(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128440
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】被覆された燃料電池触媒材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220825BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220825BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220825BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220825BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220825BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M4/86 B
H01M4/90 Y
H01M4/92
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022024508
(22)【出願日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】17/180,952
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
2.Java Script
3.Python
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】カリム ガデルラブ
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルギー サムソニジェ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン マイロア
(72)【発明者】
【氏名】モルデチャイ コーンブラス
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ ヘルストローム
(72)【発明者】
【氏名】スー キム
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE16
5H018HH03
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】燃料電池の触媒材料を提供する。
【解決手段】金属材料で形成される金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含み、前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み、前記炭素系被覆組成物はドーパントでドープされており、前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワーク内の1つ以上の炭素原子空孔によって形成されるいくつかの欠陥を含み、前記炭素系被覆組成物は非芳香族の炭素分子から作られている、燃料電池触媒材料。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料で形成される金属触媒粒子と、
前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物
とを含み、
前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み、
前記炭素系被覆組成物はドーパントでドープされており、
前記炭素系被覆組成物は前記炭素ネットワーク内の1つ以上の炭素原子空孔によって形成されるいくつかの欠陥を含み、且つ
前記炭素系被覆組成物は非芳香族の炭素分子から作られている、
燃料電池触媒材料。
【請求項2】
前記非芳香族の炭素分子がキトサンである、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項3】
前記非芳香族の炭素分子が金属有機構造体(MOF)である、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項4】
前記非芳香族の炭素分子が糖またはセルロース分子である、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項5】
前記非芳香族の炭素分子がイオン性液体である、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項6】
前記金属材料が純粋なPt、Pt-M合金であり、前記Mは金属、他の白金族元素、PGM-M合金系、非PGM触媒材料、およびそれらの組み合わせである、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項7】
前記ドーパントが、N、B、P、S、O、Si、Al、Clおよび/またはF原子を含む、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項8】
前記炭素系被覆組成物の厚さが0.2~3.0ナノメートルである、請求項1に記載の燃料電池触媒材料。
【請求項9】
触媒担体、および
前記触媒担体上に担持される触媒材料であって、金属材料で形成される金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含む前記触媒材料
を含み、
前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み、
前記炭素系被覆組成物はドーパントでドープされており、
前記炭素系被覆組成物は前記炭素ネットワーク内の1つ以上の炭素原子空孔によって形成されるいくつかの欠陥を含み、且つ
前記炭素系被覆組成物は非芳香族の炭素分子から作られている、
燃料電池触媒電極。
【請求項10】
前記非芳香族の炭素分子がキトサンである、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項11】
前記非芳香族の炭素分子がMOF構造体である、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項12】
前記非芳香族の炭素分子が糖またはセルロース分子である、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項13】
前記非芳香族の炭素分子がイオン性液体である、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項14】
前記金属材料が純粋なPt、Pt-M合金であり、前記Mは金属、他の白金族元素、PGM-M合金系、非PGM触媒材料、およびそれらの組み合わせである、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項15】
前記ドーパントが、N、B、P、S、O、Si、Al、Clおよび/またはF原子を含む、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項16】
前記炭素系被覆組成物の厚さが0.2~3.0ナノメートルである、請求項9に記載の燃料電池触媒電極。
【請求項17】
燃料電池触媒材料の製造方法であって、
金属を有する前駆体の金属塩と、前駆体の炭素分子とを反応させて、金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含む触媒材料を形成する段階
を含み、前記前駆体の炭素分子が非芳香族である、前記方法。
【請求項18】
前記前駆体の炭素分子がキトサン、MOF、糖分子、セルロース分子またはイオン性液体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記前駆体の金属塩が、H2PtCl6・6H2O、PtClnまたはPt(NH3)2Cln[式中、2≦n≦4である]である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記炭素系被覆組成物の厚さが0.2~3.0ナノメートルである、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆された燃料電池触媒材料、例えば欠陥のある炭素系層で被覆された燃料電池触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は車両および他の輸送用途のための代替電源として有望であることが示されている。燃料電池は再生可能なエネルギーキャリア、例えば水素を用いて動作する。燃料電池はまた、有害な排出物または温室効果ガスなく動作する。燃料電池スタック内の材料のコストが比較的高いことに起因して、燃料電池技術は採用が限られている。燃料電池スタックの全体的なコストに著しく起用する材料の1つは触媒材料、例えば白金触媒材料である。触媒材料は燃料電池のアノードとカソードとの両方の触媒層内に含まれている。触媒材料の耐久性は燃料電池技術の全体的なコストに影響を及ぼす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
1つの実施態様によれば、燃料電池の触媒材料が開示される。前記燃料電池の触媒材料は、金属材料で形成される金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含み得る。前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み得る。前記炭素系被覆組成物をドーパントでドープできる。前記炭素系被覆組成物は、炭素ネットワーク内の1つ以上の炭素原子空孔によって形成されるいくつかの欠陥を含み得る。前記炭素系被覆組成物は、非芳香族の炭素分子から作られ得る。
【0004】
他の実施態様によれば、燃料電池の触媒電極が開示される。前記燃料電池の触媒電極は、触媒担体と、前記触媒担体上に担持された触媒材料とを含み得る。前記触媒材料は、金属材料で形成される金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含み得る。前記炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み得る。前記炭素系被覆組成物をドーパントでドープできる。前記炭素系被覆組成物は、炭素ネットワーク内の1つ以上の炭素原子空孔によって形成されるいくつかの欠陥を含み得る。前記炭素系被覆組成物は、非芳香族の炭素分子から作られ得る。
【0005】
さらに他の実施態様によれば、燃料電池の触媒材料の製造方法が開示される。前記方法は、金属を有する前駆体の金属塩と前駆体の炭素分子とを反応させて、金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する炭素系被覆組成物とを含む触媒材料を形成することを含み得る。前記前駆体の炭素分子は非芳香族であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は燃料電池の模式的な側面図を図示する。
【
図2】
図2は、1つ以上の実施態様の密度汎関数法(DFT)および/またはアブイニシオ分子動力学法(AIMD)のアルゴリズム、計算および/または方法の実施のために利用できるコンピューティングプラットフォームの模式図である。
【
図3】
図3は、水中のPt水和物塩とアニリンとの、不活性N
2雰囲気下でのアニールプロセス後の化学反応のAIMDシミュレーションからのPt-C結合の形成を図示する模式図である。
【
図4】
図4は、1つの実施態様による欠陥のある炭素系被覆を有する燃料電池の触媒材料の模式図である。
【
図5】
図5A~5Cはそれぞれ、純粋なグラフェンシートとPt原子との間、NドープされたグラフェンシートとPt原子との間、およびBドープされたグラフェンシートとPt原子との間の化学的界面を示す模式図である。
【
図6】
図6Aおよび6Bはそれぞれ、BドープされたグラフェンシートとPt原子との間の化学的界面、NドープされたグラフェンシートとPt原子との間の化学的界面についてシミュレーションされた電子密度差の等値面のプロットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
本開示の実施態様が本願内に記載される。しかしながら、開示された実施態様は単なる例であり、他の実施態様は様々且つ代替的な形態を取り得ることが理解されるべきである。図面は必ずしも縮尺通りではなく、要素の詳細を示すためにいくつかの特徴が強調または最小化されていることがある。従って、本願内に開示される特定の構造および機能の詳細は限定として解釈されるべきではなく、実施態様を様々に用いることを当業者に教示するための単なる代表的なベースとして解釈されるべきである。当業者には理解されるとおり、図面のいずれか1つを参照して示され且つ記載される様々な特徴を、1つ以上の他の図面において示される特徴と組み合わせて、明示的には示されていないかまたは記載されていない実施態様をもたらすことができる。示される特徴の組み合わせは、典型的な用途のための代表的な実施態様を提供する。しかしながら、本開示の教示と一致する特徴の様々な組み合わせおよび変更が用途または実施のために望ましいことがある。
【0008】
特定の要素および/または条件は当然変化し得るので、本開示は以下に記載される特定の実施態様および方法に限定されない。さらには、本願内で使用される用語は、本開示の実施態様を記載する目的のためだけに使用され、どのようにも限定することは意図されていない。
【0009】
明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形は、文脈上、そうでないことが明らかに示されない限り、複数の対象も含む。例えば単数形の要素の参照は、複数の要素を含むことが意図されている。
【0010】
1つ以上の実施態様と関連して所定の目的のために適した材料の群または分類の記載は、その群または分類の構成要素の任意の2つ以上の混合物が適していることを示唆する。化学的用語における成分の記載は、記載中で特定される任意の組み合わせに添加する時点の成分に関し、一度混合された混合物の成分内での化学的相互作用を必ずしも除外するわけではない。
【0011】
明示的に示されている場合以外、寸法または材料特性を示すこの記載内の全ての数値的な量は、本開示の最も広い範囲を記載する際に「約」との文言によって修正されるとして理解されるべきである。
【0012】
頭辞語または他の省略形の最初の定義は、同じ省略形の本願における後の全ての使用に適用され、且つ準用して、最初に定義された省略形の通常の文法上の変化形に適用される。明らかに反対であることが述べられない限り、特性の測定は、同じ特性について先にまたは後に参照される同じ技術によって特定される。
【0013】
「実質的に」との文言は本願において、開示または特許請求される実施態様を記載するために使用され得る。「実質的に」との文言は、本開示において開示または特許請求される任意の値または関連する特徴を修正し得る。「実質的に」は、それが修正する値または関連する特徴が、その値または関連する特徴の±0%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%または10%以内であることを表すことができる。
【0014】
発明者らが知る組成、実施態様および実施態様の方法が詳細に参照される。しかしながら、開示される実施態様は本開示の単なる例示であり、それは様々且つ代替的な形態で具現化され得る。従って、本願内に開示される特定の詳細は限定として解釈されるべきではなく、むしろ本開示を様々に用いることを当業者に教示するための単なる代表的なベースとして解釈されるべきである。
【0015】
二酸化炭素の放出が上昇していること、および輸送分野におけるエネルギーキャリアとして再生可能ではない化石燃料に比較的高く依存していることに起因して、クリーン且つ持続可能なエネルギー源を使用する輸送技術を開発および商業化する必要性がますます増加している。1つの有望な技術は燃料電池である。燃料電池は空気からの酸素、および燃料源としての圧縮水素燃料を使用する一方で、水と熱のみを放出する。燃料電池が広く採用されると二酸化炭素の放出が低減し得る。しかしながら、広い採用はさらなる技術開発を必要とする。さらなる技術開発の1つの分野は、燃料電池における触媒材料の耐久性の改善である。
【0016】
図1は燃料電池10の模式的な側面図を図示する。燃料電池10が積層されて燃料電池スタックを作り出すことができる。燃料電池10は、ポリマー電解質膜(PEM)12、アノード14、カソード16および第1および第2のガス拡散層(GDL)18および20を含む。PEM12はアノード14とカソード16との間に配置される。アノード14は第1のGDL18とPEM12との間に配置され、カソード16は第2のGDL20とPEM12との間に配置される。PEM12、アノード14、カソード16、および第1および第2のGDL18および20は、膜電極接合体(MEA)22を含む。MEA22の第1および第2の側24および26は、フローフィールド28および30によってそれぞれ結合されている。フローフィールド28は、矢印32によって示されるとおり、水素燃料、例えばH
2をMEA22に供給する。フローフィールド30は、矢印34によって示されるとおり、O
2をMEA22に供給する。触媒材料、例えば白金は、アノード14およびカソード16において使用される。触媒材料は一般に、MEA22の最も高価な構成要素である。
【0017】
アノード14では触媒材料(例えば白金、Pt)が水素の酸化反応(HOR)(例えばH2→2H++2e-)を触媒し、それが導体路36(例えばワイヤ)を通じた電子の流れを作り出す。カソード16では触媒材料が酸素の還元反応(ORR)(1/2O2+2H++2e-→H2O)を触媒し、ここで電子が導体路36から供給される。ORRからのH2Oおよび熱は、矢印38によって示されるとおり、第2のフローフィールド30を通じて燃料電池10を出る。カソード16における触媒材料の装填量はアノード14における装填量よりも高く、なぜならORRの反応(kinetics)はHORの反応よりも著しく遅いからである。0.025mgPt/cm2という低さのアノード14の装填量は、HORについて20mV以下の反応損失をもたらすことがある。0.1、0.2、0.3または0.4mgPt/cm2のカソード16の装填量は、400mV以上の反応損失をもたらすことがある。
【0018】
燃料電池10の動作の間に、触媒材料はアノード14およびカソード16で劣化し、経時的に燃料電池10に発生する反応過電圧における上昇をもたらすことがある。様々な現象が燃料電池における触媒材料の劣化をもたらし得る。燃料電池10の動作の間のカソード16における触媒装填量の変動は、カソード電位における変化、例えば以下の値のいずれかまたはその範囲内の変化をもたらすことがある: 0.7、0.8、0.9および0.95V。このレベルのカソード電位の変化は、カソード16における触媒材料の劣化をみちびくことがある。起動および停止の影響、または局所的な燃料の枯渇の影響は、アノード14における触媒材料の劣化をみちびくことがある。触媒材料の装填量の実質的な低減は、燃料電池10のコストの目標に達することを著しく助けることができるので、触媒材料の劣化を低減するためのシステム、構造および方法を同定することは、寿命初期(beginning-of-life; BOL)および寿命末期(end-of-life; EOL)の性能指標を満足することを助ける。
【0019】
1つの提案によれば、炭素で封入されたPtナノ粒子をPEM燃料電池触媒材料として使用することができる。アニリンおよびH2PtCl6・6H2O水和塩および炭素ナノ繊維(CNF)の組み合わせを使用して白金ナノ粒子を共合成し、CNF表面に付着した比較的薄い炭素層によって封入された白金ナノ粒子触媒をもたらすことができる。封入構造、封入シェルの化学的構造および保護の機構を形成する化学反応はこの提案によって開示または提案されない。
【0020】
必要なのは、欠陥のある炭素系被覆組成物、およびそのような組成物を前駆体の金属塩および前駆体の炭素を使用して形成し、触媒材料の劣化を低減することによりPEM燃料電池の性能を改善して、BOLおよびEOLの性能指標を満足することを助けるための方法である。本開示の態様は、第一原理の密度汎関数法(DFT)および/またはアブイニシオ分子動力学法(AIMD)のアルゴリズム、計算および/または方法を使用して前駆体の金属塩と前駆体の炭素との間の化学反応を発見し、そのような欠陥のある炭素系被覆組成物をもたらすことに向けられている。
【0021】
1つ以上の実施態様のDFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法を、コンピュータプラットフォーム、例えば
図2に示されるコンピューティングプラットフォーム50を使用して実施する。コンピューティングプラットフォーム50は、プロセッサ52、メモリ54、および不揮発性ストレージ56を含み得る。プロセッサ52は、高性能コア、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、マイクロコンピュータ、中央処理装置、フィールドプログラマブル・ゲートアレイ、プログラマブル・ロジックデバイス、状態機械、ロジック回路、アナログ回路、デジタル回路、またはメモリ54にあるコンピュータで実行可能な命令に基づく信号(アナログまたはデジタル)を処理する他の装置を含む、高性能コンピューティング(HPC)システムから選択される1つ以上の装置を含み得る。メモリ54は、限定されずに、ランダムアクセスメモリ(RAM)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、フラッシュメモリ、キャッシュメモリ、または情報を保存できる任意の他のデバイスを含む単一のメモリデバイスまたはいくつかのメモリデバイスを含み得る。不揮発性ストレージ56は、1つ以上の永続的なデータストレージデバイス、例えばハードドライブ、光学ドライブ、テープドライブ、不揮発性ソリッドステートデバイス、クラウドストレージ、または情報を永続的に保存できる任意の他のデバイスを含み得る。
【0022】
プロセッサ52はメモリ54に読み込まれて、不揮発性ストレージ56のDFT/AIMDソフトウェアモジュール内58にあり且つ1つ以上の実施態様のDFT/AIMDのアルゴリズム、計算および/または方法を具現化するコンピュータで実行可能な命令を実行するように構成され得る。ソフトウェアモジュール58はオペレーティングシステムおよびアプリケーションを含み得る。ソフトウェアモジュール58は、限定されることなく且つ単独または組み合わせのいずれかで、Java、C、C++、C#、Objective C、Fortran、Pascal、Java Script、Python、PerlおよびPL/SQLを含む様々なプログラミング言語および/または技術を使用して作り出されたコンピュータプログラムからコンパイルまたは翻訳されることができる。
【0023】
プロセッサ52によって実行されると、DFTおよび/またはAIMDソフトウェアモジュール58のコンピュータで実行可能な命令が、コンピューティングプラットフォーム50に本願内で開示されるDFTおよび/またはAIMDのアルゴリズムおよび/または方法の1つ以上を実施させることができる。不揮発性ストレージ56は、本願内に記載される1つ以上の実施態様の機能、特徴、計算および方法をサポートするDFT/AIMDデータ60も含み得る。
【0024】
本願内で記載されるアルゴリズムおよび/または方法を具現化するプログラムコードは、様々な異なる形態でのプログラム製品として個々にまたは集合的に配布され得る。前記プログラムコードは、1つ以上の実施態様の態様をプロセッサに実施させるための、コンピュータで読み取り可能なプログラムの命令を有するコンピュータで読み取り可能なストレージ媒体を使用して配布され得る。本質的に非一時的である、コンピュータで読み取り可能なストレージ媒体は、情報を保存するための任意の方法または技術、例えばコンピュータで読み取り可能な命令、データ構造、プログラムモジュールまたは他のデータにおいて実施される揮発性および不揮発性、および取り外し可能および取り外し不可能な有形媒体を含み得る。コンピュータで読み取り可能なストレージ媒体は、RAM、ROM、消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM)、電気消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EEPROM)、フラッシュメモリ、または他のソリッドステートメモリ技術、ポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD-ROM)、または他の光学ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたは他の磁気ストレージデバイス、または所望の情報を保存するために使用でき且つコンピュータによって読み出されることができる任意の他の媒体をさらに含み得る。コンピュータで読み取り可能なプログラムの命令を、コンピュータ、他の種類のプログラミング可能なデータ処理装置、またはコンピュータで読み取り可能なストレージ媒体からの他のデバイスに、または外部のコンピュータまたは外部のストレージデバイスに、ネットワークを介してダウンロードできる。
【0025】
コンピュータで読み取り可能な媒体内に保存された、コンピュータで読み取り可能なプログラムの命令を使用して、コンピュータで読み取り可能な媒体内に保存された命令がフローチャートまたはダイアグラムにおいて特定される機能、動作および/またはオペレーションを実施する命令を含む製造物をもたらすように特定の方式で機能するように、コンピュータ、他の種類のプログラミング可能なデータ処理装置、または他のデバイスに指示することができる。特定の代替的な実施態様において、フローチャートまたはダイアグラムにおいて特定される機能、動作および/またはオペレーションを、1つ以上の実施態様と合わせて順序変更し、連続的に処理し、且つ/または同時に処理することができる。さらには、任意のフローチャートおよび/またはダイアグラムは、1つ以上の実施態様と合わせて、示されるものよりも多いかまたは少ないノードまたはブロックを含み得る。
【0026】
1つ以上の実施態様において、DFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法は、前駆体の金属塩と前駆体の炭素分子との間の特定の化学反応が、欠陥のある炭素系被覆組成物をもたらすことを実証する。それらの組成物を、燃料電池のカソードおよび/またはアノードにおける触媒として使用して、触媒材料についての費用対効果の高い保護機構をもたらし、触媒材料の動作寿命を向上させることができる。前記のDFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法は、Pt-Ptの結合が、前駆体から形成する触媒材料の部分として存在し、且つPt-Cの結合が、前記欠陥のある炭素系被覆組成物と触媒材料との間に存在することを示す。前記のDFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法は、ドーパントを反応物質として化学反応に添加して、前記欠陥のある炭素系被覆組成物をドープできることをさらに示す。本願内で示されるとおり、ドーパントは、前記欠陥のある炭素系被覆組成物と触媒材料との間のより良好な結合を促進でき、それによって触媒材料と、前記欠陥のある炭素系被覆組成物とを使用する燃料電池の電極触媒性能を強化する。1つ以上の実施態様において、n型の窒素(N)およびp型のホウ素(B)ドーピングが、前記欠陥のある炭素系被覆組成物の触媒材料へのより強い結合を促進でき、ドーピングが触媒材料と炭素ネットワーク内の炭素との間の界面に良い影響を及ぼし得ることをさらに実証する。1つ以上の実施態様において、前駆体の反応に関与して、欠陥のある炭素系被覆組成物をもたらすことができるいくつかの前駆体炭素分子が開示される。前記前駆体の炭素分子は非芳香族であってよい。前記前駆体の炭素分子は、キトサン、金属有機構造体(MOF)、糖またはセルロース分子、またはイオン性液体であってよい。前記触媒材料は白金であってよい。前記触媒材料はナノサイズの触媒材料であってよい。
【0027】
1つの実施態様において、欠陥のある炭素系被覆材料で少なくとも部分的に被覆された燃料電池触媒材料を、前駆体の金属塩としてのH2PtCl6・6H2Oと、前駆体の炭素分子としてのアニリンとの間の化学反応によって形成できる。この前駆体の組の化学反応の間に、Pt・アニリン錯体が形成され得る。触媒担体表面(例えば炭素ナノ繊維)をPt・アニリン錯体で被覆し、引き続き600~900℃で、窒素(N2)雰囲気中でアニールすると、比較的薄い、欠陥のある炭素系被覆材料が白金ナノ粒子表面で前駆体の炭素分子から形成する。1つの実施態様において、アブイニシオ分子動力学法(AIMD)は、アニールプロセスの間に起きる化学反応の種類を識別し、且つその化学反応後に形成するナノ構造を識別するために使用される。
【0028】
第一原理計算、例えばDFTを使用するAIMD分子動力学法のシミュレーションを、分子内の各々の原子における原子間力を計算するために使用できる。相応して、AIMDを使用して、比較的高温でシミュレーションされる化学的な前駆体を含む仮想的な原子スケールの化学反応器を作り出し、そのAIMDの仮想的な原子スケールの化学反応器内で前駆体間に起きる化学反応を観察することができる。この化学反応に関し、H2PtCl6・6H2O水和物塩は水性環境においてまずPtCl6
2-アニオンとH3O+カチオンに解離する。従って、3つのPtCl6
2-アニオン、6つのH3O+カチオン、12のH2O分子、12のアニリン分子、および10のN2分子が仮想的な原子スケールの化学反応器(固定された辺長(例えば15Å)を有する周期的な立方体)内に配置されることにより、原子の合計は269になる。仮想的な原子スケールの化学反応器内の原子の数が比較的多いと、AMDシミュレーションは、現実の物理的アニール温度(例えば900℃)よりも高い、高められた温度(例えば2000K)で実行される。1つの実施態様において、仮想的な原子スケールの化学反応器内に入れられたそれらの前駆体(高密度で、分子の間で(例えば特定の値(例えば2Å)以上の)分子間距離を有して、種々のランダムな初期位置および分子の配向を有する)を使用して、4つの異なるAIMDシミュレーションを、予め定められた量のシミュレーション時間について実行して、黒鉛化反応(つまりC-C結合の形成)並びにPt-C結合の形成を観察した。予め定められた量のシミュレーション時間は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 40、41、42、43、44、45、46、47、48、49および50ピコ秒(ps)。
【0029】
図3は、水中のPt水和物塩とアニリンとの、不活性N
2雰囲気下でのアニールプロセス後の化学反応のAIMDシミュレーションからのPt-C結合の形成を図示する模式図である。点線のボックス62は、仮想的な原子スケールの化学反応器内に入れられた3つのPtCl
6
2-アニオン、6つのH
3O
+カチオン、12のH
2O分子、12のアニリン分子、および10のN
2分子を図示する。矢印64は、水中のPt水和物塩とアニリンとの、不活性N
2雰囲気下でのアニールプロセス後の化学反応のAIMDシミュレーションを示す。点線のボックス66は、2つのアニリン基の環と環との形成を図示する。点線のボックス68は、アニリンの開環、および完全なアニリン環への取り付けを図示する。点線のボックス70は、アニリンの開環、Pt原子への取り付けを図示する。環と環との結合形成の濃度は、点線のボックス66、68および70で示される3つの異なる分子を支配する。1つのAIMDシミュレーションによれば、約33%のアニリン分子がボックス66に示される環と環との結合を形成し、約16%以下のアニリン分子がボックス68に示される環と鎖との結合を形成し、且つ約3%以下のアニリン分子がボックス70の鎖と白金との結合形成を形成する。前記AIMDシミュレーションは、典型的な実験の処理温度よりも著しく高い2000Kの比較的高い温度で実施された。従って、前記AIMDシミュレーションを用いて反応させた分子において判明した濃度は、実験的に達成されるものとは合致しないことがある。
【0030】
1つ以上の実施態様において、生じるPtナノ粒子の形成は、
図3に図示されるものと同様の処理条件を経る。炭素分子は環と環との結合の形成に起因してオングストロームサイズのナノ孔のマトリックスを形成し、それは、開環反応から形成する比較的少ない数の炭素原子鎖によって分離され得る。前記オングストロームサイズのナノ孔は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 0.5、1、2、3、4、6、8、10および12オングストローム。前記比較的少ない数の炭素原子鎖は、2、3、4、5および6つであってよい。前記比較的少ない数の炭素原子鎖のいくつかは、触媒ナノ粒子と共にPt-C結合も形成できる。1つ以上の実施態様の欠陥のある炭素系被覆組成物を実施することにより、以下の利点を達成できる: (1) 薄い炭素封入のための最低限の物質輸送障害(O
2、H
3O
+、H
2、他の水素燃料が、原子的に多孔質の構造を通過できる)、(2) PEM燃料電池においてPtナノ粒子凝集物の形成(触媒活性を低減させる)が低減し、30,000サイクルの動作後のPEM燃料電池の性能における著しく少ない低下をもたらす、(3) 原子的な多孔質性は、PEM燃料電池のアイオノマーのスルホン酸基が触媒ナノ粒子表面に直接付着する能力(触媒活性を失わせることがある)を低減させる可能性がある、および/または(4) 触媒ナノ粒子表面からのPtの溶出を低減する。
【0031】
図4は、触媒材料74の表面を少なくとも部分的に被覆する欠陥のある炭素系被覆組成物72の模式図を図示する。1つ以上の実施態様において、前記炭素系被覆組成物は、不完全な多層の3次元炭素構造であり、その中に芳香族の環式炭素基を有する。その厚さはグラフェン状材料の2~3層の範囲か、または約1ナノメートル厚であってよい。他の実施態様において、前記炭素系被覆組成物は比較的2次元的であってよい。前記炭素系被覆組成物はsp2炭素構造および/またはグラファイト状構造を有し得る。1つの実施態様において、前記炭素系被覆組成物は75%以上のsp2混成を有する。他の実施態様において、sp2混成は25%または50%以上であってよい。欠陥のある炭素系被覆組成物は炭素ネットワーク75および原子欠陥77を含み得る。触媒材料74はナノサイズの白金、白金・コバルト、白金・ニッケルまたは任意の他の金属ナノ構造触媒材料であってよい。触媒材料74は触媒担体76上に担持されている。1つ以上の実施態様において、欠陥のある炭素系被覆組成物72は1種以上のドーパントでドープされている。
図4に示されるとおり、欠陥のある炭素系被覆組成物72は窒素(N)でドープされ、つまりグラフェン中のn型ドーピングである。Nドーピングは、欠陥のある炭素系被覆組成物72の触媒材料74の表面へのより強い結合を促進できる。1つ以上の実施態様において、欠陥のある炭素系被覆組成物72は、Nドーピングに加えて、またはNドーピングの代わりに、ホウ素、つまりp型ドーパントでドープされてもよい。欠陥のある炭素系被覆組成物72の厚さは、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 0.1、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0ナノメートル。他の実施態様において、欠陥のあるグラフェン系被覆の1つ以上の層は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲: 0.2、0.3、0.6、0.9、1.2、1.5、1.8、2.1、2.4、2.7および3ナノメートルであってよく、ここで(例えばグラファイトにおける)2つのグラフェンシート間の層間は約0.3ナノメートルであり、それはドーパント、ピラー剤または酸素官能基に依存して増加または減少することがある。例えば、多くの酸素官能基を有する酸化グラフェン(GO)の層間距離は、約0.85ナノメートルの層間距離を有し得る。他の実施態様において、水和カチオン、例えばLi
+、Na
+およびK
+イオンはグラフェンの層間距離をそれぞれ約0.935、0.896および0.882ナノメートルに変化させることができる。
【0032】
図4に示されるとおり、欠陥のある炭素系被覆組成物72は、いくつかの原子欠陥77を含む。原子欠陥の大きさは以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0ナノメートル。他の実施態様において、欠陥のあるグラフェン被覆の1つ以上の層は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲: 0.2、0.3、0.6、0.9、1.2、1.5、1.8、2.1、2.4、2.7および3ナノメートルであってよく、ここで(例えばグラファイトにおける)2つのグラフェンシート間の層間は約0.3ナノメートルであり、それはドーパント、ピラー剤、酸素官能基に依存して増加または減少することがある。原子欠陥の大きさは、使用される前駆体の炭化水素分子の種類に基づいて制御できる。特定の実施態様において、原子欠陥の大きさは、欠陥による炭素の空孔数の大きさであることができる。炭素空孔の数は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 1、2、3、4、5および6個の炭素空孔。炭素空孔は前駆体の炭化水素分子の芳香環がほどけた結果であることがある。前記欠陥は、米国特許出願第16/544511号および第16/694305号明細書(U.S. Pat. Appl. Ser. No. 16/544511、16/694305)に開示されるグラフェンに基づく欠陥であることができ、前記文献は参照をもってその全文が本願内に含まれるものとする。
【0033】
DFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法は、欠陥のある炭素系被覆組成物72と触媒材料74との間の相互作用を実証する。DFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法を利用して、
図5Aに示されるような純粋なグラフェンシート78とPt原子80との間の化学的界面を構築した。DFTおよび/またはAIMDのアルゴリズム、計算および/または方法を利用して、
図5Bに示されるようなBドープされたグラフェンシート82とPt原子80との間の化学的界面、
図5Cに示されるようなNドープされたグラフェンシート84とPt原子80との間の化学的界面を構築した。表1は、Pt原子80とドープされたグラフェンシート82および84との間の、純粋なグラフェンシート78に対する相対的なDFT結合エネルギーを含む。表1に示されるとおり、グラフェンがBおよび/またはNでドープされると、結合エネルギーはより負になる。
【0034】
【0035】
グラフェンにおけるp型のBドーピングおよびn型のNドーピングがPtの結合に寄与できることは予想されておらず、なぜならグラフェンにおけるBドーピングとNドーピングとは反対の作用(つまり、電子の供与と電子の引き抜き)をみちびくはずだからである。
【0036】
図6Aは、Bドープされたグラフェンシート82とPt原子80との間の化学的界面についてシミュレーションされた電子密度差の等値面プロット86の模式図である。
図6Bは、Nドープされたグラフェンシート84とPt原子80との間の化学的界面についてシミュレーションされた電子密度差の等値面プロット88の模式図である。
【0037】
第1および第2の網掛け領域90および92は、電子の蓄積領域および空乏領域にそれぞれ相応する(±0.003 e・Å
3)。
図6Aに示されるBドープの場合、Ptがホウ素および炭素の両方と化学結合(B-Pt-C型の結合)を形成することが観察される。対照的に、
図6Bに示されるとおり、Ptは窒素から離れて化学結合を形成しやすい(C-Pt-C型の結合)。
図5Aに示されるとおり、純粋なグラフェンの場合については、Ptは単に炭素との単結合(Pt-C結合)を形成する。従って、ドープされたグラフェン系においてPtとの2つの単結合を形成することは、Pt原子とドープされたグラフェン系との間のより好ましい結合を部分的に説明する。さらに
図6Aにおいては、Bドープされたグラフェンはホウ素上で窒素に比してより多くの電子空乏領域(第2の網掛け領域92)を有することが観察され、窒素ドープされたグラフェンにおける窒素の周りでより多くの電子蓄積現象を示す。これは、まず、BおよびNのドーピングが、例えば電子の供与に対する引き抜きという反対の作用をみちびくことを説明する。しかしながら、Pt原子はむしろ窒素原子から離れて動き、2つの隣接する炭素原子との化学結合を形成し、これも相対的な結合エネルギーに著しく、約0.5eV影響する。しかしながら、窒素の代わりにホウ素を添加すると、相対的な結合エネルギーに大きく影響することもあり、ここでPtはホウ素原子上に直接結合する親和性を有する(相対的な結合エネルギーは約0.8eV影響される)。1つの実施態様において、グラフェン内で電子を供与するドーパントと引き抜くドーパントとの両方が、Ptをより強く結合させることによって(例えばp型のBドーピング)、またはドーパントに隣接して位置する最も近い隣接の炭素原子に影響することによって(例えばn型のNドーピング)のいずれかで直接的にPtの結合を助けることができる。
【0038】
前駆体の金属塩としてのH
2PtCl
6・6H
2Oおよび前駆体の炭化水素分子としてのアニリンを用いた上記の我々の知見に基づき、欠陥のある炭素系被覆組成物の形成に関与する主要な化学反応は、2つのアニリン分子のC-H部分の間のC-C結合の形成である。1つ以上の実施態様において、芳香族の環式基を有する前駆体の炭素分子が、
図4に示される1つに類似した欠陥のある炭素系被覆組成物を作り出す。1つ以上の実施態様において、N原子、B原子、S原子、P原子、O原子、Si原子、Al原子の1種以上、およびそれらの組み合わせを、欠陥のある炭素系被覆組成物にドープして、Pt-C結合および/またはPEM燃料電池の電極触媒特性をさらに改善できる。示されるとおり、Cl原子は欠陥のある炭素系被覆組成物に典型的には組み込まれない。従って、1つ以上の実施態様において、H
2PtCl
6・6H
2O以外の白金系の塩を前駆体の金属塩として使用できる。白金塩についての他の限定されない例は、PtCl
nまたはPt(NH
3)
2Cl
n(n=2~4)を含む。Nを含む白金塩の使用が、炭素ネットワーク内にドープされたNの量を増加させるために有益であることができる。欠陥のある炭素系被覆組成物を生成するための前駆体の炭素分子として使用され得る代替的な芳香族の環式基は、米国特許出願第16/833039号明細書(U.S. Pat. Appl. Ser. No. 16/833,039)内に開示されており、前記文献は参照をもってその全文が本願内に含まれるものとする。
【0039】
芳香族の環式炭素前駆体の他に、1つ以上の実施態様において、非芳香族の炭素分子を前駆体の炭素分子として使用して、上記と同様の欠陥のある炭素系被覆組成物を生成できる。1つの実施態様において、非芳香族の炭素分子はキトサンであってよい。他の実施態様において、非芳香族の炭素分子はMOFであってよい。さらに他の実施態様において、非芳香族の炭素分子は糖またはセルロース分子であってよい。さらに他の実施態様において、非芳香族の炭素分子はイオン性液体であってよい。
【0040】
図1を参照して、1つ以上の実施態様において、欠陥のある炭素系被覆と触媒材料との間の原子および分子の界面を制御して作られている、欠陥のある炭素系被覆を有する燃料電池触媒材料が開示される。前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、PEM燃料電池の環境においてPtおよびPt合金触媒の金属溶出を抑制するように構成されることにより、PEM燃料電池に比較的長期の安定性を提供する。
【0041】
1つ以上の実施態様において、燃料電池の触媒材料が開示される。燃料電池の触媒材料は、金属材料で形成される金属触媒粒子を含む。前記金属材料の平均直径はナノスケールであることができる。前記金属材料は、純粋なPt、Pt-M合金(M=Co、Ni、または周期律表からの他の金属)、他の白金族(PGM)金属(例えば、Ru、Rh、Pd、Os、Ir)、PGM-M(またはPt-PGM-M)合金系、非PGM触媒材料、およびそれらの組み合わせを含むか、またはそれらから完全に形成され得る。
【0042】
前記燃料電池の触媒材料は、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する(または完全に被覆する)、炭素系被覆組成物をさらに含み得る。前記欠陥のある炭素系被覆組成物は炭素ネットワークを含み得る。前記炭素系被覆組成物をドーパントでドープできる。ドーパントの限定されない例は、N、B、P、S、O、Si、Al、Clおよび/またはF原子を含む。ドーパントの原子は炭素ネットワーク内で結合できるか、または炭素系被覆上に物理的に配置され得る。前記欠陥のある炭素系被覆組成物の厚さは、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 0.2、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75および2.0ナノメートル。他の実施態様において、欠陥のあるグラフェン被覆の1つ以上の層は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲: 0.2、0.3、0.6、0.9、1.2、1.5、1.8、2.1、2.4、2.7および3ナノメートルであってよく、ここで(例えばグラファイトにおける)2つのグラフェンシート間の層間は約0.3ナノメートルであり、それはドーパント、ピラー剤、酸素官能基に依存して増加または減少することがある。それらの厚さは、ORR触媒反応に関与する種の許容可能な物質輸送をもたらすことができる。前記触媒材料は、触媒材料原子の劣化を軽減するように構成され得る。触媒の劣化の軽減は、以下の利点の1つ以上を有することができる: (1) 電気化学的活性表面積(ECSA)の損失を低減する、(2) ポリマー電解質膜(PEM)と触媒層との間の界面への、またはPEM中への触媒イオンの移動を防止する、および/または(3) グラファイトの封止によってもたらされる固定を通じて触媒ナノ粒子の凝集を防ぎ、従ってPEMの劣化を潜在的に抑制する。前記欠陥のある炭素系被覆組成物の追加は、前記欠陥のある炭素系被覆組成物と金属触媒粒子との間の結合を向上させることに加えて、その欠陥サイトを通じてH2O、O2、H3O+基の物質輸送に影響を及ぼし、且つ/または強化することができる。
【0043】
グラフェン系被覆組成物の一部または全体が、触媒層(つまりアノードおよび/またはカソード触媒層)内の金属触媒粒子と直接接触できる。前記炭素系被覆組成物の一部または全体が、特定の平均距離で金属触媒粒子にゆるく結合されることができる。粒子に最も近い層の平均距離は、以下の値のいずれか、または以下の値の任意の2つの範囲であってよい: 0.2、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75および2.0ナノメートル。
【0044】
前記炭素系被覆組成物は、触媒粒子の原子形態からイオン化された、溶出された触媒粒子の金属種を捕捉するように構成されるいくつかの欠陥を含み得る。捕捉された触媒粒子(例えばPt触媒粒子)は触媒としてまだ作用することができ、なぜなら、捕捉された触媒粒子は導体(つまり、欠陥のある炭素系被覆組成物)と接触しているからである。より少ない触媒粒子がPEMに向かって移動し得ることによって電気化学的活性表面積(ECSA)の損失が低減する。PEM上への触媒粒子の再堆積がより少ないので、これは潜在的により少ないPEMの劣化をみちびくことができる。ECSAの損失およびPEMの劣化を防止することは、PEM燃料電池の寿命を向上させることができる。負の掃引の間に、前記欠陥上の触媒材料はイオン化されて放出され、触媒層内で再堆積されることができる。
【0045】
前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、固定を通じて触媒粒子の凝集を防止するように構成され得る。前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、PEM燃料電池の動作電圧に依存して、H2および/または燃料電池の他の反応物質/生成物の輸送を可能にするように構成され得る。
【0046】
前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、酸素官能基、例えばエポキシ(-O-)、カルボニル(=O)、カルボキシル(-COOH)、および/またはヒドロキシル(-OH)も含有し得る。前記酸素官能基は、Pt、H2、他の水素燃料、O2およびH2Oの輸送および拡散を最適化できる。前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、窒素官能基(-NH2など)、硫黄官能基(-SHなど)、リン官能基(-PH3など)、および/またはホウ素官能基(-BH2など)を含有し得る。他の実施態様において、それらのドーパントの組み合わせも同時に使用できる。4~12個の炭素(しかし典型的には6個)を有し得る炭素環を、1次元的な鎖に直線的に取り付けるか、またはグラフェン内のように互いに取り付けるか、またはリンカー原子(例えばB、P、S、N)または上記のいくつかの組み合わせを介して連結できる。
【0047】
1つ以上の実施態様の燃料電池触媒材料を、市販の触媒材料(例えば未改質の触媒材料)と混合できる。例えば、純粋なPtおよび/またはPt合金(Pt-Ni、Pt-Co)をアノードにおいて使用でき、前記1つ以上の実施態様の燃料電池触媒をカソードで使用できる。他の実施態様において、アノードまたはカソードのいずれかは、市販の触媒材料の部分的に、前記1つ以上の実施態様の燃料電池触媒材料を使用できる。例えば、所定の触媒電極材料において、5~50%のPtおよび/またはPt合金触媒をグラフェン被覆で変性できる。他の実施態様において、50超~75%の触媒材料をグラフェン被覆で変性でき、ここで、残りの材料は市販の材料である。
【0048】
前記1つ以上の実施態様の燃料電池触媒を、前駆体のPt塩と前駆体の炭素分子を反応させることによって形成できる。前駆体の金属塩はH2PtCl6・6H2O、PtCln、またはPt(NH3)2Cln[式中、n=2~4である]であってよい。前駆体の炭素分子は非芳香族の炭素分子であってよい。前駆体の炭素分子の限定されない例は、キトサン、MOF構造体、糖またはセルロース分子、またはイオン性液体を含み得る。この反応は、金属触媒粒子と、前記金属触媒粒子の少なくともいくつかを少なくとも部分的に被覆する欠陥のある炭素系被覆組成物とを含む触媒材料を形成する。そのような実施態様において、炭素系組成物の被覆は金属触媒粒子の合成の間に形成される。他の実施態様において、炭素系組成物の被覆は、アノードおよび/またはカソード層の一部を形成する金属触媒粒子の合成後に形成される。触媒材料の形成方法は、アニールプロセス、イオン衝撃、固相プロセス、溶剤に基づく方法、および/または堆積技術を使用できる。それらの技術に引き続き、二次的な熱処理を、酸化および/または還元剤、例えば空気、O2、N2、Ar、H2、他のガス、およびそれらの混合物の存在下で行うことができる。
【0049】
他の実施態様において、前記欠陥のある炭素系被覆組成物は、他の非PGM触媒ナノ粒子について、触媒原子の溶出および/または触媒ナノ粒子の凝集を防ぐこともできる。この目的を達成するために、共合成のために使用されるPt塩の前駆体を、非PGM触媒ナノ粒子の合成に必要なM塩の前駆体に置き換えることができる。
【0050】
前記1つ以上の実施態様の燃料電池触媒材料を、同時に共合成できる。被覆された触媒粒子を独立して、または被覆された触媒粒子をつなぐための触媒担体を有する環境において合成できる。前記触媒担体は炭素担体であってよい。前記炭素担体はナノワイヤ(例えばカーボンナノチューブ、窒化バナジウム(VN)およびそれらの組み合わせ)、微細粒子(例えばミクロサイズの高表面積炭素粒子)、固体表面およびそれらの組み合わせで形成され得る。
【0051】
例示的な実施態様が上述されたが、それらの実施態様が特許請求の範囲に包含される全ての可能な形態を記載することは意図されていない。明細書内で使用された文言は限定ではなく、説明の文言であり、本開示の主旨および範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができることが理解される。先述のとおり、様々な実施態様の特徴を組み合わせて、明示的に記載または説明されていない本開示のさらなる実施態様を形成できる。1つ以上の望ましい特徴に関して他の実施態様または先行技術の実施よりも利点を提供するかまたは好ましいとして、様々な実施態様が記載され得るが、当業者は特定の用途および実施に応じて全体的な系の所望の特質を達成するために1つ以上の特徴を妥協することがあることを認識する。それらの特質は、限定されずに、費用、強度、耐久性、ライフサイクルコスト、市場性、外観、パッケージング、大きさ、実用性、重量、製造性、組み立てやすさなどを含み得る。従って、ある実施態様が、1つ以上の特徴に関して他の実施態様または先行技術の実施よりもあまり望ましくないと記載される限り、それらの実施態様は開示の範囲外ではなく、特定の用途のためには望ましいことがある。
【外国語明細書】