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特開2022-129017湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置
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  • 特開-湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置 図1
  • 特開-湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置 図2
  • 特開-湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置 図3
  • 特開-湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129017
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20220829BHJP
   F16D 25/064 20060101ALI20220829BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20220829BHJP
   F16D 69/04 20060101ALI20220829BHJP
   F16D 65/12 20060101ALI20220829BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
F16D13/62 B
F16D25/064
F16D25/0638
F16D13/62 A
F16D69/04 A
F16D65/12 J
F16D65/092 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027542
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】坂部 正樹
(72)【発明者】
【氏名】白瀧 浩文
(72)【発明者】
【氏名】児玉 純一
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
3J058
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BA01
3J056BA02
3J056BB12
3J056BE17
3J056CA04
3J056CA07
3J056CA09
3J056CA17
3J056FA07
3J056GA02
3J056GA05
3J056GA12
3J057AA03
3J057BB04
3J057CA06
3J057DB03
3J057HH01
3J057JJ01
3J057JJ02
3J057JJ04
3J058AA44
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA59
3J058AA70
3J058AA77
3J058AA87
3J058BA16
3J058CA45
3J058CA47
3J058CB20
3J058DD13
3J058FA29
3J058GA92
3J058GA93
3J058GA94
(57)【要約】
【課題】引きずり抵抗の低減が可能な湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置を提供すること。
【解決手段】金属材料からなる環状のコアプレート17の少なくとも一方の摩擦材固定面18に、摩擦材のセグメントピース19が接着剤によって複数固定された湿式多板用摩擦板7であって、コアプレート17の少なくとも一方の摩擦材固定面18は、摩擦材のセグメントピース19が接着されている部分のみが、接着剤が塗布されている塗布部であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる環状のコアプレートの少なくとも一方の面に摩擦材のセグメントピースが接着剤によって複数固定された湿式多板用摩擦板であって、
前記少なくとも一方の面は、前記セグメントピースが接着されている部分のみが前記接着剤が塗布されている塗布部であることを特徴とする湿式多板用摩擦板。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式多板用摩擦板を備えたことを特徴とする湿式摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機内における湿式多板クラッチまたは湿式多板ブレーキの機能を果たす湿式多板用摩擦板、および湿式摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の開発は、環境を重視した変革のスピードが加速してきている。例えば二酸化炭素(CO2)排出規制、燃費向上に関する要求は、駆動装置である自動変速機についても自動車全体への貢献の一環として求められている。自動変速機の構成部品として用いられる湿式多板用摩擦板は、このような要求に対して、例えば特許文献1のように、摩擦材の形状によって空転時の引きずり抵抗、すなわち引きずりトルクを低減し、一定の効果を上げてきた。また、特許文献2のように、湿式多板用摩擦板の芯金であるコアプレートへ突起形状を設けて、特許文献1と同様に引きずり抵抗の低減効果を上げてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-169785号公報
【特許文献2】特開2016-161089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最近の燃費向上要求はより厳しくなってきており、特許文献1のような摩擦材の形状の検討、或いは特許文献2のような芯金であるコアプレートへの加工の検討によっては、このような要求を達成することが困難になってきている。このように厳しくなる燃費向上要求を達成するためには、さらなる引きずり抵抗低減を実現すべく、別のアプローチが必要である。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、引きずり抵抗の低減が可能な湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る湿式多板用摩擦板は、
金属材料からなる環状のコアプレートの少なくとも一方の面に摩擦材のセグメントピースが接着剤によって複数固定された湿式多板用摩擦板であって、
前記少なくとも一方の面は、前記セグメントピースが接着されている部分のみが前記接着剤が塗布されている塗布部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、引きずり抵抗の低減が可能な湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る湿式多板用摩擦板を用いた湿式摩擦係合装置の軸方向に沿った部分断面図である。
図2】実施形態に係る湿式多板用摩擦板の部分拡大図である。
図3】従来の湿式多板用摩擦板の部分拡大図である。
図4】引きずりトルク測定試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る湿式多板用摩擦板および湿式摩擦係合装置について説明する。
湿式多板用摩擦板は、車両等の自動変速機内の湿式摩擦係合装置すなわち湿式多板クラッチ或いは湿式多板ブレーキに用いられる摩擦板である。以下の説明においては、湿式多板用摩擦板を「摩擦板」と略記する場合がある。また、本明細書において軸方向は湿式摩擦係合装置の軸方向とし、湿式摩擦係合装置の軸線と直交する方向を径方向とする。摩擦板に係る方向は、摩擦板が湿式摩擦係合装置に組み付けられた状態における軸方向、径方向、および周方向とする。
【0010】
図1は、本実施形態に係る湿式多板用摩擦板を用いた湿式摩擦係合装置の例である湿式多板クラッチの軸方向に沿った部分断面図である。
湿式多板クラッチ1は、軸方向の一方の端部で開放した略円筒状のハウジング2と、ハウジング2の内周側にハウジング2と同心に配置され、ハウジング2と相対回転可能なハブ3とを備えている。ハウジング2の内周面に設けられたスプライン4には、環状のセパレータプレート5が軸方向に移動可能に複数嵌合されている。セパレータプレート5はスプライン4に嵌合するスプライン部8を備えている。ハブ3の外周面に設けられたスプライン6には、環状の湿式多板用摩擦板7が軸方向に移動可能に複数嵌合されている。湿式多板用摩擦板7はスプライン6に嵌合するスプライン部9を備えている。摩擦板7とセパレータプレート5とは軸方向に交互に配置されている。
【0011】
湿式多板用摩擦板7は、その軸方向の両面に所定の摩擦係数を有する摩擦材のセグメントピース19が接着剤により固定されている。なお、摩擦材のセグメントピース19は、摩擦板7の片面のみに設けることもできる。セパレータプレート5は摩擦板7の摩擦係合相手部材である。また、実施形態の摩擦板7におけるスプライン部9は内径側に設けてあるが、外径側に設けることも可能である。この場合、組み合わせであるセパレータプレート5のスプライン部8は内径側に設けることになる。
【0012】
湿式多板クラッチ1はさらに、セパレータプレート5と摩擦板7とを軸方向に押圧し締結させるピストン10と、ハウジング2の内周側部分に設けられ、セパレータプレート5および摩擦板7を軸方向の一端で固定状態に保持するためのエンドプレート11と、エンドプレート11をハウジング2の内周側部分に保持するための止め輪12とを備えている。また、ハブ3には径方向に貫通した潤滑油供給口15が設けられ、この潤滑油供給口15を介して湿式多板クラッチ1の内径側から外径側へと潤滑油が供給されている。
【0013】
ピストン10は、ハウジング2の閉口端側の内側面において、該内周面に対して軸方向摺動自在に配置されている。ピストン10の外周面とハウジング2の内周面との間にはOリング13が介装されている。ピストン10の内周面と、ハウジング2の内筒部(不図示)の外周面との間にもシール部材(不図示)が介装され、これによりハウジング2の閉口端側の内周面とピストン10との間に油密状態の油圧室14が画成される。
【0014】
このように構成された湿式多板クラッチ1は、次のように湿式多板クラッチ1の係合すなわち締結および解除をする。図1の状態は、クラッチ解除状態を示しており、セパレータプレート5と摩擦板7とはそれぞれ離れている。クラッチ解除状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン10はハウジング2の閉口端に当接している。
【0015】
この状態で湿式多板クラッチ1を係合させるには、油圧室14に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、図示しないリターンスプリングの付勢力に抗して、ピストン10は、図1において右方に移動し、セパレータプレート5と摩擦板7とを密着させる。これにより湿式多板クラッチ1が係合される。
【0016】
湿式多板クラッチ1の係合後、湿式多板クラッチ1を再度解除するには、油圧室14の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン10は図示しないリターンスプリングの付勢力により、ハウジング2の閉口端に当接する位置まで移動する。すなわち、湿式多板クラッチ1が解除される。
【0017】
図2は、本実施形態に係る湿式多板用摩擦板7の部分拡大図である。
図2に示すように、本実施形態に係る摩擦板7は、芯金である金属製の円環状のコアプレート17と、複数の摩擦材のセグメントピース19とを備えている。複数の摩擦材のセグメントピース19は、コアプレート17の摩擦材固定面18、すなわちコアプレート17の軸方向の一方または軸方向の両方の面に、接着剤によって固定されている。複数の摩擦材のセグメントピース19は、図2に示すように、コアプレート17に環状に配置されている。周方向に隣り合う摩擦材のセグメントピース19と摩擦材のセグメントピース19との間には、所定幅の隙間が介在している。本実施形態においては、摩擦材のセグメントピース19の形状は、角の丸い長方形であるが、これに限定はされない。コアプレート17の内周部には、径方向内方に突出し、ハブ3のスプライン6に嵌合するスプライン部9が複数形成されている。なお、以下の説明においては、摩擦材のセグメントピース19を「セグメントピース19」と略記する場合もある。
【0018】
本実施形態に係る摩擦板7は、セグメントピース19をコアプレート17の摩擦材固定面18に固定している接着剤が、セグメントピース19が接着されている摩擦材固定面18の部分のみに塗布されている。したがって、図2においてメッシュで示す領域、すなわちコアプレート17の摩擦材固定面18のうち、セグメントピース19が接着されていない部分は、接着剤が塗布されていない非塗布部となっている。言い換えると、セグメントピース19が接着されていない摩擦材固定面18の部分は、接着剤に覆われていない。したがって当該セグメントピース19が接着されていない摩擦材固定面18の部分は、コアプレート17の金属材料が露出している。
【0019】
なお、摩擦材のセグメントピース19がコアプレート17の軸方向一方の摩擦材固定面18のみに固定されている場合、セグメントピース19が接着されていないコアプレート17の軸方向他方側の面は、接着剤が塗布されておらず、コアプレート17の金属材料が露出している。
【0020】
ここで、本実施形態との比較として、従来の湿式多板用摩擦板107について説明する。
図3は、従来の湿式多板用摩擦板107の部分拡大図である。
従来の湿式多板用摩擦板107においては、コアプレート117の摩擦材固定面118にセグメントピース119を固定する際は、コアプレート117の摩擦材固定面118の全体に接着剤を塗布してセグメントピース119を接着していた。したがって図3において斜線で示す領域、すなわちコアプレート117の摩擦材固定面118のうち、セグメントピース119が接着されていない部分にも接着剤が塗布されていた。このように摩擦材固定面118のうちセグメントピース119が接着されていない部分が接着剤に覆われていることが、本実施形態の摩擦板7との違いである。
【0021】
次に、本実施形態に係る湿式多板用摩擦板を用いた評価試験について説明する。
評価試験は、実施例として図2に示す本実施形態の摩擦板7を用い、比較例として図3に示す従来の湿式多板用摩擦板107を用いて、引きずりトルク測定試験を行った。表1に引きずりトルク測定試験の試験条件を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
図4は、引きずりトルク測定試験の試験結果を示すグラフである。
図4に示すグラフにおいて、縦軸は引きずりトルク(Nm)の大きさを示し、横軸は回転数(rpm)を示している。なお、引きずりトルクの大きさについては具体的な数値の記載は省略している。図4のグラフは、実施例および比較例のそれぞれについて、3000rpmまでの所定の回転数における引きずりトルクの値を測定したものを折れ線グラフとして示したものである。本試験において引きずりトルクの値を測定した回転数は、250rpm、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、3000rpmである。
【0024】
図4に示すグラフから、実施例に係る摩擦板は、比較例に係る摩擦板に対し、3000rpmよりも低い回転数で全体的に引きずりトルクの低減が認められた。最大では、500rpmにおいて、比較例に対して約56%の引きずりトルクの低減が認められた。
【0025】
このように、引きずりトルク測定試験の結果から、実施例に係る摩擦材は引きずりトルクの低減に関して優れた効果を発揮することがわかる。したがって本実施形態によれば、引きずり抵抗の低減が可能な湿式多板用摩擦板を実現することができる。さらに、本実施形態に係る湿式多板用摩擦板を用いることにより、引きずり抵抗の低減が可能な湿式摩擦係合装置すなわち湿式多板クラッチ或いは湿式多板ブレーキを実現することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 湿式多板クラッチ
2 ハウジング
3 ハブ
5 セパレータプレート
7 湿式多板用摩擦板
10 ピストン
14 油圧室
17 コアプレート
18 摩擦材固定面
19 摩擦材のセグメントピース
図1
図2
図3
図4