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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128097
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】炭酸リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/08 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
C01D15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026435
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(57)【要約】
【課題】炭酸リチウムの再溶解を抑制し、収率よく効率的に製造することができる炭酸リチウムの製造方法を提供すること。
【解決手段】リチウムイオンを含む水溶液とアルコールとを混合してアルコール水溶液を調製する第1の工程と、アルコール水溶液と二酸化炭素をサイクロン型固液分離装置に供給し、リチウムと二酸化炭素を接触させて炭酸リチウムを析出させ、炭酸リチウムを含む分離液をサイクロン型固液分離装置の下方から排出させる第2の工程と、炭酸リチウムを含む分離液から炭酸リチウムを回収する第3の工程を含む、炭酸リチウムの回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを含む水溶液とアルコールとを混合してアルコール水溶液を調製する第1の工程と、
アルコール水溶液と二酸化炭素をサイクロン型固液分離装置に供給し、リチウムと二酸化炭素を接触させて炭酸リチウムを析出させ、炭酸リチウムを含む分離液をサイクロン型固液分離装置から排出させる第2の工程と、
炭酸リチウムを含む分離液から炭酸リチウムを回収する第3の工程
を含む、炭酸リチウムの回収方法。
【請求項2】
アルコールが1価アルコール及び多価アルコールから選択される1以上である、請求項1記載の炭酸リチウムの回収方法。
【請求項3】
アルコール水溶液中のアルコール濃度が55~80体積%である、請求項1又は2記載の炭酸リチウムの回収方法。
【請求項4】
アルコール水溶液中のリチウム濃度が100~3000mg/Lである、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸リチウムの回収方法。
【請求項5】
リチウムと二酸化炭素との接触時間が30秒以内となるように調整する、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭酸リチウムの回収方法。
【請求項6】
サイクロン式固液分離装置内のアルコール水溶液の温度が30~80℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭酸リチウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸リチウムは、例えば、耐熱ガラス、光学ガラス等の配合材、セラミック材料、携帯電話機、ノート型パソコンのバッテリーに使用されているリチウムイオン電池の原料、電解質の材料として使用されており、今後もその需要が高まることが予想される。しかしながら、リチウムは高価な有価金属であるため、資源確保や有効活用が重要となる。
【0003】
そこで、従来塩湖から得られるかん水資源の有効活用が検討され、例えば、かん水を天日で濃縮して高濃度の塩化リチウムを含む水溶液とした後、該水溶液にアンモニアと、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)とを混合して炭酸化反応を行った後、生成した固体を固液分離して炭酸リチウムを回収する方法(特許文献1)、脱硫処理工程、蒸発濃縮工程及び電気透析工程を経て調製される濃縮かん水に、アンモニアの共存下において、石灰石を焼成して得られる炭酸ガスを導入する炭酸化工程により炭酸リチウムの結晶を析出させ、その析出させた結晶を固液分離して炭酸リチウムを回収する方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-116681号公報
【特許文献2】特開2013-193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、リチウムは使用量が増加しているが、生産国が海外であり、生産規模が小さく供給リスクを伴うことなどから、リサイクルが注目され、炭酸リチウムを収率よく効率的に製造可能な炭酸リチウムの製造方法の創製が望まれている。そこで、本発明者らは、リチウムイオンを含む水溶液に二酸化炭素を吹き込んで炭酸リチウムの製造を試みたところ、反応時間が長くなるにつれ、析出した炭酸リチウムが再溶解するため、炭酸リチウムの収率が低下するという課題が存在することを見出した。
本発明の課題は、炭酸リチウムの再溶解を抑制し、収率よく効率的に製造することができる炭酸リチウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討した結果、特定の装置を用いることで、リチウムと二酸化炭素との炭酸化反応と、それにより生成した炭酸リチウムの回収を連続的に行うことができるため、炭酸リチウムの再溶解を抑制しつつ、収率よく効率的に炭酸リチウムを製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕リチウムイオンを含む水溶液とアルコールとを混合してアルコール水溶液を調製する第1の工程と、
アルコール水溶液と二酸化炭素をサイクロン型固液分離装置に供給し、リチウムと二酸化炭素を接触させて炭酸リチウムを析出させ、炭酸リチウムを含む分離液をサイクロン型固液分離装置から排出させる第2の工程と、
炭酸リチウムを含む分離液から炭酸リチウムを回収する第3の工程
を含む、炭酸リチウムの回収方法。
〔2〕アルコールが1価アルコール及び多価アルコールから選択される1以上である、前記〔1〕記載の炭酸リチウムの製造方法。
〔3〕アルコール水溶液中のアルコール濃度が55~80体積%である、前記〔1〕又は〔2〕記載の炭酸リチウムの製造方法。
〔4〕アルコール水溶液中のリチウム濃度が100~3000mg/Lである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の炭酸リチウムの製造方法。
〔5〕リチウムと二酸化炭素との接触時間が30秒以内となるように調整する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の炭酸リチウムの製造方法。
〔6〕サイクロン式固液分離装置内のアルコール水溶液の温度が30~80℃である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の炭酸リチウムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭酸リチウムの再溶解を抑制することができるため、収率よく効率的に炭酸リチウムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭酸リチウムの製造方法は、第1の工程と、第2の工程と、第3の工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
〔第1の工程〕
第1の工程は、リチウムイオンを含む水溶液とアルコールとを混合してアルコール水溶液を調製する工程である。水溶液にアルコールを含有させることで、次工程においてリチウムと二酸化炭素との炭酸化反応により生成する炭酸リチウムの溶解度を著しく低下させることができるため、炭酸リチウムが析出しやすくなる。
【0011】
リチウムイオン源としては、水中でリチウムイオンを生成できれば特に限定されないが、例えば、リチウム塩を挙げることができる。リチウム塩は、無機塩でも、有機塩でもよく、鉱物や粘土鉱物に由来のものでも構わない。
また、リチウムイオンを含有する水溶液としては、リチウムイオンを含有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、リチウム塩を溶解した水溶液、塩湖のかん水、温泉水、リチウムイオン電池の正極材料を硫酸で溶解させた水溶液、リチウムイオン電池を焼成し、水にリチウムを浸出させた水溶液等を使用することができる。
【0012】
アルコールは、直鎖でも、分岐鎖状でも、環状でも構わないが、炭酸リチウムの収率向上の観点から、1価アルコール及び多価アルコールから選択される1種又は2種以上が好ましい。
1価アルコールとしては、1価の脂肪族アルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、iso-ペンタノール、sec-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール等を挙げることができる。
多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール、3価以上のアルコール等を挙げることができる。中でも、2価アルコール、3価アルコールが好ましい。2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等が挙げられ、また3価アルコールとしては、例えば、グリセリン等を挙げることができる。
中でも、アルコールとしては、炭酸リチウムの析出のしやすさ、再溶解抑制の観点から、炭素数2~6の1価の脂肪族アルコール、炭素数2~4の2価アルコール、及び炭素数2~4の3価アルコールから選択される1種又は2種以上が好ましく、炭素数3又は4の1価の脂肪族アルコール、ジエチレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上がより好ましく、炭素数3又は4の1価の分岐鎖状脂肪族アルコール、ジエチレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上が更に好ましく、iso-プロパノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール及びジエチレングリコールから選択される1種又は2種以上が殊更に好ましい。
【0013】
アルコールの使用量は、炭酸リチウムの析出のしやすさ、再溶解抑制の観点から、アルコール水溶液中に55体積%以上が好ましく、60体積%以上がより好ましく、65体積%以上が更に好ましく、70体積%以上が殊更に好ましく、そして80体積%以下が好ましく、75体積%以下が更に好ましい。なお、アルコールの混合方法は特に限定されず、水溶液とアルコールを任意の順序で混合しても、両者を同時に添加して混合してもよい。
【0014】
アルコール水溶液中のリチウム濃度は、炭酸リチウムの収率向上の観点から、100mg/L以上が好ましく、150mg/L以上がより好ましく、400mg/L以上が更に好ましい。また、生産効率(例えば、水溶液の濃縮工程等の省略)の観点から、3000mg/L以下が好ましく、2500mg/L以下がより好ましく、2000mg/L以下が更に好ましい。なお、所望のリチウム濃度となるように、水溶液を濃縮又は希釈しても構わない。また、リチウム濃度は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により分析することができる。
【0015】
〔第2の工程〕
第2の工程は、アルコール水溶液と二酸化炭素をサイクロン型固液分離装置に供給し、リチウムと二酸化炭素を接触させて炭酸リチウムを析出させ、炭酸リチウムを含む分離液をサイクロン型固液分離装置から排出させる工程である。これにより、析出した炭酸リチウムの再溶解を抑制しつつ、炭酸リチウムを反応系から効率よく分離することができる。
【0016】
本工程においては、例えば、貯留槽に収容されたアルコール水溶液と、二酸化炭素とを、サイクロン式固液分離装置の分離槽上端部に設けられた供給口から連続的に分離槽内に流入させるとともに、アルコール水溶液中のリチウムと二酸化炭素とを炭酸化反応に供して炭酸リチウムを生成させる。そして、生成した炭酸リチウムを遠心力により分離槽の内周面に沿って旋回しながら沈降させて分離槽下端部に設けられた排出口から炭酸リチウムを含む分離液を排出させるとともに、オーバーフローしたアルコール水溶液を分離槽上端部に設けられた排出口から排出させる。なお、炭酸リチウムを含む分離液は次工程に供され、溢れ出たアルコール水溶液はアルコール濃度を分析し、必要によりアルコール濃度を調整した後、貯留槽に移送される。また、溢れ出たアルコール水溶液は、減圧蒸留等によりアルコールと水とに分離し、回収したアルコールを第1の工程で再利用してもよい。
【0017】
本工程で使用するサイクロン式固液分離装置としては、遠心力を利用して被処理液に含まれる固体を沈降分離できるものであれば特に限定されない。
サイクロン式固液分離装置の分離槽の形状としては、例えば、円筒形、逆円錐台形、逆円錐形を挙げることができる。中でも、旋回流を生じやすい点で、逆円錐台形、逆円錐形が好ましく、傾斜部の傾斜角は水平に対して、好ましくは20°以上、更に好ましくは45°以下である。
分離槽に形成された各排出口の形状、大きさは、供給口の大きさに対応して適宜設定することができる。なお、炭酸リチウムの固液分離が不十分な場合には、アルコール水溶液の流速を増加させることで遠心力を増大させて固液分離の性能を高めてもよい。
本工程においては、市販の装置を使用することが可能であり、例えば、TOSAQUA S30/S300(東芝インフラシステムズ社製)を挙げることができる。
【0018】
二酸化炭素としては二酸化炭素が含まれていれば特に限定されないが、例えば、ボンベに充填された二酸化炭素、工場の排ガスを挙げることができる。
工場の排ガスとしては、例えば、セメント工場の排出ガスや、火力発電所の排出ガスが挙げられる。なお、工場の排出ガスは、分離膜や吸着剤等で処理して二酸化炭素濃度を高めてもよい。また、工場の排出ガスは、工場の排気口から配管を介して分離槽へ供給しても、貯留ボンベに一旦収容し、貯留ボンベから配管を介して分離槽へ供給してもよい。
【0019】
アルコール水溶液及び二酸化炭素の分離槽への供給量は、製造スケールや装置の大きさにより適宜設定することができるが、炭酸リチウムの再溶解抑制の観点から、リチウムと二酸化炭素との接触時間が、好ましくは30秒以内、更に好ましくは10秒以内となるように調整することが好ましい。この場合、例えば、二酸化炭素の供給速度を、アルコール水溶液1L当たり、好ましくは150cm3/min以上2000cm3/min以下、より好ましくは250cm3/min以上1500cm3/min以下、更に好ましくは400cm3/min以上1000cm3/min以下となるように調整すればよい。
【0020】
サイクロン式固液分離装置内のアルコール水溶液の温度は、炭酸化反応促進の観点から、30~80℃が好ましく、40~70がより好ましく、50~70が更に好ましい。この場合、アルコール水溶液の液温が上記温度となるように加温してサイクロン式固液分離装置に供給しても、サイクロン式固液分離装置の分離槽の外周を加熱ヒータや熱風ヒータで加温し、分離槽内のアルコール水溶液の液温が上記温度となるように調整してもよい。
【0021】
〔第3の工程〕
第3の工程は、炭酸リチウムを含む分離液から炭酸リチウムを回収する工程である。
炭酸リチウムを回収方法としては炭酸リチウムを単離できれば特に限定されないが、例えば、分離液を常圧溶媒留去又は減圧溶媒留去する方法を挙げることができる。なお、回収したアルコールは、第1の工程で再利用しても構わない。
【0022】
このようにして、炭酸リチウムを収率よく効率的に製造することができる。また、本発明の製造方法は、高価な薬剤や、複雑な設備及び操作を必要としないので、炭酸リチウムの製造コストを低減することもできる。