部材と、を有する成形装置を用いた、面状の強化繊維体に樹脂を含浸固化させた繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、前記第1型には前記キャビティの面の外周縁に沿って延び前記第2型と反対側に向かって凹む横断面が略U字状の溝部が形成されており、前記第2型には型締め時に前記溝部に対応して延びるとともに型締め方向に貫通する貫通孔が形成されており、前記押圧部材は、前記第1型及び前記第2型を型締めした状態の前記貫通孔及び前記溝部に対応した形状で前記貫通孔及び前記溝部に外部から挿入されて遊嵌する壁状部が形成されており、該壁状部には前記溝部の前記キャビティの側の壁面に沿って延び前記溝部の側に刃先を有する切断刃が設けられており、前記壁状部が前記貫通孔及び前記溝部に挿入された状態で前記押圧部材と前記第2型との間及び前記押圧部材と前記第1型との間には前記キャビティから型外への空気の流通を阻害するシール部材が介在するように構成されており、前記第1型と前記第2型の間に前記強化繊維体を配置して型締めする第1工程と、前記貫通孔と前記溝部の中に前記壁状部を挿入して前記切断刃によって前記強化繊維体の端部を切断するとともに前記シール部材によって前記キャビティと型外との間をシールする第2工程と、前記キャビティ内の空気を吸引して減圧状態とする第3工程と、前記キャビティ内に液体状態の樹脂を注入して前記強化繊維体に含浸固化させる第4工程と、前記第1型と前記第2型を開いて繊維強化樹脂成形品を取出す第5工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
第1発明によれば、第1型と第2型を型締めした状態で強化繊維体をキャビティの面の外周縁形状に沿って切断することができるので、成形品脱型後にトリミングする必要が無いとともに切断するツールにおける刃の摩耗が大きいという問題もない。また、壁状部が貫通孔及び溝部に外部から挿入された状態で押圧部材と第2型との間及び押圧部材と第1型との間に介在してキャビティから型外への空気の流通を阻害するシール部材によって、キャビティと型外の間がシールされるためキャビティ内の減圧状態を良好に保って樹脂の注入ができる。
【0008】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記押圧部材は、板状部から前記壁状部が垂直方向に延びるように形成されており、前記シール部材は、前記壁状部と前記溝部の壁面との間に配置されて延びる第1シール部材と、前記板状部と前記第2型との間に配置されて延びる第2シール部材と、で構成され、該第2シール部材は圧縮変形可能な弾性体により形成されており、前記第2工程において前記第2シール部材が前記押圧部材によって押圧されて圧縮変形することによりシールを行うことを特徴とする。
【0009】
第2発明によれば、第2シール部材は圧縮変形可能な弾性体により形成されているので、成形の度ごとに第2シール部材を交換する必要が無く便宜である。
【0010】
本発明の第3発明は、上記第2発明において、前記第1シール部材が圧縮変形可能な弾性体により形成されており、前記第2工程において前記第1シール部材及び前記第2シール部材が前記押圧部材によって押圧されて圧縮変形することによりシールを行うことを特徴とする。
【0011】
第3発明によれば、第2シール部材に加えて第1シール部材も圧縮変形可能な弾性体により形成されているので、成形の度ごとに第1シール部材及び第2シール部材を交換する必要が無くさらに便宜である。
【0012】
本発明の第4発明は、上記第3発明において、前記第1シール部材は、中空の管状体とされており、前記第2工程において前記管状体の中に空気を注入された状態で圧縮変形させられるものであることを特徴とする。
【0013】
第4発明によれば、第1シール部材がより圧縮変形しやすくなるのでキャビティと型外の間とのシール性が向上し、キャビティ内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。
【0014】
本発明の第5発明は、上記第2発明において、前記第1シール部材は、前記強化繊維体に予め未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグであり、前記第1工程において前記溝部の中に配置され、前記第2工程において圧縮された状態で固化されるものであることを特徴とする。
【0015】
第5発明によれば、第1シール部材を成形の度ごとに取り換える必要があるが、常に新しい予め未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグを第1シール部材とすることができるので、キャビティと型外の間とのシール性が向上し、キャビティ内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。
【0016】
本発明の第6発明は、上記第2発明において、前記第1シール部材は、加熱によって軟化し冷却によって固化するワックス体であり、前記第1工程において加熱により軟化した状態で前記溝部の中に配置され、前記第2工程において圧縮された状態で固化されるものであることを特徴とする。
【0017】
第6発明によれば、第1シール部材を成形の度ごとに取り換える必要があるが、常に新しい加熱によって軟化し冷却によって固化するワックス体を第1シール部材とすることができるので、キャビティと型外の間とのシール性が向上し、キャビティ内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造方法に使用される成形装置を上方から見た平面図である。壁状部の形状のみを破線で示している。
図2図1のII-II線で切断して示す断面図である。
図3図2の下型、上型、押圧部材を開いた状態の断面図である。
図4図2のIV部分を拡大して示す図である。
図5図4における繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。
図6図4における繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。
図7】本発明の第2実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図5に対応する図である。
図8】本発明の第2実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図4に対応する図である。
図9】本発明の第3実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図5に対応する図である。
図10】本発明の第3実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図4に対応する図である。
図11】本発明の第4実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図5に対応する図である。
図12】本発明の第4実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造工程を説明する図である。図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図6は、本発明の第1実施形態を示す。この実施形態は、自動車用シートのフレームであるクッションパン1の製造に本発明を適用した例である。各図中、矢印によりクッションパン1を成形する下型20と上型30が型閉じされた状態における各方向を示している。以下の説明において、方向に関する記述は、この方向を基準として行うものとする。ここで、クッションパン1が、特許請求の範囲の「繊維強化樹脂成形品」に相当する。
【0020】
図1図3に示すように、クッションパン1は、面状の強化繊維体2に樹脂3を含浸させて固化させた板状の成形品である。クッションパン1は、上方から見て後側の2コーナ部が面取りされた略矩形状をしているとともに、左右方向中央部にほぼ平坦なメイン部1Aとメイン部1Aの左右両側に下方に向かって突出する左右一対のサイド部1Bとを備えている。クッションパン1は、成形後に上下逆にして自動車に取付けられたとき、メイン部1Aがクッション材(図示せず)を介して着座乗員の臀部及び大腿部の下面部を支持し、両サイド部1Bがクッション材(図示せず)を介して着座乗員の臀部及び大腿部の側部を支持する。クッションパン1の後側には、着座乗員の背部を支持するシートバック(図示せず)が取付けられる。強化繊維体2は、炭素繊維製の織物を複数枚重ね合わせたものであるが、ガラス繊維製の織物としてもよいし、アラミド繊維製の織物としてもよい。また、樹脂3は熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂であるが、不飽和ポリエステル樹脂とすることもできる。
【0021】
図1図6に示すように、クッションパン1をRTM工法で成形する成形装置10は、下型20と、下型20に対して閉じられたとき間にキャビティCを形成する上型30と、キャビティCの減圧状態を維持する押圧部材40と、を有する。下型20の上面部には、製品であるクッションパン1の表面形状を成形するキャビティ下面部C1が形成されている。そして、キャビティ下面部C1の外周には下方に向けて凹む横断面が略U字状の溝部21が形成されている。図1及び図2に示すように、溝部21は上方から見て後側の2コーナ部が面取りされた略矩形状の枠状に形成されている。図5によく示されるように、溝部21は上側に開口21aを有している。溝部21の開口21aにおけるキャビティ下面部C1の側の縁部から下方に向かって延びる内側面部21bが形成され、開口21aにおけるキャビティ下面部C1と反対側の縁部から下方に向かって延びる外側面部21cが形成されている。内側面部21bの方が外側面部21cより下方に向かって延びる長さが長く設定されている。内側面部21bの下端部と外側面部21cの下端部とは、屈曲して左右方向に延びる底面部21dによって連結されている。底面部21dは、外側面部21cの側の上底面部21d1と、内側面部21bの側の下底面部21d2と、を有する。上底面部21d1と下底面部21d2は、水平方向に延びている。上底面部21d1には弾性変形が可能なゴム状の部材であり横断面が矩形状の下シール部材23が、その横断面の一部が埋設された形で取付けられている。溝部21の開口21aにおけるキャビティ下面部C1と反対側の縁部から水平方向に型外方向に向かって延びる下パーティング面22が形成されている。下パーティング面22は、型外側に形成され上型30に直接当接する下外パーティング面22aと、溝部21の開口21a側に形成され下外パーティング面22aより若干下側に配置された下内パーティング面22bと、を有する。下内パーティング面22bは強化繊維体2の外周縁部を介在させて上型30に当接する。ここで、下型20と上型30が、それぞれ特許請求の範囲の「第1型」と「第2型」に相当する。また、下シール部材23が、特許請求の範囲の「第1シール部材、シール部材」に相当する。
【0022】
図1図6に示すように、上型30は、本体部30aと、本体部30aの上部に取付けられた枠状部30bと、を備えている。本体部30aの下面部には、製品であるクッションパン1の裏面形状を成形するキャビティ上面部C2が形成されている。また、本体部30aの上面部には、外周面部34aと、外周面部34aより若干下方に向けて凹んだ中央面部34bと、が形成されている。枠状部30bは、水平方向に延びる厚板状の基板部30b1と、基板部30b1の外周縁部から下方に向かって延びる延出部30b2と、を有する。基板部30b1の中央部分には、上方に向かって凹み後述するシリンダ40aを取付けるシリンダ取付孔30b3が設けられている。基板部30b1の下面部と本体部30aの上面部とは複数の円柱状の柱部材30cで連結され、本体部30aと枠状部30bとは一体とされている。本体部30aにおけるキャビティ上面部C2の外周にはキャビティ上面部C2の外周縁部と外周面部34aの外周縁部とを連結して上下に延びる内側面部31cが形成されている。内側面部31cに隣接する外周面部34aには、弾性変形が可能なゴム状の部材であり横断面が矩形状の上シール部材33が、その横断面の一部が埋設された形で取付けられている。枠状部30bにおける延出部30b2の下面部は、水平方向に延びる上パーティング面30b4として形成されている。上パーティング面30b4はキャビティ上面部C2の外周縁部と同一の平面とされている。また、枠状部30bにおける延出部30b2の内側面部31cに対向する面部は、外側面部31dとして形成されている。内側面部31cと外側面部31dとの間は、上下方向に貫通する貫通孔31として形成されている。図1図2及び図4に示すように、貫通孔31は下型20に対して上型30を閉じたとき、上方から見て溝部21の形状に一致する。図5によく示されるように、貫通孔31は、下側に下開口31aを有している。貫通孔31は下型20に対して上型30を閉じたとき、内側面部31cが溝部21の内側面部21bと面一となり、外側面部31dが溝部21の外側面部21cと面一になる。そして、上パーティング面32は、その型外側部分が下外パーティング面22aに直接当接し、その貫通孔31の下開口31a側部分が強化繊維体2の外周縁部を介在させて下内パーティング面22bに当接する。ここで、上シール部材33が、特許請求の範囲の「第2シール部材、シール部材」に相当する。
【0023】
図2図6に示すように、押圧部材40は、水平方向に延びる板状部41と、板状部41の下面側から下方向に延びる壁状部42が形成されている。板状部41には、上型30の複数の柱部材30cに対応して各柱部材30cが遊嵌する複数の通し孔41aが設けられている。板状部41は、上型30の本体部30aと枠状部30bとの間に上下移動可能に取付けられている。板状部41の下面部と上型30の本体部30aの中央面部34bとの間には各柱部材30cを軸とする圧縮コイルばね44が配設され、板状部41の上面部と上型30における枠状部30bのシリンダ取付孔30b3の上面部との間には油圧シリンダ40aが配設されている。油圧シリンダ40aを作動させると押圧部材40は、上型30に対して上下動するように構成されている。壁状部42は、横断面が長軸の方向を上下方向とする矩形状をしており、型内側の面に刃先43aを下側に備えた板状の切断刃43が取付けられている。刃先43aは、壁状部42の先端側の面である底面部42aより下方に突出している。切断刃43が取付けられた状態の壁状部42の厚みは貫通孔31の幅(図5における左右方向の長さ)より若干小さく設定されている。後述するように、下型20と上型30の間に強化繊維体2を配置して型閉じした状態で、押圧部材40を下降させ切断刃43が取付けられた状態の壁状部42を貫通孔31及び溝部21の中に挿入すると切断刃43の壁状部42と反対側の面は、上型30の内側面部31cと下型20の内側面部21bに摺接して下降する。そして、強化繊維体2の端末部が切断刃43により切断される。壁状部42の底面部42aが下型20の下シール部材23を押圧して圧縮変形させるとともに、板状部41の下面部が上型30の上シール部材33を押圧して圧縮変形させることによってキャビティCと型外との空気の流通を遮断する。このとき、切断された強化繊維体2の端末部の一部が下型20の外側面部21cと壁状部42の切断刃43が取付けられていない面との間の隙間に入り込むように構成されている。また、この状態で切断刃43の刃先43aは、下型20の下底面部21d2の上方に離隔して位置するようになっている。
【0024】
図2図6に基いて、成形装置10を使用してクッションパン1を製造する方法について説明する。第1工程では、図3図5及び図6に示すように、下型20のキャビティ下面部C1に強化繊維体2を載置して上型30を閉じると、キャビティC内に強化繊維体2が配置されるとともに、強化繊維体2が溝部21の開口21aを覆った状態となる。このとき、強化繊維体2の端末部分は、下型20の下内パーティング面22bと上型30の上パーティング面30b4とによって挟持される。この状態で、第2工程では、型閉じされた下型20及び上型30に対して油圧シリンダ40aを作動させて上方から押圧部材40を下降させ、壁状部42を上型30の貫通孔31及び下型20の溝部21の中に底面部42aから挿入する。このとき、押圧部材40は、取付けられた切断刃43の壁状部42と反対側の面が上型30の内側面部31cと下型20の内側面部21bに摺接して下降する。そして、強化繊維体2の端末部が切断刃43により切断される。壁状部42の底面部42aが下型20の下シール部材23を押圧して圧縮変形させるとともに、板状部41の下面部が上型30の上シール部材33を押圧して圧縮変形させることによって押圧部材40の下降は停止する。この状態でキャビティCと型外との空気の流通は下シール部材23と上シール部材33によって阻害される。このとき、図4に示すように、切断された強化繊維体2の端末部の溝部21側の部分が下型20の外側面部21cと壁状部42の切断刃43が取付けられていない面との間の隙間に入り込む。また、この状態で切断刃43の刃先43aは、下型20の下底面部21d2の上方に離隔して位置する。
【0025】
次に第3工程では、図2及び図4に示す状態において、キャビティCに連結された図示しない空気吸引装置を作動させてキャビティC内の空気を吸引して減圧状態とする。このとき、圧縮変形された下シール部材23と上シール部材33の働きによって型外からキャビティC内への空気の流入が阻止されるのでキャビティCが減圧状態に保たれる。次に第4工程では、前記空気吸引装置の作動を停止してキャビティC内に液体状態の樹脂3を図示しない注入口より注入して強化繊維体2に含浸させた状態で固化させる。最後に第5工程において、下型20に対して押圧部材40と上型30を上昇させて強化繊維体2に液体状態の樹脂3を含浸させて固化させた成形品であるクッションパン1を脱型する。
【0026】
以上のように構成される第1実施形態は、以下のような作用効果を奏する。下型20に対し上型30を下降させ型締めした状態で押圧部材40を下降させてキャビティC内に配置された強化繊維体2の端末部をキャビティ下面部C1の外周縁形状に沿って切断することができる。これによって、成形品を脱型した後にトリミングする必要が無いとともに切断するツールにおける刃の摩耗が大きいという問題もない。また、押圧部材40の壁状部42が上型30の貫通孔31及び下型20の溝部21に上方から挿入された状態で下シール部材23と上シール部材33が圧縮変形させられてキャビティC内から型外への空気の流通を阻害する。これによって、第3工程においてキャビティC内の減圧状態を良好に保って液体状態の樹脂3の注入ができ、液体状態の樹脂3が強化繊維体2に含浸するのを促進できる。また、下シール部材23と上シール部材33が圧縮変形可能な弾性体により形成されているので、成形の度ごとに下シール部材23と上シール部材33を交換する必要が無く便宜である。
【0027】
図7及び図8は、本発明の第2実施形態を示す。上記第1実施形態との違いは、下シール部材23の代わりに弾性変形が可能な中空の管状体である下シール部材23Aが使用されている点である。上記第1実施形態と共通する構造については同一の符号を付して説明を省略する。下シール部材23Aは、内部空間23A1に図示しない空気供給装置から空気を供給可能に構成された状態で、下型20における溝部21の上底面部21d1から一部が上方に露出するように埋設設置されている。そして、第2工程において壁状部42の底面部42aが当接する前に内部空間23A1に空気が供給されて膨らんだ状態で底面部42aによって押圧変形されるようになっている。これによって、下シール部材23Aは下シール部材23より圧縮変形しやすくなるのでキャビティCと型外の間とのシール性が向上し、キャビティC内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。ここで、下シール部材23Aが、特許請求の範囲の「第1シール部材、シール部材」に相当する。
【0028】
図9及び図10は、本発明の第3実施形態を示す。上記第1実施形態との違いは、下シール部材23の代わりに強化繊維体2の帯状体に予め未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグが下シール部材23Bとして使用されている点である。上記第1実施形態と共通する構造については同一の符号を付して説明を省略する。下シール部材23Bは、強化繊維体2の帯状体に予め液体状態の未固化の樹脂を含浸させたプリプレグであり、第2工程において、下型20における溝部21の上底面部21d1から一部が上方に露出するように配置されている。そして、壁状部42の底面部42aが下シール部材23Bを押圧変形させた状態でキャビティCと型外の間との空気の流通を抑える。第5工程でクッションパン1を脱型したのち固化した下シール部材23Bは、切断された強化繊維体2の端材とともに廃棄される。これによって、下シール部材23Bは常に新しい予め液体状態の未固化の樹脂を含浸させたプリプレグとすることができるので、キャビティCと型外の間とのシール性が向上し、キャビティC内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。ここで、下シール部材23Bが、特許請求の範囲の「第1シール部材、シール部材」に相当する。
【0029】
図11及び図12は、本発明の第4実施形態を示す。上記第1実施形態との違いは、下シール部材23の代わりに加熱によって軟化し冷却によって固化するワックス体が下シール部材23Cとして使用されている点である。上記第1実施形態と共通する構造については同一の符号を付して説明を省略する。下シール部材23Cは、加熱によって軟化し冷却によって固化するワックス体であり、第2工程において、加熱して軟化した状態で、下型20における溝部21の上底面部21d1から一部が上方に露出するように配置されている。そして、壁状部42の底面部42aが下シール部材23Cを押圧変形させた状態でキャビティCと型外の間との空気の流通を抑える。第5工程でクッションパン1を脱型したのち固化した下シール部材23Cは、切断された強化繊維体2の端材とともに廃棄される。これによって、下シール部材23Cは常に新しいワックス体とすることができるので、キャビティCと型外の間とのシール性が向上し、キャビティC内の減圧状態をより良好に保って樹脂の注入ができる。ここで、下シール部材23Cが、特許請求の範囲の「第1シール部材、シール部材」に相当する。
【0030】
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、次のようなものが挙げられる。
【0031】
1.上記実施形態においては、第1型を下型20とし、第2型を上型30として上下に開閉するものとしたが、これに関わらず、水平方向に開閉する第1型及び第2型とすることもできる。
【0032】
2.上記実施形態においては、キャビティ下面部C1の外周縁部に溝部21を配設した。しかし、これに関わらず、成形品の中央部分に板厚方向に貫通する孔がある場合には、その孔の外周縁部にも溝部を設けることができる。これによって、成形後に切断するツールを利用して孔をあける必要がなくなる。
【0033】
3.上記実施形態においては、本発明を自動車のシートに適用したが、飛行機、船、電車等に搭載のシートに適用しても良いし、自動車の内装部品に適用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 クッションパン(繊維強化樹脂成形品)
2 強化繊維体
3 樹脂
10 成形装置
20 下型(第1型)
21 溝部
23 下シール部材(第1シール部材、シール部材)
23A 下シール部材(第1シール部材、シール部材)
23B 下シール部材(第1シール部材、シール部材)
23C 下シール部材(第1シール部材、シール部材)
30 上型(第2型)
31 貫通孔
33 上シール部材(第2シール部材、シール部材)
40 押圧部材
42 壁状部
43 切断刃
43a 刃先
C キャビティ
C1 キャビティ下面部
C2 キャビティ上面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12