(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128806
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220829BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220829BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 132
C09D11/322
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027231
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】我有 紘彰
(72)【発明者】
【氏名】浦野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056EA09
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB06
2H186AB13
2H186AB27
2H186AB39
2H186AB44
2H186AB47
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2H186AB55
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB58
2H186AB59
2H186FA14
2H186FB11
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2H186FB48
2H186FB58
4J039AD10
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】印刷物への画像の定着性、印刷物の画質及び裏面濃度を向上することである。
【解決手段】色材及び水を含むインクと、浸透促進成分を含む処理液Aと、定着成分を含む処理液Bと、前記インクを凝集させる凝集成分を含む処理液Cとを吐出するインクジェット記録方法であって、前記処理液及び前記インクが、前記処理液A、前記処理液B、前記処理液C、及び前記インクの順に基材に着弾する、インクジェット記録方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材及び水を含むインクと、
浸透促進成分を含む処理液Aと、
定着成分を含む処理液Bと、
前記インクを凝集させる凝集成分を含む処理液Cと
を吐出するインクジェット記録方法であって、
前記処理液及び前記インクが、前記処理液A、前記処理液B、前記処理液C、及び前記インクの順に基材に着弾する、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた基材に画像を記録するものであり、低騒音で高速印刷が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方法に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。
【0003】
水性インクは、主溶媒に水を用いることから、環境に対する負荷が少なく、また、溶媒が揮発しやすいため印刷物の乾燥性に優れる。一方で、水性インクは、基材の種類によって、基材への浸透性が十分に得られずに、画質及び画像の定着性が問題となることがある。
【0004】
特許文献1では、浸透性の異なる2種類の前処理液を使用することで、媒体の種類によらずにインクとの反応性を高めながら、前処理液の濡れ広がり性も高める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、浸透性の高い媒体に対しては、浸透性の高い前処理液を被覆してから、浸透性の低い前処理液を被覆することで、後から着弾される浸透性の低い前処理液が媒体に浸透しないで媒体表面に残存し、インクとの反応性及び濡れ広がり性を向上させることが開示されている。
基材への画像の定着性をより高めるためには、水性インクが基材の内部にまで浸透し、色材が基材の内部まで行き渡るとよい。特許文献1の開示のように、2種類の前処理剤を媒体表面に残存させる方法では、画像の定着性が課題となる場合がある。
本発明の実施形態は、印刷物への画像の定着性、印刷物の画質及び裏面濃度の向上を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、色材及び水を含むインクと、浸透促進成分を含む処理液Aと、定着成分を含む処理液Bと、前記インクを凝集させる凝集成分を含む処理液Cとを吐出するインクジェット記録方法であって、前記処理液及び前記インクが、前記処理液A、前記処理液B、前記処理液C、及び前記インクの順に基材に着弾する、インクジェット記録方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、印刷物への画像の定着性、印刷物の画質及び裏面濃度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳しく説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更が加えられてもよいことはいうまでもない。
【0010】
本発明の一実施形態によるインクジェット記録方法は、色材及び水を含むインクと、浸透促進成分を含む処理液Aと、定着成分を含む処理液Bと、インクを凝集させる凝集成分を含む処理液Cとを吐出するインクジェット記録方法であって、処理液及びインクが、処理液A、処理液B、処理液C、及びインクの順に基材に着弾する、インクジェット記録方法である。
このインクジェット記録方法を用いた場合、印刷物の画質及び印刷物への画像の定着性を改善することができる。
また、印刷物の裏面濃度を高めることができ、印刷物の裏側からの視認性が要求される用途に好ましく適用することができる。
【0011】
浸透促進成分を含む処理液Aは、インクの基材内への浸透を助けることで、インクの基材内でのアンカー効果の強化と裏面濃度の向上といった効果がある。
定着成分を含む処理液Bは、基材に対するインクの色材のバインダーとして機能し、基材内での色材の定着性を向上させる効果がある。
インクを凝集させる凝集成分(以下、単に「凝集成分」という場合もある。)を含む処理液Cはインクの滲みを抑制し、画質を向上する効果がある。
1番目に処理液Aを吐出することで、処理液A中の浸透促進成分によって、処理液B、処理液C、及びインクが基材内に浸透しやすくなり、色材が基材内部にまで浸透できる。これにより、基材に擦過等の応力が掛かった際の定着性が向上する。また、インクが基材内に浸透することで裏面濃度も向上する。
2番目に処理液Bを吐出することで、処理液B中の定着成分が基材内に浸透し、処理液A~Cの着弾の後に着弾したインクが基材内に浸透した際に、浸透したインクを基材中で固定できる。これにより、処理液Aによって向上した定着性が更に向上する。
3番目に処理液Cを吐出すると、処理液Aが先に付与されていることで、その後に付与される処理液Cの凝集成分が基材内部に引き込まれやすくなり、処理液C中の凝集成分の一部だけが基材表面に留まり、残りは全て基材内部に到達する。凝集成分が基材の表面と内部の両方に存在することで、インクを基材に吐出した際に、インクの滲みを抑えつつ、且つ、処理液Aの作用によりインクを基材内部にまで到達させることができる。インクジェットインク、とくに色材として顔料を含むインクジェットインクの場合、印刷物の裏面濃度の向上が課題となる場合があるが、インクが滲むことなく、基材内部にまで到達することで、印刷物の裏面濃度向上と画質向上の両立が可能となる。
【0012】
「基材」
一実施形態による印刷物の製造方法は、各種の基材に対して好ましく画像を記録することができる。
基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、木材基材、金属基材、ガラス基材、樹脂基材等が挙げられる。なかでも、布が好ましい。
布としては、例えば、綿、絹、羊毛、麻等の天然繊維;ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、キュプラ、アセテート等の化学繊維;又はこれらの混紡繊維等を挙げることができる。また、布としては、織物、編物、又は不織布等であってよい。
【0013】
「処理液A」
処理液Aは、浸透促進成分を含むことが好ましい。
浸透促進成分としては、例えば、界面活性剤、SP値が14(cal/cm3)1/2以下の水溶性有機溶剤等、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0014】
ここで、SP値は、Fedors式で求められるSP値であり、具体的には、Fedorsの提唱した下記式により算出した値である。下記式において、Δeiは、i成分の原子または原子団の蒸発エネルギーであり、Δviは、i成分の原子または原子団のモル体積である(Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook,Second Edition,Charles M.Hansen,CRC Press,2007参照)。
δ=[(sumΔei)/(sumΔvi)]1/2
【0015】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤があるが、非イオン
性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0016】
また、界面活性剤は、低分子量系界面活性剤及び高分子量系界面活性剤(一般には分子
量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、高分子量系界面活性剤
を好ましく用いることができる。
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましい。
【0017】
界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、高級アルコール系界面活性剤等が挙げられる。
これらの中からシリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、なかでもシリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0018】
シリコーン系界面活性剤のなかでも、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等を好ましく用いることができる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAGシリーズ」(商品名)、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK-349」(商品名)等が挙げられる。
【0019】
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、例えば、アセチレングリコールである「サーフィノール104E、104H」、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造の「サーフィノール420、440、465、485」(以上いずれも商品名、エアープロダクツアンドケミカルズ社製)、アセチレングリコールの「オルフィンE-1004、E-1010、E-1020、PD-002W、PD-004、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300」(以上いずれも商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレングリコールの「アセチレノールE00、E00P」、アセチレングリコールのエチレンオキサイドを付加した構造の「アセチレノールE40、E100」(以上いずれも商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、例えば、「サーフィノールPSA-336」(商品名、日信化学工業株式会社製)等も挙げられる。
【0020】
その他の非イオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン120、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン220、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン420、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン4085、エマルゲン2025G」等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
上記した界面活性剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、処理液A全量に対し、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。
界面活性剤は、処理液A全量に対し、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
【0022】
SP値が14(cal/cm3)1/2以下の水溶性有機溶剤としては、例えば、1,2-ブタンジオール(SP値12.8)、1,6-ヘキサンジオール(SP値13.5)、1,2-プロパンジオール(SP値13.5)、グリセリン(SP値16.4)、ジプロピレングリコール(SP値13.6)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.9)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値10.5)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(SP値11.7)、ジエチレングリコールベンジルエーテル(SP値11.5)、エチレングリコールプロピルエーテル(SP値11.1)、ジエチレングリコールモノエチルアセテート(SP値9.3)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値8.4)、N-メチル-2-ピロリドン(SP値11.2)等が挙げられる。
カッコ内のSP値の単位は(cal/cm3)1/2である。
【0023】
水溶性有機溶剤のSP値の下限値は、特に限定されないが、9(cal/cm3)1/2以上が好ましい。
【0024】
上記した水溶性有機溶剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
浸透促進成分としての水溶性有機溶剤は、処理液A全量に対し、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
浸透促進成分としての水溶性有機溶剤は、処理液A全量に対し、100質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。浸透促進成分としての水溶性有機溶剤は、浸透促進成分と溶媒との両方の機能を備えるため、浸透促進成分としての水溶性有機溶剤を単一成分として含む処理液Aを構成してもよい。
【0025】
上記した浸透促進成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の浸透促進成分を用いる場合は、互いの作用を損なわないように2種以上の浸透促進成分を選択し、また、その配合割合を調節することが好ましい。また、浸透促進成分として界面活性剤を含むことで処理液Aの浸透性をより高めることができる。さらに、浸透促進成分として界面活性剤とSP値が14(cal/cm3)1/2以下の水溶性有機溶剤とを組み合わせて用いることが好ましい。
浸透促進成分は、処理液A全体に対し、0.5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。浸透促進成分として界面活性剤を用いる場合は、少量においても処理液Aの浸透性をより効果的に改善することができる。
浸透促進成分は、これに限定されないが、処理液A全体に対し、100質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
例えば、浸透促進成分は、処理液A全体に対し、0.5~100質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、30~60質量%がさらに好ましい。
【0026】
処理液Aは、さらに、溶剤、定着樹脂、界面活性剤、架橋剤、pH調整剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、防腐剤等の物質を含むことが出来る。溶剤としては、水、水溶性有機溶剤、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した浸透促進成分として配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。または、後述するインクに配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。
【0027】
処理液Aの製造方法は、特に限定されず、通常の方法により適宜製造することができる。例えば、処理液Aは、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して混合ないし分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0028】
「処理液B」
処理液Bは、定着成分を含むことが好ましい。
定着成分としては、水分散性樹脂が望ましく、中でも非イオン性の水分散性樹脂がより望ましい。
【0029】
水分散性樹脂としては、例えば、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、スチレン-(メタ)アクリル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、水分散性メラミン樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらの複合樹脂等において、これらの樹脂に親水性の官能基を導入するか、または、樹脂粒子表面が親水性の分散剤を付着させる等の表面処理されたもの等を用いることができる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル単位を含む樹脂、メタクリル単位を含む樹脂、およびアクリル単位及びメタクリル単位を含む樹脂を示す(以下、同じである。)。
【0030】
これらの水分散性樹脂のなかでも、定着性の向上の観点から、水分散性ウレタン樹脂が好ましい。
【0031】
水分散性ウレタン樹脂としては、非イオン性水分散性ウレタン樹脂が好ましい。
【0032】
水分散性樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社の「スーパーフレックス500M」(商品名)(非イオン性ウレタン樹脂のエマルション)、「スーパーフレックス740」(アニオン性ウレタン樹脂のエマルション)、株式会社村山化学研究所の「サンプレックスPUE-C200B」(商品名)(カチオン性ウレタン樹脂エマルション)、ジャパンコーティングレジン株式会社の「モビニール7720」(商品名)(非イオン性水分散性(メタ)アクリル樹脂エマルション)、Lubrizol社製「PRINT RITE DP-375」(商品名)(カチオン性水分散性樹脂エマルション)等が挙げられる。
【0033】
水分散性樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
水分散性樹脂は、処理液B全質量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。一方、水分散性樹脂は、処理液B全質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。水分散性樹脂は、処理液A全質量に対して、例えば、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0034】
定着成分は、処理液B全質量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。一方、定着成分は、処理液B全質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。定着成分は、処理液B全質量に対して、例えば、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0035】
処理液Bは、さらに、溶剤、定着樹脂、界面活性剤、架橋剤、pH調整剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、防腐剤等の物質を含むことが出来る。溶剤としては、水、水溶性有機溶剤、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した処理液Aに浸透促進成分として配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。または、後述するインクに配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。界面活性剤としては、例えば、上記した処理液Aに浸透促進成分として配合可能な界面活性剤から選択して用いてもよい。
【0036】
処理液Bの製造方法は、特に限定されず、上記した処理液Aと同様の方法によって作製することができる。
【0037】
「処理液C」
処理液Cは、インクを凝集させる凝集成分(「凝集成分」)を含むことが好ましい。
凝集成分としては、例えば、有機酸、カチオン性水分散性樹脂、カチオン性水溶性樹脂(以下、カチオン性水分散性樹脂及びカチオン性水溶性樹脂をまとめて「カチオン性樹脂」という場合もある。)、金属塩、低極性溶剤等が挙げられる。これらの中でも、有機酸がより好ましい。
【0038】
有機酸は、酸性を示す有機化合物であって、具体的にはカルボキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、スルホ基等の酸性基を有する有機化合物を好ましく用いることができる。中でも後述する水素結合を形成し易い観点からカルボキシ基が好ましい。
有機酸は、基材と水素結合等の相互作用を起こして、基材への密着性をより向上させることができる。また、有機酸は、水素結合等の相互作用によって、基材上でインクの成分との密着性を向上させることができ、画像の定着性をより改善することができる。
また、インクに架橋剤が含まれる場合は、基材上で有機酸と架橋剤が接触すると、有機酸が不溶化するため、画像の耐水性を高めることができる。
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸等のカルボン酸、乳酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、スルホン酸等が挙げられる。
【0039】
有機酸の沸点は120℃以上が好ましい。
インクジェット記録装置において、水性インクを充填した記録ヘッドは各処理液を付与した基材の上部を移動しながら印刷を行う。沸点120℃以上の有機酸を用いることで、各処理液を付与した基材から有機酸が揮発しにくくなって、記録ヘッドのノズル部の水性インクに、揮発した有機酸が接触しないようにして、ノズル部分で有機酸による水性インクの変質を防止することができる。このため、ノズル部からの水性インクの吐出不良を抑制することができる。
【0040】
上記した有機酸は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機酸は、処理液B全量に対し、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。
有機酸は、処理液B全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0041】
金属塩としては多価金属塩が好ましい。多価金属塩としては、例えば、2価以上の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩、塩素酸塩等を用いることができる。ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が好ましい。2価以上の金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba等の2価のアルカリ土類金属、Ni、Zn、Cu、Fe(II)等の2価の金属、Fe(III)、Al等の3価の金属等が挙げられ、なかでもアルカリ土類金属が好ましい。
より具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マンガン等が挙げられる。
【0042】
上記した金属塩は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属塩は、処理液B全量に対し、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。
多価金属塩は、処理液B全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0043】
カチオン性樹脂としては、カチオン性水溶性樹脂及びカチオン性水分散性樹脂のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
カチオン性水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの共重合体等が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等を用いることができる。
【0045】
カチオン性水溶性樹脂の市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製シャロールシリーズ「DC-303P、DC-902P(いずれも商品名)」といったポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、センカ株式会社製ユニセンスシリーズ「FCA1000L、FPA100L(いずれも商品名)」、大阪有機化学工業株式会社HCポリマーシリーズ「1S、1N、1NS、2、2L(いずれも商品名)」、第一工業製薬株式会社製「F-2997D」(商品名)等が挙げられる。
【0046】
また、カチオン性水溶性樹脂として、アミノ基を有する水溶性樹脂を好ましく用いることができる。
アミノ基を有する水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子、又はこれらの誘導体を用いることができる。なかでも、ポリエチレンイミンまたはポリアリルアミンが好ましい。
【0047】
ポリエチレンイミンの市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製エポミンシリーズ「SP-006、SP-012、SP-018、SP-200(いずれも商品名)」;BASFジャパン株式会社製「Lupasol FG、Lupasol G20 Waterfree、Lupasol PR 8515(いずれも商品名)」等が挙げられる。
また、ポリアリルアミンの市販品としては、例えば、日東紡績株式会社製「アリルアミン重合体であるPAA-01、PAA-03、PAA-05、アリルアミン塩酸塩重合体であるPAA-HCL-01、PAA-HCL-03、PAA-HCL-05、アリルアミンアミド硫酸塩重合体であるPAA-SA(いずれも商品名)」等が挙げられる。
【0048】
カチオン性水分散性樹脂としては、樹脂粒子の表面がプラスに帯電し、正電荷を帯びた樹脂粒子であり、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するカチオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にカチオン性の分散剤を付着させる等の表面処理されたものでもよい。カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等が挙げられる。カチオン性の分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。
カチオン性水分散性樹脂粒子の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。試料を中和するのに必要なアニオン量またはカチオン量を測定することで、表面電荷量を算出することができる。具体的には、表面電荷量が20~500μeq/gが好ましく、20~100μeq/gがより好ましい。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計「Model CAS」等を用いることができる。
【0049】
カチオン性水分散性樹脂としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、処理液の製造に際しては、水中油型樹脂エマルションとして配合することができる。
カチオン性水分散性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、及びこれらの複合樹脂等において、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えたものを用いることができる。
【0050】
水分散性樹脂エマルションにおいて、エマルションを形成する水分散性樹脂粒子の平均粒子径(動的光散乱法により体積基準で測定した平均粒子径)は、基材表面の質感が変わることを防止し、また基材表面からの脱落を防止するために、10μm以下が好ましく、インクジェット記録装置の吐出に適するためには、水分散性樹脂粒子の平均粒子径は、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。
また、水分散性樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定はされないが、インクの耐水擦過性の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
【0051】
カチオン性水分散性樹脂の市販品としては、例えば、Lubrizol社製「PRINTRITE DP-375」、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620、650」、明成化学工業株式会社製の「PP-15、PP-17」、昭和電工株式会社製の「ポリゾールAP-1350」、DIC株式会社製の「ボンコートSFC-55」、ジャパンコーティングレジン株式会社製の「アクアテックスAC-3100」等が挙げられる。
【0052】
上記したカチオン性樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カチオン性樹脂は、処理液C全量に対し、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。
カチオン性樹脂は、処理液C全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0053】
低極性溶剤としては、例えば、脂肪族エステル溶剤、グリコールエーテル溶剤、アセテート系溶剤等を好ましく挙げることができる。
低極性溶剤としては、例えば、SP値10(cal/cm3)1/2以下の溶剤が好ましい。
【0054】
低極性溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
処理液C中の低極性溶剤の量は、処理液C全質量に対して、例えば、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0055】
上記した凝集成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の凝集成分を用いる場合は、互いの作用を損なわないように2種以上の凝集成分を選択し、また、その配合割合を調節することが好ましい。例えば、同じイオン性を示す凝集成分を組み合わせて用いることが好ましい。
凝集成分の合計量は、処理液C全体に対し、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。
凝集成分の合計量は、処理液C全体に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
例えば、凝集成分は、処理液C全体に対し、1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0056】
処理液Cは、さらに、溶剤、定着樹脂、界面活性剤、架橋剤、pH調整剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、防腐剤等の物質を含むことが出来る。溶剤としては、水、水溶性有機溶剤、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した処理液Aに浸透促進成分として配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。または、後述するインクに配合可能な水溶性有機溶剤から選択して用いてもよい。界面活性剤としては、例えば、上記した処理液Aに浸透促進成分として配合可能な界面活性剤から選択して用いてもよい。
【0057】
処理液Cの製造方法は、特に限定されず、上記した処理液Aと同様の方法によって作製することができる。
【0058】
「インク」
インクは、色材及び水を含むことが好ましい。
【0059】
色材としては、顔料及び染料のいずれであってもよく、それぞれ単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。印刷物の耐候性及び耐水性の観点から、色材として顔料を好ましく用いることができる。
【0060】
顔料としては、非白色の顔料、白色顔料、又はこれらの組み合わせを用いることができる。
例えば、基材として、布等の色味や表面形状等を有する基材を用いる場合は、基材の色味等を隠蔽するために白色顔料を用いた白インクを用いて下地層を形成し、その上から画像を記録する方法がある。
非白色の顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料;ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類等を用いることができる。
【0061】
白色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム等の無機顔料等を用いることができる。無機顔料以外に、中空樹脂微粒子、中実樹脂微粒子を使用することもできる。なかでも、隠蔽力の観点から、酸化チタンを好ましく用いることができる。酸化チタンとしては、光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを用いることが好ましい。
顔料の体積基準の平均粒子径は、発色性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましく、200nm以下がより好ましい。例えば、顔料の平均粒子径は、50~500nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。
【0062】
顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を用いてもよい。自己分散顔料の市販品としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200、CAB-O-JET300、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270」、オリヱント化学株式会社製「BONJET BLACK CW-1S、CW-2、CW-3」等が挙げられる(いずれも商品名)。
顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を用いてもよい。
顔料分散剤を用いて顔料をあらかじめ分散させた顔料分散体を用いてもよい。顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製「HOSTAJETシリーズ」、冨士色素株式会社製「FUJI SPシリーズ」等が挙げられる(いずれも商品名)。また、後述する顔料分散剤によって顔料を分散させた顔料分散体を用いてもよい。
【0063】
上記した顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
顔料は、その種類によっても異なるが、発色等の観点から、インク全量に対し、固形分量で0.1~30質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0064】
水中に顔料を安定して分散させるために、インクは顔料分散剤をさらに含んでもよい。
顔料分散剤としては、例えば、市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W、TEGOディスパース750W、TEGOディスパース755W、TEGOディスパース757W、TEGOディスパース760W」、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース41000、ソルスパース41090、ソルスパース43000、ソルスパース44000、ソルスパース46000」、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリル62、ジョンクリル63、ジョンクリル71、ジョンクリル501」、BYK製の「DISPERBYK-102、DISPERBYK-185、DISPERBYK-190、DISPERBYK-193、DISPERBYK-199」等が挙げられる(いずれも商品名)。
界面活性剤型分散剤としては、例えば、花王株式会社製デモールシリーズ「デモールEP、デモールN、デモールRN、デモールNL、デモールRNL、デモールT-45」(いずれも商品名)等のアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60、エマルゲンA-90、エマルゲンA-500、エマルゲンB-40、エマルゲンL-40、エマルゲン420」(いずれも商品名)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0065】
顔料分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料分散剤は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般的に、インク全量に対し、固形分量での質量比で、顔料1に対し、0.005~0.5の範囲で配合することが好ましい。
【0066】
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。
【0067】
上記した染料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
染料は、その種類によっても異なるが、発色等の観点から、インク全量に対し、固形分量で0.1~30質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0068】
インクは水を含むことが好ましい。水は、インクの溶媒として機能するものであれば特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。
水は、インク全量に対し、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。
色材等の添加量に応じて、水は、インク全量に対し、95質量%以下であってよく、90質量%以下であってもよい。
【0069】
インクは、水に加えて、又は水に代えて、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0070】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン);ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。
さらに、水溶性有機溶剤としては、例えば、平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190~630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200~600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250~800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール等の低分子量ポリアルキレングリコール等を用いることもできる。
【0071】
水溶性有機溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水溶性有機溶剤は、インク全量に対し、1~80質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%であってよく、20~40質量%であってよい。2種以上の水溶性有機溶剤を配合する場合は、その合計量がこの範囲であることが好ましい。
【0072】
インクは、界面活性剤をさらに含んでもよい。
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤とに大別される。また、低分子系界面活性剤及び高分子系界面活性剤(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、低分子系界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤のHLB値は、5~20が好ましい。
界面活性剤としては、例えば、上記した処理液Aに浸透促進成分として配合可能な界面活性剤から選択して用いてもよい。
【0073】
界面活性剤は、インク全量に対し、有効成分量で、0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。一方、界面活性剤量は、インク全量に対し、有効成分量で、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下が一層好ましい。
【0074】
インクは、定着樹脂として、水分散性樹脂を含むことが好ましい。
水分散性樹脂の種類としては、代表的には、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、シリコーン樹脂等、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。
【0075】
水分散性樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社の「スーパーフレックス500M」(商品名)(非イオン性ウレタン樹脂のエマルション)、「スーパーフレックス740」(アニオン性ウレタン樹脂のエマルション)、株式会社村山化学研究所の「サンプレックスPUE-C200B」(商品名)(カチオン性ウレタン樹脂エマルション)、ジャパンコーティングレジン株式会社の「モビニール7720」(商品名)(非イオン性水分散性(メタ)アクリル樹脂エマルション)、「モビニール966A」(商品名)(水分散性スチレン-(メタ)アクリル樹脂エマルション)等が挙げられる。
【0076】
水分散性樹脂は、インク全量に対し、固形分量の質量比で、色材1に対して0.1~15が好ましく、1~10がより好ましい。樹脂の含有量をこの範囲にすることで、基材の表面に印刷された画像の定着性と画質を十分に確保することができる。色材1に対する樹脂の比率が0.1以上であることで、画像の定着性をより高めることができる。色材1に対する樹脂の比率が15以下であることで、インクの機上安定性をより改善することができる。
【0077】
水分散性樹脂は、インク全量に対し、固形分量で、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。
また、水分散性樹脂は、インク全量に対し、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
例えば、水分散性樹脂は、インク全量に対し、0.1~20質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、5~10質量%であってもよい。
【0078】
インクには、上記の成分以外に、例えば、架橋成分、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、表面張力低下剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに添加してもよい。
【0079】
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、ビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と色材の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0080】
インクの粘度は適宜調節することができるが、吐出性の観点から、例えば、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
インクのpHは、インクの貯蔵安定性の観点から、7.0~10.0が好ましく、7.5~9.0がより好ましい。
【0081】
「記録方法」
実施形態のインクジェット記録方法は、インクと、処理液Aと、処理液Bと、処理液Cとを吐出するインクジェット記録方法であって、処理液及びインクが、処理液A、処理液B、処理液C、及びインクの順に基材に着弾することが好ましい。
インク、処理液A、処理液B、及び処理液Cは、それぞれインクジェット方式で吐出されることが好ましい。
【0082】
処理液A、処理液B、処理液Cの順に基材に着弾するための制御方法はとくに限定されない。例えば、一つの記録ヘッドユニットに複数の記録ヘッドを含み、基材の搬送方向と交差する方向に記録ヘッドユニットを走査させるシリアル方式では、下記の吐出方法等が挙げられる。
例えば、記録ヘッドユニット内で、処理液A、処理液B、処理液Cの各記録ヘッドが、記録ヘッドユニットの走査方向の往路の下流側から(往路の進行方向先頭側から)処理液A、処理液B、処理液Cの順で配置されている場合には、記録ヘッドユニットの走査方向の往路で処理液A、処理液B、処理液Cの順に吐出し、復路では吐出を行わずに記録ヘッドユニットの移動のみを行う方法;記録ヘッドユニット内で、処理液A、処理液B、処理液Cの各記録ヘッドが、記録ヘッドユニットの走査方向の往路の下流側から(往路の進行方向先頭側から)処理液C、処理液B、処理液Aの順で配置されている場合には、記録ヘッドユニットの走査方向の往路で処理液Aのみを吐出し、復路では処理液B、処理液Cの順に処理液を吐出する方法等が挙げられる。
【0083】
例えば、処理液A~Cを記録ヘッドユニットの走査方向に配置したシリアル式記録ヘッドユニットを用いて基材に双方向で付与する場合では、往路の1パス目では処理液A、処理液B、処理液Cをこの順序で吐出し、復路の2パス目では処理液C、処理液B、処理液Aの順序で吐出すると、基材の搬送方向ではパスに対応するラインごとに処理液A~Cの基材への着弾順序が入れ替わり、画像ムラの原因になり得る。
そのため、処理液A、処理液B、処理液C、及びインクは、基材の記録領域に所定の順序で着弾し、記録領域の全域で処理液A、処理液B、処理液C、及びインクの積層順序が同じになることが好ましい。
【0084】
浸透促進成分と凝集成分の量を制御することで裏面濃度をさらに向上させることができる。浸透促進成分量と凝集成分量との比は、浸透促進成分量1に対して凝集成分量3以下または3未満であることが好ましく、浸透促進成分量1に対して凝集成分量1.5であることがより好ましい。一方、浸透促進成分量と凝集成分量との比較では、凝集成分量が浸透促進成分量以上または浸透促進成分量より多いことが好ましい。浸透促進成分量と凝集成分量との比は、浸透促進成分量:凝集成分量=1:3よりも浸透促進成分の方が多い方が望ましく、浸透促進成分量:凝集成分量=1:1.5であることがより望ましい。浸透促進成分と凝集成分量との比は、例えば、浸透促進成分量:凝集成分量=1:1~1:3または1:1~1:(3未満)であってよい。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
「処理液の作製」
表1~3に処理液A1~A4、B1~B4、及びC1~C3の処方を示す。また、表4にインク1及び2の処方を示す。表中に示す配合割合にしたがって原材料を混合し、ミックスロータで100rpm30分間撹拌した。孔径5μmのナイロンシリンジフィルターでろ過し、処理液A1~A4、B1~B4及びC1~C3、並びにインク1及び2を得た。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
用いた材料は以下の通りである。
【0092】
BYK-349:ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコーン系界面活性剤(浸透促進成分)
シルフェイスSAG002:日信化学工業株式会社製、シリコーン系界面活性剤(浸透促進成分)
サーフィノールPSA-336:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤(浸透促進成分)
【0093】
スーパーフレックス500M:第一工業製薬株式会社製、水分散性エステル系ウレタン樹脂エマルション、非イオン性
モビニール7720:ジャパンコーティングレジン株式会社製、水分散性(メタ)アクリル系樹脂エマルション、非イオン性
PRINT RITE DP-375:Lubrizol社製、カチオン性水分散性樹脂エマルション
スーパーフレックス740:第一工業製薬株式会社製、水分散性カーボネート系ウレタン樹脂エマルション、カチオン性
【0094】
コハク酸:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機酸
塩化マンガン:富士フイルム和光純薬株式会社製、金属塩
F-2997D:第一工業製薬株式会社製、カチオン性水溶性樹脂
【0095】
トリエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製、水溶性有機溶剤
ジプロピレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製、水溶性有機溶剤
1,2-ブタンジオール:東京化成工業株式会社製、水溶性有機溶剤
ジエチレングリコールモノエチルエーテル:東京化成工業株式会社製、水溶性有機溶剤
1,2,4-ブタントリオール:富士フイルム和光純薬工業株式会社製、水溶性有機溶剤
【0096】
CAB-O-JET300:キャボットジャパン株式会社製、カーボンブラック顔料分散体
モビニール966A:ジャパンコーティングレジン株式会社製、水分散性スチレン-(メタ)アクリル樹脂エマルション
エチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製、水溶性有機溶剤
【0097】
「印刷」
表5~7に示す処理液及びインクの組み合わせによって、以下の手順に従って印刷を行って、印刷物を得た。表5~7において、「処理液とインクの吐出順番」は、基材に着弾する順番を示す。例えば、実施例1では、基材に、処理液A1、処理液B1、処理液C1及びインク1の順で着弾させる。
基材には、ポリエステル100%の布を用いた。
プリンターには、マスターマインド製インクジェットプリンターMMP-8130改造機を用いて、画像として、ベタ画像と10ポイントの細字を基材にインクジェット印刷後、180℃2分間ヒートプレスした。
【0098】
「評価」
下記の基準に従って、「画質」、「定着性」、及び「裏面濃度」を判定した。
【0099】
1.画質
10ポイントの細字部分の潰れの有無を確認した。潰れがあったものについては、ベタ画像部のOD値をX-Rite製「X-Rite eXact」により測定し、下記の基準に従って判定した。
結果を表5~7示す。
A:10ポイント以下の細字の潰れが無い。
B:10ポイント以下の細字が一部つぶれており、OD値が1.15以上
C:10ポイント以下の細字が全てつぶれており、OD値が1.1以上、1.15未満
D:10ポイント以下の細字が一部つぶれており、OD値が1.1未満
【0100】
2.定着性
JIS L0849に規定の方法に従い、II型摩擦試験機を用いて印刷物内のベタ部を擦過し、擦過布の汚染を、汚染用グレースケールを用いて評価した。評価基準を下記に示す。結果を表5~7に示す。
A:乾燥摩擦汚染堅牢度3級以上
B:乾燥摩擦汚染堅牢度2級以上3級未満
C:乾燥摩擦汚染堅牢度2級
D:乾燥摩擦汚染堅牢度2級未満
【0101】
3.裏面濃度
ベタ画像部の裏面のOD値をX-Rite製「X-Rite eXact」により測定し、下記の基準に従って判定した。結果を表5~7に示す。
A:OD値が0.4以上
B:OD値が0.35以上、0.4未満
C:OD値が0.3以上、0.35未満
D:OD値が0.3未満
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
実施例1~16は、いずれも、画像、定着性及び裏面濃度において良好な結果が示された。
【0106】
実施例1と3、実施例2と4は使用している処理液は全て同じである。しかし、実施例3と4は凝集成分量に対する浸透促進成分量が実施例1と2よりも少ない。そのため、実施例3と4は色材の基材への浸透力が実施例1と2よりも低くなり、裏面濃度が実施例1と2よりも低い結果となったことが考えられる。
【0107】
実施例5と6の定着性は実施例1と2よりも低くなっている。これは、処理液Cの凝集成分を有機酸から変更したことに起因することが考えられる。有機酸は、インク中の成分に加えて、基材とも相互作用しやすく、インクの定着性を高める傾向にある。この作用が実施例5と6では生じにくくなった結果として、実施例5と6の定着性は、実施例1と2よりも低くなったことが考えられる。また、実施例7と8の裏面濃度が実施例5と6よりも低くなった要因は、前記と同様に凝集成分量に対する浸透促進成分量が少なくなったことが考えられる。
【0108】
実施例9と10の定着性が実施例1と2よりも低くなった要因は、処理液Bの定着成分をカチオン性の水分散性樹脂、もしくは凝集成分と混合した際に凝集する水分散性樹脂としたことが考えられる。定着成分がカチオン性水分散性樹脂の場合、インクと反応して凝集を生じさせる。このとき、基材上に処理液Cだけでなく処理液Bにもインクを凝集させる成分が含まれていると、基材表面にとどまるインク量が増加する。この結果として、インクが基材内で定着できなくなり、実施例9の定着性が実施例1と2よりも低くなったことが考えられる。更に、定着成分が凝集成分と反応する水分散性樹脂である場合、凝集成分がインクと十分に反応しきれずに、定着性が低下する。これにより、実施例10の定着性が実施例1と2よりも低くなったことが考えられる。また、実施例11と12の裏面濃度が実施例9と10よりも低くなった要因は、前記と同様に凝集成分量に対する浸透促進成分量が少なくなったことが考えられる。
【0109】
実施例13と14の定着性と裏面濃度が実施例1と2よりも低くなった要因は、処理液Aの浸透促進成分をシリコーン系界面活性剤以外の活性剤としたことが考えられる。シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤としたことで、定着成分や凝集成分、インク成分が基材内に浸透しにくくなる。この結果として、インク層が基材表面に形成されてしまい、インク層に擦過応力が掛かりやすくなる。擦過応力が掛かりやすくなることで、定着性が低下する。更に、インク成分が浸透しにくくなることで裏面濃度も低下したことが考えられる。また、実施例15と16の裏面の濃度が実施例13と14よりも低くなった要因は、前記と同様に凝集成分量に対する浸透促進成分量が少なくなったことが考えられる。