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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128844
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20220829BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20220829BHJP
   F16J 3/04 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B62D3/12 505
B62D3/12 501D
F16J15/52 C
F16J3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027291
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 英治
(72)【発明者】
【氏名】坂東 勇気
(72)【発明者】
【氏名】大野 浩平
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043DA06
3J043FA01
3J043FA05
3J043FB10
3J045AA04
3J045BA02
3J045CB21
(57)【要約】
【課題】タイロッドが連結されない側のハウジングの端部からのラック軸の突出長さを車両の要求に応じて小さくすることができる小型のステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置1は、ラック軸24の一方の端部24cに設けられ、ハウジング10の第一開口端部11内に設けられた停止部16と、ラック軸24の一方の端部に設けられ、ラック軸24の軸線方向における一方方向への移動を停止部16と当接することによって規制する当接部26と、開口部がハウジング10の第一開口端部11の外周面11cに固定され、ラック軸24の一方の端部24c及び当接部26を内部空間IA1内に収容し、外部空間OAから内部空間IA1への水の侵入を遮断する袋状で蛇腹状の第一ブーツ40と、を備え、第一ブーツ40は、第一ブーツ内に収容するラック軸24の一方の端部24c又は当接部26とは固定されない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の作動に応じて軸線周りに回転するピニオンと、
前記ピニオンと噛合するラック歯を備えるラック軸と、
前記ラック軸を軸線方向に移動可能に収容する筒状のハウジングと、
前記ラック軸の一方及び他方の端部のうち前記他方の端部のみに連結され、リンク機構を介して操舵輪に操舵力を伝達するタイロッドと、
を備えるステアリング装置であって、
前記ハウジングの一方の開口端部である第一開口端部内に設けられた停止部と、
前記ラック軸の前記一方の端部に設けられ、前記ラック軸の前記軸線方向における一方方向への移動を前記停止部と当接することによって規制する当接部と、
前記ハウジングの前記第一開口端部の外周面に開口部が固定され、前記ラック軸の前記一方の端部及び前記当接部を内部空間に収容し、外部空間から前記内部空間への水の侵入を遮断する袋状で蛇腹状の第一ブーツと、
を備え、
前記第一ブーツは、前記第一ブーツ内に収容する前記ラック軸の前記一方の端部又は前記当接部とは固定されない、ステアリング装置。
【請求項2】
前記ハウジングの他方の開口端部である第二開口端部の外周面と前記タイロッドの外周面とに両端の開口部がそれぞれ固定され、前記ラック軸の前記他方の端部及び前記タイロッドの前記ラック軸側の端部を内部空間に収容し、前記外部空間から前記内部空間への水の侵入を遮断する筒状で蛇腹状の第二ブーツを備える、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記第一ブーツの外径は前記第二ブーツの外径以上であり、前記第一ブーツの内径は前記第二ブーツの内径以上である、請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記第一ブーツの軸長は前記第二ブーツの軸長以下である、請求項2又は3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記操舵輪の操舵状態が直進状態である時の前記ラック軸の前記軸線方向における位置を中立位置と定義し、
前記ラック軸が前記中立位置に位置する場合、
前記軸線方向における前記当接部の前記第一ブーツ側の端面と前記第一ブーツとの間のブーツ間距離は、前記軸線方向における前記当接部の前記ハウジング側の端面と前記当接部が当接する前記停止部の端面との間の距離であるストローク距離よりも小さい、請求項1-4の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記第一ブーツは、前記蛇腹状で筒状の第一筒部と、底部と、前記開口部とを備えて有底筒状に形成され、
前記外部空間と前記第一ブーツの前記内部空間との間で、空気及び前記水の侵入を遮断する、請求項1-5の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記第一ブーツは、前記蛇腹状で筒状の第一筒部と、底部と、前記開口部とを備えて有底筒状に形成され、
前記底部には、前記外部空間と前記第一ブーツの前記内部空間との間で、空気の流通は許容し、前記水の侵入は遮断する呼吸弁を備える、請求項1-5の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記外部空間と前記第一ブーツの前記内部空間との間で、空気の流通は許容し、前記水の侵入は遮断する呼吸弁を備える、請求項1-5の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記ステアリング装置は、
前記操舵部材に連結され前記ピニオンに回転トルクを伝達する操舵シャフトに操舵アシスト力を付与するアシスト機構をさらに備え、
前記アシスト機構は、ウォーム減速機を介してアシストモータのモータトルクを前記操舵シャフト及び前記ピニオンに伝達する、請求項1-8の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記ラック軸は前記軸線方向が車両の前後方向に沿って配置されるとともに、前記当接部側が前方側に配置され、前記タイロッド側が後方側に配置される、請求項1-9の何れか1項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に備えられるラックアンドピニオン式のステアリング装置には、ラック軸が、例えば、車両の前後方向に沿って配置され、タイロッドがラック軸の他端である後端のみに連結されるタイプのものがある。このようなステアリング装置では、運転者が行なうステアリング操作に応じて、ステアリング軸、及びステアリング軸の先端に設けられたピニオンが軸線周りに回転し、これによってピニオンが噛み合うラック歯を備えるラック軸を軸線方向(例えば、前後方向)に往復移動させる。そして、ラック軸の軸線方向への移動に伴いタイロッド及びタイロッドに連結されるリンク機構等が作動され、左右の操舵輪が操舵される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなタイプのステアリング装置では、通常、ラック軸は、筒状のハウジングに収容され、タイロッドが連結されない側のラック軸の端部は、ハウジングの端部から所定量突出している。このため、車両走行中等においてハウジング内に水が浸入しないようハウジングの端部の外周面とラック軸の端部の外周面との間には、両者に跨るように、例えばゴム製のブーツが設けられている。このとき、ブーツは、ラック軸の軸線方向における移動を吸収するために蛇腹で形成されている場合が多い。
【0004】
なお、上述した構成では、ハウジングの端部からのラック軸の突出長さが短かすぎる場合には、ラック軸の端部がハウジング側に向かって移動すると、ラック軸端部に固定されたブーツ端部がラック軸とともにハウジング内に引き込まれて破損する虞がある。このため、ハウジングの端部からのラック軸の突出長さ及びブーツの全長を、ハウジング内に引き込まれないだけの長さ以上にする必要がある。このため、ステアリング装置は比較的大きくなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7-14111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では、車両の小型化への要求が強く、車両におけるステアリング装置の搭載スペースも小さくなっている。このため、ハウジングの端部からのラック軸の突出長さをできるだけ小さくする必要が生じてきた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ラック軸の一方の端部のみにタイロッドが連結されて操舵輪が操舵されるタイプのステアリング装置において、タイロッドが連結されない側のハウジングの端部からのラック軸の突出長さを車両の要求に応じて小さくすることができる小型のステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ステアリング装置は、操舵部材の作動に応じて軸線周りに回転するピニオンと、前記ピニオンと噛合するラック歯を備えるラック軸と、前記ラック軸を軸線方向に移動可能に収容する筒状のハウジングと、前記ラック軸の一方及び他方の端部のうち前記他方の端部のみに連結され、リンク機構を介して操舵輪に操舵力を伝達するタイロッドと、を備える。ステアリング装置は、前記ハウジングの一方の開口端部である第一開口端部内に設けられた停止部と、前記ラック軸の前記一方の端部に設けられ、前記ラック軸の前記軸線方向における一方方向への移動を前記停止部と当接することによって規制する当接部と、前記ハウジングの前記第一開口端部の外周面に開口部が固定され、前記ラック軸の前記一方の端部及び前記当接部を内部空間に収容し、外部空間から前記内部空間への水の侵入を遮断する袋状で蛇腹状の第一ブーツと、を備え、前記第一ブーツは、前記第一ブーツ内に収容する前記ラック軸の前記一方の端部又は前記当接部とは固定されない。
【0009】
このように、袋状で蛇腹状の第一ブーツは、開口部が筒状のハウジングの第一開口端部の外周面に固定されるが、ハウジングの第一開口端部より軸方向外方に位置し、第一ブーツの内部空間に収容されるラック軸の一方の端部又は当接部には固定されない。つまり、第一ブーツは、ハウジングの第一開口端部の外周面に片持ち状態で固定される。このため、操舵部材の作動に応じてラック軸の端部がハウジング側(一方方向)に向かって移動しても、ラック軸のみが移動するだけである。これにより、従来技術のように第一ブーツの端部がラック軸の移動に伴って引きずられ、ハウジングの第一開口端部内に引き込まれ破損する虞はない。
【0010】
このように、ラック軸には、第一ブーツとの固定部が不要であるため、ハウジングの端面からのラック軸の突出長さを、ラック軸の軸線方向への作動(ストローク)にとって必要な最低限の長さとすることができ、ステアリング装置の小型化をはかることができる。そして、このとき、第一ブーツは、蛇腹で形成されている。このため、第一ブーツは、片持ち支持であっても袋状部分の重力方向下方への垂れ下がりを最小限に抑えて姿勢を容易に維持できる。また、蛇腹で形成されているため、たとえ、第一ブーツ内の温度が低下し第一ブーツ内の空気が収縮し負圧となっても、蛇腹は径方向につぶれることなく軸線方向に変形するだけである。このため、ラック軸との接触による第一ブーツの破損等の虞を抑制できる。また、第一ブーツは袋状で形成され、水の侵入を遮断するため、第一ブーツ内及びハウジング内への水の侵入が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の構成及び機構を説明する概要図である。
図2図1のP視図であり、第一実施形態のステアリング装置1の外観及び一部断面を示す図である。
図3図2図2における上方から見た部分断面図であり、停止部を説明する図である。
図4図2のIV-IV矢視断面図である。
図5図2図2における上方から見た部分断面図であり、第一実施形態に係る第一ブーツ及び第二ブーツを詳細に説明する図である。
図6】従来技術におけるブーツの構成を説明する図である。
図7A】ラック軸の作動を説明する第一の図である。
図7B】ラック軸の作動を説明する第二の図である。
図8】第二実施形態を説明する図である。
図9図8の呼吸弁の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置(ステアリング装置に相当)の構成及び機構を説明する概要図である。図2は、図1のP視図であり、ステアリング装置1の外観及び一部断面を示す図である。なお、電動パワーステアリング装置(以降、ステアリング装置と称する)とは、アシスト機構がアシストする操舵アシスト力によって操舵力を補助するステアリング装置である。
【0013】
(1-1.概要)
ここで、理解を深めるため本実施形態に係るステアリング装置1の概要について簡単に説明しておく。ステアリング装置1は、例えば、自動車等の車両に搭載される。本実施形態においては、ステアリング装置1が搭載される車両は左ハンドルであるという前提で説明を行なうものとする。ステアリング装置1は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
【0014】
図1に示すように、ステアリング装置1のラック軸24は車両の前後方向(図1参照)に沿って配置され、タイロッド30の一端がラック軸24の後端のみにボールジョイントBJを介して連結される。なお、図1中において、符号FRを付与した二点鎖線は車両のフレームを示す。タイロッド30の他端は、リンク機構80を介して操舵輪90に連結されている。
【0015】
(1-2.ステアリング装置1の構成)
図1図2に示すように、ステアリング装置1は、ハウジング10と、操舵機構20 (ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、ピニオン23及びラック軸24)と、タイロッド30と、第一ブーツ40(図2)と、第二ブーツ50(図2)と、トルク検出装置60(図2)と、アシスト機構70と、を備える。
【0016】
(1-3.ハウジング10)
図2に示すように、ハウジング10の主要な部分は、筒状に形成され、概ね、軸線C1が車両の前後方向に沿うよう配置されて車両に固定される。なお、ここでいう前後方向とは、車両が直進する方向と平行である必要はなく、車両が直進する方向とハウジングの軸線とが為す角度が、例えば45度以内程度の範囲内にあればよい。なお、以降において「前後方向」といった場合には同様の解釈をするものとする。
【0017】
ハウジング10は、図1図2に示すようにラック軸24を車両の前後方向に相対移動可能となるよう挿通し収容する。また、ハウジング10は、軸線方向両側に、外方に開口する開口端部を備える。車両の前方に向かって開口される一方側の開口端部を第一開口端部11と称する。また、車両の後方に向かって開口される他方側の開口端部を第二開口端部12と称する。
【0018】
図2図3に示すように、第一開口端部11及び第二開口端部12の径方向内側には、ハウジング10の軸線C1方向における両端面11a、12aよりそれぞれ奥側の所定の位置に、第一段付き面13、第二段付き面14が形成されている。第一段付き面13、第二段付き面14は、ハウジング10の軸線と直交する面であり、ラック軸24を挿通するハウジング10の収容孔15と同等以上の内径を有して形成されている。
【0019】
第一段付き面13及び第二段付き面14には、各面13、14に底面16c、16cが当接するよう停止部16が設けられる。つまり、停止部16は、ハウジング10の一方の開口端部である第一開口端部11内に設けられる。停止部16、16はどのような構成を有して形成されていてもよいが、例えば、図3に示すような円環状に形成されたダンパであってもよい。この場合、停止部16,16(ダンパ)は、保持部16a、16aと衝撃吸収部16b、16bとを備える。
【0020】
保持部16a、16aは、所謂、ブッシュであり、例えば鉄系材料で形成され、軸線直交断面が切欠きを有してC字状に形成される。このとき、保持部16a、16aは、C字における切欠き部が、後に詳述するラック軸24のラック歯24aと対向するよう配置される。衝撃吸収部16b、16bは、例えばゴム材料又は樹脂等によって円筒状に形成され、図3に示すように、保持部16a、16aと第一開口端部11の内周面との間に配置される。停止部16、16の衝撃吸収部16b、16bは、第一段付き面13及び第二段付き面14に対向する底面16c、16cが第一段付き面13及び第二段付き面14と当接し保持される。なお、この態様に限らず、ダンパを設けずに、第一、第二段付き面13、14自体を停止部としてもよい。
【0021】
(1-4.操舵機構20)
上述したように、操舵機構20は、図1図2に示すように、ステアリングホイール21(操舵部材に相当)と、ステアリングシャフト22(操舵シャフトに相当)と、ピニオン23と、ラック軸24とを備える。ステアリングホイール21は、ステアリングシャフト22の一方の端部に固定され、車室内においてステアリングシャフト22と一体回転可能に支持される。ステアリングシャフト22は、運転者の回転操作によってステアリングホイール21に加えられるトルクをラック軸24に伝達する。
【0022】
ステアリングシャフト22は、車体(図略)及びハウジング10に支持される。ステアリングシャフト22のラック軸24側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン23が設けられる。また、ステアリングシャフト22には、ピニオン23よりステアリングホイール21側の所定の位置に、ウォーム減速機25を構成する大径のホイール部25aが設けられている。ホイール部25aは、ステアリングシャフト22と一体回転可能に設けられ、アシスト機構70の一部を構成する。
【0023】
ラック軸24は、上述したように、ハウジング10内の収容孔15に収容される。つまり、ハウジング10と同様に、軸線が車両の前後方向に沿うように配置される。ラック軸24は、軸線方向における一部にピニオン23と噛合するラック歯24a(図4参照)が形成されている。
【0024】
ラック歯24aは、ピニオン23とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックアンドピニオン機構は、ステアリング装置1の用途等に基づいて、ステアリングシャフト22とラック軸24との間で伝達可能な最大軸力が設定される。これにより、運転者によるステアリングホイール21の回転操作に応じて、ピニオン23が軸線周りに回転し、ラック軸24を軸線方向(前後方向)に往復移動させる。
【0025】
ラック軸24の一方の端部(図1、2において前方側の端部)には、当接部26が設けられている。当接部26は、ラック軸24の軸線方向における一方方向への移動を停止部16と当接することによって規制する部材である。このとき、一方方向とは、軸線方向後方に向かう方向である。図2に示すように、当接部26は、円板部26aと、円板部26aの中央からラック軸24側に突設される雄ねじ部26bと、を備える。円板部26aは、外径がラック軸24の外径より大きくなるように形成されている。
【0026】
このため、雄ねじ部26bがラック軸24の一方の端部に形成された雌ねじ部24bに螺着された状態では、図2に示すように、円板部26aは、ラック軸24の外周面から径方向外方に拡張されている。これにより、ラック軸24が軸線方向後方に向かって大きく移動する場合、円板部26aのラック軸24側における拡張された端面26a1が、ハウジング10の第一開口端部11内に設けられたダンパ16(停止部)の衝撃吸収部16b、16bと当接し、ラック軸24の軸線方向後方への移動を規制する。なお、上記態様に限らず、雄ねじ部がラック軸24側に設けられ、雌ねじ部が当接部26側に設けられる態様であってもよい。
【0027】
上述したように、タイロッド30は、一端がラック軸24の他方(後方側)の端部(後端部)のみにボールジョイントBJを介して連結される。また、タイロッド30は、他端がリンク機構80に連結され、リンク機構80が操舵輪90に連結される。これによりタイロッド30がラック軸24に押動、又は引っ張られることで、リンク機構80を介して操舵輪90、90に操舵力を伝達する。
【0028】
(1-5.第一ブーツ40)
図2図5に示す第一ブーツ40は、例えば、ゴム、又はエラストマを含む樹脂によって有底筒状に形成される。つまり、図2図5に示すように、第一ブーツ40は、軸長(全長)における全部、又は一部が蛇腹状(蛇腹形状)に形成される第一筒部41と、第一筒部41の前方側端部において開口を閉塞するよう設けられる円形の底部42と、第一筒部41の後方側端部に設けられる開口部43と、を備える。そして、第一筒部41の蛇腹形状部分における外径をφD1とする。また、第一筒部41の蛇腹形状部分における内径をφD2とする。
【0029】
なお、外径φD1及び内径φD2は、第一筒部41の蛇腹形状部分のうち軸線とほぼ平行な部分における径とする。また、第一ブーツ40の軸線方向における軸長(全長)をL1とする。外径φD1、内径φD2及び軸長L1は、ラック軸24が中立位置に位置するときの径及び長さとする。なお、中立位置とは、操舵輪90、90の操舵状態が直進状態(図1の状態参照)である時におけるラック軸24の軸線方向における位置であると定義する。以降においても、中立位置といった場合、上記と同様の定義によって決まる位置であるものとする。
【0030】
上述したように、第一ブーツ40は、袋状で、かつ蛇腹状に形成される。第一ブーツ40は、開口部43が、図3に示すハウジング10の第一開口端部11の外周面11cに固定されて片持ち状態となり、ラック軸24の一方の端部24c及び当接部26を内部空間IA1内に収容する。このように、第一ブーツ40と、内部空間IA1に収容される当接部26とは相互に固定されておらず、相対移動可能な状態である。これにより、外部空間OAに連通する開口を有さない第一ブーツ40は、外部空間OAから第一ブーツ40の内部空間IAへの水の侵入を確実に遮断する。なお、第一ブーツ40については、のちに詳細に説明する。
【0031】
(1-6.第二ブーツ50)
図2図5に示す第二ブーツ50は、例えば、ゴム、又はエラストマを含む樹脂によって形成される。図2図5に示すように、第二ブーツ50は、筒状で、かつ全部または一部が蛇腹状(蛇腹形状)に形成される第二筒部51を備える。つまり、第二ブーツ50は、第二筒部51の両端に開口部を備える。第二筒部51の蛇腹形状部分における外径をφD3とする。また、第二筒部51の蛇腹形状部分における内径をφD4とする。但し、外径φD3及び内径φD4は、第二筒部51のうち軸線とほぼ平行な部分における径とする。また、外径φD3及び内径φD4は、外径φD1及び内径φD2と同様、ラック軸24が中立位置に位置するときの径及び長さとする。
【0032】
そして、このとき、第一ブーツ40の外径φD1と、第二ブーツ50の外径φD3とは、φD1≧φD3の関係を有していることが好ましい。これにより、片持ち状態でハウジング10に支持される第一ブーツ40であっても内面が当接部26及びラック軸24に接触しにくくなり、耐久性が確保される。ただし、この態様には限らず、φD1<φD3であってもよく、これによっても相応の効果は期待できる。
【0033】
また、第一ブーツ40の内径φD2と、第二ブーツ50の内径φD4は、φD2≧φD4の関係を有していることが好ましい。これにより、片持ち状態でハウジング10に支持される第一ブーツ40の内面が当接部26及びラック軸24にさらに接触しにくくなり、より耐久性が向上される。ただし、この態様には限らず、φD2<φD4であってもよく、これによっても相応の効果は期待できる。
【0034】
また、第二ブーツ50の軸線方向における軸長をL2とする。このとき、第一ブーツ40の軸長L1と第二ブーツ50の軸長L2との関係は、L1≦L2であることが好ましい。なお、ここでいう軸長L2は、上述した軸長L1と同様、ラック軸24が中立位置に位置するときの第二ブーツ50の長さとする。これにより、ステアリング装置1の前後方向における小型化が図れる。ただし、この態様には限らず、L1>L2であってもよく、これによっても相応の効果は期待できる。
【0035】
そして、第二ブーツ50は、ハウジング10の他方の開口端部である第二開口端部12の外周面12cと、タイロッド30の外周面30aとの間に跨って両端が固定される。これにより、第二ブーツ50は、ラック軸24の他方の端部24d及びタイロッド30のラック軸24側の端部30bを内部空間IA2に収容する。このように構成されて、第二ブーツ50は、外部空間OAから第二ブーツ50の内部空間IA2への水の侵入を遮断する。また、保持部16a、16aの切欠き部とラック歯24aとの隙間、および同切欠き部とラック軸24の端部付近の円筒部との隙間、およびハウジング10の内面とラック軸24との隙間は、ラック軸24の移動に伴って伸縮する第一ブーツ40と第二ブーツ50の間で空気が流通する経路となる。この経路により、一方のブーツが縮むと内部の空気が移動して他方のブーツが伸びる。
【0036】
(1-7.アシスト機構70)
アシスト機構70は、後述するトルク検出装置60の出力に基づいて制御されるモータM(アシストモータに相当)を駆動源としてステアリングシャフト22(操舵シャフト)に操舵アシスト力を付与する機構である。図1図2に示すとおり、アシスト機構70は、ハウジング10、モータM、制御部ECU、モータMの出力シャフト71、及びウォーム減速機25(後述するウォーム25b及びウォーム25bと噛合する大径のホイール部25a)を備える。ウォーム減速機25は、ハウジング10の主要な部分である筒状部分から膨出し形成される膨出部10aに設けられる。
【0037】
アシスト機構70は、モータMの回転トルク(モータトルク)を、ウォーム減速機25を介して、ステアリングシャフト22に伝達する。ウォーム減速機25を構成するウォーム25bは、出力シャフト71に同軸で設けられている。また、ウォーム25bは、ハウジング10内でステアリングシャフト22に設けられたホイール部25aと噛合している。そして、ステアリングシャフト22が、ウォーム減速機25を介して伝達された回転トルクをピニオン23に伝達することにより、出力されたモータMの回転トルクをラック軸24の軸線方向における直線往復動の移動力に変換し、ステアリング装置1の左右の操舵輪90、90に対する作動にアシスト力を付与する。
【0038】
このときの作動を図1に基づき具体的に説明する。まず、運転手によるステアリングホイール21の矢印方向の回転操作力及びモータMによるアシスト力がラック軸24に付与されると、ラック軸24は、例えば、矢印A1方向(軸線方向)に移動する。これにより、ラック軸24の他端にボールジョイントBJを介して連結されるタイロッド30が押動され、L字状のリンク部材81(リンク機構80)が、回転軸81aを回転中心として矢印A2方向に回転する。リンク部材81が矢印A2方向に回転すると、リンク部材81と連結される直線状のリンク部材82が車両の左方向に移動する。
【0039】
リンク部材82が車両の左方向に移動すると、リンク部材82に固定部材83、84を介して連結される直線状のリンク部材85、86がそれぞれ左方向に所定量移動する。これにより、リンク部材85、86が、それぞれボールジョイントBJによって連結するリンク部材87、88の端部87a、88aを押動する、又は引っ張る。このとき、リンク部材87、88は、回転軸87b、88b周りに回転可能であるとともに、操舵輪90、90と一体的に回転する構成となっている。このため、リンク部材85、86が、リンク部材87、88の端部87a、88aを押動する、又は引っ張ることにより、リン左右の操舵輪90、90は、回転軸87b、88b周りに所定角度だけ操舵される。
【0040】
トルク検出装置60(図2参照)は、ハウジング10の膨出部10aの内部に配置され、制御部ECUと接続される。そして、トルク検出装置60は膨出部10aに内蔵されるトーションバーの捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト22に加えられるトルクを検出し、制御部ECUに検出データを送信する。図1に示すように、モータMは、制御部ECUと接続される。
【0041】
モータMは、出力シャフト71がステアリングシャフト22と所定の角度を有するよう配置され、ハウジング10の所定に位置に固定される。上述したように、出力シャフト71は、先端側にウォーム減速機25を構成するウォーム25bを備えている。ウォーム25bは、ハウジング10(膨出部10a)内でステアリングシャフト22に設けられた大径のホイール部25aと噛合している。
【0042】
モータMを駆動するための制御部ECUは、車体(図略)に固定される。制御部ECUは、トルク検出装置60の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。制御部ECUがモータMの出力を制御し出力シャフト71を回転させると、モータMの回転トルクが、上述したウォーム減速機25を介して、ステアリングシャフト22、延いてはピニオン23及びラック軸24に伝達される。
【0043】
(1-8.第一ブーツ40詳細)
ここで本発明に係る第一ブーツ40の詳細について説明する。ここでは、比較のため、まず従来技術について簡単な説明を行なう。図6に示すように、従来技術のラック軸Rの前方側端部には、前方に向かって伸びた軸部Bを備える当接部Cが固定されている。また、本実施形態の第一ブーツ40に対応する、従来技術のブーツQは、本実施形態の第二ブーツ50と同様の形状を有しており、筒状でかつ蛇腹状に形成されている。そして、ブーツQは、外部空間OAから内部空間IAへの水の侵入を防止するため、ハウジングHの一方の開口端部の外周面Haと、当接部Cが備える前方に伸びた軸部Bの外周面Baとの間に跨って両者の外周面にそれぞれ固定されている。なお、上記において、図6におけるラック軸Rの軸線方向位置は、中立状態における位置(中立位置)であるものとする。
【0044】
このような構成の従来技術では、当接部Cの軸部Bの外周面Baに固定するブーツQの端部の固定位置Dには制約がある。つまり、当接部Cのラック軸R側の端面FがハウジングH内に設けられた停止部(図略)に当接するまでラック軸Rが後方に向かい移動しても、ブーツQの外周部がハウジングHの開口内に引き込まれないよう固定位置Dを設定する必要がある。このため、従来技術においては、当接部Cの端面Fと固定位置Dとの間には必然的に所定の距離Gが必要となるとともに、通常その距離は小さくない。そして、このとき、固定位置Dが設定された状態における、ハウジングHの前方側端面からラック軸R及び当接部Cの前方側端面までの突出長さをLLとする。
【0045】
従来技術に対し、本実施形態では、ラック軸24の中立位置で記載した図5に示すように、第一ブーツ40は、袋状で、かつ蛇腹状に形成される。そして、第一ブーツ40は、ハウジング10の第一開口端部11の外周面11cに開口部43が片持ち状態で固定され、ラック軸24の一方の端部24c及び当接部26を内部空間IA1内に収容する。したがって、第一ブーツ40と当接部26とは相互に固定されておらず、相対移動可能な状態である。
【0046】
このように、ラック軸24(又は当接部26)と第一ブーツ40とは固定されていない。このため、ラック軸24が後方(一方方向)に向かって移動しても、第一ブーツ40がハウジング10の第一開口端部11内に引き込まれる虞はない。したがって、ラック軸24は、端部に厚さ(t1)が薄い板状の円板部26a(当接部26)のみを備える構成とすることができ、ハウジング10の端面11aからのラック軸24及び当接部26の突出長さL4(図5参照)を従来技術における突出長さLLよりも大幅に短縮できる。
【0047】
但し、本実施形態では、第一ブーツ40の底部42の前方側端面が当接部26よりさらに前方に位置している。このため、ステアリング装置1を従来技術のステアリング装置より小型化するためには、第一ブーツ40の軸長L1を、従来技術における突出長さLLまでの間の範囲内に収まるよう調節すればよい。
【0048】
このとき、軸線方向における当接部26の第一ブーツ40側の端面26a2と第一ブーツ40の底部42の底面42aとの間の距離をブーツ間距離L5とすると、ラック軸24が中立位置から移動可能なストローク距離L3と、ブーツ間距離L5とは、L3>L5の関係を有していることが好ましい。なお、ストローク距離L3は、中立位置における当接部26のハウジング10側の端面26a1と、停止部16の端面16dとの間の軸線方向における距離である。これにより、効果的にステアリング装置1の小型化を図ることができる。但し、この態様に限らず、ラック軸24のストローク距離L3と、ブーツ間距離L5とは、L3≦L5の関係を有していてもよい。
【0049】
上記において、例えば、ラック軸24のストローク距離L3と、ブーツ間距離L5とが、L3>L5の関係を有している場合、図7Aに示すように、ラック軸24が中立位置から前方にストローク距離L5だけストロークすると、ストローク途中でラック軸24の当接部26の前方側端面26a2が第一ブーツ40の底面42aと当接する。そして、その後、残りのストローク(L3-L5)では、図7Bに示すように、当接部26が 第一ブーツ40の底面42aを押しながら底部42及び蛇腹部を変形させてストロークする。このように第一ブーツ40の底部42の底面位置を設定することにより、より一層、ステアリング装置1のラック軸24の軸線方向において小型化を図ることができる。
【0050】
また、例えば、ラック軸24のストローク距離L3と、ブーツ間距離L5とが、L3≦L5の関係を有している場合、ラック軸24が中立位置から前方にストローク距離L3だけストロークすると、当接部26の前方側端面26a2が第一ブーツ40の底面42aとちょうど当接するか、又は当接しない(図略)。これにより、上記L3>L5の場合よりもラック軸24の軸線方向において大型化はするが、第一ブーツ40の耐久性を向上させることができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、ステアリング装置1を左ハンドル車に適用した態様について説明した。しかしながら、この態様には限らず、ステアリング装置1を右ハンドル車に適用してもよい。この場合、図1のステアリング装置1及びリンク機構80等の構成を左右で反転させてやればよい。これによっても同様の効果が期待できる。
【0052】
(1-9.実施形態による効果)
上記第一実施形態によれば、ステアリング装置1は、ハウジング10の一方の開口端部である第一開口端部11内に設けられた停止部16(ダンパ)と、ラック軸24の一方の端部24cに設けられ、ラック軸24の軸線方向における一方方向(後方に向かう方向)への移動を停止部16と当接することによって規制する当接部26と、ハウジング10の第一開口端部11の外周面11cに開口部43が固定され、ラック軸24の一方の端部24c及び当接部26を内部空間IA1内に収容し、外部空間OAから内部空間IA1への水の侵入を遮断する袋状で蛇腹状の第一ブーツ40と、を備え、第一ブーツ40は、第一ブーツ40内に収容するラック軸24の一方の端部24c又は当接部26とは固定されない。
【0053】
このように、蛇腹状の第一ブーツ40は、開口部43が、筒状のハウジング10の第一開口端部11の外周面11cに固定されるが、ハウジング10の第一開口端部11より前方側軸方向外方に位置し、内部空間IA1に収容するラック軸24の一方の端部24c又は当接部26には固定されない。このため、ステアリングシャフト22(操舵部材)の作動に応じてラック軸24の端部24cが、一方方向であるハウジング10側に向かって移動しても、ラック軸24のみが移動するだけである。これにより、第一ブーツ40がラック軸24の移動に伴って引きずられ、延いては、ハウジング10の第一開口端部11内に引き込まれる虞はない。
【0054】
このように、ラック軸24には、第一ブーツ40との固定部が不要であるため、ハウジング10の端面11aからのラック軸24の突出長さは、ラック軸24の軸線方向への作動(ストローク)に必要な最低限の長さとすることができ、小型のステアリング装置1が得られる。なお、このとき、第一ブーツ40の筒状の第一筒部41は、蛇腹で形成されている。このため、第一ブーツ40は、片持ち支持であっても袋状部分(第一筒部41及び底部42)の重力方向下方への垂れ下がりを最小限に抑えて姿勢を容易に維持できる。
【0055】
また、第一ブーツ40の第一筒部41は、蛇腹で形成されているため、たとえ、第一ブーツ40内の温度が低下し、第一ブーツ40内の空気が収縮して負圧になっても、蛇腹は径方向につぶれず軸線方向に変形するだけである。このため、ラック軸24との接触による第一ブーツ40の破損等の虞を効果的に抑制できる。また、第一ブーツ40は袋状に形成され、ハウジング10への取り付け状態において開口を有さないため、外部空間OAから内部空間IA1への水の侵入を確実に遮断することができる。
【0056】
また、上記実施形態によれば、ハウジング10の他方の開口端部である第二開口端部12の外周面12cとタイロッド30の外周面30aとに両端の開口部がそれぞれ固定され、ラック軸24の他方の端部24d及びタイロッド30のラック軸24側の端部30bを内部空間IA2に収容し、外部空間OAから内部空間IA2への水の侵入を遮断する筒状で蛇腹状の第二ブーツ50を備える。これにより、外部空間OAから内部空間IA2への水の侵入を確実に遮断することができる。
【0057】
また、上記実施形態によれば、第一ブーツ40の外径φD1は第二ブーツ50の外径(φD3)以上である(φD1≧φD3)。また、第一ブーツ40の内径φD2は第二ブーツ50の内径φD4以上である(φD2≧φD4)。これにより、片持ち状態でハウジング10に支持される第一ブーツ40の内面が当接部26及びラック軸24に接触しにくくなり、耐久性が向上される。
【0058】
また、上記実施形態によれば、第一ブーツ40の軸長L1は第二ブーツ50の軸長L2以下である(L1≦L2)。これにより、ステアリング装置の小型化が図れる。
【0059】
また、上記実施形態によれば、操舵輪90、90の操舵状態が直進状態である時のラック軸24の軸線方向における位置を中立位置と定義し、ラック軸24が中立位置に位置する場合、軸線方向における当接部26の第一ブーツ40側の端面26a2と第一ブーツ40の底面42aとの間のブーツ間距離L5は、軸線方向における当接部26のハウジング10側の端面26a1と当接部26が当接する停止部16の前方側端面16dとの間の距離であるストローク距離L3よりも小さい(L3>L5)。これにより、効果的にステアリング装置の小型化を図ることができる。
【0060】
また、上記実施形態によれば、ステアリング装置1は、ステアリングホイール21(操舵部材)に連結され、ピニオン23に回転トルクを伝達するステアリングシャフト22(操舵シャフト)に操舵アシスト力を付与するアシスト機構70をさらに備え、アシスト機構70は、ウォーム減速機25を介してアシストモータMのモータトルクをステアリングシャフト22及びピニオン23に伝達する。このようなタイプのステアリング装置では、ラック軸に直接、操舵アシスト力を付与するタイプのステアリング装置と比較して、さらに小型化を図りやすい。
【0061】
また、上記実施形態によれば、ラック軸24は軸線方向が車両の前後方向に沿って配置されるとともに、当接部26側が前方側に配置され、タイロッド30側が後方側に配置される。これにより、ステアリング装置1の小型化によって車両の前方のスペースが確保できるので、エンジンルームにおいて前方のスペースが少ないバスやトラック等の商用車に適用しやすい。
【0062】
<2.第二実施形態>
上記第一実施形態では、第一ブーツ40が袋状にゴム、又はエラストマを含む樹脂のみで形成された。しかしながら、第二実施形態として、図8図9に示すように第一ブーツ140に、呼吸弁150を備えてもよい。このとき、第一ブーツ140は、上記実施形態における第一ブーツ40と同様の構成を有するが、底部に呼吸弁150を備えている点のみ異なる。
【0063】
呼吸弁150は、外部空間OAと第一ブーツ140の内部空間IA3との間で、空気の流通は許容し、水の侵入は遮断するものである。呼吸弁150は、公知の呼吸弁であるため、構造についての詳細な説明は行わず、簡単な説明のみ行なう。
【0064】
図9に示すように、呼吸弁150は、本体部151と、弁体152と、を備える。弁体152は、本体部151に対して軸線C1方向に相対移動可能である。矢印で示すシール部Sにおいて本体部151と、弁体152とが相互に当接することにより、水の侵入を遮断する。本実施形態において、弁体152は、ノーマル状態では、スプリング(図略)による付勢等の所定の手段(図略)によって、図8図9に示す閉弁状態とする(ノーマルクローズ)。
【0065】
このような構成において、弁体152の下流側の圧力、即ち、第一ブーツ140の内部空間IA3の圧力が上昇した場合には、弁体152が図8図9において左方向に移動し開弁して内部空間IA3の圧力をシール部Sから逃がす。また、通常時、つまり、第一ブーツ140の内部空間IA3の圧力が高くない(例えば、1気圧である)とき、又はラック軸24が後方に向かって移動し内部空間IA3の圧力が負圧になるときには、弁体152によるシール状態は維持されるので、シール部Sを介して外部から水を吸い込む虞はない。このような態様によれば、呼吸弁150の分だけ若干、小型化は阻害されるが、相応の効果は得られる。
【0066】
なお、上記態様に限らず、呼吸弁150は、第一ブーツ140には設けず、第一ブーツ140が固定されたハウジング10に設けてもよい(図略)。この場合、呼吸弁150を設けるハウジング10の位置としては、ハウジング10の軸線方向において、ハウジング10の端面11aから停止部16の前方側端面16dまでの間の外周面であることが好ましい。これによっても相応の効果が期待できる。
【0067】
また、上記実施形態では、ラック軸24を車両の前後方向に配置する態様について説明したが、この態様には限らず、ステアリング装置は、ラック軸24を車両の左右方向に沿って配置するタイプのものであってもよい。この場合、ラック軸の片側の端部のみに取り付けられた、タイロッド、及びリンク機構の取り回しを変更することにより対応可能である。これにより、左右方向の長さが短縮され小型化できるので、左右方向に小型化が要求される車両においては好適である。
【符号の説明】
【0068】
1;ステアリング装置、 10;ハウジング、 11;第一開口端部、 12;第二開口端部、 13;第一段付き面、 14;第二段付き面、 16;停止部(ダンパ)、 20;操舵機構、 21;操舵部材(ステアリングホイール)、 22;操舵シャフト(ステアリングシャフト)、 23;ピニオン、 24;ラック軸、 24a;ラック歯、 25;ウォーム減速機、 25a;ホイール部、 25b;ウォーム、 26;当接部、30;タイロッド、 40、140;第一ブーツ、 50;第二ブーツ、 60;トルク検出装置、 70;アシスト機構、 71;出力シャフト、 80;リンク機構、 90、 90;操舵輪、 150;呼吸弁、 IA1;内部空間、 IA2、IA2、IA3;内部空間、 L1、L2;軸長、 L3;ストローク距離、 L5;ブーツ間距離、 M;モータ、 OA;外部空間、 φD1;外径(第一ブーツ)、 φD2;内径(第一ブーツ)、 φD3;外径(第二ブーツ)、 φD4;内径(第二ブーツ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9