(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128618
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法及び洗浄装置
(51)【国際特許分類】
C23C 22/08 20060101AFI20220829BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20220829BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20220829BHJP
C23C 22/83 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C23C22/08
B08B3/02 C
C23C22/78
C23C22/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026934
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】神村 雅之
【テーマコード(参考)】
3B201
4K026
【Fターム(参考)】
3B201AA28
3B201AB14
3B201BB22
3B201BB94
3B201BB98
3B201CA01
3B201CB15
3B201CC01
3B201CC12
4K026AA09
4K026AA25
4K026BA03
4K026BB02
4K026BB04
4K026BB06
4K026CA23
4K026CA26
4K026DA06
4K026EA08
4K026EB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法において、洗浄後のアルミニウムシームレス缶の品質を損なうことなく、従来の洗浄方法に比して簡略化された洗浄方法及び洗浄装置を提供する。
【解決手段】クーラントを使用した絞りしごき成形により成形されたアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法において、前記アルミニウム製シームレス缶を脱脂剤を用いて脱脂する脱脂工程、該脱脂されたアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗工程、該水洗工程を経たアルミニウム製シームレス缶を皮膜形成処理剤及び表面調整剤を含有する表面処理浴で表面処理する表面処理工程、を少なくとも備えていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クーラントを使用した絞りしごき成形により成形されたアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法において、
前記アルミニウム製シームレス缶を予備洗浄する予備洗浄工程と脱脂剤を用いて脱脂する脱脂工程、該脱脂されたアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗工程、該水洗工程を経たアルミニウム製シームレス缶を、皮膜形成処理剤および表面調整剤からなる表面処理浴で表面処理する表面処理工程よりなり、
前記皮膜形成処理剤が表面処理浴中でのリン酸濃度が1~50ppmのリン酸またはリン酸塩からなる水溶液であり、前記表面調整剤が、EO付加モル数3~8、HLB値8~12、炭素鎖数10~14のポリオキシエチレンアルキルエーテルである主成分(A)と、それらを分散させるEO付加モル数6~10、HLB値12~14、炭素鎖数8~12のポリオキシエチレンアルキルエーテルである分散剤(B)とを含有し、Aに対するBの比率が1:0.2~1:1である表面調整剤であり、前記表面調整剤が表面処理浴中に50~1000ppmの濃度で使用されることを特徴とするアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法。
【請求項2】
前記表面処理工程の後に前記表面処理工程を経たアルミニウム製シームレス缶を乾燥する乾燥工程を備える請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
クーラントを使用して成形されたアルミニウム製シームレス缶を洗浄するための洗浄装置において、
成形手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を予備洗浄する予備洗浄手段、該予備洗浄手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を脱脂剤を用いて脱脂処理する脱脂手段、該脱脂手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗手段、該水洗手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を皮膜形成処理剤および表面調整剤を含有する表面処理浴で表面処理する表面処理手段、および該表面処理手段から供給されたアルミニウム製シームレス缶を乾燥する乾燥手段を備え、前記成形手段から前記乾燥手段に至るまでアルミニウム製シームレス缶を連続的に搬送する搬送手段を備えていることを特徴とするアルミニウム製シームレス缶の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビールや炭酸飲料等の飲食品の容器として、アルミニウム製シームレス缶が広く使用されている。かかるアルミニウム製シームレス缶は、アルミニウム板に絞りしごき加工等の過酷な加工を施すことにより得られることから、一般に潤滑剤(クーラント)を用いて成形される。その結果、絞りしごき加工後のシームレス缶には潤滑剤及びアルミニウム粉末(スマット)が付着している。また、アルミニウム板の表面には酸化アルミニウム等の被膜が形成されている。
このような潤滑剤等が付着すると共に酸化アルミニウム被膜が形成された缶は、次いで行われる塗装・印刷工程に付される前に、付着した潤滑剤等を除去する必要があると共に、アルミニウム表面に良好な化成処理皮膜を形成するために、界面活性剤及びエッチング剤を含有する脱脂剤を用いた脱脂工程及び水洗工程に付される。
【0003】
脱脂・水洗処理されたアルミニウム製シームレス缶は、アルミニウムの酸化物又は水酸化物を主成分とする酸化物層を形成することによりアルミニウム表面を化学的に不活性にし、ブラウンスポットと呼ばれる外観不良の発生を防止するために酸洗浄が行われている(特許文献1)。
また酸洗浄されたシームレス缶は、水洗工程、乾燥工程に付され、塗装・印刷工程等へ移送されるが、シームレス缶の搬送性を向上するために缶表面に滑り性を付与すると共に、上記水洗工程により缶表面に付着した水膜を乾燥工程前に効果的に脱落させるために、親水性を付与することが求められている。このため、水洗工程で洗浄されたシームレス缶に、缶表面の静止摩擦係数を低減させるための表面調整剤をスプレー塗布した後、乾燥工程に付することが行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5007482号公報
【特許文献2】特許第3186189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法においては、脱脂工程、水洗工程、アルミニウム主体の酸化物又は水酸化物を主成分とする皮膜を形成する皮膜形成処理工程、水洗工程、表面処理工程、水洗工程、及び乾燥工程という、多くの工程を経る必要があることから、アルミニウム製シームレス缶の洗浄のためのラインは非常に長く、設備が大きくならざるを得ないという問題がある。その一方、いずれの工程も良好なアルミニウム製シームレス缶を提供するためには必須の工程であり、省略することは困難である。
【0006】
従って本発明の目的は、アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法において、洗浄後のアルミニウムシームレス缶の品質を損なうことなく、従来の洗浄方法に比して簡略化された洗浄方法及び洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、クーラントを使用した絞りしごき成形により成形されたアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法において、前記アルミニウム製シームレス缶を予備洗浄する予備洗浄工程と脱脂剤を用いて脱脂する脱脂工程、該脱脂されたアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗工程、該水洗工程を経たアルミニウム製シームレス缶を、皮膜形成処理剤および表面調整剤からなる表面処理浴で表面処理する表面処理工程よりなり、前記皮膜形成処理剤が表面処理浴でのリン酸濃度が1~50ppmのリン酸またはリン酸塩からなる水溶液であり、前記表面調整剤が、EO付加モル数3~8、HLB値8~12、炭素鎖数10~14のポリオキシエチレンアルキルエーテルである主成分(A)と、それらを分散させるEO付加モル数6~10、HLB値12~14、炭素鎖数8~12のポリオキシエチレンアルキルエーテルである分散剤(B)とを含有し、Aに対するBの比率が1:0.2~1:1である表面調整剤であり、前記表面調整剤が表面処理浴中に50~1000ppmの濃度で使用されることを特徴とするアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法が提供される。
【0008】
本発明の洗浄方法においては、前記表面処理工程の後に前記表面処理工程を経たアルミニウム製シームレス缶を乾燥する乾燥工程を備えることが好適である。
【0009】
本発明によればまた、クーラントを使用して成形されたアルミニウム製シームレス缶を洗浄するための洗浄装置において、成形手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を予備洗浄する予備洗浄手段、該予備洗浄手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を脱脂剤を用いて脱脂処理する脱脂手段、該脱脂手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗手段、該水洗手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を皮膜形成処理剤および表面調整剤を含有する表面処理浴で表面処理する表面処理手段、および該表面処理手段から供給されたアルミニウム製シームレス缶を乾燥する乾燥手段を備え、前記成形手段から前記乾燥手段に至るまでアルミニウム製シームレス缶を連続的に搬送する搬送手段を備えていることを特徴とするアルミニウム製シームレス缶の洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法においては、従来、脱脂・水洗工程の後に行われていたアルミニウム表面に不活性の処理皮膜を形成する皮膜形成処理工程を、表面調整剤を用いた表面処理工程で同時に行うことにより、アルミニウム製シームレス缶の洗浄のためのラインを短縮することが可能になり、設備を小型化することができると共に、簡略化された工程でも、絞りしごき加工の際にアルミニウム製シームレス缶に付着した潤滑剤を効率よく洗浄できる。
また酸洗浄を、表面調整剤を用いた表面処理工程で同時に行うことによって、水とアルミニウムの反応により生じるブラウンスポットの発生も有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来のアルミ缶の洗浄工程の一般的な流れを示すチャート図である。
【
図2】本発明のアルミ缶の洗浄工程の好適な流れを示すチャート図である。
【
図3】本発明の洗浄装置の一例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(洗浄方法)
前述したとおり、アルミニウム製シームレス缶(以下、「アルミ缶」ということがある)の洗浄方法においては、脱脂工程、水洗工程、酸処理工程、水洗工程、表面処理工程及び乾燥工程という、多くの工程を経る必要があり、各工程の前後に水洗工程を行うと、
図1に示すように、上記必須工程に加えて、脱脂工程の前に予備洗浄工程、脱脂工程と皮膜形成処理工程の間に第1水洗工程、皮膜形成処理工程と表面調整剤による表面処理工程の間に第2水洗工程及び純水によるすすぎ工程、更に表面処理工程の後に乾燥工程が設けられており、工程数が多く、洗浄のためのラインが長くなるという問題があった。
本発明の洗浄方法においては、
図2に示すように、アルミニウム表面に不活性の処理皮膜を形成する皮膜形成処理工程を表面処理工程と同時に行うことにより、皮膜形成処理工程、及び皮膜形成処理工程後の水洗工程を省略することが可能になり、洗浄ラインを短縮化することが可能になる。
また表面処理工程において表面調整剤による表面処理と同時に、アルミニウム表面を不活性化させるための皮膜を形成することもできるため、ブラウンスポットの発生も有効に抑制することができる。
【0013】
[アルミニウム製シームレス缶]
本発明の洗浄方法において、洗浄対象となるアルミ缶は、成形時にクーラントとして潤滑剤を使用して成形されるアルミニウム製シームレス缶である。具体的には、3004材、3104材等の周知のアルミニウム又はアルミニウム合金から成るアルミニウム板を、鉱油、合成油等従来公知の潤滑剤を用いて、絞り加工、絞り・深絞り加工、絞り・しごき加工、絞り・曲げ伸ばし加工・しごき加工等の過酷な加工により成形されるシームレス缶である。またこのような成形方法により成形されたシームレス缶には、上記潤滑剤のみならず、上記加工時に発生したスマット等も付着している。また上述したとおり、アルミニウム板の表面は酸化アルミニウム被膜が形成されている。
【0014】
[脱脂工程・洗浄工程]
潤滑油付着したアルミ缶は、缶底を上にして高速で、洗浄装置の脱脂工程へ連続的に搬入される。尚、脱脂工程の前には、スマット等を除去するために予備洗浄工程が必要により設けられている。
脱脂工程においては、アルカリ又は酸から成る従来公知の脱脂剤を用いることができ、具体的には界面活性剤及びエッチング剤を含有する脱脂剤を用い、アルミ缶の上下方向から噴霧し、界面活性剤の物理的衝撃によりアルミ缶表面に付着した潤滑剤を除去すると共に、エッチング剤によってアルミニウムを溶解して、アルミ缶表面に形成された酸化アルミニウム被膜を除去する。
脱脂工程に付されたアルミ缶は、洗浄工程で水洗された後、表面処理工程に搬送される。 尚、洗浄工程においては、
図2に示す好適態様では、第1水洗工程及び純水すすぎ工程の2工程で行っているが、これに限定されず、適宜変更することができる。
【0015】
[表面処理工程]
表面処理工程においては、皮膜形成処理剤及び表面調整剤を含有する表面処理浴を、アルミ缶の表面に塗工する。表面調整剤がアルミ缶の表面に塗工されることにより、アルミ缶の外表面に親水性が付与されると共に、アルミ缶の滑り性が向上する。すなわち、表面調整剤として界面活性剤を使用すると、界面活性剤の親水基がアルミ基材表面に吸着し、表層側に親水基および疎水基が配列することにより、アルミ缶に親水性が付与される。その結果、表面処理後の水洗浄により缶に付着した水分を乾燥工程までに脱落・低減させることが可能となり、乾燥工程での乾燥温度を低減することができる。また乾燥後は、疎水基の潤滑性で滑り性が向上され、アルミ缶の搬送性が向上する。
また本発明においては、この表面処理工程において、表面調整剤と共に、皮膜形成処理剤を含有する表面処理浴を用いて表面処理することにより、従来脱脂工程後に行われていた、アルミニウム表面を不活性化する皮膜形成処理工程により抑制されていたアルミ缶のブラウンスポットの発生を有効に抑制することが可能になる。
すなわち、アルミニウムが洗浄工程で使用される純水と反応すると、ベーマイト被膜と呼ばれる酸化被膜が著しく成長して褐色のブラウンスポットが発生する。このブラウンスポットが発生すると、その後の印刷・塗装工程で印刷ムラ等が発生し、外観特性に劣るようになるが、本発明においては、表面処理工程においてアルミ缶を皮膜形成処理剤で表面処理することにより、アルミニウム主体の酸化物或いは水酸化物を主成分とする皮膜を形成することにより、アルミニウム表面を化学的に不活性化することが可能になり、酸処理工程を独立に設けなくても、ブラウンスポットの発生を有効に防止することが可能になる。
【0016】
本発明において、表面調整剤としては、上述したように界面活性剤を使用することが好ましく、特にポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤を好適に使用することができ、EO付加モル数3~8、HLB値8~12、炭素鎖数10~14のポリオキシエチレンアルキルエーテルである主成分(A)と、それらを分散させるEO付加モル数6~10、HLB値12~14、炭素鎖数8~12のポリオキシエチレンアルキルエーテル分散剤(B)を分散剤として併用することで、表面処理浴に補給する原液が安定化し、品質が安定した生産が可能となる。Aに対するBの比率は1:0.2~1:1であり、1:1以上では発泡して処理ができなくなり、1:0.2以下では原液安定性が低下する。
表面処理浴中に、表面調整剤と共に含有させる皮膜形成処理剤としては、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸又はその無機酸塩を含有することが好ましく、特にリン酸又はリン酸塩含有水溶液であることが好ましい。
【0017】
表面処理工程で使用される表面処理浴は、上記表面調整剤及び皮膜形成処理剤を含有するものであるが、表面処理浴は、表面調整剤として上記界面活性剤が、表面処理浴中に50~1000ppm、特に100~400ppmの量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも界面活性剤の量が少ない場合には、アルミ缶に充分な滑り性を付与することができないおそれがあり、その一方上記範囲よりも界面活性剤の量が多い場合には、乾燥後の缶の外面の外観特性を損なうおそれがある。
一方、皮膜形成処理剤は、リン酸又はリン酸含有水溶液を使用した場合に、表面処理浴中のリン酸濃度が1~50ppm、特に5~10ppmとなるように含有されていることが好適である。上記範囲よりもリン酸濃度が低い場合には、アルミ缶表面の酸化被膜の発生抑制を充分にできないおそれがあり、その一方上記範囲よりもリン酸濃度が高くても、ブラウンスポットの発生抑制効果の更なる向上は望めず、経済性に劣るようになる。
【0018】
表面処理浴のアルミ缶表面への塗工は、表面処理浴をアルミ缶の内外表面に接触させ得る限り、浸漬法、噴霧(スプレー)法等従来公知の手段を採用することができるが、生産性の点から噴霧(スプレー)法によることが好適である。表面処理浴は、リン酸の濃度にもよるが、3~10秒間アルミ缶に表面処理浴が接触することが好適である。上記範囲よりも接触時間が短い場合には、アルミニウム主体の酸化物又は水酸化物を主成分とする良好な皮膜を形成することができないおそれがあり、その一方上記範囲よりも接触時間が長くても形成される皮膜には変化がない上に生産性が低下するおそれがある。また表面処理浴は、20~40℃の温度に調節されていることが好ましく、これによりブラウンスポットの発生を抑制可能な良好な皮膜を効率よく形成することができる。
表面処理浴で表面処理されたアルミ缶は、乾燥工程へ搬送される。
【0019】
[乾燥工程]
乾燥工程に搬入された、表面処理されたアルミ缶は、オーブン等の乾燥機で加熱乾燥される。上述したとおり、表面処理工程を経たアルミ缶は親水性に優れていることから付着水分が低減されており、160~210℃の温度で70~240秒乾燥することにより、ブラウンスポットがなく、滑り性に優れたアルミ缶が製造される。
乾燥後のアルミ缶は滑り性に優れていることから、アルミ缶同士が隙間なく隣接した状態になっても、搬送路においてアルミ缶の詰まりを生じることなく、スムーズに印刷工程に搬送される。またアルミ缶内面においても滑り性が高いことから、アルミ缶保持のためのマンドレルの挿入もスムーズに行われ、生産性が顕著に向上される。
【0020】
(洗浄装置)
本発明のアルミ缶を洗浄するための洗浄装置は、成形装置から供給される潤滑剤等が付着したアルミ缶を予備洗浄する予備洗浄手段、該予備洗浄手段から供給されるアルミ缶を脱脂剤を用いて脱脂処理する脱脂手段、該脱脂手段から供給されるアルミ缶を水洗する水洗手段、該水洗手段から供給されるアルミ缶を皮膜形成処理剤及び表面調整剤を含有する表面処理浴で表面処理する表面処理手段、及び該表面処理手段から供給されたアルミ缶を乾燥する乾燥手段を備えると共に、前記成形装置から前記乾燥手段に至るまで、アルミ缶を連続的に搬送する搬送手段を備えている。
すなわち、本発明の洗浄装置においては、従来脱脂手段の後に設けられていた皮膜形成処理手段及び該皮膜形成処理手段後の水洗手段が省略されていることにより、洗浄装置を小型化、省エネ化を図ることができる。また工程数が少なくなることで、装置の整備や清掃の作業負担も軽減される。
【0021】
図3は、本発明の洗浄装置の一例を模式的に示す側面図であり、成形装置(図示せず)から搬入された潤滑剤等が付着したアルミ缶1は、搬送手段2によって乾燥手段8に至るまで連続的に搬送される。搬送手段としては、メッシュコンベアやベルトコンベアなどの従来公知の搬送手段を使用することができ、アルミ缶の開口部が下方になるように搬送手段の幅方向(進行方向に対して垂直の方向)に複数個並んだ状態で載置され、連続的に搬送される。
図3から明らかなように、本発明の洗浄装置の好適態様においては、洗浄装置の上流(
図3の左側)から下流(
図3の右側)に向かって、予備洗浄手段3、脱脂手段4、洗浄手段(第1水洗手段5及び純水すすぎ手段6)、表面処理手段7及び乾燥手段8が搬送手段2に沿って設置されている。
予備洗浄手段3、脱脂手段4、洗浄手段5,6、表面処理手段7の各手段には、脱脂剤、洗浄水、純水、表面処理浴をそれぞれの工程でアルミ缶の上下方向から噴霧可能な複数の吐出口を有する噴霧装置10,10,10・・・及びアルミ缶の缶底に溜まった脱脂剤や洗浄水等を吹き飛ばすためのブロア装置11,11,11・・・が設置されている。ブロア装置11が設置されていることにより、缶底が内方に凹んだドーム型であっても、洗浄水などが溜まることが防止できる。
また表面処理手段7に次いで、アルミ缶の缶底が上方にある倒立した状態になっていないアルミ缶を排除するため、アルミ缶の缶底を吸着して橋渡しする様に搬送するバキュームトランスファー装置9が設置されている。
【0022】
成形装置から搬出されたアルミ缶1は、搬送手段2によって、まず予備洗浄手段3における噴霧装置10から洗浄水を上下方向から噴霧された後、缶底部に溜まった洗浄水がブロア装置11で吹き飛ばされることにより、成形時に付着した潤滑剤等以外の汚れが予め除去される。次いで、脱脂手段4に搬入されて、界面活性剤及びエッチング剤を含有する脱脂剤が噴霧装置10からアルミ缶1の上下方向から噴霧され、缶底部に溜まった脱脂剤をブロア装置11で除去することにより、アルミ缶に付着した潤滑剤やスマットが除去されると共に、アルミニウム表面がエッチングされて表面に形成された酸化アルミニウム被膜が除去される。
脱脂手段4から搬出されたアルミ缶1は、第1水洗手段5の噴霧装置10及びブロア装置11で洗浄水の噴霧及び吹き飛ばしを行って洗浄した後、純水すすぎ手段6の噴霧装置10による純水の噴霧及びブロア装置11による缶底部に溜まった純水の除去の後、表面処理手段7に搬入される。
【0023】
表面処理手段7では、表面調整剤及び皮膜形成処理剤を含有する表面処理液が噴霧装置10によりアルミ缶の上下方向から噴霧されてアルミ缶の表面処理が行われる。ブロア装置11により缶底部に溜まった余分な表面処理液を吹き飛ばした後、バキュームトランスファー装置9によって、アルミ缶の缶底が上方にある倒立した状態のアルミ缶のみが、乾燥手段8に搬入される。前述したとおり、表面処理されたアルミ缶の表面は親水性に優れていることから、洗浄手段5,6による洗浄水はブロア装置11によるブローエアにより容易に除去されることから、次いで搬入される乾燥手段8での乾燥時間を短縮することができる。
乾燥手段8は、オーブン等の従来公知の加熱乾燥装置から成ることができる。乾燥手段8で乾燥されたアルミ缶は、前述したとおり、表面に表面調整剤が塗工されて滑り性が向上されていることから、印刷工程への搬送に際してアルミ缶同士が密着して搬送路の詰まりを生じるようなことがなく、スムーズに印刷工程に搬送される。また皮膜形成処理剤によりブラウンスポットの発生も抑制されていることから、印刷適性にも優れている。
【0024】
本発明の洗浄装置は、
図3に示した具体例に限定されず、脱脂手段及び表面処理手段の前後において必要な数又は長さ(ラインの長さ)の洗浄手段を設置すればよく、同様に噴射装置のノズル数やブロア装置の数も適宜変更できる。また、本発明の洗浄装置から搬出されたアルミ缶が搬送路の詰まりを生じさせなければ、バキュームトランスファー装置9の設置位置も適宜変更できる。
【実施例0025】
以下、アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法の実施例を示す。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<実施例1~6、比較例1~8>
表1に示す濃度で、実施例及び比較例に係る表面処理浴を調製した。調製には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(A)を5質量%含む水溶液と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(B)を5質量%含む水溶液と、リン酸二水素ナトリウムをリン酸イオン換算で2質量%含む水溶液とを用い、水で希釈して表1に示す濃度となるように表面処理浴を調製した。被処理対象としてアルミニウム製シームレス缶を用い、予備水洗工程として、水で10秒間スプレー洗浄後、脱脂工程として、日本ペイント・サーフケミカルズ(株)製 脱脂剤 サーフクリーナーNHC310を用いて60秒スプレー脱脂後、水洗工程として10秒間水洗スプレーした。さらに10秒間のスプレーによる純水すすぎ工程後、表面処理工程として、上記調製した表面処理浴で10秒間スプレー処理後、乾燥工程として、170℃で3分間乾燥させた。乾燥後アルミニウム製シームレス缶のブラウンスポット、外観、滑り性について、以下の条件で評価を行い、表面処理浴を調製するための原液や表面処理浴の原液安定性や発泡性について、以下の条件で評価を行った。
【0026】
[ブラウンスポット評価]
各実施例及び比較例のアルミニウム製シームレス缶について、内面中心部におけるブラウンスポット(茶褐色に変色した箇所)の発生有無を、目視により以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:発生無し
×:発生あり
【0027】
[外観評価]
各実施例及び比較例のアルミニウム製シームレス缶について、外面缶底中心部における白色化の有無を、目視により以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:白色化なし
×:白色化あり
【0028】
[原液安定性評価]
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(A)および(B)を表1の比率(A:B)で合計で5質量%含む水溶液を調製し、24時間静置後に分離の有無を目視評価した。結果を表1に示す。
○:分離なし
×:分離あり
【0029】
[滑り性評価]
各実施例及び比較例のアルミニウム製シームレス缶の2缶を同方向に水平に接触して置いた上に、逆方向に1缶を俵状に重ね、50°/30秒の速度で傾けた時に滑り出す角度を測定した。結果を表1に示す。
○:50°未満
×:50°以上
【0030】
[発泡性評価]
表面処理浴を30L調製し、調製した表面処理浴を3分間スプレー攪拌した際の発泡高さを評価した。結果を表1に示す。
○:5cm未満
×:5cm以上
【0031】
1 アルミ缶、2 搬送手段、3 予備洗浄手段、4 脱脂手段、5,6 洗浄手段、7 表面処理手段、8 乾燥手段、9 バキュームトランスファー装置。