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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128854
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】擁壁及びその築造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
E02D29/02 306
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027302
(22)【出願日】2021-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 牧野哲が、東京都新宿区荒木町22-24、舟町12-5外にて築造されている、牧野良一及び牧野哲が発明した擁壁を公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】521080059
【氏名又は名称】牧野 哲
(71)【出願人】
【識別番号】521129727
【氏名又は名称】牧野 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】牧野 良一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 哲
【テーマコード(参考)】
2D048
【Fターム(参考)】
2D048AA52
2D048AA54
(57)【要約】
【課題】建築物を建築するための平らな土地を極力減らすことなく、短期間かつ簡易に現場に築造することができ、かつ、土圧の水平成分に対して確実かつ長期にわたって支持することが可能な擁壁及びその築造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】擁壁は、地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部と、下部が柱状部の内部に配置されて上部が柱状部から露出したH形鋼6とをそれぞれ有する複数の支持杭2と、ウェブと、ウェブの一端側に形成された第1フランジと、ウェブの他端側に形成された第2フランジとを有する形鋼であり、ウェブがほぼ水平に配置され、第1フランジが支持杭2のH形鋼6に固定された連結部材3と、鉄筋コンクリートによって形成され、複数の支持杭のH形鋼6に沿って配置され、内部に埋設された連結部材3を介して支持杭2に固定されており、土圧の水平成分を受ける壁部材4とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部と、下部が前記柱状部の内部に配置されて上部が前記柱状部から露出したH形鋼とをそれぞれ有する複数の支持杭と、
ウェブと、前記ウェブの一端側に形成された第1フランジと、前記ウェブの他端側に形成された第2フランジとを有する形鋼であり、前記ウェブがほぼ水平に配置され、前記第1フランジが前記支持杭の前記H形鋼に固定された連結部材と、
鉄筋コンクリートによって形成され、複数の前記支持杭の前記H形鋼に沿って配置され、内部に埋設された前記連結部材を介して前記支持杭に固定されており、土圧の水平成分を受ける壁部材と、
を備える擁壁。
【請求項2】
前記壁部材を形成する前記鉄筋コンクリートの鉄筋が前記連結部材に固定されている請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記連結部材の前記形鋼は、熱間圧延によって製造された溝形鋼、I形鋼、ジョイスト鋼又はH形鋼である請求項1又は2に記載の擁壁。
【請求項4】
前記支持杭の前記H形鋼と前記連結部材は、溶接による接合又は高力ボルトによる接合によって互いに固定されている請求項1から3のいずれか1項に記載の擁壁。
【請求項5】
地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部と、下部が前記柱状部の内部に配置されて上部が前記柱状部から露出したH形鋼とをそれぞれ有する複数の支持杭を設置する工程と、
ウェブと、前記ウェブの一端側に形成された第1フランジと、前記ウェブの他端側に形成された第2フランジとを有する形鋼である連結部材の前記ウェブがほぼ水平に配置されるように、前記連結部材の前記第1フランジを前記支持杭の前記H形鋼に固定する工程と、
内部に埋設された前記連結部材を介して前記支持杭に固定されるように、土圧の水平成分を受ける、鉄筋コンクリートによって形成される壁部材を複数の前記支持杭の前記H形鋼に沿って配置する工程と、
を備える擁壁の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁及びその築造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
擁壁は、切土や盛土など高低差のある土地の土圧を受けて、土地の崩壊を防止する構造物であり、間知石などを用いた石積み擁壁、逆T型,L型又は逆L型の片持ち梁式擁壁などが知られている。
【0003】
また、擁壁には、下記の特許文献1に示すように、所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭の親杭(支持杭)に対してプレキャスト(PCa)コンクリート製パネルをアンカー又は引張ボルト等の金属製の結合部材によって支持する構造を有するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-162029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
在来工法である石積み擁壁や片持ち梁式擁壁は、工期やコストがかかるほか、次に述べるような問題がある。すなわち、石積み擁壁は、石積みを行う斜面を水平面に対して65°以下とする必要があるため、土地の段差部を垂直面とする場合に比べて、確保できる平らな土地が減ってしまう。例えば、5mの高さの石積み擁壁を築造する場合、約3mのセットバックが必要になる。また、間知石による石積み擁壁は、5mの高さを超えるものが禁止されている。さらに、間知石を一つずつ積む作業は重労働であり近年では専門的に従事する作業員が少なくなっており、築造が困難である。
【0006】
片持ち梁式擁壁の場合、地中において縦壁の垂直面の前方や後方に突出した底板が埋設されているため、底板と干渉する領域は建築物の基礎を設置できない。そのため、擁壁の前面(正面)側又は後面(背面)側には、建築物に使用できない土地が生じてしまい、特に都市部などで土地の有効活用ができないという問題がある。また、L型の片持ち梁式擁壁の場合、擁壁の後面側に仮設山留で掘削した施工スペースが必要になるため、この擁壁を設置できる場所が限られたり、建築物に使用できない土地が生じたりする。例えば、5mの高さのL型の片持ち梁式擁壁を築造する場合、5mのセットバックが必要になる。
【0007】
特許文献1に記載の技術のように、支持杭に対してプレキャストコンクリート製パネルをアンカー又は引張ボルト等の結合部材で結合する場合、アンカー又は引張ボルト等をパネル及び支持杭の後面側で接続するため、支持杭の後面側を掘削して施工空間(仮設足場の設置空間や作業スペースなど)を確保する必要がある。したがって、この擁壁についても設置できる場所が限られたり、建築物に使用できない土地が生じたりする。
【0008】
また、プレキャストコンクリート製パネルにおける結合部材との接続部は、現場施工前にパネルに予め形成されており、後施工できない。したがって、支持杭に対してパネルを要求される向きや位置に設置するためには、現場で精度良く支持杭を建て込む必要があり、プレキャストコンクリート製パネルを用いた擁壁の設置は非常に困難である。さらに、アンカー又は引張ボルトなどの金属製部材が土に直接接触するため、腐食によって結合力が低下するおそれがある。またさらに、プレキャストコンクリート製パネルの納期は、メーカー工場の都合によることがあるため、必要な時期に現場に擁壁を設置できない可能性がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、建築物を建築するための平らな土地を極力減らすことなく、短期間かつ簡易に現場に築造することができ、かつ、土圧の水平成分に対して確実かつ長期にわたって支持することが可能な擁壁及びその築造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の擁壁及びその築造方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る擁壁は、地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部と、下部が前記柱状部の内部に配置されて上部が前記柱状部から露出したH形鋼とをそれぞれ有する複数の支持杭と、ウェブと、前記ウェブの一端側に形成された第1フランジと、前記ウェブの他端側に形成された第2フランジとを有する形鋼であり、前記ウェブがほぼ水平に配置され、前記第1フランジが前記支持杭の前記H形鋼に固定された連結部材と、鉄筋コンクリートによって形成され、複数の前記支持杭の前記H形鋼に沿って配置され、内部に埋設された前記連結部材を介して前記支持杭に固定されており、土圧の水平成分を受ける壁部材とを備える。
【0011】
この構成によれば、複数の支持杭が、それぞれ柱状部とH形鋼を有し、柱状部が地盤内においてセメントミルクによって形成されており、H形鋼の下部が柱状部の内部に配置され、H形鋼の上部が柱状部から露出している。連結部材は、ウェブ、ウェブの一端側に形成された第1フランジ及びウェブの他端側に形成された第2フランジを有する形鋼であって、ウェブがほぼ水平に配置され、第1フランジが支持杭のH形鋼に固定される。
【0012】
また、壁部材が、鉄筋コンクリートによって形成され、複数の支持杭のH形鋼に沿って配置され、内部に連結部材が埋設されて、連結部材を介して支持杭に固定されており、土圧の水平成分を受ける。鉄筋コンクリートによって形成された壁部材に連結部材が埋設され、壁部材が連結部材を介して支持杭に固定されていることによって、支持杭と壁部材が一体化された合成構造を有する。壁部材は、土圧の水平成分を受けて、連結部材を介して、支持杭の上部のH形鋼及び支持杭の下部へ力を伝達する。
【0013】
上述した擁壁において、前記壁部材を形成する前記鉄筋コンクリートの鉄筋が前記連結部材に固定されることが望ましい。
【0014】
この構成によれば、壁部材を形成する鉄筋コンクリートの鉄筋が連結部材に固定され、壁部材にかかる応力が連結部材を介して支持杭に確実に伝達される。
【0015】
上述した擁壁において、前記連結部材の前記形鋼は、熱間圧延によって製造された溝形鋼、I形鋼、ジョイスト鋼又はH形鋼であることが望ましい。
【0016】
この構成によれば、連結部材の形鋼は、熱間圧延によって製造された溝形鋼、I形鋼、ジョイスト鋼又はH形鋼であり、鋳造されたものと異なり、製品によらず強度のばらつきがなく安定していることから、擁壁の構造設計が容易であり、かつ、必要とされる擁壁の強度を確実に確保できる。
【0017】
上述した擁壁において、前記支持杭の前記H形鋼と前記連結部材は、溶接による接合又は高力ボルトによる接合によって互いに固定されることが望ましい。
【0018】
この構成によれば、連結部材は、溶接又は高力ボルトによる接合によって、支持杭のH形鋼に固定されることから、建設現場において連結部材を容易に固定できる。
【0019】
本発明に係る擁壁の築造方法は、地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部と、下部が前記柱状部の内部に配置されて上部が前記柱状部から露出したH形鋼とをそれぞれ有する複数の支持杭を設置する工程と、ウェブと、前記ウェブの一端側に形成された第1フランジと、前記ウェブの他端側に形成された第2フランジとを有する形鋼である連結部材の前記ウェブがほぼ水平に配置されるように、前記連結部材の前記第1フランジを前記支持杭の前記H形鋼に固定する工程と、内部に埋設された前記連結部材を介して前記支持杭に固定されるように、土圧の水平成分を受ける、鉄筋コンクリートによって形成される壁部材を複数の前記支持杭の前記H形鋼に沿って配置する工程とを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、建築物を建築するための土地を極力減らすことなく、短期間かつ簡易に現場に築造することができ、かつ、土圧の水平成分に対して確実かつ長期にわたって支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る擁壁を示す正面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る擁壁を示す縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る擁壁を示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材を示す縦断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材を示す横断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材を示す正面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材の変形例を示す縦断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材の変形例を示す横断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材の変形例を示す正面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る擁壁の連結部材の変形例を示す部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態に係る擁壁1について、図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る擁壁1は、切土や盛土など高低差のある土地の土圧を受けて、土地の崩壊を防止する構造物である。この実施形態によれば、擁壁1の前面(正面)側又は後面(背面)側で活用できる平らな土地を減らすことなく、また、簡易かつ比較的短期間に現場に擁壁1を築造することができる。
【0023】
この実施形態に係る擁壁1は、例えば、図1から図6に示すように、支持杭2と、連結部材3と、壁部材4などを有する。図4及び図5に示すように、鉄筋コンクリートによって形成された壁部材4に連結部材3が埋設され、壁部材4が連結部材3を介して支持杭2に固定されていることによって、支持杭2と壁部材4が一体化された合成構造を有する。壁部材4は、土圧の水平成分を受けて、連結部材3を介して、支持杭2の上部のH形鋼6及び支持杭2の下部へ力を伝達する。
【0024】
図1から図3に示すように、支持杭2は、例えば地盤内においてセメントミルクによって形成された柱状部5と、柱状部5に固定されたH形鋼6を有する。支持杭2は、セメントミルク工法によって地盤内に固定されて根固めされ、支持杭2の軸が垂直方向となるように設置される。H形鋼6の下部が柱状部5の内部に配置され、H形鋼6の上部が柱状部5から露出している。セメントミルクは、例えば、建設現場の調合プラントにて、土、水、セメント、ベントナイト混合液が混ぜ合わされて生成される。
【0025】
支持杭2は、下端側が地中に埋設され、最下端部が地盤の支持層に固定される。支持杭2は、形成する壁部材4の壁面に沿って間隔を空けて複数本が設置される。支持杭2同士の間隔は、例えば2000mmである。支持杭2は、上部において連結部材3を介して壁部材4が固定される。壁部材4が固定される部分において、H形鋼6がセメントミルクによって形成された柱状部5に覆われることなく露出している。すなわち、壁部材4から土圧が伝達される支持杭2の上部は、H形鋼6で力を受けて、伝達された力を地中に埋設された支持杭2の下部に伝達する。
【0026】
H形鋼6は、熱間圧延によって製造された形鋼であり、ウェブと、互いに平行な2枚のフランジを有する。支持杭2は、H形鋼6のフランジの板面が壁部材4の壁面に対して平行となるように設置される。H形鋼6は、JIS(日本産業規格)などに基づく規格品であり、H形鋼6のサイズは、例えば、標準断面寸法H×Bが250×250、300×300、350×350、400×400などである。
【0027】
1本の支持杭2において、H形鋼6は軸方向に複数本が接続されてもよい。H形鋼6同士は、例えば高力ボルトによって接合される。
【0028】
H形鋼6のフランジには、複数の連結部材3が溶接又は高力ボルト接合によって固定される。これにより、H形鋼6と連結部材3が面接触するため、H形鋼6と連結部材3との間の力の伝達は面によって行われる。H形鋼6と連結部材3の固定については後述する。
【0029】
連結部材3は、各支持杭2のH形鋼6に固定されつつ、壁部材4の内部に埋設されて、支持杭2と壁部材4を一体化させる。連結部材3は、熱間圧延によって製造された形鋼であり、例えばJISに基づく規格品である。熱間圧延形鋼である場合、連結部材3は、鋳造されたものと異なり、製品によらず強度のばらつきがなく安定していることから、擁壁1の構造設計が容易であり、かつ、必要とされる擁壁1の強度を確実に確保できる。連結部材3は、例えば、形鋼を長さ約50mmで切断して形成されたものである。
【0030】
形鋼は、例えば溝形鋼、H形鋼(細幅)、I形鋼、ジョイスト鋼であり、ウェブと、ウェブの一端側と他端側のそれぞれに形成された二つのフランジを有する。溝形鋼の場合、標準断面寸法H×Bが150×75、180×75、200×80などである。H形鋼(細幅)の場合、標準断面寸法H×B,ウェブ厚t1,フランジ厚t2が、それぞれ150×75,5,7、175×90,5,8、200×100,5.5,8などである。
【0031】
連結部材3は、支持杭2に対して片持ち状態で固定される。連結部材3は、一方のフランジ(第1フランジ)が支持杭2に固定され、ウェブがほぼ水平に配置される。支持杭2に固定される側のフランジ(第1フランジ)は、固定端側フランジとなり、支持杭2から突出した側のフランジ(第2フランジ)は、自由端側フランジとなる。溝形鋼の場合、自由端側フランジの先端が、上向きとなるように配置される。
【0032】
連結部材3は、支持杭2のH形鋼6上で間隔を空けて複数個が設置され、各連結部材3において、支持杭2と壁部材4との間の力の伝達が行われる。連結部材3同士の間隔は、例えば200mmから300mm程度である。壁部材4の高さが6000mmの場合、1本のH形鋼6に20個から30個程度の連結部材3が設置される。壁部材4が受ける土圧に応じて、連結部材3同士の間隔を異ならせることが望ましい。例えば、壁部材4の下部における連結部材3同士の間隔は、上部に比べて狭い。
【0033】
また、連結部材3は、すべての支持杭2において水平方向に同一の高さとなるように、それぞれの支持杭2に固定される。高さが同一の複数の連結部材3の水平なウェブ上に壁部材4の鉄筋7が水平方向に載置され、鉄筋7が連結部材3に結束される。これにより、連結部材3と壁部材4の鉄筋7との間で、力の伝達が可能となり、壁部材4にかかる応力が連結部材3を介して支持杭2に確実に伝達される。
【0034】
連結部材3の水平なウェブ上には、壁部材4の鉄筋7が例えば2本載置される。形鋼である連結部材3は、形状が一定である。したがって、連結部材3が支持杭2のH形鋼6のフランジに固定された状態で、連結部材3のウェブに載置された鉄筋7は、H形鋼6のフランジ面に対する角度が設置場所に関わらず一定となる。また、壁部材4の鉄筋7を配筋する際、複数の連結部材3上に壁部材4の鉄筋7を載置するだけで、水平方向に鉄筋7を配置できるため、配筋作業が容易である。そして、連結部材3の水平なウェブ上では、鉄筋7同士の間隔を所定の距離に保って配筋しやすいことから、鉄筋7の間隔を正確に保持できる。
【0035】
連結部材3が溝形鋼の場合は、フランジの先端が上向きに配置されたほうが、鉄筋7がフランジに引っ掛かって落下しにくいため、壁部材4の配筋作業を行いやすい。なお、本発明はこの例に限定されず、溝形鋼の場合において、フランジの一端部が下向きに配置されてもよい。
【0036】
壁部材4は、土と接して、土圧の水平成分を受ける。壁部材4は、鉄筋コンクリート製であり、複数の支持杭2に沿って設置される。壁部材4の壁面は、水平面に対して垂直に形成される。壁部材4の厚さは、壁部材4が受ける土圧に応じて決定される。壁部材4の厚さは、例えば200mmから250mm程度である。コンクリートの設計基準強度は、例えばFc24である。本実施形態では、従来の片持ち梁式擁壁と異なり、壁部材4に対して垂直な底板は形成されない。
【0037】
壁部材4は、内部に連結部材3が埋設されて支持杭2と一体化されている。壁部材4は、土圧の水平成分を受けて、内部に配置された形鋼である連結部材3を介して、支持杭2へ力を伝達する。壁部材4は、例えば、コンクリート内部に鉄筋7が配置された鉄筋コンクリートである。鉄筋7は、例えば主筋である複数の横鉄筋7aと、例えば配力筋である複数の縦鉄筋7bを有する。横鉄筋7aは、例えば径がD16であり、水平方向に連結部材3上に配置される。横鉄筋7aは、連結部材3と結束されて、連結部材3に固定される。縦鉄筋7bは、例えば径がD13である。縦鉄筋7bは、横鉄筋7aと結束されて、横鉄筋7aに固定される。
【0038】
各横鉄筋7aは、それぞれ連結部材3に載置される。よって、壁部材4における垂直方向の横鉄筋7a同士の間隔は、連結部材3同士の間隔と等しく、例えば200mmから300mm程度である。壁部材4における水平方向の縦鉄筋7b同士の間隔は、例えば200mmから300mm程度である。横鉄筋7aと縦鉄筋7bによって壁部材4の内部において鉄筋7が格子状に配置される。
【0039】
壁部材4は、段差部下側の地表面よりも下方の位置(地中)まで設置され根入れされる。壁部材4の下端には、下端に沿って地反力を受ける基礎梁8が形成されてもよい。壁部材4や基礎梁8が地中に設置されていることによって、地盤の性質に応じて生じる可能性のあるヒービングを防止できる。根入れ深さを調整することによって、土地の段差部上側の土(背面土)が圧密沈下により擁壁1の下をくぐりぬけ、段差部下側の掘削底地盤を押し上げる現象(円弧すべり)を防止できる。
【0040】
以下、支持杭2と連結部材3の固定について説明する。
支持杭2のH形鋼6のフランジには、連結部材3の固定端側フランジが互いに面接触となるように固定される。例えば、図4から図6に示すように、支持杭2と連結部材3は、アーク溶接による接合によって互いに固定される。建設現場で通常用いられている発電機兼溶接機(ウェルダー)による溶接作業で部材同士の接合を行うことができ、迅速かつ簡易に現場で連結部材3の支持杭2への接合作業を行うことができる。また、現場での溶接作業によれば、連結部材3の高さ位置の調整が容易である。
【0041】
また、図7から図9に示すように、支持杭2と連結部材3は、高力ボルト9による接合によって互いに固定されてもよい。高力ボルト9は、例えばトルシア形高力ボルト(S10T M22)であり、先端に予め形成されたピンテールが破断することによって締め付けトルクを確認でき、複数の高力ボルト9に対して均等な取付け強度を確保できる。高力ボルト9の締結は、シャーレンチ(例えば超短型)を用いて行われる。高力ボルト9による接合の場合、発電機のみで作業を行うことができる。
【0042】
シャーレンチと連結部材3が干渉しないように連結部材3の形状やサイズを調整したり選択したりすることが好ましい。例えば、図7から図9に示す例では、図8に示すように、連結部材3の平面視形状を台形として、支持杭2に固定される基端側フランジの方を突出側の先端側フランジよりも幅広にしている。基端側フランジの幅は例えば160mmであり、先端側フランジの幅は例えば50mmである。また、図10に示すように、形鋼のフランジは内面側が傾斜しているため、形鋼用のテーパーワッシャ10を用いて平面とした部分に高力ボルト9を締結する必要がある。支持杭2に形成する貫通穴11の径は、耐力が許容できる範囲で、ボルト径よりも大きいルーズホールとしてもよい。これにより、現場にて連結部材3の高さ方向の設置位置を微調整できる。
【0043】
次に、本実施形態に係る擁壁1の築造方法について説明する。
まず、現場において、支持杭2の建て込みを行う。支持杭2は、プレボーリング・セメントミルク注入締固め工法によって建て込まれる。このとき、掘削、セメントミルク注入及び建て込みを1台で行うことができる建込用建設機械(例えばアボロンシステム社製)を用いることで、精度良く短期間に建て込みを完了させることができる。この工法は、低振動、低騒音で機動性が高いため、都市部での工事にも対応できる。
【0044】
支持杭2の建て込み作業について、より詳細に説明すると例えば以下のとおりである。建込用建設機械は、複数、例えば三つの吊りこみフック及び巻き上げ機が装備される。建込用建設機械の掘削用のオーガー(ドリル)は、ガイドレールであるリーダーに沿って上下に移動する。現場では、まず、リーダーの組み立てが行われる。リーダーの長さは支持杭2の長さよりも長い。リーダーの部品間は、ピンジョイントとなっているので、建設機械のオペレーターのみの操作で完了する。次に、削孔するためのオーガーが取り付けられる。そして、セメントミルクの調合プラントとオーガー上部に設けられたラフターの間がホースで接続される。
【0045】
また、H形鋼6の設置位置の目印となる定規とよばれる鋼材にマーキングが行われて杭芯が決定され、マーキングに基づいてオーガーがセットされる。その後、オーガーによって規定の深度まで削孔され、逆回転でオーガーを引き抜きながらセメントミルクが注入される。これにより、セメントミルクの圧力で削孔壁の崩落が防止される。
【0046】
次に、オーガーとリーダーが建設機械から吊り下げられた状態で、支持杭2の軸方向1本目のH形鋼6が、三つの吊り込みフックのうちの一つの吊り込みフックに架けられた後、吊り上げられて、掘削孔上部に移動され掘削孔内に建て込まれる。1本目のH形鋼6には、2本目のH形鋼6と接合するためのガセットプレートが予め高力ボルトによって接合されている。なお、H形鋼6には、現場へ搬入する前に高力ボルト用の貫通穴を形成しておくことが望ましい。
【0047】
H形鋼6が建て込まれたとき、建込位置の微調整が、光学式及びレーザー式の位置測定器と水準器によって行われる。H形鋼6の天端が地面(GL)から1m程度の所で、1本目のH形鋼6の建て込みが止められて吊り込みフックから外される。そして、軸方向2本目のH形鋼6が吊り込みフックにかけられた後、吊り上げられて、1本目のH形鋼6の上部へ移動される。2本目のH形鋼6は、1本目のH形鋼6に取り付けられたガセットプレート間内に差し込まれ、その後、高力ボルトで締め付けられる。連結された2本のH形鋼6が1本の支持杭2として所定の深度まで建て込まれると、1本の支持杭2の建て込みが完了する。同様の作業が、他の支持杭2に対して順に行われる。
【0048】
支持杭2を建て込んだ後、傾斜地などにおいて支持杭2の前方を掘削する必要がある場合は、掘削前に支持杭2間の地中に横矢板を埋設しながら高さ方向に積んだ後、仮設山留めの施工方法と同様に、支持杭2の前方側を掘削すればよい。また、横矢板は、壁部材4を形成する際の型枠として使用することもできる。横矢板はコンクリート打設後に取り外す必要がなく、壁部材4の一部として擁壁1の後面側の土に埋められた状態のままとすることができる。
【0049】
複数本の支持杭2の建て込み完了後、支持杭2に対して形鋼である連結部材3を固定する。まず、墨出しによって支持杭2のフランジ上に連結部材3の固定位置を決定する。連結部材3の固定は、溶接接合又は高力ボルト接合である。現場にて、連結部材3の固定位置が決定された後、連結部材3の溶接又は高力ボルト接合による固定が行われる。
【0050】
連結部材3を現場にて固定する場合、予め工場でH形鋼6に連結部材3を固定しておく場合と異なり、以下の利点がある。すなわち、連結部材3が現場で固定されるため、支持杭2の建込精度によって連結部材3の設置位置が影響を受けないという利点がある。また、H形鋼6は、連結部材3が固定されていない状態で運搬、搬入保管、建て込まれるため、連結部材3によって妨げられることなくH形鋼6を扱うことができるという利点や、H形鋼6を吊り込んで建て込む際にバランスを取りやすく、H形鋼6を鉛直に保持しやすいという利点がある。
【0051】
支持杭2に対してすべての連結部材3が固定された後、壁部材4を形成するための配筋作業を行う。横鉄筋7aは、形鋼である連結部材3上に載置すればよいため、作業が容易である。横鉄筋7aを連結部材3と結束したり、横鉄筋7aに対して縦鉄筋7bを結束したりすることによって、壁部材4の鉄筋7が配置される。
【0052】
次に、壁部材4のコンクリート部分を形成する。壁部材4は、現場打ちコンクリートによって形成される。すなわち、型枠の建て込み、コンクリートの打設、所定のコンクリート強度確保後の型枠の取り外しが行われる。これにより、支持杭2に対して壁部材4が一体化した擁壁1の構造体が完成される。
【0053】
以上、本実施形態によれば、鉄筋コンクリート製の壁部材4は、土圧の水平成分を受けて、内部に配置された形鋼である連結部材3を介して、支持杭2へ力を伝達する。擁壁1は、H形鋼である支持杭2と鉄筋コンクリートである壁部材4が一体化された合成構造となっている。したがって、擁壁1は、通常用いられているH形鋼の支持杭、形鋼、鉄筋コンクリート壁に対して行われている方法で構造計算を行うことができ、特殊な解析を必要とせず、建築法規に定められている方式で計算することも可能である。したがって、本実施形態では、強度の確認が容易である。
【0054】
これに対し、従来のプレキャストコンクリート製パネルによる擁壁は、アンカー又は引張ボルトなどの金属製部材によって点支持されるため、構造物としての強度を確認するためには、有限要素法による構造解析など特殊な解析が必要である。本実施形態では、プレキャストコンクリート製パネルによる擁壁と比べて、構造設計に要する手間や時間を低減でき、かつ、第三者に容易に理解できる方法で擁壁1の強度を提示することができる。
【0055】
本実施形態によれば、石積み擁壁と異なり、縦壁を斜面とする必要がなく、また、片持ち梁式擁壁と異なり、地中において縦壁の垂直面の前方又は後方に突出した底板が埋設されていない。そのため、平らな土地が減らされることなく、また、建築物の基礎に干渉する領域がないため、建築物を建築するための土地を最大限に確保することができる。
【0056】
本実施形態は、形鋼である連結部材3が、支持杭2の前面側に取り付けられ、支持杭2よりも前面側の壁部材4の内部に収められて支持杭2と壁部材4が一体化される。従来のプレキャストコンクリート製パネルを用いた擁壁では、アンカー又は引張ボルト等をパネル及び支持杭の後面側で接続するため、支持杭の後面側を掘削して施工空間(仮設足場の設置空間や作業スペースなど)を確保する必要がある。これに対し、本実施形態では、支持杭2の前面側において、連結部材3を取り付けたり、壁部材4を形成したりすることができ、支持杭2の後面側での作業は必要がないため、壁部材4よりも後面側の空間は支持杭2を設置するための空間以上に確保する必要がない。
【0057】
したがって、仮に、擁壁よりも奥の土地が5m高く、手前の土地が低い斜面地に擁壁を築造して、手前に平らな土地を造成する場合、従来の工法のいずれの場合も、擁壁は、奥の土地との隣地境界線から3m以上手前に築造する必要がある。これに対して、本実施形態では、支持杭2を設置するための空間分(例えば支持杭2の掘削径である500mmから600mm)を隣地境界線から離せば、擁壁1を設置できる。
【0058】
また、プレキャストコンクリート製パネルは、接続部を後施工できないことから、支持杭にパネルを設置するためには、垂直方向及び水平方向の両方で精度良く支持杭を現場で建て込む必要がある。これに対し、本実施形態では、連結部材3の固定位置を現場において決定することができ、壁部材4は現場打ちコンクリートで形成できることから、支持杭2の建て込み精度に影響を受けることなく、壁部材4を精度良くかつ簡易に設置できる。さらに、プレキャストコンクリート製パネルは、形状がある程度定まっているため、建設現場の敷地条件等の設計条件によっては、対応できない場合がある。これに対し、本実施形態では、壁部材4が現場で形成する鉄筋コンクリートであることから、設計条件に柔軟に対応した擁壁1を設計し築造できる。
【0059】
さらに、本実施形態では、支持杭2と壁部材4が鉄筋コンクリート内部の連結部材3を介して一体化されているため、パネルの結合部分におけるアンカー又は引張ボルトなどの金属製部材が土に接触する場合と異なり、腐食による耐久性の低下のおそれがない。またさらに、本実施形態では、現場打ちコンクリートで壁部材4を形成できるため、プレキャストコンクリート製パネルと異なり、工場からの納期によって、建設現場の工期が影響を受けることがなく、かつ、コストも大幅に抑制できる。
【0060】
また、本実施形態では、建築材料として通常用いられている形鋼や鉄筋コンクリートなどが使用されており、かつ、各工程で実施される作業に関して一般的に行われている技術を適用でき、高度な精度が要求される技術が必要とされない。したがって、様々な条件下の建設現場において本実施形態に係る擁壁1を設置することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :擁壁
2 :支持杭
3 :連結部材
4 :壁部材
5 :柱状部
6 :H形鋼
7 :鉄筋
7a :横鉄筋
7b :縦鉄筋
8 :基礎梁
9 :高力ボルト
10 :テーパーワッシャ
11 :貫通穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-05-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
また、H形鋼6の設置位置の目印となる定規とよばれる鋼材にマーキングが行われて杭芯が決定され、マーキングに基づいてオーガーがセットされる。その後、オーガーによって規定の深度まで削孔され、削孔時と同回転でオーガーを引き抜き土を外へ搬出しながらセメントミルクが注入される。これにより、セメントミルクの圧力で削孔壁の崩落が防止される。