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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128694
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】無線伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/00 20060101AFI20220829BHJP
   H04B 17/318 20150101ALI20220829BHJP
【FI】
H04L27/00 A
H04L27/00 B
H04B17/318
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027052
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大季
(57)【要約】
【課題】高精度な伝送マージンを算出することが可能な無線伝送システムを提供する。
【解決手段】本例の無線伝送システムでは、受信装置(FPU受信部)が、反射波強度と伝送マージンの特性データとを予め対応付けて記憶しており、反射波強度算出部7にて、伝送路推定の結果に基づいて反射波強度MSを算出し、マージン算出部12にて、当該算出した反射波強度MSに対応する特性データに基づいて伝送マージンを算出する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、反射波強度と伝送マージンの特性データとを予め対応付けて記憶しており、伝送路推定の結果に基づいて反射波強度を算出し、当該算出した反射波強度に対応する特性データに基づいて伝送マージンを算出することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線伝送システムにおいて、
前記伝送マージンの特性データは、受信信号強度、変調誤差比、相互情報量のいずれかの指標と伝送マージンとの関係を示すデータであり、
前記受信装置は、受信信号強度、変調誤差比、相互情報量のいずれかの指標を算出し、当該算出した指標を前記算出した反射波強度に対応する特性データに照らして伝送マージンを算出することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、時間領域の反射波強度を算出することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、周波数領域の反射波強度を算出することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項5】
送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送方法において、
前記受信装置が、反射波強度と伝送マージンの特性データとを予め対応付けて記憶しており、伝送路推定の結果に基づいて反射波強度を算出し、当該算出した反射波強度に対応する特性データに基づいて伝送マージンを算出することを特徴とする無線伝送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放送局では、FPU(Field Pickup Unit)と称する無線伝送装置を用いて、音声や映像を現場から放送局まで無線中継している。FPUは、送受信間に遮蔽物が無い良好な見通し環境や、見通し外で反射波が多く混入するような劣悪環境など、様々な伝搬環境で運用される。また、FPUは生中継で運用されることも多く、伝送エラーによる映像破綻が生じるとテレビの視聴に影響を与えてしまうため、伝送エラーが生じてはならない。そのため、伝送エラーまでの伝送マージンを正確に把握し、フェージングなどの急激な伝搬路変動にも耐えられるように、所定のマージンを確保しながら運用を行っている。
【0003】
この伝送マージンは、受信信号強度を示すRSSI(Received Signal Strength Indicator)やMER(Modulation Error Ratio;変調誤差比)に基づいて算出される。MERは、一般的には送信信号の変調精度指標であるが、伝搬路を経由した受信信号の受信精度にも用いられることが多い。MERは、下記の式(1)により算出される。すなわち、受信部での波形等化後の受信コンスタレーションをR(ω,t)とし(ここで、ωは周波数、tは時間を表す)、変調方式に基づいて判定した結果を理想的な送信信号であると仮定すると、受信コンスタレーションと判定結果の二乗誤差平均がMERとなる。
【0004】
【数1】
ここで、 ̄は平均を示し、DEC[ ]は所定の変調方式による判定関数を示す。
【0005】
無線通信で用いる指標の数値は、10-10 ~103 などと幅広い範囲である。このため、数値表現を扱い易くするために単位をdB(またはdBm)とすることが多く、上記のRSSIやMERの単位もdBm、dBで表現している。このように、運用を行う上ではdBの単位が扱い易く、伝送マージンの単位もdBとしている。
【0006】
伝送マージンの算出に関しては、これまでに種々の発明が提案されている。例えば、特許文献1には、受信信号から誤り訂正符号化の符号化ビットに対する対数尤度比を算出し、符号化ビットに対する対数尤度比に対して平均相互情報量を算出し、平均相互情報量と所要ビット誤り率を満たす復号部入力相互情報量もしくは復調物出力相互情報量から伝送マージンを算出する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/186000号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ARIB STD-B33 1.3版 テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形OFDM方式デジタル無線伝送システム
【非特許文献2】ARIB STD-B71 1.0版 超高精細度テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形マイクロ波帯OFDM方式デジタル無線伝送システム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記で示した伝送マージンは伝搬路環境によっては誤差が発生し、精度の良い伝送マージンを算出することは困難であった。以下、マージン誤差に関して詳細に説明する。
伝搬路が完全な見通し環境であれば、伝送劣化を生じさせる主要因は、受信部に設けられている低雑音増幅器(Low Noise Amplifier)によって生じる熱雑音である。このような環境は、AWGN(Additive White Gaussian Noise)と呼ばれている。AWGN環境では、下記の式(2)に示すように、RSSIやMERと復号後のBER(Bit Error Rate)とは一対一の関係である。このため、RSSIやMERを観測することで、BER特性を一意に推測することができる。
【0010】
【数2】
ここで、func1( )はRSSIとBERを対応付ける関数であり、func2( )はMERとBERを対応付ける関数である。
【0011】
しかしながら、上述したような見通し外伝送では、反射波が伝送特性に大きく影響を与えてしまう。例えば、反射波が混入すると、周波数帯域内でディップが生じてしまう周波数選択性フェージングが発生する。このディップの深さは、反射波のレベルによって異なる。反射波のレベルが直接波と同一になると、直接波と反射波が完全に相殺される周波数が存在し、その周波数は深いディップとなる。このディップによって受信の復調特性は大きく劣化し、その劣化量はディップの深さに大きく依存する。
このように、反射波環境では式(2)で示すような関数でBER特性を正確に推定することは困難であり、RSSIやMERを用いる従来のFPUでは伝送マージンに誤差が生じていた。
【0012】
ところで、非特許文献1に示すような従来のFPUでは、誤り訂正方式に畳み込み符号が用いられている。図2に示すように、畳み込み符号はCNR対BER特性が緩やかなカーブを呈し、畳み込み復号後のBERが10-4以下であれば、後続するRS復号によって疑似エラーフリーとなることが知られている。そのため、RSSIやMERを用いた誤差の多い伝送マージンは参考値として用いられ、伝送破綻までの伝送マージンの正確な把握には畳み込み復号後のBERが用いられていた。
【0013】
しかしながら、非特許文献2に示すような新しいFPUの規格では、誤り訂正符号にLDPC(Low Density Parity Check)が用いられている。図2に示すように、LDPCはBER特性のカーブが急峻であり、伝送破綻寸前までエラーフリーとなり、急に伝送破綻に陥ってしまう。このように、LDPCやターボ符号などの高度誤り訂正方式では、BER特性を観測しながら運用を行うことは困難という課題が生じる。
【0014】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、高精度な伝送マージンを算出することが可能な無線伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、無線伝送システムを以下のように構成した。
すなわち、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムにおいて、受信装置は、反射波強度と伝送マージンの特性データとを予め対応付けて記憶しており、伝送路推定の結果に基づいて反射波強度を算出し、当該算出した反射波強度に対応する特性データに基づいて伝送マージンを算出することを特徴とする。
【0016】
ここで、伝送マージンの特性データは、受信信号強度、変調誤差比、相互情報量のいずれかの指標と伝送マージンとの関係を示すデータであり、受信装置は、受信信号強度、変調誤差比、相互情報量のいずれかの指標を算出し、当該算出した指標を前記算出した反射波強度に対応する特性データに照らして伝送マージンを算出ようにしてもよい。
【0017】
また、受信装置は、時間領域の反射波強度を算出してもよく、周波数領域の反射波強度を算出してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高精度な伝送マージンを算出することが可能な無線伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る無線伝送システムの構成例を示す図である。
図2】畳み込み符号及びLDPCのCNR対BER特性を示す図である。
図3】MER対伝送マージンの特性を示す図である。
図4】相互情報量MI対マージンの特性を示す図である。
図5】遅延プロファイルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線伝送システムの構成例を示してある。本例の無線伝送システムは、送信装置及び受信装置を含むFPUとして実装される。送信装置(FPU送信部)は、誤り訂正符号部1と、変調部2と、送信高周波部3とを有する。受信装置(FPU受信部)は、受信高周波部4と、RSSI算出部5と、伝送路推定部6と、反射波強度算出部7と、復調部8と、MER算出部9と、誤り訂正復号部10と、MI算出部11と、マージン算出部12と、受信支援機能部13とを有する。
【0021】
FPUでは、主として映像、音声を伝送する。映像、音声の符号化データは、FPU送信部における誤り訂正符号部1に入力される。誤り訂正符号部1では、畳み込み符号やLDPC、ターボ符号などの誤り訂正符号化の処理が施される。誤り訂正符号化されたデータは、変調部2に入力される。変調部2は、シングルキャリア、OFDMなどの変調処理を行い、変調信号を生成する。その後、変調信号は送信高周波部3によってキャリア周波数に変換され、アンテナから電波として送出される。
【0022】
FPU送信部から送出された電波は、FPU受信部の受信アンテナに向かって伝搬する。このとき、受信アンテナで受信された電波には、受信アンテナに直接到達した直接波成分と、建物などに反射して直接波成分とは異なった伝搬経路を経由し、経路差分の遅延時間を伴って受信アンテナに到達する反射波成分とが存在することがある。前述したように見通し外環境では、反射波成分の割合が多くなることが多い。
【0023】
このような伝搬路を経由して受信アンテナに到達した信号は、受信高周波部4によってキャリア周波数から中間周波数に変換される。また、受信高周波部4に設けられているAGC(Automatic Gain Controller)において、受信電力RSSIを計測し、適切な信号電力になるように増幅度を調整する。RSSI算出部5では、この受信電力をRSSIとして算出する。一般的に、RSSIの単位としてdBmが用いられる。
【0024】
受信高周波部4から出力される受信信号は伝送路推定部6に入力され、送受信間の伝送路特性の推定に使用される。伝送路特性は、OFDMでは信号帯域内に挿入されているパイロットキャリアを周波数方向及び時間方向に内挿補間することや、フレーム先頭に付加されている既知のプリアンブル信号と受信プリアンブルとの相互相関演算することにより、推定することができる。伝送路特性は、時間、周波数で異なる。ここでは、伝送路推定結果をH^(ω,t)と定義する。ここで、^(ハット)は推定を意味し、ωは周波数、tは時間を表す。
【0025】
伝送路推定結果H^(ω,t)は、反射波強度算出部7及び復調部8に入力される。反射波強度算出部7については後述する。復調部8では、受信信号X(ω,t)と伝送路推定結果H^(ω,t)に基づいて送信信号を推定する復調処理を行う。復調処理では、ZF(Zero Forcing)方式やMMSE(Minimum Mean Square Error)方式などにより送信信号を推定し、推定結果から送信符号を推定する。例えば、ZF方式は、下記の式(3)に示すように受信信号X(ω,t)と推定伝送路特性H^(ω,t)から受信コンスタレーションR(ω,t)を算出する。
【0026】
【数3】
【0027】
ZFやMMSE以外にもMLD(Maximum Lilelihood Detection)方式がある。MLD方式は、下記の式(4)、式(5)に示すように、受信信号X(ω,t)と推定伝送路特性H^(ω,t)から算出した受信レプリカX^i (ω,t)との二乗誤差L(ω,t)が最も少なくなる受信信号レプリカX^min (ω,t)を検出し、その結果に基づいて復調を行う。
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
復調部8では、式(3)もしくは式(5)を用いて送信符号を推定する。送信符号の推定結果としては、受信信号が符号“0”もしくは符号“1”の尤もらしさを示すLLR(Log Likelihood Ratio)を用いることが多い。LLRは、その絶対値が大きいほど確からしいことを示す。
【0031】
復調部8で算出されたLLRは、誤り訂正復号部10に入力される。誤り訂正復号部10は、入力されたLLRから、誤り訂正符号部1に対応する誤り訂正復号方式を用いて、伝搬路で生じた符号誤りを訂正する。誤り訂正復号部10からは、再生された音声、映像の符号データが出力される。このようにして、FPUによる無線伝送が実現される。
【0032】
次に、MER算出部9とMI算出部11について説明する。MER算出部9とMI算出部11は、どちらも受信特性を示す指標を算出し、マージン算出部12に提供する。
MER算出部9では、受信コンスタレーションR(ω,t)を用いて、式(1)に示す演算式によりMERを算出する。あるいは、式(4)の最小受信レプリカ距離L(ω,t)を用いて、下記の式(6)に示す演算式であってもよい。
【0033】
【数6】
MERは、受信CNRに近い値となるため、伝送マージンを算出するための指標として用いられている。
【0034】
次に、MI算出部11では、誤り訂正復号部10に入力されたLLRを用いて、下記の式(7)により相互情報量MI(Mutula Information)を算出する。
【0035】
【数7】
【0036】
LLRに基づいて算出された相互情報量MIは、復調受信信号の信頼性を示しており、“0”から“1”の範囲で表現される指標である。相互情報量MIが“0”であれば符号誤りが多く、受信信号から何ら情報を得られていない状態を示し、“1”であれば符号誤りが全くない状態を示している。相互情報量MIは誤り訂正符号の復号特性と深い関係があり、EXIT(EXtrinsic Information Transfer)チャートと称する解析手法を用いることで、エラーフリーとなるための所要相互情報量を算出することができる。
【0037】
このように、相互情報量MIとBERは一対一の関係にあり、その関係性も高い精度で一致しているため、伝送マージンを算出するための指標として用いることができる。
以上説明した、RSSI算出部5にて算出したRSSI、MER算出部9にて算出したMER、MI算出部11にて算出した相互情報量MIは、いずれも受信特性を示す指標であり、マージン算出部12に入力されて、伝送マージンを算出するに用いられる。しかしながら、前述したように、これらの指標をdB単位のマージンとして用いる場合、AWGN環境と反射波環境ではその傾きが異なる。
【0038】
図3には、MER対伝送マージンの特性を示してある。反射波のないAWGN環境と反射波環境では、マージンが“0”となる所要MERも異なり、またその傾きも異なっている。
【0039】
図4には、図3と同様に、相互情報量MI対マージンの特性を示してある。相互情報量MIの場合は、反射波の有無に関わらず、所要相互情報量でマージンが“0”となる。しかしながら、反射波強度が強くなると、その傾きは急になるような特性を示す。ただし、所要相互情報量は、誤り訂正符号の特性により異なる。
【0040】
図3図4で示したように、反射波の強度によりマージンが“0”となる値や、マージンに対するカーブの傾きが異なる。そのため、本例のシステムでは、反射波強度算出部7によって算出された反射波強度に基づいて、マージン算出に使用するマージンカーブ(図3図4)を選択する。以下に、反射波強度算出部7について説明する。
【0041】
反射波強度算出部7には、伝送路推定部6で推定された伝送路特性H^(ω,t)が入力される。反射波強度MS(Multipath Strength)の算出の基本的な概念は、下記の式(8)のように表すことができる。すなわち、最も大きな信号電力を直接波成分PD とし、それ以外の反射波成分の総電力PR を反射波電力とすると、直接波成分PD と反射波成分の総電力PR の比が反射波強度MSとなる。
【0042】
【数8】
ここで、PRiは、i番目の反射波電力を示している。
【0043】
直接波成分PD と反射波成分PR の算出手法について、時間領域と周波数領域で算出する2つの方式について言及するが、それ以外の手法を用いても差し支えない。
まずは、時間領域の算出方法について説明する。図5は、遅延プロファイルを示している。遅延プロファイルは、信号電力と遅延時間の関係を表す。時間領域の直接波成分PD は、最も大きな信号電力成分とする。また、時間領域の反射波成分PR は、雑音による擾乱成分と区別するための閾値を上回る信号電力の総和とする。ただし、時間領域でパス分離可能な時間分解能は帯域幅の逆数の2~4倍程度であり、それ以下の遅延時間の反射波は分離することが困難という問題もある。
【0044】
次に、周波数領域の算出方法について説明する。ここでは、説明の簡略化のため、時間tについては省略する。周波数領域の直接波成分PD は、下記の式(9)に示すように、推定した伝送路特性H^(ω)の二乗平均とする。
【0045】
【数9】
【0046】
また、周波数領域の反射波成分PR は、下記の式(10)に示すように、伝送路特性H^(ω)の二乗から直接波成分PD を減算した値の二乗平均の平方根とする。式(9)では、伝送路特性H^(ω)の二乗平均を直接波成分PD として算出し、式(10)では、その標準偏差を反射波成分PR として算出している。
【0047】
【数10】
【0048】
周波数領域で算出する場合は、時間領域と比較して低遅延の反射波が混入する場合であっても、高精度に反射波強度MSを算出することができる。
以上の処理により反射波強度MSを算出し、図3図4に示したような、MSに対するマージン特性を選択し、MERやMIから伝送マージンを算出する。
【0049】
図3図4のようなマージン特性は、システム運用前のシミュレーションなどオフラインで算出することが可能であり、計算結果のデータが受信装置のメモリテーブルなどに設定される。メモリテーブルには、例えば、反射波強度MSの値に対応付けて、MERに対するマージン特性(図3)やMIに対するマージン特性(図4)などの特性データが記憶される。従って、システム運用時には、MERとMS、あるいはMIとMSに基づいてメモリテーブルを参照することで、容易に伝送マージンを算出することが可能である。なお、上記の説明ではMERやMIについて言及したが、RSSI算出部5にて得られるRSSIに関しても同様である。更に、上記の説明ではマージンの単位をdBとしていたが、dB以外の単位を用いても差し支えない。
【0050】
マージン算出部12にて算出された伝送マージンは、受信支援機能部13に入力される。受信支援機能部13では、入力された伝送マージンに従い、伝送破綻が生じる前に運用者にアラームを発報する。アラームの発報手法は、視覚的な情報や聴覚的な情報であってもよいし、所定のマージンを下回った場合には、伝送経路を切り替えるなどの電子的な情報であっても良い。
【0051】
以上のように、本例の無線伝送システムでは、受信装置(FPU受信部)が、反射波強度と伝送マージンの特性データとを予め対応付けて記憶しており(図3図4)、反射波強度算出部7にて、伝送路推定の結果に基づいて反射波強度MSを算出し、マージン算出部12にて、当該算出した反射波強度MSに対応する特性データに基づいて伝送マージンを算出するよう構成されている。このように、反射波強度に対応する特性データに基づいて伝送マージンの算出を行うことで、高精度な伝送マージンを算出することができる。このため、誤り訂正のBER特性が急峻であったとしても、BER特性を参照することなく伝送破綻までの伝送マージンを正確に把握することが可能となる。
【0052】
ここで、伝送マージンの特性データとしては、RSSI、MER、MIなどの指標と伝送マージンとの関係を表すデータを用いることができる。なお、RSSI、MER、MIの他に、反射波強度に応じて伝送マージンとの関係が変化する他の指標を用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。また、反射波強度は、時間領域で算出してもよく、周波数領域で算出してもよい。また、他の方式で反射波強度を算出してもよいし、これらの組み合わせを用いてもよい。
【0053】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された構成に限定されるものではなく、他の構成のシステムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0054】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:誤り訂正符号部、 2:変調部、 3:送信高周波部、 4:受信高周波部、 5:RSSI算出部、 6:伝送路推定部、 7:反射波強度算出部、 8:復調部、 9:MER算出部、 10:誤り訂正復号部、 11:MI算出部、 12:マージン算出部、 13:受信支援機能部

図1
図2
図3
図4
図5