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特開2022-12894生体材料の製造方法、足場の処理方法、処理液及び水性溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012894
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】生体材料の製造方法、足場の処理方法、処理液及び水性溶液
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20220107BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220107BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220107BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20220107BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20220107BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20220107BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61L27/36 130
A61L27/36 400
A61L27/38
A61L27/16
A61L27/14
A61L27/36 320
A61L27/24
A61L27/26
A61L27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115054
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
(72)【発明者】
【氏名】八木 洋
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃平
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB31
4C081BA01
4C081BA12
4C081BA13
4C081CA082
4C081CA182
4C081CC02
4C081CD121
4C081CD34
4C081EA02
4C081EA06
(57)【要約】
【課題】
より生体適合性を高めた生体材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】
脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を備える、生体材料の製造方法。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を備える、生体材料の製造方法。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【請求項2】
前記足場が前記脱細胞化細胞外マトリックスに生着した細胞を含む、請求項1に記載の生体材料の製造方法。
【請求項3】
処理された足場を再細胞化する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の生体材料の製造方法。
【請求項4】
前記脱細胞化細胞外マトリックスが臓器又は血管に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載の生体材料の製造方法。
【請求項5】
前記脱細胞化細胞外マトリックスが肝臓又は肝臓の一部に由来する、請求項1~4のいずれか一項に記載の生体材料の製造方法。
【請求項6】
前記水酸基含有重合体が、式(I)で表される基及びエチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の生体材料の製造方法。
【請求項7】
前記水酸基含有重合体を含む溶液により処理を行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の生体材料の製造方法。
【請求項8】
前記脱細胞化細胞外マトリックスが血管に由来する部分を有し、前記溶液を前記血管に由来する部分の内腔内に注入する、又は前記溶液を前記血管に由来する部分の内腔内で循環させることにより処理を行う、請求項7に記載の生体材料の製造方法。
【請求項9】
足場を処理する方法であって、
脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を含む、方法。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【請求項10】
脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を処理するための処理液であって、
下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体を含む、処理液。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【請求項11】
下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体と、緩衝剤とを含む、水性溶液。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料の製造方法、足場の処理方法、処理液及び水性溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体材料として、脱細胞化された動物の組織由来の細胞外マトリックス、すなわち、脱細胞化細胞外マトリックスが注目されている。脱細胞化細胞外マトリックスは、生体由来の材料であるため、生体内での拒絶反応が少なく、例えば、癒着防止材、各種臓器又は血管の移植材等としての研究及び製品化が進められている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-536738号公報
【特許文献2】特開2016-144470号公報
【特許文献3】国際公開第2018/186502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、脱細胞化細胞外マトリックスを用いた生体材料には、例えば、脱細胞化細胞外マトリックスを足場として、内皮細胞及び線維芽細胞を培養して得られた材料を、生体に移植する際に血液灌流を行うと血栓を生じ、血管が閉塞するなど、生体適合性に未だ改善の余地があることが分かった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より生体適合性を高めた生体材料の製造方法、又はより生体適合性を高めるための足場の処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、生体材料の生体適合性をより高めることができる処理液、又は水性溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体材料の製造方法は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を備える。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【0007】
上記足場が上記脱細胞化細胞外マトリックスに生着した細胞を含むと好ましい。
【0008】
本発明の生体材料の製造方法は、処理された足場を再細胞化する工程を更に含むと好ましい。
【0009】
上記脱細胞化細胞外マトリックスが臓器又は血管に由来すると好ましい。
【0010】
上記脱細胞化細胞外マトリックスが肝臓又は肝臓の一部に由来すると好ましい。
【0011】
上記水酸基含有重合体が、式(I)で表される基及びエチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位を含むと好ましい。
【0012】
本発明の生体材料の製造方法では、上記水酸基含有重合体を含む溶液により処理を行うと好ましい。
【0013】
本発明の生体材料の製造方法では、上記脱細胞化細胞外マトリックスが血管に由来する部分を有し、上記溶液を上記血管に由来する部分の内腔内に注入する、又は上記溶液を上記血管に由来する部分の内腔内で循環させることにより処理を行うと好ましい。
【0014】
本発明の足場を処理する方法は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を含む。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【0015】
本発明の処理液は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を処理するための処理液であって、下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体を含むものである。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【0016】
本発明の水性溶液は、下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体と、緩衝剤とを含む。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より生体適合性を高めた生体材料の製造方法、又はより生体適合性を高めるための足場の処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、生体材料の生体適合性をより高めることができる処理液、又は水性溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の生体材料の製造方法は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む足場を下記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体により処理する工程を備える。本実施形態の生体材料の製造方法は、生体外(つまり、ex vivo又はin vitro)で行われるものである。
*-O-Z・・・(I)
(式(I)中、Zは、炭素数3~8個の一価の炭化水素基の水素原子の2つ以上を水酸基で置換した一価の基であり、*は、当該一価の基の結合位置を表す。)
このような製造方法によれば、より生体適合性に優れる生体材料を提供することができ、特に抗血栓性に優れる生体材料を提供することができる傾向にある。
【0019】
なお、以下では、脱細胞化細胞外マトリックスを脱細胞化ECMと呼ぶこともあり、上記式(I)で表される基を有する水酸基含有重合体を水酸基含有重合体(I)と呼ぶこともある。
【0020】
<脱細胞化ECM>
本実施形態の足場は、細胞を生着させ、培養するための材料であり、脱細胞化細胞外マトリックスを含む。脱細胞化ECMは、生体由来の組織又は器官から生細胞を除去(つまり、脱細胞化)した後に残る細胞外マトリックスである。動物としては、哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、サル、チンパンジー等が挙げられ、これらは免疫不全動物であってもよい。
【0021】
脱細胞化ECMは、動物の器官又は組織に由来するものであってよく、具体的には、動物の臓器、血管、又は皮膚(若しくは真皮)に由来するものであってよい。臓器としては、心臓、腸、気管、肺、肝臓、腎臓、胃、膵臓、食道等が挙げられる。脱細胞化ECMは、これらの臓器の一部に由来するものであってもよく、全体に由来するものであってもよい。
【0022】
血管としては、静脈、動脈、門脈、毛細血管等が挙げられる。
【0023】
脱細胞化ECMを作製する方法としては特に限定されず、使用する器官又は組織、動物種等に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、高圧、凍結、エレクトロポレーション、浸透圧変化等の機械的刺激による細胞膜破壊、脱細胞化溶液による洗浄及び細胞破壊などが挙げられる。これらの方法は、単独で用いてもよく、併用してもよい。併用する場合は、例えば、動物の器官又は組織を凍結し、その後解凍することにより、器官又は組織に含まれる細胞の細胞膜を破壊し、当該器官又は組織に脱細胞化溶液を灌流して細胞を更に破壊するとともに洗い流す方法が挙げられる。
【0024】
器官又は組織を凍結する温度は、例えば、-10℃以下、-20℃以下、-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、又は-100℃以下であってよい。また、器官又は組織を凍結する温度は、例えば、-150℃~-10℃、-130℃~-15℃、-100℃~-20℃であってよい。凍結した器官又は組織を解凍する温度は、例えば、4℃~50℃、4℃~45℃、4℃~40℃であってもよい。
【0025】
脱細胞化溶液としては、界面活性剤、酸性化合物、アルカリ性化合物、酵素、キレート剤、若しくはアルコールを水、生理食塩水等に溶解させた水溶液などを挙げることができる。界面活性剤としては、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれを使用してもよく、これらを併用してもよい。イオン性界面活性剤としては、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、デオキシコール酸塩、コール酸塩、サルコシル、トリトン(登録商標)X-200等のアニオン性界面活性剤、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)等の双性イオン性界面活性剤などが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、トリトン(登録商標)X-100、n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)、ジギトニン、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)80等が挙げられる。灌流後、得られた脱細胞化ECMを水又は生理食塩水で洗浄して脱細胞化溶液を洗い流してもよい。酵素としては、DNase、RNase等の核酸分解酵素、トリプシン、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素、α-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
【0026】
脱細胞化ECMは、タンパク質架橋処理されたものであってよい。脱細胞化ECMがタンパク質架橋処理されていると、脱細胞化ECMの機械的強度が向上するため好ましい。タンパク質架橋処理としては、2つ以上のタンパク質分子と結合することによりタンパク質分子同士を架橋する外部架橋剤による処理であってよい。また、タンパク質架橋処理は、タンパク質分子同士を反応させて、タンパク質分子に含まれるアミノ酸残基間にジスルフィド結合等の結合形成して直接架橋するものであってもよい。
【0027】
足場は、脱細胞化ECMに生着した細胞を含んでいてもよい。すなわち、足場に含まれる脱細胞化ECMは、上記水酸基含有重合体(I)で処理される前に予め再細胞化されたものであってもよい。脱細胞化ECMに生着させる細胞としては、内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、実質細胞等が挙げられる。特に、脱細胞化ECMが肝臓又は肝臓の一部に由来する場合、血管内皮細胞、胆管上皮細胞、肝実質細胞、肝前駆細胞、クッパー細胞、類同内皮細胞、星細胞等の肝組織を形成する細胞が挙げられる。
再細胞化の方法としては、特に限定されず、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、γ線滅菌処理した脱細胞化ECMを閉鎖式チャンバーへ封入し、循環回路と静脈及び門脈を接続する。細胞培養液を循環しながら特定の順序、注入速度及び注入圧に従い各種細胞(肝実質細胞、血管内皮細胞など)を脈管から脱細胞化ECMへ充填する。数日間の循環培養を経て各種細胞は秩序だった3次元構造をとって脱細胞化ECMへ生着し再細胞化がなされる。
【0028】
本実施形態の足場は、脱細胞化ECM以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、ハイドロゲルが挙げられる。足場がハイドロゲルを含む場合、足場の機械的安定性が高まるため、生体内に移植した後であってもその形状を維持しやすい。
【0029】
ハイドロゲルは、水と高分子を含むゲルである。当該高分子は、生体適合性の高分子であれば制限はなく、架橋されたものであっても未架橋のものであってもよい。具体的には、高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はその塩、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の親水性高分子、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース等の多糖類、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、マトリゲル(登録商標)等のタンパク質、プロテオグリカン等の糖タンパク質などが挙げられる。ハイドロゲルは、注射器等により、脱細胞化ECMの所望の位置に配置することができる。
【0030】
本実施形態の脱細胞化ECMは、滅菌されていてもよい。滅菌方法としては、公知の方法であってよく、例えば、抗生物質(ペニシリン、アンピシリン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アムテホリシンB等)による滅菌、オートクレーブ滅菌、UV照射滅菌、ガンマ線照射滅菌、オゾン滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
<水酸基含有重合体(I)>
本実施形態の水酸基含有重合体(I)は、上記式(I)で表される基を有するものである。式(I)において、Zの炭素数は、3~6個であると好ましく、3~5個であるとより好ましい。また、Zが有する水酸基の数は、2又は3個であると好ましく、2個であるとより好ましい。
【0032】
水酸基含有重合体(I)は、上記式(I)で表される基を有する重合体であれば特に限定されない。水酸基含有重合体(I)は、ポリエステル化合物、ポリエーテル化合物、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド化合物、ポリアミド酸化合物、ポリビニル化合物及びこれらの組み合わせであってよい。また、水酸基含有重合体(I)は、ホモポリマーであってもよく、共重合体であってもよい。式(I)で表される基は、水酸基含有重合体(I)の末端に結合していてもよく、末端以外の部分に結合していてもよい。水酸基含有重合体(I)が主鎖とグラフト鎖を有する場合、式(I)で表される基は、主鎖に結合していても、グラフト鎖に結合していてもよい。また、ゼラチン、ヒアルロン酸、アルギン酸等の天然高分子に式(I)で表される基を導入したものも水酸基含有重合体(I)として使用できる。
【0033】
水酸基含有重合体(I)は、25℃における水100mlに対する溶解度が、5g以上であると好ましく、10g以上であると好ましい。25℃における水酸基含有重合体(I)の水に対する溶解度の上限は、特になく、任意の割合で水と混合できるものであってもよい。
【0034】
水酸基含有重合体(I)は、式(I)で表される基を0.0001mol/g以上含むと好ましく、0.001mol/g以上含むとより好ましく、0.0025mol/g以上含むと更に好ましく、0.005mol/g以上含むとさらになお好ましい。なお、単位mol/gは、水酸基含有重合体(I)1g当たりの式(I)で表される基のモル数である。
【0035】
水酸基含有重合体(I)は、式(I)で表される基及びエチレン性不飽和基を有する単量体(以下、単量体(I)とも呼ぶ)に由来する構造単位を含むと好ましい。なお、「単量体(I)に由来する構造単位」とは、単量体(I)を重合することによって得られる構造単位だけでなく、単量体(I)を重合する以外の方法で得られた構造単位であっても、当該構造単位が単量体(I)を重合することによって得られる構造単位と同じ構造であれば、「単量体(I)に由来する構造単位」に含まれる。例えば、単量体(I)のZ基における水酸基が保護基により保護されており、単量体(I)を重合した後に脱保護した場合に得られる構造単位は、単量体(I)を重合した場合と同じ構造単位が得られるため、「単量体(I)に由来する構造単位」に含まれる。また、単量体(I)のZ基が複数の水酸基を有している場合、それらの水酸基のうち二つが分子内脱水により環状エーテル構造を形成している単量体を重合した後で、当該環状エーテル構造を酸等により加水分解して水酸基に戻し得られる構造単位は、単量体(I)を重合した場合と同じ構造であるため、「単量体(I)に由来する構造単位」に含まれる。
【0036】
単量体(I)は、以下の式(IA)で表される化合物であると好ましい。
【0037】
【化1】

(式(IA)において、Zは、式(I)のZと同じ意味であり、Rは、水素原子又はメチル基を表す。)
【0038】
Zは、以下の式(II)で表される基であると好ましい。
【化2】

(式(II)において、Rは-CH(OH)CHOH又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、*は式(II)で表される基の結合位置を表す。)
【0039】
単量体(I)としては、グリセロールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0040】
なお、単量体(I)に由来する構造単位としては、以下の単量体(IB)のように、(共)重合した後に酸処理して水酸基を生じさせることができる単量体に由来する構造単位も含まれる。
【0041】
【化3】

(式(IB)中、R11は、水素原子又はメチル基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)
【0042】
単量体(IB)を重合した後で酸処理を行うと、ジオキソラン環が加水分解され、構造単位内に水酸基が2つ生じる。
【0043】
水酸基含有重合体(I)は、単量体(I)と他の単量体との共重合体であってもよい。他の単量体としては、エチレン性不飽和基と、アルキレングリコール基又はポリアルキレングリコール基を有する化合物が挙げられる。
また、他の単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド類(例えばN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド)、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジノン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の中性親水性単量体、(メタ)アクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、フマル酸又はその塩、イタコン酸又はその塩、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸又はその塩、ビニルホスホン酸又はその塩、ビニル安息香酸又はその塩等のアニオン性親水性単量体、3-アミノプロピル(メタ)アクリルアミド(APMA)、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム(MAPTAC)、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のカチオン性親水性単量体も挙げることができる。
他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン等の疎水性単量体、グリシジル(メタ)アクリレート、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルオキサゾリン、無水マレイン酸等の反応性基含有単量体なども挙げることができる。
他の単量体は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
なお、水酸基含有重合体(I)における、カルボキシ基及びエチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位の含有量は、水酸基含有重合体(I)の総量に対して1質量%未満であってよく、0.8質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよい。なお、カルボキシ基及びエチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位は、当該単量体を重合して得られた構造単位であってもよいが、同じ化学構造を有するのであれば、当該単量体を重合する以外の方法で得られた構造単位(例えば、対応するエステル化合物を重合した後、エステル基を加水分解し、カルボキシ基とした構造単位等)であってもよい。
【0044】
エチレン性不飽和基と、アルキレングリコール基又はポリアルキレングリコール基を有する化合物としては、以下の式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化4】
【0046】
上記式(III)中、Aは水素原子又は炭素数1~20の有機基を表し、Xは-C(=O)-、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-又は単結合を表し、Qは炭素数2~20のアルキレン基を表し、nはアルキレンオキシド基の繰り返し単位であって1~200の数を表し、Aは水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~20の有機基を表す。
【0047】
上記A、及びAは、それぞれ、水素原子もしくは炭素数1~12の有機基であることが好ましく、水素原子もしくは炭素数1~8の有機基であることがより好ましく、水素原子若しくは炭素数1~4の有機基であると好ましい。当該有機基が、置換基を有する場合には、置換基を含めた炭素数が上記の範囲であることがより好ましい。上記A、及びAは、それぞれ、水素原子もしくはメチル基であることがよりさらに好ましい。
【0048】
上記Qは、炭素数2~5のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基であることがより好ましい。なお、Qは、1種類のアルキレン基のみを含んでいてもよいが、2種以上のアルキレン基を含んでいてもよい。Qがエチレン基を含む場合、ポリアルキレングリコール基における全アルキレングリコール単位に対して50~100モル%がエチレン基であることが好ましく、80~100モル%がエチレン基であることがより好ましく、90~100モル%がエチレン基であることが好ましい。
【0049】
mは、式(III)で表される化合物全体についての平均付加モル数であってよい。mは、1~100であると好ましく、5~80であるとより好ましく、10~60であると更に好ましい。
Xが-C(=O)-で表される場合は、(メタ)アクリル酸への炭素原子数1~100のアルキレンオキシド付加物:メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の炭素原子数1~30のアルキルアルコール類に炭素原子数1~100のアルキレンオキシドを付加することによって得られるアルコキシポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸とのエステル化物;等が挙げられる。
Xが-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-で表される場合は、アリルアルコール、メタリルアルコール、2-ブテン-1-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、ビニルアルコール等の不飽和アルコールにアルキレンオキシドを1~100モル付加した構造の化合物を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、式(III)で表される化合物としては、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート等のポリアルキレンオキサイド鎖含有(メタ)アクリル酸エステル、メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル等も挙げられる。
【0050】
水酸基含有重合体(I)における単量体(I)由来する構造単位の含有量は、1~100質量%であってよく、5~100質量%であってよい。水酸基含有重合体(I)がエチレン性不飽和基と、アルキレングリコール基又はポリアルキレングリコール基を有する化合物に由来する構造単位を含む場合、当該構造単位の含有量は、水酸基含有重合体(I)の総量に対して30~95質量%であってよい。
【0051】
水酸基含有重合体(I)の製造方法としては、例えば、水酸基含有重合体(I)が単量体(I)に由来する構造単位を有する場合、単量体(I)と、任意成分として単量体(I)と共重合するための他の単量体を含む単量体組成物を重合する方法が挙げられる。
【0052】
単量体組成物を重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。
【0053】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤(特に熱重合開始剤)が好ましく、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、オルトクロロベンゾイルパーオキシド、オルトメトキシベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(商品名:パーヘキシルO(登録商標))、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(商品名:パーヘキサHC(登録商標))、クメンヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3-ジメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3,3-トリメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-イソプロピルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物系重合開始剤;が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用いてもよい。
【0054】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、重合体(A)の原料モノマー100質量部あたり、好ましくは0.001~20質量部、より好ましくは0.01~10質量部である。
【0055】
重合開始剤は、単量体組成物に一括添加してから反応を行ってもよいが、反応中に2回以上に分けて添加してもよい(分割添加)。分割添加の場合、単量体組成物に一部を添加して反応を開始した後、反応中の残りの単量体組成物に重合開始剤を断続的に添加してよい。
【0056】
単量体組成物は、溶媒を含んでいてもよい。つまり、単量体組成物は、溶媒の存在下で、重合してもよい。溶媒としては、特に限定されず、水及び有機溶媒が挙げられるが、水が好ましい。単量体が溶媒を含む場合、単量体組成物における単量体の含有量は(単量体(I)の含有量、又はその他の単量体を使用する場合は、単量体(I)とその他の単量体の合計量)、0.1~50質量%であってよく、0.5~30質量%であってよく、1~10質量%であってよい。この場合、水酸基含有重合体(I)は、水酸基含有重合体(I)の溶液として得られる。
【0057】
水酸基含有重合体(I)の重量平均分子量は、特に限定されないが、水溶性をより高める観点から、5000~2000000であってよい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0058】
<生体材料の製造方法及び足場の処理方法>
本実施形態の生体材料の製造方法では、脱細胞化ECMを含む足場を上記水酸基含有重合体(I)によって処理する。足場を処理する方法としては、例えば、足場の表面に水酸基含有重合体(I)を接触させることが挙げられる。
【0059】
水酸基含有重合体(I)は、水酸基含有重合体(I)溶媒に溶解させた溶液(処理液)の状態で足場と接触させてもよい。当該溶液における溶媒は、水又は水及び親水性溶媒との混合溶媒であると好ましい。つまり、溶液は、水性溶液であってよい。水性溶液における溶媒のうち、水が占める割合は、80質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましく、95質量%以上であると更に好ましい。
【0060】
本実施形態の水性溶液のpHは、脱細胞化ECMが由来する器官又は組織の種類に応じて適宜選択することができるが、6.5~8.0であることが好ましく、7.0~7.5であるとより好ましい。本実施形態の水性溶液は、生理食塩水に水酸基含有重合体(I)を溶解させたものであってもよい。
【0061】
水性溶液における水酸基含有重合体(I)は、0.01~50質量%であってよく、0.05~30質量%であってよく、0.05~10質量%であってよい。水性溶液における溶媒の含有量は、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。
【0062】
水性溶液は、緩衝剤を含む。緩衝剤としては、特に制限はないが、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、リン酸緩衝剤(特に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムの組合せ)が好ましい。
【0063】
水性溶液における緩衝剤の含有量は、脱細胞化ECMの原料となる臓器又は器官の種類、動物種等に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、水性溶液の総量を基準として、該緩衝剤の総含有量として、0.01~15w/v%、好ましくは0.05~10w/v%、更に好ましくは0.1~7.5w/v%、特に好ましくは0.5~5w/v%である。
【0064】
上記処理液を使用して足場を処理する場合、例えば、足場を処理液に浸漬する、又は足場の所望の位置に処理液を接触させてよい。所望の位置としては、移植時に血液灌流させる際、又は移植後に血液と接触する部分が挙げられ、例えば、脱細胞化ECMの血管(動脈、静脈、門脈、毛細血管等)に由来する部分等が挙げられる。脱細胞化ECMが血管に由来する部分を有する場合、具体的な処理液の接触方法としては、処理液を血管に由来する部分の内腔内に注射器等で注入する、又は溶液を血管に由来する部分の内腔内で循環させることにより処理を行うことが挙げられる。循環は、処理液をポンプ等で移送することにより行ってよい。脱細胞化ECMの血管に由来する部分は、水酸基含有重合体(I)により処理する前に内皮細胞等が生着されていてもよい。
上記処理によって足場の表面が水酸基含有重合体(I)により改質されていてよい。また、上記処理によって、表面が改質されるだけでなく、内部にも水酸基含有重合体(I)が浸透することにより、浸透した範囲が改質されていてよい。
【0065】
本実施形態の製造方法により製造された生体材料は、特に限定されず、移植材、人工臓器、バイオリアクターとして使用できる。
【実施例0066】
<合成例1>
温度計、ガス導入管、還流冷却器、及び攪拌機を備えた容量200mLのガラス製セパラブルフラスコに、グリセロールモノアクリレート(以下、GLMAと称する)10g、及び純水86gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら、97℃になるまで昇温した。次いで、アゾ系開始剤VA086(富士フィルム和光純薬社製)の0.5質量%水溶液1gを投入し、重合を開始した。重合発熱により還流状態となることで重合の開始を確認し、そのまま還流状態を維持するように加熱しつつ、重合開始から、2時間後、4時間後、及び6時間後にそれぞれ、VA086の0.5質量%水溶液1gを投入した。重合開始から8時間で反応を終了し、ポリグリセロールアクリレート(以下、PGLMAと称す)の水溶液(固形分10質量%)を得た。
【0067】
<合成例2>
温度計、ガス導入管、還流冷却器、攪拌機を備えた容量200mLのガラス製セパラブルフラスコに、純水60gを仕込み、攪拌下、80℃になるまで昇温した。次いで、攪拌下、上記純水に、グリセロールモノメタクリレート(以下、GLMMAと称す)3g、新中村化学社製メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート(以下、AM-90Gと称す)36g、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、2%NaPSと称す)20g、35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと称す)0.76g、及び純水20gを、それぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。各滴下液の滴下時間は、GLMMAを180分間及びAM-90Gを180分間、2%NaPSを210分間、35%SBSを180分間、純水を180分間とした。上記各滴下は、すべて同時に滴下を開始し、滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。すべての滴下終了後、更に30分間に亘って反応溶液を80℃に保持して熟成し、重合を完結させた。得られた反応液を純水で希釈し、固形分濃度10質量%の共重合体(GLMMAとAM-90Gの共重合体)水溶液を調製した。
【0068】
<実施例1>
ラットから摘出した肝臓にリン酸緩衝生理食塩水を灌流させ、血管内の残存血液を排出した。その後、ラット肝臓を-80℃で凍結保存し、使用時に解凍した。灌流法により、解凍後のラット肝臓由来の脱細胞化ECMを作製した。その後、脱細胞化ECMにγ線照射による滅菌処理を施した。作製したラット脱細胞化ECMへ、PGLMA10質量%水溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で100倍に希釈した溶液20mlを注入し、37℃で1時間インキュベートし、試料を作製した。ブタより血液を10ml採取し、得られた試料中の血管に由来する部分へ直ちに注入し、10分間静置した。静置後、PBS30mlを潅流し、血液を洗い流し、脱細胞化ECM内の血液の残存、及び血栓の形成を比較した。観察結果を表1にまとめる。
【0069】
<実施例2>
実施例1における「PGLMA10質量%水溶液をPBSで100倍に希釈した溶液20ml」を、「合成例2の固形分濃度10質量%の共重合体水溶液をPBSで100倍に希釈した溶液20ml」に変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。観察結果を表1にまとめる。
【0070】
<比較例1>
実施例1における「PGLMA10質量%水溶液をPBSで100倍に希釈した溶液20ml」を、「PBS 20ml」に変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。観察結果を表1にまとめる。
【0071】
<比較例2>
実施例1において、「PGLMA10質量%水溶液をPBSで100倍に希釈した溶液20ml」を「ポリビニルピロリドン(PVP)10質量%水溶液をPBSで100倍に希釈した溶液20ml」に変更した以外は実施例と同様に操作を行った。観察結果を表1にまとめる。なお、ポリビニルピロリドンは、生体適合性材料として頻繁に使用される高分子である。
【0072】
【表1】
【0073】
<実施例3>
ブタから摘出した肝臓に対して、実施例1と同様の方法を行うことによりブタ肝臓の脱細胞化ECMを作製した。作製された脱細胞化ECMにγ線滅菌処理を施し、再細胞化を実施して再細胞化された試料を作製した。作製した試料の門脈及び静脈に由来する部分にそれぞれ人工血管を接続し、ポンプで処理液を人工血管を通して移送し、試料内を循環させた。処理液は、合成例1のPGLMAの水溶液(固形分10質量%)を生理食塩水で100倍に希釈したものである。処理後の試料の門脈及び静脈をドナーブタの門脈及び静脈に側端吻合し、試料へ血液の再灌流を行った。再灌流開始から2時間経過した時点で、血管造影を行ったところ、試料内での血流が確認され、血栓はみられなかった。