(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128673
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】荷物締結装置、制御プログラム及び飛行体
(51)【国際特許分類】
B66C 1/34 20060101AFI20220829BHJP
B64C 27/04 20060101ALI20220829BHJP
B64D 9/00 20060101ALI20220829BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B66C1/34 M
B64C27/04
B64D9/00
B64C39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027025
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】519015117
【氏名又は名称】株式会社SkyDrive
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓弥
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004AA01
3F004CD02
(57)【要約】
【課題】部品への負担軽減が可能となり、従来よりも軽量な部品を採用することができ、ひいては装置全体を軽量化することができる荷物締結装置等を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、ワイヤの一端に荷物を締結可能な荷物締結装置が提供される。この荷物締結装置は、回転構造体と、動力伝達部とを備える。回転構造体は、第1の回転構造体と、第1の回転構造体とは異なる第2の回転構造体とである。動力伝達部は、回転構造体の一方が回転すると回転構造体の他方が回転するように、回転構造体どうしを力学的に接続させる。閾値以上の荷重がかかると、回転構造体どうしの力学的な接続を解除するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの一端に荷物を締結可能な荷物締結装置であって、
回転構造体と、動力伝達部とを備え、
前記回転構造体は、第1の回転構造体と、前記第1の回転構造体とは異なる第2の回転構造体とであり、
前記動力伝達部は、
前記回転構造体の一方が回転すると前記回転構造体の他方が回転するように、前記回転構造体どうしを力学的に接続させ、
閾値以上の荷重がかかると、前記回転構造体どうしの力学的な接続を解除するように構成される、
もの。
【請求項2】
請求項1に記載の荷物締結装置において、
前記ワイヤを介して、前記荷物の重力を少なくとも含む力によって、前記第2の回転構造体を回転させようとする力が生じるように構成される、
もの。
【請求項3】
請求項2に記載の荷物締結装置において、
前記解除状態では、前記第2の回転構造体は、前記荷物の重力を少なくとも含む力によって空転可能となる、
もの。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の荷物締結装置において、
前記動力伝達部は、ロック機構をさらに備え、
前記ロック機構は、前記回転構造体の少なくとも一方が回転しようとする力を係止して、前記回転構造体の回転を規制する、
もの。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の荷物締結装置において、
前記第1の回転構造体は、モータであり、電力により回転駆動するように構成され、
前記第2の回転構造体は、ウィンチ機構であり、前記モータから動力を受けることで、前記ワイヤを巻上げ又は巻下げ可能に回転するように構成される、
もの。
【請求項6】
請求項5に記載の荷物締結装置において、
前記動力伝達部は、荷重逃し機構を備え、
前記荷重逃し機構は、
前記ワイヤが巻き上げられる方向への前記ウィンチ機構の回転力を、前記モータに伝達させ、
前記解除状態において、前記ワイヤが巻き下げられる方向への前記ウィンチ機構の回転力を、前記モータに伝達させない、
もの。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の荷物締結装置において、
制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記閾値を設定可能に構成される、
もの。
【請求項8】
制御プログラムであって、
コンピュータを請求項1~請求項7の何れか1つに記載の荷物締結装置における制御部として機能させる、
もの。
【請求項9】
飛行体であって、
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の荷物締結装置を備え、
前記荷物締結装置が有するワイヤの一端に荷物を締結し、これを運搬可能に構成される、
もの。
【請求項10】
請求項9に記載の飛行体において、
前記飛行体は、無人飛行体である、
もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物締結装置、制御プログラム及び飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローン等の飛行体が荷物の搬送に利用されつつある。一例として、ウィンチ機構等を含む装置を備える飛行体を用意し、荷物をワイヤで懸吊して飛行体で搬送する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のような搬送方法では、天候状態といった外部環境によって装置に過度な荷重がかかることがある。そのため、特許文献1に開示されるような装置を実施するにあたり、構成する部品の頑健性を担保する必要があり、部品の質量が大きくなりやすい。その結果、装置及びこれを含む飛行体の質量が大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、部品への負担軽減が可能となり、従来よりも軽量な部品を採用することができ、ひいては装置全体を軽量化することができる荷物締結装置等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ワイヤの一端に荷物を締結可能な荷物締結装置が提供される。この荷物締結装置は、回転構造体と、動力伝達部とを備える。回転構造体は、第1の回転構造体と、第1の回転構造体とは異なる第2の回転構造体とである。動力伝達部は、回転構造体の一方が回転すると回転構造体の他方が回転するように、回転構造体どうしを力学的に接続させる。閾値以上の荷重がかかると、回転構造体どうしの力学的な接続を解除するように構成される。
【0007】
本開示によれば、部品への負担軽減が可能となり、従来よりも軽量な部品を採用することができ、ひいては装置全体を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図2の状態から、側面筐体31と、ブリッジ32とを取り外した態様を示す斜視図である。
【
図4】マイコン8のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】荷物Lの運搬開始時における荷重逃し機構73の流れを示すフローチャートである。
【
図6】荷物Lの運搬終了時における荷重逃し機構73の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバーからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0011】
また、本実施形態において「部」又は「手段」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、電圧・電流といった信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0012】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0013】
1.構造
本節では、本実施形態に係る飛行体1の構造について説明する。
図1は、飛行体1の構成を表す概念図である。好ましくは、飛行体1は、無人飛行体である。より具体的には、飛行体1は、ドローン2であり、これが荷物締結装置3を備えることで、荷物Lを搬送するものとする。換言すると、飛行体1は、荷物締結装置3が有するワイヤWの一端に荷物Lを締結し、これを搬送可能に構成されている。以下、各構成要素について詳述する。
【0014】
1.1 荷物L
図1に示されるように、荷物Lは、飛行体1によって懸吊されて搬送される。搬送する荷物Lの数量、質量、大きさ、形状、荷姿、内容物等の仕様は、飛行体1の用途、大きさ、バッテリ容量、動作環境温度、ホバリング精度等の仕様によって決定される。飛行体1の質量が大きいと、荷物Lの質量も大きくなる。荷物Lの荷姿は、搬送形態、搬送地域、荷物Lの質量等の状態によって適宜選択される。
【0015】
ここで、飛行体1の質量に対する荷物Lの総質量の比率、すなわち(荷物Lの総質量/飛行体1の質量)は、好ましくは、(荷物Lの総質量/飛行体1の質量)は、0.5以下であり、より好ましくは、0.3以下であり、さらに好ましくは、0.1以下であるとよい。具体的には例えば、0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.15,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.45,0.5,0.55,0.6,0.65,0.7,0.72,0.8,0.85,0.9であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0016】
1.2 ドローン2
図1に示されるように、ドローン2は、機体21と、プロペラ22と、アーム23とを備える。
【0017】
<機体21>
機体21は、ドローン2の略中央部に位置し、略柱体で中空な構造を有する。機体21の下部には、後述する荷物締結装置3(
図2及び
図3参照)が設けられている。機体21の内部には、不図示の電源ユニットと、後述のマイコン8(
図5参照)とが設けられる。マイコン8は、ドローン2の飛行に関する制御を司るに限らず、荷物締結装置3に関する制御を司ることが好ましい。
【0018】
機体21の形状は、円柱、又は三角柱、四角柱等の多角柱といった柱体が好ましいが、ドローン2が安定的に飛行できるような形態であれば特に限定されるものではない。機体21の材質は、好ましくは、アルミニウム、マグネシウム合金等の金属であり、さらに好ましくは、プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等の非鉄金属である。また、機体21の材質は、軽量で高い強度と剛性を有するものが好ましい。機体21の大きさは、ドローン2の飛行速度、搬送する荷物の数量、質量、大きさ、形状、荷姿、内容物等の仕様によって適宜選択可能である。
【0019】
<プロペラ22>
プロペラ22は、不図示のモータからの動力を受け、回転可能に構成される。プロペラ22が回転することでドローン2が揚力を得て、飛行することができる。プロペラ22のブレード数は、3つ以上であれば特に限定されるものではない。
【0020】
プロペラ22は、すべて同一方向に回転可能であり、独立して回転することも可能である。後述するマイコン8の制御部83によって、不図示のモータの回転方向及び回転数が制御されることで、プロペラ22における回転方向及び回転数が制御されうる。これにより、ドローン2は、空中において上昇下降、前進後退又は旋回することができる。
【0021】
<アーム23>
アーム23は、プロペラ22を回転可能に支持するように構成され、機体21に直接接続されるように構成される。なお、機体21とアーム23は、一体的に成形されてよいし、各々別々の部品として接続されてもよい。
【0022】
具体的には、アーム23の他端には、不図示の軸受が取り付けられ、プロペラ22に嵌合された回転軸が当該軸受と回転可能となればよい。かかる回転軸の他端は、アーム23内にある不図示のモータ又は減速機の回転軸が、不図示の軸継手を介して連結される。モータがダイレクトドライブモータであれば、モータの回転軸にプロペラ22が直接嵌合されてもよい。
【0023】
好ましくは、アーム23の内部に伝送ケーブルが配線され、不図示のバッテリから電力が供給されるとよい。また好ましくは、かかる伝送ケーブルを介して、後述のマイコン8から電気信号が伝送されるとよい。これにより、アーム23の他端に係合されたプロペラ22が駆動制御されうる。
【0024】
1.3 荷物締結装置3
前述の通り、荷物締結装置3は、機体21の下部に設けられている。荷物締結装置3は、ワイヤWの一端に荷物Lを締結可能な荷物締結装置3である。
図1においては、荷物締結装置3が不図示ではあるものの、機体21の下部から荷物締結装置3が備えるワイヤWが垂下し、その一端に締結された荷物Lが搬送される態様が示されている。
【0025】
図2は、荷物締結装置3の外観を示す斜視図である。
図3は、
図2の状態から、側面筐体31と、ブリッジ32とを取り外した態様を示す斜視図である。なお、説明にあたって、
図2及び
図3に示される座標系に基づいて、方向を定義することとする。具体的には、x軸に沿う方向を前後方向と定義し、+x軸方向を後方向、-x軸方向を前方向とする。y軸に沿う方向を左右方向と定義し、+y軸方向を左方向、-y軸方向を右方向とする。z軸に沿う方向を上下方向と定義し、+z軸方向を上方向、-z軸方向を下方向とする。
【0026】
荷物締結装置3は、側面筐体31と、ブリッジ32と、平板33とを備えている。
図2に示されるように、側面筐体31は、左側側面筐体31Lと、右側側面筐体31Rとから構成される。それぞれの側面筐体31は、中空構造を有し、その内部に、動力受けギヤ71等を含む動力伝達部7が設けられる。
【0027】
ブリッジ32は、荷物締結装置3の前側において、左側側面筐体31Lと、右側側面筐体31Rとを連結するように左右に延在して構成される。このように、左側側面筐体31Lと、右側側面筐体31Rとを接続することで、荷物締結装置3の強度を高めることができる。なお、軽量化を目的として、ブリッジ32を小型してもよいし、ブリッジ32に孔やヌスミを設けてもよいし、ブリッジ32を省略してもよい。
【0028】
平板33は、直方体形状を有し、荷物締結装置3の下側において、左側側面筐体31Lと、右側側面筐体31Rとを連結するように左右に延在して構成される。このように、左側側面筐体31Lと、右側側面筐体31Rとを接続することで、荷物締結装置3の強度を高めることができる。また、平板33を設置面として、ドローン2における機体21の下部に取り付けられるとよい。かかる場合は、
図2及び
図3に示される態様と上下方向が逆になるので留意されたい。
【0029】
また、
図2及び
図3に示されるように、荷物締結装置3は、回転構造体4と、動力伝達部7とを備える。回転構造体4は、自身の有する回転軸を中心に回転可能に構成される構造体である。本実施形態では、回転構造体4は、第1の回転構造体及び第1の回転構造体とは異なる第2の回転構造体から構成されるものとする。
【0030】
より具体的には、第1の回転構造体は、モータ5であり、不図示のバッテリから供給される電力により回転駆動するように構成される。換言すると、バッテリから供給された電気エネルギーが力学的エネルギーに変換されることで、モータ5の先端部が回転駆動する。モータ5の先端部には、ピニオンギヤ51が設けられるとよい。ピニオンギヤ51が後述する動力伝達部7の一部である動力受けギヤ71と嵌合することによって、ピニオンギヤ51の回転動力が動力伝達部7の一部である動力受けギヤ71及び後続する各部材に伝達される。モータ5は、例えば直流電源によって回転駆動可能なDCモータである。また、DCモータは、例えばブラシ付きモータであり、好ましくは、ブラシレスモータであるとよい。
【0031】
また、第2の回転構造体は、ウィンチ機構6であり、後述の動力伝達部7を介して、モータ5から動力を受けることで、ワイヤWを巻上げ又は巻下げ可能に回転するように構成される。ウィンチ機構6は、ワイヤWを巻き取る胴部61と、胴部61の両側に形成された一対のフランジ部62,63と、回転中心を含むシャフト64とを備えている。
【0032】
シャフト64は、左右に延在し、軸受65によって回転可能に支持されている。また、シャフト64の周りに胴部61が設けられ、胴部61の両側に一対のフランジ部62,63が形成されている。すなわち、シャフト64が回転することで、これと接続された胴部61及びフランジ部62,63がともに回転することとなる。胴部61は、角のない円筒状に形成されているため、ワイヤWの巻上げ又は巻下げに際して、ワイヤWにかかる負荷を極力低いものとすることができる。また、フランジ部62,63が設けられることで、巻き付いているワイヤWが胴部61から外れてしまうことを防止している。
【0033】
動力伝達部7は、例えばシャフト74やギヤ75等の複数の部材が嵌合しあう構造体である。なお、
図3に示される部材の配置は、あくまでも一例であってこの限りではない。動力伝達部7は、回転構造体4の一方が回転すると回転構造体4の他方が回転するように、回転構造体4どうしを力学的に接続させている。
【0034】
具体的には例えば、動力受けギヤ71においてモータ5のピニオンギヤ51から受け取った回転動力を、ギヤ753に伝達させる。同様に、動力受けギヤ71においてモータ5のピニオンギヤ51から受け取った回転動力を、シャフト74を介してギヤ751に伝達させる。また、ギヤ753は、当該回転動力を、荷重逃し機構73の一部であるギヤ732に伝達させる(詳細は後述)。ギヤ732は、当該回転動力を同軸に位置する胴部61に伝達させる。同様に、ギヤ751は、当該回転動力をギヤ752に伝達させる。ギヤ752は、当該回転動力を胴部61と同軸に位置する不図示のギヤを介して、胴部61に伝達させる。このような態様により、モータ5の回転動力をウィンチ機構6に伝達させることができる。
【0035】
飛行体1の飛行中には、原則的にはウィンチ機構6によるワイヤWの巻上げ又は巻下げが行われないため、好ましくは、巻上げ又は巻下げを引き起こす回転が規制されるとよい。一方で、荷物Lを懸吊して搬送するにあたっては、ワイヤWを介して、荷物Lの重力を少なくとも含む力Fによって、ウィンチ機構6を回転させようとする力が生じるように構成されている。このような力Fによる回転を規制するように、動力伝達部7は、不図示のロック機構をさらに備えてもよい。ロック機構は、回転構造体4の少なくとも一方が回転しようとする力を係止して、回転構造体4の回転を規制する。具体的には、ウィンチ機構6が回転しようとする力(例えば力Fに起因)を、ギヤ75の何れかに対するロック機構の物理的干渉により受け止め、ウィンチ機構6及びこれに力学的に接続されたモータ5の回転を規制することが好ましい。ロック機構の形態は特に限定されず、例えばメカロックや電子ロックが適宜採用されうる。
【0036】
しかしながら、天候や障害物への引っ掛かりといった外乱によっては、このロック機構やギヤ75の何れかに過度な負荷がかかることになる。そこで本実施形態では、動力伝達部7は、自身の一部に閾値以上の荷重がかかると、回転構造体4どうしの力学的な接続を解除するように構成されている。この解除状態では、ウィンチ機構6が動力伝達部7を介してモータ5を回転させようとする力が回避される。つまり、解除状態では、ウィンチ機構6は、荷物Lの重力を少なくとも含む力Fによって空転可能となる。
【0037】
より具体的には、動力伝達部7は、荷重逃し機構73を備えている。荷重逃し機構73は、ワイヤWが巻き上げられる方向へのウィンチ機構6の回転力を、モータ5に伝達させる。荷重逃し機構73は、解除状態において、ワイヤWが巻き下げられる方向へのウィンチ機構6の回転力を、モータ5に伝達させない。
【0038】
より具体的には、荷重逃し機構73は、クラッチ731と、ギヤ732とを備えている。クラッチ731は、ウィンチ機構6の胴部61と同軸に接続され、胴部61が回転することで、回転動力が入力される。また、クラッチ731は、入力された回転動力の回転方向により、ギヤ732との嵌合の態様が変化するように構成される。すなわち、クラッチ731が、ワイヤWが巻き上げられる方向への回転動力を受け付けた場合には、ギヤ732と嵌合して動力を伝達させる。一方、クラッチ731が、閾値以上の、ワイヤWが巻き下げられる方向への回転動力を受け付けた場合には、ギヤ732に嵌合せず動力を伝達させない。なお、荷重逃し機構73の態様は一例であり、この限りではない。
【0039】
クラッチ731という汎用的な部材を採用することにより、解除状態において、ウィンチ機構6の回転動力をモータ5に伝達させないため、ロック機構やロック機構と干渉するギヤ75の何れかにかかる負荷を抑制することができる。なお、ウィンチ機構6が空転可能な状態となると、動力伝達部7、例えばロック機構やギヤ75の何れかにおける荷重が緩和されるため、系の時定数を経ると、解除状態が終了する。したがって、ウィンチ機構6の空転が持続して、荷物Lが落下することが起きないように設計されている。
【0040】
2.電気的構成
本節では、飛行体1の電気的構成について説明する。
図4は、マイコン8のハードウェア構成を示すブロック図である。マイコン8は、飛行体1の動作を制御するように構成される。マイコン8は、通信部81と、記憶部82と、制御部83とを有し、これらの構成要素が通信バス80を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
【0041】
通信部81は、マイコン8から種々の電気信号を外部の構成要素に送信可能に構成される。また、通信部81は、外部の構成要素からマイコン8への種々の電気信号を受信可能に構成される。さらに好ましくは、通信部81がネットワーク通信機能を有し、これによりインターネット等のネットワークを介して、飛行体1と外部機器との間で種々の情報を通信可能に実施してもよい。
【0042】
記憶部82は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、制御部83によって実行される飛行体1に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部82は、制御部83によって実行される飛行体1に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0043】
制御部83は、例えば不図示のESC(Electric Speed Controller)や中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。制御部83は、記憶部82に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、飛行体1に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部82に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例である制御部83によって具体的に実現される。なお、制御部83は単一であることに限定されず、機能ごとに複数の制御部83を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。特に、ドローン2の飛行に関する制御部83と別異に、荷物締結装置3の動作制御のための制御部83が備えられるとよい。
【0044】
3.荷重逃し機構73
本節では、荷重逃し機構73について説明する。
【0045】
3.1 荷物Lの運搬開始時における荷重逃し機構73
図5は、荷物Lの運搬開始時における荷重逃し機構73の流れを示すフローチャートである。
【0046】
まず、ある作業者によってワイヤWの先端に、例えば不図示のフックを介して、所望の荷物Lが取り付けられる(ステップS001)。
【0047】
続いて、荷物Lを目的地まで搬送するために、飛行体1が荷物Lを懸吊しながらワイヤWの長さの調整を開始する(ステップS002)。
【0048】
荷物Lの重力を少なくとも含む力Fに基づいて、動力伝達部7には少なくとも荷重がかかることとなるが、例えば突風や障害物に引っかかるといったことで、ワイヤWが引っ張られて、閾値以上の荷重となることがある。
【0049】
ワイヤWに閾値以上の荷重がかかると、荷重逃し機構73におけるクラッチ731が後段のギヤ732と嵌合しなくなり、入力された回転動力がギヤ732に伝達されなくなる。すなわち、解除状態が開始する(ステップS003)。したがって、荷物Lの重力を少なくとも含む力Fによって、ウィンチ機構6が空転可能な状態となる。
【0050】
系の時定数時間が経過すると、荷重逃し機構73におけるクラッチ731が後段のギヤ732と嵌合し、入力された回転動力がギヤ732に伝達されるようになる。すなわち、解除状態が終了する(ステップS004)。
【0051】
ワイヤWの長さが、適宜ウィンチ機構6の巻取りによって、好ましい長さに調整されると、飛行体1は目的地への移動を開始する(ステップS005)。
【0052】
以上のような態様及び方法によれば、動力伝達部7におけるギヤ732からモータ5までの全ての部品(ギヤ753、ギヤ71、ピニオンギヤ51等を含む)への負担軽減が可能となり、従来よりも軽量な部品を採用することができ、ひいては荷物締結装置3の全体を軽量化することができる。これにより、飛行体1を軽量化することができ、省エネルギー化を期待することができる。
【0053】
3.2 荷物Lの運搬終了時における荷重逃し機構73
続いて、荷物Lの運搬開始時における荷重逃し機構73を説明する。
図6は、荷物Lの運搬終了時における荷重逃し機構73の流れを示すフローチャートである。
【0054】
飛行体1が目的地に到着すると、荷物Lを目的の場所に設置するために、飛行体1が荷物Lを懸吊しながらワイヤWの長さの調整を開始する(ステップS101)。
【0055】
このとき、ワイヤWに閾値以上の荷重がかかると、荷重逃し機構73におけるクラッチ731が後段のギヤ732と嵌合しなくなり、入力された回転動力がギヤ732に伝達されなくなる。すなわち、解除状態が開始する(ステップS102)。したがって、荷物Lの重力を少なくとも含む力Fによって、ウィンチ機構6が空転可能な状態となる。
【0056】
系の時定数時間が経過すると、荷重逃し機構73におけるクラッチ731が後段のギヤ732と嵌合し、入力された回転動力がギヤ732に伝達されるようになる。すなわち、解除状態が終了する(ステップS103)。
【0057】
ワイヤWの長さが、適宜ウィンチ機構6の巻取りによって、好ましい長さに調整されると、ある作業者によってワイヤWの先端から荷物Lが取り外される(ステップS104)。
4.その他
本実施形態に係る飛行体1に関して、以下のような態様を採用してもよい。
【0058】
(1)制御部83が、記憶部82に記憶されたプログラムを読み出すことで、解除状態を決定する荷重の閾値を設定可能に構成されてもよい。かかる閾値は、記憶部82に適宜記憶されてもよい。具体的には例えば、荷重逃し機構73に、電圧を付加することで力学的特性ができる部材を設け、制御部83によってかかる部材に負荷する電圧を制御すればよい。このような部材の一例としては、バネ定数可変式磁気バネ装置等が挙げられる。これにより、力Fの大きさを調節し、荷重逃し機構73にかかる負荷を変化させることで、閾値を設定することができる。
【0059】
(2)動力伝達部7におけるロック機構を設けずに、モータ5の制御によって回転構造体4の回転を規制するように実施してもよい。具体的には、ウィンチ機構6と動力伝達部7を介して力学的に接続されたモータ5の回転を規制するように、例えば荷物締結装置3における制御部83によって制御がかけられてもよい。
【0060】
(3)上記の制御部83による閾値の設定や電子ロックのオンオフ等に関連し、コンピュータを荷物締結装置3における制御部83として機能させる制御プログラムが提供されてもよい。
【0061】
(4)回転構造体4に関して、第1の回転構造体をモータ5、第2の回転構造体をウィンチ機構6であるものとして説明したが、荷物Lを搬送に関する任意の回転機構が採用されてもよい。特にモータ5に代えて、電力以外の回転装置が用いられてもよい。また、電力に代えて手動で回転構造体4を回転させるように実施されてもよい。
【0062】
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記荷物締結装置において、前記ワイヤを介して、前記荷物の重力を少なくとも含む力によって、前記第2の回転構造体を回転させようとする力が生じるように構成される、もの。
前記荷物締結装置において、前記解除状態では、前記第2の回転構造体は、前記荷物の重力を少なくとも含む力によって空転可能となる、もの。
前記荷物締結装置において、前記動力伝達部は、ロック機構をさらに備え、前記ロック機構は、前記回転構造体の少なくとも一方が回転しようとする力を係止して、前記回転構造体の回転を規制する、もの。
前記荷物締結装置において、前記第1の回転構造体は、モータであり、電力により回転駆動するように構成され、前記第2の回転構造体は、ウィンチ機構であり、前記モータから動力を受けることで、前記ワイヤを巻上げ又は巻下げ可能に回転するように構成される、もの。
前記荷物締結装置において、前記動力伝達部は、荷重逃し機構を備え、前記荷重逃し機構は、前記ワイヤが巻き上げられる方向への前記ウィンチ機構の回転力を、前記モータに伝達させ、前記解除状態において、前記ワイヤが巻き下げられる方向への前記ウィンチ機構の回転力を、前記モータに伝達させない、もの。
前記荷物締結装置において、制御部をさらに備え、前記制御部は、前記閾値を設定可能に構成される、もの。
制御プログラムであって、コンピュータを前記荷物締結装置における制御部として機能させる、もの。
飛行体であって、前記荷物締結装置を備え、前記荷物締結装置が有するワイヤの一端に荷物を締結し、これを運搬可能に構成される、もの。
前記飛行体において、前記飛行体は、無人飛行体である、もの。
もちろん、この限りではない。
【0063】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 :飛行体
2 :ドローン
21 :機体
22 :プロペラ
23 :アーム
3 :荷物締結装置
31 :側面筐体
31L :左側側面筐体
31R :右側側面筐体
32 :ブリッジ
33 :平板
4 :回転構造体
5 :モータ
51 :ピニオンギヤ
6 :ウィンチ機構
61 :胴部
62 :フランジ部
63 :フランジ部
64 :シャフト
65 :軸受
7 :動力伝達部
71 :動力受けギヤ
72 :荷重受けギヤ
73 :荷重逃し機構
731 :クラッチ
732 :ギヤ
74 :シャフト
75 :ギヤ
751 :ギヤ
752 :ギヤ
753 :ギヤ
8 :マイコン
80 :通信バス
81 :通信部
82 :記憶部
83 :制御部
F :力
L :荷物
W :ワイヤ