IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社マキタの特許一覧

<>
  • 特開-打撃工具 図1
  • 特開-打撃工具 図2
  • 特開-打撃工具 図3
  • 特開-打撃工具 図4
  • 特開-打撃工具 図5
  • 特開-打撃工具 図6
  • 特開-打撃工具 図7
  • 特開-打撃工具 図8
  • 特開-打撃工具 図9
  • 特開-打撃工具 図10
  • 特開-打撃工具 図11
  • 特開-打撃工具 図12
  • 特開-打撃工具 図13
  • 特開-打撃工具 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127935
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/24 20060101AFI20220825BHJP
   B25D 17/20 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026184
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】特許業務法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】久野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 和樹
【テーマコード(参考)】
2D058
【Fターム(参考)】
2D058AA14
2D058CA06
2D058CB06
2D058DA00
2D058DA14
2D058DA15
2D058DA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】打撃工具において、部品間の摺動に起因する発熱に対する放熱性を高める。
【解決手段】可動支持体18は、最終出力シャフト31と駆動機構5とを少なくとも部分的に支持し、モータ2に対して駆動軸線A1の軸線方向に一体的に移動可能に構成される。付勢部材は、可動支持体を軸線方向の前側に向けて付勢する。少なくとも1つのガイドシャフトは、軸線方向に延在し、可動支持体の軸線方向の移動を摺動的に案内するように構成される。金属製部材15は、放熱可能に配置される。少なくとも1つの弾性部材は、熱伝導性を有しており、また、可動支持体の軸線方向の位置にかかわらず、可動支持体と金属製部材とに常時接触するように配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃工具であって、
先端工具を取り外し可能に保持するように構成され、前記先端工具の駆動軸線を規定する最終出力シャフトと、
モータシャフトを有するモータと、
前記モータの動力によって、前記先端工具を前記駆動軸線に沿って直線状に駆動するように構成された駆動機構と、
前記最終出力シャフトと前記駆動機構とを少なくとも部分的に支持する可動支持体であって、前記モータに対して前記駆動軸線の軸線方向に一体的に移動可能に構成された可動支持体と、
前記軸線方向のうちの前記最終出力シャフトが配置される側を前側とし、前記モータが配置される側を後側と定義したとき、前記可動支持体を前記軸線方向の前側に向けて付勢する付勢部材と、
前記軸線方向に延在し、前記可動支持体の前記軸線方向の移動を摺動的に案内するように構成された少なくとも1つのガイドシャフトと、
放熱可能に配置された金属製部材と、
熱伝導性を有する少なくとも1つの弾性部材であって、前記可動支持体の前記軸線方向の位置にかかわらず、前記可動支持体と前記金属製部材とに常時接触するように配置された少なくとも1つの弾性部材と
を備える打撃工具。
【請求項2】
請求項1に記載の打撃工具であって、
前記金属製部材は、前記打撃工具の外部に少なくとも部分的に露出するように配置された
打撃工具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の打撃工具であって、
更に、前記モータシャフトに固定されたファンを備え、
前記金属製部材は、前記ファンの回転によって発生する空気流の通路上に配置されるか、または、該通路に隣接して配置された
打撃工具。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記金属製部材に保持され、
前記可動支持体は、該可動支持体の前記軸線方向の移動に伴って、前記少なくとも1つの弾性部材上を摺動するように構成された
打撃工具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材と前記可動支持体とは、常時、嵌合状態に維持される
打撃工具。
【請求項6】
請求項5に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材と前記可動支持体との前記嵌合状態が、円筒形状と、円柱形状または円筒形状と、が嵌合する態様で実現されるように、前記少なくとも1つの弾性部材および前記可動支持体が形状付けられた
打撃工具。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記少なくとも1つのガイドシャフトに隣接して配置された
打撃工具。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記可動支持体が前記軸線方向の後側に向けて移動した際に前記可動支持体と前記軸線方向に当接して、前記可動支持体の更なる後側への移動を規制するストッパとして機能する
打撃工具。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つのガイドシャフトは、複数のガイドシャフトを備え、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記複数のガイドシャフトに対応する複数の弾性部材を備え、
前記少なくとも1つのガイドシャフトおよび前記少なくとも1つの弾性部材は、前記駆動軸線に直交する仮想面上における前記複数のガイドシャフトの各々と、対応する弾性部材と、の距離が互いに等しくなるように配置された
打撃工具。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記金属製部材は、少なくとも1つの孔を備え、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記少なくとも1つの孔内に嵌合状態で保持された
打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンマドリルは、ツールホルダに装着された先端工具を、駆動軸線に沿って直線状に駆動するハンマ動作、および、駆動軸線周りに回転駆動するドリル動作を遂行可能に構成されている。一般的には、ハンマ動作のためには、中間シャフトの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構が採用され、ドリル動作のためには、中間シャフトを介してツールホルダに回転を伝達する回転伝達機構が採用される。この種のハンマドリルは、ハンマ動作を行う際に、先端工具の打撃力に対する被加工材からの反力を受ける。この反力は、主として駆動軸線が延在する方向(以下、軸線方向とも呼ぶ)の振動を発生させる。この振動は、ハンマドリルのハウジング、ひいてはユーザに伝達されることになる。
【0003】
下記の特許文献1は、このような振動を吸収するための構造を開示している。具体的には、ハンマ動作を遂行するための駆動機構を保持する保持部材が、ハウジングに対して、ガイドシャフトに沿って摺動的に移動可能に構成される。保持部材は、付勢部材によって、前方(つまり、被加工材に対して打撃力を加える方向)に向けて付勢される。ハンマ動作に伴って先端工具が反力を受けると、この反力によって、駆動機構および保持部材が、先端工具とともに、ハウジングに対して後方に向けて相対移動する。このとき、付勢部材が弾性変形し、反力の一部が緩衝される。この緩衝作用によって、反力に起因してハウジングに伝達される振動が低減されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6322560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のハンマドリルは、保持部材の摺動に伴って発生する熱を適切に放熱可能な構造を有していない。このため、発熱に起因して、潤滑剤の早期劣化や、装置の耐久性の低下が懸念される。このような問題は、ハンマドリルに限らず、ハンマ動作を遂行するための駆動機構を保持する保持部材が、ハウジングに対して、ガイドシャフトに沿って摺動的に移動可能に構成された種々の打撃工具に共通する。
【0006】
本発明は、かかる状況に鑑み、打撃工具において、部品間の摺動に起因する発熱に対する放熱性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、最終出力シャフトと、モータと、駆動機構と、可動支持体と、付勢部材と、少なくとも1つのガイドシャフトと、金属製部材と、少なくとも1つの弾性部材と、を備えた打撃工具が提供される。
【0008】
最終出力シャフトは、先端工具を取り外し可能に保持するように構成されている。また、最終出力シャフトは、先端工具の駆動軸線を規定する。モータは、モータシャフトを有する。駆動機構は、モータの動力によって、先端工具を駆動軸線に沿って直線状に駆動するように構成されている。可動支持体は、最終出力シャフトと駆動機構とを少なくとも部分的に支持する。また、可動支持体は、モータに対して駆動軸線の軸線方向に一体的に移動可能に構成されている。付勢部材は、軸線方向のうちの最終出力シャフトが配置される側を前側とし、モータが配置される側を後側と定義したとき、可動支持体を軸線方向の前側に向けて付勢する。少なくとも1つのガイドシャフトは、軸線方向に延在し、可動支持体の軸線方向の移動を摺動的に案内するように構成されている。金属製部材は、放熱可能に配置される。少なくとも1つの弾性部材は、熱伝導性を有する。また、少なくとも1つの弾性部材は、可動支持体の軸線方向の位置にかかわらず、可動支持体と金属製部材とに常時接触するように配置される。
【0009】
本態様の打撃工具によれば、熱伝導性を有する少なくとも1つの弾性部材が、可動支持体と、放熱可能に配置された金属製部材と、に常時接触する。このため、可動支持体の移動を案内するための摺動によって発生した熱は、可動支持体から少なくとも1つの弾性部材を介して、金属製部材に伝達され、放熱され得る。したがって、可動支持体の移動を案内するための摺動に起因する発熱に対して放熱性を高めることができる。
【0010】
本発明の一態様において、金属製部材は、打撃工具の外部に少なくとも部分的に露出するように配置されてもよい。本態様によれば、可動支持体から金属製部材に伝達された熱を簡単な構成で放熱できる。この態様において、金属製部材は、打撃工具の外郭を規定するハウジングの一部分であってもよい。
【0011】
本発明の一態様において、打撃工具は、モータシャフトに固定されたファンを備えていてもよい。金属製部材は、ファンの回転によって発生する空気流の通路上に配置されるか、または、該通路に隣接して配置されてもよい。本態様によれば、ファンの回転によって発生する空気流を利用して、可動支持体から金属製部材に伝達された熱を効率的に放熱できる。
【0012】
本発明の一態様において、少なくとも1つの弾性部材は、金属製部材に保持されてもよい。可動支持体は、可動支持体の軸線方向の移動に伴って、少なくとも1つの弾性部材上を摺動するように構成されてもよい。本態様によれば、少なくとも1つの弾性部材が可動支持体と金属製部材とに常時接触する態様を容易に実現できる。
【0013】
本発明の一態様において、少なくとも1つの弾性部材と可動支持体とは、常時、嵌合状態に維持されてもよい。本態様によれば、少なくとも1つの弾性部材と可動支持体とが平面的に接触する場合と比べて、少なくとも1つの弾性部材と可動支持体との接触面積が増大する。したがって、可動支持体から少なくとも1つの弾性部材への熱の伝達能力が高まり、放熱性を向上できる。
【0014】
本発明の一態様において、少なくとも1つの弾性部材と可動支持体との嵌合状態が、円筒形状と、円柱形状または円筒形状と、が嵌合する態様で実現されるように、少なくとも1つの弾性部材および可動支持体が形状付けられてもよい。本態様によれば、少なくとも1つの弾性部材と可動支持体との接触面積を大きく確保しつつ、製造の容易性も得られる。
【0015】
本発明の一態様において、少なくとも1つの弾性部材は、少なくとも1つのガイドシャフトに隣接して配置されてもよい。本態様によれば、可動支持体のうちの摺動に起因する熱の発生箇所から、少なくとも1つの弾性部材までの熱の伝達距離を短くできる。したがって、効率的な放熱が可能になる。
【0016】
本発明の一態様において、少なくとも1つの弾性部材は、可動支持体が軸線方向の後側に向けて移動した際に可動支持体と軸線方向に当接して、可動支持体の更なる後側への移動を規制するストッパとして機能してもよい。本態様によれば、ストッパとして機能する際の少なくとも1つの弾性部材の弾性変形によって、先端工具のハンマ動作に伴って被加工材から受ける反力の一部が緩衝される。したがって、打撃工具の低振動性を高めることができる。また、装置の耐久性も向上する。
【0017】
本発明の一態様において、少なくとも1つのガイドシャフトは、複数のガイドシャフトを備えていてもよい。少なくとも1つの弾性部材は、複数のガイドシャフトに対応する複数の弾性部材を備えていてもよい。少なくとも1つのガイドシャフトおよび少なくとも1つの弾性部材は、駆動軸線に直交する仮想面上における複数のガイドシャフトの各々と、対応する弾性部材(これは1つであってもいし、複数であってもよい)と、の距離が互いに等しくなるように配置されてもよい。本態様によれば、複数のガイドシャフトの各々と、それに対応する弾性部材と、の距離(すなわち、熱伝達経路の距離)が互いに等しくなるので、可動支持体における温度ムラの発生が抑制され、均一的な放熱が可能になる。
【0018】
本発明の一態様において、金属製部材は、少なくとも1つの孔を備えていてもよい。少なくとも1つの弾性部材は、少なくとも1つの孔内に嵌合状態で保持されてもよい。本態様によれば、少なくとも1つの弾性部材と金属製部材とが平面的に接触する場合と比べて、少なくとも1つの弾性部材と金属製部材との接触面積が増大する。したがって、少なくとも1つの弾性部材から金属製部材への熱の伝達能力が高まり、放熱性を向上できる。更に、少なくとも1つの弾性部材を金属製部材に容易に着脱できる。したがって、製造が容易になるとともに、少なくとも1つの弾性部材が劣化または摩耗した際の取り替え作業も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるハンマドリルの断面図である。
図2図1のII―II線に沿った断面図である。
図3図2のIII―III線に沿った断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図2のV-V線に沿った断面図である。
図6図2のVI-VI線に沿った断面図である。
図7図2のVII-VII線に沿った断面図であり、可動支持体は最前方位置にある。
図8図2のVII-VII線に沿った断面図であり、可動支持体は最後方位置にある。
図9図2のIX-IX線に沿った断面図であり、可動支持体は最前方位置にある。
図10図2のIX-IX線に沿った断面図であり、可動支持体は最前方位置にある。
図11】第1支持体の斜視図である。
図12】可動支持体の斜視図である。
図13】第2支持体の斜視図である。
図14】第2支持体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、打撃工具の一例として、ハンマドリル101を例示する。ハンマドリル101は、ハツリ作業、穴あけ作業等の加工作業に用いられる手持ち式の電動工具であって、先端工具91を所定の駆動軸線A1に沿って直線状に駆動する動作(以下、ハンマ動作という)、および、先端工具91を駆動軸線A1周りに回転駆動する動作(以下、ドリル動作という)を遂行可能に構成されている。
【0021】
まず、図1を参照して、ハンマドリル101の概略構成について簡単に説明する。図1に示すように、ハンマドリル101の外郭は、主に、本体ハウジング10と、本体ハウジング10に連結されたハンドル17と、によって形成されている。
【0022】
本体ハウジング10は、工具本体または外郭ハウジングとも称される中空体であって、スピンドル31、モータ2、駆動機構5等を収容する。スピンドル31は、長尺の円筒状部材であって、その軸線方向の一端部に、先端工具91を取り外し可能に保持するツールホルダ32を備えている。スピンドル31の長軸は、先端工具91の駆動軸線A1を規定する。本体ハウジング10は、駆動軸線A1に沿って延在する。ツールホルダ32は、駆動軸線A1の延在方向(以下、単に軸線方向ともいう)における本体ハウジング10の一端部内に配置されている。
【0023】
ハンドル17は、使用者によって把持される長尺状の中空体である。ハンドル17の軸線方向の一端部は、軸線方向における本体ハウジング10の他端部(ツールホルダ32が配置されているのとは反対側の端部)に連結されている。ハンドル17は、本体ハウジング10の他端部から突出するように、駆動軸線A1に交差する方向(詳細には、概ね直交する方向)に延びている。なお、本実施形態では、本体ハウジング10とハンドル17とは、複数の構成部材がネジ等で連結されることで、一体化されている。ハンドル17の突出端からは、外部の交流電源に接続可能な電源ケーブル179が延出されている。ハンドル17は、使用者によって押圧操作(引き操作)されるトリガ171と、トリガ171の押圧操作に応じてオン状態とされるスイッチ172と、を有する。
【0024】
ハンマドリル101では、スイッチ172がオン状態とされると、モータ2が通電され、駆動機構5が駆動されて、ハンマ動作および/またはドリル動作が行われる。
【0025】
以下、ハンマドリル101の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸線A1の延在方向(本体ハウジング10の長軸方向)をハンマドリル101の前後方向と規定する。前後方向において、ツールホルダ32が配置されている側をハンマドリル101の前側、反対側(モータ2が配置されている側)を後側と規定する。また、駆動軸線A1に直交し、かつ、ハンドル17の軸線方向に対応する方向をハンマドリル101の上下方向と規定する。上下方向において、本体ハウジング10にハンドル17が連結されている側を上側、ハンドル17の突出端側を下側と規定する。また、前後方向および上下方向に直交する方向をハンマドリル101の左右方向と規定する。左右方向において、後側から前側を見たときの右側をハンマドリル101の右側と定義し、その反対側をハンマドリル101の左側と定義する。
【0026】
まず、本体ハウジング10の構成について説明する。図1に示すように、本体ハウジング10は、円筒状の前端部を有する。この円筒状の部分を、バレル部131という。本体ハウジング10のうち、バレル部131以外の部分は、概ね矩形箱状に形成されている。バレル部131には、補助ハンドル132が着脱可能に取り付けられる。
【0027】
本体ハウジング10の内部空間は、本体ハウジング10の内部に配置された第1支持体15によって2つの領域に区画されている。第1支持体15は、駆動軸線A1に交差するように配置されて、本体ハウジング10の内周に嵌め込まれ、本体ハウジング10によって固定状に(本体ハウジング10に対して移動不能に)保持されている。第1支持体15の後側の領域は、主としてモータ2を収容するための領域である。第1支持体15の前側の領域は、主としてスピンドル31および駆動機構5を収容するための領域である。以下、本体ハウジング10のうち、モータ2の収容領域に対応する部分を後部ハウジング11といい、スピンドル31および駆動機構5の収容領域に対応する部分(バレル部131を含む)を前部ハウジング13という。
【0028】
後部ハウジング11および前部ハウジング13は、いずれも樹脂(プラスチック)製である。これにより、ハンマドリル101を軽量化することができる。ただし、後部ハウジング11および前部ハウジング13の少なくとも一部は、任意の材料(例えば、金属)で形成されていてもよい。後部ハウジング11および前部ハウジング13の各々は、単一の筒状部材である。
【0029】
詳細は後述するが、第1支持体15は、各種シャフトの軸受を支持する部材である。これらの軸受の位置精度を確保するために、第1支持体15は金属で形成されている。本実施形態では、第1支持体15は、アルミ系金属で形成されている。これにより、ハンマドリル101を軽量化することができる。図1に示すように、第1支持体15は、その外周面が、前部ハウジング13の内周面に接触するように、前部ハウジング13の後端部に嵌め込まれている。
【0030】
図1に示すように、本体ハウジング10の内周面と接する第1支持体15の外周面には、環状の溝152が形成されている。この溝152内には、ゴム製のOリング151が装着されている。Oリング151は、本体ハウジング10と第1支持体15との間の隙間を塞ぐシール部材として機能し、前部ハウジング13内で使用される潤滑剤が後部ハウジング11内へ漏れ出るのを防止する。
【0031】
以下、本体ハウジング10の内部構造について説明する。まず、モータ2について説明する。本実施形態では、モータ2として、外部の交流電源から供給された電力で駆動される交流モータが採用されている。図1に示すように、モータ2は、後部ハウジング11に固定されている。モータ2は、ステータおよびロータを含む本体部20と、ロータと一体的に回転するように構成されたモータシャフト25と、を備える。本実施形態では、モータシャフト25の回転軸線A2は、駆動軸線A1よりも下側で、駆動軸線A1と平行に延在する。
【0032】
モータシャフト25は、2つの軸受251および252を介して、本体ハウジング10に対して回転軸線A2周りに回転可能に支持されている。前側の軸受251は、第1支持体15の後面側に保持されており、後側の軸受252は、後部ハウジング11に保持されている。
【0033】
モータシャフト25のうち、本体部20と前側の軸受251との間の部分には、モータ2を冷却するための冷却ファン27が固定されている。冷却ファン27は、遠心ファンであり、軸線方向に吸い込んだ空気を径方向外側に向けて排出する。モータシャフト25の回転に伴って冷却ファン27が回転すると、ハンマドリル101の内部を通る空気流が発生する。この空気流は、ハンマドリル101の外部から吸気口28を介してハンマドリル101の内部に入り、モータ2(より詳細には、ロータとステータとの間)を通って軸線方向に流れ、冷却ファン27によって径方向外側に向かい、排気口29から外部へ排出される。このように発生する空気流の通路を図1では、矢印26で示している。
【0034】
図1では、吸気口28がハンドル17の側面に形成され、排気口29が後部ハウジング11の底面に形成される例を示しているが、吸気口28および排気口29は任意の箇所に形成され得る。例えば、吸気口28は、ハンドル17の側面に加えて、または、代えて、ハンドル17の上面に形成されてもよい。また、排気口29は、後部ハウジング11の底面に加えて、または、代えて、後部ハウジング11の一方もしくは両方の側面、または、上面に形成されてもよい。こうして発生する空気流よって、モータ2が冷却される。
【0035】
第1支持体15は、前後方向において、冷却ファン27に隣接して配置されており、第1支持体15の後側の空間は、冷却ファン27が配置される空間と連通している。しかも、本実施形態では、第1支持体15は金属製である。このため、通路26を通る空気流は、第1支持体15を冷却することも可能である。換言すれば、第1支持体15は、第1支持体15よりも前側で発生し、第1支持体15に伝達された熱を放熱可能に配置されていると言える。この点の詳細については後述する。
【0036】
モータシャフト25の前端部は、第1支持体15の貫通孔153を貫通し、前部ハウジング13内に突出している。この前部ハウジング13内に突出する部分には、ピニオンギヤ255が固定されている。
【0037】
次に、モータシャフト25から駆動機構5への動力伝達経路について説明する。図2および図3に示すように、本実施形態では、ハンマドリル101は、2本の中間シャフト(第1中間シャフト41および第2中間シャフト42)を備えている。そして、駆動機構5は、第1中間シャフト41から伝達された動力によってハンマ動作を遂行し、第2中間シャフト42から伝達された動力によってドリル動作を遂行するように構成されている。つまり、第1中間シャフト41は、ハンマ動作のための動力伝達専用のシャフトである。第2中間シャフト42は、ドリル動作のための動力伝達専用のシャフトである。
【0038】
第1中間シャフト41および第2中間シャフト42は、いずれも、前部ハウジング13内で、駆動軸線A1および回転軸線A2に平行に延在する。図3に示すように、第1中間シャフト41は、2つの軸受411および412によって、本体ハウジング10に対して回転軸線A3周りに回転可能に支持されている。同様に、第2中間シャフト42は、2つの軸受421および422によって、本体ハウジング10に対して回転軸線A4周りに回転可能に支持されている。
【0039】
第1中間シャフト41を前側で支持する軸受411、および、第2中間シャフト42を前側で支持する軸受421は、第2支持体16によって支持されている。より詳細には、軸受411は、第2支持体16のうち、略円筒状に形成された軸受支持部164によって支持されており、軸受421は、略円筒状に形成された軸受支持部165によって支持されている(図3図13および図14参照)。第1中間シャフト41を後側で支持する軸受412、および、第2中間シャフト42を後側で支持する軸受422は、第1支持体15によって支持されている。より詳細には、軸受412は、第1支持体15のうち、略円筒状に形成された軸受支持部154によって支持されており、軸受422は、略円筒状に形成された軸受支持部155によって支持されている(図3および図11参照)。
【0040】
図3に示すように、第1中間シャフト41を前側で支持する軸受411、および、第2中間シャフト42を前側で支持する軸受421は、前後方向において、互いにずれた位置にそれぞれ配置されている。これは、軸受411および421が、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42の各々を極力、短尺化するための位置に配置されているからである。つまり、軸受411および421は、単一の部材すなわち第2支持体16によって支持されているものの、軸受411および421の前後方向の位置は、第2支持体16による制約を受けていない。このため、軸受411および421を単一の部材で支持することに起因するハンマドリル101の長尺化が抑制されている。
【0041】
第2支持体16は、図1および図3に示すように、前部ハウジング13の内側に固定されている。より詳細には、図13および図14に示すように、第2支持体16は、第1位置決め部163と、取付面168と、2つの貫通孔162と、を備えている。第1位置決め部163は、前側に突出する円筒状の部分である。この第1位置決め部163は、図7および図8に示すように、スピンドル31を周方向に取り囲むように(換言すれば、スピンドル31が第1位置決め部163を前後方向に貫通するように)配置される。図13および図14に示すように、取付面168は、第1位置決め部163よりも径方向外側において、前後方向に直交する単一平面上に広がっている。2つの貫通孔162は、第2支持体16を前後方向に貫通している。
【0042】
一方、第2支持体16が固定される前部ハウジング13は、図7および図8に示すように、第2位置決め部133と取付面135とを備えている。第2位置決め部133は、前部ハウジング13の内側部分のうちの、後側に突出するとともに、径方向内側に凹部が形成された部分であり、スピンドル31を周方向に取り囲んでいる。第2位置決め部133の後端面は、前後方向に直交する取付面135として形成されている。
【0043】
図7および図8に示すように、第2支持体16は、第1位置決め部163が第2位置決め部133の凹部に前後方向に嵌め合わされるように、前部ハウジング13に取り付けられる。このような凹凸形状による嵌め合い構造を採用することによって、ハンマドリル101の組み立て時に、前部ハウジング13に対する第2支持体16の前後方向に直交する方向の位置決めを容易かつ正確に行うことができる。代替実施形態では、第1位置決め部163と第2位置決め部133との凹凸関係が逆になってもよい。つまり、第1位置決め部163は、第2支持体16に形成された凹部であってもよく、第2位置決め部133は、前部ハウジング13に形成された凸部であって、第2支持体16の凹部に嵌まる凸部であってもよい。
【0044】
図7および図8に示すように、第1位置決め部163が第2位置決め部133に前後方向に嵌め合わされた状態では、第2支持体16の取付面168は、前部ハウジング13の取付面135と前後方向に当接する。取付面168および135は、いずれも、前後方向に直交する平面であるから、ハンマドリル101の組み立て時に、前部ハウジング13に対する第2支持体16の前後方向の位置決めを容易かつ正確に行うことができる。
【0045】
このようにして前部ハウジング13に対して位置決めされた第2支持体16は、図4に示すように、第2支持体16の貫通孔162の各々に挿入されたネジ161によって前部ハウジング13に固定される。
【0046】
このような構造の第2支持体16は、軸受411および421の軸受の位置精度を確保するために、金属で形成されている。本実施形態では、第2支持体16は、アルミ系金属で形成されている。これにより、ハンマドリル101を軽量化することができる。
【0047】
図3に示すように、第1中間シャフト41の後端部には、軸受412の前側に隣接して、第1被動ギヤ414が固定されている。第1被動ギヤ414は、ピニオンギヤ255に噛合している。
【0048】
第2中間シャフト42の後端部には、軸受422の前側に隣接して、第2被動ギヤ424を有するギヤ部材423が配置されている。第2被動ギヤ424は、ピニオンギヤ255に噛合している。ギヤ部材423は、円筒状に形成され、第2中間シャフト42(詳細には、後述の駆動側部材74)の外周側に配置されている。ギヤ部材423の円筒状の前端部の外周には、スプライン部425が設けられている。スプライン部425は、回転軸線A4方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。詳細は後述するが、第2被動ギヤ424(ギヤ部材423)の回転は、第2伝達部材72およびトルクリミッタ73を介して第2中間シャフト42に伝達される。
【0049】
このように、本実施形態では、モータシャフト25から分岐する2つの動力伝達経路が設けられており、これらの経路のそれぞれが、ハンマ動作専用の動力伝達経路およびドリル動作専用の動力伝達経路として用いられる。
【0050】
スピンドル31について説明する。スピンドル31は、ハンマドリル101の最終出力シャフトである。図1に示すように、スピンドル31は、駆動軸線A1に沿って、前部ハウジング13内に配置され、本体ハウジング10に対して駆動軸線A1周りに回転可能に支持されている。スピンドル31は、長尺状の段付きの円筒部材として構成されている。
【0051】
スピンドル31の前半部分は、先端工具91を着脱可能なツールホルダ32を構成する。先端工具91は、その長軸が駆動軸線A1と一致するように、ツールホルダ32の前端部のビット挿入孔330に挿入され、ツールホルダ32に対する軸線方向の移動が許容され、軸線周りの回転が規制された状態で保持される。スピンドル31の後半部分は、後述するピストン65を摺動可能に保持するシリンダ33を構成する。スピンドル31は、バレル部131内で保持された軸受316と、後述の可動支持体18に保持された軸受317と、によって支持されている。
【0052】
以下、駆動機構5について説明する。図3図5および図6に示すように、本実施形態では、駆動機構5は、打撃機構6と、回転伝達機構7とを含む。打撃機構6は、ハンマ動作を遂行するための機構であって、第1中間シャフト41の回転運動を直線運動に変換し、先端工具91を駆動軸線A1に沿って直線状に駆動するように構成されている。回転伝達機構7は、ドリル動作を遂行するための機構であって、第2中間シャフト42の回転運動をスピンドル31に伝達し、先端工具91を駆動軸線A1周りに回転駆動するように構成されている。以下、打撃機構6および回転伝達機構7の詳細構成について、順に説明する。
【0053】
本実施形態では、図3および図5に示すように、打撃機構6は、運動変換部材61と、ピストン65と、ストライカ67と、インパクトボルト68とを含む。
【0054】
運動変換部材61は、第1中間シャフト41の周囲に配置され、第1中間シャフト41の回転運動を直線運動に変換してピストン65に伝達するように構成されている。より詳細には、運動変換部材61は、回転体611と、揺動部材616とを含む。回転体611は、軸受614によって、本体ハウジング10に対して回転軸線A3周りに回転可能に支持されている。揺動部材616は、回転体611の外周に回転可能に取り付けられ、回転体611の回転に伴って、回転軸線A3の延在方向(前後方向)に揺動するように構成されている。揺動部材616は、回転体611から上方に延びるアーム部617を有する。
【0055】
ピストン65は、有底円筒状の部材であって、スピンドル31のシリンダ33内に、駆動軸線A1に沿って摺動可能に配置されている。ピストン65は、連結ピンを介して揺動部材616のアーム部617に連結されており、揺動部材616の揺動に伴って前後方向に往復動される。
【0056】
ストライカ67は、先端工具91に打撃力を加えるための打撃子である。ストライカ67は、ピストン65内に、駆動軸線A1に沿って摺動可能に配置されている。ストライカ67の後側のピストン65の内部空間は、空気バネとして機能する空気室として規定されている。インパクトボルト68は、ストライカ67の運動エネルギを先端工具91に伝達する中間子である。インパクトボルト68は、ツールホルダ32内で、ストライカ67の前側に、駆動軸線A1に沿って移動可能に配置されている。
【0057】
揺動部材616の揺動に伴って、ピストン65が前後方向に移動されると、空気室の空気の圧力が変動し、空気バネの作用によってストライカ67がピストン65内を前後方向に摺動する。より詳細には、ピストン65が前方に向けて移動されると、空気室の空気が圧縮されて内圧が上昇する。ストライカ67は、空気バネの作用で高速に前方に押し出されてインパクトボルト68を打撃する。インパクトボルト68は、ストライカ67の運動エネルギを先端工具91に伝達する。これにより、先端工具91は駆動軸線A1に沿って直線状に駆動される。一方、ピストン65が後方へ移動されると、空気室の空気が膨張して内圧が低下し、ストライカ67が後方へ引き込まれる。先端工具91は、被加工物への押し付けにより、インパクトボルト68と共に後方へ移動する。このようにして、打撃機構6によってハンマ動作が繰り返される。
【0058】
本実施形態では、第1中間シャフト41の回転運動は、第1伝達部材64および介在部材63を介して運動変換部材61(詳細には、回転体611)に伝達される。以下、介在部材63および第1伝達部材64について、順に説明する。
【0059】
図5に示すように、介在部材63は、第1中間シャフト41と同軸状に、第1中間シャフト41の周囲に配置され、第1中間シャフト41と運動変換部材61(詳細には、回転体611)との間に介在する円筒状の部材である。介在部材63は、第1中間シャフト41に対して前後方向に移動不能である一方、第1中間シャフト41に対して回転軸線A3周りには回転可能である。
【0060】
より詳細には、第1中間シャフト41の前端部(前側の軸受411の後側に隣接する部分)は、最大の外径を有する最大径部として構成されている。最大径部の外周には、スプライン部416が設けられている。スプライン部416は、回転軸線A3方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。介在部材63は、スプライン部416と、第1中間シャフト41の後端部に固定された第1被動ギヤ414と、の間に、前後方向に移動不能に保持されている。
【0061】
また、介在部材63の外周には、介在部材63の概ね全長に亘るスプライン部631が設けられている。スプライン部631は、回転軸線A3方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。
【0062】
一方、回転体611の内周には、スプライン部612が形成されている。スプライン部612は、スプライン部631に係合するスプライン(内歯)を有する。介在部材63は、回転体611と常にスプライン係合しており、回転体611によって保持されている。このような構成により、回転体611は、介在部材63および第1中間シャフト41に対して回転軸線A3方向(前後方向)に移動可能、かつ、介在部材63と一体的に回転可能とされている。
【0063】
第1伝達部材64は、第1中間シャフト41上に配置され、第1中間シャフト41と一体的に回転可能、かつ、第1中間シャフト41および介在部材63に対して回転軸線A3方向(前後方向)に移動可能に構成されている。
【0064】
より詳細には、第1伝達部材64は、第1中間シャフト41の周囲に配置された略円筒状の部材であって、第1伝達部材64の内周には、第1スプライン部641と、第2スプライン部642とが設けられている。
【0065】
第1スプライン部641は、第1伝達部材64の後端部に設けられている。第1スプライン部641は、介在部材63のスプライン部631に係合可能な複数のスプライン(内歯)を有する。なお、上述のように、介在部材63のスプライン部631は、回転体611のスプライン部612とも係合している。第2スプライン部642は、第1伝達部材64の前半部分に設けられている。第2スプライン部642は、第1中間シャフト41のスプライン部416に常に係合する複数のスプライン(内歯)を有する。
【0066】
このような構成により、図5に示すように、前後方向に移動可能な第1伝達部材64の第1スプライン部641が、前後方向において、介在部材63のスプライン部631と係合する位置(以下、係合位置という)に配置されている場合、第1伝達部材64は、介在部材63と一体的に回転可能、つまり、第1中間シャフト41から介在部材63へ動力を伝達可能である。
【0067】
一方、前後方向に移動可能な第1伝達部材64の第1スプライン部641が、前後方向において、第1スプライン部641がスプライン部631から離間する(係合不能な)位置(以下、離間位置という)に配置されている場合(図示せず)、第1伝達部材64は、第1中間シャフト41から介在部材63への動力伝達を不能とする(遮断する)。
【0068】
図6に示すように、本実施形態では、回転伝達機構7は、駆動ギヤ78と、被動ギヤ79とを含む。駆動ギヤ78は、第2中間シャフト42の前端部(前側の軸受421の後側に隣接する部分)に固定されている。被動ギヤ79は、スピンドル31のシリンダ33の外周に固定され、駆動ギヤ78に噛合している。駆動ギヤ78および被動ギヤ79は、ギヤ減速機構を構成する。第2中間シャフト42と一体的に駆動ギヤ78が回転するのに伴って、被動ギヤ79と一体的にスピンドル31が回転される。これにより、ツールホルダ32に保持された先端工具91が駆動軸線A1周りに回転駆動されるドリル動作が遂行される。
【0069】
上述のように、本実施形態では、モータシャフト25の回転に伴って回転される第2被動ギヤ424の回転運動は、第2伝達部材72およびトルクリミッタ73を介して第2中間シャフト42に伝達される。以下、トルクリミッタ73および第2伝達部材72について、順に説明する。
【0070】
図6に示すように、トルクリミッタ73は、駆動側部材74と、被動側部材75と、付勢バネ77とを含む。駆動側部材74は、円筒状の部材であって、第2中間シャフト42の後半部分によって、第2中間シャフト42に対して回転可能に支持されている。被動側部材75は、円筒状の部材であって、駆動側部材74の前側で、第2中間シャフト42の周囲に配置されている。被動側部材75は、第2中間シャフト42と一体的に回転可能、かつ、第2中間シャフト42に対して回転軸線A4方向(前後方向)に移動可能に構成されている。付勢バネ77は、被動側部材75を、駆動側部材74に近接する方向に常に付勢している。このため、通常時は、駆動側部材74の前端部と被動側部材75の後端部とが係合し、駆動側部材74から被動側部材75へのトルク伝達、ひいては第2中間シャフト42の回転が可能となる。
【0071】
第2中間シャフト42の回転中に、ツールホルダ32(スピンドル31)を介して第2中間シャフト42に閾値以上の負荷がかかると、付勢バネ77の付勢力に抗して、被動側部材75が駆動側部材74から離間する方向(前方)に移動し、被動側部材75と駆動側部材74との係合が解除される。この結果、駆動側部材74から被動側部材75へのトルク伝達が遮断され、第2中間シャフト42の回転が中断される。
【0072】
駆動側部材74は、スプライン部743を含む。スプライン部743は、駆動側部材74の外周に設けられており、回転軸線A4方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。
【0073】
図6に示すように、第2伝達部材72は、第2中間シャフト42の周囲に配置され、トルクリミッタ73の駆動側部材74と一体的に回転可能、かつ、駆動側部材74およびギヤ部材423に対して回転軸線A4方向(前後方向)に移動可能に構成されている。
【0074】
より詳細には、第2伝達部材72は、駆動側部材74の周囲に配置された略円筒状の部材であって、第2伝達部材72の内周には、第1スプライン部721と、第2スプライン部722とが設けられている。第1スプライン部721は、第2伝達部材72の前半部分に設けられている。第1スプライン部721は、駆動側部材74のスプライン部743に常に係合する複数のスプライン(内歯)を有する。第2スプライン部722は、第2伝達部材72の後端部に設けられており、第1スプライン部721よりも大きい内径を有する。第2スプライン部722は、ギヤ部材423のスプライン部425に係合可能な複数のスプライン(内歯)を有する。
【0075】
このような構成により、図6に示すように、前後方向に移動可能な第2伝達部材72の第2スプライン部722が、前後方向において、ギヤ部材423のスプライン部425と係合する位置(以下、係合位置という)に配置されている場合、第2伝達部材72は、ギヤ部材423と一体的に回転可能である。よって、第2伝達部材72にスプライン係合された駆動側部材74、ひいては、被動側部材75を介してトルクが伝達される第2中間シャフト42も、ギヤ部材423と一体的に回転可能である。
【0076】
一方、前後方向に移動可能な第2スプライン部722が、前後方向において、スプライン部425から離間する(係合不能な)位置(以下、離間位置という)に配置されている場合(図示せず)、第2伝達部材72は、ギヤ部材423から駆動側部材74、ひいては第2中間シャフト42への動力伝達を不能とする(遮断する)。
【0077】
以上に説明したように、本実施形態では、第1伝達部材64および介在部材63は、ハンマ動作のための動力を伝達または遮断する第1クラッチ機構として機能し、第2伝達部材72およびギヤ部材423は、ドリル動作のための動力を伝達または遮断する第2クラッチ機構として機能する。第1クラッチ機構および第2クラッチ機構の各々は、使用者によるモード切替ダイヤル800(図1参照)の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態との間で切り替えられる。より詳細には、モード切替ダイヤル800に連動するように構成された中間部材(図示せず)が、モード切替ダイヤル800のダイヤル位置に応じて第1伝達部材64および/または第2伝達部材72の位置を変更し、それによって、第1クラッチ機構および第2クラッチ機構の切り替えが実現される。
【0078】
本実施形態では、ハンマドリル101は、モード切替ダイヤル800の操作によって切り替えられる3つの動作モード、すなわち、ハンマドリルモード、ハンマモード、およびドリルモードを有する。ハンマドリルモードは、打撃機構6および回転伝達機構7の両方が駆動されることで、ハンマ動作およびドリル動作が行われる動作モードである。ハンマモードは、第2クラッチ機構によってドリル動作のための動力伝達が遮断され、打撃機構6のみが駆動されることで、ハンマ動作のみが行われる動作モードである。ドリルモードは、第1クラッチ機構によってハンマ動作のための動力伝達が遮断され、回転伝達機構7のみが駆動されることで、ドリル動作のみが行われる動作モードである。
【0079】
以上に説明したように、本実施形態のハンマドリル101は、駆動軸線A1に平行に延在し、ハンマ動作およびドリル動作のための動力伝達をそれぞれ行う2本の別個の中間シャフト(第1中間シャフト41および第2中間シャフト42)を備える。よって、ハンマ動作およびドリル動作のための動力伝達に、1本の共通の中間シャフトが採用される場合に比べ、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42を短尺化することができる。これにより、ハンマドリル101全体の軸線方向の短尺化を実現することができる。
【0080】
更に、第1中間シャフト41と第2中間シャフト42とは、ハンマ動作のための動力伝達と、ドリル動作のための動力伝達と、にそれぞれ特化されている。よって、第1中間シャフト41を介した動力伝達、および、第2中間シャフト42を介した動力伝達を、それぞれに最適化することができる。
【0081】
ところで、本実施形態では、ハンマドリル101は、駆動機構5の駆動に伴って生じる振動(特に、前後方向の振動)が本体ハウジング10およびハンドル17に伝達されるのを抑制するように構成されている。以下、ハンマドリル101の防振構造について説明する。
【0082】
本実施形態では、図1に示すように、スピンドル31および打撃機構6(詳細には、運動変換部材61、ピストン65、ストライカ67、インパクトボルト68)は、本体ハウジング10内部で、本体ハウジング10に対して軸線方向(前後方向)に移動可能に配置されている。より詳細には、本体ハウジング10の内部には、前方へ付勢された状態で、本体ハウジング10に対して前後方向に移動可能な可動支持体18が配置されている。そして、スピンドル31および打撃機構6は、可動支持体18によって支持され、本体ハウジング10に対し、可動支持体18と一体的に移動可能とされている。
【0083】
図5図6および図12に示すように、可動支持体18は、スピンドル支持部185と回転体支持部187とを備えている。本実施形態では、可動支持体18は、金属製の単一部材として構成されている。
【0084】
スピンドル支持部185は、略円筒状に形成され、スピンドル31を支持する部分として構成されている。図5および図6に示すように、スピンドル支持部185の内部には軸受317が保持されている。スピンドル支持部185は、軸受317を介して、シリンダ33の後部を駆動軸線A1周りに回転可能に支持する。なお、上述のように、スピンドル31は、軸受316と軸受317とによって、本体ハウジング10に対して駆動軸線A1周りに回転可能に支持されている。もう一方の軸受316は、バレル部131内で保持され、ツールホルダ32の後部を、駆動軸線A1周りに回転可能、かつ、前後方向に移動可能に支持している。
【0085】
回転体支持部187は、略円筒状に形成された部分であって、スピンドル支持部185の右側下方に位置している。図5に示すように、回転体支持部187には、ネジによって、軸受614が固定されている。回転体支持部187は、軸受614を介して、回転体611を回転軸線A3周りに回転可能に支持する。
【0086】
以上のように、スピンドル31と回転体611とが可動支持体18によって支持されることで、回転体611に取り付けられた揺動部材616と、スピンドル31内に配置されたピストン65、ストライカ67、およびインパクトボルト68も、可動支持体18に支持される。このため、可動支持体18と、スピンドル31と、打撃機構6とは、本体ハウジング10(換言すれば、モータ2)に対して前後方向に一体的に移動可能なアセンブリとしての可動ユニット180を構成する。
【0087】
可動支持体18を含む可動ユニット180の前後方向の移動は、一対の第1ガイドシャフト191および一対の第2ガイドシャフト192によって、摺動的に案内される。図7および図8に示すように、一対の第1ガイドシャフト191と一対の第2ガイドシャフト192とは、同軸状に軸線方向(前後方向)に延在している。
【0088】
より詳細には、図7図8および図12に示すように、可動支持体18は、スピンドル支持部185の径方向外側に一対の円筒部181を備えている(図12では、一方の円筒部181のみ見えている)。図7および図8に示すように、一対の円筒部181は、左右対称に配置されている。換言すれば、一対の円筒部181は、駆動軸線A1と回転軸線A2とを含む仮想平面P1(図2参照)に対して対称に配置されている。円筒部181の各々には、円筒部181を前後方向に貫通する孔183が形成されている。孔183の各々には、第1ガイドシャフト191の後側の略半分が圧入されており、第1ガイドシャフト191の前側の略半分は、可動支持体18から前側へ延在している。これにより、第1ガイドシャフト191は、可動支持体18に対して固定され、可動支持体18と一体的に前後方向に移動するように構成される。
【0089】
この一対の第1ガイドシャフト191は、第2支持体16の一対の孔166(図13および図14参照)内に受け入れられる。より詳細には、図7および図8に示すように、孔166は、第2支持体16を前後方向に貫通している。孔166の前側の内径は、後側の内径よりも大きく、その結果、孔166を形成する第2支持体16の内面に段差が形成されている。第2支持体16は、円筒状のスリーブ167を孔166内に備えている。スリーブ167は、スリーブ167の後端が孔166の内面の段差に当接するように、孔166の前側の大径部分に圧入されている。第1ガイドシャフト191は、可動支持体18の前後方向の移動に伴ってスリーブ167の内周面上を摺動するように、スリーブ167内に常に受け入れられている。第1ガイドシャフト191は、第2支持体16のうちのスリーブ167に対してのみ、摺動関係にある。本実施形態では、スリーブ167の前端部は、前部ハウジング13に当接している。このため、第1ガイドシャフト191がスリーブ167の内周面上を摺動しても、スリーブ167が孔166から抜け出ることはない。本実施形態では、スリーブ167は、鉄系金属で形成されている。上述の通り、第2支持体16のうちのスリーブ167以外の部分は、アルミ系金属で形成されているので、スリーブ167を含む第2支持体16によれば、第1ガイドシャフト191との摺動に対する十分な強度と、第2支持体16全体での軽量化と、を両立できる。
【0090】
一対の第2ガイドシャフト192は、一対の第1ガイドシャフト191よりも後側に位置しており、第1支持体15に保持されている。より詳細には、図7図8および図11に示すように、第1支持体15は、前後方向と直交する板状のベース150から前側に円筒状に延在する一対のシャフト支持部156を備えている。一対の第2ガイドシャフト192の後側の略半分は、シャフト支持部156内に圧入されている。このため、一対の第2ガイドシャフト192は、第1支持体15、ひいては本体ハウジング10に対して移動不能である。一対の第2ガイドシャフト192の前側の略半分は、第1支持体15から前側に延在している。
【0091】
図7図8および図12に示すように、可動支持体18は、一対の円筒部181と同軸状に一対の円筒部182を備えている。円筒部182の各々には、円筒部182を前後方向に貫通する孔184が形成されている。孔184の後側の内径は、前側の内径よりも大きく、その結果、孔184を形成する円筒部182の内面に段差が形成されている。可動支持体18は、円筒状のスリーブ186を孔184内に備えている。スリーブ186は、スリーブ186の前端が孔184の内面の段差に当接するように、孔184の後側の大径部分に圧入されている。一対の第2ガイドシャフト192の前端部分は、可動支持体18の前後方向の移動に伴ってスリーブ186の内周面が第2ガイドシャフト192上を摺動するように、スリーブ186内に常に受け入れられている。第2ガイドシャフト192は、可動支持体18のうちのスリーブ186に対してのみ、摺動関係にある。本実施形態では、スリーブ186は、鉄系金属で形成されている。上述の通り、第2支持体16のうちのスリーブ186以外の部分は、アルミ系金属で形成されているので、スリーブ186を含む可動支持体18によれば、第2ガイドシャフト192との摺動に対する十分な強度と、可動支持体18全体での軽量化と、を両立できる。本実施形態では、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、鉄系金属で形成されている。
【0092】
前後方向に離間した第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192によって、可動支持体18の前後方向の移動を案内することによって、単一のガイドシャフトが第1ガイドシャフト191の位置から第2ガイドシャフト192の位置まで延在する場合と比べて、ガイドシャフト全体の延長距離を短くできる。したがって、ハンマドリル101を軽量化できる。しかも、可動支持体18に対して前後方向の両側にガイドシャフトが位置しているので、軽量化に伴ってガイド性能が低下することもない。
【0093】
可動支持体18よりも後側には、一対の付勢バネ193が配置されている。一対の付勢バネ193は、圧縮コイルバネであり、第1支持体15と可動支持体18との間に圧縮状態で配置されている。より詳細には、一対の付勢バネ193は、一対の第2ガイドシャフト192の周囲にそれぞれ配置されている。付勢バネ193の後端は、付勢バネ193と第1支持体15のベース150との間に配置されたワッシャに当接している。付勢バネ193はシャフト支持部156の周囲に嵌め込まれており、それによって、前後方向に直交する平面上での付勢バネ193の移動が規制されている。付勢バネ193の前端は、付勢バネ193と可動支持体18との間に配置されたワッシャ195に当接している。
【0094】
円筒部182の孔184内に配置されたスリーブ186は、付勢バネ193によって、常時、ワッシャ195を介して前方へ向けて付勢されているので、可動支持体18が前側に向けて移動する際に、常に、可動支持体18と一体的に移動できる。つまり、可動支持体18が前側に向けて移動する際に、スリーブ186が置き去りになって、孔184から抜けることがない。
【0095】
このような構成により、一対の付勢バネ193は、可動支持体18(可動ユニット180)を、常に前側へ付勢している。このため、可動支持体18に後方へ向かう外力が作用していない場合、可動支持体18は、図7に示すように、可動支持体18と第2支持体16とが当接する最前方位置(初期位置)で保持される。なお、第2支持体16の後面には、第2支持体16と可動支持体18との直接的な当接を避けるために(衝突力を緩衝するために)、弾性部材が取り付けられてもよい。
【0096】
一方、可動支持体18に後方へ向かう外力が作用する場合には、可動支持体18は、図8に示す最後方位置まで移動可能である。この最後方位置を規定する構造について、以下に説明する。
【0097】
図9~11に示すように、第1支持体15は、ベース150から前側に有底円筒状に延在する一対の弾性部材保持部158を備えている。一対の弾性部材保持部158は、左右対称に配置されている。弾性部材保持部158には、孔159が形成されている。図11に示すように、弾性部材保持部158は、シャフト支持部156よりも前方まで延在している。弾性部材保持部158の各々の孔159には、円筒状の弾性部材194が配置されている。弾性部材194の後端は、ベース150に当接しており、弾性部材194の前端は、弾性部材保持部158の前端よりも前側に突出している。弾性部材194は、弾性部材保持部158内に嵌合状態で保持されている。より詳細には、弾性部材194の外径は、弾性部材保持部158の内径よりも僅かに大きい。このため、弾性部材194は、弾性部材保持部158内で径方向内側に向けて僅かに押しつぶされており、その復元力によって孔159内に保持されている。このような構成によれば、弾性部材194の着脱を容易に行うことができる。したがって、製造が容易になるとともに、弾性部材194が劣化または摩耗した際の取り替え作業も容易になる。
【0098】
図9図10および図12に示すように、可動支持体18は、一対の突起188と、当接部189と、を備えている。突起188は、円筒部182よりも後側に円柱状に延在している。この突起188は、対応する弾性部材194内に常時、受け入れられる。突起188の外径は、弾性部材194の内径よりも僅かに大きい。このため、弾性部材194は、径方向外側に向けて僅かに押しつぶされており、その復元力によって、突起188と弾性部材194とが常時、嵌合状態に維持される。可動支持体18が前後方向に移動するとき、突起188は、弾性部材194との嵌合状態を維持しつつ、弾性部材194の内面上を摺動する。当接部189は、一対の突起188の基部をアーチ状に接続しており、前後方向に直交する平面として形成されている。
【0099】
可動支持体18が図7に示す最前方位置にあるとき、図9に示すように、可動支持体18の当接部189は、前後方向において、弾性部材194の前端部と離間している。一方、可動支持体18が図8に示す最後方位置にあるとき、図10に示すように、可動支持体18の当接部189は、前後方向において、弾性部材194の前端部と当接している。つまり、弾性部材194は、可動支持体18の後方への更なる移動を規制するストッパとして機能する。この構造によって、可動支持体18の図8に示す最後方位置が規定されている。
【0100】
上述したハンマドリル101において、ハンマ動作が行われるハンマドリルモードおよびハンマモードでは、先端工具91が被加工材に押し付けられ、加工作業が行われると、打撃機構6が先端工具91を駆動する力、および、先端工具91の打撃力の被加工材からの反力によって、打撃機構6には、主として前後方向の振動が発生する。この振動によって、可動ユニット180は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192に摺動的に案内されながら、本体ハウジング10に対して前後方向に移動する。このとき、付勢バネ193が伸縮(弾性変形)し、それによって、可動ユニット180の振動が吸収され、本体ハウジング10やハンドル17へ伝達される振動が低減される。可動ユニット180が最後方位置まで移動した際には、可動支持体18の当接部189が弾性部材194に衝突して、弾性部材194が弾性変形するので、それによっても、可動ユニット180の振動が吸収される。
【0101】
上述したハンマドリル101によれば、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42の前側の端部をそれぞれ支持する軸受411および421が、金属製の第2支持体16に支持される。このため、軸受411および421が樹脂製支持体によって支持される場合と比べて、大きな支持強度が得られる。したがって、打撃力に対する反力に起因して発生する振動がハンマドリル101のハイパワー化に伴って大きくなっても、軸受411および421、ひいては、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42についての必要な位置精度を確保できる。第1中間シャフト41および第2中間シャフト42の後側の端部をそれぞれ支持する軸受412および422が、金属製の第1支持体15に支持されることからも、同様の効果が得られる。
【0102】
更に、ハンマドリル101によれば、第1ガイドシャフト191は、金属製の第2支持体16の孔166内(より詳細には、スリーブ167の孔内)に部分的に受け入れられる。このため、第1ガイドシャフト191が可動支持体18の前後方向の移動を摺動的に案内する際の発熱の量が、ハンマドリル101のハイパワー化に伴って大きくなっても、第1ガイドシャフト191が樹脂製支持体内に受け入れられる場合と比べて、第2支持体16の熱膨張が抑制される。したがって、第2支持体16の孔166内に部分的に受け入れられた第1ガイドシャフト191の位置精度を確保できる。その結果、第1ガイドシャフト191に関する摺動性を良好に確保でき、良好な防振性が得られる。第2ガイドシャフト192が金属製の可動支持体18の孔184内(より詳細には、スリーブ186の孔内)に部分的に受け入れられることからも、同様の効果が得られる。
【0103】
このように、ハンマドリル101は、ハイパワー化と低振動性とを両立することができる。しかも、軸受411および421の支持と、第1ガイドシャフト191の受け入れとが、単一部材である第2支持体16によって実現されるので、装置構成を簡素化できるとともに、製造に係る工数も低減できる。
【0104】
更に、ハンマドリル101は、ストッパとして機能する弾性部材194を利用して、可動支持体18の前後方向の摺動的な移動に伴う発熱に対する放熱性を高めることができる。以下、その構成について説明する。図9および図10を参照して上述したように、弾性部材194は、可動支持体18の前後方向の位置にかかわらず、可動支持体18(より詳細には、突起188)と第1支持体15(より詳細には、弾性部材保持部158)とに常時接触するように配置されている。
【0105】
そして、弾性部材194には、熱伝導性を有する弾性材料(例えば、伝熱ゴム)が使用されている。熱伝導性は、弾性部材194を形成する弾性材料が金属、カーボンナノチューブなどのフィラーを含有することによって付与され得る。「熱伝導性を有する」とは、例えば、熱伝導率が1.0(W/m・K)以上であることと定義され得る。
【0106】
上述したように、第1支持体15は、金属製であり、また、冷却ファン27の回転によって発生する空気流の通路26に隣接して配置されている。したがって、可動支持体18の前後方向の摺動的な移動に伴って発生した熱は、可動支持体18から、熱伝導性を有する弾性部材194を介して第1支持体15に伝達され、冷却ファン27の回転によって発生する空気流によって効率的に放熱され得るのである。
【0107】
本実施形態では、弾性部材194と可動支持体18の突起188とは、常時、嵌合状態に維持されている。このため、これらが平面的に接触する構成と比べて、弾性部材194と可動支持体18との接触面積が大きくなる。したがって、可動支持体18から弾性部材194への熱の伝達能力が高まり、放熱性をいっそう向上できる。また、弾性部材194と第1支持体15の弾性部材保持部158とは、常時、嵌合状態に維持されている。このため、これらが平面的に接触する構成と比べて、弾性部材194と第1支持体15との接触面積が大きくなる。したがって、弾性部材194から第1支持体15への熱の伝達能力が高まり、放熱性をいっそう向上できる。しかも、これらの嵌合状態は、円筒形状と、円柱形状または円筒形状と、が嵌合する態様で実現されている。このため、接触面積を大きく確保しつつ、製造の容易性も得られる。
【0108】
更に、図11に示すように、弾性部材194は、第2ガイドシャフト192に隣接する位置に配置されている。このため、摺動に起因する熱の発生箇所から、可動支持体18を経て弾性部材194に至るまでの熱の伝達距離を短くできる。したがって、いっそう効率的な放熱が可能になる。
【0109】
更に、図11に示すように、駆動軸線A1に直交する仮想平面(換言すれば、ベース150が広がる面)において、一対の第2ガイドシャフト192の一方(右側)と、当該一方の第2ガイドシャフト192に隣接して配置される、一対の弾性部材194の一方(右側)と、の距離は、一対の第2ガイドシャフト192の他方(左側)と、一対の弾性部材194の他方(左側)と、の距離と、等しい。このため、一方の第2ガイドシャフト192から一方の弾性部材194に至る熱伝達経路の距離と、他方の第2ガイドシャフト192から他方の弾性部材194に至る熱伝達経路の距離と、が等しくなる(このような配置を等距離配置とも呼ぶ)。したがって、可動支持体18における温度ムラの発生が抑制され、均一的な放熱が可能になる。
【0110】
図11の例では、1つの第2ガイドシャフト192に対して1つの弾性部材194が対応付けられる場合の等距離配置を示しているが、代替実施形態では、1つの第2ガイドシャフト192に対して複数の弾性部材194が対応付けられてもよい。例えば、1つの第2ガイドシャフト192に対して2つの弾性部材194が対応付けられる場合(この場合、弾性部材194の数は全部で4つである)、一方の第2ガイドシャフト192と、それに対応する2つの弾性部材194と、の各々の距離が、他方の第2ガイドシャフト192と、それに対応する2つの弾性部材194と、の各々の距離と、等しくなるように、等距離配置が実現されてもよい。
【0111】
上記実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は単なる一例であって、本発明の各構成要素を限定するものではない。ハンマドリル101は、「打撃工具」の一例である。スピンドル31は、「最終出力シャフト」の一例である。駆動軸線A1は、「駆動軸線」の一例である。モータ2およびモータシャフト25は、それぞれ、「モータ」および「モータシャフト」の一例である。駆動機構5は、「駆動機構」の一例である。可動支持体18は、「可動支持体」の一例である。付勢バネ193は、「付勢部材」の一例である。第2ガイドシャフト192(または、第2ガイドシャフト192および第1ガイドシャフト191)は、「少なくとも1つのガイドシャフト」の一例である。第1支持体15は、「金属製部材」の一例である。弾性部材194は、「少なくとも1つの弾性部材」の一例である。冷却ファン27は、「ファン」の一例である。
【0112】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る打撃工具は、例示されたハンマドリル101の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。そのような変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示すハンマドリル101あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用され得る。
【0113】
第1中間シャフト41および第2中間シャフト42に代えて、ハンマ動作のための動力伝達と、ドリル動作のための動力伝達と、に兼用される単一の中間シャフトが使用されてもよい。そのような構成は、例えば、米国特許出願公開第2017/106517号に記載されている。米国特許出願公開第2017/106517号の開示内容は、参照よって全体が本願に組み入れられる。
【0114】
第1ガイドシャフト191は、可動支持体18に固定状に保持される構成に代えて、第2支持体16の孔166内に固定状に受け入れられてもよい。この場合、第2支持体16に保持された第1ガイドシャフト191は、可動支持体18に形成された孔内に摺動的に受け入れられてもよい。
【0115】
可動支持体18と弾性部材194と第1支持体15との常時接触は、任意の態様に変更され得る。例えば、弾性部材保持部158が円柱状に形成され、弾性部材194が弾性部材保持部158を取り囲む円柱状に形成され、突起188が弾性部材194を取り囲む円柱状に形成されていてもよい。あるいは、可動支持体18と弾性部材194と第1支持体15とは、平面的に接触する態様であってもよい。
【0116】
熱伝導性を有する弾性部材(上述の実施形態では、弾性部材194)は、可動支持体18と、放熱可能に配置された任意の金属製部材と、に常時接触するように、配置されてもよい。この場合、金属製部材は、第1支持体15の前側から第1支持体15を貫通して、空気流の通路26上まで延在していてもよい。あるいは、金属製部材は、ハンマドリル101の外部に少なくとも部分的に露出するように配置された任意の部材であってもよい。例えば、本体ハウジング10のうちの外部に露出した部分の少なくとも一部が金属で形成され、この金属部分と弾性部材とが常時接触するように構成されてもよい。
【0117】
上記実施形態では、打撃工具の一例として、ハンマ動作およびドリル動作を遂行可能なハンマドリル101が例示されている。しかしながら、打撃工具は、ハンマ動作のみを遂行可能な電動ハンマであってもよい。
【符号の説明】
【0118】
2...モータ
5...駆動機構
6...打撃機構
7...回転伝達機構
10...本体ハウジング
11...後部ハウジング
13...前部ハウジング
15...第1支持体
16...第2支持体
17...ハンドル
18...可動支持体
20...本体部
25...モータシャフト
26...空気流の通路
27...冷却ファン
28...吸気口
29...排気口
31...スピンドル
32...ツールホルダ
33...シリンダ
41...第1中間シャフト
42...第2中間シャフト
61...運動変換部材
63...介在部材
64...第1伝達部材
65...ピストン
67...ストライカ
68...インパクトボルト
72...第2伝達部材
73...トルクリミッタ
74...駆動側部材
75...被動側部材
77...付勢バネ
78...駆動ギヤ
79...被動ギヤ
91...先端工具
101...ハンマドリル
131...バレル部
132...補助ハンドル
133...第2位置決め部
135...取付面
150...ベース
151...Oリング
152...溝
153...貫通孔
154,155...軸受支持部
156...シャフト支持部
158...弾性部材保持部
159...孔
161...ネジ
162...貫通孔
163...第1位置決め部
164,165...軸受支持部
166...孔
167...スリーブ
168...取付面
171...トリガ
172...スイッチ
179...電源ケーブル
180...可動ユニット
181,182...円筒部
183,184...孔
185...スピンドル支持部
186...スリーブ
187...回転体支持部
188...突起
189...当接部
191...第1ガイドシャフト
192...第2ガイドシャフト
193...付勢バネ
194...弾性部材
195...ワッシャ
251,252...軸受
255...ピニオンギヤ
316,317...軸受
330...ビット挿入孔
411,412...軸受
414...第1被動ギヤ
416...スプライン部
421,422...軸受
423...ギヤ部材
424...第2被動ギヤ
425...スプライン部
611...回転体
612...スプライン部
614...軸受
616...揺動部材
617...アーム部
631...スプライン部
641...第1スプライン部
642...第2スプライン部
721...第1スプライン部
722...第2スプライン部
743...スプライン部
800...モード切替ダイヤル
A1...駆動軸線
A2,A3,A4...回転軸線
P1...仮想平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14