IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井住友建設株式会社の特許一覧 ▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ストランドの定着体 図1
  • 特開-ストランドの定着体 図2
  • 特開-ストランドの定着体 図3
  • 特開-ストランドの定着体 図4
  • 特開-ストランドの定着体 図5
  • 特開-ストランドの定着体 図6
  • 特開-ストランドの定着体 図7
  • 特開-ストランドの定着体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128179
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】ストランドの定着体
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20220825BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20220825BHJP
   F16B 2/14 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/12
F16B2/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026558
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】林 博之
(72)【発明者】
【氏名】横田 喜正
【テーマコード(参考)】
2E164
3J022
【Fターム(参考)】
2E164DA14
2E164DA24
3J022EA42
3J022EB14
3J022EC14
3J022EC22
3J022ED22
3J022ED26
3J022FA05
3J022FB04
3J022FB10
3J022FB12
3J022GA04
3J022GA19
3J022GB02
(57)【要約】
【課題】くさび部材の端部における割れやクラックの発生を抑制する。
【解決手段】ストランドの定着体1は、両端に第1の開口22と第2の開口23とが設けられた第1の貫通孔21を備え、第1の開口22が第2の開口23より大きい保持部材2と、第1の開口22から第1の貫通孔21に挿入されるくさび部材3と、を有している。くさび部材3はストランドSを固定する第2の貫通孔34を有し、第2の貫通孔34の周りで周方向に複数の小片に分割されている。くさび部材3は、第1の開口22と第2の開口23との間の第1の接続部33で接続される第1の部分31と第2の部分32とを有している。第1の部分31は第1の開口22の側に位置し、第1の貫通孔21の内面から離間している。第2の部分32は第2の開口23の側に位置し、第1の貫通孔21の内面と接している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に第1の開口と第2の開口とが設けられた第1の貫通孔を備え、前記第1の開口が前記第2の開口より大きい保持部材と、
前記第1の開口から前記第1の貫通孔に挿入されるくさび部材と、を有し、
前記くさび部材はストランドを固定する第2の貫通孔を有し、前記第2の貫通孔の周りで周方向に複数の小片に分割され、
前記くさび部材は、前記第1の開口と前記第2の開口との間の第1の接続部で接続される第1の部分と第2の部分とを有し、前記第1の部分は前記第1の開口の側に位置し、前記第1の貫通孔の内面から離間しており、前記第2の部分は前記第2の開口の側に位置し、前記第1の貫通孔の前記内面と接している、ストランドの定着体。
【請求項2】
前記第1の貫通孔は、前記第1の開口と前記第2の開口との間の第2の接続部で接続される第1の孔部と第2の孔部とを有し、前記第1の孔部は前記第1の開口から前記第2の接続部まで延び、前記第2の孔部は前記第2の接続部から前記第2の開口まで延びており、
前記第2の孔部の内径は、前記第2の接続部から前記第2の開口まで一定の比率で減少し、前記第1の開口の内径は、前記第2の孔部の内面を前記一定の比率で前記第1の開口の位置まで延長することで得られる仮想的な開口の内径より小さい、請求項1に記載のストランドの定着体。
【請求項3】
前記第1の孔部の内径は、前記第1の開口から前記第2の接続部まで、前記一定の比率よりも小さい一定の比率で減少している、請求項2に記載のストランドの定着体。
【請求項4】
前記第1の孔部の内径は、前記第1の開口から前記第2の接続部まで一定である、請求項2に記載のストランドの定着体。
【請求項5】
前記第2の接続部は前記第1の接続部と前記第1の開口との間にある、請求項2から4のいずれか1項に記載のストランドの定着体。
【請求項6】
前記複数の小片を前記周方向に互いに密着させたときの、前記くさび部材の前記第1の開口側の端面の直径をDとしたときに、前記第1の部分の長さは0.1D以上、1.0D以下の範囲にある、請求項1から5のいずれか1項に記載のストランドの定着体。
【請求項7】
前記第1の部分の外径は前記第1の接続部から離れるに従い減少する、請求項1に記載のストランドの定着体。
【請求項8】
前記くさび部材の中心線を通る断面において、前記第1の部分は、前記第1の接続部と前記第1の開口側の端面とを結ぶ円弧の表面を有し、前記複数の小片を前記周方向に互いに密着させたときの、前記くさび部材の前記第1の開口側の端面の直径をDとしたときに、前記円弧の半径は0.1D以上、0.3D以下の範囲にある、請求項7に記載のストランドの定着体。
【請求項9】
前記第2の部分が前記保持部材から受けるフープ応力は、前記第2の開口で最大となる、請求項1から8のいずれか1項に記載のストランドの定着体。
【請求項10】
前記保持部材と前記くさび部材は樹脂からなる、請求項1から9のいずれか1項に記載のストランドの定着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストランドの定着体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に圧縮力を付与してプレストレストコンクリートを製作するために緊張材が用いられる。緊張材はコンクリート構造物の内部に挿通され、ジャッキ等によって緊張され、コンクリート構造物に固定された定着体で固定されて、緊張状態が保持される。
【0003】
特許文献1にはストランドの定着体の一例が開示されている。定着体はメスコーンとも呼ばれる保持部材と、オスコーンとも呼ばれるくさび部材と、を有している。くさび部材は保持部材の貫通孔に挿入される。貫通孔はくさび部材が挿入される挿入口から奥に向けて徐々に外径が減少しており、くさび部材も貫通孔と相補的な形状を有している。くさび部材の中央部に設けられた貫通孔にストランドを挿入した状態でくさび部材を保持部材に押し込むことで、くさび部材が貫通孔の内面と噛み合い、くさび部材が保持部材に強固に固定される。この結果、ストランドはくさび部材によって強固に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-113154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
くさび部材を保持部材に押し込み定着体が完成した後に、くさび部材の挿入方向後端部の近傍に、割れやクラックが生じることがある。これはくさび部材が保持部材から受ける力(支圧及び摩擦力)が、後端部で大きくなっていることが一因と考えられる。割れやクラックの発生は商品としての価値を損ねるだけでなく、割れやクラックの態様によっては定着体の性能にも悪影響を及ぼす可能性がある。この課題は特にくさび部材が、割れやクラックの生じやすい樹脂で形成されている場合に顕在化しやすい。
【0006】
本発明は、くさび部材の端部に割れやクラックが生じにくいストランドの定着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のストランドの定着体は、両端に第1の開口と第2の開口とが設けられた第1の貫通孔を備え、第1の開口が第2の開口より大きい保持部材と、第1の開口から第1の貫通孔に挿入されるくさび部材と、を有している。くさび部材はストランドを固定する第2の貫通孔を有し、第2の貫通孔の周りで周方向に複数の小片に分割されている。くさび部材は、第1の開口と第2の開口との間の第1の接続部で接続される第1の部分と第2の部分とを有している。第1の部分は第1の開口の側に位置し、第1の貫通孔の内面から離間している。第2の部分は第2の開口の側に位置し、第1の貫通孔の内面と接している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、くさび部材の端部に割れやクラックが生じにくいストランドの定着体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係るストランドの定着体の概念図である。
図2図1の2A-2A線、2B-2B線、2C-2C線に沿った定着体の概略断面図である。
図3】従来の定着体の概念図と破損モードの一例を示す図である。
図4】第2の実施形態に係るストランドの定着体の概念図である。
図5】第3の実施形態に係るストランドの定着体の概念図である。
図6】第4の実施形態に係るストランドの定着体の概念図である。
図7】ストランドの定着体の取付方法を示す概略手順図である。
図8】実施例のストランドの試験装置と試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下の説明において、軸方向Xは保持部材2の第1の貫通孔21とくさび部材3の長手方向を意味する。第1の貫通孔21の中心線、第2の貫通孔34の中心線、くさび部材3の中心線、ストランドSの中心線はすべて重なっており、これらをまとめて中心線Cと呼ぶ。図中では、くさび部材3が挿入される方向を+X方向、その反対方向を-X方向と表示している。
【0011】
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係るストランドの定着体(以下、定着体1という)の断面図、図1(b)は図1(a)のA部拡大図である。便宜上、図1(b)は保持部材2とくさび部材3を上下方向に離して示しているが、区間Bでは両者は接している。図2(a)~2(c)はそれぞれ、図1(a)の2A-2A線、2B-2B線、2C-2C線に沿った定着体1の概略断面図である。定着体1は主要部材として、保持部材2とくさび部材3とを有している。保持部材2はくさび部材3を保持する部材であり、両端に第1の開口22と第2の開口23とが設けられた第1の貫通孔21を備えている。保持部材2は鉄筋コンクリートなどの構造体4、すなわちストランドSによって圧縮力を与えられる対象物に埋め込まれている。構造体4にはストランドSが挿入されるシース11が埋め込まれ、ストランドSが緊張された後、シース11の内部にはグラウト12が充填される。第1の貫通孔21は軸方向Xのすべての位置で、軸方向Xと直交する断面形状が円形であり、かつ断面の中心は一つの直線上、すなわち第1の貫通孔21の中心線C上にある。第1の開口22は第2の開口23より大きい。本実施形態では、第1の貫通孔21の内径は第1の開口22で最大となり、第2の開口23に向かって徐々に減少し、第2の開口23で最小となる。保持部材2は概ね円筒形の形状を有し、外径は軸方向Xにおいて一定である。保持部材2はガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの樹脂で作成されているため、軽量であり且つ強度に優れている。保持部材2は鋼製とすることもできる。
【0012】
くさび部材3はストランドSを固定する部材である。くさび部材3は第1の開口22から第2の開口23に向けて第1の貫通孔21に挿入される。くさび部材3はその全長に渡って、第1の貫通孔21の内部に収容されている。くさび部材3はストランドSを固定する第2の貫通孔34を有し、第2の貫通孔34の周りで周方向に複数の小片35に分割されている。本実施形態ではくさび部材3は180°間隔で2分割されているが、分割数は限定されず、例えば120°間隔で3分割されていてもよい。ストランドSは一般に複数本の鋼や樹脂の線材を撚って作られるため、分割数が多いほどそれぞれの線材との密着性の確保が容易となるが、分割数が少ないほど小片35を保持部材2に均一に押し込みやすくなる。くさび部材3はストランドSを固定し保持部材2に挿入された状態で、周方向に互いに離れている。従って、正確に言えば、第2の貫通孔34は、2つのくさび部材3の内面に設けられる凹部36の内側に形成される円形断面の空洞である。第2の貫通孔34は軸方向Xのすべての位置で、軸方向Xと直交する断面形状が円形であり、かつ断面の中心は一つの直線上、すなわち第2の貫通孔34の中心線C上にある。くさび部材3はGFRPやCFRPなどの樹脂で作成されているため、軽量であり且つ強度に優れている。
【0013】
くさび部材3は、第1の部分31と第2の部分32とを有している。第1の部分31と第2の部分32は、第1の開口22と第2の開口23との間の第1の接続部33で互いに接続されている。第1の部分31は第1の開口22の側に位置し、第2の部分32は第2の開口23の側に位置している。第1の部分31は第1の貫通孔21の内面から離間しており、第2の部分32は第1の貫通孔21の内面と接している。第1の部分31の外径は一定であり、第1の接続部33の外径と同一である。第2の部分32の外径は第1の接続部33から挿入方向前端部まで一定の比率で減少している。なお、ここでいう外径は、くさび部材3が第1の貫通孔21に押し込められ、定着体1が完成した状態で定義される。
【0014】
第1の貫通孔21に挿入される前のくさび部材3の第2の部分32は、側面の傾斜が、第1の貫通孔21の第2の孔部25(後述)の内面の傾斜よりわずかに大きくされている。つまり、第2の部分32の側面が中心線Cとなす角度θ3が、第2の孔部25の内面が中心線Cとなす角度θ2よりわずかに大きい。このため、第2の部分32が保持部材2から受ける支圧と、第2の部分32と保持部材2との間に生じる摩擦力が、挿入方向後方ほど大きくなり、第1の接続部33で最大となる。くさび部材3の第2の部分32は、挿入方向後方ほど大きな支圧を受けて強く圧縮され、その結果、ストランドSをより大きな力で把持することができる。これによって、ストランドSに安定して緊張力をかけることができ、くさび部材3がストランドSを噛み切ることも生じにくくなる。
【0015】
図3(a)は従来の定着体101を示している。保持部材102の第1の貫通孔121とくさび部材103は概ね相補的な形状とされており、くさび部材103の側面の全面が第1の貫通孔121の内面と接している。このような定着体101では、図3(a)のA部及び図3(b)に示すように、くさび部材103の挿入方向後端部で割れやクラックが発生しやすい。これは、上述の通り、くさび部材103が保持部材102から受ける支圧と、くさび部材103と保持部材102との間に生じる摩擦力が後端部で最大となるためであると考えられる。図3(b)にはくさび部材103の後部端面が剥離するような破損モードを示しているが、軸方向にクラックが生じる可能性もある。
【0016】
本実施形態では、くさび部材3の挿入方向後部に第1の貫通孔21から離間する第1の部分31を設けることによって、くさび部材3の後端における割れやクラックの発生を抑制することができる。第2の部分32は保持部材2から支圧を受けるため、圧縮変形して、ストランドSを把持する。第2の部分32には保持部材2から受ける支圧によってフープ応力(周方向の圧縮応力)が生じる。フープ応力はくさび部材3の剛性によって、第1の部分31に伝達する。これによってくさび部材3の第1の部分31の径方向内側に向けて圧縮され、ストランドSを把持する。換言すれば、第2の部分32に生じた圧縮変形によって、第1の部分31にも圧縮変形が生じ、ストランドSを把持する力が発生する。このように、本実施形態の定着体1では、割れやクラックは生じにくくなる一方、ストランドSを把持する性能は維持される。本実施形態では、くさび部材3が最大の支圧を受ける位置は第1の接続部33に移動すると考えられるが、この位置での支圧は従来の定着体101のくさび部材103の後端における支圧より小さいため、第1の接続部33で割れやクラックが生じる可能性は小さい。
【0017】
第1の部分31の長さは0.1D以上、1.0D以下の範囲にあることが好ましい。ここで、Dは複数の小片35を周方向に互いに密着させたときの、くさび部材3の第1の開口22側の端面27の直径である。第1の部分31の長さをこの範囲とすることで、第2の部分32に生じた圧縮変形を第1の部分31に有効に伝達し、ストランドSの把持力を維持できると考えられる。
【0018】
第1の貫通孔21は第1の孔部24と第2の孔部25とを有している。第1の孔部24と第2の孔部25は第1の開口22と第2の開口23との間の第2の接続部26で互いに接続されている。第1の孔部24は第1の開口22から第2の接続部26まで延び、第2の孔部25は第2の接続部26から第2の開口23まで延びている。第2の孔部25の内径は、第2の接続部26から第2の開口23まで一定の比率(第2の比率)で減少している。これに対し第1の孔部24の内径は、第1の開口22から第2の接続部26まで、第2の比率よりも小さい一定の比率(第1の比率)で減少している。換言すれば、第1の孔部24の内面が中心線Cとなす角度θ1はその全長に渡って一定であり、第2の孔部25の内面が中心線Cとなす角度θ2はその全長に渡って一定であり、θ1<θ2である。この結果、第1の開口22の内径は、第2の孔部25の内面を第2の比率で第1の開口22の位置まで延長することで、第1の開口22を含む平面Hで得られる仮想的な開口27の内径より小さくなる。保持部材2の外径は第1の開口22の内径と保持部材2の必要肉厚で決まるため、第1の開口22の内径がD2からD1に縮小すると、保持部材2の外径D3もそれに応じて小さくなる。定着体1は千鳥状に多数設置されることがあり、保持部材2が小さくなると定着に必要な範囲も縮小するため、構造物や施工の合理化につながる。また、一定の領域により多くのストランドSを設置することも可能となる。
【0019】
第1の貫通孔21と第1の孔部24の形状は、第1の部分31が第1の貫通孔21から離間している限り限定されない。例えば、一実施形態では、第1の孔部24の内径は、第1の開口22から第2の接続部26まで一定であってもよい。この場合、第1の開口22の内径は最小となり、保持部材2の外径も最小となる。また、この場合第1の部分31の外径も一定であることが好ましい。他の実施形態では、第1の部分31の外径は第1の接続部33から挿入方向後端部に向けて徐々に増加していてもよい。この場合、第1の部分31の外径の変化率は第1の孔部24の内径の変化率と同等またはそれより小さくすることが好ましい。
【0020】
保持部材2の外径D3が縮小される効果の一例をより具体的に説明する。ストランドSとしてアラミドロッドを用いる場合、樹脂製のくさび部材3の軸方向の長さは200mm程度必要と考えられる。ストランドSの外径を15.2mm、くさび部材3の挿入方向前端部の最も径が細い部分の部材厚を5mmと仮定すると、前端部の外径は25.2mm(15.2+2×5mm)となる。くさび部材3の側面の傾斜角度を6°とすると200mm離れた後端部での外径は67.2mm(25.2+2×200mm×tan(6°))となる。後端部から1.0D(=67.2mm)の範囲の傾斜角度を0°とすると,後端部の直径は53.1mm(25.2+2×132.8mm×tan(6°))となり約80%の外径に抑えることができる。この効果は,多くのストランドSを配置する際に大きくなる。くさび部材3が長い場合、この効果はさらに大きくなる。
【0021】
第2の接続部26は第1の接続部33と第1の開口22との間にあることが好ましい。くさび部材3は第1の貫通孔21に挿入されながら徐々に圧縮されていくが、仮に第2の接続部26が第1の接続部33と同じ位置、または第1の接続部33より挿入方向前方にあると、くさび部材3の第1の接続部33が第1の孔部24の内面に引っ掛かり、スムーズな挿入ができない可能性がある。第1の接続部33を第2の接続部26よりも挿入方向後方に設けることで、第1の接続部33が第2の孔部25に当たるようになるため、くさび部材3をスムーズに挿入することができる。
【0022】
図4(a)は、第2の実施形態に係る定着体1の断面図、図4(b)は図4(a)のD部拡大図で、くさび部材3の挿入方向後部を示している。本実施形態では第1の部分31の外径は第1の接続部33から離れるに従い減少する。より具体的にはくさび部材3の挿入方向後端は丸み面取り(R面取り)されている。この結果、くさび部材3の中心線Cを通る断面において、第1の部分31は、第1の接続部33と第1の開口22側の端面27とを結ぶ円弧の表面を有する。R面取りの代わりに、C面取りのように面取り部が平面となる面取りを行ってもよい。いずれの場合もくさび部材3の後端部が第1の貫通孔21と接触しなくなるため、第1の実施形態と同様の効果が得られる。R面取りの円弧の半径は0.1D以上、0.3D以下の範囲にあることが好ましい。本実施形態でも、第1の部分31と対向する第1の貫通孔21の内面は軸方向Cと平行にすることができるため、第1の開口22の内径を減少する効果が得られる。
【0023】
以上説明した実施形態の保持部材2はストランドS毎に設けられるが、多数のストランドSをまとめて固定するものであってもよい。図5(a)は第3の実施形態の保持部材2の断面図、図5(b)は図5(a)のA-A線からみた側面図である。保持部材2には2つの同心円上に合計12個の第1の貫通孔21が設けられ、それぞれの第1の貫通孔21にくさび部材3とストランドSが通される。第1の貫通孔21とくさび部材3の形状は第1及び第2の実施形態と同様である。特に第1の実施形態のくさび部材3を採用することで第1の貫通孔21の第1の開口22の内径が減少するため、保持部材2の外径を縮小することが可能となる。
【0024】
保持部材2は構造体4の外側に設けることもできる。図6は第4の実施形態の保持部材2の断面図を示している。保持部材2の外側に中空円筒の外筒5が設けられ、外筒5の一端は開口とされ、他端には内側に張り出したフランジ6が設けられている。外筒5に保持部材2を装着し、ストランドSを通したくさび部材3を保持部材2の第1の貫通孔21に押し込む。この際、フランジ6は保持部材2の+X方向の動きを規制する。これによって、保持部材2が構造体4の表面に対し所定に位置に保持され、くさび部材3が保持部材2に固定される。
【0025】
以上説明した実施形態ではくさび部材3の挿入方向後端部は第1の貫通孔21に収まっているが、第1の貫通孔21から突き出していてもよい。この場合も、第1の貫通孔21の内部に第1の部分31の一部を設けることで、上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0026】
ここで、図7を参照して、定着体1の取付方法について簡単に説明する。まず、図7(a)に示すように、ストランドSが挿通された構造体4に、アンカーなどの適宜の手段で保持部材2を取り付ける。くさび部材3にはストランドSが挿通されているが、くさび部材3は保持部材2に固定されていない。次に、図7(b)に示すように、定着体1にジャッキ7をセットする。ジャッキ7に設けられた緊張用くさび部材8にストランドSを挿通し、緊張用くさび部材8でストランドSを固定する。次に、図7(c)に示すように、ジャッキ7を作動させ、ストランドSを緊張する。ストランドSは緊張用くさび部材8で固定されているが定着体1では固定されていないため、緊張して伸びたストランドSは定着体1のくさび部材3の第2の貫通孔34の内部を、くさび部材3に対して相対移動する。次に、図7(d)に示すように、ジャッキ7に設けられた押し込み治具9で、定着体1のくさび部材3を保持部材2の第1の貫通孔21に押し込み、ストランドSを固定する。この際、ストランドSは緊張用くさび部材8に固定されている。次に、図7(e)に示すように、ストランドSを緊張用くさび部材8から解放し、定着体1の外側の所定の位置PでストランドSを切断する。図7(c)に示すストランドSの緊張工程で、ジャッキ7のストロークの関係で十分な緊張力(伸び)が得られなかった場合は、一旦定着体1のくさび部材3を保持部材2の第1の貫通孔21に軽く押し込みストランドSを仮固定する。その後緊張用くさび部材8をストランドSから解放し、ジャッキ7を元の位置に戻し、緊張用くさび部材8でストランドSを固定し、再びジャッキ7を作動させる。くさび部材3は第1の貫通孔21から抜けるため、ストランドSをさらに緊張することができる。以上の工程をストランドSに所定の緊張力が加わるまで繰り返し、その後図7(e)に示す工程を行う。
【0027】
次に、実施例として本実施形態の定着体1を用いてストランドSの緊張を行った。図8(a)に試験装置を示す。炭素繊維複合材ケーブル(CFCC)のストランドSの両端を定着体1,13で固定し、定着体1,13の間に反力フレーム10とジャッキ11をセットした。反力フレーム10の両端に鉄板12を取り付け、一方の定着体13とジャッキ11をそれぞれ固定した。反力フレーム10側の定着体1は第2の実施形態に示す、端部をR面取りしたくさび部材3を用いた。ジャッキ11を作動させ、ストランドSを緊張した。図8(b)に示すように徐々にストランドSを緊張し10分間保持した後に定着体1の内部でストランドSが破断した。くさび部材3に割れやクラックは発生しなかった。
【符号の説明】
【0028】
1 ストランドの定着体
2 保持部材
21 第1の貫通孔
22 第1の開口
23 第2の開口
24 第1の孔部
25 第2の孔部
26 第2の接続部
3 くさび部
31 第1の部分
32 第2の部分
33 第1の接続部
34 第2の貫通孔
S ストランド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8