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特開2022-128898水系塗料組成物、被膜および被膜付基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128898
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】水系塗料組成物、被膜および被膜付基材
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220829BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220829BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220829BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220829BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220829BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20220829BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220829BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20220829BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/63
C09D7/65
C09D7/61
A01P7/02
A01P7/04
A01P1/00
A01N25/04
A01N53/08 125
A01P3/00
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027367
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉訓
(72)【発明者】
【氏名】大藤 功
(72)【発明者】
【氏名】本田 清二
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011AC01
4H011AC04
4H011BA01
4H011BB15
4H011BB18
4H011BC03
4H011BC16
4H011BC19
4H011DA14
4H011DH02
4J038BA212
4J038CG001
4J038JA09
4J038JA28
4J038JA68
4J038KA02
4J038KA10
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA05
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC06
(57)【要約】
【課題】耐キズ性、蚊のノックダウンを含む防虫性、抗菌性および抗ウイルス性にバランスよく優れる被膜を形成することができる水系塗料組成物を提供すること。
【解決手段】アニオン系またはノニオン系である樹脂(a)と、ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物(b)と、アニオン系またはノニオン系である抗ウイルス剤(c)と、合成ワックス(d)とを含有する、水系塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン系またはノニオン系である樹脂(a)と、
ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物(b)と、
アニオン系またはノニオン系である抗ウイルス剤(c)と、
合成ワックス(d)と
を含有する、水系塗料組成物。
【請求項2】
前記樹脂(a)がアクリル系樹脂を含む、請求項1に記載の水系塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂(a)が、ガラス転移温度が0℃以下である樹脂(a1)と、ガラス転移温度が50℃以上である樹脂(a2)とを含む、請求項1または2に記載の水系塗料組成物。
【請求項4】
前記抗ウイルス剤(c)が無機系の抗ウイルス剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。
【請求項5】
前記合成ワックス(d)が、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスおよびその酸化物から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。
【請求項6】
さらに変色防止剤(e)を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。
【請求項7】
木質基材用である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水系塗料組成物から形成された被膜。
【請求項9】
基材と、請求項8に記載の被膜とを有する、被膜付基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料組成物、被膜および被膜付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、各種基材に、汚れやキズ等から基材を保護することを目的として、被膜(保護層、塗膜)が設けられている。
該基材の中でも、特に人が接する基材に設けられる被膜には、キズ等から基材を保護すること以外に、害虫の忌避性などの防虫性、抗菌性、抗ウイルス性なども求められている。
【0003】
このような被膜を形成する塗料組成物としては、シックハウス症候群等の環境保全や作業環境の安全性などの観点から、揮発性有機化合物(VOC)の含有量が低減された水系塗料組成物が求められている。
【0004】
ところで、近年、地球温暖化の影響によりデング熱、マラリアなどの蚊を媒体とする感染症に対する関心が高まっており、蚊を対象とする害虫忌避塗料組成物のニーズが高くなっている。
しかしながら、白蟻やゴキブリ等の害虫を意図した従来の害虫忌避用組成物を蚊の忌避用塗料として建築物の内装に適用しても、人体に悪影響を及ぼさず、空間を自由に飛びまわる蚊に対して蚊の忌避性を発揮する被膜を形成することは困難であった。
【0005】
この問題に対し、特許文献1には、蚊を忌避可能な被膜を形成できる害虫忌避塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/190433号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の組成物などの、従来の害虫忌避塗料組成物から形成される被膜は、蚊を忌避することはできても、蚊をノックダウン(蚊を死滅させる)効果は十分ではなく、特に、従来は、耐キズ性、蚊のノックダウンを含む防虫性、抗菌性および抗ウイルス性にバランスよく優れる被膜は知られていなかった。
【0008】
本発明は、以上のことに鑑みてなされたものであり、耐キズ性、蚊のノックダウンを含む防虫性、抗菌性および抗ウイルス性にバランスよく優れる被膜を形成することができる水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0010】
[1] アニオン系またはノニオン系である樹脂(a)と、
ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物(b)と、
アニオン系またはノニオン系である抗ウイルス剤(c)と、
合成ワックス(d)と
を含有する、水系塗料組成物。
【0011】
[2] 前記樹脂(a)がアクリル系樹脂を含む、[1]に記載の水系塗料組成物。
[3] 前記樹脂(a)が、ガラス転移温度が0℃以下である樹脂(a1)と、ガラス転移温度が50℃以上である樹脂(a2)とを含む、[1]または[2]に記載の水系塗料組成物。
【0012】
[4] 前記抗ウイルス剤(c)が無機系の抗ウイルス剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【0013】
[5] 前記合成ワックス(d)が、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスおよびその酸化物から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【0014】
[6] さらに変色防止剤(e)を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【0015】
[7] 木質基材用である、[1]~[6]のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【0016】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の水系塗料組成物から形成された被膜。
[9] 基材と、[8]に記載の被膜とを有する、被膜付基材。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る水系塗料組成物によれば、耐キズ性、蚊のノックダウンを含む防虫性(特に、蚊のノックダウン性およびダニ忌避性)、抗菌性(特に、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抗菌性)、および、抗ウイルス性(特に、インフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルス、および、ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)などのノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性)にバランスよく優れる被膜を形成することができる。
本発明に係る水系塗料組成物は、通年で前記効果を発揮することができる。
このように、水系塗料組成物であり、通年で、耐キズ性、防虫性、抗菌性および抗ウイルス性に優れる被膜を形成できるため、本発明に係る水系塗料組成物は、これらの効果が求められる基材(被塗物)に対し、好適に用いることができる。
【0018】
前記防虫性の対象となる害虫としては特に制限されないが、例えば、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類;イエバエ等のハエ類;ユスリカ類;ブユ類;チョウバエ類;等の飛翔害虫、アリ類;ノミ類;ゴキブリ類;シロアリ類;ダニ類;クモ類;ダンゴムシ類;ムカデ類;ヤスデ類等の匍匐害虫が挙げられ、これらの中でも、特に、蚊類やダニ類に対してそれぞれ、ノックダウンおよび忌避の効果を発揮する。
【0019】
前記抗菌性の対象となる菌としては特に制限されないが、グラム陽性、陰性、好気性、嫌気性などの性質に関わらず様々な菌が挙げられる。該菌としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、腸炎菌、肺炎桿菌、緑膿菌、ビブリオ、サルモネラ菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌が挙げられる。
【0020】
前記抗ウイルス性の対象となるウイルスとしても特に制限されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に関わることなく、様々なウイルスが挙げられる。
前記エンベロープウイルスとしては、例えば、鳥インフルエンザウイルス、人インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のインフルエンザウイルス、B型またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、水痘・帯状発疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス、エボラウイルスが挙げられる。
また、前記ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪水系塗料組成物≫
本発明に係る水系塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、アニオン系またはノニオン系である樹脂(a)[以下「成分(a)」ともいう。他の成分についても同様。]と、ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物(b)と、アニオン系またはノニオン系である抗ウイルス剤(c)と、合成ワックス(d)とを含有する。
【0022】
成分(a)~(c)としては、後述のように、本組成物の原料として、液状成分(水溶液や水分散体)を用いることが好ましい。このような液状成分を用いる場合、本発明者が鋭意検討した結果、成分(a)~(c)として、カチオン系の成分を使用すると、得られる組成物がゲル状になったり、析出が生じたりして、塗料とすることが困難であることが分かった。従って、本組成物では、成分(a)~(c)として、アニオン系またはノニオン系の成分を使用することを一つの特徴とする。
なお、本組成物において、成分(d)や下記その他の成分として、液状成分を用いる場合には、該成分もアニオン系またはノニオン系の成分であることが好ましい。
一方、成分(d)として粉体を用いる場合、該粉体の成分(d)には、イオン性がないため、該粉体の成分(d)のイオン性は特に制限されない。
【0023】
本組成物は、水系塗料組成物であり、該水系塗料組成物とは、水または水を主成分とする媒体(水性媒体)に、成分(a)~(d)等の構成成分を分散および/または溶解させた組成物のことをいう。
本組成物における水の含有量は、好ましくは35~95質量%、より好ましくは50~80質量%である。
【0024】
<成分(a)>
前記成分(a)としては、アニオン系またはノニオン系である樹脂であれば特に制限されず、塗装対象となる基材の種類に応じて適宜選択すればよいが、水系の塗料組成物に用いることができ、造膜形成能を有する樹脂であることが好ましい。
本組成物に用いる成分(a)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0025】
成分(a)の具体例としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル・ベオバ樹脂が挙げられる。これらの中では、耐キズ性や防汚性に優れる被膜を容易に形成できる等の点から、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、コストの点からは、特に(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0026】
成分(a)の重量平均分子量(Mw)は、強度の高い被膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは5,000~300,000、より好ましくは30,000~100,000である。
該Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0027】
成分(a)のガラス転移温度(Tg)は、長い養生時間の必要がなく、乾燥性に優れる塗料組成物を容易に得ることができる等の点から、好ましくは-30~90℃、より好ましくは-20~80℃である。
本発明におけるTgは、DSC(示差走査熱量測定)で測定することができるが、Fox T.G.,Bull.Am.Physics Soc.1,3,第123頁(1956)に記載の下記Foxの式により近似的に算出することもできる。
【0028】
【数1】
[式中、Xnは、成分(a)を製造する際に用いたモノマーnの、成分(a)を製造する際に用いたモノマー全量に対する質量分率(質量%/100)であり、Tgnは、該モノマーnのホモポリマーのガラス転移温度(ケルビン)である。]
【0029】
Tgnは、例えば、Polymer Handbook 2nd Edition,J.Wiley & Sons,New York(1975)に記載の値を参考にできる。
【0030】
成分(a)は、基材に対する付着性および耐キズ性に優れる被膜を容易に形成できる等の点から、Tgが0℃以下である樹脂(a1)と、Tgが50℃以上である樹脂(a2)とを含むことが好ましい。
成分(a)は、さらに、Tgが0℃を超え50℃未満の樹脂(a3)を含んでいてもよい。
【0031】
樹脂(a1)のTgは、造膜性に優れる組成物を容易に得ることができ、各種基材への付着性に優れ、冬場等であっても造膜過程で透明でクラック等が生じ難い被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは-30~-1℃である。
【0032】
樹脂(a2)のTgは、硬度が高く、表面のタック性が低減された被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは51~90℃である。
【0033】
成分(a)の最低造膜温度(MFT)は、長い養生時間の必要がなく、乾燥性に優れる塗料組成物を容易に得ることができる等の点から、好ましくは-30~100℃、より好ましくは-20~90℃である。
本発明におけるMFTは、熱勾配型MFT測定器((株)井元製作所製)を用いて、ISO規格2115の温度勾配板法により測定した値である。
【0034】
成分(a)は、基材に対する付着性および耐キズ性に優れる被膜を容易に形成できる等の点から、最低造膜温度(MFT)が5℃以下である樹脂(a1’)と、MFTが55℃以上である樹脂(a2’)とを含むことが好ましい。
成分(a)は、さらに、MFTが5℃を超え55℃未満の樹脂(a3’)を含んでいてもよい。
【0035】
樹脂(a1’)のMFTは、造膜性に優れる組成物を容易に得ることができ、各種基材への付着性に優れ、冬場等であっても造膜過程で透明でクラック等が生じ難い被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは-30~4℃である。
【0036】
樹脂(a2’)のMFTは、硬度が高く、表面のタック性が低減された被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは56~90℃である。
【0037】
樹脂(a1)と樹脂(a1’)とは同一の樹脂であることが好ましく、つまり、樹脂(a1)は、Tgの他に、前記樹脂(a1’)のMFTの条件を満たすことが好ましい。
また、樹脂(a2)と樹脂(a2’)とは同一の樹脂であることが好ましく、つまり、樹脂(a2)は、Tgの他に、前記樹脂(a2’)のMFTの条件を満たすことが好ましい。
【0038】
樹脂(a1)と樹脂(a2)との合計100質量%に対する樹脂(a1)の含有量[樹脂(a1’)と樹脂(a2’)との合計100質量%に対する樹脂(a1’)の含有量]は、基材に対する付着性と、耐キズ性とにバランスよく優れる被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは20~80質量%、より好ましくは40~60質量%である。
【0039】
樹脂(a)の含有量は、基材への密着性に優れ、耐キズ性、柔軟性、耐衝撃性および硬度により優れる被膜を容易に形成することができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは80~99質量%、より好ましくは80~95質量%、特に好ましくは80~90質量%である。
なお、本発明において、固形分とは、JIS K 5601-1-2:2008(加熱温度:105℃、加熱時間:60分)に従って得られる加熱残分を意味する。なお、本組成物の固形分とは、本組成物から形成された被膜を構成する成分でもある。
【0040】
本組成物の原料として用いる成分(a)[本組成物を調製する際に用いる成分(a)]としては、水系塗料組成物である本組成物を容易に調製することができ、所望の物性を有する被膜を容易に形成できる等の点から、前記樹脂の水分散体、特にエマルションが好ましく、さらには(メタ)アクリル樹脂エマルションが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂エマルションとしては、例えば、水および分散安定剤の存在で、1種または2種以上の(メタ)アクリロイル化合物を必須とし、必要により、1種または2種以上のその他の重合性不飽和モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分を1段階または多段階で乳化重合することにより得られる、従来公知のエマルションが挙げられる。
【0042】
前記(メタ)アクリロイル化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐状アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ヘキサフルオロ-i-プロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレート;(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリレート;N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリロイルモノマー;イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等のイソシアナト基含有(メタ)アクリロイルモノマー;γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の酸化硬化性基含有(メタ)アクリロイルモノマー;1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等の複素環基含有(メタ)アクリロイルモノマー;2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラメチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート等の4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート;ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0043】
なお、本発明における「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリルまたはアクリルとメタクリルとの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル、メタクリロイル、または、アクリロイルとメタクリロイルとの両方を包括する概念であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート、または、アクリレートとメタクリレートとの両方を包括する概念である。
【0044】
前記その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;スチレン、α-メチルスチレン等のビニル芳香族化合物;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;アクロレイン、メタクロレイン、ホルミルスチロール、炭素数4~7のビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)、アセトアセトキシアリルエステル等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;m-i-プロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアナト基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;エポキシ基含有重合性不飽和モノマーまたは水酸基含有重合性不飽和モノマーと不飽和脂肪酸との反応生成物等の酸化硬化性基含有重合性不飽和モノマー;フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル等のフルオロビニルエーテルが挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリロイル化合物とその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体である場合、(メタ)アクリル樹脂中の全構成単位100質量%に対する、(メタ)アクリロイル化合物から誘導される構成単位の含有量は、好ましくは20~99.9質量%、より好ましくは40~99.5質量%である。
【0046】
前記エマルション中の固形分の含有量は、該エマルションの安定性等の点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0047】
前記エマルション中の樹脂の平均粒子径は、該エマルションの安定性に優れ、造膜性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.05~0.9μm、より好ましくは0.1~0.8μmである。
なお、本明細書における「平均粒子径」とは、JIS Z 8825:2013で規定されている「粒子径解析-レーザ回折・散乱法」に基づいて測定された、体積基準の積算粒子径分布の50%に対応した粒子径(メジアン径、d50)のことをいう。
【0048】
前記エマルションの粘度は、造膜性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、好ましくは40~1500mPa・s、より好ましくは70~500mPa・sである。
【0049】
前記水分散体やエマルションは、水を含む分散媒(以下「水性媒体」ともいう)に樹脂が分散された分散体である。
該水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%である。
【0050】
前記水性媒体には、水以外の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
前記エマルションは、樹脂を、界面活性剤を用いて乳化し、エマルションとすることにより調製することができる。また樹脂を形成するモノマーの乳化重合により、直接、エマルションを調製することもできる。
該界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤から適宜選択することができ、1種でも、2種以上でもよい。
【0052】
前記エマルションとしては、従来公知の方法で製造して得たものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
例えば、アクリル樹脂エマルションの市販品としては、例えば、「ボンコート」シリーズ、「ウォーターゾール」シリーズ(以上、DIC(株)製);「アクリセット」シリーズ、「ユーダブル」シリーズ(以上、(株)日本触媒製);「ポリゾール」シリーズ(昭和電工(株)製);「ヨドゾール」シリーズ、「カネビノール」シリーズ(以上、ヘンケルテクノロジーズジャパン(株)製);「ポリトロン」、「ポリデュレックス」(以上、旭化成(株)製)、「リカボンド」シリーズ(中央理化工業(株)製);「プライマル」シリーズ(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製);「アクロナール」シリーズ(BASFジャパン(株)製);「モビニール」シリーズ(ジャパンコーティングレジン(株)製);「カネカゼムラック」シリーズ、「カネビラック」シリーズ(以上、(株)カネカ製)が挙げられる。
【0053】
<成分(b)>
前記成分(b)は、ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物であれば特に制限されず、従来公知のピレスロイド系化合物を用いることができる。
このような成分(b)を用いるため、本組成物から得られる被膜は、下記成分(b)以外の防虫剤を用いなくても、ダニ忌避性および蚊のノックダウンを含む防虫性を発揮することができる。
本組成物に用いる化合物(b)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0054】
成分(b)は、ペルメトリン以外に、他のピレスロイド系化合物を含んでいてもよく、該他のピレスロイド系化合物としては、天然ピレスロイド系化合物であっても、合成ピレスロイド系化合物であってもよい。
天然ピレスロイド系化合物としては、例えば、ピレトリン、シネリン、ジャスモリンが挙げられる。
合成ピレスロイド系化合物は、天然ピレスロイドと化学構造が類似した合成化合物の総称であり、例えば、アレスリン、エムペントリン、テトラメトリン、α-シペルメトリン、レスメトリン、プラレトリン、イミプロトリン、デルタメトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、シラフルオフェン、フラメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ベラトリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、モンフルオロトリンが挙げられる。
【0055】
成分(b)中のペルメトリンの含有量は、蚊のノックダウンを含む防虫性により優れる被膜を容易に形成できる等の点から、成分(b)100質量%に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、上限は、好ましくは100質量%である。
【0056】
成分(b)の含有量は、ダニ忌避性および蚊のノックダウンを含む防虫性と、基材に対する付着性、耐キズ性とにバランスよく優れる被膜を容易に形成することができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは1~8質量%、特に好ましくは2~6質量%である。
【0057】
本組成物の原料として用いる成分(b)[本組成物を調製する際に用いる成分(b)]としては、水系塗料組成物である本組成物を容易に調製することができ、所望の物性を有する被膜を容易に形成できる等の点から、前記化合物の水分散体、特にエマルションが好ましい。
前記水分散体やエマルション中の成分(b)の固形分の含有量は、該エマルションの安定性等の点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
前記水分散体やエマルションは、水性媒体に前記化合物が分散された分散体である。該水性媒体中の水の含有量や水以外の媒体の具体例は、成分(a)の欄で記載した通りである。
【0058】
前記水分散体やエマルションとしては、ペルメトリンを含む、アニオン系またはノニオン系であるピレスロイド系化合物を、公知の方法で水性媒体に分散させたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、大和化学工業(株)製、日本曹達(株)製、富士フィルム和光純薬(株)製の市販品が挙げられる。
【0059】
<成分(c)>
前記成分(c)は、アニオン系またはノニオン系の抗ウイルス剤であれば特に制限されず、従来公知の抗ウイルス剤を用いることができる。
なお、便宜上、抗ウイルス剤と規定しているが、成分(c)は、アニオン系またはノニオン系の抗菌剤であってもよい。
本組成物に用いる抗ウイルス剤(c)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0060】
抗ウイルス剤(c)は、有機系の抗ウイルス剤であってもよいが、インフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルス、および、ネコカリシウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性により優れる被膜を容易に形成できる等の点から、無機系の抗ウイルス剤であることが好ましい。
【0061】
前記無機系の抗ウイルス剤としては特に制限されず、従来公知の抗ウイルス剤が挙げられる。
前記無機系の抗ウイルス剤の好適な一例としては、銀、亜鉛および銅から選ばれる一種以上の酸化物と、モリブデン酸化物との複塩(酸化モリブデン銀複塩)が挙げられる。
ここで、銀、亜鉛および銅から選ばれる一種以上の酸化物としては、例えば、酸化銀、酸化亜鉛、酸化銅(I)、酸化銅(II)が挙げられる。
【0062】
前記酸化モリブデン銀複塩としては、銀、亜鉛および銅から選ばれる一種以上の塩と、モリブデンオキソ化合物のアルカリ塩とを反応させて得られる複塩、具体的には、銀、亜鉛および銅から選ばれる一種以上の塩の水溶液とモリブデンオキソ化合物のアルカリ塩水溶液とを混合して、これらを反応させて得られる複塩であってもよい。
この場合の銀塩としては、例えば、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀が挙げられ、亜鉛塩としては、例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛が挙げられ、銅塩としては、例えば、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅が挙げられる。
モリブデンオキソ化合物のアルカリ塩としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸アンモニウム、ポリモリブデン酸ナトリウム、イソポリモリブデン酸ナトリウムが挙げられる。
【0063】
また、前記酸化モリブデン銀複塩以外の無機系の抗ウイルス剤としては、例えば、光触媒、金属イオンをイオン交換体に担持した材料、抗菌セラミックスが挙げられる。これらの具体例としては、例えば、国際公開第2016/084774号に記載の剤が挙げられる。
【0064】
前記有機系の抗ウイルス剤としては、特に制限されず、従来公知の抗ウイルス剤が挙げられる。
該有機系の抗ウイルス剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩、ピリチオン系化合物、スルホン酸基含有ポリマー、アミノ基含有ポリビニルアルコール、有機窒素臭素系化合物、H型カルボキシル基含有ポリマー、特開2018-193337号公報に記載の抗ウイルス組成物や、他の抗菌成分が挙げられる。
【0065】
成分(c)の含有量は、抗菌および抗ウイルス性と、基材に対する付着性、耐キズ性とにバランスよく優れる被膜を容易に形成することができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは1~12質量%、特に好ましくは2~10質量%である。
【0066】
本組成物の原料として用いる成分(c)[本組成物を調製する際に用いる成分(c)]としては、水系塗料組成物である本組成物を容易に調製することができ、所望の物性を有する被膜を容易に形成できる等の点から、前記抗ウイルス剤の水溶液または水分散体(エマルション、ディスパージョンを含む)が好ましい。
前記水溶液や水分散体中の抗ウイルス剤の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、好ましくは80質量%以下である。
前記水溶液や水分散体は、水性媒体に前記抗ウイルス剤が溶解または分散された溶液または分散体である。該水溶液や水分散体中の水の含有量や水以外の媒体の具体例は、成分(a)の欄で記載した通りである。
【0067】
前記水溶液や水分散体としては、アニオン系またはノニオン系の抗ウイルス剤を、公知の方法で水性媒体に溶解または分散させたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、大和化学工業(株)製、(株)J-ケミカル製、日本エクスラン工業(株)製、住化エンバイロメンタルサイエンス(株)製、富士ケミカル(株)製、日華化学(株)製の市販品が挙げられる。
【0068】
<成分(d)>
前記成分(d)は特に制限されず、従来公知の合成ワックスを用いることができるが、炭化水素系ワックスが好ましい。
ここで成分(d)における「ワックス」とは、例えば、常温で固体または半固体であり、アルキル基を有する有機物であり、常温から150℃付近までの温度範囲で融解し、融解粘度の低い材料のことをいう。
本組成物に用いる成分(d)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0069】
成分(d)としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスが挙げられる。これらのワックス類は、概ね炭素数20以上の物質である。
【0070】
ワックス(d)は、耐キズ性により優れる被膜を容易に形成できる等の点から、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスおよびその酸化物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、得られる被膜の耐キズ性、および、本組成物中のワックス(d)の分散性の点からは、酸化パラフィンワックスおよび酸化ポリエチレンワックスから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、酸化パラフィンワックスを含むことがさらに好ましい。
【0071】
成分(d)の平均粒子径は、本組成物の用途に応じて形成される被膜の膜厚にもよるが、耐キズ性により優れる被膜を容易に形成できる等の点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~20μm、特に好ましくは3~15μmである。
なお、成分(d)の平均粒子径は、本組成物を調製する際の原料である成分(d)の平均粒子径が前記範囲にあればよい。
【0072】
成分(d)の形状は、平均粒子径が前記範囲にあれば特に制限されない。成分(d)は、一般には、球状であり、真球状であることが好ましいが、その真球度等については特に制限されない。
【0073】
成分(d)の含有量は、耐キズ性と、基材に対する付着性、防虫性、抗菌性および抗ウイルス性とにバランスよく優れる被膜を容易に形成することができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~7.5質量%、特に好ましくは2~5質量%である。
【0074】
本組成物の原料として用いる成分(d)[本組成物を調製する際に用いる成分(d)]としては特に制限されず、エマルションであってもよいが、粉状またはディスパージョンであることが好ましい。
前記ディスパージョン中の固形分の含有量は、該ディスパージョンの安定性等の点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
前記ディスパージョンは、水性媒体に前記ワックスが分散された分散体である。該水性媒体中の水の含有量や水以外の媒体の具体例は、成分(a)の欄で記載した通りである。
【0075】
成分(d)としては、従来公知の方法で製造した合成ワックスを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、Micro Powder社製、ビックケミー社製、CLARIANT社製、SHAMROCK社製の市販品が挙げられる。
【0076】
<その他の成分>
本組成物は、必要に応じて、前述した成分以外のその他の成分を含有してもよい。
該その他の成分としては、本発明の分野等で通常用いられてきた従来公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で用いることができ、例えば、変色防止剤(e)、造膜助剤、表面調整剤(レベリング剤)、成分(b)以外の防虫剤、水、有機溶剤、消泡剤、分散剤、pH調整剤、増粘剤、重合禁止剤、艶消し剤、沈降防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、植物系、動物系、鉱物系等の天然ワックスが挙げられる。
前記その他の成分はそれぞれ、1種単独で用いてもよく、また、2種以上を用いてもよい。
【0077】
前記その他の成分として、例えば、被膜表面の硬度を向上させる目的で、成分(c)以外の無機粉末を使用してもよい。該無機粉末としては、コロイダルシリカ等のシリカゾルが通常使用されている。本組成物でも、前記他の成分として、成分(c)以外の無機粉末を用いてもよいが、本組成物では、成分(c)以外の無機粉末を用いなくても所望の耐キズ性を有する被膜を容易に形成できる。
本組成物が成分(c)以外の無機粉末を含有する場合、該無機粉末の含有量は、前記樹脂(a)の固形分100質量部に対し、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0078】
また、本組成物は、アルカリ可溶樹脂を含まないことが好ましい。このようなアルカリ可溶樹脂を含まない組成物は、塗料組成物であり、通常、アルカリ可溶樹脂を含む、床用ワックスなどの樹脂ワックスやフロアポリッシュとは異なる組成物である。
【0079】
[成分(e)]
本組成物は、塗装される基材(用途)にもよるが、成分(e)を用いることが好ましい。特に、前記成分(c)として銀を含む化合物を用いる場合には、得られる被膜が変色しやすいため、成分(e)を用いることが好ましい。
【0080】
成分(e)としては特に制限されず、従来公知の変色防止剤を用いることができるが、窒素原子を有する変色防止剤が好ましい。
該窒素原子を有する変色防止剤としては、例えば、ピロール環、ピラゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のいずれかを有する複素環式化合物、チオウレア類、チアジアゾール類が挙げられる。これらの変色防止剤の具体例としては、特開2019-14688号公報に記載の変色防止剤が挙げられる。
また、トリアゾール環を有する複素環式化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾールナトリウム、1,2,3-ベンゾトリアゾールカリウム、4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール化合物またはそのアルカリ金属塩も挙げられる。
【0081】
本組成物が成分(e)を含有する場合、該成分(e)の含有量は、本発明の前記効果を損なうことなく、得られる被膜の変色を抑制できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1~4質量%、より好ましくは0.2~2質量%である。
【0082】
成分(e)としては、従来公知の方法で製造した変色防止剤を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、住化エンバイロメンタルサイエンス(株)製、大和化成(株)製、(株)ASAHI製の市販品が挙げられる。
【0083】
[造膜助剤]
本組成物は、水を含有することに起因し、冬季に組成物が凍結することがあるため、また、低温下における造膜性や得られる被膜の仕上がり外観を向上させる等の点から、造膜助剤を含むことが好ましい。
【0084】
前記造膜助剤としては、水系塗料組成物に通常使用されるものを用いることができ、例えば、炭素数5~10の直鎖状または分岐状の脂肪族アルコール類;芳香環を有するアルコール類;(ポリ)エチレングリコールまたは(ポリ)プロピレングリコール等のモノエーテル類;(ポリ)エチレングリコールエーテルエステル類;(ポリ)プロピレングリコールエーテルエステル類;が挙げられる。
【0085】
本組成物が造膜助剤を含有する場合、該造膜助剤の含有量は、低温下における造膜性や外観に優れる被膜を容易に形成できる等の点から、本組成物100質量%に対し、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.3~5質量%である。
【0086】
造膜助剤としては、従来公知の方法で製造した造膜助剤を用いてもよいし、従来公知の市販品を用いてもよい。
【0087】
[表面調整剤]
本組成物には、該組成物を塗装した際の被膜のハジキを改善して、基材面への濡れ性を向上させ、膜厚の均一な被膜を容易に形成できる等の点から、表面調整剤を含むことが好ましい。
該表面調整剤としては特に制限されないが、例えば、フッ素系、アクリル系、シリコーン系等の各種表面調整剤(レベリング剤)が挙げられる。
本組成物が表面調整剤を含有する場合、該表面調整剤の含有量は、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.005~1.5質量%、より好ましくは0.01~1.0質量%である。
表面調整剤としては、従来公知の方法で製造した表面調整剤を用いてもよいし、従来公知の市販品を用いてもよい。
【0088】
[成分(b)以外の防虫剤]
成分(b)以外の防虫剤としては特に制限されず、従来公知の防虫剤を用いることができる。
成分(b)以外の防虫剤としては、例えば、ケイ皮酸およびその誘導体などのフェニルプロパノイド化合物、環式セスキテルペン化合物、天然精油が挙げられ、これらの具体例としては、特開2017-114770号公報に記載の化合物が挙げられる。これらの中でも、ケイ皮酸およびその誘導体が好ましい。
成分(b)以外の防虫剤としては、その効果の持続性を高める等の点から、保存料の添加、ゲル化、サイクロデキストリンなどによる包接、マイクロカプセル化などをしたものであってもよい。
【0089】
本組成物が成分(b)以外の防虫剤を含有する場合、該成分(b)以外の防虫剤の含有量は、本発明の前記効果を損なうことなく、よりダニ忌避性などの防虫性に優れる被膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.4~15質量%、より好ましくは0.8~10質量%である。
【0090】
成分(b)以外の防虫剤としては、従来公知の方法で製造した成分(b)以外の防虫剤を用いてもよいし、従来公知の市販品を用いてもよい。該市販品としては、例えば、大和化学工業(株)製、三木理研工業(株)製、クミアイ化学工業(株)製の市販品が挙げられる。
【0091】
[水]
前記成分(a)~(c)の原料としては、水分散体や水溶液を用いることが好ましく、この場合、得られる組成物には、水が含まれるが、本組成物の調製をより容易にし、貯蔵安定性および塗装作業性により優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、本組成物は、前記成分(a)~(d)の原料に含まれ得る水の他に、さらに水を配合することが好ましい。
該水としては特に制限されず、水道水等を用いてもよいが、純水や、イオン交換水等を用いることが好ましい。
該水の使用量としては、本組成物中の水の含有量が前記範囲となるように用いることが好ましい。
【0092】
<本組成物>
本組成物は、前記各成分を公知の手段で混合することで調製することができる。
【0093】
本組成物は、水性アフターコート塗料として好適に使用することができる。また、本組成物は、水性アフターコート塗料として、定期的に基材をメンテナンスすることで、前記効果を常に基材に対し付与することができる。
【0094】
本組成物の用途は特に限定されないが、住宅や、不特定多数が出入りする箇所に好適に用いることができる。
本組成物は、水系塗料組成物であるため、刷毛などにより基材(被塗物)に容易かつ安全に塗装することができ、基材に対して付着すれば、基材は特に限定されない。
本組成物は、具体的には、住宅、公共施設(病院などの医療施設、老健施設、幼稚園などの幼児施設、学校などの教育施設、公園、役所、駅、空港等を含む)、公共交通機関、オフィスビル、百貨店、娯楽施設、医薬品、食品などの各種製造施設、飲食施設、畜産施設等において使用される様々な製品、設備等に用いることができる。具体的には、例えば、床材(塩ビシートフロア等を含む)、造作材、壁材、天井材等の内装材;アルミサッシ、網戸、ベランダなどの柵;アウトドア用品(テント生地、金属部材、プラスチック部材等を含む);各種タイル;ドアノブ、ドアハンドル、レバー、水道栓、手すり、つり革、エレベータのボタン、照明ボタンなどの各種ボタン、便器、トイレットペーパーホルダーなどのトイレ部材、浴槽、浴室面等の浴室部材、キッチン・洗面所部材、ベンチ、イス、遊具等の手が触れる部材;が挙げられる。
【0095】
≪被膜、被膜付基材≫
本発明に係る被膜は、前記本組成物から形成された膜であり、具体的には、本組成物を乾燥させる工程(乾燥工程)を含むことで製造することができる。
また、該被膜は、通常、基材上に形成され、つまり、基材と該被膜とを含む被膜付基材として形成される。具体的には、基材の少なくとも一部に本組成物を塗装する塗装工程と、塗装された本組成物を乾燥させる乾燥工程とを含むことで被膜付基材を製造することができる。
なお、前記工程以外に、必要に応じて、被膜付基材を製造する際に公知の工程を行っても構わない。
【0096】
前記被膜の(乾燥)膜厚は、所望の機能を発揮できる程度の厚みであれば特に制限されないが、汚れや傷等から基材を容易に保護することができる等の点から、通常1~20μm、好ましくは5~10μmである。また、(乾燥)膜厚がこの範囲にあると、耐キズ性、防虫性、抗菌性および抗ウイルス性に優れる被膜付基材を容易に形成することができる。
なお、このような(乾燥)膜厚の被膜を形成する際は、1回の塗装で所望の厚みの被膜を形成することが好ましい。
【0097】
前記基材としては特に制限されず、前記被膜を形成したい被塗物であればよく、例えば、木材(木質基材)、プラスチック、紙、金属、ガラス、セラミックス、コンクリート、レンガ、陶器が挙げられる。
プラスチックとしては、例えば、各種プラスチック基材(例:トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルサルホン、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリルニトリル等から形成されるフィルムや成形体)が挙げられる。
【0098】
前記基材としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、木質基材が好ましく、木質フローリングがより好ましい。
該木質基材は、突き板貼りや紙貼り、シート貼り基材であってもよく、無垢材であってもよい。
また、基材は、必要に応じて従来公知の目止処理、着色処理等を予め表面に施した基材、従来公知の下塗り塗料、さらには中塗り塗料、上塗り塗料等を塗布した基材であってもよい。
なお、当該下塗り塗料および当該中塗り塗料、当該上塗り塗料は、従来公知の塗料を用いることができ、一般に塗料を塗布する際に適用されている手段により塗布することができる。
【0099】
前記塗装工程における塗装(コーティング)方法としては、用いる本組成物の組成および基材の種類等に応じて適時選択すればよいが、例えば、刷毛塗り、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法が挙げられる。
【0100】
基材に対する本組成物の塗装量は特に制限されないが、汚れや傷等から基材を容易に保護することができる等の点から、得られる被膜の厚みが前記範囲となるように塗装することが好ましく、具体的には、10~30g/m2が好ましい。
本組成物の塗装量がこの範囲にあると、耐キズ性、防虫性、抗菌性および抗ウイルス性に優れる被膜付基材を容易に得ることができる。
【0101】
前記乾燥工程は、常温で行ってもよく、乾燥時間を短縮させるため、5~50℃程度の加熱下で行ってもよい。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。下記実施例および比較例の組成物は、前記≪水系塗料組成物≫の欄に記載の各成分、特に、それらの中でも好ましい成分を用いて調製することができる。具体的には、前記≪水系塗料組成物≫の欄に記載の市販品を用いて調製した。
【0103】
[実施例1]
30質量部の樹脂エマルション1、30質量部の樹脂エマルション2、3質量部のピレスロイド系化合物1、6質量部の抗ウイルス剤1、1質量部の合成ワックス1、1質量部の変色防止剤、0.5質量部の造膜助剤、0.2質量部の表面調整剤、および、28.3質量部の純水を、十分に攪拌することで水系塗料組成物を調製した。
【0104】
[実施例2~4および比較例1~7]
実施例1において用いた各原材料の代わりに、表1に示す各成分を表1に示す配合量(質量部)で用いた以外は実施例1と同様にして、水系塗料組成物を調製した。
なお、表1における各成分の詳細は表2に示すとおりである。
【0105】
<試験片の作製>
市販の木質フロアー材(縦15cm×横10cm)に、刷毛にて本組成物を塗布量が20g/m2になるように塗り付け、室温(約10~20℃)で16時間以上乾燥することで、試験片を作製した。
得られた試験片を用い、以下の試験を行った。結果を表1に示す。
【0106】
<耐キズ性>
試験片の被膜面に対し、10円硬貨を45°の角度で当て、荷重400gの圧をかけながら被膜面を3cm(片道)擦った時の被膜の状態を目視により判断し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:被膜が基材から剥離せず、被膜表面に擦り痕の跡がない
△:被膜表面に擦り痕の跡が僅かに残った
×:被膜が基材から剥離し、被膜表面に大きな擦り痕の跡が残った
××:被膜がべたついており、10円硬貨で擦るとすぐに被膜が基材から剥離した
【0107】
<防虫性>
(1)ダニ忌避試験
JIS L 1920:2007の侵入阻止法に準拠し、具体的には以下の方法により、得られた試験片における被膜のダニ忌避性を評価した。
外径90mm、高さ20mmのシャーレ内に、生存ダニ(ヤケヒョウヒダニ)約3000匹を含む培地を均一に広げ、該シャーレの中心部に、約50mm×50mmのプラスチック板を置き、その上に試験片を被膜側が上部になるように置き、該試験片の被膜の中心部の上に、ダニ誘引用粉末飼料を置いた。このシャーレを25℃、75%RHの条件下に24時間置いた後の、試験片上の生存ダニ数を計数した。
なお、対照として、前記試験片の代わりに、水系塗料組成物を塗布していない基材のみを用いた場合の、該基材上の生存ダニ数も前記と同様にして計数した。
下記式に基づいて、ダニ忌避率を算出し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、各試験片につき、3回試験を行い、下記式では、3回の試験の平均ダニ数を用いた。
ダニ忌避率(%)=(1-試験片上のダニ数/基材上のダニ数)×100
(評価基準)
◎:ダニ忌避率が80%以上
○:ダニ忌避率が50%以上80%未満
△:ダニ忌避率が5%以上50%未満
×:ダニ忌避率が5%未満
【0108】
(2)蚊のノックダウン試験
3面を前記試験片とし、残り3面を未加工メッシュとして、5cm角の立方体を作製した(但し、試験片の被膜面が立方体の内面側となるようにした)。
該立方体の中に、二酸化炭素で麻酔したヒトスジシマカの雌の成虫10匹を放ち、室温25℃、湿度65%の条件下で300分間放置した後の、立方体中の死滅した蚊の数(ノックダウン数)を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:ノックダウン数が1匹以上であった
×:ノックダウン数が0匹であった
【0109】
<抗菌性>
JIS Z 2801:2010のフィルム密着法に準拠し、具体的には以下の方法により、得られた試験片における被膜の抗菌性を評価した。
NA培地で培養した供試菌(Escherichia coli NBRC 3972(大腸菌)、または、Staphylococcus aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌))を、菌数が2.5~10×105/mlになるように滅菌精製水で調整した液に、NB培地を適当な濃度となるように添加することで、試験菌液を得た。
5cm角の試験片を被膜側が上部になるようシャーレに入れ、該試験片の被膜面に試験菌液0.4mlを接種後に、該試験片を4cm角のポリエチレン製フィルムで被覆し、試験菌液がポリエチレン製フィルム全体にいきわたるように軽く押さえつけた後、35℃、湿度95%の条件下で24時間放置した。24時間後のシャーレに、SCDLP培地を10ml入れて、試験片の被膜に付着している菌を洗い出した。洗い出した液1ml中の生菌数をSA培地により測定した。
なお、空のシャーレに試験菌液0.4mlを接種した以外は、同様にして、対照試験を行い、生菌数を測定した。
下記式に基づいて、抗菌活性値を算出し、以下の評価基準に基づいて評価した。
抗菌活性値=対照試験における生菌数の常用対数値-試験片を用いた試験における生菌数の常用対数値
(評価基準)
○:抗菌活性値が2.0以上
△:抗菌活性値が0.5以上2.0未満
×:抗菌活性値が0.5未満
【0110】
<抗ウイルス性>
ISO 21702に準拠し、具体的には以下の方法により、得られた試験片における被膜の抗ウイルス性を評価した。
下記宿主細胞にウイルスを感染させて培養し、所定濃度のウイルス懸濁液を調製した。5cm角の試験片を被膜側が上部になるようシャーレに入れ、該試験片の被膜面にウイルス懸濁液0.4mlを接種後に、該試験片を4cm角のポリエチレン製フィルムで被覆し、ウイルス懸濁液がポリエチレン製フィルム全体にいきわたるように軽く押さえつけた後、25℃の恒温恒湿室で24時間保管した。24時間後のシャーレに、洗い出し液(Fetal Bovine Serumを終濃度が10%になるように添加したSCDLP培地10ml)を入れて、試験片の被膜に付着しているウイルスを洗い出し、洗い出した液を下記希釈培地により段階希釈したウイルス液を得た。
(インフルエンザウイルス)
ウイルス株:A型インフルエンザウイルス(H3N2、A/Hong kong/8/68;TC adapted ATCC VR-1679)
宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)
希釈培地:EMEM
(ネコカリシウイルス[ノロウイルスの代替ウイルス])
ウイルス株:Feline calicivirus;Strain:F-9 ATCC VR-782
宿主細胞:CRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)
希釈培地:DMEM
【0111】
上皮細胞に、段階希釈したウイルス液をそれぞれ感染させて、プラーク測定法によりウイルス感染価を測定した。
なお、試験片の代わりに、5cm角のポリエチレン製フィルムを用いた以外は、同様にして、対照試験を行い、ウイルス感染価を測定した。
下記式に基づいて、抗ウイルス活性値を算出し、以下の評価基準に基づいて評価した。
抗ウイルス活性値=対照試験におけるウイルス感染価-試験片を用いた試験におけるウイルス感染価
(評価基準)
◎:インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値がいずれも2.0以上
○:インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値の一方が2.0以上
○△:インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値がいずれも0.5以上2.0未満
△:インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値の一方が0.5以上2.0未満であり、インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値の一方が0.5未満
×:インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスにおける抗ウイルス活性値がいずれも0.5未満
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
なお、実施例で得られた試験片の被膜面に対し、JIS A 1454:2016に基づいて、耐キャスター性試験(1000往復)を行った後に、前記と同様に防虫試験を行っても、防虫効果の低下がないことを確認した。