(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128475
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】海洋炭素の回収及び貯留方法並びに設備
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20220825BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20220825BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20220825BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20220825BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20220825BHJP
F03D 9/28 20160101ALI20220825BHJP
F03B 13/26 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B01D53/14 200
B01D53/18 130
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B63B35/00 Z
F03D9/28
F03B13/26
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099281
(22)【出願日】2022-06-21
(62)【分割の表示】P 2018564853の分割
【原出願日】2017-06-08
(31)【優先権主張番号】201610408323.3
(32)【優先日】2016-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710137942.8
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518376886
【氏名又は名称】彭斯干
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】彭斯干
(57)【要約】
【課題】沿岸の発電所や船舶などの化石エネルギーを使用する海洋施設から排出される排煙の炭素回収及び貯留を実行するために使用されることができる海洋炭素の回収及び貯留(海洋CCS)、並びに直接空気回収(DAC)の方法及び設備を提供する。
【解決手段】本発明では自然工学的方法が採用され、天然の海水が炭素回収のためにCO
2ガスを洗浄及び溶解するために使用される。天然の海水の炭酸塩中和及び形成された重炭酸塩が、水柱での海洋貯留に使用される。そしてエネルギー節約のために低い揚程と大きな水流が使われる。排水は環境規制に適合している。本発明は、気候変動に対処するために、炭素吸収及び貯留層の海洋生態系を使用するための手頃な費用で環境に優しい有効な手段を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋炭素の回収及び貯留方法であって、該方法は、
1)ポンプで汲み上げた海水で二酸化炭素を含有する気体を洗浄して、前記気体の前記二酸化炭素を吸収した炭素回収の生成物として洗浄後の海水をもたらすことを含む炭素回収ステップと、
2)前記炭素回収の生成物のpH値を調節する必要がある場合に、前記炭素回収の生成物に海水を追加して前記炭素回収の生成物を希釈することにより前記炭素回収の生成物のpH値を調節するステップと、
3)前記炭素回収の生成物を海洋の水柱に排出して海洋貯留をすることを含む炭素貯留ステップと
を含み、前記海水が50m以下の揚程でポンプにより汲み上げられ、ここで0mの揚程は、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる場所での海面であり、前記炭素回収の生成物は、常圧下でパイプを通して前記海洋の水柱に排出される、方法。
【請求項2】
ステップ1)における前記二酸化炭素を含有する気体は大気であり、洗浄のための前記海水は、風及び/又は海流の波及び/又は太陽光によって得た電力によりポンプで汲み揚げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素を含有する気体は、化石燃料の燃焼により排出される排煙である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記排煙中の前記二酸化炭素の少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%が洗浄用海水に吸収され、その後に前記海洋の水柱に排出されるステップを更に含み、前記洗浄用海水の体積は、前記排煙の前記二酸化炭素の少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%を吸収するために十分であるように構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記揚程が40m以下、又は30m以下、又は20m以下、又は19m以下、又は15m以下、又は12m以下、又は10m以下、又は9m以下、又は8m以下、又は6m以下、又は5m以下、又は4m以下、又は2m以下、又は1m以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
充填物を提供することと、該充填物内で前記洗浄を行うことと、前記炭素回収のエネルギー消費が1000MJ/t以下、500MJ/t以下、又は400MJ/t以下、又は350MJ/t以下、又は300MJ/t以下、又は250MJ/t以下、又は200MJ/t以下、又は150MJ/t以下、又は100MJ/t以下、又は60MJ/t以下、又は50MJ/t以下、又は40MJ/t以下、又は30MJ/t以下、又は20MJ/t以下、又は10MJ/t以下、又は5MJ/t以下となるように、ポンプで汲み上げられる前記洗浄用海水の前記揚程を構成することとを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法を実施するための海洋炭素の回収及び貯留のための設備であって、該設備は、
前記化石燃料の燃焼により前記排煙を生じる燃焼器(1)と、
前記排煙を洗浄して二酸化炭素を回収するために前記燃焼器に接続された炭素回収装置(2)と、
海水を前記炭素回収装置(2)に導入するための海水ポンプ装置(3)と、
清浄された前記排煙を前記炭素回収装置(2)の外に出すための煙突(6)と、
海水排出管(7)と、
海洋に排出される前記洗浄後の海水のpH値を調節するために水調節器(8)に接続された海水調節ポンプ(4)と
を含み、前記炭素回収装置(2)は水供給装置(2.1)と充填層とを含み、前記炭素回収装置(2)の海水出口(5)は前記海水排出管(7)に接続され、前記海水排出管(7)の出口は前記海洋の水柱中に配置される、設備。
【請求項8】
前記揚程は、前記炭素回収装置(2)の前記水供給装置の高度(2.2)であり、該高度(2.2)は、40m以下、又は30m以下、又は20m以下、又は19m以下、又は15m以下、又は12m以下、又は10m以下、又は9m以下、8m以下、6m以下、5m以下、4m以下、2m以下、又は1m以下であるように構成され、ここで前記水供給装置の前記高度(2.2)は、前記水供給装置(2.1)の水平の中心線と洗浄用海水が前記海水ポンプ装置(3)にポンプで汲み上げられる海面(3.2)との間の距離によって定められる、請求項7に記載の設備。
【請求項9】
前記炭素回収装置(2)の充填層が、工業用バルク充填物、及び/又は通常の充填物、及び/又は多孔板の充填物、及び/又は格子からなる、請求項7に記載の設備。
【請求項10】
請求項2に記載の方法を実施するための海洋炭素の回収及び貯留のための設備であって、該設備は、
炭素回収装置(2)と、
海水を前記炭素回収装置(2)に導入するための海水ポンプ装置(3)と、
前記海水ポンプ装置(3)に電力を供給するための電力設備(14)と、
前記炭素回収装置(2)の上部にある水供給装置(2.1)と、
前記炭素回収装置(2)の下部にある集水器(2.3)と、
前記集水器(2.3)に接続された海水排出管(7)と
海洋に排出される前記洗浄後の海水のpH値を調節するために水調節器(8)に接続された海水調節ポンプ(4)と
を含む設備。
【請求項11】
前記電力設備(14)は、
風で駆動される装置(14.1)と、
該風で駆動される装置(14.1)によって得た動力を前記海水ポンプ装置(3)に伝達するために前記海水ポンプ装置(3)に接続された動力伝達装置(14.3)と
を含み、前記動力伝達装置(14.3)は機械式の伝達装置、及び/又は風力発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置を含む、請求項10に記載の設備。
【請求項12】
前記電力設備(14)は、
水で駆動される装置(14.2)と、
該水で駆動される装置(14.2)によって得た動力を前記海水ポンプ装置(3)に伝達するために前記海水ポンプ装置(3)に接続された動力伝達装置(14.3)と
を含み、前記動力伝達装置(14.3)は機械式の伝達装置、及び/又は水力発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置を含む、請求項10に記載の設備。
【請求項13】
請求項7から9のいずれか1つに記載の海洋炭素の回収及び貯留のための設備を含むことを特徴とする発電所。
【請求項14】
請求項7から9のいずれか1つに記載の海洋炭素の回収及び貯留のための設備を含むことを特徴とする海洋船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸の発電所、海洋船舶、及び化石燃料を燃焼させる他の海洋施設のための二酸化炭素回収及び貯留に適用可能な海洋炭素の回収及び貯留(海洋CCS)並びに/又は直接空気回収(DAC)の方法及び設備に関する。本発明は、クリーンエネルギー及び地球工学の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の回収及び貯留、すなわちCCSは、大気中の温室効果ガスを削減するために必要な技術的解決策である。しかしながら、既存のCCS技術はすべて費用の掛かる地質学的貯留の方策であり、経済的な面及び手頃な費用の面から実用には程遠い。大規模な排出削減の達成が困難である。
【0003】
地球科学理論によると、大気中の余分な二酸化炭素の吸収は、最終的には深海の水柱に依存する。これについて、国際機関による大規模な研究は、海洋は既に約6Gトン/年のペースで大気からCO2を自然に吸収しており、CO2は自然に深海に流れることを更に示す。国際的な研究はまた、二酸化炭素は天然に存在する生成物であり、海洋の炭素貯留層のサイズが大きいため(陸地の貯留層の何倍も大きい)、海洋環境へのその全体的な影響は非常に小さいはずであることを示している(IEA OCEAN STORAGE OF CO2(IEAのCO2の海洋貯留))。これらの研究の結論は、海洋炭素貯留が気候変動に対応するための最も費用効果が高くて有望な方策であり、それはまた最も安全かつ最も効果的であるということである。この理由から、2001年に海洋炭素貯留の試験が更に行われた。それらは、ハワイとノルウェーの2つの海域に液体二酸化炭素を注入することになっている。しかし、資金及び材料(60tの液体二酸化炭素を含む)の準備がなされたが、環境保護庁が、液体、濃密ガス又は固体の形態での海洋へのCO2の注入は、注入された海域の生態学的環境を著しく破壊する海の即死につながると指摘したので、試験は最終的に禁止された。したがって、この試験はロンドン条約及びOSPAR条約で禁止されている「海洋投棄」行為に属する。それ以来、海洋炭素貯留に関する国際的な実験的研究は10年以上に亘って停滞している。したがって、地質学的貯留の高濃度二酸化炭素の貯留方式が継続して使用されるならば、海洋での海洋貯留試験を実施することができない。そのため、「最も費用対効果の高い方策」の利点が実証及び適用されることができず、海洋貯留は炭素削減のための実用的な方策になることができない。最終的に、海洋資源を用いて効果的に気候変動に対応するという長年の願望が達成されることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の海洋炭素の回収及び貯留方法並びに設備の目的は、海洋炭素貯留が気候変動に対応するための実用的な解決策になり得るように、海洋炭素貯留の先行技術の欠点を克服し、環境規制にも適合する海洋炭素貯留の最も費用対効果の高い方策を提供することである。同時に、その解決法は経済面及び環境面から利用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第一に、
1)ポンプで汲み上げた海水で二酸化炭素を含有する気体を洗浄して、その気体の二酸化炭素を吸収した炭素回収の生成物として洗浄後の海水をもたらすことを含む炭素回収ステップと、
2)炭素回収の生成物を海洋の水柱に排出して海洋貯留をすることを含む炭素貯留ステップと、
を含む海洋炭素の回収及び貯留方法を提供する。
【0006】
好ましい実施形態では、ステップ2)において、炭素回収の生成物は、常圧下でパイプを通して海洋の水柱に排出される。
【0007】
好ましい実施形態では、その方法は、海洋に排出される炭素回収の生成物のpH値を調節するために、炭素回収の生成物中における海水の体積と二酸化炭素の体積の比を調節することを更に含む。
【0008】
好ましい実施形態では、ステップ1)における二酸化炭素を含有する気体は大気であり、洗浄のための海水は、風及び/又は海流の波及び/又は太陽光によって得られた電力によりポンプで汲み揚げられる。
【0009】
好ましい実施形態では、二酸化炭素を含有する気体は、化石燃料の燃焼により排出される排煙である。
【0010】
好ましい実施形態では、その方法は、排煙中の二酸化炭素の少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%が海水に吸収され、その後に海洋の水柱に排出されるステップを更に含み、海水の体積は、排煙の二酸化炭素の少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%を吸収するために十分であるように構成される。
【0011】
好ましい実施形態では、その方法は、二酸化炭素を含有する排煙を洗浄するために、海水が50m以下、又は40m以下、又は30m以下、又は20m以下、又は19m以下、又は15m以下、又は12m以下、又は10m以下、又は9m以下、又は8m以下、又は6m以下、又は5m以下、又は4m以下、又は2m以下、又は1m以下の揚程までポンプで汲み揚げられるステップを更に含む。ここで、0mの揚程は、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる場所での海面である。
【0012】
好ましい実施形態では、その方法は、充填物を提供することと、その充填物内で洗浄を行うことと、炭素回収のエネルギー消費が1000MJ/t以下、500MJ/t以下、又は400MJ/t以下、又は350MJ/t以下、又は300MJ/t以下、又は250MJ/t以下、又は200MJ/t以下、又は150MJ/t以下、又は100MJ/t以下、又は60MJ/t以下、又は50MJ/t以下、又は40MJ/t以下、又は30MJ/t以下、又は20MJ/t以下、又は10MJ/t以下、又は5MJ/t以下となるように、ポンプで汲み上げられる洗浄用海水の揚程を構成することとを更に含む。
【0013】
好ましい実施形態では、炭素回収から炭素貯留までの方法全体が連続した反応である。
【0014】
好ましい実施形態では、その方法は、炭素回収の生成物を海洋の水柱の表面層、及び/又は中間層、及び/又は深層に排出することを更に含む。
【0015】
好ましい実施形態では、その方法は、洗浄後の海水を、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる場所を通らない海洋の水柱での海流に排出することを更に含む。
【0016】
好ましい実施形態では、充填物での洗浄は、洗浄用海水と排煙との間の大きな面積接触により行われる。
【0017】
本発明は第二に、海洋炭素の回収及び貯留方法を提供し、その方法は、
a.化石燃料を燃焼させるための燃焼器から排出される二酸化炭素を含有する排煙を連続的に炭素回収装置に導入するステップと、
b.海水を連続的に炭素回収装置に導入するステップと、
c.炭素回収装置内に充填物を与えて、ステップaの排煙とステップbの海水との接触面積を大きくして、排煙を洗浄して排煙の二酸化炭素を吸収するステップと、
d.洗浄した排煙を大気中に連続的に排出するステップと、ここで洗浄された排煙中において二酸化炭素の量は減少しており、
e.ステップcで生じた二酸化炭素を含有する海水を炭素回収装置から連続的に排出するステップと、
f.ステップeで生じた二酸化炭素を含有する海水を、炭素貯留のために海洋での炭素貯留場所に連続的に排出するステップと
を含み、上記の化石燃料は、石炭、石油及びガスからなる群から選択され、燃焼器は、沿岸の発電所又は海洋船舶で使用される、蒸気タービンのボイラ、内燃機関及びガスタービンからなる群から選択され、排煙は化石燃料の燃焼により発生し、ステップbの海水は、直接洗浄に使用されるために海洋からポンプで汲み上げられる海水であり、及び/又は洗浄に使用される前に最初に燃焼器を冷却するために海洋からポンプで汲み上げられた海水である。
【0018】
好ましい実施形態では、ステップdの洗浄された排煙との対比で、ステップaでの排煙における少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の二酸化炭素が除去される。
【0019】
好ましい実施形態では、ステップdの洗浄された排煙との対比で、ステップaでの排煙における少なくとも20%の二酸化炭素が除去される。
【0020】
好ましい実施形態では、ステップeで連続的に排出される二酸化炭素を含有する海水の上昇した温度と、ステップbで炭素回収装置に導入された海水の温度との間の差は、50℃未満である。
【0021】
好ましい実施形態では、ステップeで連続的に排出される二酸化炭素を含有する海水の上昇した温度と、ステップbで炭素回収装置に導入された海水の温度との間の差は、20℃未満である。
【0022】
好ましい実施形態では、ステップeで連続的に排出される二酸化炭素を含有する海水の上昇した温度と、ステップbで炭素回収装置に導入された海水の温度との間の差は、2℃未満である。
【0023】
好ましい実施形態では、ステップeで連続的に排出される二酸化炭素を含有する海水の低下したpH値と、炭素貯留場所における海水のpH値との間の差は、2pH単位以下である。
【0024】
本発明は、第三に海洋炭素の回収及び貯留のための設備を提供し、その設備は、
化石燃料の燃焼により排煙を生じる燃焼器と、
その排煙を洗浄して二酸化炭素を回収するためにその燃焼器に接続された炭素回収装置と、
海水を炭素回収装置に導入するための海水ポンプ装置と、
清浄された排煙を炭素回収装置の外に出すための煙突と、
海水排出管と
を含み、炭素回収装置は水供給装置と充填層とを含み、炭素回収装置の海水出口は海水排出管に接続され、その排出管の出口は海洋の水柱中に配置される。
【0025】
好ましい実施形態では、炭素回収装置の水供給装置の高度は、50m以下、又は40m以下、又は30m以下、又は20m以下、又は19m以下、又は15m以下、又は12m以下、又は10m以下、又は9m以下、8m以下、6m以下、5m以下、4m以下、2m以下、又は1m以下であるように構成され、ここで水供給装置の高度は、水供給装置の水平の中心線と洗浄用海水が海水ポンプ装置にポンプで汲み上げられる海面との間の距離によって定められる。
【0026】
好ましい実施形態では、炭素回収装置のための海水ポンプ装置は、燃焼器用の海水冷却システム、及び/又は海水取水ポンプである。
【0027】
好ましい実施形態では、その設備は、海洋に排出される洗浄用海水のpH値を調節するために、水調節器に接続された海水調節ポンプを更に含む。
【0028】
好ましい実施形態では、炭素回収装置の充填層は、工業用バルク充填物、及び/又は通常の充填物、及び/又は多孔板の充填物、及び/又は格子からなる。
【0029】
好ましい実施形態では、充填物の乾燥時パッッキングファクターは5~2000/mであり、ここで乾燥時パッッキングファクターの定義は、従来の充填物工業製品のマニュアルに従う。
【0030】
好ましい実施形態において、海水排出管は膜で作られた管である。
【0031】
好ましい実施形態では、炭素回収装置は、潮位に応じて調節可能な高度を有する海洋プラットフォーム上に配置されている。
【0032】
本発明は第四に、本発明の方法を実施するための海洋炭素の回収及び貯留のための設備を提供し、その設備は、
炭素回収装置と、
海水を炭素回収装置に導入するための海水ポンプ装置と、
海水ポンプ装置に電力を供給するための電力設備と、
炭素回収装置の上部にある水供給装置と、
炭素回収装置の下部にある集水器と、
集水器に接続された海水排出管と
を含む。
【0033】
好ましい実施形態では、電力設備は、風力発電装置、及び/又は海流の波の変換装置、及び/又は太陽光発電装置を含む。
【0034】
好ましい実施形態では、電力設備は、
風で駆動される装置と、
風で駆動される装置によって得た動力を海水ポンプ装置に伝達するために海水ポンプ装置に接続された動力伝達装置と
を含み、動力伝達装置は機械式の伝達装置、及び/又は風力発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置を含む。
【0035】
好ましい実施形態では、電力設備は、
水で駆動される装置と、
水で駆動される装置によって得た動力を海水ポンプ装置に伝達するために海水ポンプ装置に接続された動力伝達装置と
を含み、動力伝達装置は機械式の伝達装置、及び/又は水力発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置を含む。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明の方法を実施するための上記の2つの設備は、海底及び/又は海洋プラットフォームに固定されている。
【0037】
以下の説明は、本発明の技術的原理及び効果を説明するためのものである。
【0038】
本発明で使用される原理は、二酸化炭素が海水に可溶であって海水に豊富に存在する天然物質であり、そして海洋での二酸化炭素の貯留は、大量かつ長期的で環境に優しいものであり得るということである。本発明では、化石燃料から排出される排煙を海水で洗浄するか、又は大気(すなわち、自然状態の空気)を直接回収して洗浄して、排煙及び/又は大気中の二酸化炭素が溶解することにより炭素回収の目的を達成する。そして、排煙及び/又は大気中の二酸化炭素が溶解した海水を、海洋の水柱の表層、及び/又は中間層、及び/又は深層に排出して、pH値などの関連指標が環境規制に適合する条件下で炭素貯留の目的を達成する。また、海流の拡散は、海洋環境への有害な影響を更に減らして、更に海洋貯留の効果を高めることができる。二酸化炭素が溶解した海水は、海若しくは海洋の水柱の表層、又は中間層、又は深層に排出されることができる。他のいくつかの研究は、それが海洋での1000mの深さに排出されたならば、CO2は1000年間に亘って貯留されることができることを示している。
【0039】
CO2は、次の式の反応に従って海水に溶解する(左から右へ)。
CO2+H2O⇔H2CO3(炭酸)
H2CO3⇔H++HCO3
-(重炭酸イオン)
HCO3
-⇔H++CO3
2-(炭酸イオン)
重炭酸イオンは海水中の二酸化炭素の主な形態である。炭酸、重炭酸イオン及び炭酸イオンは、まとめて溶存無機炭素(DIC)と呼ばれる。
【0040】
通常、水での二酸化炭素の溶解度は非常に低いため、海水洗浄は低濃度のCO2、すなわち低濃度のDICを含有する洗浄後の海水をもたらす。「低濃度」の語は、従来技術と比較して理解されるべきである。従来技術では、炭素回収の生成物は純粋な液体二酸化炭素、濃密ガス又は固体の形態であり、それにおける二酸化炭素の濃度は本発明における濃度より数桁高い。当業者は、「低濃度」により大量の洗浄用海水が必要とされるため、本発明ではエネルギー消費が莫大であると考えるかもしれない。しかしながら、本発明では、海水のポンプ揚程を減らすことによって総エネルギー消費量を減らすことができ、それにより炭素回収及び貯留の費用は、従来のCCS技術の費用よりも少なくとも一桁低い。沿岸の火力発電所では、冷却水を再利用すれば費用を更に削減できる。
【0041】
同時に、二酸化硫黄も海水に可溶であって豊富に存在する天然物質であり、そして排煙中の二酸化硫黄は二酸化炭素より少なく、更に二酸化硫黄は二酸化炭素よりも水に溶けるので、本発明は排煙脱硫の効果を有する。従って、本発明は排煙脱硫の効果もまた有する。
【0042】
明らかに、本発明の適用は、大きな炭素排出源が密集する沿岸地域での炭素回収及び貯留の商業的適用を拡大することができる。このような状況では、規模による効果が大きい。
【0043】
本発明を海上輸送に適用すれば、二重の効果を達成することができる。1つ目は、以前は回収できず放出されていた炭素排出物を、現在は回収して貯留することができるように海洋の表層の炭素吸収資源を利用でき、船舶からの二酸化炭素排出量を極めて低費用で削減することである。2つ目は、低硫黄燃料の使用を避け、石油精製産業の炭素排出量を間接的に削減することである。したがって、海運業は国際的な炭素削減、硫黄削減法による二重の圧力から解放されることができる。経済的及び環境に優しい利点が、継続的に維持されることができる。
【0044】
本発明の炭素回収及び貯留が自然状態の空気について使用される場合、特に重要な利点がある。その第1の理由は、他の方法では回収することができない放出された炭素排出物を含め、輸送費なしであらゆる種類の炭素排出物を回収するために大気循環が使用できることである。第2の理由は、風力、海流、太陽光、及び他の再生可能エネルギーを使用することで、エネルギー消費量ゼロの炭素回収及び貯留を実現できることである。第3の理由は、海域に制限がなく、周辺機器の支援が不要であるため、あらゆる海域に多数の設備を設置できることである。
【発明の効果】
【0045】
明らかに、地球科学の原理に基づく本発明は、自然工学の方法を採用することによって良好な技術的効果を達成している。本発明は、気候変動に対応するために海洋資源を使用するという長年の要望を達成するために、手頃な費用の実用的かつ効果的な技術的方針を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の海水の炭素回収及び貯留方法の実施ステップの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の海水の炭素回収及び貯留方法の実施ステップの別の実施例を示す概略図である。
【
図3】沿岸のガス-蒸気複合サイクル発電所に使用される本発明の一例を示す概略図である。
【
図4】沿岸の石炭火力発電所に使用される本発明の別の実施例を示す概略図である。
【
図5】本発明の海洋船舶の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明の水力による海洋上の大気の炭素回収及び貯留の一例を示す概略図である。
【
図7】本発明の風力による海洋上の大気の炭素回収及び貯留の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図面中の参照番号に対応する構成要素又は構造の名称は、以下の通りである。
【0048】
本発明は、
1)ポンプで汲み上げた海水で二酸化炭素を含有する気体を洗浄して、その気体の二酸化炭素を吸収した炭素回収の生成物として洗浄後の海水をもたらすことを含む炭素回収ステップと、
2)炭素回収の生成物を海洋の水柱に排出することを含む炭素貯留ステップと、
を含む海洋炭素の回収及び貯留方法を提供する。
【0049】
本明細書での用語「海水」は、工業施設を冷却するための天然の海水を含む、海又は海洋から得られる天然の海水である。本発明の目的は、他の物質を添加(例えばアルカリを添加)しない海水を使用することによって達成されることができる。もちろん、用途によっては、排煙中のいくつかの特別な成分を吸収するためなどの特別な目的を達成するために、他の添加剤を加えることもできる。
【0050】
本明細書での用語「洗浄」は、二酸化炭素の回収を目的とした海水と気体の接触のステップとされる。接触は、限定でないが、スプレー噴射器、バブラー、ベンチュリタワー、噴霧器、フィルター、回転式噴霧器、格子、段塔又は充填塔を含む設備で行われることができる。
【0051】
本明細書での用語「炭素回収」は、洗浄の過程で二酸化炭素を含有する気体中のCO2を回収するステップである。洗浄の過程で、CO2の一部は海水に溶解し、洗浄後の海水での溶存無機炭素(DIC)となる。
【0052】
本明細書での用語「炭素貯留」は、排煙中のCO2を含有する洗浄後の海水を、パイプを通じて常圧下で直接海洋の水柱に排出するステップである。炭素貯留の過程で、濃縮されたCO2は排出前に必要とされない。必要に応じて、環境規制に適合するよう排出される海水のpH値を調節するために、更なる海水を追加することによって更にCO2を希釈することができる。海の深さの違いを含む、海の異なる海域では、排出される海水のpH値に関する異なる要件が必要となる場合がある。
【0053】
本明細書での用語「海洋の水柱」は、表層(深さ数十メートル)、中間層(深さ数百メートル未満)、又は深層(深さ数百メートル以上)の海水である。IPCCとIEAによる国際的研究は、海洋の水柱の物理的及び化学的システム、並びに海洋生態系によれば、環境に配慮した二酸化炭素の吸収及び貯留が可能であることを示している。
【0054】
流れる海水、すなわち海流は、海洋炭素貯留の効果を高めることができる。入口を通じて洗浄用海水がポンプで汲み上げられない海洋の水柱の海流に炭素回収の生成物が排出される場合、排出された海水が入口に戻るのを防ぐことができる。
【0055】
CO2は水に溶け、そして海水はより多くのCO2を吸収できるのが一般的な知識である。しかし、これまでのところ、海水が炭素の回収及び貯留に使用される技術的方策に関していかなる報告もない。その理由は、当業者は、費用を削減する唯一の利用可能な方法は、材料体積を減らして輸送及び貯留の費用を削減するために、回収されたCO2を液体、濃密ガス又は固体の形態で高濃度に精製することであると考えることに慣れているからである。高濃度溶液の費用は手頃な費用の実用的な技術とはかけ離れているので、当業者は低濃度の方策について考えることはできない。
【0056】
本発明者は、海水洗浄による脱硫に関する研究に長年に亘って取り組んできた。本発明者は、海水洗浄の低濃度溶液が、脱硫だけでなく炭素の回収及び貯留の効果ももたらすことを偶然見出した。更に、本発明者は費用を大幅に削減する方法も見出したので、費用が削減されて手頃な費用で実用的である。
【0057】
本発明の発明者が最初に見出したのは、海水洗浄の脱硫の先行技術(FGD、EGC)では、排煙中の二酸化炭素の10%未満が通常は洗浄水に溶解され、それらが排水及び曝気処理の過程で大気中に出されていたことである。そこで、本発明者は、沿岸の発電所でのFGDに関する試験及び海洋タンカーでのEGCに関する試験を長年に亘って行った。その試験は、海水洗浄の脱硫技術が適切に修正されれば、排出された海水が環境規制に適合する状況で、海水に溶解した二酸化炭素は海水の外に放出されないか、又は海水に溶解している少量の二酸化炭素が海水の外に放出されることが起こり得ることを示した。
【0058】
本発明の発明者はまた、洗浄用海水の量を増加させると、排煙中の二酸化炭素の10%以上の回収及び貯留をもたらし得ることを更なる試験で見出した。発明者はまた、洗浄用海水の量を増やす過程で増加するエネルギー消費量と費用を、ポンプで汲み上げる洗浄用海水の揚程を減らす方法により削減できることを見出した。この場合、排煙中の二酸化炭素の少なくとも20%の回収及び貯留のための費用は、発電所及び船舶などの様々な用途で通常は手頃なものである。本出願の以下の部分は、より多くの二酸化炭素を除去するための費用がいくつかの典型的な用途において手頃なものである、いくつかの実施例の詳細な説明を提供する。これらの実施例では、排煙中の30%以上、又は40%以上、又は50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上の二酸化炭素を回収して貯留するという目的が、最終的に達成される。沿岸の発電所の実施例では、排煙中の99%ものCO2が回収されて貯留され、そして増加する費用は手頃なものである。
【0059】
一定量の水は限られた量のCO2を溶かすことができるので(一般的に、1m3の淡水は常温常圧で約0.8m3のCO2を吸収でき、海水は淡水よりも少し多くのCO2を吸収することができる)、排煙から大量のCO2を回収する必要がある場合は、大量の洗浄水が必要である。例えば、発電所の一例では、元々の冷却用海水の全てが排煙を洗浄するために使用される場合、約30%のCO2しか回収することができない。90%以上のCO2を回収する必要がある場合は、元々の冷却用海水の約2倍の量の更なる洗浄用海水を追加する必要がある。一般的に言えば、それは非常に膨大な量である。手頃な費用のためには、2つの技術的方策を採用する必要がある。一つは海水をポンプで汲み上げるエネルギー消費量を減らすことであり、もう一つは必要とされる洗浄用海水の量を最小にするためにCO2に対する海水の吸収効率を高めることである。第一に、ポンプで汲み揚げられる海水の揚程、すなわち炭素回収装置の高度は、海水をポンプで汲み上げるエネルギー消費量を減少させるために低くされるべきである。大規模発電所の一例では、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる高度50mの炭素回収装置がその要件を満たすことができる。もちろん、別の実施例では、40m又は30mもその要件を満たすことができる。発電所及び海洋船舶のようないくつかの典型的な用途について、本出願の以下の実施例は詳細な説明を提供する。これらの実施例では、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる炭素回収装置は、20m以下、又は19m以下、又は15m以下、又は12m以下、又は10m以下、又は9m以下、又は8m以下、又は6m以下、又は5m以下、又は4m以下、又は2m以下、又は1m以下の高度で構成される。別の実施例では、異なる時間で局部的な地域の潮位の平均は大きく変動するので、炭素回収装置はプラットフォーム又は浮遊ドック上に設置され、そのプラットフォーム又は浮遊ドックは潮位に応じて調節可能な高度を有する。そのような場合、ボートが水位と共に上がるという原理により、海水を送るためのエネルギー消費は最低レベルに減少する。
【0060】
一方、本発明者は試験において、あらゆる種類の洗浄設備の中で炭素回収装置として充填洗浄装置又は吸収塔が、洗浄用海水量の削減及びポンプで汲み揚げられる海水の揚程の低減のために最良なものであることも見出した。結果として、海水をポンプで汲み揚げるためのエネルギー消費量が最小であり、運転は最も安定している。海水洗浄の脱硫及び二酸化炭素吸収試験に携わっている長年の経験に基づいて、本発明の発明者は、充填物の好ましい乾燥時パッッキングファクターが5~2000/mであることも見出した(乾燥時パッッキングファクターの定義は、従来の充填物工業製品のマニュアルに記載されている)。そのような充填物は、海水洗浄による炭素回収の最良の効果を提供する。例えば、5/mの乾燥時パッッキングファクターの充填物が要件を満たすことができる。以下の実施例では、10/m、又は15/m、又は35/m、又は55/m、又は65/m、又は95/m、又は150/m、又は250/m、又は350/m、又は450/m、又は650/m、又は850/m、又は1000/m、又は1200/m、又は1500/m、又は1800/m、又は2000/mの乾燥時パッッキングファクターの充填物もまた、要件を満たすことができる。充填物洗浄とは、充填物中において洗浄用海水と排出された排煙との間の大きな面積接触により行われる洗浄を指す。
【0061】
上記の説明によれば、本発明の発明者は、充填物洗浄及びポンプで汲み揚げられる海水の揚程を減らすことを含む方策により、最終的に炭素回収のエネルギー消費が削減され、CCS技術の総費用が実用レベルまで削減されることを見出した。例えば、一例では、二酸化炭素回収のエネルギー消費は1000MJ/t(百万ジュール/トン)以下であり、これは実用的である。発電所や海洋船舶の用途について、以下の実施例は、炭素回収のエネルギー消費量が500MJ/t以下、又は400MJ/t以下、又は350MJ/t以下、又は300MJ/t以下、又は250MJ/t以下、又は200MJ/t以下、又は150MJ/t以下、又は100MJ/t以下、又は60MJ/t以下、又は50MJ/t以下、又は40MJ/t以下、又は30MJ/t以下、又は20MJ/t以下、又は10MJ/t以下、又は5MJ/t以下であることを示し、それもまた実用的である。
【0062】
更に本発明者は、本発明によれば、海上での自然状態の空気に炭素回収及び貯留を用いることができ(DAC)、それは大気中の炭素含有量を削減する良好な効果を有することを見出した。以下の実施例では、使用されるのは海上の風、及び/若しくは海流の波、及び/若しくは太陽光及び他の自然エネルギーから得た機械的エネルギー並びに/又は電気的エネルギーだけであり、これらはすべて再生可能エネルギーである。それはエネルギー消費量がゼロであることを意味する。したがって、稼働費は非常に低く、建設費及び減価償却費のみが必要とされ、発電及び輸送並びに周辺機器の支援が不要である。更に、建設費も非常に低い。一方で、多くの風力発電及び波力発電施設を建設する目的は、最終的に大気の炭素排出を減らすために沖合での化石エネルギーを代えることである。しかし、本発明によれば、大気中の二酸化炭素は直接回収されて貯留されることができる。この場合、炭素を減らす効率がより高い。
【0063】
本発明の更なる詳細な説明は、図面に従って下記の実施例で与えられる。
【0064】
実施例1
これは、本発明の海洋炭素の回収及び貯留方法の基本的な実施例である。
図1に示されるように、この方法は、1)ポンプで汲み上げた海水で二酸化炭素を含有する気体を洗浄して、その気体の二酸化炭素を吸収した炭素回収の生成物として洗浄後の海水をもたらすことを含む炭素回収ステップと、2)炭素回収の生成物を海洋の水柱に排出して海洋貯留をすることを含む炭素貯留ステップとを含む。
【0065】
この実施例に基づく変更例では、ステップ2)において、炭素回収の生成物は、常圧下でパイプを通して海洋の水柱に排出される。炭素回収から炭素貯留までの全過程は連続した反応である。
【0066】
この実施例に基づく別の変更例では、その方法は、海洋に排出される炭素回収の生成物のpH値を調節するために、炭素回収の生成物中における海水の体積と二酸化炭素の体積の比を調節することを更に含む。
【0067】
この実施例に基づく別の変更例では、その方法は、洗浄用海水がポンプで汲み上げられる場所を通らない海洋の水柱での海流に炭素回収の生成物を排出することを更に含む。
【0068】
この実施例に基づく以下の変更例では、その方法は、炭素回収の生成物を海洋の水柱の表面層、及び/又は中間層、及び/又は深層に排出することを更に含む。
【0069】
実施例2
これは、本発明の海洋炭素の回収及び貯留方法の他の基本的な実施例である。
図2に示されるように、二酸化炭素を含有する気体は化石燃料の燃焼により排出される排煙であり、この方法は、a.化石燃料を燃焼させるための燃焼器から排出される二酸化炭素を含有する排煙を連続的に炭素回収装置に導入するステップと、b.海水を連続的に炭素回収装置に導入するステップと、c.ステップaの排煙とステップbの海水の接触面積を大きくして海水による二酸化炭素の吸収性を高めるために、炭素回収装置内に充填物を与えるステップと、d.洗浄した排煙を大気中に連続的に排出するステップと、e.ステップcで生じた二酸化炭素を含有する海水を炭素回収装置から連続的に排出するステップと、f.ステップeで生じた二酸化炭素を含有する海水を、炭素貯留のために海洋の水柱での炭素貯留場所に連続的に排出するステップとを含む。ここで、上記の化石燃料は、石炭、石油及びガスからなる群から選択される。燃焼器は、沿岸の発電所又は海洋船舶で使用される、蒸気タービンのボイラ、内燃機関及びガスタービンからなる群から選択される。排煙は化石燃料の燃焼により発生する。ステップbの海水は、海洋からポンプで汲み上げられて直接洗浄に使用される海水であり、及び/又は洗浄に使用される前に最初に燃焼器を冷却するために海洋からポンプで汲み上げられた海水である。
【0070】
実施例3
これは、上記の実施例2に基づく実施例である。
図2に示されるように、ステップdの洗浄された排煙との対比で、ステップaでの排煙における少なくとも10%の二酸化炭素が除去される。
【0071】
この実施例に基づく変更例では、ステップdの洗浄された排煙との対比で、ステップaでの排煙における少なくとも20%の二酸化炭素が除去される。
【0072】
この実施例に基づく更なる変更例では、ステップdの洗浄された排煙との対比で、ステップaでの排煙における少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の二酸化炭素が除去される。
【0073】
実施例4
これは実施例2に基づく実施例である。ステップeで連続的に排出される二酸化炭素を含有する海水の低下したpH値と排出場所での海水のpH値の差は、2pH単位以下である。このpH値は、炭素回収装置に導入される排煙の量、洗浄用海水の量、及び気体と液体の比を構成することにより達成される。その目的は、海洋排水に関する関連法規及び技術標準に適合することである。
【0074】
実施例5
これは、本発明の方法を実施するための海洋回収及び貯留設備の基本的な実施例である。
図3に示されるように、その設備は、
化石燃料の燃焼により排煙を生じる燃焼器1と、
その排煙を洗浄して二酸化炭素を回収するためにその燃焼器に接続された炭素回収装置2と、
海水を炭素回収装置2に導入するための海水ポンプ装置3と、
清浄された排煙を炭素回収装置2の外に出すための煙突6と、
海水排出管7と
を含み、炭素回収装置2は水供給装置2.1を含む。炭素回収装置2には充填層が備えられる。
炭素回収装置2の海水出口5は排出管7に接続され、そして排出管7の出口は海洋の水柱中に配置される。
【0075】
実施例6
これは実施例5に基づく実施例である。炭素回収装置2は水供給装置2.1を含む。その水供給装置の高度2.2は20m以下である。水供給装置の高度2.2は、水供給装置2.1の水平の中心線と洗浄用海水が海水ポンプ装置3にポンプで汲み上げられる海面3.2との間の距離によって定められる。
【0076】
この実施例に基づく更なる変更例では、水供給装置の高度2.2は、19m以下、15m以下、12m以下、10m以下、9m以下、8m以下、6m以下、5m以下、4m以下、2m以下、1m以下である。
【0077】
水供給装置の高度2.2を下げることの目的は、海水供給でのエネルギー消費を減らすことである。このエネルギー消費は、本発明におけるCCS技術の主要なエネルギー消費である。
【0078】
炭素回収装置2に充填層が備えられる。充填層は工業用のバルク充填物からなり、充填物の乾燥時パッッキングファクターは5/mである。
【0079】
この実施例に基づく1つの変更例では、充填物の乾燥時パッッキングファクターは30/mである。
【0080】
この実施例に基づくいくつかの他の変更例では、充填物の乾燥時パッッキングファクターは、それぞれ60/m、120/m、200/m、300/m、400/m、500/m、600/m、700/m、800/m、900/m、1000/m、1200/m、1400/m、1600/m、1800/m、2000/mである。
【0081】
この実施例に基づく変更例では、充填層は標準的な充填物からなる。この実施例に基づく別の変更例では、充填層は多孔板の充填物からなる。
【0082】
この実施例に基づく変更例では、充填層は様々な充填物の組み合わせからなる。
【0083】
実施例7
これは実施例5に基づく実施例である。
図4に示されるように、炭素回収装置2に接続された海水ポンプ装置3は、燃焼器1用の海水冷却システムである。
【0084】
この実施例に基づく変更例では、海水ポンプ装置3は海水増量ポンプ3.1である。
【0085】
この実施例に基づく別の変更例では、海水ポンプ装置3は、燃焼器1用の海水冷却システム及び海水増量ポンプ3.1である。そのような構成の目的は、二酸化炭素の排出量を減らすためにより大量の水を供給することである。
【0086】
実施例8
これは沿岸のガス-蒸気複合サイクル発電所の一例である。
図3に示されるように、発電所内には3組のガス-蒸気複合サイクル発生ユニットがある。各発電ユニットの電力は400MW、総電力は1200MWである。この実施例では2つの実施段階がある。
【0087】
実施の第1段階では、1つの発電ユニットの排煙中の二酸化炭素が回収される。排煙中の二酸化炭素の少なくとも90%が洗浄用海水に溶解して回収され、海洋の水柱に排出される。年間約100万トンの二酸化炭素が回収されて、貯留される。
【0088】
この発電所では、以前に高濃度の炭素回収及び貯留のプロジェクトが実施されている。このプロジェクトでは、1つの発電ユニットの排煙中の二酸化炭素が回収される。年間約100万トンの二酸化炭素が回収されて貯留される。プロジェクトの方法は、二酸化炭素の吸収、脱着、精製、圧縮及び輸送のステップを含む。回収された高濃度の二酸化炭素は、石油増進回収法(EOR)のために海底油田に注入される。海洋には特別なプラットフォームが備えられる。このプロジェクトは、海底の地質学的貯留に属する。プロジェクト完了後、石油増進回収法は一定の収入をもたらすことができ、プロジェクトの総費用は他の非EOR CCSの総費用よりも低くなるが、総費用は依然として手頃なものでない。したがって、プロジェクトは最終的に終了した。
【0089】
本実施例の炭素回収装置は、以前のCCSプロジェクトのために用意された空きスペースに設置されている。炭素回収装置によって必要とされる面積は、以前のスペースの面積のわずか5分の1である。炭素回収装置の水供給装置の高度は、約10mである。既存の海水冷却システムは、海水導入設備として直接使用される。発電所での冷却水用の既存の入口と出口もまた直接使用され、水柱での出口の深さは150m以上である。沿岸の発電所では、冷却効率のために、冷却水の出口は元から海流が冷却水の入口を通らない海洋の水柱に位置している。この場合、洗浄によって回収された二酸化炭素が排出された後、二酸化炭素は海流で急速に拡散及び希釈され、それは海洋環境への本来の小さな影響を更に少なくする。二酸化炭素を回収するためのエネルギー消費は100MJ/t以下であり、CCS装置の製造及び運転のための費用は、高濃度のプロジェクトの元々の費用の1/10である。
【0090】
実施の第2段階では、他の2つの発電ユニットについて海水洗浄の炭素回収及び海洋水柱の炭素貯留を行うために、実施の第1段階を基にしてより多くの炭素回収装置及び海水ポンプを追加する。実施の第2段階が完了した後、発電所での約300万トンの二酸化炭素が回収されて貯留される。
【0091】
この実施例に基づく1つの変更例では、炭素回収装置は、潮位に応じて調節可能な高度を有するプラットフォーム上に設置される。この実施例に基づく別の変更例では、炭素回収装置は浮遊ドック上に設置される。したがって、海水をポンプで汲み揚げるためのエネルギー消費は、潮の干満に関係なく最小にされることができる。
【0092】
実施例9
これは沿岸の石炭発電所の一例である。
図4に示されるように、燃焼器は600MWの石炭火力発電ユニットである。この実施例では2つの実施段階がある。
【0093】
実施の第1段階では、発電ユニットの排煙中の少なくとも25%の二酸化炭素が、洗浄用海水に溶解して回収される。発電所での冷却水70,000トン/時が、洗浄用海水として直接使用される。年間約80万トンの二酸化炭素が回収されて貯留される。
【0094】
実施の第2段階では、発電ユニットの排煙中の約95%の二酸化炭素が、洗浄用海水に溶解して回収される。210,000トン/時の洗浄用海水が追加される。その海水は、追加の海水導入ポンプにより供給される。実施の第2段階が完了した後、発電ユニットについて約300万トンの二酸化炭素が回収されて貯留される。
【0095】
高度を減らすために炭素回収装置において充填塔が使用され、水供給装置の高度は約9mである。海洋炭素貯留を行うために、網状の有機膜の送水管が、水深約300mの海の水柱の中間層に海水を排出するために使用される。
【0096】
この実施例では、発電所の排煙のCO2排出量は、80%削減される。二酸化炭素を回収するためのエネルギー消費量は200MJ/t以下である。
【0097】
実施例10
この実施例を
図4に示す。海水調節ポンプ4は、海洋に排出される洗浄用海水のpH値を調節するために水調節器に接続されている。これは排出される海水のpH値を制御するためのより良い方法であり、エネルギー消費量は最小である。
【0098】
二酸化炭素を含有する洗浄後の海水は、海洋の水柱の深さ800mの中間層である、海面と海底の間の層に排出される。
【0099】
この実施例に基づく変更例では、二酸化炭素を含有する洗浄後の海水は、海洋の水柱の深さ1500mの深層に排出される。研究では、二酸化炭素が海洋の1000メートル以上の深さに排出されるならば、二酸化炭素は1000年以上に亘って貯留できることが示される。
【0100】
実施例11
これは海洋船舶の一例である。
図5に示されるように、燃焼器1は130MWの2サイクルの船舶ディーゼルエンジンを含む。燃料として硫黄3.5%v/vの重油が使用される。発生するCO
2量は約8100Nm
3/時である。炭素回収装置は、元々の消音器に代えて構成されている。水供給装置の高度は、充填水位線に基づいて6mである。炭素の回収及び貯留のための洗浄用海水の量は、約5800トン/時である。海水増量ポンプ3.1は、排出される海水のpH値を制御するために調節されることができる。この実施例では、船舶の排煙のCO
2排出量は50~70%削減され(特定の値は、船舶が航行する海水の質及び温度に関係する)、SO
2排出量は98%削減される。その効果は硫黄0.5%の燃料の使用と同等である。したがって、国際輸送における硫黄の制限が国連によって実施される2020年以降に、低価格の既存の石油を依然として使用することができる。二酸化炭素を回収するためのエネルギー消費量は、20MJ/t以下である。その方法全体の費用は、最大出力でエンジンの燃料消費量の0.6%に相当する。海水の排出は、MARPOL附属書VIのMEPCの規則に適合している。洗浄後の海水は、海洋の水柱の表層に排出される。
【0101】
この実施例では、MARPOL附属書VIのMEPCの規則に適合した、入口と出口での海水のpH値の検出と制御が行われる。エンジンの排ガスは、航行中の船舶において海水で洗浄され、化学薬品は添加されない。排出された洗浄用海水と入口での海水の間におけるpH値の差は、2pH単位以下である。したがって、洗浄用海水を直接海洋に、すなわち海洋の水柱の表層に排出することができる。
【0102】
この実施例に基づく新しい船舶の建造での変更例では、船舶の燃料はLNGである。この場合、炭素排出量は石炭及び石油からの排出量よりも少なくなるが、それはやはり炭素排出量の削減及び管理が必要とされる一種の化石エネルギーである。
【0103】
実施例12
これは、海上での炭素直接空気回収(DAC)及び貯留のための設備の一例である。
図6に示されるように、設備は、
炭素回収装置2と、
海水を炭素回収装置2に導入するための海水ポンプ装置3と、
海水ポンプ装置3に電力を供給するための電力設備14と、
炭素回収装置2の上部にある水供給装置2.1と、
炭素回収装置2の下部にある集水器2.3と、
集水器2.3に接続された排水管7と
を含む。
その設備は、海洋に浮かぶプラットフォームに固定されている。プラットフォームは海底に固定されている。
【0104】
この実施例に基づく変更例では、その設備は、海底にしっかりと接続された海洋のプラットフォーム上に固定される。この実施例に基づく別の実施例では、その設備は海洋の可動なプラットフォーム上に固定される。
【0105】
実施例13
これは実施例12に基づく実施例である。
図6に示されるように、電力設備14は、
水で駆動される装置14.2と、
水で駆動される装置14.2によって得た動力を海水ポンプ装置3に伝達するために海水ポンプ装置3に接続された動力伝達装置14.3と
を含み、動力伝達装置14.3は機械式の伝達装置である。
【0106】
この実施例に基づく変更例では、動力伝達装置14.3は、水力発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置である。
【0107】
実施例14
これは実施例12に基づく別の実施例である。
図7に示されるように、電力設備14は、
風で駆動される装置14.1と、
風で駆動される装置14.1によって得た動力を海水ポンプ装置3に伝達するために海水ポンプ装置3に接続された動力伝達装置14.3と
を含み、動力伝達装置14.3は機械式の伝達装置である。
【0108】
この実施例では、炭素回収装置2の下で集水器2.3に排水管7が接続されている。この排水管7の出口は、二酸化炭素を含有する洗浄用海水を海洋に排出するために、海洋の水柱に配置される。垂直軸ローターが風で駆動される装置で使用される。あるいは、水平軸ローターを使用することもできる。風で駆動される装置は、直接的に海水ポンプ装置を駆動して海水をポンプで汲み上げるために、得た風力エネルギーを回転機械エネルギーに変換する。た二酸化炭素を洗浄して回収する効果は、海洋のより深い層の海水がポンプで汲み上げられるならば、より良好である。炭素回収装置の下の集水器での水位が洗浄用海水をより深い海の層に送る場合、炭素貯留の効果はより良好である。動力伝達装置14.3は、機械式の速度調節機能を有する。炭素回収装置2は、風を捕えるのに役立つように、垂直方向に開くように設計されている。格子板と格子からなる充填物が、洗浄効率を高めるために提供される。
【0109】
この実施例に基づく変更例では、中空の噴霧塔が炭素回収装置として使用される。この実施例に基づく別の変更例では、従来の洗浄塔が炭素回収装置として使用される。この実施例に基づく別の変更例では、洗浄用海水は集水器によって集められるのではなく、海面に直接噴霧される。
【0110】
この実施例に基づく別の変更例では、炭素回収装置内に空気を送風するために送風機が使用される。送風機の動力も、風で駆動される装置によってもたらされる。
【0111】
上記実施例の設備は、一種の炭素削減の風車設備である。その設備の製造及び維持費は、同じローター直径を有する風力発電機のものよりもはるかに低い。その設備の大気中の炭素含有量を減少させる効果は、多段階のエネルギー変換が必要とされないので、風力発電機の効果の何倍にもなる。
【0112】
実施例15
これは実施例12に基づく別の実施例である。電力設備14は、
風で駆動される装置14.1と、
動力伝達装置14.3と
を含み、ここで動力伝達装置14.3は、風力駆動式発電機と電気モーターとからなる電気機械式伝達装置である。電力設備14として、洋上風力発電機が直接使用される。
【0113】
この実施例に基づく変更例では、電力設備14として太陽光発電設備が直接使用される。
【0114】
本発明の特許請求の範囲の保護範囲は、上記実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0115】
1 燃焼器
2 炭素回収装置
2.1 水供給装置
2.2 水供給装置の高度
2.3 集水器
3 海水ポンプ装置
3.1 海水増量ポンプ
3.2 海面
4 海水調節ポンプ
5 海水出口
6 煙突
7 海水排出管
8 水調節器
9 シーチェスト
10 船の主海水ダクト
11 客室
12 海岸
13 海流
14 電力設備
14.1 風で駆動される装置
14.2 水で駆動される装置
14.3 動力伝達装置
15 風