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特開2022-128986車両の制御装置、制御方法、制御プログラム、マネージャ、及び車両
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  • 特開-車両の制御装置、制御方法、制御プログラム、マネージャ、及び車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128986
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置、制御方法、制御プログラム、マネージャ、及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/188 20120101AFI20220829BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20220829BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20220829BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B60W30/188
B60W50/10
B60W30/02
B60R16/02 660B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027486
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宣之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊介
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA51
3D241BC01
3D241CC02
3D241CC11
3D241CD05
3D241DB05Z
(57)【要約】
【課題】車両の実現値に基づいて実施されるフィードバック制御をドライバーなどが不快に感じることを抑制できる制御装置を提供する。
【解決手段】車両に搭載された制御装置であって、運転支援システムから複数の第1の要求を受け付ける受付部と、複数の第1の要求を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて、第1の要求と異なる物理量である第2の要求を算出する第1の算出部と、車両が実現している値と第1の要求とに基づいて、第2の要求と同じ物理量である第3の要求を算出する第2の算出部と、第2の要求及び第3の要求を、複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、第2の算出部は、所定の条件に基づいて第3の要求の算出を制限する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された制御装置であって、
運転支援システムから複数の第1の要求を受け付ける受付部と、
前記複数の第1の要求を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、前記第1の要求と異なる物理量である第2の要求を算出する第1の算出部と、
前記車両が実現している値と前記第1の要求とに基づいて、前記第2の要求と同じ物理量である第3の要求を算出する第2の算出部と、
前記第2の要求及び前記第3の要求を、複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
前記第2の算出部は、所定の条件に基づいて前記第3の要求の算出を制限する、
制御装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記アクチュエータシステムが前記分配部によって分配された要求に反応できるか否かであり、
前記第2の算出部は、前記アクチュエータシステムが前記分配部によって分配された要求に反応できない場合、前記第3の要求の算出を制限する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、ドライバー操作を許容する状態において前記ドライバー操作がある場合に、前記ドライバー操作に基づく要求が前記第2の要求よりも大きいか否か、及び前記ドライバー操作に基づく要求が前記アクチュエータシステムで実現可能であるか否かであり、
前記第2の算出部は、前記ドライバー操作を許容する状態において前記ドライバー操作があり、前記ドライバー操作に基づく要求が、前記第2の要求よりも大きくかつ前記アクチュエータシステムで実現可能である場合、前記第3の要求の算出を制限する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記所定の条件は、前記車両を安定化させる機能が作動しているか否かであり、
前記第2の算出部は、前記車両を安定化させる機能が作動している場合、前記第3の要求の算出を制限する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
車両に搭載されたマネージャであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、第1の運動要求を算出する第1の算出部と、
前記車両が実現している値と前記第1の運動要求とに基づいて、第2の運動要求を算出する第2の算出部と、
前記第1の運動要求及び前記第2の運動要求を、複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
前記第2の算出部は、所定の条件に基づいて前記第2の運動要求の算出を制限する、
マネージャ。
【請求項6】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターが実行する制御方法であって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の行動計画を調停するステップと、
前記調停するステップによる調停結果に基づいて、第1の運動要求を算出するステップと、
前記車両が実現している値と前記第1の運動要求とに基づいて、第2の運動要求を算出するステップと、
前記第1の運動要求及び前記第2の運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、
所定の条件に基づいて前記第2の運動要求の算出を制限するステップと、
を含む、
制御方法。
【請求項7】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の行動計画を調停するステップと、
前記調停するステップによる調停結果に基づいて、第1の運動要求を算出するステップと、
前記車両が実現している値と前記第1の運動要求とに基づいて、第2の運動要求を算出するステップと、
前記第1の運動要求及び前記第2の運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、
所定の条件に基づいて前記第2の運動要求の算出を制限するステップと、
を含む、
制御プログラム。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される制御装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、運転支援機能を実現する複数の車載システム(アプリケーション要求部)から受け付ける要求を総合的に管理することができる制御装置(ブレーキ制御ECU)が開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載の制御装置は、複数の車載システムから複数のアクチュエータへ向けた要求を総合的に管理する機能と、要求に関して車両の挙動に基づいたフィードバック制御を実施する機能とを備え、複数の車載システムから各アクチュエータに対して同時に要求が行われた場合、複数の要求を調停することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-032892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の挙動に基づいたフィードバック制御を実施する制御装置では、車載システムから複数のアクチュエータへ向けた要求を受け付けた際、車両の挙動に基づいてフィードバック制御を実施してもその要求に追従した反応ができないアクチュエータがある場合には、そのアクチュエータが反応できる状態になるまでフィードバック制御による要求(F/B要求)が蓄積されてゆく。そして、そのような制御装置では、該当のアクチュエータが反応できる状態になったタイミングで、それまで蓄積されていた大きなF/B要求が一気に車両の挙動に反映されてしまうため、ドライバーなどがフィードバック制御を不快に感じるおそれがあった。また、このようなフィードバック制御がドライバーによって要求される操作を阻んでしまう場合にも、ドライバーがフィードバック制御を不快に感じるおそれがあった。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両の実現値に基づいて実施されるフィードバック制御をドライバーなどが不快に感じることを抑制できる制御装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載された制御装置であって、運転支援システムから複数の第1の要求を受け付ける受付部と、複数の第1の要求を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて、第1の要求と異なる物理量である第2の要求を算出する第1の算出部と、車両が実現している値と第1の要求とに基づいて、第2の要求と同じ物理量である第3の要求を算出する第2の算出部と、第2の要求及び第3の要求を、複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、第2の算出部は、所定の条件に基づいて第3の要求の算出を制限する、制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の制御装置によれば、車両の実現値に基づいて実施されるフィードバック制御をドライバーなどが不快に感じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る車両に搭載される制御装置とその周辺部の機能ブロック図
図2】制御装置の各構成が実行する制御の処理手順を説明するフローチャート
図3】制限条件及びその制限条件を満足したときの制限内容の一例を示す図
図4】本実施形態の制御装置が実行する制御を説明するタイミングチャート
図5】従来の制御装置が実行する制御を説明するタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の制御装置は、車載システムから要求される加速度がアクチュエータで実現されない期間では、車両が実際に発生している加速度を車載システムから要求される加速度に追従させるために実施するフィードバック制御の演算を制限する。これにより、アクチュエータで要求加速度の実現が再開されたときの、車両の乗り心地の悪化や安心感・安全感が阻害されてしまうことを抑制できる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両に搭載される制御装置20とその周辺部の機能ブロック図である。図1に例示した機能ブロックは、車載システム10と、制御装置20と、複数のアクチュエータシステム30と、センサー40と、を備える。車載システム10、制御装置20、複数のアクチュエータシステム30、及びセンサー40は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などの車載ネットワークを介して通信可能に接続されている。
【0012】
車載システム10は、実現したい加速度(G)の要求(第1の要求)を制御装置20に出力することができるシステムである。この車載システム10は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスを有するECUなどのコンピューターによって実現される。車載システム10としては、所定のアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援する様々な機能を実現する運転支援システムを、例示できる。
【0013】
運転支援システムが実装するアプリケーションとしては、自動運転機能を実現する自動運転アプリケーション、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション、及び先進運転支援アプリケーションなどを例示できる。先進運転支援アプリケーションには、前車追従を行うアダプティブクルーズコントロール(ACC)機能を実現するアプリケーションや、車線維持を行うレーンキープアシスト(LKA)機能を実現するアプリケーションや、衝突の被害を軽減させる衝突被害軽減ブレーキ(AEB)機能を実現するアプリケーションなどの複数のADASアプリケーションが含まれる。運転支援システムが実装するアプリケーションの数は、特に限定されない。また、運転支援システムは、アプリケーションごとに設けられた複数のECU(例えば、自動運転アプリケーションが実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーションが実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーションが実装されたADAS-ECU)によって構成され得る。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数の装置に実装されてもよい。このような運転支援システムは、各種センサーなどから取得する車両の情報に基づいて、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画(前後加速度/減速度など)の要求を出力する。
【0014】
複数のアクチュエータシステム30は、それぞれ、車載システム10が出力する第1の要求(行動計画要求)を実現するための実現システムである。複数のアクチュエータシステム30の1つは、車両に制駆動力を発生させることが可能なパワートレインアクチュエータを含み、パワートレインアクチュエータの動作を制御することにより、車両を加減速させることで第1の要求を実現させる。パワートレインアクチュエータとしては、エンジンやトランスミッション(T/M)などを例示できる。また、複数のアクチュエータシステム30の他の1つは、車両に制動力を発生させることが可能なブレーキアクチュエータを含み、ブレーキアクチュエータの動作を制御することにより、車両を減速させることで第1の要求を実現させる。ブレーキアクチュエータとしては、電動ブレーキ装置などを例示できる。この複数のアクチュエータシステム30は、アクチュエータの動作状態や現在の動作可能な性能範囲であるアベイラビリティを表す情報などを含むシステム状態を、それぞれ制御装置20に出力することができる。
【0015】
なお、複数のアクチュエータシステム30の他の1つには、ステアリングアクチュエータが含まれてもよい。また、複数のアクチュエータによって1つのアクチュエータシステムが構成されてもよい。
【0016】
センサー40は、要求に応じて車両が実現している値(車両実現値)を検出するための構成である。本実施形態のセンサー40は、車両の加速度(車体加速度)を検出することができる加速度センサーである。
【0017】
制御装置20は、車載システム10から受け付ける第1の要求(行動計画要求)、センサー40から取得する車両実現値、及び複数のアクチュエータシステム30から入力するシステム状態に基づいて、車両運動の制駆動に関する制御内容を決定し、決定した制御内容に基づいて複数のアクチュエータシステム30に対して必要な制駆動に関する指示を行って制御する。この制御装置20は、いわゆる車両の運動に関わるマネージャ(ADAS-MGRやVehicle-MGRなど)として、あるいはマネージャの一部として機能し、車両の動きを制御する。制御装置20は、受付部21と、調停部22と、第1の算出部23と、第2の算出部24と、分配部25と、を含む。
【0018】
受付部21は、車載システム10が出力する1つ又は複数の第1の要求(行動計画要求)を受け付ける。本実施形態における第1の要求は、例えば前車追従を行うACC機能を提供するADASアプリケーションなどから出力される、速度変化に応じた制駆動力を車両に要求する車両の前後方向(縦方向)の加速度である。
【0019】
調停部22は、受付部21が車載システム10から受け付けた複数の第1の要求(行動計画要求)を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の第1の要求の中から1つの要求を選択したり、複数の第1の要求に基づいて新たな要求を設定したり、することが例示できる。
【0020】
第1の算出部23は、調停部22における第1の要求の調停結果に基づいて、第1の要求(行動計画要求)と異なる物理量である第2の要求(第1の運動要求)を算出する。この第2の要求は、複数のアクチュエータシステム30の少なくとも1つを第1の要求に基づいてフィードフォワード制御するために演算される(F/F演算)。本実施形態の第1の算出部23は、加速度である第1の要求に対して、駆動力を第2の要求として算出する。これにより、要求された加速度が、要求実現のための駆動力に変換される。
【0021】
第2の算出部24は、調停部22における第1の要求の調停結果と、センサー40から取得する車両実現値とに基づいて、第1の要求(行動計画要求)と異なる物理量である第3の要求(第2の運動要求)を算出する。この第3の要求は、第1の要求の調停結果と車両実現値とに基づいて複数のアクチュエータシステム30の少なくとも1つをフィードバック制御するために演算される(F/B演算)。この第3の要求は、第2の要求と同様に駆動力である。より具体的には、第2の算出部24は、調停部22の調停によって今回得られた加速度(要求加速度)と、前回の調停結果に従ってアクチュエータシステム30で実現できた駆動力に応じて車両で発生した加速度(車体加速度)とを比較し、要求加速度と車体加速度との乖離を解消させて要求加速度を実現させるために必要な第3の要求を算出する。この第3の要求の算出にあたっては、図示しない車載機器やセンサーなどから取得する路面勾配、路面状況、及び複数のアクチュエータシステム30から入力するシステム状態など、いわゆる外乱が考慮される。
【0022】
分配部25は、第1の算出部23によって算出された第2の要求と、第2の算出部24によって算出された第3の要求とを入力し、第2の要求及び第3の要求を運動要求として複数のアクチュエータシステム30の少なくとも1つに分配する。なお、1つのアクチュエータシステム内に複数のアクチュエータを含んだ構成である場合には、アクチュエータシステム内の複数のアクチュエータの少なくとも1つに第2の要求及び第3の要求が分配される。これにより、制御装置20から複数のアクチュエータシステム30に対して必要な車両運動の制駆動に関する制御が行われる。
【0023】
なお、第2の要求及び第3の要求は、駆動力に代えて駆動トルクとしてもよい。また、第2の要求及び第3の要求は駆動力のままとし、複数のアクチュエータシステム30で駆動力から駆動トルクへの変換を行ってもよい。
【0024】
なお、以上説明した、車両に搭載された機器の構成及び制御装置20の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。
【0025】
[制御]
図2及び図3をさらに参照して、本実施形態に係る制御装置20が実行する制御を説明する。図2は、制御装置20の調停部22、第1の算出部23、及び第2の算出部24が実行する制御の処理手順を説明するフローチャートである。
【0026】
図2に示す制御は、制御装置20の受付部21が、車載システム10から第1の要求(加速度)を受け付けると開始される。
【0027】
(ステップS201)
調停部22は、受付部21が受け付けた複数の第1の要求(加速度)を調停する。調停が行われると、ステップS202に処理が進む。
【0028】
(ステップS202)
第1の算出部23は、調停部22によって調停された結果(要求加速度)に基づいて、第2の要求(駆動力)を算出する。第2の要求が算出されると、ステップS203に処理が進む。
【0029】
(ステップS203)
第2の算出部24は、車両が制限条件を満足しているか否かを判断する。この制限条件とは、第3の要求を算出するためのフィードバック制御の演算(F/B演算)を制限すべき車両の状態を定めた所定の条件である。図3に、制限条件及びその制限条件を満足したときの制限内容の一例を示す。
【0030】
図3に例示した制限条件には、アクチュエータの失陥の有無、制御装置20が出力する駆動力に対するアクチュエータの即時応答の可否及び応答の可否、車両が停車中であるか否か、車両状態が安定しているか否か、ドライバー操作の有無、ドライバー操作に基づく要求と第2の要求との大小関係、及びアクチュエータシステム30でのドライバー操作に基づく要求の実現の可否などがある。アクチュエータの失陥の有無については、アクチュエータシステム30から取得するシステム状態などに基づいて判断することが可能である。車両が停車中であるか否か、車両状態が安定しているか否か、及びドライバー操作の有無については、図示しない車載装置から取得する各種情報に基づいて判断することが可能である。ドライバー操作に基づく要求と第2の要求との大小関係については、双方の要求を比較して、どちらの要求が選択されるべきか(制御的に勝っているか)などに基づいて判断することが可能である。
【0031】
[1]アクチュエータに失陥がなく、かつ、アクチュエータが即時に応答可能であって、車両状態が安定しており、かつ、ドライバー操作がある場合には、そのドライバー操作を妨げる要求に対するフィードバック制御の演算(F/B演算)を停止する。具体例としては、ドライバー要求であるドライバー操作に基づく要求が、システム要求である第2の要求よりも大きく、かつ、アクチュエータシステム30で実現可能である場合には、ドライバー操作を妨げる要求に対するフィードバック制御の演算(F/B演算)を停止する。これにより、ドライバーの操作意思に反する車両挙動の発生を抑制することができる。
【0032】
[2]アクチュエータに失陥がなく、かつ、アクチュエータが即時に応答可能であって、車両状態が不安定である場合には、全てのフィードバック制御の演算(F/B演算)を停止する。車両状態が不安定であることは、アンチロックブレーキシステム(ABS)、タイヤ空転抑制機能(TRC)、又は横滑り制御機能(VSC)などが作動している状況において、車両を安定化させる機能(シャシーの安定化制御など)がアクチュエータに介入していること、によって判断することができる。これにより、車両挙動の安定化を最優先(安全第一)で実現することができる。
【0033】
[3]アクチュエータに失陥がなく、かつ、アクチュエータが即時に応答不可能であって、車両が停車中ではない非停車中の場合には、フィードバック制御の演算(F/B演算)に用いるゲインを一時的に低下させる(なお、フィードバック制御は継続して実施)。アクチュエータが即時応答不可能であることは、例えば、通信の途絶が一時的に生じているときやセンサー値の異常状態が確定される前などの電気的要因、及びタイヤ点で駆動力を実現できていない状態(例えば、変速中、フューエルカット(F/C)の遷移中、ロックアップ(L/U)の遷移中)などの機械的要因、によって判断することができる。これにより、車両の前後加速度の変化量を低減させることができる。このゲインの低下は、一例として、アクチュエータの応答が遅れている期間だけ実施される。
【0034】
[4]アクチュエータに失陥がなく、かつ、アクチュエータが即時に応答不可能であって、車両が停車中である場合には、全てのフィードバック制御の演算(F/B演算)を停止する。これにより、停車中におけるフィードバック制御による第3の要求(F/B要求)の無駄な蓄積処理を行わなく済む。
【0035】
[5]いずれかのアクチュエータに失陥があり、かつ、アクチュエータが応答自体が不可能である場合には、失陥しているアクチュエータに対する駆動力に対するフィードバック制御の演算(F/B演算)を停止する。アクチュエータの失陥は、アクチュエータが故障したときなどに判断することができる。一方、失陥していないアクチュエータに対する駆動力に対するフィードバック制御の演算は、継続して実施する。これにより、いずれかのアクチュエータが失陥しても、残りのアクチュエータによって失陥分の要求を可能な範囲で補完することができる。
【0036】
車両が制限条件を満足していると判断した場合は(ステップS203、はい)、ステップS204に処理が進み、車両が制限条件を満足していないと判断した場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS205に処理が進む。
【0037】
(ステップS204)
第2の算出部24は、要求加速度と車体加速度とに基づき、満足する制限条件に紐付けられた制限内容を加味したフィードバック制御の演算(F/B演算)を行って、第3の要求(駆動力)を算出する。例えば、制限内容がフィードバック制御の演算のゲイン指定であれば、ゲインに応じて補正された第3の要求が算出され、制限内容がフィードバック制御の演算の停止であれば、第3の要求として値ゼロが算出される。第3の要求が算出されると、ステップS206に処理が進む。
【0038】
(ステップS205)
第2の算出部24は、制限をすることなく、要求加速度と車体加速度とに基づいたフィードバック制御の演算(F/B演算)を行って、第3の要求(駆動力)を算出する。第3の要求が算出されると、ステップS206に処理が進む。
【0039】
(ステップS206)
第1の算出部23及び第2の算出部24は、それぞれ算出した第2の要求(駆動力)及び第3の要求(駆動力)を分配部25に出力する。この第2の要求と第3の要求とを加算した要求(第2の要求+第3の要求)が、要求加速度を実現させるための駆動力となる。これにより、本制御が終了する。
【0040】
なお、第2の要求を算出するステップS202の処理と、第3の要求を算出するステップS203~S205の処理とは、処理の順序が前後してもよいし、並列に行われてもよい。
【0041】
上述した本実施形態の制御に基づいた処理の一例を、図4のタイミングチャートを参照して説明する。図4において、時間t1よりも前の要求加速度がアクチュエータで実現される期間では、車体加速度が要求加速度に追従して制御されている。その後、時間t1から時間t2までの要求加速度がアクチュエータで実現されない期間では、車体加速度と要求加速度との乖離が漸増してゆくが、フィードバック制御の演算(F/B演算)による駆動力(第3の要求)の蓄積が行われない。そのため、時間t2において要求加速度がアクチュエータで実現されるようになった際(実現再開の際)にも大きな駆動力が発生せず車体加速度に対する要求駆動力を抑えることができる。よって、時間t3~t4に亘って、乖離を拡大することなく、車体加速度を徐々に要求加速度に近付けることができる。これにより、アクチュエータで要求加速度の実現が再開されたときの、車両の乗り心地の悪化や安心感・安全感の阻害を低減することができる。
【0042】
図5に、比較のため、従来の制御に基づいた処理のタイミングチャートを示す。図5のように、従来の制御では、時間t1から時間t2までの要求加速度がアクチュエータで実現されない期間では、車体加速度と要求加速度との乖離に応じてフィードバック制御の演算(F/B演算)による駆動力(第3の要求)の蓄積が行われる。このため、時間t2において要求加速度がアクチュエータで実現されるようになった(実現再開の際)際に大きな駆動力が発生してしまい、車体加速度の要求加速度への追従性が悪化する。このため、急な飛び出し感や乗り心地の悪化につながり、ドライバーなどを不快にさせてしまうこととなる。
【0043】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係る制御装置は、車載システムから要求される加速度がアクチュエータで実現されない期間では、車両が実際に発生している車体加速度を車載システムから要求される要求加速度に追従させるために実施するフィードバック制御の演算(F/B演算)を制限する。この制御によって、車載システムからの要求加速度がアクチュエータで実現されない期間において、車体加速度と要求加速度との乖離に応じたフィードバック制御の演算(F/B演算)による要求の蓄積が行われないか、又はアクチュエータで実現される期間よりも少ない要求の蓄積が行われるため、要求加速度がアクチュエータで実現されるようになった際に大きな駆動力が発生せず、車体加速度に対する要求駆動力を抑えることができる。
【0044】
従って、本実施形態に係る制御装置によれば、アクチュエータで要求加速度の実現が再開されたときの、車両の乗り心地の悪化や安心感・安全感が阻害されてしまうことを抑制することができ、ドライバーなどが不快に感じることを抑制できる。また、本実施形態に係る制御装置によれば、要求加速度と車体加速度との乖離に対して、従来よりも素早く制御を開始できるため、応答性も向上する。
【0045】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、制御装置だけでなく、プロセッサとメモリを備えた制御装置が実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、マネージャ、あるいは制御装置を備えた車両などとして捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、車両などに搭載される制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0047】
10 車載システム
20 制御装置
21 受付部
22 調停部
23 第1の算出部
24 第2の算出部
25 分配部
30 アクチュエータシステム
40 センサー
図1
図2
図3
図4
図5