(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128752
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ウェハ温度調整装置、ウェハ処理装置およびウェハ温度調整方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20220829BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20220829BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 B
H01L21/265 603D
H01L21/324 Q
H01L21/324 R
H01L21/324 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027143
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】橋口 定央
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB03
5C101CC14
5C101FF02
5C101FF16
(57)【要約】
【課題】ウェハの温度を均一かつ迅速に調整する。
【解決手段】ウェハ温度調整装置100は、上面112と、上面112とウェハWの間隔dを所定範囲内に維持し、上面112とウェハWの間の第1空間118がウェハWの上方の第2空間120と連通した状態で、上面112の上方でウェハWを支持するウェハ支持機構114と、上面112の温度を調整するステージ104と、第1空間118および第2空間120に熱伝達ガスを供給するガス供給部106と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、
前記上面とウェハの間隔を所定範囲内に維持し、前記上面と前記ウェハの間の第1空間が前記ウェハの上方の第2空間と連通した状態で、前記上面の上方で前記ウェハを支持するウェハ支持機構と、
前記上面の温度を調整するステージと、
前記第1空間および前記第2空間に熱伝達ガスを供給するガス供給部と、を備えることを特徴とするウェハ温度調整装置。
【請求項2】
前記上面と前記ウェハの間隔は、0.1μm以上1,000μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項3】
前記熱伝達ガスの圧力は、1torr以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項4】
前記熱伝達ガスの圧力は、前記上面と前記ウェハの間隔よりも前記熱伝達ガスの平均自由行程が小さくなるように定められることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項5】
前記ウェハ支持機構は、前記上面から突出する複数の凸部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項6】
前記複数の凸部の形成面積は、前記上面の面積の50%以下であることを特徴とする請求項5に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項7】
前記複数の凸部の個数は、前記上面の1cm2の面積あたり0.01個以上10,000個以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項8】
前記複数の凸部の少なくとも一つは、前記ステージに着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項9】
前記上面および前記複数の凸部を有し、前記ステージに着脱可能な支持プレートを備えることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項10】
前記上面および前記複数の凸部は、前記ステージに一体的に形成されることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項11】
前記複数の凸部は、前記上面からの突出高さが可変であることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項12】
前記複数の凸部は、セラミック材料から構成されることを特徴とする請求項5から11のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項13】
前記複数の凸部は、樹脂材料から構成され、前記ステージは、セラミック材料または金属材料から構成されることを特徴とする請求項5から11のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項14】
前記ウェハを前記複数の凸部から離間させて支持するリフトピンと、
前記リフトピンを上下方向に駆動する駆動機構と、をさらに備えることを特徴とする請求項5から13のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項15】
前記ウェハ支持機構は、前記上面から前記ウェハに向けてガスを吹き付けて前記ウェハをガス圧で浮遊させるガス供給口を有することを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項16】
前記ステージの内部に設けられ、前記上面の温度を調整するための温度調整流体が流れる流路をさらに備えることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置。
【請求項17】
前記ウェハに対する処理がなされる真空処理室と、
前記真空処理室内での前記処理の前および後の少なくとも一方において、前記ウェハの温度を調整する請求項1から16のいずれか一項に記載のウェハ温度調整装置と、
前記ウェハ温度調整装置が設けられる温度調整室と、
前記真空処理室と前記温度調整室の間を密閉可能なゲートバルブと、
前記温度調整室内の圧力を低下させる真空排気装置と、を備えることを特徴とするウェハ処理装置。
【請求項18】
前記真空処理室と前記温度調整室の間に設けられる中間搬送室をさらに備え、
前記ゲートバルブは、前記中間搬送室と前記温度調整室の間に設けられることを特徴とする請求項17に記載のウェハ処理装置。
【請求項19】
前記温度調整室は、前記真空処理室に前記ウェハを搬入し、前記真空処理室から前記ウェハを搬出するためのロードロック室であり、
前記ロードロック室と大気雰囲気の間を密閉可能な別のゲートバルブをさらに備えることを特徴とする請求項17または18に記載のウェハ処理装置。
【請求項20】
上面の温度を調整することと、
前記上面とウェハの間隔を所定範囲内に維持し、前記上面と前記ウェハの間の第1空間が前記ウェハの上方の第2空間と連通した状態で、前記上面の上方で前記ウェハを支持することと、
前記第1空間および前記第2空間に熱伝達ガスを供給することと、を備えることを特徴するウェハ温度調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハ温度を調整する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においてウェハを処理する場合、処理前、処理中および処理後の少なくとも一つにおいて、ウェハを加熱または冷却することがある。例えば、ウェハの表面または裏面に対向してヒータを配置し、ヒータからの熱輻射によりウェハを加熱する方法がある。その他、ウェハを静電チャックに固定した状態で、ウェハの裏面に熱交換用のガスを供給することにより、ウェハの温度を調整する静電吸着機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウェハの加熱に熱輻射を利用する場合、輻射系の熱応答性が低いために加熱に時間がかかり、また、ウェハ面内の加熱を均一にしにくいという問題がある。また、ウェハを静電チャックで固定した状態でウェハの裏面に熱交換用のガスを供給する場合、静電チャックの吸着力を低下させる際にウェハの裏面に存在する熱交換用のガスの圧力によって静電チャック上でウェハが跳ね上がることがある。ウェハの跳ね上げを防止するためには、吸着力を全て解除する前にウェハの裏面のガスを十分に排出する必要があり、ガスの排出のために時間がかかる。ウェハの温度調整に時間がかかると、半導体製造工程の生産性が低下してしまう。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、ウェハの温度を均一かつ迅速に調整する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のウェハ温度調整装置は、上面と、上面とウェハの間隔を所定範囲内に維持し、上面とウェハの間の第1空間がウェハの上方の第2空間と連通した状態で、上面の上方でウェハを支持するウェハ支持機構と、上面の温度を調整するステージと、第1空間および第2空間に熱伝達ガスを供給するガス供給部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、ウェハ処理装置である。この装置は、ウェハに対する処理がなされる真空処理室と、真空処理室内での処理の前および後の少なくとも一方において、ウェハの温度を調整する上記態様のウェハ温度調整装置と、ウェハ温度調整装置が設けられる温度調整室と、真空処理室と温度調整室の間を密閉可能なゲートバルブと、温度調整室内の圧力を低下させる真空排気装置と、を備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、ウェハ温度調整方法である。この方法は、上面の温度を調整することと、上面とウェハの間隔を所定範囲内に維持し、上面とウェハの間の第1空間がウェハの上方の第2空間と連通した状態で、上面の上方でウェハを支持することと、第1空間および第2空間に熱伝達ガスを供給することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、ウェハの温度を均一かつ迅速に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るウェハ温度調整装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1のウェハ温度調整装置の概略構成を示す上面図である。
【
図3】ウェハ温度の調整時間を模式的に示すグラフである。
【
図4】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図5】
図4のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【
図6】実施の形態に係るウェハ搬送装置の概略構成を示す上面図である。
【
図7】ウェハ搬送装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】別の実施の形態に係るウェハ温度調整装置の概略構成を示す断面図である。
【
図9】さらに別の実施の形態に係るウェハ温度調整装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、ウェハ温度調整装置である。ウェハ温度調整装置は、真空処理室内で処理されるウェハの温度を処理前、処理中および処理後の少なくとも一つにおいて調整する。ウェハ温度調整装置は、例えば、真空処理室内でウェハを高温状態または低温状態で処理するために、処理の前にウェハを加熱または冷却するために用いられる。ウェハ温度調整装置は、高温状態または低温状態で処理されたウェハを室温または室温に近い温度に戻すために、処理の後にウェハを冷却または加熱するために用いられる。ここで、高温状態とは、室温よりも20℃以上、50℃以上または100℃以上高い状態をいい、低温状態とは、室温よりも20℃以上、50℃以上または100℃以上低い状態をいう。真空処理室内で処理されるウェハの温度は、例えば、-200℃~500℃の範囲で設定される。
【0014】
本実施の形態に係るウェハ温度調整装置は、従来に比べてシンプルな構造により、均一で迅速な温度調整を可能にする。ウェハ温度調整装置は、上面と、上面とウェハの間隔を所定範囲内に維持した状態でウェハを支持するウェハ支持機構と、上面の温度を調整するステージと、上面とウェハの間の空間に熱伝達ガスを供給するガス供給部とを備える。例えば、上面とウェハの間の間隔を所定範囲内(例えば10μm~30μm)に維持した状態で、上面とウェハの間の空間に5torr以上の熱伝達ガスを供給することにより、ステージとウェハの間の熱伝達を促進することができ、ウェハの温度を数秒程度の短時間で調整できる。
【0015】
本実施の形態では、ステージの上面とウェハの間だけではなく、ウェハの上方にも熱伝達ガスが供給されるため、ウェハの下側(裏面側)と上側(表面側)の間でガスの圧力差がない。その結果、ステージの上面とウェハを密着させて熱伝達ガスを閉じ込める必要がなく、ステージの上面とウェハを密着させるための静電チャックなどのウェハ固定装置が不要となる。つまり、ステージの上方にウェハを単純に配置した状態で、ウェハの温度を均一かつ迅速に調整できる。したがって、本実施の形態によれば、ウェハを固定するための複雑な構成が不要となり、ステージの上面にウェハを密着させることによりウェハが擦れるなどして生じる裏面パーティクルの増加も抑制できる。
【0016】
図1は、実施の形態に係るウェハ温度調整装置100の概略構成を示す断面図である。ウェハ温度調整装置100は、温度調整室98の内部に設けられる。ウェハ温度調整装置100は、支持プレート102と、ステージ104と、ガス供給部106と、ガス排出部108と、リフトアップ機構110とを備える。
【0017】
支持プレート102は、ステージ104の上に設けられる。支持プレート102は、上面112と、ウェハ支持機構114とを有する。ウェハ支持機構114は、上面112の上方でウェハWを支持し、上面112とウェハWの間隔dが所定範囲内に維持されるようにする。ウェハ支持機構114は、上面112とウェハWの間の第1空間118と、ウェハWの上方の第2空間120とが連通した状態でウェハWを支持する。
【0018】
上面112とウェハWの間の第1空間118には、ガス供給部106を通じて熱伝達ガスが供給される。第1空間118に存在する熱伝達ガスは、上面112とウェハWの間の熱伝達を促進する。例えば、ウェハWよりも上面112の温度が高い場合、ウェハWは、第1空間118に存在する熱伝達ガスを介して上面112から熱エネルギーを受け取る。これにより、ウェハWが加熱される。逆に、ウェハWよりも上面112の温度が低い場合、上面112は、第1空間118に存在する熱伝達ガスを介してウェハWから熱エネルギーを受け取る。これにより、ウェハWが冷却される。
【0019】
ウェハ支持機構114は、上面112から突出する複数の凸部116を有する。複数の凸部116のそれぞれの高さは、上面112とウェハWの間隔dに対応する。複数の凸部116のそれぞれの高さは、同じであることが好ましく、ウェハWの全面において上面112とウェハWの間隔dが一定となるように構成されることが好ましい。上面112とウェハWの間隔dは、0.1μm以上1,000μm以下であり、好ましくは、5μm以上100μm以下である。上面112とウェハWの間隔dは、例えば10μm~30μm程度である。上面112とウェハWの間隔dを適切に設定することで、ウェハWの温度をより短い時間で調整できる。具体的には、上面112とウェハWの間隔dを1,000μm以下に小さくすることで、対流が支配的な熱伝達ではなく、熱伝導が支配的な熱伝達とすることができ、熱伝達率を大幅に高めることができる。
【0020】
支持プレート102は、熱伝導性の高い材料で構成される。支持プレート102は、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)などのセラミック材料や、セラミックと金属を含む複合材料などで構成される。支持プレート102は、SiCのセラミック多孔体に金属シリコンを含浸させた複合材料で構成されてもよい。
【0021】
支持プレート102の上面112を構成する材料は、複数の凸部116を構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、上面112および複数の凸部116のそれぞれが熱伝導性の高いセラミック材料や、セラミックを含む複合材料などで構成されてもよい。なお、上面112のみが熱伝導性の高い材料で構成され、複数の凸部116が上面112よりも熱伝導性の低い材料で構成されてもよい。例えば、複数の凸部116は、ポリイミドやポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの合成樹脂材料で構成されてもよい。
【0022】
ステージ104は、支持プレート102を支持する。ステージ104は、支持プレート102と物理的に接触することで、支持プレート102の温度を調整し、支持プレート102の上面112が所望の温度となるようにする。ステージ104は、上面112の温度を調整するための温度調整流体が流れる流路122を有する。流路122に供給する温度調整流体の温度を調整することにより、ステージ104の温度を調整し、支持プレート102の上面112の温度を調整できる。ステージ104は、流路122に加えて、または代えて、温度調整用のヒータを含んでもよい。
【0023】
ステージ104は、熱伝導性の高い材料で構成される。ステージ104は、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)などのセラミック材料、アルミニウムやステンレスなどの金属材料、または、セラミックと金属を含む複合材料などで構成される。ステージ104は、支持プレート102と同じ材料で構成されてもよいし、支持プレート102とは異なる材料で構成されてもよい。
【0024】
支持プレート102は、ステージ104に着脱可能に取り付けられてもよい。つまり、ウェハ支持機構114および複数の凸部116は、ステージ104に着脱可能に取り付けられてもよい。支持プレート102は、ステージ104と一体的に形成されてもよい。例えば、ステージ104が上面112を有し、ステージ104の上面112から複数の凸部116が突出するよう構成されてもよい。この場合、複数の凸部116の少なくとも一つは、ステージ104の上面112に着脱可能に取り付けられてもよい。例えば、複数の凸部116の一部が上面112に着脱可能に取り付けられ、複数の凸部116の残りの一部が上面112と一体的に形成されてもよい。また、複数の凸部116の全てがステージ104の上面112に着脱可能に取り付けられてもよい。
【0025】
ガス供給部106は、温度調整室98の内部に熱伝達ガスを供給することにより、上面112とウェハWの間の第1空間118と、ウェハWの上方の第2空間120とに熱伝達ガスを供給する。ガス供給部106の取付位置は特に限られないが、例えば、温度調整室98を区画する壁に設けられる。ガス供給部106は、熱伝達ガスとして、乾燥空気、窒素ガス、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの希ガス、または、これらの混合物を供給する。
【0026】
ガス供給部106は、1torr以上、好ましくは5torr以上の圧力を有する熱伝達ガスを供給する。ガス供給部106は、第1空間118における上面112とウェハWの間隔dよりも、熱伝達ガスの平均自由行程λが小さくなる(つまり、d>λ)ような圧力の熱伝達ガスを供給する。熱伝達ガスの平均自由行程λは、λ=kBT/(√2πσ2P)と表される。ここで、kBはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、σは熱伝達ガスを構成する分子の直径であり、Pは熱伝達ガスの圧力である。
【0027】
例えば、室温(27℃)の窒素ガス(N2)の平均自由行程λは、圧力P=1torrの場合に約50μmであり、圧力が50torrの場合に約1μmである。上面112とウェハWの間隔dが1μmの場合、d>λの条件を満たす窒素ガスの圧力Pは50torr以上である。上面112とウェハWの間隔dが10μmの場合、d>λの条件を満たす窒素ガスの圧力Pは5torr以上である。d>λの条件を満たす熱伝達ガスを供給することにより、第1空間118において熱伝達ガスを構成する気体分子同士の衝突による熱伝導が支配的となるため、第1空間118における熱伝導を促進することができる。これにより、d>λの条件が満たされない場合に比べて、ウェハWの温度調整にかかる時間を短縮できる。
【0028】
熱伝達ガスの圧力Pについて、d>λの条件が満たされる場合、ウェハ温度調整装置100の上面112とウェハWの間の熱伝達は、上面112とウェハWの間隔dに応じて、熱伝導または対流が支配的となる。上面112とウェハWの間隔dが十分に大きい場合、例えばd>10,000μmとなる場合、上面112とウェハWの間の熱伝達は、対流が支配的となる。対流が支配的である場合、熱伝達率を高めるためには熱伝達ガスの流れを十分に速くしなければならない。しかしながら、熱伝達ガスの流れを高速化するためには熱伝達ガスを強制対流させる装置が必要となり、また、ウェハWが動かないようにウェハWを静電チャックなどで固定する必要があり、装置構成が複雑になる。一方、上面112とウェハWの間隔dが十分に小さい場合、例えばd≦1,000μmとなる場合、熱伝導が支配的な熱伝達となる。この場合、間隔dに反比例して上面112とウェハWの間の熱伝達率が上がるため、間隔dを小さくすることで熱伝達率を高めることができる。この場合、熱伝達率を高めるために熱伝達ガスを強制対流させる必要がない。
【0029】
例えば、上面112とウェハWの間隔dが10μmであり、熱伝達ガスとして供給される窒素ガスの圧力Pが5torrであり、上面112の温度が室温(27℃)であり、ウェハWの温度が200℃である場合、ウェハWの温度が200℃から室温になるまでにかかる時間は約10秒である。なお、熱伝達ガスの圧力Pを上げて平均自由行程λをさらに小さくすることで、ウェハWの温度調整にかかる時間をさらに短くすることができる。例えば、上面112とウェハWの間隔dを10μmとし、窒素ガスの圧力Pを10倍の50torrにした場合、つまり、d>10λの条件が満たされる場合、ウェハWの温度が200℃から室温になるまでにかかる時間は約1秒である。
【0030】
なお、熱伝達ガスの圧力Pは、クヌーセン数Kn=λ/dが0.01以下(つまり、d≧100λ)の条件を満たす粘性流領域に該当するように定められてもよい。また、間隔dおよび熱伝達ガスの圧力Pは、クヌーセン数Knが0.01~0.3(つまり、3.33λ<d<100λ)となる中間流領域に該当するように定められてもよい。間隔dおよび熱伝達ガスの圧力Pは、クヌーセン数Knが0.3以上(つまり、d≦3.33λ)となる分子流領域に該当するように定められてもよい。
【0031】
ガス供給部106は、大気圧(つまり、約760torr)の熱伝達ガスを供給してもよい。温度調整室98は、真空処理室と大気雰囲気の間でウェハを搬送するためのロードロック室であってもよい。温度調整室98がロードロック室である場合、ガス供給部106は、大気圧の熱伝達ガスを供給することにより、ロードロック室内の圧力が大気圧となるようにしてもよい。つまり、ガス供給部106は、ロードロック室を大気開放するための準備工程として大気圧の熱伝達ガスを供給してもよい。大気圧の熱伝達ガスは、d>10λの条件を満たすため、ウェハWの温度を極めて短い時間(例えば、1秒以下)で調整できる。ガス供給部106は、大気圧を超える圧力を有する熱伝達ガスを供給してもよい。
【0032】
ガス排出部108は、温度調整室98の内部の熱伝達ガスを外部に排出し、温度調整室98を真空引きする。ガス排出部108には、例えば、油回転真空ポンプやドライ真空ポンプなどの粗引きポンプが接続される。ガス排出部108を通じて排出される熱伝達ガスは、ガスボンベ(図示せず)などに回収されてもよい。ガスボンベなどに回収された熱伝達ガスは、ガス供給部106から供給される熱伝達ガスとして再利用されてもよい。
【0033】
リフトアップ機構110は、ウェハWを下方から持ち上げることにより、ウェハWを複数の凸部116から離間させて支持する。リフトアップ機構110は、ウェハWを持ち上げることにより、ウェハ搬送用のロボットアームの先端に取り付けられるウェハハンドラが入る隙間をウェハWと複数の凸部116の間に形成する。リフトアップ機構110は、例えば、ウェハWと複数の凸部116の間の距離が10mm(つまり、10,000μm)以上となるようウェハWを持ち上げる。リフトアップ機構110は、複数のリフトピン126と、複数のリフトピン126を上下方向(矢印Cの方向)に駆動する駆動機構128とを有する。複数のリフトピン126のそれぞれは、支持プレート102およびステージ104を貫通する複数の貫通孔124に設けられる。リフトピン126の先端130は、ウェハWを汚染しにくい材料で構成され、例えば石英(SiO2)やPEEKで構成される。
【0034】
ウェハガイド132は、支持プレート102およびステージ104の外周に設けられる。ウェハガイド132は、複数の凸部116の上に配置されるウェハWの外周と対向するように設けられる。ウェハガイド132は、ウェハWの径方向の変位を規制する。ウェハガイド132は、ウェハWを複数の凸部116の上に配置するときや、熱伝達ガスを供給するときにウェハWの位置が大きくずれることを防止する。
【0035】
図2は、
図1のウェハ温度調整装置100の概略構成を示す上面図である。
図1は、
図2のB-B線断面に対応する。
図2は、支持プレート102の上面112に設けられる複数の凸部116の配置を示す。図示されるように、複数の凸部116は、支持プレート102の上面112において二次元アレイ状に配置される。複数の凸部116は、互いに離間して設けられるため、複数の凸部116の上に配置されるウェハWと上面112の間の第1空間118は、密閉されずに開放された空間となる。その結果、ガス供給部106から熱伝達ガスを供給すると、ウェハWの外周や貫通孔124を通じて第1空間118に熱伝達ガスが供給される。
【0036】
複数の凸部116の形成面積は、上面112の面積の50%以下であり、好ましくは、20%以下または10%以下である。複数の凸部116の形成面積を小さくすることで、ウェハWと上面112が対向する面積を増やすことができ、ウェハWと上面112の間の熱伝達をより促進できる。
【0037】
複数の凸部116の個数は、上面112の1cm2の面積あたり0.01個以上10,000個以下であり、好ましくは0.1個以上10個以下である。複数の凸部116の個数を下限値以上とすることで、ウェハWと上面112の間隔dをウェハ全体において均一にすることができ、ウェハWの全体の温度を効率的に調整して温度ムラを抑制できる。複数の凸部116の個数を上限値以下とすることで、ウェハWと上面112が対向する面積を増やすことができ、ウェハWと上面112の間の熱伝達をより促進できる。
【0038】
図3は、ウェハ温度の調整時間を模式的に示すグラフである。
図3は、上面112とウェハWの間隔dを20μm(曲線C1)、380μm(曲線C2)および12,500μm(曲線C3)に設定した場合にウェハWの温度が120℃から50℃以下に冷却されるのにかかる時間を示す。ウェハWは、直径300mmのシリコン基板である。上面112の温度は、室温(24℃)に調整されている。ウェハWと上面112の間に供給される熱伝達ガスは、大気圧の窒素ガスである。間隔d=20μmの場合、約2秒でウェハWを50℃以下に冷却することができ、約10秒でウェハWを上面112と同等の温度に冷却できる。間隔d=380μmの場合、約20秒でウェハWを50℃以下に冷却することができ、約100秒でウェハWを上面112と同等の温度に冷却できる。間隔d=12,500μmの場合、ウェハWを50℃以下に冷却するには100秒を超える時間が必要である。間隔d=12,500μmの場合、対流による熱伝達が支配的となり、熱伝達率が大幅に低下することが原因と考えられる。
【0039】
つづいて、ウェハ温度調整装置100の動作例を説明する。まず、温度調整室98にウェハWを搬入し、ウェハWをウェハ支持機構114の上に配置する。ウェハWを配置する際は、リフトピン126の先端130をウェハ支持機構114の上方に位置させることにより、最初にウェハWをリフトピン126の上に配置してもよい。その後にリフトピン126を下方に移動させることにより、ウェハWをウェハ支持機構114の上に配置してもよい。これにより、上面112とウェハWの間隔dが所定範囲内に維持され、上面112とウェハWの間の第1空間118がウェハWの上方の第2空間120と連通した状態で、上面112の上方でウェハWが支持される。次に、ガス供給部106を通じて温度調整室98の内部に熱伝達ガスを供給する。熱伝達ガスは、第2空間120に供給されるとともに、第1空間118にも供給される。熱伝達ガスの供給は、ウェハWをリフトピン126の上に配置した状態、つまり、ウェハWが複数の凸部116から離れた状態で開始されてもよい。熱伝達ガスの供給は、ウェハWをリフトピン126の上に配置した状態、つまり、ウェハWが複数の凸部116から離れた状態でのみ実行されてもよく、ウェハWがウェハ支持機構114の上に配置される前に完了してもよい。熱伝達ガスの供給は、ウェハWが複数の凸部116から離れた状態で開始され、ウェハWがウェハ支持機構114の上に配置された状態において継続されてもよい。
【0040】
第1空間118に供給される熱伝達ガスは、上面112とウェハWの間の熱伝達を促進する。その結果、ウェハWの温度は、所定時間の経過後に上面112と同等の温度に調整される。ウェハWの温度調整は、ウェハWの温度が上面112と同等の温度になる前に完了してもよい。この場合、ウェハWの調整後の温度は、上面112の温度と異なっていてもよい。ウェハWの温度調整が完了した後、ウェハWを温度調整室98の外に搬出する。ウェハWを搬出する場合、ウェハWをリフトピン126で上方に持ち上げることにより、ウェハWとウェハ支持機構114の間にウェハハンドラを挿入するための隙間を形成してもよい。
【0041】
温度調整室98がロードロック室である場合、ウェハ温度調整装置100は、ウェハWを真空処理室から大気雰囲気に搬出する際にウェハWの温度を調整してもよい。例えば、温度調整室98に大気圧の熱伝達ガスを供給することで、温度調整室98の大気開放とウェハWの温度調整を同時に実行できる。ウェハ温度調整装置100は、ウェハWの温度が室温または室温に近い温度となるように調整してもよい。例えば、室温よりも高い温度のウェハWを大気雰囲気に搬出すると、大気に含まれる酸素、窒素、水分などがウェハWと反応してウェハWの特性が変化する可能性がある。また、室温よりも低い温度のウェハWを大気雰囲気に搬出すると、大気に含まれる水分がウェハWに結露したり、ウェハWに霜が付着したりする可能性がある。ウェハ温度調整装置100によりウェハWの温度を室温または室温に近い温度に戻してから大気雰囲気に搬出することで、ウェハWを大気雰囲気下で適切に取り扱うことができる。
【0042】
温度調整室98がロードロック室である場合、ウェハ温度調整装置100は、ウェハWを大気雰囲気から真空処理室に搬入する際にウェハWの温度を調整してもよい。例えば、温度調整室98を真空引きし、1~500torr程度の熱伝達ガスを供給することにより、温度調整室98の内部のガスを熱伝達ガスに置換しつつ、温度調整室98の内部の圧力を下げてもよい。これにより、温度調整室98の真空引きとウェハWの温度調整を同時に実行できる。ウェハWの温度調整中は、温度調整室98の真空引きを一時的に停止してもよいし、熱伝達ガスの供給と真空引きを同時に行ってもよい。ウェハWの温度調整が完了した後に、温度調整室98を真空引きすることで温度調整室98の圧力を1torr未満にしてもよい。ウェハ温度調整装置100は、ウェハWの温度が高温状態または低温状態となるように調整してもよい。ウェハWの温度を真空処理室内での処理前に調整することで、真空処理室内でのウェハWの温度調整にかかる時間を短縮することができ、生産性を高めることができる。
【0043】
上述のウェハ温度調整装置100は、真空処理室内でウェハを処理するためのウェハ処理装置に使用できる。例えば、ウェハ処理装置は、ウェハに対する処理がなされる真空処理室と、ウェハ温度調整装置100と、温度調整室98と、真空処理室と温度調整室の間を密閉可能なゲートバルブと、温度調整室内の圧力を低下させる真空排気装置とを備えてもよい。ウェハ処理装置は、以下に詳述されるイオン注入装置であってもよい。
【0044】
図4は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、
図5は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0045】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0046】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0047】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0048】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0049】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(
図4および
図5では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0050】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0051】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅方向と一致するように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0052】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0053】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0054】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0055】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0056】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。
図5において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0057】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、
図5の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、
図5の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0058】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0059】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0060】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。
図4において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0061】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0062】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0063】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。
図5において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁界偏向用の磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0064】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0065】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、
図5に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0066】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲を持つイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0067】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面上の正電荷の蓄積によるチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0068】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。
図5に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0069】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作によりx方向に可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んだアレイ状に形成されてもよい。
【0070】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一つは、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一つは、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0071】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。
【0072】
ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。ウェハ保持装置52は、イオン注入されるウェハWを加熱または冷却するための温度調整装置を備えてもよい。ウェハ保持装置52は、ウェハWを室温よりも20℃以上、50℃以上または100℃以上高い温度に加熱する加熱装置を備えてもよい。ウェハ保持装置52は、ウェハWを室温よりも20℃以上、50℃以上または100℃以上低い温度に冷却する冷却装置を備えてもよい。ウェハWの温度は、ウェハWに注入されるイオンの濃度分布(注入プロファイル)やイオン注入によりウェハWに形成される結晶欠陥(注入ダメージ)の状態に影響を与える。室温よりも高温のウェハWにイオンビームを照射する処理は、高温注入とも呼ばれる。また、室温よりも低温のウェハWにイオンビームを照射する処理は、低温注入とも呼ばれる。
【0073】
往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0074】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0075】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0076】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。
図5は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0077】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0078】
イオン注入装置10は、制御装置60をさらに備える。制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0079】
図6は、実施の形態に係るウェハ搬送装置18の概略構成を示す上面図である。ウェハ搬送装置18は、ロードポート62と、大気搬送部64と、第1ロードロック室66aと、第2ロードロック室66bと、中間搬送室68と、バッファ室70とを備える。
【0080】
ロードポート62は、複数のウェハ容器72a,72b,72c,72d(総称してウェハ容器72ともいう)を受け入れ可能である。ウェハ搬送装置18は、ウェハ容器72に格納されるウェハW1を注入処理室16に搬入し、注入処理室16にて注入処理がなされたウェハW2をウェハ容器72に搬出するよう構成される。
【0081】
大気搬送部64は、第1大気搬送機構74aと、第2大気搬送機構74bと、アライメント装置76とを有する。第1大気搬送機構74aは、ロードポート62と第1ロードロック室66aの間に設けられる。第1大気搬送機構74aは、例えば、ウェハを搬送するための二つのロボットアームを有する。第1大気搬送機構74aは、第1ウェハ容器72aおよび第2ウェハ容器72bから注入処理前のウェハを搬出し、第1ウェハ容器72aおよび第2ウェハ容器72bに注入処理済のウェハを格納する。第1大気搬送機構74aは、アライメント装置76にアライメント前のウェハを搬入し、アライメント装置76からアライメント済のウェハを搬出する。第1大気搬送機構74aは、第1ロードロック室66aにアライメント済のウェハを搬入し、第1ロードロック室66aから注入処理済のウェハを搬出する。
【0082】
第2大気搬送機構74bは、ロードポート62と第2ロードロック室66bの間に設けられる。第2大気搬送機構74bは、例えば、ウェハを搬送するための二つのロボットアームを有する。第2大気搬送機構74bは、第3ウェハ容器72cおよび第4ウェハ容器72dから注入処理前のウェハを搬出し、第3ウェハ容器72cおよび第4ウェハ容器72dに注入処理済のウェハを格納する。第2大気搬送機構74bは、アライメント装置76にアライメント前のウェハを搬入し、アライメント装置76からアライメント済のウェハを搬出する。第2大気搬送機構74bは、第2ロードロック室66bにアライメント済のウェハを搬入し、第2ロードロック室66bから注入処理済のウェハを搬出する。
【0083】
アライメント装置76は、ウェハの中心位置や回転位置を調整するための装置である。アライメント装置76は、ウェハに設けられるノッチなどのアライメントマークを検出して、ウェハの中心位置や回転位置が所望の位置となるように調整する。ウェハ容器72から取り出されるウェハは、ウェハの中心位置や回転位置が必ずしも揃っていないため、ロードロック室66a,66bに搬入する前にアライメント装置76を用いて位置決め(アライメント)がなされる。アライメント装置76は、第1大気搬送機構74aと第2大気搬送機構74bの間の位置に設けられる。アライメント装置76は、例えば、バッファ室70の鉛直下側の位置に設けられる。
【0084】
第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bのそれぞれは、大気搬送部64と中間搬送室68の間に設けられる。第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bのそれぞれは、例えば、大気搬送部64とz方向に隣接し、中間搬送室68とx方向に隣接する。中間搬送室68は、注入処理室16と隣接して設けられ、例えば、注入処理室16とz方向に隣接する。バッファ室70は、中間搬送室68と隣接して設けられ、例えば、中間搬送室68とz方向に隣接する。
【0085】
中間搬送室68は、定常状態において10-1Pa程度の中真空状態に保たれる。中間搬送室68にはターボ分子ポンプなどで構成される真空排気装置(図示せず)が接続される。一方、大気搬送部64は、大気圧下に設けられており、大気雰囲気においてウェハを搬送する。第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bは、中真空状態に保たれる中間搬送室68と大気雰囲気にある大気搬送部64の間でのウェハ搬送を実現するために区画される部屋である。第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bのそれぞれは、ウェハ搬送に際して真空排気および大気開放が可能となるように構成される。第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bのそれぞれには、例えば、油回転真空ポンプやドライ真空ポンプなどの粗引きポンプが接続される。
【0086】
第1ロードロック室66aは、大気搬送部64との間に設けられる第1大気側ゲートバルブ78aと、中間搬送室68との間に設けられる第1中間ゲートバルブ80aと、第1温度調整装置82aとを有する。同様に、第2ロードロック室66bは、大気搬送部64との間に設けられる第2大気側ゲートバルブ78bと、中間搬送室68との間に設けられる第2中間ゲートバルブ80bと、第2温度調整装置82bとを有する。
【0087】
第1ロードロック室66aを真空排気または大気開放する場合、第1大気側ゲートバルブ78aおよび第1中間ゲートバルブ80aが閉鎖される。大気搬送部64と第1ロードロック室66aの間でウェハを搬送する場合、第1中間ゲートバルブ80aが閉鎖された状態で、第1大気側ゲートバルブ78aが開放される。中間搬送室68と第1ロードロック室66aの間でウェハを搬送する場合、第1大気側ゲートバルブ78aが閉鎖された状態で、第1中間ゲートバルブ80aが開放される。
【0088】
同様に、第2ロードロック室66bを真空排気または大気開放する場合、第2大気側ゲートバルブ78bおよび第2中間ゲートバルブ80bが閉鎖される。大気搬送部64と第2ロードロック室66bの間でウェハを搬送する場合、第2中間ゲートバルブ80bが閉鎖された状態で、第2大気側ゲートバルブ78bが開放される。中間搬送室68と第2ロードロック室66bの間でウェハを搬送する場合、第2大気側ゲートバルブ78bが閉鎖された状態で、第2中間ゲートバルブ80bが開放される。
【0089】
第1温度調整装置82aは、第1ロードロック室66aに搬入されるウェハを加熱または冷却してウェハ温度を調整するよう構成される。第1温度調整装置82aは、注入処理前のウェハを加熱または冷却し、注入処理に適したウェハ温度に調整してもよい。第1温度調整装置82aは、注入処理済のウェハを冷却または加熱し、ウェハ温度を室温または室温に近い温度に調整してもよい。
【0090】
第2温度調整装置82bは、第2ロードロック室66bに搬入されるウェハを加熱または冷却してウェハ温度を調整するよう構成される。第2温度調整装置82bは、注入処理前のウェハを加熱または冷却し、注入処理に適したウェハ温度に調整してもよい。第2温度調整装置82bは、注入処理済のウェハを冷却または加熱し、ウェハ温度を室温または室温に近い温度に調整してもよい。
【0091】
中間搬送室68は、中間搬送機構84を有する。中間搬送機構84は、例えば、ウェハを搬送するための二つのロボットアームを有する。中間搬送機構84は、中間搬送室68と、中間搬送室68に隣接する部屋との間でウェハを搬送する。中間搬送機構84は、第1ロードロック室66aから注入処理前のウェハを搬出し、第1ロードロック室66aに注入処理済のウェハを搬入する。中間搬送機構84は、第2ロードロック室66bから注入処理前のウェハを搬出し、第2ロードロック室66bに注入処理済のウェハを搬入する。中間搬送機構84は、注入処理室16に注入処理前のウェハを搬入し、注入処理室16から注入処理済のウェハを搬出する。中間搬送機構84は、注入処理前または注入処理済のウェハをバッファ室70に搬入し、注入処理前または注入処理済のウェハをバッファ室70から搬出する。
【0092】
注入処理室16と中間搬送室68の間には処理室ゲートバルブ86が設けられる。処理室ゲートバルブ86は、注入処理室16と中間搬送室68の間でウェハを搬送する場合に開放される。処理室ゲートバルブ86は、注入処理室16にてウェハへの注入処理がなされる場合に閉鎖される。
【0093】
バッファ室70は、中間搬送室68に搬入されたウェハを一時的に保管する場所である。バッファ室70は、バッファ室ゲートバルブ88と、第3温度調整装置90とを有する。バッファ室ゲートバルブ88は、中間搬送室68とバッファ室70の間に設けられる。バッファ室ゲートバルブ88は、中間搬送室68とバッファ室70の間でウェハを搬送する場合に開放される。バッファ室ゲートバルブ88は、バッファ室70にてウェハ温度を調整する場合に閉鎖される。
【0094】
第3温度調整装置90は、バッファ室70に搬入されるウェハを加熱または冷却してウェハの温度を調整するよう構成される。第3温度調整装置90は、注入処理前のウェハを加熱または冷却し、注入処理に適したウェハ温度に調整してもよい。第3温度調整装置90は、注入処理済のウェハを冷却または加熱し、ウェハ温度を室温または室温に近い温度に調整してもよい。
【0095】
第1温度調整装置82a、第2温度調整装置82bおよび第3温度調整装置90の少なくとも一つは、
図1のウェハ温度調整装置100であってもよい。したがって、第1ロードロック室66a、第2ロードロック室66bおよびバッファ室70の少なくとも一つは、
図1の温度調整室98であってもよい。
【0096】
図6に示すウェハ搬送装置18の一例において、第1温度調整装置82aおよび第2温度調整装置82bの少なくとも一方は、
図1のウェハ温度調整装置100である。また、第3温度調整装置90は、
図1のウェハ温度調整装置100である。この場合、第3温度調整装置90は、注入処理前のウェハを加熱する。第1温度調整装置82aおよび第2温度調整装置82bの少なくとも一方は、注入処理済の高温のウェハを室温または室温に近い温度まで冷却する。
【0097】
図7は、ウェハ搬送装置18の動作の一例を示すフローチャートである。
図7では、ゲートバルブの詳細な動作については省略しており、ウェハの搬送を主として説明している。第1大気搬送機構74aまたは第2大気搬送機構74bは、ウェハ容器72に格納されるウェハW1をウェハ容器72からアライメント装置76に搬送する(S10)。アライメント装置76は、ウェハをアライメントする(S12)。第1大気搬送機構74aまたは第2大気搬送機構74bは、アライメント装置76にてアライメントされたウェハをアライメント装置76から第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bに搬送する(S14)。
【0098】
次に、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bを密閉して真空引きする(S16)。第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bにて真空引きが完了すると、中間搬送機構84は、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bからバッファ室70にウェハを搬送する(S18)。第3温度調整装置90は、バッファ室70を密閉してバッファ室70に熱伝達ガスを供給することにより、バッファ室70に搬入されたウェハを加熱または冷却し、ウェハ温度を注入処理に適した温度に調整する(S20)。バッファ室70に供給される熱伝達ガスの圧力は大気圧より低くてもよく、例えば、1~500torr程度であってもよい。バッファ室70にて温度調整が完了した後、バッファ室70を真空引きして熱伝達ガスを排気してもよい。バッファ室70にて温度調整が完了すると、中間搬送機構84は、バッファ室70から注入処理室16にウェハを搬送する(S22)。ウェハ保持装置52は、ウェハW2を加熱または冷却し、ウェハ温度を注入処理に適した温度に調整する。ウェハ保持装置52によりウェハ温度を調整しながら、ウェハW2にイオンビームを照射してイオンを注入する(S24)。
【0099】
イオン注入処理が完了すると、中間搬送機構84は、注入処理済のウェハを注入処理室16から第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bに搬送する(S26)。次に、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bを密閉して熱伝達ガスを供給することにより、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bにてウェハ温度を調整する(S28)。第1温度調整装置82aまたは第2温度調整装置82bは、例えば、
図1のウェハ温度調整装置100であり、ウェハ温度が室温または室温に近い温度となるように調整する。大気圧の熱伝達ガスを供給することにより、第1温度調整装置82aまたは第2温度調整装置82bは、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bが大気圧となるのに必要なわずかな時間でウェハ温度の調整を完了できる。第1温度調整装置82aまたは第2温度調整装置82bによる温度調整が完了すると、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bが大気開放される。その後、第1大気搬送機構74aまたは第2大気搬送機構74bは、注入処理済のウェハを第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bからウェハ容器72に搬送する(S30)。
【0100】
本実施の形態によれば、ロードロック室66a,66bにウェハ温度調整装置を設けることで、ロードロック室66a,66bを大気圧にするために要する時間を利用してウェハWの温度を調整できる。したがって、高温注入や低温注入を実施する場合であっても、ウェハ温度を調整するために追加される時間を最小限にすることができ、イオン注入装置10の生産性を高めることができる。
【0101】
本実施の形態によれば、ウェハWを静電チャックなどを利用して固定する必要がないため、ウェハWをステージなどに密着させることによりウェハWが擦れて生じる裏面パーティクルを抑制できる。その結果、ウェハWにパーティクルが付着することによる歩留まりの低下などを抑制できる。また、本実施の形態によれば、熱輻射を利用する加熱におけるウェハ面内の不均一性の問題を回避することができる。その結果、ウェハ面内の加熱が不均一であることによる歩留まりの低下なども抑制できる。
【0102】
図7の処理フローでは、バッファ室70にて注入処理前のウェハWを加熱または冷却し、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bにて注入処理済のウェハWを冷却または加熱する場合について示した。変形例においては、バッファ室70にて注入処理前のウェハWを加熱または冷却し、かつ、バッファ室70にて注入処理済のウェハWを冷却または加熱してもよい。この場合、第1ロードロック室66aおよび第2ロードロック室66bは、ウェハWの加熱または冷却に用いられなくてもよい。別の変形例においては、第1ロードロック室66aまたは第2ロードロック室66bにて注入処理前のウェハWを加熱または冷却し、第2ロードロック室66bまたは第1ロードロック室66aにて注入処理済のウェハWを冷却または加熱してもよい。例えば、第1ロードロック室66aにて注入処理前のウェハWを加熱または冷却し、第2ロードロック室66bにて注入処理済のウェハWを冷却または加熱してもよい。この場合、ウェハ搬送装置18は、バッファ室70を備えなくてもよい。
【0103】
第1ロードロック室66a、第2ロードロック室66bまたはバッファ室70は、ウェハ温度調整装置を一つだけ備えてもよいし、ウェハ温度調整装置を複数備えてもよい。第1ロードロック室66a、第2ロードロック室66bまたはバッファ室70は、例えば、上下方向(y方向)に配置される二以上のウェハ温度調整装置を備えてもよい。同じ部屋に設けられる二以上のウェハ温度調整装置のそれぞれは、ウェハWの加熱および冷却の双方に使用可能であってもよいし、ウェハWの加熱または冷却の一方のみに使用可能であってもよい。第1ロードロック室66a、第2ロードロック室66bまたはバッファ室70は、例えば、加熱専用のウェハ温度調整装置と、冷却専用のウェハ温度調整装置とを備えてもよい。
【0104】
図8は、別の実施の形態に係るウェハ温度調整装置200の概略構成を示す断面図である。ウェハ温度調整装置200は、温度調整室198の内部に設けられる。ウェハ温度調整装置200は、ステージ202と、ウェハ支持機構204と、ガス供給部206と、ガス排出部208とを備える。ガス供給部206およびガス排出部208は、
図1のガス供給部106およびガス排出部108と同様に構成される。
【0105】
ステージ202は、上面212を有する。上面212は、平坦面で構成され、複数の凸部が形成されていない。ステージ202は、上面212の温度を調整するよう構成される。ステージ202は、上面212の温度を調整するための温度調整流体が流れる流路222を有する。ステージ202は、流路222に加えて、または代えて、温度調整用のヒータを含んでもよい。ステージ202の外周にはウェハガイド224が設けられる。ウェハガイド224は、例えば、
図1のウェハガイド132と同様に構成される。
【0106】
ウェハ支持機構204は、複数のリフトピン226と、複数のリフトピン226を上下方向(矢印Cの方向)に駆動する駆動機構228とを有する。複数のリフトピン226は、ステージ202を貫通する貫通孔216に設けられる。複数のリフトピン226のそれぞれの先端230は、石英やPEEKなどで構成される。ウェハ支持機構204は、ウェハWの温度を調整する場合、ウェハWと上面212の間隔dを所定範囲内に維持した状態でウェハWを支持する。ウェハ支持機構204は、ウェハWと上面212の間の第1空間218と、ウェハWの上方の第2空間220とが連通した状態でウェハWを支持する。ウェハ支持機構204は、ウェハWを搬送する場合、ウェハWと上面212の間隔dが所定範囲よりも大きくなるようにし、ウェハWと上面212の間にウェハハンドラが挿入できるようにする。
【0107】
本実施の形態では、ウェハWを支持する複数のリフトピン226が
図1の複数の凸部116に相当する。複数のリフトピン226は、上下方向に変位可能であり、上面212から先端230までの突出高さが可変である。つまり、ウェハWの温度を調整するときのウェハWと上面212の間隔dを変更可能である。ウェハWと上面212の間隔dは、ウェハWと上面212の間の熱伝達効率に影響する。例えば、間隔dを小さくすると熱伝達効率が上がるため、ウェハWの温度調整にかかる時間を短くできる。一方、間隔dを大きくすると熱伝達効率が下がるため、ウェハWの温度調整にかかる時間を長くできる。例えば、間隔dを大きくすることで、ウェハWの温度をゆっくりと調整し、過度な温度変化が生じることを防ぐことができる。
【0108】
図9は、さらに別の実施の形態に係るウェハ温度調整装置300の概略構成を示す断面図である。ウェハ温度調整装置300は、温度調整室298の内部に設けられる。ウェハ温度調整装置300は、ステージ302と、ウェハ支持機構304と、第1ガス供給部306と、ガス排出部308と、リフトアップ機構310とを備える。第1ガス供給部306、ガス排出部308およびリフトアップ機構310は、
図1のガス供給部106、ガス排出部108およびリフトアップ機構110と同様に構成される。
【0109】
ステージ302は、上面312を有する。上面312は、平坦面で構成され、複数の凸部が形成されていない。ステージ302は、上面312の温度を調整するよう構成される。ステージ302は、上面312の温度を調整するための温度調整流体が流れる流路322を有する。ステージ302は、流路322に加えて、または代えて、温度調整用のヒータを含んでもよい。ステージ302の外周にはウェハガイド332が設けられる。ウェハガイド332は、
図1のウェハガイド132と同様に構成される。
【0110】
ウェハ支持機構304は、複数のガス供給口314と、第2ガス供給部316とを有する。複数のガス供給口314は、上面312に二次元アレイ状に設けられる。複数のガス供給口314は、第2ガス供給部316から供給されるガスの出口であり、ステージ302の上方に配置されるウェハWの裏面に向けてガスを吹き付ける。ウェハWは、複数のガス供給口314から吹き付けられるガスのガス圧によって浮遊し、上面312とウェハWの間隔dが所定範囲内に維持される。したがって、ウェハ支持機構304は、複数のガス供給口314からウェハWに吹き付けるガスの圧力によってウェハWを支持する。ウェハ支持機構304は、上面312とウェハWの間の第1空間318と、ウェハWの上方の第2空間320とが連通した状態でウェハWを支持する。
【0111】
第2ガス供給部316から複数のガス供給口314に供給されるガスは、第1ガス供給部306によって供給される熱伝達ガスと同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2ガス供給部316が供給するガスは、乾燥空気、窒素ガス、希ガス、または、これらの混合物などであってもよい。温度調整室298の内部に供給される熱伝達ガスは、第1ガス供給部306と第2ガス供給部316の双方から供給されてもよいし、第2ガス供給部316のみから供給されてもよい。なお、第2ガス供給部316が熱伝達ガスを供給する場合、ウェハ温度調整装置300は、第1ガス供給部306を備えなくてもよい。
【0112】
リフトアップ機構310は、複数のリフトピン326と、複数のリフトピン326を上下方向(矢印Cの方向)に駆動する駆動機構328とを有する。複数のリフトピン326のそれぞれは、ステージ302を貫通する複数の貫通孔324に設けられる。リフトピン326の先端330は、石英やPEEKなどで構成される。リフトアップ機構310は、ウェハWがウェハ支持機構304によって支持されていない場合、つまり、ウェハWがガス圧によって浮遊していない場合にウェハWを支持する。リフトアップ機構310は、ウェハWを搬送する場合、ウェハWと上面312の間隔dが所定範囲よりも大きくなるようにし、ウェハWと上面312の間にウェハハンドラが挿入できるようにする。
【0113】
本実施の形態によれば、ウェハWの裏面にガスを吹き付けることで、ウェハWの温度をより効率的に調整できる。また、ウェハWをガス圧で浮遊させることで、ウェハWの温度を調整する工程において、ウェハWの裏面とウェハ支持機構304の接触面積を最小化できる。これにより、ウェハWの裏面でのパーティクルの発生をさらに抑制できる。
【0114】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組み合わせや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0115】
100…ウェハ温度調整装置、102…支持プレート、104…ステージ、106…ガス供給部、112…上面、114…ウェハ支持機構、116…凸部、118…第1空間、120…第2空間、122…流路、126…リフトピン、128…駆動機構。