(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128545
(43)【公開日】2022-09-02
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220826BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026879
(22)【出願日】2021-02-23
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓介
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246DA01
3D246HA03A
3D246HA42A
3D246HA81A
3D246HA94A
3D246HC01
3D246JA12
3D246JB28
3D246JB33
3D246JB47
3D246LA33Z
3D246LA40Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制動制御装置において、加圧源からの供給液圧の変動に起因するホイールシリンダの液圧の変動が抑制され得るものを提供する。
【解決手段】制動制御装置は、ホイールシリンダの液圧を増加する加圧源と、加圧源とホイールシリンダとを接続する連絡路と、連絡路に設けられるインレット弁と、加圧源が出力する液圧を供給液圧として検出する液圧センサと、ホイールシリンダに要求される複数の目標液圧を演算し、そのうちの最大値を最大目標液圧として決定し、最大目標液圧に対応する選択ホイールシリンダの液圧を加圧源によって調整するとともに、選択ホイールシリンダには該当しない非選択ホイールシリンダの液圧をインレット弁、及び、アウトレット弁によって調整するコントローラと、を備える。コントローラは、最大目標液圧と供給液圧との偏差に基づいて、選択ホイールシリンダに対応する選択インレット弁を制御する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数のホイールシリンダの液圧を個別に調整する車両の制動制御装置であって、
前記複数のホイールシリンダの液圧を増加する加圧源と、
前記加圧源と前記複数のホイールシリンダとを接続する連絡路と、
前記連絡路に設けられるインレット弁と、
前記複数のホイールシリンダと前記インレット弁との間の前記連絡路をリザーバに接続する減圧路と、
前記減圧路に設けられるアウトレット弁と、
前記加圧源が出力する液圧を供給液圧として検出する液圧センサと、
前記複数のホイールシリンダに要求される複数の目標液圧を演算し、前記複数の目標液圧のうちの最大値を最大目標液圧として決定し、前記複数のホイールシリンダのうちの前記最大目標液圧に対応する選択ホイールシリンダの液圧を前記加圧源によって調整するとともに、前記複数のホイールシリンダのうちの前記選択ホイールシリンダには該当しない非選択ホイールシリンダの液圧を前記インレット弁、及び、前記アウトレット弁によって調整するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記最大目標液圧と前記供給液圧との偏差に基づいて、前記インレット弁のうちの前記選択ホイールシリンダに対応する選択インレット弁を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置であって、
前記加圧源と前記インレット弁との間の前記連絡路に設けられる調圧弁を備え、
前記コントローラは、前記偏差に基づいて、前記調圧弁のうちの前記選択ホイールシリンダに対応する選択調圧弁を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記供給液圧が前記最大目標液圧よりも小さい場合には、前記選択調圧弁に通電を行い、前記選択インレット弁には通電を行わない、車両の制動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記供給液圧が前記最大目標液圧よりも大きい場合には、前記選択インレット弁に通電を行い、前記選択調圧弁には通電を行わない、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「より長時間のブレーキ加圧制御を実行すること」を目的に、「補助加圧源100で発生させるM/C圧を各車輪FL~RRのW/C圧の最大値に設定する。これにより、必要以上にM/C圧を発生させなくて良くなる。そして、各車輪FL~RRのW/C圧を発生させる際に、高圧なM/C圧を減圧してW/C圧として用いる必要が無くなるため、各減圧制御弁21、22、41、42を通じてリザーバ20、40に排出されるブレーキ液量を低減できる。したがって、モータ60の作動頻度を低減させることが可能となり、モータ60の温度上昇が抑制されて、ブレーキ加圧制御を長時間行える」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1では、ホイールシリンダ毎に目標液圧(「要求液圧」ともいう)が演算され、複数の目標液圧のうちの最大値に基づいて補助加圧源(単に、「加圧源」ともいう)が制御される。即ち、該最大値に対応するホイールシリンダの液圧(「選択制動液圧Pwx」という)が加圧源によって調整される。そして、該最大値に対応するホイールシリンダ以外では、制動液圧(「非選択制動液圧Pwz」という)が、増圧弁(「インレット弁」ともいう)、及び、減圧弁(「アウトレット弁」ともいう)が制御されることによって、加圧源の出力液圧(「供給液圧Pm」とのいう)から減少されて調整される。
【0004】
上述したように、非選択制動液圧Pwzは加圧源の供給液圧Pmから減少されて調整されるが、該調圧は、インレット弁及びアウトレット弁の制御によって、制動液BFがリザーバRCに排出されることによって達成される。このとき、制動制御装置SCの流体路(制動配管、流体ユニット内の流路、ホース等)内では、制動液BFの液量変化が生じる。そして、該液量変化に起因して、供給液圧Pmの変動が発生する場合がある。車両の制動制御装置SCでは、加圧源が出力する液圧(供給液圧)Pmの変動(圧力変動)が抑制されて、選択制動液圧Pwxが調整され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、加圧源からの供給液圧の変動に起因するホイールシリンダの液圧の変動が抑制され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制動制御装置は、車両の複数のホイールシリンダ(CW)の液圧(Pw)を個別に調整するものであって、前記複数のホイールシリンダ(CW)の液圧(Pw)を増加する加圧源(YA)と、前記加圧源(YA)と前記複数のホイールシリンダ(CW)とを接続する連絡路(HS)と、前記連絡路(HS)に設けられるインレット弁(UI)と、前記複数のホイールシリンダ(CW)と前記インレット弁(UI)との間の前記連絡路(HS)をリザーバ(RC)に接続する減圧路(HG)と、前記減圧路(HG)に設けられるアウトレット弁(VO)と、前記加圧源(YA)が出力する液圧を供給液圧(Pm)として検出する液圧センサ(PB)と、「前記複数のホイールシリンダ(CW)に要求される複数の目標液圧(Pt)を演算し、前記複数の目標液圧(Pt)のうちの最大値を最大目標液圧(Ptx)として決定し、前記複数のホイールシリンダ(CW)のうちの前記最大目標液圧(Ptx)に対応する選択ホイールシリンダ(CWx)の液圧(Pwx)を前記加圧源(YA)によって調整するとともに、前記複数のホイールシリンダ(CW)のうちの前記選択ホイールシリンダ(CWx)には該当しない非選択ホイールシリンダ(CWz)の液圧(Pwz)を前記インレット弁(UIz)、及び、前記アウトレット弁(VOz)によって調整するコントローラ(ECU)」と、を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記最大目標液圧(Ptx)と前記供給液圧(Pm)との偏差(hP)に基づいて、前記インレット弁(UI)のうちの前記選択ホイールシリンダ(CWx)に対応する選択インレット弁(UIx)を制御する。
【0008】
更に、本発明に係る制動制御装置は、前記加圧源(YA)と前記インレット弁(UI)との間の前記連絡路(HS)に設けられる調圧弁(UB)を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記偏差(hP)に基づいて、前記調圧弁(UB)のうちの前記選択ホイールシリンダ(CWx)に対応する選択調圧弁(UBx)を制御する。前記コントローラ(ECU)は、前記供給液圧(Pm)が前記最大目標液圧(Ptx)よりも小さい場合には、前記選択調圧弁(UBx)に通電を行い、前記選択インレット弁(UIx)には通電を行わない。また、前記コントローラ(ECU)は、前記供給液圧(Pm)が前記最大目標液圧(Ptx)よりも大きい場合には、前記選択インレット弁(UIx)に通電を行い、前記選択調圧弁(UBx)には通電を行わない。
【0009】
上記構成によれば、液圧偏差hPに基づく、インレット弁UI、調圧弁UBの開弁量Li、Lbの調整によって、供給液圧Pmの変動が抑制されて、選択ホイールシリンダCWxに伝達される。このため、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxの変動が低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体を説明するための構成図である。
【
図2】第1ユニットYAの構成例を説明するための概略図である。
【
図3】第2ユニットYBの構成例を説明するための概略図である。
【
図4】オフロード制御での制動液圧Pwの調整方法を説明するためのフロー図である。
【
図5】インレット弁UI、及び、調圧弁UBを説明するための概略図である。
【
図6】変動抑制制御を説明するためのブロック図である。
【
図7】変動抑制制御の動作を説明するための時系列線図である。
【0011】
以下、本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<構成要素の記号等>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された部材、信号、値等の構成要素は同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前輪、後輪の何れに関する要素であるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪に係る要素を、「r」は後輪に係る要素を、夫々示す。例えば、ホイールシリンダCWにおいて、前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWrというように表記される。更に、添字「f」、「r」は省略されることがある。これらが省略される場合には、各記号は、その総称を表す。
【0013】
<制動制御装置SCを搭載した車両JV>
図1の構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体について説明する。車両JVには、加速操作部材AP、制動操作部材BP、操舵操作部材SH、及び、各種センサ(BA等)が備えられる。加速操作部材(例えば、アクセルペダル)APは、運転者が車両JVを加速するとともに、車両JVの速度(車体速度Vx)を制御するために操作する部材である。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)SHは、運転者が車両JVを旋回させるために操作する部材である。
【0014】
車両JVには、以下に列挙される各種センサが備えられる。これらのセンサの検出信号(Ba等)は、後述する制動用のコントローラECU(単に、「制動コントローラ」ともいう)に入力される。
・加速操作部材APの操作量(加速操作量)Aaを検出する加速操作量センサAA、制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Baを検出する制動操作量センサBA、及び、操舵操作部材SHの操作量(操舵操作量であって、例えば、操舵角)Saを検出する操舵操作量センサSA。
・車輪WHの回転速度(車輪速度)Vwを検出する車輪速度センサVW。
・車両JV(特に、車体)において、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYR、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサGY。
【0015】
加えて、後述する各種の自動制動制御の指示を行うため、ダウンヒルアシスト制御用のスイッチXD、クロール制御用のスイッチXC等の各種スイッチが備えられる。これらのスイッチXD、XCは、運転者によって操作される。そして、スイッチXDからの操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御用信号)、及び、スイッチXCからの操作信号Xc(クロール制御用信号)は、制動コントローラECUに入力される。
【0016】
車両JVには、制動装置SX、及び、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されている。
【0017】
制動装置SXには、制動制御装置SCによって発生される制動液圧Pwが供給される。そして、制動装置SXによって、制動液圧Pwに応じて、車輪WHに制動力Fbが発生される。制動装置SXは、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT、及び、ブレーキキャリパCPを含んで構成される。回転部材KTは、車両の車輪WHに固定され、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが設けられる。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCWには、制動制御装置SCから、制動液圧Pwに調整された制動液BFが供給される。制動液圧Pwによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTb(結果、制動力Fb)が発生される。
【0018】
制動制御装置SCは、制動操作部材BPの操作量Baに応じて、実際の制動液圧Pwを調節し、前輪、後輪連絡路HSf、HSrを介して、制動装置SX(特に、ホイールシリンダCW)に制動液圧Pwを供給する。制動制御装置SCは、マスタシリンダCM、流体ユニットHU、及び、制動コントローラECUにて構成される。そして、流体ユニットHUは、2つのユニット(第1、第2ユニット)YA、YBにて構成される。制動制御装置SCの構成要素(第1、第2ユニットYA、YBに含まれる電磁弁、電気モータ等)は、コントローラECUによって制御される。コントローラECUは、信号処理を行うマイクロプロセッサMP、及び、電磁弁、電気モータを駆動する駆動回路DDにて構成される。制動用のコントローラECU、後述する原動機用のコントローラECP、動力伝達用のコントローラECTの夫々は、通信バスBSに接続されている。従って、これらのコントローラの間では、通信バスBSを介して情報(検出値、演算値)が共有されている。例えば、制動コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。車体速度Vxは、通信バスBSを通して、他のコントローラに送信される。コントローラECUには、加速操作量Aa、制動操作量Ba、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy、車輪速度Vw、操作信号Xc(クロール制御用)、操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御用)等が入力される。これら信号に基づいて、制動コントローラECUによって、流体ユニットHUが制御される。制動制御装置SCの詳細については後述する。
【0019】
車両JVには、原動機制御装置GC、及び、動力伝達装置TSが備えられる。車両JVは、4つの車輪WHの全てが駆動輪(駆動トルクTdが伝達されて、駆動力Fdを発生する車輪)である4輪駆動方式の車両である。
【0020】
原動機制御装置GCは、原動機PG、及び、それを制御する原動機用のコントローラECP(単に、「原動機コントローラ」ともいう)にて構成される。原動機PGは、自然界に存在する各種エネルギを機械的な仕事(力学的エネルギ)に変換する装置の総称である。原動機PGとして、内燃機関(ガソリンエンジン)が採用される場合を例に説明する。原動機PGによって、4つの車輪WHを駆動するための動力(駆動トルクTd)が発生される。原動機PGは、原動機コントローラ(エンジンコントローラ)ECPによって制御され、その出力が調整される。詳細には、原動機PGには、スロットル装置TH、燃料噴射装置FI、及び、エンジン回転数センサNEが含まれている。スロットル開度Thはスロットル装置THによって、燃料噴射量Fiは燃料噴射装置FIによって、夫々制御される。そして、回転数センサNEにて検出されるエンジン回転数Neに基づいて、スロットル開度Th、及び、燃料噴射量Fiのうちの少なくとも1つが、原動機コントローラECPによって制御される。その結果、原動機PGの出力が調節される。
【0021】
原動機制御装置GC(特に、原動機PG)の出力(回転動力)は、動力伝達装置TSに入力される。そして、原動機PGの出力は、動力伝達装置TSを介して、4つの車輪WHに伝達され、車輪WHの夫々で駆動力Fdが発生される。動力伝達装置TSは、動力伝達機構TD、及び、それを制御する動力伝達用のコントローラECT(単に、「動力伝達コントローラ」ともいう)を含んでいる。動力伝達機構TDは、主変速機MH、副変速機FH、前輪差動機構DF、中央差動機構DC、及び、後輪差動機構DRにて構成される。主変速機MHは、車両の走行状態に応じて変速を行う自動変速機である。主変速機MHを介して、原動機PGの出力が副変速機FHに入力される。副変速機FHは、4輪駆動用の高速ギヤと低速ギヤとの切り替えを可能にしている。
【0022】
副変速機FHからの出力は、夫々の差動機構DF(前輪差動ギヤ)、DC(中央差動ギヤ)、DR(後輪差動ギヤ)に入力される。前輪駆動トルクTdfは、前輪差動機構DF、及び、前輪ドライブシャフトを介して、左右の前輪WHfに伝達される。また、後輪駆動トルクTdrは、中央差動機構DC、後輪差動機構DR、及び、後輪ドライブシャフトを介して、左右の後輪WHrに伝達される。差動機構DF、DC、DRを介して、原動機PGが発生する動力が、前輪WHf、後輪WHrに伝達されるので、各車輪WHの間の回転速度差(即ち、差動)が許容される。動力伝達機構TDの各構成要素(MH等)は、動力伝達コントローラECTによって制御される。具体的には、動力伝達コントローラECTによって、主変速機MH、副変速機FH、及び、差動機構DF、DC、DRの夫々が制御される。
【0023】
<オフロード制御>
車両JVでは、オフロード制御が実行される。「オフロード制御」は、未舗装路(「オフロード」ともいう)等で車体速度Vxを低速で維持するものである。ここで、オフロード制御は、「ダウンヒルアシスト制御」、及び、「クロール制御」の総称である。ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御は、公知であるため、以下、簡単に説明する。
【0024】
「ダウンヒルアシスト制御」は、「ヒルディセント制御」とも称呼され、降坂路において、運転者が制動操作部材BPを操作しなくても、車体速度Vxが所定車速vd以下で維持されるよう、制動力Fbを調整するものである。ダウンヒルアシスト制御は、運転者が操作するダウンヒルアシスト制御用スイッチXDからの操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御信号)によって指示される。操作信号Xdがオン状態を示している場合、ダウンヒルアシスト制御は実行されるが、操作信号Xdがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXDによって、ダウンヒルアシスト制御の実行の要否が指示されることに加え、ダウンヒルアシスト制御による設定速度vdが指示される。即ち、操作信号Xdには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vdの情報が含まれている。ダウンヒルアシスト制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vdに一致し、維持されるよう、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。
【0025】
「クロール制御」は、上記のダウンヒルアシスト制御を、更に進化させたものである。クロール制御では、加速操作部材(アクセルペダル)AP、及び、制動操作部材(ブレーキペダル)BPが操作されなくても、車体速度Vxが所定の設定車速vcで維持されるよう、制動制御装置SC、及び、原動機制御装置GCによって、制動力Fb、及び、駆動力Fdが制御される。つまり、クロール制御は、下り坂のみならず、上り坂でも作動される。
【0026】
具体的には、クロール制御は、運転者が操作するクロール制御用スイッチXCからの操作信号Xc(クロール制御用のスイッチ信号)によって指示される。操作信号(スイッチ信号)Xcがオン状態を示している場合、クロール制御は実行されるが、操作信号Xcがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXCによって、クロール制御の実行の要否が指示されることに加え、クロール制御による設定速度vcが指示される。即ち、操作信号Xcには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vcの情報が含まれている。そして、クロール制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vcに一致し、維持されるよう、原動機PGの出力が調整されるとともに、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。砂地、ダート、岩石路、泥濘路等では、加速操作部材AP、制動操作部材BPの微妙な操作が必要とされるが、クロール制御によって、該状況での走行が好適に補助される。
【0027】
以上で説明したように、オフロード制御(例えば、ダウンヒルアシスト制御、クロール制御)によって、車輪WHの横滑り等が回避されるので車両JVの安定性が確保された上で、車体速度Vxが一定(極低速vd、vc)に維持されての走行が可能となる。このとき、運転者による加速操作部材AP、制動操作部材BPの操作は必要とされないため、運転者は操舵操作部材SHの操作に集中することができる。即ち、オフロード制御によって、不整地等での走破性が向上される。
【0028】
<第1ユニットYA>
図2の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第1ユニットYAの構成例について説明する。第1ユニットYAは、4つのホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwを増加するための加圧源である。例では、第1ユニットYAは、マスタシリンダCMと一体化されている。そして、前後型の制動系統が採用されている。第1ユニットYAは、マスタシリンダCMを含むアプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUにて構成される。アプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUは、制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUには、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)、車輪速度Vw、アキュムレータ液圧Pc、サーボ液圧Pu、供給液圧Pmが入力され、これら信号に基づいて、入力弁VNの駆動信号Vn、開放弁VRの駆動信号Vr、増圧弁UZの駆動信号Uz、減圧弁UGの駆動信号Ug、蓄圧用電気モータMAの駆動信号Maが演算される。そして、駆動信号「Vn、Vr、Uz、Ug、Ma」に応じて、第1ユニットYAを構成する電磁弁「VN、VR、UZ、UG」、及び、蓄圧用の電気モータMAが制御(駆動)される。
【0029】
後述するように、流体ユニットHU、ホイールシリンダCW等は、連絡路HS、入力路HN、減圧路HG、還流路HKにて接続される。これらは、制動液BFが移動される流体路である。流体路(HS等)としては、流体配管、流体ユニットHU内の流路、ホース等が該当する。
【0030】
≪アプライユニットAU≫
アプライユニットAUは、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM,第1、第2マスタピストンNP、NS、第1、第2マスタばねDP、DS、入力シリンダCN、入力ピストンNN、入力ばねDN、入力弁VN、開放弁VR、ストロークシミュレータSS、及び、シミュレータ液圧センサPSにて構成される。
【0031】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタリザーバRVは、マスタシリンダCM(特に、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr)に接続されている。
【0032】
マスタシリンダCMは、底部を有するシリンダ部材である。マスタシリンダCMの内部には、第1、第2マスタピストンNP、NSが挿入され、その内部が、シール部材SLによって封止されて、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrに分けられている。マスタシリンダCMは、所謂、タンデム型である。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr内には、第1、第2マスタばねDP、DSが設けられる。第1、第2ばねDP、DSによって、第1、第2マスタピストンNP、NSは、後退方向Hb(マスタ室Rmの体積が増加する方向であり、前進方向Haとは逆方向)に押圧されている。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr(=Rm)は、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)、及び、第2ユニットYBを介して、最終的には前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr(=CW)に、夫々接続されている。第1、第2マスタピストンNP、NSが前進方向Ha(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に移動されると、第1ユニットYA(特に、マスタシリンダCM)から第2ユニットYBに対して、液圧Pm(「供給液圧」と称呼され、「前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr」である)の制動液BFが供給される。ここで、前輪供給液圧Pmfと後輪供給液圧Pmrとは等しい。
【0033】
第1マスタピストンNPには、つば部(フランジ)が設けられている。このつば部によって、マスタシリンダCMの内部は、更に、サーボ室Ruと後方室Roとに仕切られている。サーボ室Ruは、第1マスタピストンNPを挟んで、前輪マスタ室Rmfに相対するように配置される。また、後方室Roは、前輪マスタ室Rmfとサーボ室Ruとに挟まれ、それらの間に配置されている。サーボ室Ru、及び、後方室Roも、上記同様に、シール部材SLによって封止されている。
【0034】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定されている。入力シリンダCNの内部には、入力ピストンNNが挿入され、シール部材SLによって封止されて、入力室Rnが形成されている。入力ピストンNNは、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続されている。入力ピストンNNには、つば部(フランジ)が設けられる。このつば部とマスタシリンダCMに対する入力シリンダCNの取付面との間に、入力ばねDNが設けられる。入力ばねDNによって、入力ピストンNNは、後退方向Hbに押圧されている。
【0035】
アプライユニットAUには、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、及び、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrの各液圧室が設けられる。ここで、「液圧室」は、制動液BFが満たされ、シール部材SLによって封止されたチャンバである。夫々の液圧室の体積は、入力ピストンNN、第1、第2マスタピストンNP、NSの移動によって変化される。液圧室の配置においては、マスタシリンダCMの中心軸線Jmに沿って、制動操作部材BPに近い方から、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、前輪マスタ室Rmf、後輪マスタ室Rmrの順で並んでいる。
【0036】
入力室Rnと後方室Roとは、入力路HNを介して接続されている。そして、入力路HNには、入力弁VNが設けられる。入力路HNは、後方室Roと入力弁VNとの間で、開放弁VRを介して、マスタリザーバRVに接続される。入力弁VN、及び、開放弁VRは、開位置(連通状態)と閉位置(遮断状態)とを有する2位置の電磁弁(「オン・オフ弁」ともいう)である。入力弁VNとして常閉型の電磁弁が採用される。開放弁VRとして常開型の電磁弁が採用される。入力弁VN、開放弁VRは、制動コントローラECUからの駆動信号Vn、Vrによって駆動(制御)される。
【0037】
後方室Roには、ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが接続されている。シミュレータSSによって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSSに流入する際に、制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。つまり、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって形成される。
【0038】
シミュレータSSの液圧(シミュレータ液圧であり、入力室Rn、後方室Roの液圧でもある)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。シミュレータ液圧センサPSは、上記の制動操作量センサBAの1つである。シミュレータ液圧Psは、制動操作量Baとして、制動用のコントローラECUに入力される。
【0039】
第1ユニットYAには、シミュレータ液圧センサPSの他に、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び/又は、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPが設けられる。つまり、制動操作量センサBAとしては、シミュレータ液圧センサPS、操作変位センサSP(ストロークセンサ)、及び、操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。従って、制動操作量Baは、シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つである。
【0040】
≪加圧ユニットKU≫
加圧ユニットKUによって、供給液圧Pmが発生され、調整される。加圧ユニットKUは、蓄圧用流体ポンプQA、蓄圧用電気モータMA、アキュムレータAC、アキュムレータ液圧センサPC、加圧シリンダCK、加圧ピストンNK、増圧弁UZ、減圧弁UG、及び、サーボ液圧センサPUにて構成される。
【0041】
加圧ユニットKUには、アキュムレータACを蓄圧するように、蓄圧用の流体ポンプQAが設けられる。蓄圧用流体ポンプQAは、蓄圧用の電気モータMAによって駆動され、マスタリザーバRVから制動液BFを汲み上げる。そして、流体ポンプQAから吐出された制動液BFは、アキュムレータACに蓄えられる。アキュムレータACには、アキュムレータ液圧Pcにまで加圧された制動液BFが蓄えられる。アキュムレータ液圧Pcを検出するよう、アキュムレータ液圧センサPCが設けられる。
【0042】
制動コントローラECUによって、アキュムレータ液圧Pcが所定範囲内に維持されるよう、蓄圧用の電気モータMAが制御される。具体的には、アキュムレータ液圧Pcが、下限値pl未満の場合には、電気モータMAが所定回転数で駆動される。また、アキュムレータ液圧Pcが、上限値pu以上の場合には、電気モータMAは停止される。ここで、下限値pl、及び、上限値puは、予め設定された所定値(定数)であり、「pl<pu」の関係にある。電気モータMAが制御されることによって、アキュムレータ液圧Pcは、下限値plから上限値puの範囲に維持される。
【0043】
加圧ユニットKUには、アキュムレータACからのアキュムレータ液圧Pcを調整して、サーボ室Ruに供給するよう、加圧シリンダCKが設けられる。加圧シリンダCKには、加圧ピストンNKが挿入されている。加圧ピストンNKによって、加圧シリンダCKの内部は、シール部材SLにて封止された、3つの液圧室Rp(パイロット室)、Rv(環状室)、Rk(加圧室)に区画されている。パイロット室Rpと加圧室Rkとは、加圧ピストンNKを挟むように配置される。つまり、パイロット室Rpは、加圧シリンダCKにおいて、加圧ピストンNKに対して加圧室Rkの反対側に位置する。パイロット室Rpには、後述する増圧弁UZ、及び、減圧弁UGによって調節されたパイロット液圧Ppが供給される。
【0044】
加圧ピストンNKの外周部には環状の凹部(くびれ部)が設けられている。この環状凹部と加圧シリンダCKの内周部とによって環状室Rvが形成される。更に、加圧ピストンNKの外周部には、弁体Vv(例えば、スプール弁)が形成されている。そして、この弁体Vvには、アキュムレータACからアキュムレータ液圧Pcに加圧された制動液BFが供給される。弁体Vvによって、アキュムレータ液圧Pcが調圧されて、環状室Rvに導入される。環状室Rvは、加圧ピストンNKに設けられた貫通孔を介して、加圧室Rkと連通されている。従って、環状室Rvの液圧と加圧室Rkの液圧は同一である。該液圧が、「サーボ液圧Pu」と称呼される。
【0045】
具体的には、パイロット室Rpの液圧(パイロット液圧)Ppによって、加圧ピストンNKが移動されると、弁体Vvの開口量が変化する。そして、パイロット液圧Pp(パイロット室Rpの液圧)とサーボ液圧Pu(環状室Rv、加圧室Rkの液圧)とが一致するよう、加圧ピストンNKの弁体Vvを通して、アキュムレータACから制動液BFが供給される。つまり、高圧のアキュムレータ液圧Pcが、弁体Vvによって絞られ、サーボ液圧Puに調節される。実際のサーボ液圧Puを検出するよう、サーボ液圧センサPUが設けられる。検出されたサーボ液圧Puは、制動コントローラECUに入力される。コントローラECUによって、サーボ液圧Puに基づいて、パイロット液圧Ppが調節され、最終的には、サーボ液圧Puが目標値に一致するように制御される。加圧室Rkとサーボ室Ruとは流体路によって接続されているので、サーボ液圧Puに調整された制動液BFが、加圧ユニットKUからサーボ室Ruに供給される。
【0046】
≪第1ユニットYAの作動≫
非制動時(即ち、制動操作部材BPの操作が行われていない場合)には、ピストン「NN、NP、NS」は、ばね「DN、DP、DS」によって押し付けられ、それらの初期位置(最も後退方向Hbに移動された位置)にまで戻されている。この状態では、前輪、後輪マスタ室Rmf、RmrとマスタリザーバRVとは連通状態であって、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmrは「0(大気圧)」である。また、各ピストンの初期位置においては、入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有している。同様に、非制動時には、増圧弁UZは閉弁され、減圧弁UGは開弁されているので、パイロット室RpとマスタリザーバRVとは連通状態にされ、パイロット液圧Ppは「0(大気圧)」である。そして、加圧ピストンNKは、圧縮ばねDKによって、加圧シリンダCKの底部に押圧されていて、弁体Vv(スプール弁)は閉弁されている。加圧室RkとマスタリザーバRVとは連通状態にされているので、サーボ液圧Puも「0」である。更に、非制動時には、入力弁VN、及び、開放弁VRが開弁され、後方室Ro、及び、入力室RnはマスタリザーバRVに連通状態にされているので、これらの内圧Po、Pnも「0」である。即ち、非制動時には、「Pmf=Pmr=Pp=Pu=Po=Pn=0」の状態である。
【0047】
制動時(即ち、制動操作部材BPが操作される場合)には、入力弁VNが開弁され、開放弁VRが閉弁されている。即ち、入力室Rnと後方室Roとが連通状態され、後方室RoとマスタリザーバRVとの連通状態が遮断され、非連通状態にされている。制動操作部材BPの操作量Baの増加に伴い、入力ピストンNNは前進方向Haに移動され、入力室Rnから制動液BFが排出される。この制動液BFは、ストロークシミュレータSSに吸収されるので、入力室Rnの液圧Pn(入力液圧)、及び、後方室Roの液圧Po(後方液圧)が増加され、制動操作部材BPに操作力Fpが発生される。このとき、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)に応じて、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御され、パイロット室Rpの液圧Pp(パイロット液圧)が増加される。パイロット液圧Ppの増加に応じて弁体Vvが開弁され、環状室Rv、及び、加圧室Rkの液圧Pu(サーボ液圧)が増加される。このサーボ液圧Puは、サーボ室Ruに供給されるので、第1マスタピストンNPは前進方向Haに押圧され、前進方向Haに移動される。第1マスタピストンNPの前進方向Haの移動に伴って、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr(=Pm)が増加される。そして、第1ユニットYAによって供給液圧Pmに調節された制動液BFが、第2ユニットYBに対して供給され、最終的にはホイールシリンダCWの制動液圧Pwが増加される。
【0048】
制動制御装置SCは、所謂、ブレーキバイワイヤ型であるため、車両が電動車(例えば、電気自動車、ハイブリッド車)である場合には、回生協調制御が実行される。入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有しているので、サーボ液圧Puが制御されることによって、この隙間の範囲内で、入力ピストンNNと第1、第2マスタピストンNP、NSとの相対的な位置関係が任意に調節可能である。例えば、回生制動による制動力のみが必要な場合には、「Pu=0」にされ、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrからの供給液圧Pmは「0」のままにされる。回転部材KTと摩擦部材との摩擦による制動力は発生されず、制動力Fbは、発電機として機能する駆動用電気モータの回生制動力によってのみ発生される。
【0049】
<第2ユニットYB>
図3の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第2ユニットYBの構成例について説明する。第2ユニットYBは、連絡路HS(制動液BFを移動するための流体路)において、第1ユニットYAとホイールシリンダCWとの間に設けられている。制動制御装置SCは、第2ユニットYBによって、供給液圧Pmを調整(増加、保持、減少)することができる。つまり、第2ユニットYBによって、ホイールシリンダCWの液圧Pwが最終的に調整される。例えば、第2ユニットYBは、アンチロックブレーキ制御(車輪WHのロックを抑制する制御)、トラクション制御(車輪WHの空転を抑制する制御)、及び、車両安定性制御(過度のアンダステア、オーバステアを抑制する制御)に利用される。第2ユニットYBは、供給液圧センサPM、調圧弁UB、還流用の流体ポンプQB、還流用の電気モータMB、調圧リザーバRC、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0050】
第1ユニットYAと同様に、第2ユニットYBも制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUでは、上述した各種信号(Ba等)に基づき、調圧弁UBの駆動信号Ub、インレット弁UIの駆動信号Ui、アウトレット弁VOの駆動信号Vo、還流用電気モータMBの駆動信号Mbが演算される。そして、これらの駆動信号(Ub等)に応じて、第2ユニットYBを構成する電磁弁「UB、UI、VO」、及び、還流用電気モータMBが制御(駆動)される。
【0051】
前輪、後輪調圧弁UBf、UBr(=UB)が、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)に設けられる。調圧弁UB(電磁弁)は、常開型のリニア弁(「差圧弁」、「比例弁」ともいう)である。調圧弁UBの上部(第1ユニットYAに近い側の連絡路HSの部位)と、調圧弁UBの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)とが、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK)にて接続される。還流路HKには、前輪、後輪還流用流体ポンプQBf、QBr(=QB)、及び、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)が設けられる。還流用流体ポンプQBは、還流用電気モータMBによって駆動される。調圧弁UBの上部には、第1ユニットYAによって供給される実際の液圧(供給液圧)Pmを検出するよう、供給液圧センサPMが設けられる。
【0052】
電気モータMBが回転駆動されると、流体ポンプQBは、調圧弁UBの上部から制動液BFを吸い込み、調圧弁UBの下部に制動液BFを吐出する。これにより、連絡路HS、及び、還流路HKには、調圧リザーバRCを含んだ、制動液BFの還流KN(即ち、前輪、後輪還流KNf、KNrであり、循環する制動液BFの流れ)が発生する。調圧弁UBによって制動液BFの還流KNが絞られると、オリフィス効果によって、調圧弁UBの下部の液圧Pq(「調整液圧」という)が、調圧弁UBの上部の液圧Pm(供給液圧)から増加される。つまり、第2ユニットYBによって、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(=Pw)を、供給液圧Pmから増加することが可能である。第2ユニットYBにおいて、還流用電気モータMB、還流用流体ポンプQB、及び、調圧弁UBが、「加圧源KB」と称呼される。
【0053】
第2ユニットYBの内部にて、前輪、後輪連絡路HSf、HSrは、夫々、2つに分岐されて、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに接続される。そして、ホイールシリンダCW毎に、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが設けられる。インレット弁UI(電磁弁)は、調圧弁UBと同様に、常開型のリニア弁である。ただし、調圧弁UBとインレット弁UIとは、開弁する方向が異なる。詳細には、調圧弁UBはホイールシリンダCWからマスタシリンダCMへの制動液BFの流れに対応して開弁するので、調圧弁UBによる調圧では、調整液圧Pqは供給液圧Pm以上である(即ち、「Pq≧Pm」)。一方、インレット弁UIはマスタシリンダCMからホイールシリンダCWへの流れに対応して開弁するので、インレット弁UIによる調圧では、制動液圧Pwは調整液圧Pq以下である(即ち、「Pq≧Pw」)。
【0054】
インレット弁UIは、分岐された連絡路HS(即ち、連絡路HSの分岐部に対してホイールシリンダCWに近い側)に設けられる。連絡路HSは、インレット弁UIの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)にて、減圧路HGを介して、調圧リザーバRCに接続される。そして、減圧路HGには、常閉型のオン・オフ弁であるアウトレット弁VOが配置される。
【0055】
制動液圧Pwが、ホイールシリンダCW毎に別々に調整されるよう、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが個別に制御される。制動液圧Pwを減少するためには、インレット弁UIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRCに流出するので、制動液圧Pwは減少される。制動液圧Pwを増加するためには、インレット弁UIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止され、調圧弁UBからの調整液圧PqがホイールシリンダCWに供給されるので、制動液圧Pwが増加される。制動液圧Pwを保持するためには、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWは流体的に封止されるので、制動液圧Pwが一定に維持される。
【0056】
<オフロード制御での制動液圧Pwの調整>
図4のフロー図を参照して、オフロード制御における制動液圧Pwの調整処理について説明する。上述したように、オフロード制御は、ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御の総称であるが、以下、クロール制御を例に、該処理について説明する。なお、ダウンヒルアシスト制御については、「Xc」を「Xd」に、「vc」を「vd」に、夫々読み替えたものが、該制御の説明に相当する。
【0057】
ステップS110にて、クロール制御用の操作信号Xc、車輪速度Vw、車体速度Vx、サーボ液圧Pu、供給液圧Pm等を含む各種信号が読み込まれる。ここで、車体速度Vxは、車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて、制動コントローラECUにて演算される。また、操作信号Xcには、クロール制御の実行要否に係る信号、及び、クロール制御の設定速度vcの情報が含まれている。
【0058】
ステップS120にて、操作信号(スイッチ信号)Xc等に基づいて、「クロール制御(即ち、オフロード制御)が作動されるか、否か(作動要求の有無)」が判定される。スイッチ信号Xcにてクロール制御の作動が要求されている場合には、ステップS120は肯定され、処理はステップS130に進められる。一方、ステップS120が否定される場合には、処理はステップS110に戻される。
【0059】
ステップS130にて、実際の車体速度Vxと設定速度vc(クロール制御における車体速度Vxの目標値)との偏差hVに基づいて、各ホイールシリンダCWの目標液圧Ptが演算される。即ち、クロール制御では、制動液圧Pwは、ホイールシリンダCW毎に個別に調整される。詳細には、車体速度Vxと設定速度vcとの偏差hVが演算される(即ち、「hV=Vx-vc」)。ここで、設定速度vcは、クロール制御における車体速度Vxの目標値である。速度偏差hVに基づいて、車両全体に作用する制動力(4輪の制動力の合計)の目標値である目標総制動力Fvtが演算される。更に、各輪WHの配分比率Hwが決定され、目標総制動力Fvtに該比率Hwが乗じられて、各車輪WHの制動力Fbの目標値(目標制動力)Fbtが決定される(即ち、「Fbt=Fvt・Hw」)。最終的には、目標制動力Fbtが、制動装置SX、制動制御装置SC等の諸元に基づいて、各ホイールシリンダCWにおける液圧の次元に変換され、制動液圧Pwに対応する目標液圧Ptが演算される。例えば、配分比率Hwは、4つの車輪WHで均一となるよう、「0.25」にされ得る。また、前輪WHfの方の配分比率Hwfが、後輪WHrの配分比率Hwrよりも大きくなるように設定されてもよい。
【0060】
加えて、各車輪WHの目標制動力Fbtの算出には、以下の5つの補正のうちの少なくとも1つが考慮される。そして、補正後の目標制動力Fbtに応じて、最終的な目標液圧Ptが決定される。
(補正1):設定速度vcが小さいほど、前輪WHfへの制動力の配分比率が大きくなるように調整する。
(補正2):設定速度vcが小さい領域(低速領域)に設定された場合に、制動力Fbに下限値fbl(「下限制動力」という)が設定される。そして、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正3):車体速度Vxが設定速度vcを超えている場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正4):駆動力Fdが所定値よりも大きい場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正5):制御中に車両が停止した場合には、停止後の所定時間の間は、制動力の減少に制限が加えられる。
【0061】
ステップS140にて、選択ホイールシリンダCWx、及び、非選択ホイールシリンダCWzが決定される。「選択ホイールシリンダCWx」は、複数の目標液圧Ptのうちの最大値Ptx(「最大目標液圧」ともいう)に対応するホイールシリンダCWである。また、「非選択ホイールシリンダCWz」は、ホイールシリンダCWのうちで、選択ホイールシリンダCWx以外のホイールシリンダCWである。つまり、車両JVの車輪WHに備えられる4つのホイールシリンダCWのうちの1つが選択ホイールシリンダCWxであり、残りの3つが非選択ホイールシリンダCWzである。
【0062】
以下の説明では、ホイールシリンダCWに係るもののうちで、添字「x」が選択ホイールシリンダCWxに対応するものであることを、添字「z」が非選択ホイールシリンダCWzに対応するものであることを、夫々表す。従って、4つの実際の制動液圧Pwのうちで、選択ホイールシリンダCWxの実液圧が「選択制動液圧Pwx」と、非選択ホイールシリンダCWzの実液圧が「非選択制動液圧Pwz」と、夫々称呼される。また、4つの目標液圧Ptのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当するものが、「非選択目標液圧Ptz」と称呼される。なお、最大目標液圧Ptx(選択ホイールシリンダに該当する目標液圧)は、目標液圧Ptの最大値であるので、非選択目標液圧Ptz(結果、実際の非選択制動液圧Pwz)と最大目標液圧Ptx(結果、実際の選択制動液圧Pwx)との大小関係は、「Ptz≦Ptx、Pwz≦Pwx」である。
【0063】
4つのホイールシリンダCWの夫々に対応して設けられる構成要素でも、選択ホイールシリンダCWxに該当する要素に添字「x」が付与され、非選択ホイールシリンダCWzに該当する要素(つまり、選択ホイールシリンダCWxに非該当の要素)に添字「z」が付与される。例えば、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにおいて、選択ホイールシリンダCWxに対応する各構成要素は、「選択インレット弁UIx」、及び、「選択アウトレット弁VOx」と称呼される。一方、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当する各構成要素は、「非選択インレット弁UIz」、及び、「非選択アウトレット弁VOz」と称呼される。
【0064】
更に、制動制御装置SCでは、2系統の制動流体路が採用されるが、選択ホイールシリンダCWxを含む系統の構成要素に添字「x」が付され、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統の構成要素に添字「z」が付される。例えば、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含む系統に属する各構成要素は、「選択連絡路HSx」、「選択調圧弁UBx」、「選択調圧リザーバRCx」、及び、「選択流体ポンプQBx」と称呼される。一方、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統に属する各構成要素は、「非選択連絡路HSz」、「非選択調圧弁UBz」、「非選択調圧リザーバRCz」、及び、「非選択流体ポンプQBz」と称呼される。
【0065】
ステップS150にて、最大目標液圧Ptx(4つの目標液圧Ptのうちの最大値)に基づいて、選択制動液圧Pwx(選択ホイールシリンダCWxの実際の液圧)が調整される。選択制動液圧Pwxは、第1ユニットYAが制御されることによって達成される。つまり、実際の選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに一致するように、第1ユニットYAの加圧ユニットKUが制御(駆動)される。詳細には、最大目標液圧Ptxに対応するサーボ液圧Puの目標値Pv(「目標サーボ液圧」ともいう)が演算され、実際のサーボ液圧Pu(サーボ液圧センサPUの検出値)が、目標サーボ液圧Pv(目標値)に一致するように、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御(所謂、液圧フィードバック制御)される。選択ホイールシリンダCWxにおいては、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOは非通電状態であり、それらは完全に開弁された状態(即ち、開弁量が最大の状態)にある。このため、選択制動液圧Pwxは、供給液圧Pmに一致している。
【0066】
ステップS160にて、非選択ホイールシリンダCWzの目標液圧Ptzに基づいて、非選択制動液圧Pwz(非選択ホイールシリンダCWzの実際の液圧)が調整される。非選択制動液圧Pwzは、第2ユニットYBにおいて、インレット弁UIz(「非選択インレット弁」という)、及び、アウトレット弁VOz(「非選択アウトレット弁」という)が制御されることによって達成される。つまり、実際の非選択制動液圧Pwzが、非選択ホイールシリンダCWzの非選択目標液圧Ptzに一致するように、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが制御(駆動)される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整では、第1ユニットYAが加圧源とされている。従って、第2ユニットYBでは、第1ユニットYAからの供給液圧Pmを基にして、液圧調整が行われる。
【0067】
詳細には、非選択制動液圧Pwzの調整には、「減少モード」、「増加モード」、及び、「保持モード」の3つの制御モードのうちの1つが選択される。減少モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの減少が必要な場合には、非選択インレット弁UIzが閉弁され、非選択アウトレット弁VOzが開弁される。非選択インレット弁UIzの上部(第1ユニットYAに近い側)には、最大目標液圧Ptxに対応した供給液圧Pmが供給されるが、非選択インレット弁UIzは閉弁されるので、この供給が阻止される。そして、非選択アウトレット弁VOzが開弁されるので、非選択ホイールシリンダCWz内の制動液BFは、調圧リザーバRCに流出し、非選択制動液圧Pwzは減少される。
【0068】
増加モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの増加が必要な場合には、非選択アウトレット弁VOzが閉弁され、非選択インレット弁UIzが開弁される。非選択アウトレット弁VOzの閉弁によって、制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止される。そして、非選択インレット弁UIzを通して、供給液圧Pmが非選択ホイールシリンダCWzに供給されるので、制動液圧Pwzは増加される。なお、非選択制動液圧Pwzの調節では、第1ユニットYAが発生する供給液圧Pm(=Pwx)が基にされているため、非選択制動液圧Pwzの上限は、選択制動液圧Pwxである(即ち、「Pwz≦Pwx」)。
【0069】
保持モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの保持が必要な場合には、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが共に閉弁される。非選択ホイールシリンダCWzは、流体的に封止されるので、非選択制動液圧Pwzは一定に維持される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整において、保持モードは省略されてもよい。この場合、減少モードと増加モードとが繰り返されることによって、非選択ホイールシリンダCWzの制動液圧Pwzが調整される。
【0070】
ステップS170にて、還流用の電気モータMBが駆動される。非選択制動液圧Pwzの調整(特に、減少モード)では、制動液BFが調圧リザーバRCに流出されることによって減圧が行われるが、調圧リザーバRC内に溜まった制動液BFを調圧弁UBとインレット弁UIとの間の連絡路HSに戻すよう、還流用電気モータMBによって還流用流体ポンプQBが回転される。
【0071】
ステップS170では、電気モータMBの発熱を抑制するよう、調圧リザーバRC内の制動液BFの量(「リザーバ液量Ec」という)に基づいて、電気モータMBの駆動/停止が行われてもよい。具体的には、リザーバ液量Ecが所定液量ex未満の場合には、電気モータMBは停止される。そして、リザーバ液量Ecが所定液量ex以上の場合に、電気モータMBに通電が行われ、流体ポンプQBが駆動される。ここで、所定液量exは、予め設定された所定値(定数)である。なお、リザーバ液量Ecは、アウトレット弁VOzの駆動状態(例えば、開弁時間)、電気モータMBの駆動状態等に基づいて推定される。
【0072】
<インレット弁UI、及び、調圧弁UBの構造等>
図5(a)(b)を参照して、インレット弁UI、及び、調圧弁UBについて説明する。インレット弁UI、及び、調圧弁UBは、常開型のリニア弁(電磁弁)であり、制動コントローラECUによって制御される。
【0073】
≪インレット弁UIの構造≫
先ず、
図5(a)の概略図を参照して、インレット弁UIの構造について説明する。インレット弁UIでは、通電量Ii(例えば、電流値)が増加されるに従って、開弁量(リフト量)Liが減少される。インレット弁UIは、ソレノイドSD、弁体VT、ガイド部材GD、保持部材HJ、及び、ばね部材SBにて構成される。
【0074】
ソレノイドSDは、固定コイルCL、及び、プランジャ(可動鉄心)PLにて構成される。固定コイルCLは、インレット弁UIのハウジング(例えば、ガイド部材GD)に固定される。プランジャPLには、弁体VTが固定される。弁体VTの先端部Vtは、球状に形成(加工)されている。インレット弁UIでは、球状先端部Vtと、後述の保持部材HJに円錐形状に形成(加工)された弁座Vzとの間の隙間(即ち、開弁量)Liが、固定コイルCLへの通電量(電流値)に応じてリニアに制御される。このリニア制御では、固定コイルCLに電流を流した際に、プランジャPLが固定コイルCL内に引き込まれる力Ca(図中で下向きの推力であり、「吸引力」という)が利用される。
【0075】
ガイド部材GDには、直径が異なる2つの孔が設けられる。2つの孔のうち直径が小さい方が「ガイド孔Ag」と称呼され、直径が大きい方が「封止孔Af」と称呼される。弁体VTが、その中心軸線Jvの沿って円滑に移動可能なように、ガイド部材GDのガイド孔Agに挿入される。ガイド部材GDにおいて、プランジャPLの側とは反対側に位置する封止孔Afは、保持部材HJによって封止される。具体的には、封止孔Afの円筒形状の内周部に保持部材HJが圧入される。
【0076】
ガイド部材GDの封止孔Afの内周部、保持部材HJの端面、及び、弁体VTにて、弁室Rzが形成される。保持部材HJにおいて、弁室Rzの側の端面には、円錐形状の弁座Vzが形成されている。ここで、弁座Vzの円錐面は、連絡路HSにおいて、ホイールシリンダCWの方を向いている。弁座Vzの中央部には、流入孔Aiが設けられる。流入孔Aiには、調圧弁UBによって調整液圧Pqに調節された制動液BFが供給される。流入孔Aiは、還流路HKを介して、還流用流体ポンプQBに接続される。保持部材HJには、弁室Rzの側から、還流用流体ポンプQBの側には、制動液BFが移動可能なように、逆止弁が設けられる。
【0077】
保持部材HJと弁体VTとの間には、弁体VTをプランジャPLの側に押圧するように、ばね部材SB(例えば、圧縮コイルばね)が設けられる。ばね部材SBによって、弁体VTは、プランジャPLの側に、弾性力Cs(図中で上向きの推力)にて押されている。ここで、プランジャPL、弁体VT(先端部Vt)、ばね部材SB、弁座Vz、及び、流入孔Aiは、中心軸線Jv上に同軸で配置されている。従って、吸引力Caと弾性力Csとは、中心軸線Jv上で対抗している。
【0078】
弁室Rzを形成する封止孔Afの内周部には、流出孔Aoが設けられる。流出孔Aoは、連絡路HSを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。流出孔Aoからは、インレット弁UI(即ち、先端部Vt、及び、弁座Vzの隙間Li)によって制動液圧Pwに調整された制動液BFが、ホイールシリンダCWに供給される。連絡路HSにおいて、流出孔AoとホイールシリンダCWとの間は、減圧路HG、及び、アウトレット弁VOを介して、還流用流体ポンプQBに接続される。減圧路HGにおいて、アウトレット弁VOと還流用流体ポンプQBとの間には、調圧リザーバRCが接続される。
【0079】
固定コイルCLへの通電が停止されている場合(即ち、「Ii=0」の状態)には、吸引力Caは発生されず、弁体VTは、弾性力Csによって、ソレノイドSD(プランジャPL、固定コイルCL)の側に押圧されている。従って、弁体VTの先端部Vtは、弁座Vzから離れている。即ち、インレット弁UIは完全に開弁している。
【0080】
固定コイルCLに通電が行われると、吸引力Caが発生される。この吸引力Caによって、弁体VTの先端部Vtが、弁座Vzの方向に押圧され、インレット弁UIは閉弁されようとする。このとき、弁体VTには、弾性力Csに加え、制動液BFが、調圧弁UBからホイールシリンダCWの側に流入しようとする力(
図5(a)で上向きの推力であり、「流体力」という)Cbが作用する。インレット弁UIでは、流体力Cbと弾性力Csとの合力Cgと、吸引力Caとが均衡した状態で、調圧弁UBの側の液圧(調整液圧)Pqと、ホイールシリンダCWの側の液圧(制動液圧)Pwとの差wQ(差圧)が決まる。換言すれば、インレット弁UIへの通電量Iiと、液圧差wQ(=Pq-Pw)との関係は一義的に定まる。
【0081】
≪調圧弁UBの構造≫
次に、
図5(a)を参照して、調圧弁UBの構造について説明する。
図5(a)において、[ ]にて記載された記号が、調圧弁UBの説明に対応している。インレット弁UIと同様に、調圧弁UBでも、通電量Ib(例えば、電流値)が増加されるに従って、開弁量Lb(調圧弁UBにおける弁座Vzと弁体先端部Vtとの隙間)が減少される。調圧弁UBの構造は、基本的に、インレット弁UIと同じである。調圧弁UBとインレット弁UIとの相違点は、流体路における接続方法である。以下、この相違点について、簡単に説明する。
【0082】
インレット弁UIの流入孔Aiは、調圧弁UBに接続されるが、調圧弁UBの流入孔Aiは、インレット弁UIに接続される。従って、インレット弁UIの流入孔Aiと調圧弁UBの流入孔Aiとは、連絡路HSを介して接続されている。インレット弁UIの流出孔Aoは、ホイールシリンダCWに接続されるが、調圧弁UBの流入孔Aiは、マスタシリンダCMに接続される。従って、調圧弁UBでは、吸引力Caと合力Cg(=Cb+Cs)とが均衡した状態で、インレット弁UIの側の液圧(調整液圧)Pqと、マスタシリンダCMの側の液圧(供給液圧)Pmとの差mQ(差圧)が決まる。換言すれば、調圧弁UBへの通電量Ibと、液圧差mQ(=Pq-Pm)との関係は一義的に定まる。なお、インレット弁UIの弁座円錐面Vzは、ホイールシリンダCWの方向を向いているが、調圧弁UBの弁座円錐面Vzは、マスタシリンダCMの方向を向いている。このことから、供給液圧Pm、調整液圧Pq、及び、制動液圧Pwの大小関係が定まる。
【0083】
≪供給液圧Pm、調整液圧Pq、及び、制動液圧Pwの大小関係≫
図5(b)の概略図(部分的な液圧回路図)を参照して、供給液圧Pm、調整液圧Pq、及び、制動液圧Pwの大小関係(即ち、液圧が生じ得る範囲)について説明する。上述したように、第1ユニットYAのマスタシリンダCMとホイールシリンダCWとは、連絡路HSを介して接続されている。連絡路HSには、ホイールシリンダCWから近い順に、インレット弁UI、調圧弁UBが配置されている。つまり、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間において、連絡路HSにインレット弁UIが設けられる。そして、マスタシリンダCMとインレット弁UIとの間において、連絡路HSに調圧弁UBが設けられる。
【0084】
供給液圧Pm、調整液圧Pq、及び、制動液圧Pwの大小関係は、インレット弁UI、及び、調圧弁UBにおいて、吸引力Caが作用する方向に依存する。具体的には、インレット弁UIでは、弁座面Vz(円錐面)が、連絡路HSにおいて、ホイールシリンダCWの方向に向いている。そして、インレット弁UIの吸引力Caによって、弁体先端部Vtが弁座Vzに対して押圧される。つまり、インレット弁UIの吸引力Caは、マスタシリンダCMの側から、ホイールシリンダCWの側への制動液BFの流れに応じた流体力Cbに対抗する方向に発生される。このため、インレット弁UIに通電が行われている状態では、インレット弁UIに対してマスタシリンダCM側の液圧Pq(調圧弁UBとインレット弁UIとの間の調整液圧)は、常時、インレット弁UIに対してホイールシリンダCW側の液圧(制動液圧)Pw以上である(即ち、「Pq≧Pw」)。換言すれば、インレット弁UIによって、制動液圧Pwは、調整液圧Pq以下の範囲で調整され得る。なお、インレット弁UIは、常開型であるので、「Ii=0」によって、インレット弁UIは完全に開弁される。即ち、「Ii=0」の状態で、インレット弁UIの開弁量Liが最大になり、「Pw=Pq」になる)。
【0085】
調圧弁UBでは、弁座面Vz(円錐面)が、連絡路HSにおいて、マスタシリンダCMの方向に向いている。調圧弁UBでは、弁座Vzの向きにおいて、インレット弁UIとは反対であるため、調圧弁UBの吸引力Caは、ホイールシリンダCWの側から、マスタシリンダCMの側への制動液BFの流れに応じた流体力Cbに対抗する方向に発生される。このため、調圧弁UBに通電が行われている状態では、調圧弁UBに対してホイールシリンダCW側の液圧Pq(調圧弁UBとインレット弁UIとの間の調整液圧)は、常時、調圧弁UBに対してマスタシリンダCM側の液圧(供給液圧)Pm以上である(即ち、「Pq≧Pm」)。換言すれば、調圧弁UBによって、調整液圧Pqは、供給液圧Pm以上の範囲で調整され得る。なお、調圧弁UBも、インレット弁UIと同様に、常開型であるので、「Ib=0」によって、調圧弁UBは完全に開弁される。即ち、「Ib=0」の状態で、調圧弁UBの開弁量Lbが最大になり、「Pw=Pq」になる。
【0086】
<変動抑制制御の処理>
図6のブロック図を参照して、変動抑制制御の演算処理について説明する。「変動抑制制御」は、選択ホイールシリンダCWxにおける選択制動液圧Pwxの変動を抑制するものである。変動抑制制御のアルゴリズムは、制動コントローラECUのマイクロプロセッサMPにプログラムされている。以下の変動抑制制御に係る説明は、選択ホイールシリンダCWx(最大目標液圧Ptxに対応するホイールシリンダCW)を対象としている。従って、特に記載がない場合には、「CW」は「CWx」を、「Pw」は「Pwx」を、「Pq」は「Pqx」を、「UI」は「UIx」を、「UB」は「UBx」を、「Iit」は「Iitx」を、「Ii」は「Iix」を、「Ibt」は「Ibtx」を、「Ib」は「Ibx」を、「II」は「IIx」を、「IB」は「IBx」を、夫々表している。
【0087】
先ず、選択制動液圧Pwxに変動が発生する原因について説明する。上述したように、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxは、第1ユニットYA(特に、加圧ユニットKU)によって増加、減少される。具体的には、第1ユニットYAによって発生された供給液圧Pmが、選択制動液圧Pwxとして、選択ホイールシリンダCWxに供給される。一方、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzは、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整される。非選択制動液圧Pwzが制御される際には、流体路(HS等)内において制動液BFの量(液量)の変動が発生する。具体的には、非選択制動液圧Pwzの増加が必要な場合には、非選択インレット弁UIzは開弁され、非選択ホイールシリンダCWzに制動液BFが移動される。非選択制動液圧Pwzの保持が必要な場合には、非選択インレット弁UIz、非選択アウトレット弁VOzは共に閉弁されるため、非選択ホイールシリンダCWzに制動液BFは消費されない。非選択制動液圧Pwzの減少が必要な場合には、非選択インレット弁UIzが閉弁され、非選択アウトレット弁VOzが開弁されるため、制動液BFは非選択ホイールシリンダCWzから調圧リザーバRCに移動される。更に、調圧リザーバRC内の制動液BFの量(リザーバ液量)Ecが大きくなると、電気モータMBが駆動され、制動液BFは、流体ポンプQBによって、調圧弁UBとインレット弁UIとの間に戻される。このように、選択ホイールシリンダCWxに係る連絡路HSxにおいては、供給液圧Pm(=Pwx)を調整するため以外に、制動液BFの液量変化が、外乱として発生する。この液量変化に起因して、供給液圧Pm(結果、選択制動液圧Pwx)に変動が生じる。変動抑制制御は、選択制動液圧Pwxにおける液圧変動を抑制するものである。
【0088】
変動抑制制御は、液圧偏差演算ブロックHP、インレット弁UIに係る目標通電量演算ブロックIIT、調圧弁UBに係る目標通電量演算ブロックIBT、及び、通電量フィードバック制御ブロックIFBにて構成される。
【0089】
液圧偏差演算ブロックHPにて、供給液圧Pmと最大目標液圧Ptxとの偏差hPが演算される。具体的には、液圧偏差hPは、供給液圧Pm(供給液圧センサPMの検出値)から、最大目標液圧Ptxが減算されることによって決定される状態量(状態変数)である(即ち、「hP=Pm-Ptx」)。液圧偏差hPが正符号である場合(つまり、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも大きい場合)には、液圧偏差hPは、インレット弁UIに係る目標通電量演算ブロックIITに入力される。逆に、液圧偏差hPが負符号である場合(つまり、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも小さい場合)には、液圧偏差hPは、調圧弁UBに係る目標通電量演算ブロックIBTに入力される。
【0090】
インレット弁UIに係る目標通電量演算ブロックIIT(「第1目標通電量演算ブロック」ともいう)にて、液圧偏差hPの大きさ(絶対値)|hP|に基づいて、インレット弁UIの目標通電量Iit(「第1目標通電量」ともいう)が演算される。第1目標通電量Iitは、インレット弁UIによって、制動液圧Pwを調整液圧Pqから減少調整して、実際の選択制動液圧Pwxを最大目標液圧Ptxに近付けるための、実際の通電量Ii(「第1通電量」ともいう)に対応する目標値である。詳細には、第1目標通電量演算ブロックIITには、インレット弁UIのIP特性(通電量Iiと液圧差wQとの関係を表す既知の特性)が、演算マップZiiとして、予め設定されている。そして、演算マップZiiに応じて、液圧偏差hPの大きさ|hP|が大きいほど、目標通電量Iitが大きくなるように演算される。換言すれば、目標通電量Iitは、最大目標液圧Ptxに対する選択制動液圧Pwxの過剰分を補償するよう、液圧偏差hPに相当する分の液圧差wQ(調整液圧Pqと制動液圧Pwとの差)を発生させるための目標値である。なお、インレット弁UIに係る第1目標通電量演算ブロックIITでは、調圧弁UBは、調整液圧Pqを供給液圧Pmから減少させることはできないので、調圧弁UBに係る目標通電量Ibtは「0(非通電)」に決定される。
【0091】
調圧弁UBに係る目標通電量演算ブロックIBT(「第2目標通電量演算ブロック」ともいう)にて、液圧偏差hPの大きさ(絶対値)|hP|に基づいて、調圧弁UBの目標通電量Ibt(「第2目標通電量」ともいう)が演算される。第2目標通電量Ibtは、調圧弁UBによって、調整液圧Pqを供給液圧Pmから増加調整して、実際の選択制動液圧Pwxを最大目標液圧Ptxに近付けるための、実際の通電量Ib(「第2通電量」ともいう)に対応する目標値である。詳細には、第2目標通電量演算ブロックIBTには、調圧弁UBのIP特性(通電量Ibと液圧差mQとの関係を表す既知の特性)が、演算マップZibとして、予め設定されている。そして、演算マップZibに応じて、液圧偏差hPの大きさ|hP|が大きいほど、目標通電量Ibtが大きくなるように演算される。換言すれば、目標通電量Ibtは、最大目標液圧Ptxに対する選択制動液圧Pwxの不足分を補償するよう、液圧偏差hPに相当する分の液圧差mQ(調整液圧Pqと供給液圧Pmとの差)を発生させるための目標値である。なお、調圧弁UBに係る第2目標通電量演算ブロックIBTでは、インレット弁UIは、調整液圧Pqを増加させることはできないので、インレット弁UIに係る目標通電量Iitは「0(非通電)」に決定される。
【0092】
通電量フィードバック制御ブロックIFBにて、第1、第2目標通電量Ibt、Iitに基づいて、通電量フィードバック制御が実行され、インレット弁UI、及び、調圧弁UBに電力が供給される。駆動回路DDには、インレット弁UI、及び、調圧弁UBの実際の第1、第2通電量Ii、Ibを検出するよう、第1、第2通電量センサ(例えば、電流センサ)II、IBが設けられている。そして、インレット弁UI、調圧弁UBへの給電に際して、駆動回路DDの通電量フィードバック制御ブロックIFBでは、実際の第1、第2通電量Ii、Ib(第1、第2通電量センサII、IBの検出値)が、第1、第2目標通電量Iit、Ibtに一致するよう、通電量フィードバック制御が実行される。
【0093】
調圧弁UBには、供給液圧Pmが供給されるが、調圧弁UBは、供給液圧Pm以上の範囲で、調整液圧Pqを調整することができる。また、インレット弁UIには、調整液圧Pqが供給されるが、インレット弁UIは、調整液圧Pq以下の範囲で、制動液圧Pwを調整することができる。供給液圧Pmが、最大目標液圧Ptxよりも大きい場合には、供給液圧Pmの増加は不要である。このため、調圧弁UBには給電が行われず、調圧弁UBが完全に開弁され、「Pm=Pq」の状態にされる。そして、インレット弁UIによって、選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに一致するよう、供給液圧Pm(=Pq)から減少される。供給液圧Pmにおいて、最大目標液圧Ptxに対する余剰液圧成分(即ち、正符号の液圧偏差hP)が補償されて、補償後の液圧が、選択制動液圧Pwxとして選択ホイールシリンダCWxに供給される。
【0094】
供給液圧Pmが、最大目標液圧Ptxよりも小さい場合には、供給液圧Pmの減少は不要なので、インレット弁UIには給電が行われず、インレット弁UIが完全に開弁され、「Pq=Pw」の状態にされる。そして、調圧弁UBによって、制動液圧Pw(=Pq)が、最大目標液圧Ptxに一致するよう、供給液圧Pmから増加される。供給液圧Pmにおいて、最大目標液圧Ptxに対する不足液圧成分(即ち、負符号の液圧偏差hP)が補償されて、補償後の液圧が、選択制動液圧Pwxとして選択ホイールシリンダCWxに供給される。
【0095】
以上で説明したように、変動抑制制御では、供給液圧Pmの変動は抑制されない。しかしながら、供給液圧Pmが選択制動液圧Pwxとして、選択ホイールシリンダCWxに伝達される際に、液圧偏差hPに基づくインレット弁UI、調圧弁UBの開弁量Li、Lbの調整(即ち、インレット弁UI、調圧弁UBへの実際の第1、第2通電量Ii、Ibの調整)によって、最大目標液圧Ptxに対する過不足分が補償されるので、選択制動液圧Pwxの液圧変動が低減される。結果、選択ホイールシリンダCWxでは、供給液圧Pmの変動影響が低減されているので、選択制動液圧Pwxの制御精度が高まり、オフロード制御の性能が向上される。
【0096】
<変動抑制制御の動作>
図7の時系列線図(時間Tの遷移に伴う状態量の変化を表す線図)を参照して、変動抑制制御の動作について説明する。
図7の上段は、最大目標液圧Ptx(一点鎖線で示す)、供給液圧Pm(実線で示す)、及び、選択制動液圧Pwx(破線で示す)を表している。
【0097】
時点t1の直前にて、供給液圧Pmは最大目標液圧Ptxに略一致している。その後、供給液圧Pmの変動により、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも大きくなり、供給液圧Pmと最大目標液圧Ptxとの偏差hP(=Pm-Ptx)が発生し始める。時点t1にて、液圧偏差hPが、変動抑制制御の不感帯(制御のハンチングを抑制するための領域であり、所定の制御しきい値)を超えると、選択インレット弁UIxによって、供給液圧Pmの変動が抑制される。具体的には、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも大きく、液圧偏差hPは正符号であるため、選択調圧弁UBxには通電されず、選択インレット弁UIxが、液圧偏差hPに基づいて演算された第1目標通電量Iitに応じて駆動される。ここで、選択調圧弁UBxは、2つの調圧弁UBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含む連絡路HSxに設けられている1つの調圧弁UBである。また、選択インレット弁UIxは、4つのインレット弁UIのうちで、選択ホイールシリンダCWxに対応している1つのインレット弁UIである。供給液圧Pmが、選択インレット弁UIxによって減少して調整されるため、選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに近付き、一致するように制御される。時点t2にて、液圧偏差hPは、制御しきい値未満になり、上記不感帯に入るため、通電されていた選択インレット弁UIxの駆動は停止される。
【0098】
時点t3の後に、供給液圧Pmの変動により、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも小さくなり、供給液圧Pmと最大目標液圧Ptxとの偏差hP(=Pm-Ptx)が発生し始める。時点t3にて、液圧偏差hPが、変動抑制制御の不感帯を超えると、今度は、選択調圧弁UBxによって、供給液圧Pmの変動が抑制される。具体的には、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも小さく、液圧偏差hPは負符号であるため、選択インレット弁UIxには通電されず、選択調圧弁UBxが、液圧偏差hPに基づいて演算された第2目標通電量Ibtに応じて駆動される。これにより、供給液圧Pmが、選択調圧弁UBxによって増加して調整されるため、選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに近付き、一致するように制御される。時点t4にて、液圧偏差hPは、上記不感帯に入るため、選択調圧弁UBxの駆動は停止される。
【0099】
時点t4以降、「Pm>Ptx」で、液圧偏差hPが不感帯(所定のしきい値)を超過する場合には、選択インレット弁UIxが作動(通電)され、選択調圧弁UBxが非作動(非通電)にされることによって、供給液圧Pmが減少調整されて、選択制動液圧Pwxの変動が抑制される(時点t5~t6を参照)。一方、「Pm<Ptx」で、液圧偏差hPが不感帯(所定のしきい値)を超過する場合には、選択調圧弁UBxが作動(通電)され、選択インレット弁UIxが非作動(非通電)にされることによって、供給液圧Pmが増加調整されて、選択制動液圧Pwxの変動が抑制される(時点t7~t8を参照)。
【0100】
マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに至る連絡路HSでは、非選択ホイールシリンダCWzに消費される制動液BFの量の変化に起因して、液圧変動(特に、供給液圧Pmの変動)が発生する。変動抑制制御では、液圧偏差hPに基づいて、選択調圧弁UBxにて供給液圧Pmが増加されるとともに、選択インレット弁UIxにて供給液圧Pmが減少される。供給液圧Pmの変動が、そのまま、選択ホイールシリンダCWxに伝達されるのではなく、選択インレット弁UIx、選択調圧弁UBxによって減衰されて、選択ホイールシリンダCWxに伝達される。結果、選択制動液圧Pwxは、最大目標液圧Ptxに近付き、一致するように調整される。選択ホイールシリンダCWxの制動液圧Pwxは、基本的には、第1ユニットYA(即ち、供給液圧Pm)によって調節(増減)されるが、変動抑制制御に応じて、選択インレット弁UIx、選択調圧弁UBxによって、更に調整される。変動抑制制御により、選択ホイールシリンダCWxにおける調圧精度が向上されるため、オフロード制御の性能向上が達成され得る。
【0101】
制動制御装置SCでは、ステップS170にて説明したように、リザーバ液圧Ecに基づいて、電気モータMBの駆動/停止が行われる。供給液圧Pmの変動は、制動液BFの液量変化に起因するが、該変化は、電気モータMB(即ち、流体ポンプQB)の駆動の開始時/停止時に生じ易い。従って、電気モータMBの停止は、電気モータMBの発熱抑制に必要ではあるが、液圧変動の要因になるため、通常(変動抑制制御が適用されない場合)は頻繁に行うべきではない。しかしながら、変動抑制制御が適用されることによって、供給液圧Pmの変動は抑制できるため、電気モータMBの停止が積極的に行われ得る。即ち、変動抑制制御は、電気モータMBの発熱抑制につながる効果も有する。
【0102】
<他の実施形態>
以下、制動制御装置SCの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果(即ち、加圧源である第1ユニットYAからの供給液圧Pmの変動に起因するホイールシリンダCWの液圧Pwの変動抑制)を奏する。
【0103】
≪電動シリンダ型加圧源の採用≫
上記の実施形態では、第1ユニットYA(加圧源)として、アキュムレータACに蓄えられたアキュムレータ液圧Pcが利用された。これに代えて、電気モータによって、シリンダに挿入されたピストンが直接駆動されることで制動液圧Pwが増加されてもよい。所謂、電動シリンダ型のものが、第1ユニットYAとして採用され得る。電動シリンダ型の構成は、例えば、「WO2012/046703」等で公知であるので、以下、該構成について簡略に説明する。電動シリンダ型の第1ユニットYAは、調圧シリンダ、調圧ピストン、直動変換機構、及び、電気モータにて構成される。
【0104】
マスタシリンダCMとは別に、調圧シリンダ(「スレーブシリンダ」ともいう)が設けられる。調圧シリンダは、マスタシリンダCMと同様の構成であって、例えば、タンデム型シリンダである。調圧シリンダには、2つの調圧ピストンが、弾性体(圧縮ばね)を介して挿入されている。2つの調圧ピストンのうちの1つは、直動変換機構(例えば、ねじ機構)を介して電気モータに接続される。ここで、直動変換機構は、電気モータの回転動力を、調圧ピストンの直線動力(推力)に変換するものである。
【0105】
電気モータによって、調圧ピストンが駆動される。詳細には、電気モータが回転されると、その動力が、直動変換機構によって、調圧ピストンの直線動力に変換される。調圧シリンダ内は、2つの調圧ピストン、及び、シール部材によって、2つの調圧室に仕切られている。2つの調圧室は、連絡路HS、及び、第2ユニットYBを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。従って、電気モータが駆動されると調圧室の体積が減少されるので、調圧室から、ホイールシリンダCWに制動液BFが、供給液圧Pmで圧送される。つまり、電動シリンダ型の第1ユニットYAでは、電磁弁UZ、UGが用いられることなく、電気モータの出力調整によって、供給液圧Pmが直接的に制御(調整)される。該構成では、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、電気モータによって制御される。そして、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzが、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整される。
【0106】
≪車両安定性制御等への適用≫
上記の実施形態では、変動抑制制御がオフロード制御に適用された。変動抑制制御は、オフロード制御だけではなく、車両安定性制御等の各車輪WHのホイールシリンダCWにて、個別に制動液圧Pwが調整される制御に適用され得る。車両安定性制御(「横滑り防止制御」ともいう)は、ヨーレイトYr、横加速度Gy等に基づいて、車両JVの不安定な状況(具体的には、オーバステア挙動、アンダステア挙動)を抑制する公知の制御である。例えば、車両安定性制御において、オーバステア挙動が抑制される場合には、車両の旋回外側に位置する車輪に備えられたホイールシリンダCWが、選択ホイールシリンダCWxとして決定される。そして、選択ホイールシリンダCWxの制動液圧Pwxが、第1ユニットYAによって調整される。一方、選択ホイールシリンダCWxに該当しない非選択ホイールシリンダCWzの制動液圧Pwzは、第2ユニットYB(特に、インレット弁UI、アウトレット弁VO)によって調整される。車両安定性制御においても、オフロード制御と同様に、第1ユニットYAから供給される液圧Pmは変動するが、該変動は、上記の変動抑制制御(液圧偏差hPに基づくインレット弁UI、調圧弁UBの制御)によって低減され得る。結果、調圧精度が改善され、車両安定性制御の性能が向上され得る。
【0107】
≪調圧弁UBが省略された構成≫
上記の実施形態では、連絡路HSに、調圧弁UB、及び、インレット弁UIが設けられた。ここで、調圧弁UBは省略されてもよい。該構成では、「Pm<Ptx」の状況では、供給液圧Pmを増加調整できないので、供給液圧Pmの変動は抑制されない。しかしながら、「Pm>Ptx」の状況では、インレット弁UIによって、供給液圧Pmが減少調整され、選択制動液圧Pwxとして選択ホイールシリンダCWxに供給されるので、供給液圧Pmの変動は抑制され得る。調圧弁UBが省略された構成であっても、オフロード制御、車両安定性制御は実行可能であるため、変動抑制制御は、その効果を奏する。
【0108】
≪ダイアゴナル型流体路≫
上記の実施形態では、2系統の制動流体路として、前後型の構成が採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)の制動系統が採用され得る。該構成では、マスタシリンダCM(又は、調圧シリンダ)内に形成された2つの液圧室のうちで、一方側が右前輪ホイールシリンダ、左後輪ホイールシリンダに接続され、他方側が左前輪ホイールシリンダ、右後輪ホイールシリンダに接続される。
【0109】
<制動制御装置SCの実施形態のまとめと作用・効果>
以下に、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCは、車両JVの複数のホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwを個別に調整するものである。制動制御装置SCでは、例えば、車両JVの車体速度Vxを低速で一定に維持する速度制御(オフロード制御)、車両JVのオーバステア傾向、アンダステア傾向を抑制する車両安定性制御が実行される。制動制御装置SCには、複数のホイールシリンダCWの液圧Pwを増加する加圧源YAと、加圧源YAと複数のホイールシリンダCWとを接続する連絡路HSと、連絡路HSに設けられるインレット弁UIと、複数のホイールシリンダCWとインレット弁UIとの間の連絡路HSをリザーバRCに接続する減圧路HGと、減圧路HGに設けられるアウトレット弁VOと、加圧源YAが出力する液圧を供給液圧Pmとして検出する液圧センサPBと、加圧源YA、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOを制御するコントローラECUと、が備えられる。また、制動制御装置SCには、電気モータMBによって駆動され、リザーバRCの制動液BFを加圧源YAとインレット弁UIとの間の連絡路HSに戻す流体ポンプQBが備えられている。
【0110】
コントローラECUは、複数のホイールシリンダCWに要求される複数の目標液圧Pt(オフロード制御、車両安定性制御等に要求される目標値)を演算する。そして、複数の目標液圧Ptのうちの最大値を最大目標液圧Ptxとして決定する。コントローラECUは、複数のホイールシリンダCWのうちの最大目標液圧Ptxに対応する選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxを加圧源YAによって調整する。一方、複数のホイールシリンダCWのうちの選択ホイールシリンダCWxには該当しない非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzを非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整する。
【0111】
更に、コントローラECUは、インレット弁UIのうちの選択ホイールシリンダCWxに対応する選択インレット弁UIxを、最大目標液圧Ptxと供給液圧Pmとの偏差hPに基づいて制御する。また、制動制御装置SCには、調圧弁UBが、加圧源YAとインレット弁UIとの間の連絡路HSに設けられ、コントローラECUは、調圧弁UBのうちの選択ホイールシリンダCWxに対応する選択調圧弁UBx(2つの調圧弁UBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含む連絡路HSxに設けられた方の調圧弁)を、偏差hPに基づいて制御する。詳細には、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも小さい場合には、選択調圧弁UBxには、偏差hPに基づいて通電が行われるが、選択インレット弁UIxには通電が行われない。これにより、過小な供給液圧Pmが、選択調圧弁UBxにて増加して調整され、選択制動液圧Pwxが最大目標液圧Ptxに近付けられる。逆に、供給液圧Pmが最大目標液圧Ptxよりも大きい場合には、選択インレット弁UIxには偏差hPに基づいて通電が行われるが、選択調圧弁UBxには通電が行われない。これにより、過大な供給液圧Pmが、選択インレット弁UIxにて減少して調整され、選択制動液圧Pwxが最大目標液圧Ptxに近付けられる。
【0112】
制動制御装置SCにおいて、最大目標液圧Ptxに対応する選択ホイールシリンダCWxの制動液圧Pwxは、加圧源である第1ユニットYAからの供給液圧Pmによって、増加、減少されて調節される。一方、ホイールシリンダCWのうちの選択ホイールシリンダCWxには該当しない非選択ホイールシリンダCWzの制動液圧Pwzは、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが開閉されることによって、増加、減少される。非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzの開閉による液圧調整では、連絡路HSからの制動液BFの流出、連絡路HSへの制動液BFの流入が生じるので、連絡路HS内の制動液BFの量(液量)の変化を伴う。この液量変化に起因して、第1ユニットYAからホイールシリンダCWに供給される液圧(供給液圧)Pmの変動が発生する。変動抑制制御では、供給液圧Pm自体の変動を抑制することはできないが、供給液圧Pmが選択制動液圧Pwxとして伝達されるまでの流体路HSx(選択ホイールシリンダCWxを含む選択連絡路)に設けられた選択調圧弁UBx、選択インレット弁UIxによって、選択制動液圧Pwxの変動が抑制される。換言すれば、供給液圧Pmの圧力振幅が、選択調圧弁UBx、選択インレット弁UIxによって減衰されて、選択ホイールシリンダCWxに伝達される。その結果、選択ホイールシリンダCWxにおいて、選択制動液圧Pwxの調圧精度が改善されるため、上記のオフロード制御、車両安定性制御の性能が向上され得る。
【符号の説明】
【0113】
JV…車両、SC…制動制御装置、SX…制動装置、CP…ブレーキキャリパ、CW…ホイールシリンダ、KT…回転部材(ブレーキディスク)、MS…摩擦部材(ブレーキパッド)、ECU…制動用コントローラ、HU…流体ユニット、YA…第1ユニット(加圧源)、CM…マスタシリンダ、YB…第2ユニット、UB…調圧弁、UI…インレット弁、VO…アウトレット弁、RC…調圧リザーバ、MB…電気モータ、QB…流体ポンプ、PM…供給液圧センサ、Pm…供給液圧(供給液圧センサPMの検出値)、Pq…調整液圧、Pw…制動液圧、mQ…液圧差(調整液圧Pqと供給液圧Pmとの差)、wQ…液圧差(調整液圧Pqと制動液圧Pwとの差)、Pt…目標液圧、Ptx…最大目標液圧(目標液圧Ptの最大値)、hP…液圧偏差(供給液圧Pmと最大目標液圧Ptxとの差)、Ii…第1通電量(インレット弁UIの実際の通電量)、Iit…第1目標通電量(第1通電量Iiに対応する目標値)、Ib…第2通電量(調圧弁UBの実際の通電量)、Ibt…第2目標通電量(第2通電量Ibに対応する目標値)、CWx…選択ホイールシリンダ(複数のホイールシリンダのうちで、最大目標液圧Ptxに対応するホイールシリンダ)、CWz…非選択ホイールシリンダ(複数のホイールシリンダのうちで、選択ホイールシリンダCWxには該当しないホイールシリンダ)。