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特開2022-129016宇宙環境における宇宙線および放射線対策素材開発システムVer3
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  • 特開-宇宙環境における宇宙線および放射線対策素材開発システムVer3 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129016
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】宇宙環境における宇宙線および放射線対策素材開発システムVer3
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20220829BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20220829BHJP
   G21F 1/06 20060101ALI20220829BHJP
   G21F 3/02 20060101ALI20220829BHJP
   G21F 3/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/08
G21F1/06
G21F3/02 A
G21F3/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027541
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】517020241
【氏名又は名称】船水 博文
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船水 博文
(57)【要約】
【課題】軽量、柔軟性に富み、耐候性に優れ、さらに人体に対する安全性を考慮した宇宙線および放射線遮蔽素材の開発を促進する為の探索システム。遮蔽性能評価試験をする前に放射線遮蔽素材の新規開発における化学物質、化合物、アミノ酸など有機物における電子密度など素材開発に必要な分子起動、分子構造と電子密度、電子軌道、分子のエネルギー状態を予測して宇宙放射線遮蔽素材を効率よく製造する。
【解決手段】
マキシムエントロピー法(MEM)による電子密度分布を考慮した、主材料にはポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、シリコーン、エラストマー、樹脂、副材には金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を探索候補とする。
または質量減弱係数が0.05~0.10もしくは線減弱係数が0.27~1.15もしくはイオン半径が120pm以下の元素もしくはイオン半径が7pm~74pmからなる放射線遮蔽素材、この放射線遮蔽素材の分子起動、分子構造、電子密度、電子軌道、分子のエネルギー状態を予測して、主材にポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、エラストマー系材料を、副材に金属元素、化合物をターゲットにしてパソコンと連動した探索ソフトに接続して最適素材を探索し最適条件を提示する。主材料にはポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、シリコーン、エラストマー、樹脂、副材には金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を探索候補とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子軌道、電子スピン、分子エネルギー、分子構造、分子起動、イオン半径情報をもとにパソコンに情報を入力して、最適な分子化合物条件を探索した。
この結果シリコーンゴム、エラストマー、金属元素、金属化合物、酸化物を用いた宇宙線、放射線遮蔽素材について最適な適合素材とその配合を導き出した。
主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システム
【請求項2】
電子軌道、電子スピン、分子エネルギー、分子構造、分子起動、イオン半径情報をもとにパソコンに情報を入力して、最適な分子化合物条件を探索した。
この結果シリコーンゴム、エラストマー、金属元素、金属化合物、酸化物を用いた宇宙線、放射線遮蔽素材について最適な適合素材とその配合を導き出した。
主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システムソフト
【請求項3】
線減弱係数が0.07~0.30の放射線遮蔽素材、主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システムの分子起動計算アルゴリズム
【請求項4】
線減弱係数が0.3~1.17の放射線遮蔽素材、主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システムの分子起動計算アルゴリズム
【請求項5】
線減弱係数が0.01~0.07の放射線遮蔽素材、主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システムの分子軌道計算アルゴリズム
【請求項6】
請求項1に記載のイオン半径が120pm以下の元素を組み合わせた、宇宙線および放射線遮蔽塗布剤、スプレー剤、およびシート、放射線防護素材、放射線遮蔽建築材、放射線防護服。
【請求項7】
請求項1に記載のイオン半径が7pm~74pmの元素を組み合わせた、宇宙線および放射線遮蔽塗布剤、スプレー剤、およびシート、放射線防護素材、放射線遮蔽建築材、放射線防護服。
【請求項8】
請求項1に記載のイオン半径が50pm~135pmの元素を組み合わせた、宇宙線および放射線遮蔽塗布剤、スプレー剤、およびシート、放射線防護素材、放射線遮蔽建築材、放射線防護服。
【請求項9】
請求項7に記載の宇宙線および放射線遮蔽塗布剤、スプレー剤、およびシート、放射線防護素材、放射線遮蔽建築材、放射線防護服。
【請求項10】
請求項8に記載の宇宙線および放射線遮蔽塗布剤、スプレー剤、およびシート特に宇宙環境および医療施設で使用する放射線防護素材、放射線遮蔽建築材、放射線防護服。
【請求項11】
マキシムエントロピー法(MEM)による電子密度分布を考慮した放射線遮蔽素材、主たる原料はポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマー、もしくはシリコーン、エラストマー、樹脂、副材料を金属元素、化合物、アミノ酸など有機物を使用した次世代宇宙線および放射線対策素材開発システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間における宇宙線およびガンマ線および中性子線遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球大気外で観測される宇宙線には様々な粒子が含まれます。気球や人工衛星などの観測結果によれば、その典型的なものは電離した原子核(原子から電子を剥ぎ取られた状態のもの)であり、前述の狭義の宇宙線にあたります。宇宙線のおよそ 90% は陽子(電離した水素原子核)、およそ 9% がアルファ粒子(電離したヘリウム原子核)、残りが炭素や酸素、鉄などの原子核です。
原子核以外に目を向けると、レプトン(leptons)と呼ばれる種類の粒子も含まれています。レプトンのうち最も有名なものは電子であり、また前述したミュー粒子もレプトンです。宇宙線電子は超新星残骸や中性子星(neutron stars)で加速されていることが分かっており、陽子に比べると 100 分の 1 程度の頻度で地球に飛来していることが観測から分かっています。地表に降り注ぐミュー粒子は、手のひらの大きさ(約 100 cm2)におよそ 1 秒間に 1 個降り注ぎ、そのほとんどが私たちの体を素通りしていきます。高エネルギーの宇宙線陽子や宇宙線アルファ粒子が星間媒質中の水素やヘリウム原子核に衝突すると、地球大気中で起きる二次粒子の生成と同様に、パイ中間子(pions)を生成します。このパイ中間子のうち π0 粒子(中性パイ中間子、パイゼロ、neutral pions)は 2 つのガンマ線に崩壊します(π0 → 2 γ)。また高エネルギーの宇宙線電子が星間磁場で進行方向を曲げられとガンマ線が放出されたり、電子が星間中の光子(photons)に衝突するとその光子が強いエネルギーを持つようになります。このようなガンマ線が超新星残骸や活動銀河核などの高エネルギー天体から地球に届きます。放射線遮蔽素材は、原子力施設、医療施設において作業者を放射線から防護する手段が必要とされている。また宇宙環境においては宇宙線、粒子線、中性子線、ガンマ(γ)線などの影響が地球上に比べて数段高く、これを防ぐ手段は現状ではガンマ(γ)線には厚みのある鉛板、タングステン素材でしか防ぐことができないと言われている。
【0003】
一般に比重の高い物質はガンマ線の遮蔽に優れているため、従来は金属鉛、金属鉛を含有する素材がガンマ線の遮蔽材として利用されてきた。しかし、金属鉛には吸引毒性という人体毒性があり廃棄の時にも環境負荷が大きいといわれている。そこで、金属鉛に代わる物質としてタングステンを含む素材が提案されている。
【0004】
一般に作業者の全身を覆う放射線防護服では金属元素を含有させて特殊素材やタングステンを網目にした素材での加工製品がある。また放射能汚染された核廃棄物などを貯蔵する中間貯蔵施設の建設ではコンクリートによる施設の建設と防水シートの提案がされている。しかしながら、宇宙環境においては人体への有害性の高い鉛素材は有効ではない。
【0005】
地球から最も離れた場所に存在する宇宙線検出器はボイジャー探査機(1 号と 2 号)です。太陽系内の宇宙線陽子は、ボイジャーでは運動エネルギーが 1 MeV(106 eV)程度のものまで測定されています。これは光速の 5% 程度の速さしか持たず、宇宙線としてはかなり低エネルギーのものです。一方、人類がこれまでに観測した宇宙線の最大エネルギーは 1020 eV を超えています。これは粒子加速器を使って人工的に到達できるエネルギー 6.5 TeV(6.5 × 1012 eV)を 7 桁以上も上回るものです。このような宇宙線の加速がどの天体で生じているのか、またその粒子が陽子なのかそれ以外のものなのかなど、これまでの観測結果からは未解明の問題です。宇宙線は低エネルギー(109 eV)のものから最高エネルギー(> 1020eV) のものまで、その到来個数がエネルギーのおよそ-3 乗にに比例することが分かっています。したがって、エネルギーが上がれば上がるほど、地球に降り注ぐ宇宙線の個数は急激に減少するのです。
【0006】
一方で月面や火星など地球の磁場や大気による宇宙線防御ができないような環境下においては、宇宙ステーションにおける、クルーの睡眠場所でもあるゆりかご、宇宙服など宇宙環境における居住環境分野では全身を覆う宇宙服、居住空間における防護素材として宇宙線、粒子線、ガンマ(γ)線、中性子線にたいする放射線防護を備えた軽量で遮蔽性能がある新素材の要求が近々の課題である。
JAXAの文献から、次世代有人探査ミッションの安全な実現に向けて, GCR に対する効果的な遮蔽設計 確立のため, PHITS コードを用いた以下検討を実施した結果新規遮蔽材料 (水素リッチ材料) の適用可能性、既存遮蔽材料 (PE) を使用した最適化、遮蔽材料の組成改良が, GCR の遮蔽効果に与える影響は小さく, PE 設置以上に軽量かつ効果的な遮蔽は困難であると報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第14回 「宇宙環境シンポジウム」講演論文集
【非特許文献2】報告書番号:R17JG3210
【非特許文献3】報告書番号:R18JG3210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記文献にある宇宙環における放射線遮蔽素材は高いエネルギーの宇宙線(エネルギーは500MKeV以上である。)に対する十分な遮蔽性能を持ち加工性にも優れ、耐候性にも優れた素材は無かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、より薄く軽量で柔軟性に富む宇宙線および放射線に対する遮蔽素材を効率よく開発するのに最適な分子探索を効率的に探索するシステムとして提供することが特徴である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は基盤となる素材と遮蔽効果をもたらす金属系元素や化合物、アミノ酸など有機物の間で見いだされた関係式と最適な素材を合成する為に必要な化学的条件および量子物理的条件、量子化学的条件を組み合わせを素早く探索するためのシステムを構築することで宇宙線および放射線遮蔽に最適な素材をすばやく探索し、実験前に機能性を予測することで素材開発コスト削減と開発時間の短縮を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】放射線遮蔽素材に最適な化学物質および有機物を探索するための次世代探索システムの概要説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態についてはシリコーン、エラストマー、金属元素、化合物、金属元素を含む化合物、酸化物、混合物およびアミノ酸など生体に関する有機物などの化学的データを使用する。
本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
本発明のエックス線又はガンマ線遮蔽材は、ジルコニウム元素又はバリウム元素を含む添加剤及びタングステンカーバイトまたはタングステン粉末、少なくとも1種のビスマス化合物、ニッケル粉末、ニッケル化合物、カーボンナノチューブ、フラーレン、アミノ酸など生体に関する有機物からなる群から選ばれる1種以上と、シリコーンゴムまたはポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマーとを含有することを特徴とする。
【0013】
<添加剤>
本発明に用いられる添加剤は、ジルコニウム元素又はバリウム元素またはタングステンカーバイトまたはタングステン粉末を含む単体又は化合物の1種以上もしくは少なくとも1種のビスマス化合物、ニッケル粉末、ニッケル化合物、カーボンナノチューブ、フラーレンである。例えば、添加剤は、各元素を含む、金属(単体)、酸化物、塩化物、水酸化物、オキソ酸塩等であり、それらの混合物であっても構わない。また、本発明で使用される探索化学物質として添加剤には、ジルコニウム元素又はバリウム元素又はタングステンカーバイトまたはタングステン粉末以外の周期表にある他の元素を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の宇宙線およびガンマ線遮蔽材探索システムにおける上記添加剤の含有量は化合物の分子エネルギー、分子構造、分子起動、電子軌道、電子スピンに関する情報から最適な条件を導きだしたものをもとに、宇宙線、ガンマ線、中性子線に対して最適な遮蔽性能を有するか、シミュレーションした結果から基材および添加剤の配合比率を決定できることが特徴である。
配合比率の例としては製品のガンマ線遮蔽効果が確保できる点で、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、ガンマ線遮蔽材の上記添加剤の含有量は、添加剤のシリコーンゴム中への分散性が確保できる点で、90質量%以下が好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。ガンマ線遮蔽材に2種以上の添加剤を含有させる場合は、添加剤の合計量が、耐久性を十分に考慮した物性性能を有する範囲内にあればよい。本発明における添加剤の含有量は、EDX等を使用した元素分析により求める。
【0015】
ジルコニウム元素を含む添加剤として、具体的には、例えば、金属ジルコニウム、ジルコン(ZrSiO)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、タングステン酸ジルコニウム(IV)(Zr(WO)、塩化ジルコニウム(III)(ZrCl)、塩化ジルコニウム(IV)(ZrCl)等が挙げられる。なかでも、取り扱い性良好、入手容易、低コストの観点から、ジルコン(ZrSiO)を用いることが好ましいなど安全性を考慮した条件を提示する。
【0016】
バリウム元素を含む添加剤としては、具体的には、例えば、金属バリウム、ジルコン(ZrSiO)、酸化バリウム(BaO)、炭酸バリウム(BaCO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、硫酸バリウム(BaSO)等が挙げられる。前記硫酸バリウムとしては、重晶石を粉砕して脱鉄洗浄、硫酸バリウム(バライト粉)と沈降性硫酸バリウムのいずれを用いてもよい。なかでも、安全性、取り扱い性良好、入手容易、低コストの観点から、沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましいなど安全性を考慮した条件を提示する。
【0017】
<シリコーンゴム>
本発明に用いられるシリコーンゴムもしくはポリ尿酸、ポリウレタンプレポリマーは、本発明の宇宙線、エックス線又はガンマ線遮蔽材の母材として使用され、シリコーン樹脂のうち常温でゴム状のものであれば、特に限定されること無く適宜選択して用いることができる。
【0018】
このシリコーンゴムの主骨格はオルガノポリシロキサンであり、そのケイ素原子に結合する基として様々な基を有してもよい。ここで、ケイ素原子に結合する基は特に限定されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基のほか、これらの基の水素原子が部分的に他の原子又は結合基で置換されたものを挙げることができる。これらの官能基を選択して導入することにより、シリコーンゴムを、例えば、加熱硬化型あるいは常温硬化型のもの、硬化機構が縮合型あるいは付加型のものとすることができる。本発明に用いられるシリコーンゴムとしては、架橋(加硫)したものも、未架橋(未加硫)のものも、両者の混合物も、いずれを使用することもできる。
【0019】
本発明に用いられるシリコーンゴムの配合量は、上記添加剤等を十分に分散して母材として機能する範囲であれば、特に限定されることなく設定することが可能である。シリコーンゴムの含有量として、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。10質量%以上であることで、添加剤等を十分に分散し得てガンマ線遮蔽材を任意の形状に成形しやすい。また、シート状の成形品とした場合に、シートに十分な可撓性を付与しやすい。上限は、ガンマ線遮蔽材の遮蔽性能を考慮すれば、90質量%が好ましく、より好ましくは80質量%である。エックス線又はガンマ線遮蔽材における上記シリコーンゴムの含有量は、元素分析及び29Si-NMRの測定結果から算出する。
【0020】
前述のように、本発明のエックス線又はガンマ線遮蔽材は、未加硫のまま使用することもできるが、公知の架橋剤等を含有させて処理を行い架橋(加硫)して使用することもできる。本発明におけるシリコーンゴムの架橋(加硫)方法は、未加硫のシリコーンゴムの有する官能基に応じて適宜選択されるものである。官能基の示す反応機構としては、(1)有機過酸化物加硫剤による架橋方法、(2)付加反応による方法等が知られており、それぞれ、好適な硬化用触媒若しくは架橋剤が公知である。
【0021】
例えば、有機過酸化物加硫剤としては、公知のパーオキサイドが使用でき、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエート等を用いることができ、ビニル基等の不飽和の官能基を有す未加硫シリコーンゴムに対し適量配合することができる。
【0022】
ビニル基等の不飽和の官能基を有す未加硫シリコーンゴムに対しては、付加反応型の架橋剤であるハイドロジェン基含有ポリオルガノシロキサンを採用することも可能である。その際、白金化合物等の周知の硬化用触媒を併用することが好ましい。これらは、未加硫シリコーンゴムに対し適量配合すればよい。
【0023】
本発明のガンマ線遮蔽材には、柔軟性等の性能の向上を目的として、シリコーンゴム以外の合成ゴム若しくは天然ゴムを、シリコーンゴムにさらに添加することもできる。このような合成ゴム若しくは天然ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、各種天然ゴム等が挙げられる。ただし、これらのゴムは必須ではなく、含まれなくても構わない。
【0024】
<物性調整剤>
本発明のガンマ線遮蔽材には、さらに、その遮蔽性能をより向上したり、その他有用な性質を付与したりすることを目的に、物性調整剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。例えば、クレー、珪藻土等の補強性充填剤、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱剤、顔料、難燃剤、耐熱性向上剤、酸化防止剤、離型剤、加工助剤、接着性付与剤、有機溶媒等を挙げることができる。また、ジルコニウム元素又はバリウム元素、またはタングステンカーバイトまたはタングステン粉末を含む添加剤以外の、従来ガンマ線遮蔽に有効とされている元素を含む物質を含有させてもよい。
【0025】
上記の物性調整剤のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又は炭酸カルシウムのいずれか1つ以上を採用することが、本発明のガンマ線遮蔽材に難燃性を付与できるために好ましい。ガンマ線遮蔽材に難燃性を付与することにより、作業着のような、難燃性の基材を使用することが求められる分野への適用が有利となる。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0027】
〈実施例1~15〉
電子軌道、電子軌道、分子エネルギー、分子構造、分子起動、情報をもとにパソコンに情報を入力して、最適な分子化合物条件を探索した。
この結果シリコーンゴム、エラストマー、金属元素、金属化合物、酸化物を用いた宇宙線、放射線遮蔽素材について最適な適合素材とその配合を導き出した。
【0028】
<ガンマ線の減衰率の測定>
放射線源としてユウロピウム(Eu)152標準線源を用い、鉛ブロック製のコリメータの反対側にGe半導体検出器を配置した。前記コリメータと前記検出器との間に、ビニル袋にいれたシート状の試験体を置き、10~60keV、60~300keV、300~1500keVの範囲のガンマ線スペクトルとセシウム(Cs)137を用い300~700keVの範囲のガンマ線スペクトルを測定した。つづいて、前記試料に換えて空のビニル袋を挿入して、同様のガンマ線スペクトルを測定した。
【0029】
各試料の、上記エネルギー領域(ROI:Region-Of-Interest)内における光電ピークとコンプトン散乱成分のカウント数を積分し、それぞれの計数積分値(N)を得る。各計数積分値を測定時間で割って、単位時間当たりの計数率を算出した。前記コリメータと前記検出部との間に前記遮蔽材がない場合の計数率(n)と、それらの間に前記遮蔽材を置いた場合の計数率(n)とを用いて、前記各遮蔽材の放射線遮蔽率を算出した。
n=n・exp(-μ・ρ・x)
遮蔽率={1-exp(-μ・ρ・x)}×100
上記の各記号は、それぞれ、exp:指数関数、μ:試料の質量減弱係数(cm/g)、ρ:試料の密度(g/cm)、 x:試料の厚さ(cm)を表す。
【0030】
<ガンマ線の減衰率の推算>
上記した各材料の密度と配合比から遮蔽材全体の試料の密度(ρ)を算出し、20mmにおける遮蔽率を算出した。計算に用いた各材料の密度は、下記のとおりである。
シリコーンゴム:1.14g/cm
ジルコン:4.7g/cm
硫酸バリウム:4.3g/cm
【0031】
〈ガンマ線の質量減弱係数の測定〉
放射線源としてユウロピウム(Eu)152、セシウム(Cs)137を用いて鉛ブロック製のコリメータの反対側にGe半導体検出器を配置した。前期コリメータと前記検出器との間に、シート状の試験体(開発したい素材)を置き300~700KeVの範囲のガンマ線スペクトルを測定した。
【0032】
各試料について質量減弱率と線減弱率を計算した
【数1】
【0033】
【表1】
【0034】
〈宇宙線によるアミノ酸変性について〉
加水分解後のアミノ酸分析の結果,照射によりアミ ノ酸量は微減し,28000Gy照射でも 80%程度のアミ ノ酸が残存した. 以上のことから,重粒子照射により HSAの二次構造, 三次構造が変化し,アミノ酸鎖も切断されるが,構成するアミノ酸自体の分解は限られることを示している.同 条件でアミノ酸水溶液に照射した場合は,より多く分解 が進んだ.また,乾燥状態や凍結状態で HSAに照射した 場合は,液体状態で照射した場合と異なり,二次構造や 分子量に変化が見られず,安定であることがわかった. つまり,宇宙環境でも結合型アミノ酸(タンパク質など) は液体の水のない状態では安定に存在しうることを示している.
【0035】
本発明の実施例の素材のガンマ線に対する質量減弱係数、線減弱係数から素材の密度と比重が重要な要素であることが示された。
質量減弱係数と線減弱係数を推測することで基盤素材の原料や添加物質の種類に関係なく、放射線遮蔽素材を開発できる。
【0036】
本発明の実施例の素材の構造学的な知見から、マキシマムエントロピー法(MEM)による電子密度分布、原子核密度分布が重要な要素であることが示された。
X線と中性子回折の相補性について検討すると、X線は電子によって散乱され、中性子は原子核によって散乱されることから、X線回折データを解析することで電子密度分布が得られ、中性子回折データによって原子核密度分布が得られる。
これらの理論と解析から基盤素材の原料や添加物質の種類に関係なく、高性能な宇宙環境素材、および放射線遮蔽素材を開発できる。
図1