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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129035
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】検知装置
(51)【国際特許分類】
   G08B 25/04 20060101AFI20220829BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20220829BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20220829BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20220829BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20220829BHJP
【FI】
G08B25/04 K
G08B21/02
G01J1/02 C
G01J5/00 101Z
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027567
(22)【出願日】2021-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和2年10月20日,見学会 2.令和2年10月20日,ウェブサイト
(71)【出願人】
【識別番号】397058747
【氏名又は名称】グローバルマイクロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘康
【テーマコード(参考)】
2G065
2G066
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA11
2G065BA34
2G065BC13
2G066AC13
2G066BA08
5C086AA22
5C086BA04
5C086CA12
5C086CB16
5C086DA01
5C086FA02
5C086FA06
5C086FA15
5C086FA17
5C086FA18
5C086GA06
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA09
5C087AA10
5C087AA16
5C087AA19
5C087AA32
5C087AA37
5C087AA44
5C087DD03
5C087DD06
5C087EE18
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG08
5C087GG66
5C087GG70
5C087GG84
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温環境下又は低温環境下においても所定空間における人の存否や状態を精度よく検知する検知装置を提供する。
【解決手段】検知装置は、所定空間1に配置される赤外線センサ11を有して温度を測定する放射温度測定手段10と、閾値として一定の第一閾値と、第一閾値から加減した第二閾値を設定する閾値設定手段20と、放射温度測定手段10が測定した温度と所定空間の平均的な温度である空間温度との差を閾値と比較して所定空間における人の存否又は状態を判断する判断手段30と、を備える。閾値設定手段20は、前時刻までの空間温度から求めた基準空間温度と、現時点における空間温度とを比較し、空間温度が基準空間温度をΔT℃上回る場合は第一閾値からΔT℃減算した第二閾値を閾値として設定し、空間温度が基準空間温度をΔT℃下回る場合は第一閾値にΔT℃加算した第二閾値を閾値として設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定空間における人の存否又は状態を検知する検知装置であって、
前記所定空間に配置される赤外線センサを有して温度を測定する放射温度測定手段と、
閾値として一定の第一閾値と、前記第一閾値から加減した第二閾値を設定する閾値設定手段と、
前記放射温度測定手段が測定した温度と前記所定空間の平均的な温度である空間温度との差を前記閾値と比較して前記所定空間における前記人の存否又は状態を判断する判断手段と、を備え、
前記閾値設定手段は、前時刻までの前記空間温度から求めた基準空間温度と、現時点における前記空間温度とを比較し、前記空間温度が前記基準空間温度をΔT℃上回る場合は前記第一閾値からΔT℃減算した前記第二閾値を前記閾値として設定し、前記空間温度が前記基準空間温度をΔT℃下回る場合は前記第一閾値にΔT℃加算した前記第二閾値を前記閾値として設定することを特徴とする検知装置。
【請求項2】
前記放射温度測定手段が測定した温度に基づいて前記空間温度を算出する空間温度算出手段を備え、
前記赤外線センサには前記所定空間を分割してなる複数の個別領域に対応して複数のサーモパイル素子がマトリックス状に配置されており、前記放射温度測定手段が前記個別領域の温度を同時に測定し、
前記空間温度算出手段は、前記個別領域のなかで最も低い個別領域の温度を基準温度として前記基準温度よりも所定以上高温の前記個別領域を除外し、残った前記個別領域の温度を平均して平均温度を算出し、前記平均温度を移動平均で平滑化した値を前記空間温度とすることを特徴とする請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記判断手段は、分類部と状態判断部を備え、
前記分類部は、前記放射温度測定手段が測定した温度に基づいて前記個別領域を、人の体表面温度が検知された検知領域か又は検知されていない非検知領域に分類し、
前記状態判断部は、前記検知領域の分布状況と前記分布状況の継続時間に基づき、前記人の状態として少なくとも転倒を判断することを特徴とする請求項2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記検知領域の前記分布状況と前記分布状況の継続時間に基づき、前記人の状態としてさらに体動の有無を判断することを特徴とする請求項3に記載の検知装置。
【請求項5】
前記判断手段は、前記所定空間における設備の位置と前記検知領域の前記分布状況に基づき、前記人が前記設備を使用中か否かを判断することを特徴とする請求項4に記載の検知装置。
【請求項6】
前記判断手段は、前記検知領域の前記分布状況に基づいて前記所定空間における人数を推定し、前記人数が二人以上推定された状態で前記人数が所定時間継続して変動しない場合は前記所定空間において異常が発生したと判断することを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項7】
前記判断手段は、前記所定空間の前記空間温度が予め警告基準として定めた警告温度を超えた場合は、前記所定空間における前記人の存否に関わらず前記所定空間において異常が発生したと判断することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定空間における人の存否又は状態を検知する検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサを備え部屋等の所定空間における人の在・不在等を検知する装置が知られている。
例えば特許文献1には、外部環境の変化を検知して警報する警報器と、赤外線センサ等からなる人感センサで構成され人を検知する人検知部とを備え、人検知部が人を検知してから所定時間以内にさらに人を検知しなかったときに警報器が警報する警報システムが開示されている。
また特許文献2には、停止人数データ記憶手段と、人体から放射される赤外線を検知することにより人の近接を検知する赤外線人体センサと、赤外線人体センサから出力される検出信号に基づいて、いずれか一方の端部位置の赤外線人体センサから検出信号が出力されてから、再度いずれか一方の端部位置の赤外線人体センサから検出信号が出力されるまでの滞留期間を計時する滞留期間計時手段と、計時された滞留期間が所定の停止判断期間以上であるときに、停止人数データに1を加算更新する停止人数データ加算更新手段と、当該装置の動作に必要とされる電力を、蓄電している電力より供給する電力供給手段と、を備えた停止人数計数装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-081146号公報
【特許文献2】特開2006-350417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10はサーモパイルを利用した検知装置による人の存在検知方法を示す図である。
検知装置は、サーモパイルを利用して取得した温度(以下、「放射温度」ということがある。)と所定空間の空間温度(室温)との差を閾値と比較し、図10(a)に示すように、差が閾値以上の場合は「在」(人が存在する)と判断し、差が閾値未満の場合は「不在」(人が存在しない)と判断する。
この閾値は、例えば1.0℃に設定される。しかし、所定空間の空間温度は夏場など気温が高い時期において冷房が作動していない場合は大きく上昇するため、実際には人が存在する場合であっても、空間温度と放射温度との差が小さくなって閾値未満となり、図10(b)に示すように「不在」と誤判断されてしまうことがある。
また、所定空間の空間温度は冬場など気温が低い時期において暖房が作動していない場合は大きく下がるため、実際には人が存在しない場合であっても、所定空間内の設備等(暖房便座等)が発する熱の影響により空間温度と放射温度との差が大きくなって閾値以上となり、図10(c)に示すように「在」と誤判断されてしまうことがある。
特許文献1、2は、このような問題を解決しようとするものではない。そこで本発明は、高温環境下又は低温環境下においても所定空間における人の存否や状態を精度よく検知する検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の検知装置は、所定空間1における人の存否又は状態を検知する検知装置であって、所定空間1に配置される赤外線センサ11を有して温度を測定する放射温度測定手段10と、閾値として一定の第一閾値と、第一閾値から加減した第二閾値を設定する閾値設定手段20と、放射温度測定手段10が測定した温度と所定空間1の平均的な温度である空間温度との差を閾値と比較して所定空間1における人の存否又は状態を判断する判断手段30と、を備え、閾値設定手段20は、前時刻までの空間温度から求めた基準空間温度と、現時点における空間温度とを比較し、空間温度が基準空間温度をΔT℃上回る場合は第一閾値からΔT℃減算した第二閾値を閾値として設定し、空間温度が基準空間温度をΔT℃下回る場合は第一閾値にΔT℃加算した第二閾値を閾値として設定することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の検知装置において、放射温度測定手段10が測定した温度に基づいて空間温度を算出する空間温度算出手段40を備え、赤外線センサ11には所定空間1を分割してなる複数の個別領域2に対応して複数のサーモパイル素子がマトリックス状に配置されており、放射温度測定手段10が個別領域2の温度を同時に測定し、空間温度算出手段40は、個別領域2のなかで最も低い個別領域2の温度を基準温度として基準温度よりも所定以上高温の個別領域2を除外し、残った個別領域2の温度を平均して平均温度を算出し、平均温度を移動平均で平滑化した値を空間温度とすることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の検知装置において、判断手段30は、分類部31と状態判断部32を備え、分類部31は、放射温度測定手段10が測定した温度に基づいて個別領域2を、人の体表面温度が検知された検知領域か又は検知されていない非検知領域に分類し、状態判断部32は、検知領域の分布状況と分布状況の継続時間に基づき、人の状態として少なくとも転倒を判断することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の検知装置において、検知領域の分布状況と分布状況の継続時間に基づき、人の状態としてさらに体動の有無を判断することを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の検知装置において、判断手段30は、所定空間1における設備の位置と検知領域の分布状況に基づき、人が設備を使用中か否かを判断することを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の本発明は、請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の検知装置において、判断手段30は、検知領域の分布状況に基づいて所定空間1における人数を推定し、人数が二人以上推定された状態で人数が所定時間継続して変動しない場合は所定空間1において異常が発生したと判断することを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の検知装置において、判断手段30は、所定空間1の空間温度が予め警告基準として定めた警告温度を超えた場合は、所定空間1における人の存否に関わらず所定空間1において異常が発生したと判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温環境下又は低温環境下においても所定空間における人の存否や状態を精度よく検知する検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例による検知装置を機能実現手段で表したブロック図
図2】同所定空間に設定した個別領域を示す図
図3】同検知装置による個別領域の分類方法を示す図
図4】同検知装置による空間温度の算出方法を示す図
図5】同所定空間と個別領域を示す図
図6】同各個別領域を検知領域又は非検知領域に分類した結果の例を示す図
図7】同表示手段の表示例を示す図
図8】同表示手段の表示例を示す図
図9】同表示手段の表示例を示す図
図10】サーモパイルを利用した検知装置による人の存在検知方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施の形態による検知装置は、所定空間における人の存否又は状態を検知する検知装置であって、所定空間に配置される赤外線センサを有して温度を測定する放射温度測定手段と、閾値として一定の第一閾値と、第一閾値から加減した第二閾値を設定する閾値設定手段と、放射温度測定手段が測定した温度と所定空間の平均的な温度である空間温度との差を閾値と比較して所定空間における人の存否又は状態を判断する判断手段とを備え、閾値設定手段は、前時刻までの空間温度から求めた基準空間温度と、現時点における空間温度とを比較し、空間温度が基準空間温度をΔT℃上回る場合は第一閾値からΔT℃減算した第二閾値を閾値として設定し、空間温度が基準空間温度をΔT℃下回る場合は第一閾値にΔT℃加算した第二閾値を閾値として設定するものである。
本実施の形態によれば、高温環境下又は低温環境下においても所定空間における人の存否や状態を精度よく検知することができる。
【0015】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による検知装置において、放射温度測定手段が測定した温度に基づいて空間温度を算出する空間温度算出手段を備え、赤外線センサには所定空間を分割してなる複数の個別領域に対応して複数のサーモパイル素子がマトリックス状に配置されており、放射温度測定手段が個別領域の温度を同時に測定し、空間温度算出手段は、個別領域のなかで最も低い個別領域の温度を基準温度として基準温度よりも所定以上高温の個別領域を除外し、残った個別領域の温度を平均して平均温度を算出し、平均温度を移動平均で平滑化した値を空間温度とするものである。
本実施の形態によれば、空間温度の算出値が急峻に変化することを防止して第二閾値を精度良く求めることができる。
【0016】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による検知装置において、判断手段は、分類部と状態判断部を備え、分類部は、放射温度測定手段が測定した温度に基づいて個別領域を、人の体表面温度が検知された検知領域か又は検知されていない非検知領域に分類し、状態判断部は、検知領域の分布状況と分布状況の継続時間に基づき、人の状態として少なくとも転倒を判断するである。
本実施の形態によれば、人の転倒検知を精度よく行うことができる。
【0017】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による検知装置において、検知領域の分布状況と分布状況の継続時間に基づき、人の状態としてさらに体動の有無を判断するものである。
本実施の形態によれば、人が転倒した状態で動かなくなっていることを検知することができる。
【0018】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による検知装置において、判断手段は、所定空間における設備の位置と検知領域の分布状況に基づき、人が設備を使用中か否かを判断するものである。
本実施の形態によれば、所定空間における人の行動をより細かく検知することができる。
【0019】
本発明の第6の実施の形態は、第2から第5のいずれか一つの実施の形態による検知装置において、判断手段は、検知領域の分布状況に基づいて所定空間における人数を推定し、人数が二人以上推定された状態で人数が所定時間継続して変動しない場合は所定空間において異常が発生したと判断するものである。
本実施の形態によれば、所定空間における異常発生を早期に察知することができる。
【0020】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6のいずれか一つの実施の形態による検知装置において、判断手段は、所定空間の空間温度が予め警告基準として定めた警告温度を超えた場合は、所定空間における人の存否に関わらず所定空間において異常が発生したと判断するものである。
本実施の形態によれば、所定空間にいる人、又は所定空間に入ろうとしている人等に対して注意を促すことができる。また、所定空間における火災発生を早期に検知することができる。
【実施例0021】
以下、本発明の一実施例による検知装置について説明する。
図1は本実施例による検知装置を機能実現手段で表したブロック図である。
検知装置は、所定空間1における人の存否や状態を検知する。所定空間1とは、例えばトイレや部屋等である。
検知装置は、赤外線を利用して温度を測定する放射温度測定手段10と、閾値を設定する閾値設定手段20と、閾値を用いて所定空間1における人の存否又は状態を判断する判断手段30と、放射温度測定手段10が測定した温度に基づいて空間温度を算出する空間温度算出手段40と、判断手段30の判断結果に基づく情報等を表示する表示手段50を備える。
放射温度測定手段10は、赤外線センサ11を有する。赤外線センサ11は、所定空間1の例えば天井に配置される。なお、所定空間1を照らすLEDダウンライト等の照明機器に赤外線センサ11を内蔵することもできる。
また、判断手段30は、分類部31、状態判断部32、及び異常空間温度判断部33を有する。
【0022】
図2は所定空間に設定した個別領域を示す図である。
検知装置は、上方から視た所定空間1を仮想的に複数の個別領域2に分割し、各個別領域2の温度を取得する。
赤外線センサ11には、個別領域2に対応して複数のサーモパイル素子をマトリックス状に配置したサーモパイルアレイを用いる。これにより、各個別領域2の放射温度を同時に測定することができる。
分類部31は、各個別領域2について、測定された放射温度と空間温度との差を閾値設定手段20が設定した閾値と比較し、差が閾値以上の個別領域2を人の体表面温度が検知された検知領域に分類し、差が閾値未満の領域を人の体表面温度が検知されていない非検知領域に分類する。図2においては、分類結果の例として検知領域を斜線マス、非検知領域を白マスで示している。
【0023】
図3は検知装置による個別領域の分類方法を示す図である。
閾値設定手段20は、閾値として、一定の第一閾値と、第一閾値から加減した第二閾値を設定する。
閾値設定手段20は、サーモパイルアレイを利用して取得された個別領域2の放射温度と空間温度との差分を比較する閾値として、一定の第一閾値を設定する。第一閾値は例えば1.0℃とする。
しかし、閾値が常に一定だと「発明が解決しようとする課題」の欄で説明したように、所定空間1の空間温度が上昇して放射温度との温度差が小さくなった場合に、分類部31が実際には体表面温度が存在する個別領域2を誤って非検知領域に分類してしまうことがある。
そこで、閾値設定手段20は、前時刻までの空間温度から求めた基準空間温度と、現時点における空間温度とを比較し、差が生じている場合は、第一閾値からその差を加減して第二閾値を求め、その第二閾値を閾値として設定する。すなわち、空間温度が基準空間温度と同じである場合は第一閾値を閾値として設定するが、空間温度が基準空間温度をΔT℃上回る場合は、第一閾値からΔT℃減算した第二閾値を閾値として設定し、空間温度が基準空間温度をΔT℃下回る場合は、閾値にΔT℃を加算した第二閾値を閾値として設定する。
【0024】
基準空間温度は、前時刻までの例えば数分間の空間温度を平均して求める。
夏季など空間温度が上がりやすい環境下において、例えば第一閾値が1.0℃、基準空間温度が過去2分間の空間温度の平均により30.5℃である場合、現時点で計測された空間温度が31.0℃であれば、基準空間温度から0.5℃上昇しているので、1.0-0.5=0.5℃の第二閾値が閾値として設定される。
そして、人の体表面温度が存在する個別領域2の放射温度が例えば31.8℃であれば、空間温度と放射温度との差は0.8℃であるから、従来のように一定の閾値(1.0℃の第一閾値)を用いていれば当該個別領域2は「非検知領域」に誤って分類されていたところ、本発明では0.5℃の第二閾値を閾値として用いるため、図3(a)に示すように、分類部31は当該個別領域2を正しく「検知領域」に分類することができる。
また、冬季など空間温度が下がりやすい環境下において、例えば第一閾値が1.0℃、基準空間温度が過去15分間の空間温度の平均により14.0℃である場合、現時点で計測された空間温度が12.0℃であれば、基準空間温度から2.0℃低下しているので、1.0+2.0=3.0℃の第二閾値が閾値として設定される。
そして、人の体表面温度は存在しないが熱を発する設備等の影響を受けた個別領域2の放射温度が例えば14.0℃であれば、空間温度と放射温度との差は2.0℃であるから、従来のように一定の閾値(1.0℃の第一閾値)を用いていれば当該個別領域2は「検知領域」に誤って分類されていたところ、本発明では3.0℃の第二閾値を閾値として用いるため、図3(b)に示すように、分類部31は当該個別領域2を正しく「非検知領域」に分類することができる。
このように分類部31が高温環境下又は低温環境下においても個別領域2を精度よく分類できるため、所定空間1における人の存否や状態を精度よく検知することが可能となる。
【0025】
図4は検知装置による空間温度の算出方法を示す図である。なお、図4(b)の各個別領域2に記載の数字は温度を示している。
空間温度算出手段40は、測定された各個別領域2の放射温度を基に空間温度を算出する。しかし、上述のように第二閾値は基準空間温度に対する空間温度の差ΔT℃を用いて求めるため、図4(a)に示すように空間温度の算出値が外乱影響などにより急峻に変化すると、第二閾値の精度が下がり誤検知を誘発してしまうことが考えらえる。
そこで、本実施例の空間温度算出手段40は、測定された各個別領域2の温度を基に空間温度を算出するにあたり、個別領域2のなかで最も温度が低い個別領域2の温度を基準温度とし、基準温度を所定温度上回る個別領域2を除外し、残った個別領域2の温度を平均して平均温度を算出し、その平均温度を移動平均で平滑化した値を空間温度とする。
例えば図4(b)の例では、16個の個別領域2のうち最も温度が低い個別領域2は22.1℃であるから、基準温度は22.1℃である。よって、所定温度を+3.0℃としている場合は、25.1℃を上回る個別領域2を除外する。これにより、図4(b)の例では8個の個別領域2が除外対象となる。そして、残った8個の個別領域2の平均温度を求める。図4(b)の例では、平均温度は(22.5+22.1+22.3+22.5+22.3+22.5+22.6+22.4)/8=22.4℃となる。このような平均温度の算出を経時的に複数回行い、算出結果を移動平均で平滑化したものを空間温度として用いる。
これにより、空間温度の算出値が急峻に変化することを防止して第二閾値を精度良く求めることができる
【0026】
図5は所定空間と個別領域を示す図であり、図5(a)は所定空間の概略上面図、図5(b)は所定空間に設定した個別領域を示す図である。
ここでの所定空間1は、床寸法が約2m×2m、天井高さが約2.5mの多目的トイレであり、図5(a)に示すように、便座3、洗面台4、及び手摺り等の設備が配置されている。出入口5は、図5(a)の右下に位置する。
検知装置は、図5(b)に示すように、上方から視た多目的トイレを仮想的に4×4=16マスからなる個別領域2に分割し、放射温度測定手段10により各個別領域2の温度を測定する。1マスは約50cm角である。また、検知装置は、出入口5や各設備の位置を記憶している。
【0027】
図6図5(b)に示す各個別領域を検知領域又は非検知領域に分類した結果の例を示す図である。図6においては、検知領域を斜線マス、非検知領域を白マスで示している。
状態判断部32は、分類部31による分類の結果、検知領域に分類された個別領域2が一つでも存在する場合は多目的トイレに人が存在すると判断する。
よって、状態判断部32は、図6(a)の場合は、検知領域がゼロであるため多目的トイレに人が存在しないと判断し、図6(b)~(f)の場合は、検知領域が一つ以上あるため多目的トイレに人が存在すると判断する。
【0028】
また、状態判断部32は、多目的トイレに人が居ると判断した場合、検知領域の分布状況と継続時間に基づいてその人(トイレ利用者)の状態について異常の有無を判断する。
状態判断部32は、分類部31による分類の結果、検知領域が一つ、二つ連続、又は三つ連続していても直線的ではない分布状況となっている場合は、トイレ利用者の状態は正常と判断する。例えば、図6(b)~(e)の分類結果では、検知領域が二つ連続であるか、又は三つ連続していても直線的ではないため、状態判断部32は、トイレ利用者の状態を「異常なし」と判断する。
一方、検知領域が直線的に三つ以上連続し、かつその状態が所定時間継続した場合は、トイレ利用者に異常が発生したと判断する。例えば、図6(f)の分類結果では、検知領域が直線的に三つ連続しており、人が転倒した可能性が考えられる。但し、多目的トイレの場合は被介護者と介護者などが一緒に入ることがあり、二人の距離が近いと同様の分布状況が発生し得る。しかし、殆どの場合は必要な介助が終われば介護者は被介護者から一旦離れるかトイレから退出する。そこで、状態判断部32は、検知領域が直線的に三つ以上連続しただけではなく、その状況が例えば1分間継続した場合に「転倒(異常あり)」と判断する。これにより、利用者の転倒検知を精度よく行うことができる。
さらに、状態判断部32は、検知領域が直線的に三つ以上連続した状況が例えば15分間継続した場合は「体動無し(異常あり)」と判断する。これにより、トイレ利用者が転倒した状態で動かなくなっていることを検知することができる。
なお、状態判断部32において転倒又は体動無しの判断に用いられれる継続時間は、検知装置が対象とする所定空間1、又は想定される利用者の年齢や状態等に応じて任意に変更可能である。
【0029】
また、状態判断部32は、多目的トイレに人が居ると判断した場合、所定空間1における設備の位置と検知領域の分布状況に基づいて、人が設備を使用中か否かを判断する。例えば、便座3が設置されている位置に検知領域が存在する場合は、トイレ利用者が便座3に座っていると判断する。これにより、多目的トイレ内における人の行動をより細かく検知することができる。
【0030】
また、異常空間温度判断部33は、所定空間1の空間温度が予め警告基準として定めた警告温度を超えた場合は、所定空間1に人が存在するか否かに関わらず所定空間1において異常が発生したと判断する。なお、警告温度は例えば30℃とする。
多目的トイレが空調の無い場所等に設置されている場合、夏場には気温の上昇と共に多目的トイレの室温が上昇するが、警告温度を超えた段階で警告を発することで、多目的トイレの中にいる利用者、又は多目的トイレに入ろうとしている人等に対して注意を促し、熱中症等を予防することができる。また、室温は多目的トイレで火災が発生した場合も上昇するため、警告温度を超えた段階で警告を発することで、火災発生を早期に検知することができる。
【0031】
図7から図9は表示手段の表示例を示す図である。
表示手段50は、多目的トイレの空き状況や人の状態等を文字で表す文字表示部51、ピクトグラムで表す絵表示部52と、各個別領域2の温度を示す個別領域温度表示部53と、人が検知された場所を示す場所表示部54と、多目的トイレの室温を表示する室温表示部55を備える。表示手段50は、例えば多目的トイレの出入口5付近に固定的に設けられたモニタ、又は多目的トイレの管理者が携帯する端末のモニタである。また、表示手段50が音や音声を発するスピーカーを備えていてもよい。
個別領域温度表示部53は、個別領域2の温度を表示すると共に、個別領域2の温度の高低をマスの色の濃淡で示す。例えば高温になるほど赤色、低温になるほど青色となる。
場所表示部54には、多目的トイレ内の設備が模式的に常時表示されている。また、多目的トイレを右上、右下、左上、及び左下の四つのエリアに分け、例えば人が検知されているエリアを異常が無いときは青色、異常があるときは赤色で表示する。各エリアには四つの個別領域2が含まれる。
なお、例えば、個別領域温度表示部53は検知装置の維持管理者が有する表示手段50にのみ設け、場所表示部54は多目的トイレの管理者が携帯する表示手段50にのみ設けるなど、表示手段50に表示する情報は、表示手段50の設置箇所や設置目的等に応じて適宜設定する。
【0032】
図7(a)に示す表示例は、図6(a)の分類結果に対応する。上述のようにこの分類結果において状態判断部32は、多目的トイレに人が存在しないと判断する。文字表示部51には「空き」の文字が表示され、絵表示部52には誰でも使用可能なトイレであることを表すピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は全面が青色、場所表示部54は全エリアが白色となる。
【0033】
図7(b)~(e)に示す表示例は、図6(b)~(e)の分類結果に対応する。上述のようにこの分類結果において状態判断部32は、多目的トイレに人が存在し、かつ異常なしと判断する。
図6(b)の分類結果に対応する図7(b)の表示例において、文字表示部51には「使用中」の青文字が表示される。また、検知領域が存在する右下のエリアには便座3等の設備が無いため、絵表示部52には人が移動中であることを表す青色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は右下のエリアが青色となる。
図6(c)の分類結果に対応する図7(c)の表示例において、文字表示部51には「使用中」の青文字が表示される。また、検知領域が存在する右上のエリアには便座3等の設備が無いため、絵表示部52には人が移動中であることを表す青色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は右上のエリアが青色となる。
【0034】
図6(d)の分類結果に対応する図7(d)の表示例において、文字表示部51には「使用中」の青文字が表示される。また、検知領域が存在する左上のエリアには便座3が有るため、絵表示部52には人が便座3に座っていることを表す青色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は左上のエリアが青色となる。
図6(e)の分類結果に対応する図7(e)の表示例において、文字表示部51には「使用中」の青文字が表示される。また、検知領域が存在する左下のエリアには洗面台4が有るため、絵表示部52には人が洗面台4を使用していることを表す青色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は左下のエリアが青色となる。
なお、特にトイレなどプライバシー保護が求められる場所を対象とした検知装置の場合は、公衆の場などに設置された表示手段50には細かな使用状況を表示しない等の配慮が必要である。よって、公衆の場などに設置された表示手段50においては、特段の理由がある場合を除き、個別領域温度表示部53及び場所表示部54を設けず、また、図6(d)、(e)の分類結果でも絵表示部52には図7(b)、(c)と同様のピクトグラムを表示することが好ましい。
【0035】
図8(a)、(b)に示す表示例は、図6(f)の分類結果に対応する。上述のようにこの分類結果において状態判断部32は、多目的トイレに人が存在し、かつ異常ありと判断する。
図8(a)に示す表示例は、状態判断部32が「転倒」と判断した場合である。文字表示部51には「転倒」の赤文字が表示され、絵表示部52には転倒を表す赤色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は右上及び右下のエリアが赤色となる。
図8(b)に示す表示例は、状態判断部32が「体動無し」と判断した場合である。文字表示部51には「体動無し」の赤文字が表示され、絵表示部52には警告灯を表す赤色背景のピクトグラムが表示される。また、個別領域温度表示部53は検知領域に対応する部分が赤色となり、場所表示部54は右上及び右下のエリアが赤色となる。
【0036】
図9は多目的トイレの空間温度が警告温度を超えたと異常空間温度判断部33が判断した場合の表示手段の表示例を示している。
この場合、文字表示部51には「高温注意」の赤文字が表示され、色表示部52には火災を表す赤色背景のピクトグラムが表示される。
また、上述のように異常空間温度判断部33は、多目的トイレにおける人の在・不在に関わらず多目的トイレの空間温度が警告温度を超えた場合は異常と判断するが、図9の例では個別領域温度表示部53が全面青色であること、又は場所表示部54が全エリア白色であることから、多目的トイレ内に人は存在しないことが分かる。
【0037】
なお、検知装置は、判断手段30により検知領域の分布状況に基づいて所定空間1における人数を推定し、人数が二人以上推定された状態で人数が所定時間継続して変動しない場合は所定空間1において異常が発生したと判断し、表示手段50に警報を表示させることもできる。これにより、例えば学校のトイレにおけるイジメ等を早期に察知することが可能となる。
【0038】
また、検知装置は、不法侵入者の検知を行うこともできる。例えば本実施例の多目的トイレの出入口5は図5(a)に示す位置にあるので、判断手段30による判断が「不在」から「在」に変わる際には、右下エリアにある個別領域2が最初に検知領域となるのが通常である。よって、判断手段30による判断が「不在」から「在」に変わる際において、例えば左上エリアにある個別領域2が最初に検知領域となった場合は、天井からの侵入者や、漏電による火災発生等、何らかの異常が発生したと判断することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 所定空間
2 個別領域
3 便座
4 洗面台
5 出入口
10 放射温度測定手段
11 赤外線センサ
20 閾値設定手段
30 判断手段
31 分類部
32 状態判断部
33 異常空間温度判断部
40 空間温度算出手段
50 表示手段
51 文字表示部
52 絵表示部
53 個別領域温度表示部
54 場所表示部
55 室温表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10