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特開2022-128767成分調整装置および方法、ならびに、鋳鉄溶湯製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128767
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】成分調整装置および方法、ならびに、鋳鉄溶湯製造装置
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/10 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
C21C1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027170
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 耕平
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014BA01
4K014BB01
4K014BB03
4K014BC12
4K014BD08
4K014BE00
4K014BE05
(57)【要約】
【課題】各杯において球状黒鉛鋳鉄溶湯(溶湯)の成分を適切に調整すること。
【解決手段】マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを取鍋(15)内の溶湯に供給して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する鋳鉄溶湯製造装置(10)において、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整するための成分調整装置(20)は、球状化剤の供給量を杯ごとに決定する球状化剤量決定手段(44)と、球状化剤のシリコン含有割合、および、処理杯に対する目標シリコン含有割合を記憶する記憶手段(41)と、処理杯の溶湯量と、処理杯の溶湯の成分調整前のシリコン含有割合と、球状化剤量決定手段により決定された処理杯への球状化剤の供給量と、記憶手段に記憶された球状化剤のシリコン含有割合および処理杯に対する目標シリコン含有割合とに基づいて、処理杯への加珪材の供給量を決定する加珪材量決定手段(45)とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを取鍋内の溶湯に供給して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する鋳鉄溶湯製造装置において、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整するための成分調整装置であって、
前記球状化剤の供給量を杯ごとに決定する球状化剤量決定手段と、
前記球状化剤のシリコン含有割合、および、処理杯に対する目標シリコン含有割合を記憶する記憶手段と、
処理杯の溶湯量と、処理杯の溶湯の成分調整前のシリコン含有割合と、前記球状化剤量決定手段により決定された処理杯への前記球状化剤の供給量と、前記記憶手段に記憶された前記球状化剤のシリコン含有割合および処理杯に対する目標シリコン含有割合とに基づいて、処理杯への前記加珪材の供給量を決定する加珪材量決定手段とを備える、成分調整装置。
【請求項2】
前記記憶手段には、前記球状化剤のマグネシウム含有割合、および、処理杯に対する目標マグネシウム含有割合がさらに記憶されており、
前記球状化剤量決定手段は、前記記憶手段に記憶された前記球状化剤のマグネシウム含有割合および処理杯に対する目標マグネシウム割合に基づいて、処理杯への前記球状化剤の供給量を決定する、請求項1に記載の成分調整装置。
【請求項3】
過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶するデータ記憶手段をさらに備え、
前記球状化剤量決定手段は、前記データ記憶手段に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測し、当該予測結果を用いて、前記球状化剤の供給量を決定する、請求項2に記載の成分調整装置。
【請求項4】
機械学習により生成された学習モデルを記憶するモデル記憶手段をさらに備え、
前記球状化剤量決定手段は、少なくとも前記過去の実績データを前記学習モデルに入力して、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する、請求項3に記載の成分調整装置。
【請求項5】
前記記憶手段には、予定される杯ごとの溶湯量および目標シリコン含有割合が、処理杯スケジュール情報として記憶されている、請求項1~4のいずれかに記載の成分調整装置。
【請求項6】
前記記憶手段には、溶湯の成分種ごとに、必要なマグネシウム含有割合およびシリコン含有割合を含む目標成分情報が予め記憶されており、
ユーザから入力された杯ごとの成分種および溶湯量と、前記記憶手段に記憶された前記目標成分情報とに基づいて、前記処理杯スケジュール情報を設定するスケジュール設定手段をさらに備える、請求項5に記載の成分調整装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の成分調整装置を備えた鋳鉄溶湯製造装置であって、
前記球状化剤量決定手段により決定された供給量に応じて前記球状化剤を溶湯に投入する球状化剤供給手段と、
前記球状化剤供給手段による前記球状化剤が供給される前に、前記加珪材量決定手段により決定された供給量に応じて前記加珪材を溶湯に投入する加珪材供給手段とを備える、鋳鉄溶湯製造装置。
【請求項8】
マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを溶湯に添加して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する鋳鉄溶湯製造装置において、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整するための成分調整方法であって、
前記球状化剤の供給量を杯ごとに決定するステップと、
処理杯の溶湯量と、処理杯の溶湯の成分調整前のシリコン含有割合と、決定された処理杯への前記球状化剤の供給量と、記憶手段に記憶された前記球状化剤のシリコン含有割合および処理杯に対する目標シリコン含有割合とに基づいて、処理杯への前記加珪材の供給量を決定するステップとを備える、成分調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分調整装置および方法に関し、特に、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整するための成分調整装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄、すなわちダクタイル鋳鉄は、強度および延性に優れているため、上下水道用の鉄管など様々な分野の製品に利用されている。ダクタイル鋳鉄は、溶湯にマグネシウム(Mg)を添加して晶出する黒鉛を球状化する黒鉛球状化処理を経て製造される。
【0003】
黒鉛球状化処理方法の一つとして、特開2006-316331号公報(特許文献1)に示されるように、鉄被覆Mgワイヤーをワイヤーフィーダー法によって鋳鉄溶湯に添加し、黒鉛を球状化処理する方法がある。この鉄被覆Mgワイヤーは、金属Mg、あるいは、Fe-Si-Mg合金などのMg合金を芯材とし、この芯材を、薄鋼板あるいは薄鋼管を被覆材として被覆・成形した線材である。
【0004】
また、特開平3-130344号公報(特許文献2)に示されるように、Mgを含む球状化剤を溶湯に添加する前に、接種剤として加珪材(Fe-Si)を添加して、球状黒鉛鋳鉄溶湯を製造することも、従来から行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-316331号公報
【特許文献2】特開平3-130344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
球状黒鉛鋳鉄溶湯を製造する際、マグネシウムを含む球状化剤の他、加珪材などの添加剤が用いられる。つまり、加珪材を含む添加剤と球状化剤とを溶湯に供給することにより、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分が調整される。
【0007】
黒鉛球状化処理において、諸条件により、処理杯ごとにマグネシウムの歩留まりが変化することから、一般的に、球状化剤の供給量は一定ではなく杯ごとに変えられる。そのため、特許文献1の鉄被覆Mgワイヤーのように、マグネシウムおよびシリコンを所定の含有割合で含む球状化剤を用いる場合、球状化剤の供給時に溶湯に投入されるシリコンの量も変化することになる。このことから、処理杯への加珪材の供給量を、球状化剤の供給量を考慮せずに所定の基準で設定すると、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分が所望のものとならない可能性があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、各杯において球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を適切に調整することのできる成分調整装置および方法を提供することである。
【0009】
また、このような成分調整装置を備えた鋳鉄溶湯製造装置を提供することも、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従う成分調整装置は、マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを取鍋内の溶湯に供給して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する鋳鉄溶湯製造装置において、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整する。この成分調整装置は、球状化剤量決定手段と、記憶手段と、加珪材量決定手段とを備える。球状化剤量決定手段は、球状化剤の供給量を杯ごとに決定する。記憶手段は、球状化剤のシリコン含有割合、および、処理杯に対する目標シリコン含有割合を記憶する。加珪材量決定手段は、処理杯の溶湯量と、処理杯の溶湯の成分調整前のシリコン含有割合と、球状化剤量決定手段により決定された処理杯への球状化剤の供給量と、記憶手段に記憶された球状化剤のシリコン含有割合および処理杯に対する目標シリコン含有割合とに基づいて、処理杯への加珪材の供給量を決定する。
【0011】
好ましくは、記憶手段には、球状化剤のマグネシウム含有割合、および、処理杯に対する目標マグネシウム含有割合がさらに記憶されており、球状化剤量決定手段は、記憶手段に記憶された球状化剤のマグネシウム含有割合および処理杯に対する目標マグネシウム割合に基づいて、処理杯への球状化剤の供給量を決定する。
【0012】
好ましくは、成分調整装置は、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶するデータ記憶手段をさらに備え、球状化剤量決定手段は、データ記憶手段に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測し、当該予測結果を用いて、球状化剤の供給量を決定する。
【0013】
また、成分調整装置は、機械学習により生成された学習モデルを記憶するモデル記憶手段をさらに備え、球状化剤量決定手段は、少なくとも過去の実績データを学習モデルに入力して、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測することが、より望ましい。
【0014】
好ましくは、記憶手段には、予定される杯ごとの溶湯量および目標シリコン含有割合が、処理杯スケジュール情報として記憶されている。
【0015】
この場合、記憶手段には、溶湯の成分種ごとに、必要なマグネシウム含有割合およびシリコン含有割合を含む目標成分情報が予め記憶されており、成分調整装置は、ユーザから入力された杯ごとの成分種および溶湯量と、記憶手段に記憶された目標成分情報とに基づいて、処理杯スケジュール情報を設定するスケジュール設定手段をさらに備えることが、より望ましい。
【0016】
この発明の他の局面に従う鋳鉄溶湯製造装置は、上記の成分調整装置を備えており、球状化剤量決定手段により決定された供給量に応じて球状化剤を溶湯に投入する球状化剤供給手段と、球状化剤供給手段による球状化剤が供給される前に、加珪材量決定手段により決定された供給量に応じて加珪材を溶湯に投入する加珪材供給手段とを備える。
【0017】
この発明のさらに他の局面に従う成分調整方法は、マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを溶湯に添加して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する鋳鉄溶湯製造装置において、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を杯ごとに調整するための成分調整方法であって、球状化剤の供給量を杯ごとに決定するステップと、処理杯の溶湯量と、処理杯の溶湯の成分調整前のシリコン含有割合と、決定された処理杯への球状化剤の供給量と、記憶手段に記憶された球状化剤のシリコン含有割合および処理杯に対する目標シリコン含有割合とに基づいて、処理杯への加珪材の供給量を決定するステップとを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各杯において球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分を適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の各実施の形態におけるダクタイル鋳鉄の製造工程を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る成分調整装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3】(A),(B)は、本発明の各実施の形態における製品テーブルおよび処理杯スケジュール情報のデータ構造例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態1における成分調整処理を示すフローチャートである。
図5】(A)は、本発明の実施の形態2に係る成分調整装置における球状化剤供給制御装置の機能構成を示すブロック図であり、(B)は、本発明の実施の形態2に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】本発明の実施の形態2における予測モデルを用いたMg歩留まりの予測方法を、比較例と比較して概念的に示す図である。
図7】本発明の実施の形態2における予測モデルでMg歩留まりを予測した場合のシミュレーション結果を、比較例と比較して示す図である。
図8】本発明の実施の形態2において、予測モデルの評価に用いる誤差関数(損失関数)の種類を示す図である。
図9】本発明の実施の形態2における球状化剤供給処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
<ダクタイル鋳鉄の製造工程の概要>
はじめに、図1を参照して、ダクタイル鋳鉄の製造工程の概要について説明する。図1は、本実施の形態におけるダクタイル鋳鉄の製造工程を概略的に示す図である。
【0022】
本実施の形態において、ダクタイル鋳鉄は、溶解工程P1、脱硫工程P2、溶湯保持工程P3、溶湯成分分析工程P4、成分調整工程P5、球状化処理工程P6、除滓工程P7、鋳造工程P8を順に経て、製造される。工程P4~P7が、鋳鉄溶湯製造装置10により実行される。
【0023】
鋳鉄溶湯製造装置10は、マグネシウムおよびシリコンを含む球状化剤と加珪材とを、取鍋15内の溶湯に供給(添加)して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する装置であり、成分調整装置20、QV(カントバック)分析装置14、加珪材供給装置17、コアードワイヤー装置21を備えている。なお、鋳鉄溶湯製造装置10は、カーボン(C)など加珪材以外の添加剤も溶湯に供給して球状黒鉛鋳鉄溶湯を生成する。加珪材供給装置17は、加珪材以外の添加剤の供給装置を兼ねていてもよい。成分調整装置20は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサおよびメモリを含むコンピュータにより実現される。
【0024】
溶解工程P1において、銑鉄、屑鉄、鋼材等の溶湯材が、キュポラなどの溶解炉11において溶解される。溶解炉11としては、たとえば電気炉が採用され得る。
【0025】
脱硫工程P2において、溶解炉11で生成された溶湯が、脱硫用の取鍋12へと注入され、取鍋12内の溶湯中の硫黄分が除去される。なお、脱硫工程P2は省略してもよい。
【0026】
溶湯保持工程P3において、脱硫後の溶湯が、溶湯保持用の低周波炉13に注入され、保持される。
【0027】
溶湯成分分析工程P4においては、QV分析装置14によって、低周波炉13内の溶湯の成分(元湯成分)が分析される。成分分析後に、低周波炉13内の溶湯の一部が取鍋15に注入される。取鍋15には、最後の鋳造工程P8においてダクタイル鋳鉄(製品)を製造するのに必要な量の溶湯が注入され、取鍋15ごとに(杯ごとに)後の工程P5~P7が実行される。
【0028】
成分調整工程P5においては、QV分析装置14による分析結果に基づいて、溶湯中の成分を調整する。具体的には、取鍋15内の溶湯に添加するカーボン(C)、シリコン(Si)、など、マグネシウム(Mg)以外の元素成分量が調整される。取鍋15への各添加剤の投入量は、成分調整装置20により演算される。本実施の形態では、成分調整工程P5において、加珪材供給装置17を介して、シリコン調整剤としての加珪材が溶湯に供給される。加珪材は、典型的にはFe-Si合金である。
【0029】
球状化処理工程P6においては、ワイヤーフィーダー法によって、溶湯中の黒鉛を球状化する処理を実行する。本実施の形態では、コアードワイヤー装置21を用いて取鍋15内にマグネシウムを投入する。コアードワイヤー装置21は、成分調整装置20によって制御される。
【0030】
コアードワイヤー装置21は、ワイヤーコイル26からワイヤー22を引き出して取鍋15に供給する供給装置23と、ワイヤーコイル26から供給装置23へのワイヤー22の移動をガイドするガイド部材24とを含む。ワイヤー22は、マグネシウムおよびシリコンを含む粉末が鉄製外皮内に内包されて構成された球状化剤である。ワイヤー22が取鍋15に供給されると、鉄製外皮が徐々に溶けて、取鍋15内の溶湯にマグネシウムがシリコンとともに添加(投入)される。球状化剤としてのワイヤー22はマグネシウムおよびシリコンを所定の含有割合(重量%)で含んでいる。供給装置23は、球状化剤供給手段として機能し、ワイヤー22を引き出すための駆動部を含む(図示せず)。
【0031】
成分調整装置20は、球状化処理の度に(すなわち処理杯ごとに)、供給装置23からのワイヤー22の供給量を決定し、供給装置23に指示する。供給装置23は、成分調整装置20から指示された供給量に応じた長さ分、取鍋15にワイヤー22を供給する。これにより、取鍋15内にマグネシウムが添加されて、球状黒鉛鋳鉄溶湯が生成される。
【0032】
除滓工程P7においては、球状化処理後の取鍋15Aがコアードワイヤー装置21から取り出され、取鍋15A内の溶湯からスラグが除去される。除滓処理後の取鍋15Bは、クレーン等の搬送手段で鋳造工程P8へと搬送される。上述のQV分析装置14は、球状化処理後の取鍋15A内の溶湯の成分を分析し、その分析結果を成分調整装置20にフィードバックしてもよい。なお、この場合、球状化処理前の溶湯の成分(元湯成分)を分析するQV分析装置と、球状化処理後の溶湯の成分(球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分)を分析するQV分析装置とが、個別に設けられていてもよい。
【0033】
鋳造工程P8において、取鍋15B内の溶湯、すなわち球状黒鉛鋳鉄溶湯を鋳型に流し込み、ダクタイル鋳鉄が鋳造される。
【0034】
球状化処理後の取鍋15A内の溶湯のマグネシウム含有量(以下「残留Mg量」ともいう)が規定量よりも少ない場合、ダクタイル鋳鉄の品質が低下する。そのため、球状化処理工程P6においては、残留Mg量が目標値(規定量以上)の目標残留Mg量となるように、できるだけ過不足なくマグネシウムを取鍋15に投入することが望まれる。球状化処理工程P6においては、諸条件によりマグネシウムの残留Mg量や歩留まりが変化するため、杯ごとに適切な球状化剤量が異なる。本実施の形態では、球状化剤にシリコンが含まれているため、成分調整工程P5において供給する加珪材の量を、球状化剤の供給量を考慮せずに所定の基準で設定すると、球状黒鉛鋳鉄溶湯の成分が所望のものとならない可能性がある。
【0035】
そこで、本実施の形態に係る成分調整装置20は、成分調整工程P5よりも前に、処理杯への球状化剤の供給量を決定し、その決定結果に基づいて、成分調整工程P5における加珪材の供給量を決定する機能を有している。以下に、このような成分調整装置20の機能構成および動作について、詳細に説明する。なお、成分調整装置20は、加珪材以外の添加剤の供給量を決定する機能を備えていてもよい。
【0036】
<実施の形態1>
(成分調整装置の機能構成)
図2は、本実施の形態に係る成分調整装置20の機能構成を示す機能ブロック図である。図2を参照して、成分調整装置20は、記憶部41と、入力部48と、スケジュール設定部42と、元湯成分取得部43と、球状化剤量決定部44と、加珪材量決定部45とを備えている。なお、記憶部41は、不揮発性のメモリ、または、コンピュータに対して着脱可能な記録媒体などにより実現される。入力部48は、ユーザからの指示の入力を受け付けるユーザインターフェイスであり、たとえばキーボードやタッチパネルなどにより実現される。
【0037】
記憶部41には、ワイヤー22のマグネシウム含有割合およびシリコン含有割合を含む球状化剤情報51と、成分調整工程P5で用いられる加珪材のシリコン含有割合を含む加珪材情報52とが予め記憶されている。なお、球状化剤情報51は使用する球状化剤(ロット)に対して1対1で設けられていればよく、複数の球状化剤情報51が記憶されていてもよいし、随時、追加および更新できてもよい。加珪材情報52も同様である。
【0038】
また、記憶部41には、本設備において調整される溶湯の成分種ごとの目標成分情報が、成分種テーブル53として予め記憶されている。以下の説明において、「マグネシウム含有割合」を「Mg割合」、「シリコン含有割合」を「Si割合」と表わす。
【0039】
成分種テーブル53のデータ構造例を図3(A)に示す。図3(A)を参照して、成分種テーブル53は、溶湯の成分種を記録する項目と、Si割合を記録する項目と、Mg割合を記録する項目とを含んでいる。つまり、成分種テーブル53において、溶湯の成分種(成分A、B、・・・)を特定するための成分種識別データに対応付けて、必要なSi割合および必要なMg割合を含む目標成分情報が予め記憶されている。なお、成分種テーブル53に含まれる情報もまた、随時、追加および更新できてもよい。
【0040】
記憶部41にはさらに、たとえば当日に予定される杯(1杯目、2杯目、・・・、n杯目)についての処理杯スケジュール情報54が記憶されている。処理杯スケジュール情報54は、スケジュール設定部42によって設定される情報である。スケジュール設定部42は、入力部48を介してユーザから入力された杯ごとの成分種および溶湯量と、成分種テーブル53の目標成分情報とに基づいて、図3(B)に示すような処理杯スケジュール情報54を設定する。
【0041】
具体的には、スケジュール設定部42は、入力部48を介して、杯ごとに、溶湯量の入力を受け付けるとともに、溶湯の成分種の選択を受け付ける。そして、成分種テーブル53を参照して、杯ごとに、選択された成分種に対応する目標成分情報を検索し、検索した目標成分情報に含まれるSi割合およびMg割合を、その杯の目標Si割合および目標Mg割合として設定する。これにより、予定される杯ごとに、溶湯量(出湯湯量)、成分種、目標Si割合、および目標Mg割合を含む処理杯スケジュール情報54が記憶部41に記憶される。
【0042】
図3(B)の処理杯スケジュール情報54では、1杯目の溶湯量として「3200kg」、成分種として「成分B」が入力された例が示されている。この場合、1杯目の目標Si割合および目標Mg割合は、図3(A)の成分種テーブル53において成分Bに対応付けられたSi割合(Sb)およびMg割合(Mb)として設定されている。なお、処理杯スケジュール情報54は、杯ごとの溶湯量および成分種を含んでいればよく、成分種テーブル53に予め記憶されたSi割合およびMg割合(目標成分情報)を含まなくてもよい。
【0043】
元湯成分取得部43は、溶湯成分分析工程P4におけるQV分析装置14の分析結果、すなわち元湯成分を取得する。
【0044】
球状化剤量決定部44は、処理杯スケジュール情報54の目標Mg割合となるように、球状化剤の供給量を杯ごとに決定する。球状化剤量決定部44は、成分調整工程P5よりも前に、処理杯への供給量を決定し、決定した球状化剤の供給量を指示出力部47に出力するとともに、加珪材量決定部45に出力する。
【0045】
球状化剤量決定部44は、入力部48を介してユーザから入力された値を球状化剤の供給量として決定してもよいし、所定の計算式で球状化剤の供給量を算出してもよい。あるいは、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測して、球状化剤量を決定してもよい。本実施の形態では、ユーザから入力された値を球状化剤の供給量を決定する例について説明する。処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する方法については、実施の形態2において後述する。
【0046】
本実施の形態において、ユーザは、処理杯スケジュール情報54に含まれる処理杯の溶湯量および目標Mg割合から得られる「目標残留Mg量」と、球状化剤情報51に含まれる「球状化剤のMg割合」と、事前に設定した「Mg歩留まり」とに基づいて、球状化剤の供給量を設定可能である。なお、所定の計算式を用いる場合、球状化剤量決定部44は、これらの数値を計算式に当て嵌めることで、球状化剤の供給量を算出可能である。
【0047】
指示出力部47は、球状化処理工程P6において、球状化剤量決定部44が決定した球状化剤の供給量に応じた長さのワイヤー22を取鍋15に供給するよう、供給装置23に指示し、黒鉛の球状化を実施する。球状化剤量決定部44および指示出力部47は、球状化剤の供給制御を行う「球状化剤供給制御装置30」を構成している。
【0048】
加珪材量決定部45は、球状化剤量決定部44により決定された球状化剤の供給量を加味して、処理杯ごとに加珪材の供給量を決定する。具体的には、記憶部41の処理杯スケジュール情報54に含まれる「処理杯の溶湯量」と、元湯成分取得部43が取得した「処理杯の溶湯の成分調整前のSi割合」と、球状化剤量決定部44が決定した「処理杯への球状化剤の供給量」と、記憶部41の球状化剤情報51に含まれる「球状化剤のSi割合」、加珪材情報52に含まれる「加珪材のSi割合」および処理杯スケジュール情報54に含まれる「処理杯に対する目標Si割合」とに基づいて、処理杯への加珪材の供給量を決定する。
【0049】
なお、「処理杯の溶湯量」は、取鍋15に出湯された溶湯量を実際に計測した値であってもよい。また、加珪材は、純シリコンであってもよく、その場合、加珪材量の算出に「加珪材のSi割合」は不要であるため、記憶部41の加珪材情報52は省略可能である。
【0050】
加珪材量決定部45により決定された加珪材の供給量を指示出力部46に出力する。指示出力部46は、成分調整工程P5において、加珪材量決定部45が決定した加珪材の供給量に応じて加珪材を取鍋15に供給するよう、加珪材供給装置17に指示し、処理杯のシリコン成分を調整する。
【0051】
なお、スケジュール設定部42、元湯成分取得部43、球状化剤量決定部44、加珪材量決定部45、指示出力部46,47の機能は、CPUなどのプロセッサがソフトウェアを実行することにより実現され得る。これらの機能部のうち、球状化剤供給制御装置30を構成する球状化剤量決定部44および指示出力部47は、他の機能部とは別のプロセッサにより実現されてもよい。つまり、加珪材などの添加剤の供給制御を行う添加剤供給制御装置60と球状化剤供給制御装置30とがそれぞれ独立したコンピュータにより実現されてもよい。
【0052】
(成分調整装置の動作)
図1図4を参照して、成分調整装置20の動作について説明する。図4は、本実施の形態における成分調整処理を示すフローチャートである。
【0053】
はじめに、成分調整装置20のスケジュール設定部42が、入力部48を介してユーザから入力された情報に基づいて処理杯スケジュール情報54を設定し、記憶部41に記録する(ステップS101)。
【0054】
鋳鉄溶湯製造装置10の運転中、処理杯スケジュール情報54で設定された順序で、事前に定められた湯量分、低周波炉13内の溶湯を取鍋15に出湯する。たとえば1杯目であれば、3200kgの溶湯が取鍋15に出湯される。
【0055】
溶湯成分分析工程P4において、QV分析装置14が、取鍋15に出湯される前の低周波炉13内の溶湯、または、取鍋15内の溶湯の成分、すなわち元湯成分を分析する。これにより、元湯成分取得部43が、処理杯の調整前Si割合を取得する(ステップS103)。
【0056】
球状化剤量決定部44は、少なくとも成分調整工程P5よりも前に、球状化剤の供給量を決定する(ステップS105)。本実施の形態では、入力部48を介して直接入力された値を、球状化剤の供給量として決定する。入力部48への球状化剤量の入力は、典型的には毎回(処理杯ごとに)行われるが、変形例として、たとえば処理杯スケジュール情報54の設定時に複数杯分の球状化剤量が事前に入力されてもよい。この場合、記憶部41に記憶される処理杯スケジュール情報54に、各杯の球状化剤量が含まれてもよい。
【0057】
成分調整工程P5において、加珪材量決定部45が、加珪材の供給量を決定する(ステップS107)。具体的には、次式(1)に従って、加珪材の供給量を算出する。
【0058】
加珪材量={(目標Si割合-調整前Si割合)×溶湯量-球状化剤量×球状化剤のSi割合}÷加珪材のSi割合・・・式(1)
つまり、加珪材量決定部45は、目標Si割合と調整前Si割合と溶湯量とにより算出される「目標シリコン量」から、球状化剤の供給量とそのSi割合とにより算出される「シリコン投入予定量」を引いた「シリコン不足量」を、加珪材のSi割合で除算した値を、加珪材の供給量として算出する。なお、シリコン投入予定量の算出に用いられる「球状化剤の供給量」および「球状化剤のSi割合」を、「球状化剤のうちのMg量」および「Mg量に対するSi量の比率」にそれぞれ置き換えてもよい。
【0059】
加珪材量決定部45により加珪材の供給量が決定されると、指示出力部46が、決定された供給量だけ加珪材を投入するよう、加珪材供給装置17に指示を出力する(ステップS109)。これにより、取鍋15内の溶湯のシリコン成分が調整される。
【0060】
その後、指示出力部47が、ステップS105において決定された球状化剤の供給量だけ球状化剤を投入するよう、供給装置23に指示を出力する(ステップS111)。これにより、取鍋15内にマグネシウムが(シリコンとともに)添加され、球状黒鉛鋳鉄の溶湯となる。これにより、成分が調整された球状黒鉛鋳鉄溶湯が生成される(ステップS112)。
【0061】
処理杯スケジュール情報54として設定した全ての杯の球状化処理が完了するまで、ステップS103~S111の処理を繰り返す(ステップS113にてNO)。
【0062】
上述のように、成分調整工程P5の後に球状化処理工程P6が実行される場合であっても、球状化剤量決定部44が、成分調整工程P5よりも前に処理杯への球状化剤量を決定するため、加珪材量決定部45によって、成分調整工程P5において添加する加珪材の量を自動的かつ適切に決定(算出)することができる。したがって、鋳造工程P8に搬出する溶湯の成分を最適化することができる。また、本実施の形態では先に成分調整工程P5を行うことにより、球状化処理工程P6から鋳造工程P8への移行時間を短くできるため、溶湯温度の低下、および、添加したマグネシウムのフェーディングを極力抑えられる効果がある。
【0063】
なお、球状黒鉛鋳鉄溶湯の製造工程は図1に示したような順序に限定されず、成分調整工程が球状化処理工程の後に実行されてもよい。この場合においても、加珪材量決定部45が、球状化剤量決定部44により杯ごとに決定された球状化剤量を用いることにより、加珪材の量を自動的かつ適切に決定(算出)することができるので、効率良く溶湯の成分を最適化することができる。
【0064】
また、本実施の形態では、コアードワイヤー装置21を用いて取鍋15内に球状化剤を投入することとしたが、このような例に限定されない。
【0065】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2では、成分調整装置20の球状化剤供給制御装置が、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測して、球状化剤量を決定する例について説明する。なお、本実施の形態において説明する予測方法は、特願2020-54703号として本出願人が出願済である。
【0066】
本実施の形態における成分調整装置の基本的な機能構成は図2に示した成分調整装置20と同様であるが、図2に示した球状化剤供給制御装置30に代えて、図5(A)に示す球状化剤供給制御装置30Aを備えている。
【0067】
(球状化剤供給制御装置の機能構成)
図5(A)を参照して、球状化剤供給制御装置30Aの機能構成について説明する。図5(A)は、本実施の形態に係る球状化剤供給制御装置30Aの機能構成を示すブロック図である。
【0068】
球状化剤供給制御装置30Aは、データ記憶部31と、モデル記憶部32と、決定部33と、指示出力部34と、結果取得部35とを含む。
【0069】
データ記憶部31は、過去の実績データを、球状化処理ごと(杯ごと)に記憶する。データ記憶部31には、直近の所定数(たとえば2個)の実績データ(過去の杯情報)のみが記憶されてもよい。実績データは、球状化処理の各種条件を示す溶湯条件データと、球状化処理の結果データとを含む。
【0070】
溶湯条件データは、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の全て、または少なくとも一つを含む。元湯成分はC含有量およびS含有量の両方、または少なくとも一方を含む。
【0071】
本実施の形態において、結果データはMg歩留まりを表わす。なお、Mg歩留まりに代えて、投入Mg量および残留Mg量を結果データとしてもよい。つまり、データ記憶部31は、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶していればよい。
【0072】
モデル記憶部32は、予測モデル32Aを記憶する。予測モデル32Aは、後述する学習装置100において生成された学習モデルである。
【0073】
決定部33は、データ記憶部31に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のMg歩留まりを予測して、球状化剤の供給量を決定する。つまり、決定部33は、予測モデル32Aに少なくとも過去の実績データを入力することにより、Mg歩留まりを予測する予測部36と、予測部36での予測結果(予測歩留まり)に応じて投入Mg量を演算し、投入Mg量から球状化剤の供給量を演算する演算部37とを含む。予測部36によるMg歩留まりの予測方法については後に詳述する。
【0074】
演算部37は、次式(2)により投入Mg量を演算する。
【0075】
投入Mg量=(目標残留Mg×処理湯量)/予測歩留まり・・・式(2)
また、演算部37は、式(2)により求められた投入Mg量と、球状化剤(ワイヤー22)のMg割合とに基づいて、球状化剤量を演算する。本実施の形態では、このようにして決定された処理杯への球状化剤量が、加珪材量決定部45に出力される。加珪材量決定部45は、上述の実施形態と同様に、上記算出式(1)によって処理杯への加珪材量を決定する。
【0076】
指示出力部34は、決定部33により決定された球状化剤量に応じた長さのワイヤー22を取鍋15に供給するよう、供給装置23に指示し、黒鉛の球状化を実施する。
【0077】
結果取得部35は、黒鉛球状化処理後の取鍋15A内の溶湯成分の分析結果をQV分析装置14から取得し、残留Mg量を検出する。また、検出した残留Mg量に基づいて、Mg歩留まりを算出する。算出したMg歩留まりが、結果データとしてデータ記憶部31に記憶される。
【0078】
なお、球状化剤供給制御装置30Aの決定部33、指示出力部34、および結果取得部35の機能は、CPUなどのプロセッサがソフトウェアを実行することにより実現され得る。データ記憶部31およびモデル記憶部32は、不揮発性のメモリ、または、コンピュータに対して着脱可能な記録媒体などにより実現される。
【0079】
(Mg歩留まりの予測方法)
図6を参照して、本実施の形態における予測モデル32Aを用いたMg歩留まりの予測方法について説明する。図6(A)には比較例による予測方法を概念的に示し、図6(B)に本実施の形態(実施例)による予測方法を概念的に示している。
【0080】
図6(A)を参照して、通常の予測モデルであれば、これから処理する処理杯情報を説明変数として、目的変数であるMg歩留まり(または残留Mg量)を予測するように機械学習される。処理杯情報は溶湯条件データDaに相当し、Mg歩留まり(実測値)は結果データDbに相当する。溶湯条件データDaは、たとえば、各処理の基本情報(日付、時間、製品種)と、処理前の溶湯の各元素成分(C、Si、Mn、P、S、Cu、など)の割合を示す元湯成分と、残湯量および出湯湯量により特定される処理湯量と、処理前の溶湯温度を示す元湯温度とを含み、添加剤量をさらに含んでいる。
【0081】
これに対し、図6(B)を参照して、本実施の形態における予測モデル32Aは、処理杯情報だけでなく、過去の杯の情報すなわち実績データを説明変数として、Mg歩留まりを予測するように機械学習されている。ここで、実績データには、目的変数の答え(実測結果)であるMg歩留まりが含まれる。
【0082】
直近の二杯分の実績データを説明変数に含める場合、一杯前の実績データは、一杯前の球状化処理に関する溶湯条件データDa1および結果データDb1を含み、二杯前の実績データは、二杯前の球状化処理に関する溶湯条件データDa2および結果データDb2を含む。
【0083】
(予測モデルの生成方法)
図5(B)を参照して、予測モデル32Aの生成方法について説明する。図5(B)は、学習装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0084】
学習装置100は、履歴データ記憶部101と、モデル生成部102と、モデル記憶部103と、評価部104とを含む。学習装置100は、CPUなどのプロセッサおよびメモリを含むコンピュータにより実現される。
【0085】
モデル生成部102は、球状化剤供給制御装置30Aでの球状化処理ごとに処理履歴データを生成し、生成した処理履歴データ1,2,・・・,nを、履歴データ記憶部101に記憶する。
【0086】
各処理履歴データ(k)は、上述の実績データに相当し、固有の識別データに対応付けて記憶された溶湯条件データおよび結果データを含む。識別データは、たとえば、図5(A)に示した基本情報に含まれる日付および製品種類が含まれる。溶湯条件データは、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の全て、または、少なくとも一つを含む。溶湯条件データはまた、処理時間を含んでもよい。
【0087】
モデル生成部102は、履歴データ記憶部101に記憶された複数の処理履歴データに基づいて、処理杯のMg歩留まりを予測するための学習モデル、すなわち予測モデル103Aを生成する。具体的には、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データ(Mg歩留まりを含む)と、処理杯の結果データであるMg歩留まりとの相関を機械学習して、予測モデル103Aを生成する。つまり、図6(B)に示したように、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データを説明変数とし、処理杯のMg歩留まりを目的変数とする予測モデル103Aを生成する。
【0088】
機械学習に用いるアルゴリズムとしては、たとえば(重)回帰分析が採用され得るが、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシン、決定木、k-NNなど他の手法が採用されてもよい。
【0089】
評価部104は、モデル生成部102により生成された予測モデル103Aの精度を評価し、評価結果をモデル生成部102に出力する。モデル生成部102は、Mg歩留まりの予測値と実測値(結果)との誤差を無くすように、予測モデル103Aを適宜修正する。
【0090】
ここで、評価部104は、予測モデル103Aを用いて予測されるMg歩留まりよりも、実測値(結果)の方が低くなった場合には、同量だけ高くなった場合よりも誤差(損失)を大きく評価することが望ましい。予測モデルの目的変数を処理後の溶湯の残留Mg量とする場合も同様である。
【0091】
図8を参照して、予測モデル103Aの評価に用いる誤差関数(損失関数)について説明する。機械学習の評価に用いる誤差関数としては、次の例1、2のようなものが一般的である。例1の誤差関数は、図8(B)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差をそのまま絶対値で表し、絶対値の平均を評価結果として算出するものである。例2の誤差関数は、図8(C)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差を二乗し、その平均の平方根を評価結果として算出するものである。
【0092】
これに対し、本実施の形態の誤差関数は、図8(D)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差が正の値である場合にのみ、その値を定数倍(たとえば2倍)して、絶対値の平均を評価結果として算出するものである。そのため、図8(A)に示されるように、予測値と実測値との差が正(+側)のケースがいくつかあると、評価部104による評価結果(誤差)が、例1および例2の評価結果(誤差)よりも高くなり得る。
【0093】
このような評価方法を採用することにより、後の鋳造工程P8を経て得られる完成品の品質低下を防止できる。
【0094】
モデル生成部102により生成された予測モデル103Aが、球状化剤供給制御装置30Aのモデル記憶部32に予め、予測モデル32Aとして記憶されている。なお、球状化剤供給制御装置30Aが、学習装置100の機能を備え、球状化剤供給制御装置30Aにおいて予測モデル32Aを随時更新できるようにしてもよい。
【0095】
(シミュレーション結果)
図7(A)は、比較例の予測モデルでMg歩留まりを予測する場合のシミュレーション結果を示す表であり、図7(B)は、本実施の形態の予測モデル103AでMg歩留まりを予測した場合のシミュレーション結果を示す表である。
【0096】
図7(A)は、図6(A)に示した比較例に従ったMg歩留まりの予測値および実測値(目的変数)を、基準値(Mg歩留まりの目標値)との差として示した表である。図7(B)は、図6(B)に示した本実施の形態における予測方法に従ったMg歩留まりの予測値および実測値(目的変数)を、同じく、基準値(Mg歩留まりの目標値)との差として示した表である。
【0097】
図7(A)を参照して、比較例においては、説明変数の欄CA1に、当該杯データ(処理杯情報)のみが含まれている。当該杯データは、図6(A)に示した溶湯条件データに相当する。目的変数の欄CA2には、各回のMg歩留まり実測値が、基準値(目標値)からの差分として示されている。予測値の欄CA3には、欄CA1の説明変数を入力として予測した場合の各回の予測Mg歩留まりが、基準値(目標値)からの差分として示されている。
【0098】
図7(B)を参照して、本実施例においては、説明変数の欄CB1に、当該杯データに加え、1杯前データおよび2杯前データが含まれている。1杯前データおよび2杯前データは、実績データに相当し、溶湯条件データと歩留まりデータ(結果データ)とを含んでいる。目的変数の欄CB2、および、予測値の欄CB3は、上記欄CA2,CA3と同様に、各値が、基準値(目標値)からの差分として示されている。
【0099】
図7(A),(B)のシミュレーション結果の評価を下記に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示されるように、マグネシウムの使用割合は、本実施例および比較例ともに同等で、予測誤差および目標下限外れ率は、比較例の方が実施例よりも高い。ここでの予測誤差は、図8の例2に従って計算した二乗平均平方根誤差であり、予測値と実測値との差を二乗し、その平均の平方根を誤差として表している。目標下限外れ率とは、予測値が目標下限値を外れて低くなった割合を表わす。マグネシウムの使用割合は、Mg歩留まり実測値(答え)に従って運用した場合に使用する球状化処理用Mg量(投入量)を1とした場合のMg量を表わす。
【0102】
上記の評価結果から、本実施の形態のように、予測モデル103Aの説明変数に過去の実績データを含めることで、比較例よりも精度良くMg歩留まりを予測できることが判明した。特に、目的変数であるMg歩留まり(実測値)を実績データに含ませることによって予測精度を向上できることを見出した。
【0103】
(球状化剤供給制御装置の動作)
図5(A)および図9を参照して、球状化剤供給制御装置30Aの動作について説明する。図9は、本実施の形態における球状化剤供給処理を示すフローチャートである。
【0104】
はじめに、球状化剤供給制御装置30Aの決定部33が、QV分析装置14などから処理杯の溶湯条件データを取得するとともに、データ記憶部31に記憶された過去2杯分の実績データを取得する(ステップS1)。
【0105】
決定部33の予測部36が、ステップS1で取得した情報に基づいて、処理杯のMg歩留まりを予測する(ステップS3)。つまり、処理杯の溶湯条件データおよび過去2杯分の実績データを予測モデル32Aに入力し、予測モデル32Aの出力値を予測値として取得する。
【0106】
続いて、決定部33の演算部37は、ステップS3で予測したMg歩留まりと、予め定められた目標残留Mg量と、処理杯の溶湯条件データに含まれる処理湯量とに基づいて、投入Mg量を演算する(ステップS5)。また、投入Mg量と、球状化剤(ワイヤー22)のMg割合とに基づいて、球状化剤の供給量を演算(決定)する(ステップS6)。なお、目標残留Mg量は、処理杯スケジュール情報54(図2)の溶湯量と目標Mg割合とから求められる。
【0107】
上述のステップS3~S6の処理は、図4のステップS105の処理(球状化剤の供給量決定処理)に代えて実行される。そのため、本実施の形態において、加珪材量決定部45は、ステップS6で決定された球状化剤量を用いて、加珪材の供給量を決定する(図4のステップS107)。
【0108】
指示出力部34は、ステップS6で決定した供給量に応じてワイヤー22を供給するように、コアードワイヤー装置21の供給装置23に指示する(ステップS7)。これにより、取鍋15内の溶湯に適量のマグネシウムが自動的に投入され、球状黒鉛鋳鉄の溶湯となる(ステップS9)。
【0109】
黒鉛の球状化が終了すると、結果取得部35が、取鍋15A内の溶湯の成分分析結果を取得し、残留Mg量を検出する(ステップS11)。また、検出した残留Mg量と、処理湯量と、ステップS5で演算した投入Mg量とに基づいて、Mg歩留まり(実測値)を算出する(ステップS13)。
【0110】
結果取得部35は、算出したMg歩留まり(実測値)をデータ記憶部31に記憶する(ステップS15)。つまり、ステップS1で取得された処理杯の溶湯条件データと、ステップS13で得た結果データとを含む実績データが、直近(1杯前)の実績データとして、データ記憶部31に記憶される。
【0111】
本実施の形態においても、処理杯スケジュール情報54(図2)として設定した全ての杯の球状化処理が完了するまで、上記処理が繰り返される。
【0112】
(実施の形態2の変形例)
(1)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、直前の2杯分に限定されない。たとえば、1杯前と3杯前の実績データを用いてもよい。なお、Mg歩留まりの予測に用いられる実績データは、製品種類が同一の実績データであることが望ましい。
【0113】
(2)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、複数杯が望ましいものの、2杯分に限定されず、3杯以上であってもよい。あるいは、1杯分の過去の実績データに基づいてMg歩留まりを予測してもよい。
【0114】
(3)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、処理杯の溶湯条件データおよび結果データの双方を含むこととしたが、結果データのみを含んでいてもよい。
【0115】
(4)Mg歩留まりの予測に、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データの双方が用いられることとしたが、少なくとも過去の実績データが用いられればよい。つまり、予測モデル103Aの説明変数は、過去の実績データのみであってもよい。
【0116】
(5)実施の形態2では、球状化剤供給制御装置30Aが予測モデル103Aを用いてリアルタイムで投入Mg量を決定する方法について説明したが、オフラインで投入Mg量を決定してもよい。
【0117】
(6)球状化剤供給制御装置30Aが実行する投入Mg量の決定方法を、プログラムとして提供することもできる。同様に、学習装置100により実行される学習方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0118】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0119】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0120】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
10 鋳鉄溶湯製造装置、15,15A,15B 取鍋、17 加珪材供給装置、20 成分調整装置、21 コアードワイヤー装置、23 (球状化剤)供給装置、30,30A 球状化剤供給制御装置、31 データ記憶部、32,103 モデル記憶部、32A,103A 予測モデル、41 記憶部、42 スケジュール設定部、43 元湯成分取得部、44 球状化剤量決定部、45 加珪材量決定部、48 入力部、60 添加剤供給制御装置、51 球状化剤情報、52 加珪材情報、53 成分種テーブル、54 処理杯スケジュール情報、100 学習装置、101 履歴データ記憶部、102 モデル生成部、104 評価部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9