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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128188
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】広帯域RF電源及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220825BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026580
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】讓原 逸男
(72)【発明者】
【氏名】米山 知宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
(72)【発明者】
【氏名】細山田 悠
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770BA20
5H770DA01
5H770DA41
5H770EA02
5H770EA05
5H770KA01Y
(57)【要約】      (修正有)
【課題】キャリア波と変調波との間の周波数及び/又は位相の同期ずれを抑制し、周波数及び位相に同期性を有する正弦波を広帯域で出力する広帯域RF電源及び制御方法を提供する。
【解決手段】広帯域RF電源1は、広帯域RF電源が備えるキャリア波生成部は、変調波周波数fsが可変である変調波可変周波数範囲の全範囲を、キャリア波の上下限周波数に基づいて、PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分する。各変調波周波数区間において夫々の変調波周波数区間の対応付けられた整数のPWMパルス数と変調波周波数とにより、fc=N・fsの関係を満足するキャリア周波数fcの周波数を変化させる。変化した変調波周波数が含まれる各変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数に切り換え、fc=N・fsの関係に基づいてキャリア周波数を可変とすることにより、キャリア波と変調波との間の周波数を同期させ、周期性を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
前記直流電源が供給する直流を交流に変換する単相PWMインバータと、
前記単相PWMインバータをPWM制御するインバータ制御部と、
前記単相PWMインバータのインバータ出力から高調波成分を除去するローパスフィルタを備え、RF帯域において広帯域で正弦波を出力する電源であって、
前記インバータ制御部はPWM制御部とキャリア波生成部とを備え、
前記キャリア波生成部は、
上限周波数及び下限周波数で周波数が限定されたキャリア波可変周波数範囲と、
PWMパルス数Nを対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分される変調波可変周波数範囲と、を備え、
前記各変調波周波数区間において、この変調波周波数区間内の変調波周波数fsと変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nとを用いてfc=N・fsに基づいて定まるキャリア波周波数fcのキャリア波を出力し、
前記PWM制御部は、前記変調波周波数fsの変調波と前記キャリア波との比較により前記インバータ制御部をPWM制御するPWMパルスを出力し、変調波の可変周波数に対応した周波数の正弦波を出力する、広帯域RF電源。
【請求項2】
前記キャリア波生成部は、
キャリア波の上限周波数及び下限周波数を設定するキャリア波上下限周波数設定部と、
変調波可変周波数範囲の全範囲を、各PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分して設定する変調波周波数区間設定部と、
前記各変調波周波数区間において、変調波周波数fsに対するPWMパルス数Nを、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと変調波周波数fsとからfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算部と、
前記キャリア波周波数演算部で求めたキャリア波周波数fcを有するキャリア波を出力するキャリア波出力部と、
を備える、請求項1に記載の広帯域RF電源。
【請求項3】
前記キャリア波上下限周波数設定部は、
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間のPWMパルス数N=Nminを用いて、キャリア波上限周波数fc-upper=Nmin・fs-maxとキャリア波下限周波数fc-lower=fc-upper・Nmin/(Nmin+2)を設定し、
変調波周波数区間設定部は、
前記複数の変調波周波数区間において、変調波の最大周波数を含む高周波数側の変調波周波数区間Nminにおいては、この変調波周波数の最大周波数fs-max=fc-upper/Nminと最小周波数fc-lower/Nminを設定し、
低周波数側の変調波周波数区間のN>Nminにおいて、
(a)キャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合は、この変調波周波数の最大周波数fc-lower/(N-2)と最小周波数fc-lower/Nを設定し、
(b)キャリア波周波数を上限周波数fc-upperまで動作させる場合は、この変調波周波数の最大周波数fc-upper/Nと最小周波数fc-upper/(N+2)
を設定する、請求項2に記載の広帯域RF電源。
【請求項4】
前記キャリア波生成部は、
変調波可変周波数範囲を区分し、この区分のPWMパルス数Nに対応付けられ設定された複数の変調波周波数区間を記憶する特性データ記憶部と、
特性データ記憶部から入力した変調波周波数fsが含まれる変調波周波数区間、及び対応するPWMパルス数を読み出す読み出し部と、
前記各変調波周波数区間において、変調波周波数fsに対するPWMパルス数Nを、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと変調波周波数fsとからfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算部と、
前記キャリア波周波数演算部で求めたキャリア波周波数fcを有するキャリア波を出力するキャリア波出力部と、
を備える、請求項1に記載の広帯域RF電源。
【請求項5】
前記PWMパルス数Nは偶数であり、
変調波の最大周波数を含む最も高い高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nは偶数最小値の最小PWMパルス数Nminであり、
低周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nは、高周波数側から低周波数側に向かって順にPWMパルス数Nに2を加算した値である、
請求項1から4に何れか一つに記載の広帯域RF電源。
【請求項6】
最小PWMパルス数Nminは4である、請求項5に記載の広帯域RF電源。
【請求項7】
前記キャリア波は、奇関数波形又は偶関数波形である請求項1から5の何れか一つに記載の広帯域RF電源。
【請求項8】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間において、最小変調波周波数fs-min(Nmin)と、変調波周波数区間に対応付けられた最小PWMパルス数Nminにより発生する最低高調波次数n-minとの積(n-min・fs-min(Nmin))と、
変調波可変周波数範囲の最小変調波周波数fs-minを含む低周波数側の変調波周波数区間において、最も小さい最小変調波周波数fs-minと、変調波周波数区間に対応付けられた最小PWMパルス数により発生する最低高調波次数n-minとの積(n-min・fs-min)の何れか小さい周波数値である、
請求項1から6の何れか一つに記載の広帯域RF電源。
【請求項9】
前記変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間において、最も小さい最小変調波周波数fs-min(Nmin)は、最大変調波周波数fs-maxに((Nmin/(Nmin+2))を乗算して得られる値である、
請求項8に記載の広帯域RF電源。
【請求項10】
PWMインバータにおいて変調波とキャリア波とを比較することにより、RF帯域において、出力する正弦波の出力周波数を広帯域で可変に出力する広帯域RF電源の制御方法において、
前記キャリア波の生成は、
(a)キャリア波の上限周波数及び下限周波数を設定するキャリア波上下限周波数設定工程と、
(b)変調波可変周波数範囲の全範囲を各PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分して設定する変調波周波数区間設定工程と、
(c)変調波周波数fsにおいて、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと可変の変調波周波数fsとからfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算工程と、
(d)キャリア波周波数演算工程で求めたキャリア波周波数fcのキャリア波を出力するキャリア波出力工程と、
(e)前記変調波周波数fsの変調波と前記キャリア波出力工程で出力したキャリア波とを比較し、前記PWMインバータをPWM制御するPWMパルスを出力するPWMパルス出力工程と、
(f)変調波周波数fsに対応した出力周波数を有する正弦波を出力する出力工程と、
を備える広帯域RF電源の制御方法。
【請求項11】
前記キャリア波上下限周波数設定工程は、
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間のPWMパルス数N=Nminを用いて、キャリア波上限周波数fc-upper=Nmin・fs-maxとキャリア波下限周波数fc-lower=fc-upper・Nmin/(Nmin+2)を設定し、
変調波周波数区間設定工程は、
前記複数の変調波周波数区間において、変調波の最大周波数を含む高周波数側の変調波周波数区間Nminにおいては、この変調波周波数の最大周波数fs-max=fc-upper/Nminと最小周波数fc-lower/Nminを設定し、
低周波数側の変調波周波数区間のN>Nminにおいて、
(a)キャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合は、この変調波周波数の最大周波数fc-lower/(N-2)と最小周波数fc-lower/Nを設定し、
(b)キャリア波周波数を上限周波数fc-upperまで動作させる場合は、この変調波周波数の最大周波数fc-upper/Nと最小周波数fc-upper/(N+2)
を設定する、
請求項10に記載の広帯域RF電源の制御方法。
【請求項12】
前記PWMパルス数Nを偶数とし、
変調波の最大周波数を含む最も高い高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるパルス数Nは偶数最小値の最小PWMパルス数Nminであり、
低周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nは、高周波数側から低周波数側に向かって順にPWMパルス数Nに2を加算した値とする、
請求項10又は11に記載の広帯域RF電源の制御方法。
【請求項13】
前記最小PWMパルス数Nminを、最小PWMパルス数Nminの増加に対してスイッチング損失が増加する増加特性と、最小PWMパルス数Nminの増加に対して高調波発生量が減少する減少特性との両者の増減特性の均衡に基づいて選定する、
請求項12に記載の広帯域RF電源の制御方法。
【請求項14】
前記出力工程は、PWMインバータのインバータ出力から高調波成分を除去するローパスフィルタのカットオフ周波数を、最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の変調波周波数fsのカットオフ周波数f-cutoff-max=(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))と、最小変調波周波数fs-minのカットオフ周波数f-cutoff-min=n-min・fs-minとの比Kに基づいて、
K<1のときは、f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)をカットオフ周波数として選択し、
K≧1のときは、f-cutoff-min=n-min・fs-minをカットオフ周波数として選択する、
請求項10に記載の広帯域RF電源の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF(Radio Frequency)帯域において正弦波を広帯域で出力する広帯域RF電源に関する。RF(Radio Frequency)の周波数帯域は、LF帯域(30kHz-300kHz)、MF帯域(300kHz-3MHz)、HF帯域(3MHz-30MHz)、VHF帯域(30MHz-300MHz)、UHF帯域(300MHz-30GHz)を含む。本願発明の広帯域RF電源では現状においてはLF帯域からVHF帯域の周波数帯域を利用分野としている。なお、詳細な説明の項においては周波数帯域の一例としてMF帯域及びHF帯域を用いる。
【背景技術】
【0002】
RF帯域における増幅回路としてアナログ増幅回路とデジタル増幅回路が知られている。アナログ増幅回路はバイアス量によりA級、B級、C級に分類される。デジタル増幅回路として、RF帯域における単相方形波インバータによるD級増幅回路が知られている。従来、正弦波を出力する広帯域RF電源ではA級-C級の増幅回路が用いられるが、低効率で損失が大きいため大容量化の点で難点があることが知られている。
【0003】
RF帯域における単相PWMインバータによるD級増幅回路は、MOSFET等の半導体スイッチング素子の単相フルブリッジ回路により構成されD級フルブリッジ増幅器を備える。単相PWMインバータは、半導体スイッチング素子をオン/オフ切り換え動作させてブリッジ回路をPWM制御することにより、直流電源の直流電圧を交流電圧に変換する電力変換装置として用いられる。
【0004】
単相PWMインバータによる電力変換装置は、変調波をキャリア波と比較することによりオン/オフ動作を制御するPWM信号を生成し、生成したPWM信号によりインバータのスイッチング素子のオン/オフ切り換え動作を制御して正弦波の出力を得る。正弦波の周波数は変調波の周波数に依存するため、変調波の周波数を広帯域で可変とすることにより正弦波の出力の周波数を広帯域で可変とし、変調波の変調率を可変とすることにより出力を可変とすることができる。特許文献1には、正弦波変調PWM方式による可変周波数の単相インバータが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、キャリア信号と変調信号でパルスパターンを決定するPWM(パルス幅変調)について、
(a)不要な高調波成分をキャリア波周波数のサイドバンドとして高い周波数域に移動させることができるため、キャリア波周波数と出力の基本波周波数との周波数比率を大きくすることにより波形改善を行うことができること、
(b)PWMのキャリア波周波数を高くするに従って、不要な高調波成分による負荷の損失増加を軽減することができるが、スイッチング素子のスイッチング損失はスイッチング回数に比例して増加すること
(c)PWMインバータでは、キャリア波周波数を変調波周波数の整数倍とすることにより、キャリア波周波数が低いために生じるサイドバンドと信号波との干渉を避けることができること
が記載されている。
【0006】
特許文献2は直流電力を商用交流電力に変換するインバータ装置について、PWMキャリア信号の周波数を電流指令信号の周波数の整数倍に設定することにより、単相フルブリッジ回路の第1アームと第2アームのスイッチング動作を同期させることができることが記載され、その一例として、PWMキャリア信号の周波数を20kHz、電流指令信号の周波数を50Hzに設定する例が示されている。
【0007】
PWMインバータにおいて、キャリア波周波数と変調波周波数の関係を表すNは、スイッチング素子を駆動制御するスイッチングパルスの一周期内におけるパルス数に相当することから整数であることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64-75316号公報
【特許文献2】特開2001-320884号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「三相正弦波PWMインバータのための変調信号」電気学会論文誌8 105巻 10号 頁880-886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
RF帯域において広帯域の正弦波を出力する単相PWMインバータでは、
(a)スイッチング損失を低減すること
及び
(b)単一の出力フィルタにより高調波成分を除去すること
が求められ、単相PWMインバータを用いたRF電源が解決すべき課題として挙げられる。
【0011】
上記スイッチング損失の低減の課題、及び単一の出力フィルタによる高調波成分の除去の課題を解決するためには、単相PWMインバータのスイッチング動作を制御するPWMパルス信号の生成において、キャリア波Cと変調波Sとの間において周波数及び位相に同期性が求められる。
【0012】
(周波数の同期性)
周波数の同期性は、キャリア波周波数fcと変調波周波数fsとの間においてfc=N・fs(Nは整数)で表される整数倍の関係性であり、キャリア波Cの周波数fcを変調波Sの周波数fsの整数倍として、両波形間の周波数を同期させる。周波数の同期性は、単相フルブリッジ回路の第1アーム-第4アームのスイッチング動作は同期する。
【0013】
上記した特許文献2及び非特許文献1では、一定のキャリア波周波数fcに対して変調波周波数fsの変化に応じてNを変えることによりfc=N・fs(Nは整数)の整数倍の関係性を維持している。
【0014】
(位相の同期性)
位相の同期性は、変調波Sの一周期に対してキャリア波Cの位相が同期する関係性であり、変調波Sの一周期において前半の半周期のキャリア波の信号波形と後半の半周期のキャリア波の信号波形を、変調波Sの半周期のπの位相の時点を基準時点として対称とし、両波形間の位相を同期させる。位相の同期性は、変調波Sの一周期内の基準点に対するキャリア波Cの波形の対称性を担保し、単相フルブリッジ回路の各レグにおけるスイッチング損失を均等化して偏りを抑制する。波形の対称性は、キャリア波Cが変調波Sに対して奇関数や偶関数であることにより得られる。
【0015】
奇関数は任意のxに対してf(x)=-f(-x)を満たす関数であり、基準時点のx=0に対して点対称の対称性を備える。
【0016】
偶関数は任意のxに対してf(x)=f(-x)を満たす関数であり、基準時点のx=0に対して前後の時点について対称性を備える。周波数、位相の同期性が得られない場合には、同期ずれとして現れる。
【0017】
(a)周波数の同期ずれ
キャリア波周波数fcを一定として変調波周波数fsを可変とする方式では、PWMパルス数NはN=fc/fsで表される。キャリア波周波数fcが300Hzの一定周波数としたときの例では、
(1)変調波周波数fsが60Hzのときには、PWMパルス数Nは5(=fc/fs=300/50)である。
(2)変調波周波数fsが50Hzのときには、PWMパルス数Nは6(=fc/fs=300/60)である。
(3)変調波周波数fsが45Hzのときには、PWMパルス数Nは6.6667(=fc/fs=300/45)である。
【0018】
上記の(1)、(2)はPWMパルス数Nが整数となる例である。PWMパルス数Nが整数の条件を満たす場合には、キャリア波周波数fcと変調波周波数fsとは整数倍の関係となるため、キャリア波Cと変調波Sとは同期する。UPSなどの固定周波数(CVCF)制御では、キャリア波Cと変調波Sとを同期させることができる。
【0019】
これに対して、上記の(3)はPWMパルス数Nが整数とならない例である。この例では、キャリア波周波数fcと変調波周波数fsとは整数倍の関係とならないため、デジタル処理によりPWMパルス数を6又は7の整数に設定する。デジタル処理による整数化において、何れの整数を選択するかによってPWMパルス数が変動するため、キャリア波Cと変調波Sとの間で周波数及び位相に同期ずれが生じる。
【0020】
本願発明の正弦波の出力の周波数帯域はRF周波数である。このRF周波数の正弦波の出力の同期ずれは商用周波数の周波数帯域における同期ずれとは様相が異なる。商用周波数の周波数帯域では同期ずれは無視できる程度に小さいのに対して、RF周波数における同期ずれは無視することができないほど大きくなる。
【0021】
(a1)商用周波数の周波数帯域における周波数の同期ずれ
商用周波帯域の周波数帯域では、正弦波の出力に生じる同期ずれは無視できる程度に小さい。例えば、変調波周波数fsが商用周波数の場合には、特許文献2にも示されるように、一般にキャリア波周波数fcは可聴周波数以上の20kHz以上に選定して使用される。キャリア波周波数fcを21kHzの固定周波数としたとき、変調波周波数fsが60HzであればPWMパルス数Nは350であり整数となるが変調波周波数fsが45HzであればPWMパルス数NはN=fc/fs=21kHz/45Hz=466.67となり整数とならない。このような場合、デジタル処理によりPWMパルス数Nを整数化した466又は467を用いると、キャリア波周波数fcは20.97kHz又は21.02kHzとなり21kHzからの変動幅は小さい。このように、商用周波数の周波数帯域においては、PWMパルス数が大きいため、周波数の同期ずれは無視できるほど小さくなるため、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの周波数を同期させる必要性はない。
【0022】
(a2)RF周波数の周波数帯域における周波数の同期ずれ
一方、本願発明の正弦波の出力が対象とするRF周波数の周波数帯域では、同期ずれは商用周波数の周波数帯域における同期ずれと比較して無視できない程度の大きさとなる。
【0023】
例えば、キャリア波周波数fcを50MHzとしたとき、変調波周波数fsが10.0MHzであれば、PWMパルス数NはN=fc/fs=50MHz/10.0MHz=5となり、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの間に整数倍Nの関係が成り立つ。この状態から変調波周波数fsが11.0MHzに変化すると、PWMパルス数NはN=fc/fs=50MHz/11.0MHz=4.55となり整数倍とならない。このように整数倍とならない場合には、出力の振幅が変動し低周波のうなり(beat)が生じる問題がある。
【0024】
また、RF周波数の周波数帯域において、商用周波数の周波数帯域と同様に大きなPWMパルス数を用いた場合には周波数ずれは小さくなるが、周波数帯域が高周波帯域であるため、キャリア周波数は非常に高い周波数となる上、大きなPWMパルス数を適用するとスイッチング損失が過大となるため、広域RF電源として不適当となる。
【0025】
可変電圧可変周波数制御(VVVF)の可変周波数制御では、一定のキャリア波周波数fcに対して、変調波周波数fsを可変としたときfc=N・fsの関係を満たすNは整数とならない場合がある。インバータ制御ではNは整数であることが求められるため、デジタル処理によって整数化したNを用いると、キャリア波周波数は一定のキャリア波周波数fcから変動することになり、キャリア波周波数fcと変調波周波数fsとの周波数を同期させることができない。このように、RF周波数の周波数帯域では周波数の同期ずれに課題がある。
【0026】
(b)位相の同期ずれ
また、特定周波数において変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとが同期状態にあったとしても、この特定周波数から変調波周波数fsが可変して同期状態が変化すると、周波数の同期ずれが発生すると共に、変調波Sとキャリア波Cの位相角は0から2πの範囲で変動して位相に同期ずれが生じる。この位相の同期ずれにより、キャリア波Cと変調波Sとの間において奇関数や偶関数の関係を保つことができない。
【0027】
したがって、RF帯域における可変周波数制御ではキャリア波と変調波Sとの間に周波数及び位相に同期ずれが生じるため、周波数又は位相の同期性に課題がある。
【0028】
本発明は、RF帯域において広帯域の正弦波を出力する単相PWMインバータにおいて、(a)スイッチング損失を低減すること、及び(b)単一の出力フィルタにより高調波成分を除去してRF帯域において広帯域の正弦波を出力することが求められる。
【0029】
この課題を解決するために、広帯域RF電源のRF帯域における可変周波数制御において、単相PWMインバータのスイッチング動作を制御するPWMパルス信号の生成において、キャリア波Cと変調波Sとの間において周波数及び位相に同期性が求められる。本発明は、前記課題(a),(b)を解決するために、キャリア波と変調波Sとの間の周波数及び/又は位相の同期ずれを抑制し、周波数及び位相に同期性を有する正弦波を広帯域で出力することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
[広帯域RF電源]
本発明の広帯域RF電源は、RF帯域において出力周波数を広帯域で可変として正弦波を出力する。広帯域RF電源は、直流電源と、直流電源が供給する直流を交流に変換するPWMインバータと、PWMインバータをPWM制御するインバータ制御部と、PWMインバータのインバータ出力から高調波成分を除去するローパスフィルタを備える。本発明において、広帯域は、RF帯域の周波数帯域内において、出力の正弦波の周波数範囲の帯域幅が広いことを意味し、RF帯域においてLF帯域からVHF帯域の各周波数帯域内の周波数範囲に限定されるものではなく、各周波数帯域をまたがった周波数範囲であってもよい。
【0031】
本発明のインバータ制御部は、PWMインバータをPWM制御するPWM制御部と、PWM制御のためのPWMパルスを生成に用いるキャリア波を生成するキャリア波生成部とを備える。
【0032】
キャリア波生成部はキャリア波の生成において、
(a)上限周波数及び下限周波数により周波数が限定されたキャリア波可変周波数範囲と、
(b)PWMパルス数Nを対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分される変調波可変周波数範囲と、
を備え、
(c)各変調波周波数区間において、この変調波周波数区間内の変調波周波数fsと変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nとを用いてfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcのキャリア波Cを生成する。
【0033】
キャリア波生成部は、変調波周波数fsを可変とする変調波可変周波数範囲の全範囲を、キャリア波の上下限周波数に基づいて、PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分する。各変調波周波数区間においてそれぞれの変調波周波数区間の対応付けられた整数のPWMパルス数Nと変調波周波数fsとにより、PWMパルス数Nを切り換えることによりfc=N・fsの関係を満足するキャリア周波数fcの周波数を変化させる。
【0034】
このように、変調波周波数fsが広帯域で変化した場合であっても、変化した変調波周波数fsが含まれる各変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nを用いてfc=N・fsの関係に基づいてキャリア周波数fcを可変とすることにより、キャリア波Cと変調波Sとの間の周波数を周期させ、周期性を満たすことができる。
【0035】
(キャリア波生成部)
キャリア波生成部の一構成は、
(a)キャリア波Cの上限周波数fc-upper及び下限周波数fc-lowerを設定するキャリア波上下限周波数設定部と、
(b)変調波可変周波数範囲の全範囲を複数の区間に区分し、各PWMパルス数Nと対応付けられた変調波周波数区間を設定する変調波周波数区間設定部と、
(c)各変調波周波数区間において、変調波周波数fsに対するPWMパルス数Nを、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと変調波周波数fsを用いてfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算部と、
(d)キャリア波周波数演算部で求めたキャリア波周波数fcを有するキャリア波Cを出力するキャリア波出力部と、
を備える。
【0036】
キャリア波生成部の他の構成は、
(e)変調波可変周波数範囲を区分し、PWMパルス数NとこのPWMパルス数Nに対応付けられ設定された複数の変調波周波数区間を記憶する特性データ記憶部と、
(f)特性データ記憶部から入力した変調波周波数fsが含まれる変調波周波数区間、及び対応するPWMパルス数Nを読み出す読み出し部と、
(c)各変調波周波数区間において、変調波周波数fsに対するPWMパルス数Nを、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと変調波周波数fsとを用いてfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算部と、
(d)キャリア波周波数演算部で求めたキャリア波周波数fcを有するキャリア波を出力するキャリア波出力部と、
を備える。
【0037】
(a)のキャリア波上下限周波数設定部、及び(b)の変調波周波数区間設定部の構成で得た変調波周波数区間及びPWMパルス数Nの特性データを(e)の特性データ記憶部に格納しておき、(f)の読み出し部により(e)の特性データ記憶部から特性データを読み出す。
【0038】
この構成によれば、キャリア波上下限周波数設定部と変調波周波数区間設定部とによりPWMパルス数NとこのPWMパルス数Nに対応付けられ設定された複数の変調波周波数区間の特性データを予め求めておき、求めた特性データを特性データ記憶部に格納しておく。この構成は特性データを既知データとして特性データ記憶部に格納されているため、変調波周波数fsが可変する度に、キャリア波上下限周波数設定部と変調波周波数区間設定部による処理の繰り返して行うことなくキャリア波周波数を取得することができる。
【0039】
(PWM制御部)
PWM制御部は、変調波Sとキャリア波Cとを比較することによりPWMインバータをPWM制御するPWMパルスを生成し、生成したPWMパルスでPWMインバータのスイッチング素子のオン/オフを駆動することにより、変調波Sの変調波周波数fsに対応した周波数の正弦波を出力する。
【0040】
本発明において、変調波を可変とする変調波周波数範囲は、PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分される。変調波周波数fsの周波数に対応する変調波周波数区間において、PWMパルス数Nをその変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換える。キャリア波周波数は、切り換えたPWMパルス数Nに対応するキャリア波周波数fcをfc=N・fsに基づいて求める。
【0041】
RF帯域の広帯域周波数範囲を複数の変調波周波数区間に区分し、各変調波周波数区間をPWMパルス数Nの切り換えにより選択し、選択した各変調波周波数区間でキャリア波周波数fcを求めることにより、RF帯域の広帯域において、キャリア波Cと変調波Sとの間の周波数及び位相の同期ずれが抑制し、周波数及び位相に同期性を有する正弦波を広帯域で出力する。
【0042】
本発明は、キャリア波上下限周波数設定部によるキャリア波の上限周波数fc-upper及び下限周波数fc-lowerの設定と、変調波周波数区間設定部による変調波周波数区間の設定により、RF帯域の広帯域周波数範囲をPWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分することができる。
【0043】
(PWMパルス数N)
PWMパルス数Nの偶数要件:
周波数及び位相の同期性から、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの間はPWMパルス数Nによりfc=N・fsで表される関係を備える。PWMパルス数Nは、変調波Sに対するキャリア波Cの対称性の要件から偶数とする。
【0044】
変調波周波数fsとキャリア波周波数fcの間に偶数倍の関係を持たせることにより変調波Sの1周期において、前半の半周期の波形形状と後半の半周期の波形形状との対称性、及びこれに伴うPWMパルスの対称性を担保し、変調波Sの1周期内におけるPWMインバータの各レグのスイッチング損失の偏りを抑制する。
【0045】
変調波周波数fsに対してキャリア波周波数fcをfc=N・fsとし、キャリア波周波数fcを変調波周波数fsの偶数N倍(Nは偶数)の関係を持たせることにより、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形に対称性が得られる。
【0046】
一方、変調波周波数fsに対してキャリア波周波数fcをfc=(N+1)・fsとし、キャリア波周波数fcが変調波周波数fsの奇数(N+1)倍(Nは偶数)の関係にある場合には、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリアC波の信号波形とは時間軸に対して反転した関係となるため、対称性が満たされなくなる。
【0047】
変調波Sに対してキャリア波Cに対称性を持たせることにより、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形を、変調波Sの半周期のπの位相の時点を基準時点として対称とし、各レグにおけるスイッチング損失を均等化して偏りを抑制する。
【0048】
(各変調波周波数区間のPWMパルス数N)
(a)変調波Sの最大周波数を含む最も高い高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nとして偶数最小値の最小PWMパルス数Nminを設定する。
(b)変調波Sの低周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nとして高周波数側から低周波数側に向かって順に最小PWMパルス数Nminに2を加算した値を設定する。
【0049】
最小PWMパルス数Nminとして4を設定した場合には、高周波数側から低周波数側に向かう各変調波周波数区間に対して順に6,8,・・・の値をPWMパルス数Nとして設定する。
【0050】
高周波数側の変調波周波数区間に対して小さなPWMパルス数Nを設定し、低周波数側の変調波周波数区間に対して大きなPWMパルス数Nを設定することにより、fc=N・fsの関係から各変調波周波数区間におけるキャリア周波数fcを、キャリア波の上下限周波数間に含まれるキャリア周波数範囲内に納めることができる。
【0051】
(キャリア波上下限周波数設定部)
キャリア波上下限周波数設定部は、キャリア波の上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerを設定する。また、キャリア波の上限周波数fc-upperは、最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の最小PWMパルス数Nminとfs-maxの積によりを設定し、下限周波数fc-lowerはキャリア波上限周波数fc-upperとNmin/(Nmin+2)との積により設定する。
【0052】
(変調波周波数区間設定部)
変調波周波数区間設定部は、変調波可変周波数範囲を複数の変調波周波数区間に区分し設定する際、
(a)変調波周波数区間のキャリア波周波数fcを上限周波数fc-upperまで動作させる場合は、上限周波数fc-upperを用いて変調波周波数区間Nの最大変調波周波数fs-max(N)及び最小変調波周波数fs-min(N)を定める。最大変調波周波数fs-max(N)はfs-max(N)=fc-upper/Nにより定められ、最小変調波周波数fs-min(N)はfs-min(N)=fc-upper/(N+2)で定められる。
(b)変調波周波数区間のキャリア波周波数fcを下限周波数fc-lowerまで動作させる場合は、N>Nminにおいて下限周波数fc-lowerの値を用いてfs-min(N)とfs-max(N)を定める。変調波周波数区間Nの最小変調波周波数fs-min(N)はfs-min(N)=fc-lower/Nで定められ、最大変調波周波数fs-max(N)はfs-max(N)=fc-lower/(N-2)で定められる。
【0053】
全変調波周波数区間数Nの個数について、下限周波数fc-lowerまで動作させる場合と上限周波数fc-upperまで動作とを比較すると、下限周波数fc-lowerの周波数値は上限周波数fc-upperの周波数値よりも小さいことから、下限周波数fc-lowerまで動作させる場合の全変調波周波数区間数Nは上限周波数fc-upperまで動作させた場合よりも少なくなる。
【0054】
(ローパスフィルタのカットオフ周波数)
PWMインバータのインバータ出力には基本波成分の正弦波と共に高調波成分が含まれる。ローパスフィルタはインバータ出力に含まれる高調波成分を除去し、基本波成分の正弦波を出力する。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、基本波正弦波周波数を通過させ、高調波周波数を遮断する周波数である。高調波周波数は高調波次数nと変調波周波数fsとの積(n・fs)で表される。
【0055】
PWMパルス数Nと、PWMインバータによって発生する変調波Sの高調波の次数nとの間には、変調波周波数fsが高くPWMパルス数Nが小さい場合には高調波は低次数から発生し、変調波周波数fsが低くPWMパルス数Nが大きい場合には高調波は高次数側に発生する。
【0056】
したがって、高い変調波周波数fsに対しては低次数側の高調波周波数を遮断する周波数、低い変調波周波数fsに対しては高次数側の高調波周波数を遮断する周波数の何れか低い周波数をローパスフィルタのカットオフ周波数として設定する。
【0057】
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の、最小変調波周波数fs-min(Nmin)は、最大変調波周波数fs-maxに((Nmin/(Nmin+2))を乗算して得られる値である。
【0058】
(a)最大変調波周波数fs-maxと、最大変調波周波数fs-maxに対応付けられた最小PWMパルス数Nminにより発生する最低高調波次数n-minとの積(n-min・fs-max)に(Nmin/(Nmin+2)を乗算して得られる周波数値(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2))をカットオフ周波数f-cutoffの候補とする。例えば、最小PWMパルス数Nminとして4を選択したときの最低高調波次数n-minは3であり、カットオフ周波数f-cutoffの候補は(3・fs-max・(2/3))となる。
【0059】
(b)最小変調波周波数fs-minと、この変調波周波数区間のPWMパルス数Nにより発生する最低高調波次数n-minとの積で得られる周波数値(n-min・fs-min)をカットオフ周波数f-cutoffの候補とする。例えば、この変調波周波数区間のPWMパルス数Nが14のときの最低高調波次数n-minは23であり、カットオフ周波数f-cutoffは(23・fs-min)となる。
【0060】
(c)カットオフ周波数の選択
最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の変調波周波数fsのカットオフ周波数f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)と、最小変調波周波数fs-minのカットオフ周波数f-cutoff-min=n-min・fs-minとの比較において、f-cutoff-maxとf-cutoff-minとの比Kを
K=f-cutoff-max/f-cutoff-min
=(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2))/(n-min・fs-min)とすると、
K<1のときは、f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)をカットオフ周波数として選択し、
K≧1のときは、f-cutoff-min=n-min・fs-minをカットオフ周波数として選択する。
【0061】
[広帯域RF電源の制御方法]
本発明の広帯域RF電源の制御方法は、PWMインバータにおいて変調波Sとキャリア波Cを比較することにより、RF帯域において、正弦波の出力周波数を広帯域で可変に出力する広帯域RF電源を制御する制御方法である。なお、変調波Sとキャリア波Cとの比較は電圧あるいは電流に基づいて行うことができる。
【0062】
(キャリア波の生成)
キャリア波の生成は、
(a)キャリア波の上限周波数及び下限周波数を設定するキャリア波上下限周波数設定工程と、
(b)変調波可変周波数範囲の全範囲を各PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分して設定する変調波周波数区間設定工程と、
(c)変調波周波数fsにおいて、この変調波周波数fsを含む変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nと変調波周波数fsとからfc=N・fsに基づいてキャリア波周波数fcを演算するキャリア波周波数演算工程と、
(d)キャリア波周波数演算工程で求めたキャリア波周波数fcのキャリア波を出力するキャリア波出力工程と、
(e)変調波周波数fsの変調波Sとキャリア波生成工程で生成したキャリア波Cとを電圧比較し、PWMインバータをPWM制御するPWMパルスを出力するPWMパルス出力工程と、
(f)変調波周波数fsに対応した出力周波数を有する正弦波を出力する出力工程を備える。
【0063】
(キャリア波上下限周波数設定工程)
キャリア波上下限周波数設定工程は、
(a)最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の最小PWMパルス数Nminとfs-maxの積によりキャリア波の上限周波数fc-upperを設定し、
(b)キャリア波上限周波数fc-upperと(Nmin/(Nmin+2))との積によりキャリア波の下限周波数fc-lowerを設定する。
【0064】
(変調波周波数区間設定工程)
変調波周波数区間設定工程は、
(a)複数の変調波周波数区間において、変調波Sの最大周波数を含む高周波数側の変調波周波数区間においては、その変調波Sの最大周波数をその変調波周波数区間の最大周波数とする。
(b)複数の変調波周波数区間において、変調波Sの最小周波数を含む低周波数側の変調波周波数区間においては、その変調波Sの最小周波数をその変調波周波数区間の最小周波数とする。
(c)下限周波数fc-lowerまで動作させて全変調波周波数区間数を少なくする場合は、各変調波周波数区間において、その区間のPWMパルスNとその区間の変調波最小周波数との積がキャリア波下限周波数fc-lowerになる様に選定する。
(d)上限周波数fc-lowerまで動作させる場合は、各変調波周波数区間において、その区間のPWMパルスNとその区間の変調波最大周波数との積がキャリア波上限周波数fc-lowerになる様に選定する。
【0065】
(PWMパルス数N)
変調波Sの最大周波数を含む最も高い高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nを偶数最小値の最小PWMパルス数Nminとし、低周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nを、高周波数側から低周波数側に向かって順に最小PWMパルス数Nminに2を加算した値とする。最小PWMパルス数Nminとして“4”を設定した場合には、高周波数側から低周波数側に向かう各変調波周波数区間に対して順に6,8,・・・の値をPWMパルス数Nとして設定する。
【0066】
(最小PWMパルス数Nminの設定)
最小PWMパルス数Nminの設定を、最小PWMパルス数Nminの増加に対してスイッチング損失が増加する増加特性と、最小PWMパルス数Nminの増加に対して高調波発生量が減少する減少特性との両者の増減特性の均衡に基づいて行う。
【0067】
(出力工程)
出力工程は、PWMインバータのインバータ出力から高調波成分を除去するローパスフィルタのカットオフ周波数f-cutoffを、
(a)最大変調波周波数fs-maxと、最大変調波周波数fs-maxに対応付けられた最小PWMパルス数Nminにより発生する最低高調波次数n-minとの積(n-min・fs-max)に(Nmin/(Nmin+2)を乗算して得られる周波数値(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))と、
(b)最小変調波周波数fs-minと、最小変調波周波数fs-minに対応付けられたこの変調波周波数区間のPWMパルス数Nにより発生する最低高調波次数n-minとの積で得られる周波数値(n-min・fs-min)と、
の何れか小さい周波数値により定める。
【0068】
(効果)
本発明は、キャリア波Cと変調波Sとの間の周波数及び/又は位相の同期ずれを抑制し、周波数及び/又は位相について同期性を保持させることにより、RF帯域で広帯域の正弦波を出力することができるという効果を奏する他、RF帯域におけるスイッチング損失を低減する効果、及び単一の出力フィルタにより高調波成分を除去してRF帯域で広帯域の正弦波を出力する効果を奏する。
【0069】
(スイッチング損失)
変調波Sに対してキャリア波Cの対称性を持たせることにより、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形を、変調波Sの半周期のπの位相の時点を基準時点として対称とし、各レグにおけるスイッチング損失を均等化して偏りを抑制する。
【0070】
変調波Sに対するキャリア波の対称性は、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcの間に偶数倍の関係を持たせること、及びキャリア波Cを奇関数波形又は偶関数波形とすることにより得ることができる。
【0071】
(単一の出力フィルタ)
正弦波の出力に含まれる高調波を除去するローパスフィルタのカットオフ周波数は上限周波数fc-upperに依拠して定まるため、上限周波数fc-upperを設定することによりカットオフ周波数f-cutoffを抑制することができ、このカットオフ周波数を用いたローパスフィルタにより広帯域の正弦波の出力に含まれる高調波を単一の出力フィルタで除くことができる。
【発明の効果】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、広帯域RF電源のRF帯域における可変周波数制御において、キャリア波Cと変調波Sとの間の周波数及び位相の同期ずれを抑制し、周波数及び位相に同期性を有する正弦波を広帯域で出力することができる。
本発明は、高周波帯域における正弦波においてPWMインバータによるスイッチング損失を抑制し、高周波帯域の正弦波を出力する高周波帯域運転を行うことができる。
本発明は、広帯域における正弦波の出力において、広帯域の全周波数域において単一の出力フィルタにより高調波成分を除去して正弦波を出力する広帯域運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本発明の広域RF電源の概略構成を説明するための概略構成図である。
図2】PWMインバータ及びローパスフィルタの一構成例を説明するための回路例である。
図3】下限周波数fc-lowerまで動作させる場合の例で、広帯域における周波数同期性について説明するための図である。
図4】最小PWMパルス数Nminの設定を説明するための図である。
図5】変調波Sに対するキャリア波の奇関数及び偶関数の特性を説明するための図である。
図6】本発明のキャリア波生成部の構成例を説明するための図である。
図7】本発明の広域RF電源の構成例1の動作例を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の広域RF電源の構成例2の動作例を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の広域RF電源の図7のS1からS7の工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の広域RF電源の図7のS1からS7の工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。
図11】本発明の広域RF電源の図7のS1からS7の工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。
図12】本発明の広域RF電源の図7のS1からS7の工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。
図13】キャリア波Cと変調波Sの関係を説明するための図である。
図14】fc=N・fsの関係を説明するための図である。
図15】ローパスフィルタのカットオフ周波数を説明するための図である。
図16】DCリンク電圧制御の構成例を説明するための図である。
図17】PWM制御による電圧制御の構成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、図1図6を用いて本発明の電源(広帯域RF電源)の概略及び同期性について説明し、図7図12を用いて動作例を説明し、図13図15を用いて本発明の電源のスイッチング損失及びローパスフィルタのカットオフ周波数について説明し、図16図17を用いて電圧制御の構成例を説明する。
【0075】
[本発明の広域RF電源の概略構成]
図1は本発明の広域RF電源の概略構成を説明するための概略構成図である。図1において、電源(広帯域RF電源)1は、直流電圧を出力する直流電源2と、直流電源2が供給する直流電圧Vをインバータ出力VinVに変換し、トランスTrで電圧変換した出力V2を出力するPWMインバータ3と、PWMインバータ3が出力するトランスTrの出力V2の高調波成分を除去するローパスフィルタ4と、PWMインバータ3をPWM制御するインバータ制御部5を備える。インバータ制御部5はPWM制御部6とキャリア波生成部7を備える。なお、直流電源2は直流電圧を直接に出力する電源の他、交流電圧を整流した直流電圧を出力する電源を用いても良い。
【0076】
キャリア波生成部7は、
(a)上限周波数及び下限周波数で周波数範囲が限定されたキャリア波可変周波数範囲と、
(b)PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分される変調波可変周波数範囲と、
を備え、
(c)各変調波周波数区間において、この変調波周波数区間内の変調波周波数fsと変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nとを用いてfc=N・fsの関係に基づいて定まるキャリア波周波数fcのキャリア波Cを生成する。
【0077】
PWM制御部6は、キャリア波生成部7が生成したキャリアCと変調波Sとを比較してPWMインバータ3をPWM制御するPWMパルスを生成する。PWMインバータ3は、PWMパルスに基づいて直流電圧Vをインバータ変換してインバータ出力Vinvを生成する。
【0078】
PWMインバータ3が備えるトランスTrによりインバータ出力Vinvを出力Vに変換して出力する。インバータ出力Vinvには基本波成分の正弦波と高調波成分が含まれており、ローパスフィルタ4はPWMインバータ3が出力するトランスTrの出力Vに含まれる高調波成分を除去し、基本波成分の正弦波を出力する。ローパスフィルタ4のカットオフ周波数f―cutoffは、基本波の正弦波周波数を通過させ、高調波周波数を遮断する周波数であり、高調波次数nと変調波周波数fsとの積(n・fs)で表される。
【0079】
PWMインバータ3において、PWMパルス数Nと、パルス信号によるオン/オフ動作によって発生する変調波Sの高調波次数nとの間には、変調波周波数fsが高くPWMパルス数Nが小さい場合には高調波は低次数から発生し、変調波周波数fsが低くPWMパルス数Nが大きい場合には高調波は高次数側に発生する関係がある。
【0080】
したがって、高い変調波周波数fsに対して設定される低次数の高調波を遮断する周波数と、低い変調波周波数fsに対して設定される高次数の高調波を遮断する周波数との何れか低い周波数をローパスフィルタのカットオフ周波数f-cutoffとして設定する。
【0081】
最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間のカットオフ周波数f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)と、最小変調波周波数のカットオフ周波数f-cutoff-min=n-min・fs-minとの比較において、f-cutoff-maxとf-cutoff-minとの比Kを
K=f-cutoff-max/f-cutoff-min
=(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))/(n-min・fs-min)とすると、
(a)K<1のときは、f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)をカットオフ周波数として選択し、
(b)K≧1のときは、f-cutoff-min=n-min・fs-minをカットオフ周波数として選択する。
【0082】
なお、変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間において、最も小さい最小変調波周波数fs-minは、最大変調波周波数fs-maxに(Nmin/(Nmin+2))を乗算して得られる値であり、Nminは最小PWMパルス数Nである。
【0083】
図2はPWMインバータ3及びローパスフィルタ4の一構成例を説明するための回路例を示している。
【0084】
PWMインバータ3はD級フルブリッジ増幅器30を備える。D級フルブリッジ増幅器30は単相フルブリッジ回路Br及び出力トランスTrを備え、直流電源の直流電圧Vを単相フルブリッジ回路Brはスイッチング動作によりインバータ変換してインバータ出力Vinvを生成し、出力トランスTrはPWMパルス波形の出力Vを出力する。単相フルブリッジ回路Brは、スイッチング素子Q1、Q2、及びスイッチング素子Q3、Q4の4つのスイッチング素子を備え、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の直列回路を一方のレグとし、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の直列回路を他方のレグとして単相ブリッジ回路を構成する。スイッチング素子Q1、Q3の高電圧側には直流電源の高電圧側が接続され、スイッチング素子Q2、Q4の低電圧側には直流電源の低電圧側が接続され、一方のレグの点X及び他方のレグの点Yを出力トランスTrの入力側に接続する。PWMインバータ3は、スイッチング素子Q1、Q2、及びスイッチング素子Q3、Q4のオン/オフ動作をPWMパルスにより切り換えることにより直流電圧Vを交流電圧Vinvにインバータ変換する。
【0085】
PWMインバータ3によりインバータ変換された交流電圧Vinvは出力トランスTrにより交流電圧Vに電圧変換される。ローパスフィルタ4は出力トランスTrの出力側に接続され、PWMパルス波形の交流電圧の出力Vを入力する。ローパスフィルタ4は、例えば、インダクタLとキャパシタCaのLC回路で構成され、PWMパルス波形の交流電圧の出力Vに含まれる高調波成分を除去し、得られた正弦波の出力Voutを負荷Rに供給する。
【0086】
(A)広帯域における周波数同期性
本発明において、RF帯域の広帯域周波数範囲を複数の変調波周波数区間に区分し、各変調波周波数区間をPWMパルス数Nの切り換えにより選択し、選択した各変調波周波数区間でキャリア波周波数fcを求めることにより、RF帯域の広帯域において、キャリア波Cと変調波Sとの間の周波数及び位相の同期ずれが抑制され、周波数及び位相に同期性を有する正弦波を広帯域で出力する。
【0087】
変調波周波数fsが可変である変調波可変周波数範囲の全範囲を、キャリア波の上下限周波数に基づいて、PWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分する。各変調波周波数区間においてそれぞれの変調波周波数区間の対応付けられた整数のPWMパルス数Nと変調波周波数fsとにより、fc=N・fsの関係を満足するキャリア周波数fcの周波数を変化させる。
【0088】
このように、変調波周波数fsが広帯域で変化した場合であっても、変化した変調波周波数fsが含まれる各変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、fc=N・fsの関係に基づいてキャリア周波数fcを可変とすることにより、キャリア波と変調波Sとの間の周波数を周期させ、周期性を満たすことができる。
【0089】
図3を用いて、広帯域における周波数同期性について説明する。図3はキャリア周波数fcを下限周波数fc-lowerまで動作させる場合の例を示している。本発明において、変調波を可変とする変調波可変周波数範囲を、PWMパルス数Nが対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分する。図3において、変調波可変周波数範囲[fs-max,fs-min]は、最大変調波周波数fs-maxと最小変調波周波数fs-minとの範囲であり、広域RF電源が出力する正弦波の周波数範囲に基づいて必要に応じて任意に設定することができる。なお、変調波可変周波数範囲[a,b]は周波数範囲を表し、aとbとの間にはa>bの大小関係があるものとする。
【0090】
RF(Radio Frequency)の周波数帯域は、LF帯域(30-300kHz)、MF帯域(300kHz-3MHz)、HF帯域(3MHz-30MHz)、VHF帯域(30MHz-k)、UHF帯域(300MHz-30GHz)であるが、図3は変調波可変周波数範囲[fs-max,fs-min]の一例であり、例えば変調波可変周波数範囲をMF帯域及びHF帯域において[13.56MHz,2.59MHz]としている。
【0091】
図3(a)は変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの関係を示し、図3(b)は変調波周波数fsとPWMパルス数Nとの関係を示している。
【0092】
(a)変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの関係:
図3(a)に示す変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの関係において、キャリア波周波数fcの上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerを設定する。
【0093】
(a1)キャリア波上下限周波数の設定
キャリア波の上限周波数fc-upperを、最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の最小PWMパルス数Nminとfs-maxの積により設定し、下限周波数fc-lowerをキャリア波上限周波数fc-upperとNmin/(Nmin+2)との積により設定する。
【0094】
(a2)変調波周波数区間の設定
変調波周波数区間の設定は、複数の変調波周波数区間において、
(1)変調波の最大周波数を含む高周波数側の変調波周波数区間においては、その変調波の最大周波数fs-maxをその変調波周波数区間の最大周波数として設定する。
(2)変調波周波数区間のキャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させて全変調波周波数区間数を少なくする場合は、下限周波数fc-lowerの値を用いてfs-min(N)とfs-max(N)を定める。N>Nminにおいて、変調波周波数区間Nの最小変調波周波数fs-min(N)をfs-min(N)=fc-lower/Nにより設定し、変調波周波数区間Nの最大変調波周波数fs-max(N)をfs-max(N)=fc-lower/(N-2)により設定する。
(3)変調波周波数区間のキャリア波周波数を上限周波数fc-upperまで動作させる場合は、上限周波数fc-upperを用いて変調波周波数区間Nの最大変調波周波数fs-max(N)及び最小変調波周波数fs-min(N)を定める。変調波周波数区間Nの最大変調波周波数fs-max(N)をfs-max(N)=fc-upper/Nにより設定し、変調波周波数区間Nの最小変調波周波数fs-min(N)をfs-min(N)=fc-upper/(N+2)により設定する。
【0095】
キャリア波の上限周波数fc-upper及び下限周波数fc-lowerの設定と、変調波周波数区間の設定により、RF帯域の広帯域周波数範囲をPWMパルス数Nに対応付けられた複数の変調波周波数区間に区分する。
【0096】
変調波周波数fsに対応する各変調波周波数区間において、その変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nに切り換え、切り換えたPWMパルス数Nに対応するキャリア波周波数fcをfc=N・fsに基づいて求める。
【0097】
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間は[fs-max,fs-max・Nmin/(Nmin+2)]である。キャリア波周波数fcは上限周波数fc-upper=Nmin・fs-maxと下限周波数fc-lower=fc-upper・Nmin/(Nmin+2)との周波数区間により設定される。この変調波周波数区間に含まれる変調波周波数fsに対するキャリア波周波数fcは、変調波周波数区間に対応で受けられたPWMパルス数N=Nminを用いてfc=Nmin・fsに基づいて定まる周波数となる。なお、[a,b]で示した変調波周波数区間は、aは高周波数を示しbは低周波数を示している。以下の説明においても同様としている。
【0098】
キャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合のN>Nminにおける変調波周波数区間は[fc-lower/(N-2),fc-lower/N]であり、キャリア波周波数を上限周波数fc-upperまで動作させる場合の変調波周波数区間は[fc-upper/N,fc-upper/(N+2)]である。この変調波周波数区間に含まれる変調波周波数fsに対するキャリア波周波数fcは、変調波周波数区間に対応で受けられたPWMパルス数Nを用いてfc=N・fsに基づいて定まる周波数となる。
【0099】
(b)変調波周波数fsとPWMパルス数Nとの関係:
(b1)PWMパルス数N
図3(b)は変調波周波数fsとPWMパルス数Nとの関係を示し、変調波Sの最大周波数を含む高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nを偶数最小値の最小PWMパルス数Nminとし、各変調波周波数区間のPWMパルス数Nを、低周波数側の変調波周波数区間に向かって最小PWMパルス数Nminに順に2を加算していく。最小PWMパルス数Nminとして“4”を設定した場合には、高周波数側から低周波数側に向かう各変調波周波数区間に対して順に6,8,・・・の値をPWMパルス数Nとして設定する。
【0100】
(b2)PWMパルス数Nの偶数要件:
周波数及び位相の同期性から、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの間はPWMパルス数Nによりfc=N・fsで表される関係を備える。PWMパルス数Nは、変調波Sに対するキャリア波Cの対称性の要件から偶数とする。
【0101】
変調波周波数fsとキャリア波周波数fcの間に偶数倍の関係を持たせることにより変調波Sの1周期において、前半の半周期の波形形状と後半の半周期の波形形状との対称性、及びこれに伴うPWMパルスの対称性を担保し、変調波Sの1周期内におけるPWMインバータの各レグのスイッチング損失の偏りを抑制する。
【0102】
変調波周波数fsに対してキャリア波周波数fcをfc=N・fsとし、キャリア波周波数fcを変調波周波数fsの偶数倍(N倍:Nは偶数)の関係を持たせることにより、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形に対称性が得られる。
【0103】
一方、変調波周波数fsに対してキャリア波周波数fcをfc=(N+1)・fsとし、キャリア波周波数fcが変調波周波数fsの奇数倍((N+1)倍:Nは偶数)の関係にある場合には、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形とは時間軸に対して反転した関係となるため、対称性が満たされなくなる。
【0104】
変調波Sに対してキャリア波Cに対称性を持たせることにより、変調波Sの1周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形を、変調波Sの半周期のπの位相の時点を基準時点として対称とし、インバータ出力のPWM波形の前半半周期と後半半周期の対称性を維持する。
【0105】
変調波Sに対してキャリア波Cに対称性を持たせることによりインバータ出力のPWM波形の前半半周期と後半半周期の対称性は維持される。キャリア波Cが奇関数である場合と偶関数である場合とではスイッチング損失の偏り抑制が相違する。キャリア波Cが奇関数の場合には、各レグのゲート信号のデューティー比は50%となるため、各レグにおけるスイッチング損失は均等化され、スイッチング損失の偏りを抑制される。一方、キャリア波Cが偶関数の場合には、各レグのゲート信号のデューティー比は50%とならないため、各レグにおけるスイッチング損失は不均等となり、スイッチング損失の偏りは抑制されない。
【0106】
(b3)最小PWMパルス数Nminの設定
最小PWMパルス数Nminを、最小パルス数Nminの増加に対するスイッチング損失の増加特性と、最小PWMパルス数Nminの増加に対する高調波発生量の減少特性との両者の増減特性の均衡に基づいて選定する。
【0107】
RF帯域の単相インバータではスイッチング損失を低減して高効率を得るために、PWMパルス数Nを小さくすることが求められる。PWMパルス数Nは変調波周波数が低周波数ほど大きくなるため、高周波数側の変調波最大周波数におけるPWMパルス数Nを小さくなるように最小PWMパルス数Nminを選定する必要がある。一方、PWMパルス数Nが小さくなるほどインバータ出力に含まれる高調波発生量は大きくなるため、インバータ出力に含まれる高調波発生量を減少させるために、高周波数側においてPWMパルス数Nが大きくなる最小PWMパルス数Nminを選定する必要がある、
【0108】
したがって、最小PWMパルス数Nminはスイッチング損失を低減するための低数値化と、高調波発生量の低減するための高数値化とのトレードオフの関係があるため、最小PWMパルス数Nminはこのトレードオフの関係を均衡するように選定する。また、PWMパルス数Nは波形の対称性から偶数であることが求められる。
【0109】
図4は最小PWMパルス数Nminの選定例を説明するための図である。図4において、横軸は最小PWMパルス数Nminであり、縦軸はスイッチング損失及び高調波発生量であり、図中の実線はスイッチング損失を示し、破線は高調波発生量を示している。なお、スイッチング損失及び高調波発生量の変化特性は説明の上から模式的に示したものであり、必ずしも実際の特性を示すものではない。
【0110】
スイッチング損失は最小PWMパルス数Nminに対して増加特性を示し、高調波発生量は最小PWMパルス数Nminに対して減少特性を示しており、両特性が交差する点により最小PWMパルス数Nminを選定することができる。例えば、スイッチング損失がSW1で表される特性を示し、高調波発生量がHI1で表される特性を示す場合には、両特性が交差する点P1はスイッチング損失及び高調波発生量が共に小さくなる。スイッチング損失と高調波発生量のトレードオフの点P1の最小PWMパルス数Nminは“4”となり、この値を最小パルス数Nminとして選定する。
【0111】
スイッチング損失の特性がSW1の不変の状態において、高調波発生量がHI2で表される特性に変化した場合には、その交差点P2からスイッチング損失と高調波発生量のトレードオフの点の最小PWMパルス数Nminは“6”が選定される。
【0112】
また、高調波発生量の特性がHI2の不変の状態において、スイッチング損失がSW2で表される特性に変化した場合には、その交差点Q1から最小PWMパルス数Nminは“4”が選定される。
【0113】
同様に、スイッチング損失の特性SW1,SW2、及び高調波発生量の特性HI1,HI2,HI3の何れの特性を有するかにより、これらの交差点P1,P2,P3、及びQ0,Q1,Q2により最小PWMパルス数Nminが選定される。
【0114】
そこで、最小PWMパルス数Nminの設定において、ここでは2,4,6を最小PWMパルス数Nminの候補として好適な最小PWMパルス数Nminを選定する。
【0115】
(1)最小PWMパルス数Nminとして偶数最小値の“2”を選定すると、スイッチング損失は最小となるが、fc-lower=fc-upper/2からキャリア波周波数fcの可変範囲は最大となり、高調波が最大となるため、変調波Sの可変周波数制御時に最大のローパスフィルタを用いて高調波を除去する必要がある。
【0116】
(2)最小PWMパルス数Nminとして“Nmin=6”を選定すると、“Nmin=4”よりもスイッチング損失は大となるが、高調波が小となるため、変調波Sの可変周波数制御時に“Nmin=4”よりも小型のローパスフィルタを用いて高調波を除去することができる。
【0117】
(3)最小PWMパルス数Nminとして“4”を選定した場合には、“2”の場合と“6”の場合の均衡をとる特性となるため、2,4,6を最小PWMパルス数Nminの候補とした場合には“4”を好適な最小PWMパルス数Nminとして選定する。
【0118】
(b4)変調波周波数区間とPWMパルス数との対応付け
図3(b)に示す変調波周波数fsとPWMパルス数Nとの関係において、PWMパルス数Nは各変調波周波数区間に対応して設定される。
【0119】
PWMパルス数Nは、高周波数側の変調波周波数区間から低周波数側の変調波周波数区間に向かってPWMパルス数Nに“2”を順に加算した値により設定される。なお、PWMパルス数Nはキャリア波の対称性から偶数の整数であるため、各変調波周波数区間に設定されるPWMパルス数Nも偶数の整数となる。
【0120】
最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間(Nmin区間)に設定されるPWMパルス数Nは最小のPWMパルス数Nminであり、最小変調波周波数fs-minを含む変調波周波数区間(Nmax区間)に設定されるPWMパルス数Nは最小のPWMパルス数Nmaxであり、キャリア波の対称性から偶数の整数である。
【0121】
(b5)変調波周波数区間の設定
上記した関係から、変調波周波数の最大周波数fs-maxのPWMパルス数Nを最小PWMパルス数Nminとすれば、fc―upper=Nmin・fs-max、fc―lower=fc―upper・Nmin/(Nmin+2)である。
【0122】
下限周波数fc-lowerまで動作させる場合は、fc-lowerの値を用いてfs-min(N)とfs-max(N)を定める。上記の関係により、キャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合のPWMパルス数Nに対する変調波周波数fsが可変とする周波数区間は以下で表される。
N=Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―upper/Nmin,fc―lower/Nmin
N=Nmin+2の区間のfsの可変区間:
fs=[fc―lower/Nmin,fc―lower/(Nmin+2)]
N>Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―lower/(N-2),fc―lower/N]
【0123】
上限周波数fc-upperまで動作させる場合は、fc-upperの値を用いてfs-max(N)とfs-min(N)を定める。上記の関係により、キャリア波周波数を上限周波数fc-upperまで動作させる場合のPWMパルス数Nに対する変調波周波数fsが可変とする周波数区間は以下で表される。
N=Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―upper/Nmin,fc―lower/Nmin
N=Nmin+2の区間のfsの可変区間:
fs=[fc―upper/(Nmin+2),fc―upper/(Nmin+4)]
N>Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―upper/N,fc-upper/(N+2)]
【0124】
以下、キャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合のキャリア波周波数fcが下限周波数fc-lowerと上限周波数fc-upperで制限された最小PWMパルス数Nminにおける変調波可変周波数範囲の一例を以下の表1に示す。表1に示す変調波可変周波数範囲は、RF(Radio Frequency)の周波数帯域において、HF帯域(3MHz-30MHz)及びVHF帯域(30MHz-300MHz)に相当する周波数帯域の例である。変調波可変周波数範囲は一例であって、この例に限られるものではない。
【表1】
【0125】
各変調波周波数区間はPWMパルス数Nと対応付けられ、fc=N・fsの関係が維持される。変調波周波数区間が13.56MHz≧fs≧9.04MHzの周波数範囲では、PWMパルス数Nは“4”が対応付けられ、変調波周波数区間が3.02MHz≧fs≧2.59MHzの周波数範囲では、PWMパルス数Nは“14”が対応付けられ、変調波周波数fsによってPWMパルス数Nを切り換える。
【0126】
(b5)各変調波周波数区間のPWMパルス数N
(1)変調波Sの最大周波数を含む最も高い高周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nは偶数最小値の最小PWMパルス数Nminである。
(2)低周波数側の変調波周波数区間に対応付けられるPWMパルス数Nは、高周波数側から低周波数側に向かって順に最小PWMパルス数Nminに2を加算した値である。
【0127】
各変調波周波数区間のPWMパルス数Nは、高周波数側の変調波周波数区間に最小PWMパルス数Nminを設定し、低周波数側の変調波周波数区間に向かって最小PWMパルス数Nminに順に2を加算することで設定する。
【0128】
最小PWMパルス数Nminとして4を設定した場合には、高周波数側から低周波数側に向かう各変調波周波数区間に対して順に6,8,・・・の値をPWMパルス数Nとして設定する。
【0129】
高周波数側の変調波周波数区間に対して小さなPWMパルス数Nを設定し、低周波数側の変調波周波数区間に対して大きなPWMパルス数Nを設定することにより、fc=N・fsの関係から各変調波周波数区間におけるキャリア周波数fcを、キャリア波の上下限周波数間に含まれるキャリア波可変周波数範囲内に納めることができる。
【0130】
(c)変調波周波数fsとスイッチング損失との関係:
スイッチング損失LossはPWMパルス数Nの単位時間内におけるスイッチング回数nswに依拠する。したがって、スイッチング損失Lossは、PWMパルス数Nと変調波周波数fsとの積(nsw=N・fs)に基づいて評価することができる。
【0131】
(B)広帯域における位相同期性
本発明において、キャリア波Cを変調波Sに対して奇関数あるいは偶関数とすることにより、変調波Sの一周期内の基準点に対するキャリア波Cの波形の対称性を担保し、インバータ出力のPWM形の前半半周期と後半半周期の対称性を維持する。
【0132】
(a)キャリア波の波形特性
キャリア波は、奇関数波形又は偶関数波形である。奇関数は任意のxに対してf(x)=-f(-x)を満たす関数であり、基準時点のx=0に対して点対称の対称性を備える。奇関数波形として、例えば、正弦波波形や三角波波形がある。
【0133】
一方、偶関数は任意のxに対してf(x)=f(-x)を満たす関数であり、基準時点のx=0に対して前後の時点について対称性を備える。
【0134】
キャリア波を奇関数波形又は偶関数波形とすることにより、キャリア波Cを変調波Sに対して対称な波形とすることができ、PWMインバータを形成するブリッジ回路において、対称性を有するキャリア波Cを用いることより、半周期毎に切り換わるインバータ出力のPWM電圧波形は対称となる。
【0135】
図5(a)はキャリア波が変調波Sに対して奇関数である場合を示し、図5(b)はキャリア波が変調波Sに対して偶関数である場合を示し、実線及び一点鎖線で示された互いに180°位相が反転した変調波Sと、破線で示されたキャリア波Cとを示している。なお、ここでは、PWMパルス数Nが2の場合を示している。
【0136】
PWMパルスは変調波Sとキャリア波Cとを比較することにより生成される。図5(a)及び図5(b)において、PWMインバータが備えるブリッジ回路のスイッチング素子Q1-スイッチング素子Q4のゲート信号を示している。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q3、及びスイッチング素子Q2とスイッチング素子Q4は、ブリッジ回路の2つのレグを互いに逆相で導通させる関係にある。
【0137】
図5(a)の奇関数の場合、スイッチング素子Q1のゲート信号とスイッチング素子Q3のゲート信号とを比較すると、変調波Sの半周期であるπに対して波形が互いに対称の関係となる。スイッチング素子Q1のゲート信号とスイッチング素子Q2のゲート信号とは反転した関係にあり、スイッチング素子Q3のゲート信号とスイッチング素子Q4のゲート信号とは反転した関係にあるため、スイッチング素子Q2のゲート信号とスイッチング素子Q4のゲート信号についても変調波Sの半周期であるπに対して波形が互いに対称の関係となる。この波形の対称性は、変調波Sの一周期において前半の半周期のキャリア波Cの信号波形と後半の半周期のキャリア波Cの信号波形を、変調波Sの半周期のπの位相の時点を基準時点として対称の関係とし、両波形間の位相を同期させる。
【0138】
変調波Sに対してキャリア波Cに対称性を持たせることによりインバータ出力のPWM波形の前半半周期と後半半周期の対称性は維持される。この対称性において、キャリア波Cが奇関数波形の場合と偶関数波形の場合とではスイッチング損失の均等性が異なる。
【0139】
キャリア波Cが奇関数の場合には、各レグのゲート信号のデューティー比は50%となるため、各レグにおけるスイッチング損失は均等化され、スイッチング損失の偏りを抑制される。一方、キャリア波Cが偶関数波形の場合には、各レグのゲート信号のデューティー比は50%とならないため、各レグにおけるスイッチング損失は不均等となり、スイッチング損失の偏りは抑制されない。
【0140】
本発明における可変周波数制御はキャリア波周波数fcを一定値に保つのではなく、PWMパルス数Nの切り換えによって、変動範囲の上限周波数と下限周波数を定めたキャリア波周波数fc及び変調波周波数fsとを可変としながら、fcとfsの間にfc=N・fsの関係を維持しながら奇関数又は偶関数に保つことにより、スイッチング損失と高調波発生量とを抑制する。さらに、キャリア波Cを奇関数波形とすることにより、ブリッジ回路の各レグのスイッチング損失を均等化し、スイッチング損失の偏りを抑制する。
【0141】
(C)キャリア波生成部の構成例
キャリア波生成部の構成例について、図6(a),図6(b)を用いて説明する。
【0142】
(1)構成例1:
図6(a)に示す構成例1は、キャリア波上下限周波数設定部7a、変調波周波数区間設定部7b、キャリア波周波数演算部7c、及びキャリア波出力部7dを備える。
【0143】
キャリア波上下限周波数設定部7aは変調波周波数fsの範囲[fs-max,fs-min]、及び最小PWMパルス数Nminに基づいてキャリア波の上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerを設定する。
【0144】
変調波周波数区間設定部7bは、キャリア波の上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lower、及びPWMパルス数Nに基づいて変調波周波数fsの全範囲を複数の変調波周波数区間に区分すると共に、各変調波周波数区間に対してPWMパルス数Nを対応付けし、これらを特性データとして設定する。なお、変調波Sの最大周波数を含む最も変調波周波数が高い変調波周波数区間には最小PWMパルス数Nminが対応付けられ、変調波周波数が低い変調波周波数区間には、変調波周波数fsが低くなる方向に向かってNminに“2”を順に加算したPWMパルス数Nが対応付けられる。
【0145】
キャリア波周波数演算部7cは、変調波周波数区間設定部7bで設定した特性データに基づいて、変調波周波数fsに対するキャリア波周波数fcをfc=N・fsの関係に基づいて演算する。
【0146】
キャリア波出力部7dは、キャリア波周波数演算部7cで求めたキャリア波周波数fcのキャリア波Cを出力する。
【0147】
(2)構成例2:
図6(b)に示す構成例2は、特性データ記憶部7e、読み出し部7f、キャリア波周波数演算部7c、及びキャリア波出力部7dを備える。
【0148】
特性データ記憶部7eは、変調波周波数区間設定部7bで設定した変調波周波数区間及び各変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nの特性データを記憶する。読み出し部7fは、変調波周波数fsを入力し、その変調波周波数fsが含まれる変調波周波数区間、及び対応付けられたPWMパルス数Nの特性データを特性データ記憶部7eから読み出す。特性データ記憶部7eの特性データの記憶は、例えば変調波周波数区間とPWMパルス数Nとをテーブル形式で格納する他、任意の形式で格納することができる。
【0149】
キャリア波周波数演算部7cは、特性データ記憶部7eから読み出した特性データに基づいて、変調波周波数fsに対するキャリア波周波数fcをfc=N・fsの関係に基づいて演算し、キャリア波出力部7dは、キャリア波周波数演算部7cで求めたキャリア波周波数fcのキャリア波Cを出力する。
【0150】
構成例2によれば、予め設定しておいた特性データを特性データ記憶部7eに記憶し、変調波周波数fsの変化に対して対応する特性データを読み出すことができるため、特使データを設定する演算処理を短縮することができる。
【0151】
(D)広帯域RF電源の構成例の動作例
次に、広帯域RF電源の構成例の動作例について図7図12を用いて説明する。図7は構成例1の動作例を説明するためのフローチャートであり、図8は構成例2の動作例を説明するためのフローチャートである。また、図9図12図7のS1からS7の工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。各フローチャートにおいて符号Sは動作順を示している。
【0152】
(1)構成例1の動作例
図7のフローチャートは構成例1の動作例を示している。
(S1)変調波Sの変調波可変周波数範囲[fs-max,fs-min]を設定する。変調波Sの最小周波数fs-min及び最大周波数fs-maxは、広帯域RF電源が出力する基本波成分の正弦波の周波数範囲に基づいて設定する。この設定は一例であって、他の基準に基づいて変調波可変周波数範囲を設定してもよい。
【0153】
(S2)最小PWMパルス数Nminを、最小PWMパルス数Nminの増加に対するスイッチング損失の増加特性と、最小PWMパルス数Nminの増加に対する高調波発生量の減少特性との両者の増減特性の均衡に基づいて選定する。
【0154】
minの設定の項で示したように、fc=N・fsの関係から、変調波周波数fsが高い周波数であるほどPWMパルス数Nは小さい値であり、PWMパルス数Nの値が大きいほどスイッチング損失Lossが大きくなる、最小PWMパルス数Nminの増加に対するスイッチング損失の増加特性により、スイッチング損失Lossを抑制するにはPWMパルス数Nが小さい値であることが求められる。
【0155】
一方、高調波発生量については、PWMパルス数Nの値が大きいほど高調波発生量が小さくなる。最小PWMパルス数Nminの増加に対する高調波発生量の減少特性により、高調波発生量を抑制するにはPWMパルス数Nが大きい値であることが求められる。
【0156】
(S3)キャリア波の上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerとを求める。キャリア波上下限周波数の設定の項で示したように、キャリア波の上限周波数fc-upperは、最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の最小PWMパルス数Nminとfs-maxの積により設定し、下限周波数fc-lowerはキャリア波上限周波数fc-upperと(Nmin/(Nmin+2))との積により設定する。
【0157】
S1で設定された変調波Sの最大小周波数fs-maxと、S2で設定された最小PWMパルス数Nminに基づいて、最大小周波数fs-maxが含まれる変調波可変周波数範囲での上限周波数fc-upperは(Nmin・fs-max)により設定される。一方、下限周波数fc-lowerはfc―upper・(Nmin/(Nmin+2))により設定される。したがって、最大周波数fs-maxが含まれる変調波可変周波数範囲におけるキャリア波可変周波数範囲は[fc-upper,fc-lower]=[Nmin・fs-max,fc―upper・(Nmin/(Nmin+2))]となる。
【0158】
(S4)PWMパルス数Nと対応付けられた変調波周波数区間を設定する。
変調波周波数区間の設定の項で示したように、PWMパルス数Nに対する変調波周波数fsが可変とする周波数区間を設定する。ここではキャリア波周波数を下限周波数fc-lowerまで動作させる場合の一例を示す。
N=Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―upper/Nmin,fc―lower/Nmin
N=Nmin+2の区間のfsの可変区間:
fs=[fc―lower/Nmin,fc―lower/(Nmin+2)]
N>Nminの区間のfsの可変区間:
fs=[fc―lower/(N-2),fc―lower/N]
【0159】
(S5)各変調波周波数区間内で変調波周波数fsとPWMパルス数Nを用いてfc=N・fsの関係に基づいてキャリア波周波数fcを求める。この関係から、周波数変化する変調波周波数fsが含まれる変調波周波数区間に応じてPWMパルス数Nを切り換えることにより、変調波周波数fsとPWMパルス数Nとに基づいてキャリア波周波数fcは求められる。
【0160】
(S6)S5で求めたキャリア波周波数fcのキャリア波Cを生成する。
(S7)変調波Sとキャリア波Cとを比較することによりPWMパルスを生成する。
【0161】
(S5)-(S7)の各工程は、変調波周波数fsが入力される度に、各入力するキャリア波周波数fcのキャリア波Cを生成してPWMパルスを生成する工程である。これに対して、
(S8)はS4で設定した変調波周波数区間と変調波周波数区間に対応付けられたPWMパルス数Nとを特性データとして記憶手段に格納しておき、その後のS10において、入力される変調波周波数fsに対して記憶手段から特性データを読み出し、PWMパルスを生成する。
【0162】
(2)構成例1の動作例
以下S10の工程について図8のフローチャートを用いて説明する。
(S11)変調波Sの変調波周波数fsを入力する。なお、入力する変調波周波数fsは変調波可変周波数範囲内の周波数とする。
(S12)記憶手段に格納された特性データを読み出す。
(S13)読み出された特性データに基づいて、入力した変調波周波数fsに対応するPWMパルス数Nを読み出し、fc=N・fsの関係に基づいてキャリア波周波数fcを求める。
(S14)S13で求めたキャリア波周波数fcのキャリア波Cを生成する。
(S15)S14で生成したキャリア波Cと変調波Sとを比較してPWMインバータに用いるPWMパルスを生成する。
【0163】
(3)構成例1の詳細な動作例
(S1)-(S7)の各工程においてN=Nmin区間、N=Nmin+2区間、N=N区間の各区間の動作例を図9図12のフローチャートに基づいて示す。
【0164】
(S1)変調波Sの変調波可変周波数範囲[fs-max、fs-min]を設定する。変調波Sの最大周波数fs-max及び最小周波数fs-minは、広帯域RF電源が出力する正弦波の周波数範囲に基づいて設定する。
【0165】
[N=Nmin区間]:
(S20)最小PWMパルス数Nminを設定する。
(S21)Nmin区間において、キャリア波の上限周波数fc-upper=Nmin・fs-max、及びキャリア波の下限周波数fc-lower=fc-upper・(Nmin/(Nmin+2))を算出する。
(S22)Nmin区間の最小周波数fs-min(Nmin)=fc-lower/Nminを求める。
(S23)Nmin区間の変調波周波数fsの可変範囲[fs-max(Nmin),fs-min(Nmin)]=[fc-upper/Nmin,fc-lower/Nmin]を求める。
【0166】
[N=Nmin+2区間]:
(S24)PWMパルス数Nmin+2を設定する。
(S25)変調波周波数fsのNmin区間に対応する変調波周波数区間の最小周波数fs-min(Nmin)をNmin+2区間に対応する変調波周波数区間の最大周波数fs-max(Nmin+2)=fc-lower・/Nminとして設定する。
(S26)Nmin+2区間の最小周波数fs-min(Nmin+2)=fc-lower/(Nmin+2)を求める。
(S27)Nmin+2区間の変調波周波数fsの可変範囲[fs-max(Nmin+2),fs-min(Nmin+2)]=[fc-lower/Nmin,fc-lower/(Nmin+2)]を求める。
【0167】
[N>Nmin区間]:
(S28)PWMパルス数Nを設定する。
(S29)変調波周波数fsのN-2区間に対応する変調波周波数区間の最小周波数fs-min(N-2)をN区間に対応する変調波周波数区間の最大周波数fs-max(N)=fc-lower/(N-2)として設定する。
(S30)N区間の最小周波数fs-min(N)=fc-lower/Nを求める。
(S31)N区間の変調波周波数fsの可変範囲[fs-max(N),fs-min(N)]=[fc-lower/(N-2),fc-lower/N]を求める。
【0168】
[N=Nmax区間]
(S32)変調波Sの変調波周波数fsの減少に伴って最小周波数fs-minとなったか否かを判定する。変調波周波数fsが最小周波数fs-min以上である場合には、S28からS31を繰り返す。変調波周波数fsが最小周波数fs-min未満となった場合には、変調波周波数fsが変調波可変周波数範囲外となったと判定し、変調波周波数区間での設定を終了する。
(S33)変調波周波数区間での設定が終了した後、広域RF電源から出力する基本波成分の正弦波の周波数に対応する変調波Sの変調波周波数fsを入力する。
(S34)変調波周波数fsの変調波周波数区間において、入力した変調波周波数fsに対応するキャリア波Cのキャリア波周波数fcを算出する。
(S35)入力する変調波周波数fsが変化した場合には、S33,S34を繰り返してキャリア波周波数fcを算出する。
(S36)広域RF電源から基本波成分の正弦波の出力を継続する場合にはS33に戻り、出力継続を終了する場合には広域RF電源からの正弦波の出力を終了する。
【0169】
(スイッチング損失)
次に、PWMインバータにおけるスイッチング損失、及び本発明の広域RF電源によるスイッチング損失の抑制について説明する。
【0170】
キャリア波Cと変調波Sは、キャリア波周波数fcと変調波周波数fsとNとの間にfc=N・fsの関係を備える。図13はキャリア波が三角波の場合について、PWMパルス数Nが4,6の場合の例を示している。
【0171】
図13(a)は変調波S及びキャリア波Cの単位時間内の周期はそれぞれ1周期及び4周期であり、変調波Sの1周期当たりのPWMパルス数Nは“4”である。また、単位時間当たりのキャリア波Cのパルス数は4・fsとなり、キャリア波周波数fcは4・fsとなる。
【0172】
図13(b)は変調波S及びキャリア波Cの単位時間内の周期はそれぞれ1周期及び6周期であり、変調波Sの1周期当たりのPWMパルス数Nは“6”である。キャリア波周波数fcは6・fsとなり、単位時間当たりのキャリア波Cのパルス数は6・fsとなる
【0173】
スイッチング動作でオン/オフする単相PWMインバータは、スイッチング素子のオン/オフ切り換え動作をPWM制御により行って交流波形を出力する。単相PWMインバータにおいてスイッチング素子のオン/オフ切り換え動作は、オン時点及びオフ時点の切り換え時点において電圧の遷移及び電流の遷移に遅延が生じる。この電圧及び電流の遷移遅延によりスイッチング素子には電圧と電流とが残存する時間帯が生じ、スイッチング損失と呼ばれる電力損失が発生する。このスイッチング損失には、単位時間におけるオン/オフ切り換え動作の頻度であるスイッチング周波数に依存する特性があり、スイッチング周波数が高い程スイッチング損失は大きくなる。単相PWMインバータはキャリア波(搬送波)周波数がスイッチング周波数となるため、基本波成分の正弦波を出力する単相PWMインバータのスイッチング損失は、方形波を出力する方形波インバータのスイッチング損失と比較して、両者のスイッチング周波数の比率分だけ大きい。
【0174】
このため、基本波成分の正弦波をRF帯域で出力するRF帯域運転において、単相PWMインバータをRF帯域で動作させると、スイッチング動作で発生するスイッチング損失が過大になる。
【0175】
本発明の広域RF電源は、キャリア波周波数fcの上限を上限周波数fc-upperに設定し、下限を下限周波数fc-lowerに設定して、キャリア波周波数fcのキャリア波可変周波数範囲を制限する。変調波周波数fsが変調波可変周波数範囲内で変化するに伴ってPWMパルス数Nを切り換えることによって、fc=N・fsの関係に基づいて定まるキャリア波周波数fcの範囲を、キャリア波周波数fcのキャリア波可変周波数範囲内の収まるように制限する。
【0176】
スイッチング損失LossはPWMパルス数Nの単位時間内におけるスイッチング回数nswに依拠し、PWMパルス数Nと変調波周波数fsとの積(nsw=N・fs)に基づいて評価される。したがって、スイッチング損失は、変調波の一周期内のパルス数、あるいは単位時間内のキャリア波周波数fcに依存するため、PWMパルス数Nを切り換えながらPWMパルス数N及びキャリア波周波数fcを制限することによりスイッチング損失を抑制する。
【0177】
図14(a)-図14(c)はfc=N・fsの関係においてPWMパルス数Nが固定である場合を示している。
【0178】
変調波周波数fsの変化にかかわらず、PWMパルス数Nを一定値Nconstとした場合(図14(a))には、キャリア波周波数fcは変調波周波数fsの変化に伴ってfc=Nconst・fsの関係に基づいて直線状に増加する(図14(b))。
【0179】
スイッチング損失Lossは、キャリア波周波数fcと同様に変調波周波数fsに対して正の増加特性を有し、変調波周波数fsの変化に伴って増加し(図14(c))、変調波周波数fsが高い程大きくなり、スイッチング損失の上限を超える場合が生じる。
【0180】
図14(d)-図14(f)はfc=N・fsの関係においてPWMパルス数Nを切り換えながらキャリア周波数fcを上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerとの周波数範囲内に抑制する例を示している。
【0181】
PWMパルス数Nは、変調波周波数fsの変化に伴って、最小PWMパルス数Nminと最大PWMパルス数Nmaxとの間で切り換えられる(図14(d))。キャリアCのキャリア波周波数fcは、切り換えられるPWMパルス数Nに伴って上限周波数fc-upperと下限周波数fc-lowerとの周波数範囲内でfc=N・fsの関係に基づいて可変となる。このとき、変調波周波数fsはPWMパルス数Nに対応した変調波周波数区間内で変化する。
【0182】
スイッチング損失Lossは、キャリア波周波数fcと同様に変調波周波数fsに対して正の増加特性を有し、変調波周波数fsの変化に伴って増加する。しかしながら、PWMパルス数Nの切り換えに伴ってキャリア波周波数は上限周波数fc-upperを上限として制限される(図14(e))ため、スイッチング損失Lossは抑制される(図14(f))。
【0183】
(ローパスフィルタのカットオフ周波数)
ローパスフィルタはインバータ出力に含まれる高調波成分を除去し、基本波成分の正弦波を出力する。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、低周波数側の正弦波周波数を通過させ、高周波数側の高調波周波数を遮断する周波数である。高調波周波数は高調波次数nと変調波周波数fsとの積(n・fs)で表される
【0184】
PWMパルス数Nと、単相PWMインバータによって発生する変調波Sの高調波の次数nとの間には、変調波周波数fsが高くPWMパルス数Nが小さい場合には高調波は低次数から発生し、変調波周波数fsが低くPWMパルス数Nが大きい場合には高調波は高次数に発生する。
【0185】
ローパスフィルタにおいて、高調波成分を除去して基本波成分の正弦波を出力させるには、カットオフ周波数は周波数が最も低い高調波よりも低周波数であることが求められる。このために、高い変調波周波数fsに対しては低次数の高調波周波数を遮断する周波数、低い変調波周波数fsに対しては高次数の高調波周波数を遮断する周波数の内で、何れか低い周波数をローパスフィルタのカットオフ周波数として設定する。
【0186】
変調波可変周波数範囲の最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間において最小変調波周波数fs-minは、最大変調波周波数fs-maxに(Nmin/(Nmin+2))を乗算して得られる値である。一方、変調波可変周波数範囲で最も周波数が低い最小変調波周波数はfs-minで表させる。
【0187】
(a)変調波周波数fsが高い場合:
最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間の場合には、最大変調波周波数fs-maxと、最大変調波周波数fs-maxに対応付けられた最小PWMパルス数Nminにより発生する最低高調波次数n-minとの積(n-min・fs-max)に(Nmin/(Nmin+2))を乗算して得られる周波数値(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))をカットオフ周波数f-cutoffの候補とする。なお、最低高調波次数n-minは最大変調波周波数fs-max時において最も次数が低い高調波次数である。例えば、最小PWMパルス数Nminとして“4”を選択したときの最低高調波次数n-minは“3”であり、このときのカットオフ周波数f-cutoffの候補は(3・fs-max・(2/3))となる。
【0188】
(b)変調波周波数fsが低い場合:
変調波周波数fsが低い場合には、変調波可変周波数範囲の最小変調波周波数fs-minと、最小変調波周波数fs-minに対応付けられた最大PWMパルス数により発生する最低高調波次数n-minとの積で得られる周波数値(n-min・fs-min)がカットオフ周波数f-cutoffの候補となる。なお、最低高調波次数n-minは最小変調波周波数fs-min時において最も次数が低い高調波次数である。例えば、PWMパルス数Nが“14”のときの最低高調波次数n-minは“23”であり、このときのカットオフ周波数f-cutoffは(23・fs-min)となる。
【0189】
(c)カットオフ周波数
上記の(a)、(b)で得られるカットオフ周波数f-cutoffの候補の内、低い周波数をカットオフ周波数f-cutoffとして設定する。
【0190】
(d)カットオフ周波数の選択
最大変調波周波数fs-maxを含む変調波周波数区間の変調波周波数fsのカットオフ周波数f-cutoff-max=(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))と、最小変調波周波数fs-minのカットオフ周波数f-cutoff-min=n-min・fs-minとの比較において、f-cutoff-maxとf-cutoff-minとの比Kを
K=f-cutoff-max/f-cutoff-min
=(n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2)))/(n-min・fs-min
とすると、
K<1のときは、f-cutoff-max=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)をカットオフ周波数として選択し、
K≧1のときは、f-cutoff-min=n-min・fs-minをカットオフ周波数として選択する。
【0191】
ここで、Nmin=4とfs-max=13.56MHzのときn-min=3とし、Nmax=14とfs-min=2.59MHzのときn-min=23とした例では、f-cutoff-maxとf-cutoff-minとの比KはK=(3・13.56MHz・(4/6))/(23・2.59MHz)=0.455となる。この例ではK<1であるから、最大変調波周波数fs-maxを含む高周波数側の変調波周波数区間のカットオフ周波数f-cutoff-max=n-min・fs-max・(Nmin/(Nmin+2))を選択する。
【0192】
図15はローパスフィルタのカットオフ周波数を説明するための図であり、図15(a),(b),及び(c)は、変調波周波数fsに対するPWMパルス数N、最低高調波次数n-min、及び最低高調波周波数fn-minの概略特性を示している。図15(a)に示したPWMパルス数Nは、最小PWMパルス数Nminを“4”とし、最大PWMパルス数Nmaxを“14”とした例であり、このPWMパルス数Nに対する最低高調波次数n-minは、図15(b)に示すように“3”から“23”である。なお、最大PWMパルス数Nmaxが“14”のときの最低高調波次数は“23”から現れ、最小PWMパルス数Nminが“4”のときの最低高調波次数は“3”から現れる。
【0193】
図15(c)に示される最低高調波周波数fn-minにおいて、PWMパルス数Nが“4”のときの最低高調波周波数fn-min=n-min・fs-max・Nmin/(Nmin+2)は27.12MHzである。なお、このときの最低高調波次数n-minは“3”であり、fs-maxは13.56MHzとしている。一方、PWMパルス数Nが“14”のときの最低高調波周波数fn-min=n-min・fs-minは59.57MHzである。なお、このときの最低高調波次数n-minは“23”であり、fs-minは2.59MHzとしている。
【0194】
したがって、この例では、変調波周波数fsが変調波可変周波数範囲の最大周波数fs-maxのときの最低高調波周波数fn-minの27.12MHzをカットオフ周波数f-cutoffとして選択する。
【0195】
[電圧制御]
次に、電源の電圧制御について説明する。本発明の電源において電圧制御としてDCリンク電圧制御あるいはPWM制御を適用することができる。
【0196】
(DCリンク電圧制御)
DCリンク電圧制御は、直流電源の直流電圧をインバータ回路に供給するDCリンクの電圧を制御することにより、正弦出力の電圧を制御する。図16はDCリンク電圧制御を行う構成例を示している。
【0197】
電源1は、直流電圧を出力する直流電源2と、直流電源2が供給する直流電圧を正弦波に変換するPWMインバータ3と、直流電源2とPWMインバータ3とを接続し直流電圧を供給するDCリンク20と、DCリンク20の電圧を制御するDCリンク電圧制御部21と、PWMインバータ3の出力に含まれる高調波成分を除去するローパスフィルタ4と、PWMインバータ3をPWM制御するインバータ制御部5とを備える。インバータ制御部5はPWM制御部6とキャリア波生成部7とを備える。DCリンク20及びDCリンク電圧制御部21以外の構成は、図1に示した構成と同様である。基本波成分の正弦波の出力の電圧制御はDCリンク20の電圧を制御するDCリンク電圧制御部21によって行う。
【0198】
(PWM制御による電圧制御)
PWM制御による電圧制御は、PWMインバータ3を制御するPWM制御部によって正弦出力の電圧を制御する。図17はPWM制御による電圧制御を行う構成例を示している。
【0199】
電源1は、直流電圧を出力する直流電源2と、直流電源2が供給する直流電圧を正弦波に変換するPWMインバータ3と、PWMインバータ3が出力する正弦波の高調波成分を除去するローパスフィルタ4と、PWMインバータ3をPWM制御するインバータ制御部5とを備える。インバータ制御部5はPWM制御部6とキャリア波生成部7とを備え、図1に示した構成と同様である。正弦波の出力の電圧制御はPWM制御部6で変調率を制御して行う。
【0200】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る広帯域RF電源の一例であり、本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明のD級フルブリッジ増幅器のドライバ装置は、半導体製造装置や液晶パネル製造装置等に用いられる高周波電源(RFジェネレ-タ)に適用することができる。適用する高周波電源として、例えば可変電圧可変周波数電源(VVVF:Variable Voltage Variable Frequency)と可変電圧固定周波数電源(VVCF: Variable Voltage Constant Frequency)がある。
【符号の説明】
【0202】
1 電源(広帯域RF電源)
2 直流電源
3 PWMインバータ
4 ローパスフィルタ
5 インバータ制御部
6 PWM制御部
7 キャリア波生成部
7a キャリア波上下限周波数設定部
7b 変調波周波数区間設定部
7c キャリア波周波数演算部
7d キャリア波出力部
7e 特性データ記憶部
7f 読み出し部
20 DCリンク
21 DCリンク電圧制御部
30 D級フルブリッジ増幅器
Vd 直流電圧
Vinv インバータ出力
Vout 出力波
Br 単相フルブリッジ回路
C キャリア波
Ca キャパシタ
Loss スイッチング損失
N PWMパルス数
const 一定値
max 最大PWMパルス数
min 最小PWMパルス数
Q1、Q2、Q3,Q4 スイッチング素子
R 負荷
S 変調波
Tr 出力トランス
fc キャリア波周波数
fc―upper 上限周波数
fc―lower 下限周波数
-cutoff カットオフ周波数
fn 高調波周波数
fs 変調波周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17