(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128033
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20220825BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220825BHJP
B23K 26/0622 20140101ALN20220825BHJP
G02F 1/11 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
H01S3/10 Z
H01S3/00 B
B23K26/0622
G02F1/11 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026332
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕
【テーマコード(参考)】
2K102
4E168
5F172
【Fターム(参考)】
2K102AA30
2K102BA01
2K102BB01
2K102BC07
2K102BD10
2K102CA23
2K102DA01
2K102EA04
2K102EA23
2K102EB02
2K102EB10
2K102EB20
4E168AD11
4E168DA23
4E168DA43
4E168DA53
4E168EA11
4E168EA19
4E168JB01
5F172NN23
5F172NP03
5F172NP05
5F172NR03
5F172WW09
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーが変動しても、加工品質の低下を抑制することが可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】光スイッチング素子が、レーザ発振器から出力されたレーザビームから、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して対象物に向かわせる。制御装置が、レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーに応じて、光スイッチング素子の透過率を変化させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力されたレーザビームから、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して対象物に向かわせる光スイッチング素子と、
前記レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーに応じて、前記光スイッチング素子の透過率を変化させる制御装置と
を備えたレーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ発振器は、パルスレーザビームを出力し、パルスレーザビームのピークパワーがパルスレーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じて変動する特性を有しており、
前記制御装置は、前記レーザ発振器からのパルスレーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じて前記光スイッチング素子の透過率を変化させる請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ発振器は、パルスレーザビームを出力し、パルスレーザビームのピークパワーがパルスレーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じて変動する特性を有しており、
前記制御装置は、前記レーザ発振器からのパルスレーザビームの出力開始時点から順次出力されるレーザパルスに付される通し番号に応じて前記光スイッチング素子の透過率を変化させる請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ発振器は、連続発振レーザビームを出力し、連続発振レーザビームのパワーが出力開始時点からの経過時間に応じて変動する特性を有しており、
前記制御装置は、前記レーザ発振器からのレーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じて前記光スイッチング素子の透過率を変化させる請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記レーザ発振器は、パルスレーザビームを出力し、パルスレーザビームのピークパワーがパルスの繰り返し周波数に応じて変動する特性を有しており、
前記制御装置は、パルスの繰り返し周波数に応じて前記光スイッチング素子の透過率を変化させる請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
レーザビームを光スイッチング素子に入射させ、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して対象物に向かわせ、
前記光スイッチング素子に入射するレーザビームのパワーに応じて、前記光スイッチング素子の透過率を変化させることにより、前記対象物に入射するレーザビームのパワーを調整するレーザ加工方法。
【請求項7】
前記光スイッチング素子に入射するレーザビームはパルスレーザビームであり、
前記対象物に入射するレーザビームのパワーを調整する際に、前記光スイッチング素子の透過率を変化させることにより、前記対象物に入射するパルスレーザビームのピークパワーを一定に近付ける請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記光スイッチング素子に入射するレーザビームは連続発振レーザビームであり、
前記対象物に入射するレーザビームのパワーを調整する際に、前記光スイッチング素子の透過率を変化させることにより、前記対象物に入射する連続発振レーザビームのパワーを一定に近付ける請求項6に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームを用いて穴明け加工を行うレーザ加工装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示されたレーザ加工装置においては、レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームから音響光学偏向器(AOD)を用いて一部を切り出し、切り出したレーザパルスを加工対象物に入射させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのピークパワーが、発振条件によって変化する場合がある。例えば、レーザ発振器によっては、発振の開始からの経過時間に応じてピークパワーが低下する傾向を示す。また、パルスの繰り返し周波数が高くなると、ピークパワーが低下する傾向を示す場合がある。ピークパワーが変動すると、加工品質にばらつきが生じてしまう。
【0005】
また、連続発振レーザビームにおいても、発振の開始からの経過時間に応じてパワーが低下する傾向を示す場合がある。連続発振レーザビームのパワーが変動すると、加工品質にばらつきが生じてしまう。
【0006】
本発明の目的は、レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーが変動しても、加工品質の低下を抑制することが可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力されたレーザビームから、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して対象物に向かわせる光スイッチング素子と、
前記レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーに応じて、前記光スイッチング素子の透過率を変化させる制御装置と
を備えたレーザ加工装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
レーザビームを光スイッチング素子に入射させ、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して対象物に向かわせ、
前記光スイッチング素子に入射するレーザビームのパワーに応じて、前記光スイッチング素子の透過率を変化させることにより、前記対象物に入射するレーザビームのパワーを調整するレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーに応じて光スイッチング素子の透過率を変化させることにより、対象物に入射するレーザビームのパワーを調整することができる。透過率の調整によって、レーザ発振器から出力されるレーザビームのパワーの変動を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
【
図2】
図2は、光スイッチング素子の入力側のパルスレーザビームの波形、アナログ信号で指令される回折効率の値、デジタル信号で指令される切り出しタイミング、及び光スイッチング素子の出側のパルスレーザビームの波形の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、光スイッチング素子の入側のパルスレーザビーム及び出側のパルスレーザビームのパルスエネルギ、及び光スイッチング素子の回折効率の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、制御装置が回折効率を変化させるための基礎情報の一例をグラフで示す図である。
【
図5】
図5Aは、他の実施例によるレーザ加工装置のパルスの繰り返し周波数とピークパワーとの関係の一例を示すグラフであり、
図5Bは、制御装置が光スイッチング素子の回折効率を制御するための基礎情報をグラフで示す図である。
【
図6】
図6は、光スイッチング素子の入側のパルスレーザビームの概略波形、アナログ信号(
図1)で指令される光スイッチング素子の回折効率、及び出側パルスレーザビームの概略波形を示すグラフである。
【
図7】
図7は、さらに他の実施例によるレーザ加工装置の制御装置が、光スイッチング素子の回折効率を制御するために使用する基礎情報を示す図表である。
【
図8】
図8Aは、対象物の表面に定義されている複数の被加工点の分布の一例を示す図であり、
図8Bは、複数の被加工点の加工順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図4を参照して、本願発明の一実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図1は、一実施例によるレーザ加工装置の概略図である。レーザ発振器10が制御装置30からの指令によりパルスレーザビームを出力する。レーザ発振器10として、例えば炭酸ガスレーザが用いられる。レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームが、ビーム整形光学系11を経由してアパーチャ12に入力する。ビーム整形光学系11は、例えばビームエキスパンダ等であり、パルスレーザビームのビーム径及び拡がり角を調整する。
【0012】
アパーチャ12を通過したパルスレーザビームが、光スイッチング素子13に入射する。光スイッチング素子13として、例えば音響光学偏向素子が用いられる。ドライバ14が制御装置30からの指令により、光スイッチング素子13を駆動する。光スイッチング素子13は、入力されるパルスレーザビームP1から、時間軸上で一部のレーザビームを切り出して、切り出したパルスレーザビームP2を対象物50に向かわせる。光スイッチング素子13に入射するパルスレーザビームP1のうち切り出されなかった部分はビームダンパ21に入射する。
【0013】
一例として、制御装置30からドライバ14に、回折効率を指令するアナログ信号AMと、レーザビームの切り出しタイミングを指令するデジタル信号DMとが与えられる。切り出しのタイミングを指令するデジタル信号DMがハイレベルの期間、パルスレーザビームが対象物50に向かう経路に振り向けられ、その他の期間は、パルスレーザビームがビームダンパ21に入力される。回折効率を指令するアナログ信号AMによって光スイッチング素子13の回折効率が設定される。回折効率は、光スイッチング素子13の入力側のパルスレーザビームP1のパワーに対する出力側のパルスレーザビームP2のパワーの比に相当する。したがって、回折効率は、対象物50に向かうパルスレーザビームの透過率と考えることができる。
【0014】
光スイッチング素子13で切り出されたパルスレーザビームP2は、ミラー22、ビーム走査器25、及び集光レンズ26を経由して対象物50に入射する。ビーム走査器25として、一対の揺動ミラー25X、25Yを含むガルバノスキャナが用いられる。ビーム走査器25は、制御装置30から制御されることにより、対象物50の表面におけるパルスレーザビームの入射位置を二次元面内で移動させる。集光レンズ26は、パルスレーザビームを対象物50の表面に集光する。集光レンズ26として、例えばfθレンズが用いられる。
【0015】
対象物50は、例えば穴明け加工を行うプリント基板であり、ステージ27の水平な支持面に保持されている。ステージ27は、制御装置30からの指令により、支持面に平行で相互に直交する二方向に対象物50を移動させる。
【0016】
ステージ27に計測器28が取り付けられている。ステージ27を移動させて計測器28にパルスレーザビームを入射させることにより、計測器28は、パルスレーザビームの1パルス当たりのエネルギ(以下、「パルスエネルギ」という。)、またはピークパワーを計測することができる。計測器28の計測結果が制御装置30に入力される。
【0017】
図2は、光スイッチング素子13の入側のパルスレーザビームP1の波形、アナログ信号AMで指令される回折効率の値、デジタル信号DMで指令される切り出しタイミング、及び光スイッチング素子13の出側のパルスレーザビームP2の波形の一例を示すグラフである。なお、
図2に示したパルスレーザビームP1の2つのレーザパルス41、42の波形は、実際の波形を単純化して表したものである。
【0018】
レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームのピークパワーは、種々の要因によって変動する。
図2では、レーザパルス41のピークパワーがレーザパルス42のピークパワーより大きい例を示している。レーザパルス41の立ち上がり(t1)から立ち下がり(t4)までの期間に、アナログ信号AMによって指令される回折効率M1は、レーザパルス42の立ち上がり(t5)から立ち下がり(t8)までの期間に指令される回折効率M2より低い。
【0019】
レーザパルス41の立ち上がりから立ち下がりまでの期間のうち一部の期間(t2~t3)、及びレーザパルス42の立ち上がりから立ち下がりまでの期間のうち一部の期間(t6~t7)に、デジタル信号DMがハイレベルになる。デジタル信号DMがハイレベルになっている期間に、対象物50(
図1)に向かうパルスレーザビームP2が出力される。パルスレーザビームP2は、レーザパルス41、42からそれぞれ切り出されたレーザパルス43、44を含む。
【0020】
切り出されたレーザパルス43、44のピークパワーは、それぞれ元のレーザパルス41、42のピークパワーに回折効率M1、M2を乗じた大きさになる。回折効率M1、M2を適切に設定すると、切り出されたレーザパルス43、44のピークパワーをほぼ同一にすることができる。
【0021】
レーザパルス41、42、43、44の波形の面積がパルスエネルギに相当する。レーザパルス41、42のパルス幅が等しいとき、レーザパルス41のパルスエネルギがレーザパルス42のパルスエネルギより大きい。切り出されたレーザパルス43、44のピークパワーがほぼ等しいため、両者のパルス幅が等しいとき、両者のパルスエネルギもほぼ等しくなる。このように、入側のパルスレーザビームP1のピークパワーに応じて回折効率を変化させることにより、切り出されたパルスレーザビームP2のパルスエネルギを均一化することができる。
【0022】
次に、
図3を参照して、パルスの繰り返し周波数を一定にし、ある期間、パルスレーザビームを出力する場合の光スイッチング素子13の制御方法について説明する。
【0023】
図3は、光スイッチング素子13(
図1)の入側のパルスレーザビームP1及び出側のパルスレーザビームP2のパルスエネルギ、及び光スイッチング素子13の回折効率の時間変化の一例を示すグラフである。
【0024】
時刻t11からt12までの期間、及び時刻t13からt14までの期間に、パルスレーザビームP1が一定の周波数で出力される。時刻t12からt13までの期間は、パルスレーザビームが出力されない。レーザ発振器10(
図1)は、パルスレーザビームP1の出力開始時点t11、t13からの経過時間に応じてパルスエネルギが変動する特性を有する。例えば、パルスレーザビームP1の出力開始時点から時間が経過するにつれてパルスエネルギが低下する。
【0025】
制御装置30(
図1)は、パルスレーザビームP1の出力開始時点(t11、t13)から時間が経過するにつれて、光スイッチング素子13の回折効率を高くするようにドライバ14(
図1)に指令を出す。より具体的には、制御装置30は、切り出されたパルスレーザビームP2のパルスエネルギがほぼ一定になるように、回折効率を変化させる。回折効率を変化させるための基礎情報は、制御装置30のメモリに予め格納されている。これにより、時刻t11からt12までの期間、及び時刻T13からt14までの期間、パルスレーザビームP2のパルスエネルギがほぼ一定になる。
【0026】
図4Aは、制御装置30が回折効率を変化させるための基礎情報の一例をグラフで示す図である。
図4Aに示した基礎情報は、パルスレーザビームP1の出力開始時点からの経過時間と回折効率との関係を定義している。
図4Aの横軸は、パルスレーザビームP1の出力開始時点からの経過時間を表し、縦軸は回折効率を表す。レーザ発振器10(
図1)が、経過時間の増加とともにピークパワーが低下する特性を持つ場合、基礎情報では、ピークパワーの低下を補償するように、経過時間の増加とともに回折効率を高くしている。例えば、回折効率は、経過時間が増加するに従って、初期値Diniから、光スイッチング素子13(
図1)の最大回折効率Dmaxに漸近する。
【0027】
図4Bは、制御装置30が回折効率を変化させるための基礎情報の他の例をグラフで示す図である。
図4Bに示した基礎情報は、パルスレーザビームP1の出力開始時点から順次出力されるレーザパルスに付される通し番号と回折効率との関係を定義している。
図4Bの横軸は、レーザパルスに付される通し番号を表し、縦軸は回折効率を表す。基礎情報では、ピークパワーの低下を補償するように、通し番号の増加とともに回折効率を高くしている。例えば、回折効率は、レーザパルスに付された通し番号が大きくなるに従って、初期値Diniから、光スイッチング素子13の最大回折効率Dmaxに漸近する。
【0028】
図4A及び
図4Bでは、基礎情報をグラフで示しているが、実際には、経過時間またはレーザパルスの通し番号と、回折効率との関係を定義する情報が、テーブル形式で制御装置30のメモリに格納される。
【0029】
次に、
図4A及び
図4Bに示した基礎情報を定義する方法について説明する。まず、光スイッチング素子13の回折効率をある値に固定して、レーザ発振器10(
図1)からパルスレーザビームを出力させ、計測器28(
図1)でパルスエネルギを計測する。この計測結果から、パルスエネルギの変動に関するレーザ発振器10の特性を知ることができる。このパルスエネルギの変動を補償するように、基礎情報を定義すればよい。
【0030】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、レーザ発振器10から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギの時間的な変動を、光スイッチング素子13の回折効率を調整することによって補償している。これにより、対象物50の表面におけるパルスエネルギの変動を抑制し、加工品質の低下を抑制することができる。
【0031】
さらに、上記実施例においては、パルスレーザビームから加工用のレーザパルスを切り出す光スイッチング素子13を用いて、パルスエネルギの変動を補償している。このため、パルスエネルギの変動を補償するための新たな光学素子を追加する必要がない。
【0032】
次に、
図1~
図4Bに示した実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、レーザ発振器10がパルスレーザビームを出力するが、本変形例ではレーザ発振器10が連続発振(CW)レーザビームを出力する。レーザ発振器10は、出力開始時点からの経過時間に応じて連続発振レーザビームのパワーが変動する特性を有している。制御装置30は、連続波レーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じて光スイッチング素子13の回折効率を変化させることにより、連続発振レーザビームのパワーの変動を補償する。このように、光スイッチング素子13の回折効率を調整することにより、連続発振レーザビームのパワーの時間変動を抑制することができる。
【0033】
次に、
図5A~
図6を参照して、他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。以下、
図1~
図4Bに示した実施例によるレーザ加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0034】
本実施例におけるレーザ加工装置に用いられるレーザ発振器10は、パルスの繰り返し周波数に応じてパルスレーザビームのピークパワーが変動する特性を有する。
【0035】
図5Aは、パルスの繰り返し周波数とピークパワーとの関係の一例を示すグラフである。パルスの繰り返し周波数が高くなるにしたがってピークパワーが低下している。制御装置30は、パルスの繰り返し周波数に応じたピークパワーの変動を補償するように、光スイッチング素子13の回折効率を調整する。
【0036】
図5Bは、制御装置30が光スイッチング素子13の回折効率を制御するための基礎情報をグラフで示す図である。横軸はパルスの繰り返し周波数を表し、縦軸は回折効率を表す。パルスの繰り返し周波数が高くなるにしたがって回折効率を高くし、光スイッチング素子13の最大回折効率Dmaxに漸近させている。このように回折効率を制御することにより、パルスレーザビームP1のピークパワー及びパルスエネルギの変動が補償される。
【0037】
図6は、光スイッチング素子13の入側のパルスレーザビームP1の概略波形、アナログ信号AM(
図1)で指令される光スイッチング素子13の回折効率、及び出側パルスレーザビームP2の概略波形を示すグラフである。
図6では、パルスレーザビームP1、P2の1つのレーザパルスを1本の直線で表している。
【0038】
時刻t21からt24までの期間、レーザ発振器10(
図1)がパルスレーザビームを出力する。時刻t11からt22までの期間、時刻t22からt23までの期間、及び時刻t23からt24までの期間のパルスの繰り返し周波数は、それぞれf1、f2、f3である。周波数f1が最も高く、周波数f3が最も低い。レーザ発振器10は、
図5Aに示した特性を有しているため、時刻t11からt22までの期間のパルスレーザビームP1のピークパワーが最も低く、時刻t23からt24までの期間のパルスレーザビームP1のピークパワーが最も高い。
【0039】
制御装置30は、
図5Bに示した基礎情報に基づいて光スイッチング素子13の回折効率を変化させる。すなわち、時刻t11からt22までの期間の回折効率を最も高くし、時刻t23からt24までの期間の回折効率を最も低くする。
【0040】
光スイッチング素子13で切り出された出側のパルスレーザビームP2のピークパワーは、時刻t21からt24までの期間に亘って、ほぼ一定になる。これにより、対象物50に入射するパルスレーザビームP2のパルスエネルギが、パルスの繰り返し周波数によらずほぼ一定になる。
【0041】
次に、
図7を参照してさらに他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。以下、
図1~
図6に示した実施例によるレーザ加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0042】
図7は、本実施例によるレーザ加工装置の制御装置30が、光スイッチング素子13の回折効率を制御するために使用する基礎情報を示す図表である。
図1~
図4Bに示した実施例では、光スイッチング素子13の回折効率を制御するための基礎情報として、出力開始時点からの経過時間またはレーザパルスに付した通し番号と回折効率との関係(
図4A、
図4B)を定義している。
図5A~
図6に示した実施例では、光スイッチング素子13の回折効率を制御するための基礎情報として、パルスの繰り返し周波数と回折効率との関係(
図5B)を定義している。
【0043】
これに対して本実施例では、基礎情報として、パルスの繰り返し周波数とレーザパルスに付された通し番号との両方と、回折効率との関係を定義している。1つの通し番号と1つの周波数との組み合わせのそれぞれに対して、1つの回折効率が定義されている。1つの周波数に着目すると、
図4Bに示した基礎情報と同様に、レーザパルスの通し番号が大きくなるにしたがって回折効率を高くする。1つの通し番号に着目すると、
図5Bに示した基礎情報と同様に、パルスの繰り返し周波数が高くなるにしたがって回折効率を高くする。
【0044】
次に、
図7に示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、レーザ発振器10(
図1)からのパルスレーザビームの出力開始時点からの経過時間に応じたピークパワーの変動、及びパルスの繰り返し周波数に起因するピークパワーの変動の両方を補償して、対象物50に入射するパルスレーザビームのパルスエネルギの変動を抑制することができる。
【0045】
次に、
図8A及び
図8Bを参照してさらに他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。以下、
図1~
図7に示した実施例によるレーザ加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0046】
図8Aは、対象物50の表面に定義されている複数の被加工点53の分布の一例を示す図である。
図8Aでは、複数の被加工点53のうち一部のみを示している。対象物50はプリント基板であり、被加工点53は、穴明けすべき位置を示している。対象物50の形状は長方形である。
【0047】
対象物50の四隅に、それぞれアライメントマーク51が設けられている。対象物50の表面に、複数の被加工点53が定義されている。
図8Aでは、被加工点53を円形の記号で示しているが、実際には、対象物50の表面に何らかのマークが付されているわけではなく、複数の被加工点53の位置を定義する位置データが制御装置30に格納されている。
【0048】
対象物50の表面に複数のスキャンエリア52が定義されている。スキャンエリア52の各々の形状は正方形であり、その大きさは、ビーム走査器25(
図1)を動作させてパルスレーザビームの入射位置を移動させることができる範囲の大きさとほぼ等しい。複数のスキャンエリア52は、対象物50上のすべての被加工点53をいずれかのスキャンエリア52内に包含するように配置される。複数のスキャンエリア52は部分的に重なる場合があり、被加工点53が分布していない領域にはスキャンエリア52が配置されない場合もある。複数のスキャンエリア52が重複している領域に位置する被加工点53は、いずれか1つのスキャンエリア52に属し、その被加工点53は、被加工点53が属するスキャンエリア52の加工時に加工される。
【0049】
対象物50の加工時には、対象物50の1つのスキャンエリア52を集光レンズ26(
図1)の直下に移動させる。集光レンズ26の直下に配置されたスキャンエリア52内の複数の被加工点53にパルスレーザビームの入射位置を順番に位置決めすることにより、そのスキャンエリア52の加工が行われる。1つのスキャンエリア52の加工が終了すると、ステージ27(
図1)を動作させて、次に加工すべきスキャンエリア52を集光レンズ26の直下に移動させる。1つのスキャンエリア52の加工中には、ステージ27は静止している。
図8Aにおいて、スキャンエリア52の加工順を矢印で示している。
【0050】
図8Bは、複数の被加工点53の加工順の一例を示す図である。複数の被加工点53に通し番号が付されている。ビーム走査器25(
図1)を動作させて、通し番号の順に、複数の被加工点53にパルスレーザビームを入射させることにより、1つのスキャンエリア52の加工を行う。
図8Bにおいて、複数の被加工点53の加工順を矢印で示している。被加工点53の加工順は、例えば、パルスレーザビームの入射位置の移動経路が最短になるように決められる。
【0051】
1つの被加工点53を加工してから次に加工すべき被加工点53までパルスレーザビームの入射位置を移動させるのに必要な時間は、2つの被加工点53の間の距離に依存する。2つの被加工点53の間の距離が長い場合には、レーザパルスの時間間隔が長くなる。言い換えると、パルスの繰り返し周波数が低くなる。このため、被加工点53が密に分布するスキャンエリア52の加工時には、被加工点53の分布が疎なスキャンエリア52の加工時より、パルスの繰り返し周波数を高くすることができる。このように、加工に用いるパルスレーザビームの好ましいパルスの繰り返し周波数は、スキャンエリア52ごとに異なる。
【0052】
図8Aに示した例では、2番目に加工するスキャンエリア52に、1番目に加工するスキャンエリア52よりも被加工点53が密に分布している。このため、2番目に加工するスキャンエリア52の加工に用いるパルスレーザビームのパルス繰り返し周波数f1を、1番目に加工するスキャンエリア52の加工に用いるパルスレーザビームのパルス繰り返し周波数f2より高くする。
【0053】
このように、パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数を、スキャンエリア52ごとに最適な値に設定して加工を行う。このとき、
図5Bまたは
図7に示した実施例のように、パルスの繰り返し周波数に応じて光スイッチング素子13の回折効率を調整する。
【0054】
次に、
図8A及び
図8Bに示した実施例の優れた効果について説明する。本実施例では、スキャンエリア52ごとにパルスの繰り返し周波数を異ならせても、ほぼ一定のパルスエネルギで加工を行うことができる。このため、パルスエネルギのばらつきに起因する加工品質の低下を抑制することができる。
【0055】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
図1~
図8に示した実施例では、光スイッチング素子13で切り出されて対象物50に向かうレーザビームの経路が1つであるが、光スイッチング素子13の回折角が異なる2つの経路に、パルスレーザビームを伝搬させてもよい。例えば、入側のパルスレーザビームP1の1つのレーザパルスから、一方の経路に向かうレーザパルスと、他方の経路に向かうレーザパルスとを切り出してもよい。この場合にも、回折効率を制御することにより、切り出されたレーザパルスのピークパワー及びパルスエネルギをほぼ一定にすることができる。
【0056】
また、上記実施例では光スイッチング素子13として音響光学偏向器を用いたが、他の光学素子を用いてもよい。例えば、電気光学変調器(EOM)と偏光ビームスプリッタとを用いてもよい。
【0057】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0058】
10 レーザ発振器
11 ビーム整形光学系
12 アパーチャ
13 光スイッチング素子
14 ドライバ
21 ビームダンパ
22 ミラー
25 ビーム走査器
25X、25Y 揺動ミラー
26 集光レンズ
27 ステージ
28 計測器
30 制御装置
41、42 光スイッチング素子の入側のレーザパルス
43、44 光スイッチング素子で切り出されたレーザパルス
50 対象物
51 アライメントマーク
52 スキャンエリア
53 被加工点