(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128715
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】光学構造体の接合構造
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20220829BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220829BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220829BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G02B1/115
C23C14/06 R
C23C14/06 P
B32B7/023
B32B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027087
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 慎哉
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009AA04
2K009AA06
2K009CC03
2K009DD03
2K009DD04
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4K029BD09
4K029CA01
4K029CA05
(57)【要約】
【課題】カウンター膜を備えた光学構造体をカウンター膜側で光学基材に接着する際に界面の反射を防止するようにした光学構造体の接合構造を提供すること。
【解決手段】透明な基板2の一方の面に反射防止膜3を形成するとともに基板2の一方の面と対向する他方の面に透明なカウンター膜4を形成することで、膜応力のバランスを取った状態の反射防止フィルター1を作製し、反射防止フィルター1のカウンター膜4側を透明な基板6に透明な接着剤8によって接着する際にカウンター膜4と接着剤層9と基板6との間の屈折率の協調を取るようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板の一方の面に光学薄膜を形成するとともに前記基板の前記一方の面と対向する他方の面に透明なカウンター膜を形成することで、膜応力のバランスを取った状態の光学構造体を作製し、前記光学構造体の前記カウンター膜側を透明な光学基材に透明な接着剤によって接着する際に前記カウンター膜と接着剤層と前記光学基材との間の屈折率の協調を取るようにしたことを特徴とする光学構造体の接合構造。
【請求項2】
前記光学薄膜は反射防止膜であることを特徴とする請求項1に記載の光学構造体の接合構造。
【請求項3】
前記反射防止膜と前記カウンター膜は蒸着又はスパッタリングで成膜されることを特徴とする
【請求項4】
前記カウンター膜はSiO2層からなる単層膜であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光学構造体の接合構造。
【請求項5】
前記カウンター膜は多層膜構造とされ、複数の膜層を組み合わせることで屈折率の協調を取るようにしたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光学構造体の接合構造。
【請求項6】
前記カウンター膜は前記接着剤と接着されるSiO2層を有する交互多層膜であることを特徴とする請求項5に記載の光学構造体の接合構造。
【請求項7】
前記カウンター膜を構成する多層膜構造では最外層が内側の層の厚みよりも厚く構成されているようにしたことを特徴とする請求項5又は6に記載の光学構造体の接合構造。
【請求項8】
交互多層膜はSiO2層とAl2O3層とSiO2層の3層からなる膜構造を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の光学構造体の接合構造。
【請求項9】
前記カウンター膜と前記接着剤層との界面での反射率は屈折率が1.43~1.85において0.15以内に収まっていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の光学構造体の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学構造体の接合構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から光学構造体の表面に反射防止膜を形成したいという要請がある。反射防止膜は一般にガラス等の基板の表面に例えば蒸着やスパッタリングによって加熱下で成膜する。しかし、反射防止膜を形成させたい光学構造体、例えば偏光フィルター等では高温での加熱が不向きなものがある。そのために低温で反射防止膜を成膜しなければならないとすると反射防止膜の膜材料に制限ができることとなり、一般に低温で反射防止膜する場合には膜素材が限定されてしまったり成膜した場合にポーラス状の膜になってしまうことがあるため、これでは帯域が広く低反射で高品質な反射防止膜が得られにくくなってしまう。
また、反射防止膜を基板に蒸着させることで基板との関係で膜応力が発生する。例えば、表裏に反射防止膜を成膜した場合において光学構造体全体としては膜応力のバランスはとれるものの、反射防止膜と基板との間に発生する膜応力によって反射防止膜や基板が変形して剥がれてしまう可能性がある。
このような周辺事情において、反射防止膜を単独で基板に蒸着させ、反射防止膜を成膜させた光学構造体とし、この光学構造体を反射防止膜を必要とする他の光学構造体に接着させることで加熱の問題を解消するということが考えられるが、依然として膜応力の問題が残ることとなる。
そのため、反射防止膜を単独で加熱制限なく基板に蒸着させることで高品質な反射防止膜を成膜し、膜応力をキャンセルさせるためのカウンター膜を反射防止膜を成膜させた基板の反対側の面に形成して、膜応力のバランスをとり反射防止膜や基板が変形して剥がれてしまうことを防止することが考えられる。このようなカウンター膜によって膜応力をキャンセルする技術として特許文献1を示す。特許文献1では基板10の上と下にそれぞれ薄膜層を堆積させて基板10の両側の応力バランスを取る技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007-193357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1はあくまでも単独の光学構造体である。上記のように反射防止膜を備えた光学構造体は単独での使用は想定されておらず、少なくとも透明な光学基材と組み合わせて使用されるものであるため、単に応力バランスだけではなく層間での光学的な劣化を極力低減させる必要がある。特に、反射防止膜とそのカウンター膜を備えた光学構造体ではカウンター膜側で他の透明な光学基材と接着させるため、カウンター膜と接着剤層と光学基材との各層の界面での反射を防止させる必要がある。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的はカウンター膜を備えた光学構造体をカウンター膜側で光学基材に接着する際に界面の反射を防止するようにした光学構造体の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、第1の手段として、透明な基板の一方の面に光学薄膜を形成するとともに前記基板の前記一方の面と対向する他方の面に透明なカウンター膜を形成することで、膜応力のバランスを取った状態の光学構造体を作製し、前記光学構造体の前記カウンター膜側を透明な光学基材に透明な接着剤によって接着する際に前記カウンター膜と接着剤層と前記光学基材との間の屈折率の協調を取るようにした。
第2の手段として、前記光学薄膜は反射防止膜であるようにした。
第3の手段として、記反射防止膜と前記カウンター膜は蒸着又はスパッタリングで成膜されるようにした。
第4の手段として、前記カウンター膜はSiO2層からなる単層膜であるようにした。
第5の手段として、前記カウンター膜は多層膜構造とされ、複数の膜層を組み合わせることで屈折率の協調を取るようにした。
第6の手段として、前記カウンター膜を構成する多層膜構造では最外層が内側の層の厚みよりも厚く構成されているようにした。
第7の手段として、前記カウンター膜は前記接着剤と接着されるSiO2層を有する交互多層膜であるようにした。
第8の手段として、交互多層膜はSiO2層とAl2O3層とSiO2層の3層からなる膜構造を有するようにした。
第9の手段として、前記カウンター膜と前記接着剤層との界面での反射率は屈折率が1.43~1.85において0.15以内に収まっているようにした。
【0005】
上記各手段によれば、光学薄膜が成膜された基板にカウンター膜を成膜させることによって光学構造体は膜応力が抑制されて、光学薄膜や基板が変形して剥がれが生じにくくなり、この光学構造体をカウンター膜で光学基材に接着剤によって接着しても界面で発生する反射を軽減することができる。
上記において、「カウンター膜と接着剤層と光学基材との間の屈折率の協調を取る」とは、カウンター膜と接着剤層と光学基材が互いに同じ又は近似した屈折率で構成されていることである。また、「近似した屈折率」は、界面での反射が光学構造体の表面に成膜させた光学薄膜の光学性能を損なわない程度の屈折力である。
「光学薄膜」は、例えば、反射防止膜、反射増加膜、ハードコート膜等を用いることがよい。これら光学薄膜は例えば、蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング法等の乾式で成膜してもよく、例えばディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法等のいわゆる湿式で成膜してもよい
「反射防止膜」は、光の透過特性を変化させる膜であって、基材面の反射率に対して反射率を非常に低く設定した膜体である。反射防止膜は例えば誘電体薄膜として構成することがよい。その場合には単層の誘電体薄膜として構成することもでき、また、誘電体多層膜として構成することもできる。誘電体多層膜とする場合には誘電体薄膜の膜数、膜素材、膜厚を設計することによって反射光特性を自由に制御することが可能である。一般には低屈折率層、高屈折率層の交互層とすることが多い。多層膜の各構成膜層は、例えば金属、金属窒化物もしくは金属酸化物もしくは金属フッ化物、有機ケイ素化合等が用いられる。一例を挙げれば例えば高屈折率層にはアルミニウム,ジルコニウム,アンチモン,タンタル,チタン,錫,インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子を用い、低屈折率層としては例えば有機ケイ素化合物やSiO2の無機ケイ素化合物、、MgF2等を用いるようにして設計される。
「透明な基板」の素材としては、ガラス素材、プラスチック素材のどちらでも使用可能である。ガラス素材としては、ケイ酸化合物であるガラス一般、例えばソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスや石英ガラスがよい。プラスチック基材としては例えばポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)、セルロースアセテート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(アクリルガラス)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、ABS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、NBR樹脂、AS樹脂等が一例として挙げられる。
【0006】
「カウンター膜」は、成膜させた光学薄膜と基板との間で生じる膜応力による引っ張りあるいは圧縮による変形に対し逆方向への膜応力を発生させてキャンセルさせるためにその光学薄膜と対向する基板面に成膜させる膜体である。カウンター膜は光学薄膜として成膜される膜体と同じ成膜方法で成膜することがよい。光学薄膜が誘電体薄膜である場合にはカウンター膜も同じ誘電体薄膜で構成することがよい。光学薄膜が誘電体多層膜からなる反射防止膜であればカウンター膜も上記と反射防止膜と同様の多層膜の各構成膜層で成膜することがよい。
カウンター膜の成膜条件は光学薄膜と基板とカウンター膜の膨脹係数とそれら材料(素材)の有する固有の応力から定まる。また、材料の有する固有の応力は普遍的に引っ張りと圧縮の方向が決まっている場合もあれば、条件によって方向がかわる材料もあるため、計算で求めることは困難である。実際には光学薄膜と基板が決定された段階で予想されるカウンター膜の成膜条件で光学構造体を作製し、その光学構造体の膜応力が軽減されているかどうかをトライアンドエラーで膜厚を調整しながら下記の接着剤層との屈折率の協調を取りながら設計していく。光学薄膜とカウンター膜との厚みは中間に介在する基板の厚みも関連するが膜応力による反りや歪みを解消するためには光学薄膜に対する十分な厚みを有していることが必要であり、光学薄膜とカウンター膜の厚みの比は、光学薄膜:カウンター膜=1:0.5~1.5がよい。
光学薄膜とカウンター膜の比率は条件により変動する。光学薄膜の応力をキャンセルさせるために、カウンター膜としてSiO2の厚膜を成膜させることがよい。この膜厚は対向側に配置された光学薄膜のSiO2と同膜厚でスタートさせ、光学薄膜の構成内のSiO2以外の材料の膜応力により、カウンター膜のSiO2膜を増減させ、応力の調整を図るように設計していく。SiO2と同じ方向の応力であれば、SiO2の膜厚は増加する傾向となり、SiO2と逆方向の応力であれば膜厚は減少する傾向となる。
カウンター膜は単に対向する光学薄膜の膜応力に対するカウンターとして膜応力のバランスを取ることだけではなく、形成されたカウンター膜が接着剤層との界面で同じあるいは近似した屈折率に収まるように屈折率の協調を取る必要がある。つまり、膜応力を抑制することを主としてカウンター膜を成膜する代わりに接着剤層との界面での反射が大きすぎてはいけないし、逆に接着剤層との界面での反射を主とした結果十分なカウンター膜としての機能を光学構造体に与えられなくなってもいけない。理想的には膜応力がまったくなく、接着剤層との界面での反射もまったくないことがよいが、使用可能な範囲で膜応力による反りや歪みを解消できればよく、接着剤層との界面での反射も完全に解消できなくともよい。
【0007】
カウンター膜は、例えば、蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング法等の乾式で成膜してもよく、例えばディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法等のいわゆる湿式で成膜してもよい、特に蒸着又はスパッタリングで成膜することが基材との接着性がよい層を形成することができてよい。
カウンター膜の膜厚は成膜される反射防止膜との関係で応力のバランスがとれて、なおかつ接着剤との屈折率の協調を図る観点から設計されるため、カウンター膜単独で厚みが決定されるものではない。カウンター膜の対象となる光学薄膜の素材や膜厚に応じた膜厚とされる。
このようなカウンター膜の具体例としては、光学薄膜が反射防止膜である場合には例えばSiO2層からなる単層膜を使用することがよい。SiO2単層の場合では膜応力のバランスを取りやすく、かつ接着剤層との屈折率の協調も取りやすいからである。また、単層であるため成膜工程における作業も面倒にならない。
また、カウンター膜が多層膜構造であれば、複数の膜層を組み合わせることで屈折率の協調を取るようにすることがよい。
単独の膜体ではカウンター膜の素材としてはよくても、接着剤層の屈折率とは差が大きくなってしまう場合がある。そのため、多層膜化することで接着剤層の屈折率と協調を取りながらカウンター膜として好適な膜体を作製することが容易となるからである。このような主として最外層にカウンター機能を持たせ、内側の層で界面反射を低減させるための設計とすることができる。その場合にはSiO2で主としてカウンター膜としての応力バランスを取るようにし、SiO2以外の光学薄膜で接着剤層との屈折率の協調を取るように設計することがよい。
複層で構成される場合には低屈折率層、高屈折率層の交互層とがよい。カウンター膜が多層膜構造である場合において、接着剤と接着される最外層はSiO2層であることがよい。SiO2層は一般的なガラスからなる透明な光学基材の屈折率(1.50~1.75程度)より若干低い屈折率である(屈折率1.47)。つまり、低屈折率層を構成するものである。そのため、SiO2を最外層に配置することで、他の低い屈折率ではない層と組み合わせて全体として光学基材の屈折率に近い膜構造が設計しやすくなっている。
交互多層膜はSiO2層とAl2O3層とSiO2層の3層からなる膜構造を有することがよい。このような3層構造とすることで主として最外層にカウンター機能を持たせ、第1層及び第2層で界面反射を低減させるための設計とすることができる。そのため、カウンター膜の最外層は対向面側の光学薄膜の膜応力に対するカウンターとしての機能から他の構成層に比較して厚く構成される。
【0008】
「接着剤層」を構成する接着剤としては、透明で基板の屈折率と同じあるいは近似する性質のものであればよい。具体的には、紫外線硬化型の樹脂、電子線硬化型の樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が接着剤として使用可能である。
紫外線硬化型の樹脂接着剤としては、アクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸エステルのような単官能又は多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することがよい。また、これらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を用いるとよい。
熱硬化性樹脂接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリルメラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エピスルフィド樹脂等を用いることができる。
熱可塑性樹脂接着剤としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂等を用いることがよい。
接着剤層は接着対象としての光学基材の屈折率と同じあるいは近似する必要がある。光学基材の屈折率は1.43~1.85であることがよい。接着剤層とカウンター膜と光学基材の屈折率はこの範囲において協調を取るように設計されることがよい。この範囲においてカウンター膜と接着剤層との界面での反射率が0.15以内に収まっていることがよい。反射率が0.15以内であれば界面での反射は許容できる範囲だからである。
本発明の光学構造体を、例えば、偏光フィルターの基板を光学基材として適用することが可能である。偏光フィルターに光学構造体を接着剤で接着する際には、偏光フィルターの片側あるいは両側に光学構造体を配置することも可能である。
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、光学薄膜が成膜された基板にカウンター膜を成膜させることによって光学構造体は膜応力が抑制されて、光学薄膜や基板が変形して剥がれが生じにくくなり、この光学構造体をカウンター膜で光学基材に接着剤によって接着しても界面で発生する反射を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態の反射防止フィルターの構成を模式的に表示した正面図。
【
図2】(a)は反射防止フィルターと偏光フィルターを模式的に表示した正面図、(b)は(a)の反射防止フィルターのカウンター膜に接着剤を塗布した状態の正面図、(c)は(b)の反射防止フィルターと偏光フィルターを接着した状態の正面図。
【
図3】実施例1~実施例4におけるカウンター膜と接着剤層の界面での分光反射率のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な光学構造体とこの光学構造体を光学基材に接着した接合構造について図及びグラフに基づいて説明する。
1.光学構造体について
図1に示すように、光学構造体である反射防止フィルター1は透明な基板2の第1の面2aに反射防止膜3が成膜され、第1の面2aの裏面となる第2の面2bにカウンター膜4が成膜されている。反射防止膜3及びカウンター膜4ともに蒸着処理によって形成された誘電体薄膜である。蒸着処理は公知の真空蒸着装置において作製される。図示しない基板ホルダに基板2をセットし、電子ビーム加熱法や抵抗加熱蒸着法の定石に従って調整された蒸発材料を加熱して、片面ずつ蒸着を実行して反射防止フィルター1を作製する。尚、トライアンドエラーの段階では先に反射防止膜3を成膜しその形状データを取得し、次いでカウンター膜4を成膜しその形状データを取得して形状変化の分析をするが、その結果カウンター膜4の設計が確立されれば、先にカウンター膜4を成膜させるような作製方法(製造方法)であってもよい。このようにカウンター膜4を成膜することで反射防止フィルター1の歪みや反り・歪みが軽減されることとなる。
【0012】
2.光学構造体の光学基材への接着について
図2に基づいて本実施の形態では偏光フィルター5に反射防止フィルター1を接着する場合を例として説明する。
図2(a)(b)に示すように、偏光フィルター5は光学基材としての透明な2枚の基板6によって偏光フィルム7が挟まれた構造とされている。
図2(b)に示すように、反射防止フィルター1は基板6あるいはカウンター膜4の少なくとも一方に接着剤8(
図2(b)ではカウンター膜4側)を塗布し、硬化させて
図2(c)のように接着剤層9で接合された反射防止フィルター1と偏光フィルター5の連結体が作製されることとなる。このとき、カウンター膜4と接着剤層9と基板6との間は屈折率の協調が取れているため、これらの界面で反射が生じにくくなっている。
【0013】
次に、上記のような実施の形態に基づいて設計し、作製した具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1における反射防止フィルターの構成は次の通りである。
厚み 1.3mm、屈折率 1.52のガラス基板(BK7)に対して、反射防止膜とカウンター膜を成膜させて反射防止フィルターを得た。反射防止膜の膜構成は表1の通りである。実施例1ではカウンター膜としては表2に示すようにSiO2の単層膜とした。SiO2単独の屈折率は1.475である。実施例1ではカウンター膜は厚み1330.00nmとした。この反射防止フィルターについて反り量を測定した。具体的には、成膜による応力によって基板に発生する「反り」を干渉計にて測定した。まず、反射防止膜のみを成膜させた状態で反り量を測定し、次いでカウンター膜を成膜させて反り量を測定する。応力により基板の中心から外方に向かってカーブ状に反ることになるため、カーブ上に反った際の最も高い箇所と低い箇所の絶対値での差を反り量とする。反り量が0に近いほど表裏の応力バランスが取れていることとなる。
この結果、実施例1ではカウンター膜を成膜する前では膜応力は9.42μmであったのが、カウンター膜成膜後では膜応力は1.32μm
となり、大幅に反り・歪み等が軽減されているのが確認された。
【0014】
【0015】
【0016】
次に、このように作製した反射防止フィルターと屈折率 1.52のガラス基板(BK7)に電気化学工業株式会社製のUV照射型接着剤OP-1080L(屈折率 1.544)を塗布し、上記反射防止フィルターをカウンター膜側から貼着し、UV照射にて硬化させ接着させた。
この時の分光反射率を
図3のグラフに示す。実施例1の同グラフにおける光学特性は「A」に相当する。
図3のグラフによれば、実施例1における接合構造ではカウンター膜と接着剤層との界面での反射率は可視光域において0.12以下に収まっており、反射防止フィルターとしての機能を阻害することはない。
【0017】
(実施例2)
実施例2では反射防止フィルターは実施例1と同じガラス基板を用い、実施例1と同じ反射防止膜を成膜させた。実施例2ではカウンター膜としては表2に示すようにSiO
2を最外層(第3層)とする3層膜とした。第2層をSiO
2よりも高い屈折率のAl
2O
3(屈折率 1.67)とした。SiO
2は最外層が他の2層に比べて極端に厚く構成されている(実施例では約40倍程度)。カウンター膜は主として最外層にカウンター機能を持たせるために他の膜に比較して厚く、第1層及び第2層で界面反射を低減させるための設計としている。実施例2では3つの層を組み合わせることで、カウンター膜全体として屈折率 1.52に近づけるように設計した。
実施例1と同様にこの反射防止フィルターについて反り量を測定し、良好な反り・歪みの軽減効果を得た。
次いで、実施例1と同様に屈折率 1.52のガラス基板(BK7)に電気化学工業株式会社製のUV照射型接着剤OP-1080L(屈折率 1.544)を塗布し、上記反射防止フィルターをカウンター膜側から貼着し、UV照射にて硬化させ接着させた。
この時の分光反射率を
図3のグラフに示す。実施例2の同グラフにおける光学特性は「B」に相当する。
図3のグラフによれば、実施例2における接合構造ではカウンター膜と接着剤層との界面での反射率は可視光域において0.05以下に収まっており、非常に優れた光学特性を示している。
【0018】
(実施例3)
実施例3でも反射防止フィルターは実施例1と同じガラス基板を用い、実施例1と同じ反射防止膜を成膜させた。実施例3ではカウンター膜としては表2に示すようにSiO
2を最外層とする3層膜とした。第2層をSiO
2よりも高い屈折率のTa
2O
5(屈折率 2.2)とした。実施例3でも3つの層を組み合わせることで、カウンター膜全体として屈折率 1.52に近づけるように設計した。
実施例1と同様にこの反射防止フィルターについて反り量を測定し、良好な反り・歪みの軽減効果を得た。
次いで、実施例1と同様に屈折率 1.52のガラス基板(BK7)に電気化学工業株式会社製のUV照射型接着剤OP-1080L(屈折率 1.544)を塗布し、上記反射防止フィルターをカウンター膜側から貼着し、UV照射にて硬化させ接着させた。
この時の分光反射率を
図3のグラフに示す。実施例4の同グラフにおける光学特性は「C」に相当する。
図3のグラフによれば、実施例3における接合構造ではカウンター膜と接着剤層との界面での反射率は可視光域において0.05以下に収まっており、非常に優れた光学特性を示している。
【0019】
(実施例4)
実施例4でも反射防止フィルターは実施例1と同じガラス基板を用い、実施例1と同じ反射防止膜を成膜させた。実施例4ではカウンター膜としては表2に示すようにSiO
2を最外層とする5層膜とした。第1、第3、第5の奇数位置の膜を低屈折のSiO
2膜とし、第2層と第4層をSiO
2よりも高い屈折率のTa
2O
5(屈折率 2.2)とした。
実施例1と同様にこの反射防止フィルターについて反り量を測定し、良好な反り・歪み等の軽減効果を得た。
次いで、実施例1と同様に屈折率 1.52のガラス基板(BK7)に電気化学工業株式会社製のUV照射型接着剤OP-1080L(屈折率 1.544)を塗布し、上記反射防止フィルターをカウンター膜側から貼着し、UV照射にて硬化させ接着させた。
この時の分光反射率を
図3のグラフに示す。実施例4の同グラフにおける光学特性は「D」に相当する。実施例4ではカウンター膜と接着剤層との界面での反射率は可視光域において概ね0.3以内に収まっているものの、上記各実施例よりも反射率のオーダーは一桁大きい。多層膜化が必ずしも反射率の低下に寄与しないことがわかる。
また、カウンター機能を与えるには反射防止膜の膜厚に応じた厚さをカウンター膜に与える必要があるが、上記各実施例の結果から、内層を薄くすることが反射率の低下に寄与することから相対的にカウンター機能と界面での反射を防止するためには、最外層を厚くすることがよいことがわかる。
【0020】
上記実施例は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施例のカウンター膜は、例示した反射防止膜に応じて設計したものである。反射防止膜の設計が変わることでカウンター膜の構成や厚さも上記以外で実施することが可能である。光学多層膜としては、上記実施例2~4は一例である。例えば上記以外の金属酸化物を含んだ交互膜層から構成するようにしてもよい。また、例えばSiO2以外の低屈折層を成膜させるようにしてもよい。
・上記実施例のガラス基板と接着剤層は同じ屈折率であったが、界面での反射が無視できる程度、つまり0.15以内であれば若干屈折率は異なってもよい。
・上記実施の形態では、偏光フィルター5に反射防止フィルター1を接着する場合を例として説明し、光学基材として基板6を例としたが、他の光学基材と反射防止フィルター1を接着してもよい。また、上記では偏光フィルター5の片面に反射防止フィルター1を接着して説明したが、両面でもよい。
【符号の説明】
【0021】
1…光学構造体としての反射防止フィルター、2…基板、3…光学薄膜としての反射防止膜、4…カウンター膜、6…光学基材としての基板、8…接着剤、9…接着剤層。