(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128055
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】発泡成形用熱可塑性樹脂組成物およびその発泡成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20220825BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20220825BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220825BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
C08L15/00
C08L25/08
C08L69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026367
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】平石 謙太郎
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA13A
4F074AA13D
4F074AA25D
4F074AA32D
4F074AA33A
4F074AA48A
4F074AA48D
4F074AA70
4F074AA98
4F074AB01
4F074AB05
4F074BA13
4F074BC12
4F074CA26
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA35
4F074DA45
4F074DA47
4F074DA50
4J002BN142
4J002BN152
4J002CG011
4J002CG021
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】均一かつ微細な発泡セル構造を有し、かつ表面外観にも優れる発泡成形品を成形することができる発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)1~20質量部と、下記成分(B)0~50質量部と、下記成分(C)40~90質量部の合計100質量部に対して、重量平均分子量が200万以上の高分子量樹脂(D)を0.1~10質量部含有する発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
成分(A):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル単量体(b1)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A)
成分(B):芳香族ビニル化合物を含むビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)
成分(C):芳香族ポリカーボート樹脂(C)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)1~20質量部と、下記成分(B)0~50質量部と、下記成分(C)40~90質量部とを合計100質量部となるように含み、かつ該成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、該成分(A)~(C)とは異なる、重量平均分子量が200万以上の高分子量樹脂(D)を0.1~10質量部含有する発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
成分(A):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A)
成分(B):芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)
成分(C):芳香族ポリカーボート樹脂(C)
【請求項2】
前記成分(D)の重量平均分子量が250万~700万である請求項1に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、更に化学発泡剤(E)を0.1~5質量部含む請求項1又は2に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、更に無機フィラー(F)を0.1~20質量部含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
コアバック型射出発泡成形に用いられる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる発泡成形品。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物をコアバック型射出発泡成形してなる発泡成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出発泡成形において、微細な発泡セル構造を発現し、発泡成形品の部位によらず発泡セルの大きさが均一であり、機械的性能に優れ、かつ表面外観にも優れる発泡成形品を成形することができる発泡成形用熱可塑性樹脂組成物と、この発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を用いた発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いた射出成形方法において、使用する樹脂成分量の低減、軽量化等を図るために、樹脂材料に発泡剤を添加して射出成形する射出発泡成形が知られている。射出発泡成形に用いる発泡剤としては、アゾジカルボン酸アミドなどの熱分解型の化学発泡剤が知られている(特許文献1)。また、化学発泡に代えて、窒素ガス、二酸化炭素などを発泡剤として用いる物理発泡剤も知られている。更に超臨界状態の物理発泡剤を用いる方法も提案されている。
【0003】
また、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物としては、以下のようなものが提案されている。
(1) ゴム質重合体(a)の存在下に芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなり、かつ熱シクロヘキサン溶解量が、ゴム質重合体(a)を基準として1~99質量%であるゴム強化スチレン系樹脂(A)5~90質量%と、
芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)0~85質量%と、
芳香族ポリカーボート樹脂(C)10~90質量%と、
上記成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、化学発泡剤(D)0.1~5質量部とからなり、
上記成分(A)~(C)の合計100質量%に対するゴム質重合体(a)の割合が3~50質量%であることを特徴とする発泡成形用熱可塑性樹脂組成物(特許文献2)。
【0004】
(2) ゴム質重合体(a)の存在下に芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなり、かつ熱シクロヘキサン溶解量が、ゴム質重合体(a)を基準として1~99質量%であるゴム強化スチレン系樹脂(A)5~90質量%と、
芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)0~85質量%と、
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)10~90質量%と、
上記成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、化学発泡剤(D)0.1~5質量部と、タルク(E)0.5~18質量部と、繊維状充填材(F)0.5~25質量部とからなり、
上記成分(A)~(C)の合計100質量%におけるゴム質重合体(a)の割合が3~50質量%であることを特徴とする発泡成形用熱可塑性樹脂組成物(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-133485号公報
【特許文献2】特開2010-254833号公報
【特許文献3】特開2011-37925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の射出発泡成形により得られる発泡成形品については、
(i) 高い発泡倍率で、微細な発泡セル構造を発現し、発泡成形品の部位によらず発泡セルの大きさが均一であり、機械的性能(特に剛性)に優れること
(ii) 成形品表面に形成される未発泡のスキン層に、発泡成形時に放出されたガスが転写して表面性を悪化させることにより生じるスワールマークや発泡ムラに起因する表面凹凸といった欠陥がなく、表面外観が良好であること
が要求される。
このような観点において、特許文献2,3の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物では、更なる改良が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、射出発泡成形において、微細な発泡セル構造を発現し、発泡成形品の部位によらず発泡セルの大きさが均一であり、機械的性能に優れ、かつ表面外観にも優れる発泡成形品を成形することができる発泡成形用熱可塑性樹脂組成物及びこれを用いた発泡成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ゴム強化スチレン系樹脂(A)及び芳香族ポリカーボネート樹脂(C)、或いはゴム強化スチレン系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)及び芳香族ポリカーボート樹脂(C)よりなる樹脂成分に、高分子量樹脂(D)を配合することで、射出発泡成形時の発泡ガス抜けを抑制して安定した発泡成形性を発現し、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 下記成分(A)1~20質量部と、下記成分(B)0~50質量部と、下記成分(C)40~90質量部とを合計100質量部となるように含み、かつ該成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、該成分(A)~(C)とは異なる、重量平均分子量が200万以上の高分子量樹脂(D)を0.1~10質量部含有する発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
成分(A):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A)
成分(B):芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)
成分(C):芳香族ポリカーボート樹脂(C)
【0010】
[2] 前記成分(D)の重量平均分子量が250万~700万である[1]に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[3] 前記成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、更に化学発泡剤(E)を0.1~5質量部含む[1]又は[2]に記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[4] 前記成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、更に無機フィラー(F)を0.1~20質量部含む[1]ないし[3]のいずれかに記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[5] コアバック型射出発泡成形に用いられる[1]ないし[4]のいずれかに記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる発泡成形品。
【0015】
[7] [1]ないし[5]のいずれかに記載の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物をコアバック型射出発泡成形してなる発泡成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物によれば、射出発泡成形において、微細な発泡セル構造を発現し、発泡成形品の部位によらず発泡セルの大きさが均一であり機械的性能に優れ、かつ表面外観にも優れる発泡成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
〔発泡成形用熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物は、下記成分(A)1~20質量部と、下記成分(B)0~50質量部と、下記成分(C)40~90質量部とを合計100質量部となるように含み、かつ該成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、該成分(A)~(C)とは異なる、重量平均分子量が200万以上の高分子量樹脂(D)(以下、「成分(D)」と称す場合がある。)を0.1~10質量部含有するものである。
成分(A):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A)、
成分(B):芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)
成分(C):芳香族ポリカーボート樹脂(C)
【0019】
なお、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリル酸」についても同様である。また、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を単に「熱可塑性樹脂組成物」と略記する場合がある。
【0020】
[成分(A):ゴム強化スチレン系樹脂(A)]
成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A)である。
【0021】
ゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体等の共役ジエン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・ブテン-1・非共役ジエン共重合体等のオレフィン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;ポリウレタン系ゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;天然ゴム;共役ジエン系ブロック共重合体;水素添加共役ジエン系ブロック共重合体;等が挙げられる。
【0022】
上記オレフィン系ゴムは特に限定されないが、例えば、エチレンと、炭素数が3以上のα-オレフィンとを含むエチレン・α-オレフィン系ゴムが挙げられる。エチレンの含有量は、上記エチレン・α-オレフィン系ゴムを構成する単量体の全量を100質量%とし
た場合、好ましくは5~95質量%、より好ましくは50~90質量%、更に好ましくは60~88質量%である。
【0023】
炭素数が3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチルブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種が単独で含まれていてもよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。上記α-オレフィンのうち、プロピレン、1-ブテンが好ましい。
【0024】
上記α-オレフィンの含有量は、エチレン・α-オレフィン系ゴムを構成する単量体の全量を100質量%とした場合、好ましくは95~5質量%、より好ましくは50~10質量%、特に好ましくは40~12質量%である。
【0025】
エチレン・α-オレフィン系ゴムは、エチレン及びα-オレフィンから構成される二元共重合体であってもよいし、これらと、更に他の化合物とから構成される重合体(三元共重合体、四元共重合体等)であってもよい。他の化合物としては、非共役ジエン化合物が挙げられる。
【0026】
オレフィン系ゴムに使用される非共役ジエン化合物としては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類などが挙げられ、好ましくは、ジシクロペンタジエン及び5-エチリデン-2-ノルボルネンである。これらの非共役ジエン化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。エチレン・α-オレフィン系ゴム中の非共役ジエン化合物単位の含有量は、通常30質量%未満、好ましくは15質量%未満である。
【0027】
上記アクリル系ゴムは特に限定されないが、アルキル基の炭素数が1~8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の(共)重合体、あるいはこの(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と、これと共重合可能なビニル系単量体との共重合体が好ましい。
【0028】
ここで使用されるアルキル基の炭素数が1~8個のアクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。メタクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。これらの化合物のうち、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましい。また、これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、多官能性ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等が挙げられる。
【0030】
多官能性ビニル化合物とは、単量体1分子中に2個以上のビニル基を有する単量体をいい、(メタ)アクリル系ゴムを架橋する機能及びグラフト重合時の反応起点の役割を果たすものである。多官能性ビニル単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の多官能性芳香族ビニル化合物;(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル;ジアリルマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、メタクリル酸アリル等が挙げられる。これらの多官能性ビニル化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物としては、後述するものが全て使用できる。更に、他の共重合可能な単量体として、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニリデン、アルキル基の炭素数が1~6のアルキルビニルエーテル、アルキル基の炭素数が9個以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0032】
上記アクリル系ゴムの好ましい単量体組成は、アルキル基の炭素数が1~8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物単位80~99.99質量%、より好ましくは90~99.95質量%、多官能性ビニル化合物単位0.01~5質量%、より好ましくは0.05~2.5質量%、及びこれと共重合可能な他のビニル単量体単位0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。ただし、単量体組成は、合計100質量%とする。
【0033】
後述の通り、ゴム強化スチレン系樹脂(A)は、熱シクロヘキサン溶解量が、ゴム質重合体(a)を基準として1~99質量%であることが好ましい。ゴム強化スチレン系樹脂(A)の熱シクロヘキサン溶解量を、ゴム質重合体(a)を基準として1質量%以上とするために、上記アクリル系ゴムの製造において、多官能性ビニル化合物を使用する場合は、重合の後段階で行うことが好ましい。即ち、重合の初期段階では(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、及び必要に応じて共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合し、重合の後期段階で(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及び多官能性ビニル化合物、更に必要に応じて共重合可能な他のビニル単量体(b1)を重合する方法で製造することができる。
【0034】
本発明に係るアクリル系ゴムの製造方法としては、(1)各種ビニル単量体を一括添加して重合する方法、(2)特定のビニル単量体を一括添加重合し、重合の後期段階で残りのビニル単量体を添加重合する方法、(3)各種ビニル単量体の一部を添加重合し、残りのビニル単量体を連続添加して重合する方法、(4)各種ビニル単量体を2段以上に分割して重合する方法等があるが、好ましくは(4)の方法であり、更に好ましくは(4)の方法で多官能性ビニル化合物を2段目以降の後期段階で使用する方法である。重合方法としては、乳化重合が特に好ましい。
【0035】
アクリル系ゴムの体積平均粒子径は、50~1000nmであることが好ましく、さらに好ましくは40~700nm、特に好ましくは50~500nmである。
【0036】
共役ジエン系ブロック共重合体としては、具体的には少なくとも1個の下記ブロックA又は下記ブロックCと、少なくとも1個の下記ブロックB又は下記ブロックA/Bとを含んでなる共重合体、又はブロックBもしくはA/Bによる重合体である。これらは、公知のアニオン重合法、例えば、特公昭47-28915号公報、特公昭47-3252号公報、特公昭48-2423号公報、特公昭48-20038号公報などに開示されている方法で製造することができる。
【0037】
共役ジエン系ブロック共重合体の具体的構造は、
A;芳香族ビニル化合物重合体ブロック、
B;共役ジエン重合体ブロック、
A/B;芳香族ビニル化合物/共役ジエンのランダム共重合対ブロック、
C;共役ジエンと芳香族ビニル化合物の共重合体からなり、かつ芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロック、
とそれぞれ定義すると、次のような構造のものが挙げられる。
【0038】
A-B (1)
A-B-A (2)
A-B-C (3)
A-B1-B2 (4)
(ここで、B1は共役ジエン重合体ブロック又は共役ジエンと芳香族ビニル化合物との
共重合体ブロックであり、共役ジエン部分のビニル結合量は好ましくは20%以上、B2は共役ジエン重合体ブロック又は共役ジエンと芳香族ビニル化合物の共重合体ブロックであり、共役ジエン部分のビニル結合含有量は好ましくは20%未満である。)
A-A/B (5)
A-A/B-C (6)
A-A/B-B (7)
A-A/B-A (8)
B2-B1-B2 (9)
(ここで、B1、B2は上記と同じ。)
C-B (10)
C-B-C (11)
C-A/B-C (12)
C-A-B (13)
【0039】
また、これらの基本骨格を繰り返し有する共重合体を挙げることができ、さらにそれをカップリングして得られる共役ジエン系ブロック共重合体であってもよい。上記式(4)の構造のものについては、特開平2-133406号公報、上記式(5)及び上記式(6)の構造のものについては、特開平2-305814号公報、特開平3-72512号公報に示されている。
【0040】
ここで使用される共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられるが、工業的に利用でき、また物性の優れた共役ジエン系ブロック共重合体を得るには、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンが好ましく、より好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0041】
また、ここで使用される芳香族ビニル化合物としては、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられ、スチレン、α-メチルスチレンが好ましく、特に好ましくはスチレンである。
【0042】
共役ジエンブロック系共重合体中の芳香族ビニル化合物/共役ジエンの割合は、質量比で0~70/100~30、好ましくは0~60/100~40、更に好ましくは0~50/100~50であり、芳香族ビニル化合物を必須とする場合、好ましくは10~70/90~30である。ここで、芳香族ビニル化合物の含有量が70質量%を超えると樹脂状となり、ゴム成分としての効果が劣り好ましくない。
さらに、共役ジエンブロック中の共役ジエン部分のビニル結合量は、通常5~80%の範囲である。
【0043】
共役ジエン系ブロック共重合体の数平均分子量は、通常10,000~1,000,000、好ましくは20,000~500,000、更に好ましくは20,000~200,000である。これらのうち、上記構造式のA部の数平均分子量は3,000~150,000、B部の数平均分子量は5,000~200,000の範囲であることが好ましい。
ここで、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値である。
【0044】
共役ジエン化合物のビニル結合量の調節は、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジアゾシクロ(2,2,2)オクタ
アミン等のアミン類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等を使用して行うことができる。
【0045】
本発明で使用されるカップリング剤としては、アジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、メチルジクロロシラン、四塩化珪素、ブチルトリクロロ珪素、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、ジメチルクロロ珪素、テトラクロロゲルマニウム、1,2-ジブロモエタン、1,4-クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4-ベンゼントリイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
水素添加共役ジエン系ブロック共重合体は、上記共役ジエン系ブロック共重合体の共役ジエン部分の炭素-炭素二重結合の少なくとも30%以上、好ましくは50%以上が水素添加された部分水素添加物又は完全水素添加物であり、更に好ましくは90%以上が水素添加された水素添加物である。
【0047】
共役ジエン系ブロック共重合体の水素添加反応は、公知の方法で行うことができる。また、公知の方法で水素添加率を調節することにより、目的の水素添加共役ジエン系ブロック共重合体を得ることができる。具体的な方法としては、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公昭63-5401号公報、特開平2-133406号公報、特開平1-297413号公報等に開示されている方法がある。
【0048】
本発明で使用されるゴム質重合体(a)は、ゲル含有率が70質量%以下であることが、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の発泡性の観点から好ましく、ゲル含有率はより好ましくは50質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
ここで、ゲル含有率は、以下に示す方法により求めることができる。
ゴム質重合体(a)1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置する。その後、100メッシュの金網(質量をW1グラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を、温度80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量W2グラムとする)する。W1及びW2を、下記式(14)に代入して、ゲル含有率を得る。なお、エチレン・プロピレン系ゴム質重合体においては、エチレン結晶を有するものがあり、このようなゴム質重合体を用いる場合は、80℃の温度で溶解しゲル含有率を求める。
ゲル含有率=〔〔W2(g)-W1(g)〕/1(g)〕×100 (14)
【0049】
ゲル含有率は、ゴム質重合体(a)の製造時に、架橋性単量体の種類及びその使用量、分子量調節剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、重合転化率等を適宜設定することにより調整できる。
【0050】
本発明で使用されるゴム質重合体(a)として好ましいものは、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、共役ジエン系ブロック共重合体、水素添加共役ジエン系ブロック共重合体であり、更に好ましくは、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリル系ゴム、共役ジエン系ブロック共重合体、水素添加共役ジエン系ブロック共重合体であり、特に好ましいものは、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、共役ジエン系ブロック共重合体及び水素添加共役ジエン系ブロック共重合体であり、最も好ましいものは、ゲル含有率が10質量%以下で、体積平均粒子径が50~500nm、特に50~300nmのアクリル系ゴムである。
【0051】
ゴム質重合体(a)は、公知の方法である乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合等の方法で得ることができる。これらの中で、アクリル系ゴムは乳化重合により製造されたものが好ましく、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、共役ジエン系ブロック共重合体及び水素添加共役ジエン系ブロック共重合体は溶液重合、ポリブタジエン及びブタジエン・スチレン共重合体は溶液重合で製造されたものが好ましい。
【0052】
成分(A)は、上記ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合体可能な他のビニル単量体(b1)を重合して得られる。すなわち、ビニル単量体(b1)は、芳香族ビニル化合物単独でもよいし、芳香族ビニル化合物と、該芳香族ビニル化合物と共重合体可能な他のビニル単量体との混合物でもよい。
また、成分(A)は、上記ゴム質重合体(a)20~70質量部の存在下に、芳香族ビニル化合物或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合体可能な他のビニル単量体(b1)80~30質量部を重合して得られるものであることが好ましい(ただし、ゴム質重合体(a)とビニル単量体(b1)との合計で100質量部とする。)。この割合は、より好ましくはゴム質重合体(a)30~60質量部、ビニル単量体(b1)70~40 質量部である。
【0053】
ここで使用される芳香族ビニル化合物としては、上記ゴム質重合体(a)で記載したものが全て使用できる。特に好ましくはスチレン、α-メチルスチレンであり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、その他の各種官能基含有不飽和化合物などが挙げられる。その他の各種官能基含有不飽和化合物としては、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、置換又は非置換のアミノ基含有不飽和化合物などが挙げられる。これらの他のビニル単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。シアン化ビニル化合物を使用することにより耐薬品性が付与される。シアン化ビニル化合物の使用量は、ビニル単量体(b1)全体量中の割合として、通常0~60質量%、好ましくは5~50質量%である。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用することにより表面硬度が向上する。(メタ)アクリル酸エステル化合物の使用量は、ビニル単量体(b1)全体量中の割合として、通常0~80質量%である。
【0057】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、マレイミド単位を導入するために、無水マレイン酸を共重合させた後にイミド化してもよい。マレイミド化合物を使用することにより耐熱性が付与される。マレイミド化合物の使用量は、ビニル単量体(b1)全体量中の割合として、通常1~60質量%である。
【0058】
不飽和酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸などが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
エポキシ基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
水酸基含有不飽和化合物としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-3-メチル-1-プロペン、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられ、これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
置換又は非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、アクリルアミン、N-メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、p-アミノスチレン等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
上記その他の各種官能基含有不飽和化合物を使用した場合、ゴム強化スチレン系樹脂(A)をスチレン系樹脂(B)及び芳香族ポリカーボネート樹脂(C)とブレンドした際、これらの両者の相溶性が向上する場合がある。上記その他の各種官能基含有不飽和化合物の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計中に対して、当該官能基含有不飽和化合物の合計量として、通常0.1~20質量%、好ましくは0.1~10質量%である。
【0065】
ビニル単量体(b1)中の芳香族ビニル化合物以外の単量体の含有率は、ビニル単量体(b1)の合計を100質量%とした場合、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0066】
ビニル単量体(b1)を構成する単量体のより好ましい組み合わせは、スチレン単独、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/2-ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/(メタ)アクリル酸、スチレン/N-フェニルマレイミド、スチレン/メタクリル酸メチル/シクロヘキシルマレミド等であり、更に好ましくは、スチレン単独、スチレン/アクリロニトリル=65/45~90/10(質量比)、スチレン/メタクリル酸メチル=80/20~20/80(質量比)、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチルの組み合わせで、スチレン量が20~80質量%、アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの合計が20~80質量%の範囲で任意のものである。
【0067】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)は、公知の重合法、例えば乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合およびこれらを組み合わせた重合法で製造することができる。上記重合法は、ゴム質重合体(a)が乳化重合で得られたものは成分(A)の製造においては同じく乳化重合で製造することができる。更にゴム質重合体(a)が溶液重合で得られたものである場合は、成分(A)は塊状重合、溶液重合及び懸濁重合で製造することが一般的で好ましい。ただし、溶液重合で製造されたゴム質重合体(a)であっても、該ゴム質重合体(a)を公知の方法で乳化させれば、乳化重合で成分(A)を製造することができる。また、乳化重合で製造したゴム質重合体(a)であっても、凝固して単離した後、塊状重合、溶液重合及び懸濁重合で成分(A)を製造することができる。
【0068】
乳化重合で製造する場合、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などが使用されるが、これらは公知のものが全て使用できる。
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方等のレドックス系を使用することが好ましい。
【0069】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、ターピノーレン類などが挙げられる。
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩などを使用することができる。
【0070】
なお、乳化重合において、ゴム質重合体(a)及びビニル単量体(b1)の使用方法は、ゴム質重合体(a)全量の存在下にビニル単量体(b1)を一括添加して重合してもよく、分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体(a)の一部を重合途中で添加してもよい。
【0071】
乳化重合後、得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させられる。その後、水洗、乾燥することにより、成分(A)の粉末を得る。この際、乳化重合で得た2種以上の成分(A)のラテックスを適宜ブレンドした後、凝固してもよく、また、更に成分(B)のラテックスを適宜ブレンドした後、凝固してもよい。凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩、硫酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの酸を使用することができる。また、ラテックスを噴霧乾燥することにより成分(A)の粉末を得ることもできる。
【0072】
溶液重合により成分(A)を製造する場合に使用することのできる溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒であり、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0073】
重合温度は、通常80~140℃、好ましくは85~120℃の範囲である。重合に際し、重合開始剤を使用してもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。
重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物などが好適に使用される。また、連鎖移動剤を使用する場合、例えば、メルカプタン類、ターピンーレン類、α-メチルスチレンダイマー等を使用することができる。
【0074】
また、塊状重合、懸濁重合で成分(A)を製造する場合、溶液重合において説明した重合開始剤、連鎖移動剤などを使用することができる。
【0075】
上記各重合法によって得られる成分(A)中の残存する単量体量は、通常10,000ppm以下、好ましくは5,000ppm以下である。
【0076】
ゴム質重合体(a)の存在下にビニル単量体(b1)を重合して得られる成分(A)には、ビニル単量体(b1)がゴム質重合体(a)にグラフト共重合した共重合体と、ゴム質重合体(a)にグラフトしていない未グラフト成分(ビニル単量体(b1)の(共)重合体)が含まれる。
【0077】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)のグラフト率は、通常5~100質量%、好ましくは10~90質量%、更に好ましくは15~85質量%、特に好ましくは20~80質量%に調整することが好ましい。グラフト率は、重合開始剤の種類、使用量、連鎖移動剤の種類、使用量、重合方法、重合時のビニル単量体(b1)とゴム質重合体(a)の接触時間、ゴム質重合体(a)種、重合温度等の各種要因で変えることができる。一般的にはグラフト率を上げる方向で成分(A)から熱シクロヘキサンに溶解する成分が少なくなるが、当該溶解成分がなくなることにより本発明の熱可塑性樹脂組成物の発泡性が悪くなる。
なお、グラフト率は以下の式(15)により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(T-S)/S}×100 (15)
【0078】
上記式(15)中、Tはゴム強化スチレン系樹脂(A)1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sはゴム強化スチレン系樹脂(A)1gに含まれるゴム質重合体(a)の質量(g)である。
なお、ビニル単量体(b1)として芳香族ビニル化合物のみを用いた場合は、アセトンの代わりにメチルエチルケトンを用いて測定する。
【0079】
また、ゴム強化スチレン系樹脂(A)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.15~1.2dl/g、好ましくは0.2~1.0dl/g、更に好ましくは0.2~0.8dl/gである。
【0080】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)中に分散するグラフト化ゴム質重合体粒子の平均粒子径は、通常50~3,000nm、好ましくは40~2,5000nm、特に好ましくは50~2,000nmである。ゴム粒子径が50nm未満では耐衝撃性が劣る傾向にあり、3,000nmを超えると成形品表面外観が劣る傾向にある。
【0081】
また、使用するゴム質重合体(a)とビニル単量体(b1)の共重合体の屈折率を実質的に合わせること及び/又は分散するゴム質重合体(a)の粒子径を実質的に可視光の波長以下(通常1,500nm以下)にすることで透明性を有する成分(A)を得ることができるが、これらの透明性樹脂も本発明の成分(A)として用いることができる。
【0082】
成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、共重合組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
[成分(B):スチレン系樹脂(B)]
成分(B)は、芳香族ビニル化合物、或いは芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(b2)を重合してなるスチレン系樹脂(B)である。すなわち、ビニル単量体(b2)は、芳香族ビニル化合物単独でもよいし、芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体との混合物でもよい。ここで使用される芳香族ビニル化合物、及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、上記成分(A)で記載したものが全て使用できる。また、ビニル単量体(b2)は、上記ビニル単量体(b1)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0084】
ビニル単量体(b2)中の芳香族ビニル化合物以外の単量体の含有率は、ビニル単量体(b2)の合計を100質量%とした場合、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0085】
好ましい成分(B)とは、スチレンの単独重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・マレイミド化合物共重合体及びこれらと上記官能基含有不飽和化合物との共重合体である。
【0086】
成分(B)は、上記した成分(A)の製造法で記載した公知の重合法である乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及びこれらを組み合わせた方法で製造することができる。
【0087】
スチレン系樹脂(B)の重量平均分子量は通常40,000~300,000、好ましくは60,000~150,000である。スチレン系樹脂(B)の重量平均分子量が上記範囲内であれば機械的強度と成形性がより向上する。
ここで、スチレン系樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0088】
成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、共重合組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
[成分(C):芳香族ポリカーボネート樹脂(C)]
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)は、ジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの界面重縮合法、ジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネート等のカーボネート化合物とのエステル交換反応(溶融重縮合)によって得られるもの等、公知の重合法によって得られるものが全て使用できる。
【0090】
上記ジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル、4、4’-ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン、ヒドロキノン、レゾルシン等が挙げられる。更に、ヒドロキシアリールオキシ末端化されたポリオルガノシロキサン(例えば、米国特許第3,419,634号明細書参照)等がある。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニルプロパン(ビスフェノールA)が好ましい。
【0091】
ポリカーボネート樹脂(C)の粘度平均分子量は、好ましくは12,000~40,000、さらに好ましくは15,000~35,000、特に好ましくは18,000~30,000である。分子量が高い方が得られる発泡成形品の機械的強度が高くなるが、流動性が低下し、均一なセルが得られず、発泡成形品の外観が低下する傾向となる。成分(C)として分子量の異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)を用いることもできる。
【0092】
ここで、芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)の粘度平均分子量は、通常、塩化メチレンを溶媒として、20℃、濃度〔0.7g/100ml(塩化メチレン)〕で測定した比粘度(ηsp)を以下の式(17)に挿入して算出できる。
粘度平均分子量=(〔η〕×8130)1.205 (17)
ここで、〔η〕=〔(ηsp×1.12+1)1/2-1〕/0.56Cである。なお、Cは濃度を示す。
【0093】
界面重縮合で得られる芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)は、各種の塩素化合物を含む場合があるが、この塩素化合物は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐久性に悪影響する場合がある。このことから、芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)の塩素化合物含有量は、塩素原子として、通常300ppm以下、好ましくは100ppm以下とされる。
【0094】
[成分(A)~(C)の含有量]
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物において、成分(A)の含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部中に1~20質量部であり、好ましくは3~18質量部、より好ましくは5~15質量部である。
成分(A)の含有量が1質量部未満では、衝撃強度が低下し、20質量部を超えると成形性が低下する。
【0095】
また、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物において、成分(B)の含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部中に0~50質量部であり、好ましくは0~40質量部、より好ましくは0~30質量部である。
成分(B)は、スチレン系樹脂(B)の共重合成分を変えることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物に様々な機能性を付与したり、他の樹脂との相溶性を向上させるために必要に応じて用いられるが、その含有量が50質量部を超えると発泡性が損なわれ、得られる発泡成形品の外観が悪くなる。
特に、成分(B)は、成分(A)と成分(B)の合計100質量%中のゴム質重合体(a)の含有量が3~50質量%となるように配合することで機械的強度と流動性のバランスが良好となり、好ましい。
【0096】
また、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物において、成分(C)の含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部中に40~90質量部であり、好ましくは45~85質量部、より好ましくは50~80質量部である。
成分(C)の含有量が40質量部未満では均一なセル径の発泡成形品を得ることが困難となり、90質量部を得ると得られる発泡成形品の外観が低下する。
【0097】
[成分(D):高分子量樹脂(D)]
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物は、上記成分(A)~(C)に加えて、これらの成分(A)~(C)とは異なる、重量平均分子量が200万以上の高分子量樹脂(D)を含有することを特徴とし、この高分子量樹脂(D)を所定の割合で含むことにより、本発明の課題が解決される。
【0098】
成分(D)の高分子量樹脂(D)の重量平均分子量は200万以上であればよくその樹脂種等は特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂であり、例えば、芳香族ビニル化合物から誘導された構造単位を含む(共)重合樹脂(以下、「樹脂(D1)」という。)、アルキル基の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物から誘導された構造単位を含む(共)重合樹脂(以下、「樹脂(D2)」という。)、炭素数2~6のα-オレフィンの(共)重合樹脂(以下、「樹脂(D3)」という。)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。これらのうち、樹脂(D1)及び樹脂(D2)が好ましい。
【0099】
高分子量樹脂(D)の重量平均分子量が200万未満では、本発明の課題を解決し得ず、発泡成形品の外観の向上、発泡セルの微細・均一化を図ることができない。これらの観点から、高分子量樹脂(D)の重量平均分子量は250万以上であることが好ましく、より好ましくは300万以上である。一方で、高分子量樹脂(D)の重量平均分子量が過度に大きいと本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物が不均一となることから、高分子量樹脂(D)の重量平均分子量は好ましくは700万以下、より好ましくは500万以下である。
ここで、高分子量樹脂(D)の重量平均分子量は、標準ポリスチレンを用い、ジメチルホルムアミドを溶媒とした、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0100】
成分(D)のうち、樹脂(D1)を形成する芳香族ビニル化合物としては、成分(A),(B)で例示した芳香族ビニル化合物が挙げられ、これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
【0101】
また、樹脂(D1)は、芳香族ビニル化合物以外の他の重合性化合物から誘導された構造単位を有してもよく、例えば、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物、更には、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アミド基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物等から誘導された構造単位を有してもよい。他の構造単位は、1種を単独で又は2種以上の組合せで含まれたものとすることができる。
【0102】
上記他の重合性化合物についても、上記成分(A),(B)において例示した各種のビニル系単量体が挙げられるが、シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリルが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、メタクリル酸メチル及びアクリル酸n-ブチルが好ましい。
マレイミド系化合物としては、N-フェニルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミドが好ましい。
酸無水物としては、無水マレイン酸が好ましい。
ヒドロキシル基含有ビニル系化合物としては、2-ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
エポキシ基含有ビニル系化合物としては、グリシジルメタクリレート好ましい。
また、アミド基含有ビニル系化合物としては、アクリルアミドが好ましい。
【0103】
樹脂(D1)としては、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の成形加工性の観点から、芳香族ビニル化合物単位と、シアン化ビニル化合物単位とを含むスチレン系共重合体であることが好ましい。このスチレン系共重合体は、2元共重合体であってよいし、更に他の構造単位を含む3元共重合体、4元共重合体等であってもよい。
樹脂(D1)が、下記構成を有すると、成形加工性を低下させることなく、高い発泡倍率を有し、成形外観性及び耐熱性のバランスに優れる発泡成形品を得ることができる。
【0104】
樹脂(D1)が、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を用いて得られた2元共重合体である場合、芳香族ビニル化合物単位及びシアン化ビニル化合物単位の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50~95質量%及び5~50質量%、より好ましくは55~85質量%及び15~45質量%、更に好ましくは65~75質量%及び25~35質量%である。シアン化ビニル化合物単位の含有量が多すぎると、得られる発泡成形品の耐熱性が低下し、発泡成形品に着色を生じる場合があり、少なすぎると、延性の低下を招く場合がある。
【0105】
また、樹脂(D1)が、芳香族ビニル化合物単位及びシアン化ビニル化合物単位以外に、他の構造単位を含む場合、この他の構造単位を形成する重合性化合物の使用量の上限は、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む全ての単量体成分100質量%に対して、好ましくは50質量%、より好ましくは25質量%である。但し、下限は、通常16質量%である。上記使用量が50質量%を超えると、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の加工性が低下する傾向にある。
樹脂(D1)が、芳香族ビニル化合物単位、シアン化ビニル化合物単位、及び他の構造単位からなる場合、これらの構造単位の合計を100質量%に対して、それぞれ、好ましくは55~85質量%、15~45質量%及び0~20質量%である。
【0106】
樹脂(D2)は、アルキル基の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物単位を含む(共)重合体であり、好ましくはポリメタクリル酸メチルである。
【0107】
樹脂(D1),(D2)は、前述の成分(A),(B)と同様の方法で製造することができる。
【0108】
また、樹脂(D3)は、炭素数2~6のα-オレフィン、即ち、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン等の単独重合体又は共重合体であり、好ましくはポリエチレンである。
【0109】
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物において、成分(D)の含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.3~8質量部、より好ましくは0.5~6質量部である。
成分(D)の含有量が0.1質量部未満では、成分(D)を配合することによる本発明の効果を十分に得ることができず、10質量部を超えると成形性が低下する。
【0110】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、成分(D)の1種のみを用いてもよく、樹脂種や物性等の異なるものの2種以上を配合してもよい。
【0111】
[成分(E):化学発泡剤(E)]
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物は、更に化学発泡剤(E)(以下、「成分(E)」と称す場合がある。)を含むことが好ましい。
化学発泡剤(E)として、特に限定はないが、本発明の熱可塑性樹脂組成物は芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)を含むため、芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)を劣化させるアミン系発泡剤は好ましくなく、好ましいものとしては、例えば分解されて炭酸ガスを発生する熱分解型無機発泡剤(炭酸水素ナトリウムなど)、分解されて窒素ガスを発生する熱分解型発泡剤、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(OBSH)、アゾビスイソブチロニトリル、p-トルエンスルホニルヒドラジド、5-フェニルテトラゾールなど公知の熱分解型発泡性化合物が挙げられる。
【0112】
化学発泡剤(E)の含有量は、所望の発泡倍率が得られるように、用いる化学発泡剤(E)や樹脂の種類に応じて適宜選択されるものであるが、上記成分(A)~(C)の合計100質量部に対して通常化学発泡剤(E)0.1~5質量部であり、好ましくは0.2~4質量部、更に好ましくは0.3~3質量部である。化学発泡剤(E)の含有量が0.1質量部未満である場合には、化学発泡剤(E)の含有量が少なすぎて、発泡の各セル径を均一にすることが困難になる。一方、化学発泡剤(E)の含有量が5質量部を超える場合には、化学発泡剤(E)の含有量が多すぎて、化学発泡剤(E)の残渣による金型汚染が生じ、外観に優れた発泡成形品を得ることが困難になる。
【0113】
[成分(F):無機フィラー(F)]
本発明で用いられる発泡成形用熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、無機フィラー(F)(以下、「成分(F)」と称す場合がある。)を配合することができる。無機フィラー(F)を配合することにより、微細で均一な発泡セルを有する発泡成形品が安定して得られる場合があり、また発泡成形品の剛性、耐熱性及び寸法安定性が向上することがある。
【0114】
本発明で用いられる無機フィラー(F)としては、具体的には、タルク、ワラストナイト、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、チタニア等の無機化合物粉末、ガラス繊維等が挙げられる。本発明では、発泡性、剛性向上という点から、タルクが特に好ましい。
タルクは、一般に、含水ケイ酸マグネシウム(4SiO2・3MgO・H2O)として知られており、約60質量%のSiO2と、約30質量%のMgOとを主成分とする鉱物である。なお、タルクは、表面処理されたものを用いてもよい。
【0115】
無機フィラー(F)を配合する場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中の無機フィラー(F)の含有量は、上記成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、より好ましくは3~10質量部、さらに好ましくは5~15質量部である。このような割合で無機フィラー(F)を配合することにより、得られる発泡成形品の剛性、耐熱性及び寸法安定性を向上させることができる。
【0116】
無機フィラー(F)の粒径は特に限定されないが、レーザー回折法等により測定された体積累積粒径の中心粒径、即ち、50%平均粒子径(以下、「D50」ともいう。)で、好ましくは0.5~50μm、特に好ましくは2~20μmである。この粒径が0.5μm未満であると、造核剤としての効果が得られ難くなり、発泡セル径が大きくなってしまうため好ましくない。一方、粒径が50μmを超えると、発泡セルが粗大、かつ少数となり、発泡成形品の強度、外観に劣るものとなるため好ましくない。
【0117】
[その他の成分]
<熱老化防止剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱老化防止剤を配合することができる。熱老化防止剤としては、フェノール系、リン系、硫黄系などが挙げられ、好ましくはフェノール系、リン系および硫黄系の3種混合系である。熱老化防止剤として、この3種混合系を用いると、長時間、高温下に曝された時の、引張り伸び率を保持するという効果が得られる。
【0118】
熱老化防止剤のうち、フェノール系としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体、2-メチル-6-t-ブチルフェノール誘導体、オクタデシル3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデン-ビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、ペンタエリスリチル・テトラキス〔3-(3,5-ジ-
t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2〔1-(2ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)-エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0119】
リン系としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウムなどが挙げられる。
【0120】
硫黄系としては、3,3’-チオビスプロピオン酸ジドデシルエステル、3,3’-チオビスプロピオン酸ジオクタデシルエステル、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルプロピオネート)、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネートなどが挙げられる。
【0121】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の熱老化防止剤の含有量は、通常0~5質量%、好ましくは0~3質量%である。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)以外のゴム強化スチレン系樹脂(A)及びスチレン系樹脂(B)は、熱老化防止剤を添加することで、熱老化特性が改良されるが、芳香族ポリカーボネート樹脂(C)は、熱老化防止剤が加水分解を促進する触媒として働くことがあり、熱老化防止剤を入れない方が劣化を抑制する傾向もある。これらの相反する効果を鑑みて、5質量%を上限として上記熱老化防止剤を添加すれば、最適な熱老化防止効果が得られる。
【0122】
<その他の添加剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、公知の耐候剤、滑剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、シリコーンオイルなどの添加剤を配合することができる。このうち、耐候剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系などが好ましい。滑剤としては、エチレンビスステアリルアミド、硬化ヒマシ油などが好ましい。着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラなどが挙げられる。帯電防止剤としては、ポリエーテル、アルキル基を有するスルホン酸塩などが挙げられる。
【0123】
<その他の樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的とする性能を損なわない範囲で、例えば成分(A)~(D)と他の樹脂との合計100質量部中に20質量部以下の範囲で、成分(A)~(C)以外の他の熱可塑性樹脂を配合することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物に配合し得る熱可塑性樹脂としては、ゴム強化スチレン系樹脂(ただし、成分(A)は除く)、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0124】
[発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の製造]
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを用いて各成分を混練することで製造することができる。
例えば、成分(A)~(D)及び必要に応じて用いられる化学発泡剤(E)、無機フィラー(F)、その他の添加剤を混練することにより本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物のペレットを得ることができる。具体的には、2軸押出機によって成分(A)~(D)及び必要に応じて用いられるその他の添加剤を溶融させる方法などが挙げられる。この溶融混練の際の加熱温度は、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の配合によって適宜選択されるが、通常220~260℃である。
【0125】
なお、溶融状態可塑性樹脂への化学発泡剤(E)の配合方法としては、熱可塑性樹脂組成物のペレットと発泡剤マスターバッチペレットをドライブレンドした後、成形機に供給し、成形機内で樹脂を可塑化させ、金型内で発泡させる方法が好ましく用いられる。また、物理発泡剤を併用してもよい。物理発泡剤としては、具体的には、プロパン、ブタン、水、炭酸ガス等が挙げられる。
【0126】
〔発泡成形品〕
本発明の発泡成形品は、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を発泡成形してなるものである。
【0127】
本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を用いて本発明の発泡成形品を成形する方法としては、射出発泡成形、押出発泡成形等公知の方法を用いることができる。
【0128】
射出発泡成形法では、本発明の熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機の金型内に形成されたキャビティ空間に射出し、直ちに、あるいは所定時間が経過した後、可動型、あるいは可動型に内設された可動コアを所定の速度で所定位置まで後退させ、キャビティ空間を拡大することにより発泡させる、所謂、コアバック方式の射出成形法によって発泡成形品を得ることができる。射出成形金型の温度は、通常、射出される際の熱可塑性樹脂組成物の温度より相当に低いため、キャビティの表面に接して形成される発泡成形品の表面には、ほとんど発泡していない緻密なスキン層が形成される。
【0129】
本発明の発泡成形品は、樹脂製等の基材の表面に接するように一体に形成することもできる。このような積層品は、キャビティ空間に予め基材を配置しておき、その表面に本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を射出することにより形成することができる。また、2本の射出ユニットが搭載された射出成形機を使用し、先ず、基材となる樹脂等を射出して基材を形成し、その後、可動型に内設された可動コアを後退させて本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を射出するためのキャビティ空間を形成し、次いで、本発明の発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を射出し、その後、可動コアを更に後退させてキャビティ空間を拡大し、発泡させて、基材の表面に発泡成形層が積層された積層品とすることもできる。
【0130】
本発明に係る射出発泡成形において、可動型の後退速度、あるいは可動型に内設して設けられた可動コアの後退速度、即ち、上記「型開速度」は好ましくは0.05~20mm/秒である。この型開速度は、より好ましくは0.1~10mm/秒である。このような型開速度とすることにより、平均セル径が50~500μmと適度に微細である均質な発泡成形品とすることができる。
型開速度が0.05mm/秒未満であると、冷却が進んで発泡不足が発生し、表面に凹凸が生じるおそれがある。一方、型開速度が20mm/秒を超えると、セル径が大きくまた、不均一な発泡成形品となるおそれがある。
【0131】
更に、射出される発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の温度は、好ましくは200~280℃、より好ましくは220~270℃である。この温度が200℃未満であると、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の流動性が不十分となり、特に、末端部では充填不良が発生することがある。一方、280℃を超えると、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の組成によっては熱劣化等が懸念される。
【0132】
また、金型温度は、好ましくは20~80℃、特に好ましくは30~70℃である。この温度が20℃未満であると、金型内表面と接触した発泡成形用熱可塑性樹脂組成物が急激に冷却され、均質な発泡成形品とすることができず、末端部で充填不良が発生することもある。一方、80℃を超えると、発泡成形品のキャビティの表面に接して形成された部分に均質なスキン層が形成されないことがあり、好ましくない。
【0133】
また、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物を射出してから可動型、あるいは可動型に内設された可動コアの後退を開始するまでの時間(金型後退遅延時間)は、型開速度にもよるが、3秒以下とすることが好ましく、射出完了後、直ちに後退を開始してもよい。この金型後退遅延時間は、好ましくは0.1~2.5秒、特に好ましくは0.1~1.5秒である。金型後退遅延時間が3秒を超えると、冷却が進んで均質な発泡成形品とすることができない場合がある。
【0134】
金型の後退量は所定の発泡倍率により設定すればよく、限定されないが、特に、機器の機枠等では、金型内キャビティ空間に充填された素材の初期肉厚に対して発泡成形品の最終肉厚が1.1~3.0倍となるように金型を後退させる、即ち、型開きすることが好ましい。この肉厚の比を発泡倍率とすれば、発泡倍率は、好ましくは1.1~3倍、更に好ましくは1.5~2倍であり、発泡成形品の肉厚が5~30mm、特に5~25mmである製品が多いことを考慮すれば、金型の後退量は、通常2.5~30mmである。
【0135】
なお、冷却時間は発泡成形品の寸法、あるいは冷却方法にもよるが、脱型時の発泡成形品の温度が40~80℃程度にまで低下しておればよく、一般に30秒以上であればよく、大型の製品であっても100秒で十分である。
【0136】
本発明の発泡成形品の成形方法において、射出充填時に、金型内にファブリックやフィルムをインサートしてもよい。
【0137】
本発明の発泡成形品は、微細な発泡セル構造を発現し、発泡成形品の部位によらず発泡セルの大きさが均一であり機械的性能に優れる発泡成形品である。具体的には、発泡セル径の平均径が好ましくは50~500μm、より好ましくは70~450μm、さらに好ましくは100~400μmであり、発泡セル径が均一であり、粒径分布の狭いことが好ましい。特に発泡成形品発泡セルの大半のセル径が400μm以下の均一発泡成形品であることが好ましい。
【0138】
本発明の発泡成形品は、さらに発泡倍率が1.01~3.0倍、好ましくは1.1~2.7倍、より好ましくは1.5~2.5倍の所望の倍率にすることができる。
【0139】
本発明の発泡成形品の形状は、目的、用途などにより選択され、板状(シート状)、筒状、半筒状、棒状、線状、塊状等とすることができる。
【0140】
〔用途〕
本発明の発泡成形品は、表示板、コンクリートパネル、屋上断熱材、畳芯材、襖、システムキッチンの木材代替材、風呂蓋、テーブル板などの土木・建築関連資材、サイドモール、吸音材、バンパー、ドアハンドル、コンソールボックス、天井材、ピラー、センターロークラスタフィニッシュパネル、カウルサイドトリム、センターアウトレット、ドアライニング、アッシュトレイ、フットレスト、ステアリングコラムカバー、ロアインサート、ロアハンドルパネル、ホイルキャップ、スポイラーなどの車両用内外装関連資材、容器、トレー、通い箱等の日用雑貨用品、テレビ、ビデオ、エアコンのハウジング、パラボナアンテナ、エアコン室外機等の電気・電子部品、ビート板、プロテクターなどのスポーツ用品、壁、床、機枠、家具、化粧シート、間仕切り、ラティス、フェンス、雨樋、サイジングボード、カーポート等の住宅・事務所用内外装材、玩具・遊技機等の機枠、緩衝材、補強材、断熱材、芯材、代替合板等として用いることができる。
さらに、本発明の発泡成形品は、用途によっては、他の成形品、部材等と一体化させ、複合化させてなる物品として用いることができる。
【実施例0141】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0142】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂組成物の原材料は、以下の方法により製造した樹脂成分や、以下の市販品を用いた。
【0143】
[成分(A):ゴム強化スチレン系樹脂(A)の製造]
<ABS樹脂(ブタジエン系ゴム質重合体/スチレン/アクリロニトリル共重合体)(A-1)の製造>
リボン型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに窒素気流中で、ポリブタジエン〔JSR社製、「BR51」、ハイシスタイプ、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)33、ゲル含有率0%〕15部、スチレン64部、アクリロニトリル21部、トルエン140部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間撹拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温し、100℃に達した後、この温度を保持しながら、撹拌回転数100rpmとして重合反応を行った。
【0144】
重合反応開始後、4時間目から内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って終了した。内温を100℃まで冷却したあと、オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部を添加した。重合転化率は95%であった。反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒とを留去し、40mmφの真空ベント付き押出機でシリンダー温度を220℃、真空度770mmHgに調節して揮発分を実質的に脱揮させ、ペレット化してABS樹脂(A-1)を得た。
ABS樹脂(A-1)の重合転化率91%であり、グラフト率68%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は0.39dl/gであり、熱シクロヘキサン溶解量は2%、重量平均分子量は48000であった。
【0145】
<ASA樹脂(アクリル系ゴム/スチレン/アクリロニトリル共重合体)(A-2)の製造>
撹拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水160部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、クメンハイドロパーオキサイド0.002部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩0.004部、硫酸第1鉄7水和物0.001部とn-ブチルアクリレート10部、アリルメタクリレート0.02部を投入し、撹拌しながら昇温した。60℃に達したところで、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.75部(20%水溶液)を添加した。内温を60℃に保持し80分経過後、n-ブチルアクリレート40部、アリルメタクリレート0.65部、及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、イオン交換水7部、を180分間かけて連続に添加し、添加終了後更に60分重合を継続した。60分経過後、アクリル系ゴムラテックスの一部をサンプリングし評価したところ、体積平均粒子径0.1μm、ゲル含有率6%であった。
【0146】
その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5.2部(4%水溶液)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート3部(20%水溶液)を添加し、スチレン38部、アクリロニトリル12部、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、イオン交換水20部を5時間かけて連続に添加した。添加終了後更に45分間重合を継続後、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を終了した。重合転化率は99%であった。反応生成物のラテックスを硫酸マグネシウム水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してASA樹脂(A-2)を得た。
このASA樹脂(A-2)のグラフト率は65%、アセトン可溶分の極限粘度は〔η〕は0.38dl/gであった。また、熱シクロヘキサン溶解量は5%、重量平均分子量は47000であった。
【0147】
<AES樹脂(エチレン・プロピレン系ゴム質重合体/スチレン/アクリロニトリ共重合体)(A-3)の製造>
リボン型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに窒素気流中で、エチレン・プロピレン系ゴム質重合体〔エチレン含量63%、非共役ジエン成分はジシクロペンタジエン、ヨウ素価10、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)33、ゲル含有率0%〕を30部、スチレン45部、アクリロニトリル25部、トルエン140部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間撹拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温し、100℃に達した後、この温度を保持しながら、撹拌回転数100rpmとして重合反応を行った。
【0148】
重合反応開始後、4時間目から内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って終了した。内温を100℃まで冷却したあと、オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部を添加した。重合転化率は95%であった。反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒とを留去し、40mmφの真空ベント付き押出機でシリンダー温度を220℃、真空度770mmHgに調節して揮発分を実質的に脱揮させ、ペレット化してAES樹脂(A-3)を得た。
このAES樹脂(A-3)のグラフト率は60%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は0.45dl/gであり、熱シクロヘキサン溶解量は35%で、重量平均分子量は72000であった。
【0149】
[成分(B):スチレン系樹脂(B)の製造]
<AS樹脂(スチレン/アクリロニトリル共重合体)(B-1)の製造>
リボン翼を備えたステンレス製オートクレーブを2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン75部、アクリロニトリル25部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.16部及びトルエン5部の溶液、及び重合開始剤として、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カーボニトリル)0.1部、及びトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は、110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤、及び重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行い、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合溶液は、2軸3段ベント付き押出機を使用して、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度〔η〕0.64dl/g、重量平均分子量122,000のAS樹脂(B-1)を得た。
【0150】
[成分(C):芳香族ポリカーボネート樹脂(C)]
芳香族ポリカーボネート樹脂:PC樹脂(C-1)として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス 7022PJ」(粘度平均分子量:20,900)を用いた。
【0151】
[成分(D):高分子量樹脂(D)]
高分子量樹脂(D)としては以下の市販品を用いた。
(D-1):General Electric Specialty Chemicals社製高分子量アクリロニトリル・スチレン共重合体「Blendex 869」(重量平均分子量:380万)
(D-2):三菱ケミカル社製高分子量アクリル系樹脂「メタブレン(登録商標)
P-531A」(重量平均分子量:450万)
【0152】
[成分(E):化学発泡剤(E)]
化学発泡剤(E)としては、永和化成工業社製「ポリスレンEB106」、マスターバッチ(ADCA/ABS=10/90(質量比))を用いた。化学発泡剤の配合量は、樹脂成分(成分(A)~(C)の合計)100質量部に対し、0.35質量部とした。
【0153】
[成分(F):無機フィラー(F)>
(F-1):日本タルク社製微粉タルク「MICRO ACE SG-200」
(レーザー回折法によるD50:1μm)
(F-2):IMERYS社製ワラストナイト「NYGLOS 4W」
(電子顕微鏡観察による平均粒子径7μm)
【0154】
〔実施例1~12、比較例1~4〕
[発泡成形用熱可塑性樹脂組成物の製造]
表1,2に示す原材料を表1に示す割合で配合し、これらをヘンシエルミキサーにてブレンドした後、日本製鋼所製の二軸押出機TEX44を用いて、250℃にて押し出し、発泡成形前の熱可塑性樹脂ペレットを得た。
【0155】
[射出発泡成形]
発泡成形機としては、日本製鋼所製110(t)電動成形機(J110AD)を用いた。得られた熱可塑性樹脂ペレットと発泡剤マスターバッチ(化学発泡剤(E))をドライブレンドして発泡成形機に供給してコアバック型射出発泡成形を行い、評価用試験片としての発泡成形品(100mm×100mm×厚さ3.7mmの板形状品)を得た。
射出発泡成形における充填時間は1秒、型開速度は0.5mm/秒、射出温度は250℃、金型温度は80℃、金型後退遅延時間は0秒、発泡倍率は1.5倍とした。
【0156】
[発泡成形品の評価]
得られた発泡成形品について以下の評価を行い、結果を表1,2に示した。
【0157】
<外観観察>
(スワールマーク)
発泡成形品の外表面を目視観察し、スワールマークによる表面悪化度を以下の基準で評価した。
◎:スワールマークが全くなく、表面外観に非常に優れる。
○:スワールマークがわずかに認められるが、表面外観は良好である。
△:スワールマークが認められ、表面外観がやや劣る。
×:スワールマークが顕著であり、表面外観に劣る。
【0158】
(表面凹凸)
発泡成形品の外表面を目視観察し、表面凹みの発生による表面悪化度を以下の基準で評価した。
◎:表面凹みが全くなく、表面外観に非常に優れる。
○:表面凹みがわずかに認められるが、表面外観は良好である。
△:表面凹みが認められ、表面外観がやや劣る。
×:表面凹みが顕著であり、表面外観に劣る。
【0159】
<断面観察>
(破泡)
発泡成形品を厚み方向に切断して断面を観察し、発泡セルの破断・破断によるセルの結合の程度を以下の基準で評価した。
◎:発泡セルの破断・破断によるセルの結合が全くなく、断面の全面にわたってセルが均一である。
○:発泡セルの破断・破断によるセルの結合がわずかに認められるが、断面の全面にわたって比較的セルが均一である。
△:発泡セルの破断・破断によるセルの結合が認められ、断面において、セルの不均一部分が少し存在する。
×:発泡セルの破断・破断によるセルの結合によるセルの不均一部分が断面の多くの箇所で認められる。
【0160】
(セル形状)
発泡成形品を厚み方向に切断して断面のセル形状を観察し、セルの微細さを以下の基準で評価した。
◎:セル径100μm程度の微細な発泡セルが均一に存在し、セル形状に非常に優れる。
○:殆どがセル径100μm程度の微細な発泡セルであり、セル形状に優れる。
△:セル径100μm程度の微細な発泡セルの中にセル径100~300μm程度の発泡セルがわずかに存在し、均一性にやや劣る。
×:発泡セルのセル径は100~300μmと不均一で、均一性に劣る。
【0161】
【0162】
【0163】
[考察]
表1,2より明らかなように、発泡成形用熱可塑性樹脂組成物に高分子量樹脂(D)を配合した実施例1~12では、表面外観が良好で、発泡セル構造も微細かつ均一で優れた発泡成形品を得ることができた。
これに対して、高分子量樹脂(D)を配合していない比較例1~3では、特に発泡セル構造において劣る。
比較例4は高分子量樹脂(D)を用いているが、芳香族ポリカーボネート系樹脂(C)の配合量が少ないために溶融粘度特性が不安定となり、発泡セル構造がやや劣る結果となった。