(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127913
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】培養槽及び藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220825BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026150
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】植田 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸稀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】河野 真恵加
(72)【発明者】
【氏名】河村 大樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB04
4B029CC01
4B029CC02
4B029DA10
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB09
4B029GB10
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC50
4B065BD31
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】培養槽の表面に藻類が付着することを抑制可能な培養装置等を提供する。
【解決手段】藻類を有する培養液を収容可能な培養槽であって、培養槽の内表面にオイルが塗布された構成とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を有する培養液を収容可能な培養槽であって、
前記培養槽の内表面にオイルが塗布されたことを特徴とする培養槽。
【請求項2】
前記培養液は、前記培養槽内で対流していることを特徴とする請求項1に記載の培養槽。
【請求項3】
前記オイルの動粘度が20cSt以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の培養槽。
【請求項4】
藻類を有する培養液収容前の培養槽の内表面にオイルを塗布し、当該塗布後の培養槽に培養液を収容して培養を開始する藻類の培養方法。
【請求項5】
前記培養液を前記培養槽内で対流させることを特徴とする請求項4に記載の藻類の培養方法。
【請求項6】
前記オイルの動粘度が20cSt以上である請求項4又は請求項5に記載の藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置等に関し、特に藻類の滞留や残留量減少に好適な培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食用、或いは所謂バイオマス資源として藻類を培養する施設や装置の開発が盛んに行われている。このような装置の一例として特許文献には、培養液をタワー型の培養槽内において攪拌しながら、培養液内の藻類の光合成を促進し、以て藻類を培養する閉鎖型のフォトバイオリアクターが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
上記装置における培養槽としては、プラスチック成形品からなる管状体が主流であり、培養量の増加や培養日数の増加によって培養槽の底部や内壁面に藻がこびり付くため、外部からの光が遮断されて光合成の効率が低下することや、培養期間終了後の清掃作業に多大な労力とコストが掛かると言う問題が生じていた。また、他の培養装置として、培養槽を螺旋状、或いは、円環状等の循環形状として、当該管路内において培養液を循環させる方式も提案されているが、培養液の流速差により、管路を構成する内周壁部分に藻類が滞留して付着し易く、いずれの方式であっても清掃作業の効率化の点で難がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、培養槽の表面に藻類が付着することを抑制可能な培養装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る構成として、藻類を有する培養液を収容可能な培養槽であって、培養槽の内表面にオイルが塗布された構成とした。また、培養液が培養槽中において対流する構成とした。また、好適にはオイルの動粘度が20cSt以上であることを特徴とする。
また、他の形態として、藻類を有する培養液収容前の培養槽の内表面にオイルを塗布し、当該塗布後の培養槽に培養液を収容して培養を開始する形態とした。また、培養液を培養槽中において対流させる形態とした。また、好適にはオイルの動粘度が20cSt以上である形態とした。
なお、上記発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。また、以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成又は工程をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明に係る培養装置の概要図である。同図に示すように、培養装置1は、内部に培養液10を収容可能な円筒状の培養槽3と、培養槽3の底部側にコック等を介して接続されるチューブ等の培養液供給手段5と、同じく培養槽3の底部側にコック等を介してされるチューブ等により形成され、二酸化炭素を含む気体を供給可能な気体供給手段9とを備える。
【0009】
培養槽3は、図外の治具によって床面に対して略垂直となるように立設されており、その内部には、藻類が液中に浮遊した状態の培養液10が満たされた状態で収容される。培養中においては、培養液供給手段5を通じて外部から新たな培養液10が供給される。また、培養中における培養液10の一部は、培養液排出手段7を通じて外部へと排出される。また、培養中においては、気体供給手段9を通じて外部から二酸化炭素を含む気体が培養槽3内に連続的、或いは、間欠的に導入される。当該気体の供給によって培養槽3内の培養液10には対流が生じ、培養液10中の藻類は対流によって培養槽3中において攪拌されながら培養されることとなる。なお、内部に供給された気体は、培養槽3の上部に溜まり、培養槽3の上部開口を閉塞する蓋3aに設けられた図外の排出孔を介して排出される。
【0010】
また、培養槽3の外部、又は培養槽3内には、培養対象となる藻類に吸収され易い特定範囲の波長を有する光を照射可能な光源が設けられており、当該光の照射と二酸化炭素の供給によって光合成が促進される。
【0011】
円筒状の培養槽3は、例えば光透過性の高い透明な塩化ビニルやガラス(ホウケイ酸ガラス)が採用される。また、培養槽3の内周面(底面,周面)の全域には、所定の動粘度を有するオイルが塗布され、培養槽3の内周面への藻類の付着が抑制される。以下、オイルの塗布と藻類の付着との関係について説明する。
【0012】
[実験内容]
図2は、藻類の付着とオイル塗布との関係を調べるための実験内容等の概要を説明する図である。実験に用いる培養槽は、幅100mm、奥行き100mm、高さ200mmの透明アクリル樹脂製である。また、期間の短縮化を図る観点から培養槽の内表面をやすりで均一に研磨し、表面に藻類が付着し易い環境とした。実験に用いる藻類は、ヨワミドロ目ツノイカダモ属様の土着藻類とし、培養液1Lに対して0.3125gの割合で栄養源としての所定の微粉末を添加した。内表面に塗布するオイルは、ジメチルシリコンオイルであり、動粘度を2cSt(センチストークス)から100cStまでの4段階とした。
【0013】
[実験方法]
上記オイルが塗布された培養槽内に藻類を含む培養液を適宜収容して攪拌した後、培養槽の上部を密に閉塞した。光源には蛍光灯を用い、24時間照射とした。培養液液面での光合成有効光量子束密度の平均値は約120[μmol/m2/s]であった。また、周辺環境を空調にて25℃に設定し、これらの条件の下に34日間継続して培養を続けた。なお、本実験では、藻類が付着し易い環境をあえて醸成するため、気体の供給を行わず培養槽を静置した。
【0014】
図3は、上記実験の結果を示す図である。
図3(a)は、実験開始から28日後の藻類の付着が最も生じやすい培養槽の底面を写した写真(画像データ)である。また、
図3(b)は、上記画像データに基づいて二値化処理を行い、底面における付着量(付着面積)を定量化したデータである。また、
図3(c)は、底面への付着割合の変化を経時的に示すデータである。
【0015】
各図から明らかなように、オイルを塗布しない場合との比較において、底面への藻類の付着割合は、2cStから100cStに至る全ての範囲において漸減しており、オイル塗布の効果が充分に確認された。また、特に20cStを超えると、オイルなしとの比較において顕著な差が表れ、50cStを超えるとその付着割合を50%未満まで抑制することが可能となる。
【0016】
以上の結果から、培養槽の内表面へのオイルの塗布は、培養槽の内表面に生じる微小な傷を平滑化し、藻類の付着を抑制するために有意である。また、動粘度を好ましくは20cSt以上、さらに好ましく50cSt以上の動粘度を有するオイルを塗布すれば、動粘度の向上に応じて培養槽表面からのオイルが剥離し難くなり、付着の抑制効果をより持続的に向上させることができ、付着量を低減させることができる。また、このような効果(動粘度の差)は、気体の供給によって培養液を常時循環させ、オイルが剥離し易くなる培養槽3において、より顕著に表れることとなる。
【0017】
また、上述の例では、シリコンオイルを塗布したが、塗布に好適なオイルとしては、
図4に示す種類が挙げられる。同図に示すオイルによれば、いずれのオイルも培養温度の範囲内である37.8℃における動粘度が20cStを超えている。また、全て食用に適したオイルであることから、食用に用いられる藻類の培養にも好適である。
【0018】
上述の実施形態では、所謂タワー型の培養槽3を備えた培養装置1にオイルを塗布する例を示したが、オイルの塗布に好適な培養装置はこれに限るものではなく、閉鎖型の循環流路を多段に積載した構成の培養装置であっても良い。このような循環流路は、例えば塩化ビニルやアクリル等の樹脂により成形された透明な環状体であって、その内部には、藻類を含む培養液が収容される。培養液中には二酸化炭素を含む気体が供給され、培養液は循環流路内の周方向の一方に向けて循環することとなる。また、循環流路の内外又はいずれかには光源が設けられ、循環する培養液中の藻類の光合成が促進される。
【0019】
そして、このような構成における循環流路の内表面に上述のようなオイルを予め塗布しておけば、特に湾曲部において生じやすい培養液の流速差に起因して生じる藻類の付着を抑制することが可能となり、光合成の効率化に加えて、清掃が困難な環状流路内の清掃作業を効率化することが可能となる。
即ち、オイルの塗布対象は、タワー型の培養槽に限定されることはなく、藻類が付着する可能性のある表面を有する培養槽、或いは接続管等の内面であればその形状は問わない。
【0020】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0021】
1 培養装置,3 培養槽,10 培養液