(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128144
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】巻胴式エレベータの制御装置
(51)【国際特許分類】
B66B 1/30 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
B66B1/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026512
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】301020536
【氏名又は名称】三菱日立ホームエレベーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103067
【弁理士】
【氏名又は名称】神戸 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高部 克則
(72)【発明者】
【氏名】山内 厚志
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502HB01
3F502HC01
3F502JB18
3F502JB19
3F502KA33
3F502LA02
3F502LA04
3F502LA18
3F502LA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】かご内負荷にかかわらずエレベータの定格速度を一律に速くすると、モータ、電力変換器などの駆動能力が増加して、装置が大型化することを抑制する。
【解決手段】制御装置100は、かごが定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かごが無負荷で、上昇方向へ第2の定格速度を越えて走行するための最大出力電圧値又は最大出力電流値を発生するように電力変換器500が形成されており、速度制御部305及びトルク制御部307を介して、最高速度指令信号に基づいて最大出力電圧値又は最大出力電流値を限界として得られるかごの速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータの必要トルクとが一致したかごの速度により、上昇方向へ第2の定格速度以上の速度により走行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する第1の可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記第1の可変電圧可変周波数手段は、前記かごが定格負荷で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度により走行すると共に、前記かごが定格負荷未満で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度を越えて走行するための第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値を発生するように形成されており、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記位置指令信号及び前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、前記位置指令信号及び前記上昇方向行先指令信号の発生に基づいて前記第2の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、
前記第1の定格速度指令信号に基づいて前記第1の可変電圧可変周波数手段を介して前記モータを駆動制御して前記下降方向へ前記かごを前記第1の定格速度により走行すると共に、前記最高速度指令信号に基づいて前記第1の最大出力電圧値又は前記第1の最大出力電流値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する第1の制御手段と、
を備えたことを特徴とする巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項2】
前記第1の可変電圧可変周波数手段に代えて、第2の可変電圧可変周波数手段を有しており、
前記第2の可変電圧可変周波数手段は、第1の最大出力値を発生するように形成されており、
前記第1の制御手段に代えて、第2の制御手段を有しており、
前記第2の制御手段は、前記最高速度指令信号に基づいて前記第1の最大出力値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項3】
かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する第3の可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記第3の可変電圧可変周波数手段は、第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値を発生するように形成されており、
前記第3の最大出力電圧値又は前記第3の最大出力電流値を制限すると共に、前記かごが定格負荷で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度により走行すると共に、前記かごが定格負荷未満で、前記上昇方向へ前記第1の定格速度を越えて走行するための第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値を設定する第1の設定手段と、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記位置指令信号及び前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、前記位置指令信号及び前記上昇方向行先指令信号の発生に基づいて前記第2の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、
前記第1の定格速度指令信号に基づいて前記第3の可変電圧可変周波数手段を介して前記モータを駆動制御して前記下降方向へ前記かごを前記第1の定格速度により走行すると共に、前記最高速度指令信号に基づいて前記第4の最大出力電圧値又は前記第4の最大出力電流値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する第3の制御手段と、
を備えたことを特徴とする巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項4】
前記第3の可変電圧可変周波数手段に代えて、第4の可変電圧可変周波数手段を有しており、
前記第4の可変電圧可変周波数手段は、第3の最大出力値を発生するように形成されており、
前記第1の設定手段に代えて、第2の設定手段を有しており、
前記第2の設定手段は、前記第3の最大出力値を制限する第4の最大出力値を設定するように形成されており、
前記第3の制御手段に代えて、第4の制御手段を有しており、
前記第4の制御手段は、前記最高速度指令信号に基づいて前記第4の最大出力値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項5】
前記第1又は前記第2の可変電圧可変周波数手段は、前記モータをトルク電流指令と磁束電流指令に基づいて制御するように形成されており、
前記かごが上昇方向へ加速している時の前記モータに流れる三相電流を検出すると共に、三相から座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出手段と、
前記トルク電流検出信号に基づいて前記かご内の荷重値を推定して前記かご内の荷重値が前記かごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断すると共に、越えると定格負荷推定信号を発生する定格負荷判断手段を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記定格負荷推定信号に基づいて前記第2の定格速度により前記かごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項6】
前記位置検出信号は、前記モータの回転位置を検出するように形成されており、
前記位置検出信号に基づいて前記かごが予め定められた減速開始となる減速開始位置に達した否かを判断して、達すると判断すると、減速開始指令信号を発生する減速開始判断手段と、
前記位置検出信号に基づいて、速度検出信号を発生する速度検出手段と、を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記減速開始指令信号に基づいて、前記最高速度パターンから移行すると共に、前記速度検出信号に基づいて前記かごの減速開始点を定める減速パターンを生成して、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項7】
オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生する最高速度中断手段と、
前記速度パターン生成手段は、前記最高速度中断オン信号に基づいて前記かごを前記第2の定格速度により走行する第2の定格速度走行パターンを生成し、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【請求項8】
前記かごが前記定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、前記かごが前記定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断手段と、
前記表示オン信号に基づいて定格速度を越えてかごが走行していることを文字、図形、音声のいずれか一つで表現すると共に、前記表示オフ信号に基づいて前記表現を消滅する表示手段を、
備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の巻胴式エレベータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻胴式エレベータの制御装置に関し、特に、かごの最高速度を定格速度よりも速く上昇方向へ走行し得るものである。より詳しくは、モータを駆動する電力変換器の最大出力電圧値、最大出力電流値、最大出力値のいずれか一つを適切に得ることで、かご内の荷重を検出することなく、かご内の荷重値に応じて、かごの最高速度を速くして上昇方向へ走行できるものである。
【背景技術】
【0002】
ホームエレベータでは、昇降路スペースを狭くする等のために、下記特許文献1に記載のように、釣合い重りが存在せず、かごをロープによりドラムに巻き取る巻胴式エレベータが一般に採用されている。このホームエレベータの制御装置は、エレベータの運転速度を変更するもので、基本の構成要素には、かごの昇降を駆動する駆動手段と、必要に応じて指定速度を切換える速度切換え手段と、この速度切換え手段の切換え操作に応じて駆動手段によるかごの速度を制御する速度制御手段とを備えたものが記載されている。
【0003】
制御装置に設けられた速度切換手段の切換操作によりエレベータの運転速度を、必要に応じて定格速度より低い所定速度の間で切換えられるようになっている。これにより、特に深夜においては、エレベータの運転速度を定格速度より低い所定速度に切換え、静粛なエレベータの運転が可能になるので、家族を始め近隣住宅への騒音による迷惑を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のエレベータの制御装置では、切換え操作に基づいてエレベータの定格速度より低い所定速度により、かごを走行するので、輸送効率を阻害する。一方、輸送効率を上げるために、かご内負荷に拘らずエレベータの定格速度を一律に速くすると、モータ、電力変換器などの駆動能力が増加して、装置が大型化する。
ここで、ホームエレベータ等に採用される巻胴式エレベータでは、下降方向では、かごがかご側の自重で下降するので、モータからの回生制動力を発生する回生運転となる。 これに対して、上昇方向の運転では、かご側の荷重を巻上機の巻胴に巻き取りしなければならない。したがって、巻胴式エレベータでは、上昇方向のかご内の定格負荷に基づいて上記駆動能力が決定される。このように決定された駆動能力を有効に活用するために、かごの下降方向よりも上昇方向が定格速度を遅く設定されているのが一般である。
このような状況下、発明者は、かごが上昇方向の走行であっても、かご内の乗員の有無、数によっては上記駆動能力に余裕を有することがあり、かかる点において駆動能力を十分に活用しておらず、かご内の荷重値に応じて、かごの定格速度よりも速い走行により、より一層駆動能力を有効に活用して、輸送効率の向上を図り得ることに気付くと共に、かご内の荷重値を荷重検出手段により検出することなく、モータを駆動する電力変換器が有する最大出力値を限界としてモータから発生する発生トルクとかご側の荷重により定まる必要トルクとの関係で、定格速度よりも速い最高速度により、かごの上昇方向へ簡易に制御することを見出したものである。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、エレベータの上昇方向の輸送効率を上げるために、かご内の荷重値を荷重検出手段により検出することなく、モータを駆動する電力変換器が有する最大出力電圧値、最大出力電流値、最大出力値のいずれか一つを限界として、かごの上昇側の速度を簡易に制御し得る巻胴式エレベータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する第1の可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記第1の可変電圧可変周波数手段は、前記かごが定格負荷で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度により走行すると共に、前記かごが定格負荷未満で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度を越えて走行するための第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値を発生するように形成されており、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記位置指令信号及び前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、前記位置指令信号及び前記上昇方向行先指令信号の発生に基づいて前記第2の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、
前記第1の定格速度指令信号に基づいて前記第1の可変電圧可変周波数手段を介して前記モータを駆動制御して前記下降方向へ前記かごを前記第1の定格速度により走行すると共に、前記最高速度指令信号に基づいて第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する第1の制御手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
このような巻胴式エレベータの制御装置によれば、第1の可変電圧可変周波数手段は、かごが定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かごが定格負荷未満で、上昇方向へ第2の定格速度を越えて走行するための第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値(以下、適宜、第1の最大出力電圧値等という。)を発生するように形成されている。行先指令信号発生手段は、かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する。速度パターン生成手段は、位置指令信号及び下降方向行先指令信号の発生に基づいてかごを第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、位置指令信号及び上昇方向行先指令信号の発生に基づいて第1の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する。
第1の制御手段は、第1の定格速度指令信号に基づいて可変電圧可変周波数手段を介してモータを駆動制御して下降方向へかごを第1の定格速度により走行する。第1の制御手段は、さらに、最高速度指令信号に基づいて、可変電圧可変周波数手段の第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、かごの負荷に応じたエレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、上昇方向へかごを第2の定格速度以上の速度により走行する。
【0009】
かごを上昇方向へ走行する際に、かごの負荷が増加するに従いエレベータからの必要トルクも大きくなる。第1の可変電圧可変周波数手段は、この必要トルクに応じた出力電圧値又は出力電流値を発生しなければならないが、かごが定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かごが定格負荷未満で、上昇方向へ第2の定格速度を越えて、走行するための第1の最大出力電圧値等を発生するように形成されている。このため、第1の制御手段は最高速度指令信号が発生していても、かごの負荷状況によっては、第1の最大出力電圧値等を限界として最高速度指令信号に基づく必要トルクよりも低いトルクしかモータから発生し得ない。したがって、第1の制御手段は、最高速度指令信号に基づいて第1の可変電圧可変周波数手段の第1の最大出力電圧値等を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、かごの負荷に応じたエレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行する。
【0010】
このように、かごを上昇方向へ走行する際には、かごの負荷が定格負荷から無負荷に応じて、エレベータの必要トルクが変動するが、第1の制御手段は、第1の可変電圧可変周波数手段の第1の最大出力電圧値等を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行する。
これにより、かご内の負荷が定格負荷で第2の定格速度により走行し、定格負荷未満で第2の定格速度よりも速い最高速度によりかごを上昇方向へ走行できる。したがって、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、常にモータの駆動能力を過不足なく有効に利用してエレベータの上昇方向の輸送効率を上げることができる。したがって、かご内の負荷を検出する荷重検出手段をなくしても、かごの負荷に応じて、上昇方向へ定格速度よりも速い最高速度を簡易な構成により実現できる。
【0011】
なお、定格速度とは、かご内が定格負荷の状態で、かごが一定速度により走行する速度をいう。最高速度は、かごの定格速度よりも速くかごを走行させれば良く、かごが最高速度に達する加速度は問わない。但し、加速度を一定にすれば、速度生成パターンが簡易に形成できる。殊に、ホームエレベータのように定格速度が低い用途では加速度を上げても輸送効率向上の寄与度が低いので、加速度を一定にする利点がある。
【0012】
第2の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、前記第1の可変電圧可変周波数手段に代えて、第2の可変電圧可変周波数手段を有しており、
前記第2の可変電圧可変周波数手段は、第1の最大出力値を発生するように形成されており、
前記第1の制御手段に代えて、第2の制御手段を有しており、
前記第2の制御手段は、前記最高速度指令信号に基づいて前記第1の最大出力値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する、
ことを特徴とするものである。
これにより、第2の制御手段は、最高速度指令信号に基づいて第1の最大出力値を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、かごの負荷に応じたエレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、上昇方向へかごを第2の定格速度以上の速度により走行する。
このように、かごを上昇方向へ走行する際には、かごの負荷が定格負荷から無負荷に応じて、エレベータの必要トルクが変動するが、第2の制御手段は、第2の可変電圧可変周波数手段の第1の最大出力値を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、エレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行することができる。
【0013】
第3の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、かごに連結されたロープを巻胴に巻き取り、巻き戻して下降方向へ第1の定格速度により走行し、上昇方向へ前記第1の定格速度よりも遅い第2の定格速度により前記かごを走行すると共に、位置指令信号に基づいて、可変電圧と可変周波数とを発生する第3の可変電圧可変周波数手段によりモータを回転して前記巻胴を駆動する巻胴式エレベータの制御装置であって、
前記第3の可変電圧可変周波数手段は、第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値を発生するように形成されており、
前記第3の最大出力電圧値又は前記第3の最大出力電流値を制限すると共に、前記かごが定格負荷で、前記上昇方向へ前記第2の定格速度により走行すると共に、前記かごが定格負荷未満で、前記上昇方向へ前記第1の定格速度を越えて走行するための第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値を設定する第1の設定手段と、
前記かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、前記かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する行先指令信号発生手段と、
前記位置指令信号及び前記下降方向行先指令信号の発生に基づいて前記かごを前記第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、前記位置指令信号及び前記上昇方向行先指令信号の発生に基づいて前記第2の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する速度パターン生成手段と、
前記第1の定格速度指令信号に基づいて前記第3の可変電圧可変周波数手段を介して前記モータを駆動制御して前記下降方向へ前記かごを前記第1の定格速度により走行すると共に、前記最高速度指令信号に基づいて前記第4の最大出力電圧値又は前記第4の最大出力電流値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する第3の制御手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
このような巻胴式エレベータの制御装置によれば、第3の可変電圧可変周波数手段は、第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値(以下、適宜、第3の最大出力電圧値等という。)を発生するように形成されている。行先指令信号発生手段は、かごを上昇方向へ走行する上昇方向行先指令信号を発生すると共に、かごを下降方向へ走行する下降方向行先指令信号を発生する。
第1の設定手段は、第3の最大出力電圧値等の発生を制限すると共に、かごが定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かごが定格負荷未満で、上昇方向へ第1の定格速度を越えて走行するための第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値(以下、適宜、第4の最大出力電圧値等という。)を設定する。速度パターン生成手段は、位置指令信号及び下降方向行先指令信号の発生に基づいてかごを第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、この第1の定格速度走行パターンを成す第1の定格速度指令信号を発生すると共に、位置指令信号及び上昇方向行先指令信号の発生に基づいて第1の定格速度以上の最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する。
第3の制御手段は、第1の定格速度指令信号に基づいて第3の可変電圧可変周波数手段を介してモータを駆動制御して下降方向へかごを第1の定格速度により走行する。第3の制御手段は、さらに、最高速度指令信号に基づいて、第3の可変電圧可変周波数手段の第4の最大出力電圧値等を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、かごの負荷に応じたエレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、上昇方向へかごを第2の定格速度以上の速度により走行する。
【0015】
かごを上昇方向へ走行する際に、かごが定格負荷になると、エレベータからの必要トルクも大きくなる。第3の可変電圧可変周波数手段は、この必要トルクに応じた出力電力値又は出力電流値を発生しなければならないが、かごが定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かごが無負荷で、上昇方向へ第2の定格速度を越えて、走行するための第4の最大出力電圧値等を発生するように形成されている。このため、第3の制御手段は、最高速度指令信号が発生していても、第4の最大出力電圧値等を限界として上記必要トルクよりも低いトルクしかモータから発生し得ない。したがって、第3の制御手段は、最高速度指令信号に基づいて可変電圧可変周波数手段の第4の最大出力電圧値等を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、かごの負荷に応じたエレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行する。
【0016】
このように、かごを上昇方向へ走行する際には、かごの負荷が定格負荷から無負荷に応じて、必要トルクが変動するが、第1の設定手段は、第3の可変電圧可変周波数手段の有する第3の最大出力電圧値等の発生を制限した適切な第4の最大出力電圧値等を設定できる。第1の制御手段は、第4の最大出力電圧値等を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクを得ることができると共に、この発生トルクと、必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行する。
これにより、かご内の負荷が定格負荷で第2の定格速度により走行し、定格負荷未満で第2の定格速度よりも速い最高速度によりかごを上昇方向へ走行できる。したがって、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、常にモータの駆動能力を過不足なく有効に利用してエレベータの上昇方向の輸送効率を上げることができる。よって、かご内の負荷を検出する荷重検出手段をなくしても、かごの負荷に応じて、上昇方向へ定格速度よりも速い最高速度を簡易な構成により実現できる。
【0017】
なお、定格速度とは、かご内が定格負荷の状態で、かごが一定速度により走行する速度をいう。最高速度は、かごの定格速度よりも速くかごを走行させれば良く、かごが最高速度に達する加速度は問わない。但し、加速度を一定にすれば、速度生成パターンが簡易に形成できる。殊に、ホームエレベータのように定格速度が低い用途では加速度を上げても輸送効率向上の寄与度が低いので、加速度を一定にする利点がある。
【0018】
第4の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、前記第3の可変電圧可変周波数手段に代えて、第4の可変電圧可変周波数手段を有しており、
前記第4の可変電圧可変周波数手段は、第3の最大出力値を発生するように形成されており、
前記第1の設定手段に代えて、第2の設定手段を有しており、
前記第2の設定手段は、前記第3の最大出力値を制限した第4の最大出力値を設定するように形成されており、
前記第3の制御手段に代えて、第4の制御手段を有しており、
前記第4の制御手段は、前記最高速度指令信号に基づいて前記第4の最大出力値を限界として得られる前記かごの速度に応じた前記モータの発生トルクと、前記かごの負荷に応じた前記エレベータの必要トルクとが一致した前記かごの速度値により、前記上昇方向へ前記かごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する、
ことを特徴とするものである。
これにより、第4の制御手段は、最高速度指令信号に基づいて第4の最大出力値を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、エレベータの必要トルクとが一致したかごの速度値により、上昇方向へかごを前記第2の定格速度以上の速度により走行する。このように、かごを上昇方向へ走行する際には、かごの負荷が定格負荷から無負荷に応じて、必要トルクが変動するが、第4の制御手段は、第4の可変電圧可変周波数手段の第4の最大出力値を限界として得られるかごの速度に応じたモータの発生トルクと、必要トルクとが一致したかごの速度値により、モータを制御して上昇方向へかごを走行することができる。
【0019】
第5の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置における前記可変電圧可変周波数手段は、前記モータをトルク指令電流と磁化指令電流に基づいて制御するように形成されており、
前記かごが上昇方向へ加速している時の前記モータに流れる三相電流を検出すると共に、三相から座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出手段と、
前記トルク電流検出信号に基づいて前記かご内の荷重値を推定して前記かご内の荷重値が前記かごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断すると共に、越えると定格負荷推定信号を発生する定格負荷判断手段を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記定格負荷推定信号に基づいて前記第2の定格速度により前記かごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とするものである。
【0020】
このような巻胴式エレベータの制御装置によれば、トルク電流検出手段は、かごが上昇方向へ加速している時の前記モータに流れる三相電流を計測すると共に、三相から二相に座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生する。定格負荷判断手段は、トルク電流検出信号に基づいてかご内の荷重値を推定してかご内の荷重値がかごの定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断すると共に、越えると定格負荷推定信号を発生する。速度パターン生成手段は、定格負荷推定信号に基づいて第2の速度によりかごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、第2の定格速度指令信号を発生する。これにより、上記荷重閾値を定格負荷よりも僅かに軽い値となる荷重値を設定することにより、かご内の定格負荷よりも僅かに軽い状態から定格負荷とみなして、確実にかごを上昇方向へ第2の定格速度により走行できる。なお、荷重閾値は、検出精度などから定格負荷の90%以下が好ましい。
なお、かご側の総荷重値は、かごの自重値とかご内の負荷に対応した荷重値との和により定まる荷重値であるから、かごの自重値を予め測定しておくと、トルク電流検出信号からかご内の荷重値を検知し得る。
【0021】
第6の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置における前記位置検出信号は、前記モータの回転位置を検出するように形成されており、
前記位置検出信号に基づいて前記かごが予め定められた減速開始となる減速開始位置に達した否かを判断して、達すると判断すると、減速開始指令信号を発生する減速開始判断手段と、
前記位置検出信号に基づいて、速度検出信号を発生する速度検出手段と、を備え、
前記速度パターン生成手段は、さらに、前記減速開始指令信号に基づいて、前記最高速度パターンから移行すると共に、前記速度検出信号に基づいてかごの減速開始点を定める減速パターンを生成して、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する、
ことを特徴とするものである。
これにより、速度パターン生成手段は、減速開始指令信号に基づいて最高速度パターンから移行すると共に、速度検出信号に基づいて減速パターンを生成して、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する。したがって、最高速度指令信号により、かごが走行しようとしてもトルク制限を受けて、かごが例えば第1の定格速度まで、走行できなくても、減速開始時点のかごの速度に応じて、かごの減速開始点を定める減速パターンを生成し、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する。したがって、かごの減速度を制御しながら減速できる。
【0022】
第7の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生する最高速度中断手段と、
前記速度パターン生成手段は、前記最高速度中断オン信号に基づいて前記かごを前記第2の定格速度により走行する第2の定格速度走行パターンを生成し、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する、
ことを特徴とするものである。
これにより、スイッチをオン(オフ)にしてオン信号(オフ信号)発生すると、最高速度中断手段は、最高速度中断オン信号を発生する。速度パターン生成手段は、最高速度中断オン信号に基づいてかごを第2の定格速度により走行する第2の定格速度走行パターンを生成し、この第2の定格速度走行パターンを成す第2の定格速度指令信号を発生する。このように、最高速度中断オン信号の発生により、かごを第2の定格速度により走行できる。したがって、深夜の時間帯の騒音減少、省エネルギーなどで、かごを定格速度以上で運転することを利用者が望まない場合にも簡易に対応できる。
【0023】
パルス時計装置により、設定された時間帯で、オン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生するものを例示できる。さらに、外部システムからオン信号又はオフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生しても良い。ここに、外部システムとは、巻胴式エレベータ以外の電気機器を含めて全体で省エネルギーを図るエネルギーマネジメントシステムを例示できる。
【0024】
第8の発明に係る巻胴式エレベータの制御装置は、前記かごが前記定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、前記かごが前記定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断手段と、
前記表示オン信号に基づいて定格速度を越えてかごが走行していることを文字、図形、音声のいずれか一つで表現すると共に、前記表示オフ信号に基づいて前記表現を消滅する表示手段を、備えることが好ましい。
これにより、かごが定格速度を越えて走行していることを表示手段に表現することにより、エレベータの利用者が視覚などで確認でき、利便性が向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、モータ、電力変換器などの駆動能力を上げることなく、エレベータの上昇方向の輸送効率を上げるために、かご内の荷重値を荷重検出手段により検出することなく、モータを駆動する電力変換器が有する最大出力電圧値、最大出力電流値、最大出力値のいずれか一つを限界として、かごの上昇側の速度を簡易に制御し得る巻胴式エレベータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施の形態による巻胴式エレベータの全体図である。
【
図2】
図1による巻胴式エレベータの制御装置により、かごを走行した際のかごの速度と時間との関係を示す走行曲線図である。
【
図3】
図1による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
【
図4】
図1及び
図3によるモータからの発生が可能な発生トルク、エレベータからの必要トルクと、かごの速度との関係を示す特性曲線図(a)、
図1及び
図3による制御装置によりかごを走行した際のかご負荷に応じた電力変換器の出力電圧値とかご速度とを示す特性曲線図(b)である。
【
図5】
図1による巻胴式エレベータの制御装置により、かごを異なる走行速度により走行する際におけるかごの減速開始点を走行速度に応じた減速パターンを生成し、この減速パターンによりかごを走行した際のかごの速度と時間との関係を示す曲線図である。
【
図6】
図2による巻胴式エレベータのかごが走行する際の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図6における結合子Aの続きとなる巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図7における結合子Bの続きとなる巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
【
図10】本発明の他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
【
図11】
図10に示す電力変換器のデューテイを説明する説明図(a)、
図10によるモータからの発生可能な発生トルク、エレベータからの必要トルクと、かごの速度との関係を示す特性曲線図(b)である。
【
図12】本発明の他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を
図1から
図3によって説明する。
図1は、本発明の一実施の形態による巻胴式エレベータである。
図1において、個人住宅などに施設される巻胴式エレベータ1は、3停止で、かご3の上端部にロープ5の一端部が連結固定され、昇降路の上部に設けられた吊り車7を介して、ロープ5の他端部が昇降路の下部に設けられた巻上機9の巻胴9dに連結固定されている。加えて、巻胴式エレベータ1は、巻胴9dの軸に回転軸が連結固定された三相交流誘導モータ11を有しており、巻上機9には、巻胴9dを拘束開放可能なブレーキ9bを設けている。
【0028】
かご3内には、行先階を指定すると共に、押されることによりかご呼び信号を発生するかご呼び釦23が設けられている。加えて、かご3内には、かご3が定格速度よりも速い最高速度で走行していることを表示したり、音声を発したりする音声発声機能付きの表示器400を有している。そして、乗り場の各階には、かご3を目的の乗場階に呼ぶ乗り場呼び釦31~33が設けられており、乗り場呼び釦31~33が押されると、乗り場呼び信号を発生するように形成されている。なお、乗り場呼び信号とかご呼び信号とを併せて呼び信号という。
【0029】
巻胴式エレベータ1は、モータ11を駆動制御するエレベータの制御装置100を有している。制御装置100は、モータ制御器300からの速度指令信号に基づいて電力変換器500から三相交流の可変電圧Eと可変周波数fとを発生してモータ11を駆動制御している。加えて、モータ11の回転位置を検出して位置検出信号を発生するエンコーダ13が設けられており、位置検出信号がモータ制御器300に入力されている。モータ制御器300は、電力変換器500を介してモータ11をベクトル制御により、トルク電流指令と磁束電流指令に基づいて制御すると共に、磁束電流指令が一定で、モータ11の磁気飽和を防止するために、E/fを一定として制御している。
【0030】
モータ制御器300には、かご3が上昇方向に走行する際に、定格速度を越えて走行することを中断させ得る最高速度中断信号が入力されており、かご3の行先階を定める行先指令信号が入力され、かご3の負荷が予め定められた荷重閾値を越えると、発生する定格負荷推定信号を入力され、エンコーダ13の位置検出信号により生成された速度検出信号も入力されている。
【0031】
図1及び
図2おいて、速度パターン生成部303は、下降方向への走行では、第1の定格速度パターンにより、かご3内の負荷に拘らず第1の定格速度Vn1により走行するように形成されており、上昇方向への走行では、かご3が定格負荷で速度パターン生成部303からの第2の定格速度パターンの発生により第1の定格速度Vn1よりも遅い第2の定格速度Vn2によりかご3を走行すると共に、かご3が定格負荷未満で、第2の定格速度Vn2以上の最高速度となる第1の定格速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生するように形成されている。ここで、上昇方向のかご3の最高速度は、第2の定格速度を越えて最も速い最高速度Vmの範囲となっており、最も速い最高速度Vmは、かご3が無負荷で、第1の定格速度Vn1と等しくなることが好ましい。エレベータの輸送効率と安全性とを確保するためである。
【0032】
第1の可変電圧可変周波数手段としての第1の電力変換器500は、かご3が定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かご3が定格負荷未満で、上昇方向へ第2の定格速度Vn2を越えて走行するための固有の第1の最大出力電流値又は第1の最大出力電流値を発生するように形成されている。さらに、電力変換器500は、かご3が無負荷で、上昇方向へ第2の定格速度Vn2を越えて第1の定格速度Vn1により走行するための固有の第1の最大出力電流値又は第1の最大出力電流値を発生することが好ましい。
【0033】
図3において、制御装置100には、モータ制御器300を有し、モータ制御器300の速度パターン生成部303には、最高速度中断部205から発生した最高速度中断信号、行先方向発生部210から発生した行先指令信号、定格負荷推定部200から発生した定格負荷推定信号が入力され、エンコーダ13の位置検出信号により生成された速度検出信号が入力され、この速度検出信号が表示器400にも入力されている。
【0034】
最高速度中断部205は、かご3が上昇方向に走行する際に、定格速度を越えて走行することを中断させ得る最高速度中断信号を発生するもので、中断スイッチ205sがオフからオンにしてオン信号により最高速度中断オン信号を発生して、モータ制御器300に入力すると、かご3を第2の定格速度により走行させる。加えて、最高速度中断信号部205は、暦により指定された日の時間帯を設定して、この時間帯にオン信号を発生するパルス時計205tを有し、この時間帯に限り最高速度中断オン信号を発生してモータ制御器300に入力すると、かご3を第2の定格速度により走行させる。設定された時間帯が深夜であれば、巻胴式エレベータ1の駆動源等から発生する騒音を減少でき、静粛性を得ることができる。なお、パルス時計205tは、設定された時間帯以外はオフ信号を発生している。
【0035】
さらに、中断スイッチ205s、パルス時計205tは、外部システムからのオン信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生できる。ここで、外部システムとは、巻胴式エレベータ1以外の電気機器を含めたホーム全体で、省エネルギーを図るエネルギーマネジメントシステムを例示でき、HEMSがある。最高速度中断オン信号は、中断スイッチ205s、パルス時計205tのいずれから発生しても、かご3が最高速度になることを中断して定格速度でかご3を走行できる。ここで、最高速度中断オン信号と、最高速度中断オフ信号とを併せて、最高速度中断信号という。
【0036】
行先指指令発生部210は、呼び信号とかご3の停止階と速度検出信号が入力されると、かご3の行先階と行先方向となる上昇方向行先指令信号又は下降方向行先指令信号を発生するもので、かご3が停止していて、かご3が上昇しようとすると、上昇方向行先信号を発生すると共に、かご3が停止していて、かご3が下降しようとすると、下降方向行先指令信号を発生するように形成されている。ここで、かご3が停止していることは、速度検出信号Vsから判断でき、かご3が上昇又は下降しようとすることは、呼び信号と、かご3の停止階とから判断できる。なお、上昇方向行先指令信号と下降方向行先指令信号を併せて行先指令信号という。
【0037】
定格負荷推定部220は、かご3が上昇方向へ加速している時のモータ11に流れる三相電流を検出すると共に、三相から磁束とトルクとの直交座標に座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生するトルク電流検出部222を有しており、トルク電流検出信号に基づいてかご3内の荷重値を推定してかご3内の荷重値がかご3の定格負荷に基づいて定められた荷重閾値を越えたか否かを判断すると共に、越えると定格負荷推定信号を発生する定格負荷判断部224を備えている。ここで、荷重閾値は、検出精度などからかご3の定格負荷の90%が好ましい。なお、かご3側の総荷重値は、かご3の自重値とかご3内の負荷に対応した荷重値との和により定まる荷重値であるから、かご3の自重値を予め測定しておくと、トルク検出電流検出信号からかご3内の荷重値を検知し得る。
【0038】
表示器400には、かご3が定格速度を越えて走行していることを判断して表示オン信号を発生すると共に、かご3が定格速度を越えて走行していないと判断すると、表示オフ信号を発生する表示判断部402を有しており、表示部404には、表示オン信号の発生に基づいて定格速度を越えてかご5が走行していることを文字、図形で表示したり、音声を発したりすると共に、表示オフ信号に基づいて文字などの表現を消滅するものである。
【0039】
制御装置100は、エンコーダ13の位置検出信号を微分器321により速度検出信号を得て、この速度検出信号と、速度パターン生成部303からの速度指令信号との差を求める速度減算器evにより速度偏差信号を得ている。速度制御部305は、速度偏差信号の入力を受けて、トルク指令信号(電流指令信号)を生成するように形成されている。トルク電流検出部222からのトルク電流検出信号をトルク制御部307に入力する。トルク制御部307は、トルク電流検出信号と、電流指令信号としてのトルク電流指令信号との差を求める電流減算器eiにより電流偏差信号を入力していて、出力から発生したトルク指令信号により電力変換器500を介してモータ11を駆動制御している。
【0040】
ここで、第1の制御部310は、最高速度指令信号に基づいて第1の最大出力電圧値又は第1の最大電流出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を上昇方向へ第2の定格速度以上の速度により走行するもので、速度制御部305及びトルク制御部307が該当する。
【0041】
<かご内の荷重値に応じてかごの走行速度が定まるメカニズム>
最高速度指令信号によりかご3が上昇方向へ走行する際に、かご3の走行速度がかご3側の荷重値の大きさに応じて、定まることを、
図4(a)を参照しつつ説明する。
図4(a)は
図1及び
図3によるモータ11からの発生可能な発生トルク、かご3側の荷重値の大きさに応じて定まるエレベータ1からの必要トルクと、かごの速度との関係を示す特性曲線図である。
いま、モータ11の出力Pm(W)、モータ11の発生トルクτa(N・m)、角速度ω(rad/sec)とすると次の式が成立する。
Pm=ω・τa 故に ω=Pm/τa
一方、モータ11の出力Pmは、電力変換器500から発生可能な第1の最大出力電圧値Emax又は第1の最大出力電流値Imaxにより制限を受ける。
したがって、Pm∝Ke・Emax 又は Pm∝Ki・Imaxとなる。
このため、上式 ω=Pm/τaは、次のようになる。
ω∝Ke・Emax/τa 又は ω∝Ki・Imax/τa
ここに、Ke:定数 Ki:定数
すなわち、かご3の走行速度は、角速度ωに比例するので、第1の最大出力電圧値Emax又は、第1の最大出力電流値Imaxを一定値とすると、
図4(a)に示すように、かご3の速度とモータ11の発生トルクτaとは反比例の関係となる。
【0042】
一方、エレベータ1の必要トルクτeは、かご3側の荷重値をモータ11の軸に換算した値となり、かご3が無負荷、定格負荷で、それぞれトルクτen、τefとなり、
図4(a)に示すようにかご3の速度に拘らず、一定のトルク値となる。ここで、かご3の走行速度は、モータ11の発生トルクτaとエレベータ1の必要トルクτeとが釣り合った交点となる。これにより、かご3が無負荷で走行する際には、かご3が定格負荷に比べて必要トルクが低くなる。このため、
図4(a)に示すように、制御部310は、最高速度指令信号により電力変換器500からの第1の最大出力電圧値又は第1の最大電流値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致した第1の定格速度により、かご3を上昇方向へ走行する。
【0043】
かご3内の荷重値が高くなると、エレベータ1の必要トルクも大きくなる。電力変換器500は、この必要トルクに応じた出力電圧値又は出力電流値を発生しなければならないが、かご3が定格負荷で上昇方向へ第2の定格速度により走行するための第1の最大出力電圧値しか発生できない。このため、
図4(a)に示すように、制御部310は、最高速度指令信号が発生していても、第1の最大出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値となる第2の定格速度により、上昇方向へ走行する。
このように、かご3を上昇方向へ走行する際には、かご3の負荷が無負荷から定格負荷に応じて、エレベータ1の必要トルクが変動するが、電力変換器500の第1の最大出力電圧値等を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致する交点によりかご3の走行速度が決まる。
【0044】
したがって、
図4(a)に示すように、かご3が無負荷では、第2の定格速度よりも速くかご3を最高速度Vmで走行すると共に、かご3が定格負荷では第2の定格速度によりかご3を走行する。このため、最高速度の範囲Vcは、第2の定格速度から無負荷時の最高速度Vmとなっている。これにより、速度パターン生成部303から最高速度指令信号を発生しながら、かご3内の荷重値に応じて、電力変換器500の第1の最大出力電圧値を限界として得られるモータ11の発生トルクが変化することにより、かご3の最高速度値の範囲Vcで多数の最高速度を得ることができる。したがって、かご3が定格負荷から無格負荷になるに従いかご3を上昇方向へ走行する速度を速くできるのである。
【0045】
上記メカニズムにより、かご3が加速する際のかご3の負荷に応じた出力電圧値と、かご3の速度との関係を、
図4(b)を参照しつつ説明する。
図4(b)は、
図1及び
図3による制御装置によりかごを加速した際のかご負荷に応じた電力変換器の出力電圧値と、かごの速度とを示す特性図である。
図4(b)において、電力変換器500は、磁束電流を一定に維持しながら、E/fを一定の制御をしている。したがって、周波数fに比例して、かご3の速度が上昇し、出力電圧Eも比例して上昇する右上がりの直線となる。ここで、かご3の負荷が無負荷、無負荷と定格負荷との中間となる中間負荷、定格負荷となるに従い同一速度でも、出力電圧値が高くなっている。このため、第1の最大出力電圧値において、かご3が無負荷、中間負荷で、それぞれ最高速度Vm、定格速度V2nを越えて最高速度Vmを下回る速度になるまで加速する。さらに、かご3が定格負荷では、第1の最大出力電圧値に達することなく、定格速度Vn2まで加速できることになる。
【0046】
<走行速度に応じたかごの減速開始点の生成する減速パターン>
上記のように走行速度に応じた減速開始点の減速パターンの生成について
図3及び
図5を参照しつつ説明する。
図5は、かごを異なる走行速度により上昇方向へ走行する際におけるかごの減速開始点を走行速度に応じて生成した減速パターンにより、かごを走行した際のかごの速度と時間との関係を示す曲線図である。
図3及び
図5において、減速開始判断部302は、位置検出信号に基づいてかご3が行先階の位置と、現在位置との残距離と、現在の走行速度からもとめられる減速開始位置に達した否かを判断して、達したと判断すると、減速開始指令信号を発生するように形成されている。減速開始時点のかご3の速度は、速度パターン生成部303からの最高速度パターンによる最高速度指令信号により、かご3が走行しても、かご3の減速開始時点でのかご3の速度は、かご3の負荷に応じて異なる。これは、上記のように、かご3の負荷に応じて、エレベータ1の必要トルクが変動するが、電力変換器500の第1の最大出力電圧値等を限界として得られるモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致する交点によりかご3の走行速度が決まるからである。
【0047】
このため、
図5に示すように、速度パターン生成部303は、減速開始指令信号に基づいて、最高速度パターンから移行すると共に、速度検出信号に基づいて減速パターンを生成して、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する。ここで、減速パターンは、速度検出信号が低くなるにつれて、
図5に示すように、減速開始点からのかご3の一定走行時間tm、tc、tnと順に長くすることにより、かご3の減速度を一定にしている。これにより、かご3内の負荷に拘らず、均一な減速度が得られる。
【0048】
上記のように構成された巻胴式エレベータの制御装置の動作を
図1から
図8によって説明する。
図6から
図8は
図3による巻胴式エレベータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
<かごが定格負荷の90%未満で、上昇方向へ走行する場合>
図1及び
図3において、行先指令発生部210は、乗り場呼び釦31~33又はかご呼び釦21が押されたか否かを呼び信号の発生により判断し(ステップS101)、呼び信号が発生すると、かご3が停止していることを速度検出信号により判断し、かご3が停止していると、行先指令信号を位置指令部301に入力する(ステップS103)。かご3の停止階と目的階とが異なると、位置指令部301は、かご3が停止階から走行して到着する目的階までの位置(距離)を設定する(ステップS105)。これにより、位置指令部301は、設定された位置に基づいて位置指令信号を生成して発生する。
【0049】
行先指令発生部210は、かご3の目的階と現在階から上昇方向にかご3が走行しようとしている判断すると、上昇方向行先指令信号を発生する(ステップS107)。速度パターン生成部303は、最高速度中断部205から最高速度中断オン信号が入力されていないと判断すると(ステップS109)、第1の定格速度による最高速度により走行する最高速度パターンを生成し、この最高速度パターンを成す最高速度指令信号を発生する(ステップS111)。制御装置100は、モータ11のブレーキ9bを開放する(ステップS113)。
【0050】
次に、
図3において、最高速度指令信号と速度検出信号との差を速度減算器evに求めた速度偏差信号を速度制御部305に入力すると、速度制御部305は電流指令信号を生成して、電流検出信号との差を電流減算器eiに求めた電流偏差信号をトルク制御部307に入力する。トルク制御部307は、電力変換器500を介してモータ11を駆動制御してかご3を加速する(ステップS201)。トルク電流検出部222は、上昇方向へ加速している時の三相電流を検出すると共に、三相から二相に座標変換してトルク電流値を推定してトルク電流検出信号を発生する。定格負荷判断部224は、トルク電流検出信号に基づいてかご3内の荷重値を推定して(ステップS203)、この荷重値がかご3の定格負荷の90%未満のため、荷重閾値を越えていなので、定格負荷推定信号が発生せず、定格負荷の90%以下と判断する(ステップS207)。
【0051】
速度パターン生成部303は、最高速度パターンの生成を継続して最高速度指令信号を発生し続ける。ここで、かご3の負荷が定格負荷から無負荷に応じて、エレベータ1の必要トルクが変動するが、制御部310は、最高速度指令信号に基づいて電力変換器500の第1の最大出力電圧値又は第1の最大電流値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を第2の定格速度よりも速い最高速度に向けて走行する(ステップS209)。
【0052】
表示器400の表示判断部402は、かご3が定格速度を越えたか否かを速度検出信号によって判断する(ステップS211)。定格速度を越えると、表示器400の表示部404に、かご3が「最高速度」になっていることを文字で表示する(ステップS213)。速度制御部205は、速度偏差信号がほぼ一定値に落ち着いたことにより、かご3が最高速度に達したものと判断する(ステップS215)。モータ制御器300は、上記最高速度により、かご3を走行し続ける(ステップS301)。やがて、減速開始判断部304は、かご3が減速位置に達したと判断すると、減速開始指令信号を発生すると(ステップS303)、速度パターン生成部303は、かご3が目的階までの距離に合わせると共に、速度検出信号に基づいて減速パターンを生成して、この減速パターンを成す速度指令信号を発生する(ステップS305)。
【0053】
表示器400の表示判断部402は、速度検出信号からかご3が定格速度よりも低下したか否かを判断し(ステップS307)、定格速度よりも低下すると、表示部404に表示されていた「最高速度」の表示を消滅する(ステップS309)。やがて、かご3が目的階に到着すると(ステップS311)、制御装置100は、ブレーキ9bを拘束して巻上機9を制動してかご3を制止する(ステップS313)。
【0054】
<かごが定格負荷の90%以上で、上昇方向へ走行する場合>
上記ステップS207において、定格負荷判断部224は、かご3の定格負荷が90%以上のため、荷重閾値を越えて定格負荷推定信号を発生して速度パターン生成部303に入力する。速度パターン生成部303は、定格負荷推定信号に基づいて第2の定格速度によりかごを上昇方向へ走行する第2の定格速度走行パターンを生成して、第2の定格速度指令信号を発生する(ステップS221)。第2の定格速度指令信号により、かご3を第2の定格速度で走行する(ステップS223)。これにより、定格負荷相当で、かご3を第2の走行速度で走行することを担保できる。
【0055】
<かごが定格速度により走行する場合>
上記ステップS107において、速度パターン生成部303は、行先指令発生部210から下降方向行先指令信号が発生すると、かご3を第1の定格速度により走行する第1の定格速度走行パターンを生成し、第1の定格速度指令信号を発生する(ステップS115)。かご3の下降方向は、上昇方向の第2の定格速度よりも速い第1の定格速度により走行させるからである。
【0056】
上記ステップS109において、速度パターン生成部303は、最高速度中断オン信号が入力されると、かご3を第2の定格速度により走行する第2の定格速度走行パターンを生成し、第2の定格速度指令信号を発生する(ステップS115)。最高速度中断オン信号を優先してかご3を走行させるからである。
【0057】
本実施の形態によれば、荷重検出装置によりかご内の荷重値を検出することなく、かご3内の荷重値が低ければ低いほど、かご3が上昇方向へ走行する最高速度値を連続的に速くすることができる。これにより、モータ11、電力変換器500などの定格容量の範囲で、電力変換器500の第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値の制限下、エレベータ1の必要トルクに応じて、かご3の最高速度値を制御できるので、簡易で効率的であると共に、かご3の上昇方向の輸送効率を改善できる。
【0058】
実施の形態2.
本発明の他の実施の形態を
図4及び
図9によって説明する。
図9は、本発明の他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
図9中、
図3と同一符号は同一部分を示し、説明を省略する。
上記実施の形態1は、第1の電力変換器500が有する固有の第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値を限界として、かご3の負荷に応じて上昇方向へのかご3の速度を第1の定格速度以上にしたものであるが、本実施の形態では、第2の電力変換器2500が有する固有の第1の最大出力値を限界として、かご3の負荷に応じて上昇方向へのかご3の速度を第1の定格速度以上にするものである。
【0059】
第2の電力変換器2500の第1の最大出力値を限界として、かご3の負荷に応じて、かごの走行速度が定まることを以下に説明する。
いま、モータ11の出力Pm(W)、モータ11の発生トルクτa(N・m)、角速度ω(rad/sec)とすると次の式が成立する。
Pm=ω・τa 故に ω=Pm/τa
モータ11の出力Pmは、第2の電力変換器2500から発生可能な第1の最大出力値Pmaxによって制限を受ける。
Pm∝Kp・Pmax となる。 ここに、Kp:定数
Pmax=Kn・Eo・Io となる。
ここに、Kn:定数 Eo:出力電流値、Io:出力電流値
したがって、上式 ω=Pm/τaは、次のようになる。
ω∝Kp・Pmax/τa
ここに、Kp:定数
すなわち、かご3の走行速度は角速度ωに比例するので、第1の最大出力値Pmaxを一定値とすると、
図4(a)に示すように、かご3の速度とモータ11の発生トルクτaとは反比例の関係となる。
なお、上式から明らかなように、第1の最大出力値Pmは、第2の電力変換器2500から第1の最大出力値Pmaxを発生している際の出力電圧値と出力電流値との積に基づいて定められる。
【0060】
一方、エレベータ1の必要トルクτeは、かご3側の荷重値をモータ11の軸に換算した値となり、かご3が無負荷、定格負荷で、それぞれトルクτen、τefとなっている。
図4(a)に示すように、かご3の走行速度は、モータ11の発生トルクτaとエレベータ1の必要トルクτeとが釣り合った交点となる。このため、
図4(a)に示すように、第2の制御部2310は、最高速度指令信号により電力変換器2500からの第1の最大出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の第2の定格速度以上により、かご3を上昇方向へ走行する。
【0061】
図9において、第2の制御装置2100が有する第2の電力変換器2500は、かご3が定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かご3が定格負荷未満で、上昇方向へ第2の定格速度Vn2を越えて走行するための固有の第1の最大出力値を発生するように形成されている。さらに、電力変換器2500は、かご3が無負荷で、上昇方向にかご3の最高速度が第2の定格速度を越えて最も速い第1の定格速度Vn1と等しくなることが好ましい。エレベータの輸送効率と安全性とを確保するためである。
【0062】
上記のように構成された制御装置2100によれば、第2の制御部2310は、第1の定格速度に対応する最高速度指令信号に基づいて第1の最大出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、かご3の負荷に応じたエレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を上昇方向へ第2の定格速度以上の速度により走行する。ここで、第2の制御手段としての制御部2310は、速度制御部305及びトルク制御部307が該当する。
【0063】
このように、速度パターン生成部303から最高速度指令信号を発生しながら、かご3内の荷重値に応じて、第2の電力変換器2500の第1の最大出力値を限界として得られるモータ11の発生トルクが変化することにより、かご3の最高速度値の範囲Vcで多数の最高速度を得ることができる。したがって、かご3が定格負荷から無格負荷になるに従いかご3を上昇方向へ走行する速度を速くできるのである。これにより、本実施の形態は、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0064】
実施の形態3.
本件発明の他の実施の形態を
図10及び
図11により説明する。
図10は、他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
図10中、
図3と同一符号は同一部分を示し、説明を省略する。
上記実施の形態1及び2は、電力変換器500、2500が有する固有の第1の最大出力電圧値又は第1の最大出力電流値、第1の最大出力値を限界として、かご3の負荷に応じて上昇方向へのかご3の速度を第1の定格速度以上にしたものである。
本実施の形態では、第3の電力変換器3500が有する固有の第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値を第1の設定部1501により、制限された新たな第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値を設定するものである。このように設定された新たな第4の最大出力電圧値等により、かご3の負荷に応じて上昇方向へのかご3の速度を第1の定格速度以上にするものである。
【0065】
<第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値の設定>
図10において、エレベータの制御装置2100における第3の電力変換器3500は、固有の第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値を発生するように形成されている。ここで、第3の最大出力電圧値、第3の最大出力電流値は、上記実施の形態1の第1の最大出力電圧値、第1の最大出力電流値よりも高いことが好ましい。設定された第4の最大出力電圧値、第4の最大出力電流は、それぞれ第3の最大出力電圧値、第3の最大出力電流値よりも低くなるからである。
【0066】
第1の設定部1501は、第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値の発生を制限すると共に、かご3が定格負荷で、上昇方向へ第2の定格速度により走行すると共に、かご3が定格負荷未満で、上昇方向へ第2の定格速度を越えて走行するための第4の最大出力電圧値又は第4の最大電流値に設定している。さらに、設定部1501は、かご3が無負荷で、上昇方向へ第2の定格速度Vn2を越えて第1の定格速度Vn1により走行するための第4の最大出力電圧値又は第4の最大電流値を発生するように設定することが好ましい。さらに、上昇方向のかご3の最高速度は、第2の定格速度を越えて最も速い最高速度Vmの範囲となっており、最も速い最高速度Vmは、かご3が無負荷で、第1の定格速度Vn1と等しくなることが好ましい。エレベータの輸送効率と安全性とを確保するためである。
【0067】
第1の設定部1501は、
図11(a)に示すように、サンプリング周期Tにおいて、電力変換器3500のインバータを成すパワー半導体素子のオン状態の時間割合を設定することにより、第2の最大出力電圧値が設定されるように成っている。第4の最大出力電圧値は、オン状態の時間割合を上げると、高くなり、逆に、オン状態の時間割合を下げると、低くなる。これにより、設定部1501によって、電力変換器3500のオン状態の時間割合を設定することで、第3の最大出力電圧値又は第3の最大電流値の発生を制限した第4の最大出力電圧値等に設定されるように形成されている。
【0068】
さらに、第3のモータ制御器3300において、トルク制御部307が発生する電流指令信号が第3の電力変換器3500に入力される。このため、第1の設定部1501は、トルク制御部307において、第3の最大出力電流値を制限し得るので、この電流指令信号に制限することにより第4の最大出力電流値を設定することになる。
【0069】
このように構成された巻胴式エレベータの制御装置3100は、かご3を上昇方向へ走行する際には、かご3の負荷が無負荷から定格負荷に応じて、必要トルクが変動する。一方、
図11(b)に示すように、電力変換器3500から発生する第3の最大出力電圧値又は第3の最大出力電流値では、モータ11の第1の発生トルクτa1(点線)となり、第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値では、モータ11の第2の発生トルクτa2(実線)となり、この第2の発生トルクτa2と、かご3の負荷に応じたエレベータ1の必要トルクとが一致する交点によりかご3の走行速度が決まる。
【0070】
上記のように巻胴式エレベータの制御装置3100によれば、第3のモータ制御器3300の第3の制御部3310は、最高速度指令信号に基づいて第4の最大出力電圧値等を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を第2の定格速度以上の速度により上昇方向へ走行する。これにより、本実施の形態では、設定部1501は、電力変換器3500が発生する第4の最大出力電圧値又は第4の最大出力電流値を設定できる。したがって、適切に設定された第4の最大出力電圧値等に応じてモータ11の第2の発生トルクを変更することにより、かご3の負荷に応じたエレベータ1の必要トルクとモータ11の第2の発生トルクτa2とが一致する交点を変更し得る。したがって、
図11(b)に示すように、上昇側のかご3の最高速度を変更し易くなる。
ここで、第3の制御手段としての制御部3310は、速度制御部305及びトルク制御部307が該当する。
【0071】
実施の形態4.
本件発明の他の実施の形態を
図11及び
図12により説明する。
図12は、他の実施形態による巻胴式エレベータの制御装置を示すブロック図である。
図12中、
図3と同一符号は同一部分を示し、説明を省略する。
上記実施の形態3では、第3の電力変換器3500から発生する第4の最大出力電圧値等を設定したが、本実施の形態では、第4の電力変換器4500の第3の最大出力値を発生するように形成されており、第4の巻胴式エレベータの制御装置4100における第2の設定部1502は、第4の電力変換器4500の第3の最大出力値の発生を制限した第4の最大出力値に設定するものである。さらに、上昇方向のかご3の最高速度は、第2の定格速度を越えて最も速い最高速度Vmの範囲となっており、最も速い最高速度Vmは、かご3が無負荷で、第1の定格速度Vn1と等しくなることが好ましい。エレベータの輸送効率と安全性とを確保するためである。
ここに、第4の最大出力値に対応する電圧値、電流値の設定の仕方は、実施の形態3に示した第1の設定部1501と同様で足りる。
【0072】
上記のように電力変換器4500の設定によれば、第4のモータ制御器4300の第4の制御部4310は、最高速度指令信号に基づいて第4の最大出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、エレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を第2の定格速度以上の速度により上昇方向へ走行する。したがって、適切に設定された第4の最大出力値に応じてモータ11の第2の発生トルクを変更することにより、かご3の負荷に応じたエレベータ1の必要トルクとモータ11の第2の発生トルクτa2とが一致する交点を変更し得る。したがって、
図11(b)に示すように、上昇側のかご3の最高速度を変更し易くなる。
ここで、第4の制御手段としての制御部4310は、速度制御部305及びトルク制御部307が該当する。
【0073】
本発明は、上記発明の実施の形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。例えば、モータ11は三相誘導モータとして説明したが、永久磁石型の三相同期モータでも良い。
【0074】
さらに、実施形態1から4における第1から第4の制御部310、2310、3310、4310は、最高速度指令信号に基づいて第1の最大出力電圧値等、第1の最大出力値、第4の出力電圧値等、第4の最大出力値を限界として得られるかご3の速度に応じたモータ11の発生トルクと、かご3の負荷に応じたエレベータ1の必要トルクとが一致したかご3の速度値により、かご3を第2の定格速度以上により上昇方向へ走行するものであり、この際の最高速度指令信号は、第1の定格速度に対応する速度指令信号であったが、第2の定格速度以上に対応する速度指令信号でも良い。
【0075】
最高速度中断部205におけるオン信号とオフ信号との論理は逆でも良く、逆にした場合は、オフ信号に基づいて最高速度中断オン信号を発生することとなる。最高速度中断部205は、中断スイッチ205s、時計205tからすべてオフ信号が発生していると、最高速度中断オフ信号を発生する。この最高速度中断オフ信号がモータ制御器300に入力すると、かご3が最高速度により走行可能なように形成しても良い。
【符号の説明】
【0076】
1 巻胴式エレベータ、3 かご、5 ロープ、9 巻上機、9d 巻胴、11 モータ、13 エンコーダ、100,2100,3100,4100 エレベータの制御装置、205 最高速度中断部(最高速度中断手段)、210 行先指令発生部(行先指令信号発生手段)、220 定格負荷推定部、222 トルク電流検出部(トルク電流検出手段)、224 定格負荷判断部(定格負荷判断手段)、300,2300,3300,4300 モータ制御器、302 減速開始判断部(減速開始判断手段)、303 速度パターン生成部(速度パターン生成手段)、305 速度制御部、307 トルク制御部、310 第1の制御部(第1の制御手段)、2310 第2の制御部(第2の制御手段)、3310 第3の制御部(第3の制御手段)、4310 第4の制御部(第4の制御手段)、400 表示器、402 表示判断部(表示判断手段)、404 表示部(表示手段)、500 第1の電力変換器(第1の可変電圧可変周波数手段)、2500 第2の電力変換器(第2の可変電圧可変周波数手段)、3500 第3の電力変換器(第3の可変電圧可変周波数手段)、4500 第4の電力変換器(第4の可変電圧可変周波数手段)、1501 第1の設定部(第2の設定手段)、1502 第2の設定部(第2の設定手段)。