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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128271
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】低相対位相雑音光コム発生装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
G02F1/01 B
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026718
(22)【出願日】2021-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】503249810
【氏名又は名称】株式会社XTIA
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 一宏
(72)【発明者】
【氏名】興梠 元伸
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA19
2K102BB03
2K102BC04
2K102BD09
2K102CA00
2K102EA02
2K102EA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光コムの干渉信号の繰り返し周波数が安定化された低相対位相雑音光コム発生装置を提供する。
【解決手段】基準発振器11により与えられる基準周波数信号FREFに位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する少なくとも3つの発振器13,13A,13Bと、上記3つの発振器の内の1の発振器13により得られる周波数信号と、上記1の発振器以外の各発振器13A,13Bにより得られる各周波数信号が入力される少なくとも2つの周波数変換器14A,14Bを備え、上記少なくとも2つの周波数変換器14A,14Bは、それぞれ上記1の発振器の周波数信号と該の波数信号よりも位相雑音の小さい他の発振器の周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号として相対位相雑音を低減した少なくとも2種類の変調信号を少なくとも2つの光コム発生器15A,15Bに駆動信号として供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに周波数の異なる周波数信号を発生する少なくとも3つの発振器と、
上記3つの発振器の内の1の発振器により得られる周波数信号と、上記1の発振器以外の各発振器により得られる各周波数信号が入力される少なくとも2つの周波数変換器と、
上記少なくとも2つの周波数変換器により周波数変換された互いに周波数の異なる少なくとも2種類の変調信号が供給される少なくとも2つの光コム発生器と
を備え、
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ上記1の発振器による周波数信号と他の発振器による周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号として相対位相雑音を低減した上記少なくとも2種類の変調信号を駆動信号として少なくとも2つの光コム発生器に供給することを特徴とする低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項2】
上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記1の発振器よりも位相雑音が小さいものであることを特徴する請求項1に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項3】
上記少なくとも3つの発振器は、基準発振器により与えられる基準周波数信号に位相同期された互いに周波数の異なる周波数信号を発生することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項4】
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項5】
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器と位相比較器と電圧制御型発振器からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項6】
上記少なくとも2つの光コム発生器には、上記少なくとも2つの周波数変換器から変調信号がそれぞれ帯域通過フィルタを介して駆動信号として供給されることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項7】
上記少なくとも2つの周波数変換器には、上記1の発振器により得られる周波数信号がそれぞれアイソレータを介して入力されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項8】
上記少なくとも3つの発振器は、それぞれPLL回路により基準の周波数信号に位相同期された周波数が固定された状態の少なくとも3種類の変調信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項9】
上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記基準周波数信号に位相同期されたクロックにより駆動される各ディジタル直接合成発振器(DDS:Direct Digital Synthesizer)であることを特徴とする請求項3乃至請求項7の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項10】
上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する3つの発振器と、2つの周波数変換器と、2つの光コム発生器を備え、
上記2つの周波数変換器により得られる相対位相雑音を低減した2種類の変調信号を駆動信号として上記2つの光コム発生器に供給することを特徴とする請求項3乃至請求項9の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項11】
Xを1以上の整数、Yを2以上の整数として、
上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する(X+Y)個の発振器と、XY個の周波数変換器と、Y個の光コム発生器を備え、
(Y+1)個の発振器とY個の周波数変換器とY個の光コム発生器とで構成される基本構成をX重化してなることを特徴とることを特徴とする請求項3に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定光の干渉信号と基準光の干渉信号の時間差から距離を測定する光コム距離計などに用いられる2つ以上の光コムを発生する低相対位相雑音光コム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、精密なポイントの距離計測が可能なアクティブ式距離計測方法として、レーザ光を利用する光学原理による距離計測が知られている。レーザ光を用いて対象物体までの距離を測定するレーザ距離計ではレーザ光の発射時刻と、測定対象に当たり反射してきたレーザ光を受光素子にて検出した時刻との差に基づいて、測定対象物までの距離が算出される。また、例えば、半導体レーザの駆動電流に三角波等の変調をかけ、対象物での反射光を半導体レーザ素子の中に埋め込まれたフォトダイオードを使用して受光し、フォトダイオード出力電流に現れた鋸歯状波の主波数から距離情報を得ている。
【0003】
ある点から測定点までの絶対距離を高精度で測定する装置としてレーザ距離計が知られている。
【0004】
従来の絶対距離計では、長い距離を高精度で測れる実用的な絶対距離計を実現することが難しく、高い分解能を得るためにはレーザ変位計のように原点復帰が必要なため絶対距離測定に適さない方法しか手段がなかった。
【0005】
本件発明者等は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光をパルス出射する2つの光コム発生器を備え、基準面に照射される基準光パルスと測定面に照射される測定光パルスとの干渉光を基準光検出器により検出するとともに、上記基準面により反射された基準光パルスと上記測定面により反射された測定光パルスとの干渉光を測定光検出器により検出して、上記基準光検出器と測定光検出器により得られる2つ干渉信号の時間差から、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、高精度で、しかも短時間に行うことの可能な距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、低反射材から高反射材まで連続的に反射光レベルのダイナミックレンジの広い計測を行うことが可能な距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を先に提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
光コム距離計では、原理的に周波数が異なる2種類の変調信号により駆動される2つの光コム発生器からパルス出射される干渉性のある基準光パルスと測定光パルスを用いることにより、信号処理部において、基準光検出器により得られる干渉信号(以下、参照信号と言う。)と、測定光検出器により得られる干渉信号(以下、測定信号と言う。)について周波数解析を行い、光コムの中心周波数から数えたモード番号をNとして、参照信号と測定信号のN次モード同士の位相差を計算して光コム発生器から基準点までの光コム生成、伝送過程の光位相差を相殺した後、周波数軸で次数1あたりの位相差の増分を計算して測定信号パルスと参照信号パルスの位相差を求めることにより、基準点から測定面までの距離を算出する。
【0008】
特許文献1に記載されているように、光コム距離計における2台の光コム発生器の駆動信号源である周波数fm及び周波数fm+Δfの信号の相対的安定性を確保するには、パルスの繰り返し周波数を相対的に固定することが重要である。
【0009】
さらに、光コム距離計において、周波数fm及び周波数fm+Δfの周波数差による周期的な位相回転や測定光パルスが測定区間を往復することによる位相の遅延以外に付加される位相ゆらぎまたは位相雑音があると計測結果のばらつきの元となる。干渉信号は参照信号、測定信号ともに1/Δfの周期で発生する。参照信号の発生時刻を基準に測定信号の遅延時間または位相を計算する処理によってΔfより十分低い周波数の(1/Δfより長い周期の)位相ゆらぎ、位相雑音はある程度取り除かれる。しかしΔfの逆数の周期より短い期間で変化する位相揺らぎについては補正手段がなく、そのまま計測結果のばらつきとして現れる。計測時間の最短時間であるΔfの一周期の計測値のばらつきを小さくするためには短期的なfmとfm+Δfの相対位相の安定性が要求される。
【0010】
2つの光コム発生器を駆動する変調信号は、例えばPLL(Phase-Locked Loop)により周波数を設定できるようにした変調信号発生器により得ることができる。
【0011】
しかし、同じ基準発振器を用いても、低い周波数の基準信号の周波数を例えばPLLによりマイクロ波帯の駆動周波数までに上げる際に位相のジッタが累積される可能性があるため短期的には相対位相にジッタが含まれる可能性がある。その場合、短時間で計測した場合の測定精度が低下する。したがって計測時間を短縮するためには、位相同期ループの帯域を広くとった対の発振器が必要である。
【0012】
また、光コム距離計では、信号処理部において、ピーク検出回路を用いて信号のピークの時間差を求めるか、信号を高速フーリエ変換して周波数と位相の関係を求めてもよく、信号の繰り返しが早いので短時間に距離測定を行うことができる。
【0013】
特許文献2の開示技術では、低利得の第2の干渉信号または高利得の第2の干渉信号の値のヒルベルト変換により元の波形の直交位相成分を求め、元の波形とヒルベルト変換波形の二乗和により得られる包絡線の二乗波形のピーク値から求められる。
【0014】
これは特許文献1、特許文献2の形状計測器、距離計において干渉波形の包絡線ピークを求めることが重要となることを意味している。包絡線ピークは、特許文献1の図2に示されているように、基準パルス列と測定光パルス列の重なりで決まる。基準パルス列と測定光パルス列のそれぞれのジッタはfmとfm+Δfの信号の位相残音で決まるため、fmとfm+Δfの光コムの干渉信号の包絡線ピークのジッタはfmとfm+Δfの光コムの駆動信号の相対位相雑音によってきまる。
【0015】
ここで、図8に従来の光コム駆動回路の例を示す。特許文献1の図6に示された光源100から、ここで説明する部分を抜粋したものである。
【0016】
発振器103A,103Bは、共通の基準発振器104に位相同期されている。通常、基準発振器104には10MHzのOCXO、あるいはルビジウム原子発振器やセシウム原子発振器に同期した10MHzのOCXOを使用する。測定距離や必要な精度によって基準周波数の絶対周波数の確度は必要に応じて選択される。光コム発生器120A、120Bは周期性を持つ駆動信号を生成する発振器103A,103Bの信号がゼロを交差する際に光パルス列を発生する装置と考えてよく、それぞれのパルスのジッタは発振器103A,103Bの位相雑音で決まる。
【0017】
この図9は、特許文献1の図8の波形例を引用して、それぞれの包絡線のピーク時間をt,t,t,t,・・・,tとしている。2つの光コム発生器120A、120Bは、駆動信号の周波数がそれぞれfm+Δf及びfmであるため、干渉波形の包絡線ピークは駆動信号の差周波数がΔfに同期し、包絡線ピーク間隔Tb=1/Δfである。
【0018】
干渉波形の包絡線ピークの時間は、特許文献1の段落[0045]~で言及されているように光コム発生器120A、120Bが出力する光パルスが一致したタイミングでピークとなるので、光コム発生器120A,120Bを駆動する2つの発振器103A,103Bの相対位相雑音に依存するジッタがある。
【0019】
光コム干渉を使う距離計並びに光学的三次元形状測定機は参照信号の包絡線ピークを基準に測定信号の包絡線ピークまでの時間から対象物体までの距離を求める。その計測精度は包絡線ピーク値のジッタ(周期性からのずれ量のt-nTbのジッタ)のRMS値によって代表される、2つの発振器103A,103Bの相対位相雑音によって決まる。2つの発振器103A,103Bの位相雑音をそれぞれφA(t),φB(t)とすると、包絡線ピーク値のジッタ(周期性からのずれ量のt-nTbのジッタ)のRMS値は、次の式(1)で示される。
√(<(φB(t)-φA(t))>)/2π (1)
ここで<>は時間平均である。
【0020】
ここで、基準発振器104を無雑音の理想発振器を仮定しても、位相同期の位相比較器の雑音限界と位相同期の制御帯域に限界があるため無相関の位相雑音があり、2つの発振器103A,103Bの位相雑音をそれぞれφA(t)及びφB(t)とすると、t-nTbのジッタのRMS値は、φA(t)及びφB(t)が互いに無相関であるので、次の式(2)となる。
√(<(φB(t)-φA(t))>)/2π
=T√(<φB(t)>+<φA(t)>-2<φB(t)φA(t)>)/2π
=T√(<φB(t)>+<φA(t)>)/2π (2)
【0021】
ここで、典型的な発振器の位相雑音の例として、Ultra Herley 社製のUltra Herley Series PCRO、Ultra Herley Series PDRO、Ultra Herley Series PXSについて、非特許文献1のデータを引用してプロットした各発振器の位相雑音特性を図10に示す。これは高性能のシステムを設計する際には、位相ノイズが極めて小さい発振器が選択されるが、この製品は位相ノイズが極めて小さい発振器である。
【0022】
fm=25GHzとすると、発振器103A、103Bの位相雑音は、図10に示す26GHz発振器(Ultra Herley Series PCRO)の位相雑音相当である。この位相雑音は、少なくとも100kHzまで-110dBc/Hz以上である。それぞれ無相関であるとするとfmとfm+Δfmの相対位相雑音はPCROの特性として示される約+3dB程度と考えられる。
【0023】
位相差の位相雑音のRMS値は、次の式(3)に示すように、100kHzまでの位相雑音の積算だけ考えて計算しても、-57dBcとなる。
-110dBc/Hz+3dB+10Log10(100kHz)
=-57dBc (3)
【0024】
上記位相差の位相雑音のRMS値-57dBcは、Tb=10μs場合の干渉波形のジッタとしてRMS値で14nsに相当し、fm=25GHzの場合の距離測定に換算すると6μm相当に匹敵する。
【0025】
したがって、光コム距離計において、測定のばらつきを小さくするためには,本質的に式(1)にて示されるφA(t)-φB(t)を小さくする必要がある。
【0026】
特許文献1、特許文献2の開示技術では、基準面を持つ干渉計と基準光検出器を用いて包絡線ピークを測定する系と、被測定距離を含む干渉計と測定光検出器を用いて干渉波形の包絡線ピークの差を用いることで、位相雑音の影響の低減を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特許第5231883号公報
【特許文献2】特開2020-008357号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Ultra Herley ホームページhttps://www.ultra-herley.com/uploads/herley/datasheets/cti/Ultra%20Herley%20Series%20PDRO.pdfhttps://www.ultra-herley.com/uploads/herley/datasheets/cti/Ultra%20Herley%20Series%20PCRO.pdfhttps://www.ultra-herley.com/uploads/herley/datasheets/cti/Ultra%20Herley%20Series%20PXS.pdf
【非特許文献2】Analog devices ホームページhttps://www.analog.com/media/jp/analog-dialogue/volume-51/number-3/articles/improved-dac-phase-noise-measurements-enable-ultra-low-phase-noise-dds-applications_jp.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
特許文献1に開示されている光コム距離計では、2つの発振器103A,103Bの周波数はf=25GHzという高周波数である。このような高周波数の発振器を低周波数(例えば10MHz)の基準信号を用いた位相同期においては位相比較器の分周率は大きく位相比較器の雑音は大きい。また位相比較器の雑音レベルまで制御しても、位相比較器同士の雑音は無相関であるので、2台の発振器の位相雑音は無相関である。また広帯域に制御することは逆に発振器の位相雑音を大きくする要因になるので、制御帯域には最適値がある。
【0030】
しかしながら、特許文献1には、複数の光コムの駆動信号源の相対的安定性が重要であると強く認識はされているものの、位相同期ループの帯域を広くとった対の発振器が必要であると記載されているだけで、それを実現する手段は示されていない。
【0031】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、光コム距離計における複数の光コム発生器を駆動する異なる周波数の駆動信号の相対位相雑音を低減することにより、光コムの干渉信号の繰り返し周波数が安定化された低相対位相雑音光コム発生装置を提供することにある。
【0032】
また、本発明の他の目的は、距離計や形状計測機などの測定のばらつきを低減し、測定を高速化させることができるようにすることにある。
【0033】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明では、光コム距離計における複数の光コム発生器を駆動する異なる周波数の駆動信号の相対位相雑音を低減することにより、光コムの干渉信号の繰り返し周波数を安定化する。
【0035】
すなわち、本発明は、低相対位相雑音光コム発生装置であって、互いに周波数の異なる周波数信号を発生する少なくとも3つの発振器と、上記3つの発振器の内の1の発振器により得られる周波数信号と、上記1の発振器以外の各発振器により得られる各周波数信号が入力される少なくとも2つの周波数変換器と、上記少なくとも2つの周波数変換器により周波数変換された互いに周波数の異なる少なくとも2種類の変調信号が供給される少なくとも2つの光コム発生器とを備え、上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ上記1の発振器による周波数信号と他の発振器による周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号として相対位相雑音を低減した上記少なくとも2種類の変調信号を駆動信号として少なくとも2つの光コム発生器に供給することを特徴とする。
【0036】
本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記1の発振器よりも位相雑音が小さいものとすることができる。
【0037】
本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも3つの発振器は、基準発振器により与えられる基準周波数信号に位相同期された互いに周波数の異なる周波数信号を発生するものとすることができる。
【0038】
本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器であるものとすることができる。
【0039】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器と位相比較器と電圧制御型発振器からなるものとすることができる。
【0040】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも2つの光コム発生器には、上記少なくとも2つの周波数変換器から変調信号がそれぞれ帯域通過フィルタを介して駆動信号として供給されるものとすることができる。
【0041】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも2つの周波数変換器には、上記1の発振器により得られる周波数信号がそれぞれアイソレータを介して入力されるものとすることができる。
【0042】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも3つの発振器は、それぞれPLL回路により基準の周波数信号に位相同期された周波数が固定された状態の少なくとも3種類の変調信号を発生するものとすることができる。
【0043】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置において、上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記基準周波数信号に位相同期されたクロックにより駆動される各ディジタル直接合成発振器(DDS:Direct Digital Synthesizer)であるものとすることができる。
【0044】
また、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置は、上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する3つの発振器と、2つの周波数変換器と、2つの光コム発生器を備え、上記2つの周波数変換器により得られる相対位相雑音を低減した2種類の変調信号を駆動信号として上記2つの光コム発生器に供給するものとすることができる。
【0045】
さらに、本発明に係る低相対位相雑音光コム発生装置は、Xを1以上の整数、Yを2以上の整数として、上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する(X+Y)個の発振器と、XY個の周波数変換器と、Y個の光コム発生器を備え、(Y+1)個の発振器とY個の周波数変換器とY個の光コム発生器とで構成される基本構成をX重化してなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明では、1の発振器により得られる周波数信号と該周波数信号よりも位相雑音の小さい他の発振器により得られる周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号として相対位相雑音を低減した変調信号を駆動信号として2つの光コム発生器に供給することにより、光コムの干渉信号の繰り返し周波数が安定化された低相対位相雑音光コム発生装置を提供することができる。
【0047】
本発明では、複数の光コム発生器を駆動する異なる周波数の駆動信号の相対位相雑音を低減して、光コムの干渉信号の繰り返し周波数を安定化することができ、距離計や形状計測機などの測定のばらつきを低減し、測定を高速化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明を適用した低相対位相雑音光コム発生装置の構成例を示すブロック図である。
図2】上記光コム発生装置における周波数変換器の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明を適用した低相対位相雑音光コム発生装置の他の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明を適用した低相対位相雑音光コム発生装置の他の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明を適用した低相対位相雑音光コム発生装置の他の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明を適用した低相対位相雑音光コム発生装置のさらに他の構成例を示すブロック図である。
図7】上記低相対位相雑音光コム発生装置において、2つ光コム発生器に供給される駆動信号の状態遷移を示す状態遷移図である。
図8】従来の光コム駆動回路の構成を示すブロック図である。
図9】光コム駆動回路により駆動される光コム発生器の出力を干渉させ、光検出器で検出することにより得られる検出出力の波形図である。
図10】特許文献1のデータを引用してプロットした各発振器の位相雑音を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0050】
本発明は、例えば図1のブロック図に示すにように、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある測定光と基準光と出射する2つの光コム発生器15A,15Bを備える低相対位相雑音光コム発生装置10に適用される。
【0051】
この低相対位相雑音光コム発生装置10は、例えば特許文献1,2等に記載されている測定光の干渉信号と基準光の干渉信号の時間差から距離を測定する光コム距離計や三次元形状測定機において、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある測定光と基準光と出射する光源として用いられる。
【0052】
この低相対位相雑音光コム発生装置10は、基準発振器11から基準周波数信号FREFが3分岐のパワーデバイダ12Aを介して供給される3つの発振器13A,13B,13と、第3の発振器13から第3の周波数信号が2分岐のパワーデバイダ12Bを介して供給される2つの周波数変換器14A,14Bを備え、第1の周波数変換器14Aに第1の発振器13Aから第1の周波数信号が供給され、第2の周波数変換器14Bに第2の発振器13Bから第2の周波数信号が供給されることにより、上記第1の周波数変換器14Aにより第1の周波数信号の周波数f1と第3の周波数信号の周波数f3の和周波数f1+f3に周波数変換した第1の変調信号を得るとともに、上記第2の周波数変換器14Bにより第2の周波数信号の周波数f2と第3の周波数信号の周波数f3の和周波数f2+f3に周波数変換した第2の変調信号を得て、上記第1の周波数変換器14Aにより得られる第1の変調信号を第1の光コム発生器15Aに供給するとともに、上記第2の周波数変換器14Bにより得られる第2の変調信号を第2の光コム発生器15Bに供給するようになっている。
【0053】
上記3つの発振器13A,13B,13は、上記基準発振器11により与えられる基準周波数信号FREFに例えばPLL(Phase-Locked Loop)により位相同期されて互いに周波数の異なる3種類の周波数fb,fb+Δf,fm-fbの周波数信号を発生する。
【0054】
このように、第1の発振器13Aが出力する第1の周波数信号の周波数f1をfb、第2の発振器13Bが出力する第2の周波数信号の周波数f2をfb+Δf、第3の発振器13Bが出力する第3の周波数信号の周波数f3をfm-fbとすると、第1の周波数変換器14Aにより第1の周波数信号と第3の周波数信号による和周波数f1+f3はfmとなり、第1の周波数変換器14Aにより周波数がfmの第1の変調信号が得られ、また、第2の周波数信号と第3の周波数信号による和周波数f2+f3はfm+Δfとなり、第2の周波数変換器14Bにより周波数がfm+Δfの第2の変調信号が得られる。
【0055】
上記3つの発振器13A,13B,13のうち第3の発振器13以外の2つの発振器13A,13Bは、上記第3の発振器13よりも位相雑音が小さいものとなっている。
【0056】
上記3つの発振器13A,13B,13の位相雑音は、それぞれφa(t)、φb(t)及びφC(t)とする。ここで、平均値は0である。それぞれすべて無相関と仮定する。
【0057】
上記周波数変換器14A,14Bは、それぞれ入力される第3の周波数信号と該第3の周波数信号よりも位相雑音の小さい他の周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号を生成する、すなわち、周波数の加算又は減算を行う機能を有する。
【0058】
そして、周波数変換器14A,14Bが加算器である場合、第1の周波数変換器14Aにより得られる周波数がfmの信号の位相雑音φA(t)は、次の式(4)となる。
φA(t)=φC(t)+φa(t) (4)
【0059】
また、第2の周波数変換器14Bにより得られる周波数がfm+Δfの信号の位相雑音φB(t)は、次の式(5)となる。
φB(t)=φC(t)+φb(t) (5)
【0060】
これを上述の式(1)に代入するとt-nTbのジッタのRMS値は、次の式(6)となる。
√(<(φC(t)+φb(t)-φC(t)-φa(t))>)/2π
=T√(<φb(t)>+<φa(t)>)/2π (6)
となる。
【0061】
上記(6)式は被測定距離が0の場合の計算である。特許文献1、特許文献2の開示技術の基準光検出器を用いて包絡線ピークを測定する系の計算と考えてもよい。被測定距離を含む干渉計と測定光検出器を用いて干渉波形の包絡線ピークを検出する系では、被測定距離の時間遅延τを考慮しなければならない。被測定距離の時間遅延τとする場合(6)式は次の(7)式に書き直せる。
√(<(φC(t)+φb(t)-φC(t-τ)-φa(t-τ))>)/2π
=T√(2<φC(t)>-2<φC(t)φC(t-τ)>+<φb(t)>+<φa(t)>)/2π (7)
となる。
【0062】
こで<φC(t)φC(t―τ)>は発振器13の位相雑音の自己相関関数である。自己相関が大きいτの範囲で2<φC(t)>-2<φC(t)φC(t―τ)>の項は小さな値をとることができる。下記ではτを0と近似して議論する。
【0063】
すなわち、ジッタは、周波数がfbの第1の周波数信号の位相雑音φa(t)及び周波数がfb+Δfの第2の周波数信号の位相雑音φb(t)によって決定され、上記第1の発振器13Aが出力する周波数f1(fb)の第1の周波数信号の位相雑音φa(t)、及び、上記第2の発振器13Bが出力する周波数f2(fb+Δf)の第2の周波数信号の位相雑音φb(t)によって決定される。
【0064】
したがって、fm=25GHzであったとしても、例えばfb、fb+Δfが1GHz程度であれば、φa(t)、φb(t)の位相雑音レベルは図10に示すPCROの特性相当のレベルに低減され、図10のオフセット周波数1MHzの範囲で約20dBの相対位相雑音の改善が見込まれる。
【0065】
さらにfb、fb+Δfを100MHz程度とすると、図10に示すXPSの特性相当のレベルになり、40dB以上の相対位相雑音の改善が見込まれる。
【0066】
ここで、上記低相対位相雑音光コム発生装置10において、周波数変換器14A,14Bは、周波数の加算を行うものとして説明したが、周波数の減算を行うものであってもよい。この場合、第3の発振器13が発生する第3の周波数信号の周波数f3をfm+fb、第1の発振器13Aが発生する第1の周波数信号の周波数f1をfb、第2の発振器13Bが発生する第2の周波数信号の周波数f2をfb-Δfとすることにより、周波数変換器14A,14Bにおいて周波数の減算を行うことにより、第1の周波数変換器14Aにより周波数がfmの第1の変調信号が得られ、また、第2の周波数信号と第3の周波数信号による和周波数f2-f3はfm+Δfとなり、第2の周波数変換器14Bにより周波数がfm+Δfの第2の変調信号が得られる。
【0067】
上記低相対位相雑音光コム発生装置10において、周波数変換器14A,14BにはダイオードやダブルバランスドミキサやIQミキサなどの周波数混合器、あるいは、例えば、図2に示すような構成の位相同期を利用した周波数変換器14が用いられる。
【0068】
ここで、上記周波数変換器14A,14BにダイオードやダブルバランスドミキサやIQミキサなどの周波数混合器を用いる場合、周波数混合器は、非線形素子であるために、必要な周波数成分以外の周波数成分が発生するので、図1に一点鎖線のブロックとして示すように、周波数変換器14A,14Bの出力側にそれぞれ帯域通過フィルタ16A,16Bを挿入して必要な周波数成分だけを駆動信号として光コム発生器15A,15Bに供給することになる。
【0069】
例えば、周波数混合器を用いた第1の周波数変換器14Aでは、必要なfmの周波数成分だけでなく望まない周波数成分fm+Mfb(M=0を除く)のスプリアスが発生する。ここで、Mは整数である。この周波数成分が第1の光コム発生器15Aに駆動信号として供給する第1の変調信号に混入すると、上記第1の光コム発生器15Aによる光コム発生においてスプリアスとなって計測値に影響を及ぼす場合がある。この影響をさせるために帯域通過フィルタ16Aを用いて、必要なfmの周波数成分だけを通過させ、それ以外の周波数成分を測定仕様に影響しない程度まで減衰させる。
【0070】
また、周波数混合器を用いた第1の周波数変換器14Aにより発生される望まない周波数成分fm+Mfbは、入力側のパワーデバイダ12Bの方向にも伝搬し、パワーデバイダ12Bも理想的な特性ではないので、第2の周波数変換器14Bに到達することになる。第2の周波数変換器14Bに到達した上記望まない周波数成分fm+Mfbが周波数変換されることにより、該第2の周波数変換器14Bの出力には、fm+Mfb+M’(fb+Δf)の周波数成分が混入することになる。
【0071】
ここで、M’は整数である。M+ M’=0以外の周波数成分は、fmから+fb又は-fbの外になるので、必要なfm+Δfの周波数を通過させるバンドパスフィルタ16Aにより減衰させることできる。しかし、M+M’=0の周波数成分は、fm+M’Δfとなり、必要なM’=1のfm+Δfmに極めて近い周波数成分で、帯域通過フィルタ16Aにより取り去ることは困難であるので、図1に一点鎖線のブロックとして示すように、入力側にそれぞれアイソレータ17A,17Bを挿入することにより、周波数変換器14A,14Bによる反射成分を減衰させることができる。
【0072】
上記アイソレータ17A,17Bには、リバースアイソレーションが大きいマイクロ波増幅器、パイ型抵抗減衰器やT型抵抗減衰器、フェライトを用いたマイクロ波アイソレータなどのアイソレーション素子や、可変減衰器と帯域通過フィルタとを組み合わせたアイソレーション回路やアイソレーション増幅器と抵抗減衰器や帯域通過フィルタとを組み合わせたアイソレーション回路など用いることができる。
【0073】
また、 第1の発振器13が出力する第1の周波数信号の周波数f1を(fm-fb)/Pに変更し、上記アイソレータ17A,17Bに変えて逓倍数がPの周波数逓倍器を周波数変換器14A,14Bの入力側に挿入することにより、周波数変換器14A,14Bによる反射成分の影響を少なくすることができる。
【0074】
すなわち、各周波数逓倍器により、第1の発振器13からパワーデバイダ12Bを介して供給される第1の周波数信号の周波数(fm-fb)/PをP逓倍して、周波数変換器14A,14Bに入力することにより、第1の周波数変換器14Aにより周波数がfmの第1の変調信号が得られ、また、第2の周波数変換器14Bにより周波数がfm+Δfの第2の変調信号が得られる。
【0075】
第2の周波数変換器14Bにより発生される不要な周波数成分fm+Mfbが伝搬されても、周波数逓倍器は分周器としての効果は小さい、すなわち、アイソレーション効果が高いので、帯域通過フィルタを介して(fm-fb)/Pに近い周波数成分が第1の周波数変換器14Aに到達する量は極めて小さくなる。
【0076】
さらに、第3の発振器13が発生する第3の周波数信号の周波数f3成分だけを通過させる帯域通過フィルタをパワーデバイダ12Bの出力側に挿入ことにより、周波数変換器14A,14Bによる反射成分の影響を少なくすることができる。
【0077】
すなわち、帯域通過フィルタにより、第3の発振器13が発生する第3の周波数信号の周波数f3成分すなわち、(fm-fb)の周波数成分、周波数逓倍器を用いる場合には(fm-fb)/Pの周波数成分だけを通過させ、それ以外の周波数成分を測定仕様に影響しない程度まで減衰させることができる。例えば、(fm-fb)の周波数成分又は(fm-fb)/Pの周波数成分が第1の周波数変換器14Aに到達したとしても、第1の発振器13が発生する第3の周波数信号の周波数f3と同じなので、不要なスプリアス成分は発生しない。
【0078】
上記低相対位相雑音光コム発生装置10では、実用上、これらを組み合わせて、パフォーマンスの向上が図られた最適な構造が採用される。
【0079】
なお、上記低相対位相雑音光コム発生装置10において、fb、fb+Δfを100MHz程度とすると、40dB以上の相対位相雑音の改善が見込まれるとしたが、fm=25GHzの場合でfb=100MHzの場合、帯域通過フィルタ16A,16Bには、fm+fb又はfm-fbのスプリアスを低減するには2500以上の極めてQ値の高いフィルタが必要となる。
【0080】
ここで、上記周波数変換器14A,14Bには、ダイオードやダブルバランスドミキサやIQミキサなどの周波数混合器ではなく、図2に示すような構成の位相同期を利用した周波数変換器14を用いることもできる。
【0081】
この周波数変換器14は、位相比較器141と、この位相比較器141により発振位相が制御される電圧制御型発振器142と、この電圧制御型発振器142から出力される周波数信号が分岐されて入力される周波数混合器143を備える。
【0082】
この周波数変換器14において、上記周波数混合器143には、上記第3の発振器13により得られる周波数f3すなわちfm-fbの第3の周波数信号が周波数混合器143に入力されており、例えば上記周波数変換器14Aとして用いる場合、上記位相比較器141には、上記第1の発振器13Aにより得られる周波数f1すなわちfbの第1の周波数信号が入力され、上記電圧制御型発振器142から周波数f4すなわちfmの第4の周波数信号を出力する。
【0083】
上記周波数混合器143は、上記第4の周波波数信号のf4すなわちfmと上記第3の周波数信号の周波数f3すなわちfm-fbとの差周波数f4-f3=fbの周波数信号を上記位相比較器141に入力する。
【0084】
上記位相比較器141において、上記差周波数fbの周波数信号と上記周波数f1すなわちfbの第1の周波数信号との位相比較を行い上記電圧制御型発振器142にフィードバックして、上記電圧制御型発振器142の発振位相を制御することにより、上記周波数f3すなわちfm-fbの第3の周波数信号に位相同期した上記周波数f4すなわちfmの第4の周波数信号が上記電圧制御型発振器142により得られる。
【0085】
また、この周波数変換器14は、上記周波数変換器14Bとして用いる場合、上記第2の発振器13Bにより得られる周波数f2すなわちfb+Δfの第2の周波数信号が上記位相比較器141に入力されることにより、電圧制御型発振器142により得られる第5の周波波数信号の周波数f5と上記第3の周波数信号の周波数f3との差周波数f5-f3が上記第2の周波数信号の周波数f2と一致するように上記電圧制御型発振器142の発振位相が制御されて、
f5=f2+f3
=(fb+Δf)+(fm-fb)
=fm+Δf
上記周波数f3すなわちfm-fbの第3の周波数信号に位相同期した上記周波数f5すなわちfm+Δfの第5の周波数信号が上記電圧制御型発振器142により得られる。
【0086】
ここで、位相比較器141は、ダブルバランスドミキサなど位相比較器であり、同一周波数同士の位相比較を行うため低雑音である。また、制御帯域は、周波数比較がfbの周波数で行われるため大きくでき、例えば10MHz以上とることができる。そのため周波数変換器14A,14Bの出力の相対位相雑音は周波数fbの第4の周波数信号と周波数fb+Δfの第5の周波数信号との相対位相雑音に等しくなる。
【0087】
また、周波数変換器14の出力は、周波数fbの第4の周波数信号又は周波数fb+Δfの第5の周波数信号の位相同期の制御帯域より十分大きいので、電圧制御型発振器142のスプリアスfm+fb又はfmのスプリアスを小さくできる。
【0088】
したがって、上記周波数変換器14A,14Bとしてそれぞれ上記位相同期を利用した周波数変換器14を用いることにより、出力側の帯域通過フィルタ16A,16Bは、不要とする、あるいは仕様を軽減することができる。
【0089】
また、上記図1のブロック図に示した低相対位相雑音光コム発生装置10の構成を2重化して、周波数fb、及び周波数fb+Δfの発生段階で相対位相雑音の低減を行うことにより、帯域通過フィルタ16A,16Bの仕様を軽減することができる。
【0090】
図3のブロック図に示す低相対位相雑音光コム発生装置20は、上記基準発振器11により与えられる基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する4つの発振器13,23,23A,23Bと、4つの周波数変換器14A,14B,24A,24Bと、2つの光コム発生器15A,15Bを備え、上記低相対位相雑音光コム発生装置10の構成を2重化してなる。
【0091】
なお、この低相対位相雑音光コム発生装置20において、上記低相対位相雑音光コム発生装置10と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0092】
すなわち、この低相対位相雑音光コム発生装置20は、4分岐のパワーデバイダ22Aを介して供給される4つ発振器23A,23B,13,23と、第3の発振器13から第3の周波数信号が2分岐のパワーデバイダ12Bを介して供給される第1,第2の周波数変換器14A,14Bと、第4の発振器23から第8の周波数信号が2分岐のパワーデバイダ22Bを介して供給される第3,第4の周波数変換器24A,24Bを備える。
【0093】
そして、この低相対位相雑音光コム発生装置20では、第3の周波数変換器24Aに第4の発振器23Aから第6の周波数信号が供給され、第4の周波数変換器24Bに第5の発振器23Bから第7の周波数信号が供給されることにより、上記第3の周波数変換器24Aにより第6の周波数信号の周波数f6と第8の周波数信号の周波数f8との和周波数f6+f8に周波数変換した周波数f9=f6+f8の第9の周波数信号を得るとともに、上記第4の周波数変換器24Bにより第7の周波数信号の周波数f7と第8の周波数信号の周波数f8の和周波数f7+f8に周波数変換した周波数f10=f7+f8の第10の周波数信号を得て、上記第3の周波数変換器24Aにより得られる第9の周波数信号を第1の周波数変換器14Aに供給するとともに、上記第4の周波数変換器24Bにより得られる第10の周波数信号を第2の周波数変換器14Bに供給するようになっている。
【0094】
ここで、上記第1乃至第4の発振器23A,23B,13,23,は、上記基準発振器11により与えられる例えば周波数10MHzの基準周波数信号FREFに位相同期して、発振周波数が固定され、第3の発振器13は、周波数f3=fm-fbの第3の周波数信号を出力し、第8の発振器23は、周波数f8=fb-fcの第8の周波数信号を出力し、第4の発振器23Aは、周波数f6=fcの第6の周波数信号を出力し、第5の発振器23Bは、周波数f7=fc+Δfの第7の周波数信号を出力する。
【0095】
この低相対位相雑音光コム発生装置20において、上記第1の周波数変換器14Aは、上記第3の周波数変換器24Aから、
f9=f6+f8
=fb-fc+fc
=fb
の第9の周波数f9の第9の周波数信号が供給されることにより、第3の発振器13により与えられる第3の周波数信号の周波数f3=fm-fbと上記第9の周波数信号の周波数f9との和周波数f4
f4=f3+f9
=fm-fb+fb
=fm
の第1の変調信号を第1の光コム発生器15Aに駆動信号として供給する。
【0096】
また、上記第2の周波数変換器14Bは、上記第4周波数変換器24Bから、周波数f10
f10=f7+f8
=(fc+Δf)+(fb-fc)
=fb+Δf
の第10の周波数信号が供給されることにより、第3の発振器13により与えられる第3の周波数信号の周波数f3=fm-fbと上記第10の周波数信号の周波数f10との和周波数f5
f5=f3+f10
=(fm-fb)+(fb+Δf)
=fm+Δf
の第2の変調信号を第2の光コム発生器15Bに駆動信号として供給する。
【0097】
ここで、上記第4周波数変換器24Bから上記第2の周波数変換器14Bに供給する第10の周波数信号の周波数f10すなわちfb+Δfは1GHz+500kHzとし、fcは100MHzとする。
【0098】
この低相対位相雑音光コム発生装置20では、上記低相対位相雑音光コム発生装置10における第1、第1の発振器13A,13Bに変えて第1、第2の光コム発生器15A,15Bに駆動信号を供給する上記第4、第5の発振器23A,23Bにより、上記駆動信号の相対位相雑音が決まる。fbが1GHzであってもfcが100MHzであるので、その比率は10程度であるから、上記第3、第4の周波数変換器24A,24Bに帯域通過フィルタ26A,26Bを挿入して、不要な周波数成分を容易に除去することができる。
【0099】
上記第1乃至第4の発振器23A,23B,13,23,の位相雑音をそれぞれφD(t)、φc(t)、φd(t)とする。ここで平均値は0である。それぞれすべて無相関と仮定する。
【0100】
上記第4、第5の周波数変換器24A,24Bが加算器である場合、上記第4の周波数変換器24Aにより得られる周波数fbの第9の周波数信号の位相雑音φa(t)と上記第5の周波数変換器24Bにより得られる周波数fb+Δfの第10の周波数信号の位相雑音φb(t)は、それぞれ次の式(8)、式(9)となる。
φa(t)=φD(t)+φc(t) (8)
φb(t)=φD(t)+φd(t) (9)
【0101】
これを上記式(6)に代入すると、t-nTbのジッタのRMS値は、次の式(10)となる。
√(<(φC(t)+(φD(t)+φd(t))-φC(t)-(φD(t)+φc(t)))>)/2π
=T√(<φd(t)>+<φc(t)>)/2π (10)
【0102】
ここで、φc(t)、φd(t)の位相雑音は図10に示す100MHz発振器XPSの特性相当のレベルになり、25GHzの位相雑音に比較して40dB以上の相対位相雑音の改善が見込まれる。
【0103】
上記低相対位相雑音光コム発生装置20は、上記図1のブロック図に示した低相対位相雑音光コム発生装置10の基本構成を2重化したものであるが、光コム発生器は3個以上とすることもでき、また、Xを1以上の整数、Mを2以上の整数として、上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する(X+Y)個の発振器と、XY個の周波数変換器と、Y個の光コム発生器を備えることにより、(Y+1)個の発振器とY個の周波数変換器とY個の光コム発生器とで構成される基本構成をX重化することができる。
【0104】
例えば、X=3,Y=3として、4個の発振器と、6個の周波数変換器と3個の光コム発生器を備えることにより、4個の発振器と3個の周波数変換器と3個の光コム発生器とで構成される基本構成を3重化した低相対位相雑音光コム発生装置を構成することができる。
【0105】
また、X重化した低相対位相雑音光コム発生装置において、発振周波数が同じ発振器を備える場合、例えば、上記低相対位相雑音光コム発生装置20において、第3、4の発振器13,23の発振周波数が同じであれば、第3の発振器13を第4の発振器23兼用することができ、発振器の数を減らすことができる。
【0106】
ここで、上記図1のブロック図に示した低相対位相雑音光コム発生装置10では、第1,第2の発振器13A,13Bにおいて、基準発振器11により与えられる基準周波数信号FREFにPLLにより位相同期して互いに周波数の異なる第1,第2の周波数信号を発生するようにしたが、DDS(Direct Digital Synthesizer:ディジタル直接合成発振器)を採用することもできる。
【0107】
DDSは、出力周波数よりも高い周波数のシステムクロックで動作する高速信号発生器であり、ナイキストの定理からシステムクロックの半分以下の周波数であれば原理的に出力可能である。DDSは一種の分周器と考えることができ、分周比は整数値である必要はない。DDS出力の位相雑音はシステムクロックで決まり、分周比分減少する。同じシステムクロックで動作する複数のDDS出力の相対的位相雑音は絶対位相雑音より小さい(例えば、非特許文献2参照)。このような同じシステムクロックで動作するDDS発振器をfm,fm+Δf、fb,fb+Δfまたはfc,fc+Δfの信号源に用いることにより相対位相雑音を小さくできる。
【0108】
図4に示す低相対位相雑音光コム発生装置30は、上記低相対位相雑音光コム発生装置10おける第1,第2の発振器13A,13BをDDS発振器33A,33Bに置き換えたもので、基準発振器11から2分岐のパワーデバイダ32Aを介して与えられる基準周波数信号FREFにPLLにより位相同期してシステムクロックを発生する発振器33を備え、この発振器33により得られるシステムクロックが2分岐のパワーデバイダ32Bを介してDDS発振器33A,33Bに供給されるようになっている。上記DDS発振器33A,33Bは、上記基準周波数信号FREFに位相同期した同一のシステムクロックにより駆動されるので、上記低相対位相雑音光コム発生装置10相当以上に相対位相雑音を低減した周波数fmの第1の変調信号と周波数fm+Δfの第2の変調信号を発生して2つ光コム発生器15A,15Bに供給することができる。
【0109】
なお、この低相対位相雑音光コム発生装置30において、上記低相対位相雑音光コム発生装置10と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0110】
また、図5に示す低相対位相雑音光コム発生装置40は、上記低相対位相雑音光コム発生装置20おける第4,第5の発振器23A,23BをDDS発振器43A,43Bに置き換えたもので、基準発振器11から3分岐のパワーデバイダ12Aを介して与えられる基準周波数信号FREFにPLLにより位相同期してシステムクロックを発生する発振器43を備え、この発振器43により得られるシステムクロックが2分岐のパワーデバイダ44を介してDDS発振器43A,43Bに供給されるようになっている。上記DDS発振器43A,43Bは、上記基準周波数信号FREFに位相同期した同一のシステムクロックにより駆動されるので、上記低相対位相雑音光コム発生装置20相当以上に相対位相雑音を低減した周波数fcの第6の周波数信号と周波数fc+Δfの第7の周波数信号を発生することがきる。
【0111】
なお、この低相対位相雑音光コム発生装置40において、上記低相対位相雑音光コム発生装置20と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0112】
第4,第5の周波数変換器24A,24Bは、上記DDS発振器43A,43Bにより得られる相対位相雑音を低減した周波数fcの第6の周波数信号と周波数fc+Δfの第7の周波数信号と、第8の発振器23により与えられる周波数f8=fb-fcの第8の周波数信号との和周波数f9=f6+f8=fb,f10=f7+f8=fb+Δfの第9、第10の周波数信号を、帯域通過フィルタ26A、26Bを介して第1、第2の周波数変換器14A,14Bに供給する。
【0113】
上記第1、第2の周波数変換器14A,14Bでは、第3の発振器13により与えられる第3の周波数f3=fm-fbの周波数信号と上記帯域通過フィルタ26A、26B介して上記第4,第5の周波数変換器24A,24Bから供給される第9、第10の周波数信号との和周波数信号として得られる周波数fmの第1の変調信号を上記第1の周波数変換器14Aから第1の光コム発生器15Aに駆動信号として供給し、周波数fm+Δfの第2の変調信号を上記第2の周波数変換器14Bから第2の光コム発生器15Bに駆動信号として供給することができる。
【0114】
図6に示す低相対位相雑音光コム発生装置50は、上記低相対位相雑音光コム発生装置10における第2,第3の発振器13A,13Bに替えて、シンセサイザ回路53から出力される4種類の周波数信号をスイッチ回路54を介して循回的に切り替えて入力することにより、変調周期が循回的に切り替えられた互いに周期が異なる2種類の周波数信号を第1,第2の周波数変換器14A,14Bに供給するようにしたものである。
【0115】
なお、この低相対位相雑音光コム発生装置50において、上記低相対位相雑音光コム発生装置10と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0116】
この低相対位相雑音光コム発生装置50は、例えば、差周波数が500kHzの独立した4つ周波数信号(F1:1000MHz、F2:1010MHz、F3:1000.5MHz、F4:1010.5MHz)を出力するシンセサイザ回路53と、上記シンセサイザ回路53から4つ周波数信号がそれぞれアイソレータ57A,57B,57C,57Dを介して入力される4入力2出力のスイッチ回路54を備え、上記スイッチ回路54の2つの出力端子に上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bが接続されている。
【0117】
この低相対位相雑音光コム発生装置50において、第1の発振器13は、基準発振器11から5分岐のパワーデバイダ52を介して供給される基準周波数信号FREFに位相同期されて発振位相が固定された周波数F0(例えば、24GHz)の周波数信号を上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bに供給する。
【0118】
上記シンセサイザ回路53は、基準発振器11から5分岐のパワーデバイダ52を介して供給される基準周波数信号FREFにそれぞれ位相同期されて周波数が固定された互いに異なる4種類の周波数F1,F2,F3,F4の周波数信号を発生する4つの発振器53A,53B,53C,53Dを備える。
【0119】
第2の発振器53Aは、上記基準発振器11により発生される基準周波数信号FREFにPLL回路により位相同期されて第1の周波数F1(1000MHz)に固定された第1の周波数信号を発生する。
【0120】
また、第3の発振器53Bは、上記基準発振器11により発生される基準周波数信号FREFにPLL回路により位相同期されて第2の周波数F2(1010MHz)に固定された第2の周波数信号を発生する。
【0121】
また、第3の発振器53Cは、上記基準発振器11により発生される基準周波数信号FREFにPLL回路により位相同期されて周波数が第3の周波数1000.5MHzに固定された第3の周波数信号F3を発生する。
【0122】
さらに、第4の発振器53Dは、上記基準発振器11により発生される基準周波数信号FREFにPLL回路により位相同期されて周波数が第4の周波数F4(1010.5MHz)に固定された第4の周波数信号を発生する。
【0123】
上記スイッチ回路54は、上記シンセサイザ回路53から上記アイソレータ57A,57B,57C,57Dを介して入力される1GHz帯の4種類の周波数信号を巡回的に切り替えて2つの出力端子から交互に出力する。すなわち、上記スイッチ回路54は、上記2つの出力端子に接続されている上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bに供給する1GHz帯の4種類の周波数信号を巡回的に切り替える4入力2出力のセレクタスイッチとして機能する。
【0124】
ここで、上記シンセサイザ回路53とスイッチ回路54の間にアイソレータ57A,57B,57C,57Dを挿入して、上記シンセサイザ回路53からアイソレータ57A,57B,57C,57Dを介してスイッチ回路54に周波数信号を入力することにより、スイッチ回路54以降の回路の遮断や解放などによる負荷変動で信号源の動作が不安定になるのを防止することができる。
【0125】
上記記アイソレータ57A,57B,57C,57には、リバースアイソレーションが大きいマイクロ波増幅器、パイ型抵抗減衰器や抵抗減衰器、フェライトを用いたマイクロ波アイソレータなどのアイソレーション素子や、可変減衰器と帯域通過フィルタとを組み合わせたアイソレーション回路やアイソレーション増幅器と抵抗減衰器や帯域通過フィルタとを組み合わせたアイソレーション回路など用いることができる。
【0126】
そして、上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bは、上記第1の発振器13から供給される周波数F0(例えば、24GHz)の周波数信号と、上記スイッチ回路54から巡回的に切り替えて交互に出力される1GHz帯の4種類の周波数F1,F2,F3,F4の周波数信号から、上記スイッチ回路54により巡回的に切り替えられた上記1GHz帯の4種類の周波数F1,F2,F3,F4の周波数信号を25GHz帯域の4種類の変調周波数Fm1,Fm2,Fm3,Fm4に周波数変換した第1、第2の変調信号Fma、Fmbを得て、上記第1、第2の光コム発生器15A,15Bに駆動信号として供給する。
【0127】
すなわち、上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bは、1GHz帯の周波数信号を上記第1、第2の光コム発生器15A,15Bに駆動信号として供給する25GHz帯域の第1、第2の変調信号Fma,Fmbに周波数変換するアップコンバータとして機能する。
【0128】
ここで、この低相対位相雑音光コム発生装置50は、特許文献1,2等に記載されている光コム距離計や三次元形状測定機において周波数の切り替えを要する絶対距離測定を行うための基準光パルスと測定光パルスとして2種類の光コムを発生するものであって、上記1GHz帯の4種類の周波数F1,F2,F3,F4の周波数信号を上記スイッチ回路54により巡回的に切り替えて上記第1,第2の周波数変換器14A,14Bにより25GHz帯域の4種類の変調周波数Fm1,Fm2,Fm3,Fm4にアップコンバートして得られる第1、第2の変調信号Fma,Fmbを上記第1、第2の光コム発生器15A,15Bに駆動信号として供給することにより、上記第1、第2の光コム発生器15A,15Bから、表1に示すように、変調周期が循回的に切り替えられた互いに変調周期が異なる2種類の光コムが出力される。
【表1】
【0129】
表1は、#1~4の設定における第1,第2の光コム発生器15A,15Bの駆動信号の遷移状態OFCG1/OFCG2と位相差を示しており、駆動信号の周波数は、Δf=500kHz、Δfm=10MHz、fm=Fm1(25000MHz)、fm+Δfm=Fm2(25010MHz)、fm+Δf=Fm3(25000.5MHz)、fm+Δfm+Δf=Fm4(25010.5MHz)となっている。図7は、この低相対位相雑音光コム発生装置50において、2つ光コム発生器15A,15Bに供給される駆動信号の状態遷移を示す状態遷移図である。
【0130】
ここで、光コム距離計では、原理的に周波数が異なる2種類の変調信号により駆動される2つの光コム発生器からパルス出射される干渉性のある基準光パルスと測定光パルスを用いることにより、信号処理部において、基準光検出器により得られる干渉信号(以下、参照信号と言う。)測定光検出器により得られる干渉信号(以下、測定信号と言う。)について周波数解析を行い、光コムの中心周波数から数えたモード番号をNとして、参照信号と測定信号のN次モード同士の位相差を計算して光コム発生器から基準点までの光コム生成、伝送過程の光位相差を相殺した後、周波数軸で次数1あたりの位相差の増分を計算して信号パルスの位相差を求めることにより、基準点から測定面までの距離を算出する。
【0131】
なお、測定距離が変調周波数fmの半波長を超えると物体光の周期性によりその半波長の整数倍の距離が不明となって一義的に距離を求められないので、表1に示す4通りの変調周波数に設定した基準光パルスと測定光パルスを用いて4回測定して、信号処理部において、同じ処理を行うことにより得られる各位相差を用いて、半波長相当の多義性距離(La=c/2fm c:光速)を超える距離を算出する。
【0132】
すなわち、表1に示す4通りの変調周波数に設定して測定して得られる参照信号と測定信号の位相差は、2つの光コム発生器(OFCG1,OFCG2)を駆動する変調信号の変調周波数がfmとfm+Δfである#1の設定では-2πfmTとなり、変調信号の変調周波数がfm+Δfmとfm+Δfm+Δfである#2の設定では-2π(fm+Δfm)Tとなり、変調信号の変調周波数がfm+fmとfmである#3の設定では-2π(fm+Δf)Tとなり、変調信号の変調周波数がfm+Δfm+Δfとfm+Δfmである#4の設定では-2π(fm+Δfm+Δf)Tとなる。
【0133】
距離(La=c/2fm c:光速)も長い場合、参照信号と測定信号の位相差(-2πfmT)は、mを整数としてφ+2mπの形であり、計算によりφの部分だけが求められるが、整数値mは不明である。
【0134】
一方、#1の設定での参照信号と測定信号の位相差-2πfmTと#2の設定での参照信号と測定信号の位相差-2π(fm+Δfm)Tの差は2πΔfmTであり、また、#3の設定での参照信号と測定信号の位相差-2π(fm+Δf)Tと#4の設定での参照信号と測定信号の位相差-2π(fm+Δfm+Δf)Tの差は2πΔfmTであり、1/Δfmの波長に相当する距離(Δfm=10MHzであればLaは15m)までならば、一義的に位相が決まる。
【0135】
そして、この位相をfm/Δfm倍して#1の位相差との比較により整数mを判定することができる。
【0136】
さらに、表1の#1の設定での位相差-2πfmTと#3の設定での位相差-2π(fm+Δf)Tの差から2πΔfが得られる。
【0137】
ここで、fm=25GHz、Δf=500kHz、Δfm=10MHzとした場合、Δf=500kHzであるからLa=300mまでの距離計測を行うことができる。
【0138】
この低相対位相雑音光コム発生装置50を搭載した光コム距離計では、表1に示す4通りの変調周波数に設定して測定して得られる参照信号と測定信号を用いて絶対距離計測が行われる。すなわち、1つの状態を一定時間保持した後に他の状態に移り、一定の区間でその状態の信号位相計測を行い、#1、#2、#3、#4の設定状態の位相を使って絶対距離の計算処理を実行する。
【0139】
光コム距離計における計測速度は、6mm以内の相対距離測定ではΔfに等しく500kHzであるのに対し、周波数の切り替えを要する絶対距離測定では、周波数の切り替え時間と絶対距離計算時間を含めたものとなる。
【0140】
上記低相対位相雑音光コム発生装置50では、上記シンセサイザ回路53と上記スイッチ回路54の間にアイソレータ57A,57B,57C,57Dが挿入されているので、上記4種類の周波数F1,F2,F3,F4の周波数信号を上記スイッチ回路54により巡回的に切り替えた瞬間における負荷変動により上記シンセサイザ回路53の動作が不安定になることがなく、光コム発生器15A,15Bの駆動信号を迅速に切り替えて駆動状態を遷移させることができる。すなわち、上記スイッチ回路54により、上記4種類の変調周波数Fm1,Fm2,Fm3,Fm4を巡回的に切り替えて、第1,第2の光コム発生器15A,15Bの駆動状態を迅速に遷移させることができ、参照信号と測定信号の変調周波数を切り替えて絶対距離計測を行う2つの光コム光源として用いることにより、絶対距離の測定時間を短縮することができる。
【0141】
なお、距離計測だけであれば、#1と#2の設定のみ、あるいは、#3と#4の設定のみでも可能であるが、上述のごとく#1,#2,#3,#4の設定、すなわち、上記4種類の変調周波数Fm1,Fm2,Fm3,Fm4を上記スイッチ回路54により巡回的に切り替えることにより、測定対象以外の信号伝送経路による位相オフセットを補正して高精度に絶対距離結果を得ることができる。すなわち、2つの光コム発生器(OFCG1,OFCG2)の変調周波数を入れ替えたときに測定対象距離に由来の位相は絶対値が変わらず符号が反転する。一方、干渉信号伝送路のケーブル長さに由来するオフセットは符号が変わらず一定値になる。したがって、2回の位相測定の結果を差し引いて2で割るとオフセットを除外した位相値を求めることができる。
【符号の説明】
【0142】
10,20,30,40,50 低相対位相雑音光コム発生装置、11 基準発振器、12A ,12B,22A,22B,32,44,52 パワーデバイダ、13,13A,13B,23,23A,23B,33,33A,33B,43,43A,43B,53A,53B,53C,53D 発振器、14,14A,14B,24A,24B,143 周波数変換器、15A,15B 光コム発生器、16A,16B,26A,26B 帯域通過フィルタ、17A,17B 57A,57B,57C,57D アイソレータ、53 シンセサイザ回路、54 スイッチ回路、141 位相比較器、142 電圧制御型発振器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに周波数の異なる周波数信号を発生する少なくとも3つの発振器と、
上記3つの発振器の内の1の発振器により得られる周波数信号と、上記1の発振器以外の各発振器により得られる各周波数信号が入力される少なくとも2つの周波数変換器と、
上記少なくとも2つの周波数変換器により周波数変換された互いに周波数の異なる少なくとも2種類の変調信号が供給される少なくとも2つの光コム発生器と
を備え、
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ上記1の発振器による周波数信号と他の発振器による周波数信号との和周波数信号又は差周波数信号として相対位相雑音を低減した上記少なくとも2種類の変調信号を駆動信号として少なくとも2つの光コム発生器に供給することを特徴とする低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項2】
上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記1の発振器よりも位相雑音が小さいものであることを特徴する請求項1に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項3】
上記少なくとも3つの発振器は、基準発振器により与えられる基準周波数信号に位相同期された互いに周波数の異なる周波数信号を発生することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項4】
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項5】
上記少なくとも2つの周波数変換器は、それぞれ周波数混合器と位相比較器と電圧制御型発振器からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項6】
上記少なくとも2つの光コム発生器には、上記少なくとも2つの周波数変換器から変調信号がそれぞれ帯域通過フィルタを介して駆動信号として供給されることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項7】
上記少なくとも2つの周波数変換器には、上記1の発振器により得られる周波数信号がそれぞれアイソレータを介して入力されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項8】
上記少なくとも3つの発振器は、それぞれPLL回路により基準の周波数信号に位相同期された周波数が固定された状態の少なくとも3種類の変調信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項9】
上記少なくとも3つの発振器の内の上記1の発振器以外の各発振器は、上記基準周波数信号に位相同期されたクロックにより駆動される各ディジタル直接合成発振器(DDS:Direct Digital Synthesizer)であることを特徴とする請求項3に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項10】
上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する3つの発振器と、2つの周波数変換器と、2つの光コム発生器を備え、
上記2つの周波数変換器により得られる相対位相雑音を低減した2種類の変調信号を駆動信号として上記2つの光コム発生器に供給することを特徴とする請求項3に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。
【請求項11】
Xを1以上の整数、Yを2以上の整数として、
上記基準周波数信号に位相同期して互いに周波数の異なる周波数信号を発生する(X+Y)個の発振器と、XY個の周波数変換器と、Y個の光コム発生器を備え、
(Y+1)個の発振器とY個の周波数変換器とY個の光コム発生器とで構成される基本構成をX重化してなることを特徴とることを特徴とする請求項3に記載の低相対位相雑音光コム発生装置。