(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128160
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220825BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220825BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026533
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050FA15
5H050GA22
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】高アスペクト比の凹部を有する電極活物質層を備える二次電池用電極を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される二次電池用電極の製造方法は、複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;湿潤粉体を用いて、電極集電体上に湿潤粉体からなる塗膜を、気相を残しつつ成膜する工程;成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸転写することにより、塗膜に凹部を形成する工程;所定の高さの凸部よりもさらに高い凸部を有する型によって、形成された凹部にさらに高い凸部を押し当てて、凹凸転写する工程;および溶媒を除去して電極活物質層を形成する工程、を包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、前記気相を残しつつ成膜する工程;
前記成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸転写することにより、前記塗膜に凹部を形成する工程;
前記所定の高さの凸部よりもさらに高い凸部を有する型によって、前記形成された凹部に前記さらに高い凸部を押し当てて、凹凸転写する工程;および
前記溶媒を除去して電極活物質層を形成する工程;
を包含する、二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である、
請求項1に記載に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸転写する工程は、前記凹部を形成する工程によって形成された凹部のアスペクト比が、1倍を超え2倍以下に増大するように行う、請求項1または2に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜に凹部を形成する工程および前記凹凸転写する工程に用いられる型がそれぞれ、ロール型である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、一般的に、電極活物質、バインダ樹脂等の固形分、および溶媒を含む電極材料(いわゆる、電極合材)を電極集電体の表面に塗工し、乾燥した後、必要によりプレスすることにより形成される。
【0004】
二次電池は、その普及に伴い、さらなる高性能化が求められている。高性能化の一つの方法として、電極活物質の膨張による応力の緩和等を目的として電極の電極活物質層に、凹凸を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この電極活物質層の凹凸の形成方法として、特許文献1には、負極活物質粒子を含む負極活物質合材ペーストを負極集電体上に塗布し、乾燥して負極活物質層を形成した後、溶媒をこの形成された負極活物質層に供給し、そこへ凹凸パターンを有する型を押し当てて、凹凸パターンを転写する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、電極の電極活物質層に高アスペクト比の凹部(すなわち、開口径に対する深さの大きい穴、幅に対する深さの大きい溝など)を設けることによって、二次電池の高性能化が可能であると考えられる。具体的には、電極活物質層の電極集電体近傍の部位には、電極活物質層内を拡散する電荷担体(例、Liイオン等)が到達し難い。そこで、電極活物質層に凹部を設けることにより、電荷担体を電極集電体近傍に拡散し易くすることができる。しかしながら、電極活物質層に凹部を設けると、その部分には電極活物質が存在しないため、容量が低下する。したがって、電極の電極活物質層に高アスペクト比の凹部を設けることによれば、容量低下を抑えつつ、電荷担体を集電体近傍に拡散し易くすることができると考えられる。
【0008】
しかしながら、従来の特許文献1に記載の技術おいては、凹凸パターンを転写する際に、電極活物質層が圧縮されて高密度化(緻密化)するため、電極活物質層に高アスペクト比の凹部を形成することが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高アスペクト比の凹部を有する電極活物質層を備える二次電池用電極を製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、二次電池用電極の製造方法が提供される。ここに開示される二次電池用電極の製造方法は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、前記気相を残しつつ成膜する工程;
前記成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸転写することにより、前記塗膜に凹部を形成する工程;
前記所定の高さの凸部よりもさらに高い凸部を有する型によって、前記形成された凹部に前記さらに高い凸部を押し当てて、凹凸転写する工程;および
前記溶媒を除去して電極活物質層を形成する工程;
を包含する。
このような構成によれば、高アスペクト比の凹部を有する電極活物質層を備える二次電池用電極を製造することができる。
【0011】
このとき、記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上であることが好ましい。
【0012】
ここに開示される二次電池用電極の製造方法の好ましい一態様では、前記凹凸転写する工程は、前記凹部を形成する工程によって形成された凹部のアスペクト比が、1倍を超え2倍以下に増大するように行う。
このような構成によれば、塗膜が型に付着する不良の発生が特に起こり難くなる。
【0013】
ここに開示される二次電池用電極の製造方法の好ましい一態様では、前記塗膜に凹部を形成する工程および前記凹凸転写する工程に用いられる型がそれぞれ、ロール型である。
このような構成によれば、二次電池用電極を連続して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る電極製造方法の主な工程を示すフローチャートである。
【
図2】湿潤粉体を形成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
【
図3】湿潤粉体用意工程に使用される撹拌造粒機の一例を模式的に示す説明図である。
【
図4】成膜工程に使用されるロール成膜装置の構成の一例を模式的に示す説明図である。
【
図5】一実施形態に係る電極製造方法の実施に好適な電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図6】一実施形態に係る電極製造方法で製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される二次電池用電極の製造方法に係る実施形態の例について詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0016】
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池をいう。また、「電極体」とは、正極および負極で構成される電池の主体を成す構造体をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。電極活物質(即ち正極活物質または負極活物質)は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。なお、電極活物質は、単に「活物質」と記すことがある。
【0017】
図1に、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の各工程を示す。本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程(湿潤粉体用意工程)S101、ここで、当該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;当該湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、当該気相を残しつつ成膜する工程(成膜工程)S102;当該成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸転写することにより、当該塗膜に凹部を形成する工程(第1凹凸転写工程)S103;当該所定の高さの凸部よりもさらに高い凸部を有する型によって、当該形成された凹部に当該さらに高い凸部を押し当てて、凹凸転写する工程(第2凹凸転写工程)S104;および当該溶媒を除去して電極活物質層を形成する工程(溶媒除去工程)S105を包含する。
【0018】
上記工程S101および工程S102の内容が示すように、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法においては、湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)が採用されている。
【0019】
まず、湿潤粉体用意工程S101について説明する。当該工程S101では、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する。この湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0020】
まず、湿潤粉体を形成する凝集粒子の各成分について説明する。当該凝集粒子に含まれる、電極活物質粒子およびバインダ樹脂は、固形分である。
使用される粒子状の電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO4等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。凝集粒子に含まれる電極活物質の粒子の数は、複数である。
【0021】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0022】
湿潤粉体を形成する凝集粒子は、固形分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質を含有していてもよい。その例としては、導電材や増粘剤等が挙げられる。
導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。
また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。
【0023】
このほか、電極が全固体電池の電極である場合は、固体電解質が固形分として用いられる。固体電解質としては、特に限定されるものではないが、Li2S、P2S5、LiI、LiCl、LiBr、Li2O、SiS2、B2S3、ZmSn(ここでmおよびnは正の数であり、ZはGe、ZnまたはGa)、Li10GeP2S12等を構成要素とする硫化物固体電解質が好適例として挙げられる。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0024】
溶媒は、湿潤粉体を形成する凝集粒子において液相を構成する成分である。溶媒としては、バインダ樹脂を好適に分散または溶解し得るものであれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、溶媒として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0025】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、湿潤粉体を形成する凝集粒子は、上記以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0026】
次に、湿潤粒子の状態について説明する。当該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0027】
ここで、湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
この分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている。この4つの分類を、本明細書においても採用しており、よって、ここで開示される湿潤粉体は、当業者にとって、明瞭に規定されている。以下、この4つの分類について具体的に説明する。
【0028】
「ペンジュラー状態」は、
図2の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0029】
また、「ファニキュラー状態」は、
図2の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
【0030】
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0031】
「キャピラリー状態」は、
図2の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
【0032】
「スラリー状態」は、
図2の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0033】
従来より、湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば
図2の(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0034】
これに対し、本実施形態において用意される湿潤粉体は、気相を制御することによって、従来の湿潤粉体とは異なる状態としたものであり、上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)が形成されている湿潤粉体である。この2つの状態においては、活物質粒子(固相)2が溶媒(液相)3によって液架橋されており、かつ空隙(気相)4の少なくとも一部が、外部に通じる連通孔を形成しているという共通点を有する。本実施形態において用意される湿潤粉体を、便宜上「気相制御湿潤粉体」とも称する。
【0035】
上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態にある凝集粒子を電子顕微鏡像観察(例、走査型電子顕微鏡(SEM)観察)した際には、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないが、このとき、少なくとも50個数%以上の凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないことが好ましい。
【0036】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスを応用して製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態またはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される、電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を作製することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
湿潤粉体用意工程で用意される好適な気相制御湿潤粉体としては、湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0037】
気相制御湿潤粉体は、公知の撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)を用いて各成分を混合することによって、作製することができる。
具体的には例えば、先ず、溶媒を除く材料(固形成分)を予め混合して溶媒レスの乾式分散処理を行う。これにより、各固形成分が高度に分散した状態を形成する。その後、当該分散状態の混合物に、溶媒その他の液状成分(例えば液状のバインダ)を添加してさらに混合する。これによって、各固形成分が好適に混合された湿潤粉体を作製することができる。
【0038】
より具体的には、
図3に示すような撹拌造粒機10を用意する。撹拌造粒機10は、典型的には円筒形である混合容器12と、当該混合容器12の内部に収容された回転羽根14と、回転軸16を介して回転羽根(ブレードともいう)14に接続されたモータ18とを備える。
撹拌造粒機10の混合容器12内に固形分である電極活物質と、バインダ樹脂と、種々の添加物(例、増粘材、導電材等)を投入し、モータ18を駆動させて回転羽根14を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度、回転させることによって各固形分の混合体を製造する。そして、固形分が70%以上、より好ましくは80%以上(例えば85~98%)になるように計量された適量の溶媒を混合容器12内に添加し、撹拌造粒処理を行う。特に限定するものではないが、回転羽根14を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度さらに回転させる。これによって、混合容器12内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。
【0039】
得られる造粒体の粒径は、後述するロール成膜装置の一対のロール間ギャップの幅よりも大きな粒径をとり得る。ギャップの幅が10μm~100μm程度(例えば20μm~50μm)の場合、造粒体の粒径は50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0040】
ここで、用意すべき気相制御湿潤粉体は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)を形成している。そのため、電子顕微鏡観察において凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15質量%程度、または3~8質量%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。
このような固相と液相と気相との状態を得るため、上述の造粒体製造操作において、気相を増大させ得る種々の処理や操作を取り入れることができる。例えば、撹拌造粒中若しくは造粒後、乾燥した室温よりも10~50℃程度加温されたガス(空気または不活性ガス)雰囲気中に造粒体を晒すことにより余剰な溶媒を蒸発させてもよい。また、溶媒量が少ない状態でペンジュラー状態またはファニキュラーI状態である凝集粒子の形成を促すため、活物質粒子その他の固形成分同士を付着させるために圧縮作用が比較的強い圧縮造粒を採用してもよい。例えば、粉末原料を鉛直方向から一対のロール間に供給しつつロール間で圧縮力が加えられた状態で造粒する圧縮造粒機を採用してもよい。
【0041】
次に、成膜工程S102について説明する。成膜工程S102においては、上記で用意した湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、湿潤粉体が有する気相を残しつつ成膜する。
【0042】
成膜工程S102において用いられる電極集電体としては、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体が正極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。正極集電体は、アルミニウム製であることが好ましく、特に好ましくはアルミニウム箔である。電極集電体が負極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。負極集電体は、銅製であることが好ましく、特に好ましくは銅箔である。電極集電体の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0043】
湿潤粉体を用いた成膜について説明する。湿潤粉体を用いた成膜は、公知のロール成膜装置を用いて行うことができる。成膜装置の好適な例としては、
図4に模式的に示すようなロール成膜装置20が挙げられる。かかるロール成膜装置20は、第1の回転ロール21(以下「供給ロール21」という。)と第2の回転ロール22(以下「転写ロール22」という。)とからなる一対の回転ロール21,22を備えている。供給ロール21の外周面と転写ロール22の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール21,22は、
図4の矢印に示すように逆方向に回転することができる。
かかる供給ロール21と転写ロール22は、長尺なシート状の電極集電体31上に成膜する電極活物質層(塗膜)33の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、供給ロール21と転写ロール22の間には、所定の幅のギャップがあり、かかるギャップのサイズにより、転写ロール22の表面に付着させる湿潤粉体(電極合材)32から成る塗膜33の厚さを制御することができる。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール21と転写ロール22の間を通過する湿潤粉体32を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態に製造された湿潤粉体32(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持することができる。
【0044】
供給ロール21および転写ロール22の幅方向の両端部には、隔壁25が設けられている。隔壁25は、湿潤粉体32を供給ロール21および転写ロール22上に保持すると共に、2つの隔壁25の間の距離によって、電極集電体31上に成膜される塗膜(電極活物質層)33の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁25の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料(湿潤粉体)32が供給される。
成膜装置20では、転写ロール22の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール23が配置されている。バックアップロール23は、電極集電体31を転写ロール22まで搬送する役割を果たす。転写ロール22とバックアップロール23は、
図4の矢印に示すように、逆方向に回転する。
供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、湿潤粉体32を転写ロール22に沿って搬送し、転写ロール22の円周面からバックアップロール23により搬送されてきた電極集電体31の表面上に当該湿潤粉体を塗膜33として転写することができる。
なお、
図4では、供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、これに限られず、例えば後述する
図5に示すような位置にバックアップロール(
図5参照)が配置されてもよい。
【0045】
また、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種の回転ロール21,22,23の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、塗膜を形成する対象の電極集電体の幅によって適宜決定することができる。また、これら回転ロール21,22,23の円周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。
【0046】
このように、公知のロール成膜装置によって、装置の湿潤粉体32およびそれからなる塗膜を圧縮する力を調整しつつ、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を転写することによって、湿潤粉体が有する気相を残した状態で成膜することができる。
【0047】
次に、第1凹凸転写工程S103について説明する。当該第1凹凸転写工程S103においては、当該成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部(A)を有する型(凹凸転写型)を用いて凹凸転写することにより、塗膜に凹部を形成する。
なお、凸部の高さとは、凸部の頂点から凸部の底面に下した垂線の長さのことをいう。
【0048】
凹凸の転写は、公知方法により行うことができる。例えば、所定の高さの凸部(A)を有する凹凸パターンを備える転写型を用意し、プレス装置に装着し、当該塗膜の表面部に転写型を押し当てる方法、所定の高さの凸部(A)を有する凹凸パターンを備えるロール型を転写型として用意し、成膜された塗膜を備える電極集電体を搬送すると共に、ロール型を回転させて、当該塗膜の表面部に型を押し当てる方法等が挙げられる。
連続的に凹凸転写を行うことができるため、ロール型を用いる方法が好ましい。
【0049】
この凹凸転写によって、塗膜に凹部が形成される。
ここで塗膜は、上述のようにペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)にある湿潤粉体(気相制御湿潤粉体)からなる塗膜である。この塗膜においては、
図2の(A)および(B)に示すように、気相4が多く存在し、この気相4は塗膜内で連通孔を形成している。また、活物質粒子2同士が溶媒3によって架橋されている状態であり、キャピラリー状態の
図2の(C)とは異なり、活物質粒子2の全体が溶媒3に覆われていない。よって、凹凸転写の際に塗膜が圧力を受けた際に、気相4が孤立した気泡として留まりにくく、圧縮できる余地が大きい。さらに、活物質粒子2と溶媒3との間の抵抗が小さいため、活物質粒子2が移動しやすい。したがって、気相制御湿潤粉体からなる塗膜は、展延性に優れる。
よって、第1凹凸転写工程S103において塗膜に形成された凹部では、高密度化(緻密化)の程度が非常に小さい。このため、第1凹凸転写工程S103において形成された凹部の底面は、さらに圧縮することが可能であり、よってこの底面に対して、さらに凹凸転写型を押し当てることにより凹部を深くすることが可能である。
【0050】
一方で、一度の凹凸転写によって、高アスペクト比の凹部を形成する場合には、凹凸パターンを備える型に塗膜が付着しやすくなって、不良発生率が高くなる。
そこで、第1凹凸転写工程S103においては、アスペクト比が好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下の凹部を形成する。
第1凹凸転写工程S103で形成する凹部に関し、その深さは、特に限定されないが、塗膜の厚みの20%以上80%以下が好ましい。
【0051】
そこで、本実施形態においては、高アスペクト比の凹部を得るために、さらなる凹凸転写を行う。すなわち、第2凹凸転写工程S104を実施する。当該第2凹凸転写工程S104においては、第1凹凸転写工程S103で用いた型の所定の高さの凸部(A)よりも、さらに高い凸部(B)を有する型によって、第1凹凸転写工程S103で形成された凹部(特に凹部の底面)に、このさらに高い凸部(B)(特に凸部(B)の頂部)を押し当てて、凹凸転写する。
【0052】
なお、本明細書において「凹部のアスペクト比」とは、凹部の深さの指標であって、凹部の開口部の短辺または短径に対する深さの比を指す。例えば、凹部が、円形凹部であった場合には、その開口径に対する深さの比(深さ/開口径)を指し、凹部が、溝状凹部であった場合には、その幅に対する深さの比(深さ/溝)を指す。
【0053】
第2凹凸転写工程S104で用いられる凹凸転写型において、凸部(B)の凸部高さ以外の寸法は、第1凹凸転写工程S10Sで用いられる凹凸転写型の凸部(A)の凸部高さ以外の寸法と、同じであってもよいし、異なっていてもよく、好ましくは同じかそれより小さい。
第2凹凸転写工程S104で用いられる凹凸転写型は、第1凹凸転写工程S103で用いられる凹凸転写型と、凸部高さが異なる以外は、同じピッチとパターンであってよい。また、一部の凹部だけを深く形成したい場合には、第2凹凸転写工程S104で用いられる凹凸転写型は、その凹部の部分に対する凸部のみ、第1凹凸転写工程S103で用いられる凹凸転写型の凸部よりも高くなっていればよい。
【0054】
第2凹凸転写工程S104における凹凸の転写は、公知方法に従って行うことができる。連続的に凹凸転写を行うことができるため、第2凹凸転写工程S104に用いられる転写型として、ロール型を用いる方法が好ましい。
【0055】
上述のように、第1凹凸転写工程S103において形成された凹部は、高密度化(緻密化)の程度が小さくなっている。このため、第1凹凸転写工程S103において形成された凹部に、より高い凸部(B)を有する転写型を押し当てることにより、凹部を深くすることができる。
また、第2凹凸転写工程S104において深さが増大した凹部においても、高密度化(緻密化)の程度がまだ十分に小さい。
よって、当該凹部に対して、第2凹凸転写工程S104で用いた型の凸部(B)よりも、さらに高い凸部(C)を有する型によって、繰り返し凹凸転写することにより、凹部の深さをさらに増大させることも可能である。すなわち、凹部のアスペクト比をより大きくすることも可能である。
【0056】
また、上述のように、一度の凹凸転写によって、高アスペクト比の凹部を形成する場合には、凹凸パターンを備える型に塗膜が付着しやすくなって、不良発生率が高くなる。
そこで、第2凹凸転写工程S104においては、凹部のアスペクト比が第1凹凸転写工程の1倍を超え2倍以下の範囲(特に、1.5倍以上2倍以下)に増大するように凹凸転写を行うことが好ましい。
その後、さらに凹凸転写を行って凹部の深さを増大させる場合には、同様に、凹部のアスペクト比が1倍を超え2倍以下の範囲(特に、1.5倍以上2倍以下)の範囲に増大するように凹凸転写を行うことが好ましい。
【0057】
第1凹凸転写工程S103および第2凹凸転写工程S104においてロール型を用いる場合、凹部は、電極集電体の搬送方向に沿って伸長する溝であることが好ましい。このとき、ロール型に塗膜が付着させることなく、高アスペクト比の凹部を形成することが容易である。
【0058】
次に、溶媒除去工程S105について説明する。溶媒除去工程S105では、溶媒を除去して電極活物質層を形成する。
溶媒の除去は、公知方法に従い行うことができる。例えば、上記の凹凸が転写された塗膜を、熱風乾燥、赤外線乾燥等によって乾燥することにより、行うことができる。
【0059】
溶媒除去工程S105の実施により、電極集電体上に電極活物質層が形成された電極を得ることができる。
【0060】
電極活物質層の目付量、密度等を調整するために、形成された電極活物質層にプレス処理を施す工程(プレス処理工程)をさらに行ってもよい。当該プレス処理工程は、公知方法に従い行うことができる。
【0061】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の好適な一実施形態として、工程S102~S105を連続して行う方法について、図面を参照しつつさらに説明する。
図5は、ロール成膜ユニットを備えた電極製造装置70の概略構成を構成的に示した説明図である。
電極製造装置70は、大まかにいって、図示しない供給室から搬送されてきたシート状集電体31の表面上に湿潤粉体32を供給して塗膜33を形成する成膜ユニット40と、該塗膜33を厚さ方向にプレスし、該塗膜の表面凹凸形成処理を行う塗膜加工ユニット50と、表面凹凸形成処理後の塗膜33を適切に乾燥させて電極活物質層を形成する乾燥ユニット60を備える。
【0062】
成膜ユニット40は、上述したロール成膜装置(
図4)と同様、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された供給ロール41、転写ロール42,43,44およびバックアップロール45を供える。
本実施形態に係る成膜ユニットでは、図示されるように、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール41に対向する第1転写ロール42、該第1転写ロールに対向する第2転写ロール43、および、該第2転写ロールに対向し、且つ、バックアップロール45にも対向する第3転写ロール44を備えている。
このような構成とすることにより、各ロール間のギャップG1~G4のサイズを異ならせ、湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。以下、このことを詳述する。
【0063】
図示するように、供給ロール41と第1転写ロール42との間を第1ギャップG1、第1転写ロール42と第2転写ロール43との間を第2ギャップG2、第2転写ロール43と第3転写ロール44との間を第3ギャップG3、そして第3転写ロール44とバックアップロール45との間を第4ギャップG4とすると、ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。このように集電体31の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなる多段ロール成膜を行うことにより、湿潤粉体32を構成する凝集粒子の過剰な潰れが防止され、連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。即ち、成膜ユニット40は以下のように作動させることができる。
【0064】
供給ロール41、第1転写ロール42、第2転写ロール43、第3転写ロール44およびバックアップロール45は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール41の回転速度よりも第1転写ロール42の回転速度が速く、第1転写ロール42の回転速度よりも第2転写ロール43の回転速度は速く、第2転写ロール43の回転速度よりも第3転写ロール44の回転速度は速く、第3転写ロール44の回転速度よりもバックアップロール45の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、
図4のロール成膜装置20とは異なる多段ロール成膜を行うことができる。このとき、上記のとおり、第1ギャップG1、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4をこの順に少しずつ小さくなるように設定することによって、本成膜ユニット40に供給された湿潤粉体32は、その気相状態を保持、すなわち孤立空隙が過剰に生じることなく連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。特に限定するものではないが、各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、10μm~100μm程度の範囲内から設定することができる。
【0065】
次に、電極製造装置70の塗膜加工ユニット50について説明する。
図5に示すように、塗膜加工ユニット50は、成膜ユニット40から搬送されてきた集電体31の表面上に付与されている塗膜33の性状を調整するユニットであり、本実施形態においては、塗膜の密度や膜厚を調整するプレスロール52と、塗膜の表面に、凹凸転写を行うための、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56と、を備えている。よって、本例では、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56は、共にロール型であり、よって、二次電池用電極を連続して製造するのに適している。なお、プレスロール52は、電極製造装置70の任意の構成である。
プレスロール52は、搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出すバックアップロール52Bと、バックアップロール52Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧して圧縮するためのワークロール52Aとを備えている。かかるプレスロール52は、搬送されてきた集電体31上に形成(成膜)されたペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)の湿潤粉体32からなる塗膜33を、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。
かかるプレスロール52による好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、概ね0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0066】
プレスロール52よりも集電体搬送方向(進行方向)の下流側に配置される第1凹凸加工ロール54は、プレスロール52を経て搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出す第1バックアップロール54Bと、第1バックアップロール54Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧し、該塗膜表面に凹凸形成を施すための第1ワークロール54Aとを備えている。即ち、かかる第1凹凸加工ロール54は、その際のプレス圧により塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸表面を連続的に形成するロール型として機能する。また、凹凸加工ロール54は、第2のプレスロールとして機能する。したがって、第1ワークロール54Aの表面には、塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸面を形成するための対応する凹凸面が形成されている。
かかる第1凹凸加工ロール54による好適なプレス圧は、対象とする塗膜(電極活物質層)の表層部分の密度、形成したい凹凸パターンの高低差(最大山高さと最大谷深さとの間の長さ。以下同じ。)、等により異なり得るため特に限定されないが、概ね1MPa~150MPa、例えば5MPa~100MPa程度に設定することができる。
【0067】
第1凹凸加工ロール54を塗膜33が通過することにより、その表面に凹凸が転写され、よって凹部が形成される。
【0068】
第1凹凸加工ロール54よりも集電体搬送方向(進行方向)の下流側に配置される第2凹凸加工ロール56は、第1凹凸加工ロール54を経て搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出す第2バックアップロール56Bと、第2バックアップロール56Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧し、該塗膜表面に凹凸形成を施すための第2ワークロール56Aとを備えている。かかる第2凹凸加工ロール56は、その際のプレス圧により塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸表面を連続的に形成するロール型として機能する。また、第2凹凸加工ロール56は、第3のプレスロールとして機能する。したがって、第2ワークロール56Aの表面には、塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸面を形成するための対応する凹凸面が形成されている。
かかる第2凹凸加工ロール56による好適なプレス圧は、対象とする塗膜(電極活物質層)の表層部分の密度、形成したい凹凸パターンの高低差(最大山高さと最大谷深さとの間の長さ。以下同じ。)、等により異なり得るため特に限定されないが、概ね1MPa~150MPa、例えば5MPa~100MPa程度に設定することができる。
【0069】
ここで、第2ワークロール56Aの凹凸面に関し、その凸部(B)の少なくとも一部は、第1ワークロール54Aの凹凸面の凸部(A)よりも高くなっている。
このより高い凸部(B)の頂部を、第1凹凸加工ロール54の凸部(A)によって形成された塗膜33の凹部の底部に接するようにして、第2ワークロール56Aによって凹凸転写を行う。
これにより、塗膜33に形成された凹部の深さが大きくなり、凹部のアスペクト比を増大させることができる。
【0070】
図5に示すように、電極製造装置70の塗膜加工ユニット50よりも集電体搬送方向の下流側には、乾燥ユニット60として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室62が配置され、塗膜加工ユニット50から搬送されてきた集電体31の表面上の塗膜33を乾燥する。なお、かかる乾燥ユニット60は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥ユニットと同様でよく、特に本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0071】
塗膜33を乾燥後、必要に応じて50~200MPa程度のプレス加工を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の長尺なシート状電極が製造される。こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0072】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法によれば、高アスペクト比の凹部を形成することができる。そのため、電極活物質層の厚みが大きい場合であっても、この凹部を利用して、電極集電体近傍にまで、電荷担体(例、Liイオン等)を到達させることが容易となる。
したがって、電極活物質層の厚みは、従来と同様に例えば、10μm以上500μm以下程度であってよいが、厚みが大きい方が有利であるため、好ましくは200μm以上500μm以下であり、より好ましくは250μm以上500μm以下である。
【0073】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法では、気相制御湿潤粉体が用いられる。このような方法では、得られる電極は、次のような特徴を有し得る。
(1)電極活物質層におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm2以上である。
(2)電極活物質層における気体残留率((空気の体積/塗膜の体積)×100)が10vol%以下である。
(3)電極活物質層についての放射光X線ラミノグラフィー法による空隙観察に基づく空隙分布において、全空隙容積(100vol%)に対する2000μm3以上の容積の空隙比率が30vol%以下である。
(4)電極活物質層を、当該電極活物質層の表面から電極集電体に至る厚み方向に上層および下層の2つの層に均等に区分し、該上層および下層のバインダ樹脂の濃度(mg/L)を、それぞれ、C1およびC2としたとき、0.8≦(C1/C2)≦1.2の関係を具備する。
【0074】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法によって、製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0075】
本実施形態に係るシート状電極を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池100の一例を
図6に示す。
リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)100は、扁平形状の捲回電極体80と非水電解液(図示せず)とが電池ケース(即ち外装容器)70に収容された電池である。電池ケース70は、一端(電池の通常の使用状態における上端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底直方体状)のケース本体72と、該ケース本体72の開口部を封止する蓋体74とから構成される。ここで、捲回電極体80は、該捲回電極体の捲回軸が横倒しとなる姿勢(即ち、捲回電極体80の捲回軸方向と蓋体74の面方向とはほぼ平行である。)で、電池ケース70(ケース本体72)内に収容されている。電池ケース70の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼といった軽量で熱伝導性の良い金属材料が好ましく用いられ得る。
また、
図6に示すように、蓋体74には外部接続用の正極端子81および負極端子86が設けられている。蓋体74には、電池ケース70の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された排気弁76と、非水電解液を電池ケース70内に注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース70は、蓋体74を電池ケース本体72の開口部の周縁に溶接することによって、該電池ケース本体72と蓋体74との境界部を接合(密閉)することができる。
【0076】
捲回電極体80は、長尺なシート状の典型的にはアルミニウム製の正極集電体82の片面または両面に長手方向に沿って正極活物質層84が形成された正極シート83と、長尺なシート状の典型的には銅製の負極集電体87の片面または両面に長手方向に沿って負極活物質層89が形成された負極シート88とを、典型的には多孔性のポリオレフィン樹脂からなる2枚の長尺状のセパレータシート90を介して積層して(重ね合わせて)長手方向に捲回されている。この正極シート83および負極シート88の少なくとも一方(好ましくは両方)が、上述の製造方法によって製造されている。
扁平形状の捲回電極体80は、例えば、正負極シート83,88および長尺なシート状のセパレータ90を、断面が真円状の円筒形状になるように捲回した後で、該円筒型の捲回体を捲回軸に対して直交する一の方向に(典型的には側面方向から)押しつぶして(プレスして)拉げさせることによって、扁平形状に成形することができる。かかる扁平形状とすることで、箱形(有底直方体状)の電池ケース70内に好適に収容することができる。なお、上記捲回方法としては、例えば円筒形状の捲回軸の周囲に正負極およびセパレータを捲回する方法を好適に採用し得る。
【0077】
特に限定するものではないが、捲回電極体80としては、正極活物質層非形成部分82a(即ち、正極活物質層84が形成されずに正極集電体82が露出した部分)と負極活物質層非形成部分87a(即ち、負極活物質層89が形成されずに負極集電体87が露出した部分)とが捲回軸方向の両端から外方にはみ出すように重ねあわされて捲回されたものであり得る。その結果、捲回電極体80の捲回軸方向の中央部には、正極シート83と負極シート88とセパレータ90とが積層されて捲回された捲回コアが形成される。また、正極シート83と負極シート88とは、正極活物質非形成部分82aと正極端子81(例えばアルミニウム製)が正極集電板81aを介して電気的に接続され、また、負極活物質層非形成部分87aと負極端子86(例えば銅またはニッケル製)が負極集電板86aを介して電気的に接続され得る。なお、正負極集電板81a,86aと正負極活物質層非形成部分82a,87aとは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
なお、非水電解液としては、典型的には適当な非水系の溶媒(典型的には有機溶媒)中に支持塩を含有させたものを用いることができる。例えば、常温で液状の非水電解液を好ましく使用し得る。非水系の溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池に用いられる各種の有機溶媒を特に制限なく使用し得る。例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を、特に限定なく用いることができる。支持塩としては、LiPF6等のリチウム塩を好適に採用し得る。支持塩の濃度は特に制限されないが、例えば、0.1~2mol/Lであり得る。
【0078】
なお、ここで開示される技術の実施にあたっては、電極体を図示するような捲回電極体80に限定する必要はない。例えば、複数の正極シートおよび負極シートをセパレータを介して積層して形成される積層タイプの電極体を備えるリチウムイオン二次電池であってもよい。また、本明細書に開示される技術情報から明らかなとおり、電池の形状についても上述した角型形状に限定されるものではない。また、上述した実施形態は、電解質が非水電解液である非水電解液リチウムイオン二次電池を例にして説明したが、これに限られず、例えば、電解液に代えて固体電解質を採用したいわゆる全固体電池に対しても、ここで開示された技術を適用することができる。その場合には、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の湿潤粉体は、固形分として活物質に加えて固体電解質を含むように構成される。
【0079】
非水電解液が供給され、電極体を内部に収容したケースが密閉された電池組立体に対して、通常、初期充電工程が行われる。従来のこの種のリチウムイオン二次電池と同様、電池組立体に対して外部接続用正極端子および負極端子との間に外部電源を接続し、常温(典型的には25℃程度)で正負極端子間の電圧が所定値となるまで初期充電する。例えば初期充電は、充電開始から端子間電圧が所定値(例えば4.3~4.8V)に到達するまで0.1C~10C程度の定電流で充電し、次いでSOC(State of Charge)が60%~100%程度となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC-CV充電)により行うことができる。
【0080】
その後、エージング処理を行うことにより、良好な性能を発揮し得るリチウムイオン二次電池100を提供することができる。エージング処理は、上記初期充電を施した電池100を、35℃以上の高温度域に6時間以上(好ましくは10時間以上、例えば20時間以上)保持する高温エージングにより行われる。これにより、初期充電の際に負極の表面に生じ得るSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の安定性を高め、内部抵抗を低減することができる。また、高温保存に対するリチウムイオン二次電池の耐久性を高めることができる。エージング温度は、好ましくは35℃~85℃(より好ましくは40℃~80℃、更に好ましくは50℃~70℃)程度とする。このエージング温度が上記範囲より低すぎると、初期内部抵抗の低減効果が十分でないことがある。上記範囲より高すぎると、非水系溶媒やリチウム塩が分解するなどして電解液が劣化し、内部抵抗が増加することがある。エージング時間の上限は特にないが、50時間程度を超えると、初期内部抵抗の低下が著しく緩慢になり、該抵抗値がほとんど変化しなくなることがある。したがって、コスト低減の観点から、エージング時間は、6~50時間(より好ましくは10~40時間、例えば20~30時間)程度とすることが好ましい。
【0081】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0082】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<実施例>
正極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(正極材料)を用いてアルミ箔上に正極活物質層を形成した。
本試験例では、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材とてアセチレンブラック、非水溶媒としてNMPを用いた。
【0083】
まず、90質量部の上記正極活物質、2質量部のPVDFおよび8質量部のアセチレンブラックからなる固形分を、
図3に示すような混合羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒であるNMPを添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本試験例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(正極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意したアルミ箔からなる正極集電体の表面に塗膜を転写した。
【0084】
得られた塗膜を、塗膜加工部に搬送し、所定の高さの凸部(A)を有する第1凹凸転写ロールで凹凸転写を行った。これにより、塗膜上に凹部を形成した。この凹部の立体形状をレーザマイクロスコープを用いて分析したところ、アスペクト比は1であった。
次いで、この塗膜に対して、凸部(A)より高い凸部(B)を有する第2凹凸転写ロールで、凹部に凸部(B)が重なるようにして凹凸転写を行った。塗膜の凹部の立体形状をレーザマイクロスコープを用いて分析したところ、アスペクト比が2に増大していることが判明した。
さらに、この塗膜に対し凸部(B)より高い凸部(C)を有する第3凹凸転写ロールで、凹部に凸部(C)が重なるようにして凹凸転写を行った。塗膜の凹部の立体形状をレーザマイクロスコープを用いて分析したところ、アスペクト比が4に増大していることが判明した。
これを、塗膜乾燥ユニットで加熱乾燥させ、電極活物質層が形成された電極を得た。
【0085】
さらに、凹凸転写ロールの凸部高さについて検討を行ったところ、第2凹凸転写ロールによって、凹部のアスペクト比を2を超える値に増大させることができたが、転写ロールの一部の凸部(B)に極少量の塗膜の付着が見られた。また、第3凹凸転写ロールによって、凹部のアスペクト比を4を超える値に増大させることができたが、転写ロールの一部の凸部(C)に極少量の塗膜の付着が見られた。
【0086】
<比較例>
スラリー状態の電極(正極)材料を用意した。かかる正極材料を正極集電体上に塗工して乾燥を行い、正極活物質層を形成した。かかる正極活物質層に再び溶媒を噴霧し、所定の凹凸パターンを有する第1の転写型を押し当てて、凹凸転写を行った。転写型に活物質層の付着が多く見られ、また正極活物質層にクラックが発生した。さらに第1の転写型の凸部よりも高い凸部を有する凹凸パターンを有する第2の転写型で凹凸転写を試みたが、凹部の深さは増大しなかった。
【0087】
以上のことから、ここに開示される二次電池用電極の製造方法によれば、高アスペクト比の凹部を有する電極活物質層を備える電極を製造可能であることがわかる。また、凹凸転写を繰り返す際に、凹部のアスペクト比が、1倍を超え2倍以下に増大するようにすれば、凹凸の転写不良が非常に起こり難くなることがわかる。
【0088】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 撹拌造粒機
20 ロール成膜装置
31 電極集電体
32 湿潤粉体(電極合材)
33 塗膜
70 電極製造装置
40 成膜ユニット
50 塗膜加工ユニット
60 乾燥ユニット
80 捲回電極体
100 リチウムイオン二次電池