(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128370
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】漏れ試験用閉鎖プラグおよび麻酔器並びに循環式呼吸回路の漏れ試験方法
(51)【国際特許分類】
A61M 16/01 20060101AFI20220825BHJP
A61M 16/20 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61M16/01 Z
A61M16/20 Z
A61M16/20 G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021067372
(22)【出願日】2021-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000101134
【氏名又は名称】アコマ医科工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永井 龍太郎
(57)【要約】
【課題】 麻酔器の漏れ試験に用いる閉鎖プラグによって循環式呼吸回路が閉鎖された状態で麻酔ガス分析装置によるガスサンプリングによりガスの吸引が続いて呼吸回路内が過度の陰圧となり麻酔器内呼吸回路にある部品が損傷することを防止する。
【解決手段】 漏れ試験用閉鎖プラグに一方向弁を組み合わせ、呼吸回路内からガスを吸引されても外気を取り込むことで過度の陰圧となることを防止する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環式呼吸回路により患者の肺の換気を行いながら全身麻酔をかける麻酔器の始業前点検の項目にある前記呼吸回路の漏れ試験の際に前記呼吸回路の患者端を閉鎖するために用いるプラグで、
漏れ試験の陽圧が加わった場合には気密性を保ち、前記麻酔器と併用されるガスモニタによる計測用ガス吸引により前記呼吸回路内ガスが減少した場合には外部の空気を前記呼吸回路内に取り込み前記呼吸回路内が陰圧になることを防止する一方向弁をもつ漏れ試験用閉鎖プラグ。
【請求項2】
請求項1の漏れ試験用閉鎖プラグに漏れ試験で用いる圧力を超える圧力を外気へ逃がす陽圧安全弁を備えた漏れ試験用閉鎖プラグ。
【請求項3】
請求項1または2の漏れ試験用閉鎖プラグを備えた循環式呼吸回路を形成する麻酔器。
【請求項4】
循環式呼吸回路により患者の肺の換気を行いながら全身麻酔をかける麻酔器の始業前点検の項目にある前記呼吸回路の漏れ試験の際に、一方向弁を有するプラグで前記呼吸回路の患者端を閉鎖し、
漏れ試験の陽圧が加わった場合には前記呼吸回路内の気密性を保ち、前記麻酔器と併用されるガスモニタによる計測用ガス吸引により前記呼吸回路内ガスが減少した場合には外部の空気を前記呼吸回路内に取り込み前記呼吸回路内が陰圧になることを防止する循環式呼吸回路の漏れ試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、循環式呼吸回路で患者に麻酔ガスや酸素を供給する麻酔器および循環式呼吸回路の漏れ試験に関する。
【背景技術】
【0002】
麻酔器100およびその外部の回路によって形成される循環式呼吸回路は、
図1に示すものがある。人工呼吸器1または呼吸バッグ2により麻酔器内呼吸回路3の内部を加圧し、第一の一方向弁4、吸気チューブ7を通して呼吸回路内の麻酔薬を含むガス6を患者肺24に送り、人工呼吸器1または呼吸バッグ2の加圧を止めると患者肺24内のガスは呼気チューブ8、第二の一方向弁5を通して人工呼吸器1または呼吸バッグ2に戻り、この動作を繰り返すことでガス6を循環させながら患者肺24の換気を行う循環式呼吸回路を構成する。患者の呼気に含まれる炭酸ガスはキャニスタ103に充填された炭酸ガス吸収材で除去される。新鮮ガス流入口101から麻酔薬を含む調節されたガスを取り入れ、余ったガスは余剰麻酔ガス排出口102から排出し、循環式呼吸回路内のガス濃度が調節される。
【0003】
循環式呼吸回路の一部を構成する吸気チューブ7と、呼気チューブ8の2本の導管は麻酔器100に接続されている。2本のチューブの患者側端部は2つのチューブをY字形部品9で結合され、ひとつの流路に合流するようになっている。
【0004】
Y字形部品9の患者側端部10にはコネクタが形成され、患者の気管に挿入された気管挿管チューブ11の呼吸回路側プラグ外周のテーパ部12が、Y字形部品9のコネクタの患者側端部10または麻酔器100と併用される麻酔ガス分析装置15のために使用される中継管17の患者側端部13に挿入されることで接続可能となっている。Y字形部品9の患者側端部10、中継管17の両端、および気管挿管チューブ11の呼吸回路側プラグ外周のテーパ部12は、
図8に示す国際規格ISO5356―1やJIST7201―2―1で定められた形状寸法となっている。
【0005】
麻酔器100は使用前に循環式呼吸回路の漏れ試験を実施する。漏れ試験の方法は、
図2の通りY字形部品9の患者側端部10または中継管17の患者側端部13を閉鎖プラグ14により閉塞した状態で、循環式呼吸回路の内圧を30cmH
2O(30hPa)に上昇させ、少なくとも10秒間は内圧(ゲージ圧)が30cmH
2O(30hPa)に保たれることを確認する方法が一般的(非特許文献1、3ページおよび6-7ページ)である。
【0006】
図3の麻酔器の枠線部の拡大図が
図4であり、このように患者側端部13を閉塞する手段として、漏れ試験用の閉鎖プラグ14を備える麻酔器もある。この場合、閉鎖プラグ14に患者側端部13を接続し、閉鎖された循環回路に一定量または一定圧のガスを供給し、漏れ試験を実施することができる。なお、ガスを供給してから漏れ試験までを自動で実施する麻酔器もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】麻酔器の始業点検(2019年8月改訂)社団法人日本麻酔科学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
麻酔器100は患者が吸入する麻酔ガス濃度、並びに患者呼気に含まれる麻酔ガス濃度および炭酸ガス濃度などを計測するための麻酔ガス分析装置15と併用されるため、Y字形部品9と気管挿管チューブ11またはマスクの間にガスサンプリングコネクタ16を有する中継管17が接続される場合がある。また、Y字形部品9などにガスサンプリングコネクタを有している場合もある。
【0010】
麻酔ガス分析装置15が作動中は、麻酔ガス分析装置15に内蔵された吸引ポンプにより、患者が吸入・排出するガスを連続的にガスサンプリングコネクタ16から吸引する。
【0011】
麻酔器100と併用される麻酔ガス分析装置15がY字形部品9もしくは中継管17に接続された状態で、麻酔器の始業点検(非特許文献1)に従った漏れ試験を実施し、終了後そのままの状態で患者側端部10もしくは13が閉鎖プラグ14に接続され循環式呼吸回路が閉鎖されていると、サンプリングガスが循環式呼吸回路から持続的に引かれ、漏れ試験時にガスで満たされた呼吸バッグ2が虚脱し、さらにサンプリングガスが引かれた場合、回路内圧計18や圧力センサ19、流量センサ20、21などに過度の陰圧がかかりこれら機器が損傷に至る場合がある。
【0012】
機器損傷を防ぐ目的で麻酔器内呼吸回路3に陰圧を防止する一方向弁を設けている麻酔器もあるが、万が一麻酔中に回路内に設けた一方向弁に故障が生じれば、患者の生命はリスクにさらされることになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、
[1]循環式呼吸回路により患者の肺の換気を行いながら全身麻酔をかける麻酔器の始業前点検(非特許文献1)の項目にある前記呼吸回路の漏れ試験の際に前記呼吸回路の患者端を閉鎖するために用いるプラグで、漏れ試験の陽圧が加わった場合には気密性を保ち、前記麻酔器と併用されるガスモニタによる計測用ガス吸引により前記呼吸回路内ガスが減少した場合には外部の空気を前記呼吸回路内に取り込み前記呼吸回路内が陰圧になることを防止する一方向弁をもつ漏れ試験用閉鎖プラグ。
[2][1]の漏れ試験用閉鎖プラグに漏れ試験で用いる圧力を超える圧力を外気へ逃がす陽圧安全弁を備えた漏れ試験用閉鎖プラグ。
[3][1]の閉鎖プラグを備えた循環式呼吸回路を形成する麻酔器。
[4]循環式呼吸回路により患者の肺の換気を行いながら全身麻酔をかける麻酔器の始業前点検の項目にある前記呼吸回路の漏れ試験の際に、一方向弁を有するプラグで前記呼吸回路の患者端を閉鎖し、
漏れ試験の陽圧が加わった場合には前記呼吸回路内の気密性を保ち、前記麻酔器と併用されるガスモニタによる計測用ガス吸引により前記呼吸回路内ガスが減少した場合には外部の空気を前記呼吸回路内に取り込み前記呼吸回路内が陰圧になることを防止する循環式呼吸回路の漏れ試験方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に依れば、麻酔ガス分析装置15がY字形部品9もしくは中継管17に接続された状態で、漏れ試験終了後や麻酔器100を使用しないときに患者側端部10もしくは13が一方向弁22を備えた
図5の閉鎖プラグに接続され循環式呼吸回路が閉鎖されていると、サンプリングガスが循環式呼吸回路から持続的に引かれ、漏れ試験時にガスで満たされた呼吸バッグ2が虚脱し、さらにサンプリングガスが引かれた場合、回路内圧計18や圧力センサ19、流量センサ20、21などに過度の陰圧がかかりこれら機器が損傷に至ることを防止することができる。
【0015】
また、麻酔器を患者に使用中はこの一方向弁22は循環式呼吸回路には接続されないので、万が一この一方向弁22に故障が生じても患者がリスクに晒されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】麻酔器100の循環式呼吸回路構成を示す図である。実線で囲んだ部分が麻酔器である。
【
図2】漏れ試験時、患者側端部を閉鎖プラグで閉じた状態の循環式回路構成を示す図である。
【
図3】閉鎖プラグを備えた麻酔器の外観を示す図である。枠線部分に閉鎖プラグを備えている。
【
図4】
図3の麻酔器において、閉鎖プラグへの患者側端部の接続を示す拡大の図である。
【
図5】本発明の陰圧弁を備えた閉鎖プラグの構造の一例を示す図である。
【
図6】本発明の陰圧弁および陽圧安全弁を備えた閉鎖プラグの構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の閉鎖プラグを使用した麻酔器の漏れ試験の回路構成を示す図である。
【
図8】循環式呼吸回路を構成する各部品の嵌合部形状を定めたJIS規格を示す図である。
【
図9】漏れ試験の状態でガスサンプリングコネクタ16から呼吸回路内のガスの吸引を続けた場合の本発明の閉鎖プラグを使用した場合と、従来の閉鎖プラグを使用した場合の呼吸回路内の圧力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、
図7に基づいて手術開始前あるいは手術終了後、
図4のようにY字型部品9または中継管17の患者端を閉鎖プラグ14に接続したまま吸気チューブ7および呼気チューブ8などを保持される場合があるが、このとき閉鎖プラグ14が本発明の
図5の構造であれば麻酔ガス分析装置15が循環式呼吸回路に接続されて呼吸バッグ2が虚脱した後もサンプリングガスが循環式呼吸回路から持続的に引かれて循環式呼吸回路内が周囲の大気圧より低くなった場合、一方向弁22により外気が流れ込んで陰圧となることを防止し、回路内圧計18、流量センサ20、21、圧力センサ19の破損を防ぐことができる。
【0018】
図6は一方向弁の別の形態例であり、
図8のコネクタサイズ15mmの形状をした閉鎖プラグで閉鎖プラグの外部から閉鎖プラグ先端の循環回路へ向けて外気が流入する一方向弁および閉鎖プラグ先端の循環回路が40hPa以上となったときに循環回路内のガスを外気へ逃がす陽圧安全弁を設けてある。
【0019】
図6の通り、漏れ試験時に過度な陽圧から麻酔器を保護するための陽圧安全弁25を一方向弁22と並列に試験用の閉鎖プラグ23に設けてもよい。本発明の閉鎖プラグはそれ単体として使用することもできるし、
図3の通り麻酔器本体に備えることもできる。後者の場合、
図4の通り始業前点検後、患者側端部を閉鎖プラグ23に接続して固定しておくことで、呼吸回路内を陽圧および陰圧から保護しつつ麻酔器に取り付けられた吸気チューブ7、呼気チューブ8、Y字形部品9が床に落下することを防止する一時架台として使用することもできるといった効果・利便性もある。
【実施例0020】
図4に示した麻酔器に備えられた閉鎖プラグを
図5(または
図6)に示す一方向弁(及び陽圧安全弁)を備えた閉鎖プラグに置き換えて、患者側端部10もしくは13を閉鎖プラグに接続し循環式呼吸回路が閉鎖され、麻酔ガス分析装置15によりサンプリングガスが持続的に引かれた状態での呼吸回路内圧力を計測したところ、機器損傷圧力(ゲージ圧)を麻酔器搭載の回路内圧計の下限目盛り-10hPaとした場合、
図9の通り従来プラグは吸引時間の増加に伴い呼吸回路内の圧力が下がって行き、機器破損圧力(-10hPa以下)に達するが、
図5(または
図6)の構造で製作した発明プラグでは機器破損圧力に達しないまま維持される。