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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012825
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/22 20060101AFI20220107BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20220107BHJP
   F01P 3/10 20060101ALI20220107BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20220107BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F02F3/22 A
F02F3/26
F01P3/10 A
F01P3/08 C
F01M1/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114934
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内村 豊光
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313CA06
3G313CA25
(57)【要約】
【課題】均一な冷却が可能なピストンを提供する。
【解決手段】ピストン10の頂面2に開口するように燃焼室60が設けられ、燃焼室60の下方に環状の冷却空洞20が設けられ、環状の冷却空洞20は下方に向かって開口してオイルジェット40からのオイルを受け入れる入口21、およびオイルを排出する出口31を有し、冷却空洞20は燃焼室60近い側の上側面23と、燃焼室60から遠い側の下側面24とによって規定されており、入口21における上側面23はピストン10のシリンダ内での往復方向に対して直交しているか、または一方向に傾斜しており、上側面23は出口31に近づくにつれて燃焼室60に近づくように傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン頂面に開口するように燃焼室が設けられ、
前記燃焼室の下方に環状の冷却空洞が設けられ、
前記冷却空洞は下方に向かって開口してオイルジェットからのオイルを受け入れる入口、およびオイルを排出する出口を有し、
前記冷却空洞は前記燃焼室に近い側の上側面と、前記燃焼室から遠い側の下側面とによって規定されており、
前記入口における前記上側面はピストンのシリンダ内での往復方向に対して直交しているか、または一方向に傾斜しており、
前記上側面は前記出口に近づくにつれて前記燃焼室に近づくように傾斜している、ピストン。
【請求項2】
前記下側面は前記出口に近づくにつれて前記燃焼室に近づくように傾斜している、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記燃焼室の開口付近において前記燃焼室の外側から内側へ突出するリップ部を有する、請求項1または2に記載のピストン。
【請求項4】
前記燃焼室内における温度差に応じて前記上側面は波形に形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンに関し、より特定的には、オイル通路としての冷却空洞を有するピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のピストンは、たとえば実開平2-137517号公報(特許文献1)、特開2010-96087号公報(特許文献2)、国際公開第2005/066481号(特許文献3)、特表2016-509160号公報(特許文献4)、特開平10-141135号公報(特許文献5)、特開昭60-132051号公報(特許文献6)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2-137517号公報
【特許文献2】特開2010-96087号公報
【特許文献3】国際公開第2005/066481号
【特許文献4】特表2016-509160号公報
【特許文献5】特開平10-141135号公報
【特許文献6】特開昭60-132051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、下方に向かって開口する入口及び出口を備えた冷却空洞を頂壁下面内の周縁に沿って形成するとともに、入口に向って開口するオイルジェットをシリンダブロックに設けることにより、該オイルジェットから噴射されたオイルを冷却空洞に供給して冷却するようにしたレシプロエンジンのピストンにおいて、冷却空洞の上壁面をピストンの下方に向って開口する入口部分から出口部分に至るにつれてピストンの頂面に近付くように変位する一対の傾斜面で構成したことを特徴とするレシプロエンジンのピストンが開示されている。
【0005】
従来の構造では、ピストンの下方に向かって開口する入口部分から出口部分に至るにつれて、ピストンの頂面に近づくように変位する一対の傾斜面で構成しているため、オイルジェットから噴射されたオイルは一対の傾斜面により構成される嶺部分に噴射されて左右に分かれる。この嶺部分において熱流束が大きくなり、均一な冷却が困難になるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、均一な冷却が可能なピストンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったピストンは、ピストン頂面に開口するように燃焼室が設けられ、燃焼室の下方に環状の冷却空洞が設けられ、環状の冷却空洞は下方に向かって開口してオイルジェットからのオイルを受け入れる入口、およびオイルを排出する出口を有し、冷却空洞は燃焼室に近い側の上側面と、燃焼室から遠い側の下側面とによって規定されており、入口における上側面はピストンのシリンダ内での往復方向に対して直交しているか、または一方向に傾斜しており、上側面は出口に近づくにつれて燃焼室に近づくように傾斜している。
【0008】
このように構成されたピストンでは、入口における上側面はピストンのシリンダ内での往復方向に対して直交しているか、または一方向に傾斜しているため、上側面において、互いに反対側の傾斜面が交差することで形成される嶺部分が生じない。その結果、入口付近の上側面の表面積を小さくすることができ、入口付近が過剰に冷却されることを防止できる。上側面は出口に近づくにつれて燃焼室に近づくように傾斜しているため、出口付近で燃焼室と上側面との距離が小さくなり燃焼室から上側面へ熱が伝達されやすくなる。その結果、出口側で熱流束を増加させ、ピストンを均一に冷却することができる。
【0009】
好ましくは、下側面は出口に近づくにつれて燃焼室に近づくように傾斜している。この場合には、下側面の傾斜に沿って冷却空洞内をオイルが流れるため、下側面内においてオイルの滞留を防止できる。その結果、滞留したオイルの揮発成分が蒸発してオイルが炭化することを防止できる。
【0010】
好ましくは、燃焼室の開口付近において燃焼室の外側から内側へ突出するリップ部を有する。この場合には、出口側のリップ部において高温となりやすいが、出口側で燃焼室に近づくように冷却空洞を設けているため、出口側のチップ部が高温になることを防止できる。
【0011】
好ましくは、燃焼室内における温度差に応じて上側面は波形に形成されている。この場合、たとえば燃焼室内における燃料噴霧に起因して燃焼室内に温度差が生じたとしても、高温部分と上側面との距離が近くなるように波形に上側面を形成することで、ピストンを均一に冷却することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に従えば、均一に冷却可能なピストンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に従ったピストンの断面図である。
図2図1中の矢印IIで示す方向から見たピストンの平面図である。
図3図2中のIII-III線に沿った断面図である。
図4】実施の形態1のピストンにおいて熱の流れを説明するために示す燃焼室と冷却空洞を示す断面図である。
図5】比較例のピストンにおいて熱の流れを説明するために示す燃焼室と冷却空洞を示す断面図である。
図6】実施の形態2のピストンの平面図である。
図7】実施の形態2のピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態に係るピストンを有する内燃機関について図を参照して説明する。以下の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0015】
(実施の形態1)
(構成)
図1は、実施の形態1に従ったピストンの断面図である。図1で示すように、実施の形態1に従ったピストン10は頂面2を有する。頂面2に開口するように燃焼室60が設けられている。燃焼室60はピストン10の頂面2に設けられた凹部である。
【0016】
ピストン10は、燃焼室60の開口付近において燃焼室60の外側から内側へ突出するリップ部61を有する。すなわち、燃焼室60の上端には環状のリップ部61が設けられている。リップ部61は、ピストン10の外側から内側へ向かいように延びている。なお、リップ部61は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0017】
燃焼室60に対向するようにインジェクタ70が設けられている。インジェクタ70はシリンダヘッドに設けられる。インジェクタ70から燃料が噴射される。噴射された燃料は噴霧となり、燃焼室60内で燃焼する。
【0018】
ピストン10の燃焼室60の下の領域には、環状の冷却空洞20が設けられている。冷却空洞20は、ピストン10の矢印11で示す往復方向に対して傾斜して延びている。冷却空洞20にオイル50が導入されることでピストン10を冷却することができる。
【0019】
冷却空洞20は、上側面23と下側面24とによって規定される。上側面23は燃焼室60に近い側の面である。下側面24は、燃焼室60から遠い側の面である。上側面23および下側面24は、ともに矢印11で示す往復方向に対して傾斜するように配置されている。
【0020】
冷却空洞20には入口21および出口31が設けられている。入口21および出口31はともにピストン10の下方向(頂面2と反対側の方向)に向かって開口している。出口31は図1の右側、入口21は図1の左側に設けられる。
【0021】
オイルジェット40がシリンダブロックに設けられている。オイルジェット40はオイルを噴出するためのノズル41を有する。ノズル41からは、矢印42で示す方向に入口21に向かってオイルが噴出される。オイルはピストン10のスカート15に沿って上方向に移動して入口21に入る。
【0022】
冷却空洞20の下側面24内にオイル50が存在する。入口21は主としてオイル50を受け入れるための開口である。これに対して、出口31はオイル50を排出するための開口である。冷却空洞20を燃焼室60に対しオイル50の入口21が下方、出口31が上方になるように配置する。すなわち、下側面24は出口31に近づくにつれて燃焼室60に近づくように傾斜している。
【0023】
下側面24が傾斜しているため、オイル50は矢印51で示す方向に流れる。ピストン10は矢印11で示す方向に往復運動をするため、オイル50はピストン10の往復運動に応じて、上側面23および下側面24に接触する。
【0024】
図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見たピストンの平面図である。図2で示すように、冷却空洞20は円形状である。なお、冷却空洞20は必ずしも円形状である必要はなく、楕円形等であってもよい。
【0025】
冷却空洞20の互いに対称な位置に入口21および出口31が設けられる。この実施の形態では入口21および出口31の内径は冷却空洞20の幅と等しくなっているが、必ずしも等しくする必要はなく、冷却空洞20の幅と異なっていてもよい。
【0026】
図3は、図2中のIII-III線に沿った断面図である。図3で示すように、入口21に対向する上側面23の部分は、被噴射面22である。被噴射面22には矢印42で示す方向に噴射されるオイルが衝突する。被噴射面22は矢印11で示す方向と直交するように延びている。
【0027】
被噴射面22は矢印11で示す方向に対して一方向に傾斜していてもよい。「一方向に傾斜」とは、右上がりにのみ傾斜しているか、右下がりにのみ傾斜していることをいう。被噴射面22が右下がりに傾斜した後、右上がりに傾斜傾斜するような、たとえば実開平2-137517の第3図のような傾斜は「一方向に傾斜」には含まれない。
【0028】
左側の上側面23aと右側の上側面23bとが直接接触した場合には、直接接触した部分は特許文献1の第3図のように嶺状となる。嶺状の部分が入口21に対応するように配置していると、嶺状の部分の表面積が大きいため、嶺状の部分での熱流束が大きくなる。さらに、嶺状の部分でオイルが左右に分かれて高い流速を保持したまま入口21付近の冷却空洞20内を流れるため、熱流束が大きくなる。これに対して、被噴射面22を矢印11に対して直交するように設けるか、一方向に傾斜するように設けるため嶺状部分が被噴射面22に生じない。その結果、被噴射面22での表面積を小さくでき、入口21での熱流束を小さくできる。
【0029】
実施の形態1のピストン10では、頂面2に開口するように燃焼室60が設けられる。燃焼室60の下方に環状の冷却空洞20が設けられる。環状の冷却空洞20は下方に向かって開口してオイルジェット40からのオイルを受け入れる入口21、およびオイルを排出する出口31を有する。冷却空洞20は燃焼室60近い側の上側面23と、燃焼室60から遠い側の下側面24とによって規定されており、入口21における上側面23はピストン10のシリンダ内での往復方向に対して直交しているか、または一方向に傾斜しており、上側面23は出口31に近づくにつれて燃焼室60に近づくように傾斜している。
【0030】
(作用および効果)
図4は、実施の形態1のピストンにおいて熱の流れを説明するために示す燃焼室と冷却空洞を示す断面図である。実施の形態1のピストン10においては、燃焼室60の左側部分60aから冷却空洞20までの距離L1は長く、燃焼室60の右側部分60bから冷却空洞20までの距離L2は短い。入口21付近ではオイルの温度は低く、出口31付近ではオイルはすでに燃焼室60の熱を受熱しているためオイルの温度は高い。左側部分60aと入口21付近のオイルとの間の温度差は大きく、右側部分60bと出口31付近のオイルとの間の温度差は小さい。これに対して伝熱経路の長さは左側部分60aにおいて長く(L1)、右側部分60bにおいて短い(L2)。そのため、左側部分60aでは温度差は大きいものの伝熱抵抗は大きい。これに対して右側部分60bでは温度差は小さいものの伝熱抵抗(物質固有の値と伝熱経路長によって決まる。伝熱経路長に比例する)も小さい。熱流束(単位面積当たりの熱の移動量)は温度差が大きいほど大きく、伝熱抵抗が大きいほど小さくなるため、図4の構造を採用することで、左側部分60aと右側部分60bにおいて熱流束の大きさの差が小さくなる。
【0031】
図5は、比較例のピストンにおいて熱の流れを説明するために示す燃焼室と冷却空洞を示す断面図である。比較例のピストン10においては、冷却空洞20が矢印11で示す方向に対して傾斜していない。燃焼室60の左側部分60aから冷却空洞20までの距離L3と、燃焼室60の右側部分60bから冷却空洞20までの距離L3とが等しい。入口21付近ではオイルの温度は低く、出口31付近ではオイルはすでに燃焼室60の熱を受熱しているためオイルの温度は高い。左側部分60aと入口21付近のオイルとの間の温度差は大きく、右側部分60bと出口31付近のオイルとの間の温度差は小さい。伝熱経路の長さは左側部分60aおよび右側部分60bにおいてともに、L3である。そのため、左側部分60aでは温度差は大きく伝熱抵抗は距離L3に比例する。右側部分60bでは温度差は小さく、伝熱抵抗は距離L3に比例するため、左側部分60aの伝熱抵抗と同じである。熱流束(単位面積当たりの熱の移動量)は温度差が大きいほど大きくなるため、図5の構造では、左側部分60aと右側部分60bにおいて熱流束の大きさの差が大きくなり、左側部分60aの熱流束は右側部分60bの熱流束より大きい。
【0032】
すなわち、図5の構造では、冷却空洞20の入口21近傍のオイル50はオイルジェット40からの吐出により高い流速を発生する為、その他の部位に対し著しく熱交換が行われる。更に冷却空洞20に入ったオイルは出口に向かうに伴い、ピストンとの熱交換により徐々に昇温される為、出口に向かう程、冷却性能は低下しピストンの温度は上昇する傾向にある。高温化する出口近傍を冷却する為に、より多くのオイルジェットの吐出量が要求されるか、出力が制限されることになる。
【0033】
さらに、図5のピストン10において、高負荷運転後に急にエンジンを止めるデッドソークを行った場合、冷却空洞20に残ったオイルがピストン10から受熱し、オイルの許容限界温度を超えた高温化の際にコーキングが発生する。通常は高負荷運転時でもコーキングが起きない温度までピストン10の冷却を行うが、近年の高比出力化に伴いピストン10の温度は上昇傾向にあり、オイルの受ける熱量は増加傾向にある。これに対して、実施の形態1のピストン10では、コーキングの問題は発生しない。
【0034】
このように、実施の形態1に従った構造を採用することで、燃焼室60の左側部分60aと右側部分60bとの熱流束の差を小さくすることができる。その結果、ピストン10を均一に冷却することができる。
【0035】
すなわち、実施の形態1では、エンジン稼動時は入口21側に対し出口31側が燃焼室60に近づき熱流束が大きくなる。出口31に向かうに連れてオイル温度の高温化は従来技術より抑制され、かつ熱流束が向上する結果、ピストン10の温度のバラツキが小さくなる。言い換えれば、冷却空洞20の入口21が燃焼室60に対し、下方(遠方)、出口31が上方(近方)になるように冷却空洞20に傾きを与える事で入口は熱交換を抑え、出口31側を積極的に冷却することでピストン10の温度バラツキを均一化することが出来る。このことにより過剰な冷却を低減出来る為、オイルジェット40の流量低減と冷損低減により燃費向上が見込める。
【0036】
また、デットソーク時に冷却空洞20内部に残存したオイル50が傾斜によって入口21に向かって排出される。結果、冷却空洞20に残存したオイル50は受熱によるオイルコーキングを発生する前にピストン10から排出される。
【0037】
実施の形態1では、被噴射面22にはオイルジェット40からの低温のオイルが直接噴射されるため、被噴射面22の温度が特に低くなる。その結果、被噴射面22と、熱源である燃焼室60との間の温度差は大きくなる。しかしながら、被噴射面22を燃焼室60から遠ざけることで、被噴射面22と燃焼室60との間の熱抵抗(伝熱経路長に比例)を大きくすることで、燃焼室60から被噴射面22への熱流束を小さくすることができる。
【0038】
図3で示すように、被噴射面22に嶺状の部分が存在しないようにすることで、被噴射面22の面積を小さくすることができる。これにより、入口21付近でのオイルへの熱の移動を抑制でき、入口21付近が過冷却となることを防止できる。
【0039】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2のピストンの平面図である。図6で示すように、実施の形態2に従ったピストン10では、燃焼室60にインジェクタ70から燃料が噴射される。噴霧経路71から74は、インジェクタ70から噴射された燃料の通り道であり、噴霧経路71から74においては燃料が燃焼するため高温となる。噴霧経路71から74に重なる燃焼室60の領域が高温部60Hとなり、隣り合う高温部60Hの間の領域が低温部60Lである。高温部60Hでは高濃度の燃料が燃焼するため発熱量が大きく温度が高くなる。低温部60Lでは低濃度の燃料が燃焼するため発熱量が小さく温度が低くなる。燃焼室60内において、燃料噴霧の濃度に起因して温度のバラツキが生じる。
【0040】
図7は、実施の形態2のピストンの断面図である。図7で示すように、冷却空洞20の上側面23が波形に形成されている。これにより、高温部60Hでは上側面23と高温部60Hとの距離が短くなり、低温部60Lでは上側面23と低温部60Lとの距離が長くなる。すなわち、燃焼室60内における温度差に応じて上側面23は波形に形成されている。これにより、高温部60Hにおいて上側面23への熱流束を大きくし、低温部において上側面23への熱流束を小さくできる。その結果、ピストン10を均一に冷却することができる。
【0041】
以上のように、実施の形態1または2の構造を採用すれば燃焼室60の温度バラツキは低減され、結果的に要求されるオイルジェット40の流量の低下と冷損の低減により燃費を向上させることが出来る。
【0042】
冷却空洞20に対するコーキング温度限界値が高まり、ピストン10の設計の自由度及び高温使用時における機能信頼性が向上する。コーティング等の追加処置を施す必要が無い為、コストの低減を測る事が可能である。
【0043】
以上、実施の形態について説明したが、上記の開示内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、たとえば内燃機関のピストンにおいて用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
2 頂面、10 ピストン、15 スカート、20 冷却空洞、21 入口、22 被噴射面、23 上側面、24 下側面、31 出口、40 オイルジェット、41 ノズル、50 オイル、60 燃焼室、60H 高温部、60L 低温部、60a 左側部分、60b 右側部分、61 リップ部、70 インジェクタ、71-74 噴霧経路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7