(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128448
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】脱塩海洋深層水を含有する麦芽含有飲料
(51)【国際特許分類】
C12C 7/00 20060101AFI20220825BHJP
C12G 3/08 20060101ALI20220825BHJP
C12G 3/021 20190101ALI20220825BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220825BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220825BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20220825BHJP
【FI】
C12C7/00 A
C12G3/08
C12G3/021
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/38 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025410
(22)【出願日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021026379
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 剣
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115AG03
4B115AG17
4B117LC03
4B117LG16
4B117LK02
4B128CP22
(57)【要約】
【課題】風味が向上した麦芽含有飲料を提供する。
【解決手段】本発明において、脱塩海洋深層水を含有し、硬度500~1800である麦芽含有飲料を調製する。本発明の別の態様では、硬度500~1800の脱塩海洋深層水を含有する、麦芽含有飲料用苦味清涼化剤、ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料に清涼な後味を付与する方法、ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料のキレ味を改善する方法、又はホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料の香りの雑味の低減方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩海洋深層水を含有し、硬度500~1800である麦芽含有飲料。
【請求項2】
カルシウムとマグネシウムとが、質量部比で、1:0.8~1:5.5の割合で含有されている麦芽含有飲料。
【請求項3】
カルシウムを16~100mg/L、マグネシウムを54~216mg/L含有し、苦味価が10~80である麦芽含有飲料。
【請求項4】
前記麦芽含有飲料が、ビール飲料、発泡酒、又はノンアルコールビールテイスト飲料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の麦芽含有飲料。
【請求項5】
硬度500~1800の脱塩海洋深層水を含有する、麦芽含有飲料用苦味清涼化剤。
【請求項6】
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料に清涼な後味を付与する方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
【請求項7】
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料のキレ味の改善方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
【請求項8】
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料の香りの雑味の低減方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽含有飲料に関する。より詳細には、脱塩海洋深層水を含有する麦芽含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
麦芽を含有する飲料は、大麦等の麦類を発芽させた麦芽あるいはその発酵物を含む飲料である。代表的には、ビール、発泡酒、ノンアルコールのビールテイスト飲料などが含まれる。このうち、例えば、ビールやビールに類似する発泡酒、ノンアルコールビールは、ホップに由来する独特の苦味や香味又はそれに類似する風味を有しており、味に不可欠な要素となっている。
【0003】
一方、苦味や渋みを調整するいくつかの方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
麦芽含有飲料に求められる特有の苦味を保持しながらも、すっきりとした後味を有する新しい風味の麦芽含有飲料が求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、良好な風味を有する麦芽含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硬度が500~1800の範囲の脱塩海洋深層水を原料の一部とすることによって、優れた風味を有する麦芽含有飲料を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げる麦芽含有飲料を提供する。
項1.
脱塩海洋深層水を含有し、硬度500~1800である麦芽含有飲料。
項2.
カルシウムとマグネシウムとが、質量部比で、1:0.8~1:5.5の割合で含有されている麦芽含有飲料。
項3.
カルシウムを16~100mg/L、マグネシウムを54~216mg/L含有し、苦味価が10~80である麦芽含有飲料。
項4.
前記麦芽含有飲料が、ビール飲料、発泡酒、又はノンアルコールビールテイスト飲料である、項1~3のいずれか1項に記載の麦芽含有飲料。
【0009】
さらに、本発明は、下記に掲げる苦味清涼化剤、麦芽含有飲料に清涼な後味を付与する方法、麦芽含有飲料のキレ味改善方法、及び香りの雑味低減方法を提供する。
項5.
硬度500~1800の脱塩海洋深層水を含有する、麦芽含有飲料用苦味清涼化剤。
項6.
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料に清涼な後味を付与する方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
項7.
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料のキレ味の改善方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
項8.
ホップ由来の苦味を有する麦芽含有飲料の香りの雑味の低減方法であって、硬度500~1800である脱塩海洋深層水と麦芽を混合し糖化を行わせる工程;及び糖化液にホップを混合する工程を含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風味が向上した麦芽含有飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、硬度が500~1800の範囲の脱塩海洋深層水を含有する麦芽含有飲料に関する。
【0012】
[(A)脱塩海洋深層水]
海洋深層水は、太陽光がほとんど届かない海面下200m以深の深海から取水した海水である。このような深海では、海洋表層で見られる温度変化に伴う対流による混合が生じない。海洋深層水の取水場所としては、代表的には、日本では、高知県室戸岬沖、富山湾、沖縄県久米島近海などが挙げられる。また、世界でもいくつかの場所が取水場として挙げられる。本発明で用いられる海洋深層水はいずれの場所から得られたものでもよいが、沖縄県久米島近海由来の海洋深層水が好ましい。
【0013】
海洋深層水には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、フッ素などの元素や塩類、及びその他の鉄、マンガン、亜鉛等の微量元素が含まれる。珪酸態珪素量、リン酸態リン量は、表層海洋水と比較して多く、富栄養性である。
【0014】
得られた海洋深層水を脱塩して、本発明の麦芽含有飲料の原料に用いることができる。脱塩の方法は特に限定はされないが、減圧蒸留により海洋深層水を濃縮して無機塩を分離する方法、電気透析法、逆浸透膜法などで得ることができる。脱塩により、塩分のほとんどが除去され、ミネラル成分も減少する。
【0015】
本発明で特に好ましい脱塩海洋深層水は、少なくとも以下の成分と成分量である。
塩分濃度(質量%):0.005~0.05、好ましくは約0.01程度
硬度(mg/L): 500~1800
pH値: 5.8~8.6
ナトリウム 18~72mg/L
カリウム 15~60mg/L
マグネシウム 54~216mg/L
カルシウム 16~100mg/L
ここで、マグネシウム濃度は、JIS K 0102-51.2に準じて測定し、カルシウムは、JIS K 0102-50.2に準じて測定し、カリウムは、JIS K 0102-49.2に準じて測定する。
【0016】
本発明の麦芽含有飲料において、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、脱塩海洋深層水のカルシウムに対するマグネシウムの比率は、例えば、質量部比で、1:0.8~1:5.5であることが好ましく、1:1~1:5.5であることがより好ましく、1:1.4~1:5.5であることがさらに好ましく、1:2~1:5.5であることがさらにより好ましく、1:2~1:4の割合であることが特に好ましく、1:2~1:3.5であることが最も好ましい。
【0017】
[硬度]
本発明の脱塩海洋深層水の硬度は、500~1800(mg/L)であり、好ましくは、600~1800(mg/L)であり、さらに好ましくは、920~1800(mg/L)であり、最も好ましくは、950~1500(mg/L)である。硬度は基本的には脱塩を行った海洋深層水のまま無調整であってもこの硬度を達成している水であることが好ましいが、この範囲に調整した脱塩海洋深層水を使用してもよい。硬度は、以下の式により求めることができる。
硬度(mg/L)=カルシウム濃度(mg/L)×2.5+マグネシウム濃度(mg/L)×4.1
【0018】
[麦芽含有飲料]
本発明の麦芽含有飲料は、発酵飲料又は非発酵飲料のいずれでも良いが、原料に酵母を使用した発酵飲料が好ましい。また、アルコール度数として1容量%以上のアルコール飲料でも、1容量%未満のノンアルコール飲料でも良いが、アルコール飲料が好ましい。
【0019】
麦芽飲料の麦芽使用比率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であり、100質量%であっても良い。ここで、麦芽使用比率とは、水を除く全原料に対する麦芽の割合(質量%)である。
【0020】
本発明の麦芽含有飲料として好ましいのは、アルコール度数が、好ましくは、1~9容量%、さらに好ましくは4~9容量%、さらにより好ましくは、4~6容量%の発酵アルコール飲料であり、特に好ましくはビール又はビールテイストの発泡酒である。
【0021】
さらに、本発明の麦芽含有飲料としては、「ビール風味飲料」、「ノンアルコールビール」、「ノンアルコール・ビールテイスト飲料」、「ビールテイスト飲料」、「ビール風味発酵飲料」、「ビール風味ジュース」等とも呼ばれ、アルコール度数が1容量%未満であるビール風味の麦芽飲料(本発明では、これらを合わせて、ノンアルコールビールテイスト飲料とも表示する。)であっても良い。各種清涼飲料、ジュース等の飲料(又は液体食品)も含まれる。
【0022】
本発明の麦芽含有飲料は、硬度500~1800(mg/L)であり、脱塩海洋深層水を含む。
【0023】
好ましくは、以下の性質を有する。
塩分濃度(質量%):0.005~0.05、好ましくは約0.01程度
ナトリウム 18~72mg/L
カリウム 15~60mg/L
マグネシウム 54~216mg/L
カルシウム 16~100mg/L
ここで、マグネシウム濃度は、JIS K 0102-51.2に準じて測定し、カルシウムは、JIS K 0102-50.2に準じて測定し、カリウムは、JIS K 0102-49.2に準じて測定する。
【0024】
本発明の麦芽含有飲料において、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、カルシウムに対するマグネシウムの比率は、例えば、質量部比で、1:0.8~1:5.5であることが好ましく、1:1~1:5.5であることがより好ましく、1:1.4~1:5.5であることがさらに好ましく、1:2~1:5.5であることがさらにより好ましく、1:2~1:4の割合であることが特に好ましく、1:2~1:3.5であることが最も好ましい。
【0025】
[製造方法]
本発明の麦芽含有飲料は、公知の方法により製造することができる。麦芽含有飲料を製造するいずれの工程においても、又はいずれかの工程において、水が必要とされる過程で脱塩海洋深層水を用いること以外は、通常の麦芽飲料の製造方法を採用することができる。
【0026】
(ビール類の製造方法)
代表的な麦芽含有飲料の例としてビール又はビールに類似する発泡酒(以下、ビール類と表示する)を例示する。ビール類の原料としては、主に、麦芽、ホップ及び水が挙げられ、この他、適宜、副原料として、米、とうもろこし、でんぷん、糖類を使用することができる。これらのビール類の醸造では、主に、製麦、糖化、ろ過、煮沸、冷却、発酵、熟成の工程があり、そのいずれかの工程において、水を脱塩海洋深層水とすること以外は、通常のビール類の製造方法を採用することができる。
【0027】
中でも、本発明においては、脱塩海洋深層水を原料の浸漬用の水あるいは仕込み水として、又はそれらの一部として使用することができる。好ましくは、浸漬用水又は仕込み水のすべてが脱塩海洋深層水である。すなわち、大麦を浸し麦芽を造るための浸麦用水や麦汁を製造する為の仕込み水をすべて脱塩海洋深層水にすることが好ましい。
【0028】
製麦は、ビール類用の大麦を、麦芽に加工する工程である。ビール類の製造方法において通常用いられる大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕した麦芽粉砕物とすることもできる。ここで、大麦は典型的には二条大麦が用いられ得る。但し、大麦以外でも、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦を用いることも可能である。また、麦加工物を用いることもでき、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキス等を使用することも可能である。浸麦槽で水分を含ませ、発芽室で適度に発芽させ、乾燥して焙燥する。得られた麦芽を粉砕して、糖化工程に供することもできる。
【0029】
粉砕した麦芽を、温水と混合し、麦芽の酵素を作用させてでんぷん質を糖化させる。すなわち、粉砕した麦芽と、適宜、米、コーン、スターチ、又は糖類などの副原料を、脱塩海洋深層水中で混合し、10分~24時間の間の適宜の時間保持して糖化液を調製する。
【0030】
ここで、低温で時間をかけてペールモルトとすること、やや高温で乾燥させてウィンナーモルトとすること、発芽のタイミングを調整してカラメルモルトとすること、その他にチョコレートモルト、ブラックモルト、ウィートモルト、ローストバレイとするなどいずれの手法も用いることができる。
【0031】
これをろ過し、ここにホップ又はホップエキス等のホップ加工品を加え、煮沸し、熱麦汁を調製する。
【0032】
麦芽は、脱塩海洋深層水1Lに対して、通常、0.1~5kg、好ましくは0.2~3kg、より好ましくは0.3~1kgの割合で加えることができる。
【0033】
ろ過は、常法により行う。ろ過工程は、通常5分~24時間、好ましくは10分~12時間程度とできる。ここで、液汁の糖度を、脱塩海洋深層水を40℃~60℃程度に保温した温水を添加して、8~20%に調整することが好ましい。
【0034】
ここで、使用するホップ又はホップエキス等のホップ加工品は、特に限定はされず、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキス、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等であってもよい。ホップの種類としては、ナゲット、ソラチエース、カスケード、シトラ、ザーツ、スパルトセレクト、ペルレ、ノーザンブリュワー、ヘルスブルッカー、ハラタウミッテルフリュワー、ハラタウトラディション、テットナング、ガリーナ、ウィラメット、ヘラクレス、モツウエカ、サミット、パシフィックジェム、ブリオン、ブリューワーズゴールド、チヌーク、クラスター、イーストケントゴールディング、ファグルス、ハレトウ、マウントフッド、スティリアン、サフィア、スティリアンゴールディング、ハラタウタウルス、マグナム、ゼウスなどの種が好ましい。このうち、ナゲット、ソラチエース、カスケード、又はシトラが特に好ましい。
【0035】
ホップ又はホップ加工品の添加量、添加態様及び煮沸の条件は、適宜設定することができる。ホップは、麦芽と混合する時点での脱塩海洋深層水1Lに対して、通常、0.1~8g、好ましくは0.2~5g、より好ましくは0.5~3gの割合で加えることができる。
【0036】
煮沸した後、糖化液を常法により冷却する。次に、20~35℃に冷却した糖液を発酵の工程に供する。
【0037】
次に糖液に酵母を接種して発酵させ、炭酸ガスを含むアルコールを調製する。このようにして得られた若ビールを熟成させることができる。
【0038】
ここで、発酵は、発酵タンク中において、常法により行うことができる。使用する酵母は、例えば、サッカロミケス属等のビール酵母から選ぶことができる。
【0039】
発酵温度としては、通常20~35℃である。発酵時間としては、1~10日程度、好ましくは3~9日程度とすることができる。
【0040】
前記発酵工程で得られた発酵液を、貯酒タンクに移し、0℃~10℃程度で1~50日貯蔵することができる。
【0041】
このようにして得られる液を、公知の方法でろ過し、酵母、タンパク質、夾雑物等を除去する。
【0042】
得られる麦芽含有飲料を、容器詰めし、低温殺菌に供することもできる。容器は特に限定されず、ビン、缶、ペットボトル等が例示される。
【0043】
(ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法)
一方、アルコール度数が1容量%未満のビール風味の麦芽飲料麦芽含有飲料の製法としては、特に限定はなく、例えば、ビールを製造する上記のような工程で発酵を経た後、生成したアルコールを除去して得る方法、発酵時にアルコールが生成しないようにする方法などが採用できる。また、発酵を経ずに、例えば、麦芽エキス、酸味料、甘味料等の原料を混合し、得られた調合液に炭酸ガスを導入することにより製造することもできる。
【0044】
(その他の麦芽含有飲料の製造方法)
本発明は、麦芽を含む飲料であれば良く、上記以外にも、発酵工程を経ずに製造された飲料に、アルコール含有蒸留液及び炭酸ガスと混和して得られたリキュール類を製造することもできる。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、スピリッツ等の一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。
【0045】
[その他の成分]
本発明の麦芽含有飲料は、本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤、香料、糖類を配合することができる。また、酒税法で定める副原料やタンパク質分解物、香料、色素、泡持ち調整剤、未発芽の麦類、クエン酸等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。あるいはこのうち、香料や色素は一切使用しない麦芽含有飲料とすることも可能である。
【0046】
本発明の麦芽含有飲料は、ビール類であれば、ホップ又はそれを模した苦味を有しながらも後味が清涼な飲料となり得る。すなわち、シャープな後味又はシャープな苦味を有することができる。また、香りが良く、クリーンなホップの苦味を有することができる。さらに、雑味が少なく、まとまりのある味となる。その一方で、のど越しは良く、ほど良いボディ感もあり、バランスが良好である。
【0047】
本発明が苦味を有する麦芽含有飲料である場合、その苦味価(BU)は、好ましくは、10~80、より好ましくは、25~80、さらに好ましくは、30~60である。苦味価はASBC(American Society of Brewing Chemists)公定法に従って測定することができる。すなわち、以下のように求めることができる。麦芽含有飲料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とうし、静置する。この溶液を、水溶層と有機溶媒層の2層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取する。この有機溶媒について、波長275nmの吸光度を測定し、その値に50を乗じて、苦味価を求める。
【0048】
本発明の麦芽含有飲料は、特にアルコールが1容量%未満の飲料である場合、筋肉疲労回復や発汗により失われたミネラル分の補給、便通改善などの用途にも用い得る。
【0049】
[麦芽含有飲料用苦味清涼化剤]
本発明はまた、硬度500~1800の脱塩海洋深層水を含有する、麦芽含有飲料用苦味清涼化剤に関する。
【0050】
本発明の麦芽含有飲料用苦味清涼化剤において、硬度500~1800の脱塩海洋深層水の特徴、その用い方については、麦芽含有飲料の項で説明した内容に準じる。本発明の麦芽含有飲料用苦味清涼化剤の使用により、ホップ又はそれを模した苦味を保持したまま、後味が清涼な飲料とすることができる。すなわち、クリーンなホップの苦味を有したまま、雑味が少なく、まとまりのある味とすることができる。また、苦みと後味のバランスを良好に保持することができる。
【実施例0051】
次に、実施例や試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例や試験例に限定されるものではない。
【0052】
(脱塩海洋深層水)
沖縄県久米島近海の海面下約612mから採取された水を脱塩して試験品ビールの製造に供した。なお、採取された水の成分については、沖縄県農林水産所海洋深層水研究所「海洋深層水及び表層水の水質検査結果」から参照することができる(「海洋深層水及び表層水の水質検査結果」」(令和2年3月))。
【0053】
この海洋深層水の有用なミネラル成分を残し食塩分を選択的に除去した脱塩海洋深層水
(「球美の水 硬度1000」(商品名);久米島海洋深層水開発(株)製)を試験品ビールの製造用の水として用いた。前記「球美の水 硬度1000」(商品名)は以下の成分を含有する。
【0054】
硬度 1046mg/L
成分(1Lあたり)
ナトリウム 72mg
マグネシウム 216mg
カルシウム 64mg
カリウム 60mg
【0055】
(実施例1)
脱塩海洋深層水を用いた試験品ビールの製造
通常のビール製造の工程に沿って、製麦、糖化、ろ過、煮沸、冷却、発酵、熟成を行い、試験品ビールを製造した。但し、糖化時の仕込み水として、前記「球美の水 硬度1000」
(商品名)を用いた。
【0056】
製麦工程では、ビール類用の二条大麦を、麦芽に加工した。浸麦槽で脱塩海洋深層水を含ませ、発芽室で発芽させ、乾燥後、粉砕した麦芽粉砕物を得た。
【0057】
糖化工程では、粉砕した麦芽を、脱塩海洋深層水中で糖化させた。粉砕した麦芽を、脱塩海洋深層水中で混合し、糖化液を調製した。麦芽は、脱塩海洋深層水1Lに対して、220gの割合で加えた。
【0058】
これをろ過、煮沸し、熱麦汁を調製した。糖化液を冷却し、発酵の工程に供した。
【0059】
次に糖液に酵母を接種して発酵させた。このようにして得られた炭酸ガスを含む若ビールを熟成させ、貯酒タンクに移し、貯蔵し、得られた液を、公知の方法でろ過した。
【0060】
得られた麦芽含有飲料は、そのまま瓶に容器詰めした。苦味価を測定したところ、IBU50であった。
【0061】
(比較例1) 地下水を用いた試験品ビールの製造
糖化工程で、粉砕した麦芽を、脱塩海洋深層水ではなく、南城市の地下水を用いた以外は、実施例1と全く同じ方法で試験品ビールを製造した。苦味価を測定したところ、IBU50であった。地下水の成分は下記の通りである。
成分表(1Lあたり)
硬度 336(mg/L)
ナトリウム 34mg
マグネシウム 13mg
カルシウム 113mg
カリウム 11mg
【0062】
(比較例2) 硬度調整試験品ビールの製造
比較例1で得られた試験品ビールにマグネシウムを66mg添加し、硬度を606とした試験品ビールを製造した。苦味価を測定したところ、IBU50であった。
【0063】
(実施例2)
硬度調整した試験品ビールの製造
実施例1で作成した試験品ビールの製法に準じて、下記、硬度を調整した試験品ビールを作成した。
硬度610
ナトリウム 257mg
マグネシウム 89mg
カルシウム 98mg
カリウム 28mg
苦味価を測定したところ、IBU50であった。
【0064】
(実施例3)
硬度調整した試験品ビールの製造
実施例1で作成した試験品ビールの製法に準じて、下記、硬度を調整した試験品ビールを作成した。
硬度735
ナトリウム 154mg
マグネシウム 125mg
カルシウム 89mg
カリウム 36mg
苦味価を測定したところ、IBU50であった。
【0065】
(比較例3)
実施例1で作成した試験品ビールの製法に準じて、下記、試験品ビールを作成した。
硬度483
ナトリウム 310mg
マグネシウム 52mg
カルシウム 108mg
カリウム 16mg
苦味価を測定したところ、IBU50であった。
【0066】
[官能評価]
パネリスト6又は9名が、実施例及び比較例の麦芽含有飲料の風味を評価した。
官能評価においては、6名又は9名のパネリストにより、キレの良さ、香りの雑味、苦味の清涼さを試験した。
【0067】
(キレの良さ)
1点…キレがない。
2点…キレがあまりない。
3点…キレがある。
4点…キレがとてもある。
【0068】
(香りの雑味の多さ)
1点…香りの雑味が多い。
2点…香りの雑味がやや多い。
3点…香り雑味がやや少ない。
4点…香りの雑味が少ない。
【0069】
(苦みの清涼さ)
1点…苦みの清涼さが弱い。
2点…苦みの清涼さがやや弱い。
3点…苦みの清涼さがやや強い。
4点…苦みの清涼さが強い。
また、この他、ボディ感やコクなどに起因する飲み応え(喉に抵抗を感じられるような感覚)についても、記述式で評価することとした。
【0070】
なお、試験品ビールはすべて、4℃程度まで冷却し、上記基準に基づき、評価し、すべてのパネリストのスコアの平均値を算出した。結果を表1~7に示す。評価に際しては、各評点に適合するサンプルを予め用意し、各パネリスト間での基準の統一を図った。比較例1~3,及び実施例1~3は、すべてブラインドテストで評価した。
【0071】
比較例1の試験品ビールについての9人のパネリストの評価
【表1】
【0072】
比較例1の試験品ビールについては、パネリストから、以下のような感想があった。
香りは華やか;香りが強い;味わいに厚みがある;香りが生々しい;穀物っぽい;複雑さがある;雑味がある;含有物が多い感じがする;熟した感じがする;重さがある;もやっとしてる;香りの立ち上がりが強い;苦みが強い;など。
男性に好まれるクセのある味わいである可能性を指摘するパネリストもいた。
【0073】
実施例1の試験品ビールについての9人のパネリストの評価
【表2】
【0074】
実施例1の試験品ビールについては、パネリストから、以下のような感想があった。クセが少ない;ボリュームがある;飲みごたえがある;キレを感じる;雑味が少ない;軽さがある;飲みやすい;すっきりしている;香りが爽やか;シャープさがある;立ち上がりすっきり感が強い;苦みは弱い;静かな味わいがある;飲みやすい;さわやか;さらっとしている;夏に良い;など。女性に好まれる味わいである可能性を指摘するパネリストもいた。
【0075】
比較例1の試験品ビールについての6人のパネリストの評価
【表3】
【0076】
比較例2の試験品ビールについての6人のパネリストの評価
【表4】
【0077】
比較例2の試験品ビールについては、パネリストから、以下のような感想があった。
苦みが強い;青っぽい;香りがある;ボディー感がなだらか;雑味が多い;など。
【0078】
これらの結果から、実施例1の試験品ビールは、マイルドな苦味と清涼感のある後味を引き出すとともに、、良好なキレ味と、雑味が少なく、芳醇な香りが付与された飲みやすい試験品ビールとなっていた。比較例2の試験品ビールでは硬度を実施例1の試験品ビールと同程度に調整したが、実施例1程の評価が出なかったことから、水の硬度による影響のみではないことも判明した。
【0079】
同様にして、比較例3、実施例2、及び実施例3の試験品ビールについて、比較例2及び3と同じパネリストが評価した結果を示す。
【0080】
比較例3の試験品ビールについての6人のパネリストの評価
【表5】
【0081】
実施例2の試験品ビールについての6人のパネリストの評価
【表6】
【0082】
実施例3の試験品ビールについての6人のパネリストの評価
【表7】
【0083】
これらの結果から、実施例2及び3の試験品ビールは、実施例1の試験品ビール程の高い点数ではないものの、マイルドな苦味と清涼感のある後味とともに、良好なキレ味と、雑味が少なく、芳醇な香りが付与された飲みやすい試験品ビールとなっていることが確認できた。比較例3の試験品ビールでは、すべての項目において、実施例の試験品ビールと比較すると、キレの良さが感じられず、雑味も増す傾向にあった。従って、硬度が増すと、キレの良さ、雑味の少なさが際立ち、苦みの清涼さが増す傾向が確認された。