(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128968
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/80 20060101AFI20220829BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20220829BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20220829BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
D01F6/80 331
D01F6/60 371Z
D02J1/22 J
D02J1/22 301C
D01D5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027463
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035BB16
4L035BB66
4L035BB85
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE20
4L035FF08
4L035GG01
4L035MG02
4L035MG05
4L036MA06
4L036MA33
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA18
4L036RA04
4L045AA02
4L045BA03
4L045DA14
4L045DA32
4L045DA34
4L045DA42
(57)【要約】
【課題】耐熱性、難燃性、機械物性などの優れた性質を持った全芳香族ポリアミド繊維において、弛緩熱処理をすることなく自己捲縮性を発現する全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【解決手段】メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合体を含む全芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液を湿式紡糸することにより全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、該重合体溶液を30重量%以上の無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固せしめ、290度以上の熱板上で熱延伸する工程を含み、全延伸倍率が10倍以上であることを特徴とする製造方法により紡糸する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維を構成する全芳香族ポリアミドが、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合体からなり、自己捲縮性を有することを特徴とする自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維が、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が70~84:16~30モル%の範囲である請求項1に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の捲縮率が1.0~10%である請求項1または2に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の捲縮数が2~15個/25mmである請求項1~3のいずれか1項に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であって、
メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合体の全芳香族ポリアミドを含むアミド系極性溶媒溶液を紡糸することにより、自己捲縮性を有することを特徴とする自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項6】
前記それぞれのアミド単位が、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が70~84:16~30モル%からなる共重合体の全芳香族ポリアミドを含む、請求項5に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項7】
前記のアミド系極性溶媒溶液を30重量%以上の無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固し、290度以上の熱板上で熱延伸する工程を含み、全延伸倍率が10倍以上とする請求項5または6に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維、およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、全芳香族ポリアミド繊維を構成するポリマーが、特定のアミド系共重合体からなる、自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミド(アラミドと称する場合がある。)は、耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、かかる全芳香族ポリアミドの繊維(アラミド繊維と称する場合がある。)は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。特にメタフェニレンイソフタルアミドから構成されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱性に加え柔軟な繊維であり、例えば防護衣等の防災安全衣料用途やフィルター、電子部品等の産業用途に用いられている。
【0003】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を紡績糸や不織布、クッション材等として使用する場合、捲縮が付与されるが、最も一般的な延伸トウの押込捲縮など機械的に捲縮を付与する方法では、専門的な装置が必要であり、また、機械的に得られる捲縮の形状は、平面的な形状であることから、嵩高さや風合い、交絡性等の品質が求められる場合は不充分な場合がある。
【0004】
一方で、嵩高さや風合い、交絡性等の品質が求められる場合は、自己捲縮性を有する繊維が有効である。自己捲縮性とは、繊維に加熱等の刺激を与えることで自発的に捲縮を発現することであり、自己捲縮により3次元的な立体捲縮を有し、上記の嵩高さや風合い、交絡性向上の観点から優れた捲縮繊維が得られ、工業的に重要である。
【0005】
例えば、ポリエステルなどの溶融紡糸により得られる繊維は、異なる性質のポリマーを使用し、サイドバイサイド型あるいは芯鞘構造にすることにより自己捲縮性を発現することは広く知られている。
しかしながら、アラミド繊維は、溶液紡糸が主流であるため、前記ポリエステルの製造方法を適用した自己捲縮性の繊維を得ることは非常に困難である。
【0006】
特許文献1、および特許文献2には、メタ型アラミド紡糸用溶液を特定組成の凝固浴を用いて紡糸し、これを湿潤延伸、乾熱延伸、高温乾熱下で弛緩熱処理することにより捲縮繊維を得る方法が開示されている。すなわち、弛緩熱処理する前に異方加熱延伸することにより、得られる繊維に潜在捲縮性を付与するものである。しかしながら、これらの方法では、240~350℃ といった極めて高温下で弛緩熱処理しなければ十分な捲縮を発現できないという問題がある。
【0007】
一方、特許文献3および特許文献4では、メタ型アラミド繊維を製造するに際し、該アミド系極性溶媒溶液の無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固糸とし、続いて水洗し、次いで温水浴中において延伸し、さらに温水浴中にて水洗し、続いて水蒸気中で弛緩熱処理した繊維を、温度120℃の温水中でさらに60分間加熱処理することにより自己捲縮を発現させている。
【0008】
前記弛緩熱処理とは、低張力また無張力下で繊維を加熱処理することで自己捲縮を発現させる工程のことである。
したがって、前記延伸後のトウを一度巻取り、別工程にて弛緩熱処理を施す必要がある
ことから、上記の弛緩熱処理時間に加え前処理時間が必要不可欠であり、生産工程がかなり複雑となる。
よって、大量生産が難しく、生産性に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9-188916号公報
【特許文献2】特開昭48-19818号公報
【特許文献3】特開2004-218107号公報
【特許文献4】特開2006-132019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術における問題点を解消し、複雑な生産工程である弛緩熱処理をすることなく自己捲縮性を発現する全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、複数の特定のモノマーを特定の比率で共重合にしたポリマーを繊維とすることにより、複雑な生産工程である弛緩熱処理を省いた自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明によれば、
1.自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維を構成する全芳香族ポリアミドが、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合体からなり、自己捲縮性を有することを特徴とする自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維であり、
2.前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維が、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が70~84:16~30モル%の範囲である前記1に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維であり、
3.前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の捲縮率が1.0~10%である前記1、または2に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維であり、
4.前記自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の捲縮数が2~15個/25mmである前記1~3のいずれかに記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維である。さらには、
5.自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であって、
メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造から構成される共重合体の全芳香族ポリアミドを含むアミド系極性溶媒溶液を紡糸することにより、自己捲縮性を有することを特徴とする自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であり、
6.前記それぞれのアミド単位が、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位とパラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が70~84:16~30モル%からなる共重合体の全芳香族ポリアミドを含む、前記5に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法であり、そして、
7.前記のアミド系極性溶媒溶液を30重量%以上の無機塩を含む水性凝固浴中に紡出し
て凝固し、290度以上の熱板上で熱延伸する工程を含み、全延伸倍率が10倍以上とする前記5、または6に記載の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、得られる繊維はフィラメントの段階で自己捲縮性を有し、機械捲縮では得られない立体捲縮であり、捲縮の耐性も高く、嵩高さを必要とする用途に好適に用いることができる。また、本発明は、弛緩熱処理等の後処理工程を省くことができるため、熱処理等による繊維の劣化が回避でき、さらには高速紡糸に対応、生産性の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維(以下、全芳香族ポリアミド繊維と略す場合がある)を構成する全芳香族ポリアミド(以下、アラミドと称する場合がある)は、メタ型およびパラ型芳香族ジアミン成分とメタ型およびパラ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、共重合により合成されるものである。
【0015】
本発明において使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンテレフタルアミド単位および/またはメタフェニレンイソフタルアミド単位と、パラフェニレンテレフタルアミド単位および/またはパラフェニレンイソフタルアミド単位と、を含む構造を主成分とする全芳香族ポリアミドである。
【0016】
本発明の自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維に用いる全芳香族ポリアミドは、ランダム共重合されており、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの群から選ばれる少なくとも3種類の構造を含み、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の70~84モル%、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の16~30モル%であることが好ましく、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の70~83モル%、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の17~30モル%であることがより好ましく、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の70~80モル%、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の20~30モル%がさらに好ましく、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が全体の75~80モル%、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル%が全体の20~25モル%であることが特に好ましい。
【0017】
メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル%が上記範囲外の場合、自己捲縮性を発揮することができない。なお、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイル、テレフタロイルの組み合わせを下記表1に示す。
【0018】
本発明は、例1~4に示すような、少なくとも3種類の構造を含むことが好ましく、例5のように4種類の構造を含むことが特に好ましい。
【0019】
【0020】
全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミンまたはパラフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0021】
本発明の全芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタロイルモノマーである、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。同様に、パラ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、テレフタロイルモノマーであるテレフタル酸クロライド、テレフタル酸ブロマイド等のテレフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0022】
本発明の全芳香族ポリアミドの重合方法としては、メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離する方法(界面重合、特公昭47-10863号公報)、またはアミド系溶媒で上記ジアミンと酸クロライドを溶液重合し次いで水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和する方法(溶液重合、特開平8-074121号公報、特開平10-88421号公報)などに記載の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
なお、本発明に用いられる全芳香族ポリアミド共重合体の重量平均分子量は、実用に耐え得る破断強度を持つ繊維を形成し得る観点から、後述する分析方法に従い40万~120万であることが好ましい。なお、重量平均分子量40万に満たない場合、破断強度が著しく減少するだけでなく、安定な紡糸を行うことができなくなる。また、分子量が120万を超える場合、後述する全芳香族ポリアミド溶液を作製し紡出する際、粘度が高すぎるため取扱が難しく、専用の設備が必要となってしまう。
【0024】
本発明で規定する分子量範囲のポリマーは、低分子量ポリマーと高分子量ポリマーの混合物を使用することができ、混合比の調整により全体分子量が規定する分子量範囲の値であればよい。例えば、重量平均分子量が20万のポリマーと80万のポリマーを混合し、この混合されたポリマーの全体重量平均分子量が60万であった場合、本発明で規定する分子量範囲のため、利用は何ら問題ない。
【0025】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られた全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、洗浄工程、沸水延伸工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0026】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、本発明の全芳香族ポリアミドを溶媒に溶解して、紡糸液(ドープ)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常アミド系溶媒を用い、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらの中では溶解性と取扱い安全性の観点から、NMP、またはDMAcを用いることが好ましい。
【0027】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。安定な紡糸を達成するためには15~25質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0028】
本発明ではドープ中に無機塩を導入してもよく、ドープに対して0~20質量%の無機塩を含むことが好ましく、安定した紡糸性を得るためには0~10質量%の無機塩がより好ましい。
【0029】
ここで、20質量%を超えた無機塩を含むと凝固速度が速くなりすぎてしまい、繊維中に多数のボイドを形成することから目的の物性を持った繊維を得ることができない。なお、無機塩としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物塩を使用することが好ましい。
【0030】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られたドープを凝固液中に紡出して凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が10~30000個、紡糸孔径が0.03~0.2mmのステープルファイバー用の多ホール紡糸口金等を用いることができる。また、紡糸口金から紡出する際のドープの温度は、20~90℃の範囲が好ましく、70~90℃がより好ましい。
【0031】
本発明の繊維を得るために用いる凝固浴としては、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム等の無機塩を、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35~45質量%含み、アミド系溶媒を、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%含む水溶液である。この水溶液の温度は50~90℃の範囲が好ましい。
【0032】
[洗浄工程、沸水延伸工程]
かくして得られた凝固糸は、水性洗浄浴にて十分水洗され、沸水延伸工程に送られる。
沸水延伸浴中の延伸倍率は1.1~5.0倍の範囲が好ましく、1.1~3.0倍の範囲がより好ましい。延伸を当該倍率の範囲で行い、分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
【0033】
[乾熱処理工程]
上記の洗浄・延伸工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記の洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、好ましくは100~250℃、さらに好ましくは100~200℃の範囲で乾熱処理をする。また、乾熱処理は定長下で行うのが好ましい。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0034】
[熱延伸工程]
本発明においては、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、290~380℃の範囲で熱処理を加えながら延伸を実施する。処理温度は290~380℃が好ましく、290~350℃がより好ましい。290℃に満たない場合、高倍率延伸ができないため不適であり、380℃を超えると繊維の変色や断糸が
起きる可能性がある。延伸倍率は、2.0~10.0倍が適当であり、より好ましくは3.0~10.0倍の範囲である。なお、熱延伸処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0035】
そして、本発明における沸水延伸倍率および熱延伸倍率の合計延伸倍率は10倍以上であることが好ましい。前記の合計延伸倍率が10倍に満たないと、自己捲縮性を発現することができない。そのため、沸水延伸倍率および熱延伸倍率は工程の調子を鑑みて適宜調整する必要がある。
以上の方法により得られる全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は3.0cN/dtex以上が好ましく、3.5cN/dtex以上がより好ましい。
【0036】
また、得られる繊維は、弛緩熱処理することなく、自己捲縮性を発現し、その繊維の捲縮数は、好ましくは2~15個/25mm、より好ましくは2~12個/25mmである。また、その繊維の捲縮率(捲縮度と呼ぶ場合もある)は、好ましくは5~16%、より好ましくは5~14%である。発現する捲縮数が2個/25mm未満、および/または捲縮率が5%未満である場合には、バルキー性が不十分となり、また伸縮性も不十分なものとなる。一方、発現する捲縮数が15個/25mmを超えるか、および/または捲縮率が16%を超える場合には、最終製品のソフト性が低下し、寸法安定性が低下するので好ましくない。
【実施例0037】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。尚、実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0038】
[重量平均分子量Mw]
JIS-K-7252に準じ、サイズ排除クロマトグラフィー用カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー装置にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0039】
[単繊維繊度]
JIS-L-1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0040】
[破断強度、破断伸度]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS-L-1015に準じ、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g/dtex)
引張速度 :20mm/分
【0041】
[捲縮数]
JIS-L-1015 8.12.1に準じ、試料長25mmで測定し、初荷重0.18mN×繊度(dtex)、重荷重4.4mN×繊度で測定した。
【0042】
[捲縮率]
JIS-L-1015 8.12.2に準じ、試料長25mmで測定し、初荷重0.1
8mN×繊度、重荷重4.4mN×繊度(dtex)で測定した。
【0043】
[実施例1]
特公昭47-10863号公報に準じた界面重合により、メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の80モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が20モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。重量平均分子量は105万であった。この重合体粉末を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してアラミド重合体の質量濃度が15%になるよう調整した。
【0044】
このポリマー溶液を85℃に加温し紡糸原液として、孔径0.1mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが38質量%、NMPが5質量%、残りの水が57質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmにて糸速3.7m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0045】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は200秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20℃、30℃の水を用いた。この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.5倍に延伸し、引続き90℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0046】
次に、表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度340℃の熱板にて4.0倍に延伸し、自己捲縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は、繊度1.4dtex、強度5.1cN/dtex、伸度22%で、捲縮数3個/25mm、捲縮率6%の捲縮糸であった。
【0047】
[実施例2]
実施例1に準じた界面重合により、メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の83モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が17モル%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。重量平均分子量は57万であった。この重合体粉末および塩化カルシウムを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してアラミド重合体の質量濃度が22%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0048】
このポリマー溶液を90℃に加温し紡糸原液として、実施例1と同様に、孔径0.1mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成も、実施例1と同様に、塩化カルシウムが38質量%、NMPが5質量%、残りの水が57質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmとし、糸速は4.0m/分に変更して通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0049】
この凝固糸条を、第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は200秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度は、実施例1と同様に、それぞれ20℃、30℃の水を用い、この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.5倍に延伸し、引続き90℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0050】
次に表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度320℃の熱板にて7.0倍に延伸し、自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は繊度0.9dtex、強度4.6cN/dtex、伸度25%で、捲縮数4個/25mm、捲縮率7%の捲縮糸であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1に準じた界面重合により、メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の75モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が25%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。重量平均分子量は109万であった。この重合体粉末を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してアラミド重合体の質量濃度が15%になるよう調整した。
【0052】
このポリマー溶液を90℃に加温し紡糸原液として、実施例1と同様に、孔径0.1mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成も、実施例1と同様に、塩化カルシウムが38質量%、NMPが5質量%、残りの水が57質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmとし、糸速4.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0053】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は200秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度は、実施例1と同様に、それぞれ20、30℃の水を用いた。次に、この洗浄糸条を90℃の沸水中にて3倍に延伸し、引続き90℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0054】
次に表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度290℃の熱板にて4.0倍に延伸し、自己捲縮性全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は繊度1.9dtex、強度5.0cN/dtex、伸度17%で、捲縮数2個/25mm、捲縮率6%の捲縮糸であった。
【0055】
[比較例1]
実施例1に準じた界面重合により、メタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の88モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が12%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。重量平均分子量は58万であった。この重合体粉末および塩化カルシウムを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してアラミド重合体の質量濃度が20%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0056】
該ポリマー溶液を実施例1と同様の方法で紡糸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は繊度1.2dtex、強度4.9cN/dtex、伸度34%であったが、自己捲縮性は有していなかった。
【0057】
[比較例2]
実施例1に準じた界面重合によりメタフェニレンジアミンおよびイソフタロイルモノマー単位が全体の67モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が33%である共重合アラミド重合体粉末を合成した。重量平均分子量は86万であった。この重合体粉末を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してアラミド重合体の質量濃度が14%になるよう調整した。
【0058】
該ポリマー溶液を実施例1と同様の方法で紡糸し、全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた繊維は繊度1.6dtex、強度5.1cN/dtex、伸度20%であったが、自己捲縮性は有していなかった。
実施例及び比較例で得られた全芳香族ポリアミド繊維の物性を表2に示す。
【0059】
本発明によれば、得られる繊維はフィラメントの段階で自己捲縮性を有し、機械捲縮では得られない立体捲縮であり、捲縮の耐性も高い耐熱性アラミド繊維を得られる。このため、嵩高さを必要とする用途に好適に用いることができる。また、本発明は、弛緩熱処理等の後処理工程が必要なく、高速紡糸に対応でき、生産性の向上に寄与することができる。