(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127991
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】正極活物質およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20220825BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220825BHJP
【FI】
H01M4/36
H01G11/30
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026266
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA05
5E078AA09
5E078AB02
5E078BA30
5E078BA59
5E078BA62
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できる塩素含有正極活物質を提供する。
【解決手段】ここに開示される正極活物質は、Clを0.1質量%以上3質量%以下含む。また、ここに開示される正極活物質に関し、粉末X線回折によるミラー指数hlkにおける(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比が、0.8以上1.5以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clを0.1質量%以上3質量%以下含み、
粉末X線回折によるミラー指数hlkにおける(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比が、0.8以上1.5以下である、正極活物質。
【請求項2】
前記(003)面の結晶子径が、1000Å以上1400Å以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
平均粒子径が、3μm以上5μm以下である、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
0.1質量%以上0.5質量%以下のBをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
0.1質量%以上0.5質量%以下のNaをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
正極と、負極と、を含み、
前記正極が、請求項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、
リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1に記載の正極活物質の製造方法であって、
正極活物質を構成する金属元素であってリチウム以外の金属元素を含む水酸化物と、塩化リチウムを含有するリチウム源との混合物を用意する工程と、
前記混合物を、880℃以上920℃以下の温度で焼成する工程と、
を包含する、正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質に関する。本発明はまた、当該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その普及に伴い、さらなる高性能化が要求されている。正極活物質に塩素を含有させることによって、リチウムイオン二次電池を高性能化できることが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
具体的に、特許文献1には、正極活物質と塩化アンモニウムとを混合して熱処理することによって、正極活物質の表面に塩素を残存させることが可能であること、および塩素が残存する正極活物質によって非水電解質二次電池のサイクル特性を向上できることが記載されている。特許文献2には、正極活物質の前駆体であるニッケル・コバルト含有水酸化物の作製の際に塩化ニッケルおよび塩化コバルトを用いることによって、塩素をニッケル・コバルト含有水酸化物に導入でき、さらにこれを水酸化リチウム等と共に焼成することによって、正極活物質に塩素を導入できること、および塩素の導入によって正極活物質の比表面積を大きくでき、これにより電池の高出力と高容量とを両立できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-312159号公報
【特許文献1】特開2019-131417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、上記従来技術の塩素を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合には、リチウムイオン二次電池を長期間高温下に置いた際の抵抗増加が大きいという問題があるということがわかった。すなわち、高温保存特性が不十分であるという問題があることが新たに見出された。
【0007】
そこで本発明は、リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できる塩素含有正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される正極活物質は、Clを0.1質量%以上3質量%以下含む。また、ここに開示される正極活物質に関し、粉末X線回折によるミラー指数hlkにおける(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比が、0.8以上1.5以下である。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できる塩素含有正極活物質を提供することができる。
【0009】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、前記(003)面の結晶子径が、1000Å以上1400Å以下である。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池により高い高温保存特性を付与することができる。
【0010】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、当該正極活物質の平均粒子径が、3μm以上5μm以下である。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池により高い高温保存特性を付与することができる。
【0011】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、当該正極活物質が、0.1質量%以上0.5質量%以下のBをさらに含む。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池により高い高温保存特性を付与することができる。
【0012】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、当該正極活物質が、0.1質量%以上0.5質量%以下のNaをさらに含む。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池により高い高温保存特性を付与することができる。
【0013】
別の側面から、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、を備える。前記正極は、上記の正極活物質を含む。このような構成によれば、高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0014】
また別の側面から、ここに開示される正極活物質の製造方法は、上記の正極活物質を製造する方法であって、正極活物質を構成する金属元素であってリチウム以外の金属元素を含む水酸化物と、塩化リチウムを含有するリチウム源との混合物を用意する工程と、前記混合物を、880℃以上920℃以下の温度で焼成する工程と、を包含する。このような構成によれば、リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できる、塩素含有正極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る正極活物質を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る正極活物質を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0017】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0018】
本実施形態に係る正極活物質は、塩素(Cl)を0.1質量%以上3質量%以下含む。本実施形態に係る正極活物質に関し、粉末X線回折によるミラー指数hlkにおける(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕が、0.8以上1.5以下である。
【0019】
本実施形態に係る正極活物質は、Clを含有する正極活物質についてさらなる検討を進めて完成されたものであり、正極活物質の表面にClを含む保護層を確保する一方で、結晶構造内へのClの固溶を推進することによって結晶構造を強固にしたものである。この結晶構造の特徴は、上記の特定の範囲内のCl含有量と、(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の特定の範囲内の比によって表すことができる。
【0020】
具体的には、比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕が小さいことがClの固溶が進んでいる指標となる。このピーク強度比が大きすぎるとClの固溶が十分に進んでいないことを意味する。そのため、本実施形態においては、比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕が1.5以下である。したがって、当該ピーク強度比が1.5を超えると、十分な高温保存特性が得られなくなる。
【0021】
一方で、比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕が小さ過ぎると、結晶構造の乱れが大きくなる。そのため、本実施形態においては、比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕が0.8以上である。したがって、当該ピーク強度比が0.8未満だと、十分な高温保存特性が得られなくなる。
【0022】
また強固な結晶構造を得るためには、Cl含有量も重要であり、Cl含有量が、0.1質量%以上3質量%以下の範囲内にあることによって、リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できるような結晶構造となる。
【0023】
なお、比〔(003)面のピーク強度/(104)面のピーク強度〕は、正極活物質の粉体に対して、公知のX線回折(XRD)装置を用いて、粉末X線回折法によって(003)面のピーク強度と(104)面のピーク強度とをそれぞれ測定し、その比を算出することにより求めることができる。またCl含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析またはイオンクロマトグラフィー(IC)分析によって求めることができる。
【0024】
本実施形態に係る正極活物質の結晶構造は、典型的には、層状岩塩型結晶構造である。層状岩塩型結晶構造を有する正極活物質としては、一般式LiMO2(Mは、Li以外の1種または2種以上の金属元素である)で表されるリチウム複合酸化物が挙げられる。リチウム複合酸化物としては、上記Mとして、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0025】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、本実施形態において含有されるCl以外に、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0026】
本実施形態に係る正極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。なかでも、リチウム以外の金属元素に対するニッケルの含有量が33モル%以上80モル%以下(特に45モル%以上55モル%以下)のものが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る正極活物質において、(003)面の結晶子径は、特に限定されない。当該結晶子径が小さ過ぎると、粒成長の程度が小さいため、高温保存特性向上効果が小さくなる傾向にある。そのため、より高い高温保存特性向上効果の観点から、当該結晶子径は、好ましくは800Å以上であり、より好ましくは900Å以上であり、さらに好ましくは1000Å以上である。一方、当該結晶子径が大き過ぎると、正極活物質の膨張/収縮の際のストレスを緩和し難くなる傾向があり、高温保存特性向上効果が小さくなる傾向にある。そのため、より高い高温保存特性向上効果の観点から、当該結晶子径は、好ましくは1500Å以下であり、より好ましくは1400Å以下である。
【0028】
なお、(003)面の結晶子径は、例えば、正極活物質の粉体に対して、公知のX線回折(XRD)装置を用いて、粉末X線回折測定を行うことによって求めることができる。具体的に例えば、(003)面の半価幅(半値幅)と2θ値とシェラー(Scherrer)の式を用いて、結晶子径を求めることができる。なお、正極活物質が既に正極に含まれている場合には、公知方法に従って正極活物質のみを単離し、これを測定試料としてよい。
【0029】
正極活物質は、一次粒子から構成されていてもよく、一次粒子が凝集した二次粒子から構成されていてもよい。正極活物質の平均粒子径は、特に制限はなく、例えば、0.05μm以上20μm以下である。平均粒子径が小さいと、Cl固溶サイトが増えて高温保存特性向上効果がより高くなるが、平均粒子径が小さ過ぎると、表面での反応サイトが増え過ぎて副反応が多く起こって高温保存特性向上効果が小さくなる傾向にある。そのため、より高い高温保存特性向上効果の観点から、正極活物質の平均粒子径は、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方、平均粒子径が大きすぎると、反応の活性が高い外周部のCl固溶部分が少なくなって、高温保存特性向上効果が小さくなる傾向にある。そのため、より高い高温保存特性向上効果の観点から、正極活物質の平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0030】
なお、平均粒子径は、正極活物質の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、任意に選ばれる100個の粒子の粒子径の平均値として求めることができる。なお、粒子が非球状である場合には、粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡写真において、粒子の最大径(長径L)を決定し、次に長径Lに直交する径の中で最大の径(短径W)を決定し、この長径Lと短経Wの平均値(すなわち、(長径L+短経W)/2)を算出することにより求めることができる。またなお、粒子の粒子径は、粒子が二次粒子の場合には、二次粒子径である。
【0031】
本実施形態の好ましい態様の一つとして、正極活物質は、添加元素としてホウ素(B)をさらに含む。Clの添加は粒成長を抑制するが、Bの添加によって粒成長を促進させてClの固溶効果を高めることができ、Clによる副反応の発生を抑制することができる。その結果、より高い高温保存特性向上効果を得ることができる。Bの添加の効果を十分に発揮させる観点から、正極活物質中のBの含有量は、好ましくは0.1質量%以上である。一方、Bの添加量が多過ぎると、副反応が起こりやすくなるため、正極活物質中のBの含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0032】
本実施形態の好ましい態様の一つとして、正極活物質は、添加元素としてナトリウム(Na)をさらに含む。Clの添加は粒成長を抑制するが、Naの添加によって粒成長を促進させてClの固溶効果を高めることができ、Clによる副反応の発生を抑制することができる。その結果、より高い高温保存特性向上効果を得ることができる。Naの添加の効果を十分に発揮させる観点から、正極活物質中のNaの含有量は、好ましくは0.1質量%以上である。一方、Naの添加量が多過ぎると、副反応が起こりやすくなるため、正極活物質中のNaの含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。正極活物質は、添加元素としてClに加えて、BおよびNaの両方をさらに含むことが好ましい。
【0033】
上述のように、本実施形態に係る正極活物質は、正極活物質の表面にClを含む保護層を確保する一方で、結晶構造内へのClの固溶を推進することによって結晶構造を強固にしたものである。このような正極活物質は、塩素源として塩化リチウムを用い、従来の正極活物質の製造において採用される焼成温度よりも高い温度で焼成することによって得ることができる。
【0034】
そこで、本実施形態に係る正極活物質の好適な製造方法は、正極活物質を構成する金属元素であってリチウム以外の金属元素を含む水酸化物と、塩化リチウムを含有するリチウム源との混合物を用意する工程(混合物用意工程)と、当該混合物を、880℃以上920℃以下の温度で焼成する工程(焼成工程)と、を包含する。なお、本実施形態に係る正極活物質は、当該好適な製造方法によって製造されたものに限定されず、他の方法によって製造されたものであってもよい。
【0035】
混合物用意工程について詳細に説明する。正極活物質を構成する金属元素であってリチウム以外の金属元素を含む水酸化物は、正極活物質の前駆体であり、正極活物質が、上記一般式LiMO2(Mは上記と同義である)で表される場合には、当該水酸化物は、一般式M(OH)2(Mは上記と同義である)で表すことができる。当該水酸化物は、公知方法(例えば、晶析法など)に従って合成して用意することができる。
【0036】
当該水酸化物の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましい平均粒子径は、正極活物質と同様である。よって、当該水酸化物の平均粒子径は、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方、当該水酸化物の平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。なお、水酸化物の平均粒子径は、上記の正極活物質の平均粒子径と同じ方法で求めることができる。
【0037】
一方で、当該好適な製造方法においては、リチウム源として、塩素源も兼ねて塩化リチウム(LiCl)を使用する。ここで、塩化リチウムの使用量によって、正極活物質中の塩素含有量を調整することができる。したがって、正極活物質中の塩素含有量を調整するために、通常は、リチウム源として、塩化リチウムに加えて、従来のリチウム源に用いられるリチウム化合物(例、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等)を併用する。
【0038】
混合物において、塩化リチウムの量は、正極活物質中のCl含有量が0.1質量%以上3質量%以下になる限り特に限定されない。焼成工程においては、通常、塩化リチウムの一部のClのみしか正極活物質内に導入されない。すなわち、通常、使用した塩素量よりも少ない量しか正極活物質内に導入されない。したがって、正極活物質中の所望のCl含有量よりも塩素量が多くなるように、塩化リチウムの量を決定するとよい。また、焼成温度が高いと、塩素導入量が低くなるため、この点も考慮して塩化リチウムの量を決定するとよい。一つの目安として、水酸化物とリチウム源の全量に対して、塩化リチウムを1質量%以上24質量%以下混合した場合には、正極活物質中のCl含有量を0.1質量%以上3質量%以下とすることが容易である。
【0039】
ここで、正極活物質にホウ素(B)を添加したい場合には、ホウ素源(例、ホウ酸(H3BO3)等)をさらに混合する。正極活物質にナトリウム(Na)を添加したい場合には、ナトリウム素源(例、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)をさらに混合する。ホウ素源およびナトリウム源を混合した場合には、Clの固溶が推進されるため、使用する塩化リチウムの量を少なくすることができる。
【0040】
水酸化物、リチウム源、および任意の添加元素源(ホウ素源、ナトリウム源等)の混合は、公知方法に従い行うことができる。混合は、例えば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、V型混合機、ボールミル等の公知の撹拌装置・混合装置を用いて行うことができる。この混合によって、混合物を用意することができる。
【0041】
次に、焼成工程について説明する。従来の正極活物質の製造においては、焼成温度は、通常、特許文献2にも記載されているように650℃~850℃程度が採用される。これに対し当該好適な製造方法においては、焼成温度としては、従来よりも高い、880℃以上920℃以下の範囲が採用される。このような焼成温度を採用することによって、Clの固溶を適度に進めて、(003)面/(104)面のピーク強度比を0.8以上1.5以下に調整することができる。
【0042】
焼成時間は特に限定されず、焼成温度に応じて適宜選択すればよく、従来同様(通常1時間以上)であってよい。焼成温度は、好ましくは3時間以上72時間以下であり、より好ましくは5時間以上50時間以下である。ここで、焼成時間を長くすると(003)面の結晶子径が大きくなるため、焼成時間によって(003)面の結晶子径を容易に調整することができる。また、結晶子径は焼成温度によっても調整し得る。
【0043】
焼成の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気;酸素雰囲気;ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気などであってよく、好ましくは酸素雰囲気である。
【0044】
混合物の焼成は、公知方法に従い行うことができる。焼成は、例えば、連続式またはバッチ式の電気炉等を用いることによって行うことができる。焼成によって、本実施形態に係る正極活物質を得ることができる。
【0045】
本実施形態に係る正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を構築した場合には、当該リチウムイオン二次電池は、長期間高温下に置いた際の抵抗増加が抑制されたものとなり、よって高温保存特性に優れたものとなる。したがって、本実施形態に係る正極活物質は、好適には、リチウムイオン二次電池の正極活物質である。
【0046】
したがって、別の側面から、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、を備える。当該正極は、上記説明した本実施形態に係る正極活物質を含む。以下、当該リチウムイオン二次電池の具体的な構成例を、図面を参照しながら説明する。
【0047】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0048】
捲回電極体20は、
図1および
図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0049】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0050】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0051】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質には、上述の本実施形態に係る正極活物質が少なくとも用いられる。正極活物質の含有量は、特に限定されないが、正極活物質層54中(すなわち、正極活物質の全質量に対し)、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0052】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分を含み得る。その例としては、リン酸リチウム(Li3PO4)、導電材、バインダ等が挙げられる。
【0053】
正極活物質層54中のリン酸リチウムの含有量は、特に限定されないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。
【0054】
導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0055】
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に限定されないが、例えば0.5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上8質量%以下である。
【0056】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0057】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0058】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0059】
負極活物質層64は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0060】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0061】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0062】
負極活物質層64は、負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。
【0063】
バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)およびその変性体、アクリロニトリルブタジエンゴムおよびその変性体、アクリルゴムおよびその変性体、フッ素ゴム等を使用し得る。なかでも、SBRが好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
【0064】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)等を使用し得る。なかでも、CMCが好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2質量%以下である。
【0065】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0066】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0067】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0068】
非水電解質は、典型的には、非水溶媒と電解質塩(言い換えると、支持塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0069】
電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を用いることができ、なかでも、LiPF6が好ましい。電解質塩の濃度は、特に限定されないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0070】
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0071】
リチウムイオン二次電池100は、高温保存特性に優れるという利点を有する。したがって、リチウムイオン二次電池100は、優れた経年劣化耐性を有している。
【0072】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0073】
以上、例として扁平形状の捲回電極体を備える角型のリチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、本実施形態に係る正極活物質は、公知方法に従い、他の種類のリチウムイオン二次電池にも使用可能である。例えば、本実施形態に係る正極活物質を用いて、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池を構築することもできる。また、本実施形態に係る正極活物質を用いて、円筒型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池等を構築することもできる。さらに、電解質を固体電解質とした全固体二次電池を構築することもできる。
【0074】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0075】
<正極活物質の作製>
〔実施例1〕
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを原料に用いて常法に従い、晶析法によって、ニッケルとコバルトとマンガンとを5:2:3のモル比で含有する複合水酸化物(すなわち、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2)を前駆体として得た。この複合水酸化物の平均粒子径7μmであった。
【0076】
この平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:28:1の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で24時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0077】
〔実施例2〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:21:8の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で30時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0078】
〔実施例3〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:5:24の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で40時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0079】
〔実施例4〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:20:9の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下920℃で5時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0080】
〔実施例5〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:23:6の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下880℃で30時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0081】
〔実施例6〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:23:6の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で20時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0082】
〔実施例7〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:20:9の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で35時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0083】
〔実施例8〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:19:10の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で40時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0084】
〔実施例9〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:18:11の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で45時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0085】
〔実施例10〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径2μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2を用いた以外は実施例7と同じの方法により、正極活物質を得た。
【0086】
〔実施例11〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径3μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2を用いた以外は実施例7と同じの方法により、正極活物質を得た。
【0087】
〔実施例12〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2を用いた以外は実施例7と同じの方法により、正極活物質を得た。
【0088】
〔実施例13〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径10μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2を用いた以外は実施例7と同じの方法により、正極活物質を得た。
【0089】
〔実施例14〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3を、71:21:8:0.1(B換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で30時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0090】
〔実施例15〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3を、71:22:7:0.5(B換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で25時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0091】
〔実施例16〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3を、71:23:6:1.0(B換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で20時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0092】
〔実施例17〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3とNaOHとを、71:24:5:0.5(B換算):0.1(Na換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で15時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0093】
〔実施例18〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3とNaOHとを、71:25:4:0.5(B換算):0.5(Na換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で10時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0094】
〔実施例19〕
上記と同様の方法で作製した平均粒子径5μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとH3BO3とNaOHとを、71:26:3:1.0(B換算):1.0(Na換算)の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で15時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0095】
〔比較例1〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とを、71:29の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下950℃で5時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0096】
〔比較例2〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLiClとを、69:31の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で50時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0097】
〔比較例3〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:19:10の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下940℃で3時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0098】
〔比較例4〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とLiClとを、71:24:5の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下860℃で40時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0099】
〔比較例5〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とNH4Clとを、71:29:23の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下940℃で5時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0100】
〔比較例6〕
上記作製した平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とを、71:29の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下900℃で20時間焼成した。得られた焼成物に8質量%のNH4Clを混合し、400℃で20時間熱処理を行って、正極活物質を得た。
【0101】
〔比較例7〕
塩化ニッケル、塩化コバルト、および硫酸マンガンを原料に用いて常法に従い、晶析法によって、ニッケルとコバルトとマンガンとを5:2:3のモル比で含有する複合水酸化物(すなわち、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2)を前駆体として得た。この複合水酸化物の平均粒子径7μmであった。
【0102】
この平均粒子径7μmのNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)2とLi2CO3とを、71:29の質量比で混合した。得られた混合物を大気雰囲気下940℃で5時間焼成することによって、正極活物質を得た。
【0103】
<正極活物質の粉末X線回折測定>
上記作製した各実施例および各比較例の正極活物質を、XRD装置「smart Lab」(Rigaku社製)および解析ソフトウェア「PDXL2」(Rigaku社製)を用いて分析し、ミラー指数hlkにおける(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比〔(003)面/(104)面〕を求めた。また、(003)面の半価幅と2θ値とシェラーの式を用いて、結晶子径を求めた。結果を表1に示す。
【0104】
<正極活物質の添加元素量の測定>
上記作製した各実施例および各比較例の正極活物質に含まれるCl量、B量、およびNa量を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析によって質量%として求めた。結果を表1に示す。
【0105】
<正極活物質の平均粒子径の測定>
上記作製した各実施例および各比較例の正極活物質の粒子のSEM画像を取得し、任意に選択した100個の粒子の粒子径を求め、画像解析ソフトウェアを用いてその平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0106】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した各実施例および各比較例の正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:AB:PVDF=85:10:5の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔上に塗布し乾燥することにより正極シートを作製した。
【0107】
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ10μmの銅箔上に塗布し、乾燥することにより負極シートを作製した。
【0108】
また、セパレータシートとして、PP/PE/PPの三層構造を有する厚さ20μmの多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
【0109】
上記の正極シートと、負極シートと、セパレータシートとを重ね合わせ、電極端子を取り付けてラミネートケースに収容した。続いて、ラミネートケース内に非水電解液を注入し、ラミネートケースを気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、容量10mAhの各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0110】
<高温保存試験>
まず、各評価用リチウムイオン二次電池を、SOC(State of charge)50%に調整した後、25℃の環境下に置いた。100mAの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧値を測定し、初期の電池抵抗値(初期抵抗)を算出した。
【0111】
次に、各評価用リチウムイオン二次電池を、SOC100%に調整した後、60℃の環境下に30日間静置した。その後初期抵抗と同じ方法で抵抗値を求めた。高温保存後の電池抵抗/初期抵抗より、抵抗増加率を算出した。結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1の結果より、Cl含有量が0.1質量%以上3質量%以下であって、(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比が、0.8以上1.5以下である場合に、抵抗増加が小さいことがわかる。特に比較例6および比較例7は、従来技術の塩素含有正極活物質に相当する例であるが、塩素の導入方法の違いによって、(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度の比の値に違いが見られ、従来技術の方法ではClの固溶が進まないことがわかる。その結果、従来技術相当の比較例6および比較例7では抵抗増加が大きいことがわかる。よって、ここに開示される正極活物質によれば、リチウムイオン二次電池に優れた高温保存特性を付与できることがわかる。
【0114】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0115】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池