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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128655
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】プラズマ窒化装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/38 20060101AFI20220829BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C23C8/38
H05H1/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026994
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】593149993
【氏名又は名称】中日本炉工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510223874
【氏名又は名称】公益財団法人名古屋産業振興公社
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】水流 一平
(72)【発明者】
【氏名】大久保 大地
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 峰男
(72)【発明者】
【氏名】高島 成剛
【テーマコード(参考)】
2G084
4K028
【Fターム(参考)】
2G084AA07
2G084BB14
2G084CC03
2G084CC12
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD17
2G084DD21
2G084DD38
4K028BA02
4K028BA12
4K028BA21
(57)【要約】
【課題】 プラズマ窒化処理において、被処理材に対する処理の不均一さを緩和する。
【解決手段】 容器内の正極とスクリーンとの間に電圧を印加して供給されるプロセスガスのプラズマを形成し、被処理材をプラズマ窒化する。ここで、スクリーンに、図2(b)に示すように、蓋体から内部に延びる補助スクリーンを取り付けることにより、外側からみて凹部を形成する。凹部内には、補助正極を設置する。この状態で電圧を印加すれば、補助正極と補助スクリーンとの間にもプラズマを発生させることが可能となる。
こうすることにより、種々の被処理材に対して処理の不均一を緩和してプラズマ窒化を施すことが可能となる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の被処理材の表面に窒化層を形成するためのプラズマ窒化装置であって、
密閉された処理容器と、
該処理容器内に設置された正極と、
該正極内において前記被処理材を覆うように設置され負極に接続された導電性のスクリーンとを備え、
前記スクリーンは、少なくとも一部に内側に凸となる外部から見て凹部が設けられているプラズマ窒化装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ窒化装置であって、
前記凹部によって前記スクリーンの外側に形成される空間内に、前記正極に接続された補助正極を有するプラズマ窒化装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のプラズマ窒化装置であって、
前記スクリーンは、側壁部と蓋体とを有しており、
前記凹部は、前記蓋体に形成されているプラズマ窒化装置。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載のプラズマ窒化装置であって、
前記凹部は、前記スクリーン内に所定の断面形状で延びる柱状の形状であるプラズマ窒化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを利用して金属の被処理材の表面に窒化層を形成するためのプラズマ窒化装置に関し、詳しくは被処理材の外部に設置されたスクリーンを陰極として電圧を印加することで発生するプラズマを利用するアクティブ・スクリーン・プラズマ窒化を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼などの金属の表面を硬化させる処理方法の一つとして、表面近傍に窒素を浸透させて窒化層を形成する窒化プロセスが挙げられる。また窒化プロセスの方法の一つとして、窒素またはアンモニアのプラズマを利用して窒素を浸透させるプラズマ窒化プロセスが知られている。
従来、プラズマ窒化プロセスとしては、処理容器内の正極と、被処理材との間で電圧を印加してプラズマを発生させる直流プラズマ窒化(DCP窒化と呼ぶこともある)が用いられていた。DCP窒化については、種々の改良技術も提案されている。例えば、特許文献1は、窒化プロセスを開始する前に、炉の内部にアルゴンおよび水素の混合気体を注入しながら被処理材に電圧を加えることにより、被処理材の表面の残留ガスおよび不純物を除去するスパッタリングを行う技術を開示している。
一方、DCP窒化では、被処理材の端部などに放電が集中し改質層が不均一になるエッジ効果が生じるなどの短所があるため、これを改善する方法の一つとしてアクティブ・スクリーン・プラズマ窒化(ASP窒化と呼ぶこともある)も着目されている。ASP窒化とは、被処理材の周囲を覆うように、導電性の金属メッシュなどによるスクリーンを設置し、正極とスクリーンとの間に電圧を印加してプラズマを形成し、このプラズマを利用して窒化プロセスする方法である。ASP窒化について、特許文献2は、炉の内部雰囲気をアルゴンと水素との混合気体で維持し、酸化性気体および還元性気体によって被処理材の表面の残留ガスおよび不純物を除去する表面活性化を行う技術を提案している。また、特許文献3は、ASP窒化において、被処理材を微小振動させることにより均一にプラズマ雰囲気を発生させる技術について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4644236号公報
【特許文献2】特許第4378364号公報
【特許文献3】特開2008-115422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ASP窒化においても、その配置等に応じて被処理材に対する改質層が不均一となる場合があることが見いだされた。こうした不均一は、被処理材がスクリーンに対して小型のものである場合、被処理材を台に置いて加工する場合、筒状の被処理材の内面を加工する場合などに見られることがあった。
本発明は、かかる課題を解決し、被処理材に対して処理の不均一を緩和したプラズマ窒化を行うことが可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
金属の被処理材の表面に窒化層を形成するためのプラズマ窒化装置であって、
密閉された処理容器と、
該処理容器内に設置された正極と、
該正極内において前記被処理材を覆うように設置され負極に接続された導電性のスクリーンとを備え、
前記スクリーンは、少なくとも一部に内側に凸となる外部から見て凹部が設けられているプラズマ窒化装置と構成することができる。
【0006】
本発明のプラズマ窒化装置において、スクリーンで囲われた内部の処理空間内に被処理材を載置し、処理容器内に窒素またはアンモニアを含有するプロセスガスを供給するとともに、正極とスクリーンとの間に電圧を印加することによって、被処理材の窒化を行うことができる。
かかる窒化のプロセスでは、正極とスクリーンとの間にプラズマが発生する。ここで、本発明では、スクリーンの一部に凹部が設けられているため、スクリーンを部分的に被処理材に接近させることができる。この結果、スクリーン外部に発生するプラズマを被処理材に近づけることができ、被処理材の加工が不均一となることを緩和することが可能となる。
【0007】
本発明において、凹部は、スクリーンの種々の部位に設けることができる。凹部の形状、大きさも任意に決めることができる。凹部は、一カ所に限る必要はなく、2カ所以上設けてもよい。
凹部は、スクリーンの一部を変形させる方法、スクリーンと一体化して形成する方法、凹部を形作り補助スクリーンをスクリーンに取り付ける方法など種々の態様で構成することができる。
本発明は、特に、被処理材がスクリーンに対して小さい場合や、被処理材の一部が載置台によってスクリーンから遮蔽されるような場合、筒状の被処理材の内面に加工を施す場合などに有用性が高い。
【0008】
本発明においては、
前記凹部によって前記スクリーンの外側に形成される空間内に、前記正極に接続された補助正極を有するものとしてもよい。
【0009】
このように補助正極を設けることにより、凹部によって形成される空間内に効率的にプラズマを発生させることが可能となり、凹部による効果を一層、向上させることができる。
補助正極は、正極を変形させたもの、正極と一体的に形成したもの、正極とは別に設けたものなど、種々の態様で備えることができる。
また、補助正極の形状、大きさも凹部に応じて任意に決めることができる。
補助正極は、凹部との間隔のバラツキが、所定の範囲内に収まる形状、位置に設けることが好ましい。
【0010】
本発明においては、
前記スクリーンは、側壁部と蓋体とを有しており、
前記凹部は、前記蓋体に形成されているものとしてもよい。
【0011】
こうすることにより、蓋体を取り替えることにより凹部の形状を容易に変更することが可能となり、被処理材に応じて凹部を使い分けることが可能となる。
【0012】
本発明においては、
前記凹部は、前記スクリーン内に所定の断面形状で延びる柱状の形状であるものとしてもよい。
【0013】
このように凹部を柱状の形状とすることにより、被処理材が筒状の形状の場合、その内部にこの凹部を挿入した状態で装置内に載置することができる。こうすることにより、筒状の被処理材の内面に対しても窒化処理を施すことが可能となる。
凹部の形状は、角柱状、円柱状など種々の形状とすることができる。また、その長さも任意に決めることができる。
上記態様において、凹部は、スクリーンの上部から下方に向かって延びるものであってもよいし、側方から水平方向に延びるものであってもよい。
【0014】
本発明において、上述した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、一部を省略したり組み合わせたりして構成してもよい。
また、本発明は、プラズマ窒化装置としての構成の他、かかる装置を用いてプラズマ窒化を行うプラズマ窒化方法として構成してもよい。例えば、以下の構成が考えられる。
金属の被処理材の表面に窒化層を形成するためのプラズマ窒化方法であって、
上述したプラズマ窒化装置を用意するステップと、
該プラズマ窒化装置のスクリーン内に被処理材を載置するステップと、
前記プラズマ窒化装置に窒素またはアンモニアを含有するプロセスガスを供給するステップと、
前記正極とスクリーンとの間に電圧を印加するステップとを備えるプラズマ窒化方法である。
プラズマ窒化方法においても、上述した種々の特徴を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プラズマ窒化システムの構成を示す説明図である。
図2】スクリーンの概略構成を示す説明図である。
図3】プラズマ窒化処理の結果を示す説明図である。
図4】筒状の被処理材へのプラズマ窒化方法を示す説明図である。
図5】筒状の被処理材へのプラズマ窒化の結果を示す説明図である。
図6】スクリーン形状の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0016】
以下、本発明の実施例について説明する。
A.装置構成:
図1は、プラズマ窒化システムの構成を示す説明図である。窒素またはアンモニアを含有するプロセスガスに電圧を印加してプラズマを形成し、鋼などの被処理材の表面に窒素を浸透させて窒化層を形成するプラズマ窒化プロセスを行うための装置である。
プラズマ窒化プロセスは、プラズマ窒化装置10、電源装置20、制御装置40などを備えている。
【0017】
プラズマ窒化装置10は、プラズマ窒化プロセスを行うための容器11を有する。容器11は、真空に耐えられる密閉容器である。
容器11の内部には、その内壁に沿うように、プラズマを発生させる電圧を印加するための正極12が設置されている。
正極12の内部には、正極と所定の間隔dsをあけて導電性のメッシュ状のスクリーン13が設置されている。スクリーン13の形状の詳細は、後述するが、図1ではほぼ円筒状に蓋をかぶせた状態として模式的に示した。
正極12とスクリーン13との間隔dsは、プラズマPの形成に影響を与える。従って、両者の間隔は、プラズマPが良好に形成されるよう、解析的または実験的に設定すればよい。また、スクリーンのメッシュ形状も任意に選択すればよいが、開口の形状がひし形で一つの対角線長さが8mmから35mmと、もう一方の対角線の長さが8mmから15mmが好ましく、より好ましくは、一つの対角線長さが12mmと、もう一方の対角線の長さが30mmである。
スクリーン13の内部が、窒化プロセスを施すための処理空間となる。スクリーン13の内部には、被処理材Wを載置するための載置台16が設置されている。
容器11の上部には、窒化プロセスに要する一連のプロセスガスを供給するための供給口14が設けられている。また、容器11の下部には、プロセスガスを排出するための排出口15が設けられている。
【0018】
本実施例では、供給口14には、3種類のガスタンクが接続されている。窒素を貯蔵する窒素タンク31、水素を貯蔵する水素タンク32、アルゴンを貯蔵するアルゴンタンク33である。窒素に代えてアンモニアを貯蔵するタンクを用いても良い。
窒素タンク31、水素タンク32、アルゴンタンク33は、それぞれバルブ34、35、36を介して供給口14に接続されている。これらのバルブ34、35、36の開閉を制御することにより、窒素、水素、アルゴンの容器11への供給量を制御することができる。窒素タンク31、水素タンク32、アルゴンタンク33からのガスの供給量は、流量センサ37、38、39によりそれぞれ検出可能である。
窒化処理のために供給されるプロセスガスは、上記3種類のガスに限られるものではなく、窒素またはアンモニアを含有する種々の組成のガスを用いることができる。アルゴンを省略しても差し支えない。
【0019】
窒化プロセスの過程で、電源およびプロセスガスの供給量などを制御するため、容器11には、次のセンサが取り付けられている。アークセンサ17は、容器内でアーク放電が生じているか否かを検出するためのセンサである。例えば、アーク放電による光を検出するセンサをアークセンサ17として用いることができる。温度センサ18は、容器11の内部の温度を検出する。圧力センサ19は、容器11の内部の圧力を検出する。
本実施例では、アークセンサ17は一つだけ設けるものとしたが、スクリーン13で生じるアーク放電を検出するためのセンサ、載置台16で生じるアーク放電を検出するためのセンサを個別に設けるようにしてもよい。
【0020】
次に、電源装置20の構成について説明する。本実施例では、200Vの交流電源からプラズマを発生させるための電圧を、正極12とスクリーン13との間に印加する。この電圧をスクリーン電圧と称する。また、正極12と載置台16との間にバイアス電圧を印加する。本実施例では、スクリーン電圧は、0~600V(50A)の範囲、バイアス電圧は0~600V(10A)の範囲で出力可能とした。
電源装置20には、スクリーン電圧を印加するためのスクリーン電源回路22、バイアス電圧を印加するためのバイアス電源回路23が備えられている。スクリーン電源回路22、バイアス電源回路23は、それぞれスイッチングトランジスタ、サイリスタなどのスイッチング素子のオン・オフによって、スクリーン電圧、バイアス電圧を印加するための電圧パルスを出力する回路である。
スイッチング素子のオン・オフは電源制御装置21によって制御される。電源制御装置21は、スイッチング素子のオン・オフを制御することにより、電圧パルスの時間幅・デューティを変調し、スクリーン電圧、バイアス電圧の電圧値を変化させる。より具体的には、一定周期で電圧パルスを出力する回路を構成し、電圧に応じてこの電圧パルスの一部を休止させるのである。こうすることで、時間的なパルス密度、即ちデューティを変調でき、電圧を制御することができる。本実施例では、5kHzの電圧パルスを利用した。
電圧の制御には、このようなパルス幅変調制御(PWM制御)に代えて、パルスのオン・オフの周波数を変調する周波数変調制御(PFM制御)を適用してもよい。
本実施例では、電源電圧は、容器11の内部のアーク放電の有無、および温度に応じて制御する。アーク放電の有無および温度は、アークセンサ17、温度センサ18によって検出される。
【0021】
プラズマ窒化システムの動作は、制御装置40によって制御される。制御装置40は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるコンピュータである。制御装置40には、図示する機能ブロックが用意されている。これらの機能ブロックは、制御用のソフトウェアをインストールすることによって構成することもできるし、制御用の機能を実現する専用の回路によってハードウェア的に構成してもよい。
プロセス条件入力部43は、オペレータの操作などに応じて窒化プロセスの条件を入力する。条件としては、窒化プロセスの温度、圧力などが挙げられる。
プロセスメイン制御部41は、窒化プロセスの条件に基づき、プラズマ窒化システム全体の処理を行う。電源装置20に対しては、容器11の内部の設定温度など、電源制御に必要な条件を指定する。プロセスガス制御部42に対しては、プロセスガスの構成比その他の条件を指定する。後述する通り、本実施例では、窒化プロセスの前処理として被処理材を昇温する昇温処理を行うが、この過程ではアルゴンを含有したプロセスガスを用い、窒化プロセスの過程では、アルゴンを含有しないプロセスガスを用いる。プロセスメイン制御部41からプロセスガス制御部42には、これらの各過程で用いられるプロセスガスの配合比などが指示されることになる。
プロセスガス制御部42は、バルブ34、35、36の開閉を制御することで、窒素、水素、アルゴンの供給を制御する。本実施例では、容器内の圧力および各ガスの供給量に応じて制御される。
【0022】
B.窒化プロセス:
窒化プロセスは、制御装置40によって実行される。制御装置40は、プロセス温度、圧力など指定されたプロセス条件に従って、電源制御装置21に対して条件を設定し、電源制御を開始させる。また、バルブ34、35、36を開き、窒素タンク31、水素タンク32、アルゴンタンク33から、それぞれガスを供給する。電圧を印加すると、容器11の内部にプラズマが発生する。
容器11の内部の温度が、プロセス温度に到達すると、制御装置40は、アルゴンタンク33に接続されたバルブ36を閉にして、窒素および水素を供給する。プロセスガスを供給しながら、電圧を印加することにより、容器11の内部にはプラズマが発生し、窒化プロセスが行われる。窒化プロセスは、所定の保持時間だけ継続される。
【0023】
C.スクリーンの構造:
図2は、スクリーンの概略構成を示す説明図である。図2(a)には、基本的な形状を示した。基本的な形状においては、スクリーンは、円筒状のスクリーン本体の上部に、円盤状のスクリーン蓋体をかぶせ、プロセスにおいて同電位となるよう電気的に接続することで構成される。スクリーン本体およびスクリーン蓋体は、それぞれメッシュとなっている。図2(c)には、基本的な形状の写真を示した。内部の状態がわかるよう、スクリーン本体の一部を切除した状態を示した。
【0024】
図2(b)には、本実施例におけるスクリーンの形状を示した。本実施例のスクリーンにおいても、円筒状のスクリーン本体は基本的な形状(図2(a))と共通である。本実施例では、スクリーン蓋体の中央に円形の孔が開けられており、ここに円筒状の補助スクリーンが下方に延びるよう取り付けられている。補助スクリーンの底は、閉じられている。このように補助スクリーンを取り付けることにより、実施例のスクリーンには、蓋体中央に、下方に延びる円柱状の凹部が形成されることになる。基本的な形状と同様、プロセス中、スクリーン本体とスクリーン蓋体は同電位となる。
【0025】
図2(d)には、実施例におけるスクリーンの写真を示した。内部の状態がわかるよう、スクリーン本体の一部を切除した状態を示した。図示する通り、補助スクリーンが、スクリーン本体の内部の空間に延びていることがわかる。
【0026】
実施例では、スクリーン本体と、補助スクリーンとは異なる材料で構成した。スクリーン本体は、金属のメッシュ素材で構成し、補助スクリーンは、パンチ孔を開けた金属板を用いて構成した。実施例のスクリーンは、種々の方法で構成することができ、スクリーン蓋体の中央部分を変形させて構成してもよい。
【0027】
図3は、プラズマ窒化処理の結果を示す説明図である。図3(a)に実験結果を示し、図3(b)には、実験の概要を模式的に示した。
図3(b)に示す通り、正極の内部に、スクリーンおよび補助スクリーンが設置されている。スクリーンの内部には、円柱状の2本の治具を置き、被処理材としてのサンプルA~Eを載置した。サンプルA、Dは治具の上部に置き、サンプルB、Eは、治具の外側に設けられた切り欠き部分に置いた。サンプルC、Fは、治具の内側に設けられた切り欠き部分に置いた。
補助スクリーンは、サンプルC、Fの中間辺りまで延びている。補助スクリーンによってスクリーンに形成される凹部には、正極に接続された補助正極が取り付けられている。この結果、正極とスクリーンとの間に電圧を印加すると、補助正極と補助スクリーンとの間にも電圧が印加され、プラズマを発生させることができる。
【0028】
実験条件は、次の通りである。サンプルA~Eは、ダイス鋼SKD61で形成された12mm×12mm×5mmの直方体である。プロセスガスとしては、水素および窒素を等量含むものを用いた。バイアス電圧は189V、0.3Aとし、圧力350Pa、温度525℃という条件で5時間処理した。
【0029】
図3(a)は、上述の実験による結果である。サンプルA~Fのそれぞれについて、表面のビッカース硬さを、次のケース1~3で比較して示した。
ケース1は、補助スクリーンおよび補助正極がいずれも無い場合である。即ち、基本形状のスクリーンを用いて処理した場合の結果である。
ケース2は、補助スクリーン有り、補助正極無しの場合の結果である。
ケース3は、補助スクリーンおよび補助正極共に有りの場合の結果である。
【0030】
図示する通り、ケース1では、サンプルC、Fでは、ビッカース硬さが他のサンプルよりも有意に低い結果となっている。補助スクリーンが無い場合、サンプルC、Fとスクリーンとの間が治具によって遮蔽されていることから、他のサンプルに比較して、プラズマが到達し難いと考えられるからである。
ケース2では、サンプルA~Fの全てにおいてビッカース硬さが向上している。また、サンプルA~Fのビッカース硬さのバラツキの範囲も狭くなっていることがわかる。この意味で、補助スクリーンを用いることにより、全体にビッカース硬さを向上させることができるとともに、サンプルの載置場所による処理の偏りを軽減することができることがわかる。補助スクリーンの作用については完全に解明されている訳ではないが、補助正極を用いないとしても、プラズマを被処理材の近くに供給しやすい環境を作り出すことができる効果があるものと推測される。
ケース3では、補助スクリーン、補助正極を用いることにより、さらにビッカース硬さが向上するとともに、サンプルの載置場所による処理の偏りが軽減されている。ケース3では、補助正極と補助スクリーンとの間でもプラズマを発生させることができているものと考えられる。
【0031】
図4は、筒状の被処理材へのプラズマ窒化方法を示す説明図である。図4(b)に示すように、被処理材として高さ200mm、外径115mmの円筒状のワークを用いた。図4(a)に示すように、ワークの内部に補助スクリーンが挿入された状態で、プラズマ窒化装置内に設置される。
ワークには、上端から50、100、150mmの位置に、矩形の貫通孔を設け、図3と同一形状のサンプルを取り付けた。この状態で、プラズマ窒化処理を実行し、各サンプルのビッカース硬さを計測した。プラズマ窒化の処理条件は、図3で説明した実験と同じである。
【0032】
図5は、筒状の被処理材へのプラズマ窒化の結果を示す説明図である。図4で説明した実験における各サンプルのビッカース硬さを示した。
ケース1においては、上端から50mmのサンプルは、十分な硬さが得られているものの、上端から100、150mmのサンプルでは、極端にビッカース硬さが低減していることが判る。
これに対し、ケース2では、全体にビッカース硬さが向上するとともに、上端から50~150mmの各サンプルのバラツキも抑制されていることが判る。
そして、ケース3では、さらに全体にビッカース硬さが向上していることが判る。
【0033】
以上で示した通り、本実施例のプラズマ窒化システムによれば、補助スクリーンを用いることにより被処理材の加工結果を向上させることができる。また、その結果が不均一となることを緩和することが可能となる。
【0034】
D.スクリーンの変形例:
本実施例において補助スクリーンは、以下に示すように、種々の変形例を構成することができる。
図6は、スクリーン形状の変形例を示す説明図である。
図6(a)に示すように、被処理材を置く載置台16aの中央に孔を設け、その孔に至る程度に長い補助スクリーン13asをスクリーン本体13aの蓋体の中央に取り付けてもよい。補助正極12aも、同様に実施例よりも長くしてもよい。
図6(b)に示すように、2本以上の補助スクリーン13bsを、スクリーン本体13bの蓋体に取り付けてもよい。補助正極12bも、それぞれの補助スクリーン13bsの内部に設ける。
図6(c)に示すように、補助スクリーンを、スクリーン本体13cの側面に水平方向に設けても良い。補助正極12cも、それぞれの補助スクリーン内に設ける。このように水平方向に補助スクリーンを設置した場合、上下方向の中央付近が細くなっている被処理材Wを処理する際に、補助スクリーンを有効に活用して、均一に処理を施すこともできる。
これらに限らず、補助スクリーンの形状等は他にも任意に決めることができる。
【0035】
上述の実施例において説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、本発明は、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして実施することができる。また本発明は、さらに種々の変形例を実現することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、プラズマを利用して金属の被処理材の表面に窒化層を形成するためのプラズマ窒化装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 :プラズマ窒化装置
11 :容器
12 :正極
13 :スクリーン
14 :供給口
15 :排出口
16 :載置台
17 :アークセンサ
18 :温度センサ
19 :圧力センサ
20 :電源装置
21 :電源制御装置
22 :スクリーン電源回路
23 :バイアス電源回路
31 :窒素タンク
32 :水素タンク
33 :アルゴンタンク
34 :バルブ
35 :バルブ
36 :バルブ
37 :流量センサ
38 :流量センサ
39 :流量センサ
40 :制御装置
41 :プロセスメイン制御部
42 :プロセスガス制御部
43 :プロセス条件入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6